説明

PQQGDH結合性アプタマー

【課題】ポリヌクレオチド分子をピロロキノリンキノングルコースデヒドロゲナーゼ(PQQGDH)標識する際に利用可能な、酵素活性に影響せずにPQQGDHと結合できる新規なアプタマーを提供する。
【解決手段】酵素活性に影響を及ぼさずに、PQQGDHと特異的に結合できる、PQQGDHの認識に重要なグアニン残基が8個連続する領域を持つアプタマーPGa4。又は該領域において1個の塩基が置換し、欠失し若しくは挿入された領域を含み、サイズが30mer以下であるアプタマー。PGa4は、このごく短い領域のみでもG四重鎖構造を形成してPQQGDHに結合できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PQQGDH結合性アプタマーに関する。
【背景技術】
【0002】
血液中のバイオマーカーの検出は、疾患の早期発見や診断において非常に重要である。バイオマーカーにより求められる検出範囲は異なるが、例えば腫瘍マーカーの場合、多くの重要なマーカータンパク質(CRP, VEGF等)はpMレベルの検出限界が求められる。こういった血液中に微量にしか存在しないバイオマーカーを高感度に検出するためには、シグナルの増幅が必須である。
【0003】
シグナルの増幅のためには酵素等の標識物質が用いられている。現在バイオマーカーの検出に多用されているELISA法も酵素によるシグナル増幅を行っており、アルカリフォスファターゼやセイヨウワサビペルオキシダーゼ等の発色反応を触媒する酵素が主に用いられている。また、血糖を電気化学的に検出するグルコースセンサーでは、グルコースオキシダーゼやピロロキノリンキノングルコースデヒドロゲナーゼ(PQQGDH)等の酸化還元酵素が用いられている。
【0004】
ピロロキノリンキノングルコースデヒドロゲナーゼ(PQQGDH)は、グルコースに対する触媒活性がおよそ5000 U/mgと非常に高く、溶存酸素の影響を受けない、また、補酵素との結合が安定であり、EDTA耐性を示すといった利点を持つ。PQQGDHをセンシング素子として用いた場合には、既に確立しているグルコースセンサー等の電気的検出システムを利用して検出系を構築できるため、実用化の面でも有利である。このように、PQQGDHは既存の酵素の中ではセンシング素子として非常に有効な酵素であると考えられる。
【0005】
一方、任意の分子と特異的に結合するオリゴヌクレオチドであるアプタマーが知られている。所望の標的分子と特異的に結合するアプタマーは、SELEX (Systematic Evolution of Ligands by EXponential Enrichment)と呼ばれる方法により作出可能である(非特許文献1)。この方法では、標的分子を担体に固定化し、これに膨大な種類のランダムな塩基配列を有する核酸から成る核酸ライブラリを添加し、標的分子に結合する核酸を回収し、これをPCRにより増幅して再び標的分子を固定化した担体に添加する。この工程を5〜10回程度繰り返すことにより、標的分子に対して結合力の高いアプタマーを濃縮し、その塩基配列を決定して、標的分子を認識するアプタマーを取得することができる。
【0006】
この特異的結合性という特性から、アプタマーは分子認識素子としての利用が期待されている。アプタマーは、市販の核酸合成機を用いて化学的に全合成できるため特異抗体に比べてはるかに安価であり、また修飾も容易であるため、汎用性が高い。酵素等で標識したDNAアプタマーを用いれば、標的分子を特異的に検出することができる。とりわけ、上記した通り標識酵素として利点の多いPQQGDHでDNAアプタマーを標識すれば、該アプタマーの標的分子を高感度に検出できると見込まれる。
【0007】
本願発明者らは、過去に、酵素活性に影響を及ぼさずにPQQGDHと特異的に結合できるアプタマーPGa4(特許文献3)を確立しており、このアプタマーを利用してDNAアプタマーをPQQGDH標識する方法を報告している(非特許文献2)。該方法は、所望の標的分子に結合するDNAアプタマーにPGa4を連結し、PGa4を介して所望の標的結合アプタマーにPQQGDHを結合させる、というものである。この方法を利用すれば、PQQGDHをアプタマーやプローブ等の核酸分子の標識に応用することが可能になる。
【0008】
しかしながら、PQQGDHに対して酵素活性に影響することなく特異的に結合できるアプタマーは、PGa4以外に知られていない。PGa4は65merと比較的鎖長が長いため、例えば所望の標的結合アプタマーとPGa4を1分子のポリヌクレオチドとして連結して設計した場合、鎖長が長くなってしまい、合成コストがかかる。また、鎖長が長いとその分だけ、連結したアプタマーが相互に立体構造に影響し合い、標的への結合能等に不所望の影響を及ぼすリスクが高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2005/049826号
