説明

Rh基合金

【課題】短時間もしくは長時間、高温領域で酸素含有雰囲気下でも使用できる耐熱性合金を提供すること。
【解決手段】Rhに、Mg,Ca,Sr,Ba,Y,La,Dy等の希土類元素,Ti,Zr,Cr,Fe,Co,Ni,Al,V,Mn,Mo,Ta,W,Re,Pt,Pd,Irの少なくとも一種を含有し、残部をRhとする合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、短時間もしくは長時間、高温領域で使用される耐熱性合金に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、白金族元素の中でPtやIrが耐熱材料として単体および合金で使用されている。用途としてはガラス溶解用器具や単結晶育成用ルツボ等の高温で使用される構造材料またはヒーター線や熱電対等の導電材料や点火プラグに代表される電極がある。またタービンブレード等の基体を保護するための被覆材として用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
PtやPt合金の場合、真空雰囲気や不活性ガス中雰囲気、大気等の酸素含有雰囲気等、雰囲気を選ばず高温で使用が可能であるが、融点を越えるような温度、また電極等で使用する際、火花放電により局所的に融点を瞬間的に越え一部溶融する場合があり、使用に耐えられないケースがある。このような用途には、さらに融点が高いIrやIr合金が使用される。
【0004】
Irの場合、真空雰囲気や不活性ガス中雰囲気での使用には問題ないが、大気等の酸素含有雰囲気下では酸化揮発が著しいので使用できない。
酸素含有雰囲気下では、酸化揮発を抑える添加元素を加えたIr合金が使用されているが、高温の酸素含有雰囲気下のもと長時間使用すると、酸化揮発が抑えきれず、十分な使用可能時間が得られない場合があるので、さらなる長寿命化が求められている。
【0005】
この他にも高融点白金族元素としてRuおよびRhがある。
RuはIrと同じく酸化揮発が激しいため酸素含有雰囲気での使用は難しい。
一方Rhは、酸化揮発がほとんど無く、酸素含有雰囲気下での使用も可能である。また融点も1960℃で、Ptより高融点である。ただしRhにも欠点はあり、高温長時間で使用した際、欠損や割れが発生する場合がある。これは、高温長時間保持によって結晶粒が成長、過度に結晶粒が粗大化して粒界からの破壊を引き起こすことがあるためである。従って、高温長時間保持下でも結晶粒を微細に維持する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、今回、A群としてMg,Ca,Sr,Baの範囲を0.001〜0.5mass%、B群としてY,La,Dy等の希土類元素の範囲を0.05〜2.0mass%、C群としてTi,Zrの範囲を0.05〜10mass%、D群としてCr,Fe,Co,Ni,Alの範囲を0.3〜20mass%、E群としてV,Mn,Mo,Ta,W,Reの範囲を0.3〜7mass%、F群としてPt,Pdの範囲を0.3〜10mass%、Irを0.5〜40mass%とし、前記A群,B群,C群,D群,E群,F群およびIrの少なくとも一種を含有し、残部をRhとすることを特徴とする合金を用いることにより、酸素含有雰囲気下で高温長時間保持された状態でも結晶粒の粗大化が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0007】
本発明の合金は、Rh基合金であり、これにA群の範囲を0.001〜0.5mass%、B群の範囲を0.05〜2.0mass%、C群の範囲を0.05〜10mass%、D群の範囲を0.3〜20mass%、E群の範囲を0.3〜7mass%、F群の範囲を0.3〜10mass%、Irを0.5〜40mass%とし、前記A群,B群,C群,D群,E群,F群およびIrの少なくとも一種を含有し、残部をRhとすることにより、酸素含有雰囲気下で高温長時間保持された状態でも結晶粒の粗大化が抑制される。
【0008】
A群の範囲を0.001〜0.5mass%に限定する理由は、0.001mass%未満だと、高温長時間熱処理した際、結晶粒の成長を抑制する効果が十分得られず、また0.5mass%より多いと脆化し、十分な靱性が得られないためである。
【0009】
B群の範囲を0.05〜2.0mass%に限定する理由は、0.05mass%未満だと、高温長時間熱処理した際、結晶粒の成長を抑制する効果が十分得られず、また2.0mass%より多いと脆化し、十分な靱性が得られないためである。
【0010】
C群の範囲を0.05〜10mass%に限定する理由は、0.05mass%未満だと、高温長時間熱処理した際、結晶粒の成長を抑制する効果が十分得られず、また10mass%より多いと脆化し、十分な靱性が得られないためである。
【0011】
D群の範囲を0.3〜20mass%に限定する理由は、0.3mass%未満だと、高温長時間熱処理した際、結晶粒の成長を抑制する効果が十分得られず、また20mass%より多いと、高温酸素含有雰囲気中で使用した場合、雰囲気に接する表面に厚い酸化膜が生成し、この酸化膜が脱落する危険があるためである。
【0012】
E群の範囲を0.3〜7mass%に限定する理由は、0.3mass%未満だと、高温長時間熱処理した際、結晶粒の成長を抑制する効果が十分得られず、また7mass%より多いと、高温酸素含有雰囲気中で使用した場合、粒界近傍からの添加元素の酸化揮発が激しく、表面付近がポーラスな状態となり、結晶粒ごと脱落する危険があるためである。
【0013】
F群の範囲を0.3〜10mass%に限定する理由は、0.3mass%未満だと高温長時間熱処理した際、結晶粒の成長を抑制する効果が十分得られず、10mass%より多いと、脆化し、十分な靱性が得られないためである。
【0014】
Irを0.5〜40mass%に限定する理由は、0.5mass%未満だと、高温長時間熱処理した際、結晶粒の成長を抑制する効果が十分得られず、40mass%より多いと、高温時、特に1000℃以上で酸化揮発が激しくなるためである。
【0015】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0016】
(試料の作製)
表1に示すRh基合金をアーク溶解にてインゴットを作製、熱間鍛造により5〜10mm角の棒材に成形、ワイヤーソーで長手方向に対し垂直に厚さ0.8mmに切出し試験用試料とした。また靱性を確認するため、長手方向に0.8mm角の棒材を切出し、折曲げ試験用試料とした。
【0017】
【表1】

