説明

PET検査および放射線療法用のI−124βCIT:ヨウ素−124[2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)トロパン]の化学合成

本発明は、PET検査に用いるための、新規な分子であるI−124ベータCIT:ヨウ素124[2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)トロパン]およびその合成方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PET検査に用いるための、新しい分子であるI-124βCIT ヨウ素-124[2β-カルボメトキシ-3β-(4-ヨードフェニル)]トロパン、及びその合成法に関する。
【背景技術】
【0002】
PET(ポジトロン断層法)は、それによって様々な疾患についての早期診断パラメータを得る目的で、検査すべき様々な器官の代謝を研究することができる診断方法である。ここ数年、この方法の使用は、主に腫瘍学分野で、米国において非常に広く行われるようになり、PET診断センターは欧州全体に現在増えつつある。この分野では、PET技術は2つの臨床パラメータ、すなわち、早期診断及び治療最適化を導入し、これが患者の平均余命を変え、患者の疾患の管理を改善している。
【0003】
その他の分野の用途がますます重要になってきており、その中には、神経学、心臓学、及びリウマチがある。寿命が継続して長くなっている時代において、PETの役割は、老化病理学、例えば、パーキンソン病及びアルツハイマー病などを研究する分野ばかりでなく、急性心臓事象の発生(現在の主な死因の一つ)の早期診断をそれによって行うことができる分子の研究においても、疑いなく大きな重要性を担っている。
【0004】
PET分析は、患者に放射性医薬を注入し、次に、ポジトロン放射トモグラフィー装置とよばれる特殊な機械によって、ヒトの体内においてこの放射性医薬の分配をすることによって行われる。
【0005】
この放射性医薬は2つの必須部分、すなわち、放射性同位元素(これはβ線を放射する)と、この放射性同位元素と結合し且つPET診断の代謝基質を構成する分子とから構成される。放射性同位元素は、サイクロトロンとよばれる装置によって作り出され、それらは特殊な化学合成法によって、検査される分子に結合される。
【0006】
今日最も一般的に用いられている同位元素は18-Fであり、これは約2時間の半減期をもち、液体形態で様々な分子に容易に結合されることを可能にするという化学的性質をもっている。
【0007】
18-フルオロ-デオキシグルコース(FDG)は、今日最も一般的に用いられ且つ研究されている分子であり、以下の文献にみることができる。
【化1A】

【化1B】

【化1C】

【0008】
18-フルオロ-デオキシグルコース(FDC)分子は、体内において、通常の代謝水準と比較して増大したグルコース消費を示す部位、したがっておそらくはガン性の部位の特定を可能にする。
【0009】
この用途から浮かび上がる限界は、起こりうる感染部位と腫瘍部位とを区別することにおける不十分な特異性である。これとの関連では、その他の分子、例えば、フルオロコリンを用いて試験が行われており、フルオロコリンは、特に特定の形態の腫瘍、例えば、前立腺、肺、及び脳腫瘍に関して診断特異性を増大させる。これは以下の文献に見ることができる。
【0010】
【化2A】

【化2B】

【化2C】

【化2D】

【0011】
PET診断の分野における大きな開発の別の分野は、治療効果を最適化するように設計された放射線治療処置計画の開発に関する分野である。これとの関連では、研究はこの分野における開発の様々な段階にあり、FDGの実証された有用性から同位体銅-64、特に64Cu-ATSM分子を用いた最近の試験にまで及ぶ。これらは以下の文献にみることができる。
【0012】
【化3A】

【化3B】

【0013】
この分子は、腫瘍塊内での酸素の分布のマップ(map)を得ることを可能にし、それによって、干渉領域を縮小するための可能性に関してと、酸素を示さず、したがって放射線治療に応答しそうにない領域の排除の可能性に関してとの両方で、治療計画が修正されうる。
【0014】
この種の試験は、18-フルオロでマーキングした分子、例えば、F-MISOを用いたものも存在する。これらは、以下の文献に見ることができる。
【0015】
【化4A】

【化4B】

【0016】
しかし、銅-64の特性、特に、約12時間の半減期によって、銅-64は、この分野において大きな見込みのある興味ある放射性同位元素となっている。
【0017】
ヨウ素-124 (124I)は、多くの文献の主題である(以下)。
【0018】
【化5A】

