説明

VSV−Gシュードタイプ化サル免疫不全ウイルスベクターを用いた霊長類胚性幹細胞への遺伝子導入

【課題】霊長類胚性幹細胞への遺伝子導入を高効率に行うためのサル免疫不全ウイルスベクターを提供する。
【解決手段】水疱性口内炎ウイルス(VSV)の表面糖蛋白質であるVSV−G蛋白質でシュードタイプ化したサル免疫不全ウイルスベクター(SIV)および前記ベクターが導入された霊長類由来胚性幹細胞。
【効果】前記ベクターを用いた遺伝子導入は、霊長類における発生学的研究、疾患研究、臨床応用、実験モデルなどに有用となる。また、胚性幹細胞から所望の分化細胞または分化組織を得るのに有用な、組織または細胞の特異的分化を行なうための遺伝子や試薬のアッセイやスクリーニングに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、霊長類胚性幹細胞への遺伝子導入のためのサル免疫不全ウイルスベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞(以下、ES細胞ともいう)とは、多分化能と自己複製能を有する未分化細胞である。また、ES細胞は損傷後の組織修復力を有することが示唆されている。このため、ES細胞は、各種疾患の治療用物質のスクリーニング、再生医療分野において有用であるとして、さかんに研究されている。特にサル由来のES細胞は、マウスのES細胞に比べてよりヒトに近縁であるため、ヒトの疾患のモデルに利用するにあたって好適であり、期待されている。
【0003】
将来、ES細胞をさまざまな疾患治療や損傷治療に応用していくには、ES細胞の遺伝子操作がきわめて重要になる。ES細胞の増殖能や分化能などの細胞特性や薬剤感受性などを変更するためには、ES細胞のゲノムに安定した遺伝子導入が必要になることが多い。安定した遺伝子導入のためには、宿主ゲノムに組み込まれるレトロウイルスベクターが一般的に用いられる。ES細胞のように増殖・分化を繰り返す細胞を標的にする場合、導入遺伝子がゲノムに組み込まれなければ、細胞が分裂する度にベクターが希釈されてしまうからである。しかし、遺伝子導入に従来広く用いられているモロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)に由来するレトロウイルスベクターでは、マウスES細胞への遺伝子導入効率は低い上(数%程度)、その遺伝子発現は時間経過とともに減弱する。最近、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)由来のレトロウイルスベクターを用いてマウスES細胞への遺伝子導入効率の改善が図られたが(50%以上)、遺伝子発現が時間経過とともに減弱する問題は解決されていない(Cherry, S. R. et al. Mol. Cell Biol. 20:7419, 2000(非特許文献1))。最近、ゲノムに組み込まれるもう一つのベクターであるレンチウイルスベクターを用いると、マウスES細胞にさらに効率よく(80%以上)遺伝子導入できることが示された(Hamaguchi, I. et al. J. Virol. 74:10778, 2000(非特許文献2))。しかし、この報告では導入遺伝子発現の観察期間は数日から2週間程度と短く、導入遺伝子の長期発現についての記載はない。
【0004】
以上のES細胞への遺伝子導入の報告は、すべてマウスES細胞を用いたものである。霊長類ES細胞への遺伝子導入に関しての報告文献は今のところ皆無である。ただし、学会での発表から、霊長類ES細胞への遺伝子導入はマウスES細胞への遺伝子導入に比べてさらに困難であると指摘されている。霊長類ES細胞への遺伝子導入効率は、たとえばMoMLVベクターでは1%前後、MSCVベクターでは、5〜10%前後と言われている(IMSUT Symposium for Stem Cell Biology, Tokyo, Japan 2000; Key Stone Sympoia, Pluripotent Stem Cells: Biology and Applications, Durango, Colorado, USA, 2001)。
【非特許文献1】Cherry, S. R. et al. Mol. Cell Biol. 20:7419, 2000
【非特許文献2】Hamaguchi, I. et al. J. Virol. 74:10778, 2000
【発明の開示】
【0005】
本発明は、霊長類ES細胞への遺伝子導入のためのサル免疫不全ウイルスベクターを提供することを課題とする。本発明のベクターを用いた霊長類ES細胞への遺伝子導入は、ヒトを含む霊長類における発生学的研究、疾患研究、臨床応用、実験モデルなどに有用である。また、ES細胞から所望の分化細胞または分化組織を得るのに有用な、組織または細胞の特異的分化を行なうための遺伝子や試薬のアッセイやスクリーニングに有用である。
【0006】
本発明者らは、霊長類ES細胞に遺伝子を導入できるベクターを開発し、これを用いて効率的に外来遺伝子を霊長類ES細胞に導入する方法を確立するために、サル免疫不全ウイルス(simian immunodeficiency virus; SIV)ベクターを用いて鋭意研究を行った。その結果、水疱性口内炎ウイルス(Vesicular stomatitis virus; VSV)の表面糖蛋白質であるVSV-G蛋白質によりシュードタイプ化したSIVベクターが、霊長類ES細胞に有意に高い効率で遺伝子を導入する能力を有することを見出した。サルES細胞に対するVSV-Gシュードタイプ化SIVベクターの遺伝子導入効率は、マウスES細胞と比較して数倍〜10倍以上高かった(図8)。SIVベクターのES細胞へのトランスダクション効率は、多重感染度(MOI)に依存して増加し、高MOIではほとんどすべてのES細胞に遺伝子が導入された(図5)。CMVプロモーターの下流に連結したレポーター遺伝子を含むSIVベクターを導入されたカニクイザルES細胞において導入遺伝子は長期間安定に発現し、2ヶ月後も発現レベルの低下はほとんど見られなかった(図6)。
【0007】
このように、本発明者らは霊長類ES細胞に遺伝子を導入できるシュードタイプ化SIVベクターを開発し、これを用いて霊長類ES細胞に遺伝子を導入する方法を確立することに成功した。本発明は、霊長類ES細胞への遺伝子導入のためのサル免疫不全ウイルスベクターに関し、より具体的には
(1)VSV-Gでシュードタイプ化されている、霊長類胚性幹細胞へ遺伝子を導入するための組み換えサル免疫不全ウイルスベクター、
(2)組み換えサル免疫不全ウイルスベクターがagm株由来である、(1)に記載のベクター、
(3)組み換えサル免疫不全ウイルスベクターが自己不活性化型である、(1)または(2)に記載のベクター、
(4)霊長類が旧世界霊長類オナガザル科マカカ属である、(1)から(3)のいずれかに記載のベクター、
(5)外来遺伝子を発現可能に保持する、(1)から(4)のいずれかに記載のベクター、
(6)外来遺伝子が、グリーン蛍光蛋白質、β−ガラクトシダーゼおよびルシフェラーゼから選ばれる蛋白質をコードする遺伝子である、(5)に記載のベクター、
(7)(1)から(6)のいずれかに記載の組み換えサル免疫不全ウイルスベクターを霊長類胚性幹細胞に接触させる工程を含む、該細胞に遺伝子を導入する方法、
(8)(1)から(6)のいずれかに記載の組み換えサル免疫不全ウイルスベクターが導入された霊長類胚性幹細胞、
(9)(8)に記載の霊長類胚性幹細胞の増殖および/または分化により生成した細胞、
(10)ES細胞の増殖または分化に対する遺伝子導入の効果を検出する方法であって、
(a)(1)から(6)のいずれかに記載のベクターを霊長類胚性幹細胞に導入する工程、
(b)該胚性幹細胞の増殖または分化を検出する工程、を含む方法、に関する。
【0008】
本発明において「ウイルスベクター」とは、宿主内に核酸分子を導入する能力を有するウイルス粒子を指す。「サル免疫不全ウイルス(SIV)ベクター」とは、ベクターがSIVのバックボーンを有することを指す。「SIVのバックボーンを有する」とは、該ベクターを構成するウイルス粒子に含まれる核酸分子がSIVゲノムに基づくことを言う。例えば、ウイルス粒子に含まれる核酸分子がSIVゲノム由来のパッケージングシグナル配列を有するベクターは、本発明においてSIVウイルスベクターに含まれる。本発明においてサル免疫不全ウイルス(simian immunodeficiency virus; SIV)には、SIVの全ての株およびサブタイプが含まれる。SIV単離株としては、SIVagm、SIVcpz、SIVmac、SIVmnd、SIVsm、SIVsnm、SIVsyk等が例示できるがこれらに制限されない。「組み換え」ウイルスベクターとは、遺伝子組み換え技術により構築されたウイルスベクターを言う。ウイルスゲノムをコードするDNAとパッケージング細胞を用いて構築したウイルスベクターは、組み換えウイルスベクターに含まれる。
【0009】
VSV-Gシュードタイプ化ベクターとは、水疱性口内炎ウイルス(Vesicular stomatitis virus; VSV)の表面糖蛋白質であるVSV-G蛋白質を有するベクターを言う。VSV-G蛋白質は、任意のVSV株に由来するものであってよい。例えば Indiana血清型株(J. Virology 39: 519-528 (1981))由来のVSV-G蛋白を用いることができるが、これに限定されない。また、VSV-G蛋白質は、天然由来の蛋白質から1または複数のアミノ酸の置換、欠失、および/または付加などにより改変されていてもよい。VSV-Gシュードタイプ化ベクターは、ウイルスの産生時にVSV-G蛋白質を共存させることにより製造することができる。例えば、VSV-G発現ベクターのトランスフェクションや、宿主染色体DNAに組み込んだVSV-G遺伝子からの発現誘導により、パッケージング細胞内でVSV-Gを発現させることにより、この細胞から産生されるウイルス粒子がVSV-Gでシュードタイプ化される。VSV-G蛋白質は1種類の糖蛋白が安定な3量体を形成して膜上に存在するため、精製過程でのベクター粒子の破壊が起こりにくく、遠心による高濃度の濃縮が可能となる(Yang, Y. et al., Hum Gene Ther: Sep, 6(9), 1203-13. 1995)。
【0010】
本発明のシュードタイプレトロウイルスベクターは、他のウイルス由来のエンベロープ蛋白質をさらに含むことができる。例えば、このような蛋白質として、ヒト細胞に感染するウイルスに由来するエンベロープ蛋白質が好適である。このような蛋白質としては、特に制限はないが、レトロウイルスのアンフォトロピックエンベロープ蛋白質などが挙げられる。レトロウイルスのアンフォトロピックエンベロープ蛋白質としては、例えばマウス白血病ウイルス(MuLV)4070A株由来のエンベロープ蛋白質を用い得る。また、MuMLV 10A1由来のエンベロープ蛋白質を用いることもできる(例えばpCL-10A1(Imgenex)(Naviaux, R. K. et al., J. Virol. 70: 5701-5705 (1996))。また、ヘルペスウイルス科の蛋白質としては、例えば単純ヘルペスウイルスのgB、gD、gH、gp85蛋白質、EBウイルスのgp350、gp220蛋白質などが挙げられる。ヘパドナウイルス科の蛋白質としては、B型肝炎ウイルスのS蛋白質などが挙げられる。
【0011】
