説明

TGFβをコーディングするヌクレオチド配列が導入された間葉系幹細胞及びその用途

本発明の一つ以上の具体例は、TGFβをコーディングするヌクレオチド配列が導入された間葉系幹細胞及びその用途を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TGFβをコーディングするヌクレオチド配列が導入された間葉系幹細胞及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系幹細胞は、造血母細胞と共に、骨髄に存在する成体幹細胞であり、骨髄または臍帯血などから得られ、比較的分離及び増殖が容易である。間葉系幹細胞は、多様な水溶性因子を分泌して、多様な中胚葉性細胞系統(軟骨芽細胞、骨芽細胞、線維芽細胞、脂肪細胞)及び組織に分化が可能であるために、組織損傷の治療に利用しようとする試みがなされており、移植及び自家免疫疾患のモデルで、免疫寛容及び免疫抑制の効果があると知られている。免疫調節性T細胞と、自家免疫性病因反応を引き起こすTh17細胞とを同時に調節することは、免疫疾患だけではなく、ガンや移植拒否反応でも、非常に重要な免疫反応である。
【0003】
TGFβ(transforming growth factor beta)は、TGFβ1、TGFβ2及びTGFβ3と呼ばれる3つのアイソフォームが存在する分泌された蛋白質である。TGFβは、大きい蛋白質前駆体としてコーディングされるが、TGFβ1は、390個のアミノ酸を含み、TGFβ2及びTGFβ3は、それぞれ412個のアミノ酸を含む。TGFβは、細胞からの分泌に必要な20〜30個のアミノ酸のN末端信号ペプチドであり、潜在性関連ペプチド(latency associated peptide)、またはLAPと呼ばれるプロ領域(pro−region)及び蛋白質切断によって、前記プロ領域から放出されて成熟したTGFβ分子にする112〜114個のアミノ酸のC末端領域を有している。本明細書全体において、TGFβは、TGFβの前駆体及び成熟したTGFβを含む意味に使われる。
【0004】
一方、前記の先行技術にもかかわらず、自家抗原によって誘発された自家免疫疾患を有する個体に投与される場合、CD4+CD25+Foxp3調節T細胞は増加させると同時に、Th17細胞は減少させることができる組成物が依然として要求されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一具体例は、個体の自家免疫疾患治療用の組成物を提供するものである。
本発明の他の具体例は、個体で、自家抗原特異的CD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞を増加させ、Th17細胞を減少させるための組成物を提供するものである。
本発明の他の具体例は、個体の自家免疫疾患を治療する方法を提供するものである。
本発明の他の具体例は、自家抗原特異的CD4+Foxp3+調節性T細胞を増加させ、Th17細胞は減少させる方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一具体例は、TGFβをコーディングするヌクレオチド配列が導入された間葉系幹細胞と、薬剤学的に許容可能な担体と、を含む個体の自家免疫疾患治療用の組成物を提供する。
本発明の他の具体例は、TGFβをコーディングするヌクレオチド配列が導入された間葉系幹細胞と、薬剤学的に許容可能な担体と、を含む、個体で自家抗原特異的CD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞を増加させ、Th17細胞を減少させるための組成物を提供する。
本発明の他の具体例は、前記の自家免疫疾患治療用の組成物を個体に投与する段階を含む個体の自家免疫疾患を治療する方法を提供する。
本発明の他の具体例は、TGFβをコーディングするヌクレオチド配列が導入された間葉系幹細胞と、薬剤学的に許容可能な担体と、を含む薬学的組成物を個体に投与する段階を含む、自家抗原特異的CD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞を増加させ、Th17細胞は減少させる方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一具体例による個体の自家免疫疾患治療用の組成物によれば、個体の自家免疫疾患を効率的に治療することができる。
本発明の他の具体例による、個体で自家抗原特異的CD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞を増加させ、Th17細胞を減少させるための組成物によれば、個体で自家抗原特異的CD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞を増加させると同時に、Th17細胞を減少させることができる。
