説明

Si−H官能性カルボシラン成分を含む歯科用組成物

本発明は、a)少なくとも1個のSi−アリール結合と、少なくとも1個のケイ素原子と、少なくとも2個のSi−H官能性部分と、零個のSi−酸素結合とを含むカルボシラン含有成分(A)と、b)不飽和成分(131)および/またはエポキシ成分(132)と、c)開始剤(C)と、d)任意に充填剤(D)と、e)任意に、変性剤、染料、顔料、チキソトロープ剤、流動改善剤、高分子増粘剤、界面活性剤、芳香物質、希釈剤および香料から選択された成分(E)とを含む歯科用組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はSi−H官能性カルボシラン成分を含む硬化性歯科用組成物に関する。本組成物は改善された特性を有し、例えば歯科充填用材料として用いることが可能である。
【背景技術】
【0002】
市場にある歯科充填用材料は、複合材、樹脂変性ガラスイオノマーセメントおよびガラスイオノマーセメント(GIZ)に一般に分類することが可能である。複合材は、不飽和成分、特に(メタ)アクリレートの光誘導ラジカル重合を経由して通常硬化する。ガラスイオノマーセメントがセメント固化反応によって硬化するのに対して、樹脂変性ガラスイオノマーセメントは、両方のメカニズムを用いて硬化する。
【0003】
歯科用組成物の硬化が歯腔を充填するために特に有用であるガラスイオノマーセメントに比べて非常に硬い材料をもたらす歯科用組成物は特に興味深い。しかし、市場にある歯科用組成物の周知された欠点は、硬化すると組成物が縮むことである。更なる欠点は、歯科用複合材料の成分の一部が加水分解に対してあまり安定でない、および/または同等に親水性であることであり、従って望ましくない物質が、硬化した組成物から長年にわたって発生し得る。
【0004】
上述した問題を解決しようとする試みが行われた。
【0005】
この点に関して、(特許文献1)には、1,3−ビス(1−イソシアナト−1−1メチルエチル)ベンゼンのウレタンジ(メタ)アクリレート誘導体が記載されている。このモノマーが従来の歯科用充填材料の屈折率に適合する屈折率を有し、変色に向けた傾向がなく、材料の機械的特性を損なわずに歯科用材料中のビス−GMAに取って代わることが可能であることが述べられている。
【0006】
(特許文献2)は、シクロシロキサン系架橋性モノマー、それらのモノマー製造および重合性材料中でのそれらのモノマーの使用、特にゾルゲル縮合性シクロシロキサン(メタ)アクリレートからのポリシロキサンならびに樹脂組成物に関連している。
【0007】
(特許文献3)は、歯科用組成物のために有用な硬化性シロキサン化合物に基づく重合性材料に関連している。用いられるシロキサン化合物が低粘度を示し、高い充填剤取込みを可能にし、低い重合収縮を有する組成物につながることが記載されている。
【0008】
(特許文献4)において、多環式セグメントまたは芳香族セグメントを有するプレポリマー(メタ)アクリレートは、歯科用材料の調製のために有用であると記載されている。シロキサンモノマーが高い分子量(例えば600g/モルを上回る)を有し、高い(メタ)アクリレート官能性および低い粘度を有すると言われている。
【0009】
(特許文献5)は、ジ(メタ)アクリレートまたはポリ(メタ)アクリレート、アルコキシル化ビスフェノールジメタクリレート、重合性モノマー、重合開始剤および/または増感剤、安定剤および充填剤の混合物を含む低収縮重合性歯科用材料に関連している。重合中の体積の収縮は2体積パーセント未満であることが言及されている。
【0010】
(特許文献6)には、(メタ)アクリレート部分を含む基を含むことが可能である特定の式のシランが開示されている。このシランがそれ自体でまたは塗料組成物、バルク材料、接着剤および射出成形用の組成物のための添加剤として用いることが可能であることが記載されている。
【0011】
しかし、上述した解決策は完全には満足でない。
【0012】
従って、代替品が必要とされている。改善された特性を有する代替材料が特に必要とされている。
【0013】
従って、本発明の目的は上述した問題の1つ以上を軽減することである。
【0014】
本発明の目的は、歯科分野で使用される場合に美的な組成物を提供することでもある。
【0015】
本発明のもう1つの目的は親油性組成物を提供することである。
【0016】
本発明の更なる目的は、改善された特性を有する組成物、特に、低い収縮値を有する組成物を提供することを可能にする組成物を提供することである。
【0017】
以下のテキストで記載された組成物を提供することにより上述した目的の1つ以上を達成することが可能であることが見出された。
【0018】
驚くべきことに、Si−H官能性基を含み、カルボシロキサン構造を含まないカルボシラン化合物を使用すると、改善された特性を有する硬化性歯科用組成物を提供することを可能にすることが見出された。
【0019】
【特許文献1】米国特許第6,653,375B2号明細書
【特許文献2】米国特許第6,624,236B1号明細書
【特許文献3】米国特許第6,566,413B1号明細書
【特許文献4】国際公開第01/92271A1号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2001095862A1号パンフレット
【特許文献6】EP第0451709A2号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0020】
従って、本発明は、
a)少なくとも1個のSi−アリール結合と、
少なくとも1個のケイ素原子と、
1個のケイ素原子が1個を上回るH原子を保持することが可能である少なくとも2個のSi−H官能性部分と、
零個のSi−酸素結合と、
を含むカルボシラン含有成分(A)と、
b)不飽和成分(B1)および/またはエポキシ成分(B2)と、
c)開始剤(C)と、
d)任意に充填剤(D)と、
e)任意に、変性剤、染料、顔料、チキソトロープ剤、流動改善剤、高分子増粘剤、界面活性剤、芳香物質、希釈剤および香料から選択された成分(E)と、
を含む歯科用組成物に関する。
【0021】
本発明は以下のテキストに記載されたように組成物を製造する方法にも関連する。
【0022】
更に、本発明は以下のテキストに記載されたように組成物を使用する方法に関連する。
【0023】
カルボシラン含有成分(A)は、他の反応性化合物および/または非反応性化合物も必要ならば含んでもよい歯科用材料中の反応性化合物として単独で、または他のSi−H官能性化合物との混合物中で用いることが可能である。
【0024】
本発明は、改善された特性を有する歯科用組成物を提供するための方法を提供する。カルボシラン含有成分(A)は、提供された歯科用組成物が優れた不透明度を有し得るように、従って非常に美的であり得るように、同等に低い粘度と合わせて同等に高い屈折率を示し得る。更に、本組成物は、市場にある他の歯科用組成物と比べて、硬化後に同等に低い収縮ならびに(例えば、コーヒー、お茶、赤ワインからの)水および/または水溶性染料の低い取込みを示し得る。
【0025】
本発明の意味内の「含む(comprise)」および「含む(contain)」という用語は、機能の網羅的でないリストを導入する。同様に、「1つの」または「a」という単語は「少なくとも1つ」の意味で理解されるべきである。
【0026】
本発明による「歯科用組成物」という用語は、通常は数グラムの少量で種々の目的のために歯科分野で用いられるべき硬化性組成物である。
【0027】
本発明による「不飽和成分」という用語は、分子内で少なくとも1個のオレフィン基を各々が含む物質または物質の混合物である。
【0028】
本発明による「エポキシ成分」という用語は、分子内で少なくとも1個のエポキシ基を各々が含む物質または物質の混合物である。
【0029】
本発明による「開始剤」という用語は、エポキシの硬化反応、好ましくはヒドロシリル化硬化反応および/または金属誘導カチオン開環重合反応を開始できる物質または物質の混合物である。
【0030】
本発明による「Si−H官能性部分」という用語は、エポキシの特にヒドロシリル化反応および/または金属誘導カチオン開環重合反応を経由して重合可能である部分であって、好ましくはSi−H官能基を含む部分を意味する。
【0031】
本発明による「アリール」という用語は、フェニル、ナフチルなどの芳香族部分を意味する。結合されたSi原子に加えて、アリール部分は、1〜2個の置換基、好ましくはアルキル基および/またはアリールエーテル基(例えば、C18アルキル、C210アルケニル、C36シクロアルキル、C46シクロアルケニル、C610アリール)を保持することが可能である。
【0032】
カルボシラン含有成分(A)は、(ポリ)有機金属官能性成分(i)をケイ素含有成分(ii)と反応させることによるスキーム(I)により例えばグリニャール反応((フーベン−ウェイル(Houben−Weyl)著、「有機化学の方法(Methoden der Organischen Chemie)」、ゲオルグ・ティエメ・ベルラグ(Georg Thieme Verlag)発行、シュツッツガルト(Stuttgart)、1973、第4版)の第XIII/2a巻、p47ffを参照すること)、または例えばヒドロシリル化反応((マルシニエク(Marciniec,B)著、「ヒドロシリル化に関する包括的ハンドブック(Comprehensive Handbook on Hydrosilylation)」、ペルガモンプレス(Pergamon Press)発行、オックスフォード(Oxford)、1992)を参照すること)を経由して合成することが可能である。
【0033】
グリニャール反応は、例えばケイ素含有化合物(ii)の脱離基LGを金属有機化合物(i)が置換し、新たなSi−C単結合を形成するとともにケイ素含有化合物(iii)を与える求核性置換反応である。
【0034】
【化1】

