説明

RE123超電導薄膜線材の製造方法およびRE123超電導薄膜線材

【課題】 BaCeOの発生を抑え、高臨界電流値を有するRE123超電導薄膜線材の製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】 原料を基材に塗布して前駆体線材を形成する前駆体形成工程と前記前駆体線材を熱処理し、RE123超電導薄膜を形成する薄膜形成工程を備え、前記前駆体形成工程において、前記塗布する際の雰囲気に含まれる水蒸気量が13.6g/m以下(露点16℃以下)であることを特徴とするRE123超電導薄膜線材の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RE123超電導薄膜線材の製造方法および超電導薄膜線材に関し、詳しくは、高い臨界電流値を有するRE123超電導薄膜線材の製造方法、および前記製造方法により得られる高い臨界電流値を有する超電導薄膜線材に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、酸化物超電導材料を用いた超電導線材のひとつとしてRE123超電導薄膜線材がある。RE123超電導薄膜線材とは、NiあるいはNi合金からなる金属基板上に、CeO等からなる中間層が形成され、その中間層上に気相法あるいは液相法で超電導層が形成された超電導線材である。ここで使用される酸化物超電導材料は、REBaCu(xは7に近い数:以下RE123とする)の化学式で表わされる酸化物超電導材料であり、RE(Rare Earth:レアアース)の部分にはY、Ho、Nd、Sm、Dy、Eu、La、Tm、Gd等の希土類元素の一つかあるいは、その混合体が配される。RE123超電導薄膜を用いた超電導線材の一層の普及のため、臨界電流密度(Jc)や臨界電流値(Ic)をより高めたRE123超電導薄膜線材の研究が行われている。
【0003】
高い臨界電流値を有するRE123超電導薄膜線材を得るためには、純度の高いRE123相を形成する必要がある。中間層にCeOを用いる場合、RE123超電導の成分であるBaとCeが超電導薄膜を形成する熱処理工程で不要な不純物(BaCeO)を形成することが問題となっている。
【0004】
特許文献1においては、BaCeOの発生を抑えるために、熱処理時の温度と酸素雰囲気を制御し、一旦YbBaCuを形成させ、それに熱処理を加えYbBaCu7−yに変態させる方法を採用している。
【特許文献1】特開2003−327496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の方法ではREとしてYbを含むことが必須であり、その他のRE123超電導薄膜には適用できない。また、その熱処理方法が複雑であり、工程が長くなりコスト高となる。
【0006】
そこで、本発明は、RE123超電導薄膜線材の製造方法として、Ybを含まないRE123超電導薄膜線材であっても、簡便にBaCeOの発生を抑えることができる、つまりは高臨界電流値を有するRE123超電導薄膜線材の製造方法を提供し、また高臨界電流値を有するRE123超電導薄膜線材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のRE123超電導薄膜線材の製造方法は、原料を基材に塗布して前駆体線材を形成する前駆体形成工程と前記前駆体線材を熱処理し、RE123超電導薄膜を形成する薄膜形成工程を備え、前記前駆体形成工程において、前記塗布する際の雰囲気に含まれる水蒸気量が13.6g/m以下(露点16℃以下)であることを特徴とする。
【0008】
本発明では、原料を基材に塗布しそれを熱処理し、超電導層を形成する塗布熱分解法(以下、「MOD法」とも言う)を採用する。本発明者は塗布する原料に水分が含まれているとBaCeOが発生しやすいことを発見した。また発明者は、通常塗布する前の原料は水分が混入しないように保管されているため、水分が混入する機会は原料を塗布する工程であることもつきとめた。そこで塗布する際の周りの雰囲気に含まれる水蒸気量が13.6g/m以下(露点16℃以下)であれば、塗布された原料に水分を混入させることがほとんど無い。それによってBaCeOの発生を抑え、高い臨界電流値を持つRE123超電導薄膜線材が得られる。
【0009】
本発明において、薄膜形成工程時の熱処理を700℃以上、750℃以下で行うことが好ましい。このような温度範囲で熱処理を行えば、さらにBaCeOの発生を抑えることができる。
【0010】
本発明において、薄膜形成工程時の熱処理を酸素濃度10ppm以上、25ppm以下の雰囲気で行うことが好ましい。前記の温度範囲でさらにこのような酸素濃度で熱処理を行えば、より確実にBaCeOの発生を抑えることができる。
【0011】