サル免疫不全ウイルス(Simian Immunodeficiency Virus, SIV)はサルにおけるHIV類似ウイルスとして発見され、HIVとともにPrimates Lentivirusグループを形成している(井戸栄治, 速水正憲, サル免疫不全ウイルスの遺伝子と感染・病原性. 蛋白質 核酸 酵素: Vol..39, No.8. 1994)。このグループはさらに大きく4つのグループに分類され、1)ヒトにおいて後天性免疫不全症候群(acquired immune deficiency syndrome, AIDS)の原因となるHIV-1とチンパンジーより分離されたSIVcpzを含むHIV-1グループ、2)スーティーマンガベイ Cercocebus atys より分離されたSIVsmmとアカゲザル Macaca mulatta より分離されたSIVmac、およびヒトに対し低頻度ではあるが病原性を示すHIV-2(Jaffar, S. et al., J. Acquir. Immune Defic. Syndr. Hum. Retrovirol., 16(5), 327-32, 1997)よりなるHIV-2グループ、3)アフリカミドリザル Cercopithecus aethiops から分離されたSIVagmに代表されるSIVagmグループ、4)マンドリル Papio sphinx から分離されたSIVmndに代表されるSIVmndグループからなっている。
【0012】
このうち、SIVagmおよびSIVmndでは自然宿主における病原性の報告はなく(Ohta, Y. et al., Int. J. Cancer, 15, 41(1), 115-22, 1988; Miura, T. et al., J. Med. Primatol., 18(3-4), 255-9, 1989; 速水正憲, 日本臨床, 47, 1, 1989)、特に本実施例で用いたSIVagmの一種であるTYO-1株は自然宿主でも、カニクイザル Macaca facicularis 、アカゲザル Macaca mulatta に対する実験感染でも病原性を示さないことが報告されている(Ali, M. et al, Gene Therapy, 1(6), :367-84, 1994; Honjo, S. et al., J. Med. Primatol., 19(1), 9-20, 1990)。SIVagmのヒトに対する感染、発症については報告がなく、ヒトに対する病原性は知られていないが、一般に霊長類におけるレンチウイルスは種特異性が高く、自然宿主から他種に感染、発症した例は少なく、その発症も低頻度あるいは進行が遅いという傾向がある(Novembre, F. J. et al., J. Virol., 71(5), 4086-91, 1997)。従って、SIVagm、特にSIVagm TYO-1株をベースとして作製したウイルスベクターは、HIV-1や他のレンチウイルスをベースとしたベクターと比べて安全性が高いと考えられ、本発明において好適に用いられ得る。
【0013】
本発明のサル免疫不全ウイルスベクターは、他のレトロウイルスのゲノムRNA配列の一部を有していてもよい。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus; HIV)、ネコ免疫不全ウイルスFeline Immunodeficiency Virus(FIV)(Poeschla, E. M. et al., Nature Medicine, 4(3), 354-7, 1998)、ヤギ関節炎脳炎ウイルスCaprine Arthritis Encephalitis Virus(CAEV)(Mselli-Lakhal, L. et al., Arch. Virol., 143(4), 681-95, 1998)などの他のレンチウイルスのゲノム配列の一部をサル免疫不全ウイルスのゲノムの一部と置換したキメラ配列を有するベクターも、本発明のサル免疫不全ウイルスベクターに含まれる。
【0014】
本発明のレトロウイルスベクターとしては、LTR(long terminal repeat)に改変を加えることもできる。LTRはレトロウイルスに特徴的な配列であり、ウイルスゲノムの両端に存在している。5' LTRはプロモーターとして働き、プロウイルスからのmRNAの転写を促す。したがって、ウイルス粒子内にパッケージングされるウイルスRNAゲノムをコードするジーントランスファーベクターの5' LTRのプロモーター活性をもつ部分を別の強力なプロモーターと置換すれば、ジーントランスファーベクターのmRNA転写量が増大し、パッケージング効率が上昇、ベクター力価を上昇させる可能性がある。さらに、例えばレンチウイルスの場合、5' LTRはウイルス蛋白質tatによる転写活性の増強を受けることが知られており、5' LTRをtat蛋白質に依存しないプロモーターに置換することで、パッケージングベクターからtatを削除することが可能となる。また、細胞に感染し細胞内に侵入したウイルスRNAは逆転写された後、両端のLTRを結合させた環状構造となり、結合部位とウイルスのインテグラーゼが共役して細胞の染色体内にインテグレートされる。プロウイルスから転写されるmRNAは5' LTR内の転写開始点より下流、3' LTRのpolyA配列までであり、5' LTRのプロモーター部分はウイルス内にパッケージングされない。したがって、プロモーターを置換したとしても標的細胞の染色体に挿入される部分には変化が無い。以上のことから、5' LTRのプロモーターの置換は、より高力価で安全性の高いベクターを作製することにつながると考えられる。従って、ジーントランスファーベクターの5' 側プロモーターの置換を行い、パッケージングされるベクターの力価を上昇させることができる。
【0015】
また、3' LTRの配列を部分的に削除し、標的細胞から全長のベクターmRNAが転写されることを防止する自己不活性化型ベクター(Self Inactivating Vector:SINベクター)の作製により、安全性を上昇させることも可能である。標的細胞の染色体に侵入したレンチウイルスのプロウイルスは、3' LTRのU3部分を5' 端に結合した形となる。したがってジーントランスファーベクターの転写産物は、逆転写後、標的細胞の染色体に組み込まれた状態では 5' 端にU3が配置され、そこからジーントランスファーベクターからの転写産物と同様の構造を持つRNAが転写されることになる。仮に、標的細胞内にレンチウイルスあるいはその類似の蛋白質が存在した場合、転写されたRNAが再びパッケージングされ、他の細胞に再感染する可能性がある。また3' LTRのプロモーターにより、ウイルスゲノムの3' 側に位置する宿主由来の遺伝子が発現されてしまう可能性がある(Rosenberg, N., Jolicoeur, P., Retoroviral Pathogenesis. Retroviruses. Cold Spling Harbor Laboratory Press, 475-585, 1997)。この現象はレトロウイルスベクターにおいてすでに問題とされ、回避の方法としてSINベクターが開発された(Yu, S. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A, 83(10), 3194-8, 1986)。ジーントランスファーベクター上の3' LTRのU3部分を欠失させることにより、標的細胞内では5' LTRや3' LTRのプロモーターが無くなるため、全長のRNAや宿主遺伝子の転写が起こらない。そして、内部プロモーターからの目的遺伝子の転写のみが行われることになり、安全性が高く、高発現のベクターとなることが期待される。このようなベクターは、本発明において好適である。SINベクターの構築は、公知の方法または実施例1〜4に記載の方法などに従えばよい。
【0016】
レトロウイルスベクターなどそのゲノムにLTR配列を含むウイルスベクターを用いた遺伝子治療の問題点の一つに導入遺伝子の発現が次第に低下することがある。これらのベクターは宿主ゲノムに組み込まれると、宿主側の機序によりそのLTRがメチル化され、導入遺伝子の発現が抑制されてしまうことが原因の一つと考えられている(Challita, P. M. and Kohn, D. B., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:2567, 1994)。自己不活性化(SIN)型ベクターでは、宿主ゲノムに組み込まれるとLTR配列の大部分を失うため、LTRのメチル化による遺伝子発現の減弱を受けにくい利点がある。実施例に示すように、ジーントランスファーベクターの3'LTRのU3領域を他のプロモーター配列に置換して製造した自己不活性化型ベクターは、霊長類ES細胞に導入後、2ヵ月以上にわたって安定した発現を維持することが判明した。このように、LTR U3領域の改変により自己不活性化するように設計されたSINベクターは、本発明において特に好適である。具体的には、3'LTRのU3領域の1または複数の塩基が置換、欠失、および/または付加により改変されたベクターは、本発明に含まれる。このU3領域は、単に欠失させてもよいし、あるいはこの領域に他のプロモーターを挿入してもよい。このようなプロモーターとしては、例えばCMVプロモーター、EF1プロモーター、またはCAGプロモーターなどを挙げることができる。
【0017】
また、本発明のベクターにコードされる外来遺伝子は、LTR以外のプロモーターにより転写されるように設計することが好ましい。例えば、上記のようにLTR U3領域を非LTRプロモーターと置換した場合には、この改変LTRにより外来遺伝子の発現を駆動することが好ましい。あるいは、実施例において示されるように、LTR領域とは別の位置に非LTRプロモーターを配置し、その下流に外来遺伝子を連結することにより、LTRに依存せずに外来遺伝子の発現を誘導することができる。本発明において、外来遺伝子の発現を非LTRプロモーターにより駆動するように構築されたSIVベクターは、ES細胞においてこの外来遺伝子を長期間安定に発現することが示された。従って、外来遺伝子に上流に非LTRプロモーターが連結されており、このプロモーターから該外来遺伝子が転写されるようなベクターは本発明において特に適している。非LTRプロモーターとしては、例えばCMVプロモーター、EF1プロモーター、またはCAGプロモーターが挙げられ、特にCMVプロモーターが好適である。このようなベクターは、特に上記の自己不活性化(SIN)型ベクターにおいて構築することで高い効果を発揮する。
【0018】
HIVベクターをはじめとするレンチウイルスベクターは、宿主ゲノムがHIVプロウイルスをすでに保持している場合、外来ベクターと内因性プロウイルスの間で組み換えが生じ、複製可能ウイルスが発生しないかという危惧が指摘されている。これは、将来実際にHIV感染患者にHIVベクターを用いる時には確かに大きな問題になろう。今回使用したSIVベクターは、HIVとの相同配列はほとんどない上、ウイルス由来の配列を80.6%取り除いた複製不能ウイルスであり、この危険性は極めて小さく、他のレンチウイルスベクターに比べて安全性が高い。本発明のSIVベクターは、好ましくは、このベクターが由来するSIVのゲノム配列の40%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、最も好ましくは80%以上が取り除かれた複製不能ウイルスである。
【0019】
レトロウイルスの産生には、宿主細胞でパッケージングシグナルを有するジーントランスファーベクターDNAを転写させ、gag, pol蛋白質およびエンベロープ蛋白質の存在下でウイルス粒子を形成させる。ジーントランスファーベクターDNAにコードされるパッケージングシグナル配列は、この配列により形成される構造を保持できるように可能な限り長く組み込むことが好ましい一方で、該ベクターDNA上のパッケージングシグナルと、gag,pol蛋白質を供給するパッケージングベクターとの間で起こる組み換えによる野生型ウイルスの出現頻度を抑制するためにはこれらベクター間の配列の重複を最小限にする必要がある。従って、ジーントランスファーベクターDNAの構築においては、パッケージング効率および安全性の両者を満足させるために、パッケージングに必要な配列を含むできる限り短い配列を用いることが好ましい。
【0020】
例えば、実施例で用いたSIVagm由来のパッケージングベクターの場合は、HIVベクターはパッケージングされないため、用いられるシグナルの由来としてはSIVのみに制限されると考えられる。但し、HIV由来のパッケージングベクターを用いた場合、SIV由来のジーントランスファーベクターもパッケージングされるので、組換えウイルスの出現頻度を低下させるために、異なるレンチウイルス由来のジーントランスファーベクターとパッケージングベクターとを組み合わせてベクター粒子を形成させることが可能であると考えられる。このようにして製造されたSIVベクターも、本発明のベクターに含まれる。この場合、霊長類のレンチウイルスの間の組み合わせ(例えば、HIVとSIV)であることが好ましい。
