説明

RH脱ガス下部槽

【課題】中ノ島を構成する耐火物の浮き上がりをより効果的に抑えることが可能なRH脱ガス下部槽を提供する。
【解決手段】敷部用耐火物3は、中ノ島用耐火物3B、中ノ島用耐火物3Bに連続して配置されて配列する配列用耐火物3C、側壁用耐火物5と少なくとも一部が上下で重なる位置に配置される連結用耐火物3Dを有する。配列用耐火物3Cに連続して配置される連結用耐火物3Dは、側壁用耐火物5から上記配列用耐火物3Cに向けて並ぶ2つ以上の力伝達用耐火物3Daからなる。力伝達用耐火物3Da間の少なくとも一カ所における力伝達用耐火物3Da間の対向面は、上部が下部よりも底部内側に位置するように傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火物の内張構造に特徴があるRH脱ガス下部槽に関する。
【背景技術】
【0002】
RH脱ガス下部槽の内張構造としては、例えば特許文献1に記載の構造がある。この特許文献1には、図7に示すように、2本の環流管60に挟まれた中ノ島を構成する耐火物61が、下広がりの逆ジャックアーチ構造であり且つ環流管羽口の一部を構成する構造が開示されている。
そして、上記構造を採用することで、中ノ島を構成する耐火物61の浮き上がりを抑える。
【0003】
また、特許文献2には、図6に示すように、環流孔51を2箇所備えた真空槽50の敷部の内張りにおいて、環流孔51同士の間に位置する内張り煉瓦列を敷部の中央線に沿って一方向に傾斜して積み付けると共に、環流管煉瓦52の上方外周面53に環流孔の上方に向かって先絞りのテーパーを設け、且つ上記環流孔51同士の間に位置する煉瓦54の側面を上記環流管煉瓦52の上方外周面のテーパーに見合う角度をもって上広がりとする、構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-107742号公報
【特許文献2】特開2000-160231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、耐火物の熱膨張の際に、中ノ島を構成する耐火物61は、隣接する敷部用耐火物62aから下向きの力が伝達されることで、当該中ノ島を構成する耐火物61の浮き上がりを防止している。しかしこのとき、敷部用耐火物62aには、中ノ島を構成する耐火物61から上向きの力が伝達されることになる。また敷部の耐火物には、溶湯との比重差により浮力が働く。
このため、上記の従来構造では、中ノ島を構成する耐火物61に対し、敷部用耐火物62aが上方に変位するおそれがある。そして、敷部用耐火物62aが上方に変位してしまうと、中ノ島を構成する耐火物も浮き上がるおそれがあるという課題がある。
【0006】
また、特許文献2によって、環流管煉瓦52の浮き上がり防止は可能であると思われる。しかし、特許文献2では、壁煉瓦55からの上下荷重によって、その下方位置する敷き煉瓦を押圧して押さえるだけの構造となっている。ここで、中ノ島を構成する煉瓦を、敷き煉瓦の熱膨張による横方向への力によって拘束を行う必要があるが、敷き煉瓦の外周部には不定形耐火物などが存在し、上記膨張の吸収代として働くため、敷き煉瓦だけの膨張量では上記拘束力としては不足するおそれがある。この結果、特許文献2に記載の敷き煉瓦の傾斜や特許文献2に開示される壁煉瓦構造による敷き煉瓦の押圧のみでは、目地開きが発生する。そして、目地開きによって、敷き煉瓦の剥離・浮き上がりおよび損耗が大きくなり、耐用の低下や補修材使用量の増加といった問題が発生するおそれがある。
本発明は、上記のような点に着目したもので、中ノ島を構成する耐火物の浮き上がりをより効果的に抑えることが可能なRH脱ガス下部槽を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、2本の環流管を有する底部が複数の敷部用耐火物で内張されていると共に、側壁内面が複数の側壁用耐火物で内張されているRH脱ガス下部槽において、
