PWMインバータの制御方法および制御装置
【課題】スイッチ状態が変化する相の数を最小とし、不要なスイッチング損失の発生を防ぐことができるPWMインバータの制御方法および制御装置を提供する。
【解決手段】本発明に係るPWMインバータの制御方法は、三相2レベル形PWMインバータの各スイッチ状態に対応する8つのスイッチベクトルV0〜V7の選択を切り替えながら、当該PWMインバータを空間ベクトル制御する方法であって、スイッチベクトルV0〜V7の選択を切り替える前後でスイッチ状態が変化する相の数が1であるスイッチベクトルV0〜V7の組み合わせを予めルール化しておき、任意の出力ベクトルVuを得るために必要なスイッチベクトルV0〜V7を選択する際に、予め作成した上記のルールに含まれている組み合わせを辿りながらスイッチベクトルV0〜V7を選択することを特徴としている。
【解決手段】本発明に係るPWMインバータの制御方法は、三相2レベル形PWMインバータの各スイッチ状態に対応する8つのスイッチベクトルV0〜V7の選択を切り替えながら、当該PWMインバータを空間ベクトル制御する方法であって、スイッチベクトルV0〜V7の選択を切り替える前後でスイッチ状態が変化する相の数が1であるスイッチベクトルV0〜V7の組み合わせを予めルール化しておき、任意の出力ベクトルVuを得るために必要なスイッチベクトルV0〜V7を選択する際に、予め作成した上記のルールに含まれている組み合わせを辿りながらスイッチベクトルV0〜V7を選択することを特徴としている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PWMインバータの制御方法および制御装置に関し、特にスイッチベクトルを用いてPWMインバータを空間ベクトル制御する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示すように、三相2レベル形のPWMインバータ1aは、制御部3によって制御されるインバータ部2からなり、インバータ部2の各相出力が三相負荷4に接続されている。同図に示すように、インバータ部2はIGBT等からなる6つのスイッチSW1〜SW6を有し、このうち、スイッチSW1、SW2はU相アームを、スイッチSW3、SW4はV相アームを、スイッチSW5、SW6はW相アームをそれぞれ構成する。各スイッチSW1〜SW6の導通状態は、制御部3の制御下で切り替えられる。
【0003】
PWMインバータ1aの制御方法は、従来から種々の方法が検討されている。その1つである空間ベクトル制御では、インバータ部2の各スイッチ状態に対応する23=8個のスイッチベクトルV0〜V7(図2参照)のうちの少なくとも1つを選択することによりPWMインバータ1aを制御する(例えば、特許文献1参照)。ここで、各スイッチベクトルV0〜V7の括弧内の数字“1”は、各相アームの上側スイッチがオン(下側スイッチはオフ)していることを示し、“0”は、各相アームの下側スイッチがオン(上側スイッチはオフ)していることを示す。各スイッチベクトルV0〜V7とスイッチ状態の関係は、下表の通りである。
【表1】
【0004】
なお、本明細書では、各相アームのスイッチ状態が同一で出力電圧がゼロとなるスイッチベクトル(V0、V7、後述するV26)を「ゼロスイッチベクトル」と呼び、その他のスイッチベクトル(V1〜V6、後述するV8〜V25)を「非ゼロスイッチベクトル」と呼ぶこととする。
【0005】
この空間ベクトル制御では、出力電圧を任意の波形に制御することができる。また、この空間ベクトル制御では、PWMインバータ1aの出力状態をモードI〜VIに相当する6つの領域に分割して捉える(図3参照)。各モードの領域内にある任意の出力ベクトルVuは、上記スイッチベクトルV0〜V7のベクトル的組み合わせにより表現することができる。つまり、空間ベクトル制御では、任意の制御則にしたがって出力ベクトルVuを決定するとともに、当該出力ベクトルVuを得るためのスイッチベクトルを選択し、インバータ部2を選択したスイッチベクトルに対応したスイッチ状態とすることにより、PWMインバータ1aを制御する。
【0006】
例えば、図3の時間tにおける出力ベクトルVuはモードIIの領域内にあるので、出力ベクトルVuはスイッチベクトルV0、V2、V3またはスイッチベクトルV7、V2、V3のベクトル的組み合わせにより表現することができる。すなわち、3つのスイッチベクトルV0(V7)、V2、V3を順次選択し、インバータ部2を各スイッチベクトルV0(V7)、V2、V3に対応したスイッチ状態とすることにより、時間tにおける所定の各相出力電圧を得ることができる。
【0007】
なお、上記出力ベクトルVuは、例えば、各相出力電圧を正弦波状とする場合は、PWMインバータ1aの各相出力電圧が1周期変化する間に、図2の六角形内にある円軌道上を半時計周りに1周する。言い換えると、出力ベクトルVuは、PWMインバータ1aの出力が電気角で60°変化する度にモードI→モードII→・・・→モードVI→モードI・・・に対応した領域内を順次移動していく。前記の通り、出力電圧Vuは、任意の制御則にしたがって生成されるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−245588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記スイッチベクトルV0〜V7の選択は一意的ではなく、自由度を有している。例えば、上記時間tの一例では3つのスイッチベクトルV0(V7)、V2、V3を選択するが、これらをどのような順序で選択するのかは全くの自由である。このため、従来の空間ベクトル制御では、スイッチベクトルV0〜V7の選択順序によっては、1スイッチサイクルあたりのスイッチング回数が増加して、不要なスイッチング損失が発生する場合があった。
【0010】
より詳しくは、例えば、スイッチベクトルV0、V2、V3をこの順序で選択したとすると、V0からV2でU相とV相のスイッチ状態が変化し、V2からV3でU相のスイッチ状態が変化し、さらにV3からV0でV相のスイッチ状態が変化するので、結局、1スイッチサイクルあたりのスイッチ状態が変化する相の数は4となる。これに対して、スイッチベクトルV0、V3、V2をこの順序で選択し、その後、スイッチベクトルV2、V3、V0をこの順序で選択すれば、1スイッチサイクルあたりのスイッチ状態が変化する相の数は2となる。つまり、前者を選択した場合は後者を選択した場合よりも1スイッチサイクルあたりのスイッチ状態が変化する相の数が2多く、その分だけ不要なスイッチング損失が発生していた。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、スイッチング回数を最小とし、不要なスイッチング損失の発生を防ぐことができるPWMインバータの制御方法および制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本願発明者は鋭意検討を重ねた結果、スイッチベクトルの選択を切り替える前後で、スイッチ状態が変化する相の数が1以下であるスイッチベクトルの組み合わせを予めルール化しておき、そのルールにしたがってスイッチベクトルの選択順序を決定すれば、不要なスイッチング損失の発生を防ぐことができることを見い出し、本願発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係るPWMインバータの制御方法は、三相2レベル形PWMインバータの各スイッチ状態に対応する8つのスイッチベクトルV0〜V7の選択を切り替えながら、当該PWMインバータを空間ベクトル制御する方法であって、スイッチベクトルV0〜V7の選択を切り替える前後でスイッチ状態が変化する相の数が1以下であるスイッチベクトルV0〜V7の組み合わせをルール化しておき、PWMインバータの出力変化の1周期を、スイッチベクトルV0〜V7に含まれるゼロスイッチベクトルV0、V7および非ゼロスイッチベクトルV1〜V6で表現可能なモードI〜VIに対応する6つの領域に分割して捉え、上記領域の1つに含まれる任意の出力ベクトルVuを得るために必要なスイッチベクトルV0〜V7をゼロスイッチベクトルV0、V7および非ゼロスイッチベクトルV1〜V6の中から選択する際に、上記ルールに含まれている組み合わせを辿りながらスイッチベクトルV0〜V7を選択することを特徴としている。
【0014】
上記三相2レベル形PWMインバータの制御方法は、例えば、1つ前のスイッチサイクルにおいて最後に選択したスイッチベクトルV0〜V7を直前スイッチベクトルとしたとき、下表に表されたルールと出力ベクトルVuを含む領域に対応するモードI〜VIとに基づいて、出力順序ベクトルVa、Vb、Vcの順序でスイッチベクトルV0〜V7を選択するよう構成することができる。
【表2】
【0015】
また、上記三相2レベル形PWMインバータの制御方法は、例えば、起点スイッチベクトルとするスイッチベクトルを予めゼロスイッチベクトルV0、V7の中から選択しておき、起点スイッチベクトルをゼロスイッチベクトルV0とした場合は、下表(A)に表されたルールと出力ベクトルVuを含む領域に対応するモードI〜VIとに基づいて、出力順序ベクトルVa、Vb、Vc、Vc、Vb、Vaの順序でスイッチベクトルV0〜V6を選択し、起点スイッチベクトルをゼロスイッチベクトルV7とした場合は、下表(B)に表されたルールと出力ベクトルVuを含む領域に対応するモードI〜VIとに基づいて、出力順序ベクトルVa、Vb、Vc、Vc、Vb、Vaの順序でスイッチベクトルV1〜V7を選択するよう構成することもできる。
【表3】
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るPWMインバータの制御方法は、三相マルチレベル形PWMインバータの各スイッチ状態に対応するスイッチベクトルの選択を切り替えながら、当該PWMインバータを空間ベクトル制御する方法であって、スイッチベクトルの選択を切り替える前後で導通状態が変化するスイッチの数が最小となるスイッチベクトルの組み合わせをルール化しておき、PWMインバータの出力変化の1周期を、上記スイッチベクトルに含まれるゼロスイッチベクトルおよび非ゼロスイッチベクトルで表現可能な複数の領域に分割して捉え、上記領域の1つに含まれる任意の出力ベクトルVuを得るために必要なスイッチベクトルをゼロスイッチベクトルおよび非ゼロスイッチベクトルの中から選択する際に、上記ルールに含まれている組み合わせを辿りながらスイッチベクトルを選択することを特徴としている。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るPWMインバータの制御装置は、PWMインバータの各スイッチ状態に対応するスイッチベクトルのうちの少なくとも1つを上記いずれかの制御方法で選択し、選択したスイッチベクトルに対応するスイッチ状態となるように、インバータ部を構成する各スイッチの導通状態を変化させることを特徴としている。
【0018】
なお、上記インバータ部は、昇降圧部によって昇圧または降圧された後の直流電圧が入力されるものであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、スイッチベクトルの選択を切り替える際に必要なスイッチングの回数を最小とし、不要なスイッチング損失の発生を防ぐことができるPWMインバータの制御方法および制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】三相2レベル形PWMインバータの模式回路図である。
