説明

PTC素子および発熱モジュール

【課題】 BaTiOのBaの一部がBi−Naで置換された半導体磁器組成物に関して、Pbを使用することなく優れたジャンプ特性を示し、且つ経時変化を低減したPTC素子およびこれを用いた発熱モジュールを提供する。
【解決手段】 少なくとも2つのオーミック電極と、前記電極の間に配置されたBaTiOのBaの一部がBi−Naで置換された半導体磁器組成物とを有するPTC素子であって、前記電極のうち正極側の電極が含む貴金属の量は、負極側の電極が含む貴金属の量よりも少ないことを特徴とするPTC素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、PTCサーミスタ、PTCヒータ、PTCスイッチ、温度検知器などに用いられる、正の抵抗温度係数を有する半導体磁器組成物を有するPTC素子と、これを用いた発熱モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、PTCR特性(正の抵抗率温度係数:Positive Temperature Coefficient of Resistivity)を示す材料としてBaTiOに様々な半導体化元素を加えた半導体磁器組成物(PTC材料)が提案されている。これらの半導体磁器組成物は、キュリー点以上の高温になると急激に抵抗値が増大するジャンプ特性を有するので、PTCサーミスタ、PTCヒータ、PTCスイッチ、温度検知器などに用いられる。これらのキュリー温度は120℃前後であるが、用途に応じてキュリー温度をシフトさせることが必要になる。尚、本発明では、PTCR特性とジャンプ特性を区別せず、以下ジャンプ特性と記して説明する。
【0003】
例えば、BaTiOにSrTiOを添加することによってキュリー温度をシフトさせることが提案されているが、この場合、キュリー温度は負の方向にのみシフトし、正の方向にはシフトしない。現在、キュリー温度を正の方向にシフトさせる添加元素として知られているのはPbTiOである。しかし、PbTiOは環境汚染を引き起こす元素を含有するため、近年、PbTiOを使用しない材料が要望されている。
【0004】
PTC材料における大きな特徴は、PTC材料の抵抗率がキュリー点で急激に高くなること(ジャンプ特性)にあるが、これは、結晶粒界に形成された抵抗(ショットキー障壁による抵抗)が増大するために起こると考えられている。PTC材料の特性としては、この抵抗率のジャンプ特性が高く(=抵抗温度係数が高く)、かつ室温での抵抗率が安定したものが要求されている。
【0005】
特許文献1のようなPbを含有しないPTC材料は、ジャンプ特性に優れているものは室温抵抗率(25℃における電気抵抗率)が高く、室温抵抗率が低いものはジャンプ特性に劣り、ヒータなどに使用する場合は熱暴走の危険が高まってしまう傾向がある。よって、低い値で安定した室温抵抗率と優れたジャンプ特性を両立することができないという問題があった。
【0006】
そこで本発明者らは先に、上述した従来のBaTiO系半導体磁器の問題を解決するため、Pbを使用することなく、キュリー温度を正の方向へシフトすることができるとともに、室温抵抗率を大幅に低下させながらも優れたジャンプ特性を示すものとして、(BaR)TiO仮焼粉(Rは半導体化元素でLa、Dy、Eu、Gd、Yの少なくとも一種)と(BiNa)TiO仮焼粉との混合仮焼粉を成形、焼結して得られた半導体磁器組成物であって、組成式を[(BiNa)(Ba1−y1−x]TiOと表し、前記x、yが0<x≦0.2、0<y≦0.02を満足し、BiとNaの比が、Bi/Na=0.78〜1の関係にある半導体磁器組成物及びその製造方法を特許文献2で提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭56−169301号公報
【特許文献2】国際公開WO2006/118274A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この半導体磁器組成物は、Pbを使用することなくキュリー温度を正の方向にシフトさせ、室温抵抗率を低減しながらも優れたジャンプ特性を示す。しかし、これまでの発明者らの鋭意研究の結果、ジャンプ特性が高いほど経時変化が大きくなる相関があることが明らかになっており、優れたジャンプ特性を維持したまま経時変化を低減するにはまだ不完全な部分があり、優れたジャンプ特性と経時変化を低減したより高い次元での両立が求められていた。また、さらに低い値で安定した室温抵抗率を備えることが用途によっては求められていた。
【0009】
そこで、本発明の第1の目的は、BaTiOのBaの一部がBi−Naで置換された半導体磁器組成物に関して、経時変化を低減することにある。そして、優れたジャンプ特性を有するとともに経時変化を低減したPTC素子を提供することである。
また、本発明の第2の目的は、BaTiOのBaの一部がBi−Naで置換された半導体磁器組成物に関して、優れたジャンプ特性を有するとともに経時変化を低減し、さらに室温抵抗率が低い値で安定したPTC素子を提供することである。
また、本発明の第3の目的は、上記PTC素子を用いた安全性と耐久性の高い発熱モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これまでの本発明者らの鋭意研究の結果、BaTiOのBaの一部がBi−Naで置換された半導体磁器組成物(以下、PTC材料と言うことがある。)は、ジャンプ特性が高いほど経時変化が大きくなる相関があることが分かっており、さらに直流の通電による経時変化は、正極側で主に起こることを明らかにした。また、このジャンプ特性は電極と材料の界面でも発現していることを見出し、形成する電極の違いによってもジャンプ特性が大きく異なることを突き止め、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の第1の発明は、少なくとも2つのオーミック電極と、前記電極の間に配置されたBaTiOのBaの一部がBi−Naで置換された半導体磁器組成物とを有するPTC素子であって、前記電極のうち正極側の電極が含む貴金属の量は、負極側の電極が含む貴金属の量よりも少ないことを特徴とするPTC素子である。
【0012】
また、第2の発明は、前記負極側の電極は卑金属よりも貴金属を多く含み、正極側の電極は貴金属よりも卑金属を多く含むPTC素子である。
これらの発明において、貴金属はAg、Au、Pt、Pd、Rh、In、Ru、OsのうちAg、Au、Ptであり、中でもAgであることが好ましい。前記卑金属は前記貴金属以外の金属元素である。
【0013】
