説明

Plasmodiumfalciparumスポロゾイト及び肝臓段階抗原

本発明は、マラリア生活環の前赤血球段階で発現する新規マラリアポリペプチドを提供する。この抗原は、該抗原含むワクチン製剤を投与すること、又は、該抗原をDNA又はその他の核酸発現系でワクチン製剤として運ばれるよう発現することにより、哺乳類においてマラリアに対する免疫応答を誘導するために利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、抗マラリアワクチン成分として用いるためのPlasmodium falciparum由来DNA配列及びポリペプチド、並びに、これらの抗原に対する免疫応答を誘導する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マラリアの原因はベクター媒介性生物であるマラリア原虫である。この寄生虫は、段階特異的なタンパク質の発現を必要とする複雑な生活環を有している。これらのタンパク質は、異なる段階で発現する可能性もあるし、段階に特異的である可能性もある。マラリアの流行地域には30億人以上の人々が生活しているため、マラリアは極めて重要な疾患である。マラリアに起因する死者数は年間10億人以上にのぼる。薬剤耐性種の出現により、本疾患の治療上の問題が増大してきている。しかし、FDAに認可されたワクチンは存在しない。
【0003】
P.falciparumの全ゲノム配列は既に決定されている(非特許文献1、非特許文献2)。齧歯類のマラリア原虫であるP.yoeliiについても既に配列は決定されている(非特許文献3)。しかし、こうした状況にも関わらず、効果的な抗マラリアワクチンの開発は、有望な抗原が見つからないため、著しく阻害されていた。Plasmodium falciparum及びPlasmodium yoeliiのゲノムの配列同定により、当該ゲノム中の5200以上の遺伝子が同定された。しかし、多数の潜在的遺伝子標的にも関わらず、こうしたデータセットを利用するのみでは、新しいワクチンコンストラクトを得られる可能性は低かった。結果として、臨床試験が行われたのは、P.falciparumのプロテオームのうち僅か0.2%である。さらに、これらのワクチン候補の抗原は、ボランティアにおいては高い予防率を誘導することはできなかった。しかし、放射線照射弱毒化スポロゾイトによるマウス及びヒトの免疫付与が、高い免疫率(>90%)をもたらすことから、効果的な抗マラリアワクチン開発の可能性が示唆される。こうした防御免疫は、スポロゾイト及び肝臓段階抗原の複数を対象としているようであった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Bowman等、Nature、1999年、第400巻、532−538頁
【非特許文献2】Gardner等、Nature、2002年、第419巻、498−511頁
【非特許文献3】Carlton等、Nature、2002年、第419巻、512−519頁
【発明の概要】
【0005】
本発明は、組み換えPlasmodium falciparumタンパク質をコードするDNA配列に関する。本タンパク質は、P.falciparumの大規模パネルから同定した。本タンパク質を、多数の基準に基づき評価し、マラリア予防に関係するか判定した。本配列は、サブユニット免疫原性抗原として用いるために、それにコードされたタンパク質を発現するために利用してもよいし、免疫応答を誘導するために、生体内での発現に適したベクターに組み込んでもよい。本タンパク質は、免疫原性製剤中において、組み合わせて又は単独で利用することができる。
【0006】
ある実施形態では、化合物は免疫原性タンパク質として用いることができる。この実施形態では、本タンパク質は、まず、該タンパク質をコードするDNAを適切な発現系に組み込むことにより、製造することができる。発現及び精製されたタンパク質は、次に、ヒト等の哺乳動物に1回以上投与することができる。この実施形態では、精製タンパク質は、個別に発現されてもよいし、あるいは、特定タンパク質をコードするDNAが1つの免疫原性組成物を形成するよう組み換えによりまとめられていてもよい。これらの免疫原性組成物は、次に、免疫応答を誘導するため、1回以上投与することができる。
【0007】
別の実施形態では、本タンパク質をコードするDNAは、適切なベクター発現系に挿入することができる。こうした系としては、例えば、アデノウィルスに基づく系(例えば、2008年10月9日に公開された米国特許出願公開第2008/0248060号に記載のBruder等の系)、又は、DNAプラスミド系が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】表記のインサートを含むDNA−P.yoeliiベクター100μgを接種(初回接種)したマウスの予防率を示す。1種類より多くのインサートを受けたマウスは複数の投与を受けたものとして(即ち、dose=1X〜3Xと)示した。40日目に、初回投与と同様のインサートを含むワクシニア−P.yoeliiベクターをマウスに追加接種した。50日目に、P.yoeliiスポロゾイトをマウスに攻撃接種し、61〜68日目に、寄生虫血症を評価した。これらの実験で、N=14。
【図2】図1と同様の接種を行ったマウスの予防率を示す。これらの実験で、N=14。1種類より多くのインサートを受けたマウスは複数の投与を受けたものとして(即ち、dose=1X又は3Xと)示した。
【図3】HLA特異的ペプチドプールを刺激剤として用いたPF106抗原のELISpot法によるスクリーニングの結果(IFN−γスポット形成細胞(spot−forming cells,SFC)/末梢血中の単核細胞(peripheral blood mononuclear cells,PBMC)100万個)を示す。最大のIFN−γ誘導を星印で示す。
【図4】HLA特異的ペプチドプールを刺激剤として用いたPF61抗原のELISpot法によるスクリーニングの結果(IFN−γスポット形成細胞(SFC)/PBMC100万個)を示す。最大のIFN−γ誘導を星印で示す。
【図5】HLA特異的ペプチドプールを刺激剤として用いたPF56抗原のELISpot法によるスクリーニングの結果(IFN−γスポット形成細胞(SFC)/PBMC100万個)を示す。最大のIFN−γ誘導を星印で示す。
【図6】HLA特異的ペプチドプールを刺激剤として用いたPF121抗原のELISpot法によるスクリーニングの結果(IFN−γスポット形成細胞(SFC)/PBMC100万個)を示す。最大のIFN−γ誘導を星印で示す。
【図7】HLA特異的ペプチドプールを刺激剤として用いたPF144抗原のELISpot法によるスクリーニングの結果(IFN−γスポット形成細胞(SFC)/PBMC100万個)を示す。最大のIFN−γ誘導を星印で示す。
