説明

PDGFの制御放出のためのフィブリンゲルおよびその使用

本発明は、全般には、筋骨格障害、軟部組織障害および血管疾患などの治療用途に向けた、in situでの制御放出のための血小板由来成長因子(PDGF)を含有するフィブリンシーラントに関する。さらに、本発明は、シーラントを製剤するために使用されるフィブリノーゲン複合体(FC)成分の含有量を加減することによりフィブリンシーラントからのPDGFタンパク質の放出を加減する方法も提供する。状態または障害の治療のためには、フィブリンシーラントから一旦放出されたPDGFがその生物学的活性を保持することにより、in vitroまたはin vivoでその期待される生物学的活性を当該PDGFが媒介できるようにすることが企図される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2007年6月19日に出願された米国仮特許出願第60/936,198号の優先権の利益を主張し、この米国仮特許出願の全体は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、全般には、筋骨格疾患および血管疾患などの治療用途に向けた、可逆的結合によるin situでの制御放出のための血小板由来成長因子(PDGF)を含有するフィブリンシーラントに関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
フィブリンシーラントは、ヒトの血液凝固タンパク質で作製され、出血を制御するために外科手術中に典型的に使用される一種の外科手術用の「糊」である。こうしたシーラント中の成分は、施用中に相互作用して、血液タンパク質のフィブリンから構成される安定な凝血塊を形成する。フィブリンシーラントは、以下のようないくつかの異なる目的で、現在外科手術中に使用されている:外科医が手術している領域において出血を制御すること、創傷治癒を促進すること、中空の体器官を閉鎖し、または標準的な縫合糸によりできた孔を覆うこと、外科手術中に露出した組織への医薬の徐放送達をもたらすこと。
【0004】
フィブリンシーラントは、一般に、以下の2つのヒト血漿由来成分から成る:(a)フィブリノーゲンおよびフィブロネクチンで主に構成され、触媒量の第XIII因子およびプラスミノーゲンを添加された高濃度のフィブリノーゲン複合体(FC)、ならびに(b)強力なトロンビン。フィブリンシーラントは、アプロチニンを含有してもよい。トロンビンの作用により、まず(可溶性の)フィブリノーゲンがフィブリンモノマーに変換されるが、これが自然に凝集して、いわゆるフィブリン塊を形成する。同時に、この溶液中に存在する第XIII因子(FXIII)がカルシウムイオンの存在下でトロンビンにより活性化されて第XIIIa因子となる。凝集したフィブリンモノマーと、存在する可能性がある残存フィブロネクチンとが架橋して、新しいペプチド結合が形成されることにより高重合体が形成される。この架橋反応により、形成される凝血塊の強度は実質的に高まる。一般に、凝血塊は、創傷および組織の表面に良好に付着し、このことが接着および止血の効果につながる。(特許文献1)。そのため、フィブリン接着剤は、フィブリノーゲン複合体(FC)成分と、カルシウムイオンを追加的に含有するトロンビン成分とを共に含む2成分接着剤として使用されることが多い。
【0005】
フィブリンシーラントの格別な利点は、接着剤/ゲルは異物としてその施用部位に残るのではなく、自然な創傷治癒におけるのと全く同じように完全に再吸収され、新しく形成される組織で置き換わられることである。多様な細胞、例えば、マクロファージ、および、次いで線維芽細胞がゲル中に遊走し、ゲルの材料を溶解および再吸収して新しい組織を形成する。フィブリンシーラントは、in situでフィブリンゲルを形成するために使用されており、こうしたフィブリンゲルは、細胞および成長因子の送達に使用されている(非特許文献1;非特許文献2)。
【0006】
組織修復のためには、フィブリンゲルなどのマトリックス中に成長因子および細胞を局在させることが望ましい。例えば、フィブリンゲルは、ウシ胎仔血清、サンゴ顆粒およびリポソームなどの多様な複合混合物の形態で、TGF−βの送達のために使用されている(非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6)。フィブリンゲルから成長因子を送達するための代替手段には、成長因子に結合されるトランスグルタミナーゼ基質、抗体およびVEGF断片を含むコンジュゲートが含まれる(例えば、特許文献2、特許文献3および特許文献4を参照、これらは参照によりその全体が本明細書中に組み込まれる)。さらに、創傷治癒を促進するための薬物送達マトリックスについて記載された特許文献4も参照。加えて、フィブリンゲルは、細胞の成長(例えば、ヒト間葉系幹細胞(HMSC))および増殖のみならず、マトリックス中でのFCおよびトロンビンの濃度によっては骨形成分化もある程度誘導することが示されている(非特許文献7)。
【0007】
フィブリンシーラントが成長因子を体内の特定の部位に送達する能力は有益である可能性があるが、組織の適切な再成長には、適切な処理が確実に行われるように、当該部位へ特定の速度で送達される成長因子またはサイトカインが継続的/安定的に供給されることが必要である場合が多い。このことは、治療用タンパク質のin vivoでの半減期が短い場合に特に当てはまる。現在使用されているフィブリンシーラントにより、中に入れてある薬物または薬剤を遅延放出させることはいくらか可能ではあるが、シーラント中に薬剤がとどまる期間を延ばすことができれば、in vivoにおける長期の組織修復が改善されると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7,241,603号明細書
【特許文献2】米国特許第6,506,365号明細書
【特許文献3】米国特許第6,713,453号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2003/0012818号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Coxら、Tissue Eng、10巻、942〜954頁、2004年
【非特許文献2】Wongら、Thromb Haemost、89巻、573〜582頁、2003年
【非特許文献3】Fortierら、Am J Vet Res、58巻(1号)、66〜70頁、1997年
【非特許文献4】Arnaudら、Chirurgie Plastique Esthetique、39巻(4号)、491〜498頁、1994年
【非特許文献5】Arnaudら、Calcif Tissue Int、54巻、493〜498頁、1994年
【非特許文献6】Giannoniら、Biotechnology and Bioengineering、83巻(1号)、121〜123頁、2003年
【非特許文献7】Catelasら、Tissue Eng、12巻、2385〜2396頁、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、当技術分野では、多様な状態および障害の治療のためにin vivoで成長因子を送達するための有効な手段を開発する必要性、フィブリンゲルから成長因子を制御放出するための改善された方法を開発する必要性が、今も存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(発明の要旨)
本発明は、in vitroおよびin vivoでの制御放出(成長因子の可逆的結合により)のための血小板由来成長因子(PDGF)を含むフィブリンシーラントの組成物を提供する。さらに、本発明は、シーラントを製剤するために使用されるフィブリノーゲン複合体(FC)成分の含有量を加減することによりフィブリンシーラントからのPDGFタンパク質の放出を加減する方法も提供する。状態または障害の治療のためには、フィブリンシーラントから一旦放出されたPDGFがその生物学的活性を保持することにより、in vitroまたはin vivoでその期待される生物学的活性を当該PDGFが媒介できるようにすることが企図される。
【0012】
一態様では、本発明は、PDGF−ABおよびPDGF−BBから成る群から選択される血小板由来成長因子(PDGF)タンパク質の、FC成分、トロンビン成分およびPDGF成分の混合により作製されるフィブリンシーラントからの放出を加減する方法であって、a)公知の初期量のPDGFと公知の最終濃度のFCとを有する第1のフィブリンシーラントから放出されるPDGFの量を定量することと、b)ステップ(a)の該第1のフィブリンシーラント中で使用されるFCの該公知の最終濃度を加減して、第2のフィブリンシーラントであり、該第2のシーラント中のFCの濃度を該第1のシーラント中のFCの該公知の最終濃度と比較して高くすることにより、該第2のシーラントからのPDGFの放出速度がステップ(a)の該第1のシーラントからのPDGFの放出と比較して減少し、かつ、ステップ(a)における該第1のシーラントと同じ初期量のPDGFを有する第2のフィブリンシーラントを作製することとを含む方法を提供する。
【0013】
関連する一態様では、本発明は、PDGF−ABおよびPDGF−BBから成る群から選択されるPDGFタンパク質の、FC成分、トロンビン成分およびPDGF成分の混合により作製されているフィブリンシーラントからの放出を加減する方法であって、a)公知の初期量のPDGFと公知の最終濃度のFCとを有する第1のフィブリンシーラントから放出されるPDGFの量を定量することと、b)ステップ(a)の該第1のフィブリンシーラント中で使用されるFCの該公知の最終濃度を加減して、第2のフィブリンシーラントであり、該第2のシーラント中のFCの濃度を該第1のシーラント中のFCの該公知の最終濃度と比較して低くすることにより、該第2のシーラントからのPDGFの放出速度がステップ(a)の該第1のシーラントからのPDGFの放出と比較して増加し、かつ、ステップ(a)における該第1のシーラントと同じ初期量のPDGFを有する第2のフィブリンシーラントを作製することとを含む方法を提供する。
【0014】
一実施形態では、第1または第2のシーラント中の最終のFC濃度は、約1mg/mlから約150mg/mlの範囲内である。関連する一実施形態では、第1または第2のシーラント中の最終のFC濃度は、約5mg/mlから約75mg/mlの範囲内である。
【0015】
別の実施形態では、第1のフィブリンシーラント中の最終のFC濃度は、第2のシーラント中の最終のFC濃度とは約1mg/mlから約149mg/ml異なることが企図される。さらなる一実施形態では、第1のフィブリンシーラント中の最終のFC濃度は、第2のシーラント中のFC濃度とは約5mg/mlから約75mg/ml異なる。さらに別の実施形態では、第1のフィブリンシーラント中の最終のFC濃度は、第2のシーラント中のFC濃度とは、約10mg/mlから約60mg/ml異なる。
【0016】
いくつかの実施形態では、第1または第2のシーラント中のトロンビン成分の最終濃度は、約1IU/mlから250IU/mlの範囲内であることが企図される。別の実施形態では、第1または第2のシーラント中のPDGFの最終濃度は、約1ng/mlから約1mg/mlの範囲である。
【0017】
別の態様では、本発明は、PDGF−ABおよびPDGF−BBから成る群から選択されるPDGFタンパク質の制御放出を必要とする患者において該タンパク質を制御放出する方法であって、前記患者に、PDGFを含むフィブリンシーラントであり、該PDGFの少なくとも25%が該フィブリンシーラント中で少なくとも3日間保持されるフィブリンシーラントを投与することを含む方法を企図する。
【0018】
関連する一態様では、本発明は、PDGF−ABおよびPDGF−BBから成る群から選択されるPDGFタンパク質の制御放出を必要とする患者において該タンパク質を制御放出する方法であって、前記患者に、PDGFを含むフィブリンシーラントであり、該PDGFの少なくとも20%が該フィブリンシーラント中で少なくとも10日間保持されるフィブリンシーラントを投与することを含む方法を提供する。
【0019】
フィブリンシーラントから放出されたPDGFは生物学的に活性であることが企図される。
【0020】
いくつかの実施形態では、PDGFの少なくとも35%から90%が、フィブリンシーラント中で少なくとも3日間保持される。関連する一実施形態では、PDGFの少なくとも45%から75%が、フィブリンシーラント中で少なくとも3日間保持される。さらなる一実施形態では、PDGFの少なくとも60%が、フィブリンシーラント中で少なくとも3日間保持される。
【0021】
別の実施形態では、PDGFの少なくとも25%から75%が、フィブリンシーラント中で少なくとも10日間保持される。関連する一実施形態では、前記PDGFの少なくとも45%から55%が、フィブリンシーラント中で少なくとも10日間保持される。
【0022】
関連する一実施形態では、このフィブリンシーラントは、3日間または10日間のいずれかまたは両方の期間にわたって前述の範囲の放出動態を有していてもよいことが企図される。
【0023】
一実施形態では、このフィブリンシーラントは、FC成分とトロンビン成分とを合わせて混合物にすることにより作製される。別の実施形態では、PDGFは、FC成分をトロンビン成分と混合する前にFC成分に加えられる。さらなる一実施形態では、PDGFはトロンビン成分に加えられる。
【0024】
関連する一実施形態では、PDGFの放出量は、毎日決まった量ずつ減少してもよいことが企図される。例えば、フィブリンシーラント中のPDGFの量は、1日約1%ずつ、1日約2%ずつ、1日約3%ずつ、1日約4%ずつ、1日約5%ずつ、1日約6%ずつ、1日約7%ずつ、1日約8%ずつ、1日約9%ずつもしくは1日約10%ずつ減少してもよく、または、所望の放出量を、フィブリンシーラントを製剤するために用いられるFC濃度もしくはトロンビン濃度に基づいて調節してもよい。
【0025】
本発明は、シーラント中のFC成分の最終濃度が約1mg/mlから約150mg/mlの範囲内であることを企図する。さらに、いくつかの実施形態では、シーラント中のトロンビン成分の最終濃度は、約1IU/mlから250IU/mlの範囲内であることが企図される。一実施形態では、最終のFC濃度は、約5mg/ml、約10mg ml、約20mg/mlまたは約40mg/mlであり、最終のトロンビン濃度は約2IU/mlである。
【0026】
一実施形態では、シーラント中の最終のPDGF濃度は、約1ng/mlから約1mg/mlである。
【0027】