本発明のPTC素子は、経時変化に影響の無い負極側の電極と材料の界面でジャンプ特性を発現させ、経時変化が起きる正極側にはジャンプ特性をほとんど示さず経時変化を起こさない電極とするものである。これにより、まず第1の発明により、経時変化の低減を図ることができる。また、第2の発明により、Pbを使用することなく高いジャンプ特性を発現させつつ経時変化の低減を図ることができる。
【0014】
本発明のPTC素子のような半導体磁器材料と電極の接合では、AgやAu、Ptなどの貴金属を接合させると界面に酸化物層が介在して非常に大きな接触抵抗が形成されることが知られている。この接触抵抗を小さくするには、ZnやNiなどの卑金属を第一層として形成し、電極形成時に電極と材料の界面にできる酸化物層を、卑金属が酸化されることで取り除いて接触抵抗を低減し、さらに使用中の卑金属電極の酸化による経時変化を防ぐためにAgなどの貴金属をカバー電極として用いる方法が採られている。負極側の電極材料を構成する貴金属と卑金属は、卑金属によって適度に酸化物層が除去されるが、極わずかに酸化物層が形成されていると、この影響によって高いシャンプ特性の発現に寄与することを見出した。
【0015】
以上のことより、第3の発明は、少なくとも2つのオーミック電極と、前記電極の間に配置されたBaTiOのBaの一部がBi−Naで置換された半導体磁器組成物とを有するPTC素子であって、前記電極のうち負極側の電極と半導体磁器組成物との界面には酸化物層が存在し、前記正極側の電極と半導体磁器組成物との界面には前記負極側の酸化物層よりも酸素量が少ない酸化物層となしたことを特徴とするPTC素子である。
第3の発明によれば、高いジャンプ特性と経時変化の低減を図り、さらに材料と電極界面の接触抵抗の低減効果も期待できる。
【0016】
さらに、本発明ではBaTiOのBaの一部がBi−Naで置換された半導体磁器組成物の組成と電極材料について、所定のPTC材料と正負電極を構成する貴金属と卑金属の比率を変えることによって、ジャンプ特性や室温抵抗率も制御することが可能であることを見出した。
【0017】
本発明の第4の発明は、少なくとも2つのオーミック電極と、前記電極の間に配置されたBaTiOのBaの一部がBi−Naで置換された半導体磁器組成物とを有するPTC素子であって、前記半導体磁器組成物が、組成式を[(Bi-Na)(Ba1−y1−x]TiO(但し、Rは希土類元素のうち少なくとも一種)と表し、前記x、yが、0<x≦0.3、0≦y≦0.02を満足し、前記電極を構成する金属成分を100重量%としたとき、負極側電極はAg、Zn、Sb、Snの合金もしくは混合物からなり、その比率はAgが51重量%を超え70重量%以下、Znが15重量%以上49重量%未満、Sbが18重量%以下(0を含む)、Snが20重量%以下(0を含む)を満足し、正極側電極はAgを51重量%以下(0を含む)と、Ni、Al、Cu、Cr、Ti、Mo、Sn、Zn、Sbのいずれか一種以上の元素から構成された金属からなることを特徴とするPTC素子である。
【0018】
この発明の負極側電極は、Agの比率が70重量%を超えると接触抵抗が高くなりすぎて好ましくない。また、Znの比率が49重量%以上になると卑金属の割合が高くなりすぎて酸化物層がほぼ完全に除去され高いシャンプ特性が得られなくなってしまう。また、Sbの比率が18重量%を超えると金属の融点が高くなりすぎて電極の焼結性が悪くなり抵抗値が増加するため好ましくない。また、Snの比率が20重量%を超えると電極材料の融点が低くなりすぎ、酸化されやすくなって室温抵抗値が高くなるため好ましくない。好ましくはAgの重量比率は52重量%以上、60重量%以下、Znの比率は49重量%未満、Sbの比率は10重量%以下、Snの比率は10重量%以下、さらに好ましくはAgの重量比率は52重量%以上、56重量%以下、Znの比率は49重量%未満、Sbの比率は5重量%以下、Snの比率は5重量%以下である。
【0019】
また、正極側の電極材料としては、Ni、Al、Cu、Cr、Ti、Mo、Sn、Zn、Sbのいずれか一種以上の金属元素の比率を49重量%以上とすることで電極と材料の界面の酸化物層をほぼ完全に除去し、シャンプ特性を発現させず低い接触抵抗の接合を得ることができる。卑金属元素の比率を49重量%よりも小さくすると電極と材料の界面にシャンプ特性が発現し、経時変化を低減することができ難くなるため好ましくない。正極側の電極を上記範囲とすることで経時変化を抑えつつ、負極側の電極と材料の界面で高いジャンプ特性を持ったPTC素子を得ることができる。
【0020】
この発明で用いる半導体磁器組成物の組成式を[(Bi-Na)(Ba1−y1−x]TiO(但し、Rは希土類元素のうち少なくとも一種)と表し、前記x、yが、0<x≦0.3、0≦y≦0.02とした理由は以下の通りである。
まず、BaTiOのBaの一部がBi−Naで置換された半導体磁器組成物の中でもジャンプ特性が電極と材料の界面で発現し易い組成であるからである。そして、xの範囲を0より大きく0.3以下とすることで所望のキュリー温度を制御することができる。ここでxが0.3を超えてしまうと異相ができ易くなるため好ましくない。また、yの範囲を0以上、0.02以下とすることで室温抵抗率を小さくすることが出来る。yが0でも実施できるが0だと室温抵抗率が100Ω・cmに近くなり、例えばヒータ素子としての効率が比較的悪くなる。ただし、0.02を超えると抵抗温度係数αが7%/℃未満となりヒータ素子としての安全性が低くなる(熱暴走の危険がでる)ため好ましくない。尚、この組成においてBaの一部をさらにCa及び/又はSrで置換した半導体磁器組成物を用いることもできる。
【0021】
さらに第5の発明は、少なくとも2つのオーミック電極と、前記電極の間に配置されたBaTiOのBaの一部がBi−Naで置換された半導体磁器組成物とを有するPTC素子であって、前記半導体磁器組成物が、組成式を[(Bi-Na)Ba1−x][Ti1−z]O(但し、MはNb、Ta、Sbのうち少なくとも一種)と表し、前記x、zが、0<x≦0.3、0<z≦0.005を満足し、前記電極を構成する金属成分を100重量%としたとき、負極側電極はAg、Zn、Sb、Snの合金もしくは混合物からなり、その比率はAgが51重量%を超え70重量%以下、Znが15重量%以上49重量%未満、Sbが18重量%以下(0を含む)、Snが20重量%以下(0を含む)を満足し、正極側電極はAgを51重量%以下(0を含む)と、Ni、Al、Cu、Cr、Ti、Mo、Sn、Zn、Sbのいずれか一種以上の元素から構成された金属からなることを特徴とするPTC素子である。
【0022】
