説明

Ti含有撥水性材料およびその製造法

【課題】Tiを含む酸化物の表面を疎水化することにより、Tiを含む酸化物の機能性材料としての用途を拡大する。
【解決手段】基材と、基材の表面に形成された撥水層とを含み、基材が、Tiを含む酸化物を含み、撥水層が、有機重合体を含む、撥水性材料を提供する。Tiを含む酸化物は、例えばTiとSiとの複合酸化物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Tiを含む酸化物を主体とする撥水性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
Tiを含む酸化物は、高い光触媒活性を有するため、様々な用途への展開が期待されている。Tiを含む酸化物の中でも、TiとSiとを含む複合酸化物は、吸着材料や触媒担体を始め、様々な機能性材料として用いられている。Tiを含む酸化物の物性は、表面積、撥水性などにより、大きく左右される。そこで、所望の物性を有する材料を得る観点から、Tiを含む酸化物の表面物性を制御する研究が盛んに行われている。
【0003】
近年では、TiとSiとを含む複合酸化物からなるメソポーラス材料の研究も行われている。メソポーラス材料は、触媒担体としての機能や分子ふるい効果を発現する。メソポーラス材料は、界面活性剤のミセルを構造規制剤として用いる手法により合成される。例えば、界面活性剤のミセルが浮遊する溶液中に、シリカの原料であるアルコキシシランを添加すると、ミセルの周辺でシリカが生成する。生成したシリカはミセルの構造を反映しており、一般に、ハニカム状に規則正しく配列した円筒状のメソ細孔を有する(特許文献1)。
【特許文献1】特開2006−151753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Tiを含む酸化物、なかでもTiとSiとを含む複合酸化物は、通常、多くの表面水酸基を有する。特にメソポーラス材料は、水溶液中で合成されるため、表面は親水性が極めて高く、触媒担体としての機能や分子ふるい効果を発現することが困難な場合がある。例えば、親水性の低い分子は、メソ細孔に侵入することができず、親水性の高い分子は、メソポーラス材料の表面に一旦吸着すると、脱離することが困難となる。
【0005】
本発明は、上記を鑑み、Tiを含む酸化物の表面を疎水化することにより、Tiを含む酸化物の機能性材料としての用途を拡大することを目的とする。本発明は、特に、撥水性材料からなる薄膜、触媒(例えば光触媒)、分子ふるい材料などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、基材と、基材の表面に形成された撥水層とを含み、基材が、Tiを含む酸化物を含み、撥水層が、有機重合体を含む、撥水性材料に関する。
ここで、有機重合体は、ポリエチレンを含むことが好ましい。
【0007】
本発明の一形態において、Tiを含む酸化物は、例えばTiとSiとの複合酸化物を含む。本発明の一形態において、TiとSiとの複合酸化物は、規則的に配列した複数の筒状のメソ細孔を有する。
【0008】
本発明の一形態において、TiとSiとの複合酸化物に含まれるTi元素のモル数の、Si元素のモル数に対する割合:Ti/Siは、0.001≦Ti/Si≦0.1の範囲が好適である。
【0009】
有機重合体の重量WOPの、Tiを含む酸化物の重量WTiに対する割合:WOP/WTiは、0.000001≦WOP/WTi≦1の範囲が好適である。
Tiを含む酸化物に含まれるTi元素の少なくとも一部は、4配位構造を有することが好ましい。
本発明の撥水性材料は、水との接触角が、例えば20°以上、50°以上、もしくは90°以上である。
【0010】
本発明は、また、(i)Tiを含む酸化物を供給する工程と、(ii)Tiを含む酸化物を、光照射下で、エチレンガスと接触させることにより、Tiを含む酸化物上に、ポリエチレンを含む撥水層を形成する工程と、を有する、撥水性材料の製造法に関する。
【0011】