【図2】三相2レベル形PWMインバータにおける空間ベクトル制御の概念を説明するための図である。
【図3】三相2レベル形PWMインバータにおける空間ベクトル制御の概念を説明するための図である。
【図4】本発明に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法において、スイッチベクトルを選択する際に参照するルールの概念図である。
【図5】出力ベクトルから分解方向ベクトルへの分解を説明するための図である。
【図6】本発明に係る三相2レベル形(三相マルチレベル形)PWMインバータの制御方法のフローチャートである。
【図7】本発明に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法による制御の一例であって、(A)は直前スイッチベクトルがV2で現モードがIIの場合、(B)は直前スイッチベクトルがV2で現モードがIVの場合である。
【図8】本発明に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法でPWMインバータを制御した実験結果を示す、各相のPWM波形図である。
【図9】本発明に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法でPWMインバータを制御した実験結果を示す、各相の出力電圧波形図である。
【図10】本発明の変形例に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法において、スイッチベクトルを選択する際に参照するルールの概念図であって、(A)は起点ベクトルをV0とした場合、(B)は起点ベクトルをV7とした場合である。
【図11】本発明の変形例に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法でPWMインバータを制御した実験結果を示す、各相のPWM波形図である。
【図12】本発明の変形例に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法でPWMインバータを制御した実験結果を示す、各相の出力電圧波形図である。
【図13】本発明を適用可能なPWMインバータの変形例を示す模式回路図である。
【図14】本発明を適用可能な三相3レベル形PWMインバータを示す模式回路図である。
【図15】本発明に係る三相3レベル形PWMインバータの制御方法において、スイッチベクトルを選択する際に参照するルールの概念図である。
【図16】三相3レベル形PWMインバータにおける空間ベクトル制御の概念を説明するための図である。
【図17】三相3レベル形PWMインバータにおける空間ベクトル制御における出力順序ベクトルのデューティ比の求め方を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法および制御装置の好ましい実施形態について説明する。なお、以下に示す実施形態では、既知の方法で求めた各相デューティ比(uu、uv、uw)が入力指令値として制御部3(本発明の「制御装置」に相当する)に入力されるものとする。また、以下では、図1に示す三相2レベル形PWMインバータ1aを制御対象とする場合について詳細に説明するが、本発明は、インバータ部2の手前に昇降圧(昇圧、降圧、昇降圧)部5を設け、インバータ部2に入力される直流電圧を可変としたPWMインバータ1b(図13参照)や、3レベル形以上のマルチレベルのインバータ部2cを備えたPWMインバータ1c(図14参照)も制御対象とすることができる。
【0022】
[三相2レベル形PWMインバータ]
[ルール作成]
本発明では、事前の準備として、スイッチベクトルV0〜V7を選択する際に参照するルール(図4および表2参照)を作成する必要がある。このルールは、スイッチベクトルV0〜V7の選択を切り替える前と後で、スイッチ状態が変化する相の数が1以下であるスイッチベクトルV0〜V7の組み合わせをまとめたもので、本発明では、この組み合わせを辿りながらスイッチベクトルV0〜V7が選択される。
【0023】
例えば、モードIの領域に含まれる出力ベクトルVuは、ゼロスイッチベクトルV0、V7と非ゼロスイッチベクトルV1、V2のベクトル的組み合わせにより表現することができるが、ゼロスイッチベクトルV0が選択された後に非ゼロスイッチベクトルV2が選択されると、2相(U相、V相)のスイッチ状態が変化することになるので、本ルールの下ではそのような順序でスイッチベクトルV0〜V7を選択することは許されない。言い換えると、本ルールの下では、選択スイッチベクトルのV0からV2への移動は許されない。同様に、V2からV0への移動、V7からV1への移動、およびV1からV7への移動も、本ルールの下では許されない。
【0024】
また、モードVの領域に含まれる出力ベクトルVuは、ゼロスイッチベクトルV0、V7と非ゼロスイッチベクトルV5、V6の組み合わせにより表現することができるが、ゼロスイッチベクトルV0が選択された後に非ゼロスイッチベクトルV6が選択されると、2相(U相、W相)のスイッチ状態が変化することになるので、本ルールの下ではそのような選択スイッチベクトルの移動は許されない。同様に、V6からV0への移動、V7からV5への移動、およびV5からV7への移動も、本ルールの下では許されない。
【0025】
図4は、上記ルールを整理した図である。結局、本発明に係る制御方法では、同図中の矢印で示された方向への選択スイッチベクトルの移動のみが許され、その他の移動は許されない。
【0026】
表2は、上記ルールをさらに整理して一般化したものである。なお、表2中の「直前スイッチベクトル」は、1つ前のスイッチサイクルで最後に選択されたスイッチベクトルV0〜V7を意味し、「モード」は、出力ベクトルVuを含む領域のモード(以下、「現モード」という)を示す。また、「Va、Vb、Vc」は出力順序ベクトルである。
【0027】
この表に具現化されたルールによれば、例えば、直前スイッチベクトルがV0で、かつ現モードがIIの場合は、表2(A)のモードIIの行を参照して、ゼロスイッチベクトルV0と非ゼロスイッチベクトルV3、V2をこの順序で選択すればよいことが分かる。また、直前スイッチベクトルがV6で、かつ現モードがVの場合は、表2(G)のモードVの行を参照して、非ゼロスイッチベクトルV6、V5およびゼロスイッチベクトルV0をこの順序で選択すればよいことが分かる。なお、直前スイッチベクトルがV6で、かつ現モードがIの場合は、表2(G)ではなく、表2(H)のモードIの行を参照して選択すべきスイッチベクトルV0〜V7を特定する。すなわち、現モードがIなので、ゼロスイッチベクトルV7と非ゼロスイッチベクトルV2、V1をこの順序で選択すればよいことが分かる。
【0028】
[制御フロー]
続いて、図6のフローチャートを参照しつつ、入力指令値である各相デューティ比uu、uv、uwが入力されてから、選択すべきスイッチベクトルV0〜V7と、その順序およびデューティ比が決定されるまでのフローについて説明する。
【0029】
まず、ステップS1では、各相デューティ比uu、uv、uwが制御部3に入力される。各相デューティ比uu、uv、uwは、例えば、PWMインバータ1aの各相出力電圧波形を所定振幅・周波数の正弦波状とするためのもので、既知のインバータ制御方法により求められる。
【0030】
ステップS2では、下式(1)を用いて、入力された各相デューティ比uu、uv、uwから出力ベクトルVuの横軸成分uxおよび縦軸成分uyを求める。
【数1】
各相デューティ比uu、uv、uwの代わりに、任意の制御則にしたがって求めた出力ベクトルVu(横軸成分ux、縦軸成分uy)が制御部3に入力される場合は、ステップS1およびS2を省略して、ステップS3から本フローをスタートさせてもよい。
【0031】
ステップS3では、ステップS2で求めた出力ベクトルVuの横軸成分uxおよび縦軸成分uyから、「現モード」を特定する。すなわち、出力ベクトルVuが、図2に示す六角形内の6つの領域(モードI〜IVに対応)のいずれに含まれるのかを特定する。
【0032】
ステップS4では、「直前スイッチベクトル」がスイッチベクトルV0〜V7のいずれであるのかを特定する。直前スイッチベクトルは、1つ前のスイッチサイクルで求めた出力順序ベクトルVc(後述)を参照することにより特定することができる。
【0033】
ステップS5では、出力ベクトルVuを分解方向ベクトルVα、Vβ、Vzに分解する。より詳しくは、出力ベクトルVuの横軸成分uxおよび縦軸成分uyを下式(2)により変換し、図5に示す分解方向ベクトルVα、Vβ、Vzのデューティ比uα、uβ、uz(以下、「分解デューティ比」という)を求める。
【数2】
上式(2)を用いて横軸成分uxおよび縦軸成分uyを分解デューティ比uα、uβ、uzに変換することにより、出力ベクトルVuをモードIの領域内にあるものとして取り扱うことができる。
【0034】
ステップS6では、表4を用いて現モードの領域を回転させることによりモードIの領域に変換し、分解方向ベクトルVα、Vβ、Vzに相当するスイッチベクトルV0〜V7を求める。
【表4】
例えば、現モードがIIの場合は、上表を用いてモードIIの領域を空間ベクトル平面上で時計周りに60°回転させ、分解方向ベクトルVα、Vβに相当するスイッチベクトルV0〜V7は、それぞれ非ゼロスイッチベクトルV2、V3であることが分かる。また、現モードがVの場合は、上表を用いてモードVの領域を時計周りに240°回転させ、分解方向ベクトルVα、Vβに相当するスイッチベクトルV0〜V7は、それぞれ非ゼロスイッチベクトルV5、V6であることが分かる。なお、分解方向ベクトルVzに相当するスイッチベクトルV0〜V7は、現モードにかかわらずゼロスイッチベクトルV0またはV7となる。
【0035】
ステップS7では、表2に具現化されたルールに基づいて、直前スイッチベクトルと現モードとから、出力順序ベクトルVa、Vb、Vcのそれぞれに相当するスイッチベクトルV0〜V7を求める。表2の使い方は前記の通りなので、ここでは説明を省略する。
【0036】
ステップS8では、ステップS6およびステップS7の結果から、出力順序ベクトルVa、Vb、Vcのデューティ比ua、ub、uc(以下、「順序デューティ比」という)と、ステップS5で求めた分解デューティ比uα、uβ、uzとを紐付ける。例えば、ステップS6で分解方向ベクトルVαに相当するスイッチベクトルがV2であると求められ、ステップS7で出力順序ベクトルVaに相当するスイッチベクトルがV2であると求められた場合は、分解方向ベクトルVαおよび出力順序ベクトルVaが両ベクトルに共通する非ゼロスイッチベクトルV2を介して紐付けられる(お互いに等しいことが特定される)。同様に、出力順序ベクトルVaの順序デューティ比uaと、ステップS5で求めた分解方向ベクトルVαの分解デューティ比uαも紐付けられる。
【0037】
ステップS9では、ステップS7で求めたスイッチベクトルV0〜V7と、ステップS8で求めた順序デューティ比ua、ub、ucとに基づいて、インバータ部2の各スイッチSW1〜SW6の導通状態を切り替える。
【0038】
