説明

TSE感染力の検出

【課題】感染性プリオン材料を同定するための、および感染性材料が処理によって除去されているか否かを決定するための、方法および試薬を提供すること。
【解決手段】本発明は、プリオンタンパク質に感染しているまたは感染している疑いのある試料を検査する方法を提供する。この方法は、該試料中に、プリオンダイマーを含むプリオンタンパク質の存在を検出する工程を含み、該検出工程は、該試料を、プリオンダイマーを含むプリオンタンパク質に結合する抗体でプロービングすることを含み、該抗体が、プリオンモノマーに結合しない。本発明はまた、プリオンダイマーを含むプリオンに結合するがプリオンモノマーに結合しない抗体、その産生を刺激するための抗原、およびその作成方法もまた提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染性因子で汚染され得る材料および装置の滅菌のための、ならびにその因子の検出のための方法および組成物に関する。特に、本発明は、伝染性海綿状脳症(TSE)因子の不活性化および検出のための方法に関し、そして感染した材料上またはその内部に存在するTSEを低下および検出するための組成物を提供する。
【背景技術】
【0002】
伝染性海綿状脳症(TSE)は、ヒトにおけるクロイツフェルトヤコブ病(CJD)およびクールー病、ウシにおけるウシ海綿状脳症(BSE)、ならびにヒツジにおけるスクレイピーを含む、致命的な神経学的疾患の一群である。TSEは、感染した動物の脳組織内の正常な宿主タンパク質の病原性タンパク質への変換によって特徴づけられる。タンパク質の病原性形態は、しばしばプリオンと呼ばれ、そして物理的および化学的分解に非常に抵抗性である。プリオンは、TSE疾患が動物間で伝わる伝染性因子であると考えられる。
【0003】
食肉製品、特に、ウシのTSEの形態であるBSEに潜在的に感染しているビーフ、の消費に関する危険性について、近年、多くの公的な警告がなされている。この関心の多くは、ヒトによって食べられた場合、BSEプリオンが、ある場合には、異型CJD(vCJD)を呼ばれる不治のヒト形態の疾患を引き起こし得るという考えに関連する。BSE感染した屠殺肉と、ヒトの消費が予定されている食肉または牛脂のような他の動物由来の製品との間での交差汚染の危険性を低下させるために、農業および食肉関連産業において厳格な手続が採用されている。しかし、特に、動物が疾患の初期段階であり、したがって感染したTSE宿主として検出できない場合、BSEに感染した動物は、依然として、屠殺場で知らないうちに加工され得る。特に、BSE感染とわかった材料の廃棄において、廃棄操作に使用される用具が、その後、適切な滅菌をすることなく通常の手順で再使用される場合、かなりの危険性がある。
【0004】
TSE感染した組織と潜在的に接触した可能性のある器具および用具の滅菌が、最も重要である。特に、メス、鉗子、および内視鏡のような外科手術用具は、疾患の伝染を回避するために患者に使用する前に徹底的に滅菌するべきである。
【0005】
CJD感染性因子が、偶然に、CJDのヒト患者の脳に挿入された外科的電極で、これまで未感染の2人の別の患者に転移したことが報告されている(Bernouliら (1977) The Lancet i: pp478-479)。関係している電極は、各手順の間にエタノールおよびホルムアルデヒド蒸気で滅菌された。これは、すべての感染性因子をほとんど排除するために十分であるとこれまで考えられている条件であり、そしてなお、CJD感染性因子は、このような苛酷な条件に耐えそしてレシピエントである患者の脳組織に感染することができた。
【0006】
TSE伝染は、代表的には、感染した材料が動物間で転移されるかまたは動物に移植される場合に観察される。既述のように、外科手術用具の不完全または不適切な滅菌は、患者間の感染した材料のこのような転移を導き得る。最も厳格な化学的清浄および蒸気滅菌手順でさえも、特に、鉗子およびクランプの顎部または継目において、外科手術用具からの血液および組織の除去がうまくいかない(Laurenson (1999) The Lancet, 20 11月)。したがって、意図的でないTSE転移の危険性は、必要以上に高いものであり得る。
【0007】
TSE因子、またはプリオンは、タンパク質について通常予測される以上に、変性および分解に非常に抵抗性であることが知られている。Taylor(J. Hosp. Infect. (1999) 43 追補, pp S69-76)は、プリオンタンパク質を不活性化するための多くの方法を概説している。
【0008】
TSEプリオンタンパク質を不活性化するための化学的方法としては、水酸化ナトリウムまたは次亜塩素酸ナトリウム溶液での感染した材料の処理が挙げられるが(Taylorら (1994) Arch. Virol. 139, pp313-326)、プリオンの感染力は、2時間までの2M水酸化ナトリウムへの曝露でも存在することを示している。
【0009】
TSEプリオンを不活性化するための代わりの方法としては、オートクレーブが挙げられるが、これもまた、BSEおよびスクレイピー因子は、134〜138℃での18分間の処理でも生存することを示していた(Taylorら、同上)。したがって、化学的/加熱の組み合わせのアプローチが提案されており、これは、感染した材料を1M水酸化ナトリウムに曝露し、次いで121℃で30〜60分間オートクレーブする(Taylor, J. Hosp. Infect. (1999) 43 追補, pp S69-76)。この組み合わせ方法は、非常に苛酷な条件下で、TSE感染性因子の不活性化が達成され得ることを示している。
【0010】
しかし、プラスチック、ポリマー、および非タンパク質動物誘導体のような多くの材料は、このような極端な条件に曝露されると、それ自体が破壊される。上記の化学的および物理的プロセスは、非常に大きなサイズでなくそして標準的なオートクレーブの中に適合し得る金属用具および外科手術ツールを滅菌するためにのみ実際に適切である。内視鏡のようなより繊細な用具は、高温の極端な条件に曝露すると、その内部の構成成分ヘの永久損傷の危険性が高い。
【0011】
さらに、化学的プロセスは、代表的には、取り扱いおよび廃棄に危険である腐食性物質および/またはカオトロピック剤の使用を含む。したがって、大量の危険な物質を使用するという必要なく、TSEのような因子を不活性化するための方法を提供することが所望され、そしてこの方法は、より大きな対象物および領域ならびにより小さな対象物における使用のために拡張され得る。
【0012】
