説明

PVAヒドロゲル

本発明は有益な物理的な性質を有する共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルの生成方法と、この方法により生成された共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲル組成物と、この共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲル組成物からなる製造物とを提供する。生成されたヒドロゲルの物理特性は物理的な結合の割合、ポリマー濃度、及び放射線照射量のような制御パラメータを変えることにより調整することができる。このような共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルは処理条件次第で半透明(好ましくは透明)若しくは不透明に生成されうる。生成されたビニルポリマーヒドロゲルの物理的な特性の安定性は共有結合の架橋の量を制御することにより向上できる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
ビニルポリマーは様々な工業の用途に使われている。例えば、ポリビニルアルコール(PVA)は高い親水性のポリマーなので繊維工業ではサイズ剤として、化粧品工業ではベースゲル成分として、製紙工業では被着剤として、及び一般的な接着剤として使用されている。PVAの化学式は(C2H4O)nであり、構造式は(−CH2CH(OH)−)nである。
【0002】
動物に移植された際にPVAはほとんど生物学的反応を引き起こさない若しくは生物学的反応を全く引き起こさないことが広く知られている。このためPVAはドラッグデリバリー(薬剤送達)、細胞のカプセル化、人工涙液、コンタクトレンズ、及びより最近では神経カフ(人工神経管)(nerve cuff)、を含む様々なバイオメディカル(生物医学)の用途にも使用されている。PVAは耐荷重用生体適合材料として使用するとはこれまで考慮されなかったのは、なぜならそもそもPVAは弾性率が低く、摩耗特性が貧弱であるからである。研究論文にヒドロゲルの弾性率及び摩耗特性は化学的結合若しくは物理的な結合のどちらか一方を形成することによりしばしば高めることができると報告されている。放射線を照射するステップ、ポリアルデヒドのような化学物質を添加するステップ、若しくは凍結融解サイクルを行うステップにより架橋されたPVAはPVAの耐久性に対する改善が見られる。ここにおいて、凍結融解サイクルを行うステップでは物理的な結合が形成され、それ以外のステップでは化学的な架橋が形成される。
【0003】
早くも1973年には凍結融解法により作られたPVAを生物医学的な分野で利用することが提案されていた。1975年4月1日に発行されたタイセイ・イノウエの米国特許第3,875,302号には約−5℃より低い温度においてビニルアルコールポリマーの水溶液を凍らせた後に凍った溶液を溶かすことによりビニルアルコールポリマーをゲル化する製造方法が記載されている。得られた生成物はクライオゲル(cryogel)と名付けられた。凍結融解サイクル法によりクライオゲルを形成する方法は1975年のペッパス(N.A.Peppas)のマサチューセッツ工科大学(マサチューセッツ州、ケンブリッジ)の化学工学博士論文及び米国特許第5,891,826号にも記述されている。米国特許第4,472,542号、第5,288,503号、及び第5,981,826号、も参照されたい。なお、これら全ての引用文献、特許公報、及び特許公開公報の全内容は本願の開示に組み入れられたものとする。クライオゲルは脱水性が緩慢であるので、クライオゲルのコンタクトレンズへの使用が考えられた。PVAはまたドラッグリリース(薬物放出)への利用が考えられた。なぜなら凍結融解法は蛋白質構造に影響を及ばさないからである。生体接着PVAゲルもまた考えられた。
【0004】
なお、PVAポリマーの水溶液に電離放射線を照射することによりゲルを製造できることが知られている(ワング(Wang,B.)らの「脱酸素水溶液にガンマ線を照射することにより分子間の架橋されるポリ(ビニルアルコール)の放射線化学収率に対するポリマー濃度の影響(The Influence of Polymerconcentration on the Radiation-chemical Yield of Intermolecular Crosslinking of Poly(Vinyl Alcohol))」、「ラディエーション・フィジックス・アンド・ケミストリー(Radiation Physics and Chemistry)」、2000、59、91から95頁)。PVAへの照射は共有結合の形成によるポリマー鎖の化学的架橋を生じる。ヒドロゲルは固体のPVAポリマー、PVAモノマー(バルク若しくは溶液)若しくは溶液内のPVAポリマーに照射することにより形成され得る。乾燥形態の親水性ポリマーに照射することは様々な理由により問題があり、この問題には不安定な結合及び十分に取り除くことができない酸素の形成が含まれる。さらに、反応性のよいフリーラジカルを有するポリマー鎖の運動が制限されているので架橋の有効性が制限される。いくつかのヒドロゲルでは、純粋なモノマーから架橋されたポリマー溶液を作ることが可能である。重合が最初に実施され、次に架橋が行われる。これは、多くのポリマーにとってとても都合がよい(便利である)。しかし、PVAモノマーは不安定であるためにPVAヒドロゲルの作製のためには実施されていなかった。ほとんどの場合において、架橋は溶液中、好ましくは脱酸素溶液中のポリマー鎖に実施される。
【0005】
PVAクライオゲルの生体適合性を試験するために、オカ等はウサギの膝蓋骨の溝にPVAを埋め込み、宿主の組織応答がほとんどないこと若しくは全くないことを示した。さらなる実験においては、PVAヒドロゲル若しくは実験対照のUHMWPEの直径50nm乃至300nmの小さな粒子がウィスターラットの膝関節に埋め込まれた。UHMWPEはいくつかの組織応答を引き起こしたがPVAは測定できる反応を引き起こさなかった。PVAはチタニウム繊維メッシュと結合され、これはウサギの大腿骨頭が立ち並ぶ膝蓋骨に埋め込まれたときに骨の成長を促進させた。つまり、チタニウム繊維ファイバーメッシュとPVAを組み合わせた埋没物は関節に統合され、関節負荷のための妥当な支持表面を提供した。
【0006】
関節の軟骨に向かい合わされるときにPVAは低い摩擦係数を有した(<0.1)。つまり、この生体適合材料は一部の関節形成において役立つと思われる(堅い表面に対する摩耗は問題ではない場合)。この利用においての生体適合性を試験するために、チタニウムメッシュに支持されたPVAが犬の大腿顆の耐荷重領域に置かれた。材料は十分に耐え、固定された骨の成長を引き起こした。オカ等の結論はこの合成骨軟骨デバイス(COD)を部分関節表面置換デバイス(partial articular surface replacement device)としてさらに広範囲に研究することが期待できるということである。
【0007】
ポリマー濃度を関数とした脱酸素水溶液中においてPVAを架橋するガンマ線量の効率が図1に示されている。なお、理想的な線量レベルだけでなく最適なポリマー濃度が存在しており、このときに架橋の効率は最大化される(〜30g/dm3乃至300g/dm3)。約300g/dm3の架橋効率のピークは高放射線線量にけるポリマー鎖の分解(ランダムな切断)の増加が起因している。
【0008】
架橋と分解との間の関係は照射された固体PVAの場合を考えることにより理解されうる。固体PVAへの照射はケトン構造形成の結果として主鎖の分解を起こし、ケトン構造形成は酸素を媒介した酸化ステップには起因していないが、ケト・エノール互換を経ている。ケト・エノール互換では、電子と水素原子の同時変化(シフト)が起こる。そして主鎖切断はケト互変異性体を支持する基幹内で起こる。ポリマー濃度が鎖の運動及びフリーラジカルモビリティを制限するときにケト・エノール分解が著しくなると考えられる。従って、濃度は300g/dm3を超えると、切断はさらに行われるようになる。
【式1】
【0009】

【0010】
溶液中のポリマー鎖に電離放射線を当てると、水溶液中の直接のイオン化、若しくは間接的な反応性中間物(ハイドロキシルラジカル)との相互作用によって反応性中間物が形成される。希薄溶液中では、間接的な経路が溶液中の電子分率のために優位を占める。よって、溶液中のポリマーでは、間接的な経路が反応性中間物の形成及びその後の架橋の生成若しくは切断に関係のある主要な機構である。親水性のポリマーを形成する簡単なゲルは自由電子を効果的に除去できる官能基を有していないため、架橋の形成に大きく関係することはない。実際に働く物質は水溶液中のヒドロキシル基である。自由電子をヒドロキシル基に変える亜酸化窒素はポリマー溶液に時々加えられ、溶液は収率を改善するために架橋を誘発する放射線を受けている。ロシアク(Rosiak)とウランスキ(Ulanski)は濃度に対するゲル化線量(レオロジーにより決定される)の依存性は約20g/dm3の付近において局所的な最小値を持つことを示した(図2はロシアク(Rosiak.J.M.)とウランスキ(Ulanski.P.)の「水溶液中のポリマーの照射によるヒドロゲルの合成(Synthesis of hydrogels by irradiation of polymers in aqueous solution)」、「ラディエーション・フィジックス・アンド・ケミストリー(Radiation Physics and Chemistry)」、1999、55、139から151頁から引用した)。架橋の方法は所与のビニルポリマーの対応するゲル化線量と濃度曲線における局所的最小値を決定し、かかる範囲の照射線量において架橋を行うことによって最適化される。
【0011】
脱酸素溶液では、鎖切断前駆物質が主鎖に局在化された炭素中心ラジカルである場合では、ラジカルの再結合が勝るので鎖切断反応はとても遅くなる。PVAのような非イオンポリマーでは、通常の照射条件では、ポリマー濃度が十分低ければ鎖切断率はゼロに近い。
【0012】
不要な一時的な生成物を取り除くために照射処置の間に添加剤を使用することができる(例えば、第3ブタノールはOH−を除去し、亜酸化窒素は溶液の電子を除去する)。他の添加物は瞬間的な反応生成物の識別に役に立つことができる(テトラニトロメタンはポリマーラジカルの識別に役立つ)。スピントラップ(2メチル2ニトロソプロパン)は短寿命種でのEPR(若しくはESR)の研究を可能にする。チオールは良好なH+ドナーであり、しばしばポリマーラジカル除去剤として使用される。Fe(II)のような金属イオンもまた例えばポリアクリル酸(PAA)の放射線誘発性変換の反応速度及び収率に大きな影響を与えることが知られている。従って、全てのガラス製品は入念にきれいにしなければならなく、高分子電解質ゲルを使うときは微量の金属イオンを除去するためにEDTAのような錯化剤を用いて取り扱わなければならない。しかし、PVAを使うときは金属汚染は問題を起こさない。
【0013】
酸素もまた入念に制御しなければならない添加剤と考えられる。酸素添加溶液では、炭素中心マクロラジカルは酸素と反応してペルオキシル基ラジカルを形成する。この反応速度はとても速い(実際には109dm3/mol/secの反応定数における拡散律速である)。酸素のアプローチが電荷効果により妨げられるポリアニオンゲルであっても、反応定数は108dm3/mol/secもの高さを有している。酸素との架橋が存在するときは、ペルオキシルラジカルもオキシルラジカルも再結合の際に安定した結合を形成しないことに留意することが重要である。さらに、主な反応の経路の一つは鎖切断を引き起こす(下記のスキーム1参照)。一つの方法は密封容器内において照射することである。存在する酸素を使い切り、ゲル化が起こる。密封容器照射はヒドロゲル包帯の形成に使用されてきた。開放容器に照射して表面からの酸素の輸送を遅くらせる拡散律速に頼ることもできる。この場合では、高い放射線量が有効である。なお、ビタミンEのような天然脱酸素剤によって酸素雰囲気において鎖切断を最小にしつつ照射することも可能である。
【0014】
【化1】

【0015】
照射されたポリ(ビニルアルコール)ヒドロゲルの物理特性
照射されたPVA膜(60Coガンマ線源、窒素雰囲気、線量率0.0989kGy/分、トータル線量86kGy、脱イオン化した水中で10乃至15wt%の78kDaPVA)は19.7MPaの抗張力及び破壊に対し609%の歪みを有していた。空気中において電子ビームを直接照射(総合線量100kGy)したPVAの10%の溶液の動的機械分析(DMA)により得られた圧縮率は1Hzにおいて0.5MPaの貯蔵弾性率を生じた。しかし試料は非常に壊れやすかった。
【0016】
架橋:凍結融解サイクル
溶液中のPVAポリマーの凍結/融解サイクルは物理的な架橋を形成した(すなわち、ポリマー鎖の非永続の「結合」による弱い結合)。この方法により形成されたPVAヒドロゲルは熱可逆性であり「クライオゲル」と称される。通常は、クライオゲルは80%以上の水を含む固体エラストマーであり、これは高い加水分解の度合いの高分子量のポリ(ビニルアルコール)(PVA)の溶液が一回若しくは複数回の凍結融解サイクルを受ける事により形成される。そのようなクライオゲルは丈夫であり、すべりやすく、エラストマー的であり、弾力性があり、50℃以下で水に溶けなく、毒性がない。
【0017】
PVAポリマーの溶液の凍結融解サイクルは物理的な結合を形成する(すなわち、ポリマー鎖の結合による弱い結合)。この方法で形成されたPVAヒドロゲルは「クライオゲル」と称され、例えば米国特許第6,231,605号及び第6,268,405号に記載されており、これらの全内容は本願の開示に組入れられる。重大なことは、PVAクライオゲルを形成するのに使用される技術は化学的架橋剤の導入若しくは照射を必要としないことである。従って、クライオゲルは組み込まれている生体活性分子に対する影響が少なく簡単に形成される。しかしながら、組み込まれた分子はゲルを作るのに要求される凍結融解サイクルに耐えるものに限定される。従って、得られた材料は移植の後に別々に機能する生体活性成分を含むことができる。PVAクライオゲルは高い生体適合性がある(下記に記述されるPVA「シータゲル」と同様に)。これらはとても低い毒性であり(少なくとも一部分はそれらの低い表面エネルギによる)、ほとんど不純物を含んでおらず80wt%から90wt%の水分含有量の細胞組織に相応する水分含有量にする事ができる。
