説明

T細胞レセプターβ鎖遺伝子

【課題】メラノーマ特異的ペプチドであるMART−1 27-35 (AAGIGILTV)を特異的に認識するTCRβ鎖及びその遺伝子等を提供することにある。
【解決手段】患者から末梢血単核細胞を採取し、低濃度のIL−2存在下、MART−1 A2ペプチドでパルスされた樹状細胞を1:10〜1:40の割合で加え2回刺激した。細胞障害性T細胞の割合をさらに上げるため、そのセルラインにさらにMART−1 A2ペプチドでパルスされたT2細胞を1:10の割合で加えて刺激した。MART−1 A2テトラマー特異的な細胞障害性T細胞のクローニングは、TCRβ鎖特異的な抗体を基にしてモノクローナル抗体を使った細胞障害性T細胞のMagnetic activated cell sortingにより行い、TCRβ鎖のDNAシークエンスを解析し、新規なMART−1を特異的に認識するTCRβ鎖を同定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、T細胞レセプターβ鎖タンパク質、並びにT細胞レセプターβ鎖遺伝子、該遺伝子が組み込まれたT細胞レセプターβ鎖タンパク質発現ベクター、及び該発現ベクターが導入された形質転換体に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性黒色腫は、インターロイキン2などを用いた免疫療法が比較的有効な癌である(例えば、非特許文献1参照)が、生体内における抗腫瘍効果には、腫瘍細胞に反応する細胞傷害性T細胞(Cytotoxic T lymphocyte:CTL)が重要であることが示されている(例えば、非特許文献2参照)。免疫療法後、腫瘍反応性T細胞が活性化され、T細胞上のT細胞レセプター(T cell receptor:TCR)が、HLA(ヒト白血球抗原)分子によって腫瘍細胞表面に提示される腫瘍細胞タンパク質が分解されてできたペプチド(腫瘍抗原)を認識し、腫瘍細胞を傷害する。更に各種サイトカインを分泌し、マクロファージ等の他の免疫細胞をも誘導活性化し、生体内で腫瘍拒絶を起こすと考えられている。腫瘍反応性T細胞には自己腫瘍細胞のみならず、HLAを共有する他の患者からの腫瘍細胞にも反応するような共通腫瘍抗原を認識する場合と、自己腫瘍細胞しか反応しない固有抗原を認識する場合がある。
【0003】
ヒト腫瘍細胞に対する免疫応答機構を解明して、新しい免疫療法を開発するためには、これらの腫瘍反応性T細胞が認識する腫瘍抗原を同定することが重要である。腫瘍反応性T細胞が樹立されている場合には、その反応性を利用した機能的cDNA発現クローニング法を用い、悪性黒色腫抗原の単離が可能である。例えば、転移メラノーマ患者からの腫瘍反応性細胞傷害性T細胞と、HLA−A2を発現する腫瘍細胞株とを用いて、メラノーマの予防、診断及び治療に用いることができる悪性黒色腫抗原を単離することが可能であり(例えば、特許文献1参照)、その一つMART−1は同様な方法によって単離、同定されたものである。現在までに代表的なものとして、上記MART−1やgp100のような色素細胞(メラノサイト)組織特異的タンパク質、各種腫瘍と正常組織では精巣に発現が認められるMAGE、BAGE、GAGE、NY−ESO−I等のCT抗原(Cancer-Testis抗原)、腫瘍細胞の遺伝子異常により産生されるβカテニン、CDK4(cyclin dependent kinase 4)、p15、GnT−V等の変異ペプチド抗原が単離されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0004】
T細胞はT細胞レセプターによりMHC分子/抗原ペプチド複合体を認識して、抗原提示細胞(APC)などの標的細胞に結合するが、CTLはMHCクラスI分子/抗原ペプチドの複合体のみに結合し(MHCクラスI拘束性)、ヘルパーT(Th)細胞はMHCクラスII分子/抗原ペプチドの複合体のみしか結合できない(MHCクラスII拘束性)とされている。また、MHCクラスI分子はほとんどの有核細胞に発現しているが、MHCクラスII分子は限られた一部の細胞しか発現していない。このためTh細胞はMHCクラスII分子を発現した樹状細胞やB細胞、活性化T細胞などとは結合できるが、これら以外の腫瘍細胞や感染細胞などには直接結合することができない。しかし遺伝子操作によってMHCクラスI拘束性とされるCTL由来のT細胞レセプター遺伝子を導入したMHCクラスII拘束性とされるCD4陽性CD8陰性T細胞が、対応抗原をパルスしたAPCとCD8非依存的に反応して活性化されることができ、対応抗原に結合できるT細胞レセプターを発現していることが示された。また、非特異的な抗腫瘍活性をもつ末梢血リンパ球に腫瘍抗原特異的CTL由来のT細胞レセプター遺伝子を導入することにより、特異的に腫瘍を傷害することができることが報告されている(例えば、非特許文献4参照)。
【0005】