この発明で用いる半導体磁器組成物の組成式は、Tiの一部をM元素で置換したものであるが、Baの一部をBi−Naで置換している点で上記発明の組成と共通するところがある。この組成においても、xの範囲を0より大きく0.3以下とすることで所望のキュリー温度を制御することができる。xが0.3を超えてしまうと異相ができるため好ましくない。また、zの範囲を0より大きく0.005以下とすることで室温抵抗率を小さくすることが出来る。zが0だと室温抵抗率が100Ω・cmを超えて高く、例えばヒータ素子として使用することが出来なくなり、0.005を超えると抵抗温度係数αが7%/℃未満となりヒータ素子としての安全性が低くなる(熱暴走の危険がでる)ため好ましくない。尚、この組成でもCa及び/又はSrで置換した半導体磁器組成物を用いることができる。電極材料については第4の発明と同様であるので説明は省略する。
第4、第5の発明によれば、高いシャンプ特性を発現させつつも経時変化が小さく、かつ低い値で安定した室温抵抗率としたPTC素子を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、BaTiOのBaの一部がBi−Naで置換された半導体磁器組成物において経時変化を低減することができる。そして、Pbを使用することなく優れたジャンプ特性と経時変化を低減したPTC素子を提供できる。
また、別の本発明によれば、優れたジャンプ特性と経時変化を低減し、さらに室温抵抗率を低減し低い値で安定したPTC素子を提供できる。
また、さらに別の本発明によれば、上記PTC素子を用いた安全性と耐久性の高い発熱モジュールを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例8の負極側の電極と材料との界面の元素分布を示す図である。
【図2】本発明の実施例8の正極側の電極と材料との界面の元素分布を示す図である。
【図3】本発明の実施例9の正極側の電極と材料との界面の元素分布を示す図である。
【図4】本発明の実施例10の負極側の電極と材料との界面の元素分布を示す図である。
【図5】本発明のPTC素子を用いた加熱装置(発熱モジュール)を示す模式図である。
【図6】本発明の別の発熱モジュールであって、その一部を切り欠いて示す斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
まず、この発明に用いるPTC材料、及びこのPTC材料を得るための製造方法の一例を説明する。
【0026】
PTC材料の製造方法において、組成式[(Bi-Na)(Ba1−y1−x]TiOの製造に際して、(BaR)TiO仮焼粉(以下、BT仮焼粉という。)と(Bi-Na)TiO仮焼粉からなる仮焼粉(以下、BNT仮焼粉という。)を別々に用意する。その後、上記BT仮焼粉とBNT仮焼粉を適宜混合した混合仮焼粉を用いて成形体を製造する。このようにBT仮焼粉とBNT仮焼粉を別途用意し、これらを混合した混合仮焼粉を成形して焼結する分割仮焼法を採用することが好ましい。
【0027】
また、組成式[(Bi-Na)Ba1−x][Ti1−z]Oの製造に際しては、Ba(TiM)O仮焼粉(本発明では上記同様、BT仮焼粉という。)と、(Bi-Na)TiO仮焼粉からなるBNT仮焼粉を別々に用意する。その後は上記と同様に分割仮焼法を採用することが好ましい。
【0028】
上記2種類の組成系ともBaTiOのBaの一部をBi−Naで置換した材料であって、BNT仮焼粉を用意する過程が共通している。BT仮焼粉とBNT仮焼粉はそれぞれの原料粉末をそれぞれに応じた適正温度で仮焼することで得られる。例えば、BNT仮焼粉の原料粉は、通常TiO、Bi23、Na2CO3が用いられるが、Bi23は、これらの原料粉の中では融点が最も低いので焼成による揮散がより生じ易い。そこでBiが成るべく揮散しないで、かつNaの過反応が無いように700〜950℃の比較的低温で仮焼きする。一旦、BNT仮焼粉となした後は、BNT粉自体の融点は高い値で安定するので、BT仮焼粉と混合してもより高い温度で焼成できる。このように分割仮焼法の利点はBiの揮散とNaの過反応を抑え、秤量値に対しBi−Naの組成ずれの小さいBNT仮焼粉にできることにある。
分割仮焼法を用いることにより、BNT仮焼粉のBiの揮散が抑制され、Bi−Naの組成ずれを極力防止してBiとNaのモル比率Bi/Naを精度良く制御することができ、それら仮焼粉を混合して、成形、焼結することにより、室温における抵抗率が低く、キュリー温度のバラツキが抑制されたPTC材料が得られる。しかし、分割仮焼法は必須ではない。BiとNaの比は1:1を基本とするが、一括混合法等により仮焼工程などにおいて、Biが揮散してBiとNaの比にずれが生じたものでもよい。すなわち、Bi/Na比が配合時は1:1であるが、焼結体では1:1になっていない場合なども、この発明の半導体磁器組成物に含まれる。
【0029】
仮焼粉の粉砕粉にPVAを10重量%添加し、混合した後、造粒装置によって造粒した。成形は1軸プレス装置で行い、400〜700℃で脱バインダ後、所定の焼結条件で焼結し焼結体を得る。得られた焼結体を切削して適宜形状のPTC素体となす。本発明ではこのPTC素体に正極側と負極側で形成する電極材料を異種としたものである。電極の形成方法は電極ペーストの焼付け、スパッタ、溶射、めっきなどの方法があるが、特に限定されるものではない。電極の厚みはペーストの焼付けでは5〜30μm程度、スパッタでは100〜1000nm程度、溶射では10〜100μm程度、めっきでは5〜30μm程度であれば良い。また、負極側の電極形成面積を正極側と異なる面積としたり、どちらかの電極表面にプリントなどでマーキングを行うと正負の電極を容易に見分けることができる。また、本発明は材料に直接形成する電極のみを規定しているが、卑金属電極の酸化防止や、ハンダの濡れ性向上のために第2層目の電極(カバー電極)としてAg電極などを用いることもできる。また、さらに3層以上の電極構造とすることも可能である。
【0030】
また、上記PTC材料を用いてシート成形し、厚さ数100μm程度のシート材を用意し、このシートの一方に正極側の電極を、他方に負極側の電極を形成したシート成形体を1セットとし、これを複数セット積層して焼結体とする。この焼結体の端面に面した正電極同士また負電極同士を外部電極で接続する、いわゆる積層型のPTC素子とすることもできる。なお、PTC材料の厚さは20μm以上であることが望ましい。厚さが20μmよりも小さいと、焼成時に電極と材料の化学反応が進み特性が変化してしまうために好ましくない。20μm以上であれば安定した特性のPTC素子を得ることができる。異種の電極を形成する場合、このような積層体構造であると製造プロセスに比較的容易に組み入れられるので好ましい。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
分割仮焼法を用いて以下の半導体磁器組成物を得た。BaCO、TiOの原料粉末を準備し、BaTiOとなるように配合し、純水で混合した。得られた混合原料粉末を900℃で4時間大気中で仮焼し、BT仮焼粉を用意した。
【0032】
NaCO、Bi、TiOの原料粉末を準備し、Bi0.5Na0.5TiOとなるように秤量配合し、エタノール中で混合した。得られた混合原料粉末を、800℃で2時間大気中で仮焼し、BNT仮焼粉を用意した。
