説明

Ti合金鋳造品の製造方法

【課題】高CのTi合金材料を用いて鋳造により製品を製造するに際し、ガス欠陥の発生を効果的に抑制し得るTi合金鋳造品の製造方法を提供する。
【解決手段】鋳型18の内部を減圧としてキャビティ24に質量%でC:0.04〜0.10%含有する高CのTi合金の溶湯を吸い上げて充填するとともに減圧下で鋳型18を内部の溶湯とともに回転中心P回りに高速回転させて鋳型18内部の溶湯に遠心力を作用させ鋳造を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はTi合金鋳造品の製造方法に関し、特にCを高含量で含有するTi合金鋳造品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Ti合金は酸化され易い合金であり、そこで従来、Ti合金を溶解、鋳造する方法としてレビテーション溶解、減圧吸上鋳造が好適に用いられてきた。
図5はその一例を示している。
同図において200はレビテーション溶解炉(以下単に溶解炉とする)で、水冷の銅るつぼ202と、その外側に配した高周波誘導加熱コイル204とを有している。
この溶解炉200では、高周波誘導加熱コイル204による高周波誘導加熱により、Ti合金を銅るつぼ202内部で溶解する。
【0003】
このときTi合金の溶湯は、その表層部に惹起される電流による磁界と、銅るつぼ202の壁部に発生する電流による磁界とが互いに逆位相となってそれらの間に生ずる反発力、即ちローレンツ斥力によって、銅るつぼ202の壁部から離れた状態となる。即ちTi合金溶湯が銅るつぼ202の内壁面から離間し浮遊状態となる。
【0004】
206は減圧チャンバで、その内部にロストワックス法(インベストメントモールド法ともいう)にて作製されたセラミックス製且つ通気性の多孔質の鋳型208が収容されている。
ここで鋳型208の内部には、製品成形のためのキャビティ212が備えられている。
【0005】
214は鋳型208の内部に連通して設けられた吸上管で、この吸上管214を通じて溶解炉200内部のTi合金の溶湯が鋳型208の内部、詳しくはキャビティ212に吸い上げられる。
【0006】
減圧チャンバ206は外筒216の内面に沿って昇降可能とされており、そして減圧チャンバ206の下降により吸上管214が共に下降して、溶解炉200内のTi合金の溶湯に浸漬される。また減圧チャンバ206は上昇することで、吸上管214が溶解炉200上に引き上げられる。
【0007】
218はガス導入口で、このガス導入口218を通じて非酸化性のガス(例えばArガス)が導入されることで、溶解炉200及び外筒216の内部空間が非酸化性雰囲気とされる。
尚、220はガス排出口で、222は、減圧チャンバ206内部を減圧するための減圧吸引管である。
【0008】
この図5に示す減圧吸上鋳造法では、減圧チャンバ206の下降により吸上管214を溶湯に浸漬させた状態とし、その状態で減圧チャンバ206内部を減圧にすることで、溶解炉200内部のTi合金の溶湯を吸上管214を通じてキャビティ212に吸い上げて充填し、その後これを凝固させる。
【0009】
そして溶湯が凝固した後、再び減圧チャンバ206を上昇させて、減圧チャンバ206内部の鋳型208を鋳造品とともに取り出す。
以上の鋳造法によれば、酸化され易いTi合金の鋳造品を非酸化性雰囲気中で良好に鋳造することが可能である。
尚、この種の減圧吸上鋳造法については、例えば下記特許文献1にその一例が開示されている。
【0010】
このTi合金の鋳造品の例として、ターボチャージャのタービンホイールがある。
図6は、その例を具体的に示している。
同図において224はタービンロータで、タービンホイール226とコンプレッサホイル228とがロータシャフト230で連結されている。
ここでタービンホイール226,コンプレッサホイル228のそれぞれには、外周面に沿って放射状に多数のブレードが設けられている。
【0011】
このタービンロータ224では、タービンホイール226でエンジンからの排気ガスの流れを受けて回転し、そしてコンプレッサホイル228の回転により空気を圧縮して、これをエンジンの吸気側に供給する。
従ってタービンホイール226は、900℃付近にも達する高温の排気ガスに曝された状態で超高速で回転運動させられる。
【0012】
