説明

PTCサーミスタ

【課題】 熱硬化性樹脂組成物の硬化物をサーミスタ素体として用いながら、室温抵抗値のばらつきが十分に抑制されたPTCサーミスタを提供すること。
【解決手段】 エポキシ樹脂、フェノール系硬化剤及び導電性粒子を含有するエポキシ樹脂組成物の硬化物を含むサーミスタ素体1と、これを間に挟んで対向配置された一対の導電体層2,3と、を備えるPTCサーミスタ10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PTC(PositiveTemperature Coefficient)サーミスタに関する。
【背景技術】
【0002】
PTCサーミスタは、一般に、互いに対向した状態で電極として配置された一対の導電体層と、これらの間に配置されたサーミスタ素体とを少なくとも備える構成を有している。このPTCサーミスタは、一定の温度範囲において温度の上昇とともにその抵抗値が急激に増大する「正の抵抗−温度特性」を発現する。このような特性を利用して、PTCサーミスタは、例えば、自己制御型発熱体、温度センサ、限流素子、過電流保護素子等として、電子機器の回路保護に使用される。
【0003】
有機系のPTCサーミスタとしては、熱可塑性樹脂中に導電性粒子を分散させたサーミスタ素体を用いたものが知られているが、近年、より簡易な工程で製造できること等に着目して、エポキシ樹脂組成物の硬化物をサーミスタ素体として用いたPTCサーミスタ素体が提案されている(特許文献1)。エポキシ樹脂組成物を用いたPTCサーミスタ素体の場合、エポキシ樹脂の硬化剤としては、従来、PTCサーミスタの初期の室温抵抗値を小さくすることができる点等から、酸無水物が主として用いられている。酸無水物を用いた場合、PTCサーミスタを製造するために未硬化のエポキシ樹脂組成物を金属箔で挟んで加熱及び加圧したときに、金属箔表面の微細な凹凸を埋めるように樹脂組成物が大きく流動して、金属箔とサーミスタ素体との接触面積が大きくなると考えられる。金属箔とサーミスタ素体との接触面積が大きいと、PTCサーミスタの室温抵抗値が小さくなる。
【特許文献1】国際公開第2004/086421号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、熱硬化性樹脂組成物を用いた従来のPTCサーミスタの場合、非動作時の室温抵抗値のばらつきが大きいという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、熱硬化性樹脂組成物の硬化物をサーミスタ素体として用いながら、室温抵抗値のばらつきが十分に抑制されたPTCサーミスタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のPTCサーミスタは、エポキシ樹脂、フェノール系硬化剤及び導電性粒子を含有するエポキシ樹脂組成物の硬化物を含むサーミスタ素体と、これを間に挟んで対向配置された一対の導電体層と、を備える。
【0007】
上記本発明のPTCサーミスタは、エポキシ樹脂の硬化剤としてフェノール系硬化剤を用いたことにより、室温抵抗値のばらつきが十分に抑制されたものとなった。一般に、フェノール系硬化剤は硬化温度においても酸無水物等の他の硬化剤と比較して高粘度であり、これを用いた樹脂組成物は硬化の際の流動性が小さいか場合によっては実質的に流動しない状態となる。したがって、フェノール系硬化剤を用いると、金属箔等の導電体層とサーミスタ素体との接触面積が小さくなってPTCサーミスタの室温抵抗値が高くなるとことも予想された。ところが、本発明者による検討の結果、フェノール系硬化剤を用いることによって、室温抵抗値の著しい上昇を伴うことなく、室温抵抗値のばらつきを十分に抑制することが可能であることが明らかとなった。フェノール系硬化剤を用いた樹脂組成物は、流動性が小さいか場合によっては実質的に流動しない状態で硬化するため、導電性粒子の偏りが生じず、これにより室温抵抗値のばらつきが抑制されると考えられる。
【0008】
フェノール系硬化剤は、ノボラックフェノール、クレゾールノボラックフェノール、ビフェニル骨格含有ノボラックフェノール及びジシクロペンタジエン型ノボラックフェノールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより、室温抵抗値のばらつき抑制の効果がより顕著に奏される。
【0009】
フェノール系硬化剤の軟化点は、60℃以上であることが好ましい。これにより、エポキシ樹脂組成物が固形、又は高粘度の半固形の状態となり、室温抵抗値のばらつき抑制の効果がより顕著に奏される。
【0010】