本発明の他の具体例による個体の自家免疫疾患を治療する方法によれば、個体で自家免疫疾患を効率的に治療することができる。
本発明の他の具体例による自家抗原特異的CD4+Foxp3+調節性T細胞を増加させ、Th17細胞は減少させる方法によれば、個体で自家抗原特異的CD4+Foxp3+調節性T細胞を増加させるTh17細胞は減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】pAdlox−eGFP TGFbのベクター地図を示した図面であり、該ベクターは、配列番号1のTGFβ1をコーディングするヌクレオチド配列(TGF−b)を含んでいる。
【図2】コラーゲン誘導関節炎(CIA:collagen induced arthritis)動物に、骨髄由来間葉系幹細胞またはTGFβ遺伝子挿入骨髄由来間葉系幹細胞を、腹腔内に1回注入した後、15週まで観察した関節炎臨床指数を示したグラフである。
【図3】正常マウスの脾臓細胞で分離した、CD4+CD25−T細胞、骨髄由来間葉系幹細胞(+MSC)またはTGFβ遺伝子挿入骨髄由来間葉系幹細胞(+TGFbMSC)を3日間共生培養した後、CD25陽性T細胞に分化した程度を、蛍光細胞分析分離装置(FACS:fluorescence activated cell sorter)を介して分析した結果である。
【図4】動物モデル脾臓細胞を培地単独、または自家抗原である第2型コラーゲン(CII:TypeII collagen)刺激と共に3日間共生培養した後、免疫調節性T細胞(CD4+Foxp3+Treg(regulatory T cells))と、IL−17を分泌するT細胞との分化を蛍光細胞分析分離装置(FACS)を介して分析した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一具体例は、TGFβをコーディングするヌクレオチド配列が導入された間葉系幹細胞と、薬剤学的に許容可能な担体と、を含む個体の自家免疫疾患治療用の組成物を提供する。
【0010】
TGFβ(transforming growth factor beta)は、TGFβ1、TGFβ2及びTGFβ3と呼ばれる3つのアイソフォームが存在する分泌された蛋白質である。TGFβは、大きい蛋白質前駆体としてコーディングされるが、TGFβ1は、390個のアミノ酸を含み、TGFβ2及びTGFβ3は、それぞれ412個のアミノ酸を含む。TGFβは、細胞からの分泌に必要な20〜30個のアミノ酸のN末端信号ペプチドであって、潜在性関連ペプチド(latency associated peptide)、またはLAPと呼ばれるプロ領域(pro−region)及び蛋白質切断によって前記プロ領域から放出されて成熟したTGFβ分子にする112〜114個のアミノ酸のC末端領域を有している。本明細書全体において、TGFβは、TGFβの前駆体、及び成熟したTGFβを含む意味として使われる。TGFβは、例えば、TGFβ1の前駆体及び成熟したTGFβ1であってもよい。前記TGFβをコーディングするヌクレオチド配列は、配列番号2のアミノ酸配列、すなわち、TGFβ1のアミノ酸配列をコーディングすることができる。また、前記前記TGFβをコーディングするヌクレオチド配列は、配列番号1のヌクレオチド配列、すなわち、TGFβ1をコーディングするヌクレオチド配列を有してもよい。
【0011】
前記TGFβをコーディングするヌクレオチド配列は、当業界に公知の方法によって、細胞内に導入されたものであってもよい。例えば、前記配列は、それ自体の配列、またはベクターに含まれて導入されたものであってもよい。核酸配列を細胞に導入する方法は、公知である。前記導入は、例えば、電気穿孔(electroporation)、リン酸カルシウムを利用した方法、遺伝子ガン(gene gun)及びリポソーム法を含む方法によってなされてもよい。また、前記導入は、担体としてウイルスを使用してなされてもよい。前記TGFβをコーディングするヌクレオチド配列は、細胞のゲノム内に統合されたり、あるいはゲノムとは別個に細胞内に存在することができる。
【0012】
本発明において、「ベクター」とは、連結されている他の核酸を伝達することができる核酸分子を意味する。特定の遺伝子の導入を媒介する核酸配列という観点で、本発明でのベクターは、核酸構造体、及びカセットと相互交換可能に使われるものであると解釈される。ベクターには、例えば、プラスミドまたはウイルス由来ベクターなどが含まれる。プラスミドとは、追加のDNAが連結される円形の二重鎖DNA環をいう。本発明で使われるベクターには、例えば、プラスミド発現ベクター、ウイルス発現ベクター(例、SV40、複製欠陥レトロウイルス、アデノウイルス及びアデノ関連ウイルス)及びそれらと同等な機能を遂行することができるウイルスベクターが含まれるが、それらに限定されるものではない。