そこでかかるタービンホイール226としては、高温強度に優れた材料を用いる必要がある。
このようなタービンホイール226の材料としては、Ti合金の中で特に耐熱強度が強く、また軽量なTiAl金属間化合物を基とするTi合金を好適に用いることができる。
【0013】
TiAl金属間化合物を基とするTi合金については、例えば下記特許文献2,特許文献3,特許文献4にその一例が開示されている。
具体的には、特許文献2には質量%でAlを30〜36%含有し、その他に
(1) 0.5〜15質量%のNb、
(2) 0.5〜15質量%のNbと、更にB,C及びSiの1種以上を0.01〜0.5質量%、
(3) 0.1〜4質量%のCr、
(4) 0.1〜4質量%のCrと、更にB,C及びSiの1種以上を0.01〜0.5質量%、
(5) 0.1〜6質量%のMo、
(6) 0.1〜6質量%のMoと、更にB,C及びSiの1種以上を0.01〜0.5質量%、
(7) 0.1〜8質量%のVと、更にB及びSiの1種又は2種を0.01〜0.5質量%
のうちの何れかを含有し、残部がTi及び不可避不純物から成るTiAl金属間化合物を基とするTi合金が開示されている。
【0014】
また下記特許文献3には、質量%でAl:28〜38%,Nb;0.5〜20%を含有し、その他にSi,Zr,Sn,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,V,Mo,Hf,W,Ta,B,C等を適宜含有させて成るTiAl金属間化合物を基とするTi合金が開示されている。
【0015】
更に特許文献3には、タービンホイールを構成するTiAl金属間化合物を基とするTi合金の例として、質量%でAl:31〜35%含有するTi合金が、また更にその他の成分としてCr,Mn,Vの何れか1種又は2種以上を0.2〜4%を含むTi合金,Nb,Ta,V及びReの何れか1種又は2種以上を0.2〜10%含有するTi合金,Si:0.01〜1.00%含有するTi合金,Zr:1.0%未満,Fe:1.0%未満,C:0.2%未満,O:0.2%未満,N:0.2%未満とするTi合金の組成例が開示されている。
【0016】
上記したようにタービンホイール226は高温環境下で、しかも極めて高速で回転運動するものであり、かかるタービンホイール226には特に優れた高温クリープ強度が求められる。
高温クリープ強度が不十分であると、タービンホイール226が超高速回転したときに、その遠心力で半径方向に伸びを生じ、場合によってタービンホイール226がタービンハウジングに接触したり当ってしまったりする不具合を生じる恐れがある。
【0017】
そこでタービンホイール226用のTiAl金属間化合物を基とするTi合金にCを高含量(例えば0.04%以上)で添加することが提案されている。
Cを高含量で添加することで高温クリープ強度が強まり、これによりタービンホイール226が高速回転した時の伸びを低く抑えることができる。
【0018】
ところがこのようにCを高含量で添加したTiAl金属間化合物を基とするTi合金を材料としてタービンホイール226を上記の減圧吸上鋳造で鋳造すると、鋳造品にガス欠陥が多発し、良品歩留りが10%未満となってしまって実質上量産ができないといった問題が生ずる。
【0019】
例えば図5は鋳造品の一例としてのタービンホイール226を減圧吸上鋳造する場合の例を示したものであるが、タービンホイール226の材料として低CのTiAl金属間化合物を基とするTi合金を用いた場合にはガス欠陥の発生は特に認められないが、高CのTiAl金属間化合物を基とするTi合金を材料として用いた場合、図7中Aで示す部位にガス欠陥が多発してしまう。
【0020】
図中Aで示す部位は、鋳造に際して押湯の効き難い部分で且つ最終凝固に近い部位であり、凝固時に溶融ガスの溶解度が低下し放出されたことにより、ガス欠陥が発生したものと考えられる。
特に減圧条件下での吸上鋳造では、凝固時に減圧条件の下で溶湯中に固溶した炭素()と酸素()とが下記反応により一酸化炭素ガス(CO)を生成し易くなる。
→CO(気体)
そして特に溶解度が低下する凝固直前で鋳造品内部にガス放出されて、これがガス欠陥を生ぜしめるものと推察される。
このためCを高含量で添加したTiAl金属間化合物を基とするTi合金を材料として用いた場合、タービンホイール226を鋳造にて製造することが実際上できないのが実情であった。