Taylor(Vet. J. (2000) 159 pp10-17)は、プリオンタンパク質を非活性化するためにタンパク質分解酵素を用いるテストを記載している。トリプシンのようなプロテアーゼは、非変性条件ではほとんど効果がないが(Taylor (2000) p.14)、プロテイナーゼKのような他のプロテアーゼは、消化時間を長くすることによってTSE感染力に対して効果を有し得る。しかし、現在のTSE不活性化方法の大多数は、化学的および物理的分解手順を目指している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の目的は、種々の位置および状況に容易に適用し得る条件下でTSE感染性因子を効果的に不活性化するための方法および手段を提供することである。本発明のさらなる目的は、TSE感染した材料上またはその内部に存在するTSE因子を不活性化するために、非常に高温かつ苛酷な化学的変性剤の極端な条件の必要性を減少させることである。本発明のさらなる目的は、感染性プリオン材料を同定するための、および感染性材料が処理によって除去されているか否かを決定するための、方法および試薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、プリオンタンパク質に感染しているまたは感染している疑いのある試料を検査する方法であって、該試料中に、プリオンダイマーを含むプリオンタンパク質の存在を検出する工程を含み、該検出工程が、該試料を、プリオンダイマーを含むプリオンタンパク質に結合する抗体でプロービングすることを含み、該抗体が、プリオンモノマーに結合しない、方法を提供する。
【0015】
1つの実施態様では、本発明の方法は、前記試料が、プリオンのフラグメントのダイマーを含むプリオンタンパク質を含有しているか否かを決定する工程を含む。
【0016】
1つの実施態様では、本発明の方法は、前記試料を、プリオンダイマーに特異的な抗体でプロービングする工程を含む。
【0017】
1つの実施態様では、本発明の方法は、試料のプリオン感染力を検出するための方法である。
【0018】
本発明は、プリオンダイマーを含むプリオンに結合するがプリオンモノマーに結合しない抗体を提供する。
【0019】
1つの実施態様では、上記抗体は、標識されている。
【0020】
本発明は、上記抗体の産生を刺激するための抗原であって、配列番号1から4のいずれかに記載の配列を有するペプチドを含む、抗原を提供する。
【0021】
1つの実施態様では、本発明の抗原は、配列番号1から4のいずれかに記載の両末端システイン残基の一方がない。
【0022】
1つの実施態様では、前記抗原はキャリアにカップリングされている。
【0023】
さらなる実施態様では、上記キャリアはPPDである。
【0024】
本発明は、上記抗体を作成する方法であって、該抗体が、上記抗原から選択される接種ポリペプチドに結合する、方法を提供する。
【0025】
本発明は、上記抗体を作成する方法であって、該抗体が、プリオンダイマーを含む接種ポリペプチドに結合し、該方法が、プリオンダイマーを結合する抗体を含有する抗体調製物を入手する工程、および該調節物からプリオンモノマーを結合する抗体を除去する工程を含む、方法を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、プリオンタンパク質に感染しているまたは感染している疑いのある試料を検査する方法および手段が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の第一の局面は、TSE因子を熱安定性タンパク質分解酵素に曝露する工程を含む、TSE因子を不活性化する方法を提供する。
【0028】
本発明の方法および組成物は、TSE因子に感染したまたは感染していると思われる装置および材料におけるTSE因子の不活性化に適切である。さらに、本発明の方法および組成物は、感染の明確な認識が不確実である場合、予防的または警戒的態様で適切に使用される。例えば、本発明の方法は、外科手術装置の準備のために使用される標準的な滅菌プロトコルに容易に組込まれて、その装置が外科手術手順に使用され得る。
【0029】
本発明の方法および組成物はまた、潜在的に汚染された臨床廃棄物および廃動物材料におけるTSE因子の不活性化に適切に使用される。現在、この廃棄材料は、1000℃で焼却され、これは特殊な施設を必要としそして高価である。本発明の有利点は、TSE不活性化手順が、非常に特殊な施設を必要としない温度および条件で行われ得ること、ならびにTSE因子の完全な不活性化の予想がより強いエネルギーおよび高価な焼却手順に匹敵することである。
【0030】
用語「伝染性海綿状脳症(TSE)因子」は、病原性プリオンタンパク質媒介物によって明らかに伝染されるすべての神経学的疾患を含むことを意図する。このようなTSEは、代表的には、ヒト疾患のクロイツフェルトヤコブ病(CJD)、異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)、クールー病、致命的家族性不眠症、およびゲルストマン−ストロイスラー−シャインカー症候群が挙げられる。非ヒトTSEとしては、ウシ海綿状脳症(BSE)、スクレイピー、ネコ海綿状脳症、慢性消耗病、および伝染性ミンク脳症が挙げられる。現在vCJDがBSEのヒト形態であると理解される場合、あるTSE因子は種の障壁を交差し得、そして非ウシ起源の新規なTSEが将来明らかになり得ることが明らかである。
【0031】
本発明のタンパク質分解酵素は、代表的にはプロテアーゼであるが、適切には、ポリペプチド鎖の切断を触媒し得る任意の生物学的ポリマー分子であり得る。
【0032】
本発明の特徴は、タンパク質分解酵素が熱安定性酵素であること、すなわち、この酵素が、正常な哺乳動物の体温である37℃を超える温度で、最適な生物学的活性を示すことである。本発明の実施態様では、酵素は、熱安定性かつ生物学的に活性であり、そして不活性化は、40℃に等しいかまたはそれ以上の温度で;好ましくは50℃〜120℃の範囲で;およびより好ましくは温度が55℃と85℃との間で行われる。本発明の特定の実施態様では、温度は約60℃である。さらなる特定の実施態様では、温度は約80℃である。
【0033】
本発明の方法および組成物における使用に適切な熱安定性タンパク質分解酵素は、好熱菌および古細菌のような多くのソースから得られ得る。本発明の1つの実施態様では、熱安定性タンパク質分解酵素は、好熱菌、超好熱菌、および古細菌から単離される。本発明における使用のためのタンパク質分解酵素の抽出に適切な生物としては、Thermotoga maritima;Thermotoga neopolitana;Thermotoga thermarum;Fervidobacterium islandicum;Fervidobacterium nodosum;Fervidobacterium pennivorans;Thermosipho africanus;Aeropyrum pernix;Thermus flavus;pyrococcus spp.;Sulfolobus solfataricus;Desulfurococcus;Bacillus thermoproteolyticus;Bacillus stearo-thermophilus;Bacillus sp. 11231;Bacillus sp. 11276;Bacillus sp. 11652;Bacillus sp. 12031;Thermus aquaticus;Thermus caldophilus;Thermus sp. 16132;Thermus sp. 15673;およびThermus sp. Rt41Aが挙げられる。
