説明

PPARリガンド剤であるアマチャヅル疎水性抽出物

【課題】 本発明は、天然由来のPPARリガンド剤および、メタボリックシンドロームを処置又は予防するために有用な組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】 本発明は、アマチャヅルの疎水性抽出物を有効成分とするペルオキシソーム増殖剤応答性受容体リガンド剤を提供する。本発明はまた、アマチャヅルの疎水性抽出物を有効成分とするペルオキシソーム増殖剤応答性受容体リガンド剤を有効成分とするメタボリックシンドロームの予防又は処置用の組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体リガンド剤に関する。さらに本発明は、メタボリックシンドロームの予防又は処置用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(Peroxisome Proliferator-activated receptor:PPAR)は、脂質及び糖代謝を維持する遺伝子群の発現制御を担う核内受容体ファミリーに属するリガンド依存性転写制御因子である。哺乳動物ではPPARα、PPARδ(PPARβ、NUC-1、FAAR)、PPARγの3種のサブタイプの存在が知られており、PPARαは、脂肪酸の異化能の高い肝臓や腎臓、骨格筋等に発現しており、特に肝臓において高発現が認められている。PPARδは組織普遍的に発現している。PPARγにはPPARγ1とPPARγ2の2種のアイソフォームが存在しており、PPARγ1は脂肪組織の他に免疫系臓器や副腎、小腸で発現して、PPARγ2は脂肪組織で特異的に発現している(非特許文献1を参照)。
【0003】
PPARαのリガンドとしては、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸などの脂肪酸類や8(S)-HETEなどが知られている。また、合成化合物では、抗高脂血症薬として使用されているフィブラート系薬剤のベザフィブレートやクロフィブレートなどがPPARαのリガンドであることが知られている(非特許文献1を参照)。
【0004】
PPARδのリガンドとしては、ジホモ-γ-リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸などの不飽和脂肪酸類、半合成プロスタグランジンのカルバサイクリンなどが知られている(非特許文献1を参照)。
【0005】
PPARγのリガンドとしては、α-リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸などの不飽和脂肪酸、15-デオキシ-Δ12,14-プロスタグランジンJ2やΔ12-プロスタグランジンJ2などのアラキドン酸代謝物、9-ヒドロキシオクタデカジエン酸や13-ヒドロキシオクタデカジエン酸などのエイコサノイド類が知られている(非特許文献1を参照)。また、共役トリエン構造又は共役テトラエン構造を有する炭素数10〜26の共役不飽和脂肪酸などがPPARγリガンドであることが開示されている(特許文献1を参照)。さらに、合成化合物では、トログリタゾン、ピオグリタゾン、ロシグリタゾンなどのチアゾリジン誘導体がPPARγリガンドであることが知られている(非特許文献1を参照)。
【0006】
また、上記の化合物のみならず、モノアシルグリセロール(特許文献2を参照)、没食子酸エステル、ガロイルタンニン類、ケルセチン、フラボン、イソフラボン、カテキン、エピカテキンなどのポリフェノール類(特許文献3を参照)などがPPARリガンドであることが知られている。
【0007】
PPARαのリガンドは、主に肝臓のPPARαを活性化し、脂質代謝や糖代謝を亢進させることにより、インスリン抵抗性を改善し、血中脂質及び血糖値の低下作用を有している(非特許文献2を参照)。
【0008】
PPARδのリガンドは、骨格筋における脂肪酸のβ酸化などを活性化し、インスリン抵抗性を改善し、肥満などを予防する効果を有している(非特許文献3を参照)。
【0009】
PPARγリガンドは、脂肪細胞においてPPARγを活性化し、前駆脂肪細胞から分化した正常機能を有する小型脂肪細胞を増加させ、またインスリン抵抗性を惹起するTNFαや遊離脂肪酸の産生や分泌が亢進している肥大脂肪細胞をアポトーシスにより減少させることで、インスリン抵抗性を改善し、血糖値低下作用などを有している(非特許文献4を参照)。
【0010】
上記に鑑み、PPARリガンドは、肥満、インスリン抵抗性、高脂血症、高血圧及び糖尿病などを処置又は予防することが期待される。