【0013】
前記TGFβをコーディングするヌクレオチド配列は、例えば、アデノウイルス関連ベクターによって導入されたものであってもよい。アデノウイルス関連ベクターとは、ヒト及び他の霊長類種(primate species)を感染させる小さいウイルスであるアデノ関連ウイルス(AAV:adeno−associated virus)を利用したベクターをいう。AAVは、疾病を起こさずに、それによって、非常に弱い免疫反応を起こすと知られている。AAVは、分裂する細胞及び分裂しない細胞いずれも感染させることができ、宿主細胞のゲノム内に、そのゲノムを統合させることができる。これら特性によってAAVは、遺伝子治療のためのウイルスベクターを作るための魅力的な候補になっている。前記アデノウイルス関連ベクターは、配列番号1のヌクレオチド配列を有するpAdlox−eGFP TGFbであってもよい。
【0014】
本発明において、間葉系幹細胞は、多様な細胞形態に分化可能である多分化能幹細胞(multipotent stem cell)をいう。間葉系幹細胞は、例えば、造骨細胞(osteoblast)、脂肪細胞(adipocyte)、筋肉母細胞(myoblast)及び軟骨細胞(chondrocyte)に分化することができる。一般的に間葉系幹細胞は、以下の特性一つ以上を有する:2つの子細胞が分裂後に異なる表現型を有することができる非同期的増殖(asynchronous replication)または対称的増殖(symmetric replication)を行うことができる能力;それらが存在する組織、例えば、骨髄の非造血細胞(non−hematopoietic cell)のクローナル再生(clonal regeneration)。前記間葉系幹細胞は、骨髄由来間葉系幹細胞または脂肪由来間葉系幹細胞を含む。「骨髄由来間葉系幹細胞」とは、骨髄から分離された間葉系幹細胞、またはそれを培養して得られた骨髄由来間葉系幹細胞を含む。「脂肪由来間葉系幹細胞」とは、脂肪から分離された間葉系幹細胞、またはそれを培養して得られた骨髄由来間葉系幹細胞を含む。間葉系幹細胞を分離することは、当業界に公知である。例えば、骨髄由来間葉系幹細胞は、公知の方法によって得られる(Pittenger et al.,(1999) Science 284(5411);Liechty et al.,(2000) Nature Medicine 6:1282−1286)。骨髄由来間葉系幹細胞は、例えば、マウスの大腿骨または脛骨で骨髄細胞が分離した後、DMEM培地で継続的に継代培養、例えば、37℃、5%CO2インキュベータで継代培養した後、10回継代以上になれば、表面抗原を、遊細胞分析を介して調べることによって分離可能である。骨髄由来間葉系幹細胞を培養する方法は、公知である。例えば、分離された骨髄由来間葉系幹細胞は、37℃でIMDB培地またはDMEM培地において培養される。
【0015】
本明細書において、「薬剤学的に許容可能な担体」は、薬剤学的に許容可能な希釈剤、賦形剤、崩壊剤、結合剤及び滑沢剤が含まれるが、それらに限定されるものではない。前記担体は、例えば、間葉系幹細胞、例えば、骨髄由来間葉系幹細胞の培養に必要な培地、注射用水及びバッファなどが含まれるが、それらに限定されるものではない。前記バッファは、PBS(phosphate buffered saline)であってもよい。前記担体は、例えば、乳糖、トウモロコシ澱粉、大豆油、微晶質セルロース及びマンニトールから構成された群から選択された一つ以上を含む希釈剤であってもよい。
【0016】
前記TGFβをコーディングするヌクレオチド配列は、間葉系幹細胞に発現可能な状態で導入されたものであってもよい。例えば、前記配列が、プロモーター及びポリアデニレーション部位のような調節配列と作動可能に連結されており、前記間葉系幹細胞内で発現可能になものであってもよい。従って、前記TGFβをコーディングするヌクレオチド配列は、TGFβをコーディングするヌクレオチド配列が導入されていない間葉系幹細胞に比べ、TGFβをコーディングするヌクレオチド配列が導入された間葉系幹細胞で、TGFβを過発現させることができる。前記過発現の程度は、例えば、TGFβをコーディングするヌクレオチド配列が導入されていない間葉系幹細胞に比べ、活性蛋白質の量を基準に5%以上、10%以上または15%以上過発現されるものであってもよい。
【0017】
前記個体は、哺乳動物であってもよい。前記哺乳動物は、例えば、ヒトまたはヒトではない霊長類であってもよい。前記個体は、例えば、ヒト、猿、犬、猫、牛またはマウスであってもよい。
【0018】
