説明

SiC−ダイヤモンドを接合する方法

本発明は、少なくとも1種類のセラミック材料と少なくとも1種類の超硬材料とを含有するセラミック複合材料部品を、少なくとも1つの他の部品に接合する方法において、該セラミック複合材料部品の1つ以上の接合表面を処理する工程、及び該処理された1つ以上の表面又は該表面の一部の上に、該セラミック複合材料部品に対してだけでなく少なくとも1つの他の部品に対しても、十分な熱を加えることによって、結合させることのできる材料を配置する工程と、を含む、上記方法に関する。本発明は、セラミック材料と少なくとも1種類の超硬材料とを含有するセラミック複合材料部品であって、少なくとも1つの他の部品に結合されたセラミック複合材料部品を有する物品において、該セラミック複合材料部品と該他の部品との間の境界面に含まれる、付着層、ろう付け可能な層、及び耐酸化性(ろう付け適合性)層から選ばれた少なくとも1つの層、又はそれらの組合せを有する、上記物品に及ぶ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1種類のセラミック材料と少なくとも1種類の超硬材料とを含有するセラミック複合材料部品を少なくとも1つの他の部品に接合するための方法に関する。とりわけ、本発明は、炭化ケイ素ダイヤモンド複合材料を他の材料に接合するための方法、並びに、そのような接合された材料を含有する材料及び工具に炭化ケイ素ダイヤモンド複合材料を接合するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、SiC、Si、Al、ZrOのようなセラミックスは、典型的には、硬質で耐熱性の比較的化学的に不活性な材料であり、従って、耐摩耗性部品、バリスティック・アーマー(ballistic armour)、切削工具、及び電子機器のような一連の用途に用いられる。ダイヤモンド及び立方晶窒化ホウ素(cBN)のような超硬相をセラミックス材料に組み入れると、複合材料の平均硬度、耐摩耗性及び熱伝導率を著しく増大させることができる。例えば、米国特許第6,447,852号及び米国特許第6,709,747号明細書は、少量のケイ素及び他の物質に加えてSiC及びダイヤモンドを含有するある種の材料と、該材料の製造方法とを開示する。この材料の様々な形態は、様々な体積分率及び粒度分布のダイヤモンドを含有し、その配合物は、様々な用途のために特定的に設計され得る。この材料の用途は、電子デバイスの温度管理、ウォータジェット用ノズル、及び、削岩機ドリルビット用インサートに及ぶ程の多様性を持つ。これらの用途及び他の用途で用いられるセラミック−ダイヤモンド複合材料部品の形状は、複雑である場合があり、且つ、統合された構成部品を形成するために、大抵、少なくとも1つの他の部品に接合される必要がある。そのような接合の強度は、削岩のようなある種の用途では、セラミック−ダイヤモンド複合材料部品が作動中に構成部品から外れないように、非常に高い必要がある。
【0003】
セラミック材料の構成部品を他の構成部品に高強度で接合することは、高度化され且つ特殊化された技術分野であり、典型的には、例えば、空気中でのガストーチ(gas torch)によるろう付けのような従来の接合技術と結び付かない。ある程度の成功は、セラミックスのために特別に設計された、高度に特殊化された反応性ろう付けであって、それのために特別の雰囲気を必要とすることがあるろう付けを用いることによって達成され得る。そのような方法は、典型的には、比較的高価であり、且つ、大量生産にも費用重視の用途にもあまり適していない。
【0004】
例えば、接合されるべき部品の接合表面(join surfaces)の処理がそうである様に、ろう付けを用いて部品を接合することは、当該技術分野では周知である。ろう付け用合金は、接合されるべき両方の部品の融点よりも低い融点を有する材料を含有する。ろう付け用合金は、典型的には、箔又はペーストの形態であり、接合部が形成される前、接合されるべき部品の一方又は両方の上に配置され得る。相溶性フラックスもまた、一般に必要である。接合部に含まれる、諸部品の表面は、本明細書では接合表面と称される。
【0005】
