説明

RHOキナーゼ(ROK)調節物質を同定するための、ハイスループット酵素免疫吸着アッセイ法(HT−ELISA)

本発明は、ビオチン化ペプチドを用いたROK(Rhoキナーゼ)タンパク質の活性測定のためのアッセイ方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビオチン化ペプチドを用いたROK(Rhoキナーゼ)タンパク質の活性測定のためのアッセイ方法に関する。
【発明の開示】
【0002】
本発明は、Rhoキナーゼ(ROK)活性を調節する(促進する、減少させる、維持する)化合物の同定のためのアッセイ方法に関し、この方法は以下の:
a)ROKタンパク質によりリン酸化を受けることができるペプチドを準備し;
b)ROKタンパク質を準備し;
c)a)からのペプチドがリン酸化されていた場合にこのペプチドを認識することができる抗体を準備し;
d)化学的化合物を準備し;
e)a)からのペプチドを、このペプチドのリン酸化を可能にする条件下で、b)からのROKタンパク質およびd)からの化学的化合物と共にインキュベーションし;
f)e)に従って行ったインキュベーションが終了した後、c)からの抗体をこのペプチドのリン酸化を検出するために使用し;
g)f)からの結果を、場合により、d)からの化学的化合物を存在させないでa)からのペプチド、b)からのROKタンパク質のインキュベーションを行った試験からの結果と比較する、
各工程を含む。
【0003】
そうしたアッセイ方法は、ELISAまたはRIA(ラジオイムノアッセイ法)形式で容易に行うことができる。
【0004】
前記のアッセイ方法に関して、工程a)のペプチドは、15から25個のアミノ酸のサイズから成ることができる。このペプチドは、以下のアミノ酸配列:GGGGAKRRRLSSLRASTSを含むかまたはそれから成ることができる。本アッセイ方法の工程a)は、例えば、ビオチニル化またはDNAもしくは抗体に連結しているような、化学的に修飾した形態で用いることができる。
【0005】
前記のアッセイ方法に関して、工程b)のROKタンパク質は、ヒトタンパク質によるアミノ酸配列を含むことができ、またはヒト生物的材料から誘導化もしくは採集できる。そうしたROKタンパク質は異なった技術、例えば、生物材料または組換的特性を含む処理工程を有する方法により製造することができる。前に開示した本発明のアッセイ方法は、例えば、ROKタンパク質の活性を調節する化合物のハイ・スループット・スクリーニグ方法のために使用することができる。
【0006】
本発明はまた、以下の:
a)ROKタンパク質によりリン酸化を受けることができるペプチド;
b)ROKタンパク質;
c)a)からのペプチドがリン酸化されていた場合にこのペプチドを認識することができる抗体;
d)場合により、c)からの抗体を認識でき、および/または、標識系(例えば、アルカリ・ホスファターゼ、β−グルクロニダーゼ、ペルオキシダーゼ、他の酵素)に結合している二次抗体;
c)場合により、a)からのペプチドのリン酸化を実現するための試薬、緩衝液および/または器具、および/またはELISA装置、
からなる部品のキットにも関する。
【0007】
前記の部品のキットに関してa)のペプチドは、15から25個のアミノ酸のサイズから成ることができる。このペプチドは、以下のアミノ酸配列:GGGGAKRRRLSSLRASTSを含むかまたはそれから成ることができる。本アッセイ方法の工程a)は、例えば、ビオチニル化またはDNAもしくは抗体に連結しているような、化学的に修飾した形態で用いることができる。前記のアッセイ方法に関して、工程b)のROKタンパク質は、ヒトタンパク質によるアミノ酸配列を含むことができ、またはヒト生物的材料から誘導化もしくは採集できる。そうしたROKタンパク質は異なった技術、例えば、生物材料または組換的特性を含む処理工程を有する方法により製造することができる。
【0008】
本発明はさらに、前記の部品のキットの製造に関しており、この製造方法において:
a)ROKタンパク質によりリン酸化を受けることができるペプチドを準備し;
b)ROKタンパク質を準備し;
c)a)からのペプチドがリン酸化されていた場合にこのペプチドを認識することができる抗体を準備し;
d)場合により、c)からの抗体を認識することができ、および/または、標識系(例えば、アルカリ・ホスファターゼ、β−グルクロニダーゼ、ペルオキシダーゼ、他の酵素)に結合した、第二抗体を準備し;
e)場合により、a)からのペプチドのリン酸化を実現するための試薬、緩衝液および/または器材、および/またはELISA装置を準備し、
f)a)〜e)からの成分を適宜包装し、そして部品のキットの成分と同時に、それにより提供されるROKタンパク質のアッセイ方法の操作手順を記述した手順書と組み合わせる。
【0009】