本明細書において、「自家免疫疾患」は、個体内に正常に存在する物質及び/または組織に対して、個体の過度な免疫反応によって引き起こされる疾患を意味する。前記自家免疫疾患は、例えば、急性散在性脳脊髓炎(ADEM:acute disseminated encephalomyelitis)、アジソン病(Addison’s disease)、自家免疫溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia)、自家免疫肝炎(autoimmune hepatitis)、慢性閉鎖性肺疾患(COPD:chronic obstructive pulmonary disease)、クローン病(Crohns disease)、I型糖尿病(Diabetes mellitus type1)、特発血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura)、紅班ループス(Lupus erythematosus)、多発性硬化症(MS:multiple sclerosis)、尋常性天疱瘡(pemphigus vulgaris)、悪性貧血(pernicious anaemia)、乾癬(psoriasis)、乾癬関節炎(psoriatic arthritis)、リューマチ関節炎(rheumatoid arthritis)、シューグレン症候群(Sjogren’s syndrome)、潰瘍性結腸炎(ulcerative colitis)及び血管炎(vasculitis)から構成された群から選択されるものであってもよい。
【0019】
前記組成物において、TGFβをコーディングするヌクレオチド配列が導入された間葉系幹細胞は、TGFβをコーディングするヌクレオチド配列が導入されていない間葉系幹細胞に比べ、自家抗原特異的CD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞を増加させ、Th17細胞を減少させるものであってもよい。従って、TGFβをコーディングするヌクレオチド配列が導入された間葉系幹細胞は、自家抗原に対する特異的CD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞を増加させるので、自家抗原に係わって引き起こされる疾患を予防または治療できると同時に、Th17細胞を減少させるので、自家免疫による疾患の原因を低減させることができる。
【0020】
前記自家抗原は、例えば、コラーゲンタイプII蛋白質、平滑筋アクチン(smooth muscle actin)、水疱性類天疱瘡抗原1及び2(bullous pemphigoid antigen 1 and 2)、トランスグルタミナーゼ、エラスチン、基底膜コラーゲンタイプIV蛋白質、ガングリオシド、デスモゲイン3(desmogein 3)、p62、sp100、リューマチ因子(rheumatoid factor)及びトポイソメラーゼからなる群から選択されるものであってもよい。
【0021】
本発明において、「治療」とは、個体の疾患を軽減、治療及び改善するだけではなく、予防することを含む。
CD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞は、CD4、CD8及びFoxp3を発現する調節性T細胞(CD4+CD25+Foxp3+regulatory T cell or Treg)である。調節性T細胞は、他の細胞の免疫反応を抑制する免疫体系の構成員である。これは、過度な反応を防止するための免疫体系に設けられた重要な「自己点検(self−check)」メカニズムである。調節性T細胞は、侵犯する個体を首尾よく防いだ後で免疫反応を除去するものに係わり、潜在的に自己組織を攻撃することがある免疫反応を調節するもの(自家免疫:autoimmunity)と関連する。CD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞は、インビトロで生成された「抑制(suppressor)」T細胞集団と区分させるために、「天然(naturally−occurging)」調節性T細胞とも呼ばれる。自己抗原特異的CD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞は、前記自己抗原を有した細胞の免疫反応を抑制することができる。調節T細胞は、フォークヘッドファミリー転写因子Foxp3(forkhead box p3)の発現によって定義される。FOXP3の発現は、調節T細胞発生に必要であり、この細胞の運命を特定する遺伝プログラムを制御しているようである。CD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞は、FOPX3、CD4及びIL−2受容体アルファ(α)鎖(CD25)を発現する。
【0022】