ScD材料は、炭化ケイ素で作られたマトリックス中に結合されたダイヤモンド粒子を含有する材料と表現することができる。当該技術分野には、米国特許第6,709,747号、米国特許第6,447,852号及び米国特許第6,868,848号明細書等のそのような材料に向けられている様々な教示が存在する。これらの米国特許明細書の全ては、言及されることによって、本明細書に組み入れられる。
ScD材料は比較的新しいので、ScD材料を構造用金属に取り付けることに関する技術分野に対する実質的な教示は全く存在しない。セラミックスの接合において、活性ろう付け(active brazing)は、当該技術分野では周知である。次の記述は、H.R.プラバーカラ(Prabhakara)「金属に対するセラミックス及び黒鉛の真空ろう付け(Vacuum brazing of ceramics and graphite to metals)」バンガロール・プラズマテックPvt社(Bangalore Plasmatek Pvt. Ltd)(ジーバンミトラコロニーIフェーズ(Jeevanmitra Colony I-Phase),ブロック14,129,バンガロール(Bangalore)560078)からの抜粋である。
【0006】
『しかし、セラミックスを金属及びセラミックス自体に接合することは、単純ではない。基本的に2つの問題が存在する。先ず、通常のろう材は、セラミックスの表面を濡らさない。第2に、金属の熱膨張係数とセラミックスの熱膨張係数とには大きな差異が存在する。このことによって、ろう付けプロセスにおいて、亀裂の原因となり得る著しく大きい応力が引き起こされる。セラミックスをろう付けするために、特殊技術が開発されてきた。モリブデン−マンガン・メタライゼーション(Moly-manganese metallization)は、セラミックスをろう付けするための標準的技法である。ここでは、マンガン10%を含有する耐熱金属モリブデンの塗料がセラミックに施され、次いで、約1400℃で焼結される。このプロセスにおいて、マンガンは酸化して、該セラミックとモリブデン層との間に転移層を形成しながらセラミックの中に拡散する。このことによって、セラミックとモリブデンとの間の熱的不整合は低減する。次いで、それは、ニッケルを用いたメッキによって、酸化から保護される。次いで、真空中又は不活性雰囲気中で、従来のろう材(filler)を用いて、ろう付けが実施される。
【0007】
活性ろう付けは、比較的新しい技術である。活性ろう付け用合金と呼ばれる一群のろう付け用合金は、従来のろう材組成物に僅かな割合のチタン又はバナジウムを添加することによって作られる。ろう付けは、清浄状態の高真空下で実施される。ろう付けの間、チタンは、チタン酸化物を形成しながら、及び一部のアルミニウム原子を遊離させながらセラミックによって酸化される。この中間層は、セラミックと金属との間にある種の化学的橋(chemical bridge)を形成する。代替的方法は、セラミック上にチタンコーティングを備え、次いで、通常のろう付けを行うことである。高温において、チタンは、他の金属だけでなくセラミックスともうまく反応する。通常のろう付け用合金は、チタン表面を濡らし、良好なろう付け接合を引き起こす。超硬材料を工具にろう付けするという点から見ると、当該技術分野で知られている方法は、活性ろう材〔炭化物形成元素:−Ti、Cr、Mo等を含有するもの、例えば、TiCuSil〕を用いて、高真空(<10−5ミリバール)の下、溶融するまで加熱するものである。』
【0008】
セラミック材料と超硬材料とを含有する複合材料を接合することは、典型的には、該複合材料が形成される間、該超硬材料の表面領域が相変化を受けることがある該超硬材料が存在することによって、更に複雑となる。とりわけ、該プロセスが加熱の適用を含む場合(典型的にはそうなるのであるが)、そうである。これは、硬質相が、典型的には、そのようなプロセスのために通常用いられる圧力条件では準安定であり、且つ、高温ではより軟質の相に容易に転換するからである。例えば、ダイヤモンドは、空気中、約700℃より高い温度では黒鉛に容易に転換する(即ち、黒鉛化する)。従って、そのような材料の接合表面は、典型的には、露出したセラミック材料に加えて、この材料の表面の少なくとも一部分がより軟質の相(例えば、黒鉛)に転換された露出した超硬材料(例えば、ダイヤモンド)を含有する。接合表面における、あらゆる露出した黒鉛又は他の軟質相は、接合箇所の強度を低下させる傾向がある。かなりの加熱(とりわけ、空気中での加熱)の適用を伴うあらゆる接合方法は、露出した準安定の硬質相をより軟質の相に更に転換する危険を冒す。
