説明

TSST−1の産生を低減するための、カルシウムを含む物品

1種以上のカルシウム塩を含む物品を提供する。物品は、フラスコ振盪法により測定したとき、TSST−1の産生を少なくとも約50%低減するのに有効な量の、1種以上のカルシウム塩を含有することができる。特定の実施形態では、1種以上のカルシウム塩は、フラスコ振盪法により測定したとき、黄色ブドウ球菌に対して、及び/又は、最大耐用量試験により測定したとき、ラクトバシラス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバシラス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)及びラクトバシラス・イナース(Lactobacillus iners)に対して実質的に非致死性であることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にカルシウムを含む物品に関し、より具体的には、ヒトの膣内及び周りで使用するためのカルシウムを含む物品に関する。
【背景技術】
【0002】
初経と閉経との間の年齢の女性において、正常な膣は、典型的には比較的微妙な均衡で維持されている種々の微生物の生態系を提供する。細菌は、膣内に存在する微生物の優占種(predominate type)であり、大部分の女性は、膣分泌物1mLあたり約10〜約10のコロニー形成単位(CFU)を保有する。より一般的に分離される細菌としては、乳酸菌、乳酸桿菌属種、コリネバクテリア種、膣ガルドネレラ(Gardnerella vaginalis)、ブドウ球菌属種、ペプトコッカス種、好気性及び嫌気性連鎖球菌種、バクテロイデス種並びにプレボテラ種が挙げられる。時折膣から分離される他の微生物としては、酵母(カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、原生動物(膣トリコモナス(Trichomonas vaginalis)、マイコプラズマ(マイコプラズマ・ホミニス(Mycoplasma hominis)、クラミジア(トラコーマクラミジア(Chlamydia trachomatis))、及びウイルス(単純ヘルペス)が挙げられる。これらの後者の生物は、一般的に、膣炎又は性感染症に関連するが、それらは症状を引き起こさず少数存在する場合もある。
【0003】
生理学的、社会的及び特異体質的要因が、膣内に存在する微生物の細胞密度及び種類に影響を与える場合がある。生理学的要因としては、年齢、月経周期の日及び妊娠を挙げることができる。社会的及び特異体質的要因としては、避妊の存在及び方法、性行為、全身性疾患(例えば、糖尿病)及び投薬を挙げることができる。例えば、健常な膣の微生物相のような膣の、生態系の破壊は、日和見感染症を発生させる恐れがある。
【0004】
毒素性ショック症候群(「TSS」)は、高熱、嘔吐、下痢及び発疹の急速な発症に続く、血圧低下及び重要臓器不全を特徴とする。毒素性ショック症候群の病原体は、例えば、黄色ブドウ球菌等のブドウ球菌属、及び/又は、例えば化膿連鎖球菌等の連鎖球菌属のような、外毒素産生球菌であると考えられている。TSSに関連する外毒素としては、例えば、ブドウ球菌:エンテロトキシンA、エンテロトキシンB、エンテロトキシンC及び毒素性ショック症候群毒素−1(TSST−1)、並びに、連鎖球菌:発熱性エクソトキシンA、エクソトキシンB、エクソトキシンCを挙げることができる。TSSは、細菌の存在自体ではなく、付随する外毒素の毒性効果により引き起こされると考えられる。
【0005】
TSSは、膣内での吸収性物品の使用に関連している。症候群はまた、包帯及び鼻タンポンでも観察されている。TSSは、高水準の吸収力を有する吸収性パッドに関連して、高頻度で生じると思われる。
【0006】
吸収性物品に関連するTSSのリスクを低減するために、吸収性物品に対する種々の改良が提案されている。典型的には、このような改良は、例えば、抗微生物剤又は殺菌剤の使用等により、膣の微生物相を構成している黄色ブドウ球菌又は他の細菌の量に悪影響を与える恐れがある。これらの効果は、上述の健康な均衡を損なわせる恐れがある。更に、吸収性物品の改良は、製造及び/若しくは保管技術に適合しない場合がある、並びに/又は時間とともに劣化する場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、TSST−1産生を低減する又は防ぐ、哺乳類の膣内及び周りで使用するのに好適な吸収性物品を含む、改善された物品を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1種以上のカルシウム塩を含む物品を提供する。