説明

PMV推定装置およびそのプログラム

【課題】実態に見合ったPMVを正確に推定することができるPMV推定装置を提供する。
【解決手段】実施形態のPMV推定装置は、室内の平均輻射温度と、室内の温度と、室内の湿度と、室内の気流速度と、在室者の着衣量と、在室者の活動量と、からPMV(Predicted Mean Vote)値を算出する装置である。この装置において、室内に入射する日射量を算出する室内日射量算出手段と、室内日射量算出手段により算出された室内日射量を用いて室内に入射した日射を受ける被日射物品の温度を推定する被日射物品温度推定手段と、被日射物品温度推定手段により推定された被日射物品の温度を用いて室内の平均輻射温度を推定する平均輻射温度推定手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、人間の温冷感の定量的指標であるPMVを推定するPMV推定装置およびそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、温室効果ガスの排出量低減に向けて、ビルや家庭などの需要家における省エネの推進が求められている。さらに、昨今の大震災による影響を受けて、電力需給の逼迫により一段と進んだ省エネ(節電)対策が求められるなど、需要家における省エネの推進は益々重要となってきている。
【0003】
近年では、電力の供給側と需要家側との間に通信環境を整備することにより実現される次世代の電力系統(スマートグリッドと称される)において、需要家の電力消費量を抑制する「デマンドレスポンス」の導入も論じられている。将来的には電力需給の調整、系統安定化などの電力利用の全体最適を目的とした需要家側の省エネは、より身近なものになると考えられる。
【0004】
このように一段と進んだ需要家側の省エネを実現するためには、需要家の室内などにおける環境を正確に把握する必要がある。例えば、室内の温湿度等の環境を維持する空調関連機器のエネルギー消費量は、オフィスビルにおいては建物全体の4割程度を占めるとされている。もし過剰な冷暖房状態を把握し、適正化できれば、大幅な省エネ効果を得られる可能性がある。
【0005】
ところで、国際標準ISO7730で標準的温(冷)熱指標として採用されている、PMV(Predicted Mean Vote:予測平均申告)と呼ばれる、環境との間に生じる不平衡熱量を求めて、人の温冷感と対応させた指標がある。このPMVを空調の制御指標として活用し、快適性の向上とあわせて、過剰冷房・暖房の排除による省エネを目指した空調制御手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4461064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術においては、窓から室内に入る日射を遮るブラインドなどの日射を直接受ける被日射物品における温度変化の影響が考慮されていない。そのため、従来手法により推定されたPMVは、実際の環境の状態とは乖離している可能性があり、これを空調等の制御指標に活用した場合、想定した室内の空調環境や省エネ効果が得られない恐れがあった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、実態に見合ったPMVを正確に推定することができるPMV推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態のPMV推定装置は、室内の平均輻射温度と、室内の温度と、室内の湿度と、室内の気流速度と、在室者の着衣量と、在室者の活動量と、からPMV(Predicted Mean Vote)値を算出する装置である。この装置において、室内に入射する日射量を算出する室内日射量算出手段と、室内日射量算出手段により算出された室内日射量を用いて室内に入射した日射を受ける被日射物品の温度を推定する被日射物品温度推定手段と、被日射物品温度推定手段により推定された被日射物品の温度を用いて室内の平均輻射温度を推定する平均輻射温度推定手段とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、第1の実施形態のPMV推定装置の機能ブロック図である。
【図2】図2は、第1の実施形態のPMV推定装置の動作フロー図である。
【図3】図3は、第1の実施形態のPMV推定装置により推定された平均輻射温度の分布を表す図である。
【図4】図4は、第2の実施形態のPMV推定装置の機能ブロック図である。
【図5】図5は、第2の実施形態のPMV推定装置の動作フロー図である。
【図6】図6は、第3の実施形態のPMV推定装置の機能ブロック図である。
【図7】図7は、第3の実施形態のPMV推定装置において、PV出力比率と雲量の関係(3月、西東京の例)を表す図である。
【図8】図8は、第4の実施形態のPMV推定装置の機能ブロック図である。
【図9】図9は、第4の実施形態のPMV推定装置の動作フロー図である。
【図10】図10は、第5の実施形態のPMV推定装置の機能ブロック図である。
【図11】図11は、第5の実施形態のPMV推定装置の動作フロー図である。
【図12】図12は、第1〜第5の実施形態に共通するPMV推定装置のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施形態]
PMVを推定するには、人体側の要素として活動量と着衣量、環境側の要素として温度と湿度、平均輻射温度、気流速度、以上の6要素を把握する必要がある。ここで平均輻射温度とは、実際の不均一な輻射場において、在室者が周囲環境と輻射熱交換を行うのと同量の輻射熱交換を行うような、均一温度の仮想閉鎖空間の表面温度であり、在室者の周囲にある壁や天井などの表面温度を用いて算出される。本実施形態では、PMVの推定を、以下の構成を有するPMV推定装置により行う。
【0012】
(第1の実施形態のPMV推定装置の構成)
図1は、第1の実施形態にかかるPMV推定装置の機能ブロック図である。
【0013】
PMV推定装置1は、窓(あるいは窓ガラス)を通して室内に入射する日射量を算出する室内日射量算出部10と、室内日射量算出部10により得られた室内日射量によるブラインドやドレープ等の被日射物品の温度を推定する被日射物品温度推定部11と、被日射物品温度推定部11により得られた被日射物品温度と、被日射物品を除くその他の壁面、天井、床面温度を用いて平均輻射温度を推定する平均輻射温度推定部12と、平均輻射温度推定部12により得られた平均輻射温度と、測定または設定された室内温湿度、気流速度、着衣量、および活動量からPMVを推定するPMV演算部13とにより構成される。なお、以下では、日射は、窓ガラスを通して室内に入射するものとして説明する。また、被日射物品としては、主にブラインドやドレープ等の窓側(窓近傍)に設置される物品を想定するが、これに限るものではない。
【0014】
(PMV推定装置各部の動作)
次に、各部の動作の詳細を、図2のフロー図を参照して説明する。なお、図2の左側に記載されているのは、一連のPMV推定にて必要となる入力パラメータであり、同図右側の括弧内に記述されているのは建物固有の設定パラメータである。
【0015】
室内日射量算出部10では、図2に示すS1からS4までの一連の演算が実行される。まずステップ1(S1)として現在の月m、日d、時刻tiをもとに太陽位置の算出を行う。太陽位置は例えば以下の式(1)、(2)に示すような太陽高度h[deg.]と太陽方位角A[deg.]にて定義される。
【0016】
【数1】

