説明

SCR用触媒及びそれを用いた窒素酸化物の浄化方法

【課題】SCR触媒は水熱耐久処理後において窒素酸化物還元性能が低下するという問題があった。
【解決手段】SiO/Alが12.0より大きいSUZ−4ゼオライトを含んでなるSCR触媒は水熱耐久性に優れ、アンモニア、尿素、有機アミン類から選ばれた少なくとも1種のガスを還元剤として使用し高い窒素酸化物の浄化性能を有する。さらに鉄や銅の活性金属を担持することにより、窒素酸化物還元性能を大きくすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高性能なSCR触媒及びそれを用いた窒素酸化物の浄化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、炭化水素、アンモニア、尿素、有機アミン類等を還元剤とし窒素酸化物を浄化するSCR触媒(SCRとは選択的接触還元”Selective catalytic reduction”の略)として用いられることが広く知られている。
【0003】
しかし、従来報告されたゼオライトを用いたSCR触媒は、高温水蒸気雰囲気下での耐久処理(以下、「水熱耐久処理」という)後において、窒素酸化物還元性能が低下し十分な性能が維持できなかった。
【0004】
一方、SUZ−4は、国際ゼオライト協会規定の構造コードSZRの代表物質として知られ(非特許文献1)、特許文献1により初めて報告されたゼオライトである。
【0005】
これまで、Si/Alが5.1から6.0、つまりSiO/Alが10.2〜12.0のSUZ−4は、炭化水素を還元剤として用いたSCR触媒として報告されている(特許文献2)。またSiO/Alが6のSUZ−4は、排気ガス中の窒素酸化物を吸着してアンモニアに転化する層と、触媒内で転化されたアンモニアを吸着して排気ガス中の窒素酸化物に浄化する層の2層構造をしたシステムの脱硝触媒としての利用が報告されている(特許文献3)。
【0006】
しかし、SiO/Alが12より大きいSUZ−4ゼオライトは、SCR触媒として提案されたものはなかった。
【0007】
【特許文献1】特許第2771269号(請求項1、明細書2頁3欄30行)
【特許文献2】米国特許6936562B2号(明細書7頁3欄1〜5行、請求項1)
【特許文献3】特開2006−314989(製造例22、実施例6〜10)
【非特許文献1】ATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES,6th reviced edition,Elsevier(2007)(326頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、水熱耐久処理後においても窒素酸化物還元性能が高いSUZ−4ゼオライトからなるSCR触媒及びそれを用いた窒素酸化物の浄化方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、水熱耐久処理後におけるSCR触媒の窒素酸化物還元性能について鋭意検討を重ねた結果、SiO/Alのモル比が12.0より大きいSUZ−4ゼオライトを含んでなるSCR触媒が、水熱耐久処理後においても窒素酸化物還元性能が高いことを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
本発明のSCR触媒用SUZ−4ゼオライトは、SiO/Alのモル比が12.0より大きいことが必須である。その理由は12.0以下では水熱耐久処理による窒素酸化物還元性能の低下が大きいからである。特に、SiO/Alのモル比は13.0以上が好ましい。
【0011】
また、SiO/Alのモル比は16.0以下であることが好ましい。その理由は16.0より大きいとSUZ−4ゼオライトを得ることが困難で、且つ初期の窒素酸化物還元性能が低いからである。
【0012】
本発明のSCR触媒を構成するSiO/Alが12.0より大きいSUZ−4ゼオライトの交換可能なカチオンの種類については特に制限はないが、少なくともプロトンが全カチオンに対して50モル%以上含まれていることが好ましい。その理由は50モル%より少ないと酸量が小さく、初期の窒素酸化物還元性能が低いからである。プロトン以外の共存カチオンとしては、ナトリウム、カリウムなどが例示できるが、水熱耐久処理による窒素酸化物還元性能低下抑制の面から、カリウムであることが好ましい。最も好ましいカチオンの組み合わせとしては、プロトンが70〜99.9モル%、カリウムが0.1〜30モル%である。このとき初期の窒素酸化物還元性能及び水熱耐久処理後の窒素酸化物還元性能の何れもが高くなる。
【0013】
更に、鉄及び/又は銅を担持すると、初期の窒素酸化物還元性能及び水熱耐久処理後の窒素酸化物還元性能の何れも更に高くなるので、好ましい。