以上をまとめると、上記フローを採用した本発明に係る制御方法(制御装置)によれば、出力順序ベクトルVa、Vb、Vcに相当するスイッチベクトルV0〜V7と、順序デューティ比ua、ub、ucを求めることができる。そして、求めたスイッチベクトルV0〜V7をVa→Vb→Vcの順に選択するとともに、それぞれの選択時間、すなわち選択したスイッチベクトルV0〜V7のスイッチ状態とする時間を順序デューティ比ua、ub、ucに比例した時間とすることにより、入力指令値に応じた所定の各相出力電圧を得ることができる。
【0039】
また、本発明に係る制御方法(制御装置)によれば、予め作成したルールに基づいてスイッチベクトルV0〜V7の選択順序を決定するので、選択スイッチベクトルを切り替える際に必要なスイッチングの回数が最小となり、不要なスイッチング損失の発生を防ぐことができる。
【0040】
次に、図7(A)を参照しながら、本発明に係る制御の具体的一例を特徴的な部分に限って説明する。同図に示すように、具体例1では、ステップS3で特定した現モードはII、ステップS4で特定した直前スイッチベクトルはV2であるとする。
【0041】
本具体例のステップS6では、表4のモードIIの行を参照して、分解方向ベクトルVαに相当するのは非ゼロスイッチベクトルV2であり、分解方向ベクトルVβに相当するのは非ゼロスイッチベクトルV3であることが求められる。また、分解方向ベクトルVzに相当するのはゼロスイッチベクトルV0またはV7であることが求められる。
【0042】
ステップS7では、直前スイッチベクトルがV2、現モードがIIであることから、表2(C)のモードIIの行を参照して、出力順序ベクトルVaに相当するのは非ゼロスイッチベクトルV2であり、出力順序ベクトルVbに相当するのは非ゼロスイッチベクトルV3であり、さらに出力順序ベクトルVcに相当するのはゼロスイッチベクトルV0であることが求められる。
【0043】
ステップS8では、非ゼロスイッチベクトルV2を介して分解方向ベクトルVαと出力順序ベクトルVaが紐付けられ、非ゼロスイッチベクトルV3を介して分解方向ベクトルVβと出力順序ベクトルVbが紐付けられ、さらにゼロスイッチベクトルV0を介して分解方向ベクトルVzと出力順序ベクトルVcが紐付けられる。その結果、非ゼロスイッチベクトルV2の順序デューティ比uaは、分解デューティ比uαとなる。同様に、非ゼロスイッチベクトルV3およびゼロスイッチベクトルV0の順序デューティ比ub、ucは、それぞれ分解デューティ比uβ、uzとなる。
【0044】
結局、本具体例では、uα・T(ただし、Tは1スイッチサイクルの時間)の時間だけ非ゼロスイッチベクトルV2を選択した後に、uβ・Tの時間だけ非ゼロスイッチベクトルV3を選択し、さらにその後、uz・Tの時間だけゼロスイッチベクトルV0を選択することにより、出力ベクトルVuを得て、所定の各相出力電圧を得ることができる(図7(A)参照)。
【0045】
なお、図5から明らかなように、出力ベクトルVuが分解方向ベクトルVαに等しい場合は、分解デューティ比uα(=ua)が1となり、分解デューティ比uβ(=ub)、uz(=uc)が0となる。したがって、この場合は、非ゼロスイッチベクトルV3およびゼロスイッチベクトルV0の選択時間が0となり、非ゼロスイッチベクトルV3およびゼロスイッチベクトルV0は選択されないこととなる。出力ベクトルVuが分解方向ベクトルVβ、Vzに等しい場合も同様のことがいえる。つまり、本発明に係る制御方法(制御装置)では、1スイッチサイクルにつき必ず3つのスイッチベクトルV0〜V7が選択されるとは限らない。
【0046】
図7(B)を参照しながら、本発明に係る制御のもうひとつの具体的一例について説明する。同図に示すように、具体例2では、ステップS3で特定した現モードはIV、ステップS4で特定した直前スイッチベクトルはV2であるとする。
【0047】
本具体例のステップS6では、表4のモードIVの行を参照して、分解方向ベクトルVαに相当するのは非ゼロスイッチベクトルV4であり、分解方向ベクトルVβに相当するのは非ゼロスイッチベクトルV5であることが求められる。また、分解方向ベクトルVzに相当するのはゼロスイッチベクトルV0またはV7であることが求められる。
【0048】
ステップS7では、直前スイッチベクトルがV2であることから表2(C)を参照するが、表2(C)には現モード(モードIV)の行が存在しない。このため、ステップS7では、表2(C)の「その他」の行にしたがって表2(H)のモードIVの行を参照し、出力順序ベクトルVaに相当するのはゼロスイッチベクトルV7であり、出力順序ベクトルVbに相当するのは非ゼロスイッチベクトルV4であり、さらに出力順序ベクトルVcに相当するのは非ゼロスイッチベクトルV5であることが求められる。
【0049】
ステップS8では、ゼロスイッチベクトルV7を介して分解方向ベクトルVzと出力順序ベクトルVaが紐付けられ、非ゼロスイッチベクトルV4を介して分解方向ベクトルVαと出力順序ベクトルVbが紐付けられ、さらに非ゼロスイッチベクトルV5を介して分解方向ベクトルVβと出力順序ベクトルVcが紐付けられる。その結果、ゼロスイッチベクトルV7の順序デューティ比uaは、分解デューティ比uzとなる。同様に、非ゼロスイッチベクトルV4、V5の順序デューティ比ub、ucは、それぞれ分解デューティ比uα、uβとなる。
【0050】
結局、本具体例では、uz・Tの時間だけゼロスイッチベクトルV7を選択した後に、uα・Tの時間だけ非ゼロスイッチベクトルV4を選択し、さらにその後、uβ・Tの時間だけ非ゼロスイッチベクトルV5を選択することにより、出力ベクトルVuを得て、所定の各相出力電圧を得ることができる(図7(B)参照)。
【0051】
続いて、本発明に係る制御方法(制御装置)を用いて、インバータ部2をIGBTで構成した三相2レベル形PWMインバータ1aを制御した実験結果について説明する。なお、本実験では、インバータ部2に入力される直流入力電圧を100Vとし、各相の出力電圧が振幅25V、周波数50Hzの正弦波(図9参照)となるよう制御した。
【0052】
図8(A)に、2kHzで変調した各相の1周期(40スイッチサイクル)分のPWM出力波形を示す。同図に示すように、本発明に係る制御方法(制御装置)によれば、各相ともスイッチングしない区間が発生し、スイッチング回数を概ね2/3に低減することができた。また、図8(A)の一部を拡大した図8(B)に示すように、本実験では、モードIとモードIIの境目において選択スイッチベクトルがV0→V1→V2→V2→V3→V0の順に移動していた。つまり、表2に具現化されたルールに基づく正しい制御が行われたことを確認することができた。
【0053】
[変形例]
上記本発明に係る制御方法(制御装置)は、対称形の制御とすることにより簡易化することができる。より詳しくは、変形例に係る制御方法(制御装置)では、表2に具現化されたルールに代えて、表3に具現化された簡易ルールに基づいてスイッチベクトルの選択順序を決定する。その他の制御フローは、図6に示すステップS1〜S6、S8、S9と同様である。
【0054】
この簡易ルールを用いた制御フローにおいては、まず、起点スイッチベクトルとするスイッチベクトルをゼロスイッチベクトルV0、V7の中から選択する。そして、起点スイッチベクトルをV0とした場合は、表3(A)の現モードの行を参照して出力順序ベクトルVa、Vb、Vcに相当するスイッチベクトルV0〜V6を求め、出力順序ベクトルVa、Vb、Vcに相当するスイッチベクトルV0〜V6を順次選択した後に、対称に折り返すように、出力順序ベクトルVc、Vb、Vaに相当するスイッチベクトルV0〜V6を順次選択する(図10(A)参照)。起点スイッチベクトルをV7とした場合、表3(B)の現モードの行を参照して出力順序ベクトルVa、Vb、Vcに相当するスイッチベクトルV1〜V7を求め、出力順序ベクトルVa、Vb、Vcに相当するスイッチベクトルV1〜V7を順次選択した後に、対称に折り返すように、出力順序ベクトルVc、Vb、Vaに相当するスイッチベクトルV1〜V7を順次選択する(図10(B)参照)。
【0055】
例えば、起点スイッチベクトルがV0、現モードがIの場合は、選択スイッチベクトルがV0→V1→V2の順に移動した後、V2→V1→V0の順に移動する。別の例として、起点スイッチベクトルがV7、現モードがVの場合は、選択スイッチベクトルがV7→V6→V5の順に移動した後、V5→V6→V7の順に移動する。
【0056】
この変形例に係る制御方法(制御装置)によれば、制御を簡易化することができる他、各スイッチサイクルにおける最後の選択スイッチベクトル(直前スイッチベクトル)が必ず起点スイッチベクトル(ゼロスイッチベクトルV0またはV7)となるので、任意のモードへの移動がしやすくなるというメリットが得られる。
【0057】
続いて、変形例に係る制御方法(制御装置)を用いて、インバータ部2をIGBTで構成した三相2レベル形PWMインバータ1aを制御した実験結果について説明する。なお、本実験では、インバータ部2に入力される直流入力電圧を100Vとし、各相の出力電圧が振幅25V、周波数50Hzの正弦波(図12参照)となるよう制御した。また、起点スイッチベクトルはゼロスイッチベクトルV0とした。
【0058】
図11(A)に、2kHzで変調した各相の1周期(40スイッチサイクル)分のPWM出力波形を示す。同図に示すように、変形例に係る制御方法(制御装置)によれば、各相とも1周期のうちスイッチングしない区間が1/3程度あり、スイッチング回数を概ね2/3に低減することができた。また、図11(A)の一部を拡大した図11(B)に示すように、本実験では、モードIにおいて選択スイッチベクトルがV0→V1→V2→V2→V1→V0の順に移動していた。つまり、表3(A)に具現化されたルールに基づく正しい制御が行われたことを確認することができた。
【0059】
[三相3レベル形PWMインバータ]
続いて、マルチレベル形PWMインバータの一例として、三相3レベル形PWMインバータを制御対象とする場合について説明する。図14に示すように、三相3レベル形のPWMインバータ1cは、制御部3(本発明の「制御装置」に相当する)によって制御されるインバータ部2cからなり、インバータ部2cの各相出力が三相負荷4に接続されている。同図に示すように、インバータ部2はIGBT等からなる12個のスイッチを有し、このうち、スイッチSWUpp、SWUpo、SWUno、SWUnnはU相アームを、スイッチSWVpp、SWVpo、SWVno、SWVnnはV相アームを、そしてスイッチSWWpp、SWWpo、SWWno、SWWnnはW相アームをそれぞれ構成する。各スイッチの導通状態は、制御部3の制御下で切り替えられる。図13に示す三相2レベル形のPWMインバータ1bと同様、インバータ部2cの手前に昇降圧(昇圧、降圧、昇降圧)部を設け、インバータ部2cに入力される直流電圧を可変としてもよい。
【0060】
三相3レベル形PWMインバータ1cの空間ベクトル制御では、インバータ部2cの各スイッチ状態に対応する33=27個のスイッチベクトルV0〜V26(図15、表5参照)のうちの少なくとも1つを選択することによりPWMインバータ1cを制御する。
【表5】
ここで、各スイッチベクトルV0〜V26のスイッチ状態を表す数字“1”は、例えば、U相で説明すると、スイッチSWUpp、SWUpoがオンしていることを示し、“1/2”は、スイッチSWUpo、SWUnoがオンしていることを示し、“0”は、スイッチSWUno、SWUnnがオンしていることを示す。