【0021】
以上高CのTiAl金属間化合物を基とするTi合金を材料としてタービンホイールを鋳造により製造する場合を例として説明したが、鋳造に際してのガス欠陥の発生の問題は、C:0.04〜0.10%含有する高CのTi合金材料を用いて製品を鋳造により製造する際に共通して生じ得る問題である。
【0022】
尚本発明に対する先行技術として、下記特許文献5,特許文献6,特許文献7に鋳造方法に関連した内容が開示されている。
【0023】
【特許文献1】特開平6−114532号公報
【特許文献2】特開平1−298127号公報
【特許文献3】特開平3−226538号公報
【特許文献4】特開平10−220236号公報
【特許文献5】特開平5−200518号公報
【特許文献6】特開平10−99955号公報
【特許文献7】特開2000−225455号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明は以上のような事情を背景とし、高CのTi合金材料を用いて鋳造により製品を製造するに際してガス欠陥の発生を効果的に抑制し得るTi合金鋳造品の製造方法を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
而して請求項1のものは、鋳型の内部のキャビティに質量%でC:0.04〜0.10%含有する高CのTi合金の溶湯を充填し、該鋳型を内部の溶湯と共に高速回転させて、回転中心から離隔した位置の前記キャビティの溶湯に遠心力を作用させ鋳造を行うことを特徴とする。
【0026】
請求項2のものは、鋳型の内部を減圧として該鋳型のキャビティに質量%でC:0.04〜0.10%含有する高CのTi合金の溶湯を吸い上げて充填するとともに減圧下で該鋳型を内部の溶湯と共に高速回転させて、回転中心から離隔した位置の該キャビティの溶湯に遠心力を作用させ鋳造を行うことを特徴とする。
【0027】
請求項3のものは、請求項2において、前記鋳型を通気性を有する多孔質鋳型となして該鋳型を減圧チャンバ内に且つ該減圧チャンバの回転中心から前記キャビティが離隔して位置するように配置し、該減圧チャンバ内を減圧状態とすることで該キャビティに前記溶湯を吸い上げ且つ該減圧チャンバを該回転中心回りに高速回転させることで該溶湯に遠心力を作用させ鋳造を行うことを特徴とする。
【0028】
請求項4のものは、請求項1〜3の何れかにおいて、前記Ti合金がTiAl金属間化合物を基とするTi合金であることを特徴とする。
【0029】
請求項5のものは、請求項1〜4の何れかにおいて、前記溶湯に少なくとも1G(但しGは重力加速度)以上の加速度で遠心力を作用させて鋳造を行うことを特徴とする。
【0030】
請求項6のものは、請求項1〜5の何れかにおいて、前記鋳造品がターボチャージャのタービンホイールであることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0031】
以上のように本発明はC:0.04〜0.10%含有する高CのTi合金を材料として用い、これを鋳造して製品製造を行うようになすとともに、その鋳造に際して鋳型を内部の溶湯とともに高速回転させて溶湯に遠心力を作用させ、鋳造を行うものである。
本発明によれば、鋳造品にガス欠陥が生じるのを良好に抑制でき、従って高CのTi合金を材料として用いた場合においても鋳造品を量産することが可能となる。
【0032】
本発明において、ガス欠陥の発生を抑制することができるのは次の理由によるものと考えられる。
本発明によれば、鋳型内部での溶湯の凝固を加圧下で進行させることができ、このため凝固直前でガスの溶解度が低くなっても、その圧力の作用で溶解ガスの放出を抑制でき、また凝固過程で遠心力による圧力が押湯効果を発揮する。
そしてこれらによってガス欠陥の発生を抑制できるものと考えられる。
【0033】
またたとえキャビティの溶湯内で微細なガスが発生したとしても回転の外周側であるキャビティの溶湯から回転中心の溶湯にかけて、回転中心に向かい圧力が低くなる圧力勾配が生じるため、発生したガスが圧力の低い回転中心側に浮力で追い出されて移行するため、製品にガス欠陥が発生するのが更に効果的に抑制されるものと考えられる。
【0034】