このようにPPARリガンドは、肥満、インスリン抵抗性、高脂血症、高血圧、糖尿病などを処置又は予防することから、メタボリックシンドロームの予防/又は改善作用が期待される。
【0011】
ところで、前述に示した薬剤は高価であり、長期投与による副作用などの不都合があった。また、モノアシルグリセロールや没食子酸エステル、ガロイルタンニン類、ケルセチン、フラボン、イソフラボン、カテキン、エピカテキンなどのポリフェノール類は、十分なPPARリガンド作用が得られないなどの不都合があった。よって、安全性が高く、高いPPARリガンド作用を有する素材が望まれている。
【0012】
アマチャヅル(学名Gynostemma pentaphyllum M.)は、生薬では七葉胆、中国では絞股藍という名で知られるウリ科アマチャヅル属に属する植物である。アマチャヅルを煮出した熱水抽出物、即ちアマチャヅル茶には、朝鮮人参と同一もしくは類似のサポニン類を多く含んでいることが知られている。そして、そのサポニン類に抗高脂血症効果があることが報告されている(非特許文献5を参照)。また、アマチャヅルの50%エタノール抽出物が痩身用外用剤として有効であることが開示されている(特許文献4を参照)しかし、アマチャヅルの疎水性抽出物、特にエタノール抽出物が、ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体リガンド剤であることや、メタボリックシンドロームの予防又は処置作用を有することはまったく知られていなかった。
【特許文献1】特開2000−355538号
【特許文献2】特開2001−354558号
【特許文献3】特開2002−80362号
【特許文献4】特開2003−63977号
【非特許文献1】Journal of Medicinal Chemistry,2000年,43巻,527〜550頁
【非特許文献2】Diabetes,2001年,50巻,411〜417頁
【非特許文献3】Proceedings of the National Academy of Sciences,2003年,100巻,15924〜15929頁
【非特許文献4】医学のあゆみ,2001年,198巻,747〜754頁
【非特許文献5】生薬学雑誌,1983年,37巻,272〜275頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
よって、本発明は、天然由来のPPARリガンド剤および、メタボリックシンドロームを処置又は予防するために有用な組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、各種植物抽出物からPPARリガンドを鋭意探索した結果、アマチャヅルの疎水性抽出物に高いPPARリガンド活性があることを見出し、さらに高脂血症及び糖尿病の予防効果を有することを見出し、これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、アマチャヅルの疎水性抽出物を有効成分とするペルオキシソーム増殖剤応答性受容体リガンド剤に関する。
【0016】
また、本発明は、上記のペルオキシソーム増殖剤応答性受容体リガンド剤を有効成分として含む、メタボリックシンドロームの予防又は処置する作用を有する組成物に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、天然由来のPPARリガンド剤および、メタボリックシンドロームを処置又は予防するために有用な組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0019】
本発明でいうPPARリガンド剤とは、PPARリガンド結合領域に結合する能力、即ちPPARリガンド活性を有している化合物を含む物質である。本発明のPPARリガンド剤は、PPARを介して、肝臓・脂肪細胞・骨格筋などの組織において脂質及び糖代謝を調節することで、メタボリックシンドロームを予防又は処置することができる。本発明によるPPARリガンド剤は、肥満、高脂血、インスリン抵抗性、糖尿病、高血圧などを予防または処置することができる。
【0020】
尚、本明細書でいうメタボリックシンドロームとは、次に述べる5つの危険因子のうち2つ以上を認めた場合をメタボリックシンドロームと定義する。
【0021】
危険因子1)は、腹部肥満(ウエスト周囲径)が男性102cm以上、女性88cm以上であるか、又は体格指数であるBMI(Body mass index)が25以上。危険因子2)は、中性脂肪が150mg/dl以上。危険因子3)は、HDLコレステロールが男性40mg/dl以下、女性50mg/dl以下。危険因子4)は、血圧が130(収縮期)mmHg/85(拡張期)mmHg以上。危険因子5)は、空腹時血糖が110mg/dl以上。
【0022】