【図8】HLA(A2、A3及びB7)拘束性ペプチドプールを刺激剤として用いたPF144抗原のELISpot法によるスクリーニングの結果(IFN−γスポット形成細胞(SFC)/PBMC100万個)を示す。PBMCは、照射スポロゾイトワクチン(irradiated sporozoite vaccine, ISV)接種の前又は後に採取した。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態の1つは、マラリア(即ち、Plasmodium falciparum)の生活環のうち前赤血球段階において発現する単離タンパク質に関する。本単離タンパク質は、免疫応答を誘導するために、免疫原性製剤中に組み込むことができる。本実施形態では、本タンパク質は単独で又は組み合わせて組み込むことができる。また、本発明の免疫原性組成物は、ポリペプチドにより惹起される免疫応答を改善又は増強するための賦活剤を含む。本発明のさらなる態様は、本タンパク質の体液性及び/又はT細胞性免疫応答誘導能である。
【0010】
本明細書では、「ポリペプチド」という用語は、アミノ酸からなるポリマーを指すものであり、特定の長さの生産物を指すものではない。タンパク質は、ポリペプチドの本定義内に包含される。「mer」という用語は、数字と組み合わせて、例えば、15merというように用いて、アミノ酸の数で表したポリプチドの長さを指すものである。
【0011】
ポリプチド内のT細胞エピトープ又はHLA結合領域の予測を含む免疫原性領域の予測法は、当分野で周知である。「モチーフ」という用語は、HLA分子に関連又は結合すると予測されてきた特定のアミノ酸配列を有するポリペプチドを指すものである。
【0012】
本明細書では、本タンパク質は、本明細書に記載の1種以上のポリペプチドを免疫原性組成物に有効量含有させるために、分子学的手法により、例えば、プラスミドによる発現あるいはウィスル系などのその他の発現系により、適切な遺伝子断片を発現させ、その後、単離することで、製造される。
【0013】
本発明のある実施形態は、ポリペプチドをコードするDNAを、免疫応答を誘導するためにヒトなどの哺乳類宿主細胞内で1種以上のポリペプチドの発現を可能とするようなベクター発現系に組み込むことである。こうした発現系は、DNAプラスミド又はウィルス系であってもよい。Plasmodiumタンパク質を発現するDNAワクチンを製造及び投与する方法は、当分野では周知であり、文献(Doolan及びHoffman、2001年、Int J.Parasitol、第31巻、753−62頁;米国特許出願公開第2008/0248060号(2008年10月9日))に既に記載されている。これらの文献を参照により本明細書に取り込む。
【0014】
別の実施形態では、本タンパク質の誘導体を免疫原性組成物に用いることができる。この実施形態の変形例では、P.falciparumタンパク質の免疫原性誘導体は、配列番号2,4,6,8,10,12及び14からなる群より選択されるアミノ酸配列からなる全長ポリペプチドの連続する少なくとも10アミノ酸からなるアミノ酸配列を含む。ポリペプチドの免疫原性誘導体は、適切な遺伝子断片の発現により、あるいは、ペプチド合成法などのその他の手段により、製造することができる。また、誘導体は、配列番号2,4,6,8,10,12及び14からなる群より選択されるP.falciparumポリペプチドの1種以上のエピトープをコードする追加の配列を含む融合ポリペプチドであってもよい。これらの実施形態では、本タンパク質は、免疫原性製剤に直接組み込むこともできるし、DNAプラスミド又はウィルス発現系で発現させることもできる。
【0015】
いくつかの実施形態では、P.falciparumポリペプチドは、配列番号2,4,6,8,10,12及び14からなる群より選択される配列と80%より大きいアミノ酸配列相同性を有する免疫原性誘導体を含む。この文脈において、「相同(性)」という用語は、最大一致で整列したときに、2つ以上の配列又は部分配列が、一致すること、又は、所定の割合で一致するアミノ酸配列を有することを指すものである。配列の差異が、保存的置換、即ち、同じ性質を有する残基の置換による場合、配列相同性の割合を置換の保存的性質に合うよう上方補正してもよい。
【0016】
照射弱毒化スポロゾイトによるマウスの免疫付与は強い防御免疫を惹起する(Clyde等、1973年a、Am.J.Med.Sci、第266巻、398−401頁;Clyde等、1973年b、Am.J.Med.Sci、第266巻、169−177頁;Nussenzweig等、1967年、Nature、第216号、160−162頁)。照射スポロゾイトワクチン(ISV)を接種されたボランティアにおいてCPSを除く前赤血球段階抗原に対する遺伝的に制限された応答が同定されていることから明らかなように、ワクチンの近似手段として、照射弱毒化スポロゾイトの使用は、その多くが前赤血球段階である複数の抗原を対象とするものと思われる(Kryzch等、1995年、J.Immunol、第155巻、4072−4077頁;Wizel等、1995年a、J.Immunol、第155巻、766−775頁;Wizel等、1995年b、J.Exp.Med.、第182巻、1435−1445頁)。照射弱毒化ワクチンにより前赤血球段階抗原を対象とすることは、スポロゾイト又は感染肝細胞に対する免疫につながり、ひいては、初代メロゾイトの血流への放出を防止することで血液への感染を防止する。
【0017】
前赤血球段階タンパク質は、マラリアに対する防御免疫を付与するために重要である可能性がある。マラリア寄生虫ゲノムの配列同定後、比較的多数のマラリア遺伝子が同定されているにも関わらず、抗マラリア剤クチン候補の同定は、マラリア寄生虫の比較的複雑な生活環により、大幅に妨げられていた。さらに、マラリア寄生虫の遺伝子の多くは、抗原性についても、また、機能性についても、きちんとは定義されていない。そこで、潜在的防御応答を解析するため、多数の遺伝子によりコードされた抗原のハイスループット解析を行った。こうした応答に基づき、特定の遺伝子を潜在的ワクチン製剤として選択した。
【実施例】
【0018】
[実施例1:P.falciparumタンパク質の同定及び発現]
同定配列の解析は、効率的なタンパク質発現プラットフォームを必要とする。この制限は、これまで、抗マラリアワクチンの開発の問題であった。この制限を回避するため、組み換えタンパク質の発現とスクリーニングとを平行して行うことのできる改変コムギ胚芽無細胞系を用いた。生体情報学的解析、並びに、スポロゾイト及び肝臓段階寄生虫のトランスクリプトーム及びプロテオーム発現データベースに基づき、150種類の推定P.falciparum前赤血球段階遺伝子からなるパネルを開発した。このリストにある遺伝子の多くは、機能未知の仮想タンパク質をコードしている。このパネルの遺伝子のいくつかは、照射スポロゾイトワクチン(ISV)接種ボランティアから得られた血清への免疫反応から明らかなように、ワクチン抗原として機能することができるだろうとの仮説を立てた。その他の発現系では、さらに必要な下流の分析及び解析が困難であることが明らかとなっていた。そこで、発現を改善するため、改変コムギ胚芽無細胞発現系を利用した。この系は、評価クローンのうち約90%での発現を可能とした。さらなる発現及び解析のために選択された遺伝子を、前赤血球段階でのそれらの発現により、プロテオーム及び/又はトランスクリプトームデータセットに基づき、同定した。合計155種類のP.falciparum遺伝子を用い、GST融合タンパク質及び6xHis融合タンパク質として、タンパク質発現DNAコンストラクトを作成した。GST融合タンパク質及び6xHis融合タンパク質には、それぞれ、pE−E01−GST−TEV−GW及びpEU−E0l−His−TEV−GWプラスミドを用いた(Tsuboi等、2008年)。