エポキシ樹脂は、ポリオキシアルキレン、ポリアルキレン、ポリシロキサン、ポリブタジエン、及び脂肪酸、ポリエステルポリオール又はポリカーボネートジオールから誘導される分子鎖からなる群から選ばれる少なくとも1種のソフトセグメントを有する可撓性エポキシ樹脂と、脂環式エポキシ樹脂と、を含むことが好ましい。リフロー工程等における熱履歴を受けたときに、PTCサーミスタの室温抵抗値が初期の値から大きく上昇してしまうといった問題が起こることがあるが、これら2種のエポキシ樹脂を併用することにより、このような室温抵抗値の上昇が顕著に抑制される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱硬化性樹脂組成物の硬化物をサーミスタ素体として用いながら、室温抵抗値のばらつきが十分に抑制されたPTCサーミスタが提供される。また、本発明のPTCサーミスタは、優れた耐熱性、耐酸化性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明に係るPTCサーミスタの一実施形態を模式的に示す斜視図である。図1に示すPTCサーミスタ10は、互いに対向するように配置された一対の導電体層2及び導電体層3と、導電体層2,3の間においてこれら導電体層に密着して設けられたサーミスタ素体1と、から構成され、全体として略直方体状をなしている。PTCサーミスタ10は、必要に応じて、導電体層2,3にそれぞれ電気的に接続されたリード(図示せず)を更に有していてもよい。PTCサーミスタ10は、過電流・加熱保護素子、自己制御型発熱体、温度センサ等として好適に用いることができる。
【0014】
導電体層2,3は、PTCサーミスタの電極として機能する導電性材料で形成されている。導電体層2,3を形成する材料としては、ニッケル、銀、金、銅、アルミニウム等の金属、又はそれらの合金からなることが好ましい。更には、素子の低抵抗化と比較的低コストという点でNiが好ましい。導電体層2,3は金属箔であることが好ましく、その厚さは1〜100μmであることが好ましく、PTCサーミスタの軽量化の点からは、1〜50μmであることがより好ましい。また、リードは、それぞれ導電体層2,3から外部に電荷を放出又は注入することが可能な電気伝導性を有していれば、その形状や材質について特に限定されない。
【0015】
サーミスタ素体1は、導電性粒子を含有するエポキシ樹脂組成物が硬化して形成される不溶性の硬化物で形成されている。すなわち、サーミスタ素体1は、エポキシ樹脂が架橋して形成される不溶性の架橋体及び導電性粒子を含有する。これにより、サーミスタ素体1は正の抵抗−温度特性を発現する。サーミスタ素体1の厚さは、0.2〜1.0mmであることが好ましい。サーミスタ素体1の厚さが1.0mmを超えると、厚さが上記範囲内にある場合に比べて初期室温抵抗値のばらつきが大きくなる傾向にある。また、サーミスタ素体1の厚さが0.2mm未満であると、厚さが上記範囲内にある場合に比べて、ショートが発生して正常な室温抵抗値が得られ難くなる傾向にある。
【0016】
サーミスタ素体1を形成させるためのエポキシ樹脂組成物は、室温(25℃)で固形の状態であることが好ましい。これにより、後述するような、樹脂シートを用いた製造方法によってPTCサーミスタを容易に製造することが可能になる。この場合、エポキシ樹脂組成物は、自立してシート状の形状を保つことが可能な状態であればよく、例えば長時間応力を受けたときに変形を生じるような粘弾性体であってもよい。
【0017】
エポキシ樹脂組成物においては、フェノール性水酸基を複数有するポリフェノール化合物からなるフェノール系硬化剤が用いられる。特に、室温抵抗値のばらつき抑制効果を高めるために、固形のフェノール系硬化剤が好ましい。また、同様の理由から、フェノール系硬化剤の軟化点(環球法により測定される値)は40℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましい。
【0018】
フェノール系硬化剤の好適な具体例としては、ノボラックフェノール、クレゾールノボラックフェノール、ビフェニル骨格含有ノボラックフェノール、ナフトール骨格含有ノボラックフェノール、ナフタレンジオール骨格含有ノボラックフェノール、ジシクロペンタジエン型ノボラックフェノール及びキシレン変性ノボラックフェノールが挙げられる。これらの中でも、フェノール系硬化剤は、ノボラックフェノール、クレゾールノボラックフェノール、ビフェニル骨格含有ノボラックフェノール及びジシクロペンタジエン型ノボラックフェノールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0019】
エポキシ樹脂は、複数のエポキシ基を有する単一又は複数種のポリエポキシ化合物からなる樹脂のことを意味する。エポキシ樹脂は、固形であっても液状であってもよい。