【特許文献2】国際公開第2007/086403号
【特許文献3】特開2009−124946
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Tuerk, C. and Gold L. (1990), Science, 249, 505-510
【非特許文献2】Osawa, Y., Takase, M., Sode, K and Ikebukuro, K. (2009) Electroanalysis, 21, No.11, 1303-1308
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ポリヌクレオチド分子をPQQGDH標識する際に利用可能な、酵素活性に影響せずにPQQGDHと結合できる新規なアプタマーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、PGa4がオリゴマー化して四重鎖構造をとっていることを見出した。PGa4の構造解析をさらに進めた結果、GGGGGGGGというグアニン残基が8個連続する領域がPQQGDHの認識に重要であることを見出した。さらに、このグアニン連続配列のみでアプタマーを設計したところ、驚くべきことに、このごく短い領域のみでもG四重鎖構造を形成してPQQGDHに結合できることを見出し、本願発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、GGGGGGGGから成る領域、又は該領域において1個の塩基が置換し、欠失し若しくは挿入された領域を含み、サイズが30mer以下であるPQQGDH結合性アプタマーを提供する。また、本発明は、上記本発明のアプタマーと、任意の付加領域とから成るポリヌクレオチドを提供する。さらに、本発明は、上記本発明のアプタマーが連結された所望のポリヌクレオチドと、PQQGDHとを接触させることにより、前記アプタマーを介して前記所望のポリヌクレオチドにPQQGDHを結合させることを含む、ポリヌクレオチドをPQQGDH標識する方法を提供する。さらに、本発明は、上記本発明のアプタマー又は上記本発明のポリヌクレオチドが結合したPQQGDHを提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、わずか数merの領域のみでPQQGDHへの結合能を発揮できるアプタマーが初めて提供された。本発明のアプタマーは、もととなったPGa4と同様に、PQQGDHの酵素活性を大きく損なうことなくPQQGDHと結合できる。本発明のアプタマーを、所望の標的分子と特異的に結合するアプタマーその他のポリヌクレオチドに連結すれば、本発明のアプタマーを介して該ポリヌクレオチドにPQQGDH標識を付することができる。本発明のアプタマーは、公知の種々のアプタマーと比較してサイズが小さいため、これに連結した他のアプタマーの立体構造や結合能に及ぼす影響は少ないと期待される。その上、本発明のアプタマーは、もととなったPGa4と比較して、任意の付加領域を持たせた場合でもPQQGDHとの結合や酵素活性の維持に悪影響を受けにくい。従って、本発明のアプタマーは、他のアプタマー等と組み合わせて検出系を構築する際に非常に有利である。本発明のアプタマーが結合するPQQGDHは、グルコースに対する触媒活性が非常に高いこと、既存のセンシングシステムの適用が可能であること等の観点から、センシングのための標識酵素として非常に有望である。本発明のアプタマーは、PQQGDHを利用したセンシングシステムの開発にも大いに貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】PGa4のモチーフ解析の結果を示す図である。(a) TBSバッファー中でのPGa4のCDスペクトルである。(b) PQQGDH存在下でのFITC修飾PGa4のnative PAGEの結果である。(c) 部分的にランダムヌクレオチドで置き換えたPGa4変異体を用いて、固相化したPQQGDHに対して行なったELONAの結果である。
【図2】短縮型変異体の評価結果を示す図である。(a) 固相化PQQGDHに対して行なったELONAの結果を示す。(b) ΔPGa4-14とΔPGa4-8のCDスペクトルである。