【0019】
(組み換えタンパク質の発現)
組み換えタンパク質の発現は、コムギ胚芽無細胞系を用いて行った。インビトロの翻訳反応のテンプレートとして用いるための遺伝子特異的RNAを2つの規模で合成した。
a)小規模
RNAseフリーのPCR DNAを作成し、その後、それをテンプレートとして翻訳反応を行うことで、全てのクローンについて、小規模のバッチ反応を行った。各遺伝子を、pEU−E01特異的プライマーとアダプターとを用い、プラスミドミニプレップDNAからPCRで増幅した。用いたプライマーは、
SP6:5’AGAGCGCGCAAGACGCGCAGGACCG3’;
E01:5’AGAGAGAGAGAGAACAACAACACAAACA3’
である。翻訳反応は、PCR DNAテンプレート2μl、dNTPs25mM、RNAse阻害剤1U/μl、SP6ポリメラーゼ1.2U/μl、及び、転写バッファーを用い、37℃、6時間の条件で行った。遺伝子特異的転写産物のサイズはアガロースゲル電気泳動により確認した。RNAは、エタノール沈殿により不要な転写反応試薬を取り除いた後、RNAseフリーの水に溶かし、タンパク質発現反応に用いた。
b)大規模
大規模タンパク質発現に用いるRNAの合成は、RNAseフリープラスミドDNAをテンプレートとして用い行った。該プラスミドDNAは、標準的なDNA単離キットにより精製し、転写反応液に直接添加した。具体的には、プラスミドDNA25μgを、上記の転写バッファー中で、NTPs2.5mM、RNAsin1U/μl、SP6ポリメラーゼ1U/μlと混和した。合計反応液量は250μlであり、37℃で6時間インキュベートした。翻訳反応を準備する前に、発現RNA全ての質をアガロースゲル電気泳動により分析した。
【0020】
本研究では、RNA合成と同様に、組み換えタンパク質も2つの規模で発現させた。
a)小規模
文献(Sawasaki等、2002年b、FEBS Lett、第514巻、102−105頁)に記載のプロトコルを用いて、96ウェルのU底プレート内に、バッチ反応を準備した。簡単に説明すると、反応は、基質混合物(クレアチンキナーゼ0.45mg/ml、RNasin 20U、Hepes/KOH pH7.8 24mM、KOAc 100mM、Mg(OAc) 2.7mM、スペルミジン0.4mM、DTT 2.5mM、ATP 1.2mM、GTP 0.25mM、クレアチンホスフェート16mM、NaN3 0.005%、及び、[14C]ロイシン(2μCi/ml)を含有する各アミノ酸 0.3mM)40μlを、各RNA2μl及びOD240(終濃度ではOD60)のコムギ胚芽抽出物8μlを含む翻訳混合物10μlに重層することで組み立てた。抽出物はCFSciences(日本、横浜)から購入した。しかし、他の同種の供給源を利用することもできる。プレートを、パラフィルムで覆い、26℃で16時間インキュベートした。
b)大規模
大規模量の組み換えタンパク質を、コムギ麦芽抽出物の製造元(即ち、CFSciences、日本、横浜)の推奨する一般的ガイドラインに従って合成した。各タンパク質の個別の必要量に応じて、可変数の反応を、平底6ウェルプレートを用いて準備した。各翻訳反応は、2種の混合物の二重層を含んでいる。下層は、転写RNAとコムギ胚芽抽出物とを合計で500μlを含み、上層は、透析バッファー5.5mlからなる。簡単に説明すると、下層の反応混合物は、RNA反応液250μl、クレアチンキナーゼ40mg/ml、及び、コムギ胚芽抽出物120OD/ml(WGE OD240、CFSciences、日本、横浜)を混和することで調整した。この下層混合物を、6ウェルプレートに移し、二重層の反応液を形成するために、慎重に、製造元(CFSciences、日本、横浜)の提供するSub−admixに重層した。プレートを、パラフィルムで覆い、室温で一晩翻訳を行った。
【0021】
(タンパク質の精製)
GSTタグ組み換えタンパク質は、文献(Tsuboi等、2008年、Infect.Immun.、第76巻、1702−1708頁)に記載の手順を用いて、アフィニティー精製した。翻訳反応の完了後、タンパク質を含有する混合物において、タバコエッチウィルスプロテアーゼ(AcTEV(登録商標)、Invitrogen、米国カリフォルニア州カールズバッド)20U及びDTT1mMでタンパク質を溶出させた後に、グルタチオンセファロース4B樹脂(GEヘルスケア、米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)に吸収させた。溶出させたタンパク質は、クマシー・ブルー又は銀染色により染色したSDS−PAGEにより確認した。精製したタンパク質の濃度は、ブラッドフォードタンパク質分析キット及び分光光度計の両方で決定し、μg/ml単位で示した。
【0022】
発現タンパク質を、さらに、インビトロ及びインビボの分析により解析した。インビトロ解析は、抗体ベースの及びT細胞媒介性のアッセイを含む。選択した遺伝子の解析は以下の方法論に基づいて行った。
【0023】
[実施例2:前赤血球段階遺伝子産物解析のアッセイ法]
(間接蛍光抗体アッセイ法(IFA))
全種のタンパク質で接種を行ったマウス及びウサギの両方から採取した血清について、スポロゾイト段階、4日齢及び6日齢赤血球外段階、並びに、無性及び有性赤血球段階のP.falciparumへの免疫応答性を試験した。スポロゾイト段階及び赤血球段階に対する血清の試験のためのIFAプロトコルは、Aguiar等、2001年、Vaccine、第20巻、275−280頁の記載に従った。
【0024】
肝臓段階の寄生虫は、2種の異なる方法で生育し試験した。第1の方法では、5×10HC04ヘパトサイト(Sattabongkot等、2006年、Am J Trop Med Hyg.、第74巻、708−715頁)に5×10P.falciparumスポロゾイトを感染させることによりインビトロで生育した肝臓段階を用いた。4〜6時間の短いインキュベーション期間の後、寄生虫は残して、細胞を洗い流し、2日、4日、又は、6日の間成長させた。感染させる前に、幹細胞をIFA法で試験し、製造元のプロトコルに従って細胞をリソトラッカー(登録商標)(Invtrogen、米国カリフォルニア州カールズバッド)で染色しアセトンで固定した。第2の方法では、この新規の方法を詳述している研究(Sacci等、2006年、Int J Parasitol.、第36巻、353−360頁)で報告されているとおり、キメラマウスで生育したP.falciparum感染肝臓段階寄生虫を用いた。