【0020】
エポキシ樹脂は、ポリオキシアルキレン、ポリアルキレン、ポリシロキサン、ポリブタジエン、及び脂肪酸、ポリエステルポリオール又はポリカーボネートジオールから誘導される分子鎖からなる群から選ばれる少なくとも1種のソフトセグメントを有するポリエポキシ化合物からなる可撓性エポキシ樹脂を含むことが好ましい。
【0021】
ポリアルキレンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等が、ポリシロキサンとしては、ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。ポリオキシアルキレンとしては、下記一般式(11)、(12)、(13)又は(14)で表される2価の基が好ましい。式(11)、(12)、(13)及び(14)中、a、b、c及びdはそれぞれ独立に1〜20の整数を示す。
【化1】

【0022】
上記ポリオキシアルキレンを有するポリエポキシ化合物としては、ビスフェノール化合物のアルキレンオキシド付加物のポリグリシジルエーテルが好ましい。より具体的には、下記一般式(1)又は(2)で表されるポリエポキシ化合物が好ましい。式(1)及び(2)中、L及びLは2価の有機基を示し、n、n、n及びnは、それぞれ独立に1以上の整数を示す。n、n、n及びnは、1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましい。
【化2】

【0023】
及びLとしては、下記化学式(31)、(32)又は(33)で表される2価の基が好ましい。
【化3】

【0024】
特に、上記式(1)におけるLが上記式(31)で表される2価の基である、下記一般式(1a)で表されるポリエポキシ化合物からなる可撓性エポキシ樹脂が特に好ましい。
【化4】

【0025】
ポリシロキサンを有するポリエポキシ化合物としては、末端にエポキシ基を有するエポキシ変性ポリシリコーン、アミノ変性ポリシリコーンとポリエポキシ化合物との反応によって生成する化合物等が挙げられる。ポリブタジエンを有するポリエポキシ化合物としては、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)のカルボキシル基とポリエポキシ化合物との反応によって生成する化合物が挙げられる。脂肪酸から誘導される分子鎖を有するポリエポキシ化合物としては、ダイマー酸等の脂肪酸のポリグリシジルエステルが挙げられる。ポリエステルポリオール又はポリカーボネートジオールから誘導される分子鎖を有するポリエポキシ化合物としては、ポリエステルポリオール又はポリカーボネートジオールとポリイソシアネートとの反応により生成するポリウレタンプレポリマー中のイソシアネート基と、ポリエポキシ化合物中の水酸基との反応によって生成する化合物等が挙げられる。
【0026】
エポキシ樹脂は、脂環基を有するポリエポキシ化合物からなる脂環式エポキシ樹脂を含むことが好ましい。ここで、脂環基は、主として飽和炭化水素で構成される環状の有機基であり、環を構成する原子として酸素原子、窒素原子及び硫黄原子等の異原子を含むものや、部分的に不飽和結合を有するものも含むこととする。また、この脂環基は置換基を有していてもよい。硬化物の可とう性を大きくするために、この脂環基としては、シクロヘキサン環、シクロペンタン環又はジシクロペンタジエン環からなる2価の基が好ましく、シクロヘキサン環又はシクロペンタン環からなる2価の基が特に好ましい。
【0027】
脂環式エポキシ樹脂の好適な具体例としては、例えば、下記化学式(3)、(4)、(5)、(6)、(7)又は(8)で表されるものが挙げられる。これらの中でも、式(3)、(4)又は(5)で表される脂環式エポキシ樹脂が特に好ましい。
【化5】

【0028】
エポキシ樹脂は、特に、可撓性エポキシ樹脂(好ましくはポリオキシアルキレンを有するポリエポキシ化合物からなる可撓性エポキシ樹脂)及び脂環式エポキシ樹脂を含むことが好ましい。すなわち、熱硬化性樹脂組成物が、可撓性エポキシ樹脂及び脂環式エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂と、フェノール系硬化剤(好ましくは固形のフェノール系硬化剤)と、導電性粒子とを含有することが好ましい。リフロー工程等における熱履歴を受けたときに、PTCサーミスタの室温抵抗値が初期の値から大きく上昇してしまうという問題が起こることがあるが、これら2種のエポキシ樹脂を併用することにより、このような室温抵抗値の上昇が顕著に抑制される。
【0029】
