説明

TPB塩の生体分子分離のための使用

少なくとも1つのカチオン基を含む生体分子を、前記生体分子を含む液体媒体から分離する方法であって、テトラフェニルホウ酸(TPB)塩の使用を含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのカチオン基を含む生体分子の分離方法、およびこの使用を含む生体分子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の方法は、例えば、血小板糖タンパク質IIb/IIIa受容体を選択的に遮断するエプチフィバチド(Eptifibatide)(配列番号5)の製造に使用することができる。これは、血小板に可逆性に結合し、半減期が短い。冠動脈形成、心筋梗塞、およびアンギナ中の患者の治療において静注液として有効性が示されている。
【0003】
本発明の方法は、オミガナン(Omiganan)の製造にも使用することができる。オミガナン(Omiganan)は、その5塩酸(5HCl)塩の形で主に使用されるペプチドH−Ile−Leu−Arg−Trp−Pro−Trp−Trp−Pro−Trp−Arg−Arg−Lys−NH2(配列番号1)の国際共通名称(Common International Denomination:CID)である。オミガナン(Omiganan)は、カチオン性抗菌ペプチドである。最近の研究から、炎症反応においてある役割を果たすこともできることがわかった。オミガナン(Omiganan)は、インビトロのアッセイにおいて、皮膚にコロニー形成し、炎症性疾患の発生においてある役割を果たす可能性がある微生物に対して迅速な殺菌活性を示した。
【0004】
特許文献1には、グアニジン基および非置換テトラフェニルホウ酸イオンを含む化合物のペプチド合成における中間体としての使用が開示されている。一例として、アルギニンおよびテトラフェニルボレート(TPB)によって生成される化合物の合成、およびペプチドBoc−Leu−Arg−OHの合成におけるその使用が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,262,567号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
今回、驚くべきことに、液体媒体からの生体分子の分離の改善、特に少なくとも1つのカチオン基を含む生体分子のテトラフェニルホウ酸(TPB)塩の使用による分離によって、所望の生体分子を高収率および高純度で得ることが可能になることがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明は、少なくとも1つのカチオン基を含む生体分子を、前記生体分子を含有する液体媒体から分離する方法であって、テトラフェニルホウ酸(TPB)塩の使用を含む方法に関する。
【0008】
本発明では、「カチオン基」という用語は、正電荷を有する生体分子の官能基を指す。本発明におけるカチオン基は、しばしばグアニジン基またはアミノ基から選択される。カチオン基がアミノ基であるとき、第一級、第二級、および好ましくは第三級のプロトン化されたアミノ基から選択される場合が多い。より好ましくは、アミノ基は、第四級(アンモニウム)基、例えばテトラアルキルアンモニウム基である。グアジニン基は、別の好ましいカチオン基である。
【0009】
本発明では、「TPB」という用語はテトラフェニルボレートを表す。TPBアニオンは、ベンゼン環上で置換されていてもよく、または非置換でもよい。好ましくは、TPBアニオンは非置換である。
【0010】
適切な置換TPBアニオンの例としては、例えばテトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチルフェニル]ボレートが挙げられる。
【0011】
本発明において、使用されるTPB塩は、一般に水溶液を生成することができる。TPB塩のカチオンは、しばしば無機カチオンである。適切な無機イオンは、例えばナトリウム(Na+)およびリチウム(Li+)である。LiTPBおよびNaTPBが好ましい。最も好ましく使用されるテトラフェニルホウ酸塩はNaTPBである。
【0012】
本発明による方法において、テトラフェニルホウ酸塩の使用量は、一般に生体分子に存在するカチオン基1つ当たりテトラフェニルホウ酸塩1から10当量であり、この量は好ましくは1から2当量、より好ましくは1から1.1当量である。
【0013】
本発明による方法において、TBP塩を、好ましくはアルカリ性剤と一緒に使用する。アルカリ性剤は、特に無機塩基、例えばNaHCOおよびNaCOから選択することができる。一般に、アルカリ性剤の選択は、精製対象の生体分子のアルカリ性状態に対する感度に依存する。
【0014】
本発明では、「生体分子−TPB塩」という用語は、生体分子テトラフェニルホウ酸(TPB)塩を指す。
【0015】
本発明では、「生体分子を含有する液体媒体」は、特に水性溶媒(「水溶液」)、有機溶媒(「有機溶液」)、またはそれらの混合物から選択される溶媒にとかした生体分子の溶液を表すと理解される。
【0016】
本発明では、「水性溶媒」という用語は、特に水、および水溶性化合物の水溶液、例えば塩水または他の何らかの鉱物塩水溶液を指す。
【0017】
「水と混じり合わない化合物」は、特に水溶液と接触させたとき、デカンテーションによって水相を有機相から分離することが可能になる化合物を表すと理解される。
【0018】
本発明において、生体分子は、一般にペプチド、ペプチド誘導体、オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド誘導体、および多糖からなる群から選択される。
【0019】
本発明では、「ペプチド」という用語は、モノマーがアミノ酸であり、アミド結合を介して互いに共有結合しているポリマーを指す。ペプチドは、2個、またはしばしば2個以上のアミノ酸モノマー長である。さらに、本明細書における特定のペプチド配列はすべて、左から右への方向が通常のアミノ末端からカルボキシ末端への方向である式で表わされる。
【0020】
本発明では、「アミノ酸」という用語は、少なくとも1つのNR基、好ましくはNH基と、少なくとも1つのカルボキシル基とを含む任意の化合物を表すよう意図されている。本発明のアミノ酸は、天然または合成とすることができる。グリシンを除いて、天然アミノ酸はキラル炭素原子を含む。別段の記載のない限り、L型配置の天然アミノ酸を含む化合物が好ましい。アミノ酸残基は、本願全体を通して以下の通り省略して記載されている。アルギニンはArgまたはRである。リシンはLysまたはKである。プロリンはProまたはPである。トリプトファンはTrpまたはWである。アスパラギン酸はAspまたはDである。システインはCysまたはCである。
【0021】
本発明では、ペプチドの「カルボキシ末端」という用語は、遊離カルボキシル基(−COOH)を末端に有するアミノ酸配列の末端である。一方、ペプチドの「アミノ末端」という用語は、遊離アミノ基(−NH)を有するアミノ酸を末端に有するアミノ酸配列の末端を指す。
【0022】
本明細書では、「ペプチド誘導体」という用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応するD型異性体、または非天然アミノ酸残基もしくはその化学的誘導体で置換されている類似体を包含する。ペプチドの化学的誘導体としては、通常ペプチドの一部分でない化学的部分をさらに少なくとも1つ含む誘導体が挙げられるが、これに限定されるものではない。このような誘導体の例は、(a)アミノ末端または別の遊離アミノ基のN−アシル誘導体であって、ここで、アシル基は、アセチル、ヘキサノイル、オクタノイルなどのアルカノイル基;アロイル基、例えばベンゾイルまたはビオチニルとすることができる、(b)末端カルボキシル基、または別の遊離カルボキシル基もしくはヒドロキシ基のエステル、および(c)アンモニアまたは適切なアミンとの反応で生成される末端カルボキシル基または別の遊離カルボキシル基のアミドである。
【0023】
