説明

S−インドリン−2−カルボン酸を合成する新規な方法、およびペリンドプリルの合成におけるその適用

本発明は、式(I)で示されるS−インドリン−2−カルボン酸の合成法、及びペリンドプリルまたは薬学的に許容され得るその塩の合成におけるその適用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(2S)−インドリン−2−カルボン酸の合成法、およびペリンドプリル(perindopril)または薬学的に許容され得るその塩の合成におけるその適用に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、式(I)
で示される(2S)−インドリン−2−カルボン酸の工業的合成のための新規な方法に関する:
【0003】
【化12】

【0004】
本発明に従って得られる式(I)の化合物は、式(II):
【0005】
【化13】

【0006】
で示されるペリンドプリルの合成、および薬学的に許容され得るその塩の合成に有用である。
【0007】
ペリンドプリルおよびその塩は、価値のある薬理学的特性を有する。
【0008】
その主要な特性は、アンギオテンシンI転換酵素(またはキニナーゼII)を阻害する特性であって、一方ではオクタペプチドであるアンギオテンシンII(血管収縮剤)へのデカペプチドであるアンギオテンシンIの転換の阻害と、他方では不活性ペプチドへのブラジキニン(血管拡張剤)の分解の阻害とを可能にする。
【0009】
これら二つの作用は、心血管疾患、より具体的には動脈高血圧および心不全におけるペリンドプリルの有益な効果に寄与する。
【0010】
ペリンドプリル、その製造、および治療におけるその使用は、ヨーロッパ特許公報EP 0 049 658に記載されている。
【0011】
この化合物の薬学的価値を考慮すると、(S)鏡像異性体を非常に優れた収率および優れた純度で選択的に得ることを可能にする効果的な合成法によって式(I)の中間体を得ることができることは、重要になっている。
【0012】
式(I)の化合物を製造するいくつかの方法は、既に公知である。
【0013】
すなわち、ヨーロッパ特許公報EP 0 308 339およびEP 0 308 341は、(R)−α−メチルベンジルアミンを用いたラセミ性インドリン−2−カルボン酸の分割によって、(2S)−インドリン−2−カルボン酸を得ることを記載している。(2S)−インドリン−2−カルボン酸の(R)−α−メチルベンジルアミン塩を、分別晶出によって単離し、次いで酸性化して、式(I)の化合物を得る。
【0014】
この方法は、合理的な価格を有し、非常に容易に入手できる出発材料および試薬を用いるという利点を有する。
【0015】
一方、この方法を用いた式(I)の化合物の収率は、わずか35%であるにすぎない。
【0016】
ここに、本出願人らは、分割反応の途中に形成される(2R)異性体を再循環させる、式(I)の化合物の合成法を開発した。このようにして開発された方法は、ラセミ性インドリン−2−カルボン酸から出発して、実施される再循環操作の数に応じて50〜70%に亘る収率で、式(I)の化合物を得ることを可能にする。
【0017】
より具体的には、本発明は、式(I)の化合物を合成する方法であって、式(III):
【0018】
【化14】

【0019】
で示されるラセミ性インドリン−2−カルボン酸を、キラルなアミンと反応させて、式(IV):
【化15】


で示される塩を得て、これを濾取し、こうして、
・一方では、式(IVa):
【化16】


で示される(2S)異性体を結晶形態で単離して、次いで、式(IVa)の化合物を塩酸で処理して、式(I)の化合物を得、
・他方では、式(IVa)の(2S)異性体と、式(IVb):
【化17】


で示される(2R)異性体との混合物((2R)異性体が大部分を占める)を、濾液の蒸発によって得て、次いで、該混合物を塩酸で処理して、(2R)−インドリン−2−カルボン酸と(2S)−インドリン−2−カルボン酸との混合物((2R)酸が大部分を占める)を得て、これを、140〜200℃の温度、5〜15バールの圧力下で、水酸化ナトリウム溶液との反応によってラセミ化して、単離後に、式(III)の化合物を得て、それを用いて、上記の一連の操作を反復して、そうして、2〜6回のサイクルを実施した後に、式(I)の化合物で構成されるすべての部分を併せることを特徴とする方法に関するものである。
【0020】
これによって、式(I)の化合物は、実施されるサイクルの数に応じて、50〜70%に亘る収率で得られる。
【0021】
その化学的および鏡像異性体純度は、非常に優れていて、そのため、式(I)のペリンドプリルの合成にこれを用いることが格別に有利になっている。
【0022】
例示すると、本発明の方法に従って得られる式(I)の化合物の接触水素化、次いで、そうして得られた(2S,3aS,7aS)−ペルヒドロインドール−2−カルボン酸と式(VI):
【0023】
【化18】

