説明

Rett症候群を治療する医薬

【課題】Rett症候群を治療する医薬を提供すること、また、Rett症候群を治療する方法を提供すること。
【解決手段】MeCP2遺伝子を含む発現ベクターを有効成分とするRett症候群を治療する医薬。この発明において、発現ベクターがウイルスベクター又は非ウイルスベクターである。変異を起こしている染色体上のMeCP2遺伝子の変異箇所を修復する物質を有効成分とするRett症候群を治療する医薬。染色不活化(X inactivation)機構により機能していないもう一方のX染色体上の対立遺伝子となる正常なMeCP2遺伝子を、人為的に賦活化し発現させる作用を有する物質を有効成分とするRett症候群を治療する医薬。これらの医薬において、遺伝子の発現、修復が脳神経部の線条体(被殻)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Rett症候群を治療する医薬及びRett症候群を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Rett症候群(以下、RTTと称することがある)は、Rett,Aにより1966年に初めて報告された、以下のような特徴的な臨床症状と経過を示す進行性の神経発達障害疾患である。発症率は、女児の一万人に一人の割合で、正常に生まれ正常に発達していた女児が生後6〜18カ月より精神運動発達の退行、自閉傾向を示すようになり、更には本疾患に特徴的な手の常同行動、歩行・姿勢の異常が認められるようになる(非特許文献1参照)。長らくその原因は不明であったが、1999年にX染色体上にあるメチルCpG結合蛋白のmethyl-CpG binding protein 2(MeCP2)遺伝子の変異がRTT患者の約80%に認められ、主な原因であることが分かった(非特許文献2参照)。ゲノム上のCpGは、その約7割がメチル化されていると言われ、このメチル化と関連したエピジェネティック(Epigenetic)な遺伝子の発現制御は、発生分化やその他の重要な生命現象に重要な役割を果たしている(非特許文献3参照)。MeCP2は、二つのドメインを持ち、一つはメチルCpGに結合するメチル化ドメイン(MBD)で、他の一つはヒストン脱アセチル化酵素をリクルートするSin3A等と結合する転写抑制ドメイン(TRD)である。報告されている変異の中でミスセンス変異の多くは、このドメイン内で見られる(非特許文献3参照)。MeCP2遺伝子がコードする蛋白質は、遺伝子DNA配列の中で特に発現調節を担うDNA配列に多く存在するメチル化したシトシンとグアニンの2塩基対に特異的に結合し、その結合したDNA配列の3’側に位置する遺伝子の発現を抑制している。このような遺伝子発現抑制機構は、Angelman症候群やPrader-Willi症候群のような疾患における遺伝子すり込み現象の異常として次々と明らかにされ、遺伝子発現調節機構として注目されている。そして、RTT発症の詳細なメカニズム、神経症状の病態は未だ解決されていないが、このMeCP2遺伝子の働きの異常によって脳本来の遺伝子の発現パターンが乱され、脳の正常な発達と機能に影響が及び、神経伝達物質、神経栄養因子、神経成長因子などの遺伝子調節、転写の異常が推察される。RTTは、脳神経発達障害を伴う疾患として、生後の脳神経発達を知る上で重要な疾患であるのみならず、叙述のように重度の精神発達、自閉傾向、自律神経障害、痙攣、常同行動など神経疾患の様々な疾患の症状を伴うので、RTTの治療に関する研究はこれらの神経疾患の病態解明にも繋がる可能性がある。
【0003】
近年、RTTモデルマウスの研究が行われ、2001年にMeCP2遺伝子欠損マウス(以下、MeCP2遺伝子欠損雄マウスを「MeCP2-/y雄」と称する。また、MeCP2遺伝子欠損雌マウスを「MeCP2+/-雌」と称する)が世界で初めて発表された(非特許文献4参照)。これらのMeCP2遺伝子欠損マウスは、RTTと非常に似た症状を呈する。ヒトRTT男性は、胎生致死のためほとんど出生しないが、MeCP2-/y雄は出生し、正常の野生型マウスより小さいながらも成長する。しかし、生後3〜5週頃より症状を呈するものがみられ、生後40日前後には以下のようなヒトのRTTとよく似た症状の幾つかがほとんどのMeCP2-/y雄で顕在化するようになる。生後40日を過ぎると、ぎこちない歩行、自発運動の低下、足すくめ等の運動能低下(動的活動の低下)、巧緻機能の低下、呼吸異常、痙攣、姿勢異常などのRTT症状が急速に進行し、MeCP2-/y雄は次々に死亡し、生後80日以内にほぼ全MeCP2-/y雄が死亡してしまう。
MeCP2+/-雌も同様の症状を呈するようになるが、症状の発症が遅れてみられ、生後約3カ月までは正常に発育し、生後3カ月を過ぎるとMeCP2-/y雄と同様の症状を呈するようになる。これらのマウスは、叙述のRTTと非常に似た症状を呈するのでRTTの治療薬とRTTの治療をこれらマウスを用いて検討することが可能となる。MeCP2関連の神経異常メカニズムは全く未知であり、また、生後は全てのニューロンにMeCP2遺伝子が高発現しているため、生後に、更には発症後にMeCP2遺伝子をニューロンに導入してその脳神経異常が改善できるかは不明であり、更にどの脳神経の部位に遺伝子を導入すればいいのかさえ全く何らの研究もなされていないのが実情である。つまり、後天的なMeCP2遺伝子導入や、あるいは何らかの方法で染色体で発現が抑えられているもう一方の一対のMeCP2遺伝子を賦活化することができるとしても、果たしてそれでRTTの症状が改善できるかとの問いに対しては、現状では全く明らかでなく、科学的に何ら答えることができない状況にある。そして、どの部位にMeCP2遺伝子を導入すればいいのかということは、科学的に正しい答えがあるわけではなく、科学的推察としても何ら定まった見解もないというのが現状である。
【非特許文献1】Hagberg, B., Aicaldi, J., Dias, K. and Ramos, Ann.Neurol. 14, 471-479 (1983)
【非特許文献2】Amir, R.E. et al. Nature Genet.23, 185-188(1999).