【0017】
【数2】

【0018】
上式にて、φ:計算場所の緯度[deg.]、δ:日赤緯[deg.]、t:時角[deg.]である。日赤緯δは、年間通日(1月1日を1,12月31日を365)の関数として表わされ、現在の月m、日dから計算できる。また、時角tは、現在時刻ti、均時差(年間通日の関数であり、現在の月m、日dから計算できる)、計算場所の経度、中央標準時の基準経度から算出される(日赤緯および時角については、例えば、「空気調和・衛生工学便覧 II 空調設備篇」、改訂11版、空気調和・衛生工学会、p.68を参照)。このようにして求まった太陽位置を用いて、太陽入射角i[deg.]を以下の式(3)にて計算する(S2)。なお、下式において、θ:計算面(窓面)の水平面からの傾斜角[deg.]、α:壁面方位角[deg.]である。
【0019】
【数3】

【0020】
次にステップ3(S3)として、上記の太陽入射角iを用いて計算面における直達日射量I[kcal/m2・h]、天空日射量I[kcal/m2・h]を導出する。
【0021】
【数4】

【0022】
【数5】

【0023】
ここでIは太陽乗数(大気圏外の直達日射量)、Iskyは水平面天空日射量、Pは大気透過率である。Iskyは、以下の式(6)を用いて算出できる。
【0024】
【数6】