本発明のRE123超電導薄膜線材は、上記の製造方法により製造される。これにより、高い臨界電流値をもつRE123超電導薄膜線材が得られる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、熱処理時、超電導薄膜線材中にBaCeOの発生を抑制することが可能となり、ひいては高い臨界電流値を有するRE123超電導薄膜線材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明をその最良の実施の形態に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0014】
(RE123超電導薄膜線材の構成)
図1は、本発明の対象であるRE123超電導薄膜線材の構成を模式的に示す部分断面斜視図である。図1を参照して、代表的なRE123超電導薄膜線材の例について説明する。RE123超電導薄膜線材10は、配向金属基板11と、配向金属基板11上に形成された中間層12と、中間層12上に形成された超電導薄膜層13と、超電導薄膜層13を保護するための安定化層14と、全体を保護し導電性をあげるための保護層15、16からなる。基本構成としては、配向金属基板11、中間層12、超電導層13からなり、安定化層14、保護層15、16は用途に応じてオプションとして設けられる。
【0015】
配向金属基板11としては、例えばNi配向基板、Ni合金系の配向基板等を採用できる。中間層12は、CeOおよびこれに加えYSZ(イットリウム安定化ジルコニア)等の酸化物から構成される。超電導薄膜層13としては例えばYBaCu(xは7に近い数)などの、RE123系超電導材料が選択される。安定化層14と保護層15、16としては、Ag(銀)やCu(銅)が用いられる。
【0016】
(RE123超電導薄膜線材の作製)
まず、ベース材料として、Ni合金等の配向金属基板を準備する。この配向金属基板上に物理蒸着法等を用いて、CeOおよびYSZ等からなる中間層を積層する。この積層体を基材とする。基材の構成としては、例えばCeO/YSZ/CeO/Ni合金が好ましい。この基材上に、RE、Ba、Cu各元素の、例えばフッ素フリーであるアセチルアセトナート錯体を、RE:Ba:Cuのモル比が1:2:3となるように調整して、溶媒に溶解した原料溶液とする。塗布前の原料溶液にはほとんど水分は含まれておらず、さらに原料溶液は水分が混入しないよう密閉容器に保管しておく。
【0017】
この原料を超電導層が形成された際の厚さが0.2−1.0μmとなるよう塗布する。この塗布する際の環境が重要である。原料溶液を基材に塗布後、溶媒を揮発させるために10分程度環境雰囲気下で乾燥させる。この塗布工程および乾燥工程において、原料が環境下の水分を吸収しやすい。そこで、塗布環境雰囲気に含まれる水蒸気量を制御する。本発明者は後述する試験結果から、塗布環境雰囲気に含まれる水蒸気量が13.6g/m以下(露点16℃以下)であれば好適であることを見いだした。雰囲気の水蒸気量制御はエアコン等で部屋ごと行ってもよいし、塗布する空間のみ行ってもよい。いずれにせよ塗布、乾燥工程を露点16℃以下の環境で行えればよい。この溶液塗布体に対し、完全な溶媒除去のための仮焼を施す。仮焼は、大気雰囲気で400−500℃、1−2時間程度の条件で行う。
【0018】
仮焼された溶液塗布体に中間熱処理を施してもよい。これは仮焼中生成した炭酸塩が超電導層の成長を阻害するため、続く本焼の前に、予め生成した炭酸塩を分解除去するために行われるものである。この中間熱処理は、酸素濃度が100ppm程度の雰囲気下、温度600−700℃、時間1−3時間の条件で行われる。ここまでで得られた物を前駆体線材とする。
【0019】
続いて、上で得られた前駆体線材に対し、超電導薄膜形成のために熱処理(本焼)を施す。この本焼により、塗布された原料が目的とするRE123超電導相へと変態する。この工程後得られるものがRE123超電導薄膜線材である。本焼は、酸素濃度が10ppmから25ppmの雰囲気下、温度700−750℃、時間1−2時間の条件で行われる。このRE123超電導薄膜線材に以下の酸素導入処理を施してもよい。
【0020】
(酸素導入処理)
酸素導入熱処理は、酸素濃度が超電導薄膜形成工程(本焼)より高い(例えば、500ppm)雰囲気下、温度500−600℃、時間30−120分の条件で行う。
【実施例】
【0021】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお以下の実施例および比較例においては、RE123超電導薄膜の形成にはMOD法の内でも有害なHF等を発生するおそれがないフッ素フリーのMOD法を用いた。
【0022】
基材として、幅1cmのCeO/YSZ/CeO/Ni合金の基板を用い、この基材上に、Y、Ba、Cuの各アセチルアセトナート錯体を、Y:Ba:Cuのモル比が1:2:3となるように調整して溶媒に溶解した。いくつか露点が異なる環境で、その溶液を基材に塗布し、10分の乾燥処理を施した。厚さとしては超電導層形成後の厚さが0.3μmとなるよう塗布した。これら試料を大気雰囲気の下で20℃/分の昇温速度で500℃まで昇温して、2時間保持後炉冷し仮焼熱処理を施した。
【0023】
ついでアルゴン/酸素混合ガス(酸素濃度:100ppm、CO濃度:1ppm以下)雰囲気の下、20℃/分の昇温速度で680℃まで昇温し、180分保持して中間熱処理を施した。
【0024】