【非特許文献3】Bird A P, Wollfe A P. Cell .99,451-454(1999)
【非特許文献4】Guy, J., Hendrich, B., Holmes, M., Martin, EJ., and Bird, A. Nature Genet.27, 322-326(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、Rett症候群を治療する医薬を提供することを課題とする。また、Rett症候群を治療する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の知見に基づき、MeCP2遺伝子の働きに着目し本発明を完成するに至った。
すなわち、MeCP2遺伝子を含む発現ベクターを有効成分とするRett症候群を治療する医
薬を要旨とする。この発明において、発現ベクターはウイルスベクター又は非ウイルスベクターである。また、ウイルスベクターはアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスイルス、レンチウイルス、センダイウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス又はワクシニアウイルスである。
【0006】
また、変異を起こしている染色体上のMeCP2遺伝子の変異箇所を修復する物質を有効成分とするRett症候群を治療する医薬を要旨とする。X染色体不活化(X inactivation)機構により機能していないもう一方のX染色体上の対立遺伝子となる正常なMeCP2遺伝子を、人為的に賦活化し発現させる作用を有する物質を有効成分とするRett症候群を治療する医薬を要旨とする。
【0007】
上記の医薬において、MeCP2遺伝子の発現、修復は脳神経部である。また、脳神経部は線条体(被殻)である。
【0008】
MeCP2遺伝子を含む発現ベクターを有効成分とする医薬を遺伝子導入するRett症候群を
治療する方法を要旨とする。この発明において、発現ベクターはウイルスベクター又は非ウイルスベクターである。また、ウイルスベクターはアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスイルス、レンチウイルス、センダイウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス又はワクシニアウイルスである。
【0009】
また、変異を起こしている染色体上のMeCP2遺伝子の変異箇所を修復するRett症候群を治療する方法を要旨とする。この発明において、MeCP2遺伝子の変異箇所を修復する物質を投与する。X染色体不活化(X inactivation)機構により機能していないもう一方のX染色体上の対立遺伝子となる正常なMeCP2遺伝子を、人為的に賦活化し発現させるRett症候群を治療する方法を要旨とする。この発明において、X染色体不活化(X inactivation)機構により機能していないもう一方のX染色体上の対立遺伝子となる正常なMeCP2遺伝子を、人為的に賦活化し発現させる作用を有する物質を投与する。
【0010】
上記の治療する方法において、MeCP2遺伝子の発現、修復は脳神経部である。また、脳神経部は線条体(被殻)である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の医薬によれば、Rett症候群を治療できる。また、本発明の治療方法によれば、遺伝子治療、変異を起こしている染色体上のMeCP2遺伝子の変異箇所を修復、X染色体不活化(X inactivation)機構により機能していないもう一方のX染色体上の対立遺伝子となる正常なMeCP2遺伝子を、人為的に賦活化し発現させることによりRett症候群を治療できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の医薬に用いるMeCP2遺伝子は、MeCP2を発現し得る遺伝子をいう。また、MeCP2遺伝子は、発現されるポリペプチドがMeCP2と実質的に同効である限りその遺伝子配列の一部の欠失、置換、挿入、あるいは他の塩基の付加された遺伝子でも良い。MeCP2遺伝子は、Amir R E, Van den Veyer IB, Wan M, et al;Rett syndorome is caused by mutations in X-linked MeCP2, encoding methyl -CpG-binding protein 2 ;Nature Genet 1999;23:185-188に記載がある(Gene Bankのaccession番号はAF158181である)。
【0013】
MeCP2遺伝子を含む発現ベクターは、ウイルスベクター、非ウイルスベクター、プラスミドなどを例示できる。ウイルベクターは、例えばアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスイルス、レンチウイルス、センダイウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、ワクシニアウイルスなどが挙げられる。非ウイルスベクターは、例えばカチオン性リポソーム、膜融合性リポソーム、カチオン性高分子などが挙げられる。リポソームは、リン脂質からなる数10〜数100nmの粒径のカプセルで、その内部にMeCP2遺伝子を含むプラスミドを封入できる。
【0014】
MeCP2遺伝子を含む発現ベクターの作製は、以下の文献を参照して行うことができる。 ベクターとしてのアデノウイルスの一般的な取り扱いに関しては、「Frank L. Graham著、Manipulation of adenovirus vectors, Chapter 11, p109-128」及び「E. J. Murray編、Methods in Molecular Biology, Vol. 7: Gene Transfer and Expression Protocols (1991)」、アデノウイルスの作製に関しては、「Chen, S-H. et al., Combination gene therapy for liver metastases of colon carcinoma in vivo. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (1995) 92, 2477-2581.」に記載の方法に準じて行うことができる。また、特願2003-432279に記載の方法に基づき作製することもできる。ベクターとしてのアデノ随伴ウイルスの作製法に関しては、Lu Y.,Stem Cells Dev.13(1):133-45,2004、Grimm D.,Methods.28(2):146-57,2002に準じて行うことができる。ベクターとしてのヘルペスウイルスの作製に関しては、Burton EA,et al, DNA Cell Biol.21(12):915-36,2002、Burton EA, et al, Curr Opin Biotechnol.13(5):424-8,2002 に準じて行うことができる。ベクターとしてのレトロウイルスの作製に関しては、Kosai KI, et al, Hum Gene Ther.9(9):1293-301,1998、Kay MA, et al,Hum Gene Ther.3(6):641-7,1992に準じて行うことができる。ベクターとしてのレンチウイルスの作製に関しては、Naldini L.,Curr Opin Biotechnol.9(5):457-63,1998に準じて行うことができる。ベクターとしてのリポソームの作製に関しては、島田 隆、斉藤 泉、小池 敬也 編:実験医学別冊 バイオマニュアルupシリーズ、遺伝子治療の基礎技術、p127-140 羊土社、1996、及び新津 洋司朗、浅野 茂隆、島田 隆、藤永 惠 編、蛋白質 核酸 酵素 1995年12月号増刊、遺伝子治療、p2550-2555 共立出版株式会社 vol.40 no.17 1995に準じて行うことができる。また、プラスミド、DNA、各種酵素、大腸菌、培養細胞などを取り扱う遺伝子工学技術は、「Current Protocols in Molecular Biology, F. Ausubelら編、(1994), John Wiley & Sons, Inc.」及び「Culture of Animal Cells; A manual of Basic Technique, R. Freshney編、第2版(1987),Wiley-Liss」に記載の方法に準じて行うことができる。
【0015】