ここで、Tiを含む酸化物を形成する工程は、例えば、Ti含有アルコキシドと、Si含有アルコキシドとを含む原料液を調製する工程と、原料液からTiとSiとの複合酸化物の前駆体を生成させ、前駆体を焼成する工程とを有する。
あるいは、Tiを含む酸化物を形成する工程は、Ti含有アルコキシドと、Si含有アルコキシドとを含む原料液を調製する工程と、原料液を基体に塗布し、塗膜を焼成する工程とを有する。基体は、特に限定されないが、例えば、金属、ガラス、木材、プラスチックなどを含む。
本発明は、更に、上記の撥水性材料からなる薄膜、光触媒、分子ふるい材料などに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、Tiを含む酸化物の表面に撥水性を容易に付与することができ、Tiを含む酸化物を主体とする新規な撥水性材料を得ることができる。また、Tiを含む酸化物の表面の疎水性を任意に制御することができる。例えば、光触媒機能を有する撥水性の薄膜、メソ細孔を有する触媒担体や分子ふるい材料などを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の撥水性材料は、基材と、基材の表面に形成された撥水層とを含む。基材は、Tiを含む酸化物を含み、撥水層は、有機重合体を含む。
Tiを含む酸化物は、特に限定されないが、例えば二酸化チタンや、TiとSiとの複合酸化物が好ましい。二酸化チタンは、アナタース型でもよく、ルチル型でもよい。TiとSiとの複合酸化物は、Si−O−Ti結合を有する酸化物であり、非晶質でもよく、結晶質でもよい。非晶質のTiとSiとの複合酸化物として、例えばアモルファスシリカとそのマトリックスに分散したTiとの複合物があり、結晶質のTiとSiとの複合酸化物として、例えばゼオライトやメソポーラス材料がある。
【0014】
非晶質のTiとSiとの複合酸化物は、例えば、ゾル−ゲル法、化学気相成長法(CVD法)、蒸着法など、様々な方法で得ることができる。なかでもゾル−ゲル法は、複合酸化物の組成の制御が容易であり、純度の高い複合酸化物を得ることができる。TiとSiとの複合酸化物に含まれるTi含有量が低いほど、Tiの分散性が高くなり、光触媒活性が高くなるとの報告がある。
【0015】
非晶質のTiとSiとの複合酸化物の場合、複合酸化物に含まれるTi元素のモル数の、Si元素のモル数に対する割合:Ti/Si比は、0.001≦Ti/Si≦0.2を満たすことが好ましく、0.01≦Ti/Si≦0.05を満たすことが更に好ましい。Ti/Si比が小さすぎると、基材の表面に十分な撥水層を形成することができない場合がある。一方、Ti/Si比が大きすぎると、Tiがシリカで被覆される割合が高くなる場合がある。
【0016】
ゼオライトは、結晶中に微細孔を有するアルミノ珪酸塩の総称であり、天然ゼオライトと人工ゼオライトがある。本発明では、どのようなゼオライトでも基材に用いることができる。
【0017】
メソポーラス材料は、規則的に配列した複数の筒状のメソ細孔を有する。筒状のメソ細孔は、例えばハニカム状に配列しており、メソ細孔は、ほぼ均一な大きさを有する。メソ細孔の内径は、一般に2〜50nm程度であるが、これに限定されない。メソ細孔の内径は、メソポーラス材料を合成する際に用いられる構造規制剤の種類に依存する。
【0018】
構造規制剤には、様々な界面活性剤が用いられる。界面活性剤は、溶媒中でミセル集合体を形成することが知られている。チタンとシリカの原料を含む溶媒中で、界面活性剤が規則的な配列(例えばヘキサゴナルな配列)でミセル集合体を形成することにより、溶媒中でのシリカの成長が規制され、TiとSiとの複合酸化物からなるメソポーラス材料が生成する。
【0019】
メソポーラス材料に含まれるTiのモル数の、Si元素のモル数に対する割合:Ti/Si比は、0.001≦Ti/Si≦0.1を満たすことが好ましく、0.005≦Ti/Si≦0.05を満たすことが更に好ましい。Ti/Si比が小さすぎると、基材の表面に十分な撥水層を形成することができない場合がある。一方、Ti/Si比が大きすぎると、メソ細孔の発達が困難となる場合がある。