上記複数の敷部用耐火物は、2本の環流管に挟まれた中ノ島に配置される中ノ島用耐火物、上記中ノ島用耐火物に連続して配置され上記中ノ島を通り且つ敷部の水平断面において当該2本の環流管を結ぶ線に交差する交差方向を配列方向とする配列用耐火物、上記側壁用耐火物と少なくとも一部が上下で重なる位置に配置される連結用耐火物、及びその他の底部位置に配置されたその他の敷部用耐火物を有し、
上記連結用耐火物のうち、少なくとも上記配列用耐火物に連続して配置される連結用耐火物は、側壁用耐火物から上記配列用耐火物に向けて並ぶ2つ以上の力伝達用耐火物からなり、
上記力伝達用耐火物は、側壁用耐火物からの上下方向の荷重を横方向に変換可能なように、上記側壁用耐火物から底部内側に向けた並び方向で隣り合う力伝達用耐火物間の少なくとも一カ所における力伝達用耐火物間の対向面は、上部が下部よりも底部内側に位置するように傾斜していることを特徴とする。
【0008】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、上記配列方向で隣り合う配列用耐火物間の少なくとも一カ所における配列用耐火物間の対向面は、上部が下部よりも中ノ島側に位置するように傾斜していることを特徴とする。
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1又は請求項2に記載した構成に対し、上記配列方向で隣り合う中ノ島用耐火物間の少なくとも一カ所における中ノ島用耐火物間の対向面は、上部が下部よりも底部中央側に位置するように傾斜していることを特徴とする。
【0009】
次に、請求項4に記載した発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した構成に対し、上記複数の敷部用耐火物として、上記各環流管の周囲を包囲する環流管羽口用耐火物を有し、
上記中ノ島用耐火物に隣接する環流管羽口用耐火物と当該中ノ島用耐火物との対向面は、対象とする環流管羽口用耐火物に対応する環流管側に、上部が下部よりも近づくように傾斜していることを特徴とする。
【0010】
次に、請求項5に記載した発明は、2本の環流管を有する底部が複数の敷部用耐火物で内張されていると共に、側壁内面が複数の側壁用耐火物で内張されているRH脱ガス下部槽において、
上記複数の敷部用耐火物は、上記側壁用耐火物と少なくとも一部が上下で重なる位置に配置される連結用耐火物を有し、
上記連結用耐火物の少なくとも一部は、側壁用耐火物から底部内側に向けて並ぶ2つ以上の力伝達用耐火物からなり、
上記力伝達用耐火物は、側壁用耐火物からの上下方向の荷重を横方向に変換可能なように、上記側壁用耐火物から底部内側に向けた並び方向で隣り合う力伝達用耐火物間の少なくとも一カ所における力伝達用耐火物間の対向面は、上部が下部よりも底部内側に位置するように傾斜していることを特徴とする。
【0011】
次に、請求項6に記載した発明は、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載した構成に対し、側壁用耐火物から底部内側に向けて並ぶ上記力伝達用耐火物を、3つ以上のブロックから構成し、
上記側壁用耐火物から底部内側に向けた並び方向で隣り合う力伝達用耐火物間の少なくとも2カ所の対向面を、上部が下部よりも底部内側に位置するように傾斜させると共に、上記各対向面の傾斜は、底部内側に近い力伝達用耐火物間ほど鉛直に近い傾斜となっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1又は請求項5に係る発明によれば、上記力伝達用耐火物を備えることで、側壁用耐火物からの下向きの力を底部(敷部)内側に向かう力に変換して、敷部の外周側に位置する敷部用耐火物(力伝達用耐火物に隣接する敷部用耐火物など)に伝達する。なお、力の伝達は、隣り合う耐火物の目地部を介して行われる。
これによって、敷部用耐火物に負荷されて当該敷部用耐火物を拘束する水平方向の力を増大することが出来る。
【0013】
そして、請求項1に係る発明によれば、上記力伝達用耐火物を介して伝達する上記底部(敷部)内側に向かう力は、配列用耐火物を介して中ノ島用耐火物に伝達される。この結果、中ノ島用耐火物は、敷部の水平断面において2本の環流管を結ぶ線に交差する交差方向の両側から負荷される力によって拘束されることで、浮き上がりが抑制される。
