説明

SERS基質収容体

【課題】 SERS基質の凝集状態が安定化され、単一分子検出を事実上、問題なく実施できる。
【解決手段】 (1)流動性マトリックス中で安定化されたSERS基質を容器壁面への吸着を抑止した状態で収容してなる、(2)マイクロチップのラマン検出系のポートであり、SERS基質のポート壁面への吸着が抑止されている、(3)流動性マトリックスは、スメクタイトに代表される分散性微粒子であり、SERS基質は、金又は銀ナノ粒子の集合体であるSERS基質収容体、である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SERS基質を収容するSERS基質収容体に関する。
【背景技術】
【0002】
ラマン分光法は、赤外分光法と同様に蛍光法では得ることのできない目的分子の分子構造に関する情報を得ることができる。しかし、通常ラマン散乱確率が蛍光法と比べて著しく低いので、微量分析には適さない。しかし、原子レベルの粗さを持つ金・銀・銅などの金属表面における吸着種のラマン散乱強度は、非吸着種に比較して102−106倍増強される場合があることが知られており、この現象は表面増強ラマン散乱(SERS)と呼ばれている。
SERS現象そのものは、1977年にVAN DuyneとCreightonのグループによって独立に発見され、表面分析やイムノアッセイなどに利用されている。散乱強度が増強されるメカニズムとしては、(1) 化学的機構 (2) 電磁気的機構が混在しており、定量的な解明にはいたっていない。
【0003】
このように、従来は、SERSはラマン散乱強度が増強されるといっても、せいぜい106倍程度であった。もっともラマン散乱は散乱強度が蛍光と比べて14桁以上低いので、106倍増強されても感度的には吸光度法とほぼ同等という程度で、単一分子検出に必要な感度には遠く及ばない。Kneipp、Nieらは、SERSによるラマン散乱強度をナノ粒子を凝集させることで更に1014倍程度まで増強させることができることを発見し、単一分子検出が可能となることを示唆した。このことは、ナノ粒子単独ではなく、それらを凝集させることがラマン散乱強度を増強させる上で重要な要素であることを示す。
【0004】
さて、マイクロチップ技術では、マイクロ空間(数μm3)で物質の分離・分析を行うことが求められる。このような極狭小な空間では、扱う物質の量は、1nMの濃度で10-24molすなわち単一分子以下となるため、単一分子検出は必須となる。
【特許文献1】特再WO2002/073164
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここにおいて、マイクロチップへ金・銀・銅などの貴金属ナノ粒子からなるSERSによる増強効果のある基質(SERS基質)を適用しようとすると、ひとつの問題が浮上してくる。それは、一般のSERS基質は、安定性がなく、その凝集状態が不安定で、再現性のある検出をすることが困難であるという問題である。この問題に対しては、上記特許文献1に記載した発明により、つまり、流動性のマトリックス中でSERS基質の凝集状態を安定化させることにより再現性の良い検出が可能となると考えられる。しかし、この一方で、別な問題が浮上する。それは、安定化させたはずのSERS基質が、マイクロチップの検出ポート壁面に吸着し、ラマン散乱観測に大きな影響を及ぼすということである。
そこで、本発明は、このような問題を鑑みてなされた発明であって、SERS基質を収容したSERS基質収容体に関する発明である。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、
(1)流動性マトリックス中で安定化されたSERS基質を容器壁面への吸着を抑止した状態で収容してなるSERS基質収容体。
(2)前記マイクロチップのラマン検出系のポートであり、SERS基質のポート壁面への吸着が抑止されている(1)に記載のSERS基質収容体。
(3)前記流動性マトリックスは、スメクタイトに代表される分散性微粒子であり、SERS基質は、金又は銀ナノ粒子の集合体である(2)に記載のSERS基質収容体、
である。
【発明の効果】
【0007】
上記SERS基質収容体により、SERS基質の凝集状態が安定化される上、収容容器壁面への吸着も抑止されていることから、検出中にSERS基質の凝集状態がいっそう安定化され、壁面への吸着によってラマン散乱光を上手く取り出せない、或いは分子の吸着の妨げとなるなどの問題を回避でき、単一分子検出を事実上、問題なく実施することを可能となる。更に、マイクロチップへの適用を考えた場合にも、検出ポートの極狭小な空間での単一分子検出も同様に再現性良く、高い精度で実施することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の一実施形態を説明するが、本発明は、下記に限定されるものではないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0009】