【0025】
簡単に説明すると、マウスに1.5×10P.falciparumスポロゾイトを感染させ、その肝臓を感染後3〜8日の間に採取し、低温切開片の作成に用いた。選んだ肝葉は、ティシュー・テック・O.C.T.(登録商標)コンパウンド(Miles Scientific、米国イリノイ州ネーパービル)に包埋後、イソペンタン/液体窒素槽で凍結した。Leica CM1900(登録商標)(Leica Microsystems、米国イリノイ州ディアフィールド)上で凍結切片(7μm)を薄切した後、無水メタノールで固定し、使用するまで−80℃で保存した。両方の感染肝細胞について、IFA法は、マウス及びウサギのポリクローナル抗体血清を1:100に1回希釈して用いて行った。ポジティブコントロールとして、抗熱ショックタンパク質70抗体を用いた。次に、IFA法を、FITCを結合した抗マウス又は抗ウサギIgGで細胞を培養し、その核をHoechst33258ペンタハイドレートで染色することで進めた。スライドを、抗退色性Vectashield(登録商標)(Vector Laporatories、米国カリフォルニア州バーリンゲーム)中に置き、共焦点顕微鏡法により可視化した。
【0026】
(免疫電子顕微鏡法)
Plasmodium抗原発現の電顕的局在を免疫電子顕微鏡法により調べた。簡単に説明すると、赤血球細胞に感染させたP.falciparum、及び、Anopheles stephensiに感染させた唾液腺P.falciparumを、1%のパラホルムアルデヒド及びグルタルアルデヒドを含むPBS中、室温、24時間、固定した。LR−White(登録商標)樹脂(Polyscience社、米国ペンシルベニア州ウォリントン)に埋め込んだ超薄切片を、切断しニッケル格子上に配置した。格子上の切片は、新鮮な飽和メタ過ヨウ素酸ナトリウムで5分間インキュベートした後、脱イオン水で3回洗い、エッチングした。格子は、自由アルデヒド基が一次抗体に結合しないように、0.1Mグリシンを含有するホスフェートバッファーで20分間クエンチした。格子は1%BSA、5%フィッシュゼラチンのPBS中で30分間インキュベートしてブロックした。
【0027】
格子を、湿潤環境中で一次抗体(希釈率1:50)とともに2時間インキュベートし、その後、0.1%Tween20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)を含有するPBS中で5回洗った。その後、格子を、10nmの金粒子を結合したヒツジ抗マウス又はウサギ抗体で30分間インキュベートした。格子を、上記のように洗浄した後、2%酢酸ウラニルで後染色し、水で洗った。
【0028】
切片を透過型電子顕微鏡で調べた。ネガティブコントロールは、未感染細胞、及び、非特異的で無関係の抗体を一次抗体として用いることを含む。
【0029】
(ウェスタンブロッティング)
組み換えタンパク質を、2種の方法を用いたウェスタンブロッティングで分析した。2種の方法を簡単にまとめると以下のとおりである。
a)ハイスループット発現用に、SDS−PAGEにより[C]ロイシンラベルタンパク質を3つの分画、全量2μlの翻訳反応液(T)、96ウェルプレートを遠心した後の2μlの上澄み(S)分画、そして、最後に、沈殿(P)をサンプルバッファーに再懸濁し分離した沈殿分画、に分離した。組み換えタンパク質は、画像分析器を用いてオートラジオグラフィーにより同定した。
b)精製した組み換えタンパク質を、通常のウェスタンブロットのプロトコルに従ってスクリーニングした。各タンパク質10μgを、予め成型しておいた4−20%勾配のSDSポリアクリルアミドゲル上で分離し、PVDF膜に電気移動させた。タンパク質又はヒト免疫血清で免疫付与したウサギ抗血清の1:500希釈物でウェスタンブロットした。2次抗体として、ペルオキシダーゼ結合ヒツジ抗ウサギ又はヒトIgG抗体を、1:10000の希釈率で用いた。次に、反応を、製造元の指示に従い、ELC−Plus(登録商標)(General Electric Healthcare、米国ニュージャージー州ピスカタウェイ)ウェスタンブロット検出システムを用いて進めた。
【0030】
(酵素免疫測定法(ELISA))
ISV接種ボランティアから採取したヒト血清を1:100の希釈率で試験し、抗原特異的反応性を、実施例1に記載したように小規模及び大規模の両方の方法で発現した組み換えタンパク質を用いたELISAにより測定した。ネガティブ(GST及びコムギ胚芽抽出物)及びポジティブ(CSP及びSSP2/Trap)コントロールのタンパク質も、同様の規模で発現させた。Immunolon II(登録商標)ELISAプレート(Dynatech Laboratory社、米国バージニア州シャンティイー)に2〜5μlの組み換えタンパク質及びコムギ胚芽抽出物を含有するPBSを塗布し、室温で一晩放置した。ウェルを、0.05%Tween20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)を含有するPBS(洗浄バッファー)で3回洗い、5%脱脂粉乳PBS溶液100μl(ブロッキングバッファー)で、4℃、2時間、ブロックした。3回の洗浄の後、ウェルを被験対象のヒト血清の1:100希釈物50μlで2時間インキュベートした。ウェルを、再び3回洗浄し、ペルオキシダーゼでラベルしたヒツジ抗ヒトIgG(KPL)で1時間インキュベートした。3回の洗浄後、ウェルを、ABTS基質[2,2’−アジノ−ジ−(3エチルベンゾチアゾリン スルホネート]及びHを含有する溶液100μlで20分間インキュベートした。呈色反応は、マイクロELISA自動読み取り機中OD410nmで測定した。ELISAデータは、被験対象の血清希釈物毎のOD読み取り値の平均として表した。これらのヒト血清中のスポロゾイト特異的抗体は、前述のとおり、間接蛍光抗体試験(IFAT)により評価した。結果は、終点希釈率(蛍光がポジティブであると記録された血清希釈率のうち最後のもの)で示した。
【0031】
(インターフェロンγELIspotアッセイ法)
マルチスクリーンMAIPS4510(登録商標)プレート(Millipore、米国マサチューセッツ州ビルリカ)に、抗ヒトINFγ mAb 1−D1K(Mabtech、米国オハイオ州シンシナティ、より購入)15μg/mlを含有する殺菌済みカーボネート/バイカーボネートバッファー100μg/ウェルを塗布し、4℃で一晩放置した。プレートを、25mMのHEPESバッファー及びL−グルタミン酸を含有するRPMI培地100μl/ウェルで5回洗浄した。
【0032】