【0018】
凍結融解サイクルを経てPVAのゲル化を促進させる正確な機構についていくつかの議論がまだある。しかし、凍結融解サイクルの間に起こる物理的な架橋を説明するために3つのモデルが提案された。すなわち1)直接的な水素結合、2)直接的な結晶形成、及び3)液液層分離の後のゲル化機構、である。最初の2つのステップはゲルが核生成及び成長(NG)相分離を経て生成されることを示しており、3つめの選択肢はスピノーダル分解(SD)相分離の処置を示している。水素結合は節を形成し結晶形成は大きなポリマー結晶を形成する。しかし両方の機構は比較的小さな架橋の節を伴った密接に結合した架橋を形成する。この観察結果はPVAのゲル化機構の研究によって支持されている。一方スピノーダル分解はゲル化ポリマーの多い領域及びポリマーの少ない領域へのポリマーの再分配を起こしその後ゲル化プロセスが起こり、ゲル化プロセスにより空間的に隔たった架橋を生じる。スピノーダル分解を経た相分離が架橋した後のPVAの改良された機械的性質の原因であるようであり、ポリマー溶液の急冷に起因して生じると考えられる。凍結処置の間、システムはスピノーダル分解を受け、よって一様な溶液中にポリマーが多い相と少ない相が自然発生的に現れる。このプロセスは所定の温度において急冷されたPVA(及び通常はポリマーを伴う)の相平衡状態図は2つの共存する濃度相を有するために生じる。従って、ポリマーが多い相はより高い濃度でありPVAの自然な(弱い)ゲル化を促進する。
【0019】
クライオゲルにおいて、物理特性は架橋していないポリマーの分子量、水溶液の濃度、凍結の温度及び時間、並びに凍結融解サイクルの回数、に依存している。従ってクライオゲルの性質は調整することができる。しかしながら、材料の性質は凍結融解ステップ毎に劇的に変化してしまうので最終的なゲルの性質をコントロールすることは少し制限される。記述されたシータゲルは現在PVAクライオゲルによって提供されている機能の範囲を広げる。
【0020】
概して、PVAクライオゲルの弾性率は凍結融解サイクルの回数に伴い増大する。1つの実験系では、熱的にサイクルさせたPVAクライオゲルは1MPa乃至18MPaの範囲の圧縮率及び0.1MPa乃至0.4MPaの範囲の剛性率を有する(スタンマン(Stammen,J.A)らの、「せん断及び拘束されていない圧縮バイオ材料中の新しいPVAヒドロゲルの機械的性質(Mechanical properties of a novel PVA hydrogel in shear and unconfined compression Biomaterials)」、2001,22:p799乃至806参照)。
【0021】
化学的方法ではなく物理的方法によりクライオゲルは架橋されるので、この構造の安定性にいくつかの不安がある。水溶液中のPVAの弾性率は一定の温度において蒸留水に浸す時間と共に増加する。ある実験では、40日以上実施すると弾性率は50%増加した。理論上は、水に浸している間の強度の増加は同時に可溶性PVAの損失をともなう。これはポリマー鎖の超分子パッキングの程度の増大の結果である。
【0022】
時間の経過とともにポリマーの損失の影響及びこれが局所宿主(local host)生物環境にどのような影響を与えるかを理解することは重要である。なお、この例ではクライオゲルは一回の凍結融解サイクルにより形成されるが、その他のクライオゲルは複数の凍結融解サイクルを経てPVA分解が示される。概して、度重なる負荷サイクル(疲労)のもとでのPVAクライオゲル弾性率の安定性について情報はとても少ない。
【0023】
予想できる様に、任意の時間におけるPVAクライオゲルの膨潤は凍結融解サイクルの回数が増大すると減少し、これはPVAゲルの緻密化を示し、大部分はより高い架橋密度のためである。長い期間では、ゲル化の後の静的な状態のもとでは、最終的な棒準率は減少するが、弾性率は時間と共に増大する。凍結融解処置では、温度はPVA溶液の相分離を無理に引き起こすので、PVA内のゲル化機構が促進(強化)される(なお室温でも時間をかければPVA溶液は弱いがゲル化するようになる)。
【0024】
水溶液(若しくは水溶液/DMSO混合物)内のPVAが溶解するまで過熱され、さらに凍結及び融解を繰り返すと、高い弾力性のゲルを形成する。ゾル−ゲル遷移は物理的(化学的ではない)架橋ポリマーを形成する。よって、実現された架橋は熱可逆性を有している。クライオゲルの特性は架橋していないポリマーの分子量、水溶液の濃度、凍結の温度及び時間、加熱/冷却速度並びに凍結融解サイクルの回数に依存している。従って、PVクライオゲルの機械的性質の制御を実行できるパラメータの余地が豊富にある。PVAクライオゲルはとても低い毒性を示し(少なくとも一部はこれらの低い表面エネルギのためである)、ほとんど不純物を含んでおらず、それらの水分含有量は80wt%乃至90wt%の組織と同量に生成することが可能であり、従って概して極めて生体適合性があると考えられている。
【0025】
凍結融解サイクルの回数とともに孔の大きさを大きくできる。なおポリビニルポリマーは不純物として氷晶から排斥され、ポリビニルポリマーの多い領域内へ次第に「多量排出される(volume excluded)」と考えられる。予想できるように、孔の大きさはポリビニルポリマー濃度を減少させることにより増大される。
【0026】
純粋な水溶液中での凍結融解サイクルにより形成されたクライオゲルの融点は約70℃乃至80℃である。水/ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液中のPVAクライオゲルの融点は凍結融解サイクルの回数と共に増大する。水中で10%乃至30%のDMSO濃度では凍結時間の増加と共に融点が上昇する。凍結時間、DMSO濃度、PVA濃度、及び凍結融解サイクルの回数と融点との間の複雑な関係を定量化することは難しい。通常は、融点はPVA濃度及び凍結融解サイクルの回数と共に増大する。図3では、1%DMSO/水溶液中のPVAについてのPVA濃度及び凍結融解サイクルの回数を関数とした融点の変化が示されている。図3はポリマー濃度に対する融点温度の依存関係を図示し、−40℃においての1vol%DMSOのクライオゲルの異なる回数の凍結融解サイクルの曲線群が示されており、白丸は1回のサイクルで形成されたゲルを示し、黒丸は3回のサイクルで形成されたゲルを示し、白三角は4回のサイクルで形成されたゲルを示し、黒三角は8回のサイクルで形成されたゲルを示し、白四角は14回のサイクルで形成されたゲルを示している。DMSO溶媒濃度(20%vol乃至30%vol)範囲に亘ってPVA分子と溶媒との間の相互作用が増大するので、PVAの融点は非常に低くなる(10℃付近若しくは以下)。通常は凍結/融解サイクルの回数及びPVA濃度の増加に伴って融点は増加する。DMSO濃度が非常に高い場合(90%)ではクライオゲルはとても低い融点を有し透明である。最初の凍結/融解サイクルの後、融点はほとんど変わらない。低濃度DMSO(1%乃至5%)におけるPVAクライオゲルの融点温度は凍結時間に依存していない。しかし、30%DMSOにおけるPVAの融点温度は凍結時間に強く依存している。この依存性はおそらくDMSOの高濃度では凍結が遅らされるためであろう。速い凍結は架橋の形成において結晶の動きの効果を減少させる。結果として急速に凍結し長い時間保たれたPVAの融点(低濃度のDMSO)は急速に凍結させなかったPVAの融点(高濃度DMSO)よりも低い。高濃度のPVAでは、高濃度DMSO内の凍結時間に対する融点への依存は際立っていない。しかし、融点はこれらのサンプルにとってすでにとても高い。PVA/DMSO/水のクライオゲルにおけるもっとも高い融点は「凍結」(40%乃至80%のDMSO)の間に凍結水を持たないゲルで見られる。
【0027】
融解速度の効果
PVAの水溶液のゲル留分測定は、遅い融解がより浸出性の少ないポリマーになることを明らかにしている。データは融解速度が減少するとさらに効果的なゲル化ステップの観測結果を裏付ける。ヒドロゲルのせん断弾性率は融解速度の対数の減少によっておおよそ線形に増加する(図4)。図4はせん断弾性率水中における7g/dlのPVA溶液の一回の凍結融解サイクルにより形成されたPVAヒドロゲルの解凍速度の対数との間の依存性のグラフである(ヨコヤマ.K ら、「ポリ(ビニルアルコール)/水/ジメチルスルホキシド溶液の凍結/融解により得られたゲルの性質(Properties of gels obtained by freezing/thawing of poly(vinyl alcohol)/water/dimethyl sulfoxide solution)」、「ジャーナル・オブ・アプライド・ポリマー・サイエンス(Journal of Applied Polymer Science)」、1989、37、2709から2718頁からのデータである)。0.02℃/分の低い融解速度は10g/dLのPVA濃度において10.55kPaのせん断弾性率を伴うクライオゲルを作り出す。10℃/分において解凍した試料ではゲル化が起こらなかった。融解速度が低い(〜0.02℃/分)と、初期のポリマー濃度が高い場合は(〜12g/dL)水性の媒体中の可溶ポリマーの損失は減少される
弾性率(modulus)
一般的には、PVAクライオゲルの弾性率は凍結融解サイクルの回数に伴い増加する。凍結融解効果は極めて高い弾性率を伴うPVAクライオゲルを作る出すために有効に使われてきた。PVAクライオゲルが耐荷重用の用途(例えば軟骨)に使用できるか否かを判断する一連の実験では、熱的にサイクルされたPVAクライオゲルが1MPa乃至18MPa(とても高い荷重)の範囲の圧縮率、及び0.1MPa乃至0.4MPaの範囲のせん断弾性率を有していた。この一連の実験で使用される材料はサルブリア(SalubriaTM)(ジョージア州、アトランタのサルメディカ社(SaluMedica)から入手できる)である。
【0028】
弾性率の安定性
熱可逆性の性質のクライオゲルであるため、架橋の安定性に関する懸念が文献に記載されている。なお溶液中の非クライオゲルPVAの弾性率は一定の温度において蒸留水中に浸された時間と共に増大することが観察された。一つの実験で、40日以上行われ、弾性率は1.5倍に増大した。なお溶液熟成(aging)の間、可溶性PVAの損失を同時に生じる強度の増加は、ポリマー鎖の超分子パッキングの度合の程度の増加の結果である。言い換えれば、適度な温度においてさえも、わずかなゲル化ステップが存在する。凍結融解によりゲル化されたPVAの長期保存に関するこれらのデータには有意な示唆がある。なお、所定時間に亘るポリマーの損失の効果及びそれが局所的な宿主生物学的環境にどのような影響を与えるのかを理解することも重要である。
【0029】
膨潤
予想できるように、任意の時間点におけるPVAクライオゲルの膨潤は凍結融解サイクルの回数の増加に伴い減少するが、PVAの貯蔵弾性率は凍結融解サイクルの回数に伴い増加する。しかし、ゲル化の後の静的状態では、最終的な膨潤率は減少するが弾性率は時間と共に増加する。このような観測はロジンスキ(Lozinsky)などが提案し、残りの可溶ポリマーの浸出理論に一致する。典型的には、PVAクライオゲルの膨潤力学は拡散プロセスの特徴を示す平方根則(膨潤率対浸水時間)に従う。
【0030】
PVAゲルは脱水を伴う熱的サイクル(凍結は必ずしも必要ではない)を経て生成されてもよい。このようなゲルは耐荷重用の用途に適していて、特に人工関節の軟骨への使用に適している。このような利用では、人工軟骨は高重合度(7000)を持つPVAから形成され、308,000g/molの平均分子量に変わる。このポリマーから高弾性率PVAを生成するために、ポリマー粉末は水とDMSOとの混合物内に溶かされる。溶液は室温以下に冷やされて透明なゲルが得られる。その後ゲルは室温において真空乾燥機を用い24時間乾燥され、その後140℃においてシリコンオイル糟内において1時間熱処理される。PVAは最大の脱水が達成されるまで水中に置かれる。含水量はアニーリング処理若しくは熱処理を変化させることにより制御することができる。この結果得られたPVAヒドロゲルは約20%の含水量を有し、この含水量は低いものである。
【0031】
この熱的サイクルにより得られるPVAの材料特性の試験によって、堅いバイオマテリアル(UHMWPE)よりも応力をより均一に分散させ、模擬関節軟骨負荷において容易に潤滑膜ギャップを維持することが見出された。材料は薄膜内の1MPaと1.5MPaとの間の圧力を支持し分散させた。負荷変化試験において、PVAは5MPa付近の負荷に耐え、負荷を分散した(図5)。図5は10mmの高さから落下させた様々な材料の試料(質量=27N)を介して伝えられた過渡負荷の経時変化のグラフであり、曲線1はポリエチレン、曲線2は関節軟骨を伴う軟骨下骨、曲線3は関節軟骨を伴わない軟骨下骨、曲線4は20%の水性PVAヒドロゲルである。データはロジンスキ(Lozinsky,V.I)及びダムシュカン(Damshkaln,L.G)、「ポリマーシステムのクライオ組織構造の研究(Study of cryostructuration of polymer systems)、XVII、ポリ(ビニルアルコール)クライオゲルはクライオトロピックゲル構造の力学(Dynamics of cryotropic gel formation)」、「ジャーナル・オブ・アプライド・ポリマー・サイエンス(Journal of Applied Polymer Science)」、2000、77、2017から2023頁からである。
【0032】
オカ及び同僚は様々な条件のもとで熱的サイクルにより生成されたPVAの摩耗特性の実験をした(オカ.M.など、「関節の軟骨の成長(Development of articular cartilage)」、「Pro.Inst.Mech.Eng」、2000、214、59から68頁)。一方向のピンオン円盤(pin-on-desk)(アルミナに抵抗する)試験により見出された摩耗因子はUHMWPEと比較しても遜色なかった。しかし、往復動試験では、摩耗因子は最大で18倍も大きかった。摩耗特性を改善するために、高分子量及びγ線(線量50kGy以上)によって架橋されたPVAが使用された。このような処理は摩耗因子を大幅に減少させた(UHMWPEの摩耗因子の約7倍)。