物品は、フラスコ振盪法により測定したとき、TSST−1産生を少なくとも約50%低減するのに有効な量の、1種以上のカルシウム塩を含有することができる。特定の実施形態では、1種以上のカルシウム塩は、フラスコ振盪法により測定したとき、黄色ブドウ球菌に対して実質的に非致死性であり得る。特定の実施形態では、1種以上のカルシウム塩は、最大耐用量試験により測定したとき、ラクトバシラス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバシラス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)及び/又はラクトバシラス・イナース(Lactobacillus iners)に対して実質的に非致死性であり得る。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、カルシウム塩を含む物品又は化合物に関する。特定の実施形態では、物品は、TSST−1産生を低減するのに有効な量の、1種以上のカルシウム塩を含むことができる。更に、又はあるいは、1種以上のカルシウム塩は、例えば、ブドウ球菌属及び乳酸桿菌属種のような、正常膣微生物相に対して実質的に非致死性であり得る。したがって、カルシウム塩は、TSST−1産生を低減することができるが、一般的に、例えば黄色ブドウ球菌、ラクトバシラス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバシラス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)及び/又はラクトバシラス・イナース(Lactobacillus iners)を含む細菌のような、正常膣微生物相には影響を与えない。
【0010】
本明細書で使用するとき、用語「物品」は、グラム陽性細菌からの毒素の産生を低減又は予防することが有益である、任意の物品を指す。好適な物品としては、例えば、生理用ナプキン、パンティライナー、成人失禁用下着、おむつ、医療用包帯、医学的、歯科学的、外科的及び/若しくは鼻の用途を意図する吸収性物品、並びに/又は、例えばペッサリー及び女性用避妊装置のようなヒトの膣内での使用を意図する非吸収性物品を挙げることができる。特定の実施形態では、物品は、吸収性物品及び/又は膣用物品であり得る。
【0011】
本明細書で使用するとき、用語「吸収性物品」とは、例えば体排出液のような物質を吸収及び/又は収容する装置を指す。典型的な吸収性物品は、種々の体排出液を吸収及び収容するために、着用者の体に接触して又は近接して定置することができる。吸収性物品は、例えばタンポン、外科創傷包帯、スポンジ及び鼻タンポン等を挙げることができる。
【0012】
本明細書で使用するとき、用語「膣用物品」としては、例えば、生理用ナプキン、タンポン、陰唇間製品、失禁用物品及びライナーのような、経血及び/又は軽い失禁を制御するために女性が着用できる使い捨て吸収性物品のように、膣内又は膣付近に着用されることを意図する物品が挙げられる。膣脱及び/又は失禁治療のためのペッサリー、子宮頸管キャップ、避妊用スポンジ、月経用カップ、並びに避妊ペッサリーのような、膣に着用することを意図する非吸収性物品も含まれる。
【0013】
本明細書で使用するとき、用語「タンポン」は、例えば、それから流体を吸収する、創傷治癒を補助する、及び/又は水分若しくは薬剤のような活性物質等の物質を送達する等のために、膣管又は他の体腔に挿入できる、例えば吸収塊のような任意の種類の吸収性構造を指す。一般に、用語「タンポン」は、圧縮及び/又は成形プロセス後の完成したタンポンを指すために使用される。
【0014】
本明細書で使用するとき、用語「綿球」は、材料をタンポンに圧縮及び/又は成形する前の吸収性材料を指す。綿球は、タンポン半加工品又はソフトウィンドと呼ばれることもある。
【0015】
本明細書で使用するとき、用語「膣管」は、ヒトの女性の体の外陰部内の内生殖器を指す。用語「膣管」又は「膣内」は、本明細書で使用するとき、膣口及び頸部の間に位置する空間を指すことを意図する。
【0016】
本明細書で使用するとき、細菌に関しては、用語「非致死性」は、乳酸桿菌属種に対して最大耐用量試験(「MTDT」)により測定したとき、及び黄色ブドウ球菌に対してフラスコ振盪法により測定したとき、細菌の細胞密度が、対照試験流体と比較して試験流体では約10CFU/mL(1log)超低下しないことを意味する。
【0017】
本明細書で使用するとき、細菌に関する用語「致死性」は、乳酸桿菌属種に対して最大耐用量試験により測定したとき、及び黄色ブドウ球菌に対してフラスコ振盪法により測定したとき、細菌の細胞密度が、対照試験流体に対して、試験流体では少なくとも約10CFU/mL(3log)低下することを意味する。