【0009】
米国特許第5,500,248号及び同第5,647,878号明細書は、空気中でろう付け可能なダイヤモンド工具インサートを教示する。これらの参考文献の教示は、セラミックと超硬材料とを含有する部品を接合することに対して最適化されている訳ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,500,248号明細書
【特許文献2】米国特許第5,647,878号明細書
【特許文献3】米国特許第6,447,852号明細書
【特許文献4】米国特許第6,709,747号明細書
【特許文献5】米国特許第6,868,848号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】H.R.プラバーカラ著:「金属に対するセラミックス及び黒鉛の真空ろう付け」バンガロール・プラズマテックPvt社(ジーバンミトラコロニーIフェーズ,ブロック14,129,バンガロール560078)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、少なくとも1種類のセラミック材料、及び少なくとも1種類の超硬材料とを含有するセラミック複合材料部品を、少なくとも1つの他の部品に接合する方法を得る必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様によると、少なくとも1種類のセラミック材料と少なくとも1種類の超硬材料とを含有するセラミック複合材料部品を、少なくとも1つの他の部品に接合する方法において、
・ 前記セラミック複合材料部品の1つ以上の接合表面を処理する工程、及び
・ 前記の処理された1つ以上の表面又は前記表面の一部の上に、前記の少なくとも1つの他の部品に対してだけでなく前記セラミック複合材料部品に対しても十分な熱を加えることによって結合させることのできる材料を、配置する工程、
を含む、上記方法が提供される。
【0014】
前記処理工程は、前記セラミック複合材料部品の前記接合表面を粗面化するものであるか、若しくはエッチングするものであるか、又は別の方法でその表面積を増大させるものである場合がある。
好ましくは、本方法は、酸化性雰囲気中で適用することができる。最も好ましくは、結果として得られる、セラミック複合材料部品と少なくとも1つの他の部品との間の結合強度は、該セラミック複合材料部品中の超硬材料とセラミック材料との間の結合強度と同程度であるか又はそれより大きい。
【0015】
好ましくは、セラミック複合材料部品は、酸化物、炭化物、窒化物及びそれらの混合物等のセラミック相を含有し、好ましくは炭化物セラミックスを、最も好ましくはSiCを含有する。超硬材料は、好ましくは、ダイヤモンドである。とは言え、cBN(立方晶窒化ホウ素)、PcBN(多結晶質窒化ホウ素)及び/又はPCD(多結晶質ダイヤモンド)のような他の超硬材料を用いることができるということはよく理解されるであろう。
本発明の1つの態様において、セラミック複合材料部品の接合表面の処理は、接合表面又は複数の表面における露出したセラミック材料が粗面化される(エッチングされる)ような具合に(即ち、接合表面上の露出した超硬表面の面積が、当該技術分野で周知のいずれかの方法によって測定されるとき、増大するような具合に)、1種類の酸又は複数種類の酸の組み合わせによって処理されることを含む。更に、超硬材料がダイヤモンドである場合、露出したダイヤモンド表面上に存在するあらゆる黒鉛は、実質的に除去され得る。
【0016】