前述したように鋳造に際してのガス欠陥の発生の問題は、高CのTi合金材料を用いる場合に共通して生じ得る問題であり、従って本発明はこのようなTi合金を材料として鋳造により製品製造する場合に適用可能である。
【0035】
ここでTi合金としては後述のTiAl金属間化合物を基とするTi合金の他に、例えばTi−6Al−4V,Ti−22V−4Al,Ti−2.5V−3Al,Ti−6Al−7Nb,Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo,Ti−8Al−1Mo−1V等を例示することができるが、他のTi合金を材料として用いる場合にも本発明は適用可能である。
【0036】
更に本発明は、鋳造方法として特許文献5,特許文献6,特許文献7に開示されている鋳造方法を用いることも可能である。
詳しくは、特許文献5及び特許文献6に開示されているように真空容器内部で溶湯を重力にて鋳型内部に充填し遠心鋳造する方法,特許文献7に開示されているように溶湯を金型にて構成した鋳型の内部に減圧吸上げし且つ遠心鋳造する方法等を用いることが可能である。
【0037】
但し本発明は、鋳造方法として鋳型の内部を減圧としてTi合金の溶湯を吸い上げてキャビティに充填し、そして減圧下で鋳型を内部の溶湯とともに高速回転させて溶湯に遠心力を作用させ鋳造を行う減圧吸上鋳造方法を用いた鋳造品の製造に適用して特に好適である(請求項2)。
【0038】
この場合において、鋳型を通気性を有する多孔質鋳型となして、鋳型を減圧チャンバ内に収容し、そして減圧チャンバ内を減圧状態とすることでキャビティに溶湯を吸い上げ且つ減圧チャンバを回転中心回りに高速回転させることで溶湯に遠心力を作用させ、鋳造を行うようになすことができる(請求項3)。
【0039】
本発明は、特にTiAl金属間化合物を基とするTi合金を材料として鋳造品を製造する場合に適用して好適なものである(請求項4)。
【0040】
ここでTiAl金属間化合物を基とするTi合金としては、例えば特許文献2,特許文献3,特許文献4に開示されたTi合金、或いはその他のTi合金を用いることが可能であるが、より好適には以下の組成を有するものを用いるのが良い。
Al:28〜38質量%
Nb:0.1〜20質量%
C :0.04〜0.10質量%
残部不可避的不純物及びTi
尚必要に応じて以下の成分の何れか1種以上を含んでいても良い。
Cr,Mo,Ni,W,Mn,Ta,Si,Cu,Fe,Co,V,N,Bi,B,
Ta,Hf,Zr,Sn
【0041】
本発明では、鋳造を行うに際して少なくとも1G以上の加速度で遠心力を作用させて鋳造を行うことが望ましい(請求項5)。
また本発明は、特にターボチャージャのタービンホイールの製造に適用して好適である(請求項6)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
次に本発明をターボチャージャのタービンホイールの製造に適用した場合の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本実施形態の製造方法の実施装置を示したもので、図中10はレビテーション溶解炉(以下単に溶解炉とする)であり、水冷の銅るつぼ12と、その外側に配された高周波誘導加熱コイル14とを有している。
【0043】
この溶解炉10では、高周波誘導加熱コイル14による高周波誘導加熱によりTi合金素材を銅るつぼ12内部で溶解する。
溶解したTi合金の溶湯は、その表層部に惹起される電流による磁界によって銅るつぼ12の壁部から離れて浮遊状態となる。
【0044】
16は減圧チャンバで、その内部にロストワックス法にて作製した通気性を有するセラミックス製且つ多孔質の鋳型18がバックアップサンド20と共に収容されている。
【0045】
鋳型18の内部には、製品としてのタービンホイールを成形するための複数のキャビティ24が減圧チャンバ16の回転中心Pから離隔した位置に形成されており、更にその中心部に幹湯道26が、また幹湯道26と各キャビティ24を繋ぐ枝湯道28が形成されている。
この鋳型18からは、減圧チャンバ16の底部を貫通して吸上管30が下向きに突き出している。
尚32はメッシュコーンで、このメッシュコーン32を介してその下側空間と蓋34の内側空間とが連通した状態とされている。
【0046】
36は基台で、この基台36上に外筒38が起立状態に固定されている。