本発明の医薬は、有効成分のMeCP2遺伝子を含む発現ベクターと薬学的に許容される賦形剤、担体、溶剤などの助剤とを混合し、注射剤などの種々の製剤形態で用いることができる。また、本発明の医薬の投与態様は、特に限定されず、例えば注射、カテーテルなどにより投与できる。変異を起こしている染色体上のMeCP2遺伝子の変異箇所を修復する物質あるいはX染色体不活化(X inactivation)機構により機能していないもう一方のX染色体上の対立遺伝子となる正常なMeCP2遺伝子を、人為的に賦活化し発現させる作用を有する物質の場合、投与形態は特に限定されず、全身静脈投与、あるいは経口投与などで投与できる。
【0016】
本発明の医薬により投与されるMeCP2遺伝子の量は、MJ Duringらのアデノ随伴ウイルスによるParkinson病の遺伝子治療(黒質線条体部)(MJ During et al. In vivo expression of thrapeutic human genes for dopaminne production in the caudates of MPTP-treated monkeys using an AAV vector Gene therapy (1998)5,820-827)を参照すると、1.5μl(1.5×105感染力価)が有効と推察されるが、投与を受ける者の病態、年齢、体重などを考慮して適宜増減できる。
【0017】
本発明の医薬は、脳神経部にMeCP2遺伝子を導入する遺伝子治療に用いることができ、特には線条体(被殻)に導入することによりRTTの治療に供することができる。また、RTTにおけるMeCP2遺伝子異常による神経伝達物質、神経修飾因子、神経成長因子の遺伝子調節、転写の異常をMeCP2遺伝子の導入により治療できる。また、このRTTを治療する方法は、本発明の医薬を用いる遺伝子治療により行うことができるが、変異を起こしている染色体上のMeCP2遺伝子の変異箇所を修復することにより、あるいはX染色体不活化(X inactivation)機構により機能していないもう一方のX染色体上の対立遺伝子となる正常なMeCP2遺伝子を、人為的に賦活化し発現させることにより行うこともできる。
【実施例】
【0018】
次に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中のプラスミド、DNA、各種酵素、大腸菌、培養細胞などを取り扱う遺伝子工学技術ならびに細胞培養技術などは、特に断らない限り、上記の「Current Protocols in Molecular Biology, F. Ausubelら編、(1994), John Wiley & Sons, Inc.」及び「Culture of Animal Cells; A Manual of Basic Technique, R. Freshney編、第2版(1987), Wiley-Liss」に記載の方法に準じて行った。
【0019】
〔実施例1〕(Ad.MeCP2の作製)
MeCP2遺伝子を導入するアデノウイルスベクターAd.MeCP2は、以下のように作製した。
【0020】
ヒトサイトメガロウイルス・初期遺伝子プロモーター/エンハンサー(以下CMVプロモーター)下にマウスMeCP2遺伝子を発現するアデノウイルスベクター(Ad.MeCP2)は、以下のように作製した。その作製に使用する材料は、プラスミドpGAD(インビトロジェン社)にマウスMeCP2遺伝子のコーディング領域(ORF)の全長cDNAを含むプラスミドであるpGAD/MeCP2を、英国のEdinburgh大学のAdrian Bird氏より供与を受け入手した(詳細は、Nan,X., Campoy, F.J.,and Bird,A.(1997); MeCP2 is a transcriptional repressor with abundant binding sites in genomic chromatin Cell Vol.88,471-481及び Nan,X., T, Peri., and Bird, A.(1996);DNA methylation specifies chromosomal localization of MeCP2, Molecular and Cellular biology, Jan.414-421に記載)。一方、アデノウイルス作製のためのシャトルベクタープラスミドpHMCMV6(CMVプロモーターの下流に、順にマルチクローニングサイト、更にウシ成長ホルモンのポリアデニレーションシグナル((以下、polyA))の配列を持つ)、アデノウイルスベクタープラスミドpAd.HM4(ヒト5型アデノウイルスE1領域及びE3領域を欠損したゲノムを含む30.3kbのプラスミド)は、米国Stanford大学のMark Kay氏より供与を受け入手した(pHMCMV6とpAd.HM4プラスミドの詳細はH. Mizuguchi and M. Kay: Human Gene Ther vol. 10: 2013-201 (1999)に記載)。
【0021】
まず、プラスミドpGAD/MeCP2より制限酵素EcoRIにて、MeCP2遺伝子のORFを含む1.5 kbのcDNAを切り出し、T4 DNAポリメラーゼIで断端の平滑末端化を行った(インサート)。 一方、pHMCMV6はマルチクローニング部を制限酵素EcoRIにて消化し、T4 DNAポリメラーゼIで断端の平滑末端化を行い、更に自己ライゲーションを防ぐためCalf Intestine Phosphatase(CIP)酵素で末端脱リン酸化処理した後、切断されたpHMCMV6を回収した(ベクター)。インサートのMeCP2 ORFとベクターのpHMCMV6をT4 DNAリガーゼでライゲーション反応を行い、pHMCMV6のマルチクローニングサイトにMeCP2 ORFが挿入されたプラスミドpHMCMV6-MeCP2を得た。次に、プラスミドpHMCMV6-MeCP2とpAd.HM4を制限酵素のI-CeuI、PI-SceIで切断し、これらをT4 DNAリガーゼで反応させライゲーションすることにより、CMVプロモーター、MeCP2 ORF、polyAの発現ユニットを含むアデノウイルスベクタープラスミドpAd.HM4-CMV-MeCP2が得られた。pAd.HM4-CMV-MeCP2を制限酵素PacIで切断し、フェノール/クロロホルム精製、エタノール沈殿にて回収したDNAを293細胞に遺伝子導入し、その10-14日後に出現したアデノウイルスAd.MeCP2のプラークを回収した。このプラーク液を293細胞に感染させ、ウイルスの増幅を行い、CsClの密度勾配法による精製、カラムによる脱塩を行った。このAd.MeCP2はヒト5型アデノウイルスベクターで、細胞に感染、遺伝子導入後はCMVプロモーターの制御下にMeCP2遺伝子を発現するものである。
また同様の方法で、CMVプロモーターの制御下に大腸菌のLacZ遺伝子を発現するコントロールのアデノウイルスAd.LacZ(詳細は、Gene Ther, 1996;3(9):802-810に記載)を作製、調整した。
【0022】
実験に用いたMeCP2遺伝子欠損マウスは、Jackson Labolatoryより供与されたもので入手可能である(Strain name : B6.129P2(C)-MeCP2tm1.1Bird/J, Stock number : 003890)。MeCP2-/y雄は約40生日以降に、MeCP2+/-雌は生後3カ月以降に後ろ足をすくめるしぐさ(hind-limb crasping)、活動低下、筋力低下、巧緻機能低下、過呼吸、痙攣、社会性の欠如などが認められてくる。そこで、MeCP2-/y雄は、生後39生日又は40生日のマウスを、MeCP2+/-雌は生後5カ月以上経過後で神経症状が重度であるマウスを使用した。これらの中には、自傷行為が認められたものもあった。
【0023】
〔実施例2〕(アデノウイルスによる遺伝子導入部位の条件の設定)
