説明

VHL腫瘍サプレッサーと低酸素誘導因子との相互作用、およびそれに関するアッセイ法

【課題】VHL腫瘍サプレッサータンパク質(VHL)と、低酸素誘導因子(HIF−1)との相互作用のモジュレーターのアッセイ法を提供する。
【解決手段】a)VHLタンパク質、HIF−1のαサブユニットタンパク質、およびモジュレーター候補化合物を接触させ、b)モジュレーター化合物によって引き起こされた、VHL−HIFα複合体形成の阻害の程度を測定すること、を含んでなるアッセイ法。該モジュレーターは、虚血状態の治療に用いられる可能性がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VHLタンパク質とHIFタンパク質との新規な相互作用に関する知見、この相互作用に基づくアッセイ法、およびそのようなアッセイ法により取得可能な新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
グルコース代謝および新血管形成の増大は、低酸素状態によって一般に誘導される遺伝子のアップレギュレーションを伴う癌の古典的な特徴である。低酸素微小環境による刺激のほかに、遺伝的変化がこれらの効果に寄与する。顕著な例は、特に中枢神経系、腎臓、網膜および副腎の遺伝性ヒト癌症候群のフォン・ヒッペル−リンダウ(VHL)病であり、この病気にかかると高度に新血管形成性の腫瘍を生じ易くなる。
【0003】
VHL症候群は、VHL腫瘍サプレッサーの生殖細胞系突然変異により惹起され、そしてVHL腫瘍は、残存する野生型対立遺伝子の喪失または突然変異と関係がある。また、腎臓癌の主要な形態である散発性明細胞腎癌(RCC)の約80%において、VHLは不活性化される。ヌードマウスにおけるRCC細胞の腫瘍形成能力は、野生型VHLの導入により消失させることができる。
【0004】
VHL関連腫瘍は高度に血管化され、このことから、VHLは新血管形成性の血管内皮増殖因子(VEGF)のような低酸素誘導因子の産生に対して負の調節を行うという現行のモデルが支持される。VHL-/-腫瘍細胞にはこれらの因子が高レベルで含まれており、正常酸素条件下でVHLを再導入するとそれらはダウンレギュレートされる。このVHL活性の機構についてはよく分かっていない。
【0005】
Stebbinsらの報告(Science, 1999, 284; 55-61)によると、VHLタンパク質は、エロンギンCタンパク質およびエロンギンBタンパク質と複合体を形成し、この複合体(VCB複合体)は、エロンギンCタンパク質とエロンギンBタンパク質との第2の相互作用を伴うVHLとエロンギンCとの直接的相互作用により形成される。エロンギンCと相互作用するVHLの境界面には、VHL症候群において一般に突然変異を受けるいくつかの残基が含まれている。筆者らはまた、エロンギンCとの結合に関与しないVHLの第2のドメインを見いだし、VHLの他の巨大分子結合部位に相当する可能性があると推定している。
【0006】
低酸素誘導因子-1 (HIF-1)は、エネルギー代謝、血管運動制御、新血管形成、増殖、アポトーシスおよびマトリックスリモデリングに関与する遺伝子の調節を含めて、低酸素状態に対する多種多様な細胞応答において中心的な役割を果たしている。HIFは、HIFαサブユニットと、塩基性へリックス・ループ・へリックスタンパク質のPASスーパーファミリーのメンバーであるアリール炭化水素受容体核トランスロケーター(ARNT)タンパク質とのヘテロ二量体である。主要な調節機構には、正常酸素状態ではプロテアソームにより急速に分解されるが低酸素状態では安定化されるHIFαサブユニットのタンパク質分解が含まれる。
【非特許文献1】Science, 1999, 284; 55-61
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、この相互作用のモジュレーターのアッセイ法、およびこの相互作用をモジュレートする可能性のあるHIFαサブユニット配列に基づくペプチドを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
VHLタンパク質は低酸素調節されるmRNA転写産物の不安定化によりその作用を媒介する可能性があるとの提案がこれまでになされているが、驚くべきことに、我々はこのタンパク質がHIFαサブユニットと直接的な相互作用を行うことを見いだした。1つの理論になんら拘束されることを望むものではないが、VHL-αサブユニット複合体が形成されると、おそらく、この複合体がユビキチンとの相同性を有するエロンギンBサブユニットと会合することによりαサブユニットが破壊の標的になると考えられる。
【0009】
VHLとHIFαサブユニットとの相互作用のモジュレーションは、様々な用途に使用される。この相互作用を阻止すれば、低酸素状態において、細胞周期の進行を促進したり、血管形成の亢進および/または細胞生存もしくは細胞機能の亢進を行ういくつかのタンパク質の産生を促進したりすることが可能になる。こうした結果は、ある種の臨床状態、特に、冠状動脈不全、脳不全および血管不全のような虚血状態の治療に望まれるものである。
【0010】
従って、第1の態様において、本発明は、VHL-HIFαサブユニット相互作用のモジュレーターのアッセイ法であって、 a) VHLタンパク質、HIFαサブユニットタンパク質および推定モジュレーター化合物を、モジュレーターの不在時には該VHLタンパク質と該HIFαサブユニットタンパク質とが複合体を形成することのできる条件下で接触させ、そして b) 該モジュレーター化合物によって引き起こされた、複合体形成の阻害の程度を測定すること、を含んでなるアッセイ法を提供する。
【0011】
本発明はさらに、VHL-HIFαサブユニット相互作用のモジュレーターのアッセイ法であって、 a) VHLタンパク質、HIFαサブユニットタンパク質および推定モジュレーター化合物を、モジュレーターの不在時には該VHLタンパク質と該HIFαサブユニットタンパク質とが複合体を形成することのできる条件下で接触させ、 b) 該HIFαサブユニットタンパク質が結合することのできるおよび/または転写活性化させることのできるHIF応答エレメントを提供し、そして c) 該モジュレーター化合物によって引き起こされた、該応答エレメントへの該αサブユニットの結合の調節の程度または該応答エレメントの転写活性化の調節の程度を測定すること、を含んでなるアッセイ法を提供する。
【0012】
さらなる態様において、本発明は、そのようなアッセイ法により取得可能な化合物、例えば、互いに相互作用するVHLまたはHIFαサブユニットの一部分に基づくペプチド化合物を提供する。
【0013】
本発明のアッセイ法は、単離され、精製されたまたは部分的に精製されたVHLタンパク質およびHIFαサブユニットタンパク質を用いてin vitroで行ってもよいし、あるいは無細胞系または細胞系で行ってもよく、後者の場合、酸素の存在下(例えば、約21% O2、5% CO2、残りはN2)および/または約50〜200μMの過酸化水素の存在下のように正常酸素の細胞状態を促進する因子の存在下で行ってもよい。
【発明の効果】
【0014】
VHLとHIFαサブユニットとの相互作用のモジュレーションは、様々な用途に使用される。この相互作用を阻止すれば、低酸素状態において、細胞周期の進行を促進したり、血管形成の亢進および/または細胞生存もしくは細胞機能の亢進を行ういくつかのタンパク質の産生を促進したりすることが可能になる。こうした結果は、ある種の臨床状態、特に、冠状動脈不全、脳不全および血管不全のような虚血状態の治療に望まれるものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
VHL
VHLは、任意の好適な哺乳動物VHL、特にヒトVHLであってよい。ヒトVHLはクローン化されており、この遺伝子の供給源は当業者により容易に同定することができる。その配列は、Genbank受託番号AF010238およびL15409として入手可能である。マウスVHL(受託番号U12570)およびラットVHL(受託番号U14746およびS80345)のような他の哺乳動物VHLも入手可能である。非哺乳動物の相同体としては、C. elegansのVHL様タンパク質、受託番号F08G12.4が挙げられる。また、VHL遺伝子配列は、ルーチンなクローニング法により、例えば、ヒトVHL遺伝子配列全体またはその一部分をプローブとして用いて他の種のVHL遺伝子を回収し、配列決定を行うことにより、取得することも可能である。この目的のために、多種多様な方法を利用することができる。例えば、好適なmRNA源(例えば、胚由来または肝細胞由来)を用いてこの遺伝子のPCR増幅およびクローニングを行い、哺乳動物源、脊椎動物源、無脊椎動物源または真菌源に由来するcDNAライブラリー、例えば、上記の供給源のうちの1つに由来するcDNAライブラリーを取得し、このライブラリーをストリンジェント条件下で本発明のポリヌクレオチドによりプローブし、そしてその哺乳動物のVHLタンパク質全体またはその一部分をコードするcDNAを回収することができる。好適なストリンジェント条件には、50%ホルムアミド、5×SSC (750mM NaCl、75mMクエン酸ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%デキストラン硫酸および20μg/mlサケ精子DNAを含有する溶液中において42℃で一晩インキュベーションを行って固相支持体(フィルター)上にハイブリダイズさせること、続いて、約50℃〜約60℃において0.03M塩化ナトリウムおよび0.03Mクエン酸ナトリウム(すなわち、0.2×SSC)中で洗浄することが含まれる。部分cDNAが得られる場合、プライマー伸長法により全長コード配列を決定することが可能である。
【0017】
さらなる手法では、上記のように同定された配列をクエリー(query)配列として使用し、相同遺伝子配列または部分遺伝子配列(特にEST)についてデータベースを検索する。同定されたマッチを検査することが可能であり、実際または推定のVHL配列が見いだされた場合、例えば、マッチの配列に基づくPCRおよびRACE-PCRを用いて、物理的クローニングにより、その遺伝子を回収する。
【0018】
野生型VHLが好ましいが、HIFαサブユニットと直接的に相互作用する能力を依然として保持しているVHLの突然変異体や変異体を使用することも可能である。VHL突然変異体の例は当技術分野で周知であり、例えば、Stebbingsら(同上)により報告された突然変異体が挙げられる。この突然変異体は、エロンギンCと相互作用する境界面に変更が加えられている。
【0019】
突然変異体および他の変異体は、一般に野生型の哺乳動物VHLをベースとし、そして野生型の哺乳動物VHLに対して、好ましくはヒトVHLに対して、望ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、90%、95%、さらには98%の相同性であるアミノ酸同一度を有する。
【0020】
本発明のアッセイ法のために全VHLタンパク質(その突然変異体および他の変異体を含む)を使用する必要はない。HIFαサブユニットの標的ドメインと相互作用する能力を保持している場合には、VHLの断片を使用することが可能である。場合により、断片には、エロンギンCと相互作用する境界面ドメインが含まれていてもよい。VHLの断片は、当業者に知られている任意の好適な方法で生成させることが可能である。好適な方法としては、限定されるものではないが、VHLをコードするDNAの断片の組換え発現が挙げられる。そのような断片を生成させるには、VHLをコードするDNAを取得し、発現させる部分の両側の好適な制限酵素認識部位を同定し、そしてDNAからこの部分を切り取る。次に、この部分を、標準的な市販の発現系において好適なプロモーターに機能的に連結させることが可能である。他の組換え手法では、好適なPCRプライマーを用いてDNAの関連部分を増幅する。当技術分野で周知のペプチド合成法を用いてVHLの小さな断片(約20〜30アミノ酸まで)を生成させることも可能である。一般的には、断片のサイズは、少なくとも40アミノ酸、好ましくは少なくとも50、60、70、80または100アミノ酸であろう。
【0021】
特に好ましい断片としては、213アミノ酸のヒトVHLタンパク質の断片63−156内に位置するβドメインまたは他の変異体中の等価なドメインに基づく断片が挙げられる。好ましい実施形態では、そのようなドメインは、ヒトVHLの64−156断片に対して、少なくとも70%、好ましくは80%、90%、95%、さらには98%の配列同一度を有する。この領域の断片およびその変異体を使用することが可能である。
【0022】
これらの断片は、15〜80アミノ酸の長さ、例えば、30〜60アミノ酸のような20〜80アミノ酸の長さをもつことが可能である。断片は、ヒトVHLの領域71−90もしくは90−109または上記の変異体中の等価領域を含有することが可能である。望ましくは、βドメインの野生型配列は保持される。
【0023】
使用しうる断片の1つは、53個までのN末端残基、例えば1〜n個(nは2〜53の整数である)のN末端残基が欠失され、タンパク質の残りの部分が野生型である断片である。
【0024】
好適な断片がHIFαサブユニット(またはその断片)に結合する能力は、無傷のVHLに関する添付の実施例に記載されているようなルーチンの手順により試験することが可能である。本明細書中でVHLタンパク質と記されている場合、機能的にHIFαサブユニットに結合しうる上記の突然変異体および断片が含まれるが、文脈上明らかにこれに反する場合にはこの限りではない。