さらなる一実施形態では、PDGFはPDGF−ABであることが企図される。一実施形態では、前記PDGF−ABの少なくとも60%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも3日間保持され、前記PDGF−ABの少なくとも40%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも10日間保持される。さらなる一実施形態では、前記PDGF−ABの少なくとも80%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも3日間保持され、前記PDGF−ABの少なくとも60%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも10日間保持される。
【0028】
関連する一実施形態では、PDGFはPDGF−BBであることが企図される。一実施形態では、前記PDGF−BBの少なくとも55%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも3日間保持され、前記PDGF−BBの少なくとも25%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも10日間保持される。
【0029】
さらなる一態様では、本発明は、PDGF−ABまたはPDGF−BBから成る群から選択されるPDGFタンパク質のin situでの制御放出から利益を得る障害または疾患に罹患している患者を治療する方法であって、前記患者に、PDGFタンパク質を含むフィブリンシーラントであり、該PDGFの制御放出であり、該PDGFの少なくとも25%が該フィブリンシーラント中で少なくとも3日間保持され、前記PDGFが、前記障害または疾患を治療するのに有効な速度で放出される制御放出をもたらすフィブリンシーラントを投与することを含む方法を企図する。
【0030】
さらなる一態様では、本発明は、PDGF−ABまたはPDGF−BBから成る群から選択される生物活性を有するPDGFタンパク質のin situでの制御放出から利益を得る障害または疾患に罹患している患者を治療する方法であって、前記患者に、該PDGFタンパク質を含むフィブリンシーラントであり、該PDGFの制御放出であり、該PDGFの少なくとも20%が該フィブリンシーラント中で少なくとも10日間保持され、前記PDGFが、前記障害または疾患を治療するのに有効な速度で放出される制御放出をもたらすフィブリンシーラントを投与することを含む方法を企図する。
【0031】
さらに、本発明は、PDGF−ABまたはPDGF−BBから成る群から選択されるPDGFタンパク質を含み前述のようなPDGFの制御放出をもたらすフィブリンシーラントの、PDGFタンパク質のin situでの制御放出から利益を得る障害または疾患に罹患している患者を治療するための医薬の製造における使用も提供する。
【0032】
本発明は、前述の放出動態が、PDGFタンパク質のin situでの制御放出から利益を得る患者を治療する方法、または、前記患者を治療するための医薬の製造におけるフィブリンシーラントの使用に適用可能であることを企図する。
【0033】
一態様では、患者は、PDGFのin vivoでの制御放出から利益を得る疾患に罹患しており、そのような疾患は当業者には明らかと考えられる。一実施形態では、疾患または障害は、筋骨格の疾患または障害、軟部組織の疾患または障害および心血管疾患から成る群から選択される。
【0034】
一実施形態では、フィブリンシーラントは、注射、噴霧、内視鏡による投与または予め形成されたゲルなど当技術分野で周知の方法を、単独で、または他の材料と組み合わせて、さらには当業者に公知の他の方法を用いて、患者に投与される。
【0035】
さらに、本発明は、PDGF−ABまたはPDGF−BBから成る群から選択される生物活性を有するPDGFタンパク質を含み所望のPDGF放出速度を有するフィブリンシーラントを調製するためのキットであって、a)場合によりPDGF成分を含む、FC成分を含有する第1のバイアルまたは第1の保存容器と、b)トロンビン成分を有する第2のバイアルまたは第2の保存容器とを備え、前記第1のバイアルまたは第1の保存容器にPDGF成分を含まない場合にはPDGF成分を有する第3のバイアルまたは第3の保存容器を場合により含有し、該キットの使用のための取扱説明書をさらに含有するキットを提供する。このキットは、in vitroまたはin vivoでの該フィブリンシーラントの使用または投与のための取扱説明書をさらに備えてもよい。
【0036】
本発明が有する他の特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、この詳細な説明および具体例は、本発明の具体的な実施形態を示すものではあっても、例証のためにのみ提供するものであることは理解されるべきであり、それは、この詳細な説明から、本発明の精神および範囲内での多様な変形および改変が当業者には明らかになると考えられるからである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】PDGF−ABの量がTISSEEL VH S/Dゲル([FC]=20mg/mlおよび[トロンビン]=2IU/ml)からのその累積放出量に及ぼす効果を示すグラフである。
【図2】PDGF−BBの量がTISSEEL VH S/Dゲル([FC]=20mg/mlおよび[トロンビン]=2IU/ml)からのその累積放出量に及ぼす効果を示すグラフである。
【図3】FC濃度がTISSEEL VH S/Dゲル([トロンビン]=2IU/ml)からのPDGF−ABの1日の放出量(図3A)および累積放出量(図3B)に及ぼす効果を示すグラフである。
【図4】FC濃度がTISSEEL VH S/Dゲル([トロンビン]=2IU/ml)からのPDGF−BBの1日の放出量(図4A)および累積放出量(図4B)に及ぼす効果を示すグラフである。
【図5】TISSEEL VH S/Dのロット番号がPDGF−ABの累積放出量に及ぼす効果を示すグラフである([FC]=20mg/ml、[トロンビン]=2IU/ml)。
【図6】TISSEEL VH S/Dのロット番号がPDGF−BBの累積放出量に及ぼす効果を示すグラフである([FC]=20mg/ml、[トロンビン]=2IU/ml)。
【図7】PDGF−BBの量がTISSEEL VHゲル([FC]=20mg/mlおよび[トロンビン]=2IU/ml)からのその累積放出量に及ぼす効果を示すグラフである。
【図8】FC濃度がTISSEEL VHゲル([トロンビン]=2IU/ml)からのPDGF−BBの1日の放出量(図8A)および累積放出量(図8B)に及ぼす効果を示すグラフである。
【図9】TISSEEL VHのロット番号がPDGF−BBの累積放出量に及ぼす効果を示すグラフである([FC]=20mg/ml、[トロンビン]=2IU/ml)。
【図10】TISSEEL VH S/Dゲルから放出されたPDGF−ABが、単層中で7日まで培養されたHMSCの増殖に及ぼす効果を示すグラフである。
【図11】TISSEEL VH S/Dゲルから放出されたPDGF−BBが、単層中で7日まで培養されたHMSCの増殖に及ぼす効果を示すグラフである。
【図12】TISSEEL VH S/Dゲルから放出されたPDGF−ABがALP活性に及ぼす効果を示すグラフである(増殖について正規化)。
【図13】TISSEEL VH S/Dゲルから放出されたPDGF−BBがALP活性に及ぼす効果を示すグラフである(増殖について正規化)。
【図14】TISSEEL VH S/Dに由来するFCと相互作用するPDGF−AB(図14A)およびPDGF−BB(図14B)のセンサーグラムである。図14Cは、PDGF−ABの、TISSEEL VH S/Dに由来するFCとの相互作用についての結合・解離速度定数の、グラフによる定量を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
(発明の詳細な説明)
本発明は、筋骨格疾患、軟部組織障害および血管疾患の治療などの治療用途における、可逆的結合によるin situでの制御放出のためのPDGFを含有するフィブリンゲルを提供する。本発明は、このゲルから放出されるPDGFがその生物学的活性を保持することにより、in vitroまたはin vivoでのフィブリンシーラントからの放出で所望の生物学的活性が調節されるようにすることを企図する。本発明は、さらに、所望のPDGF放出動態を得るためのフィブリンシーラントを製剤するうえで有用なFC成分またはトロンビン成分の濃度を定量する方法も提供する。
【0039】
別に定義しない限り、本明細書中で使用する全ての専門用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって普通に理解されるものと同じ意味を有する。以下の参考文献から、当業者は、本発明において使用する用語の多くの一般定義を得られる:Singletonら、DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY(第2版、1994年);THE CAMBRIDGE DICTIONARY OF SCIENCE AND TECHNOLOGY(Walker編、1988年);THE GLOSSARY OF GENETICS、第5版、R. Riegerら(編)、Springer Verlag(1991年);ならびに、HaleおよびMarham、THE HARPER COLLINS DICTIONARY OF BIOLOGY(1991年)。
【0040】
本明細書中で引用する刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、それぞれ、参照により、本開示と矛盾しない範囲でその全体が組み込まれる。
【0041】
本明細書中および添付の特許請求の範囲中で使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、そうでないことが文脈により明らかに述べられる場合を除いて複数形への言及も包含することを、ここに記しておく。
【0042】
本明細書中で使用する場合、以下の用語は、他に明記しない限り、それらが元来持つ意味を有する。
【0043】
本明細書中で使用する場合、用語「フィブリンシーラント」、「フィブリンゲル」、「フィブリン接着剤」、「フィブリン塊」または「フィブリンマトリックス」は互換的に使用され、細胞成長と、時間の経過に伴う生物活性材料の放出とのための足場として作用できる、フィブリノーゲン複合体(FC)成分とトロンビン成分とを少なくとも含む三次元のネットワークを指す。
【0044】
本明細書中で使用する場合、用語「制御放出」と「遅延放出」とは同じ意味を有し、フィブリンゲル中で薬剤(例えば成長因子)が保持されることを指す。制御放出は、拡散により、または、結合された成長因子が解離し、次いでそれがゲルから拡散することにより、成長因子の分泌/放出を低速化および安定化させることによるのみならず、マトリックスの分解および酵素的切断によるものでもある。
【0045】
本明細書中で使用する場合、「in situでの形成」は、生理的温度で、および体内の注射部位での形成、または、適切なin vitroでの条件でのフィブリンシーラントの形成のいずれかを指す。この用語は、フィブリンシーラント中での前駆体分子(投与前および投与時点では実質的に架橋していない)間の共有連結の形成を記載するために典型的に用いられる。
【0046】
本明細書中で使用する場合、「フィブリノーゲン複合体(FC)成分」は、トロンビンと混合されると凝血塊様のフィブリンシーラントになるフィブリン/フィブリノーゲン溶液を指す。FCは、フィブリノーゲンとフィブロネクチンとから主に構成され、触媒量のFXIIIおよびプラスミノーゲンを含有してもよい。FC成分は、シーラータンパク質と呼ぶこともある。
【0047】
本明細書中で使用する場合、「トロンビン成分」は、結果として凝血塊様のフィブリンシーラントになるFC成分と混合されるトロンビン溶液を指す。
【0048】
本明細書中で使用する場合、「血小板由来成長因子成分」または「PDGF成分」は、液状のフィブリンシーラントに加える、溶液形態の成長因子の添加物を指す。PDGF成分、FC複合成分およびトロンビン成分のそれぞれを別々に加えて、PDGFを含むフィブリンシーラントを形成してもよい。場合により、PDGF成分は、トロンビン成分と混合する前に液体FC成分に、または、FC成分と混合する前にトロンビン成分に、加える。PDGF成分は、PDGF−ABもしくはPDGF−BBのいずれか、または、PDGF−ABおよびPDGF−BBの両方を含んでもよい。
【0049】
本明細書中で使用する場合、「組換えヒトPDGF」は、組換えDNA技術により得られる組換えヒト血小板由来成長因子(rhPDGF)を指す。組換えヒトPDGFは、当技術分野で公知の任意の方法により作製してもよい。
【0050】
本明細書中で使用する場合、用語「生物活性を有する」または「生物学的に活性である」は、溶液中またはフィブリンシーラント中のタンパク質(例えばPDGFタンパク質)が、自然に発現する(すなわち、組換えにより発現するか、またはin vivoで発現するかいずれかの場合の)タンパク質と比較した場合に、同じまたは同様の生物学的活性を呈する生物学的特性を指す。
【0051】
本明細書中で使用する場合、「検出可能な部分」、「検出可能な標識」または「標識」は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的または化学的な手段により検出可能な組成物を指す。例えば、有用な標識としては、32P、35S、蛍光色素、電子密度の高い試薬、酵素(例えば、ELISAにおいて一般に使用されるような)、ビオチンストレプトアビジン、ジオキシゲニン(dioxigenin)、ハプテン、および、当該タンパク質に対する抗血清もしくはモノクローナル抗体が入手可能なタンパク質、または、標的と相補的な配列を有する核酸分子が挙げられる。検出可能な部分は、放射性、発色性または蛍光性のシグナルなど測定可能なシグナルを発することが多く、このシグナルを用いて、試料中の結合している検出可能な部分の量を定量化できる。
【0052】
フィブリンシーラント
多くの形態のフィブリンがフィブリンシーラントとして使用可能である。フィブリンゲルは、自己血漿、クリオプレシピテート血漿(例えば、市販のフィブリン糊キット)、血漿から精製したフィブリノーゲン、ならびに、組換えフィブリノーゲンおよび第XIIIa因子から合成できる。こうした材料のそれぞれからは、生化学組成物中での差異が小さい本質的に類似したマトリックスが得られる(Sierra DH、J Biomater Appl、7巻、309〜352頁、(1993年))。これらの材料間の類似性は、特異的な酵素的生物活性および全般的な治癒応答の両方において存在する。
【0053】
