説明

RFID用リーダライタ

【課題】アンテナ部とRFIDタグとの位置関係を正しく認識する。
【解決手段】定められた経路を移動するRFIDタグ10とアンテナ部2との位置関係を認識するために、交信制御装置3において、タグ10と交信していない状態下での搬送波の強度、および特定のコマンドに対するタグ10からの応答信号の受信レベルの強度を計測し、各計測値を、内部メモリに登録された複数の基準値と照合する。メモリには、タグを起動するのに適した送信レベルを表す基準値と、交信に適した受信レベルの範囲を表す基準値とが登録されており、送信レベルが基準値を満たすが受信レベルが交信に適した範囲より低い場合には、アンテナ部2とリーダライタ10とが離れすぎていると認識する。また、送信レベルがその基準値を下回る場合、または受信レベルが2つの基準値が示す範囲を上回る場合には、アンテナ部2とタグ10とが接近しすぎていると認識する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体メモリを内蔵するRFID(Radio Frequency Identification)タグ(以下、単に「タグ」という場合もある。)と非接触の交信を行って、タグからの情報の読み出しやタグへの情報の書き込み処理を行う装置(以下、「リーダライタ」という。)に関する。
【背景技術】
【0002】
RFID用のリーダライタは、アンテナ部からの搬送波によって交信対象のRFIDタグに誘導起電力を発生させ、その電力により起動したタグとの交信により、タグに対する情報の読み書き処理を実行するもので、アンテナ部と制御部とが同じ筐体内に収容された一体型タイプと、制御部を含むコントローラとアンテナ部とに分離したタイプとがある。
【0003】
従来のRFID用のリーダライタやRFIDタグでは、それぞれの共振周波数をアンテナ部から送出される搬送波の周波数に合わせることにより、アンテナ部から十分な強度の搬送波が送出され、それによりタグに動作に必要な電力が発生するようにしている。さらに、RFIDタグからリーダライタに十分な強度の応答信号が返送されるように、あらかじめ試験的な交信を行って両者の位置関係を調整する。
【0004】
上記の調整に関して、たとえば、特許文献1には、試験的な交信によりRFIDタグから受信した信号の強度を所定の基準値と照合したり、試験的な交信の成功率を基準値と照合することによって、リーダライタとタグとの間の距離の適否を判定することが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2007−65977号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、タグから受信する信号のレベルは、アンテナ部とタグとの距離が大きくなるほど低下するものとして、アンテナ部とタグとの距離を特定している(段落0029〜0031,図6参照)が、実際には、タグがアンテナ部の遠方にある場合のみならず、タグがアンテナ部に接近しすぎた場合にも、受信信号のレベルが低下する。
【0007】
たとえば、13.56MHzのキャリア信号により搬送波を生成するリーダライタでは、共振周波数を13.56MHz付近に設定することにより、図8(1)に示すように、13.56MHzの搬送波の振幅が他の周波数による振幅より大きくなるようにする。しかし、アンテナ部とタグとが接近しすぎると、双方のアンテナコイルの結合が強まって共振周波数が変動するため、図8(2)に示すように、13.56MHzの搬送波の振幅のレベルは大幅に低下する。この現象に伴い、RFIDタグに生じる電力も小さくなり、RFIDタグからの応答信号のレベルも低下することになる。
【0008】
また、アンテナ部からは、正面に広がる交信領域のほか、その両側にも小さな交信領域が生じるため、アンテナ部とRFIDタグとを近づけすぎると、これらの交信領域の谷間をタグが移動して、その間、交信が中断される可能性がある。
【0009】
したがって、交信を安定させるには、タグの移動経路からある程度離れた位置にアンテナ部を設置する必要があるが、一般ユーザは、アンテナ部にタグを近づけるほど受信感度が高くなると誤解していることが多く、両者が接近しすぎたために交信が不安定になっている場合でも、両者をより接近させるような対応をとることがある。このため、アンテナ部の設定位置の調整作業に時間がかかる上に、アンテナ部の位置が交信に適した場所に設定されないまま、本格的な使用に移行するおそれもある。