Th17細胞(T helper 17 cell)は、IL−17を生産するTへルパ細胞のサブセットである。過量のTh17細胞は、自家免疫疾患(autoimmune disease)発生に関与すると見なされる。また、Th17細胞は、炎症及び炎症条件で、組織損傷(tissue injury)に関与すると考えられる。Th17細胞は、深刻な自家免疫疾患を引き起こす。従来、マウス及びヒトにおいて、TGFβ、IL−6、IL−21及びIL−23がTh17形成に関与すると知られていた(Dong C (May2008),Nat.Rev.Immunol.8(5):337−48;Manel N et al.,(June 2008),Nat.Immunol.9(6):641−9)。
【0023】
従って、本発明の組成物は、自家抗原特異的CD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞は増加させるので、過度な自家抗原による免疫反応を抑制すると同時に、自家免疫疾患(autoimmune disease)発生に関与するTh17細胞は減少させるので、自家免疫疾患の治療に顕著な効果を有している。
【0024】
本発明の他の具体例はTGFβをコーディングするヌクレオチド配列が導入された間葉系幹細胞と、薬剤学的に許容可能な担体と、を含む個体で自家抗原特異的CD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞を増加させ、Th17細胞を減少させるための組成物を提供する。
【0025】
本発明の他の具体例は、前記の自家免疫疾患治療用の組成物を個体に投与する段階を含む個体の自家免疫疾患を治療する方法を提供する。
前記組成物を個体に投与することは、当業界に公知の方法によってなされてもよい。例えば、前記投与は、経口または非経口の投与によってなされる。前記非経口投与は、例えば、腹腔内、静脈内、髓膜腔内、筋肉内、皮下、静脈内、真皮内、鼻腔内、粘膜内及び膣内への投与によってなされてもよい。
【0026】
前記組成物の投与量は、前記自家免疫疾患を治療するのに十分な量、すなわち、「治療学的に有効な量(therapeutically effective amount)」であってもよい。前記治療学的に有効な量は、自家免疫疾患の症状を軽減、改善、治療または予防するのに十分な量である。かような投与量は、選択される自家免疫疾患の種類、疾病の軽重、体重、年齢及び性別などによって、当業者が適切に選択することができる。前記投与量は、1x104細胞/kg体重ないし1x106細胞/kg体重、例えば、5x104細胞/kg体重ないし1x106細胞/kg体重であってもよい。
【0027】
前記方法において、「自家免疫疾患治療用の組成物」及び「個体」については、前記の通りである。
本発明の他の具体例は、TGFβをコーディングするヌクレオチド配列が導入された間葉系幹細胞と、薬剤学的に許容可能な担体と、を含む薬学的組成物を個体に投与する段階を含む、自家抗原特異的CD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞を増加させ、Th17細胞は減少させる方法を提供する。
【0028】
前記方法において、前記組成物を個体に投与することは、当業界に公知の方法によってなされてもよい。例えば、前記投与は、経口または非経口の投与によってなされる。前記非経口投与は、例えば、腹腔内、静脈内、髓膜腔内、筋肉内、皮下、静脈内、真皮内、鼻腔内、粘膜内及び膣内への投与によってなされてもよい。
【0029】
前記組成物の投与量は、投与前に比べ、自家抗原特異的CD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞を増加させ、Th17細胞は減少させるのに十分な量である。かような投与量は、選択される自家免疫疾患の種類、疾病の軽重、体重、年齢及び性別などによって、当業者が適切に選択することができる。前記投与量は、1x104細胞/kg体重ないし1x106細胞/kg体重、例えば、5x104細胞/kg体重ないし1x106細胞/kg体重であってもよい。
前記方法において、「薬学的組成物」、「個体」、「自家抗原特異的CD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞」及び「Th17細胞」については、前記の通りである。
【0030】
以下、本発明について、実施例を介してさらに詳細に説明する。しかし、それら実施例は、本発明について例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がそれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
実施例1
(1)間葉系幹細胞の分離