【0025】
次にステップ4(S4)として室内日射量Igr[kcal/m2・h]を以下の式(7)にて算出する。
【0026】
【数7】

【0027】
上式において、CI:標準ガラスの入射角別の透過率比であり、太陽入射角iの関数として与えられる(入射角i=0[deg.]のときが1)。また、C:天空日射に対する垂直入射時の透過率比であり、τ:ガラスの垂直入射時の日射透過率である。以上の演算により、窓ガラスを介して室内に透過する室内日射量が演算できる。
【0028】
次に被日射物品温度推定部11ではS5からS7までの一連の動作が実行される。
【0029】
まずステップ5(S5)としてブラインドやドレープ等の被日射物品温度:Tbr[℃]を仮決めし、次いでステップ6(S6)として対流、放射による被日射物品の放熱量を計算する。対流による放熱量Q[kcal/m2]は、垂直平板における自然対流熱伝達を想定すると、以下の式(8)のように計算できる。
【0030】
【数8】

【0031】
上式においてNu:平均ヌッセルト数であり、これは、被日射物品温度(加熱体温度)Tbr[℃]、室内温度T[℃]、被日射物品の高さHbr[m]などから与えられる(ヌッセルト数については、例えば、「空気調和・衛生工学便覧 I 基礎篇」、改訂11版、空気調和・衛生工学会、p.171を参照)。また、λ:熱伝導率[kcal/(m・k)]であり、これは、室内温度Tの関数として与えられる(熱伝導率については、例えば、「電熱工学資料」、改訂第3版、日本機械学会、p.300を参照)。一方、放射による放熱量Q[kcal/m2]は、例えば以下の式(9)により算出する。ここでσ:シュテファン・ボルツマン定数[W/(m2・K4)]で、εbr:被日射物品の放射率(吸収率)である。
【0032】
【数9】

【0033】
以上より、ステップ7(S7)として被日射物品の熱収支式(ヒートバランス)が、以下の式(10)のように定式化できる。
【0034】
【数10】

【0035】
この式(10)を満たす被日射物品温度Tbr[℃]を繰り返し演算することで、ブラインドやドレープ等の被日射物品温度を推定できる。
【0036】
以上により推定された被日射物品温度Tbrを用いて、平均輻射温度推定部12にて、PMV推定地点の平均輻射温度Trad[℃]を導出する。dΩbr:PMV推定地点から見た被日射物品が占める立体角[sr]、dΩ:PMV推定地点から見た被日射物品を除くその他の室内各面(壁面、天井面、および床面)が占める立体角[sr]として、T:その他の室内各面の温度[℃]とすると、平均輻射温度Trad[℃]は以下の式(11)により算出できる(S8)。
【0037】
【数11】

【0038】
最後にPMV演算部13では、推定された平均輻射温度Trad[℃]、計測または設定された室内の温度T[℃]、湿度H[%]、気流速度V[m/s]、在室者の着衣量C[clo]、活動量M[met]を用いて、公知のPMV計算式またはこれらの回帰式などを用いて現在のPMVを推定する(S9)。
【0039】
このようにして推定された室内の平均輻射温度の算出結果例を図3に示す。図3より、被日射物品に近い場所では平均輻射温度が高く、被日射物品からの距離(部屋の奥行)が大きくなるに従って、徐々に平均輻射温度が減少していく様子がわかる。つまり、上記による算出結果は、日射により加熱されたブラインドやドレープ等の被日射物品温度の影響が考慮された平均輻射温度の分布となっていることがわかる。このように、本実施形態のPMV推定装置によれば、室内に入る日射により加熱される被日射物品の影響を考慮して平均輻射温度を推定できる。また、PMV推定地点から見た被日射物品やその他の室内各面に応じた立体角を用いて平均輻射温度を導出することで、窓際の被日射物品の影響を考慮した室内任意位置のPMVを正確に推定できるようになる。また、実態に見合ったPMVを少ないセンサ数で正確に推定することができる。
【0040】
[第2の実施形態]
第2の実施形態のPMV推定装置は、時々刻々変動する日射量を検知し、この日射量に応じて被日射物品の温度を演算し平均輻射温度を推定することで、天候等の変動に応じたPMVを正確に推定できるようにしたものである。本実施形態では、PMVの推定を、以下の構成を有するPMV推定装置により行う。
【0041】
(第2の実施形態のPMV推定装置の構成)
図4は、第2の実施形態にかかるPMV推定装置の機能ブロック図である。同図において、図1に示した前述の第1の実施形態のPMV推定装置と同一のものについては同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0042】
本実施形態のPMV推定装置2では、日射量を検知する日射量検知手段としての日射量検知装置14と、この日射量検知装置14により検知された日射量から雲量を推定することで、天候に応じた日射遮蔽状態を模擬する雲量推定部15とを有する。
【0043】
(第2の実施形態のPMV推定装置の動作)
次に、本実施形態のPMV推定装置の動作を、図5のフロー図を参照して説明する。なお、図5の左側に記載されているのは、一連のPMV推定にて必要となる入力パラメータであり、同図右側の括弧内に記述されているのは準固定的な設定パラメータである。前述した第1の実施形態の動作フローである図2と異なる箇所は、ステップ3−(2)(S3−(2))、ステップ3−(3)(S3−(3))のみである。
【0044】
ステップ3(S3)では、太陽入射角iを用いて直達日射量I[kcal/m2・h]、天空日射量I[kcal/m2・h]を導出する(式(4)および式(5)を参照)。しかし、時々刻々と変化する天候によって、日射量は大きく変動する。この主だった要因として、雲による日射の遮蔽、温湿度の変化による大気透過率の変化が挙げられる。そこで、上記の天候により減少する日射量を推定するための補正係数である雲量CCを導入する。これを受けて、ステップ3−(2)(S3−(2))では雲量推定部15により、天候により異なる雲量を推定する。ここでは雲量CCとして、0〜10までの間で任意の値をとる無次元量とした。この天候を考慮した直達日射量Idc[kcal/m2・h]および天空日射量Isc[kcal/m2・h]を、以下の式(12)、(13)にて表現する。
【0045】
【数12】