【0033】
用意したBT仮焼粉とBNT仮焼粉をモル比で73:7となるように配合し、純水を媒体としてポットミルにより、混合仮焼粉の中心粒径が1.0μm〜2.0μmになるまで混合、粉砕した後、乾燥させた。該混合仮焼粉の粉砕粉にPVAを10重量%添加し、混合した後、造粒装置によって造粒した。得られた造粒粉を一軸プレス装置で成形し成形体となした。この成形体を700℃で脱バインダ後、酸素濃度0.01%(100ppm)の窒素雰囲気中にて1360℃で4時間保持し、その後徐冷して40mm×25mm×4mmの焼結体を得た。
【0034】
得られた焼結体を10mm×10mm×1mmの板状に加工して試験片を作製した。負極側の電極材料としてAgとZnの重量比率(重量%)を52:48とした電極ペースト、正極側の電極材料としてAgとZnの重量比率を48:52とした電極ペーストをそれぞれ作製し、スクリーン印刷で10mm×10mmの面にそれぞれ塗布した。さらにカバー電極としてAgペーストを重ねてスクリーン印刷でそれぞれ塗布した。この時、正極側には10mm×10mmの全面に電極を形成し、負極側には9.5mm×9.5mmの面積の電極を形成して正極と負極の判別が容易になるようにした。塗布した電極を150℃で乾燥後、大気中580℃、10分間保持し焼き付けて電極を形成した。なお、上記負極側、正極側それぞれの電極ペーストは、上記金属成分100重量部に対し、ガラスフリットを3重量部、有機バインダを25重量部を添加して構成した。以下の実施例でも金属成分に対するガラスフリット及び有機バインダの添加量を一律として、金属成分の影響について評価した。
【0035】
評価方法については以下の通りである。
抵抗温度係数αは、恒温槽で260℃まで昇温しながら抵抗−温度特性を測定して算出した。
尚、抵抗温度係数αは次式で定義される。
α=(lnR−lnR)×100/(T−T
は最大抵抗率、TはRを示す温度、Tはキュリー温度、RはTにおける抵抗率である。ここでTは抵抗率が室温抵抗率の2倍となる温度とした。
この抵抗温度係数αは、ジャンプの前後でどれくらい抵抗値が増加したかを示す指標であり、数値が大きいほどジャンプ特性に優れていることを示す。本発明ではジャンプ特性を示さない電極材料とは、抵抗温度係数αが3.0未満の材料を目安としている。
【0036】
尚、負極側と正極側の夫々の電極の抵抗温度係数αの測定手段は以下の通りである。
まず、縦横10mm×10mmで、厚みを1.0mm、0.75mm、0.50mm、0.25mmに加工した素体を用意し、両端面に所定組成の電極を同様に形成したPTC素子を作製し、夫々のPTC素子について抵抗−温度特性を測定する。所定温度毎に厚みに対して抵抗値をプロットして近似直線を求め、その傾きを材料成分の抵抗率、厚みが0になる切片の抵抗を電極と材料界面の抵抗値として、それぞれの温度特性を評価した。この電極と材料界面の温度特性から得られた抵抗温度係数αの値を所定の正電極または負電極のαとした。
【0037】
室温抵抗率R25は、25℃で4端子法で測定した。
通電試験はアルミフィン付きのヒーターに組み込み、風速4m/sで冷却しながら13Vを印加して1000時間行った。この時のフィンの温度は70℃であった。通電試験後の25℃での室温抵抗率を測定し、通電試験前と1000時間通電後の室温抵抗率の差を通電試験前の室温抵抗率で除して抵抗変化率(%)を求め、経時変化を調べた。
よって、経時変化率は次式で定義される。
{(1000時間放置した時の室温抵抗値)−(初期室温抵抗値)}/(初期室温抵抗値)×100(%)
【0038】
得られた結果を表1に示す。
その結果、キュリー温度163℃、室温抵抗率R25は362Ω・cm、抵抗温度係数αは7.3%/℃、経時変化は2.7%の特性であった。
抵抗温度係数αは、数値が高いほどジャンプ特性に優れており用途は広がる。例えば、抵抗温度係数αが7%/℃以上あればセンサ用途やヒータ用途などのPTC素子として十分利用できる。また、室温抵抗率は、車載用の補助ヒータ等では100Ω・cm以下の低い値で安定していることが望ましい。それ以上であれば1000Ω・cm程度までは例えば蒸気発生モジュールなどに、1000Ω・cm以上では高い耐電圧の要求されるハイブリッド車、電気自動車用のヒータや発熱モジュール等の用途に利用できる。キュリー温度は、PTC素子の用途に応じてふさわしい温度があるので、例えば130℃〜200℃程度の温度幅があると様々な用途に適用可能である。そして、経時変化は小さいほど望ましいが、上記した13Vで1000時間通電したときの室温抵抗率の経時変化が5%以下であれば実用上問題ないレベルである。
【0039】
(実施例2〜7)
実施例2〜7は、正極側及び負極側電極のAgとZnの比率を変えた例である。負極側電極のAgとZnの比率を変えた以外は半導体磁器組成物の製造方法や電極の形成方法、評価方法も実施例1と同様の方法で行った。得られた結果を表1に示す。
実施例2〜7の結果は、抵抗温度係数αおよび経時変化ともに良好な特性値を満足するものであった。尚、負極側電極のAgの比率が増えるほど抵抗温度係数が高くなるが、室温抵抗率R25も高くなってしまう傾向にある。尚、キュリー温度は160℃〜168℃の範囲にあった。以下の実施例でも同様であったので表からは省略した。
【0040】
(比較例1)
比較例1は実施例2の正負の電極を逆にしたものである。それ以外は半導体磁器組成物の製造方法や電極の形成方法、評価方法も実施例1と同様の方法で行った。得られた結果を表1に示す。
このように室温抵抗と抵抗温度係数は同じでも経時変化が極端に大きくなってしまうことが分かる。これは正極側で経時変化が起きるため、正極側のαを高くした結果、経時変化が大きくなったと考えられる。
【0041】
(比較例2〜4)
比較例2〜4は正極側電極や負極側電極のAgとZnの比率を発明の範囲外とした例である。それ以外の半導体磁器組成物の製造方法や電極の形成方法、評価方法は実施例1と同様の方法で行った。得られた結果を表1に示す。
表1の結果より、正極側の貴金属の量が負極側の貴金属の量以下となると経時変化が低減することが分かる。また、正極側の貴金属の比率が卑金属よりも大きくなると経時変化が5%を超えてしまい、負極側の貴金属の比率が卑金属よりも小さくなると抵抗温度係数が7%/℃未満になってしまうことが分かった。また、本実施例では貴金属にAgを用いたが、AuやPtも物性値から考えて同様の効果が得られると考えられる。
【0042】
以上の実施例および比較例より、正極側の貴金属の量が負極側の貴金属の量よりも少ないと経時変化が低減する。尚且つ負極側の電極は卑金属よりも貴金属を多く含み、正極側の電極は貴金属よりも卑金属を多く含むとき、高いジャンプ特性と経時変化の小さいPTC素子となる。また、正極側のAg量を減らすことによって、抵抗温度係数をほとんど低下させることなく経時変化の低減を図ることができる。