間葉系幹細胞を分化させるために、6週齢のDBA1Jマウスの表皮と筋肉とを除去した後、大腿骨と脛骨とを分離した。次に、26G注射器で、BSA 0.3%を含有するRPMI培地を骨中へ透過させ、骨髄単核球を抽出した。得られた骨髄単核球を、10%ウシ胎児血漿(FBS:fetal bovine serum)を含んだDMEM(Dulbecco’s Modified Eagles Medium)で、37℃、5%CO2インキュベータで培養した。5〜7日後に飽和状態になれば、継代培養して、培養中に一定間隔で細胞の形態学的変化を、顕微鏡を介して観察した。継代が10回以上になれば、分離された間葉系幹細胞が、幹細胞の特性を示す細胞表面抗原を表現しているか否かを知るために、CDマーカーを利用して遊細胞分析を行った。培養された細胞は、中間葉細胞の表面抗原であるCD29,CD44及びSca−1に対し陽性反応を示したが、造血母細胞の表面抗原であるCD34及びCD45に対して、陰性反応を示すことを確認した。
【0032】
(2)TGFβ遺伝子の間葉系幹細胞への導入
アデノウイルスは、効率的に細胞内に感染され、外来遺伝子を多量に発現させることができ、さまざまな種類の疾病の治療遺伝子を、生体内に伝達する遺伝子伝達体として多用されている。組み換えアデノウイルスを製造、分離するために、pAdlox−eGFP TGFbベクターを培地中に、2×109/mlの濃度で定量し、ウイルス・ストック(virus stock)を製造した。
【0033】
図1は、pAdlox−eGFP TGFbのベクター地図を示した図面である。前記ベクターは、配列番号1のTGFβ1をコーディングするヌクレオチド配列(TGF−b)を含んでいる。図1に示したベクターは、TGFβ1遺伝子を発現するベクターシステムであり、TR、pac、IRES及びeGFPは、ウイルス・パッケージングに必要な構成要素である。
【0034】
pAdlox−eGFP TGFβベクターは、血清を添加していないDMEM培地に、前記ウイルス・ストックを希釈し、100 MOI(multiplicity of infection)で、前記DBA1Jマウスで分離した間葉系幹細胞に感染させた。その後、感染された細胞は、既存の10%FBSが添加されたDMEM培地に交換し、37℃、5%CO2インキュベータで24時間培養して収穫した。TGFβ遺伝子を導入した間葉系幹細胞でのTGFβの発現は、蛍光顕微鏡と遊細胞分析とを利用してeGFP発現を確認し、免疫酵素測定法を介してTGFβ濃度を確認した。
【0035】
(3)TGFβが導入された間葉系幹細胞のマウス腹腔投与による関節炎治療効能の確認
(3.1)動物モデルの準備及び投与
コラーゲンによって誘導される関節炎(CIA:collagen induced arthritis)動物モデルの準備及びTGFβ遺伝子挿入間葉系幹細胞の投与は、次の通りである。
試験動物は、6〜7週齢のオスDBA−1系マウスを使用した。第2型コラーゲン(CII)を4mg/mlになるように0.1N酢酸溶液に溶かした後、透析緩衝液(dialysis buffer;50mM Tris、0.2N Nacl)で透析し、M.ツベルクロシス(tuberculosis)を含有する完全フロイントアジュバント(CFA:Complete Freund’s adjuvant、Chondrex)と同量で混ぜた後、マウスの尻尾基底部に皮下注射し、免疫源を1匹当たり100μl(すなわち、100μl/100μg)で注射した(一次注射)。一次から2週間後、同じCIIを同量の不完全フロイントアジュバント(IFA:Incomplete Freund’s adjuvant、Chondrex)と混ぜた後、100μl(、すなわち、100μl/100μg)を一方の後足に注射した(二次注射)。
それから7週間後、1x106/200μl容量の対照群間葉系幹細胞、またはTGFβ遺伝子挿入間葉系幹細胞を200μlの体積で腹腔内に注射した。
各群は、6匹ずつを対象に行い、関節炎評価は、15週間まで評価し、試験管内(in vitro)試験のために、関節炎指数が有意性あるように違いが生じる時期に、各動物を致死させ、脾臓細胞内で関節炎疾病の活性と関連した免疫細胞の変化を観察した。
【0036】
(3.2)CIA動物でのTGFβ遺伝子挿入間葉系幹細胞のリューマチ関節炎治療活性の評価
最初の接種を開始点として、3週間後から実験の内容を知らない観察者3名が、1週間に3回ずつ関節炎症の重症度を評価して、10週間まで観察した。このとき、関節炎評価は、Rossoliniecら(Wooley J.Exp.Med.154(3):688−700)による平均関節炎指数を基準にし、1匹当たり二次接種時、CII/CFAを投与した足を除外した残りの3本の足で、下記の尺度によって付けた点数を合わせて3で割った平均値を得て、さらに各動物モデルで、3名の観察者が得た数値を合算して割った平均値を使用した。関節炎評価による点数と基準は、次の通りである。
【0037】
0点:浮腫や腫脹がない
1点:足または足首関節に局限された軽度の浮腫及び発赤