本発明のフレームにおいて「オリゴヌクレオチド」という用語は、特に核酸塩基に結合している糖単位を含むヌクレオシドモノマー単位のオリゴマーを表し、前記ヌクレオシドモノマー単位は、インターヌクレオチド結合で結合している。「インターヌクレオチド結合」は、特に、自然界に見られる核酸に典型的に存在するホスホジエステル結合、または合成核酸および核酸類縁体に典型的に存在する他の結合など、2つのヌクレオシド部分間の化学結合を指す。このようなインターヌクレオチド結合は、例えばホスホまたはホスフィット基を含むことができ、この結合としては、ホスホもしくはホスフィット基の1個または複数の酸素原子が、置換基で修飾され、あるいは別の原子、例えば硫黄原子、またはモノアルキルアミノもしくはジアルキルアミノ基の窒素原子で置換されている結合を挙げることができる。典型的なインターヌクレオチド結合は、リン酸またはその誘導体のジエステル、例えばリン酸エステル、チオリン酸エステル、ジチオリン酸エステル、ホスホロアミド酸エステル、およびチオホスホロアミド酸エステルである。本発明において、インターヌクレオチド結合は、一般に適切な保護基で保護されている。β−シアノエチル基は、適切な保護基の一例である。
【0024】
「ヌクレオシド」という用語は、特に糖に結合している核酸塩基からなる化合物を表すと理解される。糖としては、リボースや2’−デオキシリボースなどのフラノース環、およびシクロヘキセニル、アンヒドロヘキシトール、モルホリノなどの非フラノース環が挙げられるが、これらに限定されるものではない。ヌクレオシドに含まれる糖の以下に記載される修飾、置換、および位置は、フラノース環を参照して記載されるが、同じ修飾および位置は、他の糖の環の類似の位置にも適用される。糖は、さらに修飾することができる。糖の修飾の非限定的な例として、特に例えばフラノシル糖環の2’位または3’位、特に2’位における、例えば水素;ヒドロキシ;メトキシ、エトキシ、アリルオキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、メトキシエチル、アルコキシ、フェノキシなどのアルコキシ;アジド;アミノ;アルキルアミノ;フルオロ;クロロおよびブロモによる修飾;2’−4’−および3’−4’−結合フラノシル糖環修飾、例えば環4’−OのS、CH、NR、CHF、またはCFによる置換を含む、フラノシル糖環における修飾を挙げることができる。
【0025】
「核酸塩基」という用語は、特に相補的核酸塩基または核酸塩基類似体と対になることができる特に窒素含有ヘテロ環式部分を表すと理解される。典型的な核酸塩基は、プリン塩基のアデニン(A)およびグアニン(G)と、ピリミジン塩基のチミン(T)、シトシン(C)、およびウラシル(U)を含む、天然核酸塩基;ならびに、5−メチルシトシン(5−me−C)、5−ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2−アミノアデニン、アデニンおよびグアニンの6−メチルおよび他のアルキル誘導体、アデニンおよびグアニンの2−プロピルおよび他のアルキル誘導体、2−チオウラシル、2−チオチミンおよび2−チオシトシン、5−ハロ−ウラシルおよび−シトシン、5−プロピニル−ウラシルおよび−シトシンおよびピリミジン塩基の他のアルキニル誘導体、6−アザ−ウラシル、−シトシンおよび−チミン、5−ウラシル(プソイドウラシル)、4−チオウラシル、8−ハロ、8−アミノ、8−チオール、8−チオアルキル、8−ヒドロキシル、および他の8−置換アデニンおよびグアニン、5−ハロ、特に5−ブロモ、5−トリフルオロメチル、および他の5−置換ウラシルおよびシトシン、7−メチルグアニンおよび7−メチルアデニン、2−F−アデニン、2−アミノ−アデニン、8−アザグアニンおよび8−アザアデニン、7−デアザグアニンおよび7−デアザアデニン、3−デアザグアニンおよび3−デアザアデニンと、フッ素化塩基などの他の合成および天然核酸塩基を含む、修飾核酸塩基である。さらなる修飾核酸塩基としては、フェノキサジンシチジン(1H−ピリミド[5,4−b][1,4]ベンゾオキサジン−2(3H)−オン)、フェノチアジンシチジン(1H−ピリミド[5,4−b][1,4]ベンゾチアジン−2(3H)−オン)などの3環式ピリミジン;置換フェノキサジンシチジン(例えば、9−(2−アミノエトキシ)−H−ピリミド[5,4−b][1,4]ベンゾオキサジン−2(3H)−オン)、カルバゾールシチジン(2H−ピリミド[4,5−b]インドル−2−オン)、ピリドインドールシチジン(H−ピリド[3’,2’:4,5]ピロロ[2,3−d]ピリミジン−2−オン)などのG−クランプが挙げられる。他の潜在的に適切な塩基としては、ユニバーサル塩基、疎水性塩基、乱交雑塩基、およびサイズ拡大塩基が挙げられる。
【0026】
本発明では、「オリゴヌクレオチド誘導体」という用語は、「ペプチド核酸」(PNA)、モルホリノホスホロジアミデート、ペプチド−オリゴヌクレオチドコンジュゲートなどの分子のクラスを指す。本発明による方法を、カチオン性PNAに適宜適用することができる。
【0027】
本発明による方法を適用することができる生体分子の別のクラスは、カチオン性セルロースまたはカチオン性デンプンまたはカチオン性シクロデキストリンなどのカチオン性多糖である。カチオン性多糖は、例えば上述の少なくとも1つのカチオン性アミノ基、特に少なくとも1つの第四級(アンモニウム)基で官能化された多糖である。
【0028】
グアニジン基またはアミノ基を含むペプチドの典型的な例は、アルギニン、ホモアルギニン、およびリシンから選択される少なくとも1つのアミノ酸を含むペプチドである。アルギニンおよびホモアルギニンから選択される少なくとも1つのアミノ酸を含むペプチドが好ましい。
【0029】
グアニジン基またはアミノ基を含むオリゴヌクレオチドの典型的な例は、上記のアデノシン、グアノシン、およびシトシン、ならびにそれらの誘導体から選択される少なくとも1つのヌクレオシドを含むオリゴヌクレオチドである。
【0030】
本発明による方法は、一般に生体分子を含有する液体媒体にTBP塩を添加するステップを含む。TBP塩は、固体の形で、または好ましくは溶液、例えば水溶液として供給することができる。生体分子を含有する液体媒体にTBP塩を添加すると、一般に生体分子−TPB塩が形成される。
【0031】
本発明による方法において、生体分子中のカチオン基の数は、少なくとも1つである。本発明による方法に従って分離することができる生体分子の特定の例は、2から20、しばしば3から15のカチオン基を含む。
【0032】
本発明による方法において、液体媒体から選択される生体分子は、一般に固体の生体分子−TPB塩の形、またはその後の反応ステップでの使用に適した有機溶液の形で得られる。
【0033】
固体の生体分子−TPB塩が望ましいとき、本発明による方法は、一般に生体分子を含有する液体媒体から固体の生体分子−TPB塩を沈殿または結晶化するステップを含む。この場合、液相を水溶液と適宜接触させることができる。このような水溶液は、例えば水、塩水、または他の何らかの鉱物塩水溶液とすることができる。この場合、水溶液のpHを制御することが特に有利である。水溶液のpH値は、好ましくは10以下、より好ましくは9以下、さらにより好ましくは7.5以下に制御される。水溶液のpH値は、好ましくは5以上、より好ましくは、6.0以上、最も好ましくは6.5以上に制御される。水溶液のpH値は、鉱物塩の添加によって制御することができる。使用することができる適切な塩としては、アルカリまたはアルカリ土類塩化物、特に塩化ナトリウム、アルカリまたはアルカリ土類硫酸塩、特に硫酸カリウム、アルカリまたはアルカリ土類炭酸水素塩、特に炭酸水素ナトリウムが挙げられる。塩化ナトリウムを好ましくは塩水溶液の5重量%の量で含む塩水溶液が、特に好ましい。
【0034】
沈殿または結晶化は、一般に0℃から20℃、好ましくは0℃から5℃の温度で実施される。
【0035】
沈殿または結晶化した生体分子−TPB塩は、例えば濾過、デカンテーション、遠心、またはスプレー乾燥によって水溶液から分離することができる。
【0036】
適切な一手法によれば、生体分子−TPB塩は、濾過によって回収され、場合によっては洗浄される。生体分子−TPB塩は、場合によってはその後の反応ステップ、凍結乾燥、包装、および/または貯蔵などのその後の処理ステップにかける前に乾燥させることが好ましい。