【0033】
現在の技術によって知られている全てのビニルポリマーヒドロゲルは物理的な結合の融点を超えて暖められるときに材料の不安定性を生じる物理的架橋だけ若しくは生じた製品の架橋の配置が規則正しくないもののみとるというような不利を有する溶液中の化学的架橋だけのどちらかである。従って、共有結合で架橋されたポリマーの利点を有するビニルポリマーヒドロゲルを提供することが必要であり、ここにおいて化学的架橋の配置は利用分野の要求により設計/テイラーメイドされることができる特有の物理的特性を示す。
【発明の開示】
【0034】
本発明は有利な物理的特性を有する共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルの生成方法を提供する。他の実施例では、本発明は本発明の方法により形成された共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲル組成物を提供する。さらなる実施例では、本発明は本発明の方法により生成された共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲル組成(物)からなる製造物を提供する。驚くべき事に、本発明による共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルは処理条件次第により半透明(好ましくは透明)若しくは不透明に生成されうることが見出された。生じたポリマーの透明性に関していえば、透明性は製品内の残った物理的な結合に左右される。すなわち化学的架橋ビニルポリマーヒドロゲルの物理結合をさらに取り除くほど、さらに透明性が上がる。生成されたビニルポリマーヒドロゲルの物理特性の安定性は共有結合による架橋の量を制御することによりさらによくすることができる。さらに、本発明の方法によれば全てのプロセスの間において前駆体ゲルの外形/型を保つ事が可能であることが見出され、形状記憶を示すビニルポリマーヒドロゲルも形成されうる(例えば図12のコイル状PVAヒドロゲルを参照)。物理的な結合の任意の除去の後に、生じたビニルポリマーヒドロゲルは化学的結合を示す。当該化学的結合は先の物理的な結合と比較して極めて類似しているが「逆の」パターンを有している。すなわち、物理的な結合は失われ、それらのあった場所には架橋はもうない。アモルファス領域だけが架橋をすることができるという事実のために、物理的な結合を取り除くことにより得られるパターンは同じようであるがいわば逆のパターンを有している。さらに、本発明によれば、照射ステップにおいて例えば勾配若しくは不連続の一様な遮へい材料を使用することにより共有結合の架橋が徐々に若しくは急激に変化しているビニルポリマーヒドロゲルを生成することが可能である。
【0035】
本発明によれば、共有結合の架橋ビニルポリマーヒドロゲルは、
a)結晶相を有する物理的に結合したビニルポリマーヒドロゲルを提供するステップと、
b)共有結合の架橋を形成するのに効果的な放射線量を提供する電離放射線に物理的に結合したビニルポリマーヒドロゲルをさらすステップと、
c)除去すべき物理的な結合を壊すのに十分なエネルギ量を浴びせる事により物理的な結合のすくなくとも一部分、好ましくは約1%から約100%の部分を任意に取り除くステップと、から生成される。
【0036】
従って、本発明は驚くほど簡単な考えに基礎を置いており、これはあらかじめ生成された「結晶相」ヒドロゲルに照射して共有結合の架橋結合を形成し、その後結晶相の基本となる物理的な結合が(任意に)取り除かれる。これによって(好ましくは)唯一の若しくは大部分の共有結合の架橋は残ったままとなる。
【0037】
好適には、ステップaによる結晶相を有する物理的に結合をしたビニルポリマーヒドロゲルを提供するステップは、
a1)溶媒に溶解したビニルポリマーからなるビニルポリマー溶液を提供するステップと、
a2)前記ビニルポリマー溶液を前記ビニルポリマーの物理的な結合の融点よりも高い温度に加熱するステップと、
a3)前記ビニルポリマー溶液のゲル化を誘発させるステップと、
a4)ゲル化速度を任意に制御し前記ビニルポリマーヒドロゲル内の結晶の物理的な結合を形成するステップと、を含む。
【0038】
ステップa3及びステップa4のゲル化はビニルポリマー溶液を少なくとも一回の凍結融解サイクルを受けさせること及び/若しくはビニルポリマー溶液をゲル化剤と混合し(得られた混合物はビニルポリマー溶液よりも高いフローリの相互作用パラメータを有する)、及び/若しくはビニルポリマー溶液を脱水することにより実施されてもよい。
【0039】
ステップb)の電離放射はガンマ照射線及び/若しくはベータ粒子を使用し実施されても良く、放射線量は典型的には約1kGy乃至約1,000kGyの範囲であり、好ましくは約50kGy乃至1,000kGy、及びさらに好ましくは約10kGy乃至200kGyである。放射線量速度は好ましくは約0.1kGy/分乃至約1000kGy/分の範囲内であり、さらに好ましくは約0.1kGy/分乃至約25kGy/分の範囲内であり、及び最も好ましくは約1kGy/分乃至約10kGy/分の範囲内である。照射ではガンマ放射線若しくはベータ粒子が使用されることができる。他の好適な実施例では、放射線量は最適な値の放射線量の20%の範囲内であり、好ましくは最適な値の放射線量の10%の範囲内であり、及び最も好ましくは最適な値の放射線量の7%の範囲内である。最適な放射線量は実際のポリマー、溶媒、及び濃度配置(分布)の関数であり、従って一定のゲルにおいて特定である。これはさらに下記において議論する。
【0040】
ステップb)の照射ステップに関する限り、架橋において傾斜を有するビニルポリマーヒドロゲルを生成するために放射線量の度合いを操作するために照射マスクが使用されうる。照射マスクは段階的に変化するマスク及び/若しくは徐々に変化するマスクでもよい。
【0041】
ステップc)のエネルギは照射されたビニルポリマーが物理的に結合をした結晶相の融点よりも上の温度にさらす事により供給することができ、及び/若しくはエネルギは電磁放射線(特にマイクロ波放射線)及び/若しくは超音波により供給されることができる。存在する物理的な結合の所定部を破壊するために要求されるエネルギの量は単結合の結合熱により決定されてもよく、要求されるエネルギ量は物理的な結合と壊される結合の数を掛けた値である。従って、物理的な結合を壊すためにビニルポリマーヒドロゲルにエネルギを送達する他のエネルギ源も適している。
【0042】
マイクロ波放射線の使用はエネルギがヒドロゲルの表面だけでなくヒドロゲル全体にも有効であるという利点を有する。従って要求されるエネルギ量は正確に制御される。
【0043】
本発明の好適なビニルポリマーはポリ(ビニルアルコール)と、ポリ(ビニルアセテート)と、ポリ(ビニルブチラール)と、ポリ(ビニルピロリドン)とこれらの混合物とからなる群から選択される。
【0044】
本発明の方法においては溶媒を必要とする場合若しくは使用される場合はいつでも、極性のある溶媒が好ましい。さらに好適な実施例ではステップcのビニルポリマーはエネルギが供給される間は極性のある溶媒に浸されることが好ましい。前記極性のある溶媒は当業者により知られた極性のある溶媒でもよく、極性のある溶媒は水(好ましくは脱イオン化した水)と、メタノールと、エタノールと、ジメチルスルホキシドと、これらの混合物とからなる群から選択される。
【0045】
好ましくは、ビニルポリマー、特に上述されたステップa1のビニルポリマー(つまり、いわば「初めの材料」)は次のような特性を有する。
【0046】
本発明のさらなる実施例では、ビニルポリマーは高度に加水分解されており、及び/若しくは約15kg/molから約15,000kg/molの分子量を有している。好ましくは、ビニルモノマーはビニルアルコール、ビニルアセテート、ビニルブチラール、ビニルピロリドン、及び/若しくはこれらの混合物である。さらに好ましくは、ビニルポリマーは約50kg/molから約300kg/molの分子量、好ましくは約100kg/molの分子量の(好ましくは高度に加水分解された)ポリ(ビニルアルコール)である。あるいは、ビニルポリマーは高度に加水分解され、約1,000kg/molから約1,500kg/molの分子量のポリ(ピロリドン)であってもよい。
【0047】
さらに、ビニルポリマーは約70%から約100%の加水分解の度合いを有し、加水分解の度合は好ましくは約95%から約99.8%である。好ましくは、ビニルポリマーは約80%から約100%の加水分解の度合いを有するポリ(ビニルアルコール)であり、好ましくは加水分解の度合は約95%から約99.8%である。
【0048】
さらに、ビニルポリマーは約50から約200,000の重合度を有し、好ましくは、重合度は約1,000から約20,000である。好ましくは、ビニルポリマーは約100から約50,000の重合度を有するポリ(ビニルアルコール)であり、好ましくは、重合度は約1,000から約20,000である。
【0049】
ビニルポリマー溶液は溶液の重量を基準にして約0.5重量パーセントから約80重量パーセント、好ましくは約1重量パーセントから約15重量パーセント、さらに好ましくは約10重量パーセントから約20重量パーセントのビニルポリマーの溶液である。好ましくは、ビニルポリマー溶液は溶液の重量を基準にして約0.5重量パーセントから約50重量パーセント、好ましくは約1重量パーセントから15重量パーセント、さらに好ましくは約10重量パーセントから約20重量パーセントのポリ(ビニルアルコール)の溶液である。
【0050】
さらに、本発明は本発明の方法により生成された共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲル及び本発明の共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルからなる製造物を提供する。さらに好適な実施例では製造物は活性剤の送達のためのデバイス、耐荷重の整形外科移植物、包帯、経皮ドラッグデリバリーデバイス、スポンジ、非粘着性の材料、人工のガラス質水晶体、コンタクトレンズ、胸部への移植物、ステント、及び非耐荷重人工軟骨から選択される。
【0051】
他の好適な実施例では、本発明の方法により生成された共有結合で架橋されたビニルポリマーハイドロゲルは特に医療分野及び化粧品分野においては、被覆材料、好ましくは医療デバイス及び移植物として使用される。
【0052】
本出願の範囲内では、熱可逆性はビニルポリマーの特性を意味している。ヒドロゲルが凍結融解技術若しくは溶媒操作方法(solvent manipulation approach)いずれにより生成された場合であっても、照射による追加された共有結合構造を欠く生成ヒドロゲルが物理な的結合に関する融点以上(約30℃から約150℃、好ましくは約50℃から約100℃、さらに好ましくは80℃付近)に昇温せしめられた場合は、ヒドロゲルは溶液に戻り室温まで冷却しても再び形成されることはない。
【0053】
クライオゲルはビニルポリマー溶液の温度を下げ、その後ゲルの融点以下に温度を戻すことによるサイクルを一回若しくは複数回行うことにより形成されたビニルポリマーゲルを意味しており、例えばビニルポリマーゲルは凍結融解サイクルの後に形成される。
【0054】
シータゲルはビニルポリマー溶液とゲル化剤とを混合させるステップを含んだ処置により生成されたビニルポリマーゲルを意味し、得られた混合物はビニルポリマー溶液よりも高いフローリの相互パラメータを有している。
【0055】
照射ゲルは物理的な結合を有する隣接するビニルポリマー鎖同士の間に共有結合を形成するために照射され、その後にビニルポリマーゲルの結晶相内における物理的な結合の融点よりも高くビニルポリマーゲルを加熱する任意のステップが続いたビニルポリマーゲルのことである。
【0056】
前駆物質ゲルは照射ステップの前のゲルであり、これは所定の濃度、ビニルポリマーの重合度、及び物理的な結合の所定量のような特定のパラメータにより定義される。
【0057】
ゲル化はビニルポリマーの溶液から3次元のマクロスケールの網状組織を形成することを意味している。
【0058】
膨潤はゲルにとって適した溶媒中に形成されたゲルが置かれるときに体積が増加することを意味している。ゲルは溶媒の質及びヒドロゲルの網状組織構造の度合い(架橋密度)に応じた程度まで膨潤する。
【0059】
結晶相はビニルポリマー内の物理的な結合及び/若しくは結晶構造の形成のことである。結晶領域はビニルポリマー鎖を非常に近接せしめることにより形成すると考えられる。これによって、鎖は物理的な結合を形成する。このような物理的な結合はビニルポリマーヒドロゲルの網状組織を形成し互いに網状組織を維持する。上記したように、物理結合の形成の説明のために3つのモデルが提案された。つまり、1)直接的な水素結合、2)直接的な結晶形成、及び3)液液相分離及びその後のゲル化機構(メカニズム)である。本出願の範囲内では、結晶相は3つの考えられる相互作用の少なくとも1つ、好ましくは直接的な結晶形成により成し遂げられたビニルポリマー内の物理的な結合として定義される。
【0060】
生成されたヒドロゲルの物理的な特性は例えば物理的な結合率、ポリマーの濃度、及び加えられる照射の量などの制御されるパラメータを変化させることにより調整することができる。このような共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルは処理条件に応じて半透明(好ましくは透明)若しくは不透明に生成することができる。生成されたビニルポリマーヒドロゲルの物理的特性の安定性は共有結合の架橋の量を制御することにより向上することができる。選択肢として、物理結合の一部分は取り除くことができる。取り除く物理的な結合率は物理的な結合の約一割乃至ほぼ全ての範囲内であることが好まれる。他の好適実施例では、約1%乃至約100%、好ましくは約10%乃至約90%、最も好ましくは約20%なし約80%の物理的な結合が除去される。
【0061】
