説明

VEGF産生促進剤

【課題】VEGF産生促進作用を有し、医薬品、化粧品若しくは食品、又はそれらの素材となり得る、VEGF産生促進剤、髪質改善剤、及び皮膚外用剤の提供。
【解決手段】下記一般式(1)又は(2):


〔式中、R1及びR2は、同一又は異なって、アセチル基、アンゲロイル基又はセネシオイル基を示す。〕
で表されるジアシル化ジヒドロピラノクマリンを有効成分とするVEGF産生促進剤、髪質改善剤、皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内皮細胞増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor;VEGF)の産生を促進し得るVEGF産生促進剤、髪質改善剤及び皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
VEGFは、血管透過性因子として知られているが、最近の研究により、ヒト皮膚における主要な血管新生因子であることが報告され、創傷治癒、肌色改善、養毛・育毛等の研究分野で注目されている分子である。
【0003】
正常な皮膚において、VEGFは、表皮角化細胞により少量分泌され、真皮の微小血管内皮細胞上の特異的なレセプターに結合し、それによって内皮細胞の生存能力を確保することにより、上部の網状構造の血管を維持している。
【0004】
炎症あるいは創傷治癒時に肥厚した表皮におけるVEGFは、非常に高く発現していて、真皮での血管の増加と栄養供給を導いていることが報告されている(非特許文献1)。また、毛髪の成長期では毛包周囲の血管が劇的に拡張していて、毛包の細胞でVEGFが発現しており、毛髪の退行期と休止期では、血管の退縮に伴いVEGFの発現が抑制されていることが報告されている(非特許文献2)。
さらに、VEGFは血管の形成を促進することから、血流循環を促進して毛根に栄養を多く供給することや、毛髪のコルテックス細胞同士の接着に関係していることが報告されている。
特に、最近の研究では、VEGF発現量の低下と毛髪のハリコシの低下が相関していることが報告され、VEGF産生促進剤の毛髪化粧料への応用が着目されている(非特許文献3)。
【0005】
従って、真皮での血管の増加と栄養供給に関与しているVEGFの産生を促進することは、創傷の回復・治癒に非常に有効である他、皮膚の新陳代謝の低下等によって生じるくすみや肌の透明感の低下といった肌色改善に有効である。また、毛髪・毛包の成長にも関与しているVEGFの産生を促進することは、毛髪の脱毛・薄毛、ハリコシの低下といった症状の防止や改善にも有効である。
【0006】
このため、様々なVEGF産生促進剤がこれまでに開発されている。例えば、大豆由来の調製物(特許文献1)、アミハナイグチ、シロヌメリイグチ、ハナイグチ、ウツロベニハナイグチ、アミタケ、キノボリイグチ、エゾウコギ、黄精、ゲンチアナ、センナ、トチュウ、ダイオウ、メリロート、ヨクイニン、クコの実、当帰、地黄、サンシシ、甘草、ニンジン、紅参、紫根、シンビジュームの各抽出物(特許文献2)、タコノキ属(Pandanus L.f.)植物抽出物(特許文献3)、シイタケ、エチナシ、プルーン、モヤシ、アマチャヅルの各抽出物(特許文献4)等に、VEGF産生促進作用があることが報告されている。しかし、これらのVEGF産生促進剤は、副作用の点から配合が制限される場合があり、また有効量を配合すると着色や不快臭が発生する等の問題が生じる場合もあった。
【0007】
一方、ゼンコ(Peucedanum praeruptorum)の如く、セリ科カワラボウフウ属植物に含まれるジアシル化ジヒドロピラノクマリンには、抗腫瘍作用(非特許文献4)、抗菌作用(非特許文献5)等の薬理作用があることが報告され、またアンギュラー型のジアシル化ジヒドロピラノクマリンであるVisnadineにはVEGFアンタゴニスト活性があることが報告されている(特許文献5)。
【0008】
しかしながら、ジアシル化ジヒドロピラノクマリン又はゼンコにVEGFの産生促進作用があることは全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−286432号公報
【特許文献2】特開2000−212059号公報
【特許文献3】特開2004−43393号公報
【特許文献4】特開2004−35443号公報
【特許文献5】国際公開2006/086544号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Detmar M. The role of VEGF and thrombospondins in skin angiogenesis, J Dermatol Sci. 24(Suppl 1), S78-84, 2000
【非特許文献2】Yano K, Brown LF, Detmar M.Control of hair growth and follicle size by VEGF-mediated angiogenesis , J Clin Invest. 107(4), 409-17, 2001
【非特許文献3】森脇、田口 フレグランスジャーナル2007年12月号
【非特許文献4】Chen I. Coumarins and antiplatelet aggregation constituents from formosan Peucedanum japonicum. Phytochemistry 41(2), 525-530 (1996)
【非特許文献5】Mei Lu, Isolation of praeruptorins A and B from peucedanum praeruptorum Dunn. and their general pharmacological evaluation in comparison with extract of the drug., IL Farmaco. 56, 417-420 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、VEGF産生促進作用を有し、医薬品、化粧品若しくは食品、又はそれらの素材となり得る、VEGF産生促進剤、髪質改善剤、及び皮膚外用剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、VEGFの産生を促進する物質について、研究を重ねた結果、特定のジアシル化ジヒドロピラノクマリンに優れたVEGF産生促進作用があることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の1)〜3)に係るものである。
1)下記一般式(1)又は(2):
【0014】
【化1】