【0046】
【数13】

【0047】
ここで、日射量検知装置14として屋上に水平設置された日射量計を想定すると、θ=0[deg.]ならびにこのときの太陽入射角i[deg.]を式(3)より求めて式(12)、(13)に代入し、例えば以下の式(14)を満たすCCの値を導出することで雲量を推定できる。
【0048】
【数14】

【0049】
なお、上式(12)、(13)においてcoef_CCは雲量の影響度合いのパラメータであり、状況に応じて任意の値に設定できるものとする。上記のように推定された雲量CCを用いて、ステップ3−(3)(S3−(3))として、式(12)および(13)により、被日射物品が設置された各窓面における天候を考慮した直達日射量Idc[kcal/m2・h]および天空日射量Isc[kcal/m2・h]を求める。以降における動作は、第1の実施形態の動作フローである図2に示した動作と同様であるためここではその説明を省略する。
【0050】
以上に説明した本実施形態のPMV推定装置によれば、天候により異なる日射量の変動を考慮したブラインドやドレープ等の被日射物品温度の推定が可能となり、これを用いて平均輻射温度を評価することで、時々刻々異なる日射環境に応じたPMVを正確に推定できるようになる。
【0051】
[第3の実施形態]
第3の実施形態のPMV推定装置は、上述の第2の実施形態に対し、日射量検知手段として太陽光発電装置を利用したものである。
【0052】
(第3の実施形態のPMV推定装置の構成)
図6は、第3の実施形態にかかるPMV推定装置の機能ブロック図である。同図において、前述の第2の実施形態のPMV推定装置と同一のものについては同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0053】
本実施形態のPMV推定装置3では、予め日射量検知手段としての太陽光発電装置16の特性、配置、季節、時刻等に応じて、図7に示すような太陽光発電装置16の発電比率(季節毎の快晴日における最大発電量との比率)と雲量の関係式または対応表を雲量推定部15に持たせる。雲量推定部15は、この関係式または対応表に基づき、時々刻々変化する太陽光発電量から雲量を推定することができる。
【0054】
(第3の実施形態のPMV推定装置の動作)
本実施形態のPMV推定装置3の動作は、雲量推定部15が、太陽光発電装置16の発電比率(季節毎の快晴日における最大発電量との比率)と雲量の関係式または対応表を基に雲量を推定すること以外、前述の第2の実施形態のPMV推定装置2の場合と同様である。
【0055】
本実施形態のPMV推定装置によれば、近年導入が拡大している太陽光発電装置16を日射量検知手段として活用することで、日射量検知を目的として追加の設備を設置する必要がなくなり、コストを抑え、維持や管理の手間を省くことができる。
【0056】
[第4の実施形態]
第4の実施形態のPMV推定装置は、PMV推定地点と窓や壁などとの相対的な位置関係に応じた立体角を利用して平均輻射温度を導出することで、窓際の被日射物品における温度変化の影響を考慮した室内任意地点におけるPMVを正確に推定できるようにしたものである。本実施形態では、PMVの推定を、以下の構成を有するPMV推定装置により行う。
【0057】
(第4の実施形態のPMV推定装置の構成)
図8は、第4の実施形態にかかるPMV推定装置の機能ブロック図である。同図において、図4に示した前述の第2の実施形態のPMV推定装置と同一のものについては同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0058】
本実施形態のPMV推定装置4では、室内日射量算出部10により算出された室内日射量のうち天空日射による室内日射量から、大気の放射温度を推定する大気放射温度推定部17を加え、ブラインドやドレープ等の窓側が被日射物品による全閉以外の状態となっている場合においても実態に見合った平均輻射温度を推定する。なお、本実施形態を構築する上での前提条件として、窓側の開口部からの直達日射はないと仮定する。仮に直達日射が存在する場合、在室者はブラインドやドレープ等の被日射物品を動かし窓の開度を調節して直達日射を遮蔽するのが一般的であるからである。
【0059】
(第4の実施形態のPMV推定装置の動作)
次に、本実施形態のPMV推定装置の動作を、図9のフロー図を参照して説明する。前述した第2の実施形態の動作フローである図5と異なる箇所は、追加したステップ10(S10)である。
【0060】
ステップ4(S4)では、室内日射量算出部10において、天空日射による室内日射量I’gr[kcal/m2・h]を以下の式(15)により導出する。
【0061】
【数15】