【0018】
本明細書で使用するとき、用語「安定」とは、例えば製造及び/又は保管中のような条件に曝露されたときに、フラスコ振盪法により測定したとき、カルシウム塩がTSST−1低減能を有することができることを意味する。
【0019】
本明細書で使用するとき、用語「遊走性」とは、物品が複数の繊維を含むとき、カルシウム塩が吸収性物品のような、物品の繊維マトリックスを通じて移動できることを意味する。
【0020】
本明細書で使用するとき、用語「結合した」は、吸収性物品に添加されたカルシウムの約10%未満が、シンジナ(syngyna)容量の滅菌生理食塩水溶液に3回、38℃(100°F)で8時間物品を浸漬することにより除去されることを意味する。シンジナ容量は、シンジナ試験(2006年4月1日改正、米国食品医薬品局21連邦規制基準(U.S. FDA 21 CFR)801.430)により決定される。「結合した」カルシウムの割合は、(物品中に存在するカルシウム−溶液中のカルシウム)/物品中に存在するカルシウムとして算出される。
【0021】
本明細書で使用するとき、用語「部分的に結合した」は、吸収性物品に添加されたカルシウムの約50%未満が、シンジナ(syngyna)容量の滅菌生理食塩水溶液に3回、38℃(100°F)で8時間にわたって物品を浸漬することにより除去されることを意味する。
【0022】
本明細書で使用するとき、用語「実質的に結合した」は、吸収性物品に添加されたカルシウムの約25%未満が、シンジナ(syngyna)容量の滅菌生理食塩水溶液に3回、38℃(100°F)で8時間にわたって物品を浸漬することにより除去されることを意味する。
【0023】
特定の実施形態では、物品は、TSST−1の産生を低減するのに有効な量で、1種以上のカルシウム塩を含むことができる。TSST−1の産生は、フラスコ振盪法で任意の好適な量、例えば、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%又はそれ以上、低減することができる。特定の実施形態では、TSST−1の量は、以下に記載するような、フラスコ振盪法により測定できる。
【0024】
更に、又はあるいは、1種以上のカルシウム塩は、例えばフラスコ振盪法により測定したとき等、黄色ブドウ球菌に対して実質的に非致死性であることができ、並びに/又は、例えば最大耐用量試験により測定したとき、ラクトバシラス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバシラス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)及び/若しくはラクトバシラス・イナース(Lactobacillus iners)に対して実質的に非致死性であることができる。このように、特定の実施形態では、黄色ブドウ球菌、L.クリスパタス、L.ガセリ及び/又はL.イナースは、最大耐用量試験により測定したとき、対照試験流体に対して、例えば約9CFU/mL、約8CFU/mL、約7CFU/mL、約6CFU/mL、約5CFU/mL、約4CFU/mL、約3CFU/mL、約2CFU/mL又はそれ未満であるように、試験流体では約10CFU/mL(1log)超で低下しない。
【0025】
特定の実施形態では、カルシウム塩は、例えば25℃の水で約1ミリモル/L超、約2ミリモル/L超、約4ミリモル/L超、約6ミリモル/L超、約8ミリモル/L超、約10ミリモル/L超又はそれ以上のように、25℃の水で約0.3ミリモル/L超の溶解度を有することができる。
【0026】
カルシウム塩は、タンポンの製造及び/又は保管プロセスに適合性を有することができる。例えば、特定の実施形態では、カルシウム塩は、商業製造及び販売に関して、後の製造プロセスで、並びに/又は、例えば高温及び/若しくは低温のような、条件下で保管されるとき、毒素を阻害する能力を保持することができる。特定の実施形態では、カルシウム塩は、例えば、約100℃で約3時間、約−30℃〜約65℃で約24時間、約0℃〜約50℃、又は任意の他の好適な温度のような、任意の好適な温度で任意の好適な時間、毒素を阻害する能力を保持することができる。
【0027】