【0061】
図14から明らかなように、スイッチ状態を“1”から“1/2”に変化させたり、“1/2”から“1”に変化させたり、“0”から“1/2”に変化させたり、“1/2”から“0”に変化させたりするためには、いずれか1つのスイッチをオンさせるとともに、別の1つのスイッチをオフさせる必要がある。一方、スイッチ状態を“1”から“0”に変化させたり、“0”から“1”に変化させたりするためには、いずれか2つのスイッチをオンさせるとともに、別の2つのスイッチをオフさせる必要がある。本発明では、各1つのオン動作とオフ動作とからなる組が何組存在するのかによって、スイッチベクトルV0〜V26間の距離を予め算出しておく。
【0062】
表6は、スイッチベクトルV0〜V26間の距離をまとめた表の一部である。
【表6】
上表に示すように、例えば、非ゼロスイッチベクトルV1とV8は距離が“1”離れているが、これは、選択スイッチベクトルをV1からV8に移動させる際に、1つのスイッチ(SWVno)をオフするとともに、別の1つのスイッチ(SWVpo)をオンさせる必要があることを示している。また、非ゼロスイッチベクトルV1とV2は距離が“2”離れているが、これは、選択スイッチベクトルをV1からV2に移動させる際に、2つのスイッチ(SWVno、SWVnn)をオフするとともに、別の2つのスイッチ(SWVpp、SWVpo)をオンさせる必要があることを示している。表6の使い方については、後で説明する。
【0063】
三相2レベル形PWMインバータ1aの場合と同様に、三相3レベル形PWMインバータ1cの空間ベクトル制御においても出力状態をモードI〜VIに相当する6つの領域に分割して捉えるが、三相3レベル形PWMインバータ1cの場合はこのモードI〜VIのそれぞれがさらに4つに細分化されている。例えば、モードIは、図16に示すように細分化モードIa〜Idに細分化されている。このため、細分化モードIaの領域内にある任意の出力ベクトルVuは、ゼロスイッチベクトルV0、V7、V26と非ゼロスイッチベクトルV14〜V17のベクトル的組み合わせにより表現されるが、細分化モードIbの領域内にある任意の出力ベクトルVuは、非ゼロスイッチベクトルV1、V8、V14、V15のベクトル的組み合わせにより表現される。すなわち、同一のモードでも、細分化モードが異なれば、選択すべきスイッチベクトルV0〜V26は異なる。
【0064】
他のモードII〜VIも、同様に、4つの細分化モードに細分化されている。したがって、三相3レベル形PWMインバータ1cの空間ベクトル制御においては、計24個の細分化モードIa、Ib・・・VIc、VIdが存在する。
【0065】
表7は、スイッチベクトルV0〜V26を選択する際に参照するルールのうち、現モードがIである場合に参照する部分を抜き出したものである。このルールを参照すれば、距離が1以下であるスイッチベクトルV0〜V26の組み合わせ、言い換えると、スイッチベクトルV0〜V26の選択を切り替える前と後で、導通状態が変化するスイッチの数が2以下であるスイッチベクトルV0〜V26の組み合わせが分かるようになっている。本発明では、この組み合わせを辿りながらスイッチベクトルV0〜V26が選択される。
【表7】
【0066】
例えば、直前スイッチベクトルがV0であり、かつ現細分化モードがIaである場合は、ゼロスイッチベクトルV0、非ゼロスイッチベクトルV14、V16がこの順序で選択される。このような順序で選択すれば、選択スイッチベクトルのV0からV14への移動においては、U相アームを構成するスイッチSWUpoとスイッチSWUnnの導通状態だけが変化し、選択スイッチベクトルのV14からV16への移動においては、V相アームを構成するスイッチSWVpoとスイッチSWVnnの導通状態だけが変化するので、導通状態が変化するスイッチの数をそれぞれ2とすることができる。
【0067】
また、直前スイッチベクトルがV8であり、かつ現細分化モードがIcである場合は、非ゼロスイッチベクトルV8、V15、V17がこの順序で選択されるか、または、非ゼロスイッチベクトルV8、V16、V14がこの順序で選択される。前者のように選択しても、後者のように選択しても、得られるスイッチング損失の低減効果は同じであるが、2つの選択肢がある場合は、いずれを選択するのかを決定する必要がある。
【0068】
この決定の手法は種々考えられるが、例えば、単純にスイッチベクトルの番号が小さい選択肢を優先的に選択してもよいし、出力ベクトルVuの軌道を考慮して、次のスイッチサイクルへの移行がスムーズにいく選択肢を選択してもよい。一例として、出力ベクトルVuが反時計回りの円軌道を描いている場合は、現細分化モードがIcからIdに移動していく可能性が高いので、非ゼロスイッチベクトルV14を選択してこのスイッチサイクルを終了するよりは、非ゼロスイッチベクトルV17を選択して現スイッチサイクルを終了した方が、次のスイッチサイクルに移行する際のスイッチング損失を低減できる可能性が高く、好ましい。
【0069】
直前スイッチベクトルが表7に示されていないスイッチベクトル(例えば、非ゼロスイッチベクトルV9)であり、かつ現細分化モードが一例としてIbである場合のルールは、以下の要領で作成することができる。
【0070】
まず、表6を参照して、非ゼロスイッチベクトルV9と細分化モードIbを表現するために必要な非ゼロスイッチベクトルV1、V8、V14、V15との距離を求める。非ゼロスイッチベクトルV9と非ゼロスイッチベクトルV1、V8、V14、V15との距離は、それぞれ3、2、2、3なので、距離が最も短いV8およびV14が出力順序ベクトルVaの候補となる。出力順序ベクトルVaとしてV8を選択した場合は、表7の行Aに示すように、出力順序ベクトルVb、Vcは、それぞれV1、V14となる。一方、出力順序ベクトルVaとしてV14を選択した場合は、表7の行Bに示すように、出力順序ベクトルVb、Vcは、それぞれV1、V8となる。出力順序ベクトルVaとして非ゼロスイッチベクトルV8、V14のいずれを選択するのかは、種々の手法により決定することができる。
【0071】
この他、三相3レベル形PWMインバータ1cの空間ベクトル制御では、ステップS8(図6参照)において、分解デューディ比uα、uβ、uzがそのまま出力順序ベクトルVa、Vb、Vcのデューティ比ua、ub、ucに紐付けられるのではない点に注意が必要である。
【0072】
例えば、直前スイッチベクトルがV8であり、かつ現細分化モードがIbである場合は、式(3)に示されているように、出力順序ベクトルVa、Vb、Vcのデューティ比ua、ub、ucは、それぞれ“2uβ”、“2uα−1”、“2(1−uα−uβ)”となる。
【数3】
上式は、図17から幾何学的に導きだすことができる。直前スイッチベクトルまたは現細分化モードが上記一例と異なる場合も、同様の手法により出力順序ベクトルVa、Vb、Vcのデューティ比ua、ub、ucを求めることができる。
【0073】
入力指令値である各相デューティ比uu、uv、uwが入力されてから、選択すべきスイッチベクトルV0〜V26とその選択順序が決定されるまでのフロー(図6のステップS1〜S7)は、三相2レベル形PWMインバータ1aの制御フローと同様である。また、ステップS9については、導通状態を切り替えるスイッチの数が6個(SW1〜SW6)ではなく12個(SWUpp、SWUpo・・・・SWWno、SWWnn)である点が、三相2レベル形PWMインバータ1aの制御フローと異なる。
【0074】
以上、本発明に係るPWMインバータの制御方法および制御装置の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記の構成に限定されるものではない。
【0075】
例えば、スイッチベクトルの選択順序を決定する際に参照するルールは表2、表3、表6および表7の表現形式に限定されず、直前スイッチベクトルと現モード(現細分化モード)とに基づいてスイッチベクトルの選択順序を一意的に決めることができるものであれば、表現形式はどのようなものであってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1a、1b、1c PWMインバータ
2 インバータ部
3 制御部(制御装置)
4 三相負荷
5 昇降圧部
【技術分野】
【0001】
本発明は、PWMインバータの制御方法および制御装置に関し、特にスイッチベクトルを用いてPWMインバータを空間ベクトル制御する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示すように、三相2レベル形のPWMインバータ1aは、制御部3によって制御されるインバータ部2からなり、インバータ部2の各相出力が三相負荷4に接続されている。同図に示すように、インバータ部2はIGBT等からなる6つのスイッチSW1〜SW6を有し、このうち、スイッチSW1、SW2はU相アームを、スイッチSW3、SW4はV相アームを、スイッチSW5、SW6はW相アームをそれぞれ構成する。各スイッチSW1〜SW6の導通状態は、制御部3の制御下で切り替えられる。
【0003】
PWMインバータ1aの制御方法は、従来から種々の方法が検討されている。その1つである空間ベクトル制御では、インバータ部2の各スイッチ状態に対応する23=8個のスイッチベクトルV0〜V7(図2参照)のうちの少なくとも1つを選択することによりPWMインバータ1aを制御する(例えば、特許文献1参照)。ここで、各スイッチベクトルV0〜V7の括弧内の数字“1”は、各相アームの上側スイッチがオン(下側スイッチはオフ)していることを示し、“0”は、各相アームの下側スイッチがオン(上側スイッチはオフ)していることを示す。各スイッチベクトルV0〜V7とスイッチ状態の関係は、下表の通りである。
【表1】
【0004】
なお、本明細書では、各相アームのスイッチ状態が同一で出力電圧がゼロとなるスイッチベクトル(V0、V7、後述するV26)を「ゼロスイッチベクトル」と呼び、その他のスイッチベクトル(V1〜V6、後述するV8〜V25)を「非ゼロスイッチベクトル」と呼ぶこととする。
【0005】
この空間ベクトル制御では、出力電圧を任意の波形に制御することができる。また、この空間ベクトル制御では、PWMインバータ1aの出力状態をモードI〜VIに相当する6つの領域に分割して捉える(図3参照)。各モードの領域内にある任意の出力ベクトルVuは、上記スイッチベクトルV0〜V7のベクトル的組み合わせにより表現することができる。つまり、空間ベクトル制御では、任意の制御則にしたがって出力ベクトルVuを決定するとともに、当該出力ベクトルVuを得るためのスイッチベクトルを選択し、インバータ部2を選択したスイッチベクトルに対応したスイッチ状態とすることにより、PWMインバータ1aを制御する。
【0006】
例えば、図3の時間tにおける出力ベクトルVuはモードIIの領域内にあるので、出力ベクトルVuはスイッチベクトルV0、V2、V3またはスイッチベクトルV7、V2、V3のベクトル的組み合わせにより表現することができる。すなわち、3つのスイッチベクトルV0(V7)、V2、V3を順次選択し、インバータ部2を各スイッチベクトルV0(V7)、V2、V3に対応したスイッチ状態とすることにより、時間tにおける所定の各相出力電圧を得ることができる。
【0007】