【化5B】

【0019】
ヨウ素-124 (124I)は、不安定な同位体であり、これは天然に存在せず、4.2日に等しい半減期をもつ。ヨウ素-124(124I)は、以下の核反応: 99.8%より高い同位体純度をもつ124TeOから、14〜10MeVの範囲の陽子エネルギーを用いて124Te(p,n)124Iを得る反応、によって生成される。この核反応は、高純度の124Iを生み出す一方で、125I及び126Iの量は0.01%よりも少ない。
【0020】
したがって、124Iは理想的な同位体であり、ポジトロン放射トモグラフィー(PET)のための核医薬中の放射性トレーサーとして用いられている。
放射性同位体ヨウ素-124(124I)を生成させるために、本発明者は18MeV IBAサイクロトロンと、Cu64及びヨウ素124製造のため専用の固体ターゲット(COSTIS)を用いる。
【0021】
この方法は、白金板(標的保持板)上の、濃縮酸化テルル(Te(124)O2)である酸化テルル200mgの塊に、18μAの電流で約8時間プロトンを照射することを含む。
【0022】
照射後の収量は40〜50 mCiのヨウ素-124(124I)であり、ビームのエネルギーの断面積は14MeVである。さらに、固体ターゲットの照射において、プロトンビームが完全に中心に合わせられていることが重要である。このことを確実にするためには、その形状を知ることが不可欠である。これはオートラジオグラフ(サイクロン)のための特別のスキャナーによって検出され、これはリンのフィルム中で前もって照射されたアルミニウム板の画像を記録する。
【0023】
ターゲットのために用いられる保持板は、24mmの直径と12mmの円形の空洞をもつ白金板であり、これが良好な伝導性と腐食に対する高い耐性を保証する。
【0024】
同位体濃縮した酸化テルル(124TeO2)と酸化アルミニウム(Al2O3)の混合物(250 mg w/5%)を用いた。アルミニウムは、結晶性のガラス質マトリクスのバインダーとして機能する。
【0025】
この混合物を753℃で溶融し、再固化させる(調製の時間=2時間)。この全てを石英炉で行う。
【0026】
ターゲットは高い照射電流に対して可能な限り安定でなければならず、それは蒸気電圧が顕著な値になった場合に、TeO2のいかなる損失も最小限にするためである。
【0027】
ターゲットが準備できたら照射を開始する。同じディスクに数回の照射を行ってもよい。
【0028】
124I放射性ヨウ素同位体合成のPET走査システム制御のためのTERIMO-Automatic 124/123I ヨウ素同位体合成モジュールを使用して行う熱蒸留法によって、ターゲットディスク(124TeO2/アルミナ)のマトリクスからヨウ素-124(124I)を分離する。
【0029】
システム制御は、PLC、温度調節装置、空気流量調節装置、及びScadaシステムに基づくものであり、制御及びデータ取得の目的で使用される。
【0030】
ヨウ素-124(124I)回収時間は約1時間であり、混合物を753℃で溶融し、124I2は気体の形態で放出され、これをNaOH 0.1Nの超純粋溶液中にバブリングする。124I2は、NaI(95%のヨウ化ナトリウム)、ヨウ素酸ナトリウムNaIO3、及び過ヨウ素酸塩NaIO4の形態で、NaOHの溶液中に捕捉される。
【0031】
全化学工程は、グローブボックス中に配置された合成モジュール内で行う。この合成モジュールは、主な特徴が品質及び有効性である製品を保証するcGMPガイドラインに準拠しているため、生成物の無菌性及びその品質が保証される。
【0032】
工程の最後でNa124Iが得られ、そのままで放射性トレーサーとして直接投与するか、あるいは新しい放射性医薬の合成のための放射性マーカーとして用いることができる。
【0033】
この124Iの放射性核純度は、ヨウ素-125 [125I]、ヨウ素-126 [126I]、ヨウ素-130 [130I]、及びヨウ素-131 [131I]の存在を検出するためのゲルマニウムγ線スペクトロメーターによって調整される。これらの不純物は0.1%より少なくなければならない。
【0034】
エネルギーピークを測定するには、この放射性核種の純度は99.5%より高くなければならない。
【0035】
Na124Iの形態のヨウ素124(124I)がPET分析のために用いられる。その長い半減期(4.18日)が、多段階の放射線化学合成の開発と、短い半減期をもつトレーサー、例えば11C及び18F4を用いて検出できなかった遅い生化学過程の検出との両方を可能にする。特に、甲状腺亢進症及び甲状腺腫瘍の治療に用いられる、131Iを用いた治療の状態をチェックするために、放射免疫測定診断及び放射免疫治療において、線量指示薬としてのヨウ素124(124I)の使用が特に示唆される。
【0036】
ヨウ素131(131I)は、それらが装置によって検出されることができないほど高いエネルギーレベルを有する。そのため、それはPET研究のために用いることができない。この理由により、ヨウ素131(131I)は、放射免疫治療時に(ヨウ素-124)[124I]とともに用いられる。これにより、PET画像化を通じて、治療の進行を追跡することが可能になる。
【0037】
124Iは比較的複雑な崩壊パターンをもつ陽電子放射体であり、その崩壊のわずか22%しか陽電子に差し向けられないという事実を考えると、PET画像研究には適さないと最初は考えられた。
【0038】
1996年に、Pentlowは、124Iが少数の陽電子しか放出しないとしても、甲状腺疾患の典型的特徴である比較的低いバックグラウンド活性によって囲まれた腫瘍の特定のためには、それでもなお適していることを実証した。
【0039】
今日では、それゆえ、ヨウ素を用いた放射線治療は、良性及び悪性の甲状腺疾患の治療において、一般に受け入れられた診療である。線量測定は、治療用量のヨウ素131(131I)及び診断用量の124Iの同時経口投与の約1〜13日後に得られたPETデータから導かれる。