好ましくは、表面処理は、二段階で行われる。先ず、接合表面の非ダイヤモンド部分(例えば、露出したSiC)を粗面化するか又はエッチングするために、HCl、HSO、HF及びHNOから選ばれる酸を用いることができる。好ましくは、HFを用い、且つ、加熱することができる。これは、次いで、好ましくは、強酸化性酸(例えば、クロム酸、発煙硫酸、並びに固体のKNO及び/又はHClO)から選ばれた熱い(20〜150℃)第2の酸で処理される。溶融(NaOH+KNO)を用いることもできる。とは言え、直接的湿式化学法(straight wet chemical method)(好ましくはクロム酸)が最も好ましくは用いられる。この第2の工程は、接合表面に存在し得る(とりわけ、超硬材料がダイヤモンドである場合、露出したダイヤモンド表面に存在し得る)あらゆる黒鉛を除去することを目的とする。
【0017】
好ましくは、処理された1つ以上の表面の上に配置される材料は、該接合表面の上に順々に施用され得る材料の別個の層である。これらの層は、
i) 付着層、
ii) ろう付け可能な層、及び
iii) 耐酸化性(ろう付け適合性)層、
の1つ以上である場合がある。
超硬材料がダイヤモンドである場合、付着層は、接合表面において、露出した1つ以上のダイヤモンド表面の一部分の上に成長した炭化物(最も好ましくは、TiCであるが、炭化クロムのような化学的に結合したあらゆる炭化物でもあり得る)を含有する。炭化物(好ましくはTiC)は、当該技術分野で知られている従来の化学蒸着(CVD)法によって、接合表面のかなりの部分に施され得る。このことによって、結果的に、炭化物(好ましくはTiC)によって被覆されており、且つ、炭化物(好ましくはTiC)に化学的に結合されている、露出したあらゆるダイヤモンドが生じるであろう。
【0018】
付着層は、好ましくは、強力な結合を形成するのに十分厚く(例えば、少なくとも0.1μm、好ましくは少なくとも0.2μm、より好ましくは少なくとも0.3μm、最も好ましくは少なくとも0.4μm)、且つ、それが剥げて取れるほど厚くはない(例えば、約8μm未満、好ましくは約7μm未満、より好ましくは約6μm未満、最も好ましくは約5μm未満)。
【0019】
ろう付け可能な層は、好ましくは、付着層の後の接合面に施される。該ろう付け可能な層は、好ましくは、付着層とうまく結合するように選ばれた材料配合物を含み、最も好ましくは、W、Mo、Cr、Ni、Ta、Au、Pt、Pd、Nb、又はそれらのいずれかの組合せ若しくは合金から選ばれた耐熱金属(最も好ましくは、W)を含有し、付着層で被覆されていない接合表面のあらゆる部分のかなりの部分の上だけでなく接合表面の1つ以上の露出した超硬表面のかなりの部分の上に配置される(含まれる)付着層の上にも堆積される。好ましくは、タングステン金属が、ろう付け可能な層として用いられる。なぜなら、タングステン金属の、溶融ろうによって湿らされる親和性は周知であり、且つ、タングステン金属の融点は高く、そのために、タングステン金属は、後続のろう付けに必要とされるかもしれない高温で除去もされず変形もされないことが確実だからである。モリブデンは、ろう付け可能な層に適した代替的材料である。タングステン層は、厚さが少なくとも約0.1μmであり、好ましくは少なくとも約0.5μmであり、且つ、厚さが約20μm未満であり、好ましくは10μm未満であり、より好ましくは2μm未満であることが望ましい。当該技術分野で知られている標準的物理蒸着(PVD)法を用いて、該タングステン層を堆積することができる。代替的に、タングステンはCVD(化学蒸着)によって施すことができる。
【0020】
タングステン及びモリブデンのような、ろう付け可能な層に用いるのに典型的に適している材料は、ろう付け温度で表面酸化する傾向があり得、また、ろうと共に用いられるフラックスによって悪影響を受けることがあるので(それにより、溶融ろうによるそれら材料の湿れ性を低減するであろう)、Ag、Sn、Au、Ptから選ばれる成分(但し、好ましくはAg)、又はそれらの合金であって、それら相互の、及び/又は、他の金属、他の合金(例えば、青銅若しくは黄銅又はろう付け用合金)との合金を含有する更なる耐酸化性層を、ろう付け可能な層の上に堆積することができる。このことは、表面酸化の作用が、物品のろう付け性に悪影響を及ぼすのを防ぐために行われる。PVD(物理蒸着)を用いて、耐酸化性銀層を堆積させることができる。代替的に、湿式化学的銀堆積技術(wet chemical silver deposition technique)を用いることができる。