即ち、本発明のPPARリガンド剤は、メタボリックシンドロームに関わる各種遺伝子の発現を正又は負に制御することができる。前記各種遺伝子とは、例えば、アシルCoAオキシダーゼ、中鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ、長鎖アシルCoA合成酵素、脂肪酸結合タンパク質、リポ蛋白リパーゼ、アポリポタンパク質、脱共役タンパク質などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
PPARリガンド活性は、例えば、PPARリガンド結合領域とGAL4との融合タンパクに対する結合をルシフェラーゼの発現で評価するレポーター・アッセイ(Cell,1995年,83巻,803〜812頁)や、PPARリガンド結合領域を含むタンパクを用いたコンペティション・バインディング・アッセイ(Cell,1995年,83巻,813〜819頁)などにより測定することができる。これらのアッセイにおいて、サンプルの活性は一般に溶媒対照と比較し、溶媒対照よりも有意に高い活性を示し、なおかつ用量依存性が認められるサンプルを「PPARリガンド活性あり」と評価する。
【0024】
本発明のPPARリガンド剤は、PPARα、γ、δの内、少なくとも1種以上のPPARに対し、リガンド活性を有していればよい。好ましくは、本発明のPPARリガンド剤は、PPARα、βおよびγに対しリガンド活性を有するトリプルリガンド剤である。
【0025】
ここにいう疎水性抽出物とは、疎水性溶媒を用いて抽出され得る抽出物を指す。
【0026】
本発明の疎水性抽出物の形態は、抽出液の形態でもよいし、溶媒を除去したものでもよい。さらに、適切な溶媒に溶解、懸濁した形態であってもよい。また、これらの抽出物には、PPARリガンド活性があり、PPARリガンド活性を失わない範囲内で脱臭、精製などの操作を加えることができる。
【0027】
アマチャヅルから本発明の疎水性抽出物を得る方法は、例えば、上記疎水性溶媒抽出による方法が挙げられる。また、上記疎水性抽出物が得られる限り、溶媒抽出に限定されず、水蒸気蒸留や、超臨界抽出技術を用いた二酸化炭素による抽出などの抽出操作を用いてもよい。さらに、当該抽出物は、飲食品や医薬品として不適当な不純物を含有しない限り、抽出液のまま、又は粗抽出物あるいは半精製抽出物として本発明に使用できる。
【0028】
ここにいう疎水性溶媒は、油脂を溶解可能な有機溶媒、炭素数1〜4のアルコールおよびそれらの水溶液を意味する。例えば、炭素数1〜4のアルコールおよびそれらの水溶液、アセトン、グリセリン、酢酸エチル、プロピレングリコール、ヘキサン、食用油脂などが挙げられ、また、これらのうち2種以上を混合して用いてもよい。疎水性溶媒は、食品、食品添加物、医薬品などの製造、加工に使用できる安全なものが好ましい。これらのうち、抽出後の溶媒除去が容易な点からメタノール、エタノールおよびそれらの水溶液、プロパノール、アセトン、酢酸エチル、ヘキサンなどの有機溶媒およびそれらの水溶液が好ましく、残留溶媒の安全性の点からエタノールおよびその水溶液がより好ましい。さらに、PPARリガンド活性の強さの点から、80容量%以上100容量%未満のエタノール水溶液が好ましい。また2種以上の溶媒を混合して用いる場合には、水は20容量%以下であることが好ましい。
【0029】
溶媒抽出する場合、例えば、アマチャヅルを、1〜20倍量の上記溶媒に浸し、攪拌又は放置し、濾過又は遠心分離などにより抽出液を得ることができる。次いで、得られた抽出液から溶媒を除去してもよい。抽出する際のアマチャヅルは、生のまま、又は乾燥させたものでもよいが、保存の点から乾燥させたものが好ましい。また、上記アマチャヅルの形態は、原型、粉砕したもの、切断したもの又は粉末のいずれを用いてもよい。抽出温度は、一般に−20〜100℃、普通1〜80℃、好ましくは20〜60℃で好適に実施できる。抽出時間は、普通0.1時間〜1ヶ月、好ましくは0.5時間〜7日間で好適に実施できる。
【0030】
本発明において、アマチャヅルの疎水性抽出物を得る際に用いる植物部位は、特に限定されず、アマチャヅル(Gynostemma pentaphyllum M.)の全草、葉、茎、根、花、種子等のいずれを用いてもよいが、アマチャヅル(Gynostemma pentaphyllum M.)の葉又は茎が好ましく、葉と茎部分の混合物を使用がより好ましい。
【0031】
本発明のメタボリックシンドロームの予防又は処置組成物は、本発明のPPARリガンド剤を有効成分としている。本発明の組成物は、インスリン抵抗性、高脂血症及び糖尿病を予防又は処置するために有用であるが、これらの疾患を改善することも可能である。
【0032】
