説明

X線撮像における散乱補正の方法及びシステム

【課題】ワイド・コーンX線計算機式断層写真法(CT)システム等での散乱による雑音又はアーティファクトを減少させる。
【解決手段】散乱X線の反転型追尾を用いて散乱情報を導くアプローチが開示される。幾つかの実施形態では、X線放射線の線源から検出器へ進む追尾方式とは反対に、検出器のそれぞれの位置からX線放射線の線源まで散乱線を追尾する。一つのかかるアプローチでは、反転型追尾は密度積分容積を用いて具現化され、これにより実行される積分ステップが減少する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
非侵襲型の撮像技術は、患者又は物体に対して侵襲的処置を施すことなく患者又は物体の内部構造の画像を得ることを可能にする。具体的には、計算機式断層写真法(CT)のような技術が、標的容積を通過するX線の差分透過のような様々な物理的原理を用いて、画像データを取得して断層写真法画像(例えば人体又は他の被撮像構造の内部の三次元表現)を構築する。しかしながら、取得に対する様々な物理的制限又は制約のため、再構成画像にアーティファクト又は他の不完全性が生じ得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
例えば、ワイド・コーン(wide-cone)X線CTシステムでは、一次信号に対して散乱に帰属され得る信号の比が大きい場合がある。かかる散乱は、再構成画像に雑音又はアーティファクトの何れかを出現させ得る。適当な散乱軽減には散乱拒絶及び散乱防止格子の両方が含まれ得る。一次元(1D)格子を用いると散乱を減少させるのに役立つことがあり、この場合には1D格子の高さが散乱減少の程度を決定する。さらに多くの散乱を拒絶するためには、二次元(2D)格子を用いることができるが、複雑さ及び費用を代償とする。しかしながら、散乱防止格子を用いても、散乱の存在によって再構成画像に画像アーティファクトが生じ得る。
【課題を解決するための手段】
【0003】
一実施形態では、散乱を推定する方法が提供される。この方法によれば、初期容積が、線源から検出器までのX線透過に基づいて生成される。初期容積の内部の複数のボクセルが、物質類型に基づいて特徴を決定される。密度積分容積が、物質類型に基づいて特徴を決定された複数のボクセルに基づいて生成される。検出器の複数の離散的な位置について散乱プロファイルを生成するために、検出器で開始して線源へ向けて進むように1又は複数の散乱X線が追尾される。
【0004】
さらにもう一つの実施形態では、画像処理システムが提供される。この画像処理システムは、1又は複数のルーチンを記憶するメモリと、メモリに記憶されている1又は複数のルーチンを実行するように構成されている処理構成要素とを含んでいる。1又は複数のルーチンは、処理構成要素によって実行されると、物質類型に基づいて初期再構成容積の内部の複数のボクセルの特徴を決定し、物質類型に基づいて特徴を決定された複数のボクセルに基づいて密度積分容積を生成し、検出器の複数の離散的な位置について散乱プロファイルを生成するために、1又は複数の散乱X線をそれぞれの受光点からそれぞれの送光点まで反転追尾して、散乱プロファイル又は該散乱プロファイルに少なくとも部分的に基づいて導かれるカーネルを用いて1又は複数の散乱補正画像を形成する。
【0005】
さらにもう一つの実施形態では、1又は複数の非一時的なコンピュータ可読の媒体が提供される。1又は複数の非一時的なコンピュータ可読の媒体は1又は複数のルーチンを符号化しており、1又は複数のルーチンはプロセッサによって実行されると、密度積分容積を生成する動作であって、当該密度積分容積の各々のボクセルがX線の線源からそれぞれのボクセルまでの密度積分を表わしているような密度積分容積を生成する動作と、密度積分容積を通して検出器のそれぞれの位置から線源まで1又は複数の散乱X線を追尾することにより散乱プロファイルを生成する動作と、散乱プロファイル又は該散乱プロファイルに少なくとも部分的に基づいて導かれるカーネルを用いて1又は複数の再構成画像の散乱を補正する動作とを含む動作をプロセッサに行なわせる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
本発明の実施形態のこれらの特徴及び観点、並びに他の特徴及び観点は、添付図面を参照して以下の詳細な説明を読むとさらに十分に理解されよう。図面全体にわたり、類似の参照符号は類似の部材を表わす。
【図1】本開示の各観点による画像を形成するのに用いられるCTイメージング・システムの線図である。
【図2】散乱線のトップ・ダウン型射線追尾を示す図である。
【図3】散乱線のトップ・ダウン型射線追尾のさらに他の観点を示す図である。