【0037】
ここで、特定の実施形態に関連して、本発明をさらに説明する。
【0038】
本発明の第1の特定の実施形態において、液体媒体は水溶液である。
【0039】
本発明のこの第1の態様において、少なくとも1つのカチオン基を含む生体分子の水溶液は、例えば有機溶媒または溶媒混合物中の前記生体分子を製造するための合成溶液に水溶液を添加することによって得ることができる。
【0040】
次いで、少なくとも1つのカチオン基を含む生体分子を含有する前記水溶液は、一般に有機洗浄溶媒で洗浄される。有機洗浄溶媒は、好ましくは水と混じり合わない化合物から選択される。適切な有機洗浄溶媒の非限定的な例は、ジクロロメタン(DCM)やクロロホルムなどのハロカーボン、酢酸エチル(AcOEt)や酢酸イソプロピル(AcOiPr)などのエステル、およびジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル(MTBE)などのエーテルから選択される。
【0041】
任意選択の洗浄ステップによって、有機相と一緒に、反応媒体中で使用される有機反応溶媒、例えばN,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、反応物質、および/または出発試薬の除去が可能になる。
【0042】
本発明の第1の実施形態の第1の態様において、水溶液中に存在する少なくとも1つのカチオン基を含む生体分子は、上述されたように水溶液から固体の生体分子−テトラフェニルホウ酸(TPB)塩[生体分子−TPB塩]として沈殿または結晶化される。沈殿または結晶化は、例えばTPB塩を含有する水溶液に前記生体分子を含有する水溶液を注ぎ込むことによって実現することができる。別の例において、生体分子を含有する水溶液に、TPB塩を含有する水溶液を添加する。沈殿または結晶化した生体分子−TPB塩を、上述されたようにさらに処理することができる。
【0043】
本発明による方法の第1の実施形態の第2の態様において、水溶液中に存在する少なくとも1つのカチオン基を含む生体分子は、生体分子−TPB塩として第1の有機溶液に抽出される。抽出は、一般に水溶液をTPB塩および適切な有機溶媒または溶媒混合物と接触させることによって行われる。好ましい有機溶媒は、ジクロロメタン(DCM)やクロロホルムなどのハロカーボン、酢酸エチル(AcOEt)や酢酸イソプロピル(AcOiPr)などのエステル、およびジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、MTBEなどのエーテルの単独、または例えばn−ブタノール、iso−ブタノール、sec−ブタノールなどのアルコールとの組合せから選択される。ジクロロメタンを使用して、良好な結果が得られる。
【0044】
本発明による方法の第1の実施形態のこの態様において、生体分子を含有する水溶液のpHを制御することが特に有利である。この水溶液のpH値は、好ましくは10以下、より好ましくは9以下、さらにより好ましくは7.5以下に制御される。この水溶液のpH値は、好ましくは5以上、より好ましくは6.0以上、最も好ましくは6.5以上に制御される。この水溶液pH値は、例えば鉱物塩水溶液を添加することによって制御することができる。上記の塩水溶液中で使用することができる適切な塩としては、アルカリまたはアルカリ土類塩化物、特に塩化ナトリウム、アルカリまたはアルカリ土類硫酸塩、特に硫酸カリウム、アルカリまたはアルカリ土類炭酸水素塩、特に炭酸水素ナトリウムが挙げられる。
【0045】
本発明による方法の第1の実施形態の第3の態様において、本発明は、少なくとも1つのカチオン基を含む生体分子−TPB塩の製造方法であって、
(a)少なくとも1つのカチオン基を含む生体分子の水溶液を準備するステップと、
(b)TPB塩を水溶液に添加するステップと、
(c)生体分子−TPB塩を水溶液から回収するステップと
を含む方法に関する。
【0046】
本発明による方法の第2の実施形態において、液体媒体は有機溶液である。
【0047】
この第2の態様において、液体媒体は、場合により水溶液で洗浄した後、テトラフェニルホウ酸塩が添加され、それによって生体分子−TPB塩を含有する第1の有機溶液を生じる有機溶液である。少なくとも1つのカチオン基を含む生体分子の有機溶液は、例えば合成ステップが完了した後、有機溶媒または溶媒混合物、特に上述された反応溶媒中の生体分子を製造するための合成溶液を有機希釈溶媒で希釈することによって得ることができる。有機希釈溶媒は、好ましくは水と混じり合わない化合物から選択される。好ましくは、有機希釈溶媒は、ジクロロメタン(DCM)やクロロホルムなどのハロカーボン、酢酸エチル(AcOEt)や酢酸イソプロピル(AcOiPr)などのエステル、およびジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、MTBEなどのエーテルの単独、または例えばn−ブタノール、iso−ブタノール、sec−ブタノールなどのアルコールとの組合せから選択される。ジクロロメタンを使用して、良好な結果が得られる。
【0048】
少なくとも1つのカチオン基を含む生体分子の前記有機溶液を、上述されたように場合により水溶液で洗浄し、さらにTPB塩を含有する水溶液で洗浄することができ、それによって生体分子が生体分子−TPB塩として溶解したままである第1の有機溶液が生じる。様々な洗浄ステップによって、第1の有機溶液中の不純物および他の望ましくない化合物含有量の低減が可能になる。
【0049】
本発明による方法の第2の実施形態の第1の有利な態様において、生体分子−TPB塩を単離することなく、得られた第1の有機溶液をその後の反応ステップにかける。
【0050】
本発明による方法の第2の実施形態の第2の有利な態様は、少なくとも1つのカチオン基を含む生体分子−TPB塩の製造方法であって、
(a)少なくとも1つのカチオン基を含む生体分子の有機溶液を準備するステップと、
(b)TPB塩を有機溶液に添加するステップと、
(c)生体分子−TPB塩を第1の有機溶液から回収するステップと
を含む方法に関する。
【0051】
本発明による方法の第3の実施形態において、例えば上記の第1および第2の実施形態に記載されたように得ることができる生体分子−TPB塩を含有する第1の有機溶液を、別の有機溶媒または溶媒混合物で処理して、生体分子−TPB塩を含有する第2の有機溶液を得ることができる。別の有機溶媒または溶媒混合物は、生体分子−TPB塩を含有する第1の有機溶液に直接添加してもよく、または前記第1の有機溶液を場合によってはさらに処理した後に添加してもよい。この好ましい後者の場合、例えば、生体分子−TPB塩を含有する第1の有機溶液を、別の有機溶媒または溶媒混合物を添加する前に特に真空下で蒸発させることによって濃縮してもよい。別の有機溶媒は、好ましくはメタノールまたはメトキシエタノールなどのアルコール、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などのアミド型溶媒、ジクロロメタン(DCM)やクロロホルムなどのハロカーボン、酢酸エチル(AcOEt)や酢酸イソプロピル(AcOiPr)などのエステル、およびジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、MTBEなどのエーテル;ピリジン、アセトニトリル、またはそれらの混合物から選択される少なくとも1つの成分を含むことが好ましい。より好ましくは、別の有機溶媒は、メタノール、メトキシエタノール、N,N−ジメチルアセトアミド(DMA)、N−メチルピロリドン(NMP)、およびN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)から選択される。メタノールまたはメトキシエタノールを用いることで、良好な結果が得られる。
【0052】
本発明による方法の第3の実施形態の第1の有利な態様において、生体分子−TPB塩を単離することなく、得られた第2の有機溶液をその後の反応ステップにかける。
【0053】