本発明において有用なフィブリンゲルは、フィブリンシーラントから形成されるが、フィブリンシーラントは、2つの主要な成分、フィブリノーゲン複合体(FC)およびトロンビンから成る。FCは、フィブリノーゲンおよびフィブロネクチンで主に構成され、触媒量のFXIIIおよびプラスミノーゲンを含有してもよい。FC成分およびトロンビン成分は、一般にはヒト血漿に由来するが、組換え/遺伝子工学の手法によって作製してもよい。フィブリンシーラントの例は、US5,716,645、US5,962,405、US6,579,537に記載があり、TISSEEL VHおよびTISSEEL VH S/D(Baxter AG、Vienna、オーストリア)が挙げられる。
【0054】
フィブリンゲルを形成するためには、パッケージの取扱説明書に従ってまずFCを再構成、解凍または他の方式で調製し、必要に応じて、希釈緩衝液を用いてさらに希釈してから、この液体FCに治療剤を加える。あるいは、治療剤は、トロンビン成分中に加えてもよい。大部分の市販のフィブリンシーラントは、アプロチニンなどのゲル溶解阻害薬を含んでおり、使用者の判断で、これをFCに加えてもよい。アプロチニンおよび他のゲル溶解阻害薬についての説明は、WO99/11301に示されている。トロンビン成分も、CaCl溶液を用いて再構成して液状にし、必要に応じて、希釈緩衝液を用いてさらに希釈する。トロンビン成分は、PDGFをさらに含むFC成分と混合してフィブリンゲルを形成することが企図される。アプロチニン成分を含まないフィブリンシーラントも設計されている(EVICEL、Ethicon,Inc、New Jersey)。
【0055】
組織接着剤として使用できるフィブリノーゲン含有調製品を作製する追加的な方法としては、それぞれ、クリオプレシピテートからの作製(場合により、エタノール、硫酸アンモニウム、ポリエチレングリコール、グリシンまたはβアラニンを用いた洗浄および沈降ステップをさらに伴う)、および、公知の血漿分画法の範囲内での血漿からの作製が挙げられる(例えば、「Methods of plasma protein fractionation」、1980年、Curling編、Academic Press、3〜15頁、33〜36頁および57〜74頁、または、Blombck B. and M.、「Purification of human and bovine fibrinogen」、Arkiv Kemi、10巻、1959年、415頁f.を参照)。フィブリンシーラントは、患者自身の血漿を用いて作製してもよい。例えば、CRYOSEAL(Thermogenesis Corp.、Rancho Cordova、CA)またはVIVOSTAT(Vivolution A/S、デンマーク)のフィブリンシーラント系は、患者の血漿から自己フィブリンシーラント成分の作製を可能にする。フィブリンシーラントの成分は、凍結乾燥されたもの、液体を急速冷凍したもの、または液体の形で入手できる。
【0056】
所望の制御放出の型をもたらすために、フィブリンゲルの成分は、適切な濃度で加える。FC成分は、限定されるものではないが5mg/ml、10mg/ml、15mg/ml、20mg/ml、25mg/ml、30mg/ml、35mg/ml、40mg/ml、45mg/ml、50mg/ml、最大150mg/ml(ゲル中の最終濃度)などさまざまな濃度で、または必要に応じ中間の濃度で、加えてもよい。さらに、そのような濃度のFC成分は、限定されるものではないが1IU/ml、2IU/ml、5IU/ml、7IU/ml、10IU/ml、15IU/ml、20IU/ml、25IU/ml、30IU/ml、35IU/ml、40IU/ml、50IU/ml、60IU/ml、70IU/ml、80IU/ml、90IU/ml、100IU/ml、125IU/ml、150IU/ml、175IU/ml、200IU/ml、225IU/mlおよび250IU/mlなど適切な任意の濃度、または必要に応じ中間の濃度のトロンビン成分と組み合わせてもよい。
【0057】
治療剤用の制御放出系を作製するためにPDGFなどの薬剤をフィブリンシーラント組成物に加えることが企図される。PDGFは、適切な遅延放出製剤をもたらす任意の濃度(PDGFは1ng/mlから1mg/mLの範囲内)で加えてもよい。フィブリンシーラント中のPDGFの例示的な濃度としては、1ng/ml、5ng/ml、10ng/ml、15ng/ml、20ng/ml、40ng/ml、50ng ml、100ng/ml、250ng/ml、500ng/ml、1μg/ml、5μg/ml、10μg/ml、25μg/ml、50μg/ml、100μg/ml、250μg/ml、500μg/ml、750μg/mlおよび1mg/mlが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
フィブリンシーラント中で使用されるFCまたはトロンビンの濃度は、フィブリンゲル中に加えたPDGFが数日から数週間かけて治療上有効量で放出されるような濃度であることが企図される。一態様では、PDGFは、1日、2日、3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日またはそれより長い期間、フィブリンゲルから放出される。
【0059】
PDGFは、持続する期間にわたりin situでPDGFが使用できるように、制御放出または遅延放出の様式でフィブリンシーラントから放出される。PDGFの放出量は、毎日決まった量ずつ減少してもよく、例えば、PDGFの濃度は、1日約1%、1日約2%、1日約3%、1日約4%、1日約5%、1日約6%、1日約7%、1日約8%、1日約9%または1日約10%またはそれを超える濃度ずつ減少してもよいことが企図される。
【0060】
関連する一実施形態では、フィブリンゲル中でPDGFの少なくとも25%が少なくとも3日間保持されることが企図される。さらなる一実施形態では、フィブリンゲル中でPDGFの少なくとも35%から90%、少なくとも45%から75%、または少なくとも60%が少なくとも3日間保持される。PDGFの少なくとも25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%または90%がフィブリンゲル中で少なくとも3日間保持されることが、さらに企図される。
【0061】
別の実施形態では、PDGFの少なくとも20%がフィブリンゲル中で少なくとも10日間保持される。さらなる一実施形態では、PDGFの少なくとも25%から75%、または45%から55%が少なくとも10日間保持される。PDGFの少なくとも20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%または75%がフィブリンゲル中で少なくとも10日間保持されることがさらに企図される。
【0062】
本発明は、フィブリンシーラントの成分の濃度を加減することにより、所望の放出動態を有するフィブリンシーラントを製剤する方法を提供する。一態様では、この方法は、公知の初期量のPDGFと公知の最終濃度のFCとを有する第1のフィブリンシーラントから放出されるPDGFの量を定量することと、ステップ(a)の第1のフィブリンシーラント中で使用されるFCの該公知の最終濃度を加減して、第2のフィブリンシーラントであり、該第2のシーラント中のFCの濃度を該第1のシーラント中のFCの該公知の最終濃度と比較して高めまたは低下させることにより、ステップの該第1のシーラントからのPDGFの放出と比較して該第2のシーラントからのPDGFの放出速度を調節し、ステップにおける該第1のシーラントと同じ初期量のPDGFを有する第2のフィブリンシーラントを作製することとを企図する。
【0063】
一実施形態では、第1または第2のシーラント中の最終のFC濃度は、約1mg/mlから約150mg/mlの範囲内である。関連する一実施形態では、第1のフィブリンシーラントのFC濃度は、第2のシーラント中の最終のFC濃度とは約1mg/mlから約149mg/ml、約5mg/mlから約75mg/ml、または約10mg/mlから約60mg/ml異なる。さらなる一実施形態では、第1のフィブリンシーラントの最終のFC濃度は、第2のシーラント中の最終のFC濃度とは、約1mg/ml、2mg/ml、3mg/ml、4mg/ml、5mg/ml、10mg/ml、15mg/ml、20mg/ml、25mg/ml、30mg/ml、35mg/ml、40mg/ml、45mg/ml、50mg/mlまたはこれらの濃度の間の任意の量、最大約149mg/ml、異なる。
【0064】
本発明において有用なフィブリンシーラントは、in vitroまたはin vivoで使用する目的で追加的な材料または薬剤と組み合わせてもよいことが企図される。そのような薬剤としては、限定されるものではないが以下のような追加的な治療剤が挙げられる:成長因子、サイトカイン、ケモカイン、血液凝固因子、酵素、ケモカイン、可溶性の細胞表面受容体、細胞接着分子、抗体、ホルモン、細胞骨格タンパク質、マトリックスタンパク質、シャペロンタンパク質、構造タンパク質、代謝タンパク質、およびそれ以外に当技術分野で公知のもの(例えば、Physicians Desk Reference、第62版、2008年、Thomson Healthcare、Montvale、NJを参照)。
【0065】
フィブリンシーラント中で有用な追加的な材料としては、筋骨格疾患用のシーラントと組み合わせることができると考えられる材料が挙げられ、そのような材料は、ポリマー、サンゴ、セラミックス、ガラス、金属、骨由来材料、ヒドロキシアパタイト、合成の足場材料、こうした材料の組合せ、および当技術分野で公知の他の材料を非限定的に含む耐荷重材料であってもよい(例えば、Guehennecら、(European Cells and Materials、8巻、1〜11頁、2004年)、米国特許第7,122,057号および米国特許第6,696,073号を参照)。
【0066】
一実施形態では、このフィブリンゲルは、可逆的結合後、ならびに、FCおよびトロンビンの濃度を調節することにより制御された様式で、生物学的に活性であるPDGFを送達するための担体系として使用できる。
【0067】
本発明の一実施形態では、5mg/mlのFCおよび2IU/mlのトロンビン(ゲル中の最終濃度)を使用してTISSEEL Vapor Heated Solvent/Detergent(TISSEEL VH S/D)でフィブリンゲルを作製すると、添加したPDGF−BB(15ng)の少なくとも約65%がゲル中で3日後保持される。本発明の別の実施形態では、40mg/mlのFCおよび2IU/mlのトロンビン(ゲル中の最終濃度)を使用してTISSEEL VH S/Dでフィブリンゲルを作製すると、添加したPDGF−BB(15ng)の少なくとも約85%がゲル中で3日後保持される。したがって、TISSEEL VH S/Dで作製したフィブリンゲルを用いた場合、PDGF−BBの保持期間は、FC濃度が高くなるにつれ長くなる。
【0068】
本発明の別の実施形態では、20mg/mlのFCおよび2IU/mlのトロンビン(ゲル中の最終濃度)を使用して、異なるロット番号のTISSEEL VHでフィブリンゲルを作製すると、1つのロットに由来するゲル中ではPDGF−BBの少なくとも約70%、第2のロットに由来するゲルでは約60%、第3のロットに由来するゲルでは約40%が、10日後保持される。これらのロット間の1つの違いは、第XIII因子の含有量である(それぞれ、42.2U/ml、33.9U/mlおよび<1U/ml)。本発明の別の実施形態では、20mg/mlのFCおよび2IU/mlのトロンビン(ゲル中の最終濃度)を使用して、異なるロット番号のTISSEEL VH S/Dでフィブリンゲルを作製すると、全てのロットに由来するゲル中で、10日後PDGF−BBの少なくとも約60%が保持される。PDGF−AB放出については、3つのロットのうち2つにおいて10日目まで少なくとも約75%が保持され、第3のロットにおいては約68%の成長因子が10日間保持された。
【0069】
前述の実施形態は、市販のフィブリンシーラントからのPDGF放出の例示的な実施形態であって、決して本発明を限定することを意図するものではないことは、当業者には理解されよう。
【0070】
PDGFタンパク質
血小板由来成長因子(PDGF)は、創傷および骨折の治癒の初期段階中に血小板により分泌される。PDGFは、骨芽細胞および間葉系前駆細胞の遊走を刺激することが示されている(Mehrotraら、J Cell Biochem、93巻、741〜52頁、2004年;Fiedlerら、J Cell Biochem、93巻、990〜98頁、2004年)が、骨折治癒および骨修復におけるその役割ははっきり定義されていない。PDGFは、血管新生という異なる側面も制御するが、骨成長中はそれ自体も決定的に重要である。PDGFは、組織の正常な成長および発達に必要な基本過程であり、既存の血管からの新しい毛細血管の増殖に関わる血管新生を刺激するうえでも役割を担っている。血管新生の速度を増加させることは、数例を挙げれば、冠動脈および末梢血管の疾患など組織灌流低下を伴うものなど特定の障害において有用である。
【0071】
PDGF−A(Genbank受入番号NP_002598)およびPDGF−B((Genbank受入番号NP_002599)をホモ二量体化またはヘテロ二量体化して、PDGF−AA、PDGF−ABまたはPDGF−BBの3つの異なるアイソフォームを作製できる。PDGF−Aは、PDGFα受容体(PDGFR−α/αホモ二量体などのPDGFR−α)に結合できるのみである。PDGF−Bは、PDGFR−αおよび第2のPDGF受容体(PDGFR−β)の両方に結合できる。より具体的には、PDGF−Bは、PDGFR−α/αおよびPDGFR−β/βのホモ二量体、ならびにPDGFR−α/βのヘテロ二量体に結合できる。
【0072】
PDGF−AAおよびBBは、間葉系由来の細胞に対する主要な分裂促進物質および化学誘引物質であるが、PDGFR−αおよびβが両方とも内皮細胞(EC)上に発現するにもかかわらず、内皮系統の細胞に対しては、全くまたはほとんど効果をもたない。PDGF−ABおよびPDGF−BBは、新しく形成される血管の安定化/成熟に関与することが示されている(Isnerら、Nature、415巻、234〜9頁、2002年;Valeら、J Interv Cardiol、14巻、511〜28頁、2001年);Heldinら、Physiol Rev、79巻、1283〜1316頁、1999年;Betsholtzら、Bioessays、23巻、494〜507頁、2001年)。しかしながら、他のデータからは、PDGF−AAおよびPDGF−BBはPDGFR−αのシグナル伝達によりin vivoでのbFGF誘導性の血管新生を阻害することが示された。PDGF−AAは間葉系細胞の遊走の最も強力な刺激の1つであるが、この因子は、ECの遊走を刺激しないか、またはごくわずかに刺激するかのいずれかである。特定の条件では、PDGF−AAはECの遊走を阻害さえする(Thommenら、J Cell Biochem.、64巻、403〜13頁、1997年;De Marchisら、Blood、99巻、2045〜53頁、2002年;Caoら、FASEB. J.、16巻、1575〜83頁、2002年)。さらに、PDGFR−αは、PDGFR−β誘導性のSMCの遊走を拮抗することが示されており(Yuら、Biochem. Biophys. Res. Commun.、282巻、697〜700頁、2001年)、PDGF−AAに対する中和抗体は、平滑筋細胞(SMC)の遊走を促進する(Palumbo, R.ら、Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol.、22巻、405〜11頁、2002年)。したがって、PDGF−AおよびBの血管新生/動脈新生活性(特に、PDGFR−αを介してシグナル伝達する場合の)については、議論が分かれている。