【図4】本開示の各観点による散乱線の反転型射線追尾の一具現化形態の各ステップを示す流れ図である
【図5】本開示の各観点による初期再構成容積を示す図である。
【図6】本開示の各観点による密度積分容積を示す図である。
【図7】本開示の各観点による散乱線の反転型射線追尾を示す図である。
【図8】本開示の各観点によるさらに他の散乱線の反転型射線追尾を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
一次元又は二次元の散乱防止格子を用いる例においても、画像処理に基づく計算散乱補正を利用して、散乱による画像アーティファクトをさらに抑えると共に良好な画質を達成することができる。正確な散乱補正アルゴリズムを用いなければ、散乱効果に帰属され得る結果的な画像アーティファクトが有害となり得る。本開示では、物理学的モデルに基づく補正アルゴリズム、及び該アルゴリズムの散乱アーティファクト抑制への利用について記載する。
【0008】
このことを念頭に置いて、患者の周りの多様なビューにおいてX線減弱データを取得するように設計されており断層写真法再構成に適した計算機式断層写真法(CT)イメージング・システム10の一例を図1に掲げる。図1に示す実施形態では、イメージング・システム10は、コリメータ14に隣接して配置されているX線放射線源12を含んでいる。X線源12は、X線管、分散型X線源(固体X線源若しくは熱イオンX線源等)、又は医用画像若しくは他の画像の取得に適した他の任意のX線放射線源であってよい。
【0009】
コリメータ14は、患者18が配置されている領域にX線16を通過させる。図示の例では、X線16は円錐形のビームすなわちコーン・ビームになるようにコリメートされて、このビームが被撮像容積を通過する。X線放射線の一部20が患者18(若しくは他の着目被検体)を又は周囲を通過して、参照番号22に全体的に表わされている検出器アレイに入射する。アレイの検出器素子は、入射X線20の強度を表わす電気信号を発生する。これらの信号を取得し処理して、患者18の体内の特徴の画像を再構成する。
【0010】
線源12はシステム制御器24によって制御され、制御器24はCT検査系列のための電力及び制御信号の両方を供給する。図示の実施形態では、システム制御器24は、当該システム制御器24の一構成要素であり得るX線制御器26を介して線源12を制御する。かかる実施形態では、X線制御器26は、電力及びタイミング信号をX線源12に供給するように構成され得る。
【0011】
また、検出器22もシステム制御器24に結合され、制御器24は検出器22において発生される信号の取得を制御する。図示の実施形態では、システム制御器24は、検出器によって発生される信号をデータ取得システム28を用いて取得する。データ取得システム28は、検出器22の読み出し電子回路によって収集されるデータを受け取る。データ取得システム28は標本採集されたアナログ信号を検出器22から受け取り、このデータをディジタル信号へ変換して、以下で議論されるプロセッサ30による後の処理に供することができる。代替的に他の実施形態では、検出器22自体に設けられている回路によってディジタルからアナログへの変換を行なうことができる。システム制御器24はまた、ダイナミック・レンジの初期調節及びディジタル画像データのインタリーブ処理等のような取得画像信号に関する様々な信号処理作用及びフィルタ処理作用を実行することができる。
【0012】
図1に示す実施形態では、システム制御器24は回転サブシステム32及び線形配置サブシステム34に結合されている。回転サブシステム32は、X線源12、コリメータ14及び検出器22が、患者を中心としたxy平面において主に回転する等のように患者18の周りで1回又は多数回にわたり回転することを可能にする。尚、回転サブシステム32は、それぞれのX線放出構成要素及びX線検出構成要素が配設されているガントリを含み得ることを特記しておく。このように、かかる実施形態では、システム制御器24を用いてガントリを動作させることができる。
【0013】
線形配置サブシステム34は、患者18又はさらに明確に述べると患者を支持したテーブルを、ガントリの回転に対してz方向等にCTシステム10の中孔の内部で変位させることを可能にし得る。このように、テーブルをガントリの内部で線形移動させることができ(連続的態様又は段階的態様で)、患者18の特定の区域の画像を形成することができる。図示の実施形態では、システム制御器24は、モータ制御器36を介して回転サブシステム32及び/又は線形配置サブシステム34の移動を制御する。
【0014】