本発明による方法の第3の実施形態の第2の有利な態様において、生体分子−TPB塩は、上述されたように、沈殿または結晶化によって第2の有機溶液から固体の生体分子−TPB塩として分離される。沈殿または結晶化は、生体分子−TPB塩を含有する第2の有機溶液を水溶液に添加することによって行うことができる。あるいは、水溶液を前記第2の有機溶液に添加することによって、沈殿または結晶化を行うこともできる。沈殿または結晶化した生体分子−TPB塩を、上述されたようにさらに処理することができる。
【0054】
本発明による方法の第3の実施形態の第3の有利な態様において、生体分子−TPB塩を含有する第2の有機溶液を、さらに濃縮ステップにかける。濃縮ステップは、真空下で蒸発させることによって実施される場合が多い。
【0055】
本発明による方法の第4の実施形態において、例えば上記の第1または第2の実施形態において記載されるように得ることができる生体分子−TPB塩を含有する第1の有機溶液を、例えば本明細書に前述されたように濃縮ステップにかけて、生体分子−TPB塩を含有する濃縮された有機溶液を生じる。
【0056】
生体分子−TPB塩は、第3および第4の実施形態において記載されたように得ることができる濃縮された有機溶液から、上述されたように、例えば沈殿または結晶化によって分離することができる。沈殿または結晶化は、生体分子−TPB塩を含有する濃縮された有機溶液を水溶液に注ぎ込むことによって行うことができる。あるいは、水溶液を前記濃縮された有機溶液に添加することによって、沈殿または結晶化を行うこともできる。沈殿または結晶化した生体分子−TPB塩を、上述されたようにさらに処理することができる。
【0057】
得られた生体分子−TPB塩を含有する濃縮された有機溶液は、その後の反応ステップに直接使用することができる。場合によっては、前記濃縮された有機溶液を本明細書に前述された別の有機溶媒で希釈し、次いでその後の反応ステップにかけることができる。
【0058】
本発明による方法の様々な実施形態は、好ましくは少なくとも1つのカチオン基を含むペプチドまたはその誘導体、さらに具体的にはグアニジン基またはアミノ基を含むペプチドまたはペプチド誘導体からなる群から選択される生体分子に適用することができる。グアニジン基またはアミノ基を含むペプチドまたはペプチド誘導体の典型的な例は、アルギニン(Arg)、ホモアルギニン(homo Arg)、およびリシン(Lys)から選択される少なくとも1つのアミノ酸を含むペプチドである。
【0059】
したがって、本発明は、別の特定の態様において、カチオン基を含む1個または複数のアミノ酸単位を含むペプチドまたはその誘導体の製造方法であって、
(a)有機溶液中で、第1のアミノ酸または第1のペプチドを第2のアミノ酸または第2のペプチドとカップリングさせて、カチオン基を含むペプチドを生じるステップであって、第1および/または第2のアミノ酸またはペプチドはカチオン基を含むステップと、
(b)カップリングステップの終了後に、TPB塩を添加するステップと、
(c)本明細書に前述されたように、カチオン基を含むペプチドまたはその誘導体を水溶液または有機溶液から分離するステップと
を含む方法に関する。
【0060】
本発明による方法は、ペプチド中のカチオン基の数が、2から20、好ましくは3から15である場合特に有利である。
【0061】
本発明の方法は、カップリングステップで、アミノ酸ArgまたはHarを含むペプチドが関与するとき特に有益である。驚くべきことに、ステップ(b)および(c)においてテトラフェニルホウ酸塩の場合、ArgまたはHarの側鎖に対して保護基の使用を省略できることがわかった。本発明によるペプチド製造方法は、オミガナン(Omiganan)(配列番号1)またはエプチフィバチド(Eptifibatide)(配列番号5)の製造に適用できることが有利である。
【0062】
本発明のペプチド製造方法のステップ(a)において、関与するアミノ酸またはペプチド中間体中の1個または複数のアミノ基に、保護基を一般に使用することができる。
【0063】
例示として、本発明のペプチド製造方法において、以下の保護基を使用することができる。ホルミル、トリフルオロアセチル、フタロイル、4−トルエンスルホニル、ベンゼンスルホニル、2−ニトロフェニルスルフェニルなどのアシル型保護基;置換または非置換のベンジルオキシカルボニル(Z)、p−ブロモベンジルオキシカルボニル、p−メトキシベンジルオキシカルボニル、ベンズヒドリルオキシカルボニル、2−(4−ビフェニリル)プロプ−2−イル−オキシカルボニル、2−(3,5−ジメチルオキシフェニル)プロプ−2−イル−オキシカルボニル、トリフェニルホスホノエチルオキシカルボニルなどの芳香族ウレタン型保護基;脂肪族ウレタン型保護基、特にtert−ブチルオキシカルボニル(BOC)、ジイソプロピルメトキシカルボニル、イソプロピルオキシカルボニル、エトキシカルボニル、アリルオキシカルボニル、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)、2−メチルスルホニルエチルオキシカルボニル、および2,2,3−トリクロロエチルオキシカルボニル;
シクロペンチルオキシカルボニル、アダマンチルオキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニル、tert−アミルオキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニルなどのシクロアルキルウレタン型保護基;チオウレタン型保護基、特にフェニルチオカルボニル;特にトリフェニルメチル(トリチル)などのアルキル型保護基;ならびに例えばtert−ブチル−ジメチルシリルなどのベンジルトリアルキルシラン基;ならびに例えばメチルエステル、エチルエステル、tert−ブチルエステルなどのアルコキシ基、ベンジルエステルおよびp−ニトロベンジルエステル。
【0064】
本発明のペプチド製造方法において、第1のアミノ酸またはペプチドは、一般に活性化カルボキシル基を有する。本発明の方法において、様々な活性化基、例えばN,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミド(EDC)、ピバロイルクロリド(PivCl)、i−ブチルクロロホルメート(IBCF)に由来する基を使用してもよい。これらの活性化基に加えて、添加剤を有利に使用することがある。好ましい添加剤は、N−ヒドロキシスクシンイミド(Suc−OH)、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、または3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ−1,2,3−ベンゾトリアジン(HOOBt)である。
【0065】
本発明によるペプチド製造方法の別の特定の態様は、カップリングステップが完了した後、有機溶媒中の前記ペプチドを製造するための合成溶液に水溶液を添加することによって、少なくとも1つのカチオン基を含むペプチドまたはその誘導体の水溶液または有機溶液が得られる方法に関する。
【0066】
一般に、ペプチドカップリングステップ後の合成溶液は、塩基を含有してもしなくてもよい。その結果、その後のステップは、塩基が存在するか否かに依存することがある。
【0067】
合成溶液中に塩基が存在しない本発明によるペプチド製造方法の第1の実施形態において、合成溶液を酸の水溶液、例えば塩酸で希釈することが好ましい。好ましくは、次いで、溶液を有機溶媒またはその混合物で洗浄する。有機溶媒は、好ましくは水と混じり合わない化合物から選択される。このような適切な有機溶媒の非限定的な例は、ジクロロメタン(DCM)やクロロホルムなどのハロカーボン、酢酸エチル(AcOEt)や酢酸イソプロピル(AcOiPr)などのエステル、およびジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、MTBEなどのエーテルから選択される。いくつかの異なる溶媒を使用してもよい。ジクロロメタン、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、ジイソプロピルエーテル、およびMTBEの単独または組合せの使用が、特に有利である。洗浄ステップによって、有機相と一緒に、反応媒体中で使用される有機溶媒(例えば、DMF、DMA、NMP)、反応物質(例えば、HOBt、HOOBt)、および/または出発アミノ酸もしくはペプチドの除去が可能になる。