【0015】
〔式中、R1及びR2は、同一又は異なって、アセチル基、アンゲロイル基又はセネシオイル基を示す。〕
で表されるジアシル化ジヒドロピラノクマリンを有効成分とするVEGF産生促進剤。
2)下記一般式(1)又は(2):
【0016】
【化2】

【0017】
〔式中、R1及びR2は、同一又は異なって、アセチル基、アンゲロイル基又はセネシオイル基を示す。〕
で表されるジアシル化ジヒドロピラノクマリンを有効成分とする髪質改善剤。
3)下記一般式(1)又は(2):
【0018】
【化3】

【0019】
〔式中、R1及びR2は、同一又は異なって、アセチル基、アンゲロイル基又はセネシオイル基を示す。〕
で表されるジアシル化ジヒドロピラノクマリンを含有する皮膚外用剤。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、優れたVEGF産生促進作用を有し、創傷治癒、肌色改善、養毛・育毛、毛髪のハリコシの改善等に有用な医薬品、医薬部外品、化粧料、食品等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のジアシル化ジヒドロピラノクマリンは、クマリン環とピラン環の結合位置の相違により、アンギュラー型の(1)とリニア型の(2)からなる。
【0022】
一般式(1)及び(2)中、R1及びR2は、同一又は異なって、アセチル基、アンゲロイル基又はセネシオイル基を示すが、R1又はR2のいずれか一方がアンゲロイル基若しくはセネシオイル基であるのが好ましく、R1及びR2が共にアンゲロイル基、共にセネシオイル基、或いはR1又はR2の一方がアセチル基で他方がアンゲロイル基若しくはセネシオイル基であるのが好ましい。
ここで、アンゲロイル基及びセネシオイル基は、以下の化学構造を示す。
【0023】
【化4】

【0024】
このうち、VEGF産生促進の点から、好適なジアシル化ジヒドロピラノクマリンとしては、下記の化学式で示される3',4'-disenecioyloxy-3',4'-dihydroseselin(3',4'−ジセネシオイルオキシ−3',4'−ジヒドロセセリン)、Pd-C-IV、Decursidin(デクルシジン)、3'-acetoxy-4'-angeloyoxy-3',4'-dihydroxanthyletin(3'−アセトキシ−4'−アンゲロイルオキシ−3',4'−ジヒドロキサンチレチン又はXanthalin(キサンタリン)が挙げられる。
【0025】
【化5】