前記の部品のキットは、例えば、ROKタンパク質の活性を測定するために、またはROKタンパク質の活性を調節する化合物の同定のために、またはハイ・スループット・スクリーニグ方法のために使用することができる。
【0010】
本発明はさらに、以下のアミノ酸配列:GGGGAKRRRLSSLRASTSを含むかまたはそれから成るペプチドに関する。そうしたペプチドは化学的に修飾でき、例えばビオチン化できる。本発明はまた、そうしたペプチドのROKタンパク質の活性測定のための使用にも関する。
【0011】
本発明に関して化学的化合物とは、化学的合成または天然材料からの単離のいずれかにより製造された、あらゆる有機および/または炭水化物化合物を意味する。そうした化合物は50から5000ダルトンの間の分子量を有するだろう。
【0012】
タンパク質は、生物学的状況下、特に生細胞の一部として、活性を発揮するための条件下にある場合、本発明との関連において機能的であるとみなされるべきである。そうした活性は、例えばアッセイ方法により、検出可能である。例えば、トランスポーターは、このトランスポーターが化合物、特にこのトランスポーターの生物学的基質を、細胞外部からこの細胞の内部のコンパートメントへと移動させる場合、またはその逆の場合、機能的である。イオントランスポータータンパク質の生物学的基質は、例えば、1価および/または2価のイオンまたは他のイオンから成っている。グルコーストランスポータータンパク質の基質は、例えば、グルコースである。多剤耐性タンパク質の基質は、例えば、単独の薬物またはグルタチオンもしくはグルコネートに結合した薬物である。
【0013】
本発明との関連で、タンパク質の取り扱いは、John Wiley & Sonsにより発行された「タンパク質科学の最新実験手順書」(John E. Coligan, Ben M. Dunn, Hidde L., Ploegh, David W. Speicher, Paul T. Wingfield編;0-471-11184-8-ルーズリーフ;0-471-14098-8-CDROM)からの準拠する実験手順書を用いて、当業者が実施することができる。
【0014】
例えば、クローニング、細胞の形質転換、配列決定、プロモーターの修飾、発現タンパク質等、のような分子生物学に関する技術操作は、John Wiley & Sonsにより発行された「分子生物学の最新実験手順書」(Fred M. Ausubel, Roger Brent, Robert E. Kingston, David D. Moore, J.G. Seidman, John A. Smith, Kevin Struhl編;0-471-50338-X-ルーズリーフ;0-471-306614CDROM)からの準拠する実験手順書を用いて、当業者が実施することができる。
【0015】
生物学的材料は、遺伝情報を含み、そしてそれ自身で複製できるかまたは生物学的組織中で複製される、あらゆる材料を意味する。組換えの生物学的材料とは、組換え技術により、生産され、変換されまたは修飾された、あらゆる生物学的材料である。組換え技術は、例えば、John Wiley & Sonsにより発行された「分子生物学の最新実験手順書」(ISBN:0-471-50338-X-ルーズリーフまたは0-471-30661-4-CD-ROM)」のような教科書で定義されている。
【0016】
生物細胞の操作は、John Wiley & Sonsにより発行された「細胞生物学の最新実験手順書」(Juan S. Bonifacino, Mary Dasso, Jennifer Lippincott-Schwartz, Joe B. Harford, Kenneth M. Yamada編;0-471-24108-3-ルーズリーフ;0-471-24105-9-CDROM)からの準拠する実験手順書を用いて、当業者が実施することができる。
【0017】
〔実施例〕
Rho−キナーゼ(ROK)は、心血管系疾患のための非常に良く確認された標的を意味する。それゆえに、特異的なROK阻害剤の検索は、心血管領域で仕事をしている多くのグループの中心課題である。今回、我々は、ROK活性に特異的な、ELISAの開発をここに記載する。このROK−ELISAはROKリン酸化ペプチドの量を検出する。ROK阻害剤は、ROK活性を阻害し、そしてそれによりROKが介在するペプチドのリン酸化の量を減少させる。ROK−ELISAは、中規模スループットの96穴フォーマットで、ならびに、ハイスループットの384穴フォーマットで開発された。
【0018】
実験手順:
保存溶液:
ビオチニル化S6ペプチド:トリス緩衝液25mM pH8.0中に1ml(5mg/ml)のアリコットで、−20℃で保存。
組換え活性型ROK:10μl(1mg/ml)のアリコットで、−20℃で保存。
【0019】
【表1】

【0020】
1)ストレプトアビジン被覆ウエルにビオチン化S6ペプチドを0.5ng/ウエル用いて、2時間または終夜室温でコーテングする。