【0025】
HIFαサブユニットタンパク質
HIFαサブユニットタンパク質は、野生型全長VHLタンパク質に結合する能力を有し、この結合により正常酸素の細胞環境中でαサブユニットが破壊の標的になりうるヒトタンパク質もしくは他の哺乳動物タンパク質またはその断片のいずれであってもよい。
【0026】
いくつかのHIFαサブユニットタンパク質がクローン化されている。これらのタンパク質としては、Genbank受託番号U22431として入手可能な配列をもつHIF-1α、Genbank受託番号U81984として入手可能な配列をもつHIF-2αならびにGenbank受託番号AC007193およびAC079154として入手可能な配列をもつHIF-3αが挙げられる。これらはすべてヒトHIFαサブユニットタンパク質である。他の種に由来するHIFαサブユニットタンパク質としては、マウスHIF-1α(受託番号AF003695、U59496およびX95580)、ラットHIF-1α(受託番号Y09507)、マウスHIF-2α(受託番号U81983およびD89787)ならびにマウスHIF-3α(受託番号AF060194)が挙げられる。VHL相同体を得るための上記の方法と類似した方法によって、他の哺乳動物、脊椎動物、無脊椎動物または真菌の相同体を得ることが可能である。
【0027】
今日までに同定された2種のHIFαサブユニットタンパク質中にはいくつかの共通した構造上の特徴が存在する。これらの特徴のうちのいくつかは、O'Rourke ら(1999, J. Biol. Chem., 274; 2060-2071)で同定されている。これらの特徴のうちのいくつかは、HIFαサブユニットタンパク質のトランス活性化機能に関与しており、そのようなドメインは、HIF-1が低酸素応答エレメントに結合してそれを活性化させる能力に基づく本発明のアッセイ法で必要とされるであろう。
【0028】
我々のデータは、HIF-1α残基344−698、より特定すれば549−652、さらに特定すればそのN末端領域(549−572)がVHLタンパク質と相互作用することを示唆している。そのような領域または他のHIFαサブユニットタンパク質中のその等価領域が存在することが望ましい。しかしながら、このデータは、VHLタンパク質と相互作用する他のドメインの存在を排除するものではない。
【0029】
天然に存在するHIFαサブユニット(特に、ヒトHIFαサブユニット)に対して少なくとも45%のアミノ酸同一性、好ましくは少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%または98%の同一性を有する合成変異体など、上記のHIFαサブユニットの変異体を使用することが可能である。
【0030】
本発明のアッセイ法では、好ましくはVHLと同じ哺乳動物源のHIFαサブユニットを使用する。
【0031】
HIFαサブユニットタンパク質およびその変異体の断片を使用することが可能であるが、その場合、野生型VHL、好ましくは野生型ヒトVHLと相互作用する能力を断片が保持していることが前提である。そのような断片のサイズは、望ましくは少なくとも20アミノ酸、好ましくは少なくとも40、50、75、100、200、250または400アミノ酸である。望ましくは、そのような断片には、ヒトHIF-1α中に見いだされる領域549−572または他のHIFαサブユニットタンパク質中のその等価領域、例えばHIF-2αの517−542領域が含まれる。場合により、断片にはまた、トランス活性化を担うタンパク質の1つ以上のドメインが含まれていてもよい。本明細書中でHIFαサブユニットタンパク質と記されている場合、機能的にVHLタンパク質に結合しうる上記の突然変異体および断片が含まれるが、文脈上明らかにこれに反する場合にはこの限りではない。
【0032】
アミノ酸同一性
DNA配列およびアミノ酸配列の相同性(同一性とも呼ばれる)パーセントは、市販のアルゴリズムを用いて計算することができる。次のプログラム(National Center for Biotechnology Informationから提供されている):BLAST、ギャップBLASTおよびPSI-BLAST(デフォルトパラメーターと共に使用することが可能である)を用いて相同性を決定することが可能である。アルゴリズムGAP(Genetics Computer Group, Madison, WI)では、マッチ数を最大にしかつギャップ数を最小にするNeedlemanおよびWunschのアルゴリズムを用いて2つの完全配列のアライメントを行っている。一般的には、ギャップ生成ペナルティ=12およびギャップ伸長ペナルティ=4のデフォルトパラメーターが使用される。本明細書中で用語「相同性」および「相同的」のいずれが使用される場合においても、比較される配列間の進化的関係はなんら必要とされず、例えば、適切な条件下で組換えを起こすのに十分な程度に2つのヌクレオチド配列が類似していることが単に要求されるにすぎない「相同的組換え」のような用語の標準的な使用法が遵守されるものとする。
【0033】
これらのプログラムのデフォルトパラメーターまたは他の特徴が変更されることもありうるが、その場合、プログラムやそのパラメーターの参照は本出願の優先日におけるものであると解釈しなければならない。
【0034】
アッセイフォーマット
2種のタンパク質の相互作用を研究するために当技術分野で広く使用されているアッセイフォーマットの1つは、ツーハイブリッドアッセイである。このアッセイは、本発明に使用するために適用可能である。ツーハイブリッドアッセイには、宿主細胞中で2種のタンパク質を発現させることが含まれる。一方のタンパク質は、酵母GAL4結合ドメインなどのDNA結合ドメイン(DBD)を有する融合タンパク質であり、他方のタンパク質は、GAL4やVP16などに由来する活性化ドメインを有する融合タンパク質である。そのような場合、宿主細胞(この宿主細胞もまた、細菌、酵母、昆虫または哺乳動物であってよく、特に、酵母または哺乳動物である)には、DBDとの適合性のあるDNA結合エレメントを有するプロモーターを含有してなるリポーター遺伝子構築物が含まれるであろう。リポーター遺伝子は、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)およびβガラクトシダーゼのようなリポーター遺伝子であってよく、特に、ルシフェラーゼが好ましい。
【0035】
ツーハイブリッドアッセイは、Fields and Song, 1989, Nature 340; 245-246に開示されているアッセイに準拠したものであってよい。そのようなアッセイでは、酵母GAL4転写因子のDNA結合ドメイン(DBD)および転写活性化ドメイン(TAD)が、相互作用の研究対象となる第1の分子および第2の分子にそれぞれ融合される。機能性GAL4転写因子は、対象となる2つの分子が相互作用する場合にのみ回復される。従って、リポーター遺伝子の転写を活性化させることのできるGAL4 DNA結合部位にこのリポーター遺伝子を機能的に連結させて使用することにより、分子の相互作用を測定することが可能である。
【0036】
本発明の場合、使用するHIFαサブユニットタンパク質にトランス活性化ドメインが含まれているときは、好ましくは、VHLタンパク質をDNA結合ドメインに融合させる。このとき、HIFαサブユニットタンパク質は、外来TAD配列なしで使用することが可能である。
【0037】
この場合、可能性のあるモジュレーター化合物の存在下でツーハイブリッドアッセイを行うことが可能である。こうすると、モジュレーターの作用は、モジュレーターの不在下における転写レベルと比較したときのリポーター遺伝子構築物の転写レベルの変化となって現れるであろう。
【0038】
ツーハイブリッドアッセイを行いうる宿主細胞としては、哺乳動物細胞、昆虫細胞および酵母細胞が挙げられる。
【0039】
添付の実施例に記載されているような様々な遺伝子中に見いだされる低酸素応答エレメントの活性化に基づいて、同様なアッセイを行うことが可能である。そのようなアッセイでは、一般に、ツーハイブリッドアッセイについて先に述べたときと同じように、リポーター遺伝子に機能的に連結されたエレメントが利用される。そのようなアッセイは、一般に、VHLタンパク質の存在下でHIFαサブユニットタンパク質が標的となって除去される細胞系または無細胞系で行われる。リポーターならびにHIFαサブユニットおよびVHLの一方または両方を発現する構築物を細胞(例えば、哺乳動物細胞)に導入し、モジュレーターの存在下および不在下でリポーターの産生を調べる。
【0040】
HIFαサブユニットがそのコグネイトHREに対して行う相互作用についても、例えば、EMSA(電気泳動移動度シフトアッセイ)を用いて直接調べることが可能である。
【0041】
他のアッセイフォーマットでは、VHLタンパク質およびHIFαサブユニットタンパク質の一方を検出可能な標識で標識して、タンパク質を互いに接触させる前または接触させた後のいずれかにおいて場合により固体担体上に固定される他方のタンパク質と接触させることによって、VHLとHIFαサブユニットとの相互作用が直接測定される。好適な検出可能な標識としては、組換えにより産生されるタンパク質に導入しうる35S-メチオニン、およびHAタグ、GSTタグまたはヒスチジンタグのようなタグが挙げられる。組換えにより産生されるタンパク質は、抗体で標識することのできるエピトープを含有する融合タンパク質として発現させることも可能である。このほか、従来の方法を用いてVHLおよび/またはHIFαサブユニットに対する抗体を取得することも可能である。
【0042】
場合により固体担体上に固定されるタンパク質は、固体担体に結合されるこのタンパク質に対する抗体を用いてまたはそれ自体公知の他の方法により固定することが可能である。
【0043】
このほか、一方のタンパク質を免疫沈降させ、続いて、ウェスタンブロットまたは電気泳動移動度または検出可能に標識されたタンパク質などにより他方のタンパク質を免疫学的に検出することによって、タンパク質の相互作用を測定することも可能である。
【0044】
さらに他の方式では、VHLおよびHIFαサブユニットの一方を蛍光供与体部分で標識し、他方を受容体からの発光を低減させることのできる受容体で標識することが可能である。こうすると、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)により行われる本発明に係るアッセイが可能になる。この方式では、供与体の蛍光シグナルは、VHLおよびHIFαサブユニットが相互作用すると変化することになる。相互作用を調節する候補モジュレーター化合物が存在すると、供与体の不変蛍光シグナルの量が増加したり減少したりする。
【0045】
FRETそれ自体は、当技術分野で公知の技術であり、従って、文献を参照することにより、詳細な供与体分子および受容体分子ならびにそれらをVHLおよびHIFαサブユニットに連結させる手段を具体化することが可能である。
【0046】
好適な蛍光供与体部分は、発蛍光エネルギーを他の発蛍光団分子または化合物の一部分に移動させることのできる部分であり、限定されるものではないが、クマリンおよび関連染料、例えばフルオレセインが挙げられる。また、好適な受容体としては、限定されるものではないが、クマリンおよび関連染料などが挙げられる。
【0047】
使用しうる他の方法は、シンチレーション近接アッセイである(試薬および取扱説明書はAmersham Pharmacia Biotechから入手可能である)。この方法では、標的化合物(すなわち、本発明の場合、VHL、HIFαまたはユビキチン)が、標的結合分子(すなわち、本発明の場合、残りのVHL、HIFαおよびユビキチンのうちの1つ)に結合させた放射能標識から放出される放射能により活性化されたときにシンチレーションを起こすシグナル発生化合物を有するビーズ上に保持される(または、アッセイの間にビーズに結合する)。
【0048】
本発明のアッセイの詳細なフォーマットは、慣用的な技術および知識を用いて当業者により変更することが可能である。本発明のin vitroアッセイでは、VHL、HIFαサブユニットおよび必要な場合にはさらなる成分の量は、アッセイのスケールに応じて変化させることが可能である。一般的には、当業者は、2成分がほぼ等モル量になるような選択をするであろう。例えば、VHL対HIFαサブユニットのモル比が1:10から100:1まで、好ましくは1:1から10:1までの範囲になるよう選択するであろう。しかしながら、この範囲外で実施できる特定のアッセイフォーマットも存在しうる。
【0049】
本発明のアッセイを細胞内で行う場合、正常酸素環境を提供または増強するように細胞を処理してもよい。「正常酸素」とは、通常の空気中に見いだされる酸素レベルと同じような酸素レベルを意味する。例えば、約21% O2および5% CO2、残りがN2の場合である。もちろん、これらの正確な割合を使用しなければならない訳ではなく、それぞれ独立して変化させることが可能である。一般的には、10〜30%の範囲の酸素、1〜10%の範囲のCO2および残りが窒素または他の比較的不活性な無毒性ガスである環境を使用することが可能である。正常酸素状態は、例えば、先に述べたように過酸化水素の存在下で細胞を培養することによって細胞内で誘導または増強することが可能である。
【0050】