エポキシ樹脂としては、上記の可撓性エポキシ樹脂及び脂環式エポキシ樹脂の他、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のグリシジルーテル型エポキシ樹脂や、フタル酸及びテレフタル酸等のポリカルボン酸のポリグリシジルエステルを単独で又は複数組み合わせて用いることができる。
【0030】
導電性粒子は、電気伝導性を有する粒子であれば特に限定されず、例えば、カーボンブラック、グラファイト、各形状の金属粒子若しくはセラミック系導電性粒子を用いることができる。金属粒子の金属材料としては、銅、アルミニウム、ニッケル、タングステン、モリブデン、銀、亜鉛、コバルト、及び銅紛にニッケルめっきを施したもの等が挙げられる。セラミック系導電性粒子の材料としては、TiC及びWC等が挙げられる。これら導電性粒子は、1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
導電性粒子としては、特に、金属粒子が好ましい。導電性粒子として金属粒子を用いると、PTCサーミスタの抵抗変化率を十分に大きく維持しつつ、室温抵抗値をより低下させることができ、例えば、PTCサーミスタを過電流保護素子として用いる場合に好適である。さらに、金属粒子の中でも、酸化され難い等、化学的安定性の観点から、ニッケル粒子が特に好ましい。
【0032】
導電性粒子の形状は特に限定されず、球状、フレーク状、繊維状及び棒状等が挙げられるが、粒子の表面にスパイク状の突起を有するものが好ましい。スパイク状の突起を有する導電性粒子を用いることにより、隣接する粒子間におけるトンネル電流が流れやすくなるため、PTCサーミスタの抵抗変化率を十分に確保したまま、室温抵抗値をより低くすることができる。また、真球状の粒子に比べて、粒子同士の中心間距離を大きくすることができるため、さらに大きな抵抗変化率を得ることができる。さらに、繊維状の粒子を用いた場合に比べて、PTCサーミスタの室温抵抗値のばらつきを低減することができる。
【0033】
スパイク状の突起を有する導電性粒子は、一次粒子が個別に分散した粉体であってもよいが、10〜1000個程度の一次粒子が鎖状に連なりフィラメント状の二次粒子を形成しているものが好ましい。また、その材質は金属が好ましく、ニッケルを主成分とするものがより好ましい。さらに、導電性粒子は、比表面積が0.3〜3.0m/gであって、見かけ密度が3.0g/cm以下であることが好ましい。ここで、「比表面積」とは、BET一点法に基づく窒素ガス吸着法により求められる比表面積のことを意味する。
【0034】
導電性粒子の一次粒子の平均粒径は、0.1〜7.0μmであることが好ましく、0.5〜5.0μmであることがより好ましい。ここで、一次粒子の平均粒径はフィッシャー・サブシーブ法で測定される値とする。
【0035】
商業的に入手可能なスパイク状の突起を有する導電性粒子としては、例えば、「INCO Type210」、「INCO Type255」、「INCO Type270」、「INCO Type287」(いずれもINCO社製、商品名)等が挙げられる。
【0036】
サーミスタ素体における導電性粒子の含有割合は、サーミスタ素体全体を基準として5〜90質量%であることが好ましく、60〜80質量%であることがより好ましい。導電性粒子の含有割合が50質量%未満であると、低い室温抵抗値が得られ難くなる傾向にあり、90質量%を超えると、大きな抵抗変化率を得ることが困難になる傾向にある。
【0037】
熱硬化性樹脂組成物は、以上のような成分の他、ゴム微粒子、熱可塑性樹脂、ワックス、油脂、脂肪酸、高級アルコール等を、必要に応じてさらに含有していてもよい。
【0038】
図2、3及び4は、本発明に係るPTCサーミスタの製造方法の一例を示す断面図である。すなわち、本発明のPTCサーミスタは、上述のエポキシ樹脂組成物を含む樹脂シート1aを形成させる工程と、樹脂シート1a中のエポキシ樹脂組成物を硬化してシート状のサーミスタ素体1を形成させる工程と、サーミスタ素体1を間に挟んで対向配置されるように1対の導電体層2,3を形成させる工程と、サーミスタ素体1及びこれを間に挟んで対向配置された一対の導電体層2,3を有する積層体からPTCサーミスタ10を切り出す工程と、を備える製造方法によって、好適に製造することができる。
【0039】
樹脂シート1aは、未硬化のエポキシ樹脂組成物をシート状に成形したものである。ただし、樹脂シート1a中のエポキシ樹脂は部分的に硬化(架橋)が進行していてもよい。樹脂シート1aは、それ自体で自立してシート状の形状を保つことが可能なシートであり、例えば支持体上に形成された液状組成物の膜とは異なる。
【0040】
