説明

PCB混入絶縁油の無害化処理方法及び無害化処理装置

【課題】金属ナトリウムを用い絶縁油に混入するPCBを脱塩素化し無害化するとき反応槽内壁面へスケールが付着することを防止可能なPCB混入絶縁油の無害化処理方法及び無害化処理装置を提供する。
【解決手段】金属ナトリウムを用い絶縁油に混入するPCBを脱塩素化し無害化するPCB混入絶縁油の無害化処理方法において、被処理油は、油酸化変質物を含むPCB混入絶縁油であり、被処理油を無害化するとき生成する反応生成物が反応槽内壁面に付着することを防止する付着防止剤を反応槽17に添加し、金属ナトリウムとPCBとを反応させ被処理油を無害化する。また反応槽17の壁面、攪拌翼27及び攪拌軸29の表面をフッ素樹脂コーティングすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナトリウムを用い絶縁油に混入するPCBを脱塩素化し無害化するPCB混入絶縁油の無害化処理方法及び無害化処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、不燃性で化学安定性及び電気絶縁性に優れるため、従来、電気機器の絶縁油などとして使用されていたが、その有害性から現在では使用が禁止され、保管されているPCB及びPCBを含有する廃油などについても、平成13年に制定された「PCB廃棄物処理特別法」により、平成28年7月までに処理を完了することが義務付けられている。
【0003】
PCBの脱塩素化技術は、これまでに多くの方法が提案されており、幾つかの方法は実用化されている。金属ナトリウムとPCBとを反応させPCBを脱塩素化させる方法は、PCB混入絶縁油の無害化処理に使用され、処理プラントも稼働中である。金属ナトリウムとPCBとを反応させるとPCBが脱塩素化され、ビフェニル、塩化ナトリウム、ビフェニルが重合したビフェニル重合物、水酸化ナトリウムが生成するが、この生成物に関しては幾つかの問題が指摘され、これに対する対策案が提案されている。
【0004】
例えば、従来の反応槽では、反応槽内に析出するビフェニル重合物、塩化ナトリウム及び水酸化ナトリウムの固形分が反応槽の底部に設けられた排出管を閉塞させるとし、反応槽の底面と面一又は突出する状態で排出口を閉止する底栓弁を備える反応槽が提案されている(例えば特許文献1参照)。また、PCBを脱塩素化した後の固形のPCB残渣には、高分子化したポリビフェニルに食塩、絶縁油が含まれるため有効利用できないとして、固形のPCB残渣からポリビフェニル、食塩、絶縁油をそれぞれ分離する方法が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−319415号公報
【特許文献2】特開2006−205106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者の経験では、PCB微量混入絶縁油を処理する場合には、特許文献1に記載の問題点は特に発生していない。またPCB微量混入絶縁油を処理するとき反応槽内に析出するビフェニル、ビフェニル重合物は、イソプロピルアルコールで洗浄可能なことも経験済みである。本発明者の経験によれば、金属ナトリウムを用いてPCB微量混入絶縁油を無害化処理するとき、被処理油がPCB微量混入絶縁油のみである場合には、特に問題となるような事象は発生しないが、他の物質が混入したPCB微量混入絶縁油を処理するときには、PCB微量混入絶縁油のみを処理するときには全く見られない問題が発生した。
【0007】