プレートを、以下を1%含有するHR−10培地200μl/ウェルでブロックした;L−グルタミン酸200mM、PEN/Strep、MEM10mM、ヒトAB血清10%、及び、RPMI培地87%。プレートを、ブロッキング溶液で、4℃、24時間、インキュベートした。PBMC(20×10)を、37℃で解凍し、10%のFBS、1%の200mMのL−グルタミン酸、1%のPen/Strep、及び、88%のRPMIを含有する10mlのR−10培地に再懸濁した。この細胞を、1200rpm、25℃、10分で2回洗い、再び、10mlのR−10に投入し、1000rpm、25℃、10分で沈殿させた。細胞を、適当な用量のHR−10に再懸濁して、計数した。細胞懸濁液の容量はHR−10で嵩増し、37℃/5%COインキュベーターで一晩休ませた。回復率及び生存率を計算するために、細胞を再び計測した。プレートから、ブロック溶液を、RPMI培地で6回洗浄し、プレートを、刺激剤と細胞懸濁液が準備できるまで、室温で放置した。刺激剤は、HR−10で、至適濃度まで希釈した。細胞懸濁液は、HR−10で、至適濃度まで希釈した。IFN−γを塗布したウェル中に、まず、刺激剤100μl/ウェルを4箇所添加し、その後、細胞懸濁液100μl/ウェルを100000、200000、及び、400000細胞/ウェルの終濃度で添加した。刺激剤を含まないウェルはHR−10培地を含み、細胞懸濁液をバックグラウンドコントロールとして用いた。プレートを、37℃/5%COで36時間インキュベートし、その後、1×PBS+0.05%Tween20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)溶液で6回洗浄した。次に、ELIspotを、1μg/mlビオチニル化α−IFN−γ mAb 7−B6−1(Mabtech、米国オハイオ州シンシナティ、より購入)を添加し、室温で3時間インキュベートすることで進めた。プレートを、1×PBS+0.05%Tween20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)溶液で6回洗浄した。次に、1:1000ストレプトアビジン結合アルカリホスファターゼを100μl添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートを、1×PBS+0.05%Tween20(ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート)溶液で6回洗浄し、その後、1×PBS溶液で3回洗浄した。アルカリホスファターゼ標識を1:25の希釈率で添加し、室温で15分間インキュベートした。発色反応を、水でプレートを全体的に洗浄することで停止させた。乾燥させた後、AID(登録商標)ELIspotプレート読み取り機(Strassberg、ドイツ)を用いて、スポットを計数した。
【0033】
[実施例3:前赤血球段階P.falciparum遺伝子の免疫原性及び生活環での発現]
表1に、22種類の遺伝子の発現及び反応性の概要を示す。表1のタンパク質の重要な点は、これらがIVSを接種されたボランティアから採取したヒト抗体及び/又はT細胞により認識されるという点である。そこで、マラリアスポロゾイトに対する生来の免疫応答の範疇で認識されることから、これらのタンパク質はマラリアに対する免疫を付与する際に価値があるものと考えられる。
【0034】
表1の遺伝子の全ての発現タンパク質は、ISV接種ヒト血清を用いたELISA及び/又はウェスタンブロット分析により認識された。さらに、いくつかの抗原は、免疫T細胞によっても認識された。これは、ISV接種に用いられたマラリアスポロゾイトの自然構造内に新規の抗原が存在することを示している。さらに、こうした抗原は、人体に異物として認識されるため、予防的免疫応答を誘発する可能性がある。また、血清の反応性も、これらの抗原がボランティアでのマラリア感染に対する完全予防に関連することを示している。また、このことはさらに、これらの抗原が潜在的ワクチン候補抗原であることを示している。表1に示した遺伝子は、IFAにより、前赤血球(スポロゾイト及び肝臓)寄生段階で発現することを確認済みである。また、電子顕微鏡法(EM)により、抗原の細胞内局在も調べた。
【0035】
クローン配列から発現した表1のP.falciparumタンパク質は、ISVを接種されたボランティアから採取したヒト抗体及び/又はT細胞により認識された。このように、これらの新規タンパク質は、マラリアスポロゾイトに対する生来の免疫応答の範疇で認識される。そこで、これらのタンパク質はマラリアに対する免疫において重要であるものと考えられる。
【0036】
【表1】

【0037】
[実施例4:P.yoeliiオルソログ遺伝子による免疫原性予防]
表1に列記したP.falciparum遺伝子にオルソロガスなP.yoelii遺伝子について、マウスを攻撃接種から予防する能力を評価した。予防効果研究のため、CD1マウスに、前脛骨筋での筋肉注射で、100μlのワクチン(各脚で50μl)を注射した。DNAワクチンベクターは、1×リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で調整し、ワクチン接種に適した濃度まで1×PBSで希釈した。ワクシニアワクチンベクターは、1mM Tris(9.0)で調整し、ワクチン接種に適した濃度まで1×PBSで希釈した。マウスへの攻撃接種は300匹のP.yoelii(17XNL)スポロゾイトを尾の血管に静脈注射することで行った。スポロゾイトは、感染蚊の唾液腺から手作業で摘出し、攻撃接種のために5%の正常マウス血清を含有するM199培地で希釈した。
【0038】
1番目の研究では、各群14匹のマウスを、0日目に100μgのDNA−P.yoeliiワクチンベクターで初回刺激し、40日目に同じP.yoeliiインサートを含むワクシニア−P.yoeliiワクチンベクター5×10プラーク形成単位(pfu)で追加刺激した。PY03011、PY03424、及び、PY03661を発現するベクターの組み合わせで免疫付与したマウスは、合計で300μgのDNA−P.yoeliiベクターで初回刺激され、合計で1.5×10pfuのワクシニア−P.yoeliiベクターで追加刺激されたこととなる。50日目に、マウスから採血し、血清を準備した。54日目に、300匹のP.yoeliiスポロゾイトでマウスに攻撃接種を行った。61〜68日目に、ギムザ染色した血液スメアにより可視化することで寄生虫血症を評価した。寄生虫がいずれかのサンプルで観察された場合、マウスをポジティブであるとみなした。攻撃接種の重症度を測るため、4群のネイティブなCD1マウスに100,33.3,11.1,又は,3.7匹のP.yoeliiスポロゾイトで攻撃接種を行った。こうした伝染性をコントロールしたマウスの結果から、300匹のP.yoeliiスポロゾイトを注射したマウスは、ID50投与量の7倍に相当する投与量で攻撃接種を受けたことが分かった。
【0039】
P.yoelii遺伝子を、上記のように、DNA及びオルソポックスウィルス内でクローニングした。DNAワクチンを作るために、P.yoeliiオルソログ遺伝子をプラスミドにクローニングした。P.yoeliiオルソログを発現するポックスウイルス及びアデノウィルスベクターも作成した。DNA、ポックスウイルス、及び、アデノウィルスに基づくワクチンコンストラクトを、初回−追加免疫スケジュールに従って、マウスにP.yoeliiスポロゾイトを攻撃接種して予防率を評価することで、試験した。