2)PBSを100μl/ウエル用いて、過剰のS6ペプチドを三回洗い流す。
3)MgCl2を含む反応用緩衝液中で所望の濃度で10×ATP溶液を、氷上で調製する。
4)ROKを反応用緩衝液中に氷上で希釈し、最終濃度を10ng/ウエルとする。
5)所望の濃度で10×基質溶液を調製する。
【0021】
ROK−ELISA 96−穴フォーマット
総体積=100μl
1)所望の最終濃度の阻害剤(10×濃縮溶液の10μl)をROKの80μlと共に10分間、プレインキュベートする。
2)所望の最終濃度で10×濃縮ATP溶液の10μl ATPを加える。
3)プレートを30℃で1時間インキュベートする。
4)500mM EDTA溶液の100μlを用いてキナーゼ反応を停止する。
5)全てのウエルの上清を取り除く。
6)一次モノクローナルホスホ特異抗体(phosphospecific antibody)(1:1000)を100μl/ウエル加え、そして室温で15分間インキュベートする。
7)二次抗体(1:2000)を100μl/ウエル加え、そして室温で1時間インキュベートする。
8)上清を取り除き、そしてPBSを200μl/ウエル用いて5回洗浄する。
9)基質溶液を100μl全てのウエルに加え、そして室温で10分間インキュベートする。
10)停止溶液を100μl全てのウエルに加える。
11)492nmで光学的濃度(OD)を測定する。
【0022】
ROK−ELISA 384−穴フォーマット
総体積=10μl
1)所望の最終濃度の阻害剤(10×濃縮溶液の1μl)をROKの8μlと共に10分間、プレインキュベートする。
2)所望の最終濃度で10×濃縮ATP溶液の1μl ATPを加える。
3)プレートを30℃で1時間インキュベートする。
4)500mM EDTA溶液の10μlを用いてキナーゼ反応を停止する。
5)全てのウエルの上清を取り除く。
6)一次モノクローナルホスホ特異抗体(1:1000)を10μl/ウエル加え、そして室温で15分間インキュベートする。
7)二次抗体(1:2000)を100μl/ウエル加え、そして室温で1時間インキュベートする。
8)上清を取り除き、そしてPBSを30μl/ウエル用いて5回洗浄する。
9)基質溶液を10μl全てのウエルに加え、そして室温で10分間インキュベートする。
10)停止溶液を10μl全てのウエルに加える。
11)492nmで光学的濃度(OD)を測定する。
【0023】
材料
ROK(ROKα/ROCK−II(活性型組換えaa 11−550またはそれ以上)、
ビオチン化S6ペプチド(ビオチン−GGGGARRRLSSLRASTS)、
ストレプトアビジン被覆96−または384−穴プレート(例えば、ロシュのストレプタウエル、高結合(透過性)1989685/1989677、ロシュ・デアグノステクス、マンハイム)、
モノクローナルホスホ特異抗体、トランスダクション・ラブスより(クローン22a、BDバイオサイエンス、ハイデルベルグ)、
ヤギ抗マウスIgG−HRP抗体、200μg/0.5ml(サンタクルツ、カタログ番号sc−2005)。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】配列番号1によるアミノ酸配列を示す。
【図2】ROK ELISAのための典型的なレイアウトを示す。 列H 1-6は、キナーゼ反応のコントロールウエルとして用いられる。列H 1-3は、キナーゼを含まず、そしてATPを含み、そして最小シグナルを表す。列H 4-6は、キナーゼおよびATPを含み、そして最大シグナルを表す。列H 7-12は、参照化合物の濃度相関関係のために用いられる。他の全てのウエルは、目的の化合物の濃度相関関係を得るために用いられる。列E1-7のウエルの青白い色は、非常に強力な阻害剤が、用いた全ての濃度範囲にわたってROKの介在する基質のリン酸化を阻害したことを示している。同時に1点での測定によるIC50の推定の場合には、14個の化合物と1つの参照化合物を96穴フォーマットでは調べることができる。
【図3】ROK ELISAからの結果(%阻害およびIC50算出)を示す。
【図4A】ROK ELISAからの結果(%阻害およびIC50算出)を示す。
【図4B】ROK ELISAからの結果(%阻害およびIC50算出)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Rhoキナーゼ(ROK)タンパク質の活性を調節する化合物の同定のためのアッセイ方法であって、ここで、
a)ROKタンパク質によりリン酸化を受けることができるペプチドを準備し;
b)ROKタンパク質を準備し;
c)a)からのペプチドがリン酸化されていた場合にこのペプチドを認識することができる抗体を準備し;
d)化学的化合物を準備し;
e)a)からのペプチドを、このペプチドのリン酸化を可能にする条件下で、b)からのROKタンパク質およびd)からの化学的化合物と共にインキュベーションし;