本発明の組成物は、本発明のPPARリガンド剤を、医薬用又は食品用に許容される担体と混合することにより製造される。
【0033】
本発明のPPARリガンド剤、及びこれを有効成分として含むメタボリックシンドロームの予防又は処置用組成物は、飲食用及び医薬用として利用することができ、その形態は限定されず、例えば、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)、健康食品、栄養補助食品などの飲食品、あるいはOTCなど容易に入手可能な医薬品又は医薬部外品などとして利用できる。
【0034】
本発明の組成物における前記PPARリガンド剤の含有量は、特に限定されないが、抽出された固形分重量として、組成物重量基準で好ましくは0.001〜99.999重量%、より好ましくは0.01〜99.99重量%、最も好ましくは0.01〜99.9重量%である。
【0035】
本発明のPPARリガンド剤や、これを有効成分として含むメタボリックシンドロームの予防又は処置用組成物は、そのまま直接摂取することもできるし、また、公知の担体や助剤などの添加剤を使用して、カプセル剤、錠剤、顆粒剤など服用しやすい形態に成型して摂取することもできる。また、栄養強化を目的として、ビタミンA、C、D、Eなどの各種ビタミン類を添加、併用して用いることもできる。これらの成型剤における本発明のメタボリックシンドロームの予防又は処置作用を有する組成物の含有量は、好ましくは0.1〜100重量%、より好ましくは10〜90重量%である。さらに、飲食物材料に混合して、チューインガム、チョコレート、キャンディー、ゼリー、ビスケット、クラッカーなどの菓子類;アイスクリーム、氷菓などの冷菓類;茶、清涼飲料、栄養ドリンク、美容ドリンクなどの飲料;うどん、中華麺、スパゲティー、即席麺などの麺類;蒲鉾、竹輪、はんぺんなどの練り製品;ドレッシング、マヨネーズ、ソースなどの調味料;マーガリン、バター、サラダ油などの油脂類;パン、ハム、スープ、レトルト食品、冷凍食品など、すべての飲食物に使用することができる。これら飲食用メタボリックシンドロームの予防又は処置作用を有する組成物を摂取する場合、その摂取量は当該抽出物として成人一人一日当たり、好ましくは0.1〜1000mg/kg体重、より好ましくは10〜500mg/kg体重である。
【0036】
医薬品として用いる場合は、その剤形は特に限定されず、例えば、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、注射剤、座薬、貼付剤などが挙げられる。製剤化においては、薬剤学的に許容される他の製剤素材、例えば、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、酸化防止剤、着色剤、凝集防止剤、吸収促進剤、溶解補助剤、安定化剤などを適宜添加して調製することができる。これら製剤の投与量としては、当該抽出物換算で成人一人一日当たり、好ましくは0.1〜1000mg/kg体重、より好ましくは10〜500mg/kg体重を1回ないし数回に分けて投与する。
【0037】
医薬部外品として用いる場合は、必要に応じて他の添加剤などを添加して、例えば、軟膏、リニメント剤、エアゾール剤、クリーム、石鹸、洗顔料、全身洗浄料、化粧水、ローション、入浴剤などに使用することができ、局所的に用いることができる。
【0038】
本発明は、有効量の前記の組成物を、哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物のメタボリックシンドロームを予防又は処置する方法を提供する。哺乳動物は好ましくはヒトである。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)アマチャヅルの疎水性抽出物の調製
アマチャヅルの葉と茎部分の混合物(株式会社カネカサンスパイス)1000gを99.5容量%エタノール水溶液5Lに浸し45℃にて6時間、攪拌抽出した後、濾過により抽出液を得た。その抽出液を減圧濃縮して溶媒を除去し、半固形オイル状の抽出物33.6gを得た。
(比較例1)アマチャヅルの熱水抽出物の調製
実施例1と同様のアマチャヅルの葉と茎部分の混合物20gを水100mlに浸し、80℃にて6時間、攪拌抽出した後、濾過により抽出液を得た。その抽出液を凍結乾燥して、粉末状の抽出物21.4gを得た。
(実施例2)PPARαリガンド活性の測定