特定の実施形態では、カルシウム塩は、湿潤環境で水分の獲得に耐性を有することができる。例えば、タンポン及び/又は他の吸収性物品のような物品は、例えば商業保管中及び/又はシャワー中浴室内等のように、相対湿度が80%を超え得る条件に曝露される場合がある。例えば、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及び/又は塩化亜鉛のような一部の塩は、水分に強い親和性を有する場合があり、雰囲気から比較的大量の流体を吸収することができる潮解性物質である。タンポンにおける潮解性物質の使用は、タンポンが膨張し、体内への挿入又はアプリケータからの放出を困難にする恐れがあるように、タンポンへの水分の吸い込みをもたらし得る。特定の実施形態では、カルシウム塩は、100℃で3時間乾燥させ、次いで相対湿度(RH)80%に23℃で22時間曝露させたとき、例えば、初期乾燥重量の約45%未満、約40%未満、約35%未満、約30%未満、約25%未満、約20%未満、約15%未満又はそれ未満のような、初期乾燥重量の約50%未満を吸収することができる。
【0028】
特定の実施形態では、1種以上のカルシウム塩は、乳酸カルシウム及び/又はクエン酸リンゴ酸カルシウムであってよい。
【0029】
物品は、TSST−1毒素の低減が望ましい及び/又は有益である任意の好適な物品であってよい。好適な物品としては、例えば、生理用ナプキン、タンポン、パンティライナー、陰唇間製品、成人失禁用下着、おむつ、外科創傷包帯、スポンジ、鼻タンポン、医学的、歯科学的、外科的及び/若しくは鼻の用途を目的とする他の吸収性物品、並びに/又は、膣脱及び/若しくは失禁治療のためのペッサリー、子宮頸管キャップ、避妊用スポンジ、月経用カップ、及び避妊ペッサリーのような、ヒトの膣内での使用を意図する非吸収性物品が挙げられる。特定の実施形態では、物品は、例えばヒトのような、哺乳類での使用に好適であってよい。
【0030】
特定の実施形態では、物品はタンポンであってよい。タンポンは、吸収性物品で使用するのに好適な広範な液体吸収性材料から構成され得る綿球から形成できる。このような材料としては、例えば、レーヨン(例えば、ギャラクシー(GALAXY)レーヨン(3葉レーヨン)又はダヌフィル(DANUFIL)レーヨン(円形レーヨン)、両方ともドイツ、ケルハイム(Kelheim)のケルハイム・ファイバーズ社(Kelheim Fibres GmbH)から入手可能)、綿、折り畳まれたティッシュ、織布材料、不織布ウェブ、合成及び/又は天然繊維若しくはシート、一般にエアフェルトと呼ばれる粉砕木材パルプ、発泡体、又はこれらの材料の組み合わせが挙げられる。他の好適な材料の例としては、縮みセルロース詰め物、コフォームを含むメルトブローポリマー、化学的に剛化、変性、又は架橋されたセルロース繊維、けん縮ポリエステル繊維のような合成繊維、ピートモス、発泡体、ティッシュラップ及びティッシュラミネートを含むティッシュ、任意の同等の材料若しくは材料の組み合わせ、又はこれらの混合物が挙げられる。更に、超吸収性ポリマー又は吸収性ゲル材料のような、超吸収性材料をタンポンに組み込むことができる。
【0031】
タンポンは、1つ又はそれ以上の引き出しコード及び/又は上包を含んでよい。引き出しコード及び/又は上包は、例えば、レーヨン、木綿、2成分繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、当該技術分野において既知である他の好適な天然又は合成繊維、及びこれらの混合物のような、任意の好適な材料であってよい。特定の実施形態では、タンポンは、圧縮されたタンポンを実質的に包む上包材料を含むことができる。タンポンは又はあるいは、例えば、タンポンの引き出し端部に近接した引き出しコードに取り付けられた第2吸収性材料の塊のような、第2吸収性部材を含むこともできる。好適な第2吸収性部材は、例えば、米国特許第6,258,075号に記載されている。
【0032】
任意の好適な量のカルシウム塩を、物品に添加してもよく、及び/又は物品に含んでもよい。好適な量としては、例えば、TSST−1の産生を低減するのに有効な量が挙げられる。特定の実施形態では、物品に添加するカルシウムの量は、約0.009ミリモル超、約0.01ミリモル超、約0.02ミリモル超、約0.04ミリモル超、約0.06ミリモル超、約0.08ミリモル超、約0.1ミリモル超、約0.5ミリモル超、約1ミリモル超、約2ミリモル超、約3ミリモル超、約4ミリモル超、約5ミリモル超、約6ミリモル超、約7ミリモル超、約8ミリモル超、約8ミリモル超、約9ミリモル超、約10ミリモル超又はそれ以上であってよい。特定の実施形態では、例えば、カルシウム塩の一部が使用中物品内に保持されるとき、及び/又は、カルシウム塩の実質的に全ての量未満が添加後に物品から回収できるときのように、物品に添加されるカルシウム塩の実質的に全ての量未満が利用可能である。
【0033】