【0073】
PDGF−AAおよびBBは、心血管および神経の幹細胞/前駆細胞の両方の増殖および分化において重要な役割を果たすことが報告されている。PDGF−AAは、αvβ3インテグリンを介してオリゴデンドロサイト前駆体の増殖を刺激した(Baronら、Embo. J.、21巻、1957〜66頁、2002年)が、PDGF−BBは、Flk1+胚性幹細胞の血管壁細胞への分化を誘導し(Carmeliet, P.、Nature、408巻、43〜45頁、2000年;Yamashitaら、Nature、408巻、92〜6頁、2000年)、また、神経球由来のニューロンの生存を強力に高めた(Caldwellら、Nat Biotechnol.、19巻、475〜479頁、2001年)。
【0074】
PDGFタンパク質は、フィブリンゲルの製剤に使用されてきたが、成功の内容はさまざまであった。Thomopoulousら(J Orth Res、25巻、1358〜68頁、2007年)は、フィブリノーゲン、トロンビン、ペプチド成分およびヘパリンを含むフィブリンゲルを調製し、さまざまな濃度のPDGF−BBをさらに加えて、成長因子の受動的放出動態を定量した。この試験から、成長因子の放出量は、フィブリンゲル中のヘパリンの量に依存することが示された。PDGFは、血漿血小板T調製品を含むフィブリンゲル中でも検出されており(例えば、Yazawaら、J Craniofac Surg、15巻、439〜46頁、2004年を参照)、フィブリン足場中の胚性幹細胞を刺激するために使用されている(Willerthら、Stem Cells.、25巻、2235〜2244頁、2007年)。
【0075】
本発明にとって有用なPDGF分子としては、完全長のタンパク質、タンパク質の前駆体、タンパク質のサブユニットまたは断片、およびその機能的誘導体が挙げられる。PDGFと言った場合は、天然由来のタンパク質調製品を含め、そのようなタンパク質の、可能性のある全ての形態を包含することを意図している。
【0076】
本発明によれば、組換えPDGFという用語は、特定の限定の根拠となるものではなく、組換えDNA技術により得られる任意のPDGF(異種の、または天然に存在する)またはその生物学的に活性である誘導体を包含することがある。特定の実施形態では、この用語は、(1)少なくとも約25、50、100、150、200またはそれを超えるアミノ酸の領域にわたり、本明細書に記載の参照される核酸またはアミノ酸の配列によりコードされるPDGF−ABまたはPDGF−BBポリペプチドに対して約60%超のアミノ酸配列同一性、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%またはそれを超えるアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、(2)本明細書に記載のような参照されるアミノ酸配列を備える免疫原、その免疫原性の断片、および、保存的に変異したその変異体に対して生じた抗体(例えばポリクローナル抗体)に特異的に結合する、(3)本明細書に記載のような参照されるアミノ酸配列、および、保存的に変異したその変異体をコードする核酸と、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で特異的にハイブリダイズする、(4)少なくとも約25、50、100、150、200、250、500、1000、1500、2000またはそれを超えるヌクレオチドの領域(最大、成熟したタンパク質のヌクレオチドの完全長の配列)にわたり、本明細書に記載のような参照される核酸配列に対して約95%超、約96%超、97%、98%、99%またはそれを超えるヌクレオチド配列同一性を有する核酸配列を有するタンパク質および核酸、例えば、遺伝子、プレmRNA、mRNAおよびポリペプチド、多型変異体、対立遺伝子、突然変異体および種間の相同体を包含する。
【0077】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの配列は、霊長動物(例えばヒト)、齧歯動物(例えば、ラット、マウス、ハムスター)、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジまたは他の任意の哺乳動物を非限定的に含む哺乳動物に典型的に由来する。本発明の核酸およびタンパク質は、組換え分子(例えば、異種の、および、野生型配列をコードするものまたはその変異体、または天然に存在しないもの)であってもよい。ヒトPDGFの構造については、国立生物工学情報センター(NCBI)により維持されているGenbank Databaseを参照されたい:ヒトPDGF−A(Genbank受入番号NP_002598、NM_002607.4)およびPDGF−B(Genbank受入番号NP_002599、NM_002608)。PDGF−ABおよびPDGF−BBは、PDGF−AおよびPDGF−Bの配列のホモ二量体またはヘテロ二量体である。
【0078】
PDGFの作製は、(i)遺伝子工学による(例えば、RNAの逆転写および/またはDNAの増幅による)組換えDNAの作製、(ii)形質移入による(例えば、電気穿孔法またはマイクロインジェクションによる)、組換えDNAの、原核細胞または真核細胞中への導入、(iii)前記形質転換された細胞の培養(例えば、連続的またはバッチ式の様式で)、(iv)PDGFの発現(例えば、構成的に、または導入時に)、および(v)例えば陰イオン交換クロマトグラフィーまたはアフィニティークロマトグラフィーによる、精製されたPDGFを得るための前記PDGFの単離(例えば、培養培地から、または、形質転換された細胞の回収による)について当技術分野で公知の任意の方法を含んでもよい。
【0079】
PDGFは、薬理学上許容されるPDGF分子を生成する特徴を有する適当な原核または真核の宿主系中での発現により作製できる。一般に使用される宿主細胞としては、グラム陰性菌またはグラム陽性菌などの原核細胞、すなわち、任意の系統の、E.coli、バシラス属、放線菌属、サッカロミセス属、サルモネラ属などが挙げられる。真核細胞の例は、D.Mel−2、Sf4、Sf5、Sf9およびSf21ならびにHigh5などの昆虫細胞;植物細胞、ならびに、サッカロミセス属およびピキア属などの多様な酵母細胞;CHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞などの哺乳動物細胞;ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞;ヒト腎臓293細胞;COS−7細胞、HEK293、SK−HepおよびHepG2、ならびに、それ以外に当技術分野で公知のものである。本発明によるPDGFを作製または単離するために用いられる試薬または条件に何ら制限はなく、当技術分野で公知の、または市販の、任意のシステムを採用できる。本発明の好ましい一実施形態では、PDGFは、最新技術において記載されるような方法により得られる。
【0080】
PDGFの調製には多種多様なベクターが使用でき、こうしたベクターは、当技術分野で周知の真核および原核細胞用の発現ベクターから選択できる。原核細胞の発現用のベクターの例としては、pRSET、pET、pBADなどのプラスミドが非限定的に挙げられ、このとき原核細胞発現用のベクター中で使用されるプロモーターとしては、lac、trc、trp、recA、araBADなどが挙げられる。真核細胞発現用のベクターの例としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:(i)酵母菌中での発現用としては、ベクターはpAO、pPIC、pYES、pMETなど、使用するプロモーターはAOX1、GAP、GAL1、AUG1など;(ii)昆虫細胞中での発現用としては、ベクターはpMT、pAc5、pIB、pMIB、pBACなど、使用するプロモーターはPH、p10、MT、Ac5、OpIE2、gp64、polhなど、および(iii)哺乳動物細胞中での発現用としては、ベクターはpSVL、pCMV、pRc/RSV、pcDNA3、pBPVなど、および、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、レトロウイルスなどのウイルス系に由来するベクター、使用するプロモーターはCMV、SV40、EF−1、UbC、RSV、ADV、BPVおよびβアクチンなど。
【0081】
ポリペプチドをコードするDNAまたはRNAを含有する宿主細胞を、細胞の成長およびDNAまたはRNAの発現に適した条件下で培養する。ポリペプチドを発現するそうした細胞は公知の方法を用いて同定でき、組換えタンパク質は公知の方法を用いて単離および精製できるが、ポリペプチド生成物の増幅は行っても行わなくてもいずれでもよい。同定は、例えば、タンパク質をコードするDNAまたはRNAの存在を示す表現型を表す遺伝子組換え哺乳動物細胞のスクリーニング(PCRスクリーニングなど)、サザンブロット分析によるスクリーニングまたはタンパク質の発現のスクリーニングにより実施できる。タンパク質をコードするDNAを組み込んである細胞の選択は、選択可能なマーカーをDNA構築物中に含ませ、選択可能なマーカー遺伝子を含有する形質移入した、または感染させた細胞を、その選択可能なマーカー遺伝子を発現する細胞のみの生存に適した条件下で培養することにより達成できる。導入されたDNA構築物のさらなる増幅は、増幅に適した条件下で遺伝子組換え細胞を培養すること(例えば、増幅可能なマーカー遺伝子を含有する遺伝子組換え細胞を、その増幅可能なマーカー遺伝子の複数のコピーを含有する細胞のみが生存できる濃度の薬物の存在下で培養すること)により影響を及ぼすことができる。
【0082】
本発明の一実施形態では、フィブリンゲルから放出されたPDGFの生物学的活性をテストした。PDGFが添加されているゲルに由来する培地上清中の単層中で(すなわち、放出されたPDGF−BBを含有する培地中で)の培養後のヒト間葉系幹細胞(HMSC)の形態がより細長い形状に変化すること、および、細胞増殖量が増える傾向があることから、放出された成長因子は生物学的活性を有することが示唆された。
【0083】
試料中のタンパク質濃度を定量する方法。
【0084】
治療用タンパク質は、内因的に生成する、天然に存在するタンパク質とよく似ていることから、血清試料中での検出が難しい場合が多い。しかしながら、治療用タンパク質が、より高い可溶性または安定性、酵素消化への耐性、改善された生物学的半減期などの所望の特徴、およびそれ以外にも当業者に公知の特色を呈するかどうかを評価するために投与された、治療用のポリペプチド、その断片、変異体または類似体の量を定量することは有益な場合が多い。こうした方法を用いれば、知的所有権により保護されている可能性がある治療用タンパク質の使用許諾を確認することも可能である。
【0085】
本発明は、PDGFを含有するフィブリンゲルからのPDGFの放出を検出し、このタンパク質の放出動態を定量する方法を用いる。さまざまな濃度のFC成分を使用して作製されたフィブリンシーラントからのこうした放出動態の比較は、治療目的のための所望の放出速度を定量するのに役立つ。時間の経過に伴いフィブリンシーラントから放出されるタンパク質の量を同定できれば、半減期、吸収、安定性などに基づく最適な治療薬の定量の助けとなる。検出アッセイは、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、放射性免疫測定法(RIA)、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、表面プラズマ共鳴(SPR)、または当技術分野で公知の他の結合アッセイであってもよい。
【0086】
一般に、試料中でのPDGFの存在を検出するには、PDGFを、抗体、可溶性の受容体もしくは他のタンパク質などのPDGF結合剤、または、PDGFに結合する薬剤に結合させる。
【0087】
生物学的活性の検出ステップまたはテストのためには、PDGFタンパク質を、検出可能な部分または検出可能な標識に結合させてもよい。検出可能な部分または標識は、分光学的、光化学的、生化学的、免疫化学的または化学的な手段により検出可能な組成物を指す。検出可能な部分は、放射性、発色性または蛍光性のシグナルなど測定可能なシグナルを発することが多く、このシグナルを用いて、試料中の結合している検出可能な部分の量を定量化できる。検出可能な部分は、共有結合か、または、イオン結合、ファンデルワールス結合もしくは水素結合のいずれかにより、タンパク質中に組み込むか、またはタンパク質に結合できる(例えば、放射性ヌクレオチド、または、ストレプトアビジンにより認識されるビオチン標識ヌクレオチドの組込み)。検出可能な部分は、直接または間接的に検出可能なものであってもよい。間接的な検出は、第2の直接または間接的に検出可能な部分の、検出可能な部分への結合を含んでもよい。例えば、検出可能な部分は、ストレプトアビジンの結合相手であるビオチンなど、結合相手のリガンドであってもよい。結合相手は、それ自体が直接検出可能なものであってもよく、例えば、抗体を蛍光分子で標識してもよい。シグナルの方法定量化の選択は、例えば、シンチレーション計測法、濃度測定法またはフローサイトメトリーにより達成される。
【0088】
本発明のアッセイ法における使用に適した標識の例としては、以下が挙げられる:放射性標識、フルオロフォア、電子密度の高い試薬、酵素(例えば、ELISAにおいて一般に使用されるような)、ビオチン、ジゴキシゲニンまたはハプテン、ならびに、例えば、ハプテンまたはペプチド中に放射性標識を組み込むことにより検出可能にできる、または、ハプテンもしくはペプチドと特異的に反応する抗体を検出するために使用できるタンパク質。さらに、当該タンパク質に対する抗血清もしくはモノクローナル抗体が入手可能なタンパク質、または、標的と相補的な配列を有する核酸分子、ナノタグ、分子量ビーズ、磁気剤、蛍光色素を含有するナノビーズもしくはマイクロビーズ、量子ドット、量子ビーズ、蛍光タンパク質、蛍光標識を有するデンドリマー、マイクロトランスポンダー、電子ドナー分子もしくは分子構造または光反射粒子も企図される。