なお、上記出力ベクトルVuは、例えば、各相出力電圧を正弦波状とする場合は、PWMインバータ1aの各相出力電圧が1周期変化する間に、図2の六角形内にある円軌道上を半時計周りに1周する。言い換えると、出力ベクトルVuは、PWMインバータ1aの出力が電気角で60°変化する度にモードI→モードII→・・・→モードVI→モードI・・・に対応した領域内を順次移動していく。前記の通り、出力電圧Vuは、任意の制御則にしたがって生成されるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−245588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記スイッチベクトルV0〜V7の選択は一意的ではなく、自由度を有している。例えば、上記時間tの一例では3つのスイッチベクトルV0(V7)、V2、V3を選択するが、これらをどのような順序で選択するのかは全くの自由である。このため、従来の空間ベクトル制御では、スイッチベクトルV0〜V7の選択順序によっては、1スイッチサイクルあたりのスイッチング回数が増加して、不要なスイッチング損失が発生する場合があった。
【0010】
より詳しくは、例えば、スイッチベクトルV0、V2、V3をこの順序で選択したとすると、V0からV2でU相とV相のスイッチ状態が変化し、V2からV3でU相のスイッチ状態が変化し、さらにV3からV0でV相のスイッチ状態が変化するので、結局、1スイッチサイクルあたりのスイッチ状態が変化する相の数は4となる。これに対して、スイッチベクトルV0、V3、V2をこの順序で選択し、その後、スイッチベクトルV2、V3、V0をこの順序で選択すれば、1スイッチサイクルあたりのスイッチ状態が変化する相の数は2となる。つまり、前者を選択した場合は後者を選択した場合よりも1スイッチサイクルあたりのスイッチ状態が変化する相の数が2多く、その分だけ不要なスイッチング損失が発生していた。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、スイッチング回数を最小とし、不要なスイッチング損失の発生を防ぐことができるPWMインバータの制御方法および制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本願発明者は鋭意検討を重ねた結果、スイッチベクトルの選択を切り替える前後で、スイッチ状態が変化する相の数が1以下であるスイッチベクトルの組み合わせを予めルール化しておき、そのルールにしたがってスイッチベクトルの選択順序を決定すれば、不要なスイッチング損失の発生を防ぐことができることを見い出し、本願発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係るPWMインバータの制御方法は、三相2レベル形PWMインバータの各スイッチ状態に対応する8つのスイッチベクトルV0〜V7の選択を切り替えながら、当該PWMインバータを空間ベクトル制御する方法であって、スイッチベクトルV0〜V7の選択を切り替える前後でスイッチ状態が変化する相の数が1以下であるスイッチベクトルV0〜V7の組み合わせをルール化しておき、PWMインバータの出力変化の1周期を、スイッチベクトルV0〜V7に含まれるゼロスイッチベクトルV0、V7および非ゼロスイッチベクトルV1〜V6で表現可能なモードI〜VIに対応する6つの領域に分割して捉え、上記領域の1つに含まれる任意の出力ベクトルVuを得るために必要なスイッチベクトルV0〜V7をゼロスイッチベクトルV0、V7および非ゼロスイッチベクトルV1〜V6の中から選択する際に、上記ルールに含まれている組み合わせを辿りながらスイッチベクトルV0〜V7を選択することを特徴としている。
【0014】
上記三相2レベル形PWMインバータの制御方法は、例えば、1つ前のスイッチサイクルにおいて最後に選択したスイッチベクトルV0〜V7を直前スイッチベクトルとしたとき、下表に表されたルールと出力ベクトルVuを含む領域に対応するモードI〜VIとに基づいて、出力順序ベクトルVa、Vb、Vcの順序でスイッチベクトルV0〜V7を選択するよう構成することができる。
【表2】
【0015】
また、上記三相2レベル形PWMインバータの制御方法は、例えば、起点スイッチベクトルとするスイッチベクトルを予めゼロスイッチベクトルV0、V7の中から選択しておき、起点スイッチベクトルをゼロスイッチベクトルV0とした場合は、下表(A)に表されたルールと出力ベクトルVuを含む領域に対応するモードI〜VIとに基づいて、出力順序ベクトルVa、Vb、Vc、Vc、Vb、Vaの順序でスイッチベクトルV0〜V6を選択し、起点スイッチベクトルをゼロスイッチベクトルV7とした場合は、下表(B)に表されたルールと出力ベクトルVuを含む領域に対応するモードI〜VIとに基づいて、出力順序ベクトルVa、Vb、Vc、Vc、Vb、Vaの順序でスイッチベクトルV1〜V7を選択するよう構成することもできる。
【表3】
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るPWMインバータの制御方法は、三相マルチレベル形PWMインバータの各スイッチ状態に対応するスイッチベクトルの選択を切り替えながら、当該PWMインバータを空間ベクトル制御する方法であって、スイッチベクトルの選択を切り替える前後で導通状態が変化するスイッチの数が最小となるスイッチベクトルの組み合わせをルール化しておき、PWMインバータの出力変化の1周期を、上記スイッチベクトルに含まれるゼロスイッチベクトルおよび非ゼロスイッチベクトルで表現可能な複数の領域に分割して捉え、上記領域の1つに含まれる任意の出力ベクトルVuを得るために必要なスイッチベクトルをゼロスイッチベクトルおよび非ゼロスイッチベクトルの中から選択する際に、上記ルールに含まれている組み合わせを辿りながらスイッチベクトルを選択することを特徴としている。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るPWMインバータの制御装置は、PWMインバータの各スイッチ状態に対応するスイッチベクトルのうちの少なくとも1つを上記いずれかの制御方法で選択し、選択したスイッチベクトルに対応するスイッチ状態となるように、インバータ部を構成する各スイッチの導通状態を変化させることを特徴としている。
【0018】
なお、上記インバータ部は、昇降圧部によって昇圧または降圧された後の直流電圧が入力されるものであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、スイッチベクトルの選択を切り替える際に必要なスイッチングの回数を最小とし、不要なスイッチング損失の発生を防ぐことができるPWMインバータの制御方法および制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】三相2レベル形PWMインバータの模式回路図である。
【図2】三相2レベル形PWMインバータにおける空間ベクトル制御の概念を説明するための図である。
【図3】三相2レベル形PWMインバータにおける空間ベクトル制御の概念を説明するための図である。
【図4】本発明に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法において、スイッチベクトルを選択する際に参照するルールの概念図である。
【図5】出力ベクトルから分解方向ベクトルへの分解を説明するための図である。
【図6】本発明に係る三相2レベル形(三相マルチレベル形)PWMインバータの制御方法のフローチャートである。
【図7】本発明に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法による制御の一例であって、(A)は直前スイッチベクトルがV2で現モードがIIの場合、(B)は直前スイッチベクトルがV2で現モードがIVの場合である。
【図8】本発明に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法でPWMインバータを制御した実験結果を示す、各相のPWM波形図である。
【図9】本発明に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法でPWMインバータを制御した実験結果を示す、各相の出力電圧波形図である。
【図10】本発明の変形例に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法において、スイッチベクトルを選択する際に参照するルールの概念図であって、(A)は起点ベクトルをV0とした場合、(B)は起点ベクトルをV7とした場合である。
【図11】本発明の変形例に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法でPWMインバータを制御した実験結果を示す、各相のPWM波形図である。
【図12】本発明の変形例に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法でPWMインバータを制御した実験結果を示す、各相の出力電圧波形図である。
【図13】本発明を適用可能なPWMインバータの変形例を示す模式回路図である。
【図14】本発明を適用可能な三相3レベル形PWMインバータを示す模式回路図である。
【図15】本発明に係る三相3レベル形PWMインバータの制御方法において、スイッチベクトルを選択する際に参照するルールの概念図である。
【図16】三相3レベル形PWMインバータにおける空間ベクトル制御の概念を説明するための図である。
【図17】三相3レベル形PWMインバータにおける空間ベクトル制御における出力順序ベクトルのデューティ比の求め方を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法および制御装置の好ましい実施形態について説明する。なお、以下に示す実施形態では、既知の方法で求めた各相デューティ比(uu、uv、uw)が入力指令値として制御部3(本発明の「制御装置」に相当する)に入力されるものとする。また、以下では、図1に示す三相2レベル形PWMインバータ1aを制御対象とする場合について詳細に説明するが、本発明は、インバータ部2の手前に昇降圧(昇圧、降圧、昇降圧)部5を設け、インバータ部2に入力される直流電圧を可変としたPWMインバータ1b(図13参照)や、3レベル形以上のマルチレベルのインバータ部2cを備えたPWMインバータ1c(図14参照)も制御対象とすることができる。
【0022】
[三相2レベル形PWMインバータ]
[ルール作成]
本発明では、事前の準備として、スイッチベクトルV0〜V7を選択する際に参照するルール(図4および表2参照)を作成する必要がある。このルールは、スイッチベクトルV0〜V7の選択を切り替える前と後で、スイッチ状態が変化する相の数が1以下であるスイッチベクトルV0〜V7の組み合わせをまとめたもので、本発明では、この組み合わせを辿りながらスイッチベクトルV0〜V7が選択される。
【0023】
例えば、モードIの領域に含まれる出力ベクトルVuは、ゼロスイッチベクトルV0、V7と非ゼロスイッチベクトルV1、V2のベクトル的組み合わせにより表現することができるが、ゼロスイッチベクトルV0が選択された後に非ゼロスイッチベクトルV2が選択されると、2相(U相、V相)のスイッチ状態が変化することになるので、本ルールの下ではそのような順序でスイッチベクトルV0〜V7を選択することは許されない。言い換えると、本ルールの下では、選択スイッチベクトルのV0からV2への移動は許されない。同様に、V2からV0への移動、V7からV1への移動、およびV1からV7への移動も、本ルールの下では許されない。