【0062】
ここで、I:天空日射量[kcal/m2・h]であり、式(5)により算出される。また、C:天空日射に対する垂直入射時の透過率比であり、τ:ガラスの垂直入射時の日射透過率である。
【0063】
次に、ステップ10(S10)において、上記の天空日射による室内日射量I’grを用いて、大気放射温度Tair[℃]を推定する。これは予め直達日射がない建物北面などで実測した天空日射による室内日射量とこのときの大気放射温度より得られる両者の関係式または対応表を用いて推定する。
【0064】
次に、ステップ8(S8)では上記により求まった大気放射温度Tairを用いて、以下の式(16)によりPMV推定地点の平均輻射温度Trad[℃]を導出する。
【0065】
【数16】

【0066】
ここでdΩbr:PMV推定地点から見た被日射物品が占める立体角[sr]、dΩ’br:PMV推定地点から見た被日射物品の開口部が占める立体角[sr]、dΩ:PMV推定地点から見た被日射物品を除くその他の室内各面が占める立体角[sr]として、Tbr:被日射物品温度、T:被日射物品を除くその他の室内各面の温度[℃]である。
【0067】
ここでdΩ’brは、PMV推定地点から見た被日射物品が占める立体角dΩbrに対して、ブラインドやドレープ等の被日射物品の開口度合いを表す係数α(例えば全閉で0、全開で1)を用いて、以下の式(17)により算出する。
【0068】
【数17】