【図3】PQQGDHアプタマーを介するPQQGDHラベリング方法を評価した結果を示す。(a) アプタマーをビオチン修飾してストレプトアビジンビーズ上に固定化し、PQQGDHを捕捉させた場合の結果である。(b) ビオチン修飾したCaDNAをストレプトアビジンビーズ上に固定化し、CaDNAの相補配列を付加したアプタマーをハイブリダイズさせ、これにPQQGDHを捕捉させた場合の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のアプタマーは、グアニンが8個連続したGGGGGGGGから成る領域、又は、該領域において1個の塩基が置換し、欠失し若しくは挿入された領域を含む。本明細書では、PQQGDH結合性アプタマーが有するこの領域を「PQQGDH認識領域」と呼ぶ。最も好ましくは、該PQQGDH認識領域はGGGGGGGGから成る。
【0017】
本発明のアプタマーの結合能は、PQQGDHへの結合能がある限り、PQQGDH以外の他のタンパク質にも結合し得るものであってよいが、PQQGDHへの特異性及び親和性が高く、他のタンパク質への結合が全くないかあるとしても相対的に無視できるほど少量しか結合しないことが好ましい。なお、特許文献3に開示されている通り、本発明のアプタマーのもととなるPGa4は、アプタマーブロッティング法による結合能評価の結果、PQQGDHに対しては非常に濃いシグナルが検出される一方、競合タンパク質として用いたC反応性タンパク質及びα-フェトプロテインにはほとんど結合が認められず、PQQGDHへの特異性が非常に高いことが証明されている。本発明のアプタマーはPGa4のPQQGDH認識のコアとなる領域に基づいているため、もとのPGa4と同様にPQQGDHへの特異性が高いと考えられる。
【0018】
アプタマーのPQQGDHへの結合能は、例えば公知のアプタマーブロッティング法(特許文献1〜3等を参照)や、下記実施例にも記載される公知の酵素結合オリゴヌクレオチドアッセイ(Enzyme linked oligonucleotides assay; ELONA)により評価することができる。具体的に記載すると、例えばアプタマーブロッティング法は、PQQGDHと、それ以外の任意のタンパク質(競合タンパク質)とを、ニトロセルロース膜等の支持体に常法により固定化し、このタンパク質固定化支持体とアプタマーとをTBS等の適当な緩衝液中で反応させ、PQQGDHと競合タンパク質とのそれぞれにどの程度のアプタマー分子が結合しているかを調べることにより、アプタマーのPQQGDHに対する結合能を評価することができる。競合タンパク質は特に限定されず、例えば特許文献3でも用いられているCRP(C反応性タンパク質)やAFP(α-フェトプロテイン)等を用いることができる。アプタマー分子の結合量は、例えば、アプタマー分子を予めビオチンやFITC等で標識しておき、タンパク質固定化支持体との反応後、該標識物質に対する抗体を用いた常法による免疫測定を行なうことで、アプタマー結合量を調べることができる。ELONAについては、下記実施例にも詳細に記載される通りである。簡単に記載すると、常法によりホロ化したPQQGDHをプレートのウェルに吸着させ、ブロッキング後、ビオチンやFITC等で修飾したアプタマーをプレートに加えてインキュベートする。プレートを洗浄してB/F分離した後、プレート上に捕捉されたビオチンやFITCの量を酵素標識抗体で検出することで、アプタマーのPQQGDHへの結合量を調べることができる。
【0019】
本発明のアプタマーのPQQGDH結合能は、PQQGDH認識領域において形成される平行型のG四重鎖構造によって発揮されるものと考えられる。すなわち、四分子のアプタマーのそれぞれに存在するPQQGDH認識領域中のグアニン同士がHoogsteen塩基対を形成してGカルテット平面を形成し、この平面構造がスタッキングして四重鎖構造を形成しており、この構造によりPQQGDHと結合していると考えられる。円偏光二色性(CD)解析によると、本発明のアプタマーは、265nm付近のポジティブバンド及び240nm付近のネガティブバンドという平行型G四重鎖構造に典型的なスペクトルパターン(Balagurumoorthy, P. et al. Nucleic acids research, 20, 4061-4067)と類似のパターンを示す。なお、本発明のアプタマーのもととなるPQQGDH結合性アプタマーPGa4においても同様のCDスペクトルが観察され、また、native PAGEにより、PGa4がオリゴマー化してPQQGDHに結合していることも確認されている。下記実施例に記載されるこれらの結果は、本発明のアプタマーの4分子がPQQGDH認識領域において平行型四重鎖構造を形成し、この構造によりPQQGDHと結合していることを示唆している。もっとも、本発明の範囲はこのような理論に拘束されるものではない。
【0020】