【0020】
非晶質のTiとSiとの複合酸化物は、例えば、以下の要領で合成することができる。
まず、Ti含有アルコキシドと、Si含有アルコキシドとを含む原料液を調製する。原料液は、Ti含有アルコキシドと、Si含有アルコキシドとを、混合することにより、調製することができる。原料液に含まれるTi含有アルコキシドの量は、所望の複合酸化物におけるTi含有量に応じて選択すればよい。必要に応じて、原料液に溶媒を混合してもよい。
【0021】
溶媒には、水または水とアルコールとの混合物を用いることが好ましい。アルコールとしては、例えば、1〜5個程度の炭素数を有する低級アルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノールなど)を用いることができる。溶媒には、触媒として、酸(例えばHCl)、塩基などを添加してもよい。
【0022】
得られた混合液を、10℃〜40℃(好ましくは20℃〜30℃)で、ゲル化させ、必要に応じて乾燥させる。得られたゲル(複合酸化物の前駆体)を焼成することにより、有機物が除去され、非晶質のTiとSiとを含む複合酸化物が得られる。
【0023】
TiとSiとの複合酸化物からなるメソポーラス材料は、例えば、以下の要領で合成することができる。
まず、溶媒と、Ti含有アルコキシドと、Si含有アルコキシドと、構造規制剤である界面活性剤とを含む原料液を調製する。原料液は、所定の溶媒に、Ti含有アルコキシドと、Si含有アルコキシドと、界面活性剤とを添加し、混合することにより、調製することができる。
【0024】
溶媒には、水または水とアルコールとの混合物を用いることが好ましい。アルコールとしては、例えば、1〜5個程度の炭素数を有する低級アルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノールなど)を用いることができる。溶媒には、触媒として、酸(例えばHCl)、塩基などを添加してもよい。例えば、溶媒であるイオン交換水に、構造規制剤である界面活性剤と、塩酸とを添加する。得られた混合液に、Ti含有アルコキシドと、Si含有アルコキシドとを加える。
【0025】
メソポーラス材料は、原料液の調製と同時に直ちに生成することが多いが、10℃〜40℃(好ましくは20℃〜30℃)で、1時間〜48時間(好ましくは10時間〜24時間)は原料液を攪拌することが好ましい。これにより、TiとSiとの複合酸化物からなるメソポーラス材料(Ti含有メソポーラスシリカとも称する)を得ることができる。
【0026】
原料液に含まれる界面活性剤の量は、例えば水100モルあたり、0.1〜3モルもしくは0.5〜1.5モルが好適である。
原料液に含まれるSi含有アルコキシドの量は、例えば水100モルあたり、3〜20モルもしくは5〜10モルが好適である。
原料液に含まれるTi含有アルコキシドの量は、所望のメソポーラス材料におけるTi含有量と、原料液に含まれるSi含有アルコキシドの量とに応じて選択すればよい。
原料液に含まれるアルコールの量は、例えば水100モルあたり、10〜40モルもしくは15〜30モルが好適である。
原料液に含まれるHClの量は、例えば水100モルあたり、0.1〜3モルもしくは0.5〜1モルが好適である。
【0027】
その後、原料液からメソポーラス材料の前駆体を分離する。前駆体では、Tiの結晶構造への取り込みが不十分である。このような前駆体を焼成することにより、Tiがメソポーラスシリカの結晶構造に取り込まれ、同時に界面活性剤が除去される。
【0028】
構造規制剤である界面活性剤は、特に限定されないが、例えばポリエチレングリコールドデシルエーテル、ラウリルポリオキシエチレンエーテルなどの非イオン界面活性剤などを用いることができる。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。構造規制剤となる界面活性剤の分子量は、250〜3000もしくは300〜1000が好適である。