【0040】
試験手順は、より正確には、526〜1.237 MBqのヨウ素131(131I)の治療用量とともに、30〜40 MBqの(ヨウ素124)124Iを投与することからなる。次に、投与後5日目〜13日目に、4又は5回のPETスキャンを行う。
【0041】
最初のPET分析は投与後24時間に行い、取得パラメータは視野に対して10〜15分の放射と、2〜3分の伝播である。
【0042】
したがって、(ヨウ素124)124Iを用いるPET分析は、それによって甲状腺腫瘍の治療におけるヨウ素の動態を研究することができる好適な手法であることが分かる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0043】
【非特許文献1】Eur. J. Nucl. Med. (2002) 29:760-767
【非特許文献2】Eur. J. Nucl. Med. (2006) 33:1247-1248
【非特許文献3】Eur. Radiol. (2004) 14:2092-2098
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0044】
現在用いられている診断的適用、すなわちSPECT法を用いるヨウ素123に対して、核医薬におけるヨウ素124は、その使用から得られる2つの主な利点を有する。
1.基礎核レベルでのトレーサーの分布を定量的に明確にすることができる可能性。これは、SPECTにおいては、ヨウ素-123を用いる半定量的なやり方でのみ行うことができる。
2.基礎核内のトレーサーの変種を長期間、最高で4日までの期間、追跡することができる可能性。薬理学的試験も行うことができ、効果を評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明は、新しい分子である、I-124βCIT ヨウ素-124[2β-カルボメトキシ-3β-(4-ヨードフェニル)トロパン]及びその合成法に関する。ヨウ素124βCIT ヨウ素-124[2β-カルボメトキシ-3β-(4-ヨードフェニル)トロパン]を用いるおかげで、線状体の活性と関連したシナプス前診断を(薬理学的試験を行うことができる可能性とともに)定量的なやり方で、且つ、ヨウ素123βCIT、ヨウ素123βCIT、ヨウ素124[2β-カルボメトキシ-3β-(4-ヨードフェニル)トロパン]と比較してより低いコストで行うことができる。言い換えれば、顕著な質の向上がより低いコストで得られる。
【実施例】
【0046】
[詳細な説明]
拡散障壁を用いて閉じた1 mlの瓶に、不活性雰囲気下で、以下のものを以下の順に添加した。NaOH 0.05Nの溶液500μl中の5 mCiのNa124I;3分間超音波をあてて150μlのエタノール中に溶かした50μgのトリアルキルスタンニル前駆体([2β-カルボメトキシ-3β-(4-トリブチルスタンニルフェニル)トロパン]、又は[2β-カルボメトキシ-3β-(4-トリメチルスタンニルフェニル)トロパン]);50μlのH3PO4 0.5 N;100μlの32%の過酢酸を2.4 mlの水に溶かして使用時に調製した50μlのCH3CO3H 0.02 M。不活性雰囲気下、常温で30分後、10 mgのNaHSO3を1 mlに溶かすことによって調製したNaHSO3溶液 100μlを添加した。5分間待った後、NaHCO3飽和溶液500 mlを添加し、それを1 ml/分の流量をもつC18 Sep-Pak Lightカートリッジ(注入物質のために、5 mlのエタノールと5 mlの水で予備調整したもの)に移した。C18 Sep-Pak Lightカートリッジを20 mlの滅菌水(4 ml/分)で洗い、50%のエタノール/滅菌水の溶液7 ml(流量:1 ml/分)で生成物を溶出させ、その後、生成物を0.22 μmの滅菌フィルターを通し、生理食塩水で希釈した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
I−124βCIT ヨウ素124[2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)トロパン]分子であって、その2つの構成部分の合成が、PET技術を用いる「インビボ」の診断治療に好適である、分子。
【請求項2】
常温での反応によって、アルキルスズ基がヨウ素124で置換されることを特徴とする、請求項1に記載のI−124βCIT ヨウ素124[2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)トロパン]分子。
【請求項3】
常温での反応によって、アルキルスズ基をヨウ素124で置換する、I−124βCIT ヨウ素124[2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)トロパン]の製造方法。
【請求項4】
下記構造:
【化1】

を有するヨウ素124[2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)トロパン]分子。
【請求項5】
下記構造:
【化1】

を有するヨウ素124[2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)トロパン]の合成方法。

【公表番号】特表2011−500518(P2011−500518A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528291(P2010−528291)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【国際出願番号】PCT/EP2008/008272
【国際公開番号】WO2009/046897
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(510100210)
【Fターム(参考)】