【0010】
この発明は上記の点に着目し、アンテナ部から送信される搬送波の強度と、タグから受信した信号の強度の双方をチェックすることによって、アンテナ部とRFIDタグとの位置関係を正しく認識することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、この発明によるRFID用のリーダライタは、アンテナ部から送出される搬送波の強度を送信レベルとして検出する送信レベル検出手段と、アンテナ部がRFIDタグから受信した応答信号の強度を受信レベルとして検出する受信レベル検出手段と、送信レベルにつき1つの基準値を、受信レベルにつき所定の数値範囲を表す2つの基準値を、それぞれ登録するための登録手段と、RFIDタグと交信していない状態下で送信レベル検出手段により検出された送信レベルと、所定のコマンドの送信後に受信レベル検出手段により検出された受信レベルとを、それぞれ登録手段に登録された基準値と照合することによって、アンテナ部とRFIDタグとの位置関係を認識する位置関係認識手段と、位置関係認識手段による認識結果を出力する出力手段とを具備する。
【0012】
さらに位置関係認識手段は、上記の送信レベルがその基準値に達し、かつ受信レベルが2つの基準値が表す数値範囲に含まれる場合には、アンテナ部とRFIDタグとが交信に適した位置関係にあると認識し、送信レベルがその基準値に達している一方で受信レベルが2つの基準値表す数値範囲より低い場合には、アンテナ部とRFIDタグとが交信に適した状態より離れていると認識し、送信レベルがその基準値を下回る場合、または受信レベルが2つの基準値が表す数値範囲を上回る場合には、アンテナ部とRFIDタグとが交信に適した状態より接近していると認識する。
【0013】
上記のリーダライタによれば、アンテナ部から送出される搬送波について、RFIDタグに誘導起電力を生じさせるのに必要な強度を基準値として登録し、応答信号の受信強度について、安定した交信を実施できる範囲を表す2つの基準値を登録し、実際に計測した送信レベルおよび受信レベルを各基準値と照合することによって、アンテナ部とタグとの位置関係が、(1)交信に適した状態、(2)交信に適した状態より離れている状態、(3)交信に適した状態より接近している状態、の3通りのいずれに相当するかを認識することができる。
【0014】
上記のリーダライタの好ましい態様では、登録手段には、前記受信レベルについて、上記の2つの基準値より小さい第3の基準値と、2つの基準値の間に位置する第4の基準値とがさらに登録される。また位置関係認識手段は、送信レベルがその基準値に達し、かつ受信レベルが第3の基準値を下回る場合には、アンテナ部とRFIDタグとが離れすぎて交信が不可能な状態にあると認識する。また、送信レベルがその基準値より低く、受信レベルが第4の基準値より低い場合には、アンテナ部とRFIDタグとが接近しすぎて交信が不可能な状態にあると認識する。
【0015】
上記の態様によれば、上記した(2)(3)の状態について、さらに交信が不可能になる場合の位置関係を特定することが可能になる。
【0016】
他の好ましい態様では、登録手段には、回路の特性が異なる複数種のアンテナ部とRFIDタグとの組み合わせについて、送信レベルおよび受信レベルの各基準値がそれぞれ個別に登録される。また、位置認識手段は、アンテナ部およびRFIDタグの種別を示すデータの入力を受け付けて、これらの入力データに対応するアンテナ部およびRFIDタグの組み合わせにつき登録手段に登録された基準値を用いて認識処理を実行する。
【0017】
上記の態様によれば、登録された基準値の中からアンテナ部および交信対象のRFIDタグに適したものを選択することによって、アンテナ部とRFIDタグとの位置関係を精度良く認識し、適切な調整を行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0018】
上記のRFID用のリーダライタによれば、アンテナ部とタグとが交信に適した位置関係にある状態と、アンテナ部とタグとが交信に適した状態より離れている状態と、アンテナ部とタグとが交信に適した状態より接近している状態とを、精度良く認識することが可能になる。よって、アンテナ部とタグの位置関係を容易に調整して安定した交信を行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、工場の生産ラインに導入されたRFIDシステムの例を示す。