PQQGDH認識領域におけるG四重鎖構造は、公知のアプタマーの通常の使用条件でもあるフォールディング条件下で形成される。通常、室温下で、所定の塩濃度を有し、所望により界面活性剤を含む水系緩衝液中である。例えば、TBS(10〜20mM Tris-HCl, 100〜150mM NaCl, 0〜5mM KCl, pH 7.0〜7.5程度)やTBST(0.05v/v%程度のTween 20を含むTBS)の他、10mM MOPS及び1mM CaCl2を含む水溶液などの緩衝液を用いることができる。これらの緩衝液中でアプタマーを95℃程度に加熱して熱変性した後、室温まで徐々に(100μL程度の量であれば30分間程度かけて、あるいは、およそ2℃/分程度の速度で)冷却することにより、アプタマー分子のフォールディングを行なうことができる。本発明のアプタマーは4分子がオリゴマー化して四重鎖構造を形成していると考えられるが、通常、10μM程度以上の濃度でフォールディングを行なえば四重鎖構造が適当に形成されると考えられる。
【0021】
PQQGDH認識領域は上記の通りグアニンリッチな領域であるが、一般にポリヌクレオチド分子は、末端部においてグアニンが数個以上連続していると、グアニン鎖が高密度に結合した不可逆的なG-wire構造をとるなどしてしまい、立体構造が好ましく維持できないおそれがある。従って、アプタマーの立体構造を損なわないようにする観点から、本発明のアプタマーでは、PQQGDH認識領域の片末端又は両末端にリンカーを付加した構造であることが好ましい。リンカーは、特に限定されないが、チミンから成るリンカーが好ましい。通常、2mer程度以上のリンカーをGが連続する末端部(好ましくはPQQGDH認識領域の両末端)に付加しておけば、フォールディング条件下でPQQGDHに結合できる所期の立体構造を適切に形成できると考えられる。「mer」はポリヌクレオチド鎖のヌクレオチド数を表す。
【0022】
本発明のPQQGDH結合性アプタマーのサイズは30mer以下であり、好ましくは25mer以下である。このうち、PQQGDHへの結合に本質的に重要な領域は、平行型G四重鎖構造をとると考えられる上記したPQQGDH認識領域であり、この領域のサイズは7〜9mer、好ましくは8merである。本発明のアプタマーの最も好ましい例としては、7〜9merのPQQGDH認識領域と、該領域の片末端又は両末端、好ましくは両末端に付加された少なくとも2merのリンカーとから成るアプタマーが挙げられる。リンカーの鎖長は、連結するアプタマーその他のポリヌクレオチドの性質に応じて適宜選択可能であり、特に限定されないが、通常は20mer程度以下、例えば15mer程度以下、あるいは10mer程度以下であってよい。このように小さいサイズのアプタマーは、合成の時間とコストを削減できて好ましく、また他のアプタマー等と連結して用いる場合にアプタマー間で立体構造に悪影響を及ぼす恐れが少ないため、応用上有利である。もっとも、上記したサイズの範囲内である限り、本発明のアプタマーには、PQQGDH認識領域及びリンカーのみではなく、これ以外の任意の配列も含まれていてよい。例えば、PQQGDH認識領域とリンカーの間に任意の配列を有していてもよい。従って、例えばPGa4の19nt〜32ntの領域にリンカーを付加した構造である、配列番号9に示す塩基配列から成るアプタマーも、本発明のアプタマーの範囲に包含される。
【0023】
特に好ましい具体例を挙げると、本発明のアプタマーとしては、配列番号8及び9に示す塩基配列から成るアプタマーが好ましく、とりわけ、GGGGGGGG領域とチミンリンカーとから成る、配列番号8に示す塩基配列から成るアプタマーが特に好ましい。もっとも、リンカーの鎖長はこのような具体例に限定されるものではない。
【0024】
本発明のPQQGDH結合性アプタマーはポリヌクレオチドから成る。ポリヌクレオチドはDNAでもRNAでも人工核酸でもよく、特に限定されないが、安定性の観点からはDNAが好ましい。
【0025】
本発明のアプタマーは、PQQGDHへの結合能を喪失する等の著しい影響がない限り、任意の付加領域と連結させて使用することができる。任意の付加領域は、本発明のアプタマーの片末端のみでもよいし、両末端に連結されていてもよい。例えば、本発明のアプタマーは、所望の標的分子と特異的に結合するアプタマーやプローブ、プライマー等と連結して用いることができる。あるいは、本発明のアプタマーを固相化する目的で、固相上に任意の配列のポリヌクレオチドを固定化しておき、この固定化したポリヌクレオチドに対する相補鎖を本発明のアプタマーに連結しておくことができる。固定化したポリヌクレオチドとその相補鎖との間のハイブリダイゼーションにより、本発明のアプタマーを固相上に固定化することができる。
【0026】