好適な実施例においては、共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルの製造方法は、溶媒中に溶解したビニルポリマーからなるビニルポリマー溶液を供給するステップと、ビニルポリマーの物理的な結合の融点よりも上に上昇させた温度までビニルポリマー溶液を加熱するステップと、ビニルポリマー溶液のゲル化を誘発するステップと、ビニルポリマーヒドロゲル内の結晶の物理的な結合を形成するためにゲル化の濃度を制御するステップと、物理的に結合をしたビニルポリマーヒドロゲルを共有結合の架橋を形成するのに効果的な約1kGy乃至約1,000kGyの電離放射線量にさらすステップと、物理的な結合の全部若しくは一部を取り除くために溶液中のビニルポリマーヒドロゲルを溶かすステップとからなる。いくつかの好適な実施例では、生成された共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルは物理的な結合をほぼ欠いている。
【0062】
望まれた物理的な性質には光透過率、重量測定膨潤率、せん断弾性率、負荷弾性率、損失弾性率、貯蔵弾性率、動的弾性率、圧縮弾性率、架橋、及び孔の大きさの少なくとも一つが典型的に含まれている。
【0063】
好適な実施例では、光透過率は得られたヒドロゲルを透明にするのに十分なように増大される。さらに好適な実施例では、光透過率は得られたヒドロゲルを透明にするのに十分なように増大される。PVAヒドロゲルでは、ほとんどのポリマーと同様に、結晶化度は不透明さがつきものであり、これは結晶構造(10乃至100nm)の大きさ及びアモロファスPVAの屈折率がPVAの屈折率と異なるためである。結晶結合が照射の後に融解されると同時に、結晶相は溶けるので局所的な整列(local ordering)は失われ、この結果不透明性の減少を生じる。共有結合は従来の結晶結合点において鎖を一緒に維持しているが、整列を全く強制しない。
【0064】
好適な実施例において、ビニルポリマーはポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(ビニルブチラール)、ポリ(ビニルピロリドン)、及びこれらの混合物からなる群から選択される。好ましくは、ビニルポリマーは約50kg/molの分子量から約300kg/molの分子量の高度に加水分解されたポリ(ビニルアルコール)である。好適な実施例では、ビニルポリマーは約100kg/molの分子量の高度に加水分解されたポリ(ビニルアルコール)である。典型的にはビニルポリマー溶液は溶液の重量を基準にして約0.5重量パーセント乃至50重量パーセントのポリ(ビニルアルコール)溶液である。特定の好適な実施例では、ビニルポリマー溶液は約1重量パーセント乃至15重量パーセントである。他の好適な実施例では、ビニルポリマーは約10重量パーセント乃至20重量パーセントのポリビニルアルコールである。ビニルポリマー、好ましくはポリ(ビニルアルコール)はアイソタクチック、シンジオタクチック、若しくはアタクチックでもよい。
【0065】
ビニルポリマー溶液の溶媒は極性のある溶媒、好ましくは例えば水(好ましくはイオン除去された水(DI))、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。物理的な結合を取り除くためにビニルポリマーヒドロゲルを融解するために使用される溶媒は極性のある溶媒、好ましくは例えば水(好ましくはイオン除去された水)、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、及びこれらの混合物からなる群から選択される。好適な実施例では、同じ溶媒がビニルポリマー溶液において使用され、及び物理的な結合を取り除くためにビニルポリマーヒドロゲルの融解において使用される。好適な実施例では、電離放射線はガンマ放射線若しくはベータ粒子(電子ビーム)である。好適な実施例では、放射線量の総量は適切な値の約1kGy乃至約1,000kGyであり、好ましくは約50kGy乃至約1,000kGy、さらに好ましくは約10kGy乃至約200kGyである。放射線量速度は適切な値の約0.1kGy/分乃至約25kGy/分であり、好ましくは約1kGy/分乃至約10kGy/分である。好適な実施例では、使用される放射線量は最適な放射線量の20%の範囲内、好ましくは最適な放射線量の10%の範囲内、さらに好ましくは最適な放射線量の7%の範囲内である。最適な放射線量は各ポリマーに固有のものである。
【0066】
好適な実施例では、照射されるべきヒドロゲル生成物に適切な値のポリマー濃度は分子間の架橋率対ポリマー濃度のプロットの最大値側、若しくは放射線量対ポリマー濃度の最小値側のポリマー濃度範囲内で調整することができ、最大値及び最小値はプロットの傾斜(勾配)がゼロになる点である。適切なように、ポリマー濃度は分子間架橋率若しくは放射線量が最大値若しくは最小値の20%の範囲内であり、好ましくは最大値若しくは最小値の10%の範囲内であり、さらに好ましくは最大値若しくは最小値の7%の範囲内である。ヒドロゲルがポリ(ビニルアルコール)からなる場合では、ヒドロゲルは合成物の重量を基準として適切な値の約2重量パーセントから約35重量パーセントのポリ(ビニルアルコール)、好ましくは約3.5重量パーセントから約30重量パーセントのポリ(ビニルアルコール)、さらに好ましくは約5重量パーセントから25重量パーセントのポリ(ビニルアルコール)である。
【0067】
照射の後、物理的な結合は熱可逆性の物理的な結合の融点よりも高くヒドロゲルの温度を上昇させることにより除去される。要求された温度は架橋の融点に依存し、適切な温度は約0℃乃至約100℃、好ましくは約40℃乃至約80℃である。好ましくは、物理的な結合の「融解された」PVA鎖の溶解若しくは溶出を可能にするために照射されたゲルが溶媒に浸される間、照射されたゲルは高温に加熱される。高温にさらす継続時間は物理的な結合の全て若しくは物理的な結合の一部分だけを融解するように調整することができる。
【0068】
本発明の共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルは有利な固有の材料の安定性を有し、これは架橋が物理的ではなく化学的な共有結合のときに発揮される。化学試薬により共有結合の架橋を形成するのではなく照射により共有結合の架橋を形成することは残留汚染物質の起こりうる問題を回避する。医薬材料及び製造物においては、照射ステップ及び殺菌ステップは同時に実行できてもよく、製造を簡単にし、コストを削減することができる。先駆体ゲルの物理的な架橋の度合いを変えることにより孔の大きさを制御できることは共有結合のビニルポリマーヒドロゲルを形成する他の方法より優れた利点となる。特定の実施例では、孔の大きさは軟骨細胞若しくは繊維芽細胞のような要求されたクラスの細胞までヒドロゲルの集団を促進するように地来ることができる。
【0069】
前記方法は医薬品(プロテイン、ペプチド、ポリサッカリド、遺伝子、DNA、DNAに対するアンチセンス、リボザイム、ホルモン、増殖因子、広い範囲の薬物、並びにCAT、SPECT、X線、蛍光透視法、PET、MRI、及び超音波のための造影剤を含んでいてもよい)の制御された送達と、臀部、脊椎、膝、肘、肩、手首、手、足首、足、及び顎のための耐荷重移植物の生成と、様々な他の医療移植物及びデバイス(活性の包帯、経皮ドラッグデリバリーデバイス、スポンジ、非接着性物質、ガラス質の人工結晶体、コンタクトレンズ、胸部への移植物、ステント、及び耐荷重でない人工軟骨(つまり耳及び鼻))の生成と、機械的な特性若しくは構造において勾配(一つ若しくは複数)が要求される利用の場合とを含む医療分野、生物製剤分野、及び工業分野において使用するための材料の生成に適用される。本発明のヒドロゲルは電波方式認識(RFID)デバイス及び整形外科の人工装具のような移植物のための生体適合性のある被覆材として使用される。
【0070】
PVAヒドロゲルのためのシステム及び方法の前述の性質及び利点並びに他の性質及び利点は図示される添付図面と共に下記の本発明の好適実施例のさらに詳しい記述から明らかとなるであろう。なお、同等の部品には同様の参照符号が付されている。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1AはPVA濃度の関数として分子間架橋率Gx(10-7mol・J-1)として測定されたガンマ放射線量の効率性のグラフであり、ワング(Wang,S)らの、「脱酸素水溶液中におけるガンマ線によるポリ(ビニルアルコール)の分子間架橋の放射された化学収率に対するポリマー濃度の影響(The influence of polymer concentration on the radiation-chemical vield of intermolecular crosslinking of poly(vinyl alcohol) by gamma-rays in deoxygenated aqueous solution)」、「ラディエーション・フィジックス・アンド・ケミストリー(Radiation Physics and Chemistry)」、2000、59、91から95頁に発表された。図1Bは0乃至100gdm-3の低濃度範囲内のポリマー濃度を関数とした分子間架橋率Gx(10-7mol・J-1)として測定されたガンマ放射線量の効率性のグラフである。
【0072】
図2はポリ(ビニルピロリドン)濃度を関数としたガンマ照射のゲル化線量のグラフであり、ロシスク(Rosisk,J.M.)及びウランスキ(Ulanski,P.)の、「水溶液中でのポリマーの照射によるヒドロゲルの合成(Synthesis of hydrogels by irradiation of polymers in aqueous solution)」、「ラディエーション・フィジックス・アンド・ケミストリー(Radiation Physics and Chemistry)」、1999、55、139から151頁に発表された。10乃至40gdm-3の範囲の局所的な最小値は理想的なポリマー濃度を示す。高濃度における離脱は重なったポリマー領域のためであり、重なったポリマー領域は鎖の動作を制限し且つラジカルの拡散を制限し、架橋の変わりに鎖の切断を引き起こす。低濃度では、ゲル化量は濃度の減少と共に急激に増加する。つまり、低ポリマー濃度では分子間架橋を容易にするには分子間の距離が長すぎるので分子内架橋が優位である(大勢を占める)。
【0073】
図3は融解温度のポリマー濃度に対する依存性のグラフであり、−40℃において1vol%のDMSOのクライオゲルの異なる回数の凍結融解サイクルの曲線群が示されている。白丸は1回のサイクルにより生成されたゲルのデータを示し、黒丸は3回のサイクルにより生成されたゲルのデータを示し、白三角は4回のサイクルにより生成されたゲルのデータを示し、黒三角は8回のサイクルにより生成されたゲルのデータを示し、及び白四角は14回のサイクルにより生成されたゲルのデータ、を示している。
【0074】
図4は水中におけるPVAの7g/dlの溶液を凍結融解サイクルを一回行うことにより生成されたPVAヒドロゲルにおける解凍速度の対数に対するせん断弾性率依存性のグラフであり、データはヤマウラ.K.らの、「ポリ(ビニルアルコール)/水/ジメチルスルホキシド溶液の凍結/融解により得られたゲルの特性(Properties of gels obtained by freezing/thawing of poly(vinyl alcohol)/water/dimethyl sulfoxide solutions)」、「ジャーナル・オブ・アプライド・ポリマー・サイエンス(Journal of Applied Polymer Science)」、1989、37、2709から2718頁によるものである。
【0075】
図5は10mmの高さから落とされる様々な材料の試料(質量=27N)を経て伝達される過渡応力経時変化のグラフである。曲線1はポリエチレン、曲線2は人工軟骨を有する軟骨下骨、曲線3は人工軟骨を有しない軟骨下骨、及び曲線4は20%の水性PVAヒドロゲルである。ロジンスキ(Lozinsky,V.I.)及びダムシュカン(Damshkaln,L.G.)の、「ポリマーシステムの冷凍組織構造の研究XVII、ポリ(ビニルアルコール)、冷却屈性のゲル形成の力学」(Study of cryostructuration of polymer system,Dynamics of cryotropic gel formation)」、『ジャーナル・オブ・アプライド・ポリマー・サイエンス(Journal of Applied Polymer Science)』、2000、77:2017から2023からのデータである。
【0076】
図6は本発明の方法の好適実施例のフローチャート100であり、物理的に結合したヒドロゲルを提供するステップ110と、共有結合の架橋を形成するために物理的に結合したヒドロゲルを電離放射線にさらすステップ112と、物理的な結合を除去するステップ114とを示している。
【0077】
図7は本発明の方法の他の好適実施例のフローチャート150であり、ビニルポリマー溶液を提供するためのステップ152と、物理的な結合の融点以上にビニルポリマー溶液を温めるステップ156と、ゲル化を促進するステップ160と、結晶の物理的な結合を形成するためにゲル化速度を制御するステップ166と、共有結合の架橋を形成すべく物理的に結合したヒドロゲルを電離放射線にさらすステップ170と、物理的な結合を除去するステップ180を示している。
【0078】
図8は薄い(4mm)のシート状に成型され、本発明の好適な実施例に基づき−21℃のNaCl/氷糟に8時間浸し、その後に室温において4時間かけ溶かすことによる凍結融解サイクルが1サイクル行われた10重量パーセント乃至20重量パーセントの水性のPVAヒドロゲル(10-5g/mol、93%+加水分解されている)の動的機械解析の結果のグラフである。試料は水和状態において0kGy、25kGy若しくは100kGyの電子ビームが照射される。得られたゲルの一部はその後80℃まで昇温せしめて凍結融解サイクルにより生成された結晶は溶かされた。動的機械解析は蒸留水中において37℃、1Hzにおいて実施される。群1は対照(0kGy)、群2は25kGy、群3は100kGyである。「溶ける」試料における貯蔵弾性率の落ち込みは凍結融解による熱可逆性の物理的な結合の損失に帰する。0kGyの照射された試料においては融解されたデータが示されていない。なぜならば、それらの材料は融解するや否や完全に分離したからである。