他方、T細胞表面に存在する膜表面タンパク質であり、抗原認識を担うT細胞レセプターには、α鎖・β鎖から成るヘテロ二量体とγ鎖・δ鎖から成るヘテロ二量体の二種類が同定されている。T細胞レセプター遺伝子は免疫グロブリン遺伝子と同様に、可変領域(V:variable)、多様性領域(D:diversity)、結合領域(J:joining)からなり分子の多様性を生じるVドメインと、細胞外定常領域、膜貫通領域、細胞内領域を含む定常領域(C:constant)からなるCドメインにより構成されている。これらのアミノ酸配列はT細胞ごとに異なっていることから、T細胞レセプターは抗原認識分子であると同時に個々のT細胞の目印にもなっている。このT細胞レセプターの多様性は後天的なT細胞レセプター遺伝子の再構成によって生みだされており、T細胞レセプターβ,δ鎖はV−D−Jを、T細胞レセプターα,γ鎖はV−Jを再構成することが知られている。
【0006】
T細胞の初期分化は、B細胞と同様にT細胞レセプターのα鎖及びβ鎖遺伝子の再構成と密接に関わっている。T細胞レセプターβ鎖遺伝子の再構成はDN−T細胞(double negative:CD4)の段階で開始され、β鎖遺伝子の再構成に成功した細胞はβ鎖タンパク質と代替α鎖(preTα)の複合体、つまりプレT細胞レセプターを細胞表面に発現する。そして、CD4及びCD8分子の発現が誘導され、DP−T細胞(double positive:CD4++)へと移行し、DPとなったT細胞は、次にT細胞レセプターのα鎖遺伝子の再構成に成功した細胞のみが、T細胞レセプターを表面に発現できることが知られている。
【0007】
T細胞レセプターβ鎖の遺伝子構成に関しては、ヒトゲノム遺伝子配列情報データベースによれば、T細胞レセプターβ鎖の遺伝子は約30種類の亜族(遺伝子自体は約70種)からなるV遺伝子、2種類のD遺伝子、14種類のJ遺伝子、2種類のC遺伝子によって構成され、Vβ中に2つの可変領域(CDR1、CDR2)が存在することも知られている。これらの中からVβ、Dβ、Jβが各1つずつ選ばれて結合し、T細胞レセプターβ鎖をコードするDNAが構成されている。この際、Vβ−Dβ−Jβの結合部にはランダムな塩基の挿入や欠失が起こり、無限に近い多様性が生みだされている。このVβ−Dβ−Jβの結合部位は、CDR3(相補性決定領域3:third complementarity determining region)、結合部(junctional)領域と呼ばれ、T細胞レセプターの中で最も多型性に富む部分であり、塩基の挿入・欠失が起こるため、各遺伝子構成が同じであっても連結部分も含めて同一配列になることは極めて稀である。
【0008】
【特許文献1】特表平10−505481号公報
【非特許文献1】JAMA 271, 907, 1994
【非特許文献2】Microbiol.Immunol. 42, 803, 1998
【非特許文献3】Immunol Res 16, 313, 1997
【非特許文献4】J.Immunol.,171:3287-3295, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
T細胞レパートリーの多様性は、T細胞間での多様な抗原認識能と密接に関係していることから、T細胞の機能,免疫応答,免疫機能を考える上でT細胞レセプターレパートリーの機能解明を行うことは極めて重要である。最近、癌,自己免疫疾患,アレルギー疾患等において、患部局所に存在するT細胞のT細胞レセプターレパートリー解析の研究が進められ、疾患特異的なT細胞が解明されつつある。しかし、そのT細胞上のT細胞レセプター分子が、どのような働きをしているか、ということは、T細胞レセプター分子の単離が困難であること等の問題があり、まだその詳細が明らかにされるに至っていない。本発明の課題は、メラノーマ特異的ペプチドであるMART−1 27-35 (AAGIGILTV:以下、MART1−A2ペプチドと称する。)を特異的に認識するT細胞レセプターβ鎖及びその遺伝子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
T細胞レセプター分子が、T細胞を介する免疫応答および免疫機構に重要な役割を果たしていることから、これら免疫応答および免疫機構の解析には、個々のT細胞レセプター分子を得ることが必要である。しかし、膜表面タンパク質を細胞から精製すると、1010個の細胞からせいぜい10μg程度しか得られない。しかも、T細胞レセプターの多様性により、一種類のT細胞レセプターを分取するためには、それぞれのT細胞レセプターを持つT細胞株を樹立し、その各々からT細胞レセプターを単離することが必須となる。しかし、T細胞のT細胞レセプターレパートリーは1010種類にも及んでおり、1010種のT細胞株を樹立することは、実質的に極めて困難である。
【0011】
MART−1はメラノーマに発現する癌抗原であり、ペプチドワクチンによる治療を受けている転移性のメラノーマ患者において、抗原抗体反応を強く誘導するものである。MART−1はHLA−A2限局的な抗原決定部位を持っており(MART−1 27−35:AAGIGILTV)、MART−1 HLA−A2テトラマー染色により、MART1−A2ペプチドに特異的な細胞障害性T細胞の発現頻度が明らかになった。本発明者らは、樹状細胞に基づくMART−1特異的な細胞障害性T細胞の誘導方法を構築し、HLA0201のケース7例においてMART1−A2テトラマー染色を使用してそれらの特徴付を行った。患者から末梢血単核細胞を採取し、低濃度のIL2存在下、MART1−A2ペプチドでパルスされた樹状細胞を1:10〜1:40の割合で加え2回刺激した。