【0021】
ジーントランスファーベクターDNAでは、gag蛋白質が発現しないように改変されていることが好ましい。ウイルスgag蛋白質は、生体にとって異物として認識され、抗原性が現れる可能性がある。また、細胞の機能に影響を及ぼす可能性もある。gag蛋白質を発現しないようにするためには、gagの開始コドンの下流に塩基の付加や欠失等によりフレームシフトするように改変することができる。また、gag蛋白質のコード領域の一部を欠失させることが好ましい。一般にウイルスのパッケージングには、gag蛋白質のコード領域の5'側が必要であるとされている。従って、ジーントランスファーベクターにおいては、gag蛋白質のC末側のコード領域を欠失していることが好ましい。パッケージング効率に大きな影響を与えない範囲でできるだけ広いgagコード領域を欠失させることが好ましい。また、gag蛋白質の開始コドン(ATG)をATG以外のコドンに置換することも好ましい。置換するコドンは、パッケージング効率に対する影響が少ないものを適宜選択する。これにより構築されたパッケージングシグナルを有するジーントランスファーベクターDNAを、適当なパッケージング細胞に導入することにより、ウイルスベクターを生産させることができる。生産させたウイルスベクターは、例えばパッケージング細胞の培養上清から回収することができる。
【0022】
パッケージング細胞に使われる細胞としては、一般的にウイルスの産生に使用される細胞株であれば制限はない。ヒトの遺伝子治療用に用いることを考えると、細胞の由来としてはヒトまたはサルが適当であると考えられる。パッケージング細胞として使用されうるヒト細胞株としては、例えば293細胞、293T細胞、293EBNA細胞、SW480細胞、u87MG細胞、HOS細胞、C8166細胞、MT-4細胞、Molt-4細胞、HeLa細胞、HT1080細胞、TE671細胞などが挙げられる。サル由来細胞株としては、例えば、COS1細胞、COS7細胞、CV-1細胞、BMT10細胞などが挙げられる。
【0023】
ベクターが保持する外来遺伝子としては特に制限はなく、蛋白質をコードする核酸であってもよく、また、例えば、アンチセンスまたはリボザイムなどの蛋白質をコードしない核酸であってもよい。遺伝子は天然由来または人為的に設計された配列であり得る。人工的な蛋白質としては、例えば、他の蛋白質との融合蛋白質、ドミナントネガティブ蛋白質(受容体の可溶性分子または膜結合型ドミナントネガティブ受容体を含む)、欠失型の細胞接着分子および可溶型細胞表面分子などであってよい。また、外来遺伝子としては、遺伝子の導入効率や発現安定性等を評価するためのマーカー遺伝子であってもよい。マーカー遺伝子としては、例えば、グリーン蛍光蛋白質(以下、GFPともいう)、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼなどをコードする遺伝子が挙げられる。とりわけ、GFPをコードする遺伝子が好ましい。
【0024】
本発明のシュードタイプウイルスベクターは、実質的に純粋になるよう精製することができる。精製方法はフィルター濾過、遠心分離、およびカラム精製等を含む公知の精製・分離方法により行うことができる。例えば、ベクター溶液を0.45μmのフィルターにて濾過後、42500×g、90分、4℃で遠心を行うことで、ベクターを沈殿・濃縮することができる。
【0025】
本発明のシュードタイプレトロウイルスベクターは、必要に応じて薬学的に許容される所望の担体または媒体と適宜組み合わせて組成物とすることができる。「薬学的に許容される担体」とは、ベクターと共に投与することが可能であり、ベクターによる遺伝子導入を有意に阻害しない材料である。具体的には、例えば滅菌水、生理食塩水、培養液、血清、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)などと適宜組み合わせることが考えられる。さらに、その他にも、安定剤、殺生物剤等が含有されていてもよい。本発明のシュードタイプレトロウイルスベクターを含む組成物は試薬または医薬として有用である。例えば、ES細胞に対する遺伝子導入試薬として、または遺伝子治療のための医薬として、本発明の組成物を用いることができる。
【0026】
本発明のベクターを、ヒトを含む霊長類のES細胞に接触させることにより、該ベクターが含む核酸を該ES細胞に導入することができる。本発明は、本発明のベクターを霊長類ES細胞に接触させる工程を含む、該細胞に遺伝子を導入する方法に関する。また本発明は、VSV-Gでシュードタイプ化されている組み換えサル免疫不全ウイルスベクターの霊長類ES細胞への遺伝子導入のための使用に関する。導入の対象となる霊長類ES細胞に特に制限はなく、例えば所望のサルES細胞を用いることができる。世界中でおよそ200種類のサルが知られている。高等霊長類は、以下の2グループに大別される:
(1)新世界霊長類(New World Primates)
マーモセット(Callithrix jacchus)が広く知られ、実験用霊長類の一つとして用いられている。新世界霊長類の発生は、胚や胎盤の構造が旧世界霊長類のものと異なる面もあるが、基本的には類似する。
(2)旧世界霊長頼(0ld World Primates)
旧世界霊長類はヒトに極めて近縁な霊長類である。アカゲザル(Macaca mulatta)やカニクイザル(Macaca fascicularis)が知られている。ニホンザル(Macaca fuscata)はカニクイザルと同じ属(マカカ属)である。旧世界霊長類の発生は、ヒトの発生に酷似する。
【0027】
本発明に用いられる「サル」とは、霊長類、具体的には、新世界霊長類及び旧世界霊長類をいう。本発明のベクターによる遺伝子導入の対象となるサル由来のES細胞としては特に制限はないが、例えばマーモセットES細胞(Thomson, J. A. et al., Biol. Reprod. 55, 254-259, (1996))、アカゲザルES細胞(Thomson, J. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92, 7844-7848,(1995))、カニクイザルES細胞(実施例参照)などが挙げられる。旧世界霊長類は、ヒトに極めて近縁な霊長類であり、かつヒトの発生に類似しているので、ヒトに近い疾患モデルや種々の疾患治療剤のスクリーニング系として利用されることが期待される。したがって、本発明のベクターの導入対象としては、旧世界霊長類が望ましく、特にニホンザル、アカゲザル、カニクイザルなどのマカカ属のサル由来のES細胞が好ましい。
【0028】
霊長類からのES細胞の調製は、公知の方法または実施例に記載の方法に従ってまたは準じて行うことができる。例えば、胚盤胞期胚を発生させ、ここからES細胞を得ることができる〔例えば、国際公開第96/22362号パンフレット等参照〕。具体的には、例えば胚盤胞期胚より得られる内部細胞塊をフィーダー細胞上または白血球増殖抑制因子[LIF、分化阻害因子(DIF)とも表記される]中で培養することによりES細胞を樹立することができる。
【0029】
フィーダー細胞としては、妊娠12日〜16日目のマウス胎児の線維芽細胞の初代培養細胞、マウスの胎児線維芽細胞株であるSTO細胞などをマイトマイシンCやX線処理して得られた細胞などが挙げられる。このようなマウス由来のフィーダー細胞は、大量に調製できる点で実験などに有利である。フィーダー細胞の作製は、例えば、後述の実施例に記載の方法などにより行なうことができる。フィーダー細胞は、例えばMEM培地(Minimum Essential Medium Eagle)を用いて、ゼラチンコートした培養容器に播種する。フィーダー細胞は、培養容器を隙間無く覆う程度まで播種すればよい。内部細胞塊は、フィーダー細胞が播種された培養容器中のMEM培地をES細胞培養用の培地(実施例6表3参照)に交換したフィーダー細胞上に播種する。
【0030】
本発明のべクターを用いた霊長類ES細胞への遺伝子導入においては、その操作は該ベクターを霊長類ES細胞に接触させる工程を含む方法により行われる。すなわち、例えば遺伝子導入したいES細胞をフィーダー細胞で被われた培養皿に播種し、そこにSIVベクターを添加する。この際、例えば8μg/ml程度のポリブレンを併せて添加することにより、導入効率を向上させることができる。導入時のMOI(多重感染度)(細胞あたりの感染ウイルス粒子数)は、例えば0.1〜1000、より好ましくは1〜100、さらに好ましくは2〜50(例えば5〜10)で行うことができる。通常、ベクター添加を複数回行わなくても、1回のベクター添加によって、ほとんどのES細胞へ遺伝子を導入することができる。本発明のベクターにおいては、レトロネクチンを用いなくてもきわめて高い遺伝子導入効率が得られるという利点を有する。
【0031】
また本発明は、本発明のVSV-Gシュードタイプウイルスベクターが導入された霊長類ES細胞、および該細胞の増殖および/または分化により生成した細胞に関する。ES細胞の分化の誘導は、例えばサイトカインなどの公知の分化・増殖因子や細胞外マトリクスなどの基質の添加、他の細胞との共培養、個体への移入などにより行うことができる(丹羽仁史「ES細胞の分化運命決定機構」蛋白質核酸酵素 45: 2047-2055, 2000; Rathjen, P. D. et al., Reprod. Fertil. Dev. 10: 31-47, 1998)。
【0032】
例えば、胚体外組織起源の細胞種の分化誘導は以下のような方法で行うことができる:
胚体外内胚葉 胚様体(embryoid body)形成
栄養外胚葉 Oct-3/4発現抑制
【0033】
また、未分化細胞起源の細胞種の分化誘導法としては以下のような方法が挙げられる:
原始外胚葉 胚様体形成
HepG2培養上清
【0034】
外胚葉起源の細胞種の分化誘導法としては以下のような方法が挙げられる:
神経細胞 胚様体形成 + レチノイン酸処理
胚様体形成 + bFGF
胚様体形成 + レチノイン酸処理 + Sox2陽性細胞の選別
グリア細胞 胚様体形成 + レチノイン酸処理
胚様体形成 + bFGF
上皮細胞 胚様体形成
【0035】
神経堤細胞などに起源を有する細胞種の分化誘導法としては以下のような方法が挙げられる:
色素細胞 胚様体形成
OP9 + ST2 + デキサメタゾン + SOL
ステロイド産生細胞 SF1過剰発現
【0036】
中胚葉起源の細胞種の分化誘導法としては以下のような方法が挙げられる:
血液(幹)細胞 胚様体形成 + IL-3 + IL-6 + フィーダー細胞
OP9 + フィーダー細胞
flk1陽性細胞の選別
血管内皮細胞 flk1陽性細胞の選別
破骨細胞 胚様体形成 + レチノイン酸処理
心筋細胞 胚様体形成
胚様体形成 + αMHC陽性細胞の選別
骨格筋細胞 胚様体形成
平滑筋細胞 胚様体形成
胚様体形成 + DMSO
脂肪細胞 胚様体形成 + レチノイン酸処理 + インスリン + T3
【0037】
内胚葉起源の細胞種の分化誘導法としては以下のような方法が挙げられる:
インスリン産生細胞 胚様体形成
【0038】