【0040】
2番目の研究では、各群14匹のマウスを、0日目に100μgのDNA−P.yoeliiワクチンベクター及び30μgのマウス顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(mGM−CSF)を発現するDNAベクターで初回刺激し、42日にワクシニア−P.yoeliiワクチンベクター3.3×10で追加刺激した。2種又は3種のDNA−P.yoeliiベクターで免疫付与したマウスは、それぞれ、合計で200又は300μgのDNA−P.yoeliiベクター及び30μgのDNA−mGM−CSFベクターで初回刺激され、合計で6.6×10pfu又は1×10pfuのワクシニア−P.yoeliiベクターで追加刺激されたこととなる。ネガティブコントロールマウスの異なる3群には、P.yoelii抗原を発現しないDNA及びワクシニアベクターを3種の異なる投与量で接種した。第1群は、100μgの『空』DNAベクター及び30μgのDNA−mGM−CSFベクターにより初回刺激し、3.3×10pfuの『空』ワクシニアベクターで追加刺激した。第2群は、200μgの『空』DNAベクター及び30μgのDNA−mGM−CSFベクターにより初回刺激し、6.6×10pfuの『空』ワクシニアベクターで追加刺激した。第3の群は、300μgの『空』DNAベクター及び30μgのDNA−mGM−CSFベクターにより初回刺激し、1×10pfuの『空』ワクシニアベクターで追加刺激した。52日目に、マウスから採血し、血清を準備した。57日目に、300匹のP.yoeliiスポロゾイトでマウスに攻撃接種を行った。64〜71日目に、ギムザ染色した血液スメアにより可視化することで寄生虫血症を評価した。寄生虫がいずれかのサンプルで観察された場合、マウスをポジティブであるとみなした。攻撃接種の重症度を測るため、4群のネイティブなマウスに100,33.3,11.1,又は,3.7匹のP.yoeliiスポロゾイトで攻撃接種を行った。こうした伝染性をコントロールしたマウスの結果から、300匹のP.yoeliiスポロゾイトを注射したマウスは、ID50投与量の13.6倍に相当する投与量で攻撃接種を受けたことが分かった。
【0041】
上記2つの予防効果研究の投与スケジュールが若干異なることに注意すべきである。例えば、各ワクシニア−P.yoeliiベクターの投与量は、予防効果研究1(5×10pfu)のほうが予防効果研究2(3.3×10pfu)よりも若干高かった。結果として、三重ワクチンの合計投与量は、予防効果研究1では1.5×10pfuであり、予防効果研究2では1×10pfuであった。さらに、予防効果研究2では、DNAベクターは、DNA−mGM−CSFプラスミドと混合された。これまでの研究では、DNA−PyCSPベクターをDNA−gGM−CSFプラスミドと同時投与することで、DNA−ワクシニアの初回−追加投与スケジュールの免疫原性及び効き目を増強できることが示されてきていたが、予防効果研究1と比べて予防効果研究2では、DNA−mGM−CSFプラスミドは、PyCSP又は三重P.yoeliiワクチンの効き目を増強するようには見えなかった。
【0042】
表1及び図1(パネルA)に示すように、PY03011又はPY03661を発現するベクターを接種した14匹のマウスはいずれも無菌的感染予防を示さなかった(即ち、予防率0%)。さらに、PY03424を接種した14匹のマウスのうち2匹で感染が予防された(即ち、14%)。しかし、3種の抗原全て(即ち、PY03011、PY03424及びPY03661)を用いると、57%の予防率が観察された。これは、PyCSPで観察されたものより大きかった。
【0043】
図1(パネルB)の第2の研究の結果は、さらに、P.yoeliiポリペプチドの相加的予防効果を確かにするものである。表1及び図1(パネルB)に示すように、PY03661を発現するベクターを接種したマウスはいずれも感染が予防されず、PY03011又はPY03424を発現するベクターを接種した14匹のマウスのうち1匹のみで感染が予防された(予防率7%)。しかし、PY03011及びPY03424を接種した14匹のマウスのうち6匹で感染が予防され(即ち、43%)、PY03424及びPY03661を接種した14匹のマウスのうち3匹で感染が予防され(即ち、予防率21%)、そして、3種類のP.yoelii抗原全てを接種した14匹のマウスのうち6匹で感染が予防された(即ち、予防率43%)。この研究において、PY03011及びPY03424により惹起された予防率は、統計的に有為であった(PY03011/PY03424(dose=2X)対ネイティブコントロール(dose=2X)、p=0.0159)。これまでの研究同様に、PY03011及びPY03424の組合せ又は3種の抗原全ての組合せにより惹起される予防率は、PyCSPにより惹起される予防率よりも大きかった(即ち、43%対14%)。
【0044】
別の研究として、図2に示すように、CD1マウス14匹に、再び、DNA/アデノウィルス初回−追加免疫スケジュールを用いて、接種を行った。この研究では、PY3011又はPY3424を単独で用いた場合に大きな反応が観察された。実際、PY3424への応答はPYCSPについて観察されていた応答と同程度であった。3番目の抗原であるPY4748では、14匹のマウスのうち1匹のみで感染が予防される結果となった。興味深いことに、CD1マウスに接種するために3種の抗原全て(即ち、PY3011、PY3424及びPY4748)を用いると、感染予防効果が観察されなかった。この結果の原因は明らかではない。
【0045】
この研究の結果は、P.yoeliiに対する免疫を付与するにあたっての、P.yoeliiタンパク質の潜在的価値を示している。興味深いことに、複数のタンパク質の相加的効果は、しばしば、単一のタンパク質のみを接種したマウスから予測される効果を上回るものであった。例えば、図1のパネルAにおいて、PY03011又はPY03661は感染予防効果を示さなかった。同様に、PY03424の接種はわずか14%の予防率を示すのみであった。しかし、これらの遺伝子を組み合わせて接種した場合、3種類すべてを同時に投与したため投与量が嵩増されてはいるものの、PyCPSよりも高い予防率が示された。
【0046】
こうした分析から、これらにオルソロガスなP.falciparum遺伝子は、マラリアに対する免疫を誘導するための組成物に含まれるべき重要な候補であるものと考えられる。表1に、P.falciparumのオルソログを列記した。上記のマウスの予防効果研究で試験したP.yoelii遺伝子産物の全てについて、P.falciparumのオルソログは、免疫ヒト血清及び/又はT細胞のいずれかとポジティブに反応した。表2に、DNA及びタンパク質配列のまとめを示す。
【0047】
【表2】