例えばPCB微量混入絶縁油を抜き出した後に柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される留出液とPCB微量混入絶縁油とを混合し、これを金属ナトリウムを用いて処理すると、スケールが反応槽の壁面、攪拌翼の表面、攪拌軸の表面(以下、反応槽の壁面、攪拌翼の表面、攪拌軸の表面を合わせて反応槽内壁面と言う)に付着する。このスケールは運転を重ねる毎に成長し、スケールが反応槽から剥離し排出口を閉塞させる事象が発生した。排出口がスケールで閉塞されると復旧作業に多大の時間と労力を必要とすることは改めて言うまでもない。また反応槽壁面にスケールが付着すると熱伝達も阻害される。我々の知る限りこれまでにスケールが反応槽内壁面に付着するとの指摘、報告はされていない。反応槽内壁面に付着するスケールを洗浄することができれば、反応槽を定期的に洗浄することで対処できるが、このスケールは、ビフェニル、ビフェニル重合物とは異なり、イソプロピルアルコールを含め有機溶剤には殆ど溶解せず、従来の洗浄方法は効果がない。PCB混入絶縁油の無害化処理に当たり、不純物を含むPCB混入絶縁油の処理は避けて通ることができず、反応槽内壁面に付着するスケール対策が急務となっている。
【0008】
本発明の目的は、金属ナトリウムを用い絶縁油に混入するPCBを脱塩素化し無害化するとき反応槽内壁面へスケールが付着することを防止できるPCB混入絶縁油の無害化処理方法及び無害化処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、金属ナトリウムを用い絶縁油に混入するPCBを脱塩素化し無害化するとき反応槽内壁面へ付着するスケールは、絶縁油に混入するC=O結合及びC−O結合を含む油酸化変質物が金属ナトリウム、又は前記油酸化変質物が金属ナトリウム、反応促進剤と反応し生成した反応生成物である鹸化物、炭酸塩、有機酸塩が反応槽内壁面へ付着し、析出したものであること、これら鹸化物、炭酸塩、有機酸塩は極性が強いため金属面に付着しやすく油に不溶であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、金属ナトリウムを用い絶縁油に混入するPCBを脱塩素化し無害化するPCB混入絶縁油の無害化処理方法において、被処理油は、油酸化変質物を含むPCB混入絶縁油であり、前記被処理油を無害化するとき生成する反応生成物が反応槽内壁面に付着することを防止する付着防止剤を反応槽に添加し、金属ナトリウムとPCBとを反応させ被処理油を無害化することを特徴とするPCB混入絶縁油の無害化処理方法である。
【0011】
また本発明において、前記付着防止剤は、前記反応生成物と同一の物質を含む種晶であることを特徴とする。
【0012】
また本発明において、前記付着防止剤は、前記反応生成物を吸着する粉粒状の吸着剤であり、さらに該吸着剤は、反応槽内壁面に付着する反応生成物、スケールを掻き取ることを特徴とする。
【0013】
また本発明において、前記種晶は、前記被処理油を金属ナトリウムで無害化した後の処理済油に含まれる反応生成物を含む不溶性固形分であり、前記不溶性固形分を含む処理済油を反応槽に返送し、金属ナトリウムとPCBとを反応させ、被処理油を無害化することを特徴とする。
【0014】
また本発明において、前記種晶は、前記被処理油を金属ナトリウムで無害化した後の処理済油から回収された反応生成物を含む固形分であることを特徴とする。
【0015】
また本発明において、前記油酸化変質物は、C=O結合及びC−O結合を含むことを特徴とする。
【0016】
また本発明において、前記油酸化変質物は、PCB混入絶縁油を抜き取った後の柱上変圧器を破砕し、該破砕物を真空加熱し回収される紙木類乾留物を含む留出液に含まれることを特徴とする。
【0017】
また本発明は、金属ナトリウムを用い絶縁油に混入するPCBを脱塩素化し無害化するPCB混入絶縁油の無害化処理装置において、金属ナトリウムとPCBとを反応させ被処理油を無害化する反応槽は、フッ素樹脂加工された反応槽であり、該反応槽は、油酸化変質物を含むPCB混入絶縁油を無害化処理するとき生成する反応生成物が反応槽内壁面に付着しないことを特徴とするPCB混入絶縁油の無害化処理装置である。
【0018】