カルシウム塩は、任意の好適なプロセス及び/又は製造プロセス中の任意の工程で添加することができる。特定の実施形態では、例えば、カルシウム塩をタンポンに添加するとき等、カルシウム塩を、例えば、繊維の洗浄及び乾燥工程等の綿球の製造前のプロセス中に、並びに/又は、繊維の加工を容易にするために繊維仕上げ剤を添加するとき等に、吸収性繊維に添加することができる。あるいは又は更に、塩は、綿球の製造前又は綿球の製造後に、水溶液若しくは懸濁液、又は非水性溶液若しくは懸濁液、又は更には粉末として、繊維に添加することができる。例えば、カルシウムは、綿球の1つ又はそれ以上の部分を、カルシウムを含有する水溶液又は懸濁液に曝露することにより、圧縮前に綿球の1層又はそれ以上の層に添加することができる。タンポンの綿球を水溶液に曝露するための方法の例としては、例えば、水溶液を綿球に噴霧する、綿球を水溶液に浸漬する、及び/又は綿球を水溶液で洗浄することが挙げられる。あるいは又は更に、例えば、実質的に完成したタンポンを、カルシウムを含有する水溶液へ曝露し、次いでタンポンを乾燥させることによる等、1種以上のカルシウム塩を、圧縮後タンポンに組み込むことができる。所望により、カルシウムは、1種以上の製薬上許容できる及び適合性のあるキャリア材料を使用することができる。キャリア材料のいくつかの好適な例としては、例えば、水溶液、ゲル、発泡体、ローション、香油、膏薬、軟膏、巨丸剤、坐薬及び/又はこれらの組み合わせが挙げられる。特定の実施形態では、綿球又は物品を製造するとき、粉末としてカルシウム塩を添加することも可能である。
【0034】
カルシウム塩は、物品の1つ又はそれ以上の部分に含むことができる。このような1例は、第1吸収性部材、上包、第2吸収性部材及び/又は引き出しコード内又は上に組み込まれたカルシウム塩を有するタンポンであってよい。特定の実施形態では、カルシウム塩はまた、タンポンの1つ又はそれ以上の部分上、内及び/又は全体にわたって分布してもよい。カルシウム塩はまた、吸収性繊維に直接組み込んでもよく、又は繊維の製造中に上包を含む繊維に組み込んでもよい。特定の実施形態では、例えば、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、コンジュゲート繊維、2成分繊維、レーヨン繊維、及び/又は、任意の他の好適な合成繊維を使用する場合、カルシウム塩を繊維の形成前に溶解物に添加してもよい。得られる繊維を冷却するとき、カルシウム塩は繊維表面に移行することができる。いくつかの実施形態では、繊維表面に移行するカルシウムの量が、TSST−1産生を低減するのに十分であるような量の、カルシウム塩を添加することができる。ポリマー溶解物に添加されるカルシウム塩の濃度は、例えば、繊維重量の約10%〜約30%、例えば約15%〜約25%のような、任意の好適な濃度であってよい。
【0035】
タンポンのような本発明の物品上及び/又は内のカルシウム塩の分布は、必要に応じて変化してよいが、特定の実施形態では、物品の1つ又はそれ以上の部分に含有されるカルシウムは、物品上又は内のTSST−1産生を低減する又は阻害するための好適な効果が保持できるように分布してよい。本発明の物品の1つ又はそれ以上の部分に含まれるカルシウムは、遊走性である、ゆるく付着している、結合している、部分的に結合している、実質的に結合している、又はこれらの組み合わせ等であってよい。
【0036】
本発明の物品は、所望により、例えば、ビタミン、ハーブ、アロエ、保湿剤、植物、補助抗微生物剤、駆虫薬、鎮痒薬、収れん剤、局所麻酔剤、又は抗炎症剤のような、医薬組成物に一般的に見られる他の有益成分を含んでもよい。特定の実施形態では、カルシウムは、所望により含まれる1種以上の成分と、補完的又は相乗的方法で、共に機能することができる。
【0037】
本発明は更に以下の実施例により説明され、これは決して限定であると解釈すべきではない。
【実施例】
【0038】
(実施例1)
この実施例は、フラスコ振盪法により測定したときの、異なるカルシウム塩の添加時におけるTSST−1毒素の量の低下を示す。
【0039】
材料及び方法
この実施例では、黄色ブドウ球菌により産生されるTSST−1毒素の量を、フラスコ振盪法を用いて測定した。
【0040】
フラスコ振盪法は、適切な対照とともに、3重反復で実施した。25mLの脳‐心臓浸出物ブロス(BHI)(ディフコ(Difco))を、250mLのフラスコに分配し、フラスコにカバーをした。培地を121℃〜124℃で15分間オートクレーブし、室温に冷却した。
【0041】