この実施例のRFIDシステムは、複数のRFIDタグ10、リーダライタ1、および図示しない上位機器(パーソナルコンピュータまたはプログラマブル・ロジック・コントローラ)により構成される。各RFIDタグ10は、それぞれワークWを支持するパレットPに取り付けられており、リーダライタ1は、RFIDタグ10がパレットPおよびワークWと共にコンベアC上を移動する間に、タグ10に対する情報の読み書き処理を実行する。
【0020】
リーダライタ1は、回路特性の異なる複数機種の中から選択されたアンテナ部2と、各機種に共通する交信制御装置3とを、ケーブル30により接続した構成のものである。この実施例の交信制御装置3には、交信対象のタグ10とアンテナ部2との位置関係を認識するための機能が設けられ、アンテナ部2の筐体の上面には、位置関係の認識結果を報知するためのランプ21が設けられている。このランプ21には、光源として、赤色、緑色、黄色の各光をそれぞれ発するLED(図示せず。)が組み込まれており、後記するように、点灯する色彩光や点灯の状態によって異なる内容の報知が行われる。
【0021】
上記の認識機能は、システムの導入時に、タグ10の移動経路に対してアンテナ部2の設置位置を定める場合に使用される。また、システムの導入後も、交信対象のタグ10が変更された場合に、アンテナ部2の設置場所を変更する必要があるかどうかを確認する目的で使用することができる。
【0022】
図2は、上記のリーダライタ1の電気的構成を示す。
アンテナ部2には、アンテナコイル20およびインピーダンスの整合処理のためのZ変換回路22が含まれる。さらにここには図示していないが、アンテナ部2には、報知用のランプ21のLEDの配線回路も組み込まれる。
【0023】
交信制御装置3には、送信回路4、受信回路5、制御部6が設けられる。さらに交信制御装置3には、アンテナ部2とタグ10との位置関係を認識してランプ21による報知を行うための構成として、電圧検出回路61、第2の検波回路62、切替回路63、A/D変換回路64、ランプ制御回路65が設けられている。
【0024】
制御部6には、CPU,ROM,RAMのほか、キャリア信号となる高周波パルスを出力する発振回路や、図示しない上位機器と通信をするための通信用インターフェースが含まれる。また制御部6には、送受信回路4,5のほか、プログラムや後記する照合テーブルなどが格納されたメモリ7、設定用のスイッチ8、表示部9、A/D変換回路64、ランプ制御回路65などが接続される。また、ランプ制御回路65は、アンテナ部2側のLEDの配線回路に接続されている。
【0025】
送信回路4は、ドライブ回路41、変調回路42、乗算回路43、増幅回路45、増幅回路を挟む一対のZ変換回路44,46などにより構成される。受信回路5は、バンドパスフィルタ(BPF)回路51、検波回路52、ローパスフィルタ(LPF)回路53、増幅回路54、コンパレータ55などにより構成される。
【0026】
上記構成において、制御部6は、13.56MHzのキャリア信号を出力しながら、適宜、所定ビット数のコマンド信号を出力する。キャリア信号は、ドライブ回路41により搬送波に変換された後に、Z変換回路44,46によるインピーダンスの整合処理や増幅回路45による増幅処理を経て、アンテナ部2に供給され、アンテナコイル20から電磁波として送出される。また変調回路42および乗算回路43がコマンド信号に基づき搬送波を振幅変調することによって、コマンド信号が搬送波に重畳される。
【0027】
上記の動作によりアンテナコイル20から搬送波が送出されると、この搬送波により交信領域内のRFIDタグ10に誘導起電力が生じ、タグ10側の制御部が起動する。この状態下でアンテナコイル20からコマンド信号が重畳された搬送波が送信されると、タグ10の制御部は、コマンド信号が表すコマンドを解読して指示された処理を実行した後に、所定の応答データを表す信号(応答信号)を生成し、リーダライタ1に返送する。
【0028】
受信回路5では、バンドパスフィルタ回路51によりノイズを除去した後に、検波回路52により応答信号を含む搬送波を抽出する。さらに、ローパスフィルタ回路53により搬送波からタグ10の応答信号を抽出し、これを増幅回路54で増幅した後に、コンパレータ55により矩形信号に変換する。制御部6は、コンパレータ55から入力された信号を用いてタグ10の応答内容を解読し、この解読データを含む交信結果データを上位機器に送信する。
【0029】