【0048】
[実施例5:P.yoeliiにオルソロガスなP.falciparumの免疫認識]
P.yoeliiの感染予防データから、オルソロガスなP.falciparum遺伝子を同定し、さらに、それらの細胞性免疫を付与する能力を評価した。図3に示すのは、PY3424に対するP.falciparumオルソログPF106をT細胞応答誘導のための抗原として利用した場合の結果を、ELISpotアッセイ法におけるPBMCでのIFN−γ誘導能により明らかにしたものである。結果はスポット形成細胞(SPC)/100万で示した。
【0049】
図3では、『プール』は、10merずつ重複しながら、PF106タンパク質全長を網羅する、15merのペプチド群を示す。さらに、HLAクラスI特異的15merペプチドプールを開発し抗原としても用いた。HLAクラスI特異的プールは、特定のHLAクラスI対立遺伝子のHLAクラスI結合モチーフをそれぞれ備える12〜15種のペプチドを含む。表3に、PBMCのHLA遺伝子型を示す。全てのボランティアにISVを接種したが、そのうち幾人かが予防的免疫応答を示した。こうした研究の結果を図3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
図3に示すように、ペプチドプールは、概ね、接種後のボランティアから採取したPBMCにおいて、接種前のPBMCと比較して、顕著なT細胞応答を誘導した。数名の個体、例えば、GB21、DF0030から採取した接種後のPBMCは、比較的高いIFN−γ誘導を示した。実際に、ボランティアGB21は、マラリアに対する予防的免疫応答を示した。さらに、HLAクラスI結合モチーフを含むペプチド抗原は、概ね、顕著なIFN−γ誘導を示した。興味深いことに、全体で最大のIFN−γ誘導を示したGB21から採取したPBMCは、A11HLAプールを抗原として用いたときに、15merのプールで観察されたのと同程度のIFN−γSPCの水準を示した。このことは、FP106が、抗P.falciparumエピトープを含んでいるのみならず、いくつかのエピトープがマラリアに対する免疫に重要であり得ることを示唆している。さらに、PF106の領域は、HLA拘束性に働き、クラスI T細胞免疫を誘導する。
【0052】
PF106に加えて、他のP.falciparumタンパク質も、HLAクラスI特異的IFN−γ誘導をもたらすIFN−γELISpotアッセイ法の抗原として利用した。これらのタンパク質は、PF61、PF56、PF121、及び、PF144を含む。こうした研究の結果を図3〜7に示す。さらに、表1に結果をまとめた。表2に、DNA及びタンパク質の配列番号をまとめた。
【0053】
PF144により惹起されたT細胞応答は特に顕著であった。図7に示すように、PF144に暴露された4ヒトから採取したPBMCは、高いIFN−γ分泌細胞水準を示した。注意すべき点は、4人のうち3人がこれまでにマラリアに対する予防的免疫応答を惹起することが示されていることから、感染予防におけるこのタンパク質の重要性が示唆される点である。さらに、クラスI対立遺伝子に対するHLA結合モチーフを含むペプチドは、IFN−γ応答を誘導し、場合によっては、例えば、GB21、WW58、及び、DF30などの場合は、15merのペプチドからなるプールを用いた場合に観察されるのと同等又はさらに多くのIFN−γ応答を誘導した。
【0054】
PF144がマラリアに対する免疫付与において重要なT細胞エピトープを含んでいることからさらに発想を広げ、B7に関連するモチーフを含むポリペプチドのIFN−γ誘導能をさらに詳しく分析した。図8に示すように、WW58から採取したPBMCにおいて、ペプチドプールに対するIFN−γ応答を分析した。図8から分かるように、A2及びA3プールを用いた結果は、図7に示した結果と一致した。しかし、B7プールを抗原として用いた場合、特に、B7結合モチーフを含むペプチド、LRHFFSILLKSLVIが、免疫PBMCにおいて高いIFN−γ応答を誘導した。このことは、BF144に対するクラスI T細胞免疫におけるB7対立遺伝子の潜在的重要性を示唆している。
【0055】
図1〜8のデータは、タンパク質抗原であるPF106,61,56,121及び144が、P.falciparumマラリアに対する予防効果を付与するために重要なエピトープを含んでいることを強く示唆している。さらに、これらのタンパク質は、特定のHLAクラスIエピトープ結合モチーフを含む抗原に対するT細胞応答を誘導する能力を有することから分かるように、クラスI特異的応答を誘導する能力を有している。
【0056】
[実施例6:発現系への組み込み]
この実施例は、表2の抗原の1つ以上又は該抗原をコードする核酸をワクチン製剤に組み込むことによる、新規抗原をコードする組み換え遺伝子の理論的な使用例を例示する。表2の抗原の免疫原性断片又は抗原の誘導体を代わりに利用することもできる。抗原はDNAワクチンの成分として発現することもできるしその他のプラットフォーム系の成分として発現することもできると考えられる。考えられる発現系の例としては、これらに限定されるものではないが、複製性のベクターあるいは非複製性のベクターを含むウィルス系などが挙げられる。考えられるウィルスベクターの例としては、アデノウィルス、アルファウィルス、ポックスウイルス、サイトメガロウィルス、イヌジステンパーウィルス、及び、黄熱病ウィルスが挙げられる。抗原は、単一又は複数プロモーターに由来する単一抗原又は複数抗原発現システムのいずれかであるDNA又はその他のワクチン発現系のインサートとして組み込むことができる。
【0057】
考えられる発明として、ヒトを含む哺乳類において免疫応答を誘導する方法が挙げられる。この実施例では、抗原は、ポリペプチドとして、又は、DNAあるいはウィルス系などの核酸発現系に組み込まれて、1回又は複数回投与される。また、この方法は、初回−追加免疫スケジュールを用いた免疫応答誘導を意図するものである。この実施形態では、1回以上の初回免疫付与の後に、1回以上の追加免疫付与を行うことになるだろう。
【0058】
初回及び追加免疫付与は、配列番号2,4,6,8,10,12あるいは14、又は、これらの免疫原性誘導体のアミノ酸配列を含む1種又は複数種のマラリアポリペプチドを含有する組成物からなる。免疫原性誘導体は、代わりに、ポリペプチドを発現することのできる発現系から構成することもできる。この実施形態では、配列番号1,3,5,7,9,11又は11の核酸配列を有している上記のポリペプチドをコードする核酸分子を、DNAプラスミド又はウィルス発現ベクターに挿入することもできる。ウィルス発現ベクター系の例としては、アルファウィルス(及びアルファウィルスレプリコン)、アデノウィルス、ポックスウイルス、アデノ随伴ウィルス、サイトメガロウィルス、イヌジステンパーウィルス、黄熱病ウィルス、及び、レトロウィルスなどが挙げられる。
【0059】