【0026】
本発明のジアシル化ジヒドロピラノクマリンは、植物体から抽出・精製すること、或いは公知の方法(文献:S. Kim, Tetrahedron Letters 42, 7641-7643 (2001)、Philip C. Organic Letters 11(9), 1991-1993 (2009))によりジヒドロピラノクマリン骨格を化学的に合成することにより取得することができ、水酸基を公知の方法(例えばL. Huang, J. Med. Chem. 37, 3947-3955 (1994))によりアシル化することで得ることが出来る。植物体からの抽出・精製は、例えば、セリ科カワラボウフウ属の植物、具体的には、Peucedanum praeruptrum(白花前胡)P.terebinthaceum(カワラボウフウ)、P. japonicum (ボタンボウフウ)、P. formosanum (タイワンカワラボウフウ)、P. arenarium、セリ科イブキボウフウ属の植物、具体的には、P.Libanotis laticalycina、Libanotis ugoensis ver. japonica(イブキボウフウ)、セリ科シシウド属の植物、具体的には、Angelica decursiva (ノダケ)、Angelica flaccida Kommarov等の根から溶剤抽出して得られる抽出物を、カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の適当な分離精製手段を用いて分離・精製することにより得ることができる。以下に、上記ジアシル化ジヒドロピラノクマリンの単離例を示す。
【0027】
A.アンギュラー型ジアシル化ジヒドロピラノクマリンの単離
1)白花前胡(Peucedanum praeruptrum)の根の裁断物に99.5%エタノールを加え、静置抽出し、白花前胡抽出液を得る。
2)1)で得られた白花前胡抽出液を、溶媒留去したのち、得られた軟エキスを酢酸エチル−水で液−液分配し、酢酸エチル層を濃縮して固形物を得る。
3)2)で得られた固形分をメタノール-ヘキサンで液‐液分配を行う。メタノール層を濃縮し、溶媒を留去した後、得られた固形物をエタノールに分散溶解し、イオン交換樹脂を充填したカラムに通し、成分を樹脂に吸着させる。
4)3)で吸着した成分を75%エタノール、99.5%エタノール、酢酸エチル、アセトンで溶出する。99.5%エタノール画分を濃縮し、ODS-HPLC(アセトニトリル−水混合溶媒にてグラジェント溶出)にて2段階分画を行い、クマリン含有画分を得る。
5)4)で得られたクマリン含有画分から、再度ODS-HPLC(65%アセトニトリル、0.01%TFA添加アイソクラティック溶出)にて分画を行い、3',4'-disenecioyloxy-3',4'-dihydroseselinを得る。
【0028】
B.リニア型ジアシル化ジヒドロピラノクマリンの単離
1)白花前胡(Peucedanum praeruptrum)の根の裁断物に99.5%エタノールを加え、静置抽出し、白花前胡抽出液を得る。
2)1)で得られた白花前胡抽出液を、溶媒留去したのち、得られた軟エキスを酢酸エチル−水で液−液分配し、酢酸エチル層を濃縮して固形物を得る。
3)2)で得られた固形分をメタノール-ヘキサンで液‐液分配を行う。メタノール層を濃縮し、溶媒を留去した後、得られた固形物をエタノールに分散溶解し、イオン交換樹脂を充填したカラムに通し、成分を樹脂に吸着させる。
4)3)で吸着した成分を75%エタノール、99.5%エタノール、酢酸エチル、アセトンで溶出する。99.5%エタノール画分を濃縮し、ODS-HPLC(60%アセトニトリル アイソクラティック溶出)にて分画し、6画分に取りまとめ、そのうちの4画分より、それぞれPd-C-IV、3'-acetoxy-4'-angeloyoxy-3',4'-dihydroxanthyletin、Decursidin、Xanthalinを得る。
【0029】
尚、斯かる抽出・分画によれば、ジアシル化ジヒドロピラノクマリンが、単独のみならず、数種の混合物として取得される場合があるが、本発明のVEGF産生促進剤においては、これらの何れをも用いることができる。
【0030】
得られたジアシル化ジヒドロピラノクマリンは、そのまま用いてもよく、適宜な溶媒で希釈した希釈液として用いてもよく、あるいは濃縮エキスや乾燥粉末としたり、ペースト状に調製したものでもよい。また、凍結乾燥し、用時に、通常抽出に用いられる溶剤、例えば水、エタノール、水・エタノール混液等の溶剤で希釈して用いることもできる。また、リポソーム等のベシクルやマイクロカプセル等に内包させて用いることもできる。
【0031】
本発明のジアシル化ジヒドロピラノクマリンは、後記実施例に示すように、ヒト表皮角化細胞におけるVEGFの産生を促進する作用を有することから、内皮細胞の生存能力の向上、血管新生促進等の効果を発揮し(Heidemarie Rossiter, Caterina Barresi, Johannes Pammer, Michael Rendl, Jody Haigh, Erwin F. Wagner, and Erwin Tschachler. Loss of Vascular Endothelial Growth Factor A Activity in Murine Epidermal Keratinocytes Delays Wound Healing and Inhibits Tumor Formation, Cancer research 64, 3508-3516, 2004)、創傷治癒、肌色改善、養毛・育毛、毛髮のハリコシ改善等に有用であると考えられる。
従って、本発明のジアシル化ジヒドロピラノクマリンは、VEGF産生促進剤又は髪質改善剤として使用することができ、また、VEGF産生促進剤又は髪質改善剤を製造するために使用することができる。当該VEGF産生促進剤は、創傷治癒、肌色改善、養毛・育毛、毛髪のハリコシ改善等の効果を発揮する、ヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品、化粧品又は食品であってもよく、当該医薬品等に配合するための素材であってもよい。また、本発明において、「髪質改善」とは、毛髮の質を硬く及び/又は強くし、ハリやコシを付与する効果を意味するものであり、髪質改善剤は、ヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品、化粧料又は食品であってもよく、当該医薬品等に配合するための素材であってもよい。
また、上記化粧品や食品には、VEGFの産生促進、肌色改善、養毛・育毛等をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した化粧品、美容食品、病者用食品若しくは特定保健用食品等の機能性食品が包含される。