本発明のシュードタイプウイルスベクターにより遺伝子導入したES細胞、および該ES細胞から分化させた細胞、組織、臓器等は、各種薬剤のアッセイやスクリーニングに有用である。例えば霊長類ES細胞への遺伝子導入を通して、組織または細胞、特に好ましくは霊長類由来の組織または細胞の特異的分化を行なうための遺伝子や薬剤等の効果を評価したり、スクリーニングすることができる。本発明には、組織または細胞の特異的分化を行なうための遺伝子または薬剤のスクリーニング方法を提供する。本発明は、ES細胞の増殖または分化に対する遺伝子導入の効果を検出する方法であって、(a)本発明のベクターを霊長類ES細胞に導入する工程、(b)該ES細胞の増殖または分化を検出する工程、を含む方法を提供する。ベクターのES細胞への導入は、本発明の組み換えサル免疫不全ウイルスベクターを目的の霊長類ES細胞に接触させる工程により実施することができる。ES細胞の増殖は、細胞数の計数やMTTアッセイなどのミトコンドリア活性の測定などの公知の方法により検出することができる。またES細胞の分化は、公知の分化マーカー遺伝子の発現の検出、あるいは細胞や組織等の形態学的または生化学的測定などにより検出することができる(丹羽仁史「ES細胞の分化運命決定機構」蛋白質核酸酵素 45: 2047-2055, 2000; Rathjen, P. D. et al., Reprod. Fertil. Dev. 10: 31-47, 1998)。導入ベクターには、効果を検出したい所望の外来遺伝子保持させることができる。また、例えば陰性対照などとして、ES細胞へのベクター自身の導入による効果を検出する場合においては、外来遺伝子を含まないベクターを用いることができる。上記の検出方法を用いて、霊長類ES細胞の増殖または分化に影響を与え得る遺伝子を評価したりスクリーニングすることが可能である。スクリーニングは、上記の検出方法の工程(a)および(b)に続いて、(c)該ES細胞の増殖または分化を調節する活性を有する導入遺伝子を選択する工程、を含む方法により実施することができる。このようなスクリーニング方法も、上記本発明の遺伝子導入の効果を検出する方法に含まれる。
【0039】
このような方法を用いたスクリーニングの一例として、霊長類ES細胞から機能細胞を分化させる遺伝子のスクリーニングを挙げることができる。
【0040】
例えば霊長類ES細胞から膵臓β細胞を分化させる際において、遺伝子A、B、C、D、Eのうちどれが必要か、どの組み合わせがもっともふさわしいか、また、どの順番で遺伝子導入するのがもっとも適切かを調べる際には、これらの遺伝子を霊長類ES細胞に効率良くしかも簡単に導入する技術が有用である。本ベクターはその要求を満たす。例えば、遺伝子A、B、C、D、Eを発現する本発明のベクターを構築し、これを種々の組み合わせや順序で霊長類ES細胞またはその分化細胞に導入する。遺伝子が導入された細胞の分化を検出することにより、遺伝子導入の効果を知ることができる。
【0041】
また、例えばある遺伝子を体内に投与する遺伝子治療における副作用の予見に本発明のベクターを利用することも有用である。
【0042】
遺伝子Xの各臓器や組織への毒性や副作用は、マウスやサル個体への投与実験である程度は把握できる。しかし遺伝子Xが各組織幹細胞へいかなる影響を及ぼしうるかは今までの方法では検出できない。この遺伝子Xはある特定の組織幹細胞から機能細胞への分化を障害する可能性がある。例えば、肝臓幹細胞の分化を障害する場合は、肝炎に罹患した時や肝臓切除術を施行された時に、初めてその障害が明らかになる。すなわち遺伝子Xによって肝臓幹細胞の分化が障害され、必要な時に肝臓の再生が進まないという深刻な事態が起こりうる。こうした問題は通常の動物実験では必ずしも予見できない。本ベクターを用いれば、きわめて効率良く遺伝子Xを霊長類ES細胞へ導入でき、この遺伝子導入ES細胞をさまざまな組織幹細胞やさらに機能細胞まで分化させることによって、遺伝子Xの安全性をさまざまな分化段階で検出できるようになる。
【0043】
本発明のベクターを利用したアッセイおよびスクリーニングは、霊長類、特にヒトやサルにおける発生学的研究、疾患研究、臨床応用、実験モデルなどに有用であり、かつ所望の分化細胞または分化組織を得るのに有用な遺伝子および試薬をスクリーニングすることができるという優れた効果を発揮する。
【0044】
上記のスクリーニング法において、ES細胞から所望の組織または細胞への特異的分化は、例えば、所望の組織または細胞に特異的なマーカーの発現を指標として評価されうる。前記所望の組織または細胞に特異的なマーカーとしては、組織または細胞特異的抗原が挙げられ、例えば、神経系前駆細胞のマーカーとしては、中間径フィラメントであるネスチンなどが挙げられる。このような特異的マーカーは、該マーカーに対する抗体を用い、慣用のELISA、免疫染色等により検出してもよく、該マーカーをコードする核酸を用い、慣用のRT-PCR、DNAアレイハイブリダイゼーション等により検出してもよい。なお、「核酸」とは、ゲノムDNA、RNA、mRNA又はcDNAなどを意味する。本スクリーニング法により得られた遺伝子および試薬は本発明の範囲に包含される。
【0045】
また、本発明のシュードタイプレトロウイルスベクターが導入されたES細胞、および該ES細胞から分化した分化細胞または分化組織も本発明の範囲に含まれる。分化細胞及び分化組織は、前記組織又は細胞に特異的なマーカーの発現、形態学的特徴の観察により同定することができる。
【0046】
本発明のウイルスベクターは、霊長類の任意の遺伝性疾患の遺伝子治療にも応用が可能である。対象となる疾患は特に制限されない。例えば、対象となり得る疾患とその単一原因遺伝子としては、ゴーシェ病においてはβ-セレブロシダーゼ(第20染色体)、血友病においては血液凝固第8因子(X染色体)および血液凝固第9因子(X染色体)、アデノシンデアミナーゼ欠損症においてはアデノシンデアミナーゼ、フェニルケトン尿症においてはフェニルアラニンヒドロキシラーゼ(第12染色体)、Duchenne型筋ジストロフィーにおいてはジストロフィン(X染色体)、家族性高コレステロール血症においてはLDLレセプター(第19染色体)、嚢ほう性繊維症においてはCFTR遺伝子の染色体への組み込み等が挙げられる。それら以外の複数の遺伝子が関与していると思われている対象疾患としては、アルツハイマー、パーキンソン病等の神経変性疾患、虚血性脳障害、痴呆、またエイズ等の難治性の感染症等が考えられる。
【0047】
また、遺伝子導入したES細胞から分化させた細胞、組織、臓器を疾患治療のために用いることも考えられる。例えば、遺伝子の欠損や不足によって発症する疾患に対して、霊長類ES細胞の染色体に当該遺伝子を導入し、これを体内に移植することによって欠損する遺伝子を補い、体循環する酵素、成長因子等の不足を補充する治療が考えられる。また、臓器移植に関連する遺伝子治療に関しては、ヒト以外の動物ドナーの組織適合性抗原をヒト型に変えることが考えられる。これにより、異種移植の成功率を高める応用が可能となる。
【0048】
また、本ベクターを用いて遺伝子を導入したES細胞がサル由来のものである場合は、当該ES細胞を疾患モデルサルに移植することにより、ヒトの疾患の治療モデルとして有用な系を提供することができる。ヒトの疾患のモデルとして様々な疾患モデルサルが知られており、例えば、ヒトのパーキンソン病のモデルサルは人工的に作出可能であり、ヒトの糖尿病の忠実なモデルとして自然発症の糖尿病サルが多く飼育され、また、サルのSIV感染症がヒトのHIV感染症の忠実なモデルとしてよく知られている。このような疾患において、ヒトES細胞を用いた臨床応用を行う前に、前臨床試験としてサルES細胞を疾患モデルサルに移植する系は、非常に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に制限されるものではない。なお、本明細書全体を通じて引用された文献は、すべて本明細書の一部として組み込まれる。
【0050】
[実施例1] SIVベクターの構築
ベクター系の構築には、非病原性のアフリカミドリザル免疫不全ウイルスのクローンであるSIVagmTYO1を用いた。図1にベクターシステムの概要を示す。ヌクレオチドの番号は以下すべてウイルスRNAの転写開始点を +1 として表記した。SIVagmTYO1を組み込んだプラスミドとしてはpSA212(J.Viol.,vol.64,pp307-312,1990)を用いた。また、ライゲーション反応は、すべてLigation High(東洋紡)を用い添付説明書に従って行った。
【0051】
a.パッケージングベクターの構築
まず、vifとtat/revの第1エクソンを含む領域(5337-5770)に相当するDNA断片をプライマー1F(配列番号:1)と1R(配列番号:2)を用いてpSA212をテンプレートとしたPCRにより得た。PCRプライマーに制限酵素部位であるEcoRI部位を付加することでDNA断片の3'端にEcoRI部位をもつ断片を調製した。PCR断片をBglIIとEcoRIにより切断した後、アガロースゲル電気泳動とWizard PCR Preps DNA Purification System(Promega)で精製した。以上のようにして得たDNA断片と、gag/pol領域をコードするDNA断片(XhoI(356)部位からBglII(5338)部位までを含む)を、pBluescript KS+(Stratagene)のXhoI-EcoRI部位へライゲーションした。次に、Rev responsive element(RRE)とtat/revの第2エクソンを含む領域(6964-7993)に相当するDNA断片をPCRで増幅した。上記のPCR断片と同様にプライマー2F(配列番号:3)と2R(配列番号:4)を用いてpSA212をテンプレートとしたPCRにより3'端にNotI部位を付加し、EcoRIとNotIで切断後に精製し、gag-tat/revを組み込んだpBluescript KS+ のEcoRI-NotI部位へ組み込んだ。
【0052】
さらに、スプライシングドナー(SD)部位を含むDNA断片を合成した(配列3F(配列番号:5)と3R(配列番号:6))。合成時に5'端にXhoI部位、3'端にSalI部位を付加し、上記のgag-RRE-tat/revを組み込んだpBluescript KS+ のXhoI部位へ組み込んだ。得られたプラスミドをXhoIとNotIにより切断し、SD〜tat/revを含む断片を精製し、pCAGGS(Gene,vol.108,pp193-200,1991)のEcoRI部位にXhoI/NotIリンカー(配列4F(配列番号:7)と4R(配列番号:8))を組み込んだプラスミドのXhoI−NotI部位へ組み込んだ。以上の方法により得られたプラスミドをパッケージングベクター(pCAGGS/SIVagm gag-tat/rev)として使用した。
【0053】
b.ジーントランスファーベクターの構築