【0079】
図9は薄い(4mm)のシート状に成型され本発明の好適な実施例に基づいて−21℃のNaCl/氷糟に8時間浸し、その後室温において4時間かけ溶かすことによる凍結融解サイクルが4サイクル行われた10重量パーセント乃至20重量パーセントの水性PVAヒドロゲル(10-5g/mol、93%+加水分解されている)の動的機械解析の結果のグラフである。試料は水和状態において0kGy、25kGy若しくは100kGyの電子ビームが照射される。生じた試料のいくつかはその後80℃まで昇温せしめて凍結融解サイクルにより生成された結晶は溶かされた。動的機械解析は蒸留水中において37℃、1Hzにおいて実施される。群1は対照用(0kGy)、群2は25kGy、群3は100kGyである。「溶ける」試料における貯蔵弾性率は凍結融解サイクルによる熱可逆性の物理的な結合の損失に帰する。0kGyの照射された試料においては融解されたデータが示されていない。なぜならば、それらの材料は融解するや否や完全に分離したからである。
【0080】
図10は1回の凍結融解サイクルにより生成された10%PVAからなる円筒型の4つのPVAヒドロゲル210、220、230、及び240の配列200を示している。ポリ(ビニルアルコール)の溶液(105g/mol、93%+加水分解されている)は水中で調整されて10%濃度とした。溶液は薄いシート(4mm)状に成型され、−21℃のNaCl/氷糟に8時間浸され、その後室温において溶かされることによる凍結融解サイクルが1サイクル行われた。円筒型の円盤状の試料がシートから切り取られる。
【0081】
図11は本発明の実施例に基づき1回の凍結融解サイクルの後に照射されて形成された10%PVAからなる2つの円筒型のPVAヒドロゲル260及び270の配列250を示している。ポリ(ビニルアルコール)の10%水溶液(105g/mol、93%+加水分解されている)が準備された。溶液は薄い(4mm)シート状に成型され、−21℃のNaCl/氷糟に8時間浸され、その後室温において溶かされることによる凍結融解サイクルが1サイクル行われた。円筒型の円盤状の試料はシートから切り取られる。試料はその後水和状態において100kGyの電子ビームが照射される。
【0082】
本発明の照射されたヒドロゲルはこれらの原型の「記憶」を示す事ができ、制限が解かれると原型に戻る。図12は10%PVAからなるPVAヒドロゲル310から形成されたコイル300を示しており、物理的な結合の融解の後にコイル状の形を保持していることを示している。ポリ(ビニルポリマー)の溶液(105g/mol、93%+加水分解されている)は水中で調整して10wt%濃度とした。溶液は内径が6.35mm(0.25インチ)の可撓性の管に注がれる。各管の端は密閉されており、管は螺旋状に巻かれており、螺旋状に巻かれた管は−21℃のNaCl/氷糟に8時間浸され、その後室温において4時間かけ溶かされることによる凍結融解サイクルが1サイクル行われた。試料はその後水和状態において100kGyの電子ビームが照射された。得られたコイル状のゲルのいくつかはその後80℃まで昇温せしめられて凍結融解結合により生成された結合は溶かされた。コイル状のゲルはまっすぐな棒状に伸ばす事ができるが、加えられた張力が解かれるとコイル状の形状取り戻す。
【0083】
適切な大きさのコイルはカニューレ(cannula)若しくは同等の送達デバイスである内腔を経て椎間の空間に挿入され、送達デバイスから椎間の空間内に放出された後に、前もって形成された形を取り戻す。一実施例では、本発明のコイル状のゲルは髄核を置き換えるために椎管部分の中心に挿入される。他の実施例では、前もって形成されたヒドロゲルコイルは手術において空間(void)を満たすために使用されうる。他の実施例では前もって成形されたヒドロゲルコイルは創傷被覆材として使用されうる。このようなヒドロゲルコイルの空間充填特性は解放できる活性剤の貯蔵所と本発明のヒドロゲル材料の使用に有利に組み合わせられる。当業者は本発明のヒドロゲルにより「記憶」されうる前もって形成された形はコイル状だけに制限されないことがわかるであろう。
【0084】
図13は電子ビーム照射をまさに受けようとしている包装されたPVA円盤の配列400であり、円盤410及び円盤420はシールドされておらず、円盤430及び円盤440は徐々にシールドされ、並びに円盤450及び円盤460は段階的にシールドされている。
【0085】
図14A及び図14Bは連続的に変化するマスクを使用した照射の効果を示した図500である。図14Aは1回の凍結融解サイクルにより形成され、融解される前に水和状態において100kGyの電子ビームが照射された連続的に変化するPVAヒドロゲル510を示している。矢印520は共有結合の架橋が増加する方向を示している(高く受ける線量)。図14Bは図14Aに示されたものと同じ連続的に変化するPVAヒドロゲル510の融解の後を示していて、共有結合の架橋が増加する方向を指す矢印520を有していて(高く受ける線量)、囲み530及び囲み540は膨潤率の測定がされた場所を示している。物理的な結合の融解の後に透明度が増すことに留意されたい。
【0086】
図15A及び図15Bは段階的に変化するマスクを使用した照射の効果を示した図600である。図15Aは1回の凍結融解サイクルにより形成され、その後融解される前に水和状態において100kGyの電子ビームが照射された段階的に変化するPVAヒドロゲル610を示している。円620は照射の間のマスク(アルミニウム円盤)の位置を示している。図15Bは図15Aに示されたものと同じ段階的に変化するPVAヒドロゲル610の融解の後を示していて、囲み630及び囲み640は膨潤率が測定された場所を示している。
【0087】
図16は照射及び融解の前のPVAヒドロゲルの配列700を示しており、試料710は1回の凍結融解サイクルにより生成された10%PVAヒドロゲルであり、試料720は1回の凍結融解サイクルにより生成された20%PVAヒドロゲルであり、試料730は4回の凍結融解サイクルにより生成された10%PVAヒドロゲルであり、試料740は4回の凍結融解サイクルにより生成された20%PVAヒドロゲルであり、1セント銅貨750が尺度の基準のために提供されている。
【0088】
図17は照射後及び融解後のPVAヒドロゲルの配列800を示しており(80℃の脱イオン水中に浸された)、試料810は1回の凍結融解サイクルにより形成され25kGyの照射がなされた10%ヒドロゲルであり、試料820は1回の凍結融解サイクルにより形成され25kGyの照射がなされた20%ヒドロゲルであり、試料830は1回の凍結融解サイクルにより形成され100kGyの照射がされた10%ヒドロゲルであり、試料840は1回の凍結融解サイクルにより形成され100kGyの照射がなされた20%ヒドロゲルであり、試料850は4回の凍結融解サイクルにより形成され25kGyの照射がされた10%ヒドロゲルであり、試料860は4回の凍結融解サイクルにより形成され25kGyの照射がなされた20%ヒドロゲルであり、試料870は4回の凍結融解サイクルにより形成され100kGyの照射がなされた10%ヒドロゲルであり、試料880は4回の凍結融解サイクルにより形成され100kGyの照射がなされた20%ヒドロゲルである。
【0089】
本発明の前述された及び他の目的、性質、及び利点は図示される添付図面と共に下記の本発明の好適実施例のさらに詳しい記述から明らかとなるであろう。なお、同等の部品には同様の参照符号が付されている。図は必ずしも縮尺表示されておらず、代わりに本発明の原理を説明する場合は強調されている。
【発明の実施の形態】
【0090】
共有結合で架橋されたポリ(ビニルアルコール)(PVA)ゲルは結晶相を有する物理的に結合したPVAヒドロゲルを作り、物理的に結合したPVAヒドロゲルを共有結合の架橋を成形するのに有効な量の電離放射線にさらし、共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルを生成するために物理的に結合した結晶相の融点以上に温度を上げることにより物理的な結合を取り除くことにより製造される。製造されたヒドロゲルの物理的特性は物理的な結合の割合、ポリマーの濃度、及び適用される放射線量などの制御されたパラメータを変えることにより調整できる。PVAの共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルは処理条件に応じて半透明(好ましくは透明)若しくは不透明に生成することができる。生成されたヒドロゲルの物理的な性質の安定性は共有結合の架橋の量を制御することにより向上させることができる。
【0091】
背景技術に記載されたように、PVA内の物理的な結合及び結晶構造の形成は凍結融解サイクル若しくはPVAから水を引き出す材料を加えることによりPVA内に囲まれた水の溶解を変えることにより効果的に達成されることが当該技術分野で知られている。PVA鎖を近接させ、その結果鎖が物理的な結合をすることにより結晶領域が形成されると考えられている。これらの物理的な結合はPVAヒドロゲルの網状組織を形成し互いに網状組織を維持している。上述したように、凍結融解サイクルの間に形成される物理的な結合の形成を説明するために3つのモデルが提案された。すなわち1)直接の水素結合、2)直接の結晶形成、及び3)液液相分離及びその後のゲル化機構である。
【0092】
PVA鎖を近接させて物理的な結合を形成するのに有用な2つの知られた技術がある。一つめの技術は−10℃までPVA溶液を冷却することであり、これは水をPVAから引き離し、PVAを結晶にする。室温まで温めるとゲルが形成される。この処置は「クライオゲル」と呼ばれるゲルを形成し、冷却ステップに関係がある。
【0093】
二つめの技術はPVAから水を引き離す材料を加えることによりPVA内の水の溶解を変え、再び結晶接合を形成するが温度は0℃より高い。このようなゲルは「シータゲル」と呼ばれ、シータゲルはPVA溶液対におけるシータ点よりも高いフローリの相互パラメータχを有する溶媒中にPVA溶液を接触させ、その後にPVA溶液対におけるシータ点よりも低いフローリの相互パラメータを有する他の溶媒に含有されたPVAを浸すことにより形成されるゲルである。シータゲルを生成するために有用な技術は米国公開特許公報第20040092653号に開示されている。
【0094】
溶液中のポリマーは絶え間ない動的運動を行う錯体分子である。理想的なポリマー鎖の構造は「ランダムウォーク」として通常記述され、ここにおいて分子は自由に接合し、どこへでも自由に動くと単純に仮定される。この振る舞いの結果ポリマーはガウス分布を伴う球状の形状をとると呈する。実際には鎖には鎖の形状及び振る舞いを規定する多数の力が鎖に加えられている。自由溶液ではシステムの温度から生じるブラウン変動により無作為運動をする傾向にある。同時に、鎖自身との相互作用(なぜなら鎖は長く、分子は伸びているからである)及び鎖の周囲との相互作用から生じる力がある。
【0095】
ポリマーが溶液に容易に溶けると(すなわち、ポリマーはゲル化のために必要なχの値を有していない最初の溶液にある)、溶媒にさらされるポリマー鎖の量を最大化しようとして膨潤する。最初の溶媒では、ポリマー元素とポリマー元素に隣接した溶媒分子との間の相互作用エネルギは、ポリマー・ポリマー対及び溶媒・溶媒対の相互作用エネルギの平均値よりも大きい。これはフローリー(Flory,P.J.)によってコーネル・ユニバーシティ・プレス社(Cornell University press)から1953年に出版されたポリマー化学の原理(Principles of Polymer Chemistry)の424頁に記述された。鎖は不安定な状態であり、隣の鎖との接触に抗し同様に機械的圧縮及び変形にも抗する。溶解性(力)が変わると、溶媒の質が低下するのでこの膨潤した構造は崩壊する。
【0096】
シータ点では、溶媒の質は無作為ブラウン運動が鎖を理想的なガウス分布に保つのに十分である。この臨界閾値よりも下では鎖部分は溶媒分子よりもそれぞれの隣の鎖を選び、鎖は縮まる(つまり、二番目の溶媒はゲル化に十分なχ値を有する)。フローリの相互作用パラメータχは無次元であり、温度や圧力などに依存する。最初の溶媒は低いχを有する。一方、二番目の溶媒は高いχを有し、約χ=0.5において転移を伴う。χ=0の場合はモノマーにとても類似した溶媒に相当する。格子モデルでは、これは自由エネルギが格子における様々な鎖の形態に関するエントロピーから完全に生じる場合である。このような場合では、温度は構造に対し影響を持たず、溶媒は「断熱」である。断熱溶媒は良い溶媒の特に簡単な例である。ほとんどの場合ではχは正である。これはデゲネス(de Gennes,P.G.)ポリマー物理のスケーリング概念(Scaling Concepts in Polymer Physics)、ファーストエディション(First ed.)p.72:コーネル・ユニバーシティ・プレス社(Cornall University Press)(1979)に記述されている。もし溶媒の質がすごく悪いと、鎖は溶媒から脱し完全に沈殿する。この効果は溶媒の温度操作により得ることもできる。
【0097】
ポリマー溶液の濃度が十分高くなると、最初の溶媒の少なくとも一部分を相互の鎖の相互作用及び鎖内の相互作用を強要する二番目の溶媒に置き換えることにより溶媒の質の調整が達成されうる。物理的な架橋が生じると、自由ポリマーを自然に膨潤させた好適な溶媒が後に存在するがこれより物理的な架橋によりバランスされる。鎖内の結合によってポリマー鎖は特定の固定点において束縛されている。その結果ポリマーは溶媒和して伸びるので、ポリマーはさらに変形し緊張(引っ張り)状態にさせられる。これはポリマー鎖の溶媒和と変形した鎖間の緊張状態との間の争いであり、興味深い機械的な振る舞いをゲルに起こさせている。その上、特定の状態のもとではポリマー鎖がイオン化されるので電荷を生じる。隣接した同様の電荷は静電反発力のためにさらなる膨潤を生じさせる。これは天然の軟骨(コラーゲン及びグリコサミノグリカン)に高い弾性率及び高い吸湿性の性質を与える機構の一部である。
【0098】