また本発明は、前記PCB混入絶縁油の無害化処理装置を用いて、前記方法でPCB混入絶縁油を無害化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るPCB混入絶縁油の無害化処理方法は、反応生成物が反応槽内壁面に付着することを防止する付着防止剤を反応槽に添加し、金属ナトリウムとPCBとを反応させPCBを脱塩素化させるので、PCB混入絶縁油に油酸化変質物が含まれ、反応生成物が生成してもこの反応生成物は反応槽内壁面に付着することはない。また本発明に係るPCB混入絶縁油の無害化処理装置は、反応槽がフッ素樹脂加工された反応槽であるので、PCB混入絶縁油に油酸化変質物が含まれ反応生成物が生成してもこの反応生成物は反応槽内壁面に付着することはない。これらにより反応生成物は処理済油と一緒に反応槽から排出され、反応槽内に蓄積しないので、反応槽内壁面にスケールは形成されず、従来見られたスケールによるトラブルの発生を回避し、PCB混入絶縁油の無害化処理を安定的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1実施形態としてのPCB混入絶縁油の無害化処理方法を適用するPCB混入絶縁油無害化処理装置1のプロセスフロー図である。
【図2】紙木類乾留物を含む絶縁油と紙木類乾留物を含まない絶縁油をフーリエ変換赤外分析法FTIRで分析した結果を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態としてのPCB混入絶縁油の無害化処理方法を適用するPCB混入絶縁油無害化処理装置2のプロセスフロー図である。
【図4】本発明の第3実施形態としてのPCB混入絶縁油の無害化処理方法を適用するPCB混入絶縁油無害化処理装置3のプロセスフロー図である。
【図5】本発明の第4実施形態としてのPCB混入絶縁油の無害化処理方法を適用するPCB混入絶縁油無害化処理装置4のプロセスフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は本発明の第1実施形態としてのPCB混入絶縁油の無害化処理方法を適用するPCB混入絶縁油無害化処理装置1のプロセスフロー図である。PCB混入絶縁油無害化処理装置1は、SPプロセス(soduim pulverulent dispersion)法を用いてPCB混入絶縁油を無害化する装置であり、金属ナトリウムとPCBとを反応させPCBを脱塩素化する。
【0022】
PCB混入絶縁油無害化処理装置1は、被処理油を貯留する貯留タンク13、被処理油に含まれる水を除去する減圧蒸留槽15、PCBを金属ナトリウムと反応させ脱塩素化する反応槽17、PCBの脱塩素化を確認するための分解確認槽19、処理済油に含まれる残存金属ナトリウムを水和させ、さらに中和する抽出中和槽21、処理済油と水とを分離する油水分離槽23、水を回収する洗浄水再生設備25を備える。
【0023】
被処理油は、柱上変圧器から抜き出されたPCB微量混入絶縁油と、PCB微量混入絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される留出液との混合物であり、これらは貯留タンク13に貯留された後、減圧蒸留槽15に送られる。
【0024】
減圧蒸留槽15は、ジャケット付き攪拌槽であり、ジャケットに加熱した熱媒を供給することで被処理油を加熱する。また減圧蒸留槽15は、槽内を減圧し被処理油に含まれる水を蒸発させ凝縮し回収する減圧装置(図示を省略)を備え、貯留タンク13から送られた被処理油は、ここで90℃程度に加熱、0.0142Mpa程度に減圧され、被処理油に含まれる水が除去される。減圧蒸留槽15で水分が除去された被処理油は反応槽17に送られる。
【0025】
反応槽17は、ジャケット付き攪拌槽であり、ここで減圧蒸留槽15で水分が除去された被処理油に金属ナトリウムが添加される。金属ナトリウムは、絶縁油中に金属ナトリウムの微粒子を分散させた金属ナトリウム分散体(SD:soduim dispersion)として反応槽17に添加される。被処理油と金属ナトリウムとは、攪拌されながらジャケットに供給される加熱した熱媒により90℃程度まで加熱され、PCBは金属ナトリウムと反応し脱塩素化し、被処理油は無害化される。なお、金属ナトリウム分散体を添加し所定の時間経過後に、反応促進剤として所定量の水が添加される。反応槽17の気相部には窒素ガスが供給されている。PCB微量混入絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される留出液が含まれるPCB微量混入絶縁油を処理すると反応生成物が生成する。この反応生成物は金属面に付着しやすいため、反応槽17内、攪拌翼27及び攪拌軸29の表面はテフロン(登録商標)加工され、反応生成物の反応槽内壁面への付着を防止している。また反応槽17には、反応に伴い生成する反応生成物が反応槽内壁面に付着することを防止するための種晶が添加される。この点については、後述する。