CV−1細胞(雄性アフリカミドリザル腎臓由来の培養細胞)を96穴培養プレートに6x103cells/wellとなるように植え込み、37℃、5%CO2条件下で24時間培養した。培地には、10%FBS(ウシ胎仔血清)、10ml/Lペニシリン・ストレプトマイシン溶液(それぞれ5000IU/ml、5000μg/ml、Invitrogen社)、37mg/Lアスコルビン酸(和光純薬工業株式会社)を含むDMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium:Invitrogen社)を用いた。その細胞をOPTI-MEM(Invitrogen社)で洗浄した後、pM-PPARαと4xUASg-lucをリポフェクトアミン・プラス(Invtrogen社)を用いてトランスフェクションした。なお、pM-PPARαは、哺乳類発現プラスミドであるpM(Clontech社)に酵母由来転写因子GAL4遺伝子(アミノ酸位置1〜147に対応する)とヒトPPARαリガンド結合部位遺伝子(アミノ酸位置167〜468に対応する)を結合したキメラタンパクの遺伝子を挿入したプラスミドであり、4xUASg-lucはルシフェラーゼ遺伝子の上流にGAL4の応答配列(UASg)を4回組み込んだレポーター・プラスミドである(Cell,1995年,83巻,803〜812頁などに記載の方法で作成可能)。トランスフェクションの約24時間後、実施例1のアマチャヅルの疎水性抽出物を含む培地に交換し(n=3)、24時間培養した。溶媒対照にはDMSOを用い、培地に1/1000量添加した。細胞をCa、Mg含有リン酸緩衝生理食塩水(PBS+)で洗浄した後、ルックライト(Packard社)を添加し、トップカウント・マイクロプレートシンチレーション/ルミネッセンスカウンター(Packard社)にてルシフェラーゼの発光強度を測定した。
【0040】
コントロールの発光強度に対するサンプルの発光強度の比をサンプルのPPARαリガンド活性とした。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】


ポジティブコントロールとしてベザフィブラート(Sigma社)を用い、各抽出物のPPARαリガンド活性を比較した。表1から明らかなように、実施例1で得られたアマチャヅルの疎水性抽出物に、有意なPPARαリガンド活性が認められた。それに対し、比較例1で得られたアマチャヅルの熱水抽出物にはPPARαリガンド活性は認められなかった。
(実施例3)PPARγリガンド活性の測定
実施例2に記載の方法のうち、pM-PPARαの代りにpM-PPARγを用いる以外は実施例2と同様に実施した。なお、pM-PPARγは、pMに酵母由来転写因子GAL4遺伝子(アミノ酸位置1〜147)とヒトPPARγリガンド結合部位遺伝子(アミノ酸位置204〜505に対応する)を結合したキメラタンパクの遺伝子を挿入したプラスミドである。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】


ポジティブコントロールにはトログリタゾン(三共株式会社)を用いた。表2から明らかなように、実施例1で得られたアマチャヅルの疎水性抽出物に、有意なPPARγリガンド活性が認められた。それに対し、比較例1で得られたアマチャヅルの熱水抽出物にはPPARγリガンド活性は認められなかった。
(実施例4)PPARδリガンド活性の測定
実施例2に記載の方法のうち、pM-PPARαの代りにpM-PPARδを用いる以外は実施例2と同様に実施した。なお、pM-PPARδは、pMに酵母由来転写因子GAL4遺伝子(アミノ酸位置1〜147)とヒトPPARδリガンド結合部位遺伝子(アミノ酸位置139〜441に対応する)を結合したキメラタンパクの遺伝子を挿入したプラスミドである。結果を表3に示す。
【0043】
【表3】


ポジティブコントロールにはカルバサイクリン(Sigma社)を用いた。表3から明らかなように、実施例1で得られたアマチャヅルの疎水性抽出物に、有意なPPARδリガンド活性が認められた。それに対し、比較例1で得られたアマチャヅルの熱水抽出物にはPPARδリガンド活性は認められなかった。
(実施例5)フルクトース水負荷ラットにおける効果
Sprague-Dawley(SD)ラットにフルクトース水を与えることにより発症する高中性脂肪血症モデル・ラットを用いて、実施例1で調製したアマチャヅルの疎水性抽出物の中性脂肪上昇抑制作用を評価した。
SDラット(オス、6週齢)を2群(各群6匹)に分け、それぞれ25%(w/v)フルクトース水を飲水として与えた。実験動物粉末飼料(CE-2、日本クレア)を基本飼料として、コントロール群(無添加)、アマチャヅル疎水性抽出物投与群を自由摂取にて1週間与えた。アマチャヅル疎水性抽出物は添加量が0.5重量%となるように粉末飼料に添加した。
給餌1週間後に5時間絶食を行い、無麻酔下で頸静脈より約1ml採血し、血漿中の中性脂肪をLPL酵素法により測定した。その結果を表4に示す。
【0044】
【表4】