下記実施例には、ハイブリダイゼーションによるアプタマーの固相化方法の具体例が記載されている。固相は、プレートやビーズなど、公知の免疫測定に用いられる通常の固相であってよい。あるいは、公知のグルコースセンサー等の電気的検出システムに含まれる電極等であってもよい。下記実施例では、11merのCaDNA(配列番号14)をビオチン修飾してアビジンビーズに固定化し、一方で、本発明のアプタマーにはこのCaDNAの相補鎖を連結している。両者を接触させると、CaDNA及びその相補鎖とがハイブリダイズするので、ポリヌクレオチド鎖間のハイブリダイゼーションによりアビジンビーズ上にアプタマーを固定化できる。このようにしてアビジンビーズ上に固定化されても、本発明のアプタマーは、PQQGDHの酵素活性を損なわずにPQQGDHと結合できる。この実施例データは、本発明のアプタマーを他のアプタマー、プローブ、プライマー等と自由に連結可能であることを裏付けている。
【0027】
なお、本明細書において、「ポリヌクレオチドを連結する」とは、別途調製したポリヌクレオチド同士を結合させることのみを意味するのではなく、連結された塩基配列から成る1分子のポリヌクレオチドを合成することも包含される。
【0028】
本発明のアプタマーは、PQQGDHの酵素活性を大きく損なうことなくPQQGDHと結合できるという特徴を有する。従って、PQQGDH標識すべき所望のポリヌクレオチドに本発明のアプタマーを連結しておけば、本発明のアプタマーを介して、PQQGDHの酵素活性を好ましく維持した状態で所望のポリヌクレオチドにPQQGDH標識を付加することが可能になる。このような、アプタマーを介する標識酵素の付加方法自体は、非特許文献2に開示され公知である。
【0029】
本発明のアプタマーを利用したPQQGDH標識方法では、PQQGDHで標識すべきポリヌクレオチドに本発明のアプタマーを連結しておく。PQQGDH標識すべきポリヌクレオチドは、特に限定されないが、例えば、核酸の増幅や測定に用いるプライマー及びプローブ、標的分子への特異的な結合能を有するアプタマー等である。本発明のアプタマーを他のポリヌクレオチドと連結する際には、PQQGDH標識すべきポリヌクレオチドとの間のリンカーの鎖長を適宜増減してよい。例えば、PQQGDH標識すべきポリヌクレオチドがアプタマーである場合、2つのアプタマーが初期の立体構造をとるために十分なスペースを確保できる鎖長に適宜設定することができ、特に限定されないが、通常は2mer〜20mer程度、好ましくは5mer〜15mer程度である。
【0030】
本発明のアプタマーが連結されたポリヌクレオチドと、ホロ化したPQQGDHとを接触させると、PQQGDH結合性アプタマー部分にPQQGDHが結合するので、PQQGDH結合性アプタマーを介して所望のポリヌクレオチドにPQQGDH標識を付すことができる。
【0031】
本発明のアプタマーが連結されたポリヌクレオチドは、プレートやビーズ、電極等の固相に結合された形態であってもよい。固相へのポリヌクレオチドの固定化方法は公知である。また、本発明のアプタマーの固相化について上記したのと同様に、本発明のアプタマーが連結されたポリヌクレオチドもまた、任意の相補鎖領域をさらに含ませ、固相に固定化したDNAとその相補鎖との間のハイブリダイゼーションを利用して固相化することができる。
【0032】
本発明のアプタマー及び本発明のアプタマーが連結されたポリヌクレオチドは、公知の核酸合成機を用いて常法により容易に調製することができる。本発明のアプタマー又は本発明のアプタマーが連結されたポリヌクレオチドが結合したPQQGDHは、該アプタマー又は該ポリヌクレオチドをフォールディング後、ホロ化させたPQQGDHと混合し、室温で5分〜30分程度インキュベートすることにより容易に調製することができる。
【0033】
下記実施例に記載されるように、本発明のアプタマーは、もととなったPGa4と比較して、任意の付加領域を持たせた場合でもPQQGDHとの結合や活性維持に悪影響を受けにくい。従って、所望の標的分子に結合するアプタマーその他の任意のポリヌクレオチドと連結した場合でも、PQQGDHへの結合能に悪影響を受ける恐れは少ないと考えられる。また、本発明のアプタマーは公知の種々のアプタマーと比較してサイズが小さいため、連結した他方のアプタマーに対しても、その立体構造や結合能に及ぼす影響は少ないと期待される。従って、本発明のアプタマーは、他のアプタマー等と組み合わせて検出系を構築する際に有利である。特に、PQQGDHは、グルコースに対する触媒活性が非常に高いこと、既存のセンシングシステムの適用が可能であること等の観点から、センシングのための標識酵素として非常に有望である。本発明のアプタマーは、PQQGDHを利用したセンシングシステムの開発にも大いに貢献するものである。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0035】
材料及び方法
材料