式中、
5、R6、R7、R8=Hまたは(環式)脂肪族部分あるいは芳香族部分または(環式)脂肪族芳香族部分あるいは芳香族(環式)脂肪族部分、ここで、C原子および/またはH原子は、O原子、Br原子、Cl原子およびSi原子によって置換されていることが可能であり、オレフィン基も含むことが可能である。
【0035】
金属有機化合物(i)は例えば(米国特許第4,788,268号)(欄6〜17の調製実施例1、2、4、5、6および7)においてシロキサン系化合物のために記載されたスキーム(I)により用いることが可能であるか、または例えば(ベック(Beck,H.N.)、チャフィー(Chaffee,R.G.)著、J.Chem.Eng.Data 1963、8(3)、453〜454)によって1,3,5−トリス(ジメチルシリル)ベンゼンおよび2,4,6−トリス(ジメチルシリル)アニソールのような他のカルボシラン化合物のために記載されたin−situグリニャール反応を経由してハロゲン化前駆体から出発するin−situグリニャール反応の中間体として用いることが可能である。
【0036】
1,3,5−トリブロモベンゼンおよび2,4,6−トリブロモアニソールのような(ポリ)ハロゲン化前駆体は市販されているか、または例えば、(フーベン−ウェイル(Houben−Weyl)著、「有機化学の方法(Methoden der Organischen Chemie)」、ゲオルグ・ティエメ・ベルラグ(Georg Thieme Verlag)発行、シュツッツガルト(Stuttgart)、1973、第4版)のVI/3巻、p57(第1の調製実施例)またはp56(第1の調製実施例)におけるアリルフェニルエーテルまたはBUT−2−エニル−(2−メトキシフェニル)エーテルのような類似アリールアルキルエーテル化合物のために記載された1,5−ビス(3,5−ジクロロフェノキシ)ペンタンまたは2,2−ビス[3,5−ジブロモ−4−(3−メチルブチルオキシ)フェニル]プロパンのように、あるいは例えば、(ターベル(Tarbell,D.S.)、ウィルソン(Wilson,J.W.)著、J.Am.Chem.Soc.、1942、64(5)、1066〜1070)によって記載されたアリル−(2−クロロフェニル)エーテルのように合成することが可能である。
【0037】
クロロジメチルシラン、クロロメチルフェニルシラン、クロロジフェニルシラン、クロロメチルシラン、クロロフェニルシランまたはクロロシランのようなケイ素含有成分(ii)は市販されている。
【0038】
本発明のカルボシラン含有成分(A)は、例えば(マルシニエク(Marciniec,B)著、「ヒドロシリル化に関する包括的ハンドブック(Comprehensive Handbook on Hydrosilylation)」、ペルガモンプレス(Pergamon Press)発行、オックスフォード(Oxford)、1992)のp107ffに記載されたか、または例えば(米国特許第6,245,828号)(欄19の調製実施例2〜3の合成の第1の工程)においてシロキサン系化合物のために記載された触媒として一般的な貴金属化合物を例えば用いて、ポリSi−H官能性カルボシラン成分(iv)を非ケイ素含有ジオレフィン前駆体(v)と反応させることによりスキーム(II)によりヒドロシリル化反応を経由して得ることも可能である。
【0039】
ヒドロシリル化反応は、Si−H官能性化合物(iv)をスキーム(II)で示された触媒の存在下でオレフィン官能性化合物(v)に添加し、新たなSi−C単結合を形成するとともにケイ素含有化合物(vi)を与える付加反応である。
【0040】
【化2】