【0014】
鉄及び/又は銅の担持量は限定されないが、0.1〜10重量%、特に1〜7重量%の範囲が好ましい。
【0015】
本発明のSCR触媒は、シリカ、アルミナ及び粘土鉱物等のバインダーと混合し成形して使用することもできる。成形する際に用いられる粘土鉱物として、カオリン、アタパルガイト、ベントナイト、アロフェン、セピオライトが例示できる。
【0016】
本発明のSCR触媒は、窒素酸化物を含む該排ガスを接触させることにより、排ガス浄化することができる。
【0017】
本発明で浄化される窒素酸化物は、例えば一酸化窒素、二酸化窒素、三酸化二窒素、四酸化二窒素、一酸化二窒素、及びそれらの混合物が例示される。好ましくは一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化二窒素である。ここで本発明が処理可能な排ガスの窒素酸化物濃度は限定されるものではない。
【0018】
また該排ガスには窒素酸化物以外の成分が含まれていてもよく、例えば炭化水素、一酸化炭素、二酸化炭素、水素、窒素、酸素、硫黄酸化物、水が含まれていても良い。具体的には、本発明の方法では、ディーゼル自動車、ガソリン自動車、ボイラー、ガスタービン等の排ガスから窒素酸化物を浄化することができる。
【0019】
本発明のSCR触媒は還元剤の存在下で窒素酸化物を浄化するものである。還元剤としては該排ガス中に含まれる炭化水素、一酸化炭素、水素等を還元剤として利用することができ、更に適当な還元剤を排ガスに添加して共存させて用いられる。排ガスに添加される還元剤は特に限定されないが、アンモニア、尿素、有機アミン類、炭化水素、アルコール類、ケトン類、一酸化炭素、水素等が挙げられ、特に窒素酸化物の浄化効率をより高めるためには、特にアンモニア、尿素、有機アミン類が好ましい。
【0020】
これらの還元剤の添加方法は特に限定されず、還元成分をガス状で直接添加する方法、水溶液などの液状を噴霧し気化させる方法、噴霧熱分解させる方法等を採用することができる。これらの還元剤の添加量は、十分に窒素酸化物が浄化できるように任意に設定することができる。
【0021】
本発明の窒素酸化物の浄化方法において、SCR触媒と排ガスを接触させる際の空間速度は特に制限されないが、好ましい空間速度は体積基準で500〜50万hr−1、更に好ましくは2000〜30万hr−1である。
【0022】
本発明のSCR触媒を構成するSiO/Alが12.0より大きいSUZ−4ゼオライトの製造法は特に限定されるものではなく、通常、シリカ源、アルミ源、アルカリおよびSDA、水の存在下、水熱合成によって製造することができる。
【0023】
シリカ源としては、シリカゾル、ヒュームドシリカ、沈降法シリカ、シリカアルミナゲル、テトラエトキシランなどが例示でき、アルミ源としては、水酸化アルミニウム、擬ベーマイト、アルミナゾル、シリカアルミナゲル、アルミニウムイソプロポキシドなどが例示できる。アルカリおよびSDAとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、キヌクリジンなどが例示できる。
【0024】
水熱合成により得られたSUZ−4ゼオライトは、焼成及び/またはイオン交換により適宜修飾し、SCR触媒を構成するSiO/Alが12.0より大きいSUZ−4ゼオライトとする。有機SDAの除去等のための焼成は、400〜800℃、0.5〜12時間、酸素を含むガス流れ等の条件が例示できる。
【0025】
交換カチオンの一部又は全部をプロトンとするには、水熱合成後の未焼成SUZ−4または焼成後の焼成SUZ−4をアンモニウムイオン含有溶液と25〜200℃で接触させ、その後、300〜800℃、0.5〜12時間の熱処理により脱アンモニウムすることが例示できる。
【0026】
鉄や銅の活性金属を担持する方法としては、イオン交換法、含浸担持法などが例示できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のSiO/Alが12.0より大きいSUZ−4ゼオライトを含んでなるSCR用触媒は、水熱耐久処理後においても窒素酸化物還元性能が高く維持される。
【実施例】
【0028】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。
【0029】
(窒素酸化物浄化試験方法)
実施例、比較例で示したゼオライト粉末をプレス成形後、破砕して12〜20メッシュに整粒した。整粒した粉末1.5ccを常圧固定床流通式反応管に充填した。触媒層に表1の組成のガスを1500cc/minで流通させながら、200℃の温度で定常的な窒素酸化物の除去率を測定した。
【0030】
【表1】

【0031】
(水熱耐久処理方法)