また請求項2に係る発明によれば、敷部の水平断面において2本の環流管を結ぶ線に交差する交差方向で隣り合う配列用耐火物間の少なくとも一カ所における対向面は、上部が下部よりも中ノ島側に位置するように傾斜していることで、上記力伝達用耐火物を介して伝達する力によって、配列用耐火物に対して下向きの力が作用する。この結果、配列用耐火物の浮き上がりも効果的に抑制する。
【0014】
また請求項3に係る発明では、敷部の水平断面において2本の環流管を結ぶ線に交差する交差方向で隣り合う中ノ島用耐火物間の少なくとも一カ所における対向面は、上部が下部よりも底部中央側に位置するように傾斜していることで、上記力伝達用耐火物を介して伝達する力によって、中ノ島用耐火物に対して下向きの力が作用する。この結果、中ノ島用耐火物の浮き上がりも効果的に抑制する。
【0015】
また、請求項4に係る発明によれば、上記浮き上がりを抑制した中ノ島用耐火物によって環流管羽口用耐火物の浮き上がりを抑制することが出来る。
また、請求項6に係る発明によれば、力伝達用耐火物による下向きの力を横向きの力への変換を2カ所以上で実施することで、力の向きの変換のための力の伝達をより滑らかに実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に基づく実施形態に係るRH脱ガス下部槽を示す断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図2のC−C断面図である。
【図4】力伝達用耐火物の別例を示す図である。
【図5】耐火物の傾斜を説明する図である。
【図6】従来のRH脱ガス下部槽の構造を示す図である。
【図7】従来のRH脱ガス下部槽の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1及び図3は、本実施形態のRH脱ガス下部槽1を示す断面図である。また、図2は、RH脱ガス下部槽1の底部(敷部)に内張した耐火物3の配置例を示す図である。
(構成)
RH脱ガス下部槽1の構成について説明する。
本実施形態のRH脱ガス下部槽1は、円筒状の側壁部と、溶湯の通り道である環流管2を有する円盤状の敷部(底部)に区別される。符号10は環流管スリーブ煉瓦である。
敷部には、左右対称に2本の環流管2が配置され、その敷部は、複数の敷部用耐火物3で内張されている。なお耐火物としては、耐火物煉瓦を例示できるが、定形耐火物であれば適用可能である。
【0018】
本実施形態では、上記のように環流管スリーブ煉瓦10を配置し、また敷部用耐火物3(具体的には後述の環流管羽口用耐火物3A)と環流管スリーブ煉瓦10の間には不定形耐火物を充填しているが、環流管2の構造は、この構成には限定されない。
上記耐火物の材質については、マグカーボン煉瓦(MgO−C)、マグクロ煉瓦(MgO−Cr)、あるいはその組合せ、若しくは他の材質(マグネシアドロマイト煉瓦(MgO−CaO)、マグネシアドロマイトカーボン(MgO−CaO−C)、アルミナマグネシアプレキャストブロック)を単体か複数の材質を組み合せて使用する。
【0019】
上記複数の敷部用耐火物3は、環流管羽口用耐火物3A、中ノ島用耐火物3B、配列用耐火物3C、連結用耐火物3D、及びその他の底部位置に配置されたその他の敷部用耐火物3Eからなる。
上記環流管羽口用耐火物3Aは、各環流管2の周囲を包囲する耐火物であって、対象とする環流管2の周方向に沿って配列し、各環流管羽口用耐火物3Aは、それぞれ環流管2から放射状に延びるように配置されている。
【0020】
上記中ノ島用耐火物3Bは、2本の環流管2に挟まれた中ノ島に配置される耐火物である。本実施形態では、中ノ島用耐火物3Bと環流管2との間に上記環流管羽口用耐火物3Aが介在する場合の例である。ここで、中ノ島用耐火物3Bと環流管2の間に配置される上記環流管羽口用耐火物3Aと当該中ノ島用耐火物3Bとが一体物の耐火物となっていても良い。上記中ノ島用耐火物3Bは、敷部の水平断面において2本の環流管2を結ぶ線に交差する方向(本実施形態では直交する方向)に配列する複数の耐火物からなる。