【0068】
本発明のこの実施形態において、少なくとも1つのカチオン基を含むペプチドまたはその誘導体は水溶液中に存在し、水溶液へのTPB塩の添加およびペプチドまたはその誘導体のテトラフェニルホウ酸(TPB)塩の回収は、上述されたように、特に本発明による方法の第1の実施形態に記載されたように、本発明による方法に従って実施することができる。
【0069】
合成溶液中に塩基が存在する本発明によるペプチド製造方法の第2の実施形態において、合成溶液を上述された希釈溶媒で希釈することが好ましい。第2のステップにおいて、有機溶媒を含む有機溶液(有機相)を酸の水溶液に洗浄できることは有利である。この洗浄ステップは、特に出発化合物がArg、ならびにTPBとの塩を形成することができる特定の塩基性添加剤(例えば、TEA、DIPEA)および反応物質(例えば、EDU)を含有するとき、出発化合物の水相を介した除去を可能にする。
【0070】
本発明のこの実施形態において、少なくとも1つのカチオン基を含むペプチドまたはその誘導体は有機溶液中に存在し、有機溶液へのTPB塩の添加およびペプチドまたはその誘導体のテトラフェニルホウ酸(TPB)塩の回収は、上記の様々な実施形態に記載されたように、本発明の方法に従って実現することができる。
【0071】
オミガナン(Omiganan)(配列番号1)の合成の枠組みにおいて特に適切である特定の一実施形態において、本発明によるペプチド合成方法は、Arg含有ペプチドのテトラフェニルホウ酸塩を形成するステップを含む。典型的には、前記Arg含有ペプチドのテトラフェニルホウ酸塩は、通常本発明による方法に従ってカップリングステップによって得られるArg含有ペプチドを含有するカップリングステップ反応媒体を、テトラフェニルホウ酸アニオンの供給源と接触させることによって形成される。テトラフェニルホウ酸塩は、テトラフェニルホウ酸アニオンの供給源として適切である。
【0072】
したがって、好ましくは少なくとも1つのカップリングステップの完了後に添加されるテトラフェニルホウ酸塩(TPB)の存在下で、少なくとも1ステップを行うことが好ましい。
【0073】
テトラフェニルホウ酸(TPB)塩のカチオンは、無機または有機とすることができる。有機イオンの例は、テトラエチルアンモニウム、ジイソプロピルエチルアンモニウム、N−エチルピペリジニウム、N−メチルモルホリニウム、N−エチルモルホリニウムである。適切な無機イオンは、例えばナトリウム(Na)またはリチウム(Li)である。最も好ましくは、水溶液を生成することができるテトラフェニルホウ酸塩が使用される。LiTPBおよびNaTPBが好ましい。最も好ましく使用されるテトラフェニルホウ酸塩はNaTPBである。
【0074】
TPBアニオンは、そのベンゼン環上で置換されていてもよく、または置換なしに使用することができる。好ましくは、TPBアニオンは置換されていない。適切な置換TPBアニオンの例としては、例えばテトラキス(3,5−ビストリフルオロメチルフェニル)ボレートが挙げられる。
【0075】
テトラフェニルホウ酸塩の使用量は、広い制限内で異なり得る。好ましくは、Arg含有ペプチド中の1Arg単位当たり1から10当量、好ましくは1から1.5当量のテトラフェニルホウ酸塩が使用される。
【0076】
テトラフェニルホウ酸塩は、好ましくは本発明の方法において少なくとも1つのカップリングステップの完了後のワークアップ時に、溶媒または溶媒の混合物の存在下で使用される。適切な溶媒は、特にメタノール、メトキシエタノール、ジクロロメタン、n−ブタノール、iso−ブタノール、sec−ブタノール、およびtert−ブタノールである。メトキシエタノールを使用して、良好な結果が得られた。
【0077】
この実施形態において、前記Arg含有ペプチドのテトラフェニルホウ酸塩を、単離することなく少なくとも1つのその後の合成ステップにかけることができることは有利である。しばしば、前記Arg含有ペプチドのテトラフェニルホウ酸塩を少なくとも脱保護ステップと、続いてカップリングステップにかける。
【0078】
本発明はまた、少なくとも1つのカチオン基を含む固体の生体分子−TPB塩にも関する。特に本明細書に記載されるペプチド、さらに具体的にはArgまたはHar含有ペプチドは、本発明による固体の生体分子−TPB塩中の好ましい生体分子であり、とりわけ本発明の方法に従って得てもよい。
【0079】
驚くべきことに、固体の生体分子−TPB塩は、貯蔵されたとき実質的に安定であることがわかった。
【0080】
「実質的に安定」は、貯蔵前後の生体分子−TPB塩の生体分子含有量を比較した場合に、貯蔵後に見出される生体分子−TPB塩含有量が、貯蔵前の生体分子含有量の少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%であるという事実を特に表すものとして理解される。
【0081】
したがって、本発明はまた、本発明による固体の生体分子−TPB塩を貯蔵する方法にも関する。
【0082】
固体の生体分子−TPB塩は、一般に25℃以下、より好ましくは22℃以下、さらにより好ましくは20℃以下の温度で貯蔵される。固体の生体分子−TPB塩は、一般に−90℃以上、しばしば−80℃以上の温度で貯蔵される。好ましくは、−20℃以上、より好ましくは0℃以上の温度で貯蔵される。
【0083】
本発明による固体の生体分子−TPB塩の使用によって、比較的低いエネルギー消費で長期貯蔵が可能になることが明らかになった。
【0084】
本発明による固体の生体分子−TPB塩は、しばしば24時間を超える、例えば1週間を超える期間貯蔵される。安定性を、1年以上にも及ぶ期間観察してもよい。しばしば、貯蔵期間は6か月を超えない。
【0085】
本発明はまた、生体分子合成における中間体の供給源としての固体の生体分子−TPB塩の使用にも関する。本発明による使用は、好ましくはカップリング、脱保護、または精製ステップにおいて使用することができるペプチド断片に適用される。
【0086】
本発明は、少なくとも1つのカチオン基を含む生体分子の塩の製造方法であって、(a)生体分子のTPB塩の溶液を準備するステップと、(b)前記溶液と対イオン塩を、テトラフェニルホウ酸アニオンが対イオンに対して交換されるように接触させるステップであって、そのカチオンは、テトラフェニルボレートと、溶液において生体分子のTPB塩より溶解度が低い塩を形成するステップと、(c)生体分子の対イオン塩を溶液から場合によっては回収するステップとを含む方法にも関する。
【0087】
一実施形態において、イオン交換は、溶液に対イオン塩を添加することによって実現することができ、そのカチオンは、テトラフェニルホウ酸イオンと塩を形成する。一般に、カチオンおよび溶媒は、溶液を対イオン塩と接触させると、カチオンTPB塩が溶液から沈殿するように選択される。適切な対イオン塩は、一般に、カリウム塩、例えば塩化カリウムおよび酢酸カリウム、好ましくは第四級アンモニウム塩、例えば酢酸テトラアルキルアンモニウムおよび塩化アンモニウムから選択される。塩化ベンジルトリメチルアンモニウムなどの塩化テトラアルキルアンモニウムは、良好な結果を生じる。本発明のこの特定の実施形態において、生体分子−TPB塩を、一般に有機溶媒に溶解する。有機溶媒は、好ましくはメタノールまたはエタノールなどのアルコールから選択される。メタノールが最も好ましいアルコールである。第四級アンモニウムカチオン、例えばベンジルトリメチルアンモニウムカチオンから選択されるカチオンとアルコールの組合せが、特に好ましい。
【0088】
この実施形態において使用される対イオン塩/TPBアニオンのモル比は、一般に約1、好ましくは1から1.1である。
【0089】
別の実施形態において、イオン交換は、イオン交換樹脂を使用することによって実施される。この実施形態において、交換は、好ましくは交換樹脂が入っているカラムに生体分子−TPB塩溶液を通すことによって行われる。交換樹脂の適切な例は、上述された固定化アミノカチオン基、特に第四級(アンモニウム)基を所望の対イオン、特にアセテートまたはクロリドと共に含む。適切なイオン交換樹脂の具体例は、Rohm and HaasからIRA 958という名称で市販されている。交換樹脂は、好ましくはメタノール、エタノールなどのアルコールから選択される有機溶媒で場合によっては洗浄することができる。メタノールが最も好ましいアルコールである。
