説明

Si−Fe系複合酸化物およびその製造方法

【課題】触媒活性が改善された新規な金属酸化物触媒およびその製造方法を提供する。
【解決手段】SiとFeとを含む複合酸化物であって、Feを含む一次粒子の粒径が100nm以下、かつ、アスペクト比が2.0以下である、酸化触媒作用を有するSi−Fe系複合酸化物、ならびに、水酸化カルシウムとシリカと硝酸鉄とを配合し、純水を加えて混濁させスラリーを生成するスラリー生成工程と、生成したスラリーを水熱処理する水熱処理工程と、水熱処理後の複合物をろ過・洗浄するろ過・洗浄工程と、ろ過・洗浄後の複合物を乾燥させる乾燥工程と、乾燥後の複合物を焼成する焼成工程とを含むSi−Fe系複合酸化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiとFeとを含む複合酸化物であって、かつ、粒子状である新規なSi−Fe系複合酸化物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境汚染などに関する問題意識の向上の観点から、工場などから排出される揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compound)を除去するための手段が種々開発されている。一般的なVOC除去方法としては、VOCを燃焼して分解する方法の他、活性炭、シリカゲルなどの吸着剤などを用いて排出ガス中のVOCを吸着除去する方法などが知られている。中でも、比較的低温でVOCを酸化分解できるため、触媒活性を有する物質を用いてVOCを燃焼する触媒燃焼法が注目されている。
【0003】
しかしながら従来、触媒燃焼法に用い得る触媒としては、白金などの高価な貴金属を用いる必要があり、このような高価な貴金属に代わる、安価でかつ実用的な触媒材料の開発が求められている。たとえば特開2003−126696号公報(特許文献1)には、カルシウム塩、非晶質シリカおよび銅化合物を含むVOC分解用燃焼触媒が開示されている。またたとえば特開2005−238192号公報(特許文献2)には、担体に触媒となる金属化合物が担持された金属酸化物担持触媒であって、BET比表面積が50〜500m2/g、且つJIS K6260に準拠した吸油量が50〜550ml/100gの多孔質珪酸カルシウムからなる担体に、金属化合物を担持させた金属酸化物担持触媒が開示されている。
【0004】
触媒燃焼法においては、より低い温度で効率よくVOCを燃焼する観点からは、金属酸化物触媒の触媒活性は高ければ高いほどよく、従来よりも触媒活性が改善された新規な金属酸化物触媒の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−126696号公報
【特許文献2】特開2005−238192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、従来よりも触媒活性が改善された新規な金属酸化物触媒およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、SiとFeとを含む複合酸化物であって、Feを含む一次粒子の粒径が100nm以下、かつ、アスペクト比が2.0以下である、酸化触媒作用を有するSi−Fe系複合酸化物に関する。
【0008】
本発明のSi−Fe系複合酸化物において、Feの含有組成は酸化鉄として30〜50重量%であることが、好ましい。
【0009】
本発明のSi−Fe系複合酸化物において、BET比表面積が100m2/g以上であることが好ましい。
【0010】
本発明はまた、水酸化カルシウムとシリカと硝酸鉄とを配合し、純水を加えて混濁させスラリーを生成するスラリー生成工程と、生成したスラリーを水熱処理する水熱処理工程と、水熱処理後の複合物をろ過・洗浄するろ過・洗浄工程と、ろ過・洗浄後の複合物を乾燥させる乾燥工程と、乾燥後の複合物を焼成する焼成工程とを含むSi−Fe系複合酸化物の製造方法についても提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来よりも触媒活性が改善された新規な金属酸化物触媒およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実験例1で得られた各サンプルについての温度とトルエンの分解率との関係を示すグラフである。
【図2】実験例1で得られた各サンプルについてのSEM画像写真である。
【図3】実験例2で得られた各サンプルについての温度とトルエンの分解率との関係を示すグラフである。