【0029】
Si含有アルコキシドとしては、オルトケイ酸テトラエチル(テトラエトキシシラン)、テトラメトキシシランなどを用いることができる。また、Si含有アルコキシドの代わりに、塩化ケイ素、ケイ酸塩などを用いることもできる。これらは単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
Ti含有アルコキシドとしては、特に限定されないが、例えばテトラエトキシチタン、トリイソプロポキシチタンを用いることができる。Ti含有アルコキシドは1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
非晶質または結晶質のTiとSiとの複合酸化物からなる薄膜を形成する場合には、例えば、原料液を基体(例えばガラス基板)上に塗布し、得られた塗膜を基体とともに焼成する。これにより、基体の表面を覆う薄膜状の複合酸化物を得ることができる。
【0032】
撥水層は、例えば、以下の要領で、Tiを含む酸化物を含む基材の表面に形成することができる。
まず、基材と有機単量体とを接触させる。有機単量体は、特に限定されないが、エチレン、プロピレンなどのオレフィンを用いることが好ましい。有機単量体は、1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。撥水性材料の撥水性の制御が容易であることから、有機単量体はエチレンであることが特に好ましく、有機重合体はポリエチレンを含むことが特に好ましい。
【0033】
基材には、光触媒作用を有するTiが含まれているため、光照射下で、基材上で単量体の重合が進行する。その結果、有機重合体を含む撥水層が基材の表面に形成される。単量体の重合の際には、基材に波長200nm〜400nmの光を照射することが好ましい。光照射中の基材の温度は、例えば20℃〜80℃に保持する。これにより、撥水層の劣化を抑制することができる。有機重合体を合成する際の反応雰囲気において、有機単量体の圧力、すなわち基材の周囲における有機単量体の圧力は、例えば2Torr〜100Torr(1Torr=133.322Pa)が好適である。
【0034】
撥水層に含まれる有機重合体の重量WOPの、基材に含まれるTiを含む酸化物の重量WTiに対する割合:WOP/WTi比は、所望の撥水性に応じて調整すればよい。例えば、0.000001≦WOP/WTi≦1、もしくは0.0001≦WOP/WTi≦0.1の範囲であれば、高度な撥水性を実現することが可能である。
【0035】
Tiを含む酸化物に含まれるTiの少なくとも一部は、4配位構造を有することが好ましい。4配位構造のTiは、高い光触媒活性を有すると考えられるためである。
【0036】
本発明の撥水性材料は、水との接触角が、例えば20°以上、50°以上もしくは90°以上である。また、WOP/WTi比を適正に制御することにより、100°以上の接触角を達成することも可能である。
【0037】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
《実施例1》
(i)基材の調製
次の原料を用い、基材であるTi含有メソポーラスシリカを以下の要領で調製した。
[原料]
イオン交換水:オルガノ(株)製のカートリッジ純水器G−10C形により精製した水道水
オルトケイ酸テトラエチル(TEOS:(C25O)4Si):和光純薬工業(株)製の特級試薬(純度95%)
硝酸クロム(III)九水和物(Cr(NO3)6・9H2O):和光純薬工業(株)製の1級試薬
テトラエトキシチタン(TEOT:(C25O)4Ti):和光純薬工業(株)製の特級試薬(純度95%)
エタノール(C25OH):和光純薬工業(株)製の特級試薬(純度99.5%)
塩酸(HCl):和光純薬工業(株)製の試薬(5mol/L)
ラウリルポリオキシエチレンエーテル(H(C24O)4OC1225):シグマアルドリッチジャパン(株)製の試薬(純度98%)
【0038】
[調製]
(原料液)