【0043】
【表1】

【0044】
続いて第3の発明に係わる実施例等について説明する。
(実施例8)
半導体磁器組成物及び電極の形成方法は実施例1と同様の方法で実施した。評価方法は実施例1で行った評価方法に加えて、電極と材料との界面の酸化物層をEPMAによるライン分析で評価した。界面の酸化物層の分析は、EPMA装置(島津製作所製:EPMA1610)を用いて、加速電圧15kV、電流100nA、ビーム径1μmでライン分析幅を100μmの条件で電極と材料の界面の酸素量を検出した。得られた結果を表2及び負極側のEPMA分析の結果を図1に、正極側のEPMA分析の結果を図2に示した。点線で挟まれた領域が電極と材料の界面の領域を示している。また、界面部分の酸素検出量を積算し、界面の幅で割ることで単位長さ辺りの酸素検出量を算出し、界面の酸化物層の量として評価した。得られた結果を表2に示した。図1では界面に多くの酸素(▲)が検出されているのに対し(検出量8200)、図1と比較すると図2では界面の酸素検出量が少なくなっており(検出量7800)、酸化物層が減少していることが分かる。一方、実施例8の特性結果は、抵抗温度係数αおよび経時変化ともに良好な特性値を満足するものであった。
【0045】
(実施例9〜11)
実施例9〜11は、正極側及び負極側電極のAgとZnの比率を変えた例である。負極側電極のAgとZnの比率を変えた以外は半導体磁器組成物の製造方法や電極の形成方法、評価方法も実施例8と同様の方法で行った。実施例9について正極側のEPMA分析結果を図3に、実施例10の負極側のEPMA分析結果を図4に示す。尚、実施例9と11の正極側の組成は同じであり、実施例10と11の負極側の組成は同じであるので省略した。そして、上記と同様に得られた特性を表2に示す。
実施例9〜11の結果は、抵抗温度係数αおよび経時変化ともに良好な特性値を満足するものであった。
【0046】
(比較例5〜8)
比較例5〜8は実施例8〜11の正負の電極を逆にしたものである。それ以外は半導体磁器組成物の製造方法や電極の形成方法、評価方法も実施例8と同様の方法で行った。得られた結果を表2に示す。
このように正極側の酸化物層の酸素量が負極側よりも多く含まれると室温抵抗率と抵抗温度係数は同じでも経時変化が極端に大きくなってしまうことが分かる。これは正極側で経時変化が起きるため、正極側のαを高くした結果、経時変化が大きくなってしまったと考えられる。表2によれば、負極側の卑金属(Zn)量が多いと界面の酸化物層の酸素量が少なくなって負極側のαが小さくなり、正極側の卑金属(Zn)量が少ないと界面の酸化物層の酸素量が多くなって正極側のαが高くなることが分かる。
以上の実施例および比較例より、正極側の電極と材料との界面に形成される酸化物層の酸素量が負極側よりも少ないと、高いジャンプ特性と経時変化の小さいPTC素子となる。
【0047】
【表2】

【0048】
以下、第4、第5の発明に係わる実施例等について説明する。
これらの発明は、車載用の補助ヒータ等の用途を目的に、室温抵抗率R25が100Ω・cm以下、抵抗温度係数αが7%/℃以上、室温抵抗率の経時変化5%以下の特性値を得ることを目的としている。従って、以下の実施例および比較例はこの特性値を目処に評価している。
【0049】
(実施例12)
分割仮焼法を用い次のようにして半導体磁器組成物を得た。BaCO、TiO、Laの原料粉末を準備し、(Ba0.994La0.006)TiOとなるように配合し、純水で混合した。得られた混合原料粉末を900℃で4時間大気中で仮焼し、BT仮焼粉を用意した。
【0050】
NaCO、Bi、TiOの原料粉末を準備し、Bi0.5Na0.5TiOとなるように秤量配合し、エタノール中で混合した。得られた混合原料粉末を、800℃で2時間大気中で仮焼し、BNT仮焼粉を用意した。
【0051】
用意したBT仮焼粉とBNT仮焼粉をモル比で73:7となるように配合し、純水を媒体としてポットミルにより、混合仮焼粉の中心粒径が1.0μm〜2.0μmになるまで混合、粉砕した後、乾燥させた。該混合仮焼粉の粉砕粉にPVAを10重量%添加し、混合した後、造粒装置によって造粒した。得られた造粒粉を一軸プレス装置で成形し成形体となした。この成形体を700℃で脱バインダ後、酸素濃度0.01%(100ppm)の窒素雰囲気中にて1360℃で4時間保持し、その後徐冷して40mm×25mm×4mmの焼結体を得た。
【0052】
得られた焼結体を10mm×10mm×1mmの板状に加工して試験片を作製した。負極側の電極材料としてAgとZnの重量比率(重量%)を52:48とした電極ペースト、正極側の電極材料としてAgとZnの重量比率を45:55とした電極ペーストをそれぞれ作製し、スクリーン印刷で10mm×10mmの面にそれぞれ塗布した。さらにカバー電極としてAgペーストを重ねてスクリーン印刷でそれぞれ塗布した。この時、正極側には10mm×10mmの全面に電極を形成し、負極側には9.5mm×9.5mmの面積の電極を形成して正極と負極の判別が容易になるようにした。塗布した電極を150℃で乾燥後、大気中580℃、10分保持で焼き付けて電極を形成した。なお、上記負極側、正極側それぞれの電極ペーストは、上記金属成分100重量部に対し、ガラスフリットを3重量部、有機バインダを25重量部を添加して構成した。以下の実施例でも金属成分に対するガラスフリット及び有機バインダの添加量を一律として、金属成分の影響について評価した。
【0053】
評価方法については実施例1と同様の方法で行った。
【0054】
得られた結果を表3に示す。
その結果、キュリー温度163℃、室温抵抗率R25は32.1Ω・cm、抵抗温度係数αは7.3%/℃、経時変化は2.7%の特性であった。上述したように車載用の補助ヒータ等の用途では、抵抗温度係数αは7%/℃以上が必要であり、室温抵抗率は熱暴走を起こさない為にも100Ω・cm以下の低い値が良い。キュリー温度は158℃〜168℃、経時変化は上記実施例と同様に5%以下であれば良い。
【0055】
(実施例13〜15)
実施例13〜15は、負極側電極のAgとZnの比率を変えた例である。負極側電極のAgとZnの比率を変えた以外は半導体磁器組成物の製造方法や電極の形成方法、評価方法も実施例12と同様の方法で行った。得られた結果を表3に示す。
実施例13〜15の結果は、室温抵抗率R25、抵抗温度係数αおよび経時変化ともに目的の特性値を満足するものであった。尚、負極側電極のAgの比率が70重量%に近づくと室温抵抗率R25と抵抗温度係数αは大きくなる傾向にあり、51重量%に近づくと小さくなる傾向にあるが、経時変化への影響は小さいことが分かる。
【0056】
(比較例9)