SIVagmTYO1由来の5'LTR領域(8547-9053 + 1-982、5'端にKpnI部位、3'端にEcoRI部位を付加)はプライマー5-1F(配列番号:9)と5-1R(配列番号:10)を、RRE(7380−7993、5'端にEcoRI部位、3'端にSacII部位を付加)はプライマー 5-2F(配列番号:11)と5-2R(配列番号:12)を、3'LTR(8521-9170、5'端にNotIとBamHI部位、3'端にSacI部位を付加)はプライマー 5-3F(配列番号:13)と5-3R(配列番号:14)をそれぞれ用いてpSA212をテンプレートとしたPCRにより増幅した。pEGFPC2(Clontech)由来のCMVプロモーター領域と強化グリーン蛍光蛋白質(以下、EGFPともいう)をコードする領域(1-1330、5'端にSacII部位、3'端にNotI部位とBamHI部位と翻訳ストップコドンを付加)をプライマー6F(配列番号:15)と6R(配列番号:16)を用いてpEGFPC2をテンプレートとしたPCRにより増幅した。4種のPCR断片をそれぞれ制限酵素KpnIとEcoRI、EcoRIとSacII、BamHIとSacI、SacIIとBamHI切断した後に精製し、pBluescript KS+ のKpnI-SacIの間に5'LTR→3'LTR→RREとCMVプロモーターEGFPの順にライゲーションして組み込んだ(pBS/5'LTR.U3G2/RREc/s/CMVFEGFP/WT3'LTR)。レポーター遺伝子としてβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を挿入するため、上記のようにしてPCRにより調製した5'LTR領域と3'LTR領域を含むDNA断片をそれぞれ制限酵素KpnIとEcoRI、NotIとSacIで切断した後に精製し、pBluescript KS+ のKpnI-EcoRIとNotI-SacIにそれぞれ組み込んだプラスミド(pBS/5'LTR.U3G2/WT3'LTR)NotI部位にpCMV-β(Clontech)のβ-ガラクトシダーゼをコードする領域を含むNotI断片(820-4294)を組み込んだ(pBS/5'LTR.U3G2/β-gal/WT3'LTR)。次にプラスミドpBS/5' LTR.U3G2/β-gal/WT3' LTRのEcoRI-NotI部位に、プライマー7-1F(配列番号:17)と7-1R(配列番号:18)を用いてpSA212をテンプレートとしたPCRにより増幅したRRE配列(6964-8177、5'端にEcoRI部位、3'端にNotI部位を付加)を組み込んだ(pBS/5'LTR.U3G2/RRE6/tr/β-gal/WT3'LTR)後にRRE配列をEcoRIとNheIで切り出し、プライマー7-2F(配列番号:19)と7-2R(配列番号:20)を用いてpSA212をテンプレートとしたPCRにより増幅したRRE配列(7380-7993、5'端にEcoRI部位、3'端にNheI部位を付加)を組み込んだ。以上の方法で得られたプラスミド(pBS/5'LTR.U3G2/RREc/s/β-gal/WT3'LTR)をNheIとSmaIで切断し平滑末端化した後、pEGFPN2(Clontech)由来のCMVプロモーター領域(8-592、AseI-NheI断片を平滑末端化)を組み込んだ(pBS/5'LTR.U3G2/RREc/s/CMVFβ-gal/WT3'LTR)。平滑末端化反応はすべてBlunting High(東洋紡)を使用して添付説明書に従って行った。プラスミドpBS/5'LTR.U3G2/RREc/s/CMVFEGFP/WT3'LTRとpBS/5'LTR.U3G2/RREc/s/CMVFβ-gal/WT3'LTRをそれぞれKpnI-SacIで切断して5' LTR-3' LTRを含むDNA断片を調製し、pGL3Control(Promega)ベクターのKpnI-SacI部位へ組込み、ジーントランスファーベクター(pGL3C/5'LTR.U3G2/RREc/s/CMVFβ-gal/WT3'LTR または pGL3C/5'LTR.U3G2/RREc/s/CMVFEGFP/WT3'LTR)として使用した。
【0054】
[実施例2] 5'LTRの改変
レンチウイルスの5'LTRの転写活性は一般にウイルス由来の因子であるTat蛋白質の存在に依存している。そこで、Tatに対する依存性を解消するため、さらに、より転写活性の強いプロモーター配列に置換することでベクター力価を高めるために、5'LTRのプロモーター配列であるU3領域を他のプロモーター配列に置換したSIVagmジーントランスファーベクターを作製した(図2)。
【0055】
5'LTRのキメラプロモーターへの置換は、以下のようにして行った。5'LTRのTATAボックスの下流〜gag領域(9039-9170 + 1-982)を含む断片をプライマー9-1Fから3F(配列番号:21〜23)と9R(配列番号:24)を用いてpSA212をテンプレートとしたPCRで増幅した。また、CMVLプロモーター(pCI(Promega)由来、1-721)、CMVプロモーター(pEGFPN2(Clontech)由来、1-568)、EF1αプロモーター(pEF-BOS(Nucleic Acids Research,vol.18,p5322,1990)の2240-2740)、CAプロモーター(pCAGGSの5-650)を含む断片をそれぞれプライマー10-1F(配列番号:25)と10-1R(配列番号:26)、10-2F(配列番号:27)と10-2R(配列番号:28)、10-3F(配列番号:29)と10-3R(配列番号:30)、10-4F(配列番号:31)と10-4R(配列番号:32)を用いてそれぞれpCI、pEGFPN2、pEF-BOS、pCAGGSをテンプレートとしたPCRで増幅した。増幅後に5'LTRを含む断片と上記の各プロモーターを含む断片とを混合し、それぞれのプロモーターの5'側のプライマー(10-1F(配列番号:25)、10-2F(配列番号:27)、10-3F(配列番号:29)、10-4F(配列番号:31))と、5'LTRの3'側のプライマー(9R)を添加し、更に10サイクルのPCR反応を行うことで、4種のプロモーターと5'LTRとのキメラプロモーターのDNA断片を得た。得られたDNA断片は、ジーントランスファーベクター(pGL3C/5'LTR.U3G2/RREc/s/CMVFβ-gal/WT3'LTR)のKpnI-EcoRI部位に組み込んだ(pGL3C/CMVL.U3G2/RREc/s/CMVFβ-gal/WT3'LTR、pGL3C/CMV.U3G2/RREc/s/CMVFβ-gal/WT3'LTR、pGL3C/EF1α.U3G2/RREc/s/CMVFβ-gal/WT3'LTR、pGL3C/CAG.U3G2/RREc/s/CMVFβ-gal/WT3'LTR)。
【0056】
[実施例3] 3'LTRの改変
3'LTRの配列を部分的に削除し、標的細胞から全長のベクターmRNAが転写されることを防止する、安全性が向上した自己不活性化(SIN)型ベクターを構築した。レンチウイルスベクターにおいては、3'LTR領域に含まれるプロモーター配列であるU3領域が、標的細胞中で逆転写される時に5'LTRのU3プロモーター領域へ組み込まれるため、標的細胞のゲノム内では、ジーントランスファーベクタープラスミドの3'LTR領域に含まれるU3領域が、遺伝子発現に関与する5'LTRのU3プロモーターとなることが明らかとなっている(図3)。そこでSIVagmジーントランスファーベクターの3'LTRのU3領域を他のプロモーター配列へ置換したベクターを作製した(図3)。また、同時に標的細胞中で5'LTRに存在するプロモーター配列を欠失させうるかを検討することが可能な、SIVagmジーントランスファーベクターの3'LTRのU3領域を欠失させたベクターも作製した。
【0057】
3'LTRのU3プロモーター配列の改変と欠失は、以下のように行った。3'LTRのU3を含まないDNA断片をプライマー11F(配列番号:33)と11R(配列番号:34)を用いてpSA212をテンプレートとしたPCRで増幅した。また、U3領域を他のプロモーターへ置換した3'LTRはプライマー12-1Fから3F(配列番号:35から37)と12R(配列番号:38)を用いて、実施例2に記載の方法で得られたキメラプロモーターを組み込んだベクタープラスミドであるpGL3C/CMVL.U3G2/RREc/s/CMVFβ-gal/WT3'LTR、pGL3C/EF1α.U3G2/RREc/s/CMVFβ-gal/WT3'LTR、pGL3C/CAG.U3G2/RREc/s/CMVFβ-gal/WT3'LTRをそれぞれテンプレートとしてPCRで増幅した。PCRにより得られたDNA断片はSalIとSacIで切断後に精製し、pGL3C/CMVL.U3G2/RREc/s/CMVFβ-gal/WT3'LTRのSalI-SacI部位へ組込み込んだ(pGL3C/CMVL.U3G2/RREc/s/CMVFβ-gal/3'LTRΔU3、pGL3C/CMVL.U3G2/RREc/s/CMVFβ-gal/CMVL.R、pGL3C/CMVL.U3G2/RREc/s/CMVFβ-gal/EF1α.R、pGL3C/CMVL.U3G2/RREc/s/CMVFβ-gal/CAG.R)。
【0058】
また、EGFPをレポーターとして有するSINベクター(pGCL3C/CMVL.U3G2/RREc/s/CMVEGFP/3'LTRΔU3)(図4)を構築するため、pGCL3C/CMVL.U3G2/RREc/s/CMVFβ-gal/3'LTRΔU3のEcoR1-BamHI処理により、β-galを含む断片を、pEGFP-C2(Clontech)をテンプレートとして、EGFPFG2Eco(ATCGGAATTCGGCCGCCATGGTGAGCAAGGGCGAGGAGCT/配列番号:39)および EGFPRstoNB(CGGGATCCGCGGCCGCTTACTTGTACAGCTCGTCCATGCC/配列番号:40)をプライマーにしたPCR産物のEcoRI-BamHI断片と組み換え、さらにEcoRI-SacIIサイトにプライマー5-2F(配列番号:11)および5-2R(配列番号:12)にてpSA212をテンプレートとして増やしたPCR産物のEcoRI-SacII断片を組み換えた。
【0059】
[実施例4] SIVの大量調製
トランスフェクション:ヒト胎児腎細胞由来細胞株293T細胞(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, vol.90, pp8392-8396, 1993)を1枚あたり2.5×106 になるように15cmディッシュ50枚に播種し、10%非動化ウシ胎児血清(FCS)添加DMEM(GibcoBRL)にて48時間培養した。培地量は15cmディッシュあたり20mlとした。2日間培養したところで、ジーントランスファーベクター:pGCL3C/CMVL.U3G2/RREc/s/CMVEGFP/3'LTRΔU3、300μg、パッケージングベクター:pCAGGS/SIVagm gag-tat/rev、150μg、VSV-G発現ベクター:pVSV-G、50μgを OPTI-MEM(Invitrogen)75mlに希釈し、2mlのPLUS試薬(Invitrogen)を入れ、攪拌後室温にて15分静置した。別に75mlのOPTI-MEMに3mlのLIPOFECTAMINE(Invitrogen)を混ぜ、それをさらに先程のDNA混合液と混ぜ合わせ15分間室温で静置した。
【0060】
これを1枚あたり10mlのOPTI-MEMに置き換えた293T細胞に3mlずつ滴下し、3時間37℃、10% CO2で培養した。20% FCS添加DMEMを10mlずつ加え21時間培養を続けた。トランスフェクション24時間後、1枚あたり10% FCS添加DMEM 20mlに置換しさらに24時間培養した。
【0061】
ベクターの回収および濃縮:培養上清を回収し、0.45μmのフィルターにて濾過後42500G、90分、4℃にて遠心を行った。ペレットは10mlの10mM MgCl2、3mM Spermine、0.3mM Spermidine、100μM dNTP添加TBSに溶解後37℃にて2時間反応させた。さらに42500G、4℃にて2時間遠心し、ペレットを5% FCS、2μg/mlポリブレン添加PBS、1mlにて懸濁し-80℃にて凍結させ保存した。
【0062】
[実施例5] サルの胚盤胞期胚作製
ES細胞を樹立するために好適な胚盤胞期胚を得るため、体外受精法及び顕微授精法により受精を行い、その後、体外培養法によって胚盤胞期胚に発生させる操作を行った。
(1)卵巣刺激法
カニクイザルのメス(4〜15齢)にゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)〔商品名: リュープリン(Leuplin)、武田薬品工業(株)社製; 又は商品名: スプレキュア(Sprecur)、ヘキスト・マリオン・ルセル(株)社製〕1.8mgを皮下投与した。GnRH投与2週間後から、妊馬血清ゴナドトロピン(PMSG)〔商品名: セロトロピン(Serotropin)、帝国臓器製薬(株)社製〕を 25 IU/kg、ヒト閉経期尿性ゴナドトロピン(hMG)〔パーゴナル(Pergonal)、帝国臓器製薬(株)社製〕10 IU/kg又は卵胞刺激ホルモン(FSH)〔フェルティノーム(Fertinorm)、セローノ・ラボラトリーズ社製〕3 IU/kgを1日1回一定時刻に9日間連続で、本実施例では夕刻)に筋肉内投与した。投与5日後に、腹腔鏡(外径3mm)を用いて卵巣の観察を行い、卵胞の発育の有無を確認した。
ついで、PMSG、hMG又はFSHを投与し卵胞の発育が十分あることを確認した後、ヒト繊毛性ゴナドトロピン(hCG)〔商品名: プベローゲン(Puberogen)、三共(株)社製〕400 IU/kgを1回筋肉内投与した。hCG投与40時間後に、採卵した。