多彩な神経症状とは対照的に、RTT患者の脳の剖検、またMeCP2遺伝子欠損マウスの病理学的検討では、組織学的には形体異常を認めないという特徴がある。MeCP2遺伝子は正常のヒト、マウスでは生後は全ニューロンで高発現しているのであるが、このMeCP2遺伝子に変異があるRTT患者では、果たしてどの部位に正常MeCP2遺伝子を遺伝子導入、あるいは、発現させるべきだということを組織形態学的検討から推察できないため、その遺伝子導入すべき部位ということに関して現時点では定説はない。一方、単光子放射線コンピューター断層撮影法(SPECT)でRTT患者の線条体部のドーパミンD2レセプターの減少(Chiron C, Bulteau C, Lih C, et al. Dpaminergic D2 receptor SPECT imaging in Rett syndrome: increase of specific binding in striatum,. J Nucl Med 1993; 34: 1717-1721)、RTT末期患者の剖検脳の病理学的検討で微細所見ではあるが黒質の顆粒の減少(Armstrong DD. Review of Rett syndrome. J. Neuropathol. Exp Neurol 56, 843-849 (1997)なども報告されており、黒質線条体部でのドーパミンニューロンの異常を示唆する報告もある。但し、これと相反してRTT患者のドーパミンニューロン機能が正常だったという報告もあり、RTT患者におけるドーパミンニューロンの異常が本当にあるのかということも、そしてその詳細も現状では完全に確証されてはいない。これらのドーパミンニューロンの異常を示唆する一部の報告に加え、本発明者自身のRTT患者での症状における神経学的考察から、RTTにおけるMeCP遺伝子欠損による線条体(被殻)の異常を推察し、MeCP2遺伝子導入部位として今回、線条体(被殻)を標的とすることに決めた。そこで、マウスの線条体(被殻)にアデノウイルスベクターで確実に遺伝子導入するための実験の条件(特に定位脳手術の手技により注射針を挿入する位置条件)を決定するため、以下のような予備実験を行った。
【0024】
まず、導入部位の決定には、RTTモデルマウスと同週令のC57BL/6Jの野生マウス(Wild mouse:以下、WTという)を使用した。マウスをエーテル深麻酔の状態におき、定位脳手術台(David Kopf Instrument Model 900 with Neonatal rat/mouse adapter)に腹臥位にて固定した。マウスの頭蓋骨を縦切開で露出させ、大泉門から側方、尾側の位置にドリルにて約1 mmの穴をあけ、そこから10μl Hamilton syringeで26Gの針を使用し、5μl のAd.LacZをStereotaxic injector(KDS 310)を使用して0.5μl/minの速度で10分間かけて導入し、その後5分間静置した。それを左右対称の位置に行った。その後、ゆっくりシリンジを引き抜き、マウスの頭蓋骨の穴はgel spongeで包埋し、3-0の絹製縫合糸で縫合し、マウスはrecovery cageへ移した。ウイルスの導入部位は以下のように同定した。大泉門から側方へ2 mmを測方方向の最大値とし、その位置から中枢側へ0.2 mm間隔、尾側へは0.5 mm間隔、針を導入する深さは1.5 mmより0.5 mm間隔とし、これを左右対称の位置に行った。
【0025】
以上の条件にてAd.LacZをマウスの脳に導入して4日、1週、2週、4週、6週後、マウスの脳をエーテル深麻酔下にて取り出し、導入部位の針瘢に沿って前額断し、その面を下に向け、OCTコンパウンドにて包埋し、液体窒素にて凍結させた。その後、厚さ20μmの凍結切片を50枚作製し、以下のように染色した。まず、組織切片スライドを50%エタノールで脱水し、その後PBSで洗浄し、2%ホルムアルデヒドと0.2%グルタールアルデヒドの含まれるPBSで30分間固定した。それをPBSで洗浄した後、X-gal染色液に浸し、37℃の条件下で一晩インキュベーションを行い、組織観察のためヘマトキシリン・エオジンでカウンター・ステインを行い上記で述べた、各々の条件において導入部位を確認した。その結果、線条体(被殻)の中心部位に大泉門より側方に1.8 mm、尾側へ1.0 mm、深さ4 mmとする条件で再現性を持って確認できた。この条件下においてヘマトキシリン・エオジンでカウンター・ステインを行った結果を図1に示す。確かに大泉門より側方に1.8 mm、尾側へ1.0 mm、深さ4 mmの条件下でAd.LacZ導入を行うと線条体(被殻)の中心部位にX-gal染色陽性所見(導入遺伝子のLacZ遺伝子が発現した部位がX-gal染色で陽性となる)を確認できた。また、遺伝子導入して4日後から6週後までのいずれの組織でも、同様に線条体(被殻)でX-gal染色陽性所見が認められたため、導入遺伝子が少なくとも6週以上は発現を継続していることも確かめられた。
【0026】
〔実施例3〕(MeCP2遺伝子欠損マウスへのAd.MeCP2投与による導入遺伝子MeCP2の発現の確認)
上記のように、WTにAd.LacZを用いて、線条体(被殻)の中心部へ確実に遺伝子導入できる条件を確立した。さらに、実際のMeCP2遺伝子欠損マウスでの治療実験において、導入したMeCP2遺伝子が確実に発現していることを確認する目的で、実施例2で決定した同条件(位置ならびにウイルス量など全て同条件)でAd.MeCP2を9匹のMeCP2-/y雄の線条体(被殻)へ投与し、以下の方法でMeCP2遺伝子の発現を確認した。この9匹中6匹と3匹を、それぞれAd.MeCP2投与後3日目、7日目に安楽死させ、脳を採取し、その脳の半分をRT-PCR解析用に直接迅速凍結保存し、 残りの半分を免疫組織染色用にOCTコンパウンドに包埋した状態で凍結保存した。
【0027】
直接凍結保存した脳組織は、セパゾールRNA I Super(ナカライテスク、カタログ番号304-86)1mlを加えホモジナイズし、クロロホルムにて水相とフェノール相に分離し、回収した水相に等量のイソプロパノールを加え、30分間静置後に、遠心してRNAを沈殿させた。上清を廃棄後、冷70%エタノールを加えた後に遠心することを2回行い、乾燥させて水に溶かし、精製したRNAを回収した。次いで、RNase-free DNase I(タカラ、カタログ番号2215A)を加えて37℃で1時間反応させてDNase処理にて微量含まれていると思われるゲノムDNAを消化した。フェノール・クロロホルム処理、エタノール沈殿にてDNaseを取り除き、純粋なRNA溶液を得た。1μgのトータルRNAをSuperScript II逆転写酵素(Invitrogen社)にて逆転写してcDNAを作製し、更にTag DNA polymerase(Promega社)を用い、以下のPCRプライマーを用いてDNAを増幅した。MeCP2のセンスプライマー(5’-GTATGATGACCCCACCTTGC-3’)(配列表:配列番号1)、アンチセンスプライマー(5’-GGCTGCTCTCCTTGCTTTTA-3’)(配列表:配列番号2)、インターナルコントロールのヒポキサンチンフォスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)のセンスプライマー(5’-CCTGCTGGATTACATTAAAGCACTG-3')(配列表:配列番号3)、アンチセンスプライマー(5’-AAGGGCATATCCAACAACAA-3')(Takao Kawai et al. Circ. J. 2004; 68: 691-702)(配列表:配列番号4)は、北海道システム・サイエンス社に依頼して合成したものを用いた。PCRの条件は、94℃(30秒)、57℃(1分)、74℃(1分)で、35 cycleの反応を行い、1%アガロースゲルにて電気泳動して、図2に示したように、Ad.MeCP2投与後3日目(D3)、7日目(D7)で正しいサイズのPCRのバンドを確認できた。
【0028】
一方、OCT包埋凍結組織は、20μmでスライスした切片をプレパラートに貼付け風乾後、4%パラホルムアルデヒド溶液にて10分間固定した。PBS溶液にて3回洗浄後、1%BSA溶液にて1時間インキュベートして非特異的反応をブロッキングし、PBS洗浄後に1/50希釈の抗MeCP2抗体(Upstate社、カタログ番号#07-013)を加えて室温で1時間反応させた。PBS液にて洗浄後、蛍光標識の2次抗体(Molecular Probe社)を加え1時間室温で反応させ、PBSで洗浄後に、蛍光顕微鏡下で観察して写真を撮影した。その結果、図3に示したように、導入遺伝子(transgene)であるMeCP2遺伝子の蛋白の発現をMecP2-/y雄マウスの脳の線条体(被殻)に確認できた。
【0029】
〔実施例4〕(マウス脳へのAd.MeCP2及びAd.LacZ導入後の行動評価)
実験動物として、MeCP2-/y雄とMeCP2 +/-雌を使用し症状の改善を検討した。
MeCP2-/y雄はMeCP2遺伝子が完全に欠損し、RTTと同様な神経症状を呈する。現時点では、後天的にMeCP2遺伝子を導入し、MeCP2遺伝子を初めて発現させることによって、RTTの神経症状が変化するものか、改善するものか、すなわちRTTが可逆性なものなのか分かっていない。そのために、後天的にMeCP2遺伝子を発現させ、そのことが症状発症後に症状の改善効果を示すかどうかをより科学的にはっきりと検証できるようにするために、まずMeCP2遺伝子を完全に欠損しているMeCP2-/y雄を使用して遺伝子治療実験を行った。
一方、RTTは叙述のようにヒトではほとんどが女児で(ヒトでは、通常、男性のRTT患者は症状が激烈なため、胎生致死となって生まれてこない)、その染色体型もMeCP2遺伝子欠損マウスのMeCP2 +/-雌と同一のヘテロ状態であることより、実際のRTT患者への治療作用や効果などの臨床的事項を更に適切に評価する目的で、次にMeCP2 +/-雌を用いて遺伝子治療実験を行った。