テトラフルオロエチレン製容器中で、構造規制剤であるラウリルポリオキシエチレンエーテル、エタノール、イオン交換水および塩酸を混合した。得られた混合物に、TEOTとTEOSとを加え、20℃で20分間攪拌し、原料液を得た。原料液に含まれる材料のモル比は、H2O:(TEOS+TEOT):構造規制剤:HCl:エタノール=100:8:0.9:0.8:25とした。TEOS:TEOTのモル比は100:1とした。
【0039】
原料液を、縦10mm×横10mm×厚さ1mmの石英基板(基体)上にスピンコート法で塗布した。具体的には、300rpmで回転中の石英基板上に、原料液20mlを滴下し、その後も石英基板を4000rpmで1分間回転させた。原料液が均一に塗布された石英基板を、1分/℃の昇温条件で250℃まで加熱し、250℃で5時間、空気中で焼成した。その結果、Ti含有メソポーラスシリカ薄膜(厚さ1〜3μm)が得られた。Ti含有メソポーラスシリカに含まれるTi元素のモル数の、Si元素のモル数に対する割合:Ti/Siは0.01であった。
【0040】
(ii)撥水層の形成
[前処理]
Ti含有メソポーラスシリカ薄膜の試料を石英製の反応セルに導入し、200℃で2時間、反応セル内を排気した。次に、反応セルの気体導入口から、反応セルに酸素を導入し、200℃で2時間、試料を加熱処理した。その後、150℃で2時間、反応セル内を排気した。
【0041】
[ポリエチレン合成]
図1のような反応装置を用いて、以下の要領でポリエチレンからなる撥水層を形成した。
前処理後のTi含有メソポーラスシリカ薄膜の試料11を収容した反応セル12に、気体導入口13から、エチレンガスを導入した。エチレンガスの導入直後、反応セル12内におけるエチレンガスの圧力は2Torrとした。
【0042】
反応セル12は、冷却水14が満たされた水槽15に浸漬した。反応セル12の下部と対面する水槽15の底部には、石英ガラス製のUV光照射窓16を設けた。照射窓16から、波長200nm〜360nmのUV光を24時間照射した。照射窓16とUV光の光源17との距離は10cmとした。光量は、波長360nmで1850μW/cm2であった。光源17には(株)東芝製の理化学用水銀灯SHL−100UVを用いた。UV光照射中、反応セル12内の温度は、冷却水14の作用により、30℃に保持された。
【0043】
上記の要領で、Ti含有メソポーラスシリカ薄膜中に含まれるTiを触媒とする光触媒反応により、ポリエチレンの合成を進行させ、これによって試料11の薄膜の表面に、撥水層を形成した。
【0044】
ポリエチレンの合成を終了後、Ti含有メソポーラスシリカ薄膜の重量は、0.03重量%増加した。よって、撥水層に含まれる有機重合体(ポリエチレン)の重量WOPの、Ti含有メソポーラスシリカの重量WTiに対する割合:WOP/WTiは0.0003であった。
【0045】
《比較例1》
実施例1と同様に、石英基板上にTi含有メソポーラスシリカ薄膜(厚さ1〜3μm)を形成した。得られた薄膜上へのポリエチレンからなる撥水層の形成は行わなかった。
【0046】
《実施例2》
Ti含有メソポーラスシリカに含まれるTi元素のモル数の、Si元素のモル数に対する割合:Ti/Siを、0.01≦Ti/Si≦0.1の範囲で変化させたこと以外、実施例1と同様に、石英基板上にTi含有メソポーラスシリカ薄膜(厚さ1〜3μm)を形成した。Ti/Si比は、TEOTとTEOSとの合計重量を一定とし、TEOT:TEOSのモル比を変化させることにより制御した。次に、Ti含有メソポーラスシリカ薄膜上に、実施例1と同様に、ポリエチレンからなる撥水層を形成した。
Ti/Si比とWOP/WTi比との関係を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
[評価]
各実施例および比較例で作製した薄膜について、以下の物性を評価した。
(i)XRDスペクトル