【0069】
その他の動作は、第2の実施形態の動作フローである図5に示した動作と同様であるためその説明を省略する。
【0070】
以上に説明した本実施形態のPMV推定装置によれば、ブラインドやドレープ等の被日射物品が全閉以外の状態となっている場合においても、実態に見合った平均輻射温度、PMVを推定することが可能となる。なお、ここでは第2の実施形態の構成に対する本実施形態特有の追加機能とその動作や効果について説明したが、前述の第1の実施形態または第3の実施形態に、本実施形態特有の追加機能をもたせた形態として構成してもよい。
【0071】
[第5の実施形態]
第5の実施形態のPMV推定装置は、窓を介した外気との熱伝導や日射を除く屋内外との放射エネルギー授受の影響を考慮した室内任意地点におけるPMVを正確に推定できるようにしたものである。本実施形態では、PMVの推定を、以下の構成を有するPMV推定装置により行う。
【0072】
(第5の実施形態のPMV推定装置の構成)
図10は、第5の実施形態にかかるPMV推定装置の機能ブロック図である。同図において、図4に示した前述の第2の実施形態のPMV推定装置と同一のものについては同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0073】
本実施形態のPMV推定装置5では、第2の実施形態のPMV推定装置2に対し、窓を介した外気との熱伝導や日射を除く屋内外との放射エネルギー授受の影響によるブラインドやドレープ等の被日射物品の温度変化を推定する外気起因温度変化推定部18をさらに設けた構成としている。
【0074】
(第5の実施形態のPMV推定装置の動作)
次に、本実施形態のPMV推定装置の動作を、図11のフロー図を参照して説明する。なお、図11にて、前述した第2の実施形態の動作フローである図5と異なる箇所は、追加したステップ4−(2)(S4−(2))、ステップ4−(3)(S4−(3))およびステップ6−(2)(S6−(2))である。
【0075】
本実施形態では、ステップ4−(2)(S4−(2))で、日射の有無を判断している。日射が有る場合(S4−(2)でYes)、ステップ5(S5)以降の処理へ移行するが、日射がない場合(S4−(2)でNo)、ステップ4−(3)にて被日射物品温度Tbrを前述と同様にして計算し、ステップ8(S8)へ移行する。
【0076】
また、ステップ6−(2)(S6−(2))では、外気起因温度変化推定部18において、室内の温度T[℃]と外気温度Tout[℃]を用いて、窓を介した外気との熱伝導や日射を除く屋内外との放射エネルギー授受の影響によるブラインドやドレープ等の被日射物品の温度変化ΔTbr[℃]を推定する。
【0077】
この被日射物品の温度変化ΔTbrは、日射が存在しない夜間において実測された外気温度と室内温度と被日射物品温度とに基づく関係式により推定される。すなわち外気と室内の温度差に応じて、被日射物品温度が室内温度からどの程度変化するかを例えば関係式(18)により導き出す。
【0078】
【数18】

【0079】
上式においてKは比例定数で、日射が存在しない夜間において実測された外気温度と室内温度と被日射物品温度に基づき設定される。
【0080】
次にステップ7(S7)では、上記の被日射物品の温度変化ΔTbrを用いて、ブラインドやドレープ等の被日射物品温度Tbr[℃]を推定する。日射の有無により被日射物品温度の推定方法が変わる。日射がある場合、以下の式(19)に示す被日射物品の熱収支式(ヒートバランス)を満たすように被日射物品温度Tbr[℃]を推定する。
【0081】
【数19】

【0082】
ここで、Cbr:ブラインドやドレープ等の被日射物品の比熱である。一方、日射がない場合には、以下の式(20)により被日射物品温度Tbr[℃]を算出する。
【0083】
【数20】