適切な量のカルシウム塩を、2.5mMのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解することにより、カルシウム溶液を調製した。カルシウム溶液の希釈液は、以下のカルシウム溶液(mL)のBHI培地(mL)に対する比を用いて調製した:1:49、5:45、10:40及び25:25。各希釈液を3重反復試験した。各希釈液を250mLの三角フラスコに添加した。フラスコに、黄色ブドウ球菌MN8のおよそ10CFU/mLの、18〜24時間培養液を接種し、次いで18〜20時間振盪しながら37℃でインキュベートした。PBS及びBHIの対応する対照も試験した。フラスコを振盪器から取り外し、3〜4mLの流体を無菌的に除去した。標準的な技術を用いて、標準的な平板計数分析及び酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)を実施した。試験溶液の結果を、適切な対照と比較した。
【0042】
結果
表1に示すように、フラスコ振盪法により測定したとき、カルシウム塩の添加はTSST−1の低下をもたらした。表1は更に、カルシウムイオンに結合するアニオンが、フラスコ振盪法により測定したTSST−1毒素の量を実質的に低減するのに必要なカルシウムの量に影響を与えることを示した。
【表1】

【0043】
この実施例は、試験したカルシウム塩のうち、クエン酸リンゴ酸カルシウムが、最も低い濃度でTSST−1毒素を最も多く低減したことを示す。他方、塩化カルシウムは、最も高い濃度であるにもかかわらず、TSST−1毒素の低減は最も少ない。
【0044】
(実施例2)
この実施例は、試験したカルシウム塩の溶解度とともに、フラスコ振盪法により測定したときの、カルシウム塩の添加時におけるTSST−1毒素の量の低下を示す。
【0045】
材料及び方法
材料及び方法は実施例1に記載した。
【0046】
結果
表2は、カルシウム塩の溶解度が、TSST−1を低減するカルシウム塩の能力に関連していることを示す。
【表2】

【0047】
表1及び2に示すように、低濃度のステアリン酸カルシウムは、TSST−1の低減において塩化カルシウムより有効であるが(表1)、ステアリン酸カルシウムの効果は、溶解度が制限されているため高濃度にしても増加しない。タンポンで使用するのに好適な材料は、完成タンポン中で十分なカルシウム濃度を実現するためには、水1Lに対して少なくともカルシウム約0.3ミリモルの溶解度を必要とするため、この実施例は更に、例えば、ステアリン酸カルシウムのような、TSST−1活性を低減することができる特定のカルシウム塩の溶解度が、タンポンで有効に使用するには低すぎる場合があることを示す。
【0048】
(実施例3)
この実施例は、フラスコ振盪法により測定したときの、カルシウム塩の添加時における黄色ブドウ球菌の増殖の低下及びTSST−1毒素の量の低下を示す。
【0049】
材料及び方法
材料及び方法は実施例1に記載した。
【0050】
結果
表3は、フラスコを振盪法で測定したとき、カルシウム塩はTSST−1濃度を低減することができるが、対照に対して黄色ブドウ球菌の増殖を著しく低下させる場合があることを示す。表3はまた、酢酸カルシウム及びアスコルビン酸カルシウムが、測定した濃度で、対照に対して黄色ブドウ球菌を実質上増殖させなくすることも示す。
【表3】

【0051】
表3に示すように、TSST−1産生を低減する特定のカルシウム塩は、黄色ブドウ球菌の細胞密度に対して望ましくない効果を有する場合がある。このように、この実施例は、特定のカルシウム塩の添加はTSST−1濃度を低減することができるが、このような塩の添加は、例えば、これらの塩をタンポンにおける使用に不適当にするような、膣細菌叢に対して望ましくない効果を有する場合があることを示している。
【0052】
(実施例4)
この実施例は、フラスコ振盪法において、産生されるTSST−1毒素の量を抑制するためにはカルシウムがマグネシウムより有効であることを示す。この実施例は更に、亜鉛、銅及び鉄塩が黄色ブドウ球菌の水準にとって有害であり得ることを示す。
【0053】
材料及び方法
材料及び方法は実施例1に記載した。
【0054】
結果
表4は、フラスコ振盪法により測定したとき、カルシウムがTSST−1産生の低減においてマグネシウムより有効であることを示す。表4はまた、亜鉛、銅及び鉄塩は対照と比較して毒素を低減するが、このような塩は驚くべきことに対照と比較したとき黄色ブドウ球菌に致死性であるため、細菌を殺すことを示す。
【表4】

【0055】
このように、この実施例は、カルシウムが、TSST−1の低減において、マグネシウムより有効であることを示す。この実施例は更に、カルシウムが、亜鉛、銅及び/又は鉄のようには黄色ブドウ球菌の増殖に負の効果を与えないことを示す。
【0056】
(実施例5)
この実施例は、カルシウム塩が、最大耐用量試験により測定したとき、乳酸桿菌属の細菌に実質的に影響を与えないことを示す。
【0057】
材料及び方法
この実施例では、最大耐用量試験(MTDT)を用いて乳酸桿菌量の変化を測定した。MTDTは以下のように実施した。
【0058】