コントロール群の血中中性脂肪値は、給餌開始時に比べ、高値を示し、高中性脂肪血症が認められた。一方、抽出物投与群の血中中性脂肪値は、コントロール群よりも低値を示し、高脂血症の予防効果が認められた。
(実施例6)高脂肪・高糖分食負荷ラットにおける効果
Sprague-Dawley(SD)ラットに高脂肪・高糖分食を負荷することにより発症する高脂血症モデル・ラットを用いて、実施例1で調製したアマチャヅルの疎水性抽出物の効果を評価した。
【0045】
SDラット(オス,6週齢)を2群(各群6匹)に分け、コントロール群には高脂肪・高糖分の粉末精製飼料(オリエンタル酵母株式会社)を与え、アマチャヅル疎水性抽出物投与群には実施例1で調製したアマチャヅルの疎水性抽出物を0.5重量%含む高脂肪・高糖分の粉末精製飼料を与えた。なお、高脂肪・高糖分の粉末精製飼料の組成は、カゼイン 25重量%、コーンスターチ 14.869重量%、シュークロース 20重量%、大豆油 2重量%、ラード 14重量%、牛脂 14重量%、セルロースパウダー 5重量%、AIN-93ミネラル混合 3.5重量%、AIN-93ビタミン混合 1重量%、重酒石酸コリン 0.25重量%、第三ブチルヒドロキノン 0.006重量%、L-シスチン 0.375重量%である。
【0046】
給餌30日後に16時間絶食を行い、無麻酔下で頸静脈より約1ml採血し、血漿中の中性脂肪値、総コレステロール値、血糖値を測定した。その結果を表5に示す。
【0047】
【表5】


コントロール群に比べ、抽出物投与群の血中中性脂肪値、血中コレステロール値及び血糖値はより低値を示たことから、メタボリックシンドロームの予防効果が認められた。
(実施例7)
実施例1で調製したアマチャヅルの疎水性抽出物を40重量部、カルボキシメチルセルロース・ナトリウムを30重量部、結晶セルロースを20重量部、ビタミンCを10重量部の組成で混合、粉砕し、ゼラチン製カプセル(サイズ:02号、カプスゲル・ジャパン株式会社)に充填して、抽出物を40重量%含有する飲食用カプセル剤を調製した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のPPARリガンド剤は、優れたPPARリガンド活性を有している。また、食品素材由来であるので安全性も高く、インスリン抵抗性、高脂血症及び糖尿病の予防及び/又は処置に有用であり、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品)、健康食品、栄養補助食品などの飲食品、あるいはOTCなど容易に入手可能な医薬品又は医薬部外品などとして利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アマチャヅルの疎水性抽出物を有効成分とするペルオキシソーム増殖剤応答性受容体リガンド剤。
【請求項2】
アマチャヅルの疎水性抽出物がアマチャヅル(Gynostemma pentaphylum M.)の葉および茎から選ばれる少なくとも1種からの抽出物である請求項1記載のペルオキシソーム増殖剤応答性受容体リガンド剤。
【請求項3】
アマチャヅルの疎水性抽出物が、80容量%以上100容量%未満のエタノール水溶液で抽出された抽出物である請求項1又は2記載のペルオキシソーム増殖剤応答性受容体リガンド剤。
【請求項4】
ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体リガンド剤がペルオキシソーム増殖剤応答性受容体α、γ、δのうち少なくとも1種のリガンド剤である請求項1〜3のいずれか一項記載のペルオキシソーム増殖剤応答性受容体リガンド剤。
【請求項5】
ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体リガンド剤がペルオキシソーム増殖剤応答性受容体α、γ、δのトリプルリガンド剤である請求項1〜3のいずれか一項記載のペルオキシソーム増殖剤応答性受容体リガンド剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項記載のペルオキシソーム増殖剤応答性受容体リガンド剤を有効成分として含む、メタボリックシンドローム予防又は処置用組成物。
【請求項7】
有効量の請求項6記載の組成物を、哺乳動物に投与することを含む、哺乳動物のメタボリックシンドロームを予防又は処置する方法。

【公開番号】特開2006−241097(P2006−241097A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60762(P2005−60762)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】