2点:足首関節から中足骨(metatarsal)にわたった軽度の浮腫及び発赤
3点:足首関節から中足骨にわたった中程度の浮腫及び発赤
4点:足首で足全体にわたる浮腫及び発赤
【0038】
1匹当たり最高の関節炎指数が4点であるので、マウス1匹当たり最高の疾病指数は、16である。
TGFβ遺伝子挿入間葉系幹細胞を注入した試験動物では、関節染指数が順次低くなることを確認することができ、一方、CIA動物及び間葉系幹細胞を注入した動物では、関節炎が正常に発生し、関節炎臨床症状が、TGFβ遺伝子挿入間葉系幹細胞を注入した試験動物と持続的に大きい差を示した(図2)。
【0039】
図2は、コラーゲン誘導関節炎(CIA)動物に、間葉系幹細胞またはTGFβ遺伝子挿入間葉系幹細胞を腹腔内に1回注入した後、15週間まで観察した関節炎臨床指数を示したグラフである。図2で、CIAは、コラーゲン誘導関節炎動物モデル、MSCは、コラーゲン誘導関節炎動物モデルに、間葉系幹細胞を投与した群、TbMSCは、コラーゲン誘導関節炎動物モデルに、TGFβ遺伝子挿入間葉系幹細胞を投与した群に係わる結果である。
【0040】
(4)TGFβ遺伝子挿入間葉系幹細胞による調節CD4+T細胞の誘導及びTh17細胞の抑制
TGFβ遺伝子挿入間葉系幹細胞によるリューマチ関節炎の治療メカニズムを究明するために、TGFβ遺伝子挿入間葉系幹細胞によって誘導されたり抑制される免疫体系について調べた。
【0041】
(4.1)TGFβ遺伝子挿入間葉系幹細胞による調節CD4+T細胞の誘導
CIA動物を致死させて得た脾臓細胞を分離した後、培地単独で37℃、5%CO2インキュベータで培養するか、あるいは40μg/ml濃度のCIIと共に3日間37℃、5%CO2インキュベータで共生培養した後、蛍光細胞分析分離装置(FACS)を利用して、Foxp3を発現する細胞とTh17細胞との変化程度を観察した。
【0042】
結果として、CIA動物と、対照群である間葉系幹細胞を入れたマウスグループとを比較したとき、TGFβ遺伝子挿入間葉系幹細胞を入れたマウスグループで分離した脾臓細胞が、CIIと共に刺激したときの培地単独より、CD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞誘導が増大し、Th17細胞誘導は抑制された。その結果、CIIに特異的なCD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞が作られ、リューマチ関節炎の病因と関連している慢性炎症IL−17生産T細胞(Th17細胞)の過増殖が抑制され、炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインとの均衡がなされつつ、リューマチ関節炎の進行抑制と治療とが可能であるということが分かる。
【0043】
図3は、正常マウスの脾臓細胞で分離したCD4+CD25−T細胞、骨髄由来間葉系幹細胞(+MSC)、TGFβ遺伝子挿入骨髄由来間葉系幹細胞(+TGFbMSC)を3日間共生培養した後、CD25陽性T細胞に分化した程度を、蛍光細胞分析分離装置(FACS)を介して分析した結果である。
図3に示されているように、骨髄由来間葉系幹細胞(+TGFbMSC)と脾臓細胞とを共生培養する場合、そうではない場合に比べ、CD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞の比率が上昇した(図3)。
【0044】
図4は、動物モデル脾臓細胞を、培地単独または40μg/ml濃度の自家抗原である第2型コラーゲン(CII)刺激と共に3日間共生培養した後、免疫調節性T細胞(CD4+Foxp3+Treg(regulatory))と、IL−17を分泌するT細胞との分化を蛍光細胞分析分離装置(FACS)を介して分析した結果である。
図4で、CIA、MSC及びTGFb−MSCは、それぞれ関節炎動物モデルで分離された脾臓細胞、関節炎動物モデルに間葉系幹細胞を投与した動物から分離された脾臓細胞、及び関節炎動物モデルに、TGFβ挿入間葉系幹細胞を投与した動物から分離された脾臓細胞に係わる結果であり、Nil及びCIIは、それぞれ単独またはCIIと共生培養した場合の結果である。図4に示されているように、関節炎動物モデルにTGFβ挿入間葉系幹細胞を投与した動物から分離された脾臓細胞は、自家抗原であるCIIと共生培養する場合、関節炎動物モデルに間葉系幹細胞だけを投与した動物から分離された脾臓細胞が自家抗原であるCIIと共生培養する場合に比べ、CD4+CD25+foxp3+調節性T細胞は、増加し、Th17細胞は、減少した。
【0045】
以上の結果から、TGFβ挿入間葉系幹細胞は、自家抗原に対する過度な免疫反応の結果として引き起こされる自家免疫疾患の治療に効果的であるということが分かる。