3種の微生物:ラクトバシラス・クリスパタス(LMG 12005)、ラクトバシラス・ガセリ(ATCC 9857)及びラクトバシラス・イナース(LMG 18916)について試験した。カルシウムアッセイ溶液を用いるマクロチューブアッセイを、3種の試験微生物それぞれについて個々に実施した。
【0059】
L.ガセリを、嫌気性CDM生殖管分泌物培地(アネローブシステム(AnerobeSystems)、カタログ番号AS−892a)において、嫌気性条件下で48時間増殖させた。接種材料を、マクファーランド(McFarland)0.5標準と比較することにより、およそ10CFU/mLに調節した。L.クリスパタス及びL.イナースは、チョコレート寒天(レメル(Remel))上で、嫌気性条件下において48時間増殖させ、接種材料をマクファーランド(McFarland)0.5標準と比較することにより、およそ10CFU/mLの濁度になるよう、生殖管分泌物培地中で作製した。平板計数を全ての試験生物の接種材料チューブにおいて実施し、正確なCFU/mLを決定した。全ての生物は、アッセイ溶液の分析前に、対数増殖期にあった。
【0060】
一連の5種のカルシウム塩のアッセイ溶液を作製した。7種のチューブアッセイ(6種の実験と1種の対照)において各チューブは、7mLの生殖管分泌物培地及び3mLのストックアッセイ溶液又は溶媒を含有していた。各チューブに、0.1mLの各個々の試験生物接種材料を添加した。アッセイチューブを、嫌気性条件下で35℃でインキュベートした。48時間のインキュベート後、各アッセイチューブ溶液の0.1mLのアリコートを生理食塩水(レメル(Remel))に希釈し、チョコレート寒天(レメル)にプレーティングし、嫌気性条件下で35℃にてインキュベートして、生存生物数を決定した。30〜300個の生物を含むプレートを計数した。
【0061】
結果
表5は、カルシウム塩は、TSST−1毒素の低減に有効であり得るが、膣の健康に関連する、要である乳酸桿菌属膣種(L.クリスパタス、L.ガセリ、L.イナース)には効果を及ぼさないことを示す。
【表5】

【0062】
このように、この実施例及び実施例3は、例えば、クエン酸リンゴ酸カルシウム及び乳酸カルシウムのような、カルシウム塩が、例えば乳酸桿菌属のような、正常な膣細菌叢に対して実質的に非致死性でありながら、TSST−1を低減できることを示す。
【0063】
(実施例6)
この実施例は、水分獲得試験により測定したときの、種々のカルシウム塩の水分獲得を示す。
【0064】
材料及び方法
この実施例では、試験したカルシウム塩の水分獲得は、水分獲得試験により決定した。
【0065】
0.500〜2.000gのカルシウム塩を、20mLのトレースクリーン(Traceclean)バイアル瓶に入れた。空のジャーの自重と塩を含むジャーの重量を記録した。蓋をしていないバイアル瓶を100℃のオーブンに3時間入れ、デシケータ内に一晩保管した。ジャーを密封し、計量した。塩の「乾燥重量」を、蓋をしたジャーの空の自重と、塩を含む蓋をしたジャーの重量との差として決定し、次いで乾燥させ、デシケータ内で保管した。密封したジャーを試験条件下に定置し、蓋をすぐ取り除いた。3.5、6.5及び22時間で、ジャーを開封し計量した。「湿潤重量」は、23℃、相対湿度80%に曝露した後の最終重量と、最初のジャー及び蓋の自重との差として決定した。水分取り込みの量は、「湿潤重量」と「乾燥重量」との差として算出した。
【0066】
結果
表6は、22時間、23℃で、相対湿度(RH)80%に曝露したときに、塩化カルシウムが、その初期乾燥重量の100%を超えて潮解性吸収していることを示す。
【表6】

【0067】
この実施例は、塩化カルシウムのような特定の塩が、タンポンには好適ではない場合がある高水準の水分獲得を有する場合があることを示す。許容可能な水準の水分獲得は、水分獲得試験により測定したとき、例えば約40%未満のような、約50%未満である。
【0068】
(実施例7)
この実施例は、タンポンに添加し得るカルシウムの量を示す。
【0069】
材料及び方法
シンジナ試験により算出したタンポンの吸収力に基づいて、カルシウム溶液をタンポンに添加した。
【0070】
結果
表7は、異なる吸収力水準を有する、タンポンに添加し得るカルシウムの量(ミリモル)を示す。
【表7】

【0071】
この実施例は、特定の実施形態において、物品の能力に基づいて、タンポンに添加し得るカルシウムの量を示す。
【0072】
本明細書に開示される寸法及び値は、列挙された正確な数値に厳しく限定されるものとして理解されるべきではない。それよりむしろ、特に規定がない限り、こうした各寸法は、列挙された値とその値周辺の機能的に同等の範囲との両方を意味することを意図されている。例えば、「40mm」として開示した寸法は、「約40mm」を意味することを意図したものである。