比較例9は実施例13の正負の電極を逆にしたものである。それ以外は半導体磁器組成物の製造方法や電極の形成方法、評価方法も実施例1と同様の方法で行った。得られた結果を表3に示す。このように室温抵抗と抵抗温度係数は同じでも経時変化が極端に大きくなってしまうことが分かる。
【0057】
(比較例10〜17)
比較例10〜17は正極側電極と負極側電極を同じ組成にしてAgとZnの比率を変え、Ag−Zn比の傾向をみた例である。それ以外の半導体磁器組成物の製造方法や電極の形成方法、評価方法は実施例1と同様の方法で行った。得られた結果を表3に示す。
表3の結果より、Agの比率が増加するほど室温抵抗率、抵抗温度係数、経時変化が大きくなることが分かる。Agの比率が51重量%を超えると経時変化が5%を超えてしまい、経時変化を5%以下に抑えるための目安となる抵抗温度係数は2.9であることが分かった。また、Agの比率が70重量%付近から急激に室温抵抗率が増加することが分かる。
【0058】
以上の実施例および比較例より、所定のPTC材料と組成範囲とすることで高いジャンプ特性と経時変化が小さく、さらに室温抵抗率を低減し低い値で安定したPTC素子となる。
【0059】
【表3】

【0060】
(実施例16〜22)
実施例16〜22は、負極側電極のAgとZnの比率を変え、実施例16〜18ではSnを加え、実施例19〜21ではSbを加えた例である。また、実施例22ではSnとSbの両方を加えた例である。負極側電極の組成を変えた以外は半導体磁器組成物の製造方法や電極の形成方法、評価方法も実施例12(実施例1とも同じ)と同様の方法で行った。得られた結果を表4に示す。
実施例16〜22の結果は、室温抵抗率R25、抵抗温度係数αおよび経時変化ともに目的の特性値を満足するものであった。尚、負極側電極のSnの比率が20重量%に近づくと室温抵抗率と経時変化が徐々に増加する傾向にあり、Sbの比率が18重量%に近づいても同様の傾向が見られるが、経時変化への影響は小さいことが分かる。
【0061】
(実施例23〜25)
実施例23〜25は、正極側電極のAgとZnの比率を変えた例である。正極側電極の組成を変えた以外は半導体磁器組成物の製造方法や電極の形成方法、評価方法も実施例12と同様の方法で行った。得られた結果を表4に示す。
実施例23〜25の結果は、室温抵抗率R25、抵抗温度係数αおよび経時変化ともに目的の特性値を満足するものであった。尚、正極側電極のAgの比率が51重量%に近づくと抵抗温度係数は増加するが、室温抵抗率と、経時変化が徐々に増加してしまう傾向が見られ、負極側電極とは異なり経時変化への影響もあることが分かる。
【0062】
以上より、正極側と負極側のPTC材料に夫々特性の分担を図ることが有効であることが分かる。負極側の電極と材料の界面では電極成分中の卑金属の割合を減らして専らシャンプ特性の発現を促して抵抗温度係数の向上を図り、経時変化が起き易い正極側の電極と材料の界面では電極成分の卑金属の割合を増やして抵抗温度係数αを小さくし経時変化を起こさないようになす、こうして、高い抵抗温度係数と経時変化の低減の両立を図ることができる。
【0063】
(比較例18〜21)
比較例18〜21は負極側電極のAgとZnの組成を第4の発明の範囲外とした例である。負極側電極の組成を変えた以外は半導体磁器組成物の製造方法や電極の形成方法、評価方法も実施例12と同様の方法で行った。得られた結果を表4に示す。
実施例12、13と比較例18、19からAgの比率が51重量%よりも小さくなると、抵抗温度係数αが7.0%/℃を下回ってしまう。
実施例14、15と比較例20からAgの比率が70重量%を超えると室温抵抗率が100Ω・cmを超えてしまうことが分かる。比較例21は室温抵抗率が高くなり実用に供しない。
【0064】
(比較例22〜25)
比較例22〜25は負極側電極のSbとSnの組成を第4の発明の範囲外とした例である。負極側電極の組成を変えた以外は半導体磁器組成物の製造方法や電極の形成方法、評価方法も実施例12と同様の方法で行った。得られた結果を表4に示す。
実施例16〜18と比較例21、23からSnの比率が20重量%を超えると室温抵抗率が100Ω・cmを超えてしまうことが分かる。また、実施例19〜21と比較例24、25からSbの比率が18重量%を超えると室温抵抗率が100Ω・cmを超えてしまうことが分かる。ただし、抵抗温度係数と経時変化はあまり変化は無いので用途によっては実用できる特性のものである。
【0065】
(比較例26〜27)
比較例26〜27は負極側電極のZnの組成を第4の発明の範囲外とした例である。負極側電極の組成を変えた以外は半導体磁器組成物の製造方法や電極の形成方法、評価方法も実施例12と同様の方法で行った。得られた結果を表4に示す。
Znの比率が15重量%未満になると室温抵抗率が100Ω・cmを超えてしまうことが分かる。
【0066】
(比較例28〜29)
比較例28〜29は正極側電極のAgとZnの組成を第4の範囲外とした例である。正極側電極の組成を変えた以外は半導体磁器組成物の製造方法や電極の形成方法、評価方法も実施例12と同様の方法で行った。得られた結果を表4に示す。
実施例13、23、24、25と比較例29から正極側のAgの比率が51重量%よりも大きくなると経時変化が急激に大きくなってしまうことが分かる。
【0067】
【表4】

【0068】
(実施例26)
実施例26は、電極をスパッタリングで形成した例である。それ以外の半導体磁器組成物の製造方法や評価方法は実施例12と同様の方法で行った。電極の形成は負極電極としてAgとZnの比率54:46の合金をターゲット材として用意し、真空中でスパッタリングを行い電極を形成した。ついで、正極側の電極としてAgとZnの比率45:55の合金をターゲット材として用意し、Arガス0.7Pa、出力300Wの条件で10分間スパッタリングを行い電極を形成した。得られた結果を表5に示す。
実施例26の結果は、室温抵抗率R25、抵抗温度係数αおよび経時変化ともに目的の特性値を満足するものであり、スパッタリングで電極を形成しても、ペーストの焼付けと同等の特性を得られることが分かった。
【0069】
(実施例27〜34)
実施例27〜34は、正極側電極の組成を変えた例である。実施例27ではNi、実施例28ではCr、実施例29ではCrの上にNiをスパッタリング、実施例30はCu、実施例31はTi、実施例32はMo、実施例33はAl、実施例34ではAgとSnの合金をスパッタした例である。それ以外の半導体磁器組成物の製造方法や電極形成方法、評価方法は実施例26と同様の方法で行った。得られた結果を表5に示す。
実施例27〜34の結果は、室温抵抗率R25、抵抗温度係数αおよび経時変化ともに目的の特性値を満足するものであり、正極側電極にAgとZnの合金以外の卑金属元素を用いても、経時変化を低減できることが分かった。
【0070】
【表5】

【0071】
(実施例35〜39)