【0032】
本発明のジアシル化ジヒドロピラノクマリンを含有する上記医薬品の投与形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与又は静脈内注射、筋肉注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤等による非経口投与が挙げられる。また、このような種々の剤型の医薬製剤を調製するには、本発明のジアシル化ジヒドロピラノクマリンを単独で、又は他の薬学的に許容される賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等を適宜組み合わせて用いることができる。これらの医薬製剤として用いる場合の該製剤中の本発明のジアシル化ジヒドロピラノクマリンの含有量は、一般的に0.00001〜50質量%とすることが好ましく、特に0.0001〜10質量%とすることが好ましい。
上記医薬品の成人1人当たりの1日の投与量は、ジアシル化ジヒドロピラノクマリンとして、例えば0.0003〜3000mgとすることが好ましく、0.003〜300mgであることがより好ましい。
【0033】
本発明のジアシル化ジヒドロピラノクマリンを含有する上記食品の形態としては、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)が挙げられる。
種々の形態の食品を調製するには、本発明のジアシル化ジヒドロピラノクマリンを単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。当該食品中のジアシル化ジヒドロピラノクマリンの含有量は、一般的に0.00001〜100質量%とすることが好ましく、特に0.0001〜70質量%とすることが好ましい。
【0034】
また、本発明のジアシル化ジヒドロピラノクマリンを含有する医薬部外品や化粧料としては、皮膚外用剤、洗浄剤、メイクアップ化粧料、頭皮頭髪用化粧料とすることができ、使用方法に応じて、ローション、乳液、ゲル、クリーム、軟膏剤、粉末、顆粒等の種々の剤型で提供することができる。このような種々の剤型の医薬部外品や化粧料は、本発明のジアシル化ジヒドロピラノクマリンを単独で、又は医薬部外品、皮膚化粧料、頭皮頭髪用化粧料及び洗浄料に配合される、油性成分、保湿剤、粉体、色素、乳化剤、可溶化剤、洗浄剤、紫外線吸収剤、増粘剤、薬剤、香料、樹脂、防菌防黴剤、植物抽出物、アルコール類等を適宜組み合わせることにより調製することができる。当該医薬部外品、化粧料中のジアシル化ジヒドロピラノクマリンの含有量は、一般的に0.00001〜100質量%とすることが好ましく、特に0.0001〜70質量%とすることが好ましい。
【実施例】
【0035】
実施例1 ジアシル化ジヒドロピラノクマリンの調製(1)
白花前胡(根)裁断物300gに99.5%EtOH3Lを加え、室温下4日間静置抽出した。これを2回行い、得られた抽出液を混合、減圧濃縮して軟エキス25gを得た。
これに酢酸エチル-水各1Lを加え、液‐液分配を行った。酢酸エチル層を濃縮し、残った固形物をさらに90%MeOH-ヘキサン各1Lで液‐液分配を行った。90%MeOH層を濃縮し、溶媒を留去した後、得られた固形物(11.8g)を50%EtOH300mLに分散溶解し、ダイヤイオンHP-20(三菱化学製)1Lを充填したカラムに通し、成分を樹脂に吸着させた。その後、50%EtOH 3Lを流して未吸着成分を洗浄した。吸着した成分は75%EtOH, 99.5%EtOH, 酢酸エチル、アセトン 各3Lで溶出した。99.5%EtOH画分を濃縮し(6.3g)、うち0.8gをとり、ODS-HPLC(アセトニトリル−水混合溶媒にてグラジェント溶出)にて2段階分画を行い、クマリン含有画分(37.7mg)を得た。再度ODS-HPLC(65%アセトニトリル、0.01%TFA添加アイソクラティック溶出)にて分画を行い、アンギュラー型ジアシル化ジヒドロピラノクマリン3',4'-disenecioyloxy-3',4'-dihydroseselin(20.3mg)を得た。
【0036】
実施例2 ジアシル化ジヒドロピラノクマリンの調製(2)
白花前胡(根)細断物50gに99.5%EtOH500mLを加え、室温下7日間室温抽出し、ろ過して抽出液を得た。減圧濃縮して軟エキス1.9gを得た。うち1.5gをとり、酢酸エチル-水各100mLを加え、液-液分配し、酢酸エチル層を濃縮し、さらに90%MeOH−ヘキサン各100mLで分配した。90%MeOH層を濃縮し、抽出固形物0.76gを得た。うち0.75gを50%EtOH100mLに分散溶解し、ダイヤイオンHP-20 50mLを充填したカラムに通し、成分を吸着させた。その後、50%EtOH 300mLを流して未吸着成分を洗浄した。吸着した成分は75%EtOH, 99.5%EtOH, 酢酸エチル、アセトン 各300mLで溶出した。99.5%EtOH画分を濃縮し(0.43g)、うち0.4gをODS-HPLC(60%アセトニトリル アイソクラティック溶出)にて分画し、6画分(A-F)に取りまとめた。
画分AよりPd-C-IV(16.4mg)、画分Cより3'-acetoxy-4'-angeloyloxy-3',4'-dihydr
oxanthyletin(24.5mg)、画分DよりDecursidin(17.1mg)、画分FよりXanthalin(37.4mg)を得た。
【0037】
実施例3 VEGFの産生に及ぼす作用
(1)材料および方法
試験には正常ヒト新生児包皮由来表皮角化細胞(クラボウ:凍結NHEK(F) Lot.No.061130-902)を用いた。1穴あたり2×104cells/mLになるように細胞を6穴マイクロプレート3枚に播種した。培養にはDefined keratinocyte-SFM(SFM培地、ギブコ)を用い、2%CO2、37℃の条件化で培養した。細胞密度が50〜60%コンフルエントに達した後、培地を添加剤不含のDefined keratinocyte-SFM培地(SFM(−)培地)に交換した。細胞をSFM(-)培地に24時間馴化させた後、培地を実施例で取得したジアシル化ジヒドロピラノクマリンを任意の濃度で添加したSFM(−)培地に交換し試験を開始した。
なお、陰性コントロールとしては化合物無添加のSFM(−)培地を用いた。試験開始から16時間後、培地を回収し、培養上清中に分泌されたVEGFの量をELISAキット(R&Dシステムズ)により定量した。コントロールにおけるVEGF産生量を1とし、これに対する相対値で評価を行った。
【0038】
(2)結果
結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1より、いずれの化合物も優れたVEGF産生促進効果を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)又は(2):
【化1】