細胞障害性T細胞の割合をさらに上げるため、そのセルラインにさらにMART1−A2ペプチドでパルスされたT2細胞を1:10の割合で加えて刺激した。刺激培養されたT細胞の総数は、培養前に比較して2つのケースで増え、4つのケースで減少した。MART1−A2テトラマー陽性の細胞障害性T細胞の割合は、刺激前は0.1%だったところ、樹状細胞による刺激後には1.3%、さらにT2細胞刺激後では30%に増加した。MART1−A2テトラマー陽性の細胞障害性T細胞の絶対数は、樹状細胞刺激前とT2細胞刺激後では、46倍から619倍の範囲に増加した。MART−1特異的な細胞障害性T細胞系列を用いた細胞障害性T細胞のアッセイは、MART1−A2ペプチドでパルスされたT2細胞やHLA A0201陽性メラノーマ細胞に対し、そのテトラマー陽性な細胞障害性T細胞の発生頻度に応じた強力な殺傷能力の発現を示した。精製されたMART1−A2テトラマー陽性の細胞障害性T細胞における、CDR3フラグメントサイズ解析を用いたT細胞受容体のレパートリー解析は、TCRVb13とTCRVb16が5例中3例使われていた。MART1−A2テトラマー特異的な細胞障害性T細胞のクローニングは、T細胞レセプターβ鎖特異的な抗体を基にしてモノクローナル抗体を使った細胞障害性T細胞のMagnetic activated cell sortingにより行い、T細胞レセプターβ鎖のDNAシークエンスを解析し、新規なMART−1を特異的に認識するT細胞レセプターβ鎖を同定した。本発明は、上記知見に基づき完成するに至ったものである。
【0012】
すなわち本発明は、(1)配列番号1で表される塩基配列からなるT細胞レセプターβ鎖遺伝子や、(2)上記(1)記載のT細胞レセプターβ鎖遺伝子が組み込まれたT細胞レセプターβ鎖タンパク質を発現しうる組換えベクターや、(3)上記(2)記載のT細胞レセプターβ鎖タンパク質を発現しうる組換えベクターが導入された形質転換体や、(4)組換えベクターが導入されたリンパ球である上記(3)記載の形質転換体や、(5)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるT細胞レセプターβ鎖タンパク質や、(6)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるT細胞レセプターβ鎖タンパク質を特異的に認識する抗体や、(7)配列番号1で表される塩基配列からなるT細胞レセプターβ鎖遺伝子が組み込まれたT細胞レセプターβ鎖タンパク質を発現しうる組換えベクターがインビトロで導入されたリンパ球を有効成分とするメラノーマ治療用組成物に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、メラノーマにおけるT細胞の機能,免疫応答,免疫機能を解明する上で有用である。また、本発明のT細胞レセプターβ鎖遺伝子を利用した遺伝子治療や養子免疫療法により、メラノーマを治療しうる可能性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の遺伝子は、配列番号1で表される塩基配列、好ましくは5’側端部のATGの上流側に6塩基(GCAGCC)が付加された塩基配列からなるT細胞レセプターβ鎖遺伝子であり、本発明の発現ベクターは、配列番号1で表される塩基配列からなるT細胞レセプターβ鎖遺伝子が組み込まれたT細胞レセプターβ鎖タンパク質を発現しうる組換えベクターであり、本発明の形質転換体は、配列番号1で表される塩基配列からなるT細胞レセプターβ鎖遺伝子が組み込まれたT細胞レセプターβ鎖タンパク質を発現しうる組換えベクターが導入された形質転換体、好ましくは形質転換ヒト細胞であり、本発明のタンパク質は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるT細胞レセプターβ鎖タンパク質であり、本発明の抗体は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるT細胞レセプターβ鎖タンパク質を特異的に認識記する抗体、好ましくはモノクローナル抗体である。
【0015】
本発明の遺伝子の取得方法や調製方法は特に限定されるものでなく、本明細書中に開示した配列番号1に示される塩基配列又は配列番号2に示されるアミノ酸配列の各情報に基づいて適当なプローブやプライマーを調製し、それらを用いて当該遺伝子が存在することが予測されるヒトcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより目的の遺伝子を単離したり、常法に従って化学合成により調製することができる。例えば、細胞又は組織からの全RNAの分離、mRNAの分離や精製、cDNAの取得とそのクローニングなどはいずれも常法に従って実施することができる。本発明の遺伝子をcDNAライブラリーからスクリーニングする方法は、例えば、Molecular Cloning: A laboratory Manual, 2nd Ed. Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY., 1989に記載の方法等、当業者により常用される方法を挙げることができる。
【0016】