【0089】
本発明と共に使用することが企図される追加的な標識としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:蛍光色素(例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン、テキサスレッド、ローダミンなど)、放射性標識(例えば、H、125I、35S、14Cまたは32P)、酵素(例えば、西洋わさびペルオキシダーゼ、および、ELISAにおいて通常使用される他の酵素)、および、コロイド金、色付きのガラスまたはプラスチックのビーズなどの比色用の標識(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックスなど)、および発光標識または化学発光標識(例えば、ユーロピウム(Eu)、MSD Sulfo−Tag)。
【0090】
標識は、当技術分野で周知の方法によるアッセイの所望の成分に直接または間接的に結合させてもよい。特定の実施形態では、標識は、本発明による活性剤のコンジュゲーションのために、イソシアネートまたはN−ヒドロキシスクシンイミドエステルの試薬を用いて、成分に共有結合させる。本発明の一態様では、二官能性のイソシアネート試薬を用いて標識をバイオポリマーにコンジュゲートさせて、そこに結合される活性剤が結合していない状態の標識生体ポリマーコンジュゲートを形成する。この標識バイオポリマーコンジュゲートは、本発明による標識されたコンジュゲートの合成のための中間物質として使用してもよく、または、バイオポリマーコンジュゲートを検出するために使用してもよい。前述のように、多種多様な標識を使用でき、標識の選択は、必要な感応性、アッセイの所望の成分とのコンジュゲーションの容易さ、安定性の要件、使用可能な器具類および廃棄規定に応じて行う。非放射性標識は、間接的な手段により結合させることが多い。一般に、リガンド分子(例えばビオチン)を当該分子に共有結合させる。リガンドは、次に別の分子(例えばストレプトアビジン)分子に結合するが、こうした分子は、もともと検出可能であるもの、または、検出可能な酵素、蛍光化合物もしくは化学発光化合物などのシグナル系に共有結合するもののいずれかである。
【0091】
本発明の方法において有用な化合物は、例えば、酵素またはフルオロフォアとのコンジュゲーションにより、シグナルを発する化合物に直接コンジュゲートすることもできる。標識としての使用に適した酵素としては、加水分解酵素、とりわけホスファターゼ、エステラーゼおよびグリコシダーゼ、またはオキシドターゼ(oxidotase)、とりわけペルオキシダーゼが挙げられるが、これらに限定されない。標識としての使用に適した蛍光化合物としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:前に挙げたものの他、フルオレセイン誘導体、ローダミンおよびその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、エオシン、TRITCアミン、キニーネ、フルオレセインW、アクリジンイエロー、リサミンローダミン、Bスルホニルクロリドエリトロセイン(erythroscein)、ルテニウム(トリス、ビピリジニウム)、ユーロピウム、テキサスレッド、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、フラビンアデニンジヌクレオチドなど。標識としての使用に適した化学発光化合物としては、MSD Sulfa−TAG、ユーロピウム(Eu)、サマリウム(Sm)、ルシフェリンおよび2,3−ジヒドロフタルアジンジオン、例えば、ルミノールが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の方法において使用できる多様な標識系またはシグナル生成系の概説については、米国特許第4,391,904号を参照。
【0092】
標識を検出する手段は、当業者に周知であり、検出される標識の型により決まる。したがって、例えば、標識が放射性である場合、検出の手段としては、シンチレーションカウンター(例えば、放射性免疫測定法、シンチレーション近接アッセイ)(Pitasら、Drug Metab Dispos.、34巻、906〜12頁、2006年)が、または、オートラジオグラフィーの場合は写真フィルムが挙げられる。標識が蛍光標識である場合、そのような標識は、適切な光波長を有する蛍光色素を励起させ、その結果得られる蛍光を検出すること(例えば、ELISA、フローサイトメトリー、または当技術分野で公知の他の方法)により検出してもよい。蛍光は、電荷結合素子(CCD)または光電子倍増管などの電子検出装置の使用により、視覚的に検出してもよい。同様に、酵素標識は、当該酵素にとっての適切な基質を加え、その結果得られる反応産物を検出することにより検出してもよい。比色標識または化学発光標識は、標識に着いている色を観察することにより、簡単に検出できる。本発明の方法における使用に適した他の標識系および検出系は、当業者には容易に明らかとなろう。そのような標識されたモジュレーターおよびリガンドは、疾患または健康状態の診断において使用できる。
【0093】
この方法は、場合により少なくとも1つまたは複数の洗浄ステップを含むが、このステップでは、結合していないポリペプチドが原因のバックグラウンド測定値を減らすために、タンパク質の結合を測定する前に、結合しているPDGF組成物を洗浄する。ポリペプチド組成物のインキュベーション後およびPDGFの検出前のPDGFの洗浄は、適切な緩衝液プラス洗浄剤中で実施される。適切な洗浄剤としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルグルコシド、アルキルマルトシド、硫酸アルキル(ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)など)、NP−40、アルキルチオグルコシド、ベタイン、胆汁酸、CHAPシリーズ、ジギトニン、グルカミド、レシチン/リゾレシチン、TRITON−Xなどの非イオン性ポリオキシエチレンベースの洗浄剤、TWEEN(登録商標)20およびTWEEN(登録商標)80、BRIJ(登録商標)、GENAPOL(登録商標)およびTHESIT(登録商標)などのポリソルベート、四級アンモニウム化合物など。Current Protocols in Protein Science、付録1B、補遺11、1998年、John Wiley and Sons、Hoboken、NJも参照。適当な洗浄剤は、慣例的な実験法を用いて決定できる(Neugebauer, J.、A Guide to the Properties and Use of Detergents in Biology and Biochemistry、Calbiochem−Novabiochem Corp.、La Jolla、Calif.、1988年を参照)。
【0094】
フィブリンシーラントを投与する方法
本発明において有用なフィブリンシーラントは、当技術分野で周知の手法を用いて、例えば、所望の部位での注射または噴霧により、内視鏡により、スポンジ様の担体、予め形成されたシーラントまたは当技術分野で公知の他の方法を用いるなどにより、対象に投与することが企図される。一実施形態では、シーラントは、注射または噴霧して、in situでゲルを形成させる。
【0095】
これらのフィブリンシーラントは、当業者には明らかであろうが、in vivoでのPDGFの持続/制御放出から利益を得る、下記の状態を非限定的に含む対象に投与されることが企図される。一実施形態では、患者は、骨および軟骨、筋肉、付随する靭帯、および他の結合組織の疾患を非限定的に含む筋骨格疾患;筋肉、線維組織、脂肪、血管および滑膜組織を冒す障害を非限定的に含む軟部組織の疾患もしくは障害;または血管疾患に罹患している。
【0096】
一実施形態では、このフィブリンシーラントは、骨移植片の代替物として機能するので、同じ適応の多くにおいて施用でき、このような適応としては、脊椎固定ケージ、偽関節の不具合の治癒、骨の増強、骨折修復の加速、骨組織再構築および歯の再生が挙げられるが、これらに限定されない。加えて、別の実施形態では、このシーラントは、インプラント統合において使用できる。インプラント統合では、インプラントは、隣接する骨領域がインプラントの表面の中へ成長するように誘導して緩みおよび付随する他の問題を防止するフィブリンシーラントで覆うことができる。別の実施形態では、成長因子に富むマトリックスは、皮膚中の慢性創傷を治癒するために使用できる。
【0097】
骨または軟骨の追加的な障害または状態としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:変形性関節炎、骨粗鬆症、骨ジストロフィー、くる病、骨軟化症、マッキューン・オルブライト症候群、アルバース・シェーンベルグ病、パジェット病、関節リウマチ、変形性関節炎、軟骨損傷、人工関節周囲の骨溶解、骨形成不全症、転移性骨疾患、骨軟骨腫、骨形成、骨髄炎、骨症、大理石骨病、骨硬化症、多発性軟骨炎、関節軟骨傷害、軟骨石灰化症、軟骨形成不全、膝蓋軟骨軟化症、軟骨肉腫、肋軟骨炎、内軟骨腫、強剛母趾、半月板損傷、股関節唇損傷、離断性骨軟骨炎(ocd)、再発性多発性軟骨炎、または、骨もしくは軟骨の形成の刺激が有効な任意の状態。
【0098】
PDGFタンパク質を含むフィブリンシーラントは、血管新生および血管成長の増加が有効と考えられる血管の疾患または状態の治療にも有用であり、そのような疾患または状態としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:虚血/再灌流、心筋梗塞、うっ血性心不全、アテローム性硬化症、高血圧症、再狭窄、冠動脈疾患(CAD)、脳卒中、血管または心臓の石灰化、血栓症、末梢血管疾患、血管壁リモデリング、心室リモデリング、急速心室ペーシング、冠動脈微小塞栓症、圧過負荷、大動脈屈曲症、冠動脈結紮、血管性心疾患、弁膜疾患(石灰化が原因の弁膜変性、リウマチ性心疾患、心内膜炎または人工弁の合併症を非限定的に含む);狭心症、心不全、高血圧症、心房細動、心膜疾患(心膜液貯留および心膜炎を非限定的に含む);心筋症、心肥大または心血管性の発達障害。
【0099】
キット
キットも本発明の範囲内で企図される。典型的なキットは、FCおよびトロンビン成分を含むフィブリンシーラントを備えることができる。一実施形態では、このキットは、フィブリンシーラント中に組み込むためのPDGFタンパク質をさらに備える。一態様では、各成分は、それ自体用の別々の保存容器、バイアルまたは入れ物の中に入っていてもよい。関連する一態様では、PDGFはFC成分との混合物の形態であってもよく、トロンビン成分は別の保存容器に入っていてもよい。関連する一態様では、PDGFはトロンビン成分との混合物の形態であってもよく、FC成分は別の保存容器に入っていてもよい。関連する一実施形態では、保存容器は、バイアル、瓶、袋、貯蔵容器、管、ブリスター、小袋、パッチなどである。この製剤の構成物の1つまたは複数は、凍結乾燥された、フリーズドライ加工された、スプレーフリーズドライ加工された、または他の任意の再構成可能な形態をしていてもよい。必要に応じ、多様な再構成用媒体がさらに備えられていてもよい。
【0100】
このキットの成分は、冷凍、液体または凍結乾燥された形態のいずれかをしていてもよい。このキットには、フィブリンゲルを対象に投与するための適当な器具が入っていることがさらに企図される。さらなる一実施形態では、このキットには、フィブリンシーラントを調製および投与するための取扱説明書も入っている。
【0101】
本発明の追加的な態様および詳細は、以下の実施例から明らかになると考えられるが、この実施例は、限定ではなく例証であることを意図したものである。
【実施例】
【0102】
(実施例1)
材料および方法
放出動態:
組換え(rh)−PDGF(R&D Systems)の濃度が放出動態に及ぼす効果を、フィブリンシーラント(TISSEEL VH S/D、S/Dは、安全性を高めるために追加で行われるウイルス不活性化ステップである;Baxter AG、Vienna、オーストリア)の単一製剤([FC]=20mg/mlおよび[トロンビン]=2IU/ml)を用いて分析した。異なる量の組換えヒトPDGF−ABまたはBBを分析した(0.3mlのゲルについて5ng、10ng、20ng、40ngおよび80ng)。ゲル調製時点でPDGFをFC成分中で再懸濁させた。
【0103】
FC濃度が、フィブリンのFC成分中で最初に再懸濁させたPDGF−ABおよびPDGF−BB(ゲル0.3ml当たり15ngで固定)の放出動態に及ぼす効果を分析した。5〜40mg/ml(ゲル中の最終濃度)の異なる濃度のFCと固定濃度のトロンビン(2IU/ml)とを用いて、フィブリンゲル(TISSEEL VH S/D)の4つの異なる製剤を調製した。
【0104】
PDGF−ABおよびBB(ゲル0.3ml当たり15ngで固定、すなわち、ゲル1ml当たり50ng)の放出動態を、単一のゲル製剤(ゲル中の最終濃度は、[FC]=20mg/mlおよび[トロンビン]=2IU/ml)を用いて、TISSEEL VH S/Dの3つの異なるフィブリンシーラントの製品ロットについて比較して、フィブリンシーラントの製品ロットによる放出動態のばらつきを分析した。
【0105】
TISSEEL VHからのPDGF−BBの放出動態(PDGF−BB濃度の効果、FC濃度の効果およびフィブリンシーラントの製品ロットによるばらつき)を分析して、TISSEEL VHおよびTISSEEL VH S/Dを用いた場合の潜在的な差を観察した。
【0106】
TISSEEL VH S/Dを用いた全ての実験用には、ポリプロピレンのエッペンドルフ管中でゲルを調製し、TISSEEL VHを用いた実験用には、24ウェルのポリスチレン製培養プレート中でゲルを調製した。全ての場合において、ゲルは、標準的なヒトMSC(HMSC)成長培地(Lonza Walkersville Inc.、Walkersville、MD)を用い、5%CO中にて37℃で10日間までインキュベートした。培養培地は毎日交換し、培養培地試料は、ELISA(R&D Systems、Minneapolis、MN)によりPDGFの量についてテストするまで冷凍した。FC濃度の効果およびTISSEEL VH S/Dについてのロット間の変動を評価する実験用には、ゲルは完全培地中のウロキナーゼ(1U/ml)を用いて10日の放出後溶解させた。その結果得られた溶液中のPDGFの量を、ゲル中に最初に加えた成長因子の量の完全な回復を検証するためにテストした。
【0107】
生物学的活性:
放出されたPDGFがHMSC単層に及ぼす効果:
TISSEEL VH S/D(ゲル中の最終濃度は、FCが20mg/ml、トロンビンが2IU/ml)の1つのフィブリン製剤を用いて、ゲルから放出されたPDGFの生物学的活性を分析した(PDGF−AB 120ngおよびPDGF−BB 60ngをFC成分中に加えてから重合させて、PDGFが添加されているゲルとした)。HMSC単層用の培養培地としては、3日目にゲルから回収した培地の上清(培地は毎日交換していない)を使用した。まず、HMSCを12ウェルの培養プレート中に2500細胞/cmで予め播種し(10,000細胞/ウェル)、5%CO中にて37℃で4から5時間インキュベートして、付着させた。次に、細胞培養培地を取り除き、代わりにゲル由来の培地上清を入れた。対照試料用に、PDGFが添加されていないゲルをいくつか調製したが、これは、PDGFが添加されているゲル由来の培地で変化が観察される場合、その変化は、放出されたPDGFにより実際に誘導されたものであってゲル自体から放出された可能性のある他の何らかの潜在的な生物活性成分によるものではないことを保証するためであった。rh−PDGFを30ng(15ng/ml)加えて新しく調製した培地の入ったウェルを、陽性対照として使用した。陽性対照のためのPDGF30ngの添加は、実験用に使用する製剤でゲル中にPDGF−AB 120ngまたはPDGF−BB 60ngを加えた場合に3日目にゲルから放出されることが見出されたPDGFのおよその量を基準にしたので、この添加により、今回テストした条件、すなわち、放出されたPDGF−ABまたはPDGF−BBを含有する、3日目のゲル由来の培地上清が厳密に再現されるはずである。
【0108】
細胞増殖および細胞形態変化の分析:1日目、4日目および7日目に、細胞の増殖量および形態変化を分析した。細胞培養培地を捨て、カルセインAMおよびエチジウムホモ二量体−1を含有する生/死判定用の色素溶液(Sigma−Aldrich Inc.、St.Louis、MO)で細胞を染色した。添加されたPDGFを含有するゲル由来の培地上清でインキュベートした細胞の増殖量を、添加されたPDGFを含有しないゲル由来の上清でインキュベートした細胞の増殖量、および、PDGF30ngを加えて新しく調製した培地でインキュベートした細胞(陽性対照)の増殖量と比較した。Multi−Well Plate Reader(Gemini、Molecular Devices、Sunnyvale、CA)を用いて50分の染色後の蛍光強度を測定することにより、細胞増殖量をモニターした。増殖量を読み取った後、プレートを基本培地で一度洗浄して残留染料を除去してから、デジタル画像取得システム(画像記録用のSpot Software V.2.1.を備えたSpotデジタルカメラ、Nikon)を搭載した倒立蛍光顕微鏡(Nikon Eclipse TE200、Nikon Instruments Inc.、Melville、NY)を用いて細胞の形態変化を観察した。
【0109】
細胞分化(軟骨形成および骨形成)の分析:フィブリンゲルから放出されたPDGFの存在下におけるHMSCの軟骨形成または骨形成の分化の可能性を分析するために、培養の1日後、4日後および7日後にアルシアンブルー(軟骨形成用)またはアリザリンレッド(骨形成用)で細胞を染色した。PDGFが添加されているゲル由来の培地でインキュベートした細胞の染色強度を、PDGFが添加されていないゲル由来の培地でインキュベートした細胞のもの、および、PDGF30ngを加えて新しく調製した培地でインキュベートした細胞(陽性対照)と比較した。
【0110】
アルシアンブルー染色については、細胞をリン酸緩衝液(PBS)(Invitrogen Corporation、San Diego、CA)で2回すすぎ、パラホルムアルデヒド(Sigma Aldrich Inc.)で10分間固定させてから、0.1N HCl中の1%アルシアンブルー(Sigma Aldrich Inc.)で30分間染色した。細胞をPBSで5回(各2分)すすいでから、デジタル画像取得システム(前述の、画像記録用のSpot Software V.2.1.を備えたSpotデジタルカメラ、Nikon)搭載の倒立光学顕微鏡(Nikon Eclipse TE200)下で観察した。アリザリンレッド染色については、細胞をまずPBSで2回すすぎ、氷冷の70%エタノール中で10分間固定させてから、PBS中の2%アリザリンレッド(Sigma Aldrich Inc.)で30分間染色した。次に、細胞をPBSで5回(各2分)すすいでから、前述の倒立光学顕微鏡を用いて観察した。
【0111】
アリザリンレッドによる染色に加え、培養の1日後、4日後および7日後、初期の骨形成分化のマーカーとして、アルカリホスファターゼ(ALP)活性を測定した。12ウェルの培養プレートに入れた細胞をHBSS(Lonza Walkersville,Inc.)で2回洗浄してから、数分間トリプシン処理して細胞を取り出した。次に、懸濁液中の細胞をエッペンドルフ管中に移し、ウェルを基本培養培地0.5mlで洗浄してから、対応するエッペンドルフ管中に移した。次に、細胞を5分間遠心分離してから、NaHCOを含有するタイロードの塩溶液(Sigma Aldrich, Inc.)0.5mlで一度洗浄した。上清を捨て、細胞のペレットをAMP緩衝液+MgCl(Sigma Aldrich,Inc.)50μl中で再懸濁させてから96ウェルのプレート中に移した。管をAMP緩衝液+MgCl 25μlで洗浄し、これを96ウェルのプレートの対応するウェル中に移した。96ウェルのプレートの3つのウェルにAMP緩衝液+MgCl 75μlを加え、ブランクとした。最後に、p−NPP(リン酸p−ニトロフェニル、Sigma Aldrich,Inc.)ストック基質溶液75μlを各ウェル中に加えてから、プレートを37℃で30分間置いた。形成されたp−ニトロフェノール生成物の405nmでの吸光度(ALP活性と比例する)を、Micro Plate Reader(Thermomax、Molecular Devices Corp.)を用いて30分時点で分析した。結果(最初はIU/Lとして測定した)を、増殖量について正規化した。
【0112】
PDGF−BBが、フィブリンゲル中に播種されたHMSCに及ぼす効果:
フィブリンゲル中に加えたPDGF−BBが、フィブリンゲル中に播種されたHMSCおよびゲル表面上に播種されたヒト臍帯血管内皮細胞(HUVEC、Lonza Walkersville,Inc.)の挙動に及ぼす生物学的効果を分析するために、単一の培養細胞(HMSCまたはHUVEC)またはHMSC:HUVEC比が4:1の共培養細胞を用いて、10mg/mlのFCおよび2IU/mlのトロンビン(ゲル中の最終濃度)を含有するTISSEEL VH S/Dゲルを調製した。PDGF−BBが添加されているゲルおよび添加されていないゲルにおける細胞の挙動を比較するために、ゲルの調製時点で、共培養ゲルの半分においてFC中にPDGF−BB(ゲル0.3ml当たり60ng)を加えた。24ウェルの培養プレート中で調製したゲルを、添加用血清を含有する内皮細胞成長培地(1ml/ゲル)を用いて、5%CO中にて37℃で最長21日間インキュベートした。1日目、7日目、14日目および21日目に、細胞の形態および増殖ならびに骨形成分化の分析を実施した。カルセイン色素で染色した後、蛍光顕微鏡により、相互接続した細胞−細胞ネットワークへのHUVECの再構築などの、細胞の形態(血管新生分化の初期事象)を観察した。カルセイン色素で染色した後、精製したウシのトリプシン濃縮溶液中でゲルを溶解させた後の細胞懸濁液の全体的な蛍光強度を測定することにより、細胞増殖を分析した。最後に、精製したウシのトリプシン濃縮溶液中でのゲル溶解に続き細胞を再懸濁させた後で、骨形成分化の初期マーカーとしてALPを測定した(前述のプロトコール)。
【0113】
表面プラズモン共鳴によるPDGFの結合:
表面プラズモン共鳴(SPR)は、リアルタイムでの2分子間相互作用を測定する手法である。この分析は、特定の分析対象物が所与のリガンドに結合する場合に定量でき、リガンドに結合する分析対象物の結合親和性および化学量を定量するものである。基本的な実験的アプローチは、まず、金めっきを施したチップをリガンドと合わせることである。次に、緩衝液(移動相)中で調製した分析対象物をフローセル中に注入するが、そこでは分析対象物は、緩衝液の流れにより、コーティングされたチップ全体に担持される。分析対象物とリガンドとの間で2分子間相互作用が生じると、表面での質量が局部的に増加する結果、金属表面上の屈折率単位(μRIU)が増加する。(μRIU)の変化は、時間の関数としてグラフ化できる。
【0114】
本試験では、組換えヒトPDGF−ABおよび組換えヒトPDGF−BBを分析対象物として使用し、TISSEEL VH S/DのFC成分をリガンドとして使用した。緩衝液としては、リン酸緩衝液(PBS、すなわち生理食塩状態の溶液)を使用した。異なる濃度のPDGFアイソフォームそれぞれを、FCでコーティングしたセンサーチップの表面上に、離して流した。各実験について、および各濃度について、結合速度および解離速度を測定した。
【0115】
統計分析:
放出動態は3回行った。増殖、ALP活性、アルシアンブルーおよびアリザリン染色についての結果は、3セットの実験を代表するものである。増殖およびALP活性は3回、染色実験は2回行った。各PDGFの濃度についてのSPR分析は3回行った。有意水準を5%としたANOVA検定を用いて統計分析を実施した。
【0116】
(実施例2)
PDGFの濃度がTISSEEL VH S/Dからのその放出動態に及ぼす効果
PDGFの濃度がフィブリンゲルからのその放出動態に及ぼす効果を、TISSEEL VH S/Dで作製された単一のフィブリンゲル製剤(ゲル中の最終濃度は、FC濃度が20mg/ml、トロンビン濃度が2IU/ml)を用いて分析した。放出動態試験から、PDGF−ABおよびBBの放出量は、TISSEEL VH S/DのFC成分に最初に加えた成長因子の量に従って増加することが示された(図1および2)。
【0117】
全体的に見ると、累積放出量の結果から、10日後では、最初に加えたPDGF−ABの約20%から35%が放出されただけであることが示された(図1)。わずか3日後のPDGF−ABの累積放出量を見ると、PDGF−ABの累積放出率はおよそ8〜13%であった。言い換えれば、この結果から、10日目では約65〜80%、3日目では約87〜92%が保持されていることが示された。
【0118】
PDGF−BBを用いた場合の結果は同じ傾向をたどったが、より高い総放出率を示し、10日後で約45%から70%が放出されていた(図2)。わずか3日後のPDGF−BBの累積放出量を見ると、累積放出率は、およそ20〜35%であった。
【0119】
この結果から、PDGF−ABおよびBBの両方ともフィブリンと強い結合相互作用を有することが示唆される。
【0120】
(実施例3)
FC濃度がTISSEEL VH S/DからのPDGFの放出動態に及ぼす効果
TISSEEL VH S/Dのフィブリンシーラントを使用した場合にFC濃度がPDGFの放出動態に及ぼす効果を定量するために、固定されたトロンビン濃度(2IU/ml)を有するゲルを用いて、4つの異なるFC濃度(ゲル中の最終濃度は5、10、20および40mg/ml)のTISSEEL VH S/Dについて放出量を分析した。
【0121】
ELISAの結果から、1日目でスパイク放出が生じること、および、分析した全ての濃度のFCについて10日目まで放出量が減少することが示された(図3A)。ゲル中にPDGF−ABを15ng加えた場合、FC濃度(5から40mg/ml)は、放出動態に顕著には影響しなかった。累積放出量は、最初の量(15ng)のおよそ27%から32%が10日後で放出されており(図3B)、3日後ではわずか10%から20%であったことを示した。言い換えれば、保持率は10日後では約70%、わずか3日後では最大80〜90%であり、FC濃度には影響されなかったが、このことは、5mg/mlのFCは15ngのPDGF−ABを結合するのに十分であったことを示唆するものである。
【0122】
しかしながら、PDGF−BBの場合の結果からは、FC濃度が総放出率(%)に及ぼす効果が示された(図4)。事実、TISSEEL VH S/DからのPDGF−BBの累積放出率は、10日目の時点では、FC濃度が低いほど高かった(FCが5mg/mlの場合は約65%、40mg/mlの場合は25%)。さらに、3日目の累積放出量の分析から、FC濃度への依存が示され、FCが5mg/mlの場合はおよそ35%放出され、FCが40mg/mlの場合は10%放出された。言い換えれば、この結果から、10日後では最低保持率は約35%(FCが5mg/mlの場合)、最高保持率は約75%(FCが40mg/mlの場合)、3日後では最低保持率は約65%、最高では約90%であることが示された。放出動態がFC濃度に依存することから、FC濃度を変化させることによりPDGF−BBの制御放出が可能であることが示唆される。
【0123】
ゲル中に残っているPDGF−ABを回復させるためにゲルを溶解させた後のELISAの結果から、最初に加えた量の少なくとも85%のPDGF−ABが回復したことが示された。ゲル中に残っているPDGF−BBを回復させるためにゲルを溶解させた後のELISAの結果から、最初に加えた量の65%から75%のPDGF−BBが回復したことが示された。回復はPDGF−BBについては完全でなかったことから、PDGF−BBの放出率(%)は、わずかに過小評価されている可能性がある。
【0124】
(実施例4)
異なる製品ロットのTISSEEL VH S/Dを使用する効果
TISSEEL VH S/Dに由来する異なるFC製品ロットを単一のゲル製剤(ゲル中の最終濃度は、FCが20mg/ml、トロンビンが2IU/ml)で使用する効果を調べると、結果は、分析した全てのロットについて、10日目まで放出量が一定であることを示した。10日後のPDGF−ABの累積放出率は、FCのロットにより約23%から32%の範囲であり(図5)、したがって、3つのロットについては同程度であった。10日後のPDGF−BBの累積放出率は、FCのロットにより約38%から42%の範囲であり(図6)、したがって、3つのロットについては同程度であった。
【0125】
この結果は、フィブリンのロット間でのPDGF放出量には有意差がなく、したがって、放出動態におけるロット間の変動についてはほとんど気にする必要がないことを示すものである。
【0126】
ゲル中に残っているPDGF−ABを回復するためにゲルを溶解させた後のELISAの結果から、最初に加えた量のPDGF−ABが完全に回復したことが示された。ゲル中に残っているPDGF−BBを回復するためにゲルを溶解させた後のELISAの結果から、最初に加えた量の約65%のPDGF−BBが回復したことが示された。回復はPDGF−BBについては完全でなかったことから、PDGF−BBについての総放出率(%)は、わずかに過小評価されている可能性がある。