【0026】
反応槽17でPCBが脱塩素化された被処理油(処理済油)は、分解確認槽19に送られ、サンプリングライン20を介してサンプリングされ、処理済油中のPCB濃度が所定の濃度以下になっているか確認される。ここでPCBが所定濃度以下に達していないことが確認されると、処理済液を反応槽17に返送し再度、PCBの脱塩素化を行う。処理済油は、PCB濃度が所定の濃度以下であることが確認されると冷却され、その後に抽出中和槽21に送られる。
【0027】
分解確認槽19から送られる処理済油は、抽出中和槽21で多量の水と混合され、処理油済中に残存する金属ナトリウムが水和される。さらに金属ナトリウムが水和され生成した水酸化ナトリウムを中和させるための炭酸ガスが吹き込まれ所定のpHに調整された後、油水分離槽23に送られる。
【0028】
油水分離槽23に送られる多量の水を含む処理済油は、油水分離槽23で静置され比重差により油相31と水相33とに分離される。上層の油相31は、処理済油タンク35に送られ貯留される。一方、下層の水相33は、水を回収する洗浄水再生設備25に送られる。
【0029】
洗浄水再生設備25は、乾燥機37を備え、水を蒸発させ回収すると共に水に含まれる塩化ナトリウム等を蒸発乾固させる。油水分離槽23から送られる水は静置分離水受槽39に一度、貯留された後、乾燥機37に送られ加熱される。蒸発した水は、凝縮器41で凝縮し凝縮水槽43に貯留される。この水は抽出中和槽21に送られ、金属ナトリウムを水和させるための水として使用される。一方、水に溶解していた塩化ナトリウム等は乾燥汚泥として回収される。このようにPCB混入絶縁油無害化処理装置1は、水を系外に排出しないクローズドシステムとなっている。
【0030】
PCB微量混入絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される留出液が含まれるPCB微量混入絶縁油を被処理油とする場合、被処理油には、C=O結合及びC−O結合を含む油酸化変質物が含まれる。C=O結合及びC−O結合を含む油酸化変質物が含まれる理由は、次の通りである。絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器には、PCB微量混入絶縁油が付着しているためこれを回収する目的で絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器は、破砕機で破砕され真空加熱炉で真空加熱される。このとき柱上変圧器には、紙、木が含まれているため、これら乾留物が留出液に含まれる。図2は、紙木類乾留物を含む絶縁油と紙木類乾留物を含まない絶縁油をフーリエ変換赤外分析法FTIRで分析した結果を示す図である。紙木類乾留物を含む絶縁油にはC=Oのピーク1750cm−1が強く表れている。C=O結合を含む油酸化変質物としては、カルボン酸、エステル、アルデヒド、ケトンがある。
【0031】
油酸化変質物を含むPCB微量混入絶縁油と金属ナトリウム、反応促進剤である水との代表的な反応は、次式で示される。
【化1】

【0032】
油酸化変質物と金属ナトリウム又は油酸化変質物と金属ナトリウム、反応促進剤とが反応し生成する鹸化物、炭酸塩、有機酸塩等は、絶縁油には溶解せずかつ極性が強いため金属面に付着し易い。従来の反応槽は、鹸化物、炭酸塩、有機酸塩等の反応生成物が反応槽内壁面に付着することを防止する対策が講じられていなかったので、鹸化物、炭酸塩、有機酸塩等の反応生成物が壁面に付着、成長しスケールとなることで種々のトラブルが発生していた。これに対して本実施形態に示す反応槽17は、反応槽17の内面のみならず攪拌翼27、攪拌軸29の表面がテフロン(登録商標)加工されているため鹸化物、炭酸塩、有機酸塩等の反応生成物は反応槽内壁面に付着することはない。