本実施例のSERS基質収容体は、図1に示すが、数μmの径のマイクロセルと、該セルに収容されたSERS基質(スメクタイトに代表される分散性微粒子などの流動性マトリックス中にて凝集状態を安定化させた、金又は銀ナノ粒子の集合体)とから構成される。
マイクロセルは、ガラス製、樹脂製材質はいずれにも限定されるものではないが、励起光と発光光を効率良く透過することができるような透過率を向上させた窓部を形成しておくことが望ましい。
更にマイクロセルの内壁面は、SERS基質の凝集体が、吸着しにくいような処理を施しておくことが望ましい。その処理は、たとえば、金ナノ粒子を使用している場合であれば、金ナノ粒子は疎水性が高いため、親水化処理を施しておくことが望ましい。
【実施例2】
【0010】
本実施例のSERS基質収容体は、マイクロチップ上に他の部位と統合して形成されたものである。詳しくは、図2に示すが、一枚の基板に、液・液抽出法(異なる液体同士間への溶解性の相違によって物質を分離する手法)、固・液抽出法(固相と液相間への親和性(極性、親油性)の相違によって物質を分離する手法)などによって物質を抽出する抽出チャネルと、抽出した物質のラマン散乱を検出するための数μmの径の検出ポートとを具備する。そして、検出ポート(SERS基質収容体に相当)にはSERS基質(スメクタイトに代表される分散性微粒子などの流動性マトリックス中にて凝集状態を安定化させた、金又は銀ナノ粒子の集合体)が収容されている。
検出ポートは、ガラス製、樹脂製材質はいずれにも限定されるものではないが、励起光と発光光を効率良く透過することができるような透過率を向上させた窓部を形成しておくことが望ましい。
更に検出ポートの内壁面は、SERS基質の凝集体が、吸着しにくいような処理を施しておくことが望ましい。その処理は、たとえば、金ナノ粒子を使用している場合であれば、金ナノ粒子は疎水性が高いため、親水化処理を施しておくことが望ましい。
【実施例3】
【0011】
本実施例のSERS基質収容体も実施例2と同様に、マイクロチップ上に他の部位と統合して形成されたものである。詳細は、図3に示すように試料導入ポートと、反応試薬投入ポートと、反応チャネルにそれぞれを送液するマイクロポンプと、それぞれを反応させる反応チャネルと、反応チャネルで生成した化合物のラマン散乱を検出するためのSERS基質である金ナノ粒子を仕込んだ検出セル(SERS基質収容体に相当する;金ナノ粒子は、スメクタイトに代表される分散性微粒子などの流動性マトリックス中にて凝集状態を安定化させてある)とを具備する。検出セルには、外部から照射スポットが約10μmの径のレーザ光が照射される。
反応チャネルの存在は、もとの試料がラマン活性の低い物質である場合に、それをラマン活性の高い物質に変換して、ラマン分光検出に供することができるという利点に寄与している。
検出ポートは、ガラス製、樹脂製材質はいずれにも限定されるものではないが、励起光と発光光を効率良く透過することができるような透過率を向上させた窓部を形成しておくことが望ましい。
更に検出ポートの内壁面は、SERS基質の凝集体が、吸着しにくいような処理を施しておくことが望ましい。その処理は、たとえば、金ナノ粒子を使用している場合であれば、金ナノ粒子は疎水性が高いため、親水化処理を施しておくことが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明にかかるSERS基質収容体は、バイオ領域、臨床領域などの単一分子検出に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1の説明図である。
【図2】実施例2の説明図である。
【図3】実施例3の説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動性マトリックス中で安定化されたSERS基質を容器壁面への吸着を抑止した状態で収容してなるSERS基質収容体。
【請求項2】
前記マイクロチップの検出ポートであり、SERS基質のポート壁面への吸着が抑止されている請求項1に記載のSERS基質収容体。
【請求項3】
前記流動性マトリックスは、スメクタイトに代表される分散性微粒子であり、SERS基質は、金又は銀ナノ粒子の集合体である請求項2に記載のSERS基質収容体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−184247(P2006−184247A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−380963(P2004−380963)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(300076068)
【Fターム(参考)】