上記配列用耐火物3Cは、上記中ノ島用耐火物3Bに連続して配置され当該中ノ島用耐火物3Bと同方向に沿って配列する耐火物である。
【0021】
また、上記連結用耐火物3Dは、敷部の外周縁部に沿って配置された耐火物(図2中ハッチング部分)である。各連結用耐火物3Dは、側壁用耐火物5と少なくとも一部が上下で重なる位置に配置される。すなわち、連結用耐火物3Dは、側壁用耐火物5の鉛直下向きへの投影と少なくとも一部が重なる位置に配置される。
その他の底部位置に配置されたその他の敷部用耐火物3Eは、本実施形態では、上記配列用耐火物3Cの配列方向と平行な方向に沿って配列するように配置されている。
【0022】
また、側壁内面が複数の側壁用耐火物5で内張されている。側壁用耐火物5は、上記連結用耐火物3Dの上側に、積み上げるようにして配置されている。
ここで、耐火物の施工は、敷部に対し敷部用耐火物3を施工した後に、側壁用耐火物5を施工して構築する。また、耐火物間の目地部には、目地モルタルなどの不定形耐火物を充填する。
本実施形態では、上記連結用耐火物3Dのうち、上記配列用耐火物3Cに連続して配置される連結用耐火物を、図3のように、側壁用耐火物5からの上下方向の荷重を横方向に変換可能なように、複数の力伝達用耐火物3Daから構成した。図3では、側壁用耐火物から底部内側に向けて一列当たり6枚の力伝達用耐火物3Daで構成する場合を例示している。
【0023】
上記複数の力伝達用耐火物3Daは、側壁用耐火物5から上記配列用耐火物3Cに向けて並ぶように配列すると共に、その配列方向で隣り合う力伝達用耐火物3Da間の対向面は、上部が下部よりも底部内側に位置するように傾斜している。対向面とは、各耐火物における隣り合う耐火物と対向する面である。これによって、本実施形態の各力伝達用耐火物3Daは、図3に示すように、側面視において、下部槽1内側の厚さが薄い楔形状となっている。
各力伝達用耐火物3Daの上記対向面の傾斜は、底部内側に近い力伝達用耐火物3Da間ほど、鉛直に近い傾斜となっている。すなわち、側壁用耐火物5側から上記配列用耐火物3C側に向けて徐々に傾斜が大きくなるように設定されている。
【0024】
また、本実施形態では、上記配列用耐火物3Cについても、上記配列方向で隣り合う配列用耐火物3C間の対向面は、上部が下部よりも中ノ島側に位置するように傾斜している。なお、上記配列方向で隣り合う配列用耐火物3C間の対向面の全部を傾斜させなくても良い。
同様に、中ノ島用耐火物3Bについても、上記配列方向で隣り合う中ノ島用耐火物3B間の対向面は、上部よりも下部が底物中央に位置するように傾斜させている。なお、中央の中ノ島用耐火物3Bは、中ノ島用耐火物3Bの配列方向に直交する側方から見て、図3に示すように、下側の厚みが厚い楔形状となっている。
【0025】
また、上記中ノ島用耐火物3Bにおける、中ノ島用耐火物3Bの配列方向に直交する側を向く面(環流管2側の面)は、図1に示すように、対象とする環流管羽口用耐火物3Aに対応する環流管2に対し、上部が下部よりも近づくように傾斜している。これに合わせて、中ノ島用耐火物3Bと隣り合う環流管羽口用耐火物3Aの対向面も傾斜している。
【0026】
(作用)
連結用耐火物3Dには側壁用耐火物5から下向きの力が掛かる。特に側壁用耐火物5が熱膨張した場合に、上記下向きの力は大きくなる。このとき、本実施形態では、上記連結用耐火物3Dのうちの配列用耐火物3Cに連続する位置の連結用耐火物3Dを上述のように複数の力伝達用耐火物3Daで構成することで、側壁用耐火物5からの下向きの力を、底部内側に向かう水平方向に変換して、配列用耐火物3Cに伝達することができる(図3参照)。
【0027】
ここで、各耐火物間の力の伝達は目地部を介して行われ、その目地部を構成する各耐火物の面(対向面)に略直交した方向に向けて、隣り合う耐火物間で力の伝達が行われる。
また、本実施形態では、配列する複数の力伝達用耐火物3Da間の対向面の傾斜を徐々に大きくすることで、力の伝達方向が段階的に変換される結果、より滑らかに下向きの力を横向きの底部内側に向かう力に変換している。
【0028】