電圧検出回路61は、送信回路4の最終段のZ変換回路46とアンテナ部22側のZ変換回路22との間の電圧を検出することによって、アンテナ部2から送信される搬送波の電圧レベルの変化を表す信号を出力する。第2の検波回路62は、コンパレータ55に入力されるのと同一の応答信号の入力を受け、図3に示すように、応答信号の各ピークの電圧レベルの変化を表す信号(包絡線信号)を生成する。
【0030】
切替回路63は、制御部6からの指示に応じて、電圧検出回路61および検波回路62のいずれか一方がA/D変換回路64に接続されるように、各回路61,62の接続状態を切り替える。A/D変換回路64でディジタル変換された信号は制御部6に入力される。
【0031】
制御部6は、電圧検出回路61および検波回路62をそれぞれ所定のタイミングでA/D変換回路64に接続し、A/D変換回路64から入力された信号が示す電圧値を用いて搬送波および応答信号の強度を計測する。具体的には、搬送波の強度については、RFIDタグ10との交信が行われていない期間、すなわちコマンドの送信や応答信号の受信が行われていない期間の信号を対象に、一定時間内の振幅の平均値を算出する。また、応答信号の強度については、特定のコマンド(たとえばタグ10の識別コードを読み出すためのコマンド)に対する応答信号を対象に、タグ10側のインピーダンスの変化により生じた振幅の大きな部分のピーク電圧の平均値を算出する。
【0032】
以下、搬送波の振幅の平均値を送信レベルと呼び、受信した応答信号の振幅の平均値を受信レベルと呼ぶ。
メモリ7には、上記の送信レベルおよび受信レベルを照合するためのテーブル(以下、照合テーブル」という。)が登録されている。制御部6は、この照合用テーブルの各基準値により送信レベルおよび受信レベルの計測値を照合することによって、アンテナ部2とタグ10との位置関係を認識し、その認識結果に基づきランプ制御回路65にランプ21の点灯動作を制御させる。この処理の詳細については後記する。
【0033】
図4は、この実施例のランプ21により実施される報知態様を示す。この図に示すように、この実施例では、5通りの報知態様を実行できるようにしている。
【0034】
報知態様1は、緑色光を点灯することによって、アンテナ部2が交信に適した場所に設置されて交信が安定している旨を報知する。これに対し、報知態様2は、赤色光を点灯することによって、アンテナ部2がタグ10の移動経路から離れすぎて交信が不可能になっていることを報知し、報知態様3は、黄色光を点灯することによって、アンテナ部2がタグ10の移動経路に接近しすぎて交信が不可能になっていることを報知する。
【0035】
報知態様4は、緑色光と赤色光とによる点滅表示を行うことによって、アンテナ部2が交信に適した位置より遠くに配置されたために交信が不安定になっていることを報知する。また報知態様5は、緑色光と黄色光とによる点滅表示を行うことによって、アンテナ部2が交信に適した位置より近くに配置されたために交信が不安定になっていることを報知する。
【0036】
上記5とおりの報知によれば、ユーザは、タグ10の移動経路に対し、アンテナ部2がどのような位置関係にあるかを認識することができる。また報知態様1以外の態様による報知が行われた場合には、アンテナ部2をどのように移動させれば良いかを容易に判断して、アンテナ部2の位置を調整することができる。
【0037】
図5は、アンテナ部2およびその交信領域を上方から見た模式図である。
ここでいう交信領域とは、アンテナ部2からの搬送波によりタグ10に所定レベル以上の電力を発生させることができる領域であって、アンテナコイル20の特性により、アンテナ部2の正面に広がる領域100のほかに、アンテナ部2の両側にも、所定広さの交信領域101,102が発生する。ただし、アンテナ部2の直近の斜線パターンで示す領域103にタグ10が入った場合には、アンテナ部2とタグ10との結合が強められて両者の共振周波数が大きく変動するため、搬送波の送信レベルが大幅に低下し、交信が殆ど不可能な状態になる。
【0038】
図5では、アンテナ部2をタグ10の移動経路に対向配備して、正面の交信領域100を横切るタグ10と交信することを前提に、交信が可能なRFIDタグ10の移動経路の範囲を、アンテナ部2の前面に平行な直線Lfarおよび直線Lnearにより表し、この範囲内で受信レベルが最大になる位置を、直線Lxにより表している。また、直線Lfar,Lnearの間にある2本の直線L1,L2により、タグ10との交信に適した範囲を表している(直線L1−L2間が交信に適した範囲である。)。また図5では、各直線L1,L2,Lfar,Lnear.Lxとアンテナ部2との距離を、それぞれA1,A2,Afar,Anear,Axとする。