実施例35〜39は、半導体磁器組成物の材料の依存性について、組成式を[(Bi-Na)(Ba1−yLa1−x]TiOと表しxとyの比率を適宜変えて評価した例である。それ以外の半導体磁器組成物の製造方法や電極の形成方法、評価方法は実施例12と同様の方法で行った。得られた結果を表6に示す。
実施例35〜39の結果は、室温抵抗率R25、抵抗温度係数αおよび経時変化ともに目的の特性値を満足するものであった。
【0072】
(比較例30〜31)
比較例30〜31は、組成式を[(Bi-Na)(Ba1−yLa1−x]TiOと表しxとyの比率を第4の発明の範囲外とした例である。それ以外のPTC素子の作製方法及び評価方法は実施例12と同様の方法で行った。得られた結果を表6に示す。
実施例35〜37と比較例31の結果からxの値が増加するほど室温抵抗と経時変化が大きくなる傾向が見られ、0.3を超えると室温抵抗が100Ω・cmを超えて経時変化も5%を上回ってしまうことが分かる。また、実施例38、39と比較例30から、yの値が増えると室温抵抗と抵抗温度係数が減少し、0.02を超えてしまうと抵抗温度係数が7%/℃を下回ってしまうことが分かる。
【0073】
(実施例40〜50)
実施例40〜50は、実施例12と同様の組成と製造方法を用いて焼結体を得たものである。但し、(Ba0.9940.006)TiOの希土類元素Rを変えた例である。実施例40ではY、以後実施例番号が大きくなる順にPr、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Tm、Yb、Luを希土類元素として用いた。それ以外の半導体磁器組成物の製造方法や電極の形成方法、評価方法は実施例12と同様の方法で行った。得られた結果を表6に示す。
実施例40〜50の結果は、室温抵抗率R25、抵抗温度係数αおよび経時変化ともに目的の特性値を満足するものであった。
【0074】
【表6】

【0075】
(実施例51)
実施例51は、組成式を[(Bi-Na)Ba1−x][Ti1−zNb]Oで表し、Tiの一部をNbで置換した例である分割仮焼法を用いて次のようにしてPTC材料を得た。
BaCO、TiO、Nbの原料粉末を準備し、Ba(Ti0.998Nb0.002)Oとなるように配合し、純水で混合した。得られた混合原料粉末を900℃で4時間大気中で仮焼し、BT仮焼粉を用意した。
【0076】
BNT仮焼粉の作製は、実施例12と同様に行った。その後のBT−BNTの混合、成形、焼結、電極形成及び評価は実施例12と同様の方法で行いPTC素子となしたものである。得られた結果を表7に示す。以下は第5の発明に関し第4の発明と同様、室温抵抗率R25が100Ω・cm以下、抵抗温度係数αが7%/℃以上、室温抵抗率の経時変化5%以下を目標値としている。
実施例51の結果は、室温抵抗率R25は43Ω・cm、抵抗温度係数αは8.6%/℃、経時変化は4.0%で目的の特性を満足するものであった。
【0077】
(実施例52〜56)
実施例52〜56は、実施例51と同様の製造方法を用いてPTC素子を得たものである。但し、xとzのモル比率を変えた例である。その他のPTC素子の作製方法や評価方法は実施例51と同様の方法で行った。得られた結果を表7に示す。
実施例52〜56の結果は、室温抵抗率R25、抵抗温度係数αおよび経時変化ともに目的の特性値を満足するものであった。
【0078】
(比較例32〜33)
比較例32、33は実施例51と同様の製造方法を用いてPTC素子を得たものである。ただし、xとzのモル比率を第5の発明の範囲外とした例である。それ以外のPTC素子の作製方法や評価方法は実施例51と同様の方法で行った。得られた結果を表7に示す。
実施例51〜56、比較例33の結果より、xの比率が増えると室温抵抗、抵抗温度係数、経時変化が大きくなる傾向が見られ、xが0.3を超えてしまうと室温抵抗率が100Ω・cmを超えてしまうことが分かる。また、実施例51、55、56と比較例32より、zの比率が増加すると、室温抵抗、抵抗温度係数、経時変化が小さくなる傾向が見られ、zが0.05を超えてしまうと抵抗温度係数が7%/℃を下回ってしまうことが分かる。
【0079】
実施例57は、実施例51と同様の組成と製造方法を用いて焼結体を得たものである。但し、Tiの一部をTaで置換した例である。Nbの代わりにTaを使用した以外は実施例51と同様の方法で試料を作製、特性評価を行った。得られた結果を表7に示す。
【0080】
実施例58は、実施例51と同様の組成と製造方法を用いて焼結体を得たものである。但し、Tiの一部をSbで置換した例である。Nbの代わりにSbを使用した以外は実施例51と同様の方法で試料を作製、特性評価を行った。得られた結果を表7に示す。
以上の実施例57〜58の結果は、室温抵抗率R25、抵抗温度係数αおよび経時変化ともに目的の特性値を満足するものであった。
【0081】
【表7】

【0082】
(発熱モジュール)
本発明のPTC素子を、図5に示すように金属製の放熱フィン20a1、20b1、20c1に挟み込んで固定し、発熱モジュール20を得た。PTC素子11はPTC材料1aからなり、正極側材の面に形成した電極2a、2cはそれぞれ正極側の電力供給電極20a、20cに熱的および電気的に密着され、他方の面に形成した電極2bは負極側の電力供給電極20bに熱的および電気的に密着される。
また、電力供給電極20a、20b、20cはそれぞれ放熱フィン20a1、20b1、20c1と熱的に接続している。なお、絶縁層2dは電力供給電極20aと電力供給電極20cの間に設けられ、両者を電気的に絶縁している。発熱体11で生じた熱は電極2a、2b、2c、電力供給電極20a、20b、20c、放熱フィン20a1、20b1、20c1の順に伝わり主に放熱フィン20a1、20b1、20c1から雰囲気中に放出される。
【0083】
電源30cを、電力供給電極20aと電力供給電極20bの間、または電力供給電極20cと電力供給電極20bの間に接続すれば消費電力は小さくなり、電力供給電極20aおよび電力供給電極20cの両方と電力供給電極20bの間に接続すれば消費電力は大きくなる。つまり、消費電力を2段階に変更することが可能である。こうして発熱モジュール20は、電源30cの負荷状況や、希望する加熱の緩急の必要度合いに応じて加熱能力を切り替え可能である。
この加熱能力切り替え可能な発熱モジュール20を電源30cに接続することで加熱装置30を構成することができる。なお、電源30cは直流電源である。発熱モジュール20の電力供給電極20aと電力供給電極20cはそれぞれ別のスイッチ30a、30bを介して電源30cの一方の電極に並列接続され、電力供給電極20bは共通端子として電源30cの他方の電極に接続される。
スイッチ30a、30bの何れか一方のみを導通させれば加熱能力を小さくして電源30cの負荷を軽くすることができ、両方を導通すれば加熱能力を大きくすることができる。