このほかにまたは対照として、低酸素条件下で細胞を培養することも可能である。「低酸素」とは、酸素レベルが低減された環境を意味する。最も好ましくは、細胞培養物中の酸素レベルは、低酸素状態を提供する場合、0.1〜1.0%となる。低酸素状態は、単に、酸素レベルが低減した条件下で細胞を培養することによって細胞内で誘導することが可能である。模擬的な低酸素状態を生成してHIFαサブユニット発現のアップレギュレーションを引き起こす化合物で細胞を処理することも可能である。そのような化合物としては、鉄キレート化剤、コバルト(II)、ニッケル(II)またはマンガン(II)が挙げられる。これらはすべて、20〜500μM、例えば、100μMの濃度で使用することが可能である。鉄キレート化剤としては、デスフェリオキサミン、O-フェナントロリンまたはヒドロキシピリジノン(例えば、1,2-ジエチル-3-ヒドロキシピリジン-4-オン(CP94)または1,2-ジメチル-3-ヒドロキシピリジン-4-オン(CP20))が挙げられる。
【0051】
本発明のアッセイを行いうる細胞としては、酵母、昆虫、哺乳動物、霊長類およびヒトの細胞のような真核細胞が挙げられる。哺乳動物細胞は、一次細胞であってもよいし、あるいは腫瘍細胞系などのトランスフォーム細胞であってもよい。HIFαサブユニットタンパク質およびVHLタンパク質と相互作用することが知られている他のタンパク質、例えば、VHLタンパク質の場合にはエロンギンCタンパク質およびエロンギンBタンパク質ならびにHIFαサブユニットタンパク質の場合にはARNTタンパク質、を発現させるようにあるいは発現させないように細胞を改変することが可能である。細胞系または無細胞系に基づくHREを含むアッセイの場合、好ましいアッセイは、先に述べたように、また添付の実施例に示されているように、リポーター遺伝子を利用する。そのようなアッセイは、先に述べたようなツーハイブリッドタイプのアッセイであってもよい。内因性HIF応答遺伝子のDNA結合または転写を測定しうるより複雑なアッセイを提供することが可能である。そのようなアッセイでは、HIF-1β/ARNTならびにエロンギンBおよびエロンギンCなどの因子の存在または提供が必要とされる。
【0052】
無細胞系では、そのような追加のタンパク質は、例えば、好適な組換え発現ベクターからの発現により提供することによって組み入れることが可能である。
【0053】
細胞内で行われる本発明のアッセイでは、推定モジュレーター化合物の作用を測定しうるように、VHLの十分な発現を行って十分なHIFαサブユニットを複合体に補給することが望ましい。VHLおよびHIFαサブユニットの発現レベルは、かなり広い範囲内で変化させることが可能であるため、これら2つの細胞内レベルは、広範にわたる比率で、例えば、1:10から1000:1まで、好ましくは1:1から100:1までのVHL対HIFαサブユニットのモル比で変化させることが可能である。
【0054】
VHLがHIFαサブユニットに結合するとユビキチン化を介して生成複合体の破壊が開始されることが我々の結果から確認される。従って、HIF-1αユビキチン化の量を測定することにより複合体形成の阻害の程度を決定するように本発明のアッセイを行うことも可能である。そのようなアッセイは、培養細胞中で行うことも可能であるし、あるいはユビキチン源が提供される無細胞アッセイ系で行うことも可能である。
【0055】
他の実施形態において、我々はまた、鉄イオンの存在下で組換え手段によりHIF-1αを合成した場合、VHLへのこのタンパク質の結合が増強されることをも見いだした。従って、鉄イオンの存在下で、例えば、10〜200μM、100μMのFe 2+および/または3+の存在下などで組換え的にHIFαサブユニットを産生させ、こうして得られたHIFαサブユニットを上記のアッセイに使用することによって、本発明のアッセイを行うことが可能である。「組換え的」という用語には、宿主細胞(例えば、後述の宿主細胞)中における発現だけでなく、網状赤血球溶解物のような無細胞系における産生をも含まれる。これとは反対に、鉄キレート化剤、コバルト(II)、ニッケル(II)またはマンガン(II)の存在下でHIFαサブユニットを産生させるとHIFαサブユニットとVHLとの相互作用は弱くなる。
【0056】
従って、HIFαを産生させる環境はこのタンパク質がVHLと相互作用する能力に影響を及ぼす可能性があると思われる。かくして、上記内容に関連した本発明の実施形態において、推定モジュレーター化合物の存在下でHIFαサブユニットを産生させて、HIFαサブユニットがVHLと複合体を形成する能力がモジュレーターの存在によって変化するかを調べることを含んでなる、HIFα依存性遺伝子発現のモジュレーターについてのアッセイが提供される。
【0057】
本発明のこの態様のさらなる側面において、本発明はまた、鉄イオン、鉄キレート化剤、コバルト(II)、ニッケル(II)またはマンガン(II)と推定モジュレーター化合物との存在下でHIFαサブユニットを産生させて、HIFαサブユニットがVHLと複合体を形成する能力がモジュレーターの存在によって変化するかを調べることを含んでなる、HIFα依存性遺伝子発現のモジュレーターについてのアッセイを提供する。
【0058】
HIFαサブユニットは、細胞溶解物中で産生させてもよいし、あるいは細菌、酵母、昆虫または哺乳動物の宿主細胞のような組換え発現系で産生させてもよい。これらのおよび他の細胞タイプに用いられる発現系は周知であり、例えば、昆虫宿主細胞内でタンパク質を産生させるためのバキュロウイルス発現系が挙げられる。
【0059】
モジュレーター化合物
本発明のアッセイに加えうる推定モジュレーター化合物の量は、使用する化合物のタイプにより、通常、試行錯誤により決定されるであろう。典型的には約0.01〜100nM、例えば0.1〜10nMの濃度の推定モジュレーター化合物を使用することが可能である。モジュレーター化合物は、相互作用をアゴナイズする化合物であってもよいしアンタゴナイズする化合物であってもよい。相互作用のアンタゴニスト(インヒビター)が特に好ましい。
【0060】
使用可能なモジュレーター化合物は、薬物スクリーニングプログラムに使用される天然の化合物であってもよいし合成の化合物であってもよい。特性決定されたまたはされていない成分をいくつか含有する植物抽出物を使用してもよい。推定インヒビター化合物であるモジュレーターは、VHLタンパク質配列およびHIFαサブユニットタンパク質配列から誘導することができる。VHLタンパク質とHIFαサブユニットタンパク質との相互作用を担うVHLおよびHIFαサブユニットの領域に由来する5〜40アミノ酸、例えば6〜10アミノ酸のペプチド断片を、この相互作用を破壊する能力について試験することが可能である。どちらかのタンパク質中の相互作用部位を指向する抗体は、推定インヒビター化合物のさらなるクラスを形成する。候補インヒビター抗体を特性評価してその結合領域を決定することにより、VHLとHIFαサブユニットとの相互作用の破壊に関与する一本鎖抗体およびその断片を提供することが可能である。
【0061】
特定クラスのペプチド化合物は、ヒトHIF-1αの領域344-698、例えば549-652、特に549-572または他のHIFαサブユニットタンパク質の等価領域に基づく化合物であろう。そのようなペプチドのサイズは、好ましくは5〜50アミノ酸であろう。
【0062】
従って、さらなる態様において、本発明は、ヒトHIF-1αの領域344-698、例えば549-652、特に549-572に見いだされる配列を有する5〜50アミノ酸からなる単離されたポリペプチドを提供する。
【0063】
領域549-572内では、HIFαサブユニットタンパク質は高度に保存されている。実際に、ヒトおよびマウスのHIF-1αはいずれも、領域551-572にわたって同等であり、そしてヒトおよびマウスのHIF-2α(この領域中で互いにN → S置換だけが異なるにすぎない)は非常に類似しており、HIF-1αと比較して1個の置換(T → N/S)および3個の挿入を有する。これらのタンパク質はすべて、モチーフ: LAPYIPMS(配列番号1)(本明細書中ではN末端からC末端の方向に従来の1文字コードで記述されている)を共有しており、このモチーフまたは1〜3個、好ましくは1もしくは2個の置換を有するその変異体を、本発明のポリペプチドとして提供することが可能である。置換は、本明細書中に記載されているように保存置換であってもよい。
【0064】
そのような配列の例としては、
LAPYISMD(ヒトHIF-3αに見いだされる) 配列番号2、
LLPYIPMD 配列番号3、
LVPYIPMD 配列番号4、
IAPYIPMD 配列番号5、
IAPYIPME 配列番号6、および
LVPYISMD 配列番号7、
が挙げられる。
【0065】
従って、本発明のペプチドは、上記の配列により特性付けられる8〜50アミノ酸、例えば8〜15アミノ酸を含有しうる。我々は、これらの配列に基づくペプチドがVHLタンパク質とHIFαタンパク質との相互作用を阻害しうることを見いだした。
【0066】
本発明のさらなるペプチドとしては、
DLDLEMLAPYIPMDDDFQL(配列番号8)、
1〜4個、例えば1〜3個、具体的には1もしくは2個の置換(「置換」という用語には、アミノ酸なしによる置換(すなわち欠失)が包含される)が存在するその変異体、例えば、配列番号8中の配列番号1の領域が配列番号2〜配列番号7のうちのいずれか1つで置換されている変異体、および 配列番号8を含有する20〜50アミノ酸からなるポリペプチド、が挙げられる。
【0067】
後者のタイプの特定のポリペプチドは、
PFSTQDTDLDLEMLAPYIPMDDDFQLRSFDQLSP(配列番号9)、
または上記の配列番号8に対して定義したようなその変異体、および 配列番号9を含有する35〜50アミノ酸からなるポリペプチド、である。
【0068】
同様に、先に記載したVHL領域71-90および90-109に見いだされる突然変異クラスターに基づくペプチド、特に、ヒトVHL中のこれらの配列を有するペプチド、または1〜3個、好ましくは1もしくは2個の置換、特に本明細書中に記載の保存置換を有するその変異体であるペプチドが、本発明のさらなる態様として提供される。
【0069】
そのようなポリペプチド中のアミノ酸、例えば、1〜5個のアミノ酸(ペプチドの全サイズの20%を上限とする)を置換することにより、本発明のさらなる態様を形成する変異体ポリペプチドを提供しうる。
【0070】
置換には保存置換が含まれていてもよい。例えば、下記の表に従って、第2列の同一区画にあるアミノ酸、好ましくは第3列の同一行にあるアミノ酸を互いに置換することが可能である。
【0071】

このほか、小さな脂肪族アミノ酸、好ましくはグリシンまたはアラニンで任意
のアミノ酸を置換することが可能である。
【0072】
さらに、欠失および挿入(例えば、1〜5個、アミノ酸20%を上限とする)を行うことも可能である。挿入は、好ましくは、小さな脂肪族アミノ酸、例えば、グリシンまたはアラニンの挿入であるが、他の挿入が除外されるわけではない。
【0073】
また、本発明のポリペプチドに関して本明細書に記載されている任意の方法により、変異ポリペプチドを改変することが可能である。これには、例えば、C末端からN末端方向の「リバース」配列、合成アミノ酸、改変側鎖および標識化が含まれる。
【0074】
ポリペプチドは、ペプチドの複数のコピー(またはペプチドの混合物)を含有する分子の形態で提供することが可能である。例えば、リシンの側鎖のアミノ基をアミノ酸のカルボキシ末端に対する結合位置として使用することが可能である。この場合、カルボニル結合により2個のアミノ酸がリシンに連結され、分枝状構造が得られる。これを1回以上繰り返すことにより、この分枝状構造をさらに枝分かれさせることが可能である。例えば、そのような多重抗原ペプチド(MAP)に本発明のペプチドの4個のコピーを連結させることが可能である。MAPとは、例えば、構造Pep4-Lys2-Lys-X〔式中、Pepは、HIFαサブユニット領域由来のペプチドまたはその変異体(場合により、異種融合の形態)であり、Lysはリシンであり、そしてXは、Pep4-MAPペプチドを合成するための樹脂のような固体担体にMAPコアを連結させるために用いられて合成終了後には担体から除去しうるβ-アラニンのような末端基である。〕を有するものである。
【0075】
Lu et al, 1991, Mol Immunol, 28, 623-30; Briand et al, 1992, J Immunol Methods, 156, 255-65; Ahlborg, 1995, J Immunol Methods, 179, 269-75に記載のMAPコアを用いて、他の多重ペプチド構造を得ることが可能である。
【0076】
本発明の多量体を提供する場合、本発明の異なるペプチドが含まれていてもよいし、あるいは同じペプチドの多量体であってもよい。
【0077】
別に明記されている場合を除き、本明細書に記載のポリペプチド配列は、従来の1文字コードでN末端からC末端の方向に示されている。本発明のポリペプチドのアミノ酸配列は、天然に存在しないアミノ酸を含むようにまたはin vivoでの化合物の安定性を増大させるように改変することも可能である。合成手段により化合物を生成させる場合、生成時にそのようなアミノ酸を導入することが可能で
ある。また、合成的生成または組換え的産生の後、化合物を改変することも可能である。
【0078】