【0039】
図6は、前出の電圧検出回路61からの出力により求めた搬送波の送信レベルVsと、検波回路62からの出力により求めた応答信号の受信レベルVrとについて、アンテナ部2とタグ10との距離の変化に対する特性をグラフ化したものである。なお、このグラフは、アンテナ部2の真正面にタグ10を配置して、両者間の距離を変化させながら実際の送信レベルおよび受信レベルを計測することにより作成されたもので、横軸には、図5に示した直線L1,L2,Lfar,Lnearに対応する距離A1,A2,Afar,Anearが示されている。
【0040】
以下、図5,6を参照しながら、アンテナ部2とタグ10との間の距離と送受信レベルとの関係について説明する。
この実施例のリーダライタ1やタグ10の回路は、制御部6からのキャリア信号の周波数(13.56MHz)の付近が共振周波数となるように設計されている。したがって、アンテナ部2とタグ10とをある程度の距離を隔てて配置すれば、両者の共振周波数は13.56MHz付近で維持されて、RFIDタグ10を起動させるのに十分な強度の搬送波を生成することができる。図6では、この十分な強度に相当する送信レベルをVs0としている。
【0041】
上記によれば、アンテナ部2とタグ10との距離がAx以上になれば、搬送波の送信レベルはVs0以上となる。ただし、実際にタグ10に届く搬送波の強度は、タグ10がアンテナ部2から遠ざかるほど減衰するため、タグ10からアンテナ部2に返送される応答信号のレベルも、タグ10がアンテナ部2から遠ざかるほど小さくなる。また、アンテナ部2とタグ10との距離がAxより小さくなると、両者の電磁結合の影響により、13.56MHzの共振周波数を維持できなくなるため、搬送波の送信レベルVsが低下し、これに伴い、タグ10からの応答信号のレベルも低下する。よって、応答信号の受信レベルVrは、アンテナ部2とタグ10との間の距離がAxのときの値Vxをピークとして変動する。
【0042】
つぎに、図6のV1は、ノイズの影響を受けずに応答データを復号することが可能な受信レベルの最小値(以下、「安全レベル」という。)に相当する。交信に適した範囲の最後方を表す直線L1は、この安全レベルV1の応答信号を受信するときのタグ10の位置に相当する。
【0043】
一方、交信に適した範囲の最前方を表す直線L2は、両側の交信領域101,102に入らないように、受信レベルが最大になる位置(直線Lx)より後方に設定される。図6によれば、タグ10の移動経路が直線L2より前方に設定された場合でも、直線LxからLnearまでの範囲であれば、安全レベルV1を大幅に上回る強度の応答信号を得ることができる。しかしながら、図5によれば、この場合のタグ10の移動経路は、交信領域100のみならず、両側の交信領域101,102や領域間の谷間の部分を通過するので、交信がいったん開始された後に中断されるなど、交信が不安定になる可能性がある。また、直線Lxより前方の場所では、搬送波の送信レベルが基準値Vsより低くなるので、安定した交信に必要な電力をタグに誘起できず、それが原因で交信に失敗する可能性がある。直線L2の設定位置は、これらの点を考慮して定められたものである。
なお、アンテナ部2やタグ10の特性によっては、受信レベルVrがピークになる地点Lxに直線L2を設定できる場合もある。
【0044】
上記したように、アンテナ部2とタグ10との距離がAxより小さくなる範囲では、その距離が小さくなるほど、送信レベルVsおよび受信レベルVrが減少する。さらに直線Lnearより前方の範囲には、搬送波の送信レベルVsは、タグ10を起動させるのに必要なレベルを確保できない状態になり、交信はほぼ不可能になる。
【0045】
タグ10の移動経路が直線L1から直線Lfarまでの範囲に設定された場合には、交信は可能であるが、受信レベルVrが安全レベルV1より低くなるため、ノイズが発生すると交信に失敗する可能性がある。よって、この範囲でも、交信が不安定になる。また、タグ10の移動経路が直線Lfarより遠方に設定された場合には、タグ10に起動に必要な強度の搬送波を届けることができず、交信はほぼ不可能になる。
【0046】