【0030】
症状の改善の評価は、MeCP2-/y雄に対する治療マウスとしてAd.MeCP2、コントロールとしてAd.LacZを神経症状がその前後で認められる39生日あるいは40生日にマウスの線条体(被殻)に導入し、4日後、1週間後にそれぞれ(1)オープンフィールドテスト(Open field test)、(2)ポールテスト(Vertical pole test)、(3)ワイヤーテスト(Suspended wire test)、(4)ドーウエルテスト(Dowel test)を行った。さらに、MeCP2+/-雌に対しては、MeCP2+/-雌の足をすくめるしぐさ(hind limb crasping)、寡動や無動、過呼吸、痙攣といった症状が生後3生月を過ぎてから認められるので、Ad.MeCP2の導入は5生月を過ぎてから使用した。更に、MeCP2+/-雌は、症状が重く、弱っているマウスを使用した。Ad.MeCP2の導入後、MeCP2-/y雄の場合と同様に行動評価を行った。MeCP2 +/-雌に対しては、行動評価はウイルス導入後4日後、1週間後、以後4週間後までは1週間毎に、それ以降は2週毎に行った。Ad.MeCP2及びAd.LacZの投与量は、それぞれ5μl(3×107pfu)とした。また、各行動評価の内容は以下の通りである。
(1)オープンフィールドテスト(Open field test):この行動評価は運動能(動的活動)、情動活動を評価する目的で行った。1.5×1.0×0.2 mのオープンフィールド(Open field)を作製し、それを48(8×6)の正方形に分画する。マウスをオープンフィールド(Open field)の中心に興奮させないように静かに放し、以下の項目を5分間観察する。 運動能(動的活動)を評価する項目として、1)移動した正方形マスの総数(Total no. squares visited)、2)動かなかった時間(Time spent immobile)、情動活動を評価する項目として、1)排泄の回数(Number of fecal boli)、2)毛繕いの時間(Time spent grooming)、運動能(動的活動)と情動活動を反映する項目として、1)後ろ足立ちの回数(Number of rears)を測定する。
(2)ワイヤーテスト(Suspended wire test):この行動評価は筋力を評価する目的で行った。直径2 mmのワイヤー(wire)を水平に張り、マウスの前足をワイヤー(wire) に掴まらせマウスがワイヤー(wire)に掴まっている時間(Time hanging on wire)を最高10分間として測定する。
(3)ドーウエルテスト(Dowel test):この行動評価は巧緻機能、平衡感覚、筋力を評価する目的で行った。直径1.9 cmの棒(dowel)上にマウスを静かに乗せマウスが棒(dowel)を渡りきることができるか、棒(dowel)の上に乗っている時間(Time on dowel)を測定した。マウスが棒(dowel)上を渡りきってしまえばそこで測定を一時停止し、再びマウスを棒(dowel)上にのせ測定を再開した。これを最大120秒まで続けた。
(4)ポールテスト(Vertical pole test):この行動評価は巧緻機能、協調運動を評価する目的で行った。布で被った直径1.9 cm、長さ43 cmの棒を水平の方向から、垂直方向に動かす。マウスを棒が水平の状態で棒の端に静かに乗せ、その状態から棒を垂直方向に動かす。その間にマウスが棒を伝って降りていく時間、あるいは掴まっている時間を測定し以下のようにスコア化(Pole score)した。
45°までに落下;0点、90°までに落下;1点、0-10秒で落下;2点、11-20秒で落下;3点、21-30秒で落下;4点、31-40秒で落下;5点、41-50秒で落下;6点、51-60秒で落下;7点、60秒棒の上に掴まっているか半分まで降りられる;8点、更に下まで降りる;9点、51-60秒で降りる;10点、41-50秒で降りる;11点、31-40秒で降りる;12点、21-30秒で降りる;13点、11-20秒で降りる;14点、1-20秒で降りる;15点
【0031】
結果は、図4−1〜図6−2に示した。
MeCP2遺伝子は胎生期に発現し脳の発達、成熟と相関し発現してくる。そして、出生後はすべての神経細胞で高発現している。これを考えると、MeCP2遺伝子は神経細胞の働きに重要な役割を担っていると思われるが、MeCP2遺伝子がどのように脳の機能に関わっているのか詳細には全く分かっていない。そこで、RTTの症状をみるとその神経症状は多彩である。MeCP2遺伝子が欠損している状態のRTTで多彩な神経症状を示している時に、果たして、後天的にMeCP2遺伝子を初めて発現させることによって、RTTの神経症状が変化するものか、改善するものか、すなわちRTTが可逆性なものなのか現時点では判定できない。
【0032】
そのために、MeCP2遺伝子が完全欠損しているMeCP2-/y雄においてMeCP2遺伝子を導入し、後天的にMeCP2遺伝子を発現させ、そして、そのことが、症状発症後に症状の改善効果を示すかどうかを検討した。
【0033】
図4−1〜図4−8は、ウイルスベクター導入にMeCP2-/y雄を用いた実験結果を示す。
オープンフィールドテスト(Open field test)は、Ad.MeCP2を導入したもの(以下、Null/Ad.MeCP2という)を作製し、その導入遺伝子(transgene)のMeCP2遺伝子がどれくらい発現すればよいのかを検討し、また、過剰に発現するとどのような症状変化が認められるかを検討するため、MeCP2-/y雄と同様にWTの線条体(被殻)にAd.MeCP2を導入したもの(以下、WT/Ad.MeCP2という)を作製し、行動評価を行った。ワイヤーテスト(Suspended wire test)、ドーウエルテスト(Dowel test)、ポールテスト(Vertical pole test)は、Null/Ad.MeCP2についての行動評価を行った。なお、コントロールとしてMeCP2-/y雄の線条体(被殻)にAd.LacZを導入したもの(以下、Null/Ad.LacZという)、WTの線条体(被殻)にAd.LacZを導入したもの(以下、WT/Ad.LacZという)及びWTについても行動評価を行った。また、統計的な処理は、Student t-testにより行った。
【0034】
図4−1〜図4−5は、オープンフィールドテスト(Open field test)の結果を示す。図4−1は、オープンフィールドテスト(Open field test)で移動した正方形マスの総数(Total no. squares visited)を示す。ウイルスベクター導入後4日目より既にNull/Ad.LacZに比べ、Null/Ad.MeCP2の移動した正方形マスの方が多く観察されている。更に、導入後7日目をみると、その差は顕著になり、Null/Ad.LacZに比べ、Null/Ad.MeCP2の移動した正方形マスの方が有意に多く観察された(p<0.05)。この結果より、Null/Ad.MeCP2は有意に運動能(動的活動)が改善されている事を示している。この結果より、MeCP2遺伝子を後天的に導入しMeCP2遺伝子を発現させることによりRTTの運動能(動的活動)の低下が改善することが示された。
【0035】
図4−2は、オープンフィールドテスト(Open field test)のマウスが動かない時間(Time spent immobile)を示す。この項目も運動能(動的活動)を評価でき、図4−1の移動した正方形マスの総数(Total no. squares visited)の裏付けを示している。ここでもウイルスベクター導入後4日目から、すでにNull/Ad.LacZに比べ、Null/Ad.MeCP2の動かない時間が短く、導入後7日目で、図4−1と同様にその差は顕著になり、統計学的に有意に短かった(p<0.05)。これは前述したように、図4−1の裏付けをしており、この項目からみても運動能(動的活動能)がウイルス導入後徐々に改善し7日目で統計学的に有意に改善していることが示された。
【0036】
図4−3は、オープンフィールドテスト(Open field test)の後ろ足立の回数(Number of rears)を示す。この評価においてもウイルスベクター導入後4日目よりNull/Ad.LacZに比べ、Null/Ad.MeCP2の後ろ足立が多くなり、導入後7日目でNull/Ad.LacZに比べ、Null/Ad.MeCP2後ろ足立の回数が有意に多くなる(p<0.05)。これからもNull/Ad.MeCP2の運動能(動的活動)が有意に改善したと思われる。更に、この項目は情動性の変化も評価できるがこの項目で、周りに目を向けるという詮索行動の改善も示唆される。
【0037】