本発明のポリペプチドはまた、D-アミノ酸を用いて合成的に調製することも可能である。そのような場合、アミノ酸は、CからNの方向にリバース配列で連結されるであろう。これは、そのようなペプチドを生成するために当技術分野で慣用されている。
【0079】
アミノ酸の側鎖改変が当技術分野でいくつか知られており、こうした改変を本発明のポリペプチドの側鎖に適用することが可能である。そのような改変としては、例えば、アルデヒドと反応させてからNaBH4で還元する還元的アルキル化、メチルアセトイミデートによるアミジン化または無水酢酸によるアシル化を行うことによってアミノ基を改変することが挙げられる。
【0080】
アルギニン残基のグアニジノ基は、2,3-ブタンジオンまたはグリオキサールのような試薬を用いて複素環式縮合生成物を生成させることによって改変することが可能である。スルフィドリル基はカルボキシメチル化などにより改変することが可能であり、トリプトファン残基はインドール環の酸化またはアルキル化により改変することが可能であり、そしてヒスチジン残基のイミダゾール環はアルキル化により改変することが可能である。
【0081】
カルボキシ末端および任意の他のカルボキシ側鎖は、C1-6アルキルエステルなどのエステル基の形態で保護することが可能である。
【0082】
アミノ酸に対する上記の改変例は、網羅的ではない。当業者は、所望により、当技術分野でそれ自体知られた化学を用いて、アミノ酸側鎖を改変することが可能である。
【0083】
ポリペプチドは、当技術分野で広く利用可能な方法を用いて合成的にまたは組換え的に調製することが可能である。合成的生成では、一般に、それぞれのアミノ酸残基を反応容器に段階的に添加して、反応容器中で所望の配列のポリペプチドが調製される。組換え法の例については以下で説明する。
【0084】
ポリペプチドは、実質的に単離された形態をとることが可能である。ポリペプチドはポリペプチドに対する意図する目的を妨げない担体または希釈剤と混合することが可能であり、これも依然として実質的に単離されているとみなしうるものであると解釈される。また、ポリペプチドは、実質的に精製された形態をとることが可能であり、この場合には、一般に、調製物中のポリペプチドの90%強、例えば、95%、98%または99%が、HIFαサブユニット配列に基づくポリペプチドであるように、調製物中にポリペプチドが含まれる。
【0085】
VHLとHIFαサブユニットとの相互作用に対するペプチドアンタゴニストは、真核細胞の膜を貫通するようにポリペプチドを移動させることのできる膜トランスロケーション配列である配列のクラスのメンバーにC末端またはN末端で連結させることが可能である。そのようなポリペプチドの例としては、HSV-1 VP22タンパク質(Elliot, G. and O'Hare, P. (1997) Cell 88, 223-233)、HIV Tatタンパク質(例えば、残基1-72または37-72 (Fawell, S., et al, (1994) Proc. Natl. Acad. Sci., USA., 91, 664-668))あるいはDrosophila melanogasterアンテナペディアタンパク質由来の配列が挙げられる。後者は、生体膜を貫通するアンテナペディアホメオドメインタンパク質の第3へリックスから採取された16個のアミノ酸残基を含有するペプチドである(Derossi et al (1994) J. Biol. Chem. 269: 10444-10450)。このトランスロケーションペプチドは、配列: Arg-Gln-Ile-Lys-Ile-Trp-Phe-Gln-Asn-Arg-Arg-Met-Lys-Trp-Lys-Lys(配列番号10)を有する。好ましくは、VHLとHIFαサブユニットとの相互作用をアンタゴナイズする本発明のポリペプチドのN末端にこのペプチドを連結させる。
【0086】
他の候補インヒビター化合物は、特定の分子形状、サイズおよび電荷特性を有する潜在的なインヒビター化合物を提供するため、VHLおよびHIFαサブユニットの三次元構造のモデリングならびに合理的なドラッグデザインの使用に基づいたものであってよい。
【0087】
本発明のアッセイおよび本発明のモジュレーター化合物は、様々な用途を有する。例えば、細胞増殖の複雑な経路を詳細に解明する作業は、特定の相互作用を促進または阻害する手段を提供して、経路中の他のタンパク質の作用をより詳細に研究できるようにすることによって容易になるであろう。さらに、VHL-HIF相互作用を阻害することにより新血管形成を促進する手段を用いれば、抗新血管形成能力を有する化合物をより詳細に評価することができるであろう。そのような評価を行う場合、ヒト異種移植片を有する動物(特に、マウスやラットのような小さい哺乳動物)を提供し、VHL-HIF相互作用のモジュレーターで動物中の異種移植片を処理して新血管形成を促進し、次いで好適な対照と組み合わせて抗新血管形成能力を有する化合物で異種移植片を処理することが可能である。
【0088】
本発明の方法により得られる候補モジュレーター化合物は、医薬製剤として調製することが可能である。そのような製剤には、好適な担体、希釈剤および賦形剤と一緒にこうした化合物が含まれることになる。そのような製剤は、本発明のさらなる態様を形成する。
【0089】
製剤は、経口投与、口腔内投与、局所投与、筋肉内投与、静脈内投与、皮下投与などを含めて任意の所望の投与経路に適したように調製することが可能である。
【0090】
皮膚への局所投与に用いられる製剤は、ペプチドに対する皮膚の浸透性を高める成分を含有することが可能である。そのような製剤は、軟膏剤、クリーム剤、経皮用パッチなどの剤形をとることが可能である。
【0091】
注射による投与(例えば、筋肉内投与、静脈内投与、皮下投与など)に用いられる製剤には、場合によりペプチド用の保存剤または安定剤と一緒に、生理食塩水のような無菌担体が含まれる。アルブミンは好適な薬剤でありうる。
【0092】
特に、インヒビター化合物の製剤は、冠状動脈不全、脳血管不全および末梢血管不全に現れるような器官虚血などの虚血状態を治療する方法に使用することが可能である。どの虚血症も治療の対象となる。心筋梗塞の場合のように明瞭な組織損傷の後で(組織損傷を抑えるために)またはアンギナの治療時に冠状側枝の形成を促進する場合のように予防的に虚血状態を抑えるために、2通りの方法で治療を行うことが可能である。このほか、血管運動制御は、HIFによる調節の影響を受ける。HIFを活性化すると、体血管抵抗が低下する可能性があり、従って、体血圧が低下する可能性がある。
【0093】
候補インヒビター化合物はまた、新血管形成のプロモーターと一緒に使用することも可能である。こうしたプロモーターとしては、血管内皮増殖因子および他の新血管形成性増殖因子、例えば、塩基性繊維芽細胞増殖因子ならびにチミジン
ホスホリラーゼおよび新血管形成剤が挙げられ、これらは組合せ療法に使用することが可能である。組み合わせて使用しうると考えられる他の化合物は、2-デオキシリボースおよびプロスタグランジンEである。
【0094】
本発明のペプチドを被験者に投与する場合、用量は、患者のニーズおよび治療される状態を考慮に入れて、医師の裁量で決定される。一般的には、用量は、所望の作用部位において0.1μMから1mMまで、例えば1〜10μMの範囲の濃度が得られるように提供される。
【0095】
本発明のペプチドは、先に記載したように、標準的な組換え手段により産生してもよいし、あるいは化学的手段により合成してもよい。かくして、さらなる実施形態において、本発明は、本発明のペプチドをコードする配列に機能的に連結されたプロモーターを含んでなる発現ベクターを提供する。この配列は、細胞のコンパートメントまたは細胞の外を指向するようにペプチドの発現を指令するリーダー配列などのさらなる配列に連結させることが可能である。ベクターは原核性であってもよいし真核性であってもよい。ベクターは、複製起点、選択マーカーなどのような標準的なベクター成分を含有することが可能である。
【0096】
ベクターは、ポリペプチドの発現が起こるようにベクターを細胞に送達する方法を含めてヒト細胞内で本発明のペプチドを発現させるのに好適なアデノウイルスベクターやアデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターであってもよい。筋肉細胞は細胞に直接投与されたDNAを摂取しうることが知られており、そして1実施形態において、本発明のベクター(特に、上記のウイルスベクター)は、筋肉特異的プロモーターおよび筋肉細胞内で誘導性のプロモーター、例えば、IGF-1プロモーターなどの、筋肉細胞内で機能しうるプロモーターを含有している。
【0097】
本発明はまた、本発明のベクターを有する宿主細胞と、本発明のポリペプチドを産生する方法とを提供する。この方法では、ベクターからの発現が起こる条件下で宿主細胞を培養し、そして望ましくはポリペプチドを回収する。
【実施例】
【0098】
以下、実施例により本発明を説明する。
実施例
低酸素誘導因子-1(HIF-1)は、エネルギー代謝に関わる遺伝子の調節、血管運動の制御、新血管形成、増殖及びアポトーシスなどの低酸素症に対する様々な細胞応答において主要な役割を果たしている(Wang, G.L.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92, 5510-5514 (1995); Bunn及びPoyton、Physiol. Rev. 76, 839-885 (1996); Carmeliet, P.ら、Nature 394, 485-490 (1998); An, W.G.ら、Nature 392, 405-408 (1998))。主な調節機構には、酸素正常状態におけるプロテアソームによって迅速に分解されるが、低酸素状態によって安定化されるHIFαサブユニットのタンパク質分解が含まれる(Huang, L.E.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 7987-7992 (1998))。コバルトイオン又は鉄キレート化剤は、低酸素症を模倣する-刺激はフェロタンパク質酸素センサーに対する作用を介して相互作用することを示唆する知見(Goldberg, M.A.ら、Science 242, 1412-1415 (1988); Wang及びSemenza, Blood 82, 3610-3615 (1993))。本実施例は、HIF-1の調節におけるフォン・ヒッペル−リンドウ(von Hippel-Lindau)腫瘍サプレッサー遺伝子産物pVHLの重要な役割を説明するものである。VHL欠損細胞において、HIFαサブユニットは構成的に安定化され、HIF-1は活性化されていた。野生型VHL遺伝子のトランスフェクションにより、酸素依存的な不安定性が回復した。pVHL及びHIFαサブユニットは共免疫沈降し、pVHLは低酸素HIF-1 DNA結合複合体中に存在していた。しかし、鉄キレート化又はコバルトイオンに曝露された細胞においては、HIF-1はpVHLから解離した。これらの知見は、HIF-1とpVHLとの間の相互作用は鉄依存的であり、HIFαサブユニットの酸素依存的分解にとって必要であることを示唆している。それらは、酸素により調節される遺伝子発現におけるpVHLの主要な機能を規定し、構成的なHIF-1の活性化がVHL関連腫瘍の新血管形成の表現型の基礎をなすことを示唆している。pVHL/HIF-1相互作用は、細胞の酸素感受系を理解するための新しい焦点を提供する。
【0099】
(a) RCC4細胞における酸素により調節される遺伝子発現に対するpVHLの効果
グルコース代謝及び新血管形成の増強は、癌の典型的な特徴であり(Warburg, O. The metabolism of tumours (Arnold Constable, London, 1930); Hanahan及びFolkman, Cell 86, 353-364 (1996))、通常、低酸素状態により誘導される遺伝子のアップレギュレーションを含む。低酸素の微小環境(Shweiki, D.ら、Nature 359, 843-845 (1992))による刺激に加えて、遺伝子変化がこれらの効果に寄与する。顕著な例は、フォン・ヒッペル・リンドウ(von Hippel-Lindau;VHL)病、高度な新血管形成腫瘍の素因を作る遺伝性ヒト癌症候群である(Kaelin及びMaher, Trends Genet. 14, 423-426 (1998))。これらの腫瘍細胞におけるVEGF及びGLUT-1をコードする低酸素誘導性mRNAの構成的なアップレギュレーションは、pVHLの再発現により補正可能である。転写後機構が提唱されている(Gnarra, J.R.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 10589-10594 (1996); Iliopoulos, O.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 10595-10599 (1996))。本発明者らは、2つのVHL欠損腎臓癌細胞系であるRCC4及び786-O細胞のリボヌクレアーゼ保護分析を用いて、酸素により調節される遺伝子発現におけるpVHLの関与について研究した。
【0100】
グルコース輸送、解糖、高エネルギーリン酸代謝及び血管形成に関与する産物をコードする11個の遺伝子を試験したが、そのうちの9個は通常、他の哺乳動物細胞において低酸素状態により誘導され、2個(LDH-B及びPFK-M)は低酸素状態により抑制される。これらの遺伝子及びプローブの詳細を表1に記載する。