この実施例のリーダライタ1では、電圧検出回路61および検波回路62からの出力を用いて、実際の搬送波の送信レベルVsおよび応答信号の受信レベルVrを計測し、これらの計測値が図6に示した特性曲線のどの位置に対応するかによって、アンテナ部2とタグ10との位置関係を認識し、報知用のランプ21の動作を制御するようにしている。具体的には、上記の直線L1,L2,Lfar,Lnearに対応する各受信レベルV1,V2,Vfar,Vnearと搬送波の望ましい送信レベルVs0とを、それぞれ基準値として格納したテーブルが、前出の照合テーブルとしてメモリ7に登録されており、この照合テーブルを用いてつぎの図7に示す処理が実行される。
受信レベルにつき登録される基準値のうち、V1,V2は、安定した交信が行われているときの受信レベルの数値範囲を表すもので、「課題を解決するための手段」に記載した「所定の数値範囲を表す2つの基準値」に相当する。また、Vfarは、2つの基準値より小さい第3の基準値に相当し、Vnearは、2つの基準値の間に位置する第4の基準値に相当する。
【0047】
つぎに、メモリ8には、回路特性の異なる複数種のアンテナ部2とタグ10とを個別に組み合わせて、これらの組み合わせ毎に上記の照合テーブルが個別に登録されている。アンテナ部2とタグ10との位置関係を認識する際には、これらの中から、交信制御装置3に接続されているアンテナ部2と交信対象のタグ10との組み合わせに応じた照合テーブルが選択される。いずれの照合テーブルも、実際のタグ10をアンテナ部2の正面に配置し、両者間の距離を変更しながら送受信レベルを計測することにより作成されたもので、メモリ7内にデフォルトデータとして登録されている。また、適宜、上位機器から新しい照合テーブルを送信して登録したり、照合テーブルの内容を更新することもできる。
【0048】
上記の構成によれば、交信制御装置3に接続されるアンテナ部2の種類や交信対象のタグ10の種類に応じた基準値を用いて、アンテナ部2とタグ10との位置関係を正しく認識することが可能になる。また、アンテナ部2またはタグ10が変更される場合にも、容易に対応することが可能になる。
【0049】
以下、図7の各ステップ符号を参照しながら、リーダライタ1により実行される一連の処理の流れを説明する。
【0050】
この処理は、スイッチ8または上位機器などでユーザの確認操作が行われたことに応じて開始される。まず最初のステップ(ST1)では、上位機器からアンテナ部2やタグ10の種別を示すコード入力を受け付けるなどの方法によって、アンテナ部2およびRFIDタグ10の種別を取得する。そして、これらの取得データから、アンテナ部2およびRFIDタグ10の組み合わせに対応する照合テーブルを特定する。
【0051】
つぎに、タグ10との交信が行われていないことを条件に、電圧検出回路61をA/D変換回路64に接続し、所定期間内に入力された電圧信号を用いて搬送波の送信レベルVsを計測する(ST2)。
【0052】
上記の計測が終了すると、タグ10に特定のコマンドを送信するとともに、A/D変換変換回路64の接続を検波回路62に切り替える。そして、コマンドに対するタグ10からの応答信号を受信している間に入力された電圧信号を用いて、応答信号の受信レベルVrを計測する(ST3)。
【0053】
つぎに、ST1で取得した照合テーブルから各基準値Vs0,V1,V2,Vfar,Vnearを読み出す(ST4)。そして、以下、ST2,3で得た計測値Vs,Vrを各基準値と照合することによって、アンテナ部2とタグ10との位置関係を認識し、その認識結果に応じた報知態様を実行する。
【0054】
具体的には、まず送信レベルVsを基準値Vs0と比較し(ST5)、Vs≧Vs0であれば、受信レベルVrを基準値Vfar,V1,V2と比較する(ST6,7,8)。また、Vs<Vs0であれば、受信レベルVrを基準値Vnearと比較する(ST12)。
【0055】
図6によれば、タグ10に対しアンテナ部2が交信に適した距離を隔てて設置されている場合には、送信レベルVsは基準値Vs0以上となり、受信レベルVrはV1≦Vr≦V2となる。よって、この場合には、ST5,6,7,8の判定がいずれも「YES」となり、報知態様1を実行する(ST9)。
【0056】
アンテナ部2がタグ10から離れすぎて交信が不可能になった場合(タグ10が直線Lfarより後方にある場合)には、送信レベルVsは基準値Vs0以上となるが、受信レベルVrは基準値Vfarより低くなる。よって、この場合には、ST5の判定が「YES」、ST6の判定が「NO」となり、報知態様2を実行する(ST11)。
【0057】