式中、
1、R2、R3、R4=Hまたは(環式)脂肪族部分あるいは芳香族部分または(環式)脂肪族芳香族部分あるいは芳香族(環式)脂肪族部分、ここで、C原子および/またはH原子は、O原子、Br原子、Cl原子およびSi原子によって置換されていることも可能であり、オレフィン基のような官能基も含むことが可能である。
【0041】
1,3,5−トリス(ジメチルシリル)ベンゼンおよび2,4,6−トリス(ジメチルシリル)アニソールのようなSi−H官能性カルボシラン成分(iv)は、例えば(ベック(Beck,H.N.)、チャフィー(Chaffee,R.G.)著、J.Chem.Eng.Data 1963、8(3)、453〜454)によって記載されたin−situグリニャール反応を経由して合成することが可能である。
【0042】
ビスフェノールAジアリルエーテルまたはテトラブロモビスフェノールAジアリルエーテルのような非ケイ素含有ジオレフィン前駆体(v)は市販されているか、または例えば、(フーベン−ウェイル(Houben−Weyl)著、「有機化学の方法(Methoden der Organischen Chemie)」、ゲオルグ・ティエメ・ベルラグ(Georg Thieme Verlag)発行、シュツッツガルト(Stuttgart)、1965、第4版)のVI/3巻、p57(第1の調製実施例)またはp56(第1の調製実施例)におけるアリルフェニルエーテルまたはBUT−2−エニル−(2−メトキシフェニル)エーテルのようなアリールアルキルエーテル化合物のために記載された2,2−ビス[3,5−ジブロモ−4−(4−ペンテニルオキシ)フェニル]プロパンのように、あるいは例えば、(ターベル(Tarbell,D.S.)、ウィルソン(Wilson,J.W.)著、J.Am.Chem.Soc.、1942、64(5)、1066〜1070)によって記載された例えばアリル−(2−クロロフェニル)エーテルのように合成することが可能である。
【0043】
本発明組成物のカルボシラン含有成分(A)は、好ましくは以下の化学部分を含む。
−Si−アリール結合:少なくとも1、2、3または4個
−ケイ素原子:少なくとも1、2、3、4、5または6個、好ましくは2〜4個
−Si−H官能性部分:少なくとも2、3、4、5または6個、好ましくは2〜4個
−Si−酸素結合:零個
−芳香族部分:少なくとも1、2、3または4個
−任意に、ビスフェノール誘導スペーサ部分
【0044】
カルボシラン含有成分(A)の量は、硬化した組成物を基準にして約1重量%ほどに低い、または約3重量%ほどに低い、または約10重量%ほどに低いことが可能である。
【0045】
カルボシラン含有成分(A)の量は、硬化した組成物を基準にして約90重量%ほどに高い、または約65重量%ほどに高い、または約30重量%ほどに高いことが可能である。
【0046】
不飽和成分(B1)の量は、硬化した組成物を基準にして約1重量%ほどに低い、または約3重量%ほどに低い、または約10重量%ほどに低いことが可能である。
【0047】
不飽和成分(B1)の量は、硬化した組成物を基準にして約90重量%ほどに高い、または約65重量%ほどに高い、または約30重量%ほどに高いことが可能である。
【0048】
エポキシ成分(B2)の量は、硬化した組成物を基準にして約1重量%ほどに低い、または約3重量%ほどに低い、あるいは約10重量%ほどに低いことが可能である。
【0049】
エポキシ成分(B2)の量は、硬化した組成物を基準にして約90重量%ほどに高い、または約65重量%ほどに高い、あるいは約30重量%ほどに高いことが可能である。
【0050】
開始剤(C)の量は、硬化した組成物を基準にして約0.00005重量%ほどに低い、または約0.0002重量%ほどに低い、または約0.002重量%ほどに低いことが可能であり、元素金属として計算することが可能であり、成分(A)〜(E)に関して存在する材料の全重量に関連付けることが可能である。
【0051】
開始剤(C)の量は、硬化した組成物を基準にして約1.0重量%ほどに高い、または約0.5重量%ほどに高い、または約0.1重量%ほどに高いことが可能であり、元素金属として計算することが可能であり、成分(A)〜(E)に関して存在する材料の全重量に関連付けることが可能である。
【0052】
充填剤(D)の量は、硬化した組成物を基準にして約3重量%ほどに低い、または約25重量%ほどに低い、または約50重量%ほどに低いことが可能である。
【0053】
充填剤(D)の量は、硬化した組成物を基準にして約90重量%ほどに高い、または約80重量%ほどに高い、または約75重量%ほどに高いことが可能である。
【0054】
任意の成分(E)は、硬化した組成物を基準にして約25重量%、または約15重量%以下、または約3重量%の量に至るまで存在することが可能である。
【0055】
本発明の歯科用組成物は、好ましくは以下のパラメータの少なくとも1つを満たす。
【0056】
カルボシラン含有成分(A)の粘度は、約0.1Pa*s以上、約1Pa*s以上、約2Pa*s以上であることが可能である。
【0057】
カルボシラン含有成分(A)の粘度は、通常、約40Pa*sを超えず、約20Pa*s以下または約5Pa*s以下であることが可能である。
【0058】
カルボシラン含有成分(A)の屈折率は、通常、約1.510以上、約1.520以上または1.530以上であることが可能である。
【0059】
屈折率は、通常、約1.600を超えず、約1.580以下または1.560以下であることが可能である。
【0060】
硬化した歯科用組成物の不透明度は、約10%以上、約40%以上、約70%以上であることが可能である。
【0061】
不透明度は、通常、約92%を超えず、約90%以下または約88%以下であることが可能である。
【0062】
カルボシラン含有成分(A)の分子量(Mw)は、約400以上、約600以上または約800以上であることが可能である。
【0063】
分子量(Mw)は、通常、約10,000を超えず、約5,000以下または約2,000以下であることが可能である。
【0064】
圧縮強度は、約150MPa以上、約200MPa以上または約250MPa以上であることが可能である。
【0065】
曲げ強度は、約50MPa以上、好ましくは約65MPa以上、より好ましくは約80MPa以上であることが可能である。
【0066】
特に指示がない限り、測定は以下で記載した方法により標準温度および標準圧力(「STP、すなわち23℃および1023hPa」で行われる。
【0067】
カルボシラン含有成分(A)の屈折率は、「クルエス(Kruess)」AR4D装置(アッベ(Abbe)の測定原理による屈折計)で測定することが可能である。屈折率は20.0℃で測定される。屈折率は589nmの波長で測定される。
【0068】
カルボシラン含有成分(A)の粘度は、「ハーケ・ロトビスコ(Haake RotoVisco)」RV1装置(ステータP61と合わせて8000mPa*s以下の粘度に関してロータC60/1または8000mPa*sを上回る粘度に関してロータC20/1)で測定することが可能である。粘度は2つの平面と平行板(すなわち、ステータおよびロータ)との間で23℃で測定される。システムの活性化および修正後に、適切なロータを設置する。その後、ロータを下げ、ステータとロータとの間の距離を粘度測定のために(ソフトウェア「レオウィン・プロジョッブ・マネージャ・ソフトウェア・バージョン(RheoWin Pro Job Manager Softoware Version)」2.94を用いて)0.052mmに調節する。その後、ロータを上げ、測定しようとする材料をステータ上に置く(ロータ60/1で1.0mlまたはロータC20/1で0.04ml)。甚だしく遅れずに、ロータを予備調節した測定位置に下げて戻す。測定しようとする材料を23.0℃で調合する。測定のための剪断速度を少なくとも5000μNmのトルクを生じさせる値に調節する(従って、測定しようとする材料の粘度に応じて100、200、500または1000s-1の剪断速度を通常は用いられた)。測定を開始し、60秒にわたり行う。粘度値(Pa*s)を測定の開始から20秒後に記録し、記録した値の平均値を粘度として与えた。
【0069】
カルボシラン含有成分(A)の分子量(Mw)をGPCで決定する。適切な方法は専門家によって知られている。更に、分子量の決定は核磁気共鳴分光分析法(末端基の決定)を用いて可能である。
【0070】
硬化した歯科用組成物の不透明度を、規定高さ3.6(±0.1)mmおよび直径20(±0.1)mmの試験片によって測定する。これらは、測定しようとする材料を適切に高い環に均一に且つ泡がないように充填し、平らで透明でシリコーン油処理されたガラススライドの間に標準温度または50℃で一晩貯蔵することにより材料を化学的に硬化させることによって調製する。その後、米国のハンター・ラブ・アソーシエーツ・ラボラトリー(Hunter Lab Associates Laboratory,Inc.)の色測定装置「ハンターラブ・ラブスキャン・スペクトラルカラリメータ(HanterLab LabScan Spectralcolorimeter)」(ソフトウェア、「スペックウェア・ソフトウェア・バージョン(SpecWare Software Version)」1.01)で不透明度を測定し、装置によって%値で与える。
【0071】
圧縮強度および曲げ強度を、ISO4049に準拠してそれぞれISO9917と同等に測定する。圧縮強度の測定のために、各材料の10個の試験片(3×3×5mm)を製造者の推奨により調製し、ユニバーサル試験機(「ズウィック(Zwick)」Z010、クロスヘッド速度4mm/分)を用いて測定をISO9917と同等に行った。圧縮強度はMPaで与えられる。曲げ強度の測定は、ユニバーサル試験機(「ズウィック(Zwick)」Z010、クロスヘッド速度2mm/分)を用いてISO4049に準拠して行う。曲げ強度はMPaで与えられる。
【0072】
本発明組成物のカルボシラン含有成分(A)は、式(A):
アリール−[Si(A)abn (A)
(式中、互いから独立して選択されて、
A=(環式)脂肪族部分(C1〜C6、好ましくはC1)、芳香族部分(C6〜C14、好ましくはフェニル)、
Br=臭素原子、
C=炭素原子、
Cl=塩素原子、
H=水素原子、
O=酸素原子、
Si=ケイ素原子、
アリール=芳香族部分(C6〜C14)、好ましくは、ベンゼン、ナフタレン、アルコキシベンゼン、アルコキシナフタレン、ビスフェノールAエーテルまたはビスフェノールFエーテル、
a+b=3、
a=0、1または2(好ましくはa=2)、
b=1、2または3(好ましくはb=1)、
n=1、2、3、4、5または6(好ましくはn=2〜4)である)
によって特徴付けることが可能である。
【0073】
従って、本発明組成物のカルボシラン含有成分(A)は、好ましくは同等に低い粘度と合わせて同等に高い屈折率、同等に高い親油性および同等に高い分子量を通常有する。
【0074】
特定のいかなるメカニズムにも限定されること望まないで、カルボシラン含有成分(A)内の芳香族部分のゆえに、屈折率および親油性は同等に高いことが考えられ、それは、適切な美的性を達成するとともに(例えば、コーヒー、お茶、赤ワインからの)水および/または水溶性染料の取込みによる汚れおよび/または膨潤を避けるために歯科用材料に関して多少重要であり得る。
【0075】
特定のいかなるメカニズムにも限定されること望まないで、カルボシラン含有成分(A)の同等に高い分子量および/またはカルボシラン含有成分(A)内のSi−H官能性部分Si(A)abの異なる反応性のゆえに、誘導された歯科用組成物の体積収縮が従来の(メタ)アクリレート複合材と比べて減少されることも考えられる。
【0076】
好ましい実施形態において、カルボシラン含有成分(A)は、カルボシラン含有成分(A)の分子構造およびカルボシラン含有成分(A)内の構造要素{アリール−[Si(A)abnmの数値mに応じて式(I〜IV)によって特徴付けることが可能である。
【0077】
好ましい実施形態おいて、カルボシラン含有成分(A)は、構造要素{アリール−[Si(A)abnmにおける分子内で唯一の芳香族部分(すなわち、m=1)および唯一のアリール−Si結合(すなわち、n=1)を含み、指標が上で定義された通りである式(I):
[Hb(A)aSi]d−E−{アリール−[Si(A)abnm (I)
(式中、
m=1、
n=1、
d≧1、
E=(環式)脂肪族部分(C2〜C13、好ましくはC4およびC6を有するアルカジイル)、ここで、C原子および/またはH原子は、O原子、Br原子、Cl原子およびSi原子によって置換されていることが可能であり、
他の指標は上で定義された通りである)
によって特徴付けることが可能である。
【0078】
式(I)によると、以下の構造式はカルボシラン含有成分(A)の好ましい例である。
【0079】
【化3】