樹脂シート1aは、好ましくは、上述のエポキシ樹脂組成物を溶媒に溶解又は分散した液状組成物の膜を形成する工程と、膜中の溶媒を除去する工程とを経て形成される。液状組成物はある程度の粘性を有するペーストであってもよい。溶媒としては、アルコールやアセトンなどの有機溶媒が好適に用いられる。液状組成物の膜は、例えば、液状組成物を従来公知の方法でPETフィルム等の支持体上に塗布することにより形成させることができる。膜中の溶媒は加熱により除去することができる。このとき、溶媒は実質的に除去されればよく、PTCサーミスタの特性が著しく損なわれない範囲で微量の溶媒が樹脂シート1a中に残存していてもよい。また、加熱の際、エポキシ樹脂の架橋反応が部分的に進行してもよい。
【0041】
所定のサイズに切り出された複数の樹脂シート1aを重ね、これらを間に挟んで対向するように2枚の金属箔12,13が載置された積層体(図2)を加熱及び加圧することにより、樹脂シート1a中のエポキシ樹脂組成物が硬化してシート状のサーミスタ素体1が形成されるとともに、サーミスタ素体1と密着した金属箔からなる導電体層2,3がサーミスタ素体1を間に挟んで対向配置されるように形成される(図3)。すなわち、この場合には、サーミスタ素体を形成させる工程及び導電体層を形成させる工程が同時に又は連続的に行われる。加熱及び加圧は、プレス機を用いて行うことができる。
【0042】
このときの加熱の条件は、硬化剤の種類等に応じて、エポキシ樹脂組成物の硬化が十分に進行するように適宜設定すればよいが、典型的には、100〜180℃で、60〜180分加熱する。また、加圧の条件は、導電体層がサーミスタ素体と十分に密着するように適宜調整される。好ましくは、1〜4Paの圧力で積層体を加圧する。
【0043】
硬化後の積層体20(図3)から、打ち抜き等により所望の形状及び大きさを有するPTCサーミスタ10が切り出される(図4)。打ち抜きは、ネコプレス等、PTCサーミスタを得るために通常用いられる方法で行うことができる。
【0044】
上記の製造方法に代えて、例えば、シート状のサーミスタ素体を単独で形成させた後、サーミスタ素体の両側に導電体層を形成させてもよい。この場合、金属箔を圧着する方法の他、スパッタリング等の気相成長法によって導電体層を形成させることができる。あるいは、樹脂シートの両側に導電体層を形成させてから、エポキシ樹脂組成物を硬化してサーミスタ素体を形成させてもよい。この場合、エポキシ樹脂組成物を含む樹脂シートを形成させる工程と、樹脂シートを間に挟んで対向配置されるように1対の導電体層を形成させる工程と、樹脂シート中のエポキシ樹脂組成物を硬化してサーミスタ素体を形成させる工程と、を備える製造方法によってPTCサーミスタが得られる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
シクロヘキサン環からなる脂環基を有する脂環式エポキシ樹脂(商品名「E4080」、旭電化工業製、エポキシ当量167g/eq)と、ポリオキシアルキレンをソフトセグメントとして有するポリエポキシ化合物からなる可撓性エポキシ樹脂(商品名「E4005」、旭電化工業製、エポキシ当量510g/eq)とを重量比1:1で混合した混合物に、硬化剤としてノボラックフェノール(商品名「TD−2090」、大日本インキ化学工業製、水酸基当量106g/eq、軟化点90℃)を等量配合になるように配合した。この配合物100wt%に対して2wt%の硬化促進剤「2E4MZ」(商品名、四国化成製)と50wt%のMEKを添加し、ホモジナイザーで攪拌して、配合物をMEKに溶解させた。この溶液に400wt%のフィラメント状ニッケルフィラー(商品名「TYPE255」、INCO製、平均粒径2.5μm)を添加し全体を攪拌して、ニッケルフィラーが分散した液状組成物を調製した。
【0047】
この液状組成物を厚さ25μmのPETフィルム上に塗布し、120℃で16分加熱することにより乾燥して、固形の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂シート(厚さ100μm、サイズ100x100mm)を得た。この樹脂シートを5枚積層し、その両側にNi箔を載置した積層体を、150℃、2MPaで約2時間加熱及び加圧することにより、樹脂組成物を硬化してシート状のサーミスタ素体を形成させるとともに、その両面にNi箔を導電体層として密着させた。そして、硬化後の積層体の中心部分、及び積層体の中心から45mm離れた部分から、PTCサーミスタ(主面のサイズが4.5x3mm、厚さ500μm)をそれぞれ10個ずつ切り出した。
【0048】
(実施例2)
可撓性エポキシ樹脂「E4005」に、硬化剤としてノボラックフェノール「TD−2090」を等量配合になるように配合した配合物を用いた他は実施例1と同様にして、主面のサイズが4.5x3mm、厚さ500μmの複数のPTCサーミスタを得た。
【0049】
(比較例1)