考えられる方法としては、初回免疫付与は、DNAプラスミド発現ベクター又はアデノウィルスから発現されたマラリアペプチドからなり、追加免疫付与は、アデノウィルス、初回免疫付与のアデノウィルスとは異種のアデノウィルス、ポックスウイルス、又は、1種以上のマラリアポリペプチドのいずれかから発現されたマラリアペプチドを含む方法が挙げられる。マラリアポリペプチドは、配列番号2,4,6,8,10,12あるいは14、又は、これらの免疫原性誘導体のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。
【0060】
引用した全ての引用文献、例えば、刊行物、特許出願及び特許を、参照により本明細書に取り込む。
【0061】
以上本発明について記載してきたが、当業者であれば、上記の教示に従って、添付の請求項において、本願発明の種々の修正例及び変形例が可能であることを理解できるであろう。従って、添付の請求項の範囲において、本発明を、本明細書に具体的に記載した方法以外の方法で実践することができるものと理解すべきである。
【0062】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2009年11月5日に出願された米国特許仮出願第61/272,809号の利益を主張するものである。当該仮出願を参照して本願明細書に取り込む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の単離ポリペプチド及び薬理学的に許容可能な担体からなり、
前記単離ポリペプチドは、配列番号2,4,6,8,10,12及び14、並びに、それらの免疫原性誘導体からなる群より選択されるアミノ酸配列を備えることを特徴とする免疫原性組成物。
【請求項2】
1種以上のポリペプチドをコードする1種以上の単離核酸分子からなり、
前記ポリペプチドは、配列番号1,3,5,7,9,11及び13からなる群より選択される核酸配列によりコードされていることを特徴とする免疫原性組成物。
【請求項3】
前記ポリペプチドはHLAクラスIエピトープを含む、請求項1に記載の免疫原性組成物。
【請求項4】
前記核酸配列はHLAクラスIエピトープをコードする1種以上の領域を含む、請求項2に記載の免疫原性組成物。
【請求項5】
前記核酸配列及び前記ポリペプチドは、DNAプラスミド又はウィルス発現系により、挿入及び発現され、
このとき、前記ウィルス発現系は、複製性又は非複製性である、
請求項2に記載の免疫原性組成物。
【請求項6】
前記ウィルス発現系は、アルファウィルスレプリコン、アデノウィルス、ポックスウイルス、アデノ随伴ウィルス、サイトメガロウィルス、イヌジステンパーウィルス、黄熱病ウィルス、及び、レトロウィルスからなる群より選択される、請求項5に記載の免疫原性組成物。
【請求項7】
単離マラリアポリペプチドをコードしており、適切な発現ベクターに挿入されている1種以上の単離核酸分子からなる組成物を哺乳動物に投与することを含み、
前記単離核酸分子は請求項2に記載されたものであることを特徴とする哺乳動物においてマラリアに対する免疫応答を誘導する方法。
【請求項8】
前記適切な発現ベクターは、DNAプラスミド、あるいは、複製性又は非複製性ウィルスベクターである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記単離核酸分子のエンコードはHLAクラスIエピトープを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
1回以上の初回免疫付与及び1回以上の追加免疫付与をさらに含む方法であって、
前記初回免疫付与は、請求項1に記載の1種以上のマラリアポリペプチドからなり、又は、適切な発現ベクターに挿入された請求項2に記載の1種以上の前記単離核酸分子からなる組成物からなり、
前記追加免疫付与は、請求項1に記載のマラリアペプチドからなり、又は、適切な発現ベクターに挿入された請求項2に記載の1種以上の単離核酸分子からなる組成物からなる、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記適切な発現ベクターは、DNAプラスミド、アルファウィルスレプリコン、アデノウィルス、ポックスウイルス、アデノ随伴ウィルス、サイトメガロウィルス、イヌジステンパーウィルス、黄熱病ウィルス、及び、レトロウィルスからなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記適切な発現ベクターは、DNAプラスミド、アルファウィルスレプリコン、アデノウィルス、ポックスウイルス、アデノ随伴ウィルス、サイトメガロウィルス、イヌジステンパーウィルス、黄熱病ウィルス、及び、レトロウィルスからなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記初回免疫付与のベクターはアルファウィルスベクターであり、且つ、前記追加免疫付与のベクターは非アルファウィルスベクターである、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記初回免疫付与は、DNAプラスミド又はアデノウィルスである発現ベクターからなり、
前記追加免疫付与は、アデノウィルス、前記初回アデノウィルスとは異種のアデノウィルス、ポックスウイルス、及び、請求項1に記載のアミノ酸配列を有するポリペプチドからなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
アルファウィルスレプリコンのプリパレーションは、RNAレプリコン、DNAレプリコン、及び、アルファウィルスレプリコン粒子からなる群より選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記アルファウィルスは、ベネズエラ馬脳炎ウィルス、セムリキ森林ウィルス、及び、シンドビスウィルスからなる群より選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記非アルファウィルスのウィルス発現系は、ポックスウイルス、アデノウィルス、アデノ随伴ウィルス、及び、レトロウィルスからなる群より選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記ポックスウイルスは、牛痘、カナリア痘、ワクシニア、改変ワクシニアアンカラ、又は、鶏痘からなる群より選択される、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−502417(P2013−502417A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525536(P2012−525536)
【出願日】平成22年11月3日(2010.11.3)
【国際出願番号】PCT/US2010/002886
【国際公開番号】WO2011/056216
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(507386139)アメリカ合衆国 (6)
【Fターム(参考)】