【0101】
表1:リボプローブ鋳型の長さと配列
【表1】

【0102】
説明:VEGF、血管内皮細胞増殖因子;GLUT-1、グルコース輸送因子1;AK-3、アデニル酸キナーゼ3;TGF-b1、トランスフォーミング増殖因子b1;ALD-A、アルドラーゼA;PGK-1、ホスホグリセリン酸キナーゼ1;PFK、ホスホフルクトキナーゼ;LDH、乳酸デヒドロゲナーゼ;U6 sn、U6小核RNA;NRF-1、核呼吸因子1(nuclear respiratory factor 1)。U6 snRNAは、全てのアッセイの内部対照として用いた。また、VHLの状態又は低酸素状態により影響を受けない2個の他の遺伝子、NRF-1及びβ-アクチンも用いた。
【0103】
低比活性プローブを得るために、過剰量の非標識GTPの存在下でU6 snRNAプローブを合成した。各アッセイにおいて、各サンプルから得た1μgのアリコートのRNAを、このプローブにハイブリダイズさせ、リボヌクレアーゼ消化の後、適当な割合(元のRNAの10〜45 ngに相当する)のこの対照ハイブリダイゼーションを試験ハイブリダイゼーションに添加した。ALD-A及びPGK-1、並びにLDH-A及びLDH-Bを、共にハイブリダイズさせることができた。
【0104】
これらの応答はいずれも、VHL欠損細胞系においては観察されなかった。低酸素状態に対する応答は、野生型VHL遺伝子の安定なトランスフェクションにより回復し、低酸素のむしろ穏当な作用(PFK-L及びLDH-B)から実質的な調節まで影響した。これらの結果は、RCC4細胞において観察されたものであるが、同様に、一般的なより小さい効果ではあるが、786-O細胞においても観察された。これらの結果は、以前に記載のVHL欠損細胞における低酸素誘導性mRNAのアップレギュレーションは広範囲の酸素により調節される遺伝子にまで拡張され、正及び負の両方に調節される遺伝子に関する構成的な「低酸素パターン」に関与することを示唆している。
【0105】
(b) HIF-1及び低酸素応答エレメント(HRE)活性に対するpVHLの効果
これらの遺伝子の多く(VEGF、GLUT-1、AK-3、ALD-A、PGK-1、PFK-L、LDH-A)は、HIF-1複合体に結合し、及び/又はHIF-1を欠損する細胞における発現の変化を示す低酸素応答エレメント(HRE)を含む(Bunn及びPoyton、Physiol. Rev. 76, 839-885 (1996); Dang及びSemenza、Trends Biol. Sci. 24, 68-72 (1999)並びにそこで引用される参考文献)ので、VHL欠損細胞における発現のこの調査は、酸素正常状態及び低酸素状態下でのHIF-1及びHRE機能に対するpVHLの効果を探索すべく本発明者らを鼓舞した。VHL発現ベクターpcDNA3-VHL(+)、又は空のベクターpcDNA3(-)、及びHREを含まないルシフェラーゼリポーター遺伝子、またはサルウイルス40(SV40)プロモーターもしくはチミジンキナーゼ(TK)プロモーターに連結したホスホグリセリン酸キナーゼ-1遺伝子(PGK-1)に由来するHREもしくはエリスロポエチン遺伝子(Epo)に由来するHREを含むルシフェラーゼリポーター遺伝子を用いて、RCC4細胞の一過性トランスフェクションを行った。
【0106】
VHLは、酸素正常状態の細胞においてHRE活性を顕著に抑制し、低酸素状態(0.1% O2、24時間)による誘導を回復することが判明した。1%酸素に曝露した場合も、同様の結果が得られた。また、HREリポータープラスミド、次いでpcDNA3-VHLでRCC4細胞を連続的かつ安定的にトランスフェクトした場合も、同様の結果が得られた。
【0107】
Epo HREを用いたEMSA分析により、HIF-1自身を試験した。Hela細胞の核抽出物において、誘導性HIF-1種は、遅い方の移動度のバンド及び速い方の移動度のバンドの二重縞として認められた。RCC4細胞においては、速い方の移動度のHIF-1種のみが存在し、酸素正常状態及び低酸素状態の両方において同等のレベルで発現される。RCC4/VHL細胞においては、HIF-1の結合パターンは、pcDNA3-VHLで安定にトランスフェクトされたこれらのRCC4細胞(RCC4/VHL)における正常な低酸素誘導パターンの回復と共に、Hela抽出物のものと類似していた。また、構成的な結合種が、全ての抽出物において観察された。
【0108】
他の細胞においては、低酸素状態によるHIF-1の活性化は主に、酸素正常状態における低い基底レベルからのHIF-1α量の増加を含む(Wang, G.L.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92, 5510-5514 (1995); Huang, L.E.ら、J. Biol. Chem. 271, 32253-32259 (1996))。全細胞抽出物のウェスタンブロッティングにより、RCC4細胞は、高レベルのHIF-1α自身及び通常、同様の方法で調節される(Wiesener, M.S.ら、Blood 92, 2260-2268 (1998))関連分子であるHIF-2α(EPAS-1、HRF、HLF、及びMOP2とも呼ばれる)の両方を構成的に発現することが示された。
【0109】
これらのタンパク質の構成的な高いレベルは、HIF-1α及びHIF-2αに関する全細胞抽出物のウェスタン分析により、8種の他のVHL欠損細胞系(下記の表2を参照)において認められた。UMRC2、UMRC3及びKTCL140は、VHLに突然変異を有する腎臓癌細胞系である(Gnarra, J.R.ら、Nature Genet. 7, 85-90 (1994))。VHL突然変異を有する細胞系は、高い酸素正常レベルのHIFαサブユニットを示した。このことは、腎臓癌細胞系Caki-1(正常にpVHLを発現する(Iliopoulos, O.ら、Nature Med. 1, 822-826 (1995)))とは対照的であった。
【0110】
特定のVHL欠損細胞(例えば、786-O、KTCL140)は、高い構成的レベルでHIF-2αを発現したが、検出可能なレベルでHIF-1αタンパク質を発現しなかった。RCC4及び786-O細胞の安定なトランスフェクタントの試験により、トランケートされたものではなく、野生型のVHL遺伝子の発現は、どちらのサブユニットをコードするmRNAのレベルに影響することなく、酸素によりHIFαサブユニットの調節を回復させることが示された。
【0111】
表2:VHL突然変異を担持する腎臓癌細胞におけるHIFαサブユニットの発現
以下に記載の腎臓癌細胞系は、ウェスタン分析により、高い酸素正常状態のHIFαサブユニットの発現を示した。
【表2】

【0112】
説明:報告された突然変異(Gnarra, J.R.ら、Nature Genet. 7, 85-90 (1994)又は本発明者らによって決定された突然変異(RCC4及びRCC7)。* RCC4細胞においてウェスタンブロット上で検出されなかったpVHL。この突然変異は、IG32による認識に影響しなかった(野生型及び突然変異タンパク質の免疫ブロッティングにより評価、COS細胞において、IVTTにより発現)。
【0113】
(C) pVHLとHIF-1との結合
HIF-1調節におけるpVHLの役割を追求するため、本発明者らは、低酸素及び/又はプロテアソームの遮断の組合せを用いてHIFαサブユニットを誘導して、HIFαサブユニットとpVHLとの間の相互作用について試験した。pcDNA3-VHLで安定にトランスフェクトされたRCC4細胞(RCC4/VHL; VHL+)、及びRCC4細胞(VHL-)由来の全細胞抽出物の、抗pVHLモノクローナル抗体IG32を用いた免疫沈降反応を行った。
【0114】
プロテアソームの阻害を行うか、又は行わずに、酸素正常状態又は低酸素状態(1% O2、4時間)で4時間、細胞を培養した。細胞溶解物を、IG32又は対照抗体(VG-7be)を用いて免疫沈降し、HIF-2α(190bを用いる)及びHIF-1α(クローン54)について免疫ブロットした。また、選択した入力溶解物のアリコート(15μg、各αサブユニットの免疫沈降によって分析されるものの1/4と同等)も、ゲル上に載せた。
【0115】
RCC4細胞ではなく、プロテアソームを遮断したRCC4/VHL細胞から得た抽出物の抗pVHL免疫沈降物はHIF-1α及びHIF-2αの両方を含むことが判明した。
【0116】
プロテアソームの遮断の非存在下で、低酸素状態について同様の結果が得られた。また、逆反応も行った。すなわち、HIFαサブユニットに対するポリクローナル抗体を用いたRCC4/VHL(VHL+)抽出物及びRCC4(VHL-)抽出物の免疫沈降である。HIF-2α(HIF-2α)、HIF-1α(HIF-1α)に対するウサギポリクローナルIg又は正常ウサギIgを用いて、細胞溶解物を免疫沈降し、pVHL(IG32)について免疫ブロットした。HIF-2α又はHIF-1αに対する抗体の免疫沈降は、pVHLを共沈降したが、全体のうちのより少ない割合が捕捉された。
【0117】
pVHLを正常に発現するHela細胞の抗pVHL免疫沈降物中のHIFαサブユニットの存在によって、相互作用がまた示された。IG32又はpAb419を用いたHela抽出物の免疫沈降の後、HIF-2α(190b)及びHIF-1α(アフィニティー精製したウサギポリクローナル)についての免疫ブロッティングを行い、30μgの入力溶解物もゲル上に載せ、相互作用を観察した。
【0118】
pVHLの一部は核に局在するので、本発明者らは次に、pVHLがHIF-1 DNA結合複合体中に組み込まれるか否かを決定した。抗VHL(IG32)、又はVG-7be(対照)を、酸素正常状態又は低酸素状態(1% O2、4時間)の細胞から得た核抽出物の結合反応物に添加した。対照抗体は遅い方又は速い方の移動度のHIF-1種の移動度を変化させなかった。抗pVHL抗体は、Hela細胞及び低酸素状態のRCC4/VHL細胞における遅い方のHIF-1種を超シフトさせた(supershifted)。pVHL及び遅い方のHIF-1種を欠く低酸素状態のRCC4細胞の抽出物については、超シフトは認められなかった。従って、RCC4/VHL細胞及びHela細胞から得た核抽出物への抗pVHLの添加は、移動度の明確な変化をもたらしたが、そのような移動度のシフトは、VHL欠損RCC4細胞から得た核抽出物については観察されなかった。
【0119】
ゲルは、HIF-1を2つの種に分解した。遅い方の移動度のHIF-1種のみが、低酸素状態のHela細胞から得た核抽出物において抗pVHLによってシフトしたが、HIF-1αに対する抗体によって両方の種がシフトした。他の細胞系(Hep3B、Caki-1、MRC5-V2及び293細胞)において、同様の結果が観察された。
【0120】
さらに、RCC4/VHL、Hela細胞及び他の細胞系は、2つのHIF-1種を明確に含んでいたが、酸素正常状態及び低酸素状態のRCC4抽出物の両方は、速い方の移動度の種のみを含んでいた。従って、VHL欠損細胞は、野生型VHLのトランスフェクションにより回復し、抗pVHLによってシフトする遅い方の移動度の種を欠いている。このことは、EMSA分析で識別可能なHIF-1二重縞が、pVHLを含むか、又は含まないHIF-1複合体の2つの種から生じることを示唆している。組合せの超シフト分析により、遅い方の移動度の種がHIF-1α及びpVHLの両方を含むことが確認された。
【0121】
(d) pVHL/HIF-1相互作用に対するコバルトイオン及び鉄キレート化の効果
低酸素状態によるHIF-1の活性化は、コバルトイオン及び鉄キレート化により模倣される(Goldberg, M.A.ら、Science 242, 1412-1415 (1988); Wang及びSemenza, Blood 82, 3610-3615 (1993))。VHL作用の機構を追求するため、本発明者らは、pVHL/HIF-1相互作用がこれらの刺激のいずれか又は全てにより調節されるか否かを試験した。プロテアソームの遮断は、酸素正常状態の細胞においてHIF-1 DNA結合複合体を誘導する(Salceda及びCaro, J. Biol. Chem. 272, 22642-22647 (1997)); プロテアソーム阻害剤の存在下又は非存在下での、この酸素正常状態の複合体と低酸素状態の細胞のEMSAとの比較により、同様のシフト及び抗pVHL超シフトが示された。RCC4/VHL細胞を、酸素正常状態、低酸素状態(1% O2)、デスフェリオキサミン(100μM)、塩化コバルト(100μM)又はプロテアソーム阻害(PI)で、4時間培養した。免疫沈降のデータと共に、このことは、pVHLとの相互作用は酸素正常状態及び低酸素状態、並びにプロテアソーム阻害の存在下又は非存在下で起こることを示唆している。対照的に、コバルト及び鉄キレート化剤であるデスフェリオキサミン(DFO)で処理したRCC4/VHL細胞のEMSA分析により、速い方の移動度のHIF-1複合体のみが示された。これは、抗pVHLと共に超シフトしなかったが、遅い方の移動度のpVHL/HIF-1複合体はこれらの刺激に曝露された細胞において形成できないことを示唆している。他の細胞型においても同様の結果が得られたが、これはコバルト又はDFO対低酸素状態の刺激された細胞から得られたHIF-1の以前の分析におけるこれまで不明確であった移動度の差異と一致しており(Wang及びSemenza、Blood 82, 3610-3615 (1993))、これが一般的な作用であることを示唆している。