【0034】
上記の生物は、熱安定性プロテアーゼの唯一のソースではない。実際に、本当に好熱性とは考えられないいくつかの生物も、熱安定性タンパク質分解酵素を発現し得る。このような生物は、高温の条件で生存することを選択しないが、限定された期間は高温に抵抗し得る点で、通常、耐熱性と呼ばれる。多くのBacillus種は、耐熱性のカテゴリーに入り、そして熱安定性サブチリシン型プロテアーゼを産生することが知られている。
【0035】
不活性化が行われるpHは、酸性からアルカリ性の範囲であり得るが、代表的には、pH8〜13の領域、好ましくは9以上のpH、およびより好ましくは約pH12である。同様に、熱安定性プロテアーゼは、酸性からアルカリ性のpH範囲で活性であるが、代表的には、pH8〜13の領域、好ましくは9以上のpH、およびより好ましくは約pH12で最適に活性である。
【0036】
本発明の実施例において、タンパク質分解酵素は、使用する場合、好熱菌または古細菌の培養物から抽出される。培養物は、生物に最適な条件下で、代表的にはバイオリアクター内で、適切に維持される。したがって、生物の継続的なソースが維持され得、必要なときにいつでもタンパク質分解酵素を得ることができる。
【0037】
あるいは、以下により詳細に記載する本発明の実施例において使用する場合、熱安定性タンパク質分解酵素をコードする遺伝子が、ソース生物、Bacillus thermoproteolyticusから単離される。この遺伝子は、組換え体発現構築物、代表的にはプラスミドを生成するために使用され、これは、宿主生物、Escherichia coliに形質転換される。形質転換したE.coliは、バイオリアクター中で増殖され、そして適切な細胞密度になった場合、プラスミド構築物の発現が開始され、そして標準的な方法を用いてタンパク質分解酵素を採取する。組換え体発現経路は、元のソース生物に必要とされるよりも極端ではない条件下でタンパク質分解酵素産物を産生することを可能にする。
【0038】
組換え体経路は、熱安定性または生物学的活性を増加させるためにあるいはいくつかの他の目的のために、組換え熱安定性プロテアーゼ遺伝子の遺伝子操作を可能にする点で、さらに有利である。したがって、熱安定性タンパク質分解酵素の活性は、本発明の方法および組成物における使用のために容易に最適化され得る。
【0039】
本発明の第2の局面は、熱安定性タンパク質分解酵素を含む溶液に装置を曝露する工程を含む、装置を滅菌する方法を提供する。
【0040】
用語「滅菌する」とは、生存している生物が1個の用具または溶液のような基材から除去されるまたはそこで殺される手順を意味することが通常理解される。本発明の場合、TSE因子、すなわちプリオンは、明らかに何ら遺伝子材料を含まないので、細菌またはウイルスが生物であるという意味では、技術的には生存している生物であるとは見なされない。しかし、動物間のTSE病原性因子の伝染は、疾患を生じる。したがって、本明細書において使用する場合、用語「滅菌する」とは、病原性因子(例えば、TSE因子)および生存している生物の両方ともが、非感染性になるか基材から除去されるかそこで殺される手順に適用される。
【0041】
好ましい実施態様では、本発明の方法は、100℃以下、好ましくは少なくとも45℃、およびより好ましくは45℃と85℃との間の温度で滅菌溶液を維持する工程を含む。滅菌溶液のpHは、酸性からアルカリ性の範囲であり得るが、代表的には、pH8〜13の領域、好ましくは少なくともpH9、およびより好ましくは約pH12である。同様に、熱安定性プロテアーゼは、酸性からアルカリ性のpH範囲で活性であるが、代表的には、pH8〜13の領域、好ましくは少なくともpH9、およびより好ましくは約pH12で最適に活性である。
【0042】
本発明の特定の実施態様では、滅菌溶液は、スプレーとして装置に適用される。この適用の態様の有利点は、より大きな表面積の装置、手術台、または部屋の壁でさえも(例えば、屠殺場において)、本発明の滅菌溶液で処理され得ることである。代表的には、溶液は、滅菌されるべき表面上にスプレーする前に、最適な温度、例えば、60℃から80℃の間に加熱されるが、その表面は必要に応じて予め加熱される。
【0043】
あるいは、装置は、滅菌溶液に所定の時間浸漬される。また、溶液の温度は、代表的には、汚染された装置の浸漬前に最適化される。必要に応じて、本発明の滅菌溶液での処理と同時に超音波洗浄を行うことを可能にするために、浸漬浴に超音波処理手段を含む。
【0044】
第3の局面では、本発明は、材料を滅菌する方法を提供し、この方法は、熱安定性タンパク質分解酵素を含む第1の溶液に該材料を曝露する工程;および第2の熱安定性タンパク質分解酵素を含む少なくとも第2の溶液に装置を曝露する工程を含む。使用する場合、材料は、代表的には、装置、外科手術または食肉関連用具、またはTSE感染した生物学的廃棄物である。
【0045】
滅菌方法を少なくとも2つおよび必要に応じてそれ以上の連続工程に分けることによって、各工程における条件は、存在する任意のTSE因子の最大不活性化を確実にするために最適化され得る。したがって、連続工程の温度および/またはpHは異なり得る。本発明の特定の実施態様では、第1および第2(および必要に応じてそれ以上)の溶液中のタンパク質分解酵素は、同じであるかまたは異なっている。
【0046】
第4の局面では、本発明は、熱安定性タンパク質分解酵素を含む、TSE因子を不活性化するための組成物を提供する。
【0047】
代表的には、本発明の組成物は、さらに緩衝化剤を含む。本発明の特定の実施態様では、緩衝化剤は、8と13との間のpKを有する。本発明の方法における使用に適切なアルカリ性緩衝剤としては、25℃で10.7のpKを有する4−シクロヘキシルアミノ−1−ブタンスルホン酸(CABS)、および25℃で10.4のpKを有する3−シクロヘキシルアミノ−1−プロパンスルホン酸(CAPS)が挙げられる。
【0048】
あるいは、本発明の組成物は、組成物のpHをアルカリ性に、好ましくは少なくともpH9に、およびより好ましくは約pH12に調節するために十分な水酸化ナトリウムまたは他のアルカリ性薬剤を含む。万能標準液を用いて較正したpHプローブを用いて、本発明の組成物に1M水酸化ナトリウムを添加することは、一般的に、組成物のpHを約12にセットするために十分である。