【0127】
(実施例5)
TISSEEL VHからのPDGF−BBの放出動態
TISSEEL VHからのPDGF−BBの放出動態を分析して、TISSEEL VHおよびTISSEEL VH S/Dを使用した場合の潜在的な差を観察した。
【0128】
PDGF−BBの濃度がTISSEEL VHからの放出動態に及ぼす効果を測定した。結果から、放出される量は、FC成分に最初に加える成長因子の量に従って増加することが示された(図7)。全体的に見ると、累積放出の結果から、10日後では、最初に加えたPDGF−BBの約20%から40%のみが放出される、すなわち、TISSEEL VH S/Dを使用した場合に観察される放出率の約2倍低いことが示された。わずか3日後では、結果は、約15〜20%のPDGF−BBが累積放出されたことを示した。しかしながら、TISSEEL VHを用いた実験はポリスチレンプレートを用いて行われており、PDGFはポリスチレンプレートに非特異的に結合する可能性があることから、これらの値は過小評価されている(TISSEEL VH S/Dの場合のポリプロピレン管と比較して)可能性があることに留意すべきである。この過小評価の可能性を確認するために10日間の放出実験の終了時点でゲル中に残っている成長因子の回復を測定することはしなかった。
【0129】
FC濃度がTISSEEL VHからの1日のPDGF−BB放出量に及ぼす影響を調べると、ELISAの結果から、1日目でスパイク放出が生じること、および、分析した全ての濃度について10日目まで放出量が減少することが示された(図8A)。さらに、結果からは、TISSEEL VHゲル中にPDGF−BBを15ng加えた場合、FC濃度(5から40mg/ml)は放出動態に影響しないことが示され、累積放出量から、10日後には最初に加えた量(15ng)の約30%から35%が放出されることが示された(図8B)。この結果は、TISSEEL VHに由来する5mg/mlのFCは15ngのPDGF−BBを結合するのに十分であったことを示唆するものである。しかしながら、PDGF−BB濃度の効果についての結果に関しては、TISSEEL VHについてのこれらの値は、ポリスチレンプレートを使用しているため、過小評価されている可能性があることに留意すべきである。
【0130】
最後に、TISSEEL VHに由来する異なるFC製品ロットを単一のゲル製剤(ゲル中の最終濃度は、FCが20mg/ml、トロンビンが2IU/ml)で使用する効果を調べると、結果は、分析した全てのロットについて10日目まで放出量が一定であることを示した。10日後のPDGF−BBの累積放出率は、約30%から60%の範囲であり(図9)、したがってFCのロット番号に依存しており、このことは、TISSEEL VH S/Dの場合に見出された結果とは反対であった。分析したTISSEEL VHの3つのロット間の違いの1つは、第XIII因子の含有量であり(ロット1については無視できる量、ロット2については33.9U/ml、ロット3については42.2IU/ml)、このことから、第XIII因子の量とTISSEEL VHからのPDGF−BBの放出速度との間に相関がある可能性があることが示唆される。
【0131】
(実施例6)
放出されたPDGFがin vitroでHMSC単層に及ぼす生物学的活性
ヒト間葉系幹細胞(HMSC)は、軟骨細胞、骨芽細胞、脂肪細胞および筋細胞などの異なる特化した組織細胞型に分化できる多能性前駆細胞である(Caplan AI、J Orthop Res、9巻、641〜650頁、1991年)。これらの細胞の関与および分化は、細胞の相互作用だけでなく特異的な成長因子などさまざまな要因により変わる。PDGFファミリーに属するものは、MSC成熟の制御因子として同定されている。
【0132】
放出された成長因子がHMSCに及ぼす効果を測定した。材料および方法の項で述べたように、3日目(培地は毎日交換していない)に培地上清をフィブリンゲルから回収して(PDGF−AB 120ngおよびPDGF−BB 60ngをFC成分中に加えてから重合させて、PDGFが添加されているゲルとした)、HMSC単層用の培養培地として使用した。対照試料用に、PDGFが添加されていないゲルをいくつか調製したが、これは、PDGFが添加されているゲル由来の培地で変化が観察される場合、その変化は、放出されたPDGFにより実際に誘導されたものであってゲル自体から放出された可能性のある他の何らかの潜在的な生物活性成分によるものではないことを保証するためであった。
【0133】
PDGF−ABまたはPDGF−BBが添加されているTISSEEL VH S/Dゲル由来の培地の上清、すなわち、放出されたPDGFを含有する培地(20mg/mlのFC、2IU/mlのトロンビンを用いて最初に調製したゲル)で培養されたHMSCは、早くも4日目に細胞形態の変化を示し、7日目にはさらにより顕著になった。それらは、PDGFが添加されていないゲル由来の培地上清で培養したものより細長い形状を有しており、新しく添加されたPDGFを含有する培地で培養されたものとのほうが類似していた。効果は、PDGF−BBの場合のほうがさらに顕著であった。
【0134】
4日目および7日目時点での細胞増殖量を、1日目(ベースライン)時点での増殖量に正規化した。PDGFが添加されているTISSEEL VH S/Dゲル由来の培地上清(すなわち、放出されたPDGFを含有する培地)で7日間培養した場合は、HMSC増殖量は増える傾向があったが、その差は有意ではなかった(p>0.05)(図10および11)。新しく添加されたPDGFを有する培地で培養した細胞の増殖量のほうが、有意に多かった。
【0135】
PDGFが添加されているTISSEEL VH S/Dゲル由来の上清で培養したHMSC中でのアルカリホスファターゼ(ALP)活性は、PDGFを添加されていないTISSEEL VH S/Dゲル由来の上清で培養したHMSC中、および、新しく添加されたPDGFを含有する培地で培養したHMSC中でのものより有意に低かった(図12および13)。
【0136】
アルシアンブルー(軟骨形成分化の指標)およびアリザリンレッド(後の骨形成分化の指標)は両方とも、7日までの全ての時点において芳しくなかった。
【0137】
全般に、TISSEEL VH S/Dフィブリンゲルから放出されたPDGFの存在下でのHMSC挙動の観察された変化は全て、PDGF−BBの場合のほうが、より顕著であった。全体的に見ると、結果は、TISSEEL VH S/Dフィブリンゲルから放出されたPDGFは、依然として生物学的活性を有し、HMSCの形態変化およびALP活性の阻害を主に誘導することを示した。
【0138】
(実施例7)
PDGF−BBが、フィブリンゲル内部に播種されたHMSCおよびフィブリンゲルの表面上に播種されたHUVECに及ぼす効果
PDGFが、フィブリンゲル中に播種されたHMSCおよびゲルの表面上に播種されたヒト臍帯血管内皮細胞(HUVEC、Lonza Walkersville Inc.)の挙動に及ぼす効果を分析するために、材料および方法に記載の要領で、細胞を含むゲルを調製した。
【0139】
手短に言えば、単一の培養細胞(HMSCまたはHUVEC)またはHMSC:HUVEC比が4:1の共培養細胞を用いて、10mg/mlのFCと2IU/mlのトロンビン(ゲル中の最終濃度)とを含有するゲルを調製した。組換えPDGF−BB(ゲル0.3ml当たり60ng)を、ゲルの調製時点で、共培養ゲルの半分においてFC中に加えた。添加用血清を含有する内皮細胞成長用の培養培地(Lonza Walkersville Inc.)を用いて、ゲルを5%CO中にて37℃で最長21日間インキュベートした。1日目、7日目、14日目および21日目に細胞の形態および増殖量ならびに骨形成分化の分析を実施した。
【0140】
蛍光顕微鏡分析からは、単一の培養ゲル中に播種した場合のほうが、時間の経過に伴い、HMSCは、均等に分散し、数が多く、また、より細長い形状を有したことが示された。HMSCは、PDGF−BBが添加された共培養ゲル中でも均等に分散し細長くなったが、こちらのほうがサイズは小さく数が少なく、さらに、PDGF−BBが添加されていない共培養ゲルの底に向かって遊走する傾向があった。相互接続した細胞−細胞ネットワークへのHUVECの再構築(血管新生の初期事象)は、PDGF−BBが添加されていない共培養ゲルと比較して、単一の培養ゲル中および添加されたPDGF−BBを含有する共培養ゲル中におけるほうがより早く開始し、生じる程度はより大きかった。
【0141】
細胞増殖量は、時間の経過に伴って増加した。PDGF−BBが添加されているゲルと添加されていないゲルとの間で有意差は観察されなかったが、添加されたPDGF−BBを含有するゲル中でのほうが、7日目および14日目に増殖量が多い傾向が認められた。ALP活性は低レベルのままであったが、これは、ゲル中に添加されたPDGF−BBはゲル中に播種されたHMSCの骨形成分化を誘導しなかったことを示唆するものである。
【0142】
(実施例8)
表面プラズモン共鳴(SPR)によるPDGFの結合
SPRを用いて、PDGF−ABおよびPDGF−BBとTISSEEL VH S/DのFC成分との間の相互作用を特徴付けた。この相互作用のセンサーグラムを図14A〜14Bに示す。曲線の結合および解離部分をプロットし、非線形回帰分析を用いて、それぞれ1相の指数関数の結合・解離曲線に当てはめた(図14C)。図14Bが示すように、PDGF−BBについての解離曲線は2相である。このため、PDGF−BBとTISSEEL VH S/DのFC成分との間の相互作用についてのK値の正確な定量は不可能であった。しかしながら、SPRは、PDGF−ABのTISSEEL VH S/DのFC成分との相互作用についてのK値を計算するためには首尾よく用いられた(緩衝液(PBS、pH7.4)の存在下で)。センサーグラムの結合相の分析により速度定数(Kobs)が得られ、これを分析対象物の濃度に対してプロットした(図14C)。このプロットを線形回帰により分析して勾配および切片を得たが、これらはそれぞれ、結合速度(Kon)定数、解離速度(Koff)定数に相当する。解離速度定数を結合速度定数で割ることにより、平衡解離定数(K)を計算した。
【0143】
平衡解離定数(K)は、結合センサーグラムの解離相に頼った補足的な方法によっても定量した。この方法では、PDGF−ABについての解離速度定数(Koff)を、センサーグラムの解離相の非線形回帰分析から計算した。解離速度定数(Koff)を結合速度定数(Kon)(これらの定数は、センサーグラムの結合相の分析から得た)で割ることにより、解離平衡定数(K)を測定した。
【0144】
いずれの方法を使用した場合も、TISSEEL VH S/DのFC成分に結合するPDGF−ABについてのK値は、342±41nMであった。
【0145】
まとめ
前述のようにして測定した放出動態から、フィブリンゲル中に加えた組換えPDGFはゲルから徐々に放出されることが示されたが、このことは、PDGFがフィブリン(フィブリノーゲン)と結合相互作用することを示唆するものである。この結合相互作用は、10日後の累積放出量が、最初に加えたPDGFの量より少なかったことによりさらに確認された。PDGF−BBは、PDGF−ABより速く放出されるようであり(PDGF−BBの保持率のほうが低い)、FC濃度は、TISSEEL VH S/DフィブリンゲルからのPDGF−BB放出速度に影響するようであったが、このことから、さまざまなFC濃度を用いればPDGF−BBの放出速度を制御できるであろうということが示唆される。全体的に見ると、これらの結果から、この2つの型のPDGFとフィブリンとの結合相互作用(特にPDGF−AB)が示唆される。SPRを用いると、結果は、PDGF−ABおよびPDGF−BBは両方ともTISSEELのFC成分に結合することを示した。最後に、生物学的活性の結果から、放出されたPDGFは依然として生物学的活性を有し、HMSCの形態変化を主に誘導するが、骨形成および/または軟骨形成の分化は誘導しないことが実証された。
【0146】
結論として、本試験から、フィブリンゲルは生物活性を有するPDGFを送達するための有望な担体系であることが示唆され、また、PDGF−ABおよびBBを結合させる、TISSEELフィブリンシーラントのFC成分に内在する特性が実証された。
【0147】
前述の例証的な実施例に記載したような本発明の多数の改変および変形が、当業者には思い浮かぶと考えられる。したがって、添付の特許請求の範囲中に記載されるとおりの制限のみが、本発明について設けられるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PDGF−ABおよびPDGF−BBから成る群から選択される血小板由来成長因子(PDGF)タンパク質の、フィブリノーゲン複合体(FC)成分、トロンビン成分およびPDGF成分の混合により作製されるフィブリンシーラントからの放出を加減する方法であって、
a)公知の初期量のPDGFと公知の最終濃度のFCとを有する第1のフィブリンシーラントから放出されるPDGFの量を定量するステップと、
b)ステップ(a)の前記第1のフィブリンシーラント中で使用されるFCの前記公知の最終濃度を加減して、第2のフィブリンシーラントを作製するステップであって、前記第2のシーラント中のFCの濃度を前記第1のシーラント中のFCの前記公知の最終濃度と比較して高くすることにより、前記第2のシーラントからのPDGFの放出速度がステップ(a)の前記第1のシーラントからのPDGFの放出と比較して減少し、そして、前記第2のシーラントは、ステップ(a)における前記第1のシーラントと同じ初期量のPDGFを有する、ステップと
を含む方法。
【請求項2】
PDGF−ABおよびPDGF−BBから成る群から選択される血小板由来成長因子(PDGF)タンパク質の、FC成分、トロンビン成分およびPDGF成分の混合により作製されるフィブリンシーラントからの放出を加減する方法であって、
a)公知の初期量のPDGFと公知の最終濃度のFCとを有する第1のフィブリンシーラントから放出されるPDGFの量を定量するステップと、
b)ステップ(a)の前記第1のフィブリンシーラント中で使用されるFCの前記公知の最終濃度を加減して、第2のフィブリンシーラントを作製するステップであって、前記第2のシーラント中のFCの濃度を前記第1のシーラント中のFCの前記公知の最終濃度と比較して低くすることにより、前記第2のシーラントからのPDGFの放出速度がステップ(a)の前記第1のシーラントからのPDGFの放出と比較して増加し、そして、前記第2のシーラントは、ステップ(a)における前記第1のシーラントと同じ初期量のPDGFを有する、ステップと
を含む方法。
【請求項3】