上記配列用耐火物3Cにおける外周側に位置する配列用耐火物3Cに伝達された水平方向の力は、順次、外周側の配列用耐火物3Cから内周側の配列用耐火物3Cに伝達される。このとき、配列用耐火物3C間の対向面も傾斜させることで、力が伝達された配列用耐火物3Cに下向きの分力が発生して当該配列用耐火物3Cの浮き上がりをより確実に抑えることが出来る。すなわち、水平方向内側に向かう力で動きが拘束されると共に上記下向きの分力によって、より確実に浮き上がりが抑制される。
【0029】
複数の配列用耐火物3C間を外周側から内周側に伝達した水平方向の力は、続けて中ノ島用耐火物3Bに伝達される。この横方向から力によって中ノ島用耐火物3Bの変位が拘束される。また、隣り合う中ノ島用耐火物3B間の対向面も傾斜させることで、各中ノ島用耐火物3Bには下向きの分力が負荷されることで、各中ノ島用耐火物3Bの浮き上がりがより確実に抑えられる。
【0030】
また、熱負荷によって中ノ島用耐火物3B及び環流管羽口用耐火物3Aが熱膨張するとき、中ノ島用耐火物3Bと環流管羽口用耐火物3Aとの対向面が上述のように傾斜していることで、相互の力の伝達の際に、中ノ島用耐火物3Bから環流管羽口用耐火物3Aに向けて下向きの力が伝達することで、環流管羽口用耐火物3Aの浮き上がりが抑制される。
なお傾斜は、水平方向から65度以上、90度未満の範囲が好ましい。
【0031】
以上のように、本実施形態では、敷部用耐火物3の熱膨張による水平方向の力に加えて、側壁用耐火物5からの下向きの力を水平方向に変換して敷部用耐火物3に伝達することで、各敷部用耐火物3を拘束する水平方向の力が増大する。このとき、側壁用耐火物5からの下向きの力は、側壁用耐火物5が熱膨張した際に大きくなるので、水平方向の力が必要なときに上記水平方向の力をより増大させることが出来る。これによって敷部用耐火物3の浮き上がりを抑制する。
【0032】
すなわち、敷部用耐火物3のみの水平方向への膨張力では、敷部の浮き上がり防止の効果が小さく、耐火物を厚く残した状態での使用が必要であったが、側壁から連続構造とすることで、側壁部の高さ方向の膨張力の一部を水平方向に変換し、敷部へ掛かる水平方向の力を増加させることができて、敷部用耐火物3をより確実に拘束できる。
また、配列用耐火物3Cや中ノ島用耐火物3Bの対向面に上述のような傾斜を設けることで、下向きの力が各耐火物に掛かることで、さらに浮き上がりを抑制することが可能となる。
【0033】
また、複数の力伝達用耐火物3Daによって、段階的に力の伝達方向を変換することで、より確実に水平方向の力に変換することができる。
ただし、複数の力伝達用耐火物3Daは、図4のように、1配列当たり2つの力伝達用耐火物3Daで構成しても良い。この場合には、2つの力伝達用耐火物3Da間の対向面を傾斜させればよい。この場合、対向面の傾斜面は、例えば、水平面に対し40度〜60度の傾斜に設定する。
【0034】
ここで、上記実施形態では、配列用耐火物3Cに連続する連結用耐火物3Dだけを、上記複数の力伝達用耐火物3Daで構成する場合で説明した。他の連結用耐火物3Dについても、上記構造からなる複数の力伝達用耐火物3Daで構成しても良い。この場合には、その他の敷部用耐火物3Eを通じても環流管羽口用耐火ブロックを拘束する力を付与することが可能となる。この場合、その他の敷部用耐火物3Eについても隣り合う敷部用耐火物3の対向面についても、上部が下部よりも環流管2側に近づくように傾斜させておくことが好ましい。
【0035】
また図3に示した本実施形態では、力伝達用耐火物3Daを1配列当たり6枚に設定して、側壁から配列用耐火物に向かうにつれて、水平方向から力伝達用耐火物3Da1枚につき10.6度づつ傾斜を大きくし、配列用耐火物との対向面の傾斜を63.6度とした。力伝達用耐火物3Daと配列用耐火物3Cとの対向面の傾斜は、配列用耐火物に対して下向きの分力を負荷するためであり、その対向面の傾斜は90度未満、好ましくは85度以下が好ましい。ただし、力伝達用耐火物と上記配列用耐火物との対向面の傾斜が50度未満であると水平方向への伝達力が弱くなるおそれがあるので上記傾斜は50度以上とすることが好ましい。図3では、上記傾斜を63.6度に設定した場合を例示した。力伝達用耐火物3Daとその他の敷部用耐火物3Eの対向面を傾斜させる場合も同様に50度以上、90度未満、好ましくは85度以下とすることが好適である。