【図4】実験例2で得られた各サンプルについてのSEM画像写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のSi−Fe系複合酸化物は、SiとFeとを含む複合酸化物であって、Feを含む一次粒子の粒径が100nm以下、かつ、アスペクト比が2.0以下であることを特徴とする。このように特定の一次粒子の粒径およびアスペクト比を兼ね備えた、いわば「粒子状」の本発明のSi−Fe系複合酸化物によれば、実験例にて詳細に上述するように優れた触媒活性が発揮される。水酸化カルシウムとシリカを出発物質とする複合体の場合、通常、板状または針状の(すなわち、アスペクト比が2.0を超える)結晶構造体となる。今回、本発明者らにより初めて、水酸化カルシウムとシリカに加え、出発物質として硝酸鉄をさらに用いる新規な製造方法が開発され、粒子状の(すなわち、アスペクト比が2.0以下の)複合体が得られた。
【0014】
本発明のSi−Fe系複合酸化物において、Feを含む一次粒子の粒径が100nm以下である。Feを含む一次粒子の粒径が100nmを超えてしまうと、触媒活性が極端に減少してしまう。このような触媒活性の極端な減少を防ぐ観点から、本発明のSi−Fe系複合酸化物におけるFeを含む一次粒子の粒径は70nm以下であることが好ましい。また、本発明のSi−Fe系複合酸化物は、粒径がより小さくなるほど触媒活性は向上する傾向にあるため、Feを含む一次粒子の粒径の下限値は特に制限されるものではないが、2nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましい。なお、このFeを含む一次粒子の粒径は、TEM画像を用いた解析手法により測定された値を指す。
【0015】
また本発明のSi−Fe系複合酸化物において、アスペクト比は2.0以下である。アスペクト比が2.0を超えてしまうと、触媒活性が極端に減少してしまう。このような触媒活性の極端な減少を防ぐ観点から、本発明のSi−Fe系複合酸化物におけるアスペクト比は1.5以下であることが好ましい。また、本発明のSi−Fe系複合酸化物におけるアスペクト比の下限値は特に制限されるものではないが、0.2以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましい。なお、このアスペクト比は、TEM画像を用いた解析手法により測定された値を指す。
【0016】
本発明のSi−Fe系複合酸化物において、Feの含有組成は酸化鉄として30〜50重量%であることが好ましく、30〜35重量%であることがより好ましい。Feの含有組成が酸化鉄として30重量%未満である場合には、球状のFe粒子がうまく発現しない傾向にあるためであり、また、Feの含有組成が酸化鉄として50重量%を超える場合には、球状のFe粒子の粒径が肥大化してしまう傾向にあるためである。なお、Si−Fe系複合酸化物における酸化鉄の含有組成は、たとえば蛍光X線を用いた無機元素分析を用いて測定することができる。
【0017】
また本発明のSi−Fe系複合酸化物において、BET比表面積が100m2/g以上であることが好ましく、120m2/g以上であることがより好ましい。BET比表面積が100m2/g未満である場合には、触媒活性が減少してしまう傾向にあるためである。なお、一般的に金属酸化物触媒におけるBET比表面積は大きければ大きいほどよいので、その上限値は特に制限されるものではない。なお、Si−Fe系複合酸化物におけるBET比表面積は、たとえば自動比表面積測定装置ジェミニ2375(マイクロメリティックス社製)を用いて測定することができる。
【0018】
本発明はまた、上述した本発明のSi−Fe系複合酸化物の新規な製造方法も提供する。本発明のSi−Fe系複合酸化物の製造方法は、水酸化カルシウムとシリカと硝酸鉄とを配合し、純水を加えて混濁させスラリーを生成するスラリー生成工程と、生成したスラリーを水熱処理する水熱処理工程と、水熱処理後の複合物をろ過・洗浄するろ過・洗浄工程と、ろ過・洗浄後の複合物を乾燥させる乾燥工程と、乾燥後の複合物を焼成する焼成工程とを含むことを特徴とする。なお、本発明のSi−Fe系複合酸化物は、上述した特徴を有するものであればその製造方法は特に制限されるものではないが、本発明の方法によって製造されたものであることが好ましい。以下、本発明のSi−Fe系複合酸化物の製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0019】
〔1〕スラリー生成工程