図4−4は、オープンフィールドテスト(Open field test)の身繕いする時間(Time spent grooming)を示す。この項目では、情動的な面が検索できるがこの項目では変化は認められなかった。
【0038】
図4−5は排泄の回数(Number of fecal boli) を示す。この項目も情動面を評価できるが、Null/Ad.LacZとNull/Ad.MeCP2との間では大きな差はなかったのでこの項目をみると情動的な面の変化は見られなかったのではないかと思われる。
【0039】
図4−6は、ワイヤーテスト(Suspended wire test)の結果を示す。ウイルスベクター導入後4日目ですでにNull/Ad.LacZに比べNull/Ad.MeCP2がワイヤー(Wire)に掴まっている時間(Time hanging on wire)が長い傾向が認められ、7日目ではその傾向は若干小さくなるがやはり、Null/Ad.LacZに比べNull/Ad.MeCP2がワイヤー(wire)に掴まっている時間が長い。MeCP2-/y雄はかなり筋力が弱くすぐワイヤー(Wire)から落ちてしまうが、Null/Ad.LacZに比べNull/Ad.MeCP2が掴まっていることができる時間が長い傾向にあり、実際に観察していると筋力が回復しているようにみられるマウスが多かった。
【0040】
図4−7は、ドーウエルテスト(Dowel test)の結果を示す。この項目では時間のみをみると、WTと比べNull/Ad.LacZとNull/Ad.MeCP2いずれも導入後4日後から明らかな差は見られずそれが7日後も同様に大きな変化がなかったので、これにより治療効果を評価するのは難しかった。しかし、行動評価中のマウスの動きをみると、120秒間の動きはNull/Ad.MeCP2がNull/Ad.LacZに比べて、上手に棒(dowel)の上を渡りきる傾向があった。
【0041】
図4−8は、ポールテスト(Vertical pole test)の結果を示す。Null/Ad.LacZとNull/Ad.MeCP2とでは、どちらの群も有意にスコアの改善はみられなかったが、Null/Ad.MeCP2の群の方がやや上手に前後の足を協調させて動かし、棒を降りることができた。しかし、スコア上では差がなかった。ただ、これにより、MeCP2-/y雄は神経症状の進行が早いので見かけ上、巧緻機能の変化がうまくみられなかったのではないかとも考えられる。
【0042】
MeCP2遺伝子を導入して、どれくらい発現するか、また、過剰発現して神経細胞にどの様な影響を及ぼすか、また、その量がどれくらいかは分かっていない。そこで、WTに対してAd.MeCP2を導入し、過剰発現させることでどの様に変化するかをオープンフィールドテスト(Open field test)で評価した。そのオープンフィールドテスト(Open field test)でのWT、WT/Ad.MeCP2、WT/Ad.LacZの結果を図4−1〜図4−4に示した。オープンフィールドテスト(Open field test)すべての項目において、WT、WT/Ad.MeCP2、WT/Ad.LacZの各々の群を比較すると統計学的な有意差は認められなかった。WTは、もともと中枢神経にMeCP2遺伝子は正常に発現しており、そこにAd.MeCP2を導入させても何ら変化はなく、また、コントロールとしてAd.LacZを導入した群と比較しても、なんら変化がないので脳内にこの手法でウイルス導入することでMeCP2遺伝子を過剰発現させても影響のないことが示された。
【0043】
MeCP2-/y雄の実験において、MeCP2遺伝子が完全欠損している状態でMeCP2遺伝子を後天的に導入することで、RTTの神経症状の改善、特に運動能(動的活動)の改善が認められた。このことで、RTTの神経症状が可逆的であることが分かった。一方、WTにMeCP2遺伝子を導入することでMeCP2遺伝子を過剰に発現させても神経症状の変化はみられなかったので、少なくとも現在の条件でMeCP2遺伝子を線条体(被殻)で過剰発現させた場合、生体に何らかの悪影響を及ぼすことはないことが確認できた。
【0044】
MeCP2-/y雄にAd.MeCP2を導入した後の行動評価のオープンフィールドテスト(Open field test)において、特にウイルス導入後7日目に運動能(動的活動)の有意な改善を認めたため、次に、人間のRTTの病態を非常によく反映しているMeCP2+/-雌を使用し実験を行った。MeCP2+/-雌は症状の多様性があり、個体差があるが、よりよく症状の変化を観察できるように、マウスは生後5生月以上経過し、症状が重く弱っているものを使用した。5μl(3×107pfu)のAd.MeCP2をMeCP2-/y雄の実験と同様に、線条体(被殻)に導入し同様の行動評価を行った。その結果を図5−1〜図5−6に示す。
【0045】
図5−1〜図5−3は、オープンフィールドテスト(Open field test)でマウスが移動した正方形マスの総数(Total no. square visited)の推移を示す。図5−1と図5−2はAd.MeCP2導入後の経過の典型例を示す。MeCP2+/-雌にAd.MeCP2遺伝子導入後の症状の推移にはいくつかのパターンが認められ、症状の改善の具合には差はあるものの運動能(動的活動)の改善が認められた。図5−1のようにAd.MeCP2を導入してから徐々に運動能(動的活動)が改善しその効果が20週は持続するというパターンをとるマウスがみられた。一方、図5−2のようにAd.MeCP2遺伝子導入後2週間後〜3週間後といった早期に運動能(動的活動)の改善の効果が認められ、その後もその効果が少なくとも20週は持続するといったパターンをとるマウスも認められた。
【0046】
図5−3はAd.MeCP2を導入したすべてのMeCP2 +/-雌の平均の推移をしめす。エラーバーは標準誤差を示す。マウスの数は9匹行った。すべてのマウスを平均してその推移をみると、MeCP2+/-雌の場合は症状の推移にはいくつかのパターンが認められ症状の改善の具合には差が認められるため、その改善の推移は徐々に運動能(動的活動)の改善を認め、2週間目でピークが認められた。その後もしばらく導入したことの効果は持続すると思われる。
【0047】
図5−4は、ワイヤーテスト(Suspended wire test)の結果の平均の推移を示す。MeCP2+/-雌において、このワイヤーテスト(Suspended wire test)では、初め筋力がかなり落ちていることが分かる。それがAd.MeCP2導入後徐々に改善を認め、6週後にワイヤー(wire)に掴まっていることが出来る時間のピークを認めた。その後しばらくその効果も持続した。Ad.MeCP2導入前とAd.MeCP2導入後の各々の日数との間で統計学的に有意に改善したかどうかを評価した。Ad.MeCP2導入3週間後より有意な改善認められ、導入後3週間後でp<0.05(†)、4週間後でp<0.05、6週間後でp<0.005(‡)、8週間後でp<0.05の有意差を認めた。統計学的にみると、Ad.MeCP2導入して3週間後より筋力の有意な改善を認め、6週間後で有意な改善のピークを認め、その改善は劇的であり、その効果が少なくとも20週間は持続すると評価できた。MeCP2-/y雄の場合と比べMeCP2 +/-雌の場合が症状の改善が明確にとらえられたのは、改善のピークが6週間後とかなり時間がかかって認められたせいではないかと思われる。
【0048】
図5−5は、ドーウエルテスト(Dowel test)の結果の平均の推移を示す。Ad.MeCP2導入後より徐々に棒(dowel)上にとどまれる時間(Time on dowel)が増し、導入後6週間目でピークを認め、その効果をしばらく持続することができた。これを同様にAd.MeCP2導入前とAd.MeCP2導入後の各々の日にちとの間で統計学的に有意に改善したかどうかを評価した。Ad.MeCP2導入後4週間目より有意差が、4週間後でp<0.05(†)、6週間後でp<0.005(‡)とみられ、有意に棒(dowel)上にとどまれる時間が増えた。これから、Ad.MeCP2導入後4週間目から統計学的に有意な平衡感覚と巧緻機能の改善がみられ6週間目にピークを認め、その効果は少なくとも20週間は維持することが認められた。
【0049】
図5−6はポールテスト(Vertical pole test)の結果の平均の推移を示す。この行動評価では、Ad.MeCP2導入後1週間後で改善が認められ、その能力を維持できた。これは、MeCP2-/y雄の場合と同様に行動評価開始時よりスコアが8点と低い訳ではないため評価がしにくいところもある。