【0049】
TSE因子を不活性化するための装置が、本発明によってさらに提供され、これは、
a.汚染された材料を受け入れるためのチャンバー;
b.該チャンバーの温度を制御するための手段;および
c.該チャンバー内に位置する、アルカリ性pHで活性な熱安定性タンパク質分解酵素、を含み、該チャンバーは、必要に応じて、45℃から85℃の温度で該熱安定性タンパク質分解酵素の溶液を含む。
【0050】
本発明のさらなる局面は、TSE因子の不活性化のための上記組成物の使用を提供する。
【0051】
本発明の有利点は、TSEおよび類似の因子を低下させることにおけるその使用であり、本発明の特定の実施態様の操作において、TSE汚染された材料が、熱安定性の好アルカリ性タンパク質分解酵素を用い、約50℃から70℃の上昇させた温度と約9から12のアルカリ性pHとの組み合わせを用いて、うまく汚染除去されたことが見出されている。極端な高温のみによっていくつかの汚染除去を達成し得る場合があるが、汚染除去されている用具に損傷を導く、極端な温度のような極端な条件を回避しながら、TSEを不活性化できるということが特に有利な点である。
【0052】
本発明の、別であるが関連する局面では、感染性材料を検出する問題がある。滅菌プロセスを行う前または後のいずれかに汚染について用具の品目をテストすることが可能である場合、これは、非常に有用である。
【0053】
抗プリオン抗体、mAb 6H4は、Prionics, Switzerlandから市販されている。この抗体は、プリオンタンパク質を検出するために使用され得、代表的には、検出可能マーカーに結合された二次抗体を用いて検出され、この二次抗体は一次抗体に結合する。
【0054】
本発明者らによって発見されている問題点は、プリオンで汚染されていると思われる用具、または汚染されていると思われるがプリオンを破壊することを意図した処理を施されている用具への、この抗体の結合が、感染力に相関しないことである。例えば、プロテアーゼで消化され、そしてSDS−PAGEにかけ、次いで抗プリオン抗体でプロービングした、プリオン感染したマウス脳ホモジネートは、陰性の結果、すなわち、抗体結合がないを示すことが、発明者らにより発見されている。それにもかかわらず、この材料は感染力を保持する。
【0055】
本発明のさらなる目的は、感染性プリオン材料を同定するための、および感染性材料が処理によって除去されているか否かを決定するための、方法および試薬を提供することである。
【0056】
したがって、本発明のさらなる局面は、プリオン感染したまたはプリオン感染していると思われる材料を検査し、そしてプリオンタンパク質のダイマーが存在するかどうかを決定する方法を提供する。
【0057】
本発明のこの局面は、プリオンタンパク質のダイマーの存在と感染力の存在との間の相関性に基づく。プリオンタンパク質は、多くの異なるグリコシル化状態で存在し得るので、ダイマーというときは、タンパク質のダイマーであって、その一方または他方または両方が、多くの異なる可能性のあるグリコシル化状態のいずれかである場合も含むことを意図する。ダイマーとはまた、プリオンタンパク質のフラグメントのダイマーをいうことを意図し、そのフラグメント含有ダイマーは感染力を保持する。プリオンのタンパク質分解処理により、ダイマー形態で感染力を保持する残基を残しているタンパク質配列の一部を除去し得、そしてこれらのフラグメントダイマーならびにプリオン−プリオンフラグメントダイマーおよびフラグメントヘテロダイマーは、本発明のこの局面においてダイマーの定義の範囲内に含まれる。
【0058】
この方法は、ダイマーの存在の検出を可能にし、したがって、モノマーが存在するかどうかを同定するように設計された既存のテストでは、陰性の結果を与えるが、実際にはテストされる特定の試料中に感染力が残存する場合において、感染性材料の存在の検出を可能にする。したがって、この方法の1つの有利点は、これまでの偽陰性結果の少なくともいくつかが排除されることである。これらの偽陰性を回避することは、汚染が疑われる材料をテストすることにおいて、および感染力を除去することを意図した処理後に材料をテストすることにおいて、明らかに非常に価値がある。
【0059】
以下の実施例でより詳細に記載するように、プリオンダイマーは、プリオンモノマーに結合する抗体を用い、抗プリオン抗体に結合する標識されている二次抗体を用い、そしてタンパク質がプリオンモノマーの予測分子量の約2倍の分子量を有すると同定されるかどうかを決定することによって、検出され得る。上述のように、プリオンは、多くの異なる位置で、代表的には、0、1、または2位でグリコシル化され得、そのため、ウエスタンブロッティングが用いられる場合、生じるブロットには種々のグリコシル化パターンを有するタンパク質分子に対応する、多くのバンドが見られ得る。公知のモノマーは、全長が約33〜35kDaの分子量を有すると予測されるが、「PrP 27-30」として知られる限定タンパク質分解切断産物としてSDS−PAGEゲルおよびイムノブロット上でルーチンで観察される。同様に、ダイマーは、約54〜70kDaに対応するブロットの一部で見られると予測される。
【0060】
ダイマー形態は、ダイマーに特異的な抗体、すなわち、ダイマーに結合するがプリオンのモノマー形態に実質的に結合しない抗体を用いてプロービングされ得る。この抗体は、それ自体が標識され得るか、または二次標識抗体を用いてプロービングされ得る。
【0061】
したがって、本発明のこの局面の好ましい方法は、試料中のプリオンダイマーを検出する工程を含む、プリオン感染力を検出する方法を含む。
【0062】
本発明はさらに、プリオンダイマーを検出するための試薬を提供し、したがって、本発明のさらなる実施態様は、プリオンダイマーに特異的な抗体にあり、この抗体は、プリオンダイマーと結合するが、プリオンモノマーと実質的に結合しない。この抗体は、必要に応じて標識され、そして以下に記載の実施例において、標識は、西洋ワサビペルオキシダーゼであり;他の適切な標識は、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、およびD−ビオチンであるが、任意の適切な標識が使用され得る。
【0063】
ダイマーの存在の検出のための代わりの試薬は、モノマーおよびダイマーの両方に結合する抗体、ならびにダイマーの分子量に対応するような分子量標準を含む。これらは、適切には、プリオンモノマーの約2倍の分子量を有するタンパク質を同定するために、例えば、ウエスタンブロッティング技法と組み合わせて使用される。これらのすべての試薬は、適切には、プリオンダイマー検出キットに組込まれる。
【0064】
プリオンダイマーに選択的な抗体を作成するために、動物にプリオンダイマーを免疫し、次いで動物から抽出した血清をプリオンダイマーカラムに供して、ダイマーを結合する抗体を同定する。次いで、これらは、プリオンモノマーとの交差反応性についてテストされ、交差反応する抗体は除去される。除去は、プリオンモノマーを投入したカラムを用いて行われ得、次いでそこから出てくる抗体は、交差反応性の不在についてテストされる。