タグ10との交信は可能であるが、アンテナ部2が交信に適した状態より遠くに設置されている場合(タグ10が直線L1から直線Lfarまでの範囲にある場合)には、送信レベルVsが基準値Vs0以上で、受信レベルVrがVfar≦Vr<V1となる。よって、この場合には、ST5,6の判定が「YES」、ST7の判定が「NO」となり、報知態様4を実行する(ST10)。
【0058】
タグ10との交信は可能であるが、アンテナ部2が交信に適した状態よりタグ10に接近している場合(タグ10が直線Lnearから直線L2までの範囲にある場合)には、送信レベルVsが基準値Vs0以上で、受信レベルVrが基準値V2より大きくなる場合と、送信レベルVsが基準値VS0より低く、受信レベルVrが基準値Vnear以上になる場合とがある。前者の場合には、ST5,6,7の判定が「YES」、ST8の判定が「NO」となり、後者の場合には、ST5の判定が「NO」,ST12の判定が「YES」となり、いずれの場合にも報知態様5を実行する(ST13)。
【0059】
さらにアンテナ部2が交信が不可能になるほどタグ10に接近した場合(タグ10が直線Lnearより前方にある場合)には、送信レベルVsが基準値Vs0より低くなり、また受信レベルVrが基準値Vnearより低い状態となる。この場合には、ST5およびST12の判定がそれぞれ「NO」となり、報知態様3を実行する(ST14)。
【0060】
上記によれば、タグ10がアンテナ部2の正面に位置するようにして試験的な交信を行うことにより、アンテナ部2とタグ10との位置関係が認識され、その認識結果に応じた報知態様が実施されることになる。よって、ユーザは、実施された報知の態様からアンテナ部2とタグ10との位置関係を容易に把握し、報知態様1以外の報知が実施されている場合には、アンテナ部2の位置を適切に調整する処理を容易に行って、報知の内容を報知態様1に変更することができる。
【0061】
なお、上記の認識処理では、受信レベルVrについて、図5に示した4本の直線L1,L2,Lfar,Lnearに対応する受信レベルV1,V2,Vfar,Vnearをそれぞれ基準値として登録したが、直線Lnearについては、搬送波の送信レベルの値を基準値として登録してもよい。
【0062】
また受信レベルの第1、第2の基準値V1,V2を定めるにあたっては、あらかじめこれらの基準値が表す数値範囲の幅に相当する数値を定めて登録しておき、受信レベルが最大値Vxになる位置Lxや両側の交信領域101,102との関係に基づき、数値範囲の下限値を表す基準値V2を定めた後に、この基準値V2に上記の幅長さを加算する方法により、もう一方の基準値V1を特定してもよい。また、基準値LfarやLnearについても、他の基準値のレベルに所定の幅を表す数値を加算または減算する演算により、該当する数値を求めるようにしてもよい。
【0063】
また、交信の可否を判断する必要がなければ、受信レベルについては直線L1,L2に対応する受信レベルV1,V2のみを基準値として登録すればよい。この場合にも、送信レベルVsが基準値Vs0以上となり、受信レベルVrがV1≦Vr≦V2の条件を満たすことをもって、アンテナ部2とタグ10とが交信に適した位置関係にあると判断することができる。また、VsがVs0以上であり,VrがV1より小さくなったことをもって、アンテナ部2とタグ10とが交信に適した状態より離れていると判断することができ、送信レベルVsがVs0より小さくなった状態をもって、アンテナ部2とタグ10とが交信に適した状態より接近していると判断することができる。さらに、送信レベルVsがVs0以上で、受信レベルVrがV2より大きくなった場合にも、アンテナ部2とタグ10とが交信に適した状態より接近していると判断することができる。
【0064】
上記によれば、交信の可否を判断することは困難であるが、アンテナ部2とタグ10とが交信に適した位置関係にある状態、両者が離れすぎている状態、両者が接近しすぎている状態の3通りを、精度良く認識し、その認識結果を3通りの報知態様により報知することができる。よって、ユーザは、タグ10の移動経路に対するアンテナ部2の位置合わせを容易に行うことができる。
【0065】
なお、アンテナ部2とタグ10との位置関係の報知については、上記のランプ21によるものに限らず、交信制御装置3の表示部9に認識内容を表すコードまたはメッセージを表示してもよい。また、上位機器に、位置関係の認識結果を示すデータを送信することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】生産現場に導入されたRFIDシステムの例を示す図である。