【0024】
また、モードVの領域に含まれる出力ベクトルVuは、ゼロスイッチベクトルV0、V7と非ゼロスイッチベクトルV5、V6の組み合わせにより表現することができるが、ゼロスイッチベクトルV0が選択された後に非ゼロスイッチベクトルV6が選択されると、2相(U相、W相)のスイッチ状態が変化することになるので、本ルールの下ではそのような選択スイッチベクトルの移動は許されない。同様に、V6からV0への移動、V7からV5への移動、およびV5からV7への移動も、本ルールの下では許されない。
【0025】
図4は、上記ルールを整理した図である。結局、本発明に係る制御方法では、同図中の矢印で示された方向への選択スイッチベクトルの移動のみが許され、その他の移動は許されない。
【0026】
表2は、上記ルールをさらに整理して一般化したものである。なお、表2中の「直前スイッチベクトル」は、1つ前のスイッチサイクルで最後に選択されたスイッチベクトルV0〜V7を意味し、「モード」は、出力ベクトルVuを含む領域のモード(以下、「現モード」という)を示す。また、「Va、Vb、Vc」は出力順序ベクトルである。
【0027】
この表に具現化されたルールによれば、例えば、直前スイッチベクトルがV0で、かつ現モードがIIの場合は、表2(A)のモードIIの行を参照して、ゼロスイッチベクトルV0と非ゼロスイッチベクトルV3、V2をこの順序で選択すればよいことが分かる。また、直前スイッチベクトルがV6で、かつ現モードがVの場合は、表2(G)のモードVの行を参照して、非ゼロスイッチベクトルV6、V5およびゼロスイッチベクトルV0をこの順序で選択すればよいことが分かる。なお、直前スイッチベクトルがV6で、かつ現モードがIの場合は、表2(G)ではなく、表2(H)のモードIの行を参照して選択すべきスイッチベクトルV0〜V7を特定する。すなわち、現モードがIなので、ゼロスイッチベクトルV7と非ゼロスイッチベクトルV2、V1をこの順序で選択すればよいことが分かる。
【0028】
[制御フロー]
続いて、図6のフローチャートを参照しつつ、入力指令値である各相デューティ比uu、uv、uwが入力されてから、選択すべきスイッチベクトルV0〜V7と、その順序およびデューティ比が決定されるまでのフローについて説明する。
【0029】
まず、ステップS1では、各相デューティ比uu、uv、uwが制御部3に入力される。各相デューティ比uu、uv、uwは、例えば、PWMインバータ1aの各相出力電圧波形を所定振幅・周波数の正弦波状とするためのもので、既知のインバータ制御方法により求められる。
【0030】
ステップS2では、下式(1)を用いて、入力された各相デューティ比uu、uv、uwから出力ベクトルVuの横軸成分uxおよび縦軸成分uyを求める。
【数1】
各相デューティ比uu、uv、uwの代わりに、任意の制御則にしたがって求めた出力ベクトルVu(横軸成分ux、縦軸成分uy)が制御部3に入力される場合は、ステップS1およびS2を省略して、ステップS3から本フローをスタートさせてもよい。
【0031】
ステップS3では、ステップS2で求めた出力ベクトルVuの横軸成分uxおよび縦軸成分uyから、「現モード」を特定する。すなわち、出力ベクトルVuが、図2に示す六角形内の6つの領域(モードI〜IVに対応)のいずれに含まれるのかを特定する。
【0032】
ステップS4では、「直前スイッチベクトル」がスイッチベクトルV0〜V7のいずれであるのかを特定する。直前スイッチベクトルは、1つ前のスイッチサイクルで求めた出力順序ベクトルVc(後述)を参照することにより特定することができる。
【0033】
ステップS5では、出力ベクトルVuを分解方向ベクトルVα、Vβ、Vzに分解する。より詳しくは、出力ベクトルVuの横軸成分uxおよび縦軸成分uyを下式(2)により変換し、図5に示す分解方向ベクトルVα、Vβ、Vzのデューティ比uα、uβ、uz(以下、「分解デューティ比」という)を求める。
【数2】
上式(2)を用いて横軸成分uxおよび縦軸成分uyを分解デューティ比uα、uβ、uzに変換することにより、出力ベクトルVuをモードIの領域内にあるものとして取り扱うことができる。
【0034】
ステップS6では、表4を用いて現モードの領域を回転させることによりモードIの領域に変換し、分解方向ベクトルVα、Vβ、Vzに相当するスイッチベクトルV0〜V7を求める。
【表4】
例えば、現モードがIIの場合は、上表を用いてモードIIの領域を空間ベクトル平面上で時計周りに60°回転させ、分解方向ベクトルVα、Vβに相当するスイッチベクトルV0〜V7は、それぞれ非ゼロスイッチベクトルV2、V3であることが分かる。また、現モードがVの場合は、上表を用いてモードVの領域を時計周りに240°回転させ、分解方向ベクトルVα、Vβに相当するスイッチベクトルV0〜V7は、それぞれ非ゼロスイッチベクトルV5、V6であることが分かる。なお、分解方向ベクトルVzに相当するスイッチベクトルV0〜V7は、現モードにかかわらずゼロスイッチベクトルV0またはV7となる。
【0035】
ステップS7では、表2に具現化されたルールに基づいて、直前スイッチベクトルと現モードとから、出力順序ベクトルVa、Vb、Vcのそれぞれに相当するスイッチベクトルV0〜V7を求める。表2の使い方は前記の通りなので、ここでは説明を省略する。
【0036】
ステップS8では、ステップS6およびステップS7の結果から、出力順序ベクトルVa、Vb、Vcのデューティ比ua、ub、uc(以下、「順序デューティ比」という)と、ステップS5で求めた分解デューティ比uα、uβ、uzとを紐付ける。例えば、ステップS6で分解方向ベクトルVαに相当するスイッチベクトルがV2であると求められ、ステップS7で出力順序ベクトルVaに相当するスイッチベクトルがV2であると求められた場合は、分解方向ベクトルVαおよび出力順序ベクトルVaが両ベクトルに共通する非ゼロスイッチベクトルV2を介して紐付けられる(お互いに等しいことが特定される)。同様に、出力順序ベクトルVaの順序デューティ比uaと、ステップS5で求めた分解方向ベクトルVαの分解デューティ比uαも紐付けられる。
【0037】
ステップS9では、ステップS7で求めたスイッチベクトルV0〜V7と、ステップS8で求めた順序デューティ比ua、ub、ucとに基づいて、インバータ部2の各スイッチSW1〜SW6の導通状態を切り替える。
【0038】
以上をまとめると、上記フローを採用した本発明に係る制御方法(制御装置)によれば、出力順序ベクトルVa、Vb、Vcに相当するスイッチベクトルV0〜V7と、順序デューティ比ua、ub、ucを求めることができる。そして、求めたスイッチベクトルV0〜V7をVa→Vb→Vcの順に選択するとともに、それぞれの選択時間、すなわち選択したスイッチベクトルV0〜V7のスイッチ状態とする時間を順序デューティ比ua、ub、ucに比例した時間とすることにより、入力指令値に応じた所定の各相出力電圧を得ることができる。
【0039】
また、本発明に係る制御方法(制御装置)によれば、予め作成したルールに基づいてスイッチベクトルV0〜V7の選択順序を決定するので、選択スイッチベクトルを切り替える際に必要なスイッチングの回数が最小となり、不要なスイッチング損失の発生を防ぐことができる。
【0040】
次に、図7(A)を参照しながら、本発明に係る制御の具体的一例を特徴的な部分に限って説明する。同図に示すように、具体例1では、ステップS3で特定した現モードはII、ステップS4で特定した直前スイッチベクトルはV2であるとする。
【0041】
本具体例のステップS6では、表4のモードIIの行を参照して、分解方向ベクトルVαに相当するのは非ゼロスイッチベクトルV2であり、分解方向ベクトルVβに相当するのは非ゼロスイッチベクトルV3であることが求められる。また、分解方向ベクトルVzに相当するのはゼロスイッチベクトルV0またはV7であることが求められる。
【0042】
ステップS7では、直前スイッチベクトルがV2、現モードがIIであることから、表2(C)のモードIIの行を参照して、出力順序ベクトルVaに相当するのは非ゼロスイッチベクトルV2であり、出力順序ベクトルVbに相当するのは非ゼロスイッチベクトルV3であり、さらに出力順序ベクトルVcに相当するのはゼロスイッチベクトルV0であることが求められる。
【0043】
ステップS8では、非ゼロスイッチベクトルV2を介して分解方向ベクトルVαと出力順序ベクトルVaが紐付けられ、非ゼロスイッチベクトルV3を介して分解方向ベクトルVβと出力順序ベクトルVbが紐付けられ、さらにゼロスイッチベクトルV0を介して分解方向ベクトルVzと出力順序ベクトルVcが紐付けられる。その結果、非ゼロスイッチベクトルV2の順序デューティ比uaは、分解デューティ比uαとなる。同様に、非ゼロスイッチベクトルV3およびゼロスイッチベクトルV0の順序デューティ比ub、ucは、それぞれ分解デューティ比uβ、uzとなる。
【0044】
結局、本具体例では、uα・T(ただし、Tは1スイッチサイクルの時間)の時間だけ非ゼロスイッチベクトルV2を選択した後に、uβ・Tの時間だけ非ゼロスイッチベクトルV3を選択し、さらにその後、uz・Tの時間だけゼロスイッチベクトルV0を選択することにより、出力ベクトルVuを得て、所定の各相出力電圧を得ることができる(図7(A)参照)。
【0045】
なお、図5から明らかなように、出力ベクトルVuが分解方向ベクトルVαに等しい場合は、分解デューティ比uα(=ua)が1となり、分解デューティ比uβ(=ub)、uz(=uc)が0となる。したがって、この場合は、非ゼロスイッチベクトルV3およびゼロスイッチベクトルV0の選択時間が0となり、非ゼロスイッチベクトルV3およびゼロスイッチベクトルV0は選択されないこととなる。出力ベクトルVuが分解方向ベクトルVβ、Vzに等しい場合も同様のことがいえる。つまり、本発明に係る制御方法(制御装置)では、1スイッチサイクルにつき必ず3つのスイッチベクトルV0〜V7が選択されるとは限らない。
【0046】
図7(B)を参照しながら、本発明に係る制御のもうひとつの具体的一例について説明する。同図に示すように、具体例2では、ステップS3で特定した現モードはIV、ステップS4で特定した直前スイッチベクトルはV2であるとする。
【0047】
本具体例のステップS6では、表4のモードIVの行を参照して、分解方向ベクトルVαに相当するのは非ゼロスイッチベクトルV4であり、分解方向ベクトルVβに相当するのは非ゼロスイッチベクトルV5であることが求められる。また、分解方向ベクトルVzに相当するのはゼロスイッチベクトルV0またはV7であることが求められる。
【0048】
ステップS7では、直前スイッチベクトルがV2であることから表2(C)を参照するが、表2(C)には現モード(モードIV)の行が存在しない。このため、ステップS7では、表2(C)の「その他」の行にしたがって表2(H)のモードIVの行を参照し、出力順序ベクトルVaに相当するのはゼロスイッチベクトルV7であり、出力順序ベクトルVbに相当するのは非ゼロスイッチベクトルV4であり、さらに出力順序ベクトルVcに相当するのは非ゼロスイッチベクトルV5であることが求められる。
【0049】