本実験では、本願発明者らが過去に創製したPQQGDH結合性アプタマーPGa4(配列番号2)を用いた。このアプタマーは、30merのランダム配列にプライマー配列を付加したランダムssDNAライブラリー(配列番号1)からSELEX法によるスクリーニングを経て創製されたものである。具体的には、PQQGDHと競合タンパク質(C-reactive protein及びAlpha-fetoprotein)とを固定化したニトロセルロース膜を用いて、この膜に対してランダムライブラリーを反応させ、PQQGDHに結合したssDNAを回収する、という操作を6ラウンド繰り返すことにより創製されたものである(特許文献3)。
【0036】
ビオチン修飾アプタマー及びFITC修飾アプタマー等のオリゴヌクレオチドは、全てオペロンテクノロジーズ社(米国アラバマ州)又はインビトロジェン社(米国カリフォルニア州)から購入した。オリゴヌクレオチドは、95℃で3分間加熱した後に約2℃/分の速度でTBSバッファー(10 mM Tris-HCl (pH 7.4), 150 mM NaCl, 5 mM KCl)中にて室温まで徐々に冷却(フォールディング)してから実験に用いた。PQQGDHはシスメックス国際試薬株式会社(日本国兵庫県)から購入した。10μM PQQGDHを100μM PQQ及び100 mM CaCl2と混合し、室温で30分間インキュベートしてホロ化したものを実験に用いた。セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識ニュートラアビジンはサーモフィッシャーサイエンティフィック社(米国マサチューセッツ州)から、HRP標識抗FITC抗体はタカラバイオ社(日本国滋賀県)から購入した。Magnosphere(商品名)MS300ストレプトアビジンはJSR株式会社(日本国東京)から購入した。
【0037】
円偏光二色性(CD)スペクトル測定
PGa4(20μM)及び短縮型変異体のCDスペクトルは、J-720分光偏光計(JASCO、日本国東京)により、0.1 cm光路長キュベットを用いて25℃、200-320 nmで測定した。
【0038】
Native PAGE
500 nMのFITC修飾オリゴヌクレオチドを0.1μM又は1μMのホロ化PQQGDHと共に室温で30分間インキュベートした。該混合物を10%アクリルアミドのnative PAGEに付した。Typhoon 8600(GEヘルスケア)で蛍光を検出した。
【0039】
酵素結合オリゴヌクレオチドアッセイ(ELONA)
96ウェルマイクロタイタープレート上にホロ化PQQGDHを吸着させ、4%スキムミルクでブロッキングした。0.05%TBST(0.05%Tween20を含むTBSバッファー)でプレートを6回洗浄後、ビオチン修飾オリゴヌクレオチド又はFITC修飾オリゴヌクレオチドをプレートに加えてインキュベートした。洗浄後、プレートをHRP標識ニュートラアビジン又はHRP標識抗FITC抗体と共にインキュベートした。洗浄後、各ウェルにBMケミルミネッセンスELISA基質(POD)を加え、ARVO MX 1420マルチラベルリーダー(パーキンエルマー)で化学発光を測定した。
【0040】
ビーズアッセイ
ストレプトアビジンを固定化した磁性粒子Magnosphere(商品名)MS300ストレプトアビジン100μgをTBSバッファーで洗浄し、各ビオチン修飾オリゴヌクレオチド200 pmolと共にインキュベートした後、4%スキムミルクでブロッキングした。ビーズを0.05% TBSTで5回洗浄後、100μg/mLホロ化PQQGDHと共に1時間インキュベートした。5回洗浄後、ビーズをTBSバッファー100μLに懸濁した。アプタマーに結合したPQQGDHの活性は、0.6 mMフェナジンメトサルフェート(PMS)及び0.06 mM 2,6-ジクロロフェノールインドフェノール(DCIP)を用いて、600 nmにおけるDCIPの吸光度の減少をモニターすることにより測定した。
【0041】
結果
モチーフ解析
最近接塩基対法を用いた核酸構造予測プログラムであるM-fold(商品名)ウェブサーバーver6(The Bioinformatics Center at Rensselaer and Wadsworth のウェブサイトからダウンロード可能)によりPGa4の二次構造を予測したところ、プライマー領域を含め3つのヘアピン構造を形成することが予測された。この二次構造に基づいていくつかの短縮型変異体を設計したが、PQQGDHに対する親和性が失われてしまった(データ省略)。
【0042】