採卵は、卵巣を腹腔鏡(外径10mm)観察下において、約0.5mlの10% SSS(Serum Substitute Supplement, Irvine Scientific Sales Inc.製)を含むα-MEM(α-Modification of Eagle's Medium, ICD Biomedical Inc.製)溶液を入れた60mmの19G又は20Gのカテラン針を付けた2.5mlの注射筒を用いて、卵胞を穿刺し吸引して卵胞液と共に卵子を回収することにより行なった。
回収後、直ちに実体顕微鏡下で卵丘細胞に包まれた成熟卵子を分離し、0.3% BSA含有TALP(以下、BSA/TALPと示す)中に移し、5% CO2、5% 02、90% N2、37℃の炭酸ガス培養器中にて3〜4時間前培養した。
【0063】
(2)精子の採取
(i)精巣上体からの採取法
オスのカニクイザル(10〜15齢)の精巣上体を採取後、直ちに23Gの針を付けた1mlの注射筒を精管に挿入して、0.3% BSAを含むBWW(以下、BSA/BWWと示す)をゆっくり注入し、精巣上体尾部を切断し流出する精液を採取した。
【0064】
(ii)電気刺激法による採取法
i)直腸法
塩酸ケタミン + 塩酸キシラジン(それぞれ、5mg/kg及び1mg/kg)でオスのカニクイザル(10〜15齢)に麻酔を施し、仰臥位においた。電気刺激器に取り付けた棒状直腸電極にケラチンクリームを塗布し、該電極を前記サルの直腸に静かに挿入した。陰茎を滅菌生理食塩水で洗浄し、ペーパータオルなどでふき取り、陰茎の先を試験管(50ml)の中にいれた。ついで、電気刺激器を交流電圧、5Vにセットして、通電を行なった。通電を3〜5秒間行なった後、5秒間休止した。これを最大3回まで繰り返した。射精が見られた時は、その時点で終了した。射精が見られないときは、電圧を10Vにして同様の操作を行なった。さらに、射精が見られないときは、15V、20Vで実施した。
ii)陰茎法
無麻酔下で、ケージ前面にオスのカニクイザル(10〜15齢)の四肢を保定し、陰茎を保持しやすい位置に設置した。手術用ゴム手袋を装着し、陰茎を無菌生理食塩水で洗浄し、ペーパータオルなどで拭き取った。電気刺激器を準備し、電極を陰茎にセットし、クリップで接続した。通電は、まず直流の電圧5Vで1秒間隔でON-OFFを繰り返しながら、徐々にその間隔を短くしていく操作とした。射精が見られない時は、同様の操作を10V、15V、20Vで行なった。さらに、射精が見られないときは、交流で同様の操作を繰り返した。
【0065】
(3)精液採取後の処理と凍結保存法(Torii, R., Hosoi, Y., Iritani, A., Masuda, Y. and Nigi, H. (1998). Establishment of Routine Cryopreservation of Spermatozoa in the Japanese Monkey (Macaca fuscata), Jpn. J. Fertil., 43(2), 125-131)
直腸法又は陰茎法で採取した精液を、37℃炭酸ガス培養器内で約30分間静置した。液状成分のみを採取し、0.3% BSA含有BWW(Biggers, Whitten and Wittinghams)(BSA/BWW)培養液を約1〜2ml加えて精子溶液を調製した後、80%パーコール(American Permacia Biotech Inc.製)2.5mlと60%パーコール 2.5mlの液の上に静かに重層した。得られたものを 1,400rpm で20分、室温で遠心分離した後、試験管内の底部の約0.5mlを残して、上層を吸引除去した。さらに、BSA/BWWを約10ml添加して軽く混合した。得られた混合物を 1,400rpm で3分、室温で遠心分離した後、底部の約0.5mlを残して上層を吸引除去した。
得られた精子に、精子数約5×107〜1.0×108個/mlになるようにBSA/BWWを適量加えて精子溶液を調製した後、4℃で約60〜90分間静置した。その後、氷水中で精子溶液の1/5量のTTE-G溶液〔終濃度12%のグリセロールを含むTTE培地(培地100ml中の組成: Tes 1.2g、Tris-HCl 0.2g、グルコース 2g、ラクトース 2g、ラフィノース 0.2g、卵黄 20ml、ペニシリン-G 10,000IU、ストレプトマイシン硫酸塩 5mg)を静かに滴下し、5分間静置した。なお、前記のTTE-G溶液の滴下及び静置の操作を5回繰り返した。
氷水中で60〜90分間放置した後、得られた精子溶液を0.25又は0.5mlのストローに入れた。ストローを液体窒素の容器の上部で約5分間維持した後、液体窒素上面でさらに5分間維持した。前記ストローを液体窒素中に投入し、保存した。
【0066】
(4)体外受精用精子の調製
液体窒素から出したストローを一旦室温で30秒間保持した後、37℃の温浴中に30秒間投入して保存精子溶液を融解した。ついで、前記ストローに、1mM カフェイン(シグマ社製)と1mM dbC-AMP(シグマ社製)とを含有したBSA/BWW 10mlを加え、30分間37℃の炭酸ガス培養器(5% C02)でインキュベートして、受精能獲得を行なった。
その後、1,000rpm(200×g)で2分間、精子溶液を遠心分離し、上清を捨てた。ついで、新たに1mM カフェインと1mM dbC-AMPとを含有したBSA/BWW約0.5〜1mlを精子に加えた。得られた精子溶液を、37℃の炭酸ガス培養器(5% C02)にて、60分間静置し、Swim Upした精子を集めて、精子の運動性と精子数とを確認した。これにより体外受精用精子を得た。
【0067】
(5)受精方法
1)体外受精法
プラスチックディッシュ内のミネラルオイルで覆われた50μlのBSA/BWWのドロップ中に、卵丘細胞に包まれた卵子1〜5個をいれた。ついでドロップ中に5.0×105〜1.0×106個(精子)/mlになるように精子懸濁液を移した。ドロップをミネラルオイルで覆い、ついで媒精を行なった。
その後、受精後の卵子を37℃、5% C02、5% 02、90% N2 の炭酸ガス培養器にて培養した。媒精5時間後、BWW液からTALP液に交換し、受精の確認を行なった。その結果、約45%の高い受精率で受精卵が得られた。受精が確認された卵子について、約20時間培養して、その後CMRL-1066液に移し培養を継続した。
なお、CMRL-1066液は以下のように調製した。10mlのA液〔ペニシリンG(1000単位)、ゲンタマイシン硫酸塩(10mg/ml)0.5ml、CMRL-1066(10×)(NaHC03 及びL-グルタミン無)10ml、NaHC03 0.218g、乳酸ナトリウム(290mOsmol's stock)6.7ml、水で100mlにメスアップ〕にL-グルタミン 0.014615g(1mM)を溶解した。ついで、得られた溶液を濾過滅菌した。滅菌後の溶液1mlにA液9mlを添加し、全量10mlのB液を得た。ピルビン酸ナトリウム 0.0055g(終濃度5mM)をB液に加えて溶解し、C液を得た。C液8mlとBCS(子牛血清)2mlとを混合した。得られた混合物を濾過滅菌して、CMRL-1066液を得た。
【0068】
2)顕微授精法
(i)卵子の調製
回収された卵母細胞を、ミネラルオイル(シグマ社製)で覆われた50μlのO.3% BSAを含むTALP(BSA/TALP)溶液スポット中に集めた後、約2〜4時間、37℃、5% C02、5% 02、90% N2 の条件下で前培養した。
【0069】
卵子の成熟状態を確認するため、0.1%のヒアルロニダーゼ(シグマ社製)を含むTALP-HEPES溶液中に卵母細胞培養物を1分間さらした後、ピペッティングで卵丘細胞を除去した。回収した卵子は、倒立顕微鏡下で、以下のClass-1〜4の4種類に分類した。
Class-1: 極体(PB)を持つ成熟卵子、
Class-2: PBと卵核胞(GV)が観察されない成熟途上卵子、
Class-3: GVが観察される未成熟卵子、
Class-4: 形状の変形が著しいか、細胞質が変成、退行的変化を示している卵子
【0070】
Class-1の卵子については、確認後、すぐに、顕微授精に供試した。Class-2とClass-3の卵子については、更にミネラルオイルで覆われた50μlのBSA/TALP溶液スポット中に集めた後、37℃、5% C02、5% O2、90% N2 の条件下で継続培養した。培養後24時間で、卵子の成熟状態を確認した。成熟した卵子については、その時点で、顕微授精に供試した。残りの未成熟卵子とClass-4の卵子とについては、受精には供試しなかった。
【0071】
(ii)精子の調製
体外受精に準じた方法で行なった。
【0072】
(iii)顕微授精法
顕微授精を、ナリシゲ社製のマイクロマニピュレーターを装備したオリンパス IX70倒立顕微鏡下で行なった。
15cmディッシュに、スポット1: 希釈精子を15μl、スポット2: 10%ポリビニルピロリドンPBS培養液〔PVP: 平均分子量約360,000、ナカライ テスク(株)社製〕5μl×3個とスポット3: 卵子操作用のTALP-HEPES(最終濃度 3mg/ml BSA)溶液 5μl×3個を順に置き、表面をミネラルオイルで覆い乾燥を防ぎ、顕微授精用のワーキング・フィールドとした。なお、本実施例では、操作温度の変化には留意せず、加温ステージを用いなかったが、加温ステージを用いてもよい。
【0073】
注入用のニードルとしては、ヒト顕微授精用の傾斜角度30度のニードル(外径7〜8μm、内径5〜7μm、メディー・コンインターナショナル社製)を用いた。前記ニードルを動作精度の高いアルカテルシリンジに接続した。
卵子保持用ニードルとしては、同じくヒト顕微授精用の傾斜角度30度のニードル、あるいはマグネティック・プラー(商品名: PN-30、ナリシゲ社製)により作製した外径約100μm、先端の内径約15μmのニードルを用いた。前記ニードルは、2000μlのエアータイトシリンジを付けたナリシゲのインジェクターに接続した。
【0074】
スポット1でヒト顕微授精の基準に従い運動性のある精子を選んで吸引して、得られた精子をスポット2へ移し、排出した。スポット2においては、PVPの粘性により、精子の運動性が低下した。前記精子尾部をインジェクションニードルでこすりつけ、膜の一部を破壊し、精子の運動を停止させる。該精子を粘性の高い溶液とともに吸引し、スポット3へ移した。
【0075】
成熟卵子をスポット3に入れ、保持用ニードルを用いて、極体の下にある染色体が注入用ニードルで壊されないように、6時又は12時の位置に固定した。その後、注入用のニードルの先端に精子を置き、該精子を卵子へ刺し込んだ。ニードルが透明帯を通過したことを確認した後、卵細胞膜を吸引した。膜の断裂が起こったことを確認した後、注入用ニードル内の内容物(精子と卵子の細胞質)を注入した。精子と卵子の細胞質の注入に関する一連のこれらの操作を繰り返し行なった。一回の操作で2〜3個卵子に顕微授精を行なうが、精子や卵細胞質により先端の内側が汚れた場合は、スポット2で洗浄する。
【0076】
顕微授精された卵子を、すぐに培養器へ戻し、37℃、5% 02、5% C02、90% N2 の条件下で培養を開始した。顕微授精後、すぐ、6cmノンコート培養ディッシュに、50μlのCMRL-1066溶液のスポットを作り、それをパラフィンオイルでカバーした。なお、スポットと気相の平衡は、原則的には、3時間以上行なった。顕微授精後24時間で、TALP溶液から前記CMRL-1066溶液のスポットに移し、炭酸ガス培養器中で37℃、5% 02、5% C02、90% N2 の条件下で密封のまま8日間培養した。その結果、約75〜85%の高い受精率で受精卵が得られた。
【0077】
(6)培養方法
体外受精及び顕微授精において、受精を確認した後は、培養を行なうにあたって、温度と炭酸ガス濃度の急激な変化を避けるため、ヒトでは通常行なわれず、マウスやウサギ等の実験動物で広く採用されている、ミネラルオイルで培地をカバーする微少懸滴培養法を採用した。また、培養経過を観察することにより、温度やpHの変化による不要なストレスを与えることを避けるため、体外受精では培養開始後7日間、顕微授精では培養開始後8日間、胚盤胞期胚の出現が予測されるまで培養器の扉の開閉を行なわず、密閉して培養を行なった。