一般的には、システム制御器24は、検査プロトコルを実行して取得データを処理するようにイメージング・システム10の動作を命令する(上述の線源12、検出器22、及び配置システムの動作等を介して)。例えば、システム制御器24は上述の各システム及び各制御器を介して、X線減弱データを被検体に対して多様なビューにおいて得ることができるように線源12及び検出器22を支持したガントリを着目被検体の周りに回転させることができる。ここでの状況では、システム制御器24はまた、信号処理回路と、コンピュータによって実行されるプログラム及びルーチン(本書に記載される画像処理手法及び/又は散乱補正手法を実行するルーチン等)、並びに構成パラメータ及び画像データ等を記憶する付設されるメモリ回路とを含み得る。
【0015】
図示の実施形態では、システム制御器24によって取得されて処理される画像信号は、画像の再構成のために処理構成要素30に供給される。処理構成要素30は、1又は複数の従来のマイクロプロセッサであってよい。データ取得システム28によって収集されるデータは、直接又はメモリ38での記憶の後に処理構成要素30に伝送され得る。データを記憶するのに適した任意の形式のメモリが、かかる例示的なシステム10によって用いられ得る。例えば、メモリ38は、1又は複数の光学式、磁気式、及び/又は固体メモリ記憶構造を含み得る。また、メモリ38は、取得システムの現場に位置していてもよいし、画像再構成及び/若しくは後述するような散乱補正のためのデータ、処理パラメータ、並びに/又はルーチンを記憶する遠隔記憶装置を含んでいてもよい。
【0016】
処理構成要素30は、典型的にはキーボード及び/又は他の入力装置を装備した操作者ワークステーション40を介して操作者から命令及び走査パラメータを受け取るように構成され得る。操作者が、操作者ワークステーション40を介してシステム10を制御することができる。このように、操作者は、操作者ワークステーション40を用いて再構成画像を観察し、且つ/又は他の場合にはシステム10を動作させることができる。例えば、操作者ワークステーション40に結合されている表示器42を用いて再構成画像を観察したり撮像を制御したりすることができる。加えて、操作者ワークステーション40に結合され得るプリンタ44によって画像を印刷することもできる。
【0017】
さらに、処理構成要素30及び操作者ワークステーション40を、標準型又は特殊目的のコンピュータ・モニタ及び付設の処理回路を含み得る他の出力装置に結合することができる。さらに、システム・パラメータの出力、検査依頼、及び画像観察等を行なうために1又は複数の操作者ワークステーション40がシステムに結合されていてよい。一般的には、システムの内部に提供されている表示器、プリンタ、ワークステーション、及び類似の装置は、データ取得構成要素に対してローカルに位置していてもよいし、これらの構成要素から遠隔に位置していてもよく、インターネット及び仮想私設網等のような1又は複数の構成自在型網を介して画像取得システムに結合されて施設若しくは病院の内部の他の箇所、又は全く異なる位置等に位置していてよい。
【0018】
さらに、操作者ワークステーション40はまた、画像保管及び通信システム(PACS)46に結合され得ることを特記しておく。次いで、異なる位置にいる他者が処理前又は処理済みの画像データに接触し得るように、PACS46を遠隔クライアント48、放射線科情報システム(RIS)、病院情報システム(HIS)、又は構内網若しくは外部網に結合してよい。
【0019】
以上の議論ではイメージング・システム10の様々な例示的な構成要素を別々に扱ったが、これら様々な構成要素が共通の一つのプラットフォームの内部又は相互接続された複数のプラットフォームに設けられていてもよい。例えば、処理構成要素30、メモリ38、及び操作者ワークステーション40が、本開示の各観点に従って動作するように構成されている汎用又は特殊目的のコンピュータ又はワークステーションとしてまとめて設けられていてもよい。かかる実施形態では、汎用又は特殊目的コンピュータはシステム10のデータ取得構成要素に関して別個の構成要素として設けられていてもよいし、かかる構成要素を備えた共通のプラットフォームに設けられていてもよい。同様に、システム制御器24も、かかるコンピュータ又はワークステーションの一部として設けられていてもよいし、画像取得専用の別個のシステムの一部として設けられていてもよい。
【0020】
代表的なCTイメージング・システムについての以上の議論を念頭に置くと、所与のシステムの散乱抑制の必要に依存して、用いられる補正アルゴリズムは様々であってよいことが認められよう。幾つかの具現化形態では、散乱補正は、投影の各々に直接適用されてもよいし、容積を通過する射線を追尾することにより散乱プロファイルを算出する第二段階(second pass)アルゴリズムを用いて適用されてもよい。ここでの議論によれば、散乱補正は、散乱射線追尾によって初期画像容積に基づいて行なわれるが、散乱射線追尾工程時に一つの積分ループが不要になる。積分ループを不要にすると、散乱補正にかかる計算時間を100分の1以下に短縮する等のように計算時間の改善を行なうことができる。