アデノウイルスの発現が1〜2ケ月持続するとの報告があるが(Davidson, B.L. et al. A model system for in vivo gene transfer into the central nervous system using an adenoviral vector. Nature Genet. 3,219-223 (1993))、同様の確認を行ったところ、その発現期間と一致して今回MeCP2+/-雌の実験のワイヤーテスト(Suspended wire test)とドーウエルテスト(Dowel test)で改善のピークが認められた。また、RTT患者はほとんどが女児であり疾患モデルとしてはMeCP2+/-雌が最適であると思われ、今回そのMeCP2+/-雌の実験において、劇的な治療効果が認められた。MeCP2-/y雄に対してはMeCP2-/y雄がMeCP2遺伝子の完全欠損であるために、導入遺伝子(transgene)のMeCP2遺伝子の発現量が少なかったかもしれないし、あるいは、その発現量を多くすればよかったのかもしれない。しかし、これらの実験を通してみると、MeCP2遺伝子を後天的に導入することで、神経症状の改善が認められたため、この手法により治療効果が認められることが分かった。
【0050】
RTTでは、運動機能の退行とともに、精神発達遅滞、自閉傾向やその他の精神機能の異常がみられるのが特徴であり、自分を傷つける自傷行為が認められることもある。 MeCP2-/+雌においては、比較的多くのマウスで自傷行為がみられ、今回実験を行ったMeCP2-/+雌のうち6匹は自傷行為が顕著なマウスであった。驚いたことに、叙述の運動機能の改善だけでなく、Ad.MeCP2導入後数日で全6匹の自傷行為が消失し、自傷創も完治した。 図6−1、6−2はその典型例のマウスの自傷創部を示すものである。図6−1はAd.MeCP2導入前の自傷行為による傷の状態を示すが、かなり広範囲に自傷行為による創傷が認められる。図6−2はAd.MeCP2導入して3週間後の同一のMeCP2-/+雌だが自傷創の完全な治癒が認められた。
ヒトRTT患者でも確かに自傷行為は見られる一方、精神発達遅滞、自閉傾向によるコニュニケーションの障害もあるため、精神機能の異常を精神神経学的に詳細に分類することは困難である。一方、マウスでは運動能の解析に比し、精神神経学的解析は限定されるし、当然全ての精神神経症状がヒトとマウスでそのまま対応され得るものではない。よって、今回マウスの実験で得られた「自傷行為が全マウスで完全に治るという劇的な治療効果」という結果は、限定的な自傷行為というより、更にもっと大きな可能性としてヒトのRTTの精神機能の異常も治療する可能性があると広く意義付けられるものと思われる。いずれにせよ、MeCP2遺伝子導入、発現により、MeCP2-/+雌の精神神経機能異常の一つが完全に改善できるというのは予想しなかった驚くべき結果であり、本発明はRTT患者の治療という点で極めて大きな意義を持つものである。
【0051】
上記のように、MeCP2遺伝子欠損マウスのMeCP2-/y雄及びヒトのRTTのモデルマウスとも言えるMeCP2 +/-雌の両者を用いての今回の治験の実験において、明らかな運動機能の改善(Open field test、Suspended Wire test、Dowel testでの改善は顕著)、自傷行為の消失(精神機能異常の明らかな改善)という、確かな治療効果が認められた。最近、MeCP2が脳由来神経栄養因子(Brain-Derrived Neurotropic Factor(BDNF))のプロモーター領域に結合してBDNFの発現調節をしているのだろうとの報告(Science 2003;302:885-889, Science 2003;302: 890-893)があるものの、未だMeCP2遺伝子変異(欠損)によるRTTの発症、病態のメカニズムは全く分かっていない。このため、MeCP2遺伝子を生後、そしてRTT症状の発症後に遺伝子導入することで、RTT患者に戻して再現させ、症状が改善するか否かは全く分かっていなかった訳であり、後天的にRTT患者にMeCP2遺伝子を発現させてやればその症状が改善し、治療できるということは今回の実験で初めて明らかになった。 更に、MeCP2遺伝子は正常なヒト、マウスでは、生後、脳全体のほぼ全てのニューロンで発現しており、RTT患者でMeCP2遺伝子を線条体(被殻)に発現させることでその症状を改善、治療できるという事実も、今回の治験の実験により初めて明らかになった。
【0052】
上記の二つの点が明らかになったことにより、本発明はMeCP2遺伝子を含む発現ベクタ
ーを遺伝子治療で遺伝子導入する他、以下の方法によりRett症候群を治療できる。すなわち、変異を起こしている染色体上のMeCP2遺伝子の変異箇所を修復してRTTを治療できる。
この治療で変異を起こしている染色体上のMeCP2遺伝子の変異箇所を修復する物質を投与することにより治療できる。MeCP2遺伝子の変異箇所を修復する物質は、遺伝子、核酸、オリゴヌクレオチドあるいはこれらの修飾物を挙げることができる。また、X染色体不活化(X inactivation)機構により機能していないもう一方のX染色体上の対立遺伝子となる正常なMeCP2遺伝子を、人為的に賦活化することによりRTTを治療できる。この治療でX染色体不活化(X inactivation)機構により機能していないもう一方のX染色体上の対立遺伝子となる正常なMeCP2遺伝子を、人為的に賦活化し発現させる作用を有する物質を投与して治療できる。これらの治療は、脳神経部の線条体(被殻)で発現、修復させることによりRTTを有効に治療できる。
【0053】
本発明で得られた、MeCP2の後天的な発現でRTT症状が改善するという知見、脳神経部の線状体(被殻)でのMeCP2は運動機能、感情のコントロールに重要な役割を果たしているという知見は、MeCP2の脳神経部での役割、そのメカニズムの解明という点でも、生物学的、神経学的に極めて重要な意義を有する。
RTTの詳細な症状改善のメカニズムは、今回の実験だけでは完全な解明にはならないものの、メカニズムの合理的な推察は幾つかできる。まず、RTT患者及びMeCP2遺伝子欠損マウスでは、多彩な重度の神経症状に比べ、脳、筋肉、その他の臓器に病理組織形態学的異常をほとんど認めないという特徴を有する。すなわち、今回の運動機能と自傷行為の改善という結果は、MeCP2遺伝子が線条体(被殻)でこのような活動、運動能(locomotor activity)の調節、ある感情のコントロールに働いていることを示唆するものである。また、最近の脳神経科学の研究から、大脳基底核から脳幹部へ延びるニューロンがあり、大脳基底核と脳幹部が協調して、骨格筋の筋力、運動能(自発活動性)をコントロールしていることが示唆される。また、元来、線条体(被殻)はこのような自発活動性で重要なドーパミンニューロンが集まっているところでもある。つまり、MeCP2は、大脳基底核の一部である線条体(被殻)で(おそらく、BDNFなどの神経栄養因子やドーパミンなどの神経伝達物質などの発現やその機能の調節をすることで)、このような筋力や自発運動能をコントロールしているものと推察できる。また、感情のコントロールに重要な役割をしているセロトニンニューロンも大脳基底核に延びているため、本発明の結果から、MeCP2は大脳基底核でセロトニンニューロンにも重要な役割をしているものと推察される。
【0054】
また、叙述のように、RTT患者は多彩な神経症状に比べ、形態学的な神経の壊死、変性などの変化が見られず、このことはパーキンソン病や先天性脳神経疾患などの多くの難治性の脳神経疾患がその神経症状に関与する部位のニューロンの壊死や変性に陥っているめ、残ったニューロンに目的遺伝子を導入する遺伝子治療により、仮にそれ以上のニューロンの壊死、変性を防ぎ、病状の進行を抑えることができたとしても、欠損したニューロンを蘇らせるわけではないため、ニューロン移植などの再生療法などといった、何らかの別の画期的な治療法の開発も必要となる。これに対し、ニューロンの壊死、変性がなく、おそらくMeCP2遺伝子欠損により脳神経の「可逆的な機能不全」が原因となっているRTTはMeCP2遺伝子治療だけで十分に治るという、他の難治性神経疾患において以上にRTTでは遺伝子治療が有用で、理想的な根治療法となることを示唆する。また、実際に今回の発明のMeCP2遺伝子治療で明らかな治療効果が認められたことは、この推測を裏付けるものである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】最終的に決定した最適条件下でAd.LacZを脳内注入して4週後に採取した脳組織のX-gal染色像の典型例を示す。遺伝子導入された部が染色されるため、この条件で線条体(被殻)中心部に遺伝子導入できたことが示されている。