【0078】
ここで用いた培養液、培養温度、培養気相は以下の通りである。
培養液: TALP & CMRL-1066
通常、マウスで用いられるBWWやヒトで用いられるPl(ナカメディカル社製)、Blast medium(ナカメディカル社製)及び新たに開発された HFF(human foilcular fluid、扶桑薬品(株)社製)を用いた結果、受精と分割までは順調に進むが桑実胚までの発生にとどまることが判る。受精確認後、TALPとCMRL-1066の培養液と組み合わせて用いることにより、胚盤胞期胚への発生がみられ、かつその率は受精胚の40〜46%と極めて高率にみられることが判明した。培養器外の操作で、リン酸緩衝液系のPBSを使わずHEPES緩衝液系のTALPを用いたことにより、卵子への悪影響を減らしたと思われる。
培養温度: 38℃
マウスやヒトでは、通常37℃で行なうが、この温度では、発生が遅く、かつ桑実胚以降への発生は全くなかった。そこで、38.5℃で胚培養を行なうウシなどと同様に、38℃とやや高い温度で培養を行なうことにより、体外受精では7日後に、顕微授精では8日後に胚盤胞期胚を得た。
培養気相: 5% C02、5% 02、90% N2
通常用いられる5% C02、95%空気の条件下では、桑実胚までの発生にとどまったが、5% C02、5% 02、90% N2 で培養を行なうことにより、胚盤胞期胚への発生率が高い率で見られるようになった。
【0079】
TALP液及びTALP-HEPES液は、下記のように調製した。
【0080】
【表1】

【0081】
ここで、TALP液調製の直前に、
ピルビン酸ナトリウム 0.5mM 0.0055g (100mlに対して)
ゲンタマイシン硫酸塩(10mg/ml) 50μg/ml 50μl
BSA 3mg/ml 0.3g
を調製し、得られた試薬をフィルターで濾過滅菌した。一方、TALP-HEPES液調製の直前に、
ピルビン酸ナトリウム 0.1mM 0.0011g (100mlに対して)
BSA 3mg/ml 0.3g
を調製し、得られた試薬をフィルターで濾過滅菌した。
【0082】
なお、TALP-HEPES液を調製する際、50ml NaClとNa-HEPES(N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-2-エタンスルホン酸)、フェノールレッド、ペニシリンGを先に溶解させた。得られた溶液に、それぞれのストック溶液を規定量加え、最後にNaClストック溶液で100mlまでメスアップした。ついで、得られた溶液のpHを1M NaOHでpH7.4に調整した。乳酸ナトリウムストック溶液は、原液(60%シロップ)と水とを1:35で混合した。得られた混合物に、1mg/mlのフェノールレッドを加えた後、得られた溶液のpHを1M NaOHでpH7.6に調整し、濾過滅菌した。得られた試薬は、4℃で1週間保存可能である。NaHP04・H20 28mgは、10mlのグルコース溶液に溶解し、濾過滅菌した。得られた溶液は4℃で1週間保存可能である。
【0083】
ついで、表2にBWW(Biggers, Whitten and Whittingham)液の組成を示す。
【0084】
【表2】

【0085】
[実施例6] サルES細胞樹立法
(1)フィーダー細胞の作製
12.5日齢のマウス胚から得た初代胚線維芽細胞(以下、MEFともいう)を、10%ウシ胎仔血清(FBS)を含む MEM培地でコンフルエントになるまで、初代〜3代目の間で培養した。ついで、最終濃度 10μg/mlのマイトマイシンC(MMC)を含むMEM培地でMEFを2〜3時間培養し、細胞分裂を不活性化した。その後、MMCを含む培地を除き、細胞をPBSで3回洗浄した。トリプシン処理(0.05%トリプシン、1mM EDTA)により、洗浄後の細胞を培養ディッシュから剥がし、細胞数をカウントした。
ゼラチンコートした24穴培養ディッシュの各ウエルに、2×104個のMMC処理されたMEFを播種した。
得られた細胞について、実際にディッシュ上に播種し、適した細胞数であることを確認した上で、マウスES細胞を培養し、性質を調べた。その結果、増殖能が良好であり、未分化状態が維持されていたため、得られた細胞がフィーダー細胞として適していることが示された。また、3代目以下(初代〜3代目)までの培養のフィーダー細胞が、好適であった。
【0086】
(2)サル胚盤胞期胚からの内部細胞塊の分離
透明体除去のためにサル胚盤胞期胚を最終濃度0.5%プロナーゼまたはタイロードを含むM2培養液〔例えば、D. M. Gloverら編、DNA Cloning 4 Mammalian Systems A Practical Approach 第2版(1995)などを参照のこと〕に移し、37℃で10分インキュベートした。なお、透明体が残っている胚盤胞期胚について、さらに37℃で5分のプロナーゼ処理を行なった。透明体の除去を確認後、得られた胚盤胞期胚をPBSで2回洗浄した。
ついで、ウサギ抗カニクイザルリンパ球血清をM16培養液〔前記DNA Cloning 4 Mammalian Systems A Practical Approachなどを参照のこと〕で20倍に希釈した溶液中に胚盤胞期胚を移し、37℃で30分インキュベートした。その後、得られた胚盤胞期胚をPBSで3回洗浄した。補体をM16培養液で50倍に希釈した溶液中に胚盤胞期胚を移し、37℃で30分インキュベートした。得られた胚盤胞期胚をPBSで3回洗浄した。胚盤胞期胚の栄養外胚葉が完全に除去出来ない場合は、ガラス針を用いて顕微鏡下で物理的に栄養外胚葉を除去した。これにより、内部細胞塊(Inner Cell Mass; ICM)を分離した。
【0087】
(3)サル内部細胞塊の培養
(1)で得られたフィーダー細胞を播種した24穴培養ディッシュからMEM培地を除き、ウエルごとにES細胞培養用の培地〔ES細胞培地、表3〕を800μlずつ加えた。
ついで、(2)で得られたICMをマイクロピペットを用いて各ウエルに1個ずつ移し、37℃、5% CO2 条件下で7日間培養した。ICMの着床を阻害しないために、培養開始から3日間は培地の交換を行なわず、毎日顕微鏡下で着床状況を観察した。
【0088】
【表3】

【0089】
培養7日目にICMの解離を行なった。ウエルからES細胞培地を除き、PBSで1回洗浄した。300μlの0.25% トリプシン/0.02% EDTAをウエルに加え、直ちに取り除いた。ついで、24穴培養ディッシュを37℃で1分インキュベートした。顕微鏡下で細胞の解離を確認した後に、ウエルに500μlのES細胞培地を加えピペットマンでよくピペッティングした。
フィーダー細胞を予め播種した新しい24穴培養ディッシュのウエルに、上記の全細胞を移した。300μlのES細胞培地を加えて、あわせて800μlの培養量にした後に、細胞の播きムラが無いようによく混合した。2日に1回、ES細胞培地を交換した。解離後、7日以内にES細胞と思われる細胞集団が増殖し、コロニーとして出現するため、毎日観察した。
ES細胞のコロニーが出現したら、24穴培養ディッシュ上の細胞をトリプシン処理し、継代増殖を繰り返した。この間、毎日または2日に1回の頻度でES細胞培地を交換した。その結果、カニクイザルの胚盤胞期胚から複数のES細胞株を得た。
【0090】
(4)サルES細胞の評価
核型(karyotype):
染色体数が正常(起源としたサルの染色体数と同じ数:2n=42)であるか否かを調べた。この結果、樹立したES細胞株は、正常の核型を保持していた。
多分化能:
1×106個のカニクイザルES細胞を、8週齢のSCIDマウスの鼠径部に皮下注射した。注射後5ないし12週後に、腫瘤の形成が認められた。該腫瘤をブアン液又はパラホルムアルデヒド液で固定後、薄切し、ヘマトキシリン-エオジン染色(HE染色)または免疫染色を施し、組織学的検査を行った。なお、免疫染色においては、利用できるサル組織特異抗体が極めて少ないことから、ヒトのニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、グリア線維性酸性蛋白(GFAP)、S-100蛋白及びデスミンに対する抗体を用いた。
その結果、該腫瘤は、外胚葉(ニューロン、グリア)、中胚葉(筋肉、軟骨、骨)及び内胚葉(線毛上皮、腸管上皮)由来の細胞群で構成されるテラトーマであることがわかった。また、免疫組織学的検査において、ニューロンはNSE、グリアはNSE及びGFAP、末梢神経はNSE、軟骨はS-100蛋白、筋肉はデスミンに対する抗体によってそれぞれ検出された。以上の結果から、カニクイザルES細胞が多分化能(三胚葉性分化能)を有することが明らかとなった。
【0091】
形態学的特徴:
1.高い核/細胞質比、顕著な核小体、コロニー形成を呈した。
2.マウスES細胞に比べて、コロニー形態が扁平であった。
【0092】
細胞表面マーカーの発現:
ES細胞の特徴づけに用いられる細胞表面マーカーである Stage-specific embryonic antigens(SSEA)の有無を確かめるために、SSEA-1(陰性対照)、SSEA-3、SSEA-4の各細胞表面マーカーに対する抗体を用いて免疫染色を行なった。これらの抗体は、The Developmental Studies Hybridoma Bank of the National Institute of Child Health and Human Development より入手した。SSEAの各細胞表面マーカーについて、下記操作により評価した: 4%パラホルムアルデヒドで固定した細胞と1次抗体とを反応させた。ついで、次にアミノ酸ポリマーにペルオキシターゼと2次抗体を結合させた標識ポリマー(シンプルステインPO、ニチレイ社製)を反応させた後、シンプルステインDAB溶液(ニチレイ社製)を加えて検出した。その結果、SSEA-1は検出されず、SSEA-3及びSSEA-4が検出された。
【0093】
アルカリホスファターゼ活性:
Fast-Red TR SaH を基質として、アルカリホスファターゼ活性をHNPP(ロッシュ社製)を用いて測定した。その結果、アルカリホスファターゼが検出された。
【0094】
[実施例7] サルES細胞の培養
I)フィーダー細胞の作製
上記実施例6と同様に、12.5日齢のマウス胚から得たMEFを、10%FBSを含むMEM培地でコンフルエントになるまで、初代〜3代目の間で培養した。ついで、最終濃度 10μg/mlのMMCを含むMEM培地でMEFを2〜3時間培養し、細胞分裂を不活性化した。その後、MMCを含む培地を除き、細胞をPBSで3回洗浄した。トリプシン処理(0.05%トリプシン、1mM EDTA)により、細胞を回収し、細胞数をカウントした。
ゼラチンコートした24穴培養ディッシュの各ウエルに2×104個のMMC処理されたMEFを播種した。
【0095】
II)サルES細胞(CMK-1株)の培養
実施例6に従ってES細胞培地を調製した。上記 I)により作製したフィーダー細胞上にES細胞のCMK-1株(以下、CMK-1ともいう)を播種した。このときES細胞は1個1個に解離せず、5〜10個の細胞塊を播種するようにした。培地は、毎日または2日に1回の頻度で交換した。継代は4〜6日おきに行った。
継代においては、細胞をPBSで1回洗浄し、0.25%トリプシン/PBSまたは 0.1%コラゲナーゼ/DMEMを加え、37℃ 2〜10分インキュベートした。ES細胞培地で細胞を懸濁し、1000rpmで5分間遠心した。この細胞を、1:2〜1:4の比率で、新しく用意したフィーダー細胞上に播種した。細胞を保存する際には、10〜20% DMSO/DMEM または市販の細胞凍結保存液を使用した。
【0096】
[実施例8] サルES細胞(CMK-1株)を用いた遺伝子導入実験
<サルES細胞(CMK-1株)への遺伝子導入>
上記で作製したEGFPを発現するVSV-Gシュードタイプ化SIVベクター[自己不活性化(SIN)型ベクター](図4)を用いて、サルES細胞への遺伝子導入を行った。Functional Titer(有効力価)1.9×109/ml のベクター溶液を用いた。