式中、A=C1、a=2、b=1、E=CがOおよびSiによって部分的に置換されているC4、アリール=フェニル。
【0080】
【化4】

式中、A=C1、a=2、b=1、E=CがOおよびSiによって部分的に置換されているC6、アリール=フェニル。
【0081】
【化5】

式中、A=C1、a=2、b=1、E=CがOおよびSiによって部分的に置換されているC4、アリール=フェニル。
【0082】
【化6】

式中、A=C1、a=2、b=1、E=CがOおよびSiによって部分的に置換されているC6、アリール=フェニル。
【0083】
【化7】

式中、A=C1、a=2、b=1、E=CがOおよびSiによって部分的に置換されているC4、アリール=フェニル。
【0084】
【化8】

式中、A=C1、a=2、b=1、E=CがOおよびSiによって部分的に置換されているC6、アリール=フェニル。
【0085】
【化9】

式中、A=C1、a=2、b=1、E=CがOおよびSiによって部分的に置換されているC4、アリール=ナフチル。
【0086】
【化10】

式中、A=C1、a=2、b=1、E=CがOおよびSiによって部分的に置換されているC6、アリール=ナフチル。
【0087】
【化11】

式中、A=C1、a=2、b=1、E=CがOおよびSiによって部分的に置換されているC4、アリール=ナフチル。
【0088】
【化12】

式中、A=C1、a=2、b=1、E=CがOおよびSiによって部分的に置換されているC6、アリール=ナフチル。
【0089】
以下の化合物は、式(I)による要求事項を満たすin−situグリニャール反応を経由するカルボシラン含有成分(A)の合成のためにスキーム(I)により用いられる金属有機成分(i)の好ましいポリハロゲン化前駆体の例である。
【0090】
【化13】