【0122】
低酸素状態の前に4時間DFOで処理すると、pVHL/HIF-1複合体形成が阻害された。鉄キレート化剤の添加は、in vitroでpVHL/HIF-1複合体を破壊できなかったが、in vitroで翻訳された野生型pVHL(トランケートされたpVHLではない)の添加は、DFO又はコバルトで処理された細胞ではなく、プロテアソームを遮断した酸素正常状態及び低酸素状態のRCC4細胞の核抽出物に対する遅い方の移動度の種を回復することができた。
【0123】
免疫沈降試験は、HIF-1とpVHLとの間の相互作用は鉄依存的であるという示唆においてEMSA分析と一致していた。HIF-1α及びHIF-2αの双方は、低酸素状態のRCC4/VHL細胞から得た免疫沈降物中に含まれていたが、DFO又はコバルトで処理した細胞から得た同様の沈降物にはタンパク質は含まれていなかった。HIFαサブユニットとpVHLとの間の鉄依存的相互作用は、直接的なものであっても、間接的なものであってもよい。このことを試験するために、in vitroで転写翻訳されたHIF-1複合体と比較した、天然のHIF-1複合体へのIVTT pVHLの添加の効果を試験した。低酸素状態のRCC4細胞又はIVTT HIF-1α及びARNTから得た核抽出物を用いて、EMSAを行った。HIF-1αに対する抗体は、HIF-1複合体を超シフトさせた。IVTT pVHLの添加はRCC4 HIF-1複合体を改変し、IG32により超シフトした遅い方の移動度のHIF-1種を含む二重縞が得られた。IVTT pVHLの添加はIVTT HIF-1複合体を改変しなかった。このように、RCC4抽出物との相互作用と対照的に、in vitroで翻訳された野生型pVHLは、in vitroで翻訳されたHIF-1 DNA結合複合体に結合しなかったが、このことは、ウサギ網状赤血球溶解物中に示されないさらなる因子又はHIF-1の修飾が、結合にとって必要であることを示唆している。
【0124】
(e) 酸素依存的分解(ODD)ドメインのHIFα安定性及び機能に対するpVHLの効果
通常、HIFαサブユニットは、内部酸素依存的分解(ODD)ドメイン上で働くプロテアソーム機構によって、酸素正常状態の細胞中で急速な分解の標的となる(Huang, L.E.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 7987-7992 (1998))。本発明者らのデータは、pVHLが通常はこのプロセスにとって必要でありうること-pVHLが、酵母のユビキチンリガーゼ/プロテアソームターゲッティング複合体との相同性を有する多タンパク質複合体(Cul-2並びにエロンギン(elongin)B及びCなど)を形成するという最近のデータ(Pause, A.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94, 2156-2161 (1997); Lonergan, K.M.ら、Mol. Cell Biol. 18, 732-741 (1998))と一致する可能性を示唆している。シクロヘキシミド(最終濃度100μM)の添加により、細胞を低酸素状態(4時間)から酸素正常状態に変化させたとき、HIFαサブユニットは、野生型VHLトランスフェクタントにおいては、5分の範囲の半減期で崩壊したのに対して、VHL欠損RCC4及び786-O細胞においては約60分で崩壊し、安定性に対するpVHLの主要な効果が確認された。
【0125】
さらに、HIF-1α ODDドメインを含むGal4キメラの機能試験により、pVHLに対する単離されたODDドメインの顕著な依存性が示された。Gal4リポーターpUAS-tk-Luc、及びGal4/VP16融合遺伝子をコードするpGalVP16、又はGal4 DNA結合ドメインとVP16活性化ドメインとの間にHIF-1αのアミノ酸344-698(ODDドメイン全体を含む(Huang, L.E.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95, 7987-7992 (1998)))を連結している同様の融合物をコードするpGala344-698VP16を用いて、Hep3B細胞又はRCC4細胞をトランスフェクトした。pcDNA3、pcDNA3-VHL、又はpcDNA3-VHL.103FSを用いて、RCC4細胞を共トランスフェクトした。トランスフェクション後、細胞を酸素正常状態又は低酸素状態(0.1% O2)に分け、24時間インキュベートした。補正したルシフェラーゼのカウントを測定し、酸素正常状態の細胞でpGalVP16又はpGalVP16+pcDNA3を用いて得られた値に対して、各細胞型につき正規化した。HIF-1α配列は、RCC4細胞ではなく、Hep3B細胞において、低酸素状態により顕著な抑制及び調節をもたらすが、これらの性質はトランケートされたVHLではなく野生型VHLを用いた共トランスフェクションにより回復する。
【0126】
(f) pVHLとHIF-1α配列との相互作用
網状赤血球溶解物を、35Sメチオニンの存在下でHIF-1α部分配列(549-652及び572-652)をコードするベクター並びにVHL cDNA及びコドン65をSerからTrpに変更するミスセンス変異を有するVHL cDNAをコードするベクターを用いてプログラミングした。各実験で、HIF-1α配列を含む溶解物を、pVHLを含む溶解物と混合した。抗pVHL抗体を添加した後、プロテインGビーズを添加した。タンパク質を溶出させ、SDS-PAGEにより分離し、フルオログラフィーにより可視化した。HIF-1αの549-652部分断片は、野生型pVHLと相互作用したが、小さい方の572-652断片は相互作用しなかった。このことから、2つのタンパク質間の相互作用にとって重要な領域を含む領域は549-572であると規定される。また、pVHLのミスセンス変異は大きい方のタンパク質との相互作用をも破壊した。
【0127】
(g) ユビキチン化アッセイ
pVHLがHIF-αを認識するユビキチンリガーゼ複合体の必須の構成要素であるという仮説を試験するために、本発明者らは、HIF-1αに関するin vitroユビキチン化アッセイを開発した。このアッセイでは、細胞抽出物(最初はCos-7からのもの)を、網状赤血球溶解物中でin vitroで調製した[35S]標識HIF-1αと共にインキュベートした。これを、異なる組合せの抽出物、ATP再生系、ユビキチンアルデヒド、及びメチル化ユビキチンとの反応における基質として用いた。反応物を30℃にて270分間インキュベートした後、SDS-PAGEにより分析した。
【0128】
抽出物のみとのインキュベーションは、HIF-1α基質をより遅い移動形態に変換し、効果は、ATP再生系によって増強され、タンパク質キナーゼ阻害剤である2-アミノプリンの添加によって阻害された。このことは、これらの移動度のシフトが、最近、他者によって示されたように(Richard, D.E.ら、(1999) J. Biol. Chem. 274, 32631-32637)、ほとんどはHIF-1αのリン酸化によるものであることを示唆していた。ユビキチンの添加により、これらの種は、ポリユビキチン化HIF-1α種の高分子量[35S]標識タンパク質ラダーに変換された。この割当て(assignment)は、ユビキチン結合体の破壊を防止するイソペプチダーゼ阻害剤であるユビキチンアルデヒドの添加による増強によって確認された。対照的に、マルチユビキチン鎖の形成を防止し、鎖ターミネーターとして働く(Hershko, A.ら、(1991) J. Biol. Chem. 266(25), 16376-9)メチル化ユビキチンの添加は、高分子量の種の生成を支持せず、等モル比で添加した場合には、これらの種の形成を阻害した。
【0129】
(h) HIF-1αのユビキチン化におけるpVHLの役割
HIF-1αのユビキチン化におけるpVHLの役割を決定するため、本発明者らは、RCC4細胞から得た抽出物、及びpVHL又はpVHL.HAを再発現する別の安定なトランスフェクタントを用いて、同様のアッセイを行った。細胞抽出物、ATP再生系、ユビキチン及びユビキチンアルデヒドからなる反応物中、30、90及び270分間、30℃にて、[35S]標識HIF-1αをインキュベートした。VHL欠損細胞及びpVHL再発現細胞から得た抽出物を比較すると、HIF-1α基質のユビキチン化の比率、特に、再発現するトランスフェクタントに蓄積する高分子量結合体の生成に大きな差異が認められたのに対し、HIF-1αのリン酸化は同様の比率で起こった。同様の効果は、HIF-2αについても認められた。
【0130】
本発明者らはさらに、別々のVHL欠損及びpVHL再発現RCC4亜系から得た抽出物の対の4回の独立した比較における定量的な結果を測定した。HIF-1αのユビキチン化はVHLコンピテント細胞において、明らかにより効率的であったが、欠損細胞においては明らかに低レベルであった。
【0131】
(i) N末端でトランケートされたpVHLはHIF-αに結合する
pVHLによるHIF-αの破壊の捕捉及び調節に関する正確な要件を理解するための第1のステップとして、本発明者らは、必須のpVHL配列を決定することを試みた。これを成すため、本発明者らは、エピトープをタグ付けした突然変異pVHL分子を発現するRCC4細胞の一連の安定なトランスフェクタントを構築した。これにより、HIF-αの調節及び低酸素誘導性遺伝子発現に対する機能的効果と比較しようとする標識タンパク質種の捕捉における差別化が可能になった。予備実験により、野生型pVHLによるHIF-α調節の回復は異なるレベルでpVHLを発現するトランスフェクタントにおいて類似しており、該分子のN又はC末端のいずれかでのHAエピトープの存在によっては、影響されないことが示された。pVHLの異なるトランケーションを担持する一連の安定なトランスフェクタントを、プロテアソーム遮断の条件下で代謝的に標識した。N末端トランケーションの分析から、コドン1-53の除去(翻訳開始コドン54から得られるpVHLのp19種を効率的に作る)はHIF-αの捕捉には影響しないが、コドン72までのさらなるトランケーションは、ほぼ完全に捕捉を破壊することが示された。C末端トランケーションの分析から、コドン187までのトランケーションは、HIF-2αの捕捉を大幅に低下させ、HIF-1αの捕捉を破壊するが、コドン156までのトランケーションは両方の種の捕捉を破壊することが示された。
【0132】
(j) HIF-αサブユニットのサブ配列
本発明者らは、次に、pVHLによって認識されるHIF-αサブユニットのサブ配列を規定することを希望した。トランスフェクトされたHIF-αサブユニットの安定な過剰発現は実質的な問題をもたらしたため、本発明者らはpVHL/HIF-α相互作用のさらなる研究を可能にするin vitro系を規定しようとした。
【0133】
ウサギ網状赤血球溶解物中で産生された標識タンパク質を用いる無細胞系において、HIF-1α及びHIF-2αは共にpVHLと相互作用することが判明した。このアッセイにおけるN末端pVHLトランケーションの試験により、コドン54の第2の開始部位に対するトランケーションは結合を変化させないことが示された。本発明者らは、グルココルチコイド受容体又はGAL4 DNA結合ドメインのいずれかに融合された完全長又はトランケートされたHIFαのサブユニットを含む一連の融合タンパク質の試験を続行した。これらの融合タンパク質は、以前は、HIF-1α及びHIF-2α中の調節ドメイン及びトランス活性化ドメインを特徴付けするのに用いられていた(Pugh, C.W.ら、(1997) J. Biol. Chem. 272, 11205-11214; O'Rourke, J.F.ら、(1999) J. Biol. Chem. 274, 2060-2071)。最初の一連の実験において、本発明者らは、HIF-1αの一連のトランケーション(27-826、166-826、244-826、329-826、530-826、652-826、27-826、27-652及び27-329)を試験した。相互作用分子の間で捕捉効率にいくらかの変化があったが、本発明者らは、残基652に近接するC末端トランケーション及び残基530から遠位にあるN末端トランケーションによる捕捉の顕著な低下を観察した。
【0134】
HIF-2αの同様の一連のトランケーション(19-870、19-819、19-682、19-495、19-416、295-870、345-870、495-870、517-870及び742-870)の試験により、残基682に近接するC末端トランケーション及び残基517から遠位にあるN末端トランケーションによる捕捉の顕著な低下が示された。これらの知見を総合すると、pVHL相互作用にHIF-1α配列530-652及びHIF-2α配列517-682が関与することが示唆される。各分子につき、これらの配列は、酸素依存的分解ドメインと重複する内部トランス活性化ドメインに対応する。
【0135】