〔式中、R1およびR2は、同一又は異なって、アセチル基、アンゲロイル基又はセネシオイル基を示す。〕
で表されるジアシル化ジヒドロピラノクマリンを有効成分とするVEGF産生促進剤。
【請求項2】
ジアシル化ジヒドロピラノクマリンが、セリ科のカワラボウフウ属、イブキボウフウ属又はシシウド属植物由来のものである請求項1記載のVEGF産生促進剤。
【請求項3】
ジアシル化ジヒドロピラノクマリンが、3',4'−ジセネシオイルオキシ−3',4'−ジヒドロセセリン、Pd−C−IV、デクルシジン、3'−アセトキシ−4'−アンゲロイルオキシ−3',4'−ジヒドロキサンチレチン又はキサンタリンである請求項1記載のVEGF産生促進剤。
【請求項4】
下記一般式(1)又は(2):
【化2】

〔式中、R1及びR2は、同一又は異なって、アセチル基、アンゲロイル基又はセネシオイル基を示す。〕
で表されるジアシル化ジヒドロピラノクマリンを有効成分とする髪質改善剤。
【請求項5】
ジアシル化ジヒドロピラノクマリンが、セリ科のカワラボウフウ属、イブキボウフウ属又はシシウド属植物由来のものである請求項4記載の髪質改善剤。
【請求項6】
ジアシル化ジヒドロピラノクマリンが、3',4'−ジセネシオイルオキシ−3',4'−ジヒドロセセリン、Pd−C−IV、デクルシジン、3'−アセトキシ−4'−アンゲロイルオキシ−3',4'−ジヒドロキサンチレチン又はキサンタリンである請求項4記載の髪質改善剤。
【請求項7】
下記一般式(1)又は(2):
【化3】

〔式中、R1及びR2は、同一又は異なって、アセチル基、アンゲロイル基又はセネシオイル基を示す。〕
で表されるジアシル化ジヒドロピラノクマリンを含有する皮膚外用剤。
【請求項8】
ジアシル化ジヒドロピラノクマリンが、セリ科のカワラボウフウ属、イブキボウフウ属又はシシウド属植物由来のものである請求項7記載の皮膚外用剤。
【請求項9】
ジアシル化ジヒドロピラノクマリンが、3',4'−ジセネシオイルオキシ−3',4'−ジヒドロセセリン、Pd−C−IV、デクルシジン、3'−アセトキシ−4'−アンゲロイルオキシ−3',4'−ジヒドロキサンチレチン又はキサンタリンである請求項7記載の皮膚外用剤。

【公開番号】特開2012−12356(P2012−12356A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152196(P2010−152196)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】