【0091】
以下の化合物は、式(I)による要求事項を満たすカルボシラン含有成分(A)の合成のためにスキーム(I)により用いられる好ましいケイ素含有成分(ii)の例である。
(H3C)2SiClH、
(H3C)(H56)SiClH、
(H562SiClH、
(H3C)SiClH2
(H56)SiClH2
ClSiH3
【0092】
更に好ましい実施形態において、カルボシラン化合物(A)は構造要素{アリール−[Si(A)abnmにおける分子内の唯一の芳香族部分(すなわち、m=1)および1個を上回るアリール−Si結合(すなわち、n>2)を含み、式(II):
{アリール−[Si(A)abnm (II)
によって特徴付けることが可能である(指標は上で定義された通りである)。
式中、互いから独立して選択されて、
m=1
n=2、3、4、5または6(好ましくは2および3)であり、
指標は上で定義された通りである。
【0093】
式(II)によると、以下の構造式はカルボシラン含有成分(A)の好ましい例である。
【0094】
【化14】

式中、A=C1、a=2、b=1、n=2、アリール=フェニル。
【0095】
【化15】

式中、A=C1、a=2、b=1、n=2、アリール=フェニル。
【0096】
【化16】

式中、A=C1、a=2、b=1、n=2、アリール=フェニル。
【0097】
【化17】

式中、A=C1、a=2、b=1、n=3、アリール=フェニル。
【0098】
【化18】

式中、A=C1、a=2、b=1、n=3、アリール=フェニル。
【0099】
【化19】

式中、A=C1、a=2、b=1、n=2、アリール=フェニル。
【0100】
【化20】

式中、A=C1、a=2、b=1、n=3、アリール=フェニル。
【0101】
【化21】

式中、A=C1、a=2、b=1、n=4、アリール=フェニル。
【0102】
【化22】

式中、A=C1、a=2、b=1、n=2、アリール=ナフチル。
【0103】
【化23】

式中、A=C1、a=2、b=1、n=2、アリール=ナフチル。
【0104】
以下の化合物は、式(II)による要求事項を満たすin−situグリニャール反応を経由するカルボシラン含有成分(A)の合成のためにスキーム(I)により用いられる金属有機成分(i)の好ましいポリハロゲン化前駆体の例である。
【0105】
【化24】


【0106】
以下の化合物は、式(II)による要求事項を満たすカルボシラン含有成分(A)の合成のためにスキーム(I)により用いられる好ましいケイ素含有成分(ii)の例である。
(H3C)2SiClH、
(H3C)(H56)SiClH、
(H562SiClH、
(H3C)SiClH2
(H56)SiClH2
ClSiH3
【0107】
更に好ましい実施形態において、カルボシラン含有成分(A)は、構造要素{アリール−[Si(A)abnm(すなわち、m≧2)における分子内で1個を上回る芳香族部分を含み、式(III):
F−{アリール−[Si(A)abnm (III)
によって特徴付けることが可能である(指標は上で定義された通りである)。
式中、互いから独立して選択されて、
m=2、3または4(好ましくは2)、
n=1、2、3、4、5または6(好ましくは2〜4)
F=(環式)脂肪族部分(C0〜C25、好ましくはC0〜C9を有するアルカジイル)、ここで、C原子および/またはH原子は、O原子、Br原子、Cl原子およびSi原子によって置換されていることも可能であり、
指標は上で定義された通りである。
【0108】
式(III)によると、以下の構造式はカルボシラン含有成分(A)の好ましい例である。
【0109】
【化25】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=2、n=1、F=CがOによって置換されているC1、アリール=フェニル。
【0110】
【化26】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=2、n=1、F=C1、アリール=フェニル。
【0111】
【化27】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=2、n=1、2、F=C3、アリール=フェニル。
【0112】
【化28】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=2、n=2、F=C3、アリール=フェニル。
【0113】
【化29】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=2、n=2、F=C3、アリール=フェニル。
【0114】
【化30】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=2、n=2、F=C3、アリール=フェニル。
【0115】
【化31】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=2、n=2、F=CがOによって部分的に置換されているC7、アリール=フェニル。
【0116】
【化32】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=2、n=2、F=CがOによって部分的に置換されているC5、アリール=ナフチル。
【0117】
【化33】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=3、n=2、F=CがOによって部分的に置換されているC8、アリール=フェニル。
【0118】
【化34】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=4、n=2、F=CがOによって部分的に置換されているC9、アリール=フェニル。
【0119】
以下の化合物は、式(III)による要求事項を満たすin−situグリニャール反応を経由するカルボシラン含有成分(A)の合成のためにスキーム(I)により用いられる金属有機成分(i)の好ましいポリハロゲン化前駆体の例である。
【0120】
【化35】


【0121】
以下の化合物は、式(III)による要求事項を満たすカルボシラン含有成分(A)の合成のためにスキーム(I)により用いられる好ましいケイ素含有成分(ii)の例である。
(H3C)2SiClH、
(H3C)(H56)SiClH、
(H562SiClH、
(H3C)SiClH2
(H56)SiClH2
ClSiH3
【0122】
更に好ましい実施形態において、カルボシラン含有成分(A)は、構造要素{アリール−[Si(A)abnmにおいてだけでなく分子内で1個を上回る芳香族部分を含み、式(IV):
G−{アリール−[Si(A)abnm (IV)
によって特徴付けられることが可能である(指標は上で定義された通りである)。
式中、互いから独立して選択されて、
m=2、3または4(好ましくは2)
n=1、2、3、4、5または6(好ましくは2〜4)
G=(環式)脂肪族部分または芳香族部分あるいは(環式)脂肪族芳香族部分または芳香族(環式)脂肪族部分(C1〜C100、好ましくはC3〜C63を有するジイル)、ここで、C原子および/またはH原子は、O原子、Br原子、Cl原子およびSi原子によって置換されていることが可能であり、
指標は上で定義された通りである。
【0123】
式(IV)によると、以下の構造式はカルボシラン含有成分(A)の好ましい例である。
【0124】
【化36】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=2、n=2、G=C3、アリール=フェニル。
【0125】
【化37】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=2、n=2、G=C3、アリール=フェニル。
【0126】
【化38】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=2、n=2、G=CがOによって部分的に置換されているC10、アリール=フェニル。
【0127】
以下の化合物は、式(IV)による要求事項を満たすin−situグリニャール反応を経由するカルボシラン含有成分(A)の合成のためにスキーム(I)により用いられる金属有機成分(i)の好ましいポリハロゲン化前駆体の例である。
【0128】
【化39】