本発明のタンパク質の取得・調製方法は特に限定されず、天然由来のタンパク質でも、化学合成したタンパク質でも、遺伝子組換え技術により作製した組み換えタンパク質の何れでもよい。天然由来のタンパク質を取得する場合には、かかるタンパク質を発現しているT細胞からタンパク質の単離・精製方法を適宜組み合わせることにより、本発明のタンパク質を取得することができる。化学合成によりタンパク質を調製する場合には、例えば、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法に従って本発明のタンパク質を合成することができる。また、各種の市販のペプチド合成機を利用して本発明のタンパク質を合成することもできる。遺伝子組換え技術によりタンパク質を調製する場合には、該タンパク質をコードする塩基配列からなるDNAを好適な発現系に導入することにより本発明のタンパク質を調製することができる。これらの中でも、比較的容易な操作でかつ大量に調製することが可能な遺伝子組換え技術による調製が好ましい。
【0017】
例えば、遺伝子組換え技術によって、本発明のタンパク質を調製する場合、かかるタンパク質を細胞培養物から回収し精製するには、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法、好ましくは、高速液体クロマトグラフィーが用いられる。特に、アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、本発明のタンパク質に対するモノクローナル抗体等の抗体を結合させたカラムや、上記本発明のタンパク質に通常のペプチドタグを付加した場合は、このペプチドタグに親和性のある物質を結合したカラムを用いることにより、これらのタンパク質の精製物を得ることができる。また、本発明のタンパク質が細胞膜に発現している場合は、細胞膜分解酵素を作用させた後、上記の精製処理を行うことにより精製標品を得ることができる。
【0018】
また、本発明のタンパク質をマーカータンパク質やペプチドタグと結合させることもできる。マーカータンパク質としては、従来知られているマーカータンパク質であれば特に制限されるものではなく、例えば、アルカリフォスファターゼ、HRP等の酵素、抗体のFc領域、GFP等の蛍光物質などを具体的に挙げることができ、また本発明におけるペプチドタグとしては、HA、FLAG、Myc等のエピトープタグや、GST、マルトース結合タンパク質、ビオチン化ペプチド、オリゴヒスチジン等の親和性タグなどの従来知られているペプチドタグを具体的に例示することができる。かかる融合ペプチドは、常法により作製することができ、Ni−NTAとHisタグの親和性を利用した本発明のタンパク質の精製や、本発明のタンパク質の検出や、本発明のタンパク質に対する抗体の定量や、その他当該分野の研究用試薬としても有用である。
【0019】
本発明の組換えベクターとしては、前記本発明の遺伝子を含み、かつ前記本発明のタンパク質を発現することができる組換えベクターであれば特に制限されないが、動物細胞において発現しうるものが好ましい。本発明の組換えベクターは、本発明の遺伝子を発現ベクターに適切にインテグレイトすることにより構築することができる。かかる発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製可能であるものや、あるいは宿主細胞の染色体中へ組込み可能であるものが好ましく、また、本発明の遺伝子を発現できる位置にプロモーター、エンハンサー、ターミネーター等の制御配列を含有しているものを好適に使用することができる。
【0020】
動物細胞用の発現ベクターとして、例えば、pEGFP-C1(Clontech社製)、pGBT−9(Clontech社製)、pcDNAI(フナコシ社製)、pcDM8(フナコシ社製)、pAGE107(Cytotechnology, 3, 133, 1990)、pCDM8(Nature, 329, 840, 1987)、pcDNAI/AmP(Invitrogen社製)、pREP4(Invitrogen社製)、pAGE103(J.Blochem., 101, 1307, 1987)、pAGE210等を例示することができる。動物細胞用のプロモーターとしては、例えば、サイトメガロウイルス(ヒトCMV)のIE(immediate early)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーター等を挙げることができる。
【0021】
本発明の形質転換体としては、上記本発明の組換えベクターが導入された宿主細胞であれば特に制限されないが、リンパ球が好ましく、中でもナイーブT細胞が好ましい。特に、配列番号1で表される塩基配列からなるT細胞レセプターβ鎖遺伝子が組み込まれたT細胞レセプターβ鎖タンパク質を発現しうる組換えベクターがインビトロで導入されたリンパ球、好ましくは、ナイーブT細胞は、養子免疫療法等に好適に用いることができるメラノーマ治療用組成物として有用である。養子免疫療法等免疫治療剤に用いる場合は、形質転換T細胞クローンを精製することが好ましく、その手法としては、リン酸緩衝液等に混合して遠心する方法、分離剤を用いた比重遠心法などを用いることができる。メラノーマ治療用組成物の投与量は、1回あたり形質転換リンパ球として106〜1012個の細胞が好ましい。投与形態としては、注射剤、点滴剤等の液体が好ましく、形質転換リンパ球をヒト血清アルブミンを0.01〜5%となるように添加した生理食塩液に分散した注射剤又は点滴剤がより好ましい。投与方法としては、静脈への点滴又は静脈、動脈、局所等への注射が好ましい。投与する液量は、投与方法、投与する場所等に異なるが、50〜500ccとするのが好ましく、この液量に前記の形質転換リンパ球が含まれるようにするのが好ましい。投与頻度は1回/日〜1回/月とするのが好ましく、投与回数は少なくとも1回、好ましくは5回以上とすることができる。