【0084】
この加熱装置30によれば電源30cに特別な機構を持たせなくても、PTC素子11を一定温度に維持することができる。つまり、シャンプ特性を有するPTC材料1aがキュリー温度付近まで加熱されると、PTC材料1aの抵抗値が急激に上昇しPTC素子11に流れる電流が小さくなり、自動的にそれ以上加熱されなくなる。また、PTC素子11の温度がキュリー温度付近から低下すると再び素子に電流が流れ、PTC素子11が加熱される。このようなサイクルを繰り返してPTC素子11の温度、ひいては発熱モジュール20全体を一定にすることができるので、電源30cの位相や振幅を調整する回路、さらには温度検出機構や目標温度との比較機構、加熱電力調整回路なども不要である。
この加熱装置30は、放熱フィン20a1〜20c1の間に空気を流して空気を暖めたり、放熱フィン20a1〜20c1の間に水などの液体を通す金属管を接続して液体を温めたりすることができる。このときもPTC素子11が一定温度に保たれるので、安全な加熱装置30とすることができる。
【0085】
更に、本発明の変形例に係る発熱モジュール12を、図6を参照して説明する。なお、図6では説明のために発熱モジュール12の一部を切り欠いて示している。
この発熱モジュール12は略扁平直方体状のモジュールであり、実施例の半導体磁器組成物が略直方体状に加工されたPTC素子3と、素子3の上下面に設けられた電極3a、3bと、PTC素子3及び電極3a、3bとを覆う絶縁コーティング層5と、それぞれ電極3a、3bに接続し絶縁コーティング層5から外部に露出された引き出し電極4a、4bとを有する。この発熱モジュール12には、発熱モジュール12の上下面を貫通し、その内周面が絶縁コーティング層5で覆われる複数の貫通孔6が設けられている。
【0086】
この発熱モジュール12は、例えば以下のように作製することが出来る。まず、PTC素子3に、PTC素子3の厚み方向に貫通する複数の孔を形成する。次に、この孔がPTC素子3の上下面に開口する開口周縁を除くPTC素子3の両面に電極3a、3bを形成する。なお、この電極3a、3bは上記と同様にオーミック電極と表面電極を重ねて印刷形成したものである。さらに外部引出し用電極4a、4bを設けた後、この引出し用電極4a、4bが外部に露出するようにPTC素子3と電極3a、3bの全体を絶縁性コーティング剤で覆って絶縁コーティング層5を形成し、発熱モジュール12が得られる。なお、絶縁コーティング層5を形成する際に、PTC素子3の孔の内周面を絶縁コーティング層5で覆って貫通孔6を形成する。
この発熱モジュール12は、貫通孔6に流体を流すことで流体を加熱することができる。このとき、電流の流れるPTC素子3及び電極3a、4aは絶縁コーティング層5で覆われているので、流体と直接接触することがないので導電性の液体を加熱することができる。したがって発熱モジュール12は電気導電性を有する塩水等の流体を瞬間的に加熱する用途に適している。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明により得られるPTC素子は、PTCサーミスタ、PTCヒータ、PTCスイッチ、温度検知器などに最適である。また、PTC素子を構成要素とする発熱モジュールに利用することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つのオーミック電極と、前記電極の間に配置されたBaTiOのBaの一部がBi−Naで置換された半導体磁器組成物とを有するPTC素子であって、前記電極のうち正極側の電極が含む貴金属の量は、負極側の電極が含む貴金属の量よりも少ないことを特徴とするPTC素子。
【請求項2】
前記電極のうち負極側の電極は卑金属よりも貴金属を多く含み、正極側の電極は貴金属よりも卑金属を多く含むことを特徴とする請求項1に記載のPTC素子。
【請求項3】
少なくとも2つのオーミック電極と、前記電極の間に配置されたBaTiOのBaの一部がBi−Naで置換された半導体磁器組成物とを有するPTC素子であって、前記半導体磁器組成物が、組成式を[(Bi-Na)(Ba1−y1−x]TiO(但し、Rは希土類元素のうち少なくとも一種)と表し、前記x、yが、0<x≦0.3、0≦y≦0.02を満足し、前記電極を構成する金属成分を100重量%としたとき、負極側電極はAg、Zn、Sb、Snの合金もしくは混合物からなり、その比率はAgが51重量%を超え70重量%以下、Znが15重量%以上49重量%未満、Sbが18重量%以下(0を含む)、Snが20重量%以下(0を含む)を満足し、正極側電極はAgを51重量%以下(0を含む)と、Ni、Al、Cu、Cr、Ti、Mo、Sn、Zn、Sbのいずれか一種以上の元素から構成された金属からなることを特徴とするPTC素子。
【請求項4】
少なくとも2つのオーミック電極と、前記電極の間に配置されたBaTiOのBaの一部がBi−Naで置換された半導体磁器組成物とを有するPTC素子であって、前記半導体磁器組成物が、組成式を[(Bi-Na)Ba1−x][Ti1−z]O(但し、MはNb、Ta、Sbのうち少なくとも一種)と表し、前記x、zが、0<x≦0.3、0<z≦0.005を満足し、前記電極を構成する金属成分を100重量%としたとき、負極側電極はAg、Zn、Sb、Snの合金もしくは混合物からなり、その比率はAgが51重量%を超え70重量%以下、Znが15重量%以上49重量%未満、Sbが18重量%以下(0を含む)、Snが20重量%以下(0を含む)を満足し、正極側電極はAgを51重量%以下(0を含む)と、Ni、Al、Cu、Cr、Ti、Mo、Sn、Zn、Sbのいずれか一種以上の元素から構成された金属からなることを特徴とするPTC素子。
【請求項5】
少なくとも2つのオーミック電極と、前記電極の間に配置されたBaTiOのBaの一部がBi−Naで置換された半導体磁器組成物とを有するPTC素子であって、前記電極のうち負極側の電極と半導体磁器組成物との界面には酸化物層が存在し、前記正極側の電極と半導体磁器組成物との界面には前記負極側の酸化物層よりも酸素量が少ない酸化物層となしたことを特徴とするPTC素子。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか1項に記載のPTC素子と、前記PTC素子に設けられた電力供給電極とを備えることを特徴とする発熱モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−46372(P2012−46372A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189228(P2010−189228)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】