【0084】
その他の動作は、第2の実施形態の動作フローである図5と同様であるため説明を省略する。
【0085】
以上説明した本実施形態のPMV推定装置によれば、窓を介した外気との熱伝導や日射を除く屋内外との放射エネルギー授受の影響を加味してブラインドやドレープ等の被日射物品の温度を推定することで、特に夜間などにおいて、実態に見合った被日射物品温度、平均輻射温度を推定することができる。従って、実態に見合ったPMVを正確に推定できるようになる。なお、ここでは第2の実施形態の構成に対する本実施形態特有の追加機能とこれの動作や効果について説明したが、前述の第1の実施形態、第3の実施形態または第4の実施形態に、本実施形態特有の追加機能をもたせた形態として構成してもよい。
【0086】
以上、諸実施形態について説明した。上述したように、第1〜第5の実施形態のPMV推定装置によれば、実態に見合ったPMVを正確に推定することができるようになる。なお、上記諸実施形態のPMV推定装置は、PMV値に基づいてビルの空調制御を行う空調制御装置等に適用することが可能である。
【0087】
(第1〜5の実施形態に共通するPMV推定装置のハードウェア構成)
ここで、図12に、第1から第5の実施形態にかかるPMV推定装置に共通するハードウェア構成を示す。PMV推定装置は、そのハードウェア構成として、ブートプログラム等の初期プログラムが格納されているROM102と、OS(Operating System)や前述の各処理が記述された処理プログラム等が格納されているHDD103と、OSおよび処理プログラムに従って前述の各処理を実行するCPU101と、CPU101による処理に必要な種々のデータを一時的に記憶するRAM104と、外部機器とデータの入出力を行う入出力I/F105と、各部を接続するバス110とを備えている。
【0088】
なお、上記処理プログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルとして、CD−ROM、フロッピー(登録商標)ディスク(FD)、DVD等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されて提供されてもよいし、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。
【0089】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0090】
1、2、3、4、5 PMV推定装置
10 室内日射量算出部
11 被日射物品温度推定部
12 平均輻射温度推定部
13 PMV演算部
14 日射量検知装置
15 雲量推定部
16 太陽光発電装置
17 大気放射温度推定部
18 外気起因温度変化推定部
101 CPU
102 ROM
103 HDD
104 RAM
105 入出力I/F
110 バス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内の平均輻射温度と、室内の温度と、室内の湿度と、室内の気流速度と、在室者の着衣量と、在室者の活動量と、からPMV(Predicted Mean Vote)値を算出するPMV推定装置において、
室内に入射する日射量を算出する室内日射量算出手段と、
前記室内日射量算出手段により算出された室内日射量を用いて室内に入射した日射を受ける被日射物品の温度を推定する被日射物品温度推定手段と、
前記被日射物品温度推定手段により推定された被日射物品の温度を用いて前記平均輻射温度を推定する平均輻射温度推定手段と、
を有するPMV推定装置。
【請求項2】
前記室内日射量算出手段は、計算対象の月、日、および時刻、ならびに、日射を受ける前記被日射物品が設置された近傍の窓面の傾斜角、方位角、および窓の日射透過率から、窓を介して室内に入る日射量を推定し、
前記被日射物品温度推定手段は、周囲環境との対流および放射による放熱量を計算し、該放熱量と、前記室内日射量算出手段により推定された室内日射量と、前記被日射物品の日射の吸収率とを基に、前記被日射物品の温度を推定し、
前記平均輻射温度推定手段は、前記被日射物品温度推定手段により推定された被日射物品の温度と、前記被日射物品を除く室内のその他の壁面、天井面、および床面の温度と、室内の任意に設定したPMV推定位置から見て被日射物品が占める立体角と、前記PMV推定位置から見て前記被日射物品を除く室内のその他の壁面、天井面、および床面が占める立体角と、を用いて、前記PMV推定位置における平均輻射温度を推定する請求項1に記載のPMV推定装置。
【請求項3】
室内日射量算出手段により、室内に入射する日射量を算出する第1のステップと、
被日射物品温度推定手段により、前記室内日射量算出手段によって算出された室内日射量を用いて室内に入射した日射を受ける被日射物品の温度を推定する第2のステップと、
平均輻射温度推定手段により、前記被日射物品温度推定手段によって推定された被日射物品の温度を用いて室内の平均輻射温度を推定する第3のステップと、
をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【請求項4】
前記室内日射量算出手段による第1のステップは、計算対象の月、日、および時刻、ならびに、日射を受ける前記被日射物品が設置された近傍の窓面の傾斜角、方位角、および窓の日射透過率から、窓を介して室内に入る日射量を推定するステップを含み、
前記被日射物品温度推定手段による第2のステップは、周囲環境との対流および放射による放熱量を計算し、該放熱量と、前記室内日射量算出手段により推定された室内日射量と、前記被日射物品の日射の吸収率とを基に、前記被日射物品の温度を推定するステップを含み、
前記平均輻射温度推定手段による前記第3のステップは、前記被日射物品温度推定手段により推定された被日射物品の温度と、前記被日射物品を除く室内のその他の壁面、天井面、および床面の温度と、室内の任意に設定したPMV推定位置から見て被日射物品が占める立体角と、前記PMV推定位置から見て前記被日射物品を除く室内のその他の壁面、天井面、および床面が占める立体角と、を用いて、前記PMV推定位置における平均輻射温度を推定するステップを含む請求項3に記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−57476(P2013−57476A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196984(P2011−196984)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】