【図2】リーダライタ1の全体構成を表すブロック図である。
【図3】RFIDタグ10から受信した応答信号のレベルを検出する処理の内容を説明する図である。
【図4】アンテナ部2とRFIDタグ10との位置関係の認識結果に関する報知態様の内容を表すテーブルである。
【図5】アンテナ部2の交信領域、および移動するタグ10との交信が可能な範囲、ならびに交信に適した範囲を示す図である。
【図6】搬送波の送信レベルおよび応答信号の受信レベルについて、アンテナ部2とタグ10との距離の変化に伴う特性をグラフとして表した図である。
【図7】アンテナ部2とタグ10との位置関係を認識する処理に関するフローチャートである。
【図8】共振周波数の変動が搬送波の強度に及ぼす影響をグラフにより説明した図である。
【符号の説明】
【0067】
1 リーダライタ
2 アンテナ部
3 交信制御装置
4 送信回路
5 受信回路
6 制御部
10 RFIDタグ
61 電圧検出回路
62 検波回路
65 ランプ制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定周波数の搬送波をアンテナ部より送出し、この搬送波により起動したRFIDタグにコマンドを送信する処理と、コマンドに対するRFIDタグからの応答信号を受け付ける処理とを所定サイクル実行することによって、当該RFIDタグに対する情報の読み書き処理を実行する装置であって、
前記アンテナ部から送出される搬送波の強度を送信レベルとして検出する送信レベル検出手段と、
前記アンテナ部がRFIDタグから受信した応答信号の強度を受信レベルとして検出する受信レベル検出手段と、
前記送信レベルにつき1つの基準値を、受信レベルにつき所定の数値範囲を表す2つの基準値を、それぞれ登録するための登録手段と、
RFIDタグと交信していない状態下で前記送信レベル検出手段により検出された送信レベルと、所定のコマンドの送信後に受信レベル検出手段により検出された受信レベルとを、それぞれ前記登録手段に登録された基準値と照合することによって、アンテナ部とRFIDタグとの位置関係を認識する位置関係認識手段と、
前記位置関係認識手段による認識結果を出力する出力手段とを具備し、
前記位置関係認識手段は、前記送信レベルがその基準値に達し、かつ受信レベルが前記2つの基準値が表す数値範囲に含まれる場合には、アンテナ部とRFIDタグとが交信に適した位置関係にあると認識し、送信レベルがその基準値に達している一方で受信レベルが2つの基準値が表す数値範囲より低い場合には、アンテナ部とRFIDタグとが交信に適した状態より離れていると認識し、送信レベルがその基準値を下回る場合、または受信レベルが2つの基準値が表す数値範囲を上回る場合には、アンテナ部とRFIDタグとが交信に適した状態より接近していると認識する、RFID用リーダライタ。
【請求項2】
前記登録手段には、前記受信レベルについて、前記2つの基準値より小さい第3の基準値と、2つの基準値の間に位置する第4の基準値とがさらに登録されており、
前記位置関係認識手段は、前記送信レベルがその基準値に達し、かつ前記受信レベルが第3の基準値を下回る場合には、アンテナ部とRFIDタグとが離れすぎて交信が不可能な状態にあると認識し、前記送信レベルがその基準値より低く、受信レベルが前記第4の基準値より低い場合には、アンテナ部とRFIDタグとが接近しすぎて交信が不可能な状態にあると認識する、
請求項1に記載されたRFID用リーダライタ。
【請求項3】
前記登録手段には、回路の特性が異なる複数種のアンテナ部とRFIDタグとの組み合わせについて、前記送信レベルおよび受信レベルの各基準値がそれぞれ個別に登録され、
前記位置認識手段は、アンテナ部およびRFIDタグの種別を示すデータの入力を受け付けて、これらの入力データに対応するアンテナ部およびRFIDタグの組み合わせにつき前記登録手段に登録された基準値を用いて前記認識処理を実行する、請求項1または2に記載されたRFID用リーダライタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−39858(P2010−39858A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203369(P2008−203369)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】