【0024】
で示される化合物とのカップリングは、式(II)のペリンドプリルを非常に満足すべき純度および収率で得るのを可能にする。
【0025】
本発明は、式(V):
【化19】

【0026】
で示される(2R)−インドリン−2−カルボン酸を反応させて、これを、140〜200℃の温度、5〜15バールの圧力下で、水酸化ナトリウム水溶液との反応によってラセミ化して、単離後に、式(III):
【化20】


で示される化合物を得て、これをキラルなアミンと反応させて、式(IV):
【化21】


で示される塩を得て、これを濾取し、こうして、
・一方では、式(IVa):
【化22】


で示される(2S)異性体を結晶形態で単離して、次いで、式(IVa)の化合物を塩酸で処理して、式(I)の化合物を得、
・他方では、式(IVa)の(2S)異性体と、式(IVb):
【化23】


で示される(2R)異性体との混合物((2R)異性体が大部分を占める)を、濾液の蒸発によって得て、次いで、該混合物を塩酸で処理して、(2R)−インドリン−2−カルボン酸と(2S)−インドリン−2−カルボン酸との混合物((2R)酸が大部分を占める)を得、これを用いて、所望ならば上記の一連の操作を反復して、そうして、1〜6回のサイクルを実施した後に、式(I)の化合物で構成されるすべての部分を併せることを特徴とする上記の方法の変法にも関するものである。
【0027】
本発明による方法またはその変法に用いることができるキラルなアミンのうちでも、(R)−α−メチルベンジルアミン、1−(1−ナフチル)エチルアミン、エフェドリン、α−キモトリプシン、sec−ブチルアミン、1−アミノ−2−メチルブタン、N,N−ジメチル−1−フェニルエチルアミン、1−シクロヘキシルエチルアミン、シクロセリン、2−(メトキシメチル)ピロリジン、α−ジメチルアミノ−ε−カプロラクタム、イソボルニルアミン、1−(4−ニトロフェニル)エチルアミン、α−アミノ−ε−カプロラクタム、2−アミノ−1−ブタノール、1−アミノ−2−プロパノール、シンコニジン、シンコニン、N−メチルエフェドリン、フェニルアラニノール、キニジン、バリノール、α−フェニルグリシノール、ロイシノールを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0028】
好適なキラルなアミンは、(R)−α−メチルベンジルアミンである。
【0029】
「混合物((2R)異性体が大部分を占める)」とは、(2R)異性体が混合物の大部分を形成する、(2R)および(2S)異性体の混合物を意味するものと理解される。
【0030】
以下の実施例は、本発明を例示する。
【実施例1】
【0031】
(2S)−インドリン−2−カルボン酸
工程A:ラセミ性インドリン−2−カルボン酸の分割
(R)−α−メチルベンジルアミン3.7kgを、エタノール中のインドリン−2−カルボン酸5kgの溶液に加え、次いで、混合物を2時間撹拌し、濾過した。
【0032】
工程A1:(2S)−インドリン−2−カルボン酸
工程Aで捕集した白色沈澱物を、イソプロパノールから再結晶させ、次いで水13リットルに溶解し、1N塩酸溶液12リットルを加えた。2時間撹拌した後、沈澱物を濾取し、次いで洗浄かつ乾燥して、(2S)−インドリン−2−カルボン酸(「第一部分」)を、結晶の形態で、98%の化学的純度、および99.5%より高い鏡像異性体純度で得た(1.80kg)。
【0033】
工程A2:インドリン−2−カルボン酸((2R)が大部分を占める混合物)
工程Aで捕集した濾液を蒸発させ、得られた残渣を、水13リットルに溶解し、次いで1N塩酸溶液12リットルを加えた。2時間撹拌した後、沈澱物を濾取し、次いで洗浄かつ乾燥して、インドリン−2−カルボン酸を、(2R)および(2S)鏡像異性体の、(2R)鏡像異性体が大部分を占める混合物の形態で得た(2.6kg)。
【0034】
工程B:ラセミ化
オートクレーブに、工程A2で得た沈澱物(2.6kg)、次いで水12リットル、および8.65N水酸化ナトリウム溶液3.1リットルを導入し、次いで、7バールの圧力下、170℃に3時間加熱した。次いで、反応混合物を周囲の温度にさせ、次いで反応器に移し、次いで、温度を20〜25℃に保ちつつ、濃塩酸を加えて、3.4のpHに到達させた。
【0035】
次いで、混合物を1時間撹拌し、次いで、沈澱物を濾取し、洗浄かつ乾燥して、ラセミ性インドリン−2−カルボン酸を90%の収率で得た(2.34kg)。
【0036】
工程C:インドリン−2−カルボン酸の再循環
工程Bで得たラセミ性インドリン−2−カルボン酸(2.34kg)を、工程Aの手順に従って分割した。
【0037】
このように形成された(2S)−インドリン−2−カルボン酸の(R)−α−メチルベンジルアミン塩を単離し、次いで、工程A1の手順に従って塩酸で処理して、(2S)−インドリン−2−カルボン酸(「第二部分」)を、98%の化学的純度、および99.5%より高い鏡像異性体純度を有する結晶の形態で得た(0.84kg)。
【0038】
次いで、工程A1で得た第一部分、および工程Cで得た第二部分を併せた。これによって、(2S)−インドリン−2−カルボン酸を、52.8%の合計収率、98%の化学的純度、および99.5%より高い鏡像異性体純度で得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】