M-foldには予測できない構造があり、例えばグアニン残基4個からなる塩基対の数対によって形成されるG四重鎖構造はM-foldでは予測できない。PGa4は、ランダムssDNAライブラリーのランダム領域に由来する29merの領域内に17個のグアニン残基を有している。PGa4のCDスペクトル解析によると、275 nm付近にポジティブバンド、245 nm付近にネガティブバンドが観察された(図1(a))。平行型G四重鎖構造の典型的なCDスペクトルでは、265 nmにポジティブバンド、240 nmにネガティブバンドが見られる(Balagurumoorthy, P. et al. Nucleic acids research, 20, 4061-4067)。観察されたCDスペクトルは、PGa4が平行型のG四重鎖構造をとっていることを示唆している。
【0043】
次いで、フォールディングしたPGa4がモノマー構造とオリゴマー構造のいずれをとっているかを調べた。Native PAGEの結果は、PGa4がオリゴマー構造を形成し得ることを示していた(図1(b))。M-foldハイブリダイゼーションプログラムによる予測では、2個のPGa4間にはたった4つの不安定なワトソン−クリック塩基対しか存在しなかったため、PGa4はワトソン−クリック塩基対による二重鎖構造を形成していないと考えられた。また、オリゴマーのバンドの蛍光は、PQQGDHの添加によりPQQGDHの位置までシフトした。以上の結果は、PGa4がG四重鎖構造をとっていること、このG四重鎖構造を介してPQQGDHを認識していることを示している。
【0044】
PGa4のグアニンリッチな領域以外の残基がPQQGDHの認識に関与しているかどうかを確認するため、PGa4のランダム領域を5つの領域に分け、各領域をランダムヌクレオチドで置き換えた変異体を作製した(表1、Pmut#1〜#5)。Pmut#1、Pmut#4及びPmut#5はELONAでPGa4と同程度のシグナルを示したが、その一方、Pmut#2及びPmut#3はPGa4と比較して結合能が低下していた(図1(c))。PGa4にはグアニン残基が8個連続する領域(配列番号2中25nt〜32nt)があるが、Pmut#2はこのグアニン連続領域のうちの6残基がランダムヌクレオチドに置き換わったものであり、Pmut#3では該領域のうちの2残基のみが置き換わっている。両者を比較すると、Pmut#2の方がPmut#3よりも結合能が低下していた。従って、PQQGDHの認識には、このグアニン残基が8個連続する領域のみが重要であると考えられた。
【0045】
【表1】

【0046】
短縮型変異体の設計及び評価
上記モチーフ解析に基づき、次の3種の短縮型変異体を設計した(表2)。
ΔPGa4-8:グアニンが8個連続する配列
ΔPGa4-14:PGa4のグアニンリッチ配列
ΔPGa4-29:PGa4からプライマー配列を除いた配列
【0047】
立体障害を回避するため、各短縮型変異体には5'末端にチミンリンカーを付加した。また、末端にグアニン連続領域があるとGワイヤーへの重合が生じるおそれがあるため、これを防止する目的で、ΔPGa4-8とΔPGa4-14の3'末端にはチミンを2個付加した。
【0048】
【表2】

【0049】
図2(a)にELONAの結果を示す。もとのPGa4及び3種の短縮型変異体では、いずれも同程度のシグナルが観察され、もとのPGa4の結合能が維持されていることが確認された。これらの結果は、PQQGDHの認識のためのコア領域が連続したグアニン残基から成る領域であることを示している。短縮型変異体のCDスペクトル解析によると、ΔPGa4-8とΔPGa4-14においても、265 nm付近のポジティブバンド及び240 nm付近のネガティブバンドが観察された(図2(b))。短縮型変異体のCDスペクトルは、もとのPGa4よりもさらに、平行型G四重鎖構造のスペクトルに近似したものであった。
【0050】
短縮型変異体を介した酵素標識
ここで設計した短縮型変異体をラベリングに使用できるかどうかを調べるため、2通りの方法にてアプタマーを介してビーズ上に酵素を捕捉し、捕捉された酵素の活性を評価した。
【0051】
本発明者らは以前に、ビオチン修飾したPGa4とストレプトアビジンビーズを用いて、アビジン−ビオチン相互作用によりPGa4をビーズ上に固定化し、このPGa4にPQQGDHを結合させることで、PGa4を介して酵素活性を維持した状態でPQQGDHをビーズ上に捕捉できることを確認している。しかしながら、PGa4は65merと比較的鎖長が長いアプタマーである。標的結合アプタマーを酵素標識するためにアプタマーを利用する場合、2つのアプタマーを直接ないしは間接的に連結する必要があるが、標識酵素に対するアプタマーの鎖長が長いと、標的結合アプタマーの立体構造に干渉する可能性があり、また、長いアプタマーを直接的に連結するとアプタマー同士が部分的に新たなハイブリダイゼーションを形成し、別の立体構造をとってしまうなどの不都合が生じるおそれがある。また、長いDNAの合成はコスト面でも不利である。従って、ラベリングに利用するアプタマーの鎖長は、できる限り短いことが望ましい。