【0065】
単離したプリオンダイマーは、本発明のさらなる実施態様を形成する。この単離された材料は、プリオンダイマーを分析するために使用されるSDS−PAGEゲルの一部を切り出すことによって簡単に得られ得る。あるいは、プリオン感染したマウス脳をホモジナイズし、プリオンダイマーを抽出する他の分離技法が使用され得る。プリオンモノマーに結合しそして交差反応する抗体は、このように得られた材料がプリオンダイマーでありそして同じ分子量の他のタンパク質ではないことを確認するために使用され得る。
【0066】
以下の実施例により詳細に記載するように、プリオン株301Vは、最終的にBSEで病気になったホルスタイン−フリージアンウシ由来のマウス継代単離物であり、これは、プリオン株の例として使用される。感染は、脳内接種により生じることが知られており、臨床的徴候の発現に必要なインキュベーション期間は非常に均一である。すなわち、感染性因子の投与量が十分であるならば、疾患の臨床兆候は接種後の所定の時間で出現する(VMマウスにおいて、これは120日である)。明らかな理由から、ヒトにおいてのこれらの特性はテストされていないが、マウスのバイオアッセイが、最も近い利用可能なモデルと見なされ、したがってヒトにおけるBSE感染の良好な指標である。
【0067】
以下の実施例において、ウエスタンブロット検出システムを用いると、モノマーは、プロテアーゼ消化によって見かけ上完全に除去されている。しかし、これらの条件下で、結果としてインビボで使用された試料は、感染を抑制せず、そして感染の開始をさらに増強し得る。したがって、モノマー以外の他のソースの感染がなければならない。モノマーは除去され得る(あるいは濃度が非常に劇的に減少する)ので、ダイマーが単独でまたはモノマーと組み合わせで感染の主な役割を果たしていることを示す。
【0068】
したがって、本発明の第2の局面はまた、必要に応じて環境条件−高温、極端なpH、および/またはデタージェント(例えば、SDS)の使用−によって増強される第1の局面に従って、プロテアーゼ分解を用いる、ダイマーの除去を提供する。単一の酵素処理を用いるのと同様に、プロテアーゼおよび/または他の酵素の組み合わせが使用され得る。例えば、感染性因子のより良好な分解は、リパーゼ、ペプチダーゼ、グリコシダーゼ、ヌクレアーゼ、および他の酵素の添加によって達成され得る。
【0069】
ダイマー除去を確認するために、ダイマー交差反応性抗体が、適切な検出システムと合わせて使用され得、1つの例は、Western BreezeというInvitrogenから現在入手可能な感度の高いインビトロ検出システムであり、さらなるマウスのバイオアッセイの前に除去を確認する。
【0070】
本発明の特定の実施態様の方法および組成物は、以下により詳細に記載され、そして添付の図面によって説明される。
【実施例】
【0071】
VMマウスコロニーおよびBSE(301V)因子とのインキュベーション
TSE因子であるBSE株(301V)の不活性化の研究は、非感染性および感染性の両方の脳ホモジネート(mbh)の生成のためのマウス繁殖コロニーの樹立、ならびにその後の力価測定およびバイオアッセイに必要であった。研究での使用のために選択したVMマウス系統は、Dr David Taylor(Institute of Animal Health, Edinburgh)から得た。6対を、動物施設内の専用の部屋に導入した。マウスを健康状態についてスクリーニングし、繁殖プログラムを開始した。
【0072】
BSE(301V)感染性マウス脳(IAH, Edinburgh)を、粗ホモジネーション、次いでこの脳ホモジネートを、収納された安全シリンジを順次微細になるルアーロック針(21G〜27G)を用いて通過させながら往復させ、密封した隔膜の蓋があるバイアル中に、接種用に調製した。この手順を、VMマウスの脳内接種の直前に、封じ込めレベル3(CL3)実験室内の有効な安全キャビネットで行った。麻酔をかけた(アルファドロン/アルファキサロン)マウスに、20mlのマウス脳ホモジネート調製物を26ゲージ針によって脳内に接種した。50匹のマウスのうちの49匹がこの手順で生き残った。これらを保持して、因子のインキュベーションおよび必要な量の高力価の感染性材料の生成を可能にした。
【0073】
バイオマス産生
熱安定性タンパク質分解酵素のできるだけ広い選択を提供するために、種々の生物をバイオマスの産生のために選択した。選択した生物は、中等度の好熱温度(50℃)から高度の好熱温度(100℃)までで最適に増殖する生物の範囲であり、そして古細菌および細菌の両方のメンバーを含んでいた。好熱菌はまた、pH2.5からpH11.5までの最適なpHを含む、広範な増殖pHをカバーするように選択した。ほとんどの生物は、バッチ培養で増殖したが、生物の増殖要求が特に厳しい場合、連続培養を用いた(RavenおよびSharp (1997) Applied Microbial Physiology: A Practical Approach, 第2章, StanburyおよびRhodes編, OUP pp.23-52)。増殖する生物のバイオマス収量に依存して、20Lと120Lとの間のバッチ培養容量を用いて、所望の量の細胞ペーストを得た。連続培養システムでは、ガラスおよびPTFEから全体が構成される2Lまたは5Lのいずれかの実容量のガスリフト型バイオリアクターを用いた。Bacillus spp.およびThermus spp.のようなより増殖性の高い微生物は、予めスクリーニングして、高レベルのプロテアーゼ活性の微生物を選択してから大規模な培養を行った。マイクロタイタープレートを利用する迅速かつ高感度の蛍光プロテアーゼアッセイをこの目的に採用して、高スループットスクリーニングを行った(EnzChekTM, Molecular Probes, Leiden, Netherlands)。
【0074】
培養バイオマスを、連続遠心分離(Contifuge StratosTM, Kendro Laboratory Products, Bishop Stortford, UK)によって採取し、そして−80℃で保存した。培養上清を、10kDaカットオフのタンジェント流フィルター(Pall filtration, Portsmouth, UK)で濃縮した。タンパク質を、硫酸アンモニウム(90%飽和)で沈降させ、−80℃で保存した。
【0075】
タンパク質精製