f)e)に従って行なったインキュベーションが終了した後、c)からの抗体をこのペプチドのリン酸化を検出するために使用し;
g)f)からの結果を、場合により、d)からの化学的化合物を存在させないでa)からのペプチド、b)からのROKタンパク質のインキュベーションを行なった試験からの結果と比較する、
上記方法。
【請求項2】
工程e)、f)およびg)によるインキュベーションがELISAアッセイ法として行われる、請求項1に記載のアッセイ方法。
【請求項3】
工程e)、f)およびg)によるインキュベーションがRIAアッセイ法として行われる、請求項1に記載のアッセイ方法。
【請求項4】
工程a)によるペプチドが15〜25個のアミノ酸長を有する、請求項1〜3のいずれかに記載のアッセイ方法。
【請求項5】
工程a)によるペプチドが以下のアミノ酸配列:GGGGAKRRRLSSLRASTSを有する、請求項1〜4のいずれかに記載のアッセイ方法。
【請求項6】
ペプチドがビオチニル化されている、請求項5に記載のアッセイ方法。
【請求項7】
ROKタンパク質がヒト由来である、請求項1〜6のいずれかに記載のアッセイ方法。
【請求項8】
ROKタンパク質が組換え方法により製造される、請求項1〜7のいずれかに記載のアッセイ方法。
【請求項9】
ROKタンパク質活性を調節する化合物のハイスループットスクリーニングのための、請求項1〜8のいずれかに記載のアッセイ方法の使用。
【請求項10】
a)ROKタンパク質によりリン酸化を受けることができるペプチド;
b)ROKタンパク質;
c)a)からのペプチドがリン酸化されていた場合にこのペプチドを認識することができる抗体;
d)場合により、c)からの抗体を認識することができ、および/または、標識系に結合した、第二抗体;
e)場合により、a)からのペプチドのリン酸化を実現するための試薬、緩衝液および/または器材、および/またはELISA装置、
から成る部品のキット。
【請求項11】
工程a)からのペプチドが15〜25個のアミノ酸長を有する、請求項10に記載の部品のキット。
【請求項12】
工程a)からのペプチドが以下のアミノ酸配列:GGGGAKRRRLSSLRASTSを有する、請求項10または11に記載の部品のキット。
【請求項13】
ペプチドがビオチニル化されている、請求項12に記載の部品のキット。
【請求項14】
ROKタンパク質がヒト由来である、請求項10〜13のいずれかに記載の部品のキット。
【請求項15】
ROKタンパク質が組換え方法により製造される、請求項10〜14のいずれかに記載の部品のキット。
【請求項16】
a)ROKタンパク質によりリン酸化を受けることができるペプチドを準備し;
b)ROKタンパク質を準備し;
c)a)からのペプチドがリン酸化されていた場合にこのペプチドを認識することができる抗体を準備し;
d)場合により、c)からの抗体を認識することができ、および/または、標識系に結合した、第二抗体を準備し;
e)場合により、a)からのペプチドのリン酸化を実現するための試薬、緩衝液および/または器材、および/またはELISA装置を準備し、
f)a)〜e)からの成分を適宜包装し、そして部品のキットの成分と同時に、それにより提供されるROKタンパク質のアッセイ方法の操作手順を記述した手順書と組み合わせる、
請求項10〜15のいずれかに記載の部品のキットの製造方法。
【請求項17】
ROKタンパク質活性を測定するための、請求項10〜16のいずれかに記載の部品のキットの使用。
【請求項18】
ROKタンパク質活性を調節する化合物を同定するための、請求項10〜16のいずれかに記載の部品のキットの使用。
【請求項19】
ハイスループットスクリーニングのための、請求項10〜16のいずれかに記載の部品のキットの使用。
【請求項20】
以下のアミノ酸配列:GGGGAKRRRLSSLRASTSから成るペプチド。
【請求項21】
ビオチニル化されている請求項20に記載のペプチド。
【請求項22】
ROKタンパク質の活性を測定するための、請求項20または21に記載のペプチドの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2008−524133(P2008−524133A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545900(P2007−545900)
【出願日】平成17年12月7日(2005.12.7)
【国際出願番号】PCT/EP2005/013088
【国際公開番号】WO2006/063723
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(397056695)サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (456)
【Fターム(参考)】