【0052】
本実験では、上記で設計した短縮型アプタマーΔPGa4-8及びΔPGa4-14について、ラベリングへの応用性を検討した。ビーズ上への固定化方法として、(1)アビジン−ビオチン相互作用による固定化と、(2)付加配列−相補配列間のハイブリダイゼーションによる固定化の2通りを実施して比較した。(2)のハイブリダイゼーションによる固定化では、付加配列として配列番号14に示す11merのCaDNAを用い、各アプタマーには適宜チミンリンカーを介してCaDNAの相補配列を付加した(表3)。CaDNAをビオチン修飾してストレプトアビジンビーズ上に固定化し、これにCaDNA相補配列を含んだ各アプタマーをハイブリダイズさせ、このアプタマーにPQQGDHを捕捉させた。
【0053】
【表3】

【0054】
アプタマーをビオチン修飾してビーズ上に固定化した(1)の場合には、PGa4全長及び各短縮型アプタマーとの間で、捕捉されたPQQGDHの酵素活性に特段の差異は見られなかった(図3(a))。一方、アプタマーに相補配列を持たせてハイブリダイゼーションにより固定化した(2)の場合には、短縮型アプタマーに捕捉されたPQQGDHの活性は、PGa4に捕捉されたPQQGDHの活性の2倍以上高く保持されていた(図3(b))。PGa4の方が活性が低かったのは、追加した配列との予期しない相互作用によるものと推察される。このように、短縮化は、ハイブリダイゼーションによるラベリング用のPQQGDH結合性アプタマーの構築に有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GGGGGGGGから成る領域、又は該領域において1個の塩基が置換し、欠失し若しくは挿入された領域を含み、サイズが30mer以下であるPQQGDH結合性アプタマー。
【請求項2】
前記領域がGGGGGGGGから成る領域である請求項1記載のアプタマー。
【請求項3】
前記アプタマーは、前記領域と、該領域の片末端又は両末端に付加された少なくとも2merのリンカーから成る請求項1又は2記載のアプタマー。
【請求項4】
前記リンカーがチミンから成る請求項3記載のアプタマー。
【請求項5】
前記アプタマーが配列表の配列番号8又は9に示された塩基配列から成る請求項4記載のアプタマー。
【請求項6】
所望の他のポリヌクレオチドと連結された形態にある請求項1ないし5のいずれか1項に記載のアプタマー。
【請求項7】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のアプタマーと、任意の付加領域とから成るポリヌクレオチド。
【請求項8】
前記付加領域が、固相に固定化されたポリヌクレオチドとの間のハイブリダイゼーションを介して前記アプタマーを前記固相に固定化するための領域である請求項7記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
前記付加領域が、任意の標的分子に特異的に結合するアプタマーの配列から成る請求項7記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のアプタマーが連結された所望のポリヌクレオチドと、PQQGDHとを接触させることにより、前記アプタマーを介して前記所望のポリヌクレオチドにPQQGDHを結合させることを含む、ポリヌクレオチドをPQQGDH標識する方法。
【請求項11】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のアプタマーが結合したPQQGDH。
【請求項12】
請求項7ないし9のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドが結合したPQQGDH。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−167100(P2011−167100A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32342(P2010−32342)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度第1回 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 産業技術研究助成事業「進化模倣アルゴリズムを用いてアプタマーモジュールを組み合わせる高機能アプタマー探索法の開発」委託研究 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】