スラリー生成工程ではまず、水酸化カルシウムとシリカと硝酸鉄とを配合し、純水を加えて混濁させスラリーを生成する。ここで、本発明においては、Fe粒子の粒径の肥大化を抑制するという理由から、出発物質として水酸化カルシウムを用いる。またFe粒子を固定化させるという理由から、Si源の出発物質としてシリカを用いる。さらに、溶液中に固溶化させる目的から、Fe源の出発物質として硝酸鉄を用いる。この際、上述したより好ましい本発明のSi−Fe系複合酸化物を製造する観点からは、Feの含有組成が酸化鉄として30〜50重量%の範囲となるような比率で出発物質を配合することが好ましい。
【0020】
ここで、従来、水酸化カルシウムとシリカを出発物質とする複合体は、Siの集合体が凝集した際に発現しうる形態の、板状または針状の結晶構造体となっていた。本発明の製造方法では、出発物質として硝酸鉄を配合していることで、その詳細な理由は不明であるが、上述したような特定のFeを含む一次粒子の粒子径およびアスペクト比を有する複合体が得られる。なお、得られるSi−Fe系複合酸化物のFeを含む一次粒子の粒子径およびアスペクト比は、その製造方法において出発物質である水酸化カルシウムの配合量を調整することで制御できる。
【0021】
本発明の製造方法において、当該工程で生成するスラリーは、pHを2〜7の範囲内とすることが好ましい。スラリーのpHが2未満である場合には、水熱処理中に溶解してしまい、ろ過工程を経ても固形分を得ることはできない傾向にあり、また、スラリーのpHは7を超える場合には、比表面積が低下し、結晶子径が肥大化することで触媒活性が減少する傾向にあるためである。よって、高比表面積、且つ、結晶子径の小さいSi−Fe系複合酸化物を得るために、スラリーのpHは2.0〜7.0の範囲内であることが好ましい。スラリーのpHは、たとえば出発物質に水酸化ナトリウムを滴下するというようにして調整することができる。
【0022】
〔2〕水熱処理工程
続く工程では、生成されたスラリーを水熱処理する。ここで、当該技術を使わず固相反応を行った場合には、固相内のイオン拡散により反応する。これに対し、水熱処理を行う場合には、イオンの溶解−析出機構によって反応が進行するため、水熱処理は通常の固相処理と比較して反応速度が速く、生成物組成の均一性が高く、形状制御が可能となる。このような理由により、本発明では水熱処理を採用する。水熱処理は、具体的には、オートクレーブを用いて行うことができ、その条件としては、圧力(飽和蒸気圧)が200kPa以上、処理温度が120〜190℃の範囲内、処理時間が1〜2時間の範囲内とすることが好適である。
【0023】
〔3〕ろ過・洗浄工程
続く工程では、水熱処理後の複合物をろ過・洗浄する。ろ過および洗浄の操作は、当分野における通常の手段を適宜用いて行うことができ、特に制限されるものではない。
【0024】
〔4〕乾燥工程
続く工程では、ろ過・洗浄後の複合物を乾燥させる。乾燥の操作は、当分野における通常の手段を適宜用いて行うことができ、特に制限されるものではない。乾燥の条件も特に制限されないが、80〜120℃の範囲内の温度で、10〜15時間乾燥させる条件が好適である。
【0025】
〔5〕焼成工程
続く工程では、乾燥後の複合物を焼成する。焼成の操作も、当分野における通常の手段を適宜用いて行うことができ、特に制限されるものではない。焼成の条件も特に制限されないが、550〜650℃の範囲内の温度で、5時間空気雰囲気下で焼成させる条件が好適である。
【0026】
このような本発明の製造方法により、上述した本発明のSi−Fe系複合酸化物を好適に製造できる。本発明のSi−Fe系複合酸化物は、たとえばボールミルなど公知の手段を用いて粉砕し、適当な粒径範囲(好ましくは300〜500μm)のものを分級することで、VOCの触媒燃焼法に好適に用いられ得る金属酸化物触媒として供することができる。
【0027】
以下、実験例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
<実験例1>
最終生成物に含まれるFe23重量組成がそれぞれ0重量%(サンプル1)、10重量%(サンプル2)、30重量%(サンプル3)、50重量%(サンプル4)、70重量%(サンプル5)となるように、秤量したFe(NO33・9H2OとCa(OH)2とSiO2とをCa/Siのモル比が0.6となるように調整し、蒸留水を加え均一に攪拌し、スラリー(pH2.0)を生成させた。その後、オートクレーブにて飽和蒸気圧199kPa、120℃、12時間の条件下で水熱処理を行った後、ろ過および洗浄した。これを100℃、6時間の条件下で乾燥させた後、600℃、5時間空気雰囲気下で焼成を行った。このようにしてFe含有量を変動させたSi−Fe系複合酸化物のサンプル1〜5を作製した。