【0033】
さらに本実施形態では、反応槽17に金属ナトリウム、反応促進剤の他、種晶が添加されるので、油酸化変質物と金属ナトリウム又は油酸化変質物と金属ナトリウム、反応促進剤とが反応し生成する鹸化物、炭酸塩、有機酸塩等の反応生成物は種晶に付着し種晶を核として成長する。これにより反応生成物が反応槽内壁面に付着することをより確実に防止することができる。種晶に付着する鹸化物、炭酸塩、有機酸塩等の反応生成物は不溶性固形分となり、処理済油中に懸濁し、処理済油と共に分解確認槽19を経由して抽出中和槽21へ送られる。抽出中和槽21には多量の水が加えられるので、鹸化物、炭酸塩、有機酸塩等は水に溶解し、最終的には、塩化ナトリウムなどと一緒に乾燥汚泥として回収される。
【0034】
種晶は、鹸化物、炭酸塩、有機酸塩等の反応生成物が付着しやすいものが好ましく、種晶として金属石鹸、炭酸塩が例示される。
【0035】
図3は、本発明の第2実施形態としてのPCB混入絶縁油の無害化処理方法を適用するPCB混入絶縁油無害化処理装置2のプロセスフロー図である。図1に示すPCB混入絶縁油無害化処理装置1と同一の構成部材には同一の符号を付して説明を省略する。
【0036】
第2実施形態では、反応槽17へ添加する種晶として、処理済油中に懸濁する、油酸化変質物と金属ナトリウム又は油酸化変質物と金属ナトリウム、反応促進剤とが反応し生成した鹸化物、炭酸塩、有機酸塩等の不溶性固形分を利用する。具体的には金属ナトリウムとPCBとを反応させるとき、分解確認槽19から反応槽17へ処理済油の20〜30%程度を返送する。これにより種晶をわざわざ用意する必要がなく便利である。分解確認槽19は元々、処理済油中のPCB濃度が所定の濃度まで低下していないとき処理済油を反応槽17へ返送するラインを備えているので、分解確認槽19から反応槽17へ処理済油の一部返送は簡単に行うことができる。
【0037】
図4は、本発明の第3実施形態としてのPCB混入絶縁油の無害化処理方法を適用するPCB混入絶縁油無害化処理装置3のプロセスフロー図である。図1に示すPCB混入絶縁油無害化処理装置1と同一の構成部材には同一の符号を付して説明を省略する。
【0038】
第3実施形態では、反応槽17へ添加する種晶として、油水分離後の水を乾燥機37で蒸発させ得られる水側の乾燥汚泥を使用する。油酸化変質物と金属ナトリウム又は油酸化変質物と金属ナトリウム、反応促進剤とが反応し生成する金属石鹸、炭酸塩等は、水に溶解するため、油水分離後の水を乾燥機37で蒸発させ得られる乾燥汚泥には、油酸化変質物と金属ナトリウム又は油酸化変質物と金属ナトリウム、反応促進剤とが反応し生成する鹸化物、炭酸塩、有機酸塩等が含まれている。これにより種晶をわざわざ用意する必要がなく便利である。
【0039】
図5は、本発明の第4実施形態としてのPCB混入絶縁油の無害化処理方法を適用するPCB混入絶縁油無害化処理装置4のプロセスフロー図である。図1に示すPCB混入絶縁油無害化処理装置1と同一の構成部材には同一の符号を付して説明を省略する。
【0040】
第4実施形態では、第1〜第3実施形態とは異なり反応槽17へ種晶の代わりに粒状の吸着剤を添加する。この吸着剤に油酸化変質物と金属ナトリウム又は油酸化変質物と金属ナトリウム、反応促進剤水とが反応し生成する鹸化物、炭酸塩、有機酸塩等を吸着させることで、反応生成物の反応槽内壁面への付着を防止する。さらに粒状の吸着剤を使用することで、吸着剤は反応槽内壁面に付着した反応生成物、スケールを掻き取る効果も奏する。ここで使用可能な吸着剤は、油酸化変質物と金属ナトリウム又は油酸化変質物と金属ナトリウム、反応促進剤とが反応し生成する鹸化物、炭酸塩、有機酸塩等を吸着可能であれば特に限定されず、ケイ砂、ゼオライト、アルミナ等のセラミックス粒子が例示される。粒子の大きさは、砂粒くらいの大きさが好ましい。
【0041】