【0021】
耐酸化性銀層は、好ましくは、ろうによって湿らせることができるべきであり、且つ、十分に厚くあるべきである。
ろう付け可能な層は、好ましくは、ろうによって湿らせることができるべきであり、十分に厚くあるべきであり、且つ、ろうと大規模に合金化すべきでない。
【0022】
本発明の第2の態様によると、セラミック材料、及び少なくとも1種類の超硬材料とを含有するセラミック複合材料部品であって、少なくとも1つの他の部品に結合されたセラミック複合材料部品を有する物品において、
該セラミック複合材料部品と該他の部品との間の境界面に含まれる、
i) 付着層、
ii) ろう付け可能な層、及び
iii) 耐酸化性(ろう付け適合性)層、
から選ばれた少なくとも1つの層、又はそれらの組合せを有する、上記物品が提供される。
【0023】
好ましくは、前記セラミック複合材料部品の接合表面は、前記接合表面を粗面化するように、若しくはエッチングするように又は別の方法でその表面積を増大するように処理されている。
好ましくは、前記物品は、ロールコーン、回転ドリル用ビット、パーカッションドリル用ビット、又はピックの中で用いられるインサートであって、該インサートの作業面の少なくとも一部分が、セラミック複合材料(ScD)からなるインサートである。
【0024】
代替的に、前記物品は、PDCタイプ剪断用インサート(PDC type shear cutting insert)であって、該インサートの作業面の少なくとも一部分が、ScDからなるインサートである場合がある。
代替的に、前記物品は、ゲージ保護用インサートであって、該インサートの作業面の少なくとも一部分が、ScDからなるインサートである場合がある。
【0025】
好ましくは、前記インサートは、成形インサートである。該インサートは、実質的に円筒型の本体部分と、実質的にのみ形状の頂部部分とを有することができる。代替的に、該インサートは、実質的に円筒型の本体部分と、実質的に半球形の頂部部分とを有することができる。代替的に、該インサートは、実質的に円筒型の本体部分と、実質的に弾丸型の頂部部分とを有することができる。該インサートは、実質的に円筒型の本体部分と、実質的に左右対称又は左右非対称の頂部部分とを有することができる。
【0026】
本発明の第3の態様によると、超硬材料とセラミック材料とを含有するセラミックス複合材料部分に境界面で結合された金属体部分を有する耐摩耗性部材において、該境界面に隣接する該セラミックス複合材料部分の表面に二重層が結合されており、該二重層は、炭化物形成性元素で作られた第1の炭化物層と、W、Mo、Cr、Ni、Ta、Au、Pt、Pd又はそれらのいずれかの組合せ若しくは合金から選ばれた高融点金属で作られた第2の層とを含有し、該第2の層は、該第1の層からの炭化物形成性元素を実質的に含まない、上記耐摩耗性部材が提供される。
【0027】
本発明の第4の態様によると、超硬材料とセラミック材料とを含有するセラミックス複合材料部分に境界面で結合された金属体部分を有する耐摩耗性部材において、炭化物形成性元素で作られた第1の炭化物層、及び、W、Mo、Cr、Ni、Ta、Au、Pt、Pd又はそれらのいずれかの組合せ若しくは合金から選ばれた金属を含有する第2の層は、該境界面において該金属部分と該セラミックス複合材料部分との中間表面を提供する、上記耐摩耗性部材が提供される。
好ましくは、前記第2の層は、前記第1の層に結合されており、前記第1の層は、前記セラミックス複合材料部分の表面に結合されている。
【0028】
好ましくは、前記炭化物形成性元素は、Ti、Cr及びMoから選ばれている。
好ましくは、前記高融点金属は、Wである。
好ましくは、前記超硬材料は、ダイヤモンドであり、且つ、前記セラミック材料は、SiCを含有している。
【0029】
好ましくは、前記第1の炭化物層の厚さは、少なくとも約0.1μm、好ましくは少なくとも約0.3μm、最も好ましくは少なくとも約0.4μmであり、且つ、20μm未満、好ましくは10μm未満、より好ましくは5μm未満である。前記第1の炭化物層の平均厚さは、0.1〜1μm、より好ましくは0.3〜1μm、最も好ましくは0.4〜1μmである場合がある。