本発明者らは、次に、これらのトランス活性化ドメインがpVHLと相互作用するのに十分であるか否かを試験した。本発明者らは、HIF-1αの配列530-634及びHIF-2αの配列517-682が、実際にpVHLとの相互作用にとって十分であることを見出した。この相互作用をさらに調査するために、本発明者らは、このドメイン内の欠失及びサブ配列を試験し、in vitroにおけるpVHL結合と、酸素により調節される活性のin vivoにおける本発明者らの以前の機能分析とを相関させようとした。HIF-1αについては、アミノ酸配列572-634ではなく、530-634、549-634がpVHLによって捕捉されたが、HIF-2αについては、アミノ酸配列534-682ではなく、517-682がpVHLによって捕捉された。このデータは、pVHL結合に関する能力と、一過的にトランスフェクトされたHep3B細胞において酸素により調節される応答を伝達するこれらの融合タンパク質の以前に報告された能力との正確な一致を示し、HIF-1αの残基549-572及びHIF-2αの残基517-534が、pVHL結合にとって重要であることを示していた。最後に、本発明者らは、pVHL相互作用について、以前に規定された酸素により調節される最小のドメインを試験し、HIF-1αの配列549-582、及び相同なHIF-2αの配列517-552が、pVHLとの相互作用にとって十分であることを見出した。
【0136】
(k) in vitroでpVHLと相互作用するのに必要な最小HIF-1α配列のさらなる規定
網状赤血球溶解物を、35Sメチオニンの存在下で、HIF-1サブ配列556-574、549-574、556-582及び549-582をコードするベクター(100μM Fe2+及び100μM Fe3+の存在下または不在下で使用)並びにC末端ヘマグルチニンアフィニティータグを有するVHL cDNAをコードするベクターを用いてプログラミングした。各実験で、pVHLを含む溶解物を、HIF-1配列を含む溶解物と混合した。抗ヘマグルチニン抗体を添加した後、プロテインGビーズを添加した。タンパク質を溶出させ、SDS-PAGEにより分解し、フルオログラフィーにより可視化した。pVHLは、コドン556-574を含むサブ配列の各々と相互作用することが観察された。全ての場合において、鉄イオンの存在が相互作用の量の実質的な増加を引き起こすことが見出された。
【0137】
(l) 相互作用にとって重要な残基の規定
網状赤血球溶解物を、35Sメチオニン及び100μM鉄イオンの存在下で、HIF-1サブ配列549-582をコードしかつミスセンス変異F572A、P564G、D569N、DDD569-571NNN、D556N、E560Q、P567R、M568R及びY565Qを有するベクター、並びにC末端ヘマグルチニンアフィニティータグを有するVHL cDNAをコードするベクターを用いてプログラミングした。各実験で、pVHLを含む溶解物を、HIF-1配列又は突然変異型の1つを含む溶解物と混合した。抗ヘマグルチニン抗体を添加した後、プロテインGビーズを添加した。タンパク質を溶出させ、SDS-PAGEにより分解し、フルオログラフィーにより可視化した。これらのことから、pVHLは野生型配列549-582と相互作用することが確認され、さらに、残基564、565、567、568での1個の突然変異及び3個の残基569-572の突然変異が相互作用を破壊することが観察された。残基569、556、558及び560での変化は、この実験で影響を及ぼさなかった。
【0138】
(m) 相互作用を増強又は減少させるためにHIF-1αを改変することができる
網状赤血球溶解物を、35Sメチオニンの存在下で、通常の条件下、又は100μM Fe2+及び100μM Fe3+の存在下、又は100μM コバルトイオンの存在下、又は100μM ニッケルイオンの存在下で、HIF-1αをコードするベクターを用いてプログラミングした。また、網状赤血球溶解物を、C末端ヘマグルチニンアフィニティータグを有するVHL cDNAを用いてプログラミングした。各実験で、pVHLを含む溶解物を、HIF-1αを含む溶解物と混合した。抗ヘマグルチニン抗体を添加した後、プロテインGビーズを添加した。タンパク質を溶出させ、SDS-PAGEにより分解し、フルオログラフィーにより可視化した。上記のように、鉄の存在下でのHIF-1αの翻訳は、pVHLとの相互作用を増強することが見出された。また、コバルトイオン又はニッケルの存在下での翻訳は、相互作用を減少させることも観察された。
【0139】
(n) HIFα-VHL相互作用の合成ペプチドを用いての阻害
A. 本質的には上記のように、網状赤血球溶解物におけるタンパク質の相互作用について研究した。アミノ酸549-582(配列番号9)からなる合成ペプチド(ペプチドの最終濃度1μg/ml)を、溶解物を含むヘマグルチニンでタグ付けしたpVHLと混合した後、標識HIF-1αを含む溶解物を添加した。HIF-1の抗HA回収は、このペプチドによって影響されなかった。
【0140】
B. 先ず、アミノ酸549-582からなる合成ペプチドを、網状赤血球溶解物と共にインキュベートした。このペプチドを含む溶解物、又は等量の対照溶解物を、35S標識ヘマグルチニンでタグ付けしたpVHLを含む溶解物と混合した後、標識HIF-1αを含む溶解物を添加した。HIF-1αの抗HA回収は、pVHLと、溶解物で処理したペプチドとの予備インキュベーションにより妨げられた。これらの実験は、(a) 網状赤血球溶解物は、HIF-1αサブ配列に重要な改変をもたらすことができ、pVHL-HIFの改変を妨げるその能力に影響し、HIF改変活性に関するアッセイの原理を支持することを示し、(b) 33個のアミノ酸からなるペプチドがpVHL-HIF相互作用を阻止することができることを証明している。
【0141】
(o) HIFα-pVHL相互作用の読出しとしてのユビキチン化
ユビキチンアルデヒドを省略した以外は上記の(h)節の実験と同様の実験を行った。in vitroでの転写翻訳によりpVHLを作製し、また、100μM Fe2+及びFe3+の存在下又は不在下、網状赤血球溶解物中でHIF-1αを作製した。HIF-1αが鉄イオンの存在下で産生された場合に、ユビキチン化の増強(高分子量種の出現により立証される)及び破壊(HIF-1αのより急速な消失により立証される)が観察された。
【0142】
かくして、本発明のアッセイを、HIF-pVHL相互作用部位から遠い部位で作用する(すなわち、結合を変化させないだけではなく、タグ付け又は破壊を阻害しない)化合物の同定に用いることができる。さらに、HIFの改変がpVHLに結合するその能力に影響する証拠も提供する。従って、本発明は、VHL-HIFαサブユニットの相互作用に影響するが、特にそれを促進するモジュレーターのアッセイ法を提供し、該アッセイ法は、
a) VHLタンパク質の存在下又は不在下でHIFαサブユニットタンパク質および推定モジュレーター化合物を接触させ、
b) ステップ(a)においてVHLタンパク質が不在の場合、VHLタンパク質を提供し、そして
c) 該モジュレーターの存在によってVHL-HIFαサブユニット相互作用が影響を受
けたか否かを決定すること、
を含む。
【0143】
本発明の他の実施形態と同様に、組換え、無細胞系、又は細胞の天然の環境(例えば、細胞培養などにおけるヒト又は哺乳動物細胞)においてHIFαを製造することができ、HIFαサブユニットの製造中に推定モジュレーターを提供し、該サブユニットを該推定モジュレーターと共にインキュベートした後にVHLと接触させること、又はVHLの存在下でインキュベートすることのいずれかにより、VHLと相互作用するHIFαの能力に対する該モジュレーターの効果を測定する。測定される効果は、親和性の増加であっても減少であってもよい。親和性の増加をもたらすモジュレーターは、細胞死を増強するか、もしくは促進するのに有用であり、又は血管形成のプロセスを妨害するのに有用であろう。従って、かかるモジュレーターは、癌、前癌細胞増殖、乾癬などの疾患状態における細胞増殖の制御に有用であろう。そのようなアッセイによって得られる化合物は、本発明のさらなる態様を形成する。
【0144】
方法
細胞及びトランスフェクション
完全長pVHL、トランケートされたpVHL(アミノ酸1-115)を発現する786-O細胞、又は空のベクターでトランスフェクトされた786-O細胞(Iliopoulos, O.ら、Nature Med. 1, 822-826 (1995))は、W.G. Kaelinから贈られたものである。RCC4細胞は、C.H.C.M. Buysから贈られたものである。他のRCC細胞系は、M. Lermanによって提供されたものである。Hela及びHep3B細胞は、ECACCから入手したものである。RCC4細胞及びCos7細胞は、10%ウシ胎児血清を含むDMEM中で維持した。pcDNA3-VHLでトランスフェクトした後、G418で選択することにより、RCC4/VHLを得た。平行して24時間インキュベートするために、G418を欠く培地中に細胞をさらに分割した後、75 cm2ディッシュ中で集密に達した細胞を用いて実験を通常どおり行った。100μM カルパインインヒビターI及び10μM N-カルボベンズオキシル-L-ロイシニル-L-ロイシニル-L-ノルバリナールを用いて、プロテアソームの阻害を行った。エレクトロポレーションにより、一過性トランスフェクションを行った。トランスフェクトした細胞のアリコートを、平行して行う酸素正常状態及び低酸素状態でのインキュベーションのために分割した(Napco 7001、Precision Scientific)。ホタルルシフェラーゼリポーター遺伝子活性を、市販のアッセイ(Promega)を用いて測定し、共トランスフェクトした対照プラスミドpCMV-βGalからのβ-ガラクトシダーゼの発現のアッセイにより、トランスフェクション効率について補正した。特に言及しない限り、低酸素状態のインキュベーションは、Napco 7001インキュベーター(Jouan)中、1%酸素/5% CO2/平衡窒素の雰囲気下で行った。放射性同位体標識のために、先ず、細胞をメチオニン及びシスチンを含まない無血清培地中で1時間インキュベートし、その後メチオニン及びシスチンを含まず、2%の透析ウシ胎児血清及び200μCi/mlの[35S]メチオニン/システイン(Pro-mix、Amersham Pharmacia)を含む4.5 mlの培地と交換した。
【0145】
RNAの分析
RNAzolB(Biogenesis)を用いて全RNAを抽出し、そのアリコートを、リボヌクレアーゼ保護による分析のために32Pアンチセンスリボプローブにハイブリダイズさせた。リボプローブは、SP6又はT7ポリメラーゼを用いて合成した(プローブの詳細は表S1に記載されている)。U6小核RNAのプローブを用いたハイブリダイゼーションにより、アッセイを内部的に制御した。
【0146】
プラスミドの構築
pcDNA3-VHLは、pcDNA3(Invitrogen)中に、完全長pVHLをコードするヌクレオチド214-855(Genbank受託番号L15409)を含んでいた。pcDNA3-VHL.103FSは、ヌクレオチド522-523を欠失させる部位特異的突然変異誘発を行い、コドン103でフレームシフトを生じさせることにより作製した。pcDNA3-VHL.HAを作製するために、プライマー5'-AGGGACACACGATGGGCTTCTG-3'(配列番号11)及び5'-gcagaattcggcttcacaagctagcgtaatctggaacatcgtatgggtatccatctcccatccgttgatgtggc-3'(配列番号12)を用いて、pcDNA3-VHLをPCR増幅した。内部のBglII部位及び3'オリゴヌクレオチド中に組み込まれたEcoRI部位でPCR産物を切断し、これを用いてpcDNA3-VHL中の対応する断片を置換した。pcDNA3-HA.VHLは、pVHLをコードする配列と共に、pcDNA3.1中にHindIII-XbaI制限断片として挿入されたpRC-HAVHL(W.Kaelinから贈られたもの)に由来するN末端のHAエピトープタグを含んでいた。pcDNA3(54-213).HAを、HindIII-HaeII制限断片の除去、次いでDNAポリメラーゼIクレノウ断片を用いた修復及び再連結により、pcDNA3-VHL.HAから誘導した。HREリポーター遺伝子は、pGL3-basic (Promega)又はpPUR (Clontech)に基づくものであり、ホタルルシフェラーゼ遺伝子に連結した最小SV40プロモーター又は最小(-40bp)チミジンキナーゼプロモーターのいずれかを含んでいた。低酸素応答エレメントプラスミドは、以下のマルチマー化HREを含んでいた:PGK-1 HREは、マウス遺伝子の5'エンハンサー-プロモーター領域に由来する5'-CGCGTCGTGCAGGACGTGACAAAT-3'(配列番号13)センス鎖であり、Epo HREは、マウス遺伝子の3'エンハンサーに由来する5'-GCCCTACGTGCTGCCTCGCATGGC-3'(配列番号14)センス鎖である。
【0147】
Gal4融合プラスミドは、pcDNA3(Invitrogen)に基づくものであった。pGalVP16は、単純ヘルペスウイルスタンパク質16に由来する活性化ドメイン(アミノ酸410-490)にフレーム内で連結されたGal4 DNA結合ドメイン(アミノ酸1-147)をコードしていた。pGala344-698VP16は、これらのドメイン間のHIF-1αの示されたアミノ酸をコードしていた。プラスミドpUAS-tk-Lucは、チミジンキナーゼにより促進されるルシフェラーゼリポーター遺伝子に連結された2コピーのGal4結合部位を含んでいた。HIF-1α(pGal/α/ARNT-ta)及びHIF-2α(pGal/EPAS)との異なるシリーズのGAL4融合物、並びにHIF-1α(pGR/a)とのグルココルチコイドリポーター融合物は、以前に記載されたものである(Pugh, C.W.ら、(1997) J. Biol. Chem. 272, 11205-11214; O'Rourke, J.F.ら、(1999) J. Biol. Chem. 274, 2060-2071)。ヒトHIF-1α、ヒトHIF-2α、ヒトHIF-1β、ラットIRP-2及びヒトc-MycのORF全部を発現するpcDNA3に基づくプラスミドを、標準的な組換え技術(manoeuvres)により作製した。