【0090】
以下の実施例は、本発明を例示するよう意図されているが、その範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0091】
記載される比は体積比を指す。他に何も記載されていない場合、化合物の純度は98重量%より高く、記載される比は体積比を指す。iso−ブタノールが使用された場合には、sec−ブタノールも同様に使用することができる。
【0092】
これらの実施例において、および本明細書全体を通して、使用される略語は以下の通り定義される。Bocはt−ブトキシカルボニルであり、n−BuOHはn−ブタノールであり、DCMはジクロロメタンであり、DIPEAはN,N−ジイソプロピルエチルアミンであり、DMFはN,N−ジメチルホルムアミドであり、DMAはN,N−ジメチルアセトアミドであり、Fmocはフルオレニルメチルオキシカルボニルであり、HBTUはN,N,N’,N’−テトラメチル−O−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)ウロニウム−ヘキサフルオロルホスフェート)であり、HOBtは1−ヒドロキシベンゾトリアゾールであり、HOOBTは3,4−ジヒドロ−3−ヒドロキシ−4−オキソ−1,2,3−ベンゾトリアジンであり、EDCはN,N−ジメチルアミノプロピルカルボジイミドであり、DCCはジシクロヘキシルカルボジイミドであり、i−BuOHはiso−ブタノールであり、IPEはジイソプロピルエーテルであり、MeCNはアセトニトリルであり、MeOHはメタノールであり、NMMはN−メチルモルホリンであり、NMPは1−メチル−2−ピロリドンであり、THFはテトラヒドロフランであり、pNAはp−ニトロアニリンアミドであり、Tosはトシルであり、MTBEはメチル−tert−ブチルエーテルである。
【0093】
実施例1:HCl.H−Arg−Lys(Boc)−NHの合成
1.02当量のZ−Arg−OH.HCl(Mw=344.8)をDMAとCHCl(6/4)の混合物に室温で添加した。その後、1.03当量のHOBt(N−ヒドロキシベンゾトリアゾール、Mw=135.12)および1.00当量のH−Lys(Boc)−NH(Mw=245.3;純度:99%)を添加した。溶液を0±5℃に冷却した後、1.03当量のEDC.HCl(Mw=191.7)を添加した。
【0094】
0±5℃でさらに30分間、次いで室温で少なくとも2時間撹拌を続けた。HPLCで反応の完了を確認した後、反応混合物をCHCl/iso−BuOH(6/4)の混合物で希釈し、0.5当量のHCl溶液で抽出した。酸性の水相をCHCl/iso−BuOH(6/4)の混合物で2回抽出した。有機相を合わせて、まず1.05当量のテトラフェニルホウ酸ナトリウム(TPBNa)(Mw=342g)を含有する5%(重量)のNaCO水溶液で洗浄し、次いで5%(重量)のNaCl水溶液で4回洗浄した。
【0095】
有機相を真空中で濃縮した後、濃縮物に、メトキシエタノールを数回に小分けして添加して、微量のiso−ブタノールを除去した。次いで、さらに蒸発させた。次いで、濃縮物を最後にメトキシエタノールで希釈し、5%(重量)の冷(0から5℃)NaCl水溶液にゆっくりと添加した。ペプチドが沈殿し、それを低温で少なくとも30分間維持し、次いで濾過した。
【0096】
固体を冷(0±5℃)脱塩水で3回洗浄した。その後、固体をMeOHに再溶解し、わずかに濁った溶液が得られるまで撹拌した。溶液を部分濃縮し、次いで冷却した5%(重量)のNaCl水溶液に、メタノール性溶液をゆっくりと添加した。濾別する前に、沈殿物を低温で少なくとも30分間維持した。最後に、固体を冷脱塩水(0℃±5℃)で3回洗浄し、真空乾燥した(45℃)。灰色がかった白色固体が最終的に得られた。内容物のNMR測定に基づく収率は、89%であった。
【0097】
HCl.H−Arg−Lys(Boc)−NHの合成
1.00当量のTPB.Z−Arg−Lys(Boc)−NH(Mw=535.6;純度=62.0%)のメタノール溶液を、メタノールで洗浄した樹脂IRA 958(Mw=1000;3.00当量)が入っているカラムに数回通した。HPLCで交換を確認した後、樹脂を濾過し、メタノールで3回洗浄した。有機相を合わせて、真空中で部分濃縮した。濃縮された溶液を水で希釈した。
【0098】
Pd触媒(Mw=106.4;2重量%)を添加し、次いで懸濁液を35±5℃で少なくとも5時間水素化した。触媒を濾別し、メタノール/水の混合物で2回洗浄した。濾液を真空中で蒸発させ、残渣をDMAに懸濁し、微量の水をなくすために真空中で部分蒸発させた。含水率を確認した後、最終溶液をHCl(0.1N)で滴定し、その後精製することなく使用した。
【0099】
収率(滴定に基づく):90%。
【0100】
実施例2:2HCl.H−Trp−Arg−Arg−Lys(Boc)−NH(配列番号2)の合成
Z−Trp−Arg−Arg−Lys(Boc)−NH.2TPB(配列番号2)の合成
1.00当量のZ−Trp−Arg−OH(Mw=494.5;純度=85.0%)および1.10当量のHOOBt(Mw=163.13)を、CHClで予め希釈しておいた1.15当量のHCl.H−Arg−Lys(Boc)−NH(Mw=437.5;純度=20.0%)のDMA溶液に添加した。溶液を−5±5℃に冷却した後、1.00当量のHCl/ジオキサン(4N)をゆっくりと注ぎ入れ、次いで1.10当量のEDC(Mw=191.7)を添加した。反応混合物を−5±5℃で少なくとも3時間撹拌し、次いで5±5℃で少なくとも8時間撹拌した。HPLCで反応の完了を確認した後、反応混合物をCHCl/sec−ブタノール(6/4)の混合物で希釈し、まずHCl(0.5当量)を含有する5%(重量)のNaCl水溶液、次いで2.2当量のNaTPB(Mw=342)を含有する5%(重量)のNaCO水溶液1900ml、最後に5%(重量)のNaCl水溶液で5回洗浄した。有機層を濃縮した後、残渣をメタノールに溶解し、次いで残留しているCHClの大部分をなくすために真空中で濃縮した。この最終溶液をNMRで滴定し、その後精製することなく使用した。
【0101】
収率(滴定含量に基づく)=83%。
【0102】
2HCl.H−Trp−Arg−Arg−Lys(Boc)−NH(配列番号2)の合成
1.00当量の2TPB.Z−Trp−Arg−Arg−Lys(Boc)−NH(Mw=878.11)のメタノール溶液を、6.00当量のメタノールで洗浄した樹脂IRA 958(Mw=1000)が入っているカラムに数回通した。HPLCで交換を確認した後、樹脂を濾過し、メタノールで3回洗浄した。有機相を合わせて、真空中で部分濃縮した。濃縮された溶液を水で希釈し、Pd触媒を添加した。次いで、懸濁液を35±5℃で少なくとも3時間水素化した。触媒を濾別し、メタノールで2回洗浄した。濾液を真空中で蒸発させ、残渣をDMAに溶解し、残留している水をなくすためにさらに濃縮した。含水率を確認した後、沈殿物をDMAに溶解し、溶液の重量を適合させるために真空中で部分蒸発させた。最終溶液を0.1N HClで滴定し、その後精製することなく使用した。
【0103】
収率(滴定に基づく):95%。
【0104】
実施例3:2HCl.H−Trp−Trp−Pro−Trp−Arg−Arg−Lys(Boc)−NH(配列番号3)の合成
Z−Trp−Trp−Pro−Trp−Arg−Arg−Lys(Boc)−NH.2TPB(配列番号3)の合成