【0029】
このようにして得られたサンプル1〜5をそれぞれボールミルで粉砕し、粒径300〜500μmに分級した後、Si−Fe系複合酸化物を、直径4mmのU字管に充填し、上下をアルミナウールで固定した。その後、気化させたトルエン5000ppm、SV40000/時間の相当流量に調整しつつU字管に送り、各200〜700℃で酸化分解反応させ、その分解物をGC(島津製作所製)にかけ、トルエンの濃度(%)を測定し、トルエンの50%が分解されたときの温度(T50)を算出した。またサンプル1〜5について、TEM画像を用いた解析手法によりFeを含む一次粒子の粒子径およびアスペクト比、窒素ガス吸着法を用いてBET比表面積をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
ここで、図1は、実験例1で得られた各サンプルについての温度とトルエンの分解率との関係を示すグラフであり、縦軸は分解率(%)、横軸は温度(℃)である。また図2(a)はサンプル1、図2(b)はサンプル2、図2(c)はサンプル3、図2(d)はサンプル4、図2(e)はサンプル5についてのSEM画像写真である。Fe含有量30〜50重量%であるサンプル3、4は、Fe含有量が0%であるサンプル1と比較すると、BET比表面積が大きく増大し、トルエン分解温度が大きく低下する、すなわち、触媒活性が向上する結果となっていることが分かる。また、Fe含有量が0%であるサンプル1は、SEM画像では板状の結晶状態となる(図2(a))が、Feを含むサンプル2〜5では、粒子状の結晶状態となり比表面積も大きく増大することが分かる(図2(b)、(c)、(d)、(e))。
【0032】
<実験例2>
最終生成物に含まれるFe23重量組成が30重量%であり、仕込み時におけるCa/Siのモル比がそれぞれ0.3(サンプル6)、0.6(サンプル7)、0.9(サンプル8)、1.3(サンプル9)、2.0(サンプル10)となるように出発物質を配合したこと以外は実験例1と同様にしてSi−Fe系複合酸化物のサンプル6〜10を作製した。実験例1と同様にして、トルエンの分解率(%)、T50、粒子径、アスペクト比、BET比表面積を測定した。結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
ここで、図3は、実験例2で得られた各サンプルについての温度とトルエンの分解率との関係を示すグラフであり、縦軸は分解率(%)、横軸は温度(℃)である。また図4(a)はサンプル6、図4(b)はサンプル7、図4(c)はサンプル8、図4(d)はサンプル9、図4(e)はサンプル10についてのSEM画像写真である。Ca/Siのモル比が0.3〜0.9の範囲であるサンプル6〜8では、細かい粒子状の結晶状態を発現していることが確認されるが、Ca/Si比を1.3以上としたサンプル9、10では、粒が大きくなり触媒活性の低下に繋がることが分かる。
【0035】
今回開示された実施の形態および実験例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiとFeとを含む複合酸化物であって、Feを含む一次粒子の粒径が100nm以下、かつ、アスペクト比が2.0以下である、酸化触媒作用を有するSi−Fe系複合酸化物。
【請求項2】
Feの含有組成が酸化鉄として30〜50重量%である、請求項1に記載の複合酸化物。
【請求項3】
BET比表面積が100m2/g以上である、請求項1または2に記載の複合酸化物。
【請求項4】
水酸化カルシウムとシリカと硝酸鉄とを配合し、純水を加えて混濁させスラリーを生成するスラリー生成工程と、
生成したスラリーを水熱処理する水熱処理工程と、
水熱処理後の複合物をろ過・洗浄するろ過・洗浄工程と、
ろ過・洗浄後の複合物を乾燥させる乾燥工程と、
乾燥後の複合物を焼成する焼成工程とを含む、Si−Fe系複合酸化物の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−110494(P2011−110494A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268952(P2009−268952)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】