【0018】
(酸化揮発性の評価)
酸化揮発試験として、表1の組成のt0.8×角5〜10mmの試料を使用し、試験前に質量を測定後、大気中1200℃,20時間熱処理した後、再度質量を測定、式1によって質量変化率を測定した。
【0019】
式1:質量変化率(%)=(試験後の質量−試験前の質量)/試験前の質量 × 100
【0020】
表2に結果を示す。
【0021】
【表2】

【0022】
表2の結果から、実施例では質量変化はほとんど無かった。一方、比較例からE群であるReやIrのように酸化揮発性の高い元素を多量に添加すると質量減少が大きいことが確認された。
【0023】
(熱処理による結晶粒への影響の評価)
熱処理後の結晶粒径の測定を行なった。
調査方法として、表1の組成のt0.8×角5〜10mmの試料を、大気中1200℃,20時間熱処理した後、断面の組織観察を行い、平均結晶粒径を測定した。
平均結晶粒径は、式2によって算出した。
【0024】
式2:D=(2/m)・[a/π(n1+n2/2)]1/2
D: 平均結晶粒径
a: 測定面積
m: 拡大率
1: 測定面積a内に完全に含まれる結晶粒数
2: 測定面積a周囲に切断される結晶粒数
【0025】
表3に結果を示す。
【0026】
【表3】

【0027】
表3の結果から、比較例1と比較して、実施例では高温長時間の熱処理でも1/4〜1/10程度の平均結晶粒径を維持しており、全ての実施例で結晶粒の成長の抑制が確認できた。
【0028】
大気中1200℃,20時間熱処理後の表面付近の断面観察を行なったところ、比較例5で表面付近の結晶粒界近傍でポーラスとなっているのが確認できた。これをEPMAにより面分析を行なったところ、Rhについては確認できなかったが、Reの消失特に粒界近傍からの消失が確認できた。このことから表面付近から添加元素が消失、表面付近の特に粒界近傍がポーラスな状態となり、結晶粒ごと脱落する危険性があることが分かる。図1に比較例5の熱処理後の断面観察の写真を、図2に表面近傍のRh,図3にReの面分析結果を示す。
【0029】
一方、実施例17ではポーラスとなっている部分は、ほとんど確認できなかった。また他の実施例や比較例でも、特にIrのような酸化揮発性の高い試料でも表面付近がポーラスになっている部分が確認されなかったことから、E群を多量に入れた場合の影響と推察される。
【0030】
(靱性の評価)
靱性の確認のため、折り曲げ試験として、0.8mm角に切出した棒材を、φ10mmの棒に押し当て90°まで折り曲げ、破折するかどうか確認を行なった。
折れなかった試料には○,折れた試料には×と判定した。結果を表4に示す。
【0031】
【表4】

【0032】
比較例2〜4および比較例6は折れ、脆化していることが確認できた。
他の実施例および比較例は折れておらず、靭性を確保していた。
【0033】
(液相点の調査)
耐熱材料として、融点の上昇も望まれていることから、特に液相点を調査した。
各試料とも高融点であるため、測定が難しいことから、二元系のみ、Rhよりも液相点が上昇している実施例を二元系状態図から調査した。液相点が上昇している実施例を表5に示す。
【0034】
【表5】

【0035】
このことから、IrやRe、W添加により液相点が上昇することが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】比較例5の熱処理後の断面観察の写真である。
【図2】比較例5の熱処理後における表面近傍のRhの面分析結果を示す写真である。
【図3】比較例5の熱処理後における表面近傍のReの面分析結果を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A群としてMg,Ca,Sr,Baの範囲を0.001〜0.5mass%、
B群としてY,La,Dy等の希土類元素の範囲を0.05〜2.0mass%、
C群としてTi,Zrの範囲を0.05〜10mass%、
D群としてCr,Fe,Co,Ni,Alの範囲を0.3〜20mass%、
E群としてV,Mn,Mo,Ta,W,Reの範囲を0.3〜7mass%、
F群としてPt,Pdの範囲を0.3〜10mass%、
Irを0.5〜40mass%とし、
上記A群,B群,C群,D群,E群,F群およびIrの少なくとも一種を含有し、
残部をRhとする合金。
【請求項2】
請求項1記載の合金からなる構造材料。
【請求項3】
請求項1記載の合金からなる導電性材料またはプラグ等に使用される電極材料。
【請求項4】
請求項1記載の合金からなるタービンブレード等高温で使用される基体を被覆する材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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