エポキシ樹脂「E4080」と、エポキシ樹脂「E4005」とを重量比2:1で混合した混合物に、硬化剤として液状のメチルテトラヒドロ無水フタル酸(商品名「B570」、大日本インキ工業製、酸無水物当量160g/eq)を等量配合になるように配合した。この配合物100wt%に対して2wt%の硬化促進剤「2E4MZ」と400wt%のフィラメント状ニッケルフィラー「TYPE255」を添加し全体を攪拌して、液状の樹脂組成物を調製した。
【0050】
得られた樹脂組成物を厚さ25μm、サイズ120x120のNi箔600上に塗布し、さらにその上にNi箔を貼り付けた貼り合わせ体を、加圧しながら150℃で約2時間加熱することにより、樹脂組成物を硬化させるとともに、その両面にNi箔からなる1対の導電体層を形成させた。なお、加圧の際には、厚さ500μmのスペーサーをプレス機熱板上の樹脂組成物周辺に2つ以上配置することにより、サーミスタ素体の厚さが500μmになるようにした。このため、スペーサーに熱板が接触してからは樹脂組成物に対して圧力は加わっていなかった。そして、硬化後の積層体の中心部分、及び積層体の中心から45mm離れた部分から、PTCサーミスタ(主面のサイズが4.5x3mm、厚さ500μm)をそれぞれ10個ずつ切り出した。
【0051】
(比較例2)
可撓性性エポキシ樹脂「E4005」に硬化剤としてメチルテトラヒドロ無水フタル酸「B570」を等量配合になるように配合した配合物を用いた他は、比較例1と銅予にして、主面のサイズが4.5x3mm、厚さ500μmの複数のPTCサーミスタを得た。
【0052】
(PTCサーミスタの評価)
上記実施例及び比較例で得られた複数のPTCサーミスタの初期の室温抵抗値を測定した。そして、得られた測定値の最大値と最小値の差を、初期抵抗ばらつき(mΩ)とした。また、PTCサーミスタからNi箔を除去し、サーミスタ素体の表面を顕微鏡で観察して、直径20μm以上の気泡の有無を確認した。
【0053】
【表1】

【0054】
表1に示すように、液状の樹脂組成物を用いて作製した比較例のPTCサーミスタでは室温抵抗値のばらつきが大きく、また、気泡の発生も認められた。これに対して、実施例のPTCサーミスタにおいては、室温抵抗値のばらつきは十分に抑制され、また、気泡の発生も防止されていた。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係るPTCサーミスタの製造方法により得られるPTCサーミスタの一例を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明に係るPTCサーミスタの製造方法の一実施形態における一工程を示す断面図である。
【図3】本発明に係るPTCサーミスタの製造方法の一実施形態における一工程を示す断面図である。
【図4】本発明に係るPTCサーミスタの製造方法の一実施形態における一工程を示す断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1…サーミスタ素体、1a…樹脂シート、2,3…電極、10…PTCサーミスタ、12,13…金属箔、20…積層体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂、フェノール系硬化剤及び導電性粒子を含有するエポキシ樹脂組成物の硬化物を含むサーミスタ素体と、
これを間に挟んで対向配置された一対の導電体層と、
を備えるPTCサーミスタ。
【請求項2】
前記フェノール系硬化剤が、ノボラックフェノール、クレゾールノボラックフェノール、ビフェニル骨格含有ノボラックフェノール及びジシクロペンタジエン型ノボラックフェノールからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1記載のPTCサーミスタ。
【請求項3】
前記フェノール系硬化剤の軟化点が60℃以上である、請求項1又は2記載のPTCサーミスタ。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂が、
ポリオキシアルキレン、ポリアルキレン、ポリシロキサン、ポリブタジエン、及び脂肪酸、ポリエステルポリオール又はポリカーボネートジオールから誘導される分子鎖からなる群から選ばれる少なくとも1種のソフトセグメントを有する可撓性エポキシ樹脂と、
脂環式エポキシ樹脂と、
を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載のPTCサーミスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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