遺伝子導入前日にCMK-1を7.5×104 個/mlとなるようにフィーダー細胞(2.5×105 個/ml)上に播種した。遺伝子導入当日(Day 0)に、上記で調整した細胞を基準にしてMOI 1, 10, 100となるように上記SIVベクターをES細胞培地(実施例6)で希釈した。ポリブレン 8μg/mlを添加し、トランスダクションは1回行った。10時間後に培地を交換した。翌日(Day 1)からは、5〜6日おきに1:3〜1:4の比率でフィーダー細胞上に継代した。
ES細胞(CMK-1株)への遺伝子導入効率は、FACScanで求めたEGFP発現率から以下の方法で計算した。CMK-1はフィーダー細胞上で培養しているため、トリプシンで回収したサンプルにはCMK-1とフィーダー細胞が混在している。また、SIVベクターは、CMK-1だけでなくマイトマイシンCで処理したフィーダー細胞にも遺伝子導入が可能なので、EGFP発現細胞にはCMK-1とフィーダー細胞との両細胞が含まれている。CMK-1だけのEGFP発現率は、下記 "1) フィーダー細胞のEGFP発現率の測定"、および下記 "2)CMK-1とフィーダー細胞の細胞比測定" を用い、以下の補正式に従い求めた。
【0097】
<CMK-1の遺伝子導入効率の補正式>
各FACSサンプルにおけるCMK-1のEGFP発現率をEc、フィーダー細胞のEGFP発現率をEf、CMK-1、フィーダー細胞全体のEGFP発現率をEbとする。CMK-1の細胞数をc、フィーダー細胞の細胞数をfとすると、
f・Ef + c・Ec = ( f + c ) Eb であるから、これを変形して
Ec = {( f + c ) Eb - f・Ef }/ c
c / ( f + c ) = k とおくと
1/k = 1 + f/c であるからこれを代入して
Ec = Eb/k - (1/k - 1)/Ef
= ( Eb - Ef )/k + Ef
これより
mean Ec ={(Eb - Ef)/n・Σ1/ki}+ Ef
標準誤差 SEM (standard error of means) = 1/n・(Σ(Eci - mean)2 )1/2
= ( Eb - Ef )・(Σ(1/ki - 1/nΣ1/ki)2 )1/2
の補正式を得た。
【0098】
1) フィーダー細胞のEGFP発現率の測定
フィーダー細胞だけにSIVベクターをMOI 1, 10, 100となるように遺伝子導入し、上記と同じ条件でFACS解析および継代を行った。
2)CMK-1とフィーダー細胞の細胞比測定
CMK-1とフィーダー細胞の識別は以下の方法で行った。ヒトの抗体である抗HLA-ABC抗体(Mouse anti Human HLA-ABC:RPE, Serotec Ltd.)はマウス細胞であるフィーダー細胞には反応しないが、カニクイザル細胞であるCMK-1には反応する。この抗体をCMK-1とフィーダー細胞の細胞懸濁液に反応させ、FACSを用いてCMK-1とフィーダー細胞の細胞比を測定した。
【0099】
SIVベクターによるサルES細胞への遺伝子導入効率を測定した(図5)。CMK-1への遺伝子導入効率は、上記の"CMK-1の遺伝子導入効率の補正式"で示す方法によってフィーダー細胞の混入分の影響を除外した。遺伝子導入2日後にはMOI 100で90%以上、MOI 10で約80%、MOI 1で約60%と、MOI依存性の極めて高い遺伝子導入効率が認められ、しかもこの高い遺伝子導入効率は約2ヶ月以上持続した。また、EGFP遺伝子を導入されたCMK-1における平均蛍光強度の時間経過を調べたところ、約2ヶ月以上にわたりEGFP発現細胞の平均蛍光強度はほとんど低下することはなかった(図6)。SIVベクターによってEGFP遺伝子を導入したCMK-1("green" ES cell)の顕微鏡写真を図7に示した。
【0100】
[実施例9] SIVベクターによるサルES細胞およびマウスES細胞への遺伝子導入効率
SIVベクターによる遺伝子導入効率がES細胞の種により異なるかどうか検討するため、マウスES細胞(D3株)に実施例8と同様の方法で遺伝子導入を行った。
具体的には、遺伝子導入前日にCMK-1を7.5×104 個/mlとなるようにフィーダー細胞(2.5×105 個/ml)上に播種した。遺伝子導入当日(Day 0)に、上記で調整した細胞を基準にしてMOIが1、10 , 100となるように上記EGFPを発現するVSV-Gシュードタイプ化SIVベクター[自己不活性化(SIN)型ベクター](図4)をES細胞培地(実施例6)で希釈した。ポリブレン 8μg/mlを添加し、遺伝子導入は1回のみ行った。10時間後に培地を交換した。翌日(Day 1)からは、5〜6日おきに1:3〜1:4でフィーダー細胞上に継代した。マウスES細胞(D3株)は、遺伝子導入前日に1×105 個/mlの細胞をほぼ同数のフィーダー細胞上に播種した。フィーダー細胞はCMK-1のときと同じものを用いた。播種翌日に上記SIVベクターをMOIが10となるように培地に添加した。ポリブレン 8μg/mlを添加し、遺伝子導入は1回のみ行った。翌日(Day 1)から1日おきに1:8から1:10でフィーダー細胞上で継代した。
MOIを10でトランスダクションを行った各ES細胞における遺伝子導入効率を図8に示した。サルES細胞の遺伝子導入効率のほうがマウスES細胞のそれよりも高いことが認められた(図8)。SIVをベースとするベクターを用いる場合は、SIVが自然宿主とするサルなどの霊長類の細胞のほうが、マウスなどの異種の細胞に比べて、効率良く遺伝子導入されるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の霊長類由来ES細胞導入用のVSV-Gシュードタイプサル免疫不全ウイルスベクターは、ヒトを含む霊長類における発生学的研究、疾患研究、臨床応用、実験モデルにおいて有用である。また、本発明のベクターは、ES細胞からの組織または細胞の特異的分化を制御する遺伝子および試薬等のスクリーニングを可能にする。このスクリーニング方法によれば、所望の分化細胞または分化組織を得るのに有用な、組織または細胞の特異的分化を行なうための遺伝子および試薬等をスクリーニングすることができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1は、サル免疫不全ウイルスクローンSIVagmTYO1を用いたレンチウイルスベクターシステムの概要を示す図である。
【図2】図2は、5'LTRのプロモーター配列であるU3領域を他のプロモーター配列に置換したSIVagmジーントランスファーベクターの構造を示す図である。
【図3】図3は、SIVagmジーントランスファーベクターの3'LTRのU3領域を他のプロモーター配列へ置換したベクターの構造と、それが標的細胞で逆転写された結果生じると予想される、5'LTRのU3プロモーター領域の構造を示した図である。
【図4】図4は、EGFPをレポーターとして有するSINベクター(pGCL3C/CMVL.U3G2/RREc/s/CMVEGFP/3'LTRΔU3)の構造を示した図である("SIN-GFP/SIV"、または"SIN CMV EGFP"とも略記する)。3'U3を削り、自己不活性ベクター(Self-Inactivating vector; SIV vector)化した。
【図5】図5は、SIVベクターによってEGFP遺伝子を導入したES細胞(CMK-1株)におけるEGFP発現の時間経過を示す図である。横軸は遺伝子導入当日をDay 0としその後の日数を示す。縦軸はCMK-1におけるEGFP発現細胞の割合(%)を示す。CMK-1の遺伝子導入効率は、実施例に記載の"CMK-1の遺伝子導入効率の補正式"で示す方法によってフィーダー細胞混入分の影響を除外した数字を示してある。遺伝子導入2日後にはMOI 100で90%以上、MOI 10で約80%、MOI 1で約60%と、MOI依存性の極めて高い遺伝子導入効率が認められ、しかもこの高い遺伝子導入効率は約2ヶ月以上持続した。
【図6】図6は、SIVベクターによってEGFP遺伝子を導入したES細胞(CMK-1株)におけるEGFP平均蛍光強度の時間経過を示す図である。横軸は遺伝子導入当日をDay 0としその後の日数を示す。縦軸はFACS解析で得られたEGFP平均蛍光強度(--)を示す。約2ヶ月以上にわたりEGFP発現細胞の平均蛍光強度はほとんど低下することはなかった。
【図7】図7は、SIVベクターで遺伝子導入したES細胞(CMK-1株)のEGFP発現の蛍光顕微鏡像を示す写真である。 上パネル:遺伝子導入後21日経過(day 21)したES細胞の、蛍光顕微鏡による観察。EGFP蛍光を発しているCMK-1が島状に浮かび上がっている。 下パネル:遺伝子導入後62日経過(day 62)したES細胞の、蛍光顕微鏡による観察。依然としてEGFP蛍光を発しているCMK-1が島状に浮かび上がっている。
【図8】図8は、SIVベクターによるマウス及びサルES細胞(CMK-1株)への遺伝子導入効率を示す図である。縦軸はフィーダー細胞の混入分の影響を除外したES細胞の遺伝子導入効率(%)を示した。サルES細胞の遺伝子導入効率のほうがマウスES細胞のそれよりも高いことが認められた。SIVをベースとするベクターを用いる場合は、SIVが自然宿主とするサルなどの霊長類の細胞のほうが、マウスなどの異種の細胞に比べて、効率良く遺伝子導入されるものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
VSV-Gでシュードタイプ化されている、霊長類胚性幹細胞へ遺伝子を導入するための組み換えサル免疫不全ウイルスベクター。
【請求項2】
組み換えサル免疫不全ウイルスベクターがagm株由来である、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
組み換えサル免疫不全ウイルスベクターが自己不活性化型である、請求項1または2に記載のベクター。
【請求項4】
霊長類が旧世界霊長類オナガザル科マカカ属である、請求項1から3のいずれかに記載のベクター。
【請求項5】
外来遺伝子を発現可能に保持する、請求項1から4のいずれかに記載のベクター。
【請求項6】
外来遺伝子が、グリーン蛍光蛋白質、β−ガラクトシダーゼおよびルシフェラーゼから選ばれる蛋白質をコードする遺伝子である、請求項5に記載のベクター。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の組み換えサル免疫不全ウイルスベクターを霊長類胚性幹細胞に接触させる工程を含む、該細胞に遺伝子を導入する方法。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかに記載の組み換えサル免疫不全ウイルスベクターが導入された霊長類胚性幹細胞。
【請求項9】
請求項8に記載の霊長類胚性幹細胞の増殖および/または分化により生成した細胞。
【請求項10】
ES細胞の増殖または分化に対する遺伝子導入の効果を検出する方法であって、
(a)請求項1から6のいずれかに記載のベクターを霊長類胚性幹細胞に導入する工程、
(b)該胚性幹細胞の増殖または分化を検出する工程、を含む方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図8】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−119006(P2008−119006A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−332107(P2007−332107)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【分割の表示】特願2003−503807(P2003−503807)の分割
【原出願日】平成14年5月29日(2002.5.29)
【出願人】(595155107)株式会社ディナベック研究所 (22)
【出願人】(000002956)田辺三菱製薬株式会社 (225)
【Fターム(参考)】