0.01≦Ti/Si≦0.1の試料および参照試料であるTi/Si=0の試料について、X線回折(XRD)測定を行った。ここでは、(株)リガク製の測定装置を用い、X線ビームにはCuK線(1.54056オングストローム)を用いた。測定の際、薄膜試料は測定用ガラスホルダに設置した。
測定条件を以下に示す。結果を図2に示す。
【0049】
X線管球 管球:Cu
管電圧:30kV
管電流:15mA
スリット 発散スリット:0.5°
散乱スリット:4.2°
受光スリット:0.3mm
モノクロ受光スリット:0.8mm
測定 ゴニオメータ:RINT2000縦型ゴニオメータ
アタッチメント:標準試料ホルダ
サンプリング幅:0.03°
計数時間:3秒
走査軸:2θ/θ
【0050】
(ii)XAFSスペクトル
Ti/Si=0.02の試料および参照試料である酸化チタン(アナタース型)について、XAFS(XANESおよびEXAFS)測定を行った。測定は、大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(旧高エネルギー物理学研究所)のフォトンファクトリーのBL−9Aライン(集光ミラー、高次光ミラー使用)で行った。TiのK−エッジ吸収スペクトルは、室温で蛍光モードで測定した。蛍光モードでは、電離箱の代わりに蛍光測定用検出器(ライトルボックス)を用いた。検出ガスにはHe(純度100%)を用いた。薄膜試料は、表面を浄化した後、窒素雰囲気下でポリエチレンのケース中にパージした。XAFS測定の際、薄膜試料はケースにパージされた状態で用いた。
スペクトル解析は、(株)リガク製のREX−EXAFSデータ解析プログラムを用いて行った。XANESスペクトルを図3に示す。
【0051】
(iii)FT−IRスペクトル
Ti/Si=0.02の試料について、FT−IR測定を行った。測定は、日本分光(株)製のFT−IR660plusを用いて行った。石英製のセルを用い、窓材にはフッ化カルシウムを用いた。バックグラウンドとして石英板のスペクトルを測定し、薄膜試料のスペクトルから差し引いた。
測定条件を以下に示す。3000〜2800cm-1のIRスペクトルを図4に示す。
【0052】
分解能:2cm-1
アポダイゼーション:TR
アパーチャー径:AUTO
積算回数:100回
測定モード:ABS
【0053】
(iv)水との接触角
Ti/Si=0.02、Ti/Si=0.05、Ti/Si=0.1の試料について、接触角の測定を行った。測定は、協和界面科学(株)製のDropMaster300を用いて行った。水には和光純薬工業(株)製の蒸留水(純度99.5%)を用いた。
測定条件を以下に示す。また、測定結果を表2に示す。
【0054】
測定温度:20℃
滴下する水の量:3μL
【0055】
【表2】

【0056】
[考察]
(i)XRDスペクトルについて
図2が示すように、2θの低角側に、メソポーラスシリカの(100)面に帰属される1本の鋭い回折ピークが見られた。このことは、Tiがメソポーラスシリカの結晶構造(骨格)に組み込まれたことを示している。また、Tiの含有量が大きくなるのに伴いピークが低角側にシフトした。このことは、メソ細孔の孔径が広がっていることを示している。
【0057】
(ii)XAFSスペクトルについて
図3では、Ti含有メソポーラスシリカのXANESスペクトル(b)が、6配位構造のTiを含む酸化チタン(アナタース型)のスペクトル(a)とは異なり、4配位構造のTiに特有のプレエッジピークを示している。このことは、Ti含有メソポーラスシリカに、4配位構造のTiが含まれていることを示している。
【0058】
(iii)FT−IRスペクトルについて
図4は、ポリエチレン合成後の試料のFT−IRスペクトルである。2916cm-1および2850cm-1の大きなピークは、それぞれポリエチレンのCH2逆対称伸縮振動およびCH2対称伸縮振動に帰属される。これらのピークから、Ti含有メソポーラスシリカ薄膜上に、ポリエチレンが生成していることを確認できる。
【0059】
(iv)水との接触角について