配列用耐火物3C、中ノ島用耐火物3B、その他の敷部用耐火物3Eについても、配列方向の対向面を傾斜させる場合は、上下方向の分力が過大にならないように水平から60度以上90度未満の範囲で傾斜させることが好ましい。但し、外周側の配列用耐火物あるいはその他の敷部用耐火物であって、力伝達用耐火物との対向面の傾斜が50度以上60度未満の場合においては、付与される下向きの分力が大きい。したがって、50度以上の範囲で配列方向の対向面を傾斜させても良い。また図3に例示したように、配列用耐火物3C、中ノ島用耐火物3B、その他の敷部用耐火物3Eについても、配列方向の耐火物の厚みを、下部が上部よりも大きくなるようにすることにより、適宜下向きの分力を付与することが好ましい。
【0036】
そして、このように力伝達用耐火物3Daを適用すると、敷部用耐火物3の平均損傷速度が半分程度まで遅くなったことを確認した。
上記力伝達用耐火物3Daの枚数を、3〜12枚の範囲で設定し、力伝達用耐火物と配列用耐火物との対向面の傾斜を図3の例と同様に63.6度とすることを想定すると、例えば3枚の場合には、21.2度づつ傾斜角度を大きく設定し、12枚の場合には5.3度づつ傾斜角度を大きく設定すればよい。
【0037】
また、3枚以上の力伝達用耐火物3Daを用いる場合には、傾斜した対向面として、水平面に対し30度〜70度の範囲の傾斜となる対向面が存在するように設定すれば、側壁用耐火物5からの下向きの力を水平方向に変換できることを確認している。
なお、力伝達用耐火物3Daを除く、敷部用耐火物3が摩耗しても敷部用耐火物の浮き上がりを防止するには、傾斜させる耐火物につき図5に基づき下記式を満足することが好ましい。
L > t・tanθ
ここで、
L:鉛直方向の煉瓦長
t:水平方向の目地厚さ
θ:耐火物の対向面の傾斜角度
【0038】
例えば目地厚さが2mmで、鉛直方向の煉瓦長が120mmに損耗した場合でも浮き上がりを防止するには、敷部用耐火物の対向面の傾斜角度θは89度より小さくなるようにする。
図1および図2に示した実施形態では、中ノ島用耐火物3B、配列用耐火物3C、力伝達用耐火物3Daとも2列で配列した例で説明したが、配列数は必ずしも2列には限定されず、大型の煉瓦を用いて1列としても良いし、3列以上とすることも可能である。
【実施例1】
【0039】
上記実施形態の効果について実験を行った。
「実施例」
実施例では、上記実施形態に沿って、中ノ島用耐火物を上述に述べたような傾斜構造とすると共に、複数の力伝達用耐火物3Daを、側壁用耐火物5からの荷重を横方向(上記配列用耐火物3Cに向けて)に変換可能なように傾斜させた構造(側壁用耐火物と敷部用耐火物とが一体構造)を採用した。
【0040】
また、比較例として、下記2つの構造を採用した。
ここで、なお、採用したのは、次の(a)(b)の2例とし、いずれも中ノ島用耐火物3Bと環流管羽口用耐火物3Aの対向面を85度傾斜させた。
(a)力伝達用耐火物3Daを2枚に設定し、中ノ島用耐火物3Bを85度、配列用耐火物3Cを74.2度〜85度傾斜させた例(図4)
(b)力伝達用耐火物3Daを6枚に設定し、中ノ島用耐火物3Bを85度、配列用耐火物3Cを63.6度〜85度傾斜させた例(図3)
【0041】
「比較例1」
中ノ島用耐火物を傾斜構造とせず、且つ、側壁用耐火物を全て垂直に積み上げ、敷部用耐火物を全て水平に並べる側壁用耐火物と敷部用耐火物とを分断した構造を採用した。
すなわち本構造では力伝達用耐火物は配置しなかった。
「比較例2」
中ノ島用耐火物を傾斜構造とし、且つ、側壁用耐火物全て垂直に積み上げ、残りの敷部用耐火物を全て水平に並べる構造(力伝達用耐火物は配置しない)を採用した。
【0042】
そして、上記実施例の構造と、上記2つの各比較例の構造とをそれぞれ実機に適用した結果、比較例1の下部槽に対し、実施例では、いずれも敷部の損耗速度が約50%低減したことを確認した。
また、比較例2においては、比較例1の構造と損耗状況は余り変化が無かった。
【符号の説明】
【0043】
1 RH脱ガス下部槽
2 環流管
3 敷部用耐火物
3A 環流管羽口用耐火物