40は外筒38の内側に設けられた内筒で、図示を省略する駆動装置により外筒38との間の気密を保った状態で昇降可能とされている。
上記減圧チャンバ16はこの内筒40の内側に設けられている。
【0047】
42は減圧チャンバ16を回転駆動するモータで、その出力軸44上に回転円板46が固設され、この回転円板46の外周面が減圧チャンバ16の外周面に環状に設けられたフランジ部48の外周面に押圧されている。
【0048】
このフランジ部48の外周面にはまた、別の位置で支持ローラ50の外周面が接触させられており、減圧チャンバ16が高速回転する際に横向きの力が支持ローラ50にて支持されるようになっている。
この装置では、回転円板46をモータ42にて高速回転させることで減圧チャンバ16が内部の鋳型18及びバックアップサンド20とともに高速回転させられる。
【0049】
尚54は非酸化性ガスとしてのアルゴンガスを導入するガス導入口であり、このガス導入口54からのアルゴンガスの導入により、外筒38の内側空間即ち溶解炉10の内部空間及び減圧チャンバ16内部がアルゴンガスで置換される。
【0050】
本実施形態の製造方法では、ガス導入口54からアルゴンガスを導入した状態でモータ42により減圧チャンバ16を高速回転させ、その状態で減圧チャンバ16を下降させて吸上管30を溶解炉10内部の溶湯中に浸漬させる。
【0051】
そして減圧吸引口52からの吸引によって減圧チャンバ16内部が減圧状態とされ、これにより溶解炉10内部の溶湯が吸上管30を通じて鋳型18内部に吸い上げられ、幹湯道26及び枝湯道28を通じて各キャビティ24に充填される。
【0052】
各キャビティ24に充填された溶湯は、減圧チャンバ16の回転中心P回りの鋳型18の高速回転によって、遠心力でキャビティ24に強い押湯圧力で押し付けられる。そして所定時間同状態が保持されて溶湯が凝固せしめられる。
その後減圧が解除されるとともに減圧チャンバ16の回転が停止され、そして減圧チャンバ16が内筒40とともに上昇せしめられて、その後鋳型18が内部の鋳造品とともに外部に取り出される。
図2はこのようにして取り出した鋳造品としてのタービンホイール53を幹湯道26,枝湯道28で凝固した軸状の部分55,56とともに表している。
各タービンホイール53は、その後軸状の部分56で切断されて単離される。
【実施例】
【0053】
ロストワックス法にて作製した多孔質の鋳型を用いてタービンホイールを上記に述べた鋳造方法で鋳造し製造した。
ここでは合金素材としてTi−33.2Al−4.8Nb−1.0Cr−0.2Si(数値は質量%)を基本組成としてCの含有量を種々変化させたものを用い、そしてキャビティの溶湯に加わる遠心力(G)を様々に変化させてガス欠陥の発生率を調べた。
ここで、回転の加速度Gは次の式によって与えられる。
G=11.8×(N/1000)×r
(但しN:回転数(RPM),r:回転半径(図1中回転中心Pから翼部の軸方向中心までの距離))
尚、溶湯の鋳込温度は1550〜1580℃とした。
【0054】
その結果が図3に示してある。図中横軸はGを表し、また縦軸はCの添加量を表している。
図3において、ガス欠陥の発生率の評価は○,△,×で行った。ここでガス欠陥発生率が10%未満の場合を○とし、10%〜30%までを△とし、また30%超の場合を×とした。
尚、横軸のG=0上の試験結果は、図5に示す装置を用いて遠心力をかけない通常の減圧吸引鋳造を行って得た結果である。
【0055】
図3に示しているように、Cの添加量が増えるのに伴ってガス欠陥発生率が高くなること、この場合においてGの値を大きくして行くことで、そのガス欠陥発生率を効果的に抑制できることが分る。
また図3から、C量が0.04〜0.05%の範囲ではGを1.7以上とすることで良好な結果が得られ、またC量が0.05〜0.06%の範囲ではGを2.3以上とすることで、更にC量が0.06〜0.07%の範囲ではGを3.1以上とすることで、更にC量が0.07〜0.08%の範囲ではGを4.4以上とすることで、またC量が0.08〜0.09%の範囲ではGを6.1以上とすることで良好な結果が得られることが分る。
【0056】
次に図4はC量を0.07%に固定し、Gの値を様々に変えてガス欠陥発生率を調べた結果を表している。
図示のようにGの値が大きくなるのに従ってガス欠陥発生率は、そのGの上昇と連動して低下することが確認された。