好ましくは、前記第1の層の炭化物形成性元素は、実質的に、炭化物以外の形態で境界面に存在しない。
【0030】
好ましくは、前記耐摩耗性部材の金属体部分は、炭化タングステン又は鋼を、最も好ましくは炭化タングステンを含有する。
好ましくは、前記境界面に隣接する前記セラミックス複合材料部分の表面は、黒鉛も他の非ダイヤモンド炭素も実質的に含有しない。
好ましくは、前記耐摩耗性部材は工具であり、好ましくは、回転ドリル用ビット、攻撃ツール(attack tool)又はピックである。
従来技術は、セラミックス複合材料部品の1つ以上の接合表面を処理する工程であって、その工程が、結果的に、議論されている材料のための重要な利点を生じる工程を教示していない。
【0031】
加えて、本発明は、存在するセラミックが、接合されるべき部分に存在している場合、TiC層がろう付け可能な層から分離されるということを教示する。従来技術は、層を分離することを積極的には教示していない。従来技術において、TiC層は、非常に薄く(0.1μm)、Wと混合されている非炭化物Tiが存在する。本発明は、結果的に、超硬材料との境界面において、応力管理(stress management)を改善する「厚い」TiC層を教示する。加えて、本発明は、結果的に、ろう付け用材料からの、ダイヤモンドのような超硬相の保護を改善する。最終的に、本発明の教示の結果、ろう付け可能な層を選定する自由度がより大きくなる。とりわけ、ろう付け可能な層の選定は、他の支配的な条件から著しく切り離される。
次に、下記の非限定的実施例を参照して、本発明を説明する。
【実施例】
【0032】
ダイヤモンド60体積%を含有するSiC−ダイヤモンド複合材料部品(ScD材料 020902−C SNMN4404)を、超硬炭化タングステンを含有する部品(摩耗表面として用いられる、Co8%を含有するWCプレートから切り取られた5mm×5mm立方体)に接合する。
【0033】
表面処理
SiC−ダイヤモンド複合材料部品の接合面は、それを酸で処理することによって前処理された。この処理は2段階で行われた。先ず、HCl/HFを用いて(HSO及びHNOのような他の酸も用いることができる)、接合表面の非ダイヤモンド部分(即ち、大部分は、露出したSiC)を粗面化又はエッチングを行った。この後、接合表面に、とりわけ露出したダイヤモンド表面に存在し得る実質的に全ての黒鉛を除去するために、熱(20〜150℃)クロム酸による処理を行った。
【0034】
被覆
次いで、異なる材料の別個の3つの層を、接合表面の上に順々に施した。これらは、便宜上、i)付着層、ii)ろう付け可能な層、及びiii)耐酸化性(ろう付け適合性)層と称される。付着層は、TiCを含有し、また、当該技術分野で知られている従来の化学蒸着(CVD)法によって、接合表面のかなりの部分に施された。このことによって、露出したダイヤモンドは、結果的に、TiC層によって被覆され、且つ、化学的にTiC層に結合された。この層は、強力な結合を形成するために十分厚くなる必要があり(例えば、少なくとも0.1μm、好ましくは少なくとも0.3μm)、且つ、剥げて取れるほど厚くてはならない(例えば、約5μm未満)。その後、いわゆるろう付け可能な層を接合表面に施した。ろう付け可能な層は、TiC付着層とうまく結合するように選ばれた材料配合物を含有し、且つ、事前にTiCで被覆された接合表面の全体の上に配置された。この実施例では、タングステン金属を、ろう付け可能な層として用いた。なぜなら、タングステン金属の、溶融ろうによって湿らされる親和性は周知であり、且つ、タングステン金属の融点は高く、そのために、タングステン金属は、後続のろう付けに必要とされるであろう高温で除去もされず変形もされないことが確実だからである。モリブデンは、ろう付け可能な層を得るのに適した代替的材料である。タングステン層は、少なくとも約0.1μmであり且つ約20μm未満であるべきであり、好ましくは、0.5〜2μmの厚さであるべきである。当該技術分野で知られている標準的PVD(物理蒸着)法を用いて、タングステン層を堆積させた。
【0035】