【0129】
以下の化合物は、式(IV)による要求事項を満たすカルボシラン含有成分(A)の合成のためにスキーム(I)により用いられるケイ素含有成分(ii)の好ましい例である。
(H3C)2SiClH、
(H3C)(H56)SiClH、
(H562SiClH、
(H3C)SiClH2
(H56)SiClH2
ClSiH3
【0130】
式(IV)のより詳細な実施形態において、カルボシラン含有成分(A)は、式(IVa)(指標は上で定義された通りである)によって表すことが可能である。
【0131】
【化40】

式中、互いから独立して選択されて、
p=0、1、2、3または4、
o=0、1、2、3、4または5、
Q=H、CH3
R、S=H、CH3、フェニルまたはC5〜C9アルカジイル(例えば、R+S=(CH25、CH2−CH(CH3)−CH2−CH2−CH2、CH2−CH2−CH(CH3)−CH2−CH2またはCH2−C(CH32−CH2−CH(CH3)−CH2)、
T、U=HまたはCH3
V、W、X、Y=H、BrまたはClであり、
指標は上で定義された通りである。
【0132】
式(IVa)によると、以下の構造式はカルボシラン含有成分(A)の好ましい例である。
【0133】
【化41】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=2、n=2、G=CがOおよびSiによって部分的に置換されているC49、アリール=フェニル。
【0134】
【化42】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=2、n=2、G=CがOおよびSiによって部分的に置換されているC59、アリール=フェニル。
【0135】
【化43】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=2、n=2、G=CがBr、OおよびSiによって部分的に置換されているC57、アリール=フェニル。
【0136】
【化44】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=2、n=2、G=CがBr、OおよびSiによって部分的に置換されているC63、アリール=フェニル。
【0137】
O=0に関する式(IVa)のもう1つのより詳細な実施形態において、カルボシラン含有成分(A)は、式(IVb)(指標は上で定義された通りである)によって表すことが可能である。
【0138】
【化45】

式中、
指標は上で定義された通りである。
【0139】
式(IVb)によると、以下の構造式はカルボシラン含有成分(A)の好ましい例である。
【0140】
【化46】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=2、n=2、G=CがOおよびSiによって部分的に置換されているC29、アリール=フェニル。
【0141】
【化47】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=2、n=2、G=CがOおよびSiによって部分的に置換されているC34、アリール=フェニル。
【0142】
【化48】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=2、n=2、G=CがBr、OおよびSiによって部分的に置換されているC33、アリール=フェニル。
【0143】
【化49】

式中、A=C1、a=2、b=1、m=2、n=2、G=CがBr、OおよびSiによって部分的に置換されているC37、アリール=フェニル。
【0144】
以下の化合物は、式(IVaおよびIVb)による要求事項を満たすカルボシラン含有成分(A)の合成のためにスキーム(II)により用いられる好ましいポリSi−H官能性カルボシラン成分(iv)の例である。
【0145】
【化50】