バイオマス産生段階後の粗タンパク質調製物のすべてを処理するために、迅速なプロテアーゼスクリーニングおよび精製技法を必要とした。染料−リガンドアフィニティークロマトグラフィーシステムを、この目的に使用した(PIKSI MTM, Affinity Chromatography Ltd., Isle of Man, UK)。最初に、各粗硫酸アンモニウム沈降物を緩衝液に溶解し、脱塩カラムを通過させた。次いで、各試料を、10の異なるアアフィニティーリガンドを含むPIKSI Mテストキットに供した。次いで、画分をプロテアーゼ活性についてアッセイして、標的分子の陽性結合および溶出によって、または夾雑物の陰性結合のいずれかによって、プロテアーゼの精製に最も適切なマトリクスを決定した。次いで、同じアフィニティーマトリクスを、FPLCシステム(Amersham-Pharmacia Biotech, Amersham, UK)と合わせて用いて、精製をスケールアップした。この技法を蛍光プロテアーゼアッセイと組み合わせることによって、多くの画分の迅速なスクリーニングを行い得た。
【0076】
蛍光プロテアーゼアッセイは、結合体の蛍光がほとんど完全にクエンチするグリーン蛍光BODIPY FLで高度に標識されるカゼイン誘導体を利用する。プロテアーゼが触媒する加水分解は、高度な蛍光標識を放出し、そして得られる蛍光は、蛍光マイクロプレートリーダー(Labsystems Fluoroscan IITM)上で測定され得る。蛍光の増加は、プロテアーゼ活性に比例し、そして標準プロテアーゼ(プロテアーゼX、Sigma-Aldrich, Poole, UK)の活性と比較した。
【0077】
プロテアーゼの特徴づけ
ある範囲の熱安定性プロテアーゼを分析した(表1を参照のこと)。活性の直接的な特徴づけを、基質として利用可能なBSE(301V)感染性マウス脳ホモジネートに対する最も近い非感染性アナログ、すなわち正常VMマウス脳ホモジネートを用いて行った。非感染マウス脳ホモジネート(mbh)全体の最初の消化を、60℃およびpH7.0にて30分間かけて行った。次いで、試料を、還元条件下で煮沸し、プレキャストNuPage 4〜12%Bis-Trisゲル(NovexTM, San Diego, US)でのSDS−PAGEによって分析した。ゲルを、標準的な手順を用いて固定し、そしてNovexコロイダルブルー染色キットを用いてタンパク質を可視化した。結果は、これらの条件下でのmbh基質に対するプロテアーゼの活性のレベルおよび個々のプロテアーゼの純度のレベルの両方を示した。アッセイに用いたプロテアーゼ濃度は、総タンパク質濃度に基づき、したがって、限定から完全消化までの広範な活性を観察した。
【0078】
次いで、mbh消化に対するpHおよび温度の全体の影響を示す活性プロファイルを、各酵素について作成した。いくつかの酵素は、条件の全範囲(pH2〜12および50〜100℃)にわたって広い活性を示した。しかし、一般に、mbhの完全消化のみが、より狭い範囲でのみ達成され、これは、酵素の最適なpHおよび温度を示す。図1および2は、試料プロテアーゼのBacillusプロテアーゼMについての活性プロファイルを示す。図からわかるように、酵素は、中等度に好熱性であり、そして70℃までの温度で完全な消化を与える。同様に、pHプロファイルは、中性またはアルカリ性条件が好適であることを示す。
【0079】
プロテアーゼテスト
いくつかの酵素は、インキュベーション時間を24時間に増加した場合でさえも、mbhの完全な消化を与えなかった。これは、単に、低いプロテアーゼ活性のためであり得るが、いくつかの高度に精製しそして濃縮した酵素でもなお、部分消化物のみを産生した。これらの反応において、酵素−基質相互作用はほとんど生じないようであった。これは、基質を取り囲みそして相互作用を抑制する、非タンパク質性材料、例えば脂質によるものであり得ると考えられたが、リパーゼおよび他の酵素での予備処理でも、顕著な効果はなかった(データを示さず)。考えられる第2の可能性は、プロテアーゼと基質との間の反発表面電荷の影響であった。特に、Bacillus thermoproteolyticus Rokkoから精製された1つの酵素は、高濃度においてでさえもmbhの消化は一貫してほとんど生じなかった。この酵素は、高レベルのデタージェントの存在下でも活性であることが知られ、したがって、この影響を克服するために、消化物にSDSの添加を試みた。図3および4は、SDSの不在および存在下でのmbhのB.thermoproteolyticus Rokko消化物を示す。図3は、標準的条件下で、プロテアーゼ濃度が20mg.ml−1に増加する場合でさえも消化にほとんど差がないことを明らかに示す。SDSの添加の場合(レーン2〜5)、プロテアーゼ自体以外は、完全消化物を示すタンパク質バンドは見えない。したがって、テストしたプロテアーゼを、単純に、3つのカテゴリーに分け得た:(i)デタージェントの不在下で完全なmbh消化を与え得るカテゴリー、(ii)SDSの存在下で完全なmbh消化を与え得るカテゴリー、および(iii)基質を完全に消化できないカテゴリー。カテゴリー(i)および(ii)のプロテアーゼを直接のさらなる研究のために選択し、一方、カテゴリー(iii)のプロテアーゼを、排除するか、または非常に大量および/またはより高純度が必要であると見なすかのいずれかとした。
【0080】
マウス脳ホモジネートのウェスタンブロッティング
mbhタンパク質を、ニトロセルロース上にトランスファーし、そしてPBS-Tween(PBST)+3%スキムミルク粉末中で一晩ブロックした。メンブランを洗浄し(PBSTで3回)、そして6H4抗ヒト組換えPrPモノクローナル抗体(Prionics, Zurich, Switzerland)とともに1時間インキュベートした。2回目の洗浄工程後、抗マウスHRP結合体を添加し、そしてメンブランを1時間インキュベートした。洗浄を繰り返し、そして抗体反応を、TMB(HarlowおよびLane (1988), Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press)の添加によって可視化した。
【0081】
図5および6は、それぞれ非消化mbhのSDS−PAGEおよびイムノブロットを示す。いくつかの非特異的バックグラウンドがあるが、マウスプリオンの存在を示す黒いバンドが、予測分子量(約33〜35kDa)に明らかに見られ得る。異なるバンドも、約66〜70kDaで見られ、これは既に報告されているプリオンダイマーに対応し得る(Safarら (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87: pp6373-6377)。
【0082】
ウエスタントランスファーおよびイムノブロッティングを使用して、マウスPrP免疫反応性フラグメントが消化後に残存しないことを確認した。図7は、SDS−PAGEによって評価した場合の、3つの密接に関連する熱安定性タンパク質分解酵素(プロテアーゼG、R、およびC)で消化が完全に行われたmbhを示す。対応するイムノブロットにおいて(図8)、2つのバンドのみが見え、両方とも約23kDaの見かけの分子量であった。レーン9の強いバンドは、組換えマウスPrP(+veコントロール)に対応するが、レーン4の弱いバンドは、多く投入した酵素調製物とのわずかな反応のためであるようである。この場合、レーン3でバンドが観察できないので、PrP免疫反応性の完全な消失はさらに明らかである。