タングステン及びモリブデンのような、ろう付け可能な層に用いるのに典型的に適している材料は、ろう付け温度で表面酸化する傾向があり、また、ろうと共に用いられるフラックスによって悪影響を受けることがあるので(それにより、溶融ろうによるそれら材料の湿れ性を低減するであろう)、これらの作用が該物品のろう付け性(brazability)に悪影響を及ぼすのを防ぐために、銀を含有する更なる層を該ろう付け可能な層の上に堆積した。PVD(物理蒸着)を用いて、銀層を堆積させた。代替的に、湿式化学的銀堆積技術(wet chemical silver deposition technique)を用いてもよい。
【0036】
上記の諸工程を実施して、被覆された接合表面は、当該技術分野で知られているろう付け方法のいずれかを用いて、もう1つの部品(鋼を用いることもできるということは認識されるであろうが、この場合、超硬炭化タングステンで作られた部品)にろう付けされた。例えば、従来のろう付け用ペースト〔ジョンソン・マッシー(Johnson-Matthey)からのアルゴブレイズ(Argobraze)49H〕を、超硬炭化タングステンを含有する部品の接合表面に施し、続いて、ダイヤモンド複合材料の被覆済み接合表面を、このろう付け用ペースト層と接触させた。高周波誘導コイルを用いて、ろうが溶融し、次いで、ろうがこの溶融状態で約10秒間維持されるまで、この組立て品を加熱した。
「押し抜き(push-off)」試験(即ち、「類似強度又はより大きい強度(similar or greater strength)」)を行って、創り出された結合の強度を調べた。「押し抜き」試験は、破壊が、接合用材料又は境界面の範囲に、排他的には限定されず、ダイヤモンド複合材料又はそれの構成部品の破損を包含することを意味する。
【0037】
ScDの焼結炭化物への付着の強度を試験する一手段として、ScDのプレート(24mm×24mm×3mm)を上述のように化学的に処理して被覆した。他のプレートは、化学的に処理されることなく、被覆されただけであった。炭化物の立方体(5mm×5mm×3mm)は、その表面に、あるろう付け用ペースト(49H)が施された(約1〜2mm厚さ)。これらは、ScDプレートの表面に施されて加熱され、ろう付け用合金を溶融し、このようにして、炭化物の断片をScDプレートに付着させた。これらのプレートは、次いで、もう1つのアームで該炭化物を押し抜いている間、インストロン(Instron)試験機の顎の中に保持された。力は、連続的にコンピュータで測定される。被覆工程の前、エッチング工程が全く用いられなかったプレートに関し、はがすための力は、非常に小さく、インストロン試験機ではほとんど読み取れなかった。本発明に従って化学的に処理されたプレートの場合、ScD材料の強度は、該プレートに対する炭化物の結合強度よりも小さく、結果的に該炭化物の下層のScD材料の一部分が該プレートから離脱した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類のセラミック材料と少なくとも1種類の超硬材料とを含有するセラミック複合材料部品を、少なくとも1つの他の部品に接合する方法において、
・ 該セラミック複合材料部品の1つ以上の接合表面を処理する工程、及び
・ 該処理された1つ以上の表面又は該表面の一部の上に、該少なくとも1つの他の部品に対してだけでなく該セラミック複合材料部品に対しても十分な熱を加えることによって結合させることのできる材料を、配置する工程
を含む、上記方法。
【請求項2】
前記処理工程は、前記セラミック複合材料部品の前記接合表面を粗面化するものであるか、若しくはエッチングするものであるか、又は別の方法でその表面積を増大させるものである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記セラミック複合材料部品は、酸化物、炭化物、窒化物及びそれらの混合物等のセラミック相を含有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記超硬材料は、ダイヤモンド及び/又はcBN(立方晶窒化ホウ素)から選ばれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記セラミック複合材料部品の前記接合表面の処理は、前記の1つ以上の接合表面における露出したセラミック材料が粗面化される(エッチングされる)ように、1種類の酸又は複数種類の酸の組み合わせによって処理されることを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記の処理された1つ以上の表面の上に配置された前記材料は、前記接合表面の上に順々に施され得る材料の別個の層であって、