1.00当量のZ−Trp−Trp−Pro−OH(Mw=621.7;純度=94.0%)を、CHClで予め希釈した1.05当量の2HCl.HTrp−Arg−Arg−Lys(Boc)−NH(Mw=816.9;純度=15.0%)のDMA溶液に添加した。次いで、1.20当量のN,N’−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(Mw=129.2)および1.05当量の2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート)(HBTU)(Mw=379.24)を添加した。反応混合物を室温で少なくとも1時間撹拌した。HPLCで反応の完了を確認した後、反応混合物をCHCl/iso−ブタノール(8/2)の混合物で希釈し、まず5%(重量)のNaCl水溶液およびHCl(1.5当量)、次いで5%(重量)のNaCO水溶液および2.2当量のNaTPB(Mw=342g/mol)、最後に5%(重量)のNaCl水溶液で3回洗浄した。有機層を濃縮した後、残留油をメトキシエタノールに数回溶解し、次いで残留しているiso−ブタノールの大部分をなくすために真空中で濃縮した。GC制御した後、濃縮物を、5%(重量)の冷(0±5℃)NaCl水溶液にゆっくりと注ぎ込むことによって沈殿させた。少なくとも1時間撹拌した後、懸濁液を濾過し、冷水で2回洗浄した。沈殿物を真空中、45℃で乾燥した。白色固体が、最終的に得られた。
【0105】
収率(NMR含有量に基づく)=98%。
【0106】
2HCl.H−Trp−Trp−Pro−Trp−Arg−Arg−Lys(Boc)−NH(配列番号3)の合成
1.00当量の2TPB.Z−TrpTrp−Pro−Trp−Arg−Arg−Lys(Boc)−NH(配列番号3)(Mw=1347.5;純度=64.0%)のメタノール溶液を、メタノールで洗浄した樹脂IRA 958(またはAmberjet Cl 1000;6.00当量)が入っているカラムに数回通した。HPLCで交換を確認した後、樹脂を濾過し、3回洗浄した。有機相を合わせて、真空中で部分濃縮し、次いで水で希釈した。最後に、2%(重量)のPd触媒を添加し、懸濁液を40℃で少なくとも3時間水素化した。触媒を濾別し、メタノール/水の混合物で3回洗浄した。濾液を合わせて、真空中で蒸発させ、残渣をDMAに懸濁し、残留している水をなくすためにさらに濃縮した。含水率を確認した後、溶液をHCl(0.1N)、AgNO(0.1N)、またはNMRで滴定し、その後精製することなく使用した。
【0107】
収率(滴定に基づく)=82%。
【0108】
実施例4:Z−Arg−Trp−Pro−Trp−Trp−Pro−Trp−Arg−Arg−Lys(Boc)−NH.3TPB(配列番号4)の合成
1.00当量のZ−Arg−Trp−Pro−OH(Mw=591.65;純度=96.0%)、1.00当量のHCl/ジオキサン(4N)、および1.05当量のHOBt(Mw=135.12;純度=98.0%)を、CHClで希釈したDMAに溶かした1.00当量の2HCl.H−Trp−Trp−Pro−Trp−Arg−Arg−Lys(Boc)−NH(配列番号3)(Mw=1213.4;純度=85.0%)に添加した。溶液を10±5℃に冷却した後、1.02当量のEDC(Mw=191.7)を添加した。反応混合物を10±5℃で30分間撹拌し、次いで室温で少なくとも4時間撹拌した。HPLCで反応の完了を確認した後、反応混合物をCHCl/iso−ブタノール(8/3)の混合物で希釈し、まずHCl(0.5当量)を含む5%(重量)のNaCl水溶液、次いで3当量のNaTPB(Mw=342)を含有する5%(重量)のNaCO水溶液、最後に5%(重量)のNaCl水溶液で2回洗浄した。有機層を濃縮した後、残留油をメトキシエタノールに数回溶解し、次いでiso−ブタノールの大部分をなくすために真空中で濃縮した。GC制御した後、濃縮物を、5%(重量)の冷NaCl水溶液にゆっくり注ぎ込むことによって沈殿させた。少なくとも1時間撹拌した後、懸濁液を濾過し、冷水で2回洗浄した。沈殿物を40±5℃で乾燥した。灰色がかった白色固体が、最終的に得られた。
【0109】
収率(NMR含有量に基づく)=87%。
【0110】
1.00当量の3TPB.Z−Arg−Trp−Pro−TrpTrp−Pro−Trp−Arg−Arg−Lys(Boc)−NH(Mw=1787.1;純度=57.0%)のメタノール溶液を、メタノールで洗浄した樹脂IRA 958(Mw=1000、9.00当量)が入っているカラムに数回通した。HPLCで交換を確認した後、樹脂を濾過し、メタノールで3回洗浄した。有機相を合わせて、真空中で部分濃縮した。次いで、濃縮された溶液を水で希釈し、Pd触媒を添加した。次いで、懸濁液を35±5℃で少なくとも6時間水素化した。触媒を濾別し、メタノール/水の混合物で3回洗浄した。濾液を合わせて、真空中で蒸発させ、残渣をDMAに懸濁し、残留している水をなくすためにさらに濃縮した。含水率を確認した後、溶液をHCl(0.1N)またはNMRで滴定し、その後精製することなく使用した。
【0111】
収率(NMR含有量測定に基づく):93%。
【0112】
実施例5:Z−(D)Arg−Gly−Arg−pNA.2HClの合成
Z−(D)Arg−Gly−Arg−pNA.2HClの合成
7.7gのZ−(D)ArgOH(25mmol)および13.8gの2HCl.H−Gly−ArgpNAを、室温で約100mlのDMAに完全に溶解するまで分散した。次いで、混合物を0℃に冷却し、DIPEA(N,N’−ジイソプロピルエチルアミン)を添加して、過剰のHClを中和し、続いて3.6gのHOBt(26.13mmol)および5.7gのDCC(27.5mmol)を添加した。溶液を、25±5℃に状態調節する前に、0℃で少なくとも1時間撹拌させておいた。反応が完了したとみなされたとき(続いてHPLCを行い)、粗生成物を真空中で濃縮し、次いで濃縮物を水で希釈して、DCUを沈殿させ、次いで濾過によって除去し、水で洗浄した。水溶液をDCMで数回洗浄して、DMA(ジメチルアセトアミド)およびHOBtを除去した。NaHCO水溶液の添加を制御することによって、pHを6.5〜7.5に調整しながら、2当量のTPBNaおよび500mlのDCMを水溶液に注ぎ込んだ。1時間混合した後、水相を廃棄し、有機相をNaCl水溶液で数回、最後に水で洗浄した。溶媒を真空下で除去し、MeOHで置換した。
【0113】
Z−(D)Arg−Gly−Arg−pNA.2TPBの単離
次いで、Z−(D)Arg−Gly−Arg−pNA.2TPBのメタノール性溶液を、5%のNaCl水溶液に0±5℃で注ぎ込んで、Z−(D)Arg−Gly−Arg−pNA.2TPBを沈殿させた。濾過し、水で洗浄し、真空下で乾燥した後、Z−(D)Arg−Gly−Arg−pNA.2TPBが白色固体として得られた。
【0114】
Z−(D)Arg−Gly−Arg−pNAの二塩酸塩(bischlorhydrate salt)の単離
TPB塩をメタノールに溶解し、溶液を、メタノールで洗浄した樹脂IRA 958が入っているカラムに数回通した。HPLCで交換を確認した後、樹脂をメタノールで数回洗浄した。濃縮された濾液を合わせて、真空下で濃縮し、得られた固体をHPLCで精製し、最後に凍結乾燥して、Z−(D)Arg−Gly−Arg−pNAをその二塩酸塩として得た。
【0115】
実施例6:Ac−(D)Arg−Gly−Arg−pNA.2HClの合成
精製Ac−(D)Arg−Gly−Arg−pNA.2TPBの単離
水/アセトニトリル(31l)中Ac−(D)Arg−Gly−Arp−pNA.2TFA溶液のpHは、NaHCO水溶液を添加することによって7±0.5に調整した。アセトニトリル部分を真空中で蒸発させた(必要なら水を添加することによって、溶液の体積を維持した)。1kgのTPBNaおよび1.1kgのNaHCOを水(約20l)に溶解した。次いで、濃縮されたペプチド溶液を、TPBNa/NaHCO水溶液に徐々に注ぎ込んだ。Ac−(D)Arg−Gly−Arg−pNA.2TPBが沈殿した。濾過し、水(40l)で洗浄し、真空下で乾燥した(45℃)後、1.6kgのAc−(D)Arg−Gly−Arg−pNA.2TPBが得られた。
【0116】
精製Ac−(D)Arg−Gly−Arg−pNA.2HClの単離
TPB塩をメタノール(20l)に溶解し、メタノールで洗浄した樹脂IRA 958(樹脂7.6kg)が入っているカラムに数回通した。HPLCで交換を確認した後、樹脂をメタノール(各回11l)で数回洗浄した。濃縮された濾液を合わせて、冷却した(−5℃±5℃)アセトニトリル(44l)中で沈殿させた。アセトニトリル(12l)で洗浄し、真空下で乾燥した後、沈殿物が、灰色がかった白色固体0.8kgをもたらした。必要なら、Ac−(D)Arg−Gly−Arg−pNA.2HClを2回沈殿させることができる。