ステップS8では、ゼロスイッチベクトルV7を介して分解方向ベクトルVzと出力順序ベクトルVaが紐付けられ、非ゼロスイッチベクトルV4を介して分解方向ベクトルVαと出力順序ベクトルVbが紐付けられ、さらに非ゼロスイッチベクトルV5を介して分解方向ベクトルVβと出力順序ベクトルVcが紐付けられる。その結果、ゼロスイッチベクトルV7の順序デューティ比uaは、分解デューティ比uzとなる。同様に、非ゼロスイッチベクトルV4、V5の順序デューティ比ub、ucは、それぞれ分解デューティ比uα、uβとなる。
【0050】
結局、本具体例では、uz・Tの時間だけゼロスイッチベクトルV7を選択した後に、uα・Tの時間だけ非ゼロスイッチベクトルV4を選択し、さらにその後、uβ・Tの時間だけ非ゼロスイッチベクトルV5を選択することにより、出力ベクトルVuを得て、所定の各相出力電圧を得ることができる(図7(B)参照)。
【0051】
続いて、本発明に係る制御方法(制御装置)を用いて、インバータ部2をIGBTで構成した三相2レベル形PWMインバータ1aを制御した実験結果について説明する。なお、本実験では、インバータ部2に入力される直流入力電圧を100Vとし、各相の出力電圧が振幅25V、周波数50Hzの正弦波(図9参照)となるよう制御した。
【0052】
図8(A)に、2kHzで変調した各相の1周期(40スイッチサイクル)分のPWM出力波形を示す。同図に示すように、本発明に係る制御方法(制御装置)によれば、各相ともスイッチングしない区間が発生し、スイッチング回数を概ね2/3に低減することができた。また、図8(A)の一部を拡大した図8(B)に示すように、本実験では、モードIとモードIIの境目において選択スイッチベクトルがV0→V1→V2→V2→V3→V0の順に移動していた。つまり、表2に具現化されたルールに基づく正しい制御が行われたことを確認することができた。
【0053】
[変形例]
上記本発明に係る制御方法(制御装置)は、対称形の制御とすることにより簡易化することができる。より詳しくは、変形例に係る制御方法(制御装置)では、表2に具現化されたルールに代えて、表3に具現化された簡易ルールに基づいてスイッチベクトルの選択順序を決定する。その他の制御フローは、図6に示すステップS1〜S6、S8、S9と同様である。
【0054】
この簡易ルールを用いた制御フローにおいては、まず、起点スイッチベクトルとするスイッチベクトルをゼロスイッチベクトルV0、V7の中から選択する。そして、起点スイッチベクトルをV0とした場合は、表3(A)の現モードの行を参照して出力順序ベクトルVa、Vb、Vcに相当するスイッチベクトルV0〜V6を求め、出力順序ベクトルVa、Vb、Vcに相当するスイッチベクトルV0〜V6を順次選択した後に、対称に折り返すように、出力順序ベクトルVc、Vb、Vaに相当するスイッチベクトルV0〜V6を順次選択する(図10(A)参照)。起点スイッチベクトルをV7とした場合、表3(B)の現モードの行を参照して出力順序ベクトルVa、Vb、Vcに相当するスイッチベクトルV1〜V7を求め、出力順序ベクトルVa、Vb、Vcに相当するスイッチベクトルV1〜V7を順次選択した後に、対称に折り返すように、出力順序ベクトルVc、Vb、Vaに相当するスイッチベクトルV1〜V7を順次選択する(図10(B)参照)。
【0055】
例えば、起点スイッチベクトルがV0、現モードがIの場合は、選択スイッチベクトルがV0→V1→V2の順に移動した後、V2→V1→V0の順に移動する。別の例として、起点スイッチベクトルがV7、現モードがVの場合は、選択スイッチベクトルがV7→V6→V5の順に移動した後、V5→V6→V7の順に移動する。
【0056】
この変形例に係る制御方法(制御装置)によれば、制御を簡易化することができる他、各スイッチサイクルにおける最後の選択スイッチベクトル(直前スイッチベクトル)が必ず起点スイッチベクトル(ゼロスイッチベクトルV0またはV7)となるので、任意のモードへの移動がしやすくなるというメリットが得られる。
【0057】
続いて、変形例に係る制御方法(制御装置)を用いて、インバータ部2をIGBTで構成した三相2レベル形PWMインバータ1aを制御した実験結果について説明する。なお、本実験では、インバータ部2に入力される直流入力電圧を100Vとし、各相の出力電圧が振幅25V、周波数50Hzの正弦波(図12参照)となるよう制御した。また、起点スイッチベクトルはゼロスイッチベクトルV0とした。
【0058】
図11(A)に、2kHzで変調した各相の1周期(40スイッチサイクル)分のPWM出力波形を示す。同図に示すように、変形例に係る制御方法(制御装置)によれば、各相とも1周期のうちスイッチングしない区間が1/3程度あり、スイッチング回数を概ね2/3に低減することができた。また、図11(A)の一部を拡大した図11(B)に示すように、本実験では、モードIにおいて選択スイッチベクトルがV0→V1→V2→V2→V1→V0の順に移動していた。つまり、表3(A)に具現化されたルールに基づく正しい制御が行われたことを確認することができた。
【0059】
[三相3レベル形PWMインバータ]
続いて、マルチレベル形PWMインバータの一例として、三相3レベル形PWMインバータを制御対象とする場合について説明する。図14に示すように、三相3レベル形のPWMインバータ1cは、制御部3(本発明の「制御装置」に相当する)によって制御されるインバータ部2cからなり、インバータ部2cの各相出力が三相負荷4に接続されている。同図に示すように、インバータ部2はIGBT等からなる12個のスイッチを有し、このうち、スイッチSWUpp、SWUpo、SWUno、SWUnnはU相アームを、スイッチSWVpp、SWVpo、SWVno、SWVnnはV相アームを、そしてスイッチSWWpp、SWWpo、SWWno、SWWnnはW相アームをそれぞれ構成する。各スイッチの導通状態は、制御部3の制御下で切り替えられる。図13に示す三相2レベル形のPWMインバータ1bと同様、インバータ部2cの手前に昇降圧(昇圧、降圧、昇降圧)部を設け、インバータ部2cに入力される直流電圧を可変としてもよい。
【0060】
三相3レベル形PWMインバータ1cの空間ベクトル制御では、インバータ部2cの各スイッチ状態に対応する33=27個のスイッチベクトルV0〜V26(図15、表5参照)のうちの少なくとも1つを選択することによりPWMインバータ1cを制御する。
【表5】
ここで、各スイッチベクトルV0〜V26のスイッチ状態を表す数字“1”は、例えば、U相で説明すると、スイッチSWUpp、SWUpoがオンしていることを示し、“1/2”は、スイッチSWUpo、SWUnoがオンしていることを示し、“0”は、スイッチSWUno、SWUnnがオンしていることを示す。
【0061】
図14から明らかなように、スイッチ状態を“1”から“1/2”に変化させたり、“1/2”から“1”に変化させたり、“0”から“1/2”に変化させたり、“1/2”から“0”に変化させたりするためには、いずれか1つのスイッチをオンさせるとともに、別の1つのスイッチをオフさせる必要がある。一方、スイッチ状態を“1”から“0”に変化させたり、“0”から“1”に変化させたりするためには、いずれか2つのスイッチをオンさせるとともに、別の2つのスイッチをオフさせる必要がある。本発明では、各1つのオン動作とオフ動作とからなる組が何組存在するのかによって、スイッチベクトルV0〜V26間の距離を予め算出しておく。
【0062】
表6は、スイッチベクトルV0〜V26間の距離をまとめた表の一部である。
【表6】
上表に示すように、例えば、非ゼロスイッチベクトルV1とV8は距離が“1”離れているが、これは、選択スイッチベクトルをV1からV8に移動させる際に、1つのスイッチ(SWVno)をオフするとともに、別の1つのスイッチ(SWVpo)をオンさせる必要があることを示している。また、非ゼロスイッチベクトルV1とV2は距離が“2”離れているが、これは、選択スイッチベクトルをV1からV2に移動させる際に、2つのスイッチ(SWVno、SWVnn)をオフするとともに、別の2つのスイッチ(SWVpp、SWVpo)をオンさせる必要があることを示している。表6の使い方については、後で説明する。
【0063】
三相2レベル形PWMインバータ1aの場合と同様に、三相3レベル形PWMインバータ1cの空間ベクトル制御においても出力状態をモードI〜VIに相当する6つの領域に分割して捉えるが、三相3レベル形PWMインバータ1cの場合はこのモードI〜VIのそれぞれがさらに4つに細分化されている。例えば、モードIは、図16に示すように細分化モードIa〜Idに細分化されている。このため、細分化モードIaの領域内にある任意の出力ベクトルVuは、ゼロスイッチベクトルV0、V7、V26と非ゼロスイッチベクトルV14〜V17のベクトル的組み合わせにより表現されるが、細分化モードIbの領域内にある任意の出力ベクトルVuは、非ゼロスイッチベクトルV1、V8、V14、V15のベクトル的組み合わせにより表現される。すなわち、同一のモードでも、細分化モードが異なれば、選択すべきスイッチベクトルV0〜V26は異なる。
【0064】
他のモードII〜VIも、同様に、4つの細分化モードに細分化されている。したがって、三相3レベル形PWMインバータ1cの空間ベクトル制御においては、計24個の細分化モードIa、Ib・・・VIc、VIdが存在する。
【0065】
表7は、スイッチベクトルV0〜V26を選択する際に参照するルールのうち、現モードがIである場合に参照する部分を抜き出したものである。このルールを参照すれば、距離が1以下であるスイッチベクトルV0〜V26の組み合わせ、言い換えると、スイッチベクトルV0〜V26の選択を切り替える前と後で、導通状態が変化するスイッチの数が2以下であるスイッチベクトルV0〜V26の組み合わせが分かるようになっている。本発明では、この組み合わせを辿りながらスイッチベクトルV0〜V26が選択される。
【表7】
【0066】
例えば、直前スイッチベクトルがV0であり、かつ現細分化モードがIaである場合は、ゼロスイッチベクトルV0、非ゼロスイッチベクトルV14、V16がこの順序で選択される。このような順序で選択すれば、選択スイッチベクトルのV0からV14への移動においては、U相アームを構成するスイッチSWUpoとスイッチSWUnnの導通状態だけが変化し、選択スイッチベクトルのV14からV16への移動においては、V相アームを構成するスイッチSWVpoとスイッチSWVnnの導通状態だけが変化するので、導通状態が変化するスイッチの数をそれぞれ2とすることができる。
【0067】
また、直前スイッチベクトルがV8であり、かつ現細分化モードがIcである場合は、非ゼロスイッチベクトルV8、V15、V17がこの順序で選択されるか、または、非ゼロスイッチベクトルV8、V16、V14がこの順序で選択される。前者のように選択しても、後者のように選択しても、得られるスイッチング損失の低減効果は同じであるが、2つの選択肢がある場合は、いずれを選択するのかを決定する必要がある。
【0068】
この決定の手法は種々考えられるが、例えば、単純にスイッチベクトルの番号が小さい選択肢を優先的に選択してもよいし、出力ベクトルVuの軌道を考慮して、次のスイッチサイクルへの移行がスムーズにいく選択肢を選択してもよい。一例として、出力ベクトルVuが反時計回りの円軌道を描いている場合は、現細分化モードがIcからIdに移動していく可能性が高いので、非ゼロスイッチベクトルV14を選択してこのスイッチサイクルを終了するよりは、非ゼロスイッチベクトルV17を選択して現スイッチサイクルを終了した方が、次のスイッチサイクルに移行する際のスイッチング損失を低減できる可能性が高く、好ましい。