で示される(2S)−インドリン−2−カルボン酸の合成法であって、式(III):
【化2】


で示されるラセミ性インドリン−2−カルボン酸を、キラルなアミンと反応させて、式(IV):
【化3】


で示される塩を得て、これを濾取し、こうして、
・一方では、式(IVa):
【化4】


で示される(2S)異性体を結晶形態で単離して、次いで、式(IVa)の化合物を塩酸で処理して、式(I)の化合物を得、
・他方では、式(IVa)の(2S)異性体と、式(IVb):
【化5】


で示される(2R)異性体との混合物((2R)異性体が大部分を占める)を、濾液の蒸発によって得て、次いで、該混合物を塩酸で処理して、(2R)−インドリン−2−カルボン酸と(2S)−インドリン−2−カルボン酸との混合物((2R)酸が大部分を占める)を得て、
これを、140〜200℃の温度、5〜15バールの圧力下で、水酸化ナトリウム溶液との反応によってラセミ化して、単離後に、式(III)の化合物を得て、それを用いて、上記の一連の操作を反復して、そうして、2〜6回のサイクルを実施した後に、式(I)の化合物で構成されるすべての部分を併せることを特徴とする合成法。
【請求項2】
式(I):
【化6】


で示される(2S)−インドリン−2−カルボン酸の合成法であって、式(V):
【化7】


で示される(2R)−インドリン−2−カルボン酸を反応させて、これを、140〜200℃の温度、5〜15バールの圧力下で、水酸化ナトリウム水溶液との反応によってラセミ化して、単離後に、式(III):
【化8】


で示される化合物を得て、これをキラルなアミンと反応させて、式(IV):
【化9】


で示される塩を得て、これを濾取し、こうして、
・一方では、式(IVa):
【化10】


で示される(2S)異性体を結晶形態で単離して、次いで、式(IVa)の化合物を塩酸で処理して、式(I)の化合物を得、
・他方では、式(IVa)の(2S)異性体と、式(IVb):
【化11】


で示される(2R)異性体との混合物((2R)異性体が大部分を占める)を、濾液の蒸発によって得て、次いで、該混合物を塩酸で処理して、(2R)−インドリン−2−カルボン酸と(2S)−インドリン−2−カルボン酸との混合物((2R)酸が大部分を占める)を得、これを用いて、所望ならば上記の一連の操作を反復して、そうして、1〜6回のサイクルを実施した後に、式(I)の化合物で構成されるすべての部分を併せることを特徴とする合成法。
【請求項3】
キラルなアミンが(R)−α−メチルベンジルアミンであることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の合成法。
【請求項4】
ペリンドプリルまたは薬学的に許容され得るその塩の合成法であって、式(III)の化合物を、請求項1の方法に従って式(1)の中間化合物へと転換し、次いで、式(1)の中間化合物を、ペリンドプリルまたは薬学的に許容され得るその塩へと転換する合成法。
【請求項5】
ペリンドプリルまたは薬学的に許容され得るその塩の合成法であって、式(V)の化合物を、請求項2の方法に従って式(I)の中間化合物へと転換し、次いで、式(I)の中間化合物を、ペリンドプリルまたは薬学的に許容され得るその塩へと転換する合成法。

【公表番号】特表2006−522014(P2006−522014A)
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500165(P2006−500165)
【出願日】平成16年4月7日(2004.4.7)
【国際出願番号】PCT/FR2004/000857
【国際公開番号】WO2004/092095
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(500287019)レ ラボラトワール セルヴィエ (166)
【Fターム(参考)】