【0022】
本発明のT細胞レセプターβ鎖タンパク質に特異的に結合する抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体等の免疫特異的な抗体を具体的に挙げることができ、これらは上記本発明のT細胞レセプターβ鎖タンパク質を抗原として用いて常法により作製することができるが、その中でもモノクローナル抗体がその特異性の点でより好ましい。かかるモノクローナル抗体等の本発明のT細胞レセプターβ鎖タンパク質に特異的に結合する抗体は、例えば、メラノーマの診断や本発明のT細胞レセプターβ鎖タンパク質の分子機構を明らかにする上で有用である。
【0023】
本発明のT細胞レセプターβ鎖タンパク質に対する抗体は、慣用のプロトコールを用いて、動物(好ましくはヒト以外)に本発明のT細胞レセプターβ鎖タンパク質又は該タンパク質を膜表面に発現した細胞を投与することにより産生され、例えばモノクローナル抗体の調製には、連続細胞系の培養物により産生される抗体をもたらす、ハイブリドーマ法(Nature 256, 495-497, 1975)、トリオーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Immunology Today 4, 72, 1983)及びEBV−ハイブリドーマ法(MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY, pp.77-96, Alan R.Liss, Inc., 1985)など任意の方法を用いることができる。以下に本発明のT細胞レセプターβ鎖タンパク質として、ヒトT細胞由来の本発明のT細胞レセプターβ鎖タンパク質を例に挙げてマウス由来の本発明のT細胞レセプターβ鎖タンパク質に対して特異的に結合するモノクローナル抗体、すなわち抗hT細胞レセプターβ鎖マウスモノクローナル抗体の作製方法を説明する。
【0024】
上記抗hT細胞レセプターβ鎖モノクローナル抗体は、抗hT細胞レセプターβ鎖モノクローナル抗体産生ハイブリドーマをインビボ又はインビトロで常法により培養することにより生産することができる。例えば、インビボ系においては、齧歯動物、好ましくはマウス又はラットの腹腔内で培養することにより、またインビトロ系においては、動物細胞培養用培地で培養することにより得ることができる。インビトロ系でハイブリドーマを培養するための培地としては、ストレプトマイシンやペニシリン等の抗生物質を含むRPMI1640又はMEM等の細胞培養培地を例示することができる。
【0025】
抗hT細胞レセプターβ鎖モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、例えば、本発明のT細胞レセプターβ鎖タンパク質又は該タンパク質を膜表面に発現したT細胞を用いてBALB/cマウスを免疫し、免疫されたマウスの脾臓細胞とマウスNS−1細胞(ATCC TIB−18)とを、常法により細胞融合させ、免疫蛍光染色パターンによりスクリーニングすることにより、抗hT細胞レセプターβ鎖モノクローナル抗体産生ハイブリドーマを作出することができる。また、かかるモノクローナル抗体の分離・精製方法としては、タンパク質の精製に一般的に用いられる方法であればどのような方法でもよく、アフィニティークロマトグラフィー等の液体クロマトグラフィーを具体的に例示することができる。
【0026】
また、本発明の上記本発明のT細胞レセプターβ鎖タンパク質に対する一本鎖抗体をつくるためには、一本鎖抗体の調製法(米国特許第4,946,778号)を適用することができる。また、ヒト化抗体を発現させるために、トランスジェニックマウス又は他の哺乳動物等を利用したり、上記抗体を用いて、本発明のT細胞レセプターβ鎖タンパク質を発現するクローンを単離・同定したり、アフィニティークロマトグラフィーでそのポリペプチドを精製することもできる。
【0027】
また上記本発明の抗hT細胞レセプターβ鎖モノクローナル抗体等の抗体に、例えば、FITC(フルオレセインイソシアネート)又はテトラメチルローダミンイソシアネート等の蛍光物質や、125I、32P、14C、35S又はH等のラジオアイソトープや、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ又はフィコエリトリン等の酵素で標識したものや、グリーン蛍光タンパク質(GFP)等の蛍光発光タンパク質などを融合させた融合タンパク質を用いることによって、上記本発明のT細胞レセプターβ鎖タンパク質の機能解析を行うことができる。また免疫学的測定方法としては、RIA法、ELISA法、蛍光抗体法、プラーク法、スポット法、血球凝集反応法、オクタロニー法等の方法を挙げることができる。