【0069】
直前スイッチベクトルが表7に示されていないスイッチベクトル(例えば、非ゼロスイッチベクトルV9)であり、かつ現細分化モードが一例としてIbである場合のルールは、以下の要領で作成することができる。
【0070】
まず、表6を参照して、非ゼロスイッチベクトルV9と細分化モードIbを表現するために必要な非ゼロスイッチベクトルV1、V8、V14、V15との距離を求める。非ゼロスイッチベクトルV9と非ゼロスイッチベクトルV1、V8、V14、V15との距離は、それぞれ3、2、2、3なので、距離が最も短いV8およびV14が出力順序ベクトルVaの候補となる。出力順序ベクトルVaとしてV8を選択した場合は、表7の行Aに示すように、出力順序ベクトルVb、Vcは、それぞれV1、V14となる。一方、出力順序ベクトルVaとしてV14を選択した場合は、表7の行Bに示すように、出力順序ベクトルVb、Vcは、それぞれV1、V8となる。出力順序ベクトルVaとして非ゼロスイッチベクトルV8、V14のいずれを選択するのかは、種々の手法により決定することができる。
【0071】
この他、三相3レベル形PWMインバータ1cの空間ベクトル制御では、ステップS8(図6参照)において、分解デューディ比uα、uβ、uzがそのまま出力順序ベクトルVa、Vb、Vcのデューティ比ua、ub、ucに紐付けられるのではない点に注意が必要である。
【0072】
例えば、直前スイッチベクトルがV8であり、かつ現細分化モードがIbである場合は、式(3)に示されているように、出力順序ベクトルVa、Vb、Vcのデューティ比ua、ub、ucは、それぞれ“2uβ”、“2uα−1”、“2(1−uα−uβ)”となる。
【数3】
上式は、図17から幾何学的に導きだすことができる。直前スイッチベクトルまたは現細分化モードが上記一例と異なる場合も、同様の手法により出力順序ベクトルVa、Vb、Vcのデューティ比ua、ub、ucを求めることができる。
【0073】
入力指令値である各相デューティ比uu、uv、uwが入力されてから、選択すべきスイッチベクトルV0〜V26とその選択順序が決定されるまでのフロー(図6のステップS1〜S7)は、三相2レベル形PWMインバータ1aの制御フローと同様である。また、ステップS9については、導通状態を切り替えるスイッチの数が6個(SW1〜SW6)ではなく12個(SWUpp、SWUpo・・・・SWWno、SWWnn)である点が、三相2レベル形PWMインバータ1aの制御フローと異なる。
【0074】
以上、本発明に係るPWMインバータの制御方法および制御装置の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記の構成に限定されるものではない。
【0075】
例えば、スイッチベクトルの選択順序を決定する際に参照するルールは表2、表3、表6および表7の表現形式に限定されず、直前スイッチベクトルと現モード(現細分化モード)とに基づいてスイッチベクトルの選択順序を一意的に決めることができるものであれば、表現形式はどのようなものであってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1a、1b、1c PWMインバータ
2 インバータ部
3 制御部(制御装置)
4 三相負荷
5 昇降圧部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相2レベル形PWMインバータの各スイッチ状態に対応する8つのスイッチベクトルV0〜V7の選択を切り替えながら、当該PWMインバータを空間ベクトル制御する方法であって、
前記スイッチベクトルV0〜V7の選択を切り替える前後でスイッチ状態が変化する相の数が1以下である前記スイッチベクトルV0〜V7の組み合わせをルール化しておき、
前記PWMインバータの出力変化の1周期を、前記スイッチベクトルV0〜V7に含まれるゼロスイッチベクトルV0、V7および非ゼロスイッチベクトルV1〜V6で表現可能なモードI〜VIに対応する6つの領域に分割して捉え、
前記領域の1つに含まれる任意の出力ベクトルVuを得るために必要な前記スイッチベクトルV0〜V7を前記ゼロスイッチベクトルV0、V7および前記非ゼロスイッチベクトルV1〜V6の中から選択する際に、前記ルールに含まれている前記組み合わせを辿りながら前記スイッチベクトルV0〜V7を選択することを特徴とする制御方法。
【請求項2】
1つ前のスイッチサイクルにおいて最後に選択した前記スイッチベクトルV0〜V7を直前スイッチベクトルとしたとき、表1に表された前記ルールと前記出力ベクトルVuを含む前記領域に対応する前記モードI〜VIとに基づいて、出力順序ベクトルVa、Vb、Vcの順序で前記スイッチベクトルV0〜V7を選択することを特徴とする請求項1に記載の制御方法。
【表1】
【請求項3】
起点スイッチベクトルとするスイッチベクトルを予め前記ゼロスイッチベクトルV0、V7の中から選択しておき、
前記起点スイッチベクトルを前記ゼロスイッチベクトルV0とした場合は、表2(A)に表された前記ルールと前記出力ベクトルVuを含む前記領域に対応する前記モードI〜VIとに基づいて、出力順序ベクトルVa、Vb、Vc、Vc、Vb、Vaの順序で前記スイッチベクトルV0〜V7を選択し、
前記起点スイッチベクトルを前記ゼロスイッチベクトルV7とした場合は、表2(B)に表された前記ルールと前記出力ベクトルVuを含む前記領域に対応する前記モードI〜VIとに基づいて、出力順序ベクトルVa、Vb、Vc、Vc、Vb、Vaの順序で前記スイッチベクトルV0〜V7を選択する、
ことを特徴とする請求項1に記載の制御方法。
【表2】
【請求項4】
三相マルチレベル形PWMインバータの各スイッチ状態に対応するスイッチベクトルの選択を切り替えながら、当該PWMインバータを空間ベクトル制御する方法であって、
前記スイッチベクトルの選択を切り替える前後で導通状態が変化するスイッチの数が最小となる前記スイッチベクトルの組み合わせをルール化しておき、
前記PWMインバータの出力変化の1周期を、前記スイッチベクトルに含まれるゼロスイッチベクトルおよび非ゼロスイッチベクトルで表現可能な複数の領域に分割して捉え、
前記領域の1つに含まれる任意の出力ベクトルVuを得るために必要な前記スイッチベクトルを前記ゼロスイッチベクトルおよび前記非ゼロスイッチベクトルの中から選択する際に、前記ルールに含まれている前記組み合わせを辿りながら前記スイッチベクトルを選択することを特徴とする制御方法。
【請求項5】
PWMインバータの各スイッチ状態に対応するスイッチベクトルのうちの少なくとも1つを請求項1〜4のいずれかに記載の制御方法で選択し、選択した前記スイッチベクトルに対応するスイッチ状態となるように、インバータ部を構成する各スイッチの導通状態を変化させることを特徴とするPWMインバータの制御装置。
【請求項6】
前記インバータ部に、昇降圧部によって昇圧または降圧された後の直流電圧が入力されることを特徴とする請求項5に記載のPWMインバータの制御装置。
【請求項1】
三相2レベル形PWMインバータの各スイッチ状態に対応する8つのスイッチベクトルV0〜V7の選択を切り替えながら、当該PWMインバータを空間ベクトル制御する方法であって、
前記スイッチベクトルV0〜V7の選択を切り替える前後でスイッチ状態が変化する相の数が1以下である前記スイッチベクトルV0〜V7の組み合わせをルール化しておき、
前記PWMインバータの出力変化の1周期を、前記スイッチベクトルV0〜V7に含まれるゼロスイッチベクトルV0、V7および非ゼロスイッチベクトルV1〜V6で表現可能なモードI〜VIに対応する6つの領域に分割して捉え、
前記領域の1つに含まれる任意の出力ベクトルVuを得るために必要な前記スイッチベクトルV0〜V7を前記ゼロスイッチベクトルV0、V7および前記非ゼロスイッチベクトルV1〜V6の中から選択する際に、前記ルールに含まれている前記組み合わせを辿りながら前記スイッチベクトルV0〜V7を選択することを特徴とする制御方法。
【請求項2】
1つ前のスイッチサイクルにおいて最後に選択した前記スイッチベクトルV0〜V7を直前スイッチベクトルとしたとき、表1に表された前記ルールと前記出力ベクトルVuを含む前記領域に対応する前記モードI〜VIとに基づいて、出力順序ベクトルVa、Vb、Vcの順序で前記スイッチベクトルV0〜V7を選択することを特徴とする請求項1に記載の制御方法。
【表1】
【請求項3】
起点スイッチベクトルとするスイッチベクトルを予め前記ゼロスイッチベクトルV0、V7の中から選択しておき、
前記起点スイッチベクトルを前記ゼロスイッチベクトルV0とした場合は、表2(A)に表された前記ルールと前記出力ベクトルVuを含む前記領域に対応する前記モードI〜VIとに基づいて、出力順序ベクトルVa、Vb、Vc、Vc、Vb、Vaの順序で前記スイッチベクトルV0〜V7を選択し、
前記起点スイッチベクトルを前記ゼロスイッチベクトルV7とした場合は、表2(B)に表された前記ルールと前記出力ベクトルVuを含む前記領域に対応する前記モードI〜VIとに基づいて、出力順序ベクトルVa、Vb、Vc、Vc、Vb、Vaの順序で前記スイッチベクトルV0〜V7を選択する、
ことを特徴とする請求項1に記載の制御方法。
【表2】
【請求項4】
三相マルチレベル形PWMインバータの各スイッチ状態に対応するスイッチベクトルの選択を切り替えながら、当該PWMインバータを空間ベクトル制御する方法であって、
前記スイッチベクトルの選択を切り替える前後で導通状態が変化するスイッチの数が最小となる前記スイッチベクトルの組み合わせをルール化しておき、
前記PWMインバータの出力変化の1周期を、前記スイッチベクトルに含まれるゼロスイッチベクトルおよび非ゼロスイッチベクトルで表現可能な複数の領域に分割して捉え、
前記領域の1つに含まれる任意の出力ベクトルVuを得るために必要な前記スイッチベクトルを前記ゼロスイッチベクトルおよび前記非ゼロスイッチベクトルの中から選択する際に、前記ルールに含まれている前記組み合わせを辿りながら前記スイッチベクトルを選択することを特徴とする制御方法。
【請求項5】
PWMインバータの各スイッチ状態に対応するスイッチベクトルのうちの少なくとも1つを請求項1〜4のいずれかに記載の制御方法で選択し、選択した前記スイッチベクトルに対応するスイッチ状態となるように、インバータ部を構成する各スイッチの導通状態を変化させることを特徴とするPWMインバータの制御装置。
【請求項6】
前記インバータ部に、昇降圧部によって昇圧または降圧された後の直流電圧が入力されることを特徴とする請求項5に記載のPWMインバータの制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−39853(P2012−39853A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121588(P2011−121588)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【Fターム(参考)】
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