【0148】
抗体
抗HA抗体(12CAS)はRocheから入手し、抗pVHL抗体(IG32)はPharmingenから入手し、抗HIF-1α抗体(クローン54)はTransduction Laboratoriesから入手し、ポリクローナル抗GLUT1抗体(GT-11A)はAlpha Diagnosticから入手し、SV40 T抗原に対する抗体(PAb419)はE.Harlowから贈られた。抗HIF-2α抗体(190b)は以前に記載されている(Wiesener, M.S.ら、(1998) Blood 92, 2260-2268)。
【0149】
細胞溶解、免疫ブロッティング及び免疫沈降
変性条件下でホモジェナイズすることにより、全細胞抽出物を調製し、このアリコートを、28b(抗HIF-1α)及び190bと共に、又はクローン54を用いて、HIFαサブユニットについて免疫ブロッティングした。免疫沈降のために、100 mM NaCl、0.5% Igepal CA630、20 mM Tris-HCl (pH7.6)、5μM MgCl2、1 mM オルトバナジン酸ナトリウム中、アプロチニン(10μg/ml)、「完全」プロテアーゼ阻害剤(Boehringer)及び0.5 mM 4-(2-アミノエチル)ベンゼンスルホニルフルオリドを用いて、30分間〜1時間、氷上で溶解を行った。遠心分離による清澄化の後、実施例(a)〜(f)においては、120μgのアリコートの細胞溶解物を、4℃にて2時間、4μgのアフィニティー精製された抗HIF-2αポリクローナル抗体(アミノ酸535-631を含む、細菌で発現された融合タンパク質に対して生成したもの)もしくは4μgの硫酸アンモニウムで沈降させた抗HIF-1αポリクローナル抗体(アミノ酸530-652を含む、細菌で発現された融合タンパク質に対して生成したもの)と同時に通常のウサギ免疫グロブリン(対照)、又は代わりに0.7μgの抗pVHL抗体(IG32、Pharmingen)もしくは対照(SV40 T抗原に対する抗体であるpAb419[E.Harlowから贈られたもの]、又はVEGFに対する抗体であるVG-7be[H.Turleyから贈られたもの])と共にインキュベートした。20 mg/ml BSAで予備ブロッキングした10μlのコンジュゲートしたアガロースビーズを添加し、溶解物を攪拌しながらさらに2時間インキュベートした。ペレットを5回洗浄し、サンプルバッファーで溶出した。免疫ブロット分析のために、溶出物をアリコートに分割した。(g)〜(o)節で適用可能な場合には同様のプロトコールを用いた。簡単に述べると、遠心分離の後、20 mg/mlのウシ血清アルブミンを含むリン酸緩衝生理食塩水で予備ブロッキングした10μlのプロテインGセファロースビーズを用いて、4℃にて一晩、200μgの細胞抽出物を予備清澄化した。次いで、1μgの抗体を加え、サンプルを4℃にて2時間インキュベートした後、10μlの予備ブロッキングしたプロテインGセファロースビーズを用いて、回転装置上で2時間インキュベートした。ビーズを溶解バッファー中で5回洗浄した。不連続ゲル(8%アクリルアミド(上部)、13%(下部))を一般的に用いて、サンプルをSDS-PAGEにより分解し、フルオログラフィー(Amplify, Amersham Pharmacia)により検出した。
【0150】
電気泳動移動度シフト及び超シフトアッセイ
改変Dignamプロトコール、及び記載されたマウスEpo 3'エンハンサー(Wood, S.M.ら、J. Biol. Chem. 273, 8360-8368 (1998))に由来する32P標識した24bpのオリゴヌクレオチドプローブ(センス鎖;5'-GCCCTACGTGCTGCCTCGCATGGC-3'(配列番号15))と共にインキュベートした5μg(HeLa)又は7.5μg(RCC4)を用いて、核抽出物を調製した。超シフトアッセイのために、0.5μgのIG32、VG-7be(アイソタイプ及びサブクラスが適合したIG32のための対照)又はクローン54(抗HIF-1α)を加え、反応物を4℃にて4時間インキュベートした後、電気泳動を行った。pcDNA3-VHL及びpcDNA3-VHL.103FSのin vitroでの転写翻訳を、網状赤血球溶解物(Promega)を用いて行った。2μlの1:10希釈物(PBS中)を、電気泳動又は抗体の添加の2時間前に結合反応物に添加した。
【0151】
in vitroでの翻訳
ウサギ網状赤血球溶解物(TNT、Promega)中の発現プラスミドの連動した(coupled)転写及び翻訳反応により、[35S]メチオニン標識タンパク質を調製した。
【0152】
in vitroでの相互作用アッセイ
HAエピトープでタグ付けしたpVHL及びHIF-α配列をコードするプラスミドを用いてプログラミングした網状赤血球溶解物中で、[35S]メチオニン標識タンパク質を産生させた。1μlの指示した溶解物を、100μlのNETNバッファー(150 mM NaCl, 0.5 mM EDTA, 20 mM Tris-HCl pH8.0, 0.5% v/v Igepal CA630)中で混合した。4℃にて90分の後、0.25μgの抗HA抗体を添加し、さらに1時間後、10μlの予備ブロッキングしたプロテインGセファロースビーズを加えた。回転装置上で混合しながら30分後、ビーズをNETNバッファーで3回洗浄した。タンパク質をSDS-PAGEにより分析した後、フルオログラフィーにより分析した。
【0153】
in vitroでのユビキチン化アッセイ
抽出物を調製するために、冷却した低張性バッファー(20 mM Tris pH7.5, 5 mM KCl, 1.5 mM MgCl2, 1 mM ジチオトレイトール)を用いて、細胞を2回洗浄した。バッファーを除去した後、Dounceホモジェナイザー中で細胞を粉砕した。溶解後、粗抽出物を4℃にて10分間、10,000xgで遠心分離して、細胞の破片及び核を除去し、アリコート中、-70℃にて保存した。ユビキチン化アッセイを、2μlのプログラミングされた網状赤血球溶解物、27μlの細胞抽出物、4μlの10x ATP再生系(20 mM Tris, pH7.5, 10 mM ATP, 10 mM 酢酸マグネシウム, 300 mM リン酸クレアチン, 0.5 mg/ml クレアチンホスホキナーゼ)、4μlの5 mg/ml ユビキチン(Sigma)又はメチル化ユビキチン(AFFINITI Research Products)、0.83μlの150μM ユビキチンアルデヒド(AFFINITI Research Products)を含む全量40μl中、30℃にて行った。pVHLの再構築実験のために、[35S]メチオニン標識した野生型又は突然変異型pVHL(4μlのプログラミングされた網状赤血球溶解物)を、室温にて5分間、反応混合物と共に予備インキュベートした後、基質を添加した。アリコートを指示された時間に除去し、SDSサンプルバッファーと混合し、SDS-PAGE及びオートラジオグラフィーにより分析した。Storm 840 PhosphorImager (Molecular Dynamics)を用いて、ゲルを定量した。
【0154】
本明細書に引用される全ての刊行物、特許出願及び配列受託の開示は、あたかも個々の刊行物、特許出願又は配列が参照により組み込まれるべく特に、及び個々に指示されるように、本明細書に参照により組み込まれるものとする。
【0155】
前記発明を、明確性及び理解の目的のために図面及び実施例によりいくらか詳細に説明したが、添付の特許請求の範囲の精神及び範囲から逸脱することなく、特定の変更及び改変を為し得ることが、当業者には容易に明らかとなるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
VHL-HIFαサブユニット相互作用のモジュレーターのアッセイ法であって、
a) VHLタンパク質、HIFαサブユニットタンパク質および推定モジュレーター化合物を、モジュレーターの不在時には該VHLタンパク質と該HIFαサブユニットタンパク質とが複合体を形成することのできる条件下で接触させ、そして
b) 該モジュレーター化合物によって引き起こされた、複合体形成の阻害の程度を測定すること、
を含んでなる、アッセイ法。
【請求項2】
ツーハイブリッドアッセイの形態である、請求項1に記載のアッセイ法。
【請求項3】
免疫沈降の形態である、請求項1に記載のアッセイ法。
【請求項4】
前記タンパク質のうちの少なくとも1種が検出可能な標識で標識されている、請求項1に記載のアッセイ法。
【請求項5】
前記タンパク質のうちの少なくとも1種が融合タンパク質の形態である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアッセイ法。
【請求項6】
HIFαサブユニットのユビキチン化が測定される、請求項1〜5のいずれか1項に記載のアッセイ法。
【請求項7】
VHL-HIFαサブユニット相互作用のモジュレーターのアッセイ法であって、
a) VHLタンパク質、HIFαサブユニットタンパク質および推定モジュレーター化合物を、モジュレーターの不在時には該VHLタンパク質と該HIFαサブユニットタンパク質とが複合体を形成することのできる条件下で接触させ、
b) 該HIFαサブユニットタンパク質が結合して転写活性化させることのできるHIF応答エレメントを提供し、そして
c) 該モジュレーター化合物によって引き起こされた、該応答エレメントへの該αサブユニットの結合のモジュレーションの程度または該応答エレメントの転写活性化のモジュレーションの程度を測定すること、
を含んでなる、アッセイ法。
【請求項8】
前記応答エレメントがリポーター遺伝子に機能的に連結されている、請求項5に記載のアッセイ法。
【請求項9】
前記VHLタンパク質がヒトVHL(Genbank受託番号AF010238)であるかまたは少なくとも残基63〜156を含むその断片である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のアッセイ法。
【請求項10】
前記HIFαサブユニットタンパク質がヒトHIFαサブユニットタンパク質(Genbank受託番号U22431)であるかまたは少なくとも残基549−572を含むその断片である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のアッセイ法。
【請求項11】
配列がヒトHIF-1α(Genbank受託番号U22431)の領域549−652、特に549−572に見いだされる、5〜50アミノ酸からなる単離されたポリペプチド。
【請求項12】
VHLと複合体を形成することが可能であり、かつ
LAPYIPMD 配列番号1、
LAPYISMD 配列番号2、
LLPYIPMD 配列番号3、
LVPYIPMD 配列番号4、
IAPYIPMD 配列番号5、
IAPYIPME 配列番号6、および
LVPYISMD 配列番号7、
から選択された配列の存在により特性付けられる、5〜50アミノ酸からなる単離されたポリペプチド。
【請求項13】
配列:
DLDLEMLAPYIPMDDDFQL(配列番号8)、および
1〜4個の置換が存在するその変異体、
を含んでなる、請求項12に記載のポリペプチド。
【請求項14】
配列:
PFSTQDTDLDLEMLAPYIPMDDDFQLRSFDQLSP(配列番号9)、および
1〜4個の置換が存在するその変異体、
を含んでなる、請求項12に記載のポリペプチド。
【請求項15】
膜トランスロケーション配列に融合された、請求項11〜14のいずれか1項に記載のポリペプチドを含んでなるポリペプチド。
【請求項16】
HIFαサブユニットとVHLとの相互作用を阻害する方法に使用するための、請求項11〜14のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項17】
低酸素環境に暴露された細胞における新血管形成および/または細胞生存を促進する方法であって、VHLとHIFαサブユニットとの相互作用を阻止することを含んでなる、上記方法。
【請求項18】
VHL-HIFαサブユニット相互作用を促進するモジュレーターのアッセイ法であって、
a) VHLタンパク質の存在下または不在下でHIFαサブユニットタンパク質および推定モジュレーター化合物を接触させ、
b) ステップ(a)においてVHLタンパク質が不在の場合、VHLタンパク質を提供し、そして
c) 該モジュレーターの存在によって該VHL-HIFαサブユニット相互作用が促進されたかを調べること、
を含んでなる、上記アッセイ法。

【公開番号】特開2010−246542(P2010−246542A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106154(P2010−106154)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【分割の表示】特願2008−207905(P2008−207905)の分割
【原出願日】平成12年5月12日(2000.5.12)
【出願人】(500451137)
【Fターム(参考)】