【0057】
このように、本実施例において遠心鋳造を行うことでガス欠陥の発生を抑制することができるのは、鋳型18内部での溶湯の凝固を加圧下で進行させることができ、このため凝固直前でガスの溶解度が低くなった場合であっても、その圧力の作用で溶解ガスの放出を抑制でき、また凝固過程で遠心力による圧力で押湯効果を発揮することができることによるものと考えられる。
【0058】
またキャビティ24の溶湯内でたとえガスが発生したとしても、この実施例の遠心鋳造方法ではキャビティ24の溶湯から減圧チャンバ16の回転中心に向かって、溶湯に作用する圧力が連続的に小さくなる圧力勾配が生じているため、その発生したガスが圧力の低い回転中心側に向かって移動すること、即ちガスが溶湯による浮力によって中心側に移行し、キャビティ24の溶湯内から追い出されることによってガス欠陥の発生が抑えられたものと考えられる。
【0059】
以上本発明の実施形態を詳述したが、これはあくまで一例示であり、本発明はTiAl金属間化合物を基とするTi合金以外の一般のTi合金を材料として用い、またタービンホイール以外の、例えばコンプレッサホイール等の鋳造品を製造するに際しても適用可能である等、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた態様で実施可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施形態の方法の実施装置を表した図である。
【図2】同方法にて得た鋳造品としてのタービンホイールを示した図である。
【図3】実施例の結果得られた、遠心力とC添加量がガス欠陥発生率に及ぼす影響を表した図である。
【図4】C量を固定して遠心力を様々に変化させたときの遠心力とガス欠陥発生率との関係を表した図である。
【図5】従来の減圧吸上鋳造方法を実施装置とともに表した図である。
【図6】タービンロータを表した図である。
【図7】従来の鋳造による製造方法の問題点の説明図である。
【符号の説明】
【0061】
16 減圧チャンバ
18 鋳型
24 キャビティ
53 タービンホイール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型の内部のキャビティに質量%でC:0.04〜0.10%含有する高CのTi合金の溶湯を充填し、該鋳型を内部の溶湯と共に高速回転させて、回転中心から離隔した位置の前記キャビティの溶湯に遠心力を作用させ鋳造を行うことを特徴とするTi合金鋳造品の製造方法。
【請求項2】
鋳型の内部を減圧として該鋳型のキャビティに質量%でC:0.04〜0.10%含有する高CのTi合金の溶湯を吸い上げて充填するとともに減圧下で該鋳型を内部の溶湯と共に高速回転させて、回転中心から離隔した位置の該キャビティの溶湯に遠心力を作用させ鋳造を行うことを特徴とするTi合金鋳造品の製造方法。
【請求項3】
請求項2において、前記鋳型を通気性を有する多孔質鋳型となして該鋳型を減圧チャンバ内に且つ該減圧チャンバの回転中心から前記キャビティが離隔して位置するように配置し、該減圧チャンバ内を減圧状態とすることで該キャビティに前記溶湯を吸い上げ且つ該減圧チャンバを該回転中心回りに高速回転させることで該溶湯に遠心力を作用させ鋳造を行うことを特徴とするTi合金鋳造品の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかにおいて、前記Ti合金がTiAl金属間化合物を基とするTi合金であることを特徴とするTi合金鋳造品の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかにおいて、前記溶湯に少なくとも1G(但しGは重力加速度)以上の加速度で遠心力を作用させて鋳造を行うことを特徴とするTi合金鋳造品の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかにおいて、前記鋳造品がターボチャージャのタービンホイールであることを特徴とするTi合金鋳造品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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