【0146】
好ましい非ケイ素含有ジオレフィン前駆体(v)の例は次の通りである。
【0147】
【化51】











【0148】
有用な不飽和成分(B1)は、ヒドロシリル化反応を経由してカルボシラン含有成分(A)と反応することが可能である。こうした不飽和成分(B1)は、オレフィン基を有するオルガノポリシロキサンおよび/またはカルボシラン誘導化合物ならびにオレフィン基を保持する他のケイ素を含まない化合物を含む。不飽和成分(B1)は、好ましくは、分子当たり少なくとも2個のオレフィン基を有するオルガノポリシロキサンおよび/または分子当たり少なくとも2個のオレフィン基を有するカルボシランおよび/または分子当たり少なくとも2個のオレフィン基を有するケイ素を含まない化合物である。
【0149】
有用なエポキシ成分(B2)は、エポキシの金属誘導カチオン開環重合反応を経由してカルボシラン含有成分(A)と反応することが可能である。こうしたエポキシ成分(B2)は、エポキシ基を有するオルガノポリシロキサンおよび/またはカルボシラン誘導化合物ならびにエポキシ基を保持する他のケイ素を含まない化合物であることが可能である。エポキシ成分(B2)は、好ましくは、分子当たり少なくとも2個のエポキシ基を有するオルガノポリシロキサンおよび/または分子当たり少なくとも2個のエポキシ基を有するカルボシランおよび/または分子当たり少なくとも2個のエポキシ基を有するケイ素を含まない化合物である。こうしたエポキシ成分の例は、米国特許第6,245,828号、EP1368402 A1およびUS 2003035899において見ることが可能である。
【0150】
有用な開始剤(C)は、不飽和化合物(B1)および/またはエポキシ化合物(B2)の存在下で組成物のカルボシラン含有成分(A)の硬化を開始させることが可能である。
【0151】
こうした開始剤は光硬化性または化学硬化性であることが可能である。開始剤の両方のタイプは当業者に周知されている。
【0152】
こうした開始剤の代表的な例には、例えば、マルシニエク(Marciniec,B)著、「ヒドロシリル化に関する包括的ハンドブック(Comprehensive Handbook on Hydrosilylation)」、ペルガモンプレス(Pergamon Press)発行、オックスフォード(Oxford)、1992のp8ff、または例えば、米国特許第5,145,886号、同第6,046,250号、同第6,376,569号内で記載されたような、例えば、白金の錯体(酸化状態0および/または+2)、パラジウム(酸化状態0および/または+2)またはロジウム(酸化状態0および/または+1)が挙げられる。
【0153】
開始剤(C)は、好ましくは、テトラメチルジビニルジシロキサンによる還元によりヘキサクロロ白金酸から調製された白金錯体である。これらの化合物は知られている。付加架橋を促進することができる他の白金化合物も適する。適する白金−シロキサン錯体の例は、例えば、米国特許第3,715,334号、同第3,775,352号および同第3,814,730号に記載されている。白金触媒は、好ましくは0.00005〜0.5重量%、特に0.0002〜0.2重量%の量で用いられる。それぞれは元素白金として計算され、成分(A)〜(E)に関して存在する材料の全量に関連付けられる。
【0154】
反応性を制御するために、早期架橋を防ぐ禁止剤をエラストマーに添加することが望ましい場合がある。こうした禁止剤は知られており、例えば、米国特許第3,933,880号に記載されている。こうした禁止剤の例には、3−メチル−1−ブチン−3−オール、1−エチニルシクロヘキサン−1−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オールおよび3−メチル−1−ペンチン−3−オールなどのアセチレン系不飽和アルコールが挙げられる。ビニルシロキサンに基づく禁止剤の例には、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルシロキサンならびにビニル基を含むポリシロキサン、オリゴシロキサンおよびジシロキサンが挙げられる。
【0155】
本発明の組成物は、充填剤(D)、好ましくは、石英、粉砕ガラス、シリカゲルならびに発熱性珪酸および沈降珪酸またはそれらの粒体のような無機充填剤も含んでよい。X線不透明充填剤も少なくとも部分的に好ましくは用いられる。これらは、例えばX線不透明ガラス、すなわち、(例えば、(米国特許第3,971,754号)による)例えば、ストロンチウム、バリウムまたはランタンを含有するガラスであることが可能である。充填剤の一部は、(例えば、(EP 0238025 A1)による)三弗化イットリウム、ヘキサフルオロジルコン酸ストロンチウムまたは希土類金属の弗素化物などのX線不透明添加剤を含有してもよい。ポリマーマトリックスにより良く導入するために、無機充填剤を疎水化することが有益な場合がある。典型的な疎水化剤には、シラン、例えば、(5−ヘキセニル)トリメトキシシランまたは[2−(3−シクロヘキセニル)エチル]トリメトキシシランが挙げられる。充填剤は、好ましくは20μm未満、特に5μm未満、より特に2μm未満の平均粒径および150μm、特に70μm、より特に25μmの上限粒度を有する。こうした充填剤は、組成物の約3〜約90重量%、特に約25〜約80重量%または約50〜約75重量%の量で存在することが可能である。
【0156】
石英、クリストバライト、珪酸カルシウム、珪藻土、珪酸ジルコニウム、ベントナイトなどのモンモリロナイト、ゼオライト(アルミニウム珪酸ナトリウムなどのモレキュラーシーブが挙げられる)、酸化アルミニウムまたは酸化亜鉛あるいはそれらの混合酸化物などの金属酸化物粉末、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、プラスター、ガラスおよびプラスチック粉末などの非強化用充填剤も用いてよい。
【0157】
適する充填剤は、例えば、発熱性珪酸または沈降珪酸およびシリカアルミナ混合酸化物などの強化用充填剤も含む。上述した充填剤は、例えば、オルガノシランまたはシロキサンで処理することにより、またはヒドロキシル基をアルコキシ基にエーテル化することにより疎水化することが可能である。充填剤の1つのタイプまたは少なくとも2種の充填剤の混合物も用いることが可能である。
【0158】
強化用充填剤と非強化用充填剤の組み合わせは特に好ましい。この点に関して、強化用充填剤の量は、約1〜約10重量%まで、特に約2〜約5重量%まで異なることが可能である。
【0159】
指定された全体範囲の差、すなわち約2〜約89重量%は、非強化用充填剤によって占められる。
【0160】
表面処理によって好ましくは疎水化された熱分解で調製された高度に分散した珪酸は強化用充填剤として好ましい。表面処理は、例えば、ジメチルジクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、テトラメチルシクロテトラシロキサンまたはポリメチルシロキサンで行うことが可能である。
【0161】
特に好ましい非強化用充填剤は、表面処理されることが可能である石英、クリストバライト、炭酸カルシウムおよびアルミニウム珪酸ナトリウムである。表面処理は、強化用充填剤の場合に記載されたのと同じ方法で一般に行うことが可能である。
【0162】
任意に、安定剤、変性剤、染料、顔料、チキソトロープ剤、流動改善剤または希薄剤、高分子増粘剤、界面活性剤および希釈剤のような添加剤(E)を単独で、または混合して添加してもよい。
【0163】
上述したカルボシラン含有成分(A)は、エポキシのヒドロシリル化反応および/または金属誘導カチオン開環重合を好ましくは経由して硬化可能である歯科用組成物中のモノマーとして用いることが可能である。
【0164】
本発明の歯科用組成物は、歯科充填用材料、歯冠材料および架工義歯材料、ベニヤ材料、インレーまたはアンレーとして用いることが可能である。
【0165】
カルボシラン含有成分(A)は、
a)カルボシラン含有成分(A)を含む歯科用組成物を提供する工程と、
b)前記歯科用組成物を表面に被着させる工程と、
c)前記歯科用組成物を硬化させる工程と、
を含む方法において歯科用材料を調製するために用いることも可能である。
【0166】
表面は、通常は歯、歯冠または架工義歯の表面である。
【0167】
本発明の歯科用組成物は、1パート混合物または2パート混合物として提供することが可能である。これは、通常は用いられる開始剤に応じて決まる。開始剤が光硬化性である場合、歯科用組成物は1パート混合物として提供することが可能である。開始剤がレドックス硬化性である場合、歯科用組成物は2パート混合物として提供するべきである。
【0168】
従って、本発明は、ベースパート(I)および触媒パート(II)を含む要素からなるキットにも関連する。ここで、ベースパート(I)は、カルボシラン含有成分(A)、不飽和成分(B1)および/またはエポキシ成分(B2)ならびに充填剤(D)を含み、触媒パート(II)は開始剤(C)を含む。ここで、成分(E)は、ベースパートまたは触媒パート中に存在するか、あるいはベースパート及び触媒パート中に存在する。
【0169】
本発明の歯科用組成物は、容器またはカートリッジ、好ましくは歯科用コンプル中に通常は包装される。こうしたコンプルの例は、米国特許第5,322,440 A1号、同第4,391,590号または同第5,165,890号において記載されている。
【0170】
本発明は、
a)上述したように成分(A)、(B1)および/または(B2)、(C)、任意に(D)および任意に(E)を提供する工程と、
b)工程a)の成分を混合する工程と、
を含む硬化性歯科用組成物を製造する方法にも関連する。ここで、グリニャール反応またはin−situグリニャール反応を経由して化合物(A)を得ることができるか、あるいはヒドロシリル化反応を経由して化合物(A)を得ることができる。
【0171】
グリニャール反応またはin−situグリニャール反応は、上述したように(ポリ)有機金属官能性成分(i)または(ポリ)ハロゲン化前駆体とケイ素含有成分(ii)を反応させることを含む。
【0172】
ヒドロシリル化反応は、上述したようにポリSi−H官能性カルボシラン成分(iv)と非ケイ素含有ジオレフィン前駆体(v)を反応させることを含む。
【実施例】
【0173】
本発明を以後実施例によって説明する。実施例は例示目的のみのためであり、本発明を限定することを意図していない。
【0174】
表1に記載された化合物を上に記載した参考文献により調製し、それらの屈折率および粘度を測定した。
【0175】
【表1】