i) 付着層、
ii) ろう付け可能な層、及び
iii) 耐酸化性(ろう付け適合性)層、
の1つ以上から選ばれる層を含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記超硬材料はダイヤモンドであり、且つ、前記付着層は、前記接合表面において、露出した1つ以上のダイヤモンド表面の一部の上に成長した炭化物を含有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ろう付け可能な層は、前記付着層とうまく結合するように選ばれた材料配合物を含み、且つ、W、Mo、Cr、Ni、Ta、Au、Pt、Pd、Nb、又はそれらのいずれかの組合せ若しくは合金から選ばれた耐熱金属(refractory metal)を含有する、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記耐酸化性層は、Ag、Sn、Au、Ptから選ばれる元素、又はそれらの合金を含有する、請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
セラミック材料と少なくとも1種類の超硬材料とを含有するセラミック複合材料部品であって、少なくとも1つの他の部品に結合されたセラミック複合材料部品を有する物品において、
該セラミック複合材料部品と該他の部品との間の境界面に含まれる、
i) 付着層、
ii) ろう付け可能な層、及び
iii) 耐酸化性(ろう付け適合性)層、
から選ばれた少なくとも1つの層又はそれらの組合せを有する、上記物品。
【請求項12】
前記セラミック複合材料部品の接合表面は、前記接合表面を粗面化するように、若しくはエッチングするように、又は別の方法でその表面積を増大するように、処理されている、請求項11に記載の物品。
【請求項13】
前記物品は、ローラーコーン、回転ドリル用ビット、パーカッションドリル用ビット、又はピックの中で用いられるインサートであって、該インサートの作業面の少なくとも一部分が、セラミック複合材料(ScD)からなるインサートである、請求項11又は12に記載の物品。
【請求項14】
超硬材料とセラミック材料とを含有するセラミックス複合材料部分に境界面で結合された金属体部分を有する耐摩耗性部材において、
該境界面に隣接する該セラミックス複合材料部分の表面に二重層が結合されており、該二重層は、炭化物形成性元素で作られた第1の炭化物層と、W、Mo、Cr、Ni、Ta、Au、Pt、Pd又はそれらのいずれかの組合せ若しくは合金から選ばれた高融点金属で作られた第2の層とを含有し、該第2の層は、該第1の層からの炭化物形成性成分を実質的に含まない、上記耐摩耗性部材。
【請求項15】
超硬材料とセラミック材料とを含有するセラミックス複合材料部分に境界面で結合された金属体部分を有する耐摩耗性部材において、
炭化物形成性元素で作られた第1の炭化物層、及び、W、Mo、Cr、Ni、Ta、Au、Pt、Pd又はそれらのいずれかの組合せ若しくは合金から選ばれた金属を含有する第2の層は、該境界面において該金属部分と該セラミックス複合材料部分との中間表面を提供する、上記耐摩耗性部材。

【公表番号】特表2011−527979(P2011−527979A)
【公表日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516638(P2010−516638)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際出願番号】PCT/IB2008/052878
【国際公開番号】WO2009/010934
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(506231892)エレメント シックス リミテッド (15)
【Fターム(参考)】