【0028】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。なお、実施例1における実験概要は、メラノーマ患者(HLA−A2陽性)リンパ球→メラノーマ抗原MART1−A2ペプチドにて処理した樹状細胞の作製→樹状細胞刺激によるMART1−A2ペプチド特異的CTL細胞の誘導→Auto MACS法によるMART1−A2テトラマーによるMART−1特異的CTLの純化→RNA抽出→逆転写反応→PCRによるT細胞レセプター遺伝子の増幅→DNA Analyzer (ABI3100) を用いたDNA断片解析(T細胞レセプター遺伝子の同定)→PCRによる蛋白コード領域の増幅とクローニング→ABI3100による塩基配列の決定である。
【実施例1】
【0029】
国立がんセンター倫理審査委員会の承認を受けて実施された臨床研究(悪性黒色腫に対する樹状細胞を用いた腫瘍特異的免疫療法)で得られたメラノーマ患者由来のリンパ球を用いた。この臨床研究は、HLA−A2及びA24の患者を対象に5種類の腫瘍関連抗原ペプチドにて処理した樹状細胞を患者皮下に投与し、腫瘍免疫を誘導する臨床試験である。本研究では、HLA-A2陽性の患者由来のリンパ球を、メラノーマ特異的ペプチドであるMART−1 27-35 (MART1−A2ペプチド:AAGIGILTV;配列番号3)にて処理した樹状細胞を用いて数回刺激を行った。 誘導されたMART1−A2ペプチド特異的なCTL細胞は、PE−MART1−A2テトラマーにて染色し、定量的な評価を行った。テトラマー染色陽性のCTL細胞の比率は、38%であり、MART1−A2ペプチド特異的な細胞障害活性を示した。磁気ビーズ細胞分離装置(Auto-magnet cell sorting system)を用いて、MART1−A2テトラマー陽性CTL細胞を純化した。MART1−A2テトラマー陽性細胞の樹状細胞刺激後とMACS法による純化後について解析を行ったところ、陽性細胞は96%であった(図1)。これらのCTL細胞は、次のT細胞レセプター(TCR)のレパトワ解析に利用された。
【0030】
分離細胞からtotal RNAを抽出し、逆転写反応にてcDNA合成後、PCR法を用いたT細胞レセプターレパトワ解析により発現T細胞レセプターの遺伝子分類を行い、解析結果に基づいてT細胞レセプター蛋白コード領域遺伝子をクローニングした。樹状細胞による刺激前のリンパ球を用いた解析結果を図2、樹状細胞による刺激後及びテトラマー陽性細胞の純化後のCTL細胞を用いた解析結果図3に示す。樹状細胞による刺激の前後では、T細胞レセプターの遺伝子発現に関して、明らかな収束性が認められた。
【0031】
T細胞レセプターレパトワ解析の結果に基づいて4種類の遺伝子(BV3、BV12、BV13A、BV13B)に対応するプライマー(配列番号4−8)を用いてPCR増幅を行い(図4)、各増幅断片の塩基配列を解析した。レパトワ解析では4種類の遺伝子の使用が示されたが、塩基配列の解析により単一の遺伝子に由来することが明らかになった(図5)。解析の結果、このT細胞レセプターのV遺伝子はBV3(新統一名称TRBV28、以下こちらの統一名称を使用)であり、他の3種類のプライマーはこの遺伝子に交叉反応して増幅を生じていたことが判明した。
【0032】
TRBV28遺伝子に対応するセンスプライマー(配列番号9)とTRBC1(C遺伝子)に対応するアンチセンスプライマー(配列番号10)を用いて、本T細胞レセプター遺伝子蛋白コード領域全域(配列番号1)の遺伝子増幅を行い、これをクローニングした(図6)。塩基配列決定の結果、T細胞レセプター遺伝子の構成はTRBV2801―TRBD1―TRBJ1−501―TRBC1であった。また、V−D−Jの接合部分の塩基配列につき、IMGT※1の公開ソフト(JunctionAnalysis)を用いた解析結果を図6に示す。また、T細胞レセプター遺伝子の塩基配列及びアミノ酸配列についてNCBI※2の相同性検索プログラム(BLAST)による解析を行った。その結果、全長及びV−D−J−Cの接合領域を含む部分断片(271−450、180塩基)の塩基配列については、完全に一致するものはなかった。全長及びV−D−J−Cの接合部を中心とした部分断片(60アミノ酸)のアミノ酸配列について検索した場合でも、相同性が高いものはあるが、抗原特異性を決定する接合領域に関して完全に一致する登録はなかった。
【0033】
本研究に使用したプライマーの配列は、T細胞レセプターレパトワ解析ではJeffry R. Currier and Mary Ann Robinsonが成書Current Protocols in Immunology※3 に記載したものを使用し、蛋白コード領域のクローニングでは、公開データベース(NCBI)に収載されるゲノム配列にもとづいた。
※1 ImMunoGeneTics:1125985409921_0
※2 National Center for Biotechnology Information:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/
※3 Current Protocols in Immunology, John E. Coligan et al. ed. (2000) 10.28.1-10.28.24. John Wiley & Sons, Inc.