PVAヒドロゲルが凍結融解技術若しくは溶媒操作方法のいずれにより形成された場合であっても、照射からの付加的な共有結合形成を欠いて形成されたヒドロゲルは物理的な結合の融点よりも上に温度が上げられる(80℃付近)と、ヒドロゲルは溶液に戻り、室温まで冷やしても再形成しない。この特性はPVAの文献に「熱可逆性」として記述されており、なぜならPVAゲルは温めるだけで容易にPVA溶液に戻るからである。ヒドロゲルを再形成するためには、2つの技術の1つ、例えば上述された凍結融解技術などを用い結晶領域の物理的な結合は再建されなければならない。
【0099】
本発明のPVAヒドロゲルは広い機械的な性質を有して形成することができ、当該機械的な性質は例えば極めて低い圧縮率からほどよく高い圧縮率である。最終的な弾性率に不可欠であるのは先駆体ゲル内に存在する物理的な結合の数である。多数の物理的な結合は放射線誘発性の架橋の全収率を減少させるのに役立ち、材料の最終的な弾性率を減少させる。従って、相対的に弱い物理的な結合を有する先駆体ゲルは強い共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルを生成する。この現象は先駆体ゲル内の物理的な結合の調整により最終的な材料特性の制御を可能にする。
【0100】
融解ステップが物理的な結合を取り除き、制御可能な体積の空隙を残すように共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲル内の間隙率及び孔の大きさは制御されうる。これはPVA溶液への直接の照射では可能でない。さらに、処理が完了すると、これらは照射処理のために当然に殺菌されている。
【0101】
ポリビニルアルコールは連続処理を用いたアルコール分解によりポリビニルアセテートから生成される。ポリビニルアルコールは一般的に「十分に加水分解された」形式と「部分的に加水分解された」形式に分類され、分類のされ方は分子内に残った残りのアセテート基のモルパーセントの大きさ次第である。ポリビニルアセテートの重合度及び加水分解(鹸化)の度合いを変えることにより数多くの異なる等級が提供されうる。典型的には、本発明の実施に適したポリビニルアルコールは約80%乃至100%、好ましくは約95%乃至99.8%の加水分解(鹸化)の度合いを有する。本発明の実施に適したポリビニルアルコールの重合度は約100から約50,000、好ましくは約1,000から約20,000の範囲内である。
【0102】
PVAゲルの架橋は共有結合(化学的)の架橋若しくは物理的な結合(物理的)どちらでもよい。共有結合の架橋は典型的に化学的変化若しくは照射を経て形成される。通常は、シータゲルの形成はビニルポリマー溶液とゲル化剤とを混合するステップを含んでおり、得られた混合物はビニルポリマー溶液よりも高いフローリの相互作用パラメータを有する。本発明では、最初の物理的に結合した前駆体ゲルは照射により共有結合の架橋をするように、共有結合及び物理的な結合の両方が使用されうる。
【0103】
共有結合の架橋を形成するための照射の使用は化学的な架橋よりもいくつかの利点を有する。化学的架橋は反応性の良い金属塩若しくはアルデヒドを添加してシステムを熱照射させることによりしばしば実施される。例えば、架橋は(ジ)イソシアネート、尿素/石炭酸/メラミン樹脂、エポキシ、若しくは(ポリ)アルデヒドを添加することにより行われる。しかし、化学的架橋のためにこのような作用物を用いることはPVAヒドロゲルの生体適合性を減少させる残留物を残すことになる。
【0104】
溶液中のポリマーへ照射することより架橋を形成することは生体医学的に使用するためのヒドロゲルの生成に適した方法である。イオン源を経た架橋は反応の適切な制御を供給し、不必要なプロセス(例えばモノマーをポリマー鎖の側部に同種移植する)の数を減らし、更なる処置若しくは浄化をほとんど伴うことなく使用に適した最終生成物を生成する。照射ステップ若しくは滅菌ステップはしばしば組み合わせることができる。
【0105】
本明細書では、「クライオゲル」は−10℃までPVA溶液を冷却し、その後ゲルの融点よりも低い温度に戻すサイクルを1回若しくは複数回行うことにより生成されたPVAゲルを意味している。
【0106】
本明細書では、「シータゲル」はビニルポリマー溶液とゲル化剤とを混合するステップを含んだ処置により形成されたヒドロゲルを意味しており、混合物はビニルポリマー溶液よりも高いフローリの相互作用パラメータを有している。
【0107】
本明細書では、「放射ゲル」は物理的な結合を有する近接したPVA鎖間に共有結合を形成するために照射され、その後ヒドロゲルをヒドロゲルの結晶相内において物理結合の融点以上に温めるステップが続いたヒドロゲルである。
【0108】
本明細書では、「ゲル化」は溶液からの3次元巨視的規模の網状組織の形成を意味している。「膨潤」は形成されたゲルがゲルにとって良い溶媒内に置かれたときに生成される体積の増加である。ゲルは溶媒の質及び網状組織の形成度合(架橋密度)に依存し膨潤する。
【0109】
図6及び図7は本発明の方法の好適実施例のフローチャートである。好適実施例では、本発明は結晶相を有する物理的な架橋されたビニルポリマーヒドロゲルを提供するステップと、共有結合で架橋を形成するために有効な約1kGy乃至約1,000kGyの範囲の放射線を提供する電離放射線量に物理的に架橋されたビニルポリマーヒドロゲルをさらすステップと、共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルを生成するために物理的な結合をした結晶相の融点よりも高い温度まで照射されたビニルポリマーゲルを加熱することにより物理的な結合を除去するステップとからなる共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルの生成方法を提供する。好適実施例では、結晶相を有する物理的に結合したビニルポリマーヒドロゲルを供給するステップは溶媒内に溶かされたビニルポリマーからなるビニルポリマー溶液を提供するステップ、ビニルポリマーの物理的な結合の融点より高い温度にビニルポリマー溶液を加熱するステップと、ビニルポリマー溶液のゲル化を誘発するステップと、ゲル化速度を制御してビニルポリマーヒドロゲル内において物理的な結合を形成するステップとを含んでいる。好適実施例では、ビニルポリマーはポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(ビニルブチラール)、ポリ(ビニルピロリドン)、及びこれらの混合物からなる群から選択される。
【0110】
好適実施例では、ビニルポリマー溶液の溶媒は脱イオン水、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、及びこれらの混合物からなる群から選択される。好適実施例では、照射されたビニルポリマーヒドロゲルは脱イオン水、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、及びこれらの混合物からなる群から選択された溶媒中に浸され、そして融点以上の温度にさらされている。
【0111】
ポリ(ビニルアルコール)の溶液(105g/mol、93%+加水分解された)は水中で調整されて10%から20%の濃度とする。溶液は薄い(4mm)シート状に成型され、−21℃のNaCl/氷糟に8時間浸されその後室温において4時間かけ融解するサイクルが1サイクル行われた。試料はその後水和状態において0kGy、25kGy若しくは100kGyの電子ビームが照射される。生じたゲルのいくつかはその後80℃まで昇温せしめて凍結融解により生成された結晶が溶かされる。動的機械解析は蒸留水中において37℃、1Hzにおいて実施される。
【0112】
DMA試験において生じた貯蔵弾性率は図8に示されている。図8は本発明の好適実施例に基づき薄い(4mm)シート状に成型され、−21℃のNaCl/氷糟に8時間浸されその後室温において4時間かけ融解するサイクルが1サイクル行われた10乃至20重量パーセントの水性PVAヒドロゲル(10-5g/mol、93%+加水分解された)の動的機械解析の結果のグラフである。試料はその後水和状態において0kGyから25kGy若しくは100kGyの電子ビームが照射される。得られたゲルのいくつかはその後80℃まで昇音せしめて凍結融解により生成された結晶は溶かされる。動的機械解析は蒸留水中において37℃、1Hzにおいて実施される。群1は対照用(0kGy)、群2は25kGy、群3は100kGyである。貯蔵弾性率の「溶ける」試料における落ち込みは凍結融解による熱的可逆性の物理的な結合の損失に帰する。0kGyの照射された試料においては融解されたデータが示されていない。なぜならば、それらの材料は融解するや否や完全に分離したからである。
【0113】
前期結果は前駆体ゲルへの連続の強い照射は圧縮率を増加させることを示している。しかし、物理的な結合の融解の後に、ゲルは前駆体ゲルよりも低い弾性率を有するが、これらが少なくとも100kGyの照射がされていない場合である。融解の後に、10%PVA若しくは20%PVAの前駆体ゲルから始まった共有結合で架橋ビニルポリマーヒドロゲルに機械的性質の差はない。
【0114】
DMA試験、強い架橋前駆体ゲル・方法
ポリ(ビニルアルコール)の溶液(105g/mol、93%+加水分解された)は水中で調整されて10%と20%との間の濃度である。溶液は薄い(4mm)シート状に成型され、−21℃のNaCl/氷糟に8時間浸され、次のサイクルの前に室温において4時間かけ溶かされることによる凍結融解サイクルが4サイクル行われた。試料はその後水和状態において0kGy、25kGy若しくは100kGyの電子ビームが照射された。得られたゲルのいくつかはその後80℃まで昇音せしめて凍結融解により生成された結晶は溶かされる。動的機械解析は蒸留水中において37℃、1Hzにおいて実行された。
【0115】
DMAテストの貯蔵弾性率の結果は図9に示されている。本発明の好適実施例に基づき図9は薄い(4mm)シート状に成型され、−21℃のNaCl/氷糟に8時間浸され、室温において4時間かけ溶かされることによる凍結融解サイクルを4サイクル行われた10乃至20重量パーセントの水性PVAヒドロゲル(10-5g/mol、93%+加水分解された)の動的機械解析の結果のグラフである。試料はその後水和状態において0kGy、25kGy若しくは100kGyの電子ビームが照射された。その後生じたゲルの一部は80℃まで温度が上げられて凍結融解により生成された結晶が溶かされる。動的機械解析は蒸留水中において37℃、1Hzにおいて実行された。群1は対照(0kGy)、群2は25kGy、群3は100kGy、である。貯蔵弾性率において「溶ける」試料における落ち込みは凍結融解のために熱的可逆性の物理的な結合の損失に帰される。0kGyの照射された試料においては融解されたデータが示されていない。なぜならば、それらの材料は融解するや否や完全に分離したからである。
【0116】
この図に示されたデータは凍結融解サイクル(物理的な結合を含むPVAの量と相互関係が示されうる)の回数は照射の純粋な効率性を減少させることを明らかにする。凍結融解サイクルが1サイクル行われ及び100kGyにさらされた10%PVAゲルは融解後に200kPaの弾性率を有する(図8)。凍結融解サイクルが4サイクル行われた前駆体10%PVAゲルへの同一の処置は90kPaの弾性率をもたらす。従って、前駆体ゲルの物理的な結合が強くなればなるほど、照射により誘発される化学的架橋の収率は低くなる。この結果も物理的な結合内に勾配が最初に生じ(例えばPVAゲルの脱水の違いにより)、その後前駆体ゲルに一様に照射することにより徐々に変化するゲルが生成できることを示している。最終的なゲルは前駆体ゲル内に形成された架橋の反対方向の勾配を架橋内に有する。
【0117】
例1
円筒形の共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルは一様な照射分布を用い照射された。ポリ(ビニルアルコール)の溶液(105g/mol、93%+加水分解された)は水中で調整され10%の濃度である。溶液は薄い(4mm)シート状に成型され、−21℃のNaCl/氷糟に8時間浸され、室温において溶かされる凍結融解サイクルが1サイクル行われた。円盤はシートから切り出され円筒状の円盤に形成される。試料はその後水和状態において100kGyの電子ビームが照射された。生じたゲルのいくつかは80℃まで昇音せしめて凍結融解により生じた結晶は溶かされる。ゲルの膨潤率は架橋密度における処置の効果を識別するために記録された。
【0118】
図10及び図11は照射の前に10%PVA溶液の凍結融解サイクルを1サイクル行うことにより生成され、その後照射された円筒形のPVA円盤が示されている。図10は凍結融解サイクルを1サイクル行なうことにより形成された10%PVAからなる4つの円筒形のPVAヒドロゲル210、220、230、240が示されている。ポリ(ビニルアルコール)の溶液(105g/mol、93%+加水分解された)は水中で調整され10%の濃度である。溶液は薄い(4mm)シート状に成型され、−21℃のNaCl/氷糟に8時間浸され、その後室温において溶かされる凍結融解サイクルが1サイクル行われた。円盤はシートから切り出され円筒形の円盤を形成する。
【0119】
図11は本発明の好適実施例に合致するように1回の凍結融解サイクルの後に照射により形成された10%PVAからなる2つの円筒形PVAヒドロゲル260及び270の配置250を示している。ポリ(ビニルアルコール)の溶液(105g/mol、93%+加水分解された)は水中で調整され10%の濃度である。溶液は薄い(4mm)シート状に成型され、−21℃のNaCl/氷糟に8時間浸され、室温において溶かされる凍結融解サイクルが1サイクル行われた。円盤はシートから切り出され円筒形の円盤を形成する。試料はその後水和状態において100kGyの電子ビームが照射された。
【0120】
表1は照射融解処置の前及び後のゲルにおける重量測定の膨潤率を示す。全ての膨潤測定は23℃の蒸留水中において実施される。膨潤は溶媒、温度、及びヒドロゲルの架橋濃度に依存する。同じ温度において同じ溶媒を伴い得られた類似の重量測定の膨潤率は融解ステップにより物理的な結合は取り除かれてしまっているが、比較できる架橋密度は照射の後も残っていることを示している。
【0121】
【表1】

【0122】