3B 中ノ島用耐火物
3C 配列用耐火物
3D 連結用耐火物
3Da 力伝達用耐火物
3E その他の敷部用耐火物
5 側壁用耐火物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の環流管を有する底部が複数の敷部用耐火物で内張されていると共に、側壁内面が複数の側壁用耐火物で内張されているRH脱ガス下部槽において、
上記複数の敷部用耐火物は、2本の環流管に挟まれた中ノ島に配置される中ノ島用耐火物、上記中ノ島用耐火物に連続して配置され上記中ノ島を通り且つ敷部の水平断面において当該2本の環流管を結ぶ線に交差する交差方向を配列方向とする配列用耐火物、上記側壁用耐火物と少なくとも一部が上下で重なる位置に配置される連結用耐火物、及びその他の底部位置に配置されたその他の敷部用耐火物を有し、
上記連結用耐火物のうち、少なくとも上記配列用耐火物に連続して配置される連結用耐火物は、側壁用耐火物から上記配列用耐火物に向けて並ぶ2つ以上の力伝達用耐火物からなり、
上記力伝達用耐火物は、側壁用耐火物からの上下方向の荷重を横方向に変換可能なように、上記側壁用耐火物から底部内側に向けた並び方向で隣り合う力伝達用耐火物間の少なくとも一カ所における力伝達用耐火物間の対向面は、上部が下部よりも底部内側に位置するように傾斜していることを特徴とするRH脱ガス下部槽。
【請求項2】
上記配列方向で隣り合う配列用耐火物間の少なくとも一カ所における配列用耐火物間の対向面は、上部が下部よりも中ノ島側に位置するように傾斜していることを特徴とする請求項1に記載したRH脱ガス下部槽。
【請求項3】
上記配列方向で隣り合う中ノ島用耐火物間の少なくとも一カ所における中ノ島用耐火物間の対向面は、上部が下部よりも底部中央側に位置するように傾斜していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載したRH脱ガス下部槽。
【請求項4】
上記複数の敷部用耐火物として、上記各環流管の周囲を包囲する環流管羽口用耐火物を有し、
上記中ノ島用耐火物に隣接する環流管羽口用耐火物と当該中ノ島用耐火物との対向面は、対象とする環流管羽口用耐火物に対応する環流管側に、上部が下部よりも近づくように傾斜していることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載したRH脱ガス下部槽。
【請求項5】
2本の環流管を有する底部が複数の敷部用耐火物で内張されていると共に、側壁内面が複数の側壁用耐火物で内張されているRH脱ガス下部槽において、
上記複数の敷部用耐火物は、上記側壁用耐火物と少なくとも一部が上下で重なる位置に配置される連結用耐火物を有し、
上記連結用耐火物の少なくとも一部は、側壁用耐火物から底部内側に向けて並ぶ2つ以上の力伝達用耐火物からなり、
上記力伝達用耐火物は、側壁用耐火物からの上下方向の荷重を横方向に変換可能なように、上記側壁用耐火物から底部内側に向けた並び方向で隣り合う力伝達用耐火物間の少なくとも一カ所における力伝達用耐火物間の対向面は、上部が下部よりも底部内側に位置するように傾斜していることを特徴とするRH脱ガス下部槽。
【請求項6】
側壁用耐火物から底部内側に向けて並ぶ上記力伝達用耐火物を、3つ以上のブロックから構成し、
上記側壁用耐火物から底部内側に向けた並び方向で隣り合う力伝達用耐火物間の少なくとも2カ所の対向面を、上部が下部よりも底部内側に位置するように傾斜させると共に、上記各対向面の傾斜は、底部内側に近い力伝達用耐火物間ほど鉛直に近い傾斜となっていることを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載したRH脱ガス下部槽。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−102396(P2012−102396A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217972(P2011−217972)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】