【0073】
「発明を実施するための形態」で引用した全ての文献は、その関連部分において本明細書に参考として組み込まれ、いかなる文献の引用も、それが本発明に対する先行技術であることを認めるものと解釈すべきではない。本明細書中の用語の任意の意味又は定義が、参考として組み込まれた文献中の同一の用語の任意の意味又は定義と相反する限りにおいては、本明細書においてその用語に与えられた意味又は定義が適用されるものとする。
【0074】
本発明の特定の諸実施形態を図示し、記載したが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく他の様々な変更及び修正を実施できることは当業者には自明であろう。したがって、本発明の範囲内にあるような全ての変更及び修正は、添付の特許請求の範囲に包含されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラスコ振盪法により測定したとき、TSST−1の産生を少なくとも約50%低減するのに有効な量の、1種以上のカルシウム塩を含む物品であって、フラスコ振盪法により測定したとき、前記1種以上のカルシウム塩が、黄色ブドウ球菌に対して実質的に非致死性であることを特徴とし、
最大耐用量試験により測定したとき、前記1種以上のカルシウム塩が、ラクトバシラス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバシラス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)及びラクトバシラス・イナース(Lactobacillus iners)に対して実質的に非致死性である、物品。
【請求項2】
前記物品が、タンポン、創傷包帯、鼻タンポン、生理用ナプキン、パンティライナー又は失禁パッドである、請求項1に記載の物品。
【請求項3】
前記1種以上のカルシウム塩が、約25℃で水に対して約0.3mMを超える溶解度を有する、請求項1又は2に記載の物品。
【請求項4】
前記1種以上のカルシウム塩が、水分獲得試験により測定したとき、約50%未満の水分獲得を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の物品。
【請求項5】
前記1種以上のカルシウム塩が、TSST−1の産生を少なくとも約70%低減するのに有効な量で提供される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の物品。
【請求項6】
前記1種以上のカルシウム塩が、TSST−1の産生を約2μg/mL/mM超低減するのに有効な量で提供され、前記1種以上のカルシウム塩が、約20mMを超える濃度で提供される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の物品。
【請求項7】
前記1種以上のカルシウム塩の量が、約0.009ミリモルを超えるカルシウムである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の物品。
【請求項8】
前記1種以上のカルシウム塩が、乳酸カルシウム及び/又はクエン酸リンゴ酸カルシウムである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の物品。
【請求項9】
前記1種以上のカルシウム塩がポリマーに組み込まれる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の物品。
【請求項10】
前記ポリマーが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、シリコーン及び/又はレーヨンである、請求項9に記載の物品。

【公表番号】特表2010−531210(P2010−531210A)
【公表日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515093(P2010−515093)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際出願番号】PCT/US2008/068254
【国際公開番号】WO2009/003073
【国際公開日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(590005058)ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー (2,280)
【Fターム(参考)】