実施例、比較例で示したゼオライト粉末をプレス成形後、破砕して12〜20メッシュに整粒した。整粒した粉末3ccを常圧固定床流通式反応管に充填した。ゼオライト層に水10vol%、空気バランスのガスを流通させながら、700℃、20時間保持した。
【0032】
実施例1
シリカゾル(スノーテックス40;日産化学製)、水酸化アルミニウム(C−300GT;住友化学製)、水酸化テトラエチルアンモニウム35%水溶液、水酸化カリウム48%水溶液、水を用い、37SiO:Al:8.0KO:3.1TEAOH:777HOとなるように反応混合物250gを調製した。反応混合物をオートクレーブ中、150℃で120時間、回転下で水熱合成により結晶化した。結晶化後のスラリーは、洗浄し、110℃で乾燥し、更に600℃で空気中焼成した。
【0033】
更に、焼成粉末6g−有姿を2mol/Lの塩化アンモニウム水溶液240mlに加え、オートクレーブ中、175℃で一晩、静置下で水熱イオン交換をした。イオン交換は、洗浄後、上記操作を再度繰り返した。水熱イオン交換後のスラリーは、洗浄し、110℃で乾燥し、500℃で空気中焼成した。
【0034】
得られた粉末はX線回折においてSUZ−4ゼオライトに対応するX線ピークが観測された(図1)。
【0035】
得られたプロトン、カリウム混合タイプのSUZ−4ゼオライトを硝酸及びフッ酸の混合水溶液に溶解させ、ICP発光分光分析したところ、SiO/Al=14.2、KO/Al=0.04であった(カリウム4%、プロトン96%に相当)。
【0036】
実施例2
実施例1において、イオン交換温度を80℃とした以外は同様の処理をし、SiO/Al=13.7、KO/Al=0.23のSUZ−4ゼオライトを得た(カリウム23%、プロトン77%に相当)。
【0037】
実施例3
実施例1において、反応混合物組成を33SiO:Al:7.4KO:2.7TEAOH:766HO、イオン交換温度を80℃とした以外は同様の処理をし、SiO/Al=13.1、KO/Al=0.22のSUZ−4ゼオライトを得た(カリウム22%、プロトン78%に相当)。
【0038】
実施例4
実施例1のSUZ−4ゼオライトに鉄担持量が3重量%になるように精秤されたFe(NO・9水和物の水溶液を用いて、鉄を含浸担持した。これを500で空気焼成し、Fe3%を担持したSiO/Al=14.2のSUZ−4ゼオライトを得た(カリウム4%、プロトン96%に相当)。
【0039】
(比較例1)
実施例1において、反応混合物組成を23SiO:Al:5.9KO:1.9TEAOH:790HOとした以外は同様の処理をし、SiO/Al=10.9、KO/Al=0.06のSUZ−4ゼオライトを得た(カリウム6%、プロトン94%に相当)。
【0040】
(比較例2)
実施例1において、反応混合物組成を27SiO:Al:6.4KO:2.2TEAOH:768HOとした以外は同様の処理をし、SiO/Al=12.0、KO/Al=0.05のSUZ−4ゼオライトを得た(カリウム5%、プロトン95%に相当)。
【0041】
(比較例3)
SiO/Al=29のHタイプY型ゼオライト(東ソー製HSZ−371HOA)を用いた。
【0042】
(窒素酸化物浄化試験結果)
実施例1〜4及び比較例1〜3で得られたゼオライト触媒の水熱耐久処理前後の窒素酸化物浄化試験結果を表2に示した。SUZ−4ゼオライトを用いたSCR触媒は、比較の既存触媒と比べて、高い窒素酸化物浄化性能を示した。
【0043】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実施例1で得られたゼオライト粉末のX線回折図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO/Alが12.0より大きいSUZ−4ゼオライトを含んでなるSCR触媒。
【請求項2】
SUZ−4ゼオライトの交換可能なカチオンの内、70〜99.9モル%がプロトンであり、30〜0.1モル%がカリウムである請求項1記載のSCR触媒。
【請求項3】
鉄及び/又は銅を0.1〜10重量%担持した請求項1又は請求項2記載のSCR触媒。
【請求項4】
請求項1から3記載のSCR触媒を用いた窒素酸化物の浄化方法。
【請求項5】
アンモニア、尿素、有機アミン類から選ばれた少なくとも1種のガスを還元剤として使用することを特徴とする請求項4記載の窒素酸化物の浄化方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−233620(P2009−233620A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85546(P2008−85546)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】