【0117】
実施例7:Mpr()−Har−Gly−Asp(OtBu)−Trp−Pro−Cys()−NH(配列番号5)の合成
(*)は、メルカプトプロピオン酸とシステインアミドの間のジスルフィド架橋を示す。
46.6gのMpr(Trt)−Har−Gly−Asp(OtBu)−Trp−Pro−Cys(Trt)−NH(配列番号5)(Mw=1374.8g/mol、20mmol=1.00当量)のメタノール溶液550mlを、130gの洗浄した樹脂IRA 958(Mw=1000g/mol;6.72当量)で処理した。HPLCで交換を確認した後、樹脂を濾過し、340mlのメタノールで数回洗浄した。有機相を合わせて、1500mlのメタノール、5400mlのジクロロメタン、最後に180mlの水を添加することによって希釈した。希釈した溶液に、24gのヨウ素を添加した。HPLCで環化を確認した後、700mlのNa(3.6重量%)を水溶液中に添加することによって、残留しているヨウ素をクエンチする。次いで、反応混合物を、190mlの樹脂アセテート(Mw=720g/mol;57当量)で中和した。濾過し、樹脂を210mlのメタノールおよび1800mlの水で洗浄した後、有機層を水層から分離した。10000mlのジクロロメタンを添加することによって、ペプチド(配列番号5)を、中和した水層から21gのNaTPB(Mw=342.2g/mol;3当量)で抽出した。有機層の分離および蒸発の後に、残渣をメタノール(900ml)に溶解し、次いで残留しているジクロロメタンの大部分をなくすために真空中で濃縮した。メタノール溶液を2400gの洗浄した樹脂IRA 958(Mw=1000g/mol;12.1当量)に懸濁した。HPLCで交換を確認し、樹脂を洗浄した後、有機相を合わせたところに、240mlの酢酸を添加することによって希釈した。この溶液を分取HPLCでさらに精製した。
【0118】
実施例8:Mpr(Trt)−Har−Gly−Asp(OtBu)−Trp−Pro−Cys(Trt)−NHTPB塩(配列番号5)の貯蔵
本発明による方法に従って沈殿により、固体のMpr(Trt)−Har−Gly−Asp(OtBu)−Trp−Pro−Cys(Trt)−NHTPB塩(配列番号5)を得た。生成物を、20〜25℃の温度で1年を超えて貯蔵した。固体のTPB塩は、貯蔵後も実質的に安定なままであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのカチオン基を含む生体分子を、前記生体分子を含む液体媒体から分離する方法であって、テトラフェニルホウ酸(TPB)塩の使用を含む方法。
【請求項2】
前記生体分子が、ペプチド、ペプチド誘導体、オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド誘導体、および多糖から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
カチオン基が、グアニジン基またはアミノ基から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
テトラフェニルホウ酸塩を液体媒体に添加するステップを含み、前記液体媒体は、前記生体分子の水溶液または前記生体分子の有機溶液である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記液体媒体が水溶液であり、前記生体分子が、沈殿、結晶化、または有機溶媒への抽出によって前記水溶液から分離され、前記抽出は、生体分子のTPB塩の第1の有機溶液を生じさせる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記TPB塩を添加する前に、前記水溶液が、水と実質的に混じり合わず、好ましくはハロカーボン、エステル、およびエーテルから選択される有機洗浄溶媒で洗浄される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記液体媒体が、場合により水溶液で洗浄した後、前記テトラフェニルホウ酸塩が添加され、それによって、生体分子−TPB塩を含有する第1の有機溶液を生じる有機溶液である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
第1の有機溶液を好ましくはアルコール、アミド型溶媒、ハロカーボン、エステル、エーテルから選択される別の有機溶媒で処理することによって、生体分子のTPB塩を含有する第2の有機溶液を準備するステップをさらに含み、前記別の有機溶媒を添加する前に、前記第1の有機溶液が、場合によっては濃縮ステップにかけられる、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記生体分子が、前記第2の有機溶液から固体の生体分子−TPB塩として沈殿または結晶化される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の溶液を、場合によっては例えば濃縮ステップ、場合によっては後続の別の有機溶媒の添加から選択される別の処理の後に、前記生体分子のTPB塩を単離することなくその後の合成ステップにかけるステップを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記テトラフェニルホウ酸塩が、好ましくはNaHCOおよびNaCOから選択されるアルカリ性剤と好ましくは一緒に使用されるNaTPBである、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の分離方法を含む、生体分子の製造方法。
【請求項13】
前記生体分子が、アルギニン、ホモアルギニン、およびリシンから選択される少なくとも1つのアミノ酸を含むペプチドである、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
(a)有機溶液中で、第1のアミノ酸または第1のペプチドを第2のアミノ酸または第2のペプチドとカップリングさせて、カチオン基を含むペプチドを生じさせるステップであって、前記第1および/または第2のアミノ酸またはペプチドがカチオン基を含む、ステップと、
(b)カップリングステップの完了後に、TPB塩を添加するステップと、
(c)カチオン基を含むペプチドまたは誘導体を有機溶液から分離するステップと
を含む、カチオン基を含む1個または複数のアミノ酸単位を含むペプチドまたはその誘導体の製造のための、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つのカチオン基を含む生体分子の固体テトラフェニルホウ酸(TPB)塩。
【請求項16】
生体分子合成における中間体の供給源としての請求項15に記載の塩の使用。
【請求項17】
前記塩がその使用に先立って少なくとも24時間貯蔵される、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
少なくとも1つのカチオン基を含む生体分子の塩の製造方法であって、(a)前記生体分子のTPB塩の溶液を準備するステップと、(b)前記溶液と対イオン塩を、テトラフェニルボレートアニオンが前記対イオンに対して交換されるように接触させるステップであって、そのカチオンが、テトラフェニルボレートと、溶液において前記生体分子のTPB塩より溶解度が低い塩を形成するステップと、(c)場合により、前記生体分子の対イオン塩を前記溶液から回収するステップとを含む、方法。

【公表番号】特表2011−524407(P2011−524407A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−514035(P2011−514035)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057548
【国際公開番号】WO2009/153294
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(591001248)ソルヴェイ(ソシエテ アノニム) (252)
【Fターム(参考)】