【0176】
本発明によるカルボシラン化合物を含む歯科用組成物および最先端技術を用いた参考文献化合物を含む歯科用組成物を調製し、それらの不透明度を測定した。
【0177】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1個のSi−アリール結合と、
少なくとも1個のケイ素原子と、
少なくとも2個のSi−H官能性部分と、
零個のSi−酸素結合と、
を含むカルボシラン含有成分(A)と、
b)不飽和成分(B1)および/またはエポキシ成分(B2)と、
c)開始剤(C)と、
d)任意の充填剤(D)と、
e)任意に、変性剤、染料、顔料、チキソトロープ剤、流動改善剤、高分子増粘剤、界面活性剤、芳香物質、希釈剤および香料から選択された成分(E)と、
を含む歯科用組成物。
【請求項2】
成分(A)が約1.510以上の屈折率を有する、
成分(A)が約0.1Pa*s以上の粘度を有する、
成分(A)が約400以上の分子量を有する、
硬化した組成物の不透明度が約10%以上である、
硬化した組成物の圧縮強度が約150MPa以上である、
硬化した組成物の曲げ強度が約50MPa以上である、
の内の少なくとも1つの要求事項を満たす、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
全組成物を基準にして、
a)カルボシラン含有成分(A)が少なくとも1重量%の量で存在し、
b)不飽和成分(B1)および/またはエポキシ成分(B2)が少なくとも1重量%の量で存在し、
c)開始剤(C)が元素金属として計算して少なくとも0.00005重量%の量で存在し、
d)任意の充填剤(D)が少なくとも3重量%の量で存在し、
e)任意の成分(E)が25重量%未満の量で存在する、
請求項1または2に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
カルボシラン含有成分(A)が、式(A):
アリール−[Si(A)abn (A)
によって表され、式中、互いから独立して選択されて、
A=脂肪族部分または脂環式部分(C1〜C6)または芳香族部分(C6〜C14)、
Br=臭素原子、
C=炭素原子、
Cl=塩素原子、
H=水素原子、
O=酸素原子、
Si=ケイ素原子、
アリール=芳香族部分(C6〜C14)、
a+b=3、
a=0、1または2、
b=1、2または3、
n=1、2、3、4、5または6、
である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項5】
カルボシラン含有成分(A)が、式(I):
[Hb(A)aSi]d−E−{アリール−[Si(A)abnm (I)
(式中、互いから独立して選択されて、
m=1、
n=1、
d≧1、
E=(環式)脂肪族部分(C2〜C13を有するアルカジイル)、ここで、C原子および/またはH原子は、O原子、Br原子、Cl原子およびSi原子によって置換されていることが可能であり、
他の指標は請求項4で定義された通りである);
式(II):
{アリール−[Si(A)abnm (II)
(式中、互いから独立して選択されて、
m=1、
n=2、3、4、5または6であり、
他の指標は請求項4で定義された通りである);
式(III):
F−{アリール−[Si(A)abnm (III)
(式中、互いから独立して選択されて、
m=2、3または4、
n=1、2、3、4、5または6、
F=(環式)脂肪族部分(C0〜C25を有するアルカジイル)、ここで、C原子および/またはH原子は、O原子、Br原子、Cl原子およびSi原子によって置換されていることが可能であり、
他の指標は請求項4で定義された通りである);
または式(IV):
G−{アリール−[Si(A)abnm (IV)
(式中、互いから独立して選択されて、
m=2、3、4、
n=1、2、3、4、5または6、
G=(環式)脂肪族部分または芳香族部分あるいは(環式)脂肪族芳香族部分または芳香族(環式)脂肪族部分(C1〜C100を有するジイル)、ここで、C原子および/またはH原子は、O原子、Br原子、Cl原子およびSi原子によって置換されていることが可能であり、
他の指標は請求項4で定義された通りである);
の1つによって表される、請求項4に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
カルボシラン含有成分(A)が、式(IVa)または式(VIb)
【化1】

(式中、互いから独立して選択されて、
P=0、1、2、3または4、
o=0、1、2、3、4または5、
Q=HまたはCH3
R、S=H、CH3、フェニルまたはアルカジイルC5〜C8
T、U=HまたはCH3
V、W、X、Y=H、BrまたはClであり、
他の指標は請求項4で定義された通りである)
の1つによって表される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項7】
カルボシラン含有成分(A)が
【化2】


から選択される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項8】
不飽和成分(B1)がオレフィン基を有するオルガノポリシロキサンおよび/またはカルボシラン誘導化合物ならびにオレフィン基を保持する他のケイ素を含まない化合物から選択され、エポキシ成分(B2)がエポキシ基を有するオルガノポリシロキサンおよび/またはカルボシラン誘導化合物ならびにエポキシ基を保持する他のケイ素を含まない化合物から選択される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
開始剤(C)が光硬化開始剤または化学硬化開始剤あるいは両方の組み合わせを含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項10】
充填剤(D)が強化用充填剤または非強化用充填剤あるいは両方の組み合わせを含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項11】
容器またはカートリッジに充填された、請求項1〜10のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項12】
ベースパート(I)および触媒パート(II)を含む要素からなるキットであって、ベースパート(I)がカルボシラン含有成分(A)、不飽和成分(B1)および/またはエポキシ成分(B2)ならびに充填剤(D)を含み、触媒パート(II)が開始剤(C)を含み、成分(E)が該ベースパートまたは該触媒パート中に存在するか、あるいは該ベースパート及び該触媒パート中に存在するキット。
【請求項13】
a)成分(A)、(B1)および/または(B2)、(C)、任意に(D)および任意に(E)を提供する工程と、
b)工程a)の成分を混合する工程と、
を含む硬化性歯科用組成物を製造する方法であって、成分(A)は、グリニャール反応またはin−situグリニャール反応を経由して得ることができるか、あるいはヒドロシリル化反応を経由して得ることができる方法。
【請求項14】
前記グリニャール反応またはin−situグリニャール反応が(ポリ)有機金属官能性成分または(ポリ)ハロゲン化前駆体を反応させることを含み、前記ヒドロシリル化反応がポリSi−H官能性カルボシラン成分と非ケイ素含有ジオレフィン前駆体を反応させることを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
歯科充填用材料、歯冠材料および架工義歯材料、ベニヤ材料、インレー、アンレーとして請求項1〜10のいずれか1項に記載の歯科用組成物を用いる方法。
【請求項16】
a)カルボシラン含有成分(A)を含む歯科用組成物を提供する工程と、
b)該歯科用組成物を表面に被着させる工程と、
c)該歯科用組成物を硬化させる工程と、
を含む方法において歯科用材料を調製するための請求項1〜7のいずれか1項に記載のカルボシラン含有成分(A)の使用。

【公表番号】特表2008−505942(P2008−505942A)
【公表日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520671(P2007−520671)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【国際出願番号】PCT/EP2004/007783
【国際公開番号】WO2006/005366
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(504169278)スリーエム イーエスピーイー アーゲー (43)
【Fターム(参考)】