中間熱処理の後、アルゴン/酸素混合ガス(酸素濃度:20ppm、CO濃度:1ppm以下)雰囲気の下、20℃/分の昇温速度で750℃まで昇温し、90分保持して本焼熱処理を施し、塗布した原料を超電導体に変態させ複数のY123超電導薄膜線材を得た。これらに酸素導入熱処理を施した。条件は酸素濃度500ppmの雰囲気下、温度550℃、時間120分である。
【0025】
上記で得られた試料の臨界電流値(Ic)を温度77K、自己磁場下で測定した。また、XRDによりBaCeOの発生状況を観測した。その結果を表1、図2、図3に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
まず塗布時の露点とBaCeOの発生関係についての結果を記す。図2は露点と超電導薄膜線材中に発生したBaCeOの関係を表す図である。BaCeOピーク強度とは、XRD回折パターン中に現れる(400)ピークのピーク強度である。このピーク強度が大きいほど、BaCeOが多量に発生していることになる。
【0028】
図2から超電導線材中のBaCeOの発生状況雰囲気に含まれる水蒸気量が多いほど(露点が高いほど)発生しやすくなることが分かる。露点14℃以下で塗布した場合、BaCeOの発生はほぼゼロであった。
【0029】
次にBaCeOの発生と臨界電流値関係の結果を記す。図3はBaCeOピーク強度と臨界電流値の関係を表す図である。図3から分かるように、BaCeOピーク強度が60程度以下の試料(図3中、○で表される試料1、2、3)では臨界電流値が100A以上と高い。BaCeOピーク強度が60を超えると急激に臨界電流値が小さくなる。つまりBaCeOピーク強度を60以下(発生を少なくする)とするためには、図2から分かるように露点16℃以下(水蒸気量が13.6g/m以下)の環境で塗布工程を行えばよいと言える。
【0030】
次に本焼温度の影響を調査した。上記試料2(露点15.1℃で塗布)において、本焼の温度を変えて熱処理を施した。本焼の温度以外の作製条件は試料2と同じである。これらに関し、上記と同様の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
表2から本焼温度が750℃の以下の場合、BaCeOピーク強度が40以下と小さく、BaCeOの発生が抑えられると言える。しかしながら、本焼温度が700℃未満であると、超電導層の形成が不十分となり臨界電流値が低下する。よって本焼温度は700℃から750℃の範囲が好ましいと言える。
【0033】
次に本焼における酸素濃度の影響を調査した。上記試料2(露点15.1℃で塗布)において、本焼の酸素濃度を変えて熱処理を施した。本焼の酸素濃度以外の作製条件は試料2と同じである。これらに関し、上記と同様の評価を行った。その結果を表3に示す。
【0034】
【表3】

【0035】
表3から本焼における酸素濃度が25ppm以下の場合、BaCeOピーク強度が50以下と小さく、BaCeOの発生が抑えられると言える。しかしながら、本焼における酸素濃度が10ppm未満であると、超電導層の形成が不十分となり臨界電流値が低下する。よって本焼における酸素濃度は10ppmから25ppmの範囲が好ましいと言える。
【0036】
今回開示された実施の形態および実施例は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】RE123超電導薄膜線材の構成を模式的に示す部分断面斜視図である。
【図2】露点と超電導薄膜線材中に発生したBaCeOの関係を表す図である。
【図3】BaCeOピーク強度と臨界電流値の関係を表す図である。
【符号の説明】
【0038】
10 RE123超電導薄膜線材
11 配向金属基板
12 中間層
13 超電導薄膜層
14 安定化層
15 16 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RE123超電導薄膜線材の製造方法であって、
原料を基材に塗布して前駆体線材を形成する前駆体形成工程と
前記前駆体線材を熱処理し、RE123超電導薄膜を形成する薄膜形成工程を備え、
前記前駆体形成工程において、前記塗布する際の雰囲気に含まれる水蒸気量が13.6g/m以下(露点16℃以下)であることを特徴とするRE123超電導薄膜線材の製造方法。
【請求項2】
前記薄膜形成工程において、前記熱処理を700℃以上、750℃以下で行うことを特徴とする請求項1に記載のRE123超電導薄膜線材の製造方法。
【請求項3】
前記薄膜形成工程において、前記熱処理を酸素濃度10ppm以上、25ppm以下の雰囲気で行うことを特徴とする請求項2に記載のRE123超電導薄膜線材の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載のRE123超電導薄膜線材の製造方法により製造された、RE123超電導薄膜線材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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