前記第1または第2のシーラント中の最終のFC濃度が約1mg/mlから約150mg/mlの範囲内である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1または第2のシーラント中のFC濃度が約5mg/mlから約75mg/mlの範囲内である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1のフィブリンシーラント中の最終のFC濃度が、前記第2のシーラント中の最終のFC濃度と約1mg/mlから約149mg/ml異なる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記第1のフィブリンシーラント中の最終のFC濃度が、前記第2のシーラント中のFC濃度と約5mg/mlから約75mg/ml異なる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のフィブリンシーラント中の最終のFC濃度が、前記第2のシーラント中のFC濃度と約10mg/mlから約60mg/ml異なる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記第1または第2のシーラント中のトロンビン成分の最終濃度が約1IU/mlから250IU/mlの範囲内である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項9】
PDGFの最終濃度が約1ng/mlから約1mg/mlの範囲内である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項10】
PDGF−ABおよびPDGF−BBから成る群から選択される血小板由来成長因子(PDGF)タンパク質の制御放出を必要とする患者において前記タンパク質を制御放出する方法であって、前記患者に、PDGFを含むフィブリンシーラントを投与するステップを含み、前記PDGFの少なくとも25%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも3日間保持される、方法。
【請求項11】
前記フィブリンシーラントが、FC成分とトロンビン成分とを合わせて混合物にすることにより作製される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記PDGFが、前記FC成分を前記トロンビン成分と混合する前に前記FC成分に加えられる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記PDGFの少なくとも35%から90%が少なくとも3日間保持される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項14】
前記PDGFの少なくとも45%から75%が、前記フィブリンシーラント中で少なくとも3日間保持される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項15】
前記PDGFの少なくとも60%が、前記フィブリンシーラント中で少なくとも3日間保持される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項16】
放出された前記PDGFが生物学的に活性である、請求項10または11に記載の方法。
【請求項17】
PDGF−ABおよびPDGF−BBから成る群から選択される血小板由来成長因子(PDGF)タンパク質の制御放出を必要とする患者において前記タンパク質を制御放出する方法であって、前記患者に、PDGFを含むフィブリンシーラントを投与するステップを含み、前記PDGFの少なくとも20%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも10日間保持される、方法。
【請求項18】
前記フィブリンシーラントが、フィブリノーゲン複合体(FC)成分とトロンビン成分とを合わせて混合物にすることにより作製される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記PDGFが、前記FC成分を前記トロンビン成分と混合する前に前記FC成分に加えられる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記PDGFの少なくとも25%から75%が少なくとも10日間保持される、請求項17または18に記載の方法。
【請求項21】
前記PDGFの少なくとも45%から55%が、前記フィブリンシーラント中で少なくとも10日間保持される、請求項17または18に記載の方法。
【請求項22】
放出された前記PDGFが生物学的に活性である、請求項17または18に記載の方法。
【請求項23】
前記シーラント中の最終のフィブリノーゲン複合体濃度が約1mg/mlから約150mg/mlの範囲内である、請求項11または18に記載の方法。
【請求項24】
前記シーラント中の最終のトロンビン濃度が約1IU/mlから250IU/mlの範囲内である、請求項11または18に記載の方法。
【請求項25】
最終のフィブリノーゲン複合体濃度が40mg/mlであり、最終のトロンビン濃度が約2IU/mlである、請求項11または18に記載の方法。
【請求項26】
前記シーラント中の最終のPDGF濃度が約1ng/mlから約1mg/mlである、請求項10または17に記載の方法。
【請求項27】
前記PDGFがPDGF−ABである、請求項10または17に記載の方法。
【請求項28】
前記PDGF−ABの少なくとも60%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも3日間保持され、前記PDGF−ABの少なくとも40%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも10日間保持される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記PDGFがPDGF−BBである、請求項10または17に記載の方法。
【請求項30】
前記PDGF−BBの少なくとも55%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも3日間保持され、前記PDGF−BBの少なくとも25%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも10日間保持される、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記患者が、筋骨格の疾患または障害、軟部組織の疾患または障害および心血管疾患から成る群から選択される疾患に罹患している、請求項10または17に記載の方法。
【請求項32】
前記筋骨格の障害が骨疾患または骨障害である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記患者が心血管疾患に罹患している、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
PDGF−ABおよびPDGF−BBから成る群から選択される血小板由来成長因子(PDGF)タンパク質のin situでの制御放出から利益を得る障害または疾患に罹患している患者を治療する方法であって、前記患者に、前記PDGFタンパク質を含むフィブリンシーラント投与するステップを含み、
前記フィブリンシーラントは、前記PDGFの少なくとも25%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも3日間保持され、または前記PDGFの少なくとも20%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも10日間保持される前記PDGFの制御放出をもたらし、前記PDGFが、前記障害または疾患を治療するのに有効な速度で放出される、方法。
【請求項35】
前記フィブリンシーラントが、フィブリノーゲン複合体(FC)成分とトロンビン成分とを合わせて混合物にすることにより作製される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記PDGFが、前記FC成分を前記トロンビン成分と混合する前に前記FC成分に加えられる、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記PDGFの少なくとも35%から90%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも3日間保持される、請求項34または35に記載の方法。
【請求項38】
前記PDGFの少なくとも45%から75%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも3日間保持される、請求項34または35に記載の方法。
【請求項39】
前記PDGFの少なくとも60%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも3日間保持される、請求項34または35に記載の方法。
【請求項40】
前記PDGFの少なくとも20%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも10日間保持される、請求項34または35に記載の方法。
【請求項41】
前記PDGFの少なくとも25%から75%が少なくとも10日間保持される、請求項34または35に記載の方法。
【請求項42】
前記PDGFの少なくとも45%から55%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも10日間保持される、請求項34または35に記載の方法。
【請求項43】
放出された前記PDGFが生物学的に活性である、請求項34または35に記載の方法。
【請求項44】
前記シーラント中の最終のFC濃度が約1mg/mlから約150mg/mlの範囲内である、請求項34に記載の方法。
【請求項45】
前記シーラント中の最終のトロンビン濃度が約1IU/mlから250IU/mlの範囲内である、請求項34に記載の方法。
【請求項46】
最終のフィブリノーゲン複合体濃度が約40mg/mlであり、最終のトロンビン濃度が約2IU/mlである、請求項34に記載の方法。
【請求項47】
前記シーラント中の最終のPDGF濃度が約1ng/mlから約1mg/mlである、請求項34に記載の方法。
【請求項48】
前記PDGFがPDGF−ABである、請求項34に記載の方法。
【請求項49】
前記PDGF−ABの少なくとも80%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも3日間保持され、前記PDGF−ABの少なくとも60%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも10日間保持される、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
前記PDGFがPDGF−BBである、請求項34に記載の方法。
【請求項51】
前記PDGF−BBの少なくとも55%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも3日間保持され、前記PDGF−BBの少なくとも25%が前記フィブリンシーラント中で少なくとも10日間保持される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記患者が、筋骨格の疾患または障害、軟部組織障害および心血管疾患から成る群から選択される疾患に罹患している、請求項34に記載の方法。
【請求項53】
前記筋骨格の障害が骨疾患または骨障害である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記患者が血管疾患に罹患している、請求項52に記載の方法。
【請求項55】
PDGF−ABおよびPDGF−BBから成る群から選択される血小板由来成長因子(PDGF)タンパク質を含むフィブリンシーラントを調製するためのキットであって、前記フィブリンシーラントは所望のPDGF放出速度を有し、前記キットは、
a)場合によりPDGF成分を含む、フィブリノーゲン複合体成分を含有する第1のバイアルまたは第1の保存容器と、b)トロンビン成分を有する第2のバイアルまたは第2の保存容器とを備え、前記第1のバイアルまたは第1の保存容器がPDGF成分を含まない場合にはPDGF成分を有する第3のバイアルまたは第3の保存容器を場合により含有し、前記キットの使用のための取扱説明書をさらに含有するキット。
【請求項56】
PDGF−ABおよびPDGF−BBから成る群から選択される血小板由来成長因子(PDGF)タンパク質むフィブリンシーラントを調製するためのキットであって、前記フィブリンシーラントは所望のPDGF放出速度を有し、前記キットは、
a)フィブリノーゲン複合体成分を含有する第1のバイアルまたは第1の保存容器と、b)場合によりPDGF成分を含む、トロンビン成分を有する第2のバイアルまたは第2の保存容器とを備え、前記第2のバイアルまたは第2の保存容器にPDGF成分を含まない場合にはPDGF成分を有する第3のバイアルまたは第3の保存容器を場合により含有し、前記キットの使用のための取扱説明書をさらに含有するキット。
【請求項57】
血小板由来成長因子(PDGF)タンパク質のin situでの制御放出から利益を得る障害または疾患に罹患している患者の治療のための医薬の製造における、PDGF−ABおよびPDGF−BBから成る群から選択される血小板由来成長因子(PDGF)タンパク質を含むフィブリンシーラントの使用であって、前記フィブリンシーラントは所望のPDGF放出速度を有する、使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2010−530882(P2010−530882A)
【公表日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513419(P2010−513419)
【出願日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際出願番号】PCT/US2008/067562
【国際公開番号】WO2008/157733
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(591013229)バクスター・インターナショナル・インコーポレイテッド (448)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER INTERNATIONAL INCORP0RATED
【出願人】(501453189)バクスター・ヘルスケヤー・ソシエテ・アノニム (289)
【氏名又は名称原語表記】BAXTER HEALTHCARE S.A.
【Fターム(参考)】