【図2】MeCP2-/y雄にMeCP2遺伝子導入後、3日目(D3)、7日目(D7)に脳組織を摘出してRNAを抽出後、DNase処理したサンプルをRT-PCR反応後に電気泳動し、MeCP2 mRNAの発現を調べた図である。(-)は、何も遺伝子導入していないマウスの脳を示す。RTの欄の(+)は、通常通り逆転写反応後にPCRを行い(RT-PCR)、mRNAを調べているもので、RTの欄の(-)は逆転写反応なしにPCRをした実験の陰性コントロールである。D3、D7で(+)のみMeCP2の陽性バンドがみられるため、確かにMeCP2 mRNAがAd.MeCP2投与後の3、7日目に正しく発現していることを示している。下段HPRTは、同組織のRNAサンプルを用い、インターナルコントロールのヒポキサンチンフォスホリボシル遺伝子をRT-PCR反応した結果を示す。
【図3】図2と同実験で、Ad.MeCP2投与後3日目の脳組織を抗MeCP2抗体で免疫染色した線条体部の蛍光顕微鏡写真像を示す図である。
【図4−1】WT及びMeCP2-/y雄の脳の線条体にウイルスベクターを導入した後のオープンフィールドテスト(Open field test)での移動した正方形マスの総数を示すグラフである。(*:p<0.05)
【図4−2】WT及びMeCP2-/y雄の脳の線条体にウイルスベクターを導入した後のオープンフィールドテスト(Open field test)での動かなかった時間を示すグラフである。(*:p<0.05)
【図4−3】WT及びMeCP2-/y雄の脳の線条体にウイルスベクターを導入した後のオープンフィールドテスト(Open field test)での後ろ足立を示すグラフである。(*:p<0.05)
【図4−4】WT及びMeCP2-/y雄の脳の線条体にウイルスベクターを導入した後のオープンフィールドテスト(Open field test)での毛繕いの時間を示すグラフである。
【図4−5】WT及びMeCP2-/y雄の脳の線条体にウイルスベクターを導入した後のオープンフィールドテスト(Open field test)での排泄の回数を示すグラフである。
【図4−6】MeCP2-/y雄の脳の線条体にウイルスベクターを導入した後のワイヤーテスト(Suspended wire test)の結果を示すグラフである。
【図4−7】MeCP2-/y雄の脳の線条体にウイルスベクターを導入した後のドーウエルテスト(Dowel test)の結果を示すグラフである。
【図4−8】MeCP2-/y雄の脳の線条体にウイルスベクターを導入した後のポールテスト(Vertical pole test)の結果を示すグラフである。
【図5−1】MeCP2+/-雌の脳の線条体にAd.MeCP2を導入した後のオープンフィールドテスト(Open field test)での移動した正方形マスの総数の推移を示すグラフである。
【図5−2】MeCP2+/-雌の脳の線条体にAd.MeCP2を導入した後のオープンフィールドテスト(Open field test)での移動した正方形マスの総数の推移を示すグラフである。
【図5−3】MeCP2+/-雌の脳の線条体にAd.MeCP2を導入した後のオープンフィールドテスト(Open field test)での移動した正方形マスの総数の平均の推移を示すグラフである。
【図5−4】MeCP2+/-雌の脳の線条体にAd.MeCP2を導入した後のワイヤーテスト(Suspended wire test)の平均の推移を示すグラフである。(†:p<0.05、‡:p<0.005)
【図5−5】MeCP2+/-雌の脳の線条体にAd.MeCP2を導入した後のドーウエルテスト(Dowel test)の平均の推移を示すグラフである。(†:p<0.05、‡:p<0.005)
【図5−6】MeCP2+/-雌の脳の線条体にAd.MeCP2を導入した後のポールテスト(Vertical pole test)のスコアの平均の推移を示すグラフである。
【図6−1】Ad.MeCP2を導入前にMeCP2+/-雌に認められた自傷行為を示す図である。
【図6−2】図6-1と同一のMeCP2+/-雌のAd.MeCP2を投与して3週後の写真像を示す図である。自傷創部はほぼ完全に治癒している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MeCP2遺伝子を含む発現ベクターを有効成分とするRett症候群を治療する医薬。
【請求項2】
発現ベクターがウイルスベクター又は非ウイルスベクターである請求項1記載のRett症候群を治療する医薬。
【請求項3】
ウイルスベクターがアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスイルス、レンチウイルス、センダイウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス又はワクシニアウイルスである請求項2記載のRett症候群を治療する医薬。
【請求項4】
変異を起こしている染色体上のMeCP2遺伝子の変異箇所を修復する物質を有効成分とするRett症候群を治療する医薬。
【請求項5】
X染色体不活化(X inactivation)機構により機能していないもう一方のX染色体上の対立遺伝子となる正常なMeCP2遺伝子を、人為的に賦活化し発現させる作用を有する物質を有効成分とするRett症候群を治療する医薬。
【請求項6】
MeCP2遺伝子の発現、修復が脳神経部である請求項1〜請求項5のいずれかに記載のRett症候群を治療する医薬。
【請求項7】
脳神経部が線条体(被殻)である請求項6記載のRett症候群を治療する医薬。
【請求項8】
MeCP2遺伝子を含む発現ベクターを有効成分とする医薬を遺伝子導入するRett症候群を治療する方法。
【請求項9】
発現ベクターがウイルスベクター又は非ウイルスベクターである請求項8記載のRett症候群を治療する方法。
【請求項10】
ウイルスベクターがアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスイルス、レンチウイルス、センダイウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス又はワクシニアウイルスである請求項9記載のRett症候群を治療する方法。
【請求項11】
変異を起こしている染色体上のMeCP2遺伝子の変異箇所を修復するRett症候群を治療する方法。
【請求項12】
MeCP2遺伝子の変異箇所を修復する物質を投与する請求項11記載のRett症候群を治療する方法。
【請求項13】
X染色体不活化(X inactivation)機構により機能していないもう一方のX染色体上の対立遺伝子となる正常なMeCP2遺伝子を、人為的に賦活化し発現させるRett症候群を治療する方法。
【請求項14】
X染色体不活化(X inactivation)機構により機能していないもう一方のX染色体上の対立遺伝子となる正常なMeCP2遺伝子を、人為的に賦活化し発現させる作用を有する物質を投与する請求項13記載のRett症候群を治療する方法。
【請求項15】
MeCP2遺伝子の発現、修復が脳神経部である請求項8〜請求項14のいずれかに記載のRett症候群を治療する方法。
【請求項16】
脳神経部が線条体(被殻)である請求項15記載のRett症候群を治療する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図4−4】
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【図4−5】
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【図4−6】
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【図4−7】
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【図4−8】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図5−4】
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【図5−5】
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【図5−6】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【公開番号】特開2008−50263(P2008−50263A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−328158(P2004−328158)
【出願日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年8月5日から6日 日本遺伝子治療学会主催の「第10回 日本遺伝子治療学会」において文書をもって発表
【出願人】(599045903)学校法人 久留米大学 (72)
【Fターム(参考)】