溶解の前及び後において膨潤率に実質的な変化はないので、PVAクライオゲルの照射及び融解の処理は熱的に不安定な物理結合を安定した共有結合の架橋に交換するように思われる。この場合では、最終的なゲルの最初の膨潤率は保持される。これは融解が物理的な結合の解放に役立ち、PVA材料の多くの損失を生じないことを示す。従って、弱い物理的な結合を強くするために丈夫な(十分な)共有結合の架橋がなければならない。
【0123】
例2
この例は固有の形状を保持する凍結融解されたゲルへの照射はゲルの形状の「記憶」を引き起こすことを示す。ポリ(ビニルアルコール)の溶液(105g/mol、93+加水分解された)は水中で調整されて10wt%の濃度とする。溶液は6.35mm(0.25”)の内径を有する可撓性の管に注がれた。各管の端は密閉され、管は螺旋状に巻かれ、螺旋状に巻かれた管には−21℃のNaCl/氷糟に8時間浸され室温において4時間溶かされる凍結融解サイクルが1サイクル行われた。試料はその後水和状態において100kGyの放射線量の電子ビームが照射された。得られたコイル状のゲルのいくつかはその後80℃まで昇温せしめて凍結融解処置により成形された物理的な結合は融解される。
【0124】
図12は物理的な結合の融解の後にコイル状の形状の保持を示す10%PVAからなるPVAヒドロゲル310から形成されるコイル300を示している。ポリ(ビニルアルコール)の溶液(105g/mol、93+加水分解された)は水中で調整され10wt%の濃度とする。溶液は6.35mm(0.25”)の内径を有する可撓性の管に注がれた。各管の端は密閉され、管は螺旋状に巻かれ、螺旋状に巻かれた管には−21℃のNaCl/氷糟に8時間浸され室温において4時間溶かされる凍結融解サイクルが1サイクル行われた。試料はその後水和状態において100kGyの放射線量の電子ビームが照射された。得られたコイル状のゲルはその後80℃まで昇温せしめて結合を生じた凍結融解は溶かされた。コイル状のゲルは直線の棒状に伸ばされるが、加えられた張力が解かれるとコイル状の形状を再び取り戻す。適切な大きさのコイルは髄核を置き換えるためにカニューレ若しくは内腔を経て椎間の空間に挿入される。
【0125】
例3
以後の例は電子ビームの徐々に変化するシールド及び不連続のシールド両方がPVA共有結合の架橋ビニルポリマーヒドロゲルの最終的な性質を操作するために使用されることを明らかにする。図13は共有結合の架橋における空間的な傾きを引き起こす様々な種類のシールドを伴うPVA円盤の3つの配列を示している。図13は電子ビームの照射をまさに受けようとする包装されたPVA円盤の配列400を示しており、円盤410、円盤420はシールドを受けておらず、円盤430、円盤440は徐々に変化するシールドを受け、円盤450、円盤360は段階的に変化するシールドを受ける。図14Aは1回の凍結融解サイクルの後に融解する前に水和状態において100kGyの電子ビームが照射されることにより形成された連続的に徐々に変化するPVAヒドロゲル510を示している。矢印520は共有結合の架橋(高く線量を受けた)の増加する向きを示している。図14Bは共有結合の架橋の増加方向(高く線量を受けた)を示す矢印520を有する融解後の図14Aに示されたものと同一の連続的な徐々に変化するPVAヒドロゲル510を示し、囲み530、囲み540は膨潤率の測定が行われた場所を示している。なお、透明性の増加は物理的な結合の融解後に増加することに注意されたい。
【0126】
【表2】

【0127】
これらの結果は共有結合の架橋の勾配は電子ビーム処理の間に徐々に変化するシールドを使用することにより達成できることを示している。シールドがされなければされないほど低い膨潤率により示されたような高い架橋を生じる。
【0128】
例4
物理的に結合されたPVAヒドロゲルは中心に置かれたアルミニウム円盤により覆われている間照射され、ヒドロゲルのアルミニウム円盤に覆われた領域と照射にさらされた領域との間に照射線量の段階的な変化が生じる。シールドは段階的に異なる放射架橋を伴う架橋PVA円盤を利用される。この実施例では、シールドは一様な密度及び厚さを有する材料から作られる。他の実施例では、シールドの異なる位置は異なる厚さ若しくは異なる密度及び形状を有しており、減少した放射の場所及び度合を決める。材料はシールド部分の厚さに比例し放射線(電子ビーム若しくはガンマ)を防ぐ。放射架橋の後、ゲルは高温に保たれ徐々に変化する共有結合の架橋を有するPVAヒドロゲルを生成する物理的な結合は融解される。
【0129】
図15Aは1回の凍結融解サイクルの後、融解する前に水和状態において100kGyの電子ビームが照射され形成された段階的に徐々に変わるPVAヒドロゲル610を示している。円620は照射の間のマスク(アルミニウム円盤)の位置を示している。図15Bは図15Aに示された物と同一の段階的に徐々に変化するPVAヒドロゲル610の融解後を示し、囲み630、囲み640は膨潤率が測定された場所を示している。
【0130】
【表3】

【0131】
この例は分離した一様な材料を伴うシールドにより共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルの材料特性をはっきり変化させることができることを明らかにする。シールドされていない領域はシールドされた領域が示す共有結合の架橋の数の急激な増加の半分の値と同程度膨潤する。
【0132】
例5
PVA共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルはコンタクトレンズを作る材料としての用途に適している。通常は、水溶液中に生成された凍結融解クライオゲルは透明なゲルを生成しない(図16)。その上、PVAゲルは乏しい透水性(透水性は一般にコンタクトレンズ材料に求められる)であることが知られている。図16は照射及び融解の前のPVAヒドロゲルの配置700を示し、試料710は凍結融解サイクルを1サイクル行うことにより生成された10%PVAヒドロゲルであり、試料720は凍結融解サイクルを1サイクル行うことにより生成された20%PVAヒドロゲルであり、試料730は凍結融解サイクルを4回行うことにより生成された10%PVAヒドロゲルであり、試料740は凍結融解サイクルを4回行うことにより生成された20%PVAヒドロゲルであり、1セント銅貨750は大きさを比較するために置かれた。
【0133】
しかし、クライオゲルは照射されると物理的な結合は融解され、クライオゲルの一部はとても透明になる(図17)。又、厚い凍結融解結晶は取り除かれているので、クライオゲルの透水性はさらに良くなる。このような材料はコンタクトレンズに役立つ。異なる処理プロセスにより生成されたゲルのいくつかは透明であるので、所定の間隙率のレンズが生成されると考えられる。図17は照射及び融解(80℃の脱イオン水に浸す)後のPVAヒドロゲルの配置800を示し、試料810は凍結融解サイクルを1サイクル及び25kGyの照射により形成された10%PVAヒドロゲルであり、試料820は凍結融解サイクルを1サイクル及び25kGyの照射により形成された20%PVAヒドロゲルであり、試料830は凍結融解サイクルを1サイクル及び100kGyの照射により形成された10%PVAヒドロゲルであり、試料840は凍結融解サイクルを1サイクル及び100kGyの照射により形成された20%PVAヒドロゲルであり、試料850は凍結融解サイクルを4サイクル及び25kGyの照射により形成された10%PVAヒドロゲルであり、試料860は凍結融解サイクルを4サイクル及び25kGyの照射により形成された20%PVAヒドロゲルであり、試料870は凍結融解サイクルを4サイクル及び100kGyの照射により形成された10%PVAヒドロゲルであり、及び試料880は凍結融解サイクルを4サイクル及び100kGyの照射により形成された20%PVAヒドロゲルである。
【0134】
まず、徐々に変化するPVA共有結合の架橋されたビニルポリマーヒドロゲルはPVA溶液を含む円柱をもう一度若しくは何度でも凍結融解することにより生成されうる。生じたPVAクライオゲル円柱は様々な異なる方法(温かいシリコンオイル内に置く、真空中において乾燥する、制御された相対湿度の空気中において乾燥する)により脱水でき、クライオゲルの脱水は円柱内に部分的に入り込み、物理的な結合に放射状の勾配を引き起こす。生じた材料はその後円盤を作るために材料の軸に垂直に分けことができ、その後の再水和の前若しくは後に照射される。生じた材料(勾配−脱水−凍結−融解共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲル)の外側は柔らかく中心は堅い。この方法により作られた核移植物は内方の円盤は空間が満たされ、荷重を支え環に制御された量の荷重を伝達する。弾性率変化の深さは脱水するためのさらす長さにより制御される。空気中において相対的な湿度を変えることで脱水された試料において、ゲルの外側部分の深さ及び最終的な弾性率はさらす時間及び湿度により制御される。
【0135】
PVAヒドロゲルはドラッグデリバリー利用において有益である。ドラッグデリバリー材料に要求される特性は薬を解放する速度を制御できることであり、薬を開放する速度はしばしば材料内の孔の大きさを制御することにより制御される。典型的には0次薬物放出率は破裂効果を除去するために要求される。これを達成するために、典型的な方法は治療されるべき組織に接する(組織との境界にある)表面だけに拡散を制限する材料を創出することである。本発明は孔の大きさだけでなく孔の大きさの勾配も調整できる。PVAの水溶液は上述されたように生成され、薄膜にすることができる(型内において)。作られたゲルはその後物理的な結合の密度変化を起こすために凍結融解サイクルが1回若しくは複数回行われ、物理的な結合の密度変化はサイクルの回数に依存する。クライオゲルは型内に保持され、その後1kGy乃至1000kGyの照射がなされる。ゲルはその後80℃のDI内に浸されて物理的な結合が取り除かれる。
【0136】
上述されたように、孔は凍結融解サイクルの回数と共に大きさが増加する。なお、ポリビニルポリマーは不純物として氷晶から排除され、ますますポリビニルポリマーの豊富な領域内へ次第に「多量排出(volume excluded)される」と考えられる。予想されるように、孔の大きさはポリビニルポリマー濃度が減少すると増大する。
【0137】
孔の大きさの勾配は以下のように作られる。PVAの水溶液は上述されたように生成され、薄膜型に注がれた。型は物理的な結合を生成するために凍結融解サイクルが1回から8回行われた。溶けたクライオゲルは型内に維持され、その後部分的に脱水(どのような方法でも)された。これらはその後徐々に変化するパターンにおいて0kGy乃至1000kGyの照射がなされる。ゲルはその後80℃のDI内に浸されて物理的な結合が取り除かれた。材料は融点より高く温度を上げられると照射からシールドされた領域は接合点が低いか無いのでシールドされた領域に残された孔を有する。徐々に変化するパターンの大きさに依存し、ナノメートルからミリメートルの大きさの孔が生成される。
【0138】
効果が示されない限り記述された順序若しくは要素を制限するように請求項を読むべきではない。従って、請求項及び請求項に同等の範囲及び精神から生じる全ての実施例は本発明として請求される。
【0139】
本発明はさらに以下の内容を包含する。
【0140】
1.共有結合により架橋されたビニルポリマーヒドロゲルの生成方法であって、
結晶相を有する物理的に結合したビニルポリマーヒドロゲルを提供するステップと、
共有結合の架橋を形成するのに効果的な約1kGy乃至約1,000kGyの範囲内の放射線量を提供する電離放射線量に前記物理的に結合したビニルポリマーヒドロゲルをさらすステップと、
共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルを生成するために前記照射されたビニルポリマーヒドロゲルを前期物理的に結合した結晶相の融点より上の温度にさらすことにより物理的な結合を除去するステップと、からなることを特徴とする方法。
【0141】
2.結晶相を有する物理的に結合したビニルポリマーヒドロゲルの提供ステップは、
溶媒に溶かされたビニルポリマーからなるビニルポリマー溶液を提供するステップと、
前記ビニルポリマーの物理的な結合の前期融点よりも上の温度まで前記ビニルポリマー溶液を加熱するステップと、
前記ビニルポリマー溶液のゲル化を誘発するステップと、
前記ビニルポリマーヒドロゲル内に物理的な結合を形成するために前記ゲル化の速度を制御するステップと、を含むことを特徴とする項目1記載の方法。
【0142】
3.前記ビニルポリマーはポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(ビニルブチラール)、ポリ(ビニルピロリドン)、及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする項目1記載の方法。
【0143】
4.前記ビニルポリマーは分子量が約50kg/mol乃至約300kg/molの高度に加水分解されたポリ(ビニルアルコール)であることを特徴とする項目1記載の方法。
【0144】
5.前記ビニルポリマーは約100kg/molの分子量の高度に加水分解されたポリ(ビニルアルコール)であることを特徴とする項目1記載の方法。
【0145】
6.前記ビニルポリマーは約80パーセント乃至約100パーセントの加水分解の度合を有するポリ(ビニルアルコール)であることを特徴とする項目1記載の方法。
【0146】
7.前記ビニルポリマーは約95パーセント乃至約99.8パーセントの加水分解の度合を有するポリ(ビニルアルコール)であることを特徴とする項目1記載の方法。
【0147】
8.前記ビニルポリマーは約100乃至約50,000の重合度を有するポリ(ビニルアルコール)であることを特徴とする項目1記載の方法。
【0148】
9.前記ビニルポリマーは約1,000乃至約20,000の重合度を有するポリ(ビニルアルコール)であることを特徴とする項目1記載の方法。
【0149】
10.前記ビニルポリマー溶液は前記溶液の重量を基準として約0.5重量パーセント乃至約50重量パーセントのポリ(ビニルアルコール)溶液であることを特徴とする項目2記載の方法。
【0150】
11.前記ビニルポリマー溶液は前記溶液の重量を基準として約1重量パーセント乃至約15重量パーセントポリ(ビニルアルコール)溶液であることを特徴とする項目2記載の方法。