【実施例2】
【0034】
実施例1で得られたMART1−A2ペプチド特異的CTL由来のT細胞レセプターβ鎖遺伝子がHLA−A2陽性ナイーブT細胞へ導入された場合に、該遺伝子産物である受容体タンパク質が発現し、腫瘍特異的な細胞障害活性を誘導しうるか否かにつき検討した。ここで、ナイーブT細胞とは、胸腺での分化後、抗原にまだ遭遇していないT細胞のことである。
【0035】
まず、抗CD3抗体での刺激によるHLA−A0201陽性のナイーブT細胞の増殖に与える影響を2種類の培地について検討した。GT−T503(タカラバイオ)+5%ヒト血清(Cambrex)培地、あるいはPRMI1640+5%ヒト血清培地に、抗ヒトCD3抗体を各濃度(0、1、2、5、10μg/ml,ヤンセンファーマ)にて添加し、ナイーブT細胞(臨床試験に登録されたメラノーマ患者由来)を5日間培養した後、培養液のOD450nmにおける吸光度を吸光光度計(Narge Nunc International社製)で測定した。結果を図7に示す。その結果、HLA−A0201陽性のナイーブT細胞は、抗ヒトCD3抗体の濃度依存的に刺激され増殖することが確認された。また、GT−T503培地は、既存のRPMI1640培地に比較して良好な増殖支持効果があることから、今回の実験で用いることとした。
【0036】
次に、抗ヒトCD3抗体と抗ヒトCD28抗体のHLA−A2陽性ナイーブT細胞増殖に対する効果を検討した。HLA−A0201陽性のメラノーマ患者由来のナイーブT細胞をGT−T503+5%ヒト血清培地に懸濁し、あらかじめ抗ヒトCD3抗体単独(5μg/ml)、抗ヒトCD28抗体単独(2μg/ml,BD Pharmingen)又は抗ヒトCD3抗体(2.5μg/ml)と抗ヒトCD28抗体(1μg/ml)との併用にて2時間コーティングを行った75cmフラスコに、上記のリンパ球を2x10/mlの濃度で播種し、5日間培養した後、培養液のOD450nmにおける吸光度を、吸光光度計で測定した。結果を図8に示す。その結果、抗ヒトCD28抗体は、最終濃度1μg/mlで抗ヒトCD3抗体(2.5μg/ml)との併用によりナイーブT細胞の増殖刺激効果を促進することを確認した。
【0037】
さらに、上記の抗ヒトCD3抗体と抗ヒトCD28抗体との併用により増殖刺激されたナイーブT細胞を回収し、Human T cell Nucleofector kit(Amaxa)を用いて、取扱い説明書に従い当該T細胞レセプターβ鎖遺伝子のエレクトロポレーション法(Nucleofector装置,Amaxa)による遺伝子導入を行った。まず、5×10個の刺激後のリンパ球をそれぞれ100μlのエレクトロポレーション用bufferに懸濁した後、mock(4μg)、GFP発現プラスミド(2μg)、及びT細胞レセプターβ鎖遺伝子発現プラスミド(2μg又は4μg)を加え、キュベットに移し変えてNucleofector装置にサンプルをセットし、プログラムNo.23でエレクトロポレーションを実施した。その際、mockとして使用したベクターはAmaxa社のHuman T cell Nucleofector kitに付属のpmaxGFPベクターからGFP遺伝子を切り出したものを、T細胞レセプターβ鎖遺伝子発現プラスミドは、pmaxGFPベクターからGFP遺伝子をT細胞レセプターβ鎖遺伝子に乗せ変えたものを作成し、使用した。細胞を回収後、12−ウェルプレートに移してGT−T503+5%ヒト血清培地にて48時間培養を行った後、フローサイトメトリー(FACSCalibur, BD)にてGFPおよびT細胞レセプターβ鎖遺伝子の導入効率を検討した。結果を図9に示す。その結果、エレクトロポレーション法によりGFP遺伝子はナイーブT細胞全体の54.7%に効率良く導入された。T細胞レセプターβ鎖遺伝子は、投与量4μgでリンパ球全体の35.6%に、CD3陽性T細胞の51.5%に導入発現が確認された。
【0038】
MART1−A2ペプチドにて処理したT2細胞(ATCC No.CRL−1992)に対する、MART1−A2ペプチド特異的なT細胞レセプターβ鎖を発現したHLA−A2陽性ナイーブT細胞の細胞障害活性を評価した。T細胞レセプターβ鎖遺伝子を導入発現したHLA−A2陽性ナイーブT細胞としては、前記エレクトロポレーションによりT細胞レセプターβ鎖遺伝子発現プラスミドを2μg又は4μg導入した細胞を使用した。また、T2細胞は、ヒトT/B細胞のハイブリッドであるT1細胞(不死化したリンパ芽球細胞)からHLA−A2を発現するクローンを選別して取られた細胞である。該T2細胞をPBS+1%ヒト血清アルブミン溶液に懸濁し、MART1−A2ペプチドを最終濃度20μg/mlとなるように加え、37℃で2時間インキュベートした。該MART1−A2ペプチド処理したT2細胞1×10個を、同数の前記T細胞レセプターβ鎖を発現したナイーブT細胞と共に混合培養した。24時間刺激後、培養上清を回収し、刺激により産生されたIFN−γを定量し、MART1−A2ペプチド処理したT2細胞に対する、前記ナイーブT細胞の細胞障害活性の指標とした。
【0039】