本明細書に添付された配列表に記載された配列は、配列番号を参照して記載した。前記添付された配列表は、その全体内容が援用によって本明細書に含まれるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TGFβをコーディングするヌクレオチド配列が導入された間葉系幹細胞と、薬剤学的に許容可能な担体と、を含む個体の自家免疫疾患治療用の組成物。
【請求項2】
前記TGFβをコーディングするヌクレオチド配列は、配列番号1のアミノ酸配列をコーディングするものであることを特徴とする請求項1に記載の自家免疫疾患治療用の組成物。
【請求項3】
前記TGFβをコーディングするヌクレオチド配列は、配列番号2のヌクレオチド配列を有するものであることを特徴とする請求項2に記載の自家免疫疾患治療用の組成物。
【請求項4】
前記TGFβをコーディングするヌクレオチド配列は、アデノウイルス関連ベクターによって導入されたものであることを特徴とする請求項1に記載の自家免疫疾患治療用の組成物。
【請求項5】
前記間葉系幹細胞は、骨髄由来間葉系幹細胞または脂肪由来間葉系幹細胞であることを特徴とする請求項1に記載の自家免疫疾患治療用の組成物。
【請求項6】
TGFβをコーディングするヌクレオチド配列が導入されていない間葉系幹細胞に比べ、TGFβをコーディングするヌクレオチド配列が導入された前記間葉系幹細胞は、個体内でTGFβを過発現することを特徴とする請求項1に記載の自家免疫疾患治療用の組成物。
【請求項7】
前記自家免疫疾患は、急性散在性脳脊髓炎(ADEM)、アジソン病(addison’s disease)、自家免疫溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia)、自家免疫肝炎(autoimmune hepatitis)、慢性閉鎖性肺疾患(COPD)、クローン病(Crohns disease)、I型糖尿病(Diabetes mellitus type 1)、特発血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura)、紅班ループス(Lupus erythematosus)、多発性硬化症(MS)、尋常性天疱瘡(pemphigus vulgaris)、悪性貧血(pernicious anaemia)、乾癬(psoriasis)、乾癬関節炎(psoriatic arthritis)、リューマチ関節炎(rheumatoid arthritis)、シューグレン症候群(Sjogren’s syndrome)、潰瘍性結腸炎(ulcerative colitis)及び血管炎(vasculitis)から構成された群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の自家免疫疾患治療用の組成物。
【請求項8】
TGFβをコーディングするヌクレオチド配列が導入されていない骨髄間葉系幹細胞に比べ、自家抗原特異的CD4+CD35+Foxp3+調節性T細胞を増加させ、Th17細胞を減少させることを特徴とする請求項1に記載の自家免疫疾患治療用の組成物。
【請求項9】
前記個体は、哺乳動物であることを特徴とする請求項1に記載の自家免疫疾患治療用の組成物。
【請求項10】
前記哺乳動物は、ヒトまたはマウスであることを特徴とする請求項9に記載の自家免疫疾患治療用の組成物。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のうち、いずれか1項に記載の自家免疫疾患治療用の組成物を個体に投与する段階を含む個体の自家免疫疾患を治療する方法。
【請求項12】
TGFβをコーディングするヌクレオチド配列が導入された間葉系幹細胞と、薬剤学的に許容可能な担体と、を含む薬学的組成物を個体に投与する段階を含む、自家抗原特異的CD4+CD25+Foxp3+調節性T細胞を増加させ、Th17細胞は減少させる方法。
【請求項13】
前記個体は、ヒトではない哺乳動物であることを特徴とする請求項11または請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−508353(P2013−508353A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535106(P2012−535106)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【国際出願番号】PCT/KR2010/005771
【国際公開番号】WO2011/049291
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(510058863)カトリック ユニバーシティ インダストリー アカデミック コーオペレイション ファウンデーション (6)
【Fターム(参考)】