【0151】
12.前記ビニルポリマー溶液は前記溶液の重量を基準として約10重量パーセント乃至約20重量パーセントポリ(ビニルアルコール)溶液であることを特徴とする項目2記載の方法。
【0152】
13.前記電離放射線はガンマ放射線若しくはベータ粒子であることを特徴とする項目1記載の方法。
【0153】
14.前記放射線量は約1kGy乃至約1,000kGyであることを特徴とする項目1記載の方法。
【0154】
15.前記放射線量は約50kGy乃至約1,000kGyであることを特徴とする項目1記載の方法。
【0155】
16.前記放射線量は約10kGy乃至約200kGyであることを特徴とする項目1記載の方法。
【0156】
17.前記放射線量速度は約0.1kGy/分乃至約25kGy/分であることを特徴とする項目1記載の方法。
【0157】
18.前記放射線量速度は約1kGy/分乃至約10kGy/分であることを特徴とする項目1記載の方法。
【0158】
19.前記放射線量は最適な放射線量の20%の範囲内であることを特徴とする項目1記載の方法。
【0159】
20.前記放射線量は最適な放射線量の10%の範囲内であることを特徴とする項目1記載の方法。
【0160】
21.前記放射線量は最適な放射線量の7%の範囲内であることを特徴とする項目1記載の方法。
【0161】
22.前記方法はさらに放射線マスク提供するステップを有することからなることを特徴とする項目1記載の方法。
【0162】
23.前記放射線マスクは段階的に変化するマスクであることを特徴とする項目22記載の方法。
【0163】
24.前記放射線マスクは徐々に変化するマスクであることを特徴とする項目22記載の方法。
【0164】
25.前記ビニルポリマー溶液の溶媒は脱イオン水、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、及びこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする項目1記載の方法。
【0165】
26.前記照射されたビニルポリマーヒドロゲルは融点より上の温度にさらされる間に脱イオン化された水、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、及びこれらの混合物、からなる群から選択される溶媒に浸されることを特徴とする項目1記載の方法。
【0166】
27.前記ビニルポリマー溶液に少なくとも1回の凍結融解サイクルを行うステップをさらに含むことを特徴とする項目2記載の方法。
【0167】
28.前記ビニルポリマー溶液とゲル化剤とを混合するステップをさらに含み、得られた混合物は前記ビニルポリマー溶液よりも高いフローリの相互パラメータを有することを特徴とする項目2記載の方法。
【0168】
29.前記ビニルポリマーヒドロゲルを脱水するステップをさらに含むことを特徴とする項目2記載の方法。
【0169】
30.前記物理的な結合のほぼ全てが取り除かれることを特徴とする項目1記載の方法。
【0170】
31.前記物理的な結合の約1パーセントから約90パーセントは取り除かれることを特徴とする項目1記載の方法。
【0171】
32.項目1記載の方法により生成された共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲル。
【0172】
33.共有結合により架橋されたビニルポリマーヒドロゲルの生成方法であって、
溶媒中に溶けたビニルポリマーからなるビニルポリマー溶液を提供するステップと、
前記ビニルポリマーの物理的な結合の融点よりも高温に前記ビニルポリマー溶液を加熱するステップと、
前記ビニルポリマー溶液のゲル化を誘発するステップと、
前記ビニルポリマーヒドロゲル内に結晶の物理的な結合を形成するためにゲル化速度を制御するステップと、
共有結合の架橋を生成するのに効果的な約1kGy乃至約1,000kGyの電離放射線量に前記物理的に結合したビニルポリマーヒドロゲルをさらすステップと、
物理的な結合を取り除くために溶媒内に前記ビニルポリマーヒドロゲルを溶かし、共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルを生成するステップと、からなることを特徴とする方法。
【0173】
34.物理的な結合のほぼ全ては取り除かれ、前記共有結合で架橋されたビニルポリマーは物理的な結合をほぼ欠くことを特徴とする項目33記載の方法。
【0174】
35.前記物理結合の約1パーセントから約90パーセントが取り除かれることを特徴とする項目33記載の方法。
【0175】
36.項目33の方法により生成された共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲル。
【0176】
37.項目36の前記共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルからなる製造物。
【0177】
38.活性剤の送達のためのデバイス、耐荷重の整形外科移植、包帯、経皮ドラッグデリバリーデバイス、スポンジ、非接着性材料、ガラス質の人工水晶体、コンタクトレンズ、胸部への移植物、ステント、及び非耐荷重の人工軟骨から選択されることを特徴とする項目37記載の前記製造物。
【図1A】

【図1B】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14A】

【図14B】

【図15A】

【図15B】

【図16】

【図17】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
共有結合の架橋されたビニルポリマーヒドロゲルの形成方法であって、
a)結晶相を有する物理的に結合したビニルポリマーヒドロゲルを提供するステップと、
b)共有結合の架橋を形成するのに効果的な照射線量を提供する電離放射線に前記物理的に結合したビニルポリマーヒドロゲルをさらすステップと、
c)除去すべき物理的な結合を壊すのに十分なエネルギを供給することによりステップaで形成された物理的な結合の少なくとも一部を除去するステップと、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
結晶相を有する物理的に結合したビニルポリマーヒドロゲルを提供する前期ステップaは、
a1)溶媒に溶解したビニルポリマーからなるビニルポリマー溶液を提供するステップと、
a2)前記ビニルポリマー溶液を前記ビニルポリマーの前記物理的な結合の融点より高い温度に加熱するステップと、
a3)前記ビニルポリマー溶液のゲル化を誘発させるステップと、
a4)前記ビニルポリマーヒドロゲル内の結晶の物理的な結合を形成するためにゲル化速度を任意に制御するステップと、を含むことを特徴とする前記請求項1記載の方法。
【請求項3】
ステップa3及びステップa4の前記ゲル化は前記ビニルポリマー溶液を少なくとも一回の凍結融解サイクルにかけることを含むことを特徴とする前記請求項2記載の方法。
【請求項4】
ステップa3及びステップa4の前記ゲル化は前記ビニルポリマー溶液にゲル化剤を混合させることを含み、得られた混合物は前記ビニルポリマー溶液よりも高いフローリの相互作用パラメータを有することを特徴とする請求項2または3記載の方法。
【請求項5】
ステップa3及びステップa4の前記ゲル化は前記ビニルポリマー溶液を脱水することを含むことを特徴とする請求項2、3若しくは4記載の方法。
【請求項6】
ステップbの前記電離放射線はガンマ線及び/若しくはベータ粒子を含むことを特徴とする請求項1−5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ステップbの前記放射線量は1kGy乃至1,000kGyであることを特徴とする請求項1−6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記放射線量は最適な放射線量の20%の範囲内であることを特徴とする請求項1−7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ステップbにおいて放射線マスクが使用されることを特徴とする請求項1−8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記放射線マスクは段階的に変化するマスク及び/若しくは徐々に変化するマスクであることを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
ステップcにおいて前記物理的な結合の1%から100%が除去されることを特徴とする請求項1−10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
ステップcにおいて物理的に結合した結晶相の融点よりも高い温度に前記照射を受けたビニルポリマーヒドロゲルをさらすことにより前記エネルギが供給されることを特徴とする請求項1−11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
ステップcにおいて電磁放射線、マイクロ波放射線及び/若しくは超音波により前記エネルギが供給されることを特徴とする請求項1−12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記ビニルポリマーはポリ(ビニルアルコール)と、ポリ(ビニルアセテート)と、ポリ(ビニルブチラール)と、ポリ(ビニルピロリドン)と、これらの混合物とからなる群から選択されることを特徴とする請求項1−13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記ビニルポリマーの溶媒は極性のある溶媒であることを特徴とする請求項1−14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
ステップc)の前記ビニルポリマーはエネルギが供給される間に極性のある溶媒に浸されることを特徴とする請求項1−15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記極性のある溶媒は水と、メタノールと、エタノールと、ジメチルスルホキシドと、これらの混合物とからなる群から選択されることを特徴とする請求項15若しくは16記載の方法。
【請求項18】
前記ビニルポリマーは高度に加水分解されており及び/若しくは15kg/molから1,500kg/molの分子量を有することを特徴とする請求項1−17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記ビニルポリマーは特に高度に加水分解されており、50kg/molから300kg/molの分子量のポリ(ビニルアルコール)であることを特徴とする請求項1−18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記ビニルポリマーは特に高度に加水分解されており、1,000kg/molから1,500kg/molの分子量のポリ(ビニルピロリドン)であることを特徴とする請項1−19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記ビニルポリマーは70パーセントから100パーセントの加水分解の度合いを有することを特徴とする請求項1−20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記ビニルポリマーは80パーセントから100パーセントの加水分解の度合いを有するポリ(ビニルアルコール)であることを特徴とする請求項1−21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記ビニルポリマーは50から200,000の重合度を有することを特徴とする請求項1−22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記ビニルポリマーは100から50,000の重合度を有するポリ(ビニルアルコール)であることを特徴とする請求項1−23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記ビニルポリマー溶液は前記溶液の重量を基準にして0.5から80重量パーセントの前記ビニルポリマー溶液であることを特徴とする請求項1−24いずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記ビニルポリマー溶液は前記溶液の重さを基準として0.5から50重量パーセントのポリ(ビニルアルコール)の溶液であることを特徴とする請求項1−25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
請求項1−26のいずれかの方法により生成されたことを特徴とする前記共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲル。
【請求項28】
請求項27の前記共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルからなることを特徴とする製造物。
【請求項29】
活性物質の送達のためのデバイスと、負荷支持物の整形外科移植物と、包帯と、経皮ドラッグデリバリーデバイスと、スポンジと、非粘着性材料と、ガラス質の人工水晶体と、コンタクトレンズと、胸部への移植物と、ステントと、非負荷支持物人工軟骨とから選択されることを特徴とする請求項28記載の製造物。
【請求項30】
請求項27記載の前記共有結合で架橋されたビニルポリマーヒドロゲルを被覆材料として使用することを特徴とする方法。

【公表番号】特表2008−515503(P2008−515503A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535118(P2007−535118)
【出願日】平成17年10月11日(2005.10.11)
【国際出願番号】PCT/EP2005/010931
【国際公開番号】WO2006/040128
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(504339572)ジマーゲーエムベーハー (9)
【Fターム(参考)】