その結果、MART1−A2ペプチド特異的なT細胞レセプターを発現したHLA−A2陽性ナイーブT細胞は、MART1−A2ペプチドで処理したT2細胞特異的にIFN−γ産生を示した。(図10)。
【0040】
さらに、各種培養メラノーマ細胞に対する、MART1−A2ペプチド特異的なT細胞レセプターβ鎖を発現したHLA−A2陽性ナイーブT細胞の細胞障害活性についても評価した。T細胞レセプターβ鎖遺伝子を導入発現したHLA−A2陽性ナイーブT細胞1×10個と同数の、HLA−A2陽性かつMART1陽性メラノーマ細胞(C32:ATCC社製)、HLA−A2陽性かつMART1陰性メラノーマ細胞(RPMI:ATCC社製)、HLA−A11陽性かつMART1陽性メラノーマ細胞の3種メラノーマ培養細胞と混合培養した。24時間刺激後、培養上清を回収し、刺激により産生されたIFN−γを定量し、メラノーマ細胞に対する前記ナイーブT細胞の細胞障害活性の指標とした。
【0041】
その結果、MART1−A2ペプチド特異的なT細胞レセプターを発現したHLA−A2陽性ナイーブT細胞は、HLA−A2陽性で、かつMART1陽性のメラノーマ細胞C32に対して、特異的なIFN−γ産生を示したが、MART1陰性のメラノーマ細胞RPMIやHLA−A11陽性のメラノーマ細胞に対して、特異的なIFN−γ産生を示さなかった。この結果、メラノーマ細胞C32は腫瘍特異的な細胞障害活性を有することが示唆された(図11)。
【0042】
今回DNAクローニングに成功したMRAT1−A2ペプチド特異的T細胞レセプターβ鎖遺伝子は、HLA−A2陽性ナイーブT細胞への遺伝子導入により機能的なT細胞レセプターを発現しうることが確認され、HLA−A2陽性でかつMART1を発現する標的細胞に特異的な細胞障害活性を担うことが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】樹状細胞刺激後とMACS法による純化後の解析結果を示す図である。
【図2】樹状細胞による刺激前のリンパ球を用いた解析結果を示す図である。
【図3】樹状細胞による刺激後及びテトラマー陽性細胞の純化後のCTL細胞を用いた解析結果を示す図である。
【図4】4種類の遺伝子(BV3、BV12、BV13A、BV13B)増幅断片の電気泳動像を示す図である。
【図5】4種類の遺伝子(BV3、BV12、BV13A、BV13B)増幅断片塩基配列のアラインメントを示す図である。
【図6】TRBV28遺伝子に対応するセンスプライマーとTRBC1(C遺伝子)に対応するアンチセンスプライマーの塩基配列及びV−D−J接合部構成の解析結果を示す図である。
【図7】GT−T503培地の、CD3抗体によるT細胞の増殖への影響を示す図である。(○)はRPMI1640+5%HS、(●)はGT−T503+5%HSを示す。
【図8】各抗CD抗体のリンパ球増殖に対する効果を示す図である。
【図9】増殖刺激されたリンパ球におけるGFPおよびT細胞レセプターβ鎖遺伝子の導入効率をフローサイトメトリーにて検討した結果を示す図である。
【図10】MART1−A2ペプチドにて処理したT2細胞を標的細胞とした、MART1−A2ペプチド特異的なT細胞レセプターβ鎖を発現したHLA−A2陽性ナイーブT細胞の細胞障害活性を、INF−γを指標として評価した結果である。
【図11】各種メラノーマ細胞を標的細胞とした、MART1−A2ペプチド特異的なT細胞レセプターβ鎖を発現したHLA−A2陽性ナイーブT細胞の細胞障害活性を、INF−γを指標として評価した結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で表される塩基配列からなるT細胞レセプターβ鎖遺伝子。
【請求項2】
請求項1記載のT細胞レセプターβ鎖遺伝子が組み込まれたT細胞レセプターβ鎖タンパク質を発現しうる組換えベクター。
【請求項3】
請求項2記載のT細胞レセプターβ鎖タンパク質を発現しうる組換えベクターが導入された形質転換体。
【請求項4】
組換えベクターが導入されたリンパ球である請求項3記載の形質転換体。
【請求項5】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるT細胞レセプターβ鎖タンパク質。
【請求項6】
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるT細胞レセプターβ鎖タンパク質を特異的に認識する抗体。
【請求項7】
配列番号1で表される塩基配列からなるT細胞レセプターβ鎖遺伝子が組み込まれたT細胞レセプターβ鎖タンパク質を発現しうる組換えベクターがインビトロで導入されたリンパ球を有効成分とするメラノーマ治療用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−97580(P2007−97580A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−202029(P2006−202029)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(590002389)静岡県 (173)
【Fターム(参考)】