【0083】
感染性マウス脳ホモジネートの調製および力価測定
チャレンジの8日以後、臨床的に影響を受けたマウスをできるだけ早く検出するために、マウスを毎日臨床的スコアリングに供した。1匹のマウスが、この期間の前に原因不明で死亡した。残りは、予測した疾患の進行を示し、そしてチャレンジ後110から130日目に屠殺した。脳を無菌下で取り出し、そして必要になるまで凍結保存した。48匹のBSE(301V)感染性VMマウスの脳を、ホモジナイザーに入れた4容量のPBS中でホモジナイズし、次いで、自由に流れるようになるまで順次微細になるゲージ針(21G〜26G)に連続的に通過させた。さらに2倍希釈した試料(1:9=マウス脳:PBS)を、感染力の力価測定用に調製した。BSE(301V)感染性マウス脳ホモジネートの0.1mlアリコートを800以上調製した。これらの手順は、再度、陽圧呼吸用マスクの着用を含む厳格なクラスIII封じ込め下で行った。
【0084】
25匹の群の8週齢VMマウスに、10−1〜10−8の10倍希釈で感染性マウス脳ホモジネート調製物の力価測定用量を投与した。さらなる群の25匹のマウスに、コントロールとして非感染性マウス脳ホモジネートをチャレンジした。すべてのマウスに、注射保護具を使用するクラス2キャビネット中で2mm以下の斜面のカットオフのプラスチックスリーブガードとともに26G×3/8”(0.95cm)針を用いて、麻酔下で接種した。次いで、マウスを、長期間、いくつかは1年以上、BSE(301V)因子をインキュベートするために残した。一旦すべてのインキュベーション(80日目以後の臨床的モニタリング)が完了すると、感染性マウス脳ホモジネート調製物の最初の力価が遡及的に樹立された。
【0085】
消化したマウス脳におけるダイマー検出
BSE(301V)感染したマウス脳ホモジネートを、中性pHおよび60℃にて30分間プロテアーゼで消化した。全タンパク質消化物を、SDS−PAGEにかけ、そしてウエスタンブロッティングによってニトロセルロースメンブランにトランスファーした。これらを細片に切断し、そしてCAMR抗プリオン抗体(ウサギで産生)でプロービングした。一般の二次抗体(ヤギ抗ウサギ)を西洋ワサビペルオキシダーゼに結合し、そしてTMB比色定量基質による検出に用いた。
【0086】
この時点で、予測した結果は、結果が、抗プリオン抗体mAb 6H4(Prionics, Switzerlandから入手)を用いる、コントロールブロット(第7番)と同じであるということであった。このコントロールブロットでは、プロテアーゼ消化した感染性コンフォメーションのプリオンタンパク質(PrPSc)についての代表的な3つのバンドのパターン(グリコシル化状態)が見られる。
【0087】
しかし、この実施例におけるブロットは、このパターンを示さなかった。ブロット1は、プリオン分子のN末端領域に対応するPPD結合ペプチドに対して惹起したポリクローナル抗体を使用する。このレーンでは何も見られない。タンパク質のこの部分は、タンパク質分解を受けやすく、そのためレーン(2および3)で何も見られないことは意外ではない。図9の左側のブロット1を参照のこと。レーン1は、分子量マーカーである。
【0088】
ブロット2は、プリオン分子中のさらなるペプチド配列に対して惹起した二次抗体を有する。これは、ある範囲のグリコシル化状態を有するプリオンダイマーに対応する分子量で、ほぼ等距離で、強度が異なる、少なくとも9つのバンドを示す。図9のブロット2を参照のこと。
【0089】
ブロット3抗体は、同様のプロファイルを示す;ブロット4も示すが、その結果は質が悪くて結論を得られない。図9のブロット3および4を参照のこと。
【0090】
コントロールブロット7とともに図10に示すブロット5および6も、複数のバンドのパターンを示す。
【0091】
消化したマウス脳におけるダイマー検出
上記の実施例を繰り返し、そして図11および12に結果を示す。
【0092】
ブロット1は、レーン1およびレーン5に分子量マーカーを示す。レーン2は、組換えマウスPrPであり、組換えマウスPrPオリゴマーを示す。レーン3は、プロテアーゼ消化した感染性マウス脳ホモジネートに対する抗体応答がないことを示す。レーン4は、非消化コントロールにおける抗体応答である。
【0093】
ブロット2は、上記のとおりであるが、プロテアーゼ消化した試料におけるこれまでのバンドパターンを示す。
【0094】
ブロット3は、抗体3応答を示す。ここでは、組換えマウスPrPに対するいくつかの応答がある(レーン2)。レーン3は、複数の(ダイマーPrP)バンドパターンだけでなく、いくつかのモノマーPrP応答も示す。
【0095】
ブロット7は、6H4 mAb抗体コントロールである。ここでは、組換えマウスPrPオリゴマーの良好な検出がある(レーン2)。レーン3は、限定的なプロテアーゼ処理したPrPScの大量のジグリコシル化形態+BSE(301V)株に代表的なより少量のモノグリコシル化および非グリコシル化形態を示す。「ダイマー」検出は明らかではない。
【0096】
ダイマー優先抗体を含む抗体の調製
実施例において、発明者らは、6つのポリクローナル抗体を使用した。これらのうち3つはダイマーのみを検出しそしてモノマーを結合しないが、1つはモノマーおよびダイマーの両方と交差反応する。
【0097】
合成したプリオン模倣ペプチドをウサギに免疫することによって、ポリクローナル血清を産生した。これらのペプチドを、ヒト、マウス、およびウシのプリオンタンパク質アミノ酸配列間の高い相同性の領域に基づいて設計した。
【0098】
ダイマー反応性抗体を産生する配列は、以下のとおりであった:
CGGWGQPHGGC(ペプチド2:配列番号1)
CGGYMLGSAMSRPIIHFGNDYEC(ペプチド3:配列番号2)
CVNITIKQHTVTTTTKGENFTETDC(ペプチド5:配列番号3)
CITQYQRESQAYYQRGASC(ペプチド6:配列番号4)。
【0099】
両末端にシステインを有する(上記を参照のこと)および一端のみにシステインを有するペプチドを合成した。キャリアタンパク質の表面上の抗原の直鎖形態およびループ構造の両方を提示するために、この方法を用いた。
【0100】
ペプチドを商業的に合成し、そして細菌Mycobacterium bovisの弱毒化株に由来するキャリアタンパク質PPD(精製したタンパク質誘導体)にカップリングした。これは、凍結乾燥し、リンカーを介してペプチドに結合するために使用する。
【0101】
抗プリオンポリクローナル抗体を、以下のように産生した:
免疫前血清の試料(約1ml)を、Dutchウサギの群のそれぞれから採集した。
ウサギに、皮内用途用の再構成した凍結乾燥したBacillus Calmette-Guerin(BCG)ワクチンを注射した。再構成したBCGワクチンの0.1mlの用量を、ウサギの首筋に2箇所投与した。
4週後、0.6mgの各ペプチド−PPD結合体を測定し(1システインおよび2システイン型のそれぞれの0.3mg)、そして1mlの滅菌0.9%生理食塩水に溶解した。
等容量の不完全フロイントアジュバントを加え、そして得られた乳化物の0.75mlアリコートを各後肢に筋肉内注射し、そして0.25mlアリコートを各ウサギの首筋の2箇所に注射した。
4週後に、工程3および4のように調製したペプチド−PPD結合体を含むブースト注射を行った。ブースト注射は、各ウサギの首筋への4箇所の0.25ml注射からなる。
1回目のブースト注射の7〜14日後に、4mlのテスト採血を行い、血清を、抗体力価についてELISAによって評価した。
2回目のブースト注射を、1回目の4〜6週後に行った。
3回目のブースト注射を4〜6週後に行った。
3回目のブースト注射の6〜8週後に4mlのテスト採血を行い、そして抗体力価をELISAによって決定した。
4回目のブースト注射を行った。
4回目のブースト注射の7〜14日後に4mlのテスト採血を行い、そして抗体力価をELISAによって決定した。
最後に放血し、そして血液を採集した。血清を遠心分離によって分離し、そして−20℃で保存した。
【0102】
抗体力価の分析をELISAを用いて行った。ペプチドに対する応答をキャリアタンパク質に対する応答と区別するために、イムノアッセイプレートを、異なるキャリアタンパク質(KLH)に結合した同じペプチドでコーティングした。
【0103】
記載の合成ペプチド配列の免疫によって産生した3つの抗体は、ダイマー形態の分子に優先的に結合する。
【0104】
類似の工程を用いて、モノクローナル抗体も調製し得る。これは、Antibodies - A Laboratory Manual, HarlowおよびDavid Lane編, 1988 (Cold Spring Harbor Laboratory)に記載のような方法を用いて行われ得た。
【0105】
したがって、本発明は、TSE感染力の検出および低下を提供する。
【0106】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】マウス脳ホモジネート(mbh)のプロテアーゼM消化物に対する温度の影響を示す。
【図2】mbhのプロテアーゼM消化物に対するpHの影響を示す。
【図3】mbhのBacillus thermoproteolyticus Rokko消化物を示す。
【図4】mbhのRokko消化物に対するドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の影響を示す。
【図5】mbhのSDS−PAGEを示す。
【図6】mbhのイムノブロットを示す。
【図7】mbhのプロテアーゼG、R、およびC消化物を示す。
【図8】図7における消化物のイムノブロットを示す。
【図9】感染力とプリオンダイマーとの相関性を説明しそして上記の実施例においてさらに説明するように、BSE(301V)感染したマウス脳ホモジネートのブロットを示す。
【図10】感染力とプリオンダイマーとの相関性を説明しそして上記の実施例においてさらに説明するように、BSE(301V)感染したマウス脳ホモジネートのブロットを示す。
【図11】感染力とプリオンダイマーとの相関性を説明しそして上記の実施例においてさらに説明するように、BSE(301V)感染したマウス脳ホモジネートのブロットを示す。
【図12】感染力とプリオンダイマーとの相関性を説明しそして上記の実施例においてさらに説明するように、BSE(301V)感染したマウス脳ホモジネートのブロットを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリオンタンパク質に感染しているまたは感染している疑いのある試料を検査する方法であって、該試料中に、プリオンダイマーを含むプリオンタンパク質の存在を検出する工程を含み、該検出工程が、該試料を、プリオンダイマーを含むプリオンタンパク質に結合する抗体でプロービングすることを含み、該抗体が、プリオンモノマーに結合しない、方法。
【請求項2】
前記試料が、プリオンのフラグメントのダイマーを含むプリオンタンパク質を含有しているか否かを決定する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料を、プリオンダイマーに特異的な抗体でプロービングする工程を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
試料のプリオン感染力を検出するための、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
プリオンダイマーを含むプリオンに結合するがプリオンモノマーに結合しない抗体。
【請求項6】
標識されている、請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
請求項5に記載の抗体の産生を刺激するための抗原であって、配列番号1から4のいずれかに記載の配列を有するペプチドを含む、抗原。
【請求項8】
配列番号1から4のいずれかに記載の両末端システイン残基の一方がない、請求項7に記載の抗原。
【請求項9】
前記抗原がキャリアにカップリングされている、請求項7または8に記載の抗原。
【請求項10】
前記キャリアがPPDである、請求項9に記載の抗原。
【請求項11】
請求項5に記載の抗体を作成する方法であって、該抗体が、請求項7から10のいずれかに記載の抗原から選択される接種ポリペプチドに結合する、方法。
【請求項12】
請求項5に記載の抗体を作成する方法であって、該抗体が、プリオンダイマーを含む接種ポリペプチドに結合し、該方法が、プリオンダイマーを結合する抗体を含有する抗体調製物を入手する工程、および該調節物からプリオンモノマーを結合する抗体を除去する工程を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−174568(P2008−174568A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−68993(P2008−68993)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【分割の表示】特願2002−555233(P2002−555233)の分割
【原出願日】平成14年1月8日(2002.1.8)
【出願人】(503191210)ヘルス プロテクション エージェンシー (19)
【Fターム(参考)】