表2が示すように、ポリエチレンを含む撥水層を形成したTi含有メソポーラスシリカ薄膜の場合、いずれも90〜100°の接触角が得られた。このことは、薄膜の撥水性が極めて高いことを意味している。一方、ポリエチレンを含む撥水層を形成しなかった比較例1についても、同様の測定を行ったところ、Ti含有メソポーラスシリカ薄膜と水との接触角は、7.5°であった。
以上の実験事実から、本発明により、親水性の高いTiを含む酸化物の大幅な疎水化が可能であり、新規な撥水性材料が得られることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、Tiを含む酸化物を利用した機能性材料の親水性もしくは撥水性を、任意に制御することが可能である。本発明は、様々なTiを含む酸化物に適用可能であり、例えば、機能性薄膜、光触媒、光触媒の担体、分子ふるい材料などにおいて有用である。また、本発明の撥水性材料は、建築物の外壁、車両等の撥水塗膜などとしても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】撥水層を形成する反応装置の一例の概念図である。
【図2】Ti含有メソポーラスシリカ薄膜のXRDスペクトルである。
【図3】Ti含有メソポーラスシリカ薄膜のXANESスペクトルである。
【図4】撥水層のFT−IRスペクトルである。
【符号の説明】
【0062】
11 Ti含有メソポーラスシリカ薄膜の試料
12 反応セル
13 気体導入口
14 冷却水
15 水槽
16 UV光照射窓
17 光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面に形成された撥水層とを含み、
前記基材が、Tiを含む酸化物を含み、
前記撥水層が、有機重合体を含む、撥水性材料。
【請求項2】
前記Tiを含む酸化物が、TiとSiとの複合酸化物である、請求項1記載の撥水性材料。
【請求項3】
前記複合酸化物が、規則的に配列した複数の筒状のメソ細孔を有する、請求項2記載の撥水性材料。
【請求項4】
前記有機重合体が、ポリエチレンを含む、請求項1記載の撥水性材料。
【請求項5】
前記複合酸化物に含まれるTi元素のモル数の、Si元素のモル数に対する割合:Ti/Siが、0.001≦Ti/Si≦0.1を満たす、請求項2記載の撥水性材料。
【請求項6】
前記有機重合体の重量WOPの、前記Tiを含む酸化物の重量WTiに対する割合:WOP/WTiが、0.000001≦WOP/WTi≦1を満たす、請求項1記載の撥水性材料。
【請求項7】
前記Tiを含む酸化物に含まれるTi元素の少なくとも一部が、4配位構造を有する、請求項1記載の撥水性材料。
【請求項8】
水との接触角が、20°以上である、請求項1記載の撥水性材料。
【請求項9】
Tiを含む酸化物を供給する工程と、
前記Tiを含む酸化物を、光照射下で、エチレンガスと接触させることにより、前記Tiを含む酸化物上に、ポリエチレンを含む撥水層を形成する工程と、を有する、撥水性材料の製造法。
【請求項10】
Tiを含む酸化物を形成する工程が、Ti含有アルコキシドと、Si含有アルコキシドとを含む原料液を調製する工程と、
前記原料液からTiとSiとの複合酸化物の前駆体を生成させ、前駆体を焼成する工程と、を有する、請求項9記載の撥水性材料の製造法。
【請求項11】
Tiを含む酸化物を形成する工程が、Ti含有アルコキシドと、Si含有アルコキシドとを含む原料液を調製する工程と、
前記原料液を基体に塗布し、塗膜を焼成する工程を含む、請求項9記載の撥水性材料の製造法。
【請求項12】
請求項1記載の撥水性材料からなる薄膜。
【請求項13】
請求項1記載の撥水性材料からなる光触媒。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−179506(P2008−179506A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−13860(P2007−13860)
【出願日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】