油酸化変質物と金属ナトリウム又は油酸化変質物と金属ナトリウム、反応促進剤とが反応し生成する鹸化物、炭酸塩、有機酸塩等は、ヘキサン、石油エーテルなど極性の弱い有機溶剤には殆ど不溶であり、極性の強い有機溶媒には多少溶解するが溶解度が低く完全溶解には多量の溶剤と非常に長い時間が必要である。これに比較し本発明に係るPCB混入絶縁油の無害化処理方法及び無害化処理装置は、簡単な方法で反応生成物の反応槽内壁面への付着を防止することができるので、従来見られたスケールによるトラブルの発生を回避し、PCB混入絶縁油の無害化処理を安定的に行うことができ、コストメリットも大きい。なおビフェニルは、プラスチックゆえ壁面には付着しにくい。
【符号の説明】
【0042】
1 PCB混入絶縁油無害化処理装置
2 PCB混入絶縁油無害化処理装置
3 PCB混入絶縁油無害化処理装置
4 PCB混入絶縁油無害化処理装置
13 貯留タンク
15 減圧蒸留槽
17 反応槽
19 分解確認槽
20 サンプリングライン
21 抽出中和槽
23 油水分離槽
25 洗浄水再生設備
27 攪拌翼
29 攪拌軸
31 油相
33 水相
35 処理済油タンク
37 乾燥機
39 静置分離水受槽
41 凝縮器
43 凝縮水槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナトリウムを用い絶縁油に混入するPCBを脱塩素化し無害化するPCB混入絶縁油の無害化処理方法において、
被処理油は、油酸化変質物を含むPCB混入絶縁油であり、
前記被処理油を無害化するとき生成する反応生成物が反応槽内壁面に付着することを防止する付着防止剤を反応槽に添加し、金属ナトリウムとPCBとを反応させ被処理油を無害化することを特徴とするPCB混入絶縁油の無害化処理方法。
【請求項2】
前記付着防止剤は、前記反応生成物と同一の物質を含む種晶であることを特徴とする請求項1に記載のPCB混入絶縁油の無害化処理方法。
【請求項3】
前記付着防止剤は、前記反応生成物を吸着する粉粒状の吸着剤であり、さらに該吸着剤は、反応槽内壁面に付着する反応生成物、スケールを掻き取ることを特徴とする請求項1に記載のPCB混入絶縁油の無害化処理方法。
【請求項4】
前記種晶は、前記被処理油を金属ナトリウムで無害化した後の処理済油に含まれる反応生成物を含む不溶性固形分であり、
前記不溶性固形分を含む処理済油を反応槽に返送し、金属ナトリウムとPCBとを反応させ、被処理油を無害化することを特徴とする請求項2に記載のPCB混入絶縁油の無害化処理方法。
【請求項5】
前記種晶は、前記被処理油を金属ナトリウムで無害化した後の処理済油から回収された反応生成物を含む固形分であることを特徴とする請求項2に記載のPCB混入絶縁油の無害化処理方法。
【請求項6】
前記油酸化変質物は、C=O結合及びC−O結合を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか1に記載のPCB混入絶縁油の無害化処理方法。
【請求項7】
前記油酸化変質物は、PCB混入絶縁油を抜き取った後の柱上変圧器を破砕し、該破砕物を真空加熱し回収される紙木類乾留物を含む留出液に含まれることを特徴とする請求項1から6のいずれか1に記載のPCB混入絶縁油の無害化処理方法。
【請求項8】
金属ナトリウムを用い絶縁油に混入するPCBを脱塩素化し無害化するPCB混入絶縁油の無害化処理装置において、
金属ナトリウムとPCBとを反応させ被処理油を無害化する反応槽は、フッ素樹脂加工された反応槽であり、該反応槽は、油酸化変質物を含むPCB混入絶縁油を無害化処理するとき生成する反応生成物が反応槽内壁面に付着しないことを特徴とするPCB混入絶縁油の無害化処理装置。
【請求項9】
請求項8に記載のPCB混入絶縁油の無害化処理装置を用いて、請求項1から7に記載のいずれか1に記載の方法でPCB混入絶縁油を無害化することを特徴とするPCB混入絶縁油の無害化処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−217982(P2011−217982A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91009(P2010−91009)
【出願日】平成22年4月11日(2010.4.11)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】