【0021】
測定される投影に基づいて近似的な散乱プロファイルを算出する投影に基づく散乱補正アプローチとは異なり、本実施形態による正確な散乱プロファイルの捕捉は画像容積全体を利用する。これらの実施形態では、各々のビュー角度において、容積内の物質と相互作用したときの線源からのX線を追尾する。この相互作用は、全ての可能な方向に散乱X線を発生する。これらの散乱X線は再び減弱又は散乱の何れかを受けて、なだれ的な散乱事象を生ずる。X線CTでは、1回のみの散乱相互作用を生ずる単一の事象を最も重度の画像アーティファクトの原因と考えることができる。というのは、この形式の事象は散乱プロファイルに一定レベルの高周波内容を含むからである。
【0022】
単一の事象についての従来の追跡アプローチでは、線源からの射線投射を行なう場合がある。射線が容積を透過するときの一次線減弱を追跡することができる。容積の所与の点での相互作用は、固有の差分断面を用いて算出され得る。所与の角度での散乱線を追跡して、この散乱線が容積を出るまでの減弱を算出する。次いで、散乱線の強度を積算する。これらのステップを用いて、容積の所与の相互作用点における1本の一次線であって所与の角度に散乱した線について散乱事象を算出することができる。これらのステップは全ての入射線、全ての相互作用点、及び散乱線が散乱される全ての方向について繰り返され得る。
【0023】
これらの従来のステップが図2に示されており、同図では第一の一次線80が第一の表面点84において容積82(例えば患者18)と相互作用している。第一の相互作用点86において、第一の一次線80は、第一の表面点84と当該第一の相互作用点86とによって画定される線分88に沿って容積82を構成する物質によって減弱する。線分88に沿った減弱追尾が一つの積分過程である。第一の相互作用点86では、第一の一次ビーム80の強度、当該第一の相互作用点86におけるエネルギ・スペクトル、物質の形式及び密度、並びに散乱角90によって、当該第一の相互作用点86から容積出口点94までの線分96に沿った散乱線92強度が決まる。第一の相互作用点86による最終的な散乱ビーム強度は再び線分96に沿って減弱を受け、このことがもう一つの積分過程となる。
【0024】
図3に移り、従来の処理によれば、第二の一次線102に関連して第二の相互作用点100を考えると、線分104に沿った減弱積分についても同じ積分過程が繰り返される。認められるように、線分104に沿った積分の一部である線分96に沿った減弱は、第一の一次線80散乱事象に関して既に算出されている。この従来のアプローチにおける積分の冗長性は、トップ・ダウン型(線源12から散乱点又は相互作用点への)射線追尾工程に本質的なものであって、散乱捕捉の計算時間を増大させている。線分96に沿った冗長的な積分値を後の利用のためにコンピュータ・メモリにバッファすることもできるが、トップ・ダウン型追尾方策は、バッファされた線分96の積分データを利用するために線分96の延長に第二の相互作用点100をマッチングさせるのに計算資源を用いるため、メモリ・バッファ及び線マッチングを複雑化する。
【0025】
本発明のアプローチでは、上述の積分の冗長性を回避するために反転型射線追尾を用いる。かかる反転型射線追尾アプローチでは、射線追尾は検出器22から開始する。反転型射線追尾アルゴリズムの一具現化形態によれば、図4の流れ図120に示すように以下のステップを用いることができる。図4に移ると、初期容積122が、着目する患者又は対象の走査等に基づいて再構成される。図示の具現化形態では、初期容積122の内部の様々な物質類型の特徴を決定する(ブロック124)。
【0026】
例えば、医療撮像の状況では、人体の内部に存在する又は存在し得る幾つかの別個の形式の物質がある(例えば軟組織、骨、空気、造影剤、及び金属埋植片等)。これらの物質はしばしば比較的大容積として現われるため全体的な散乱プロファイルを支配するが、カルシウムのような他の少量物質は最終的な散乱プロファイルにあまり大きい影響を与えない。従って、医療撮像の状況では、所与の物質に対応する初期容積のボクセルに標識(タグ)を付け(すなわち標識付きボクセル128)、又は他の場合には物質類型又は物質組成に基づいて所与のボクセルの特徴を表わす情報を関連付けることができる。
【0027】
物質特徴決定124は、セグメント分割アルゴリズムの出力に基づくものであってもよいし、観察された強度又は強度差を特定の物質に関連付ける閾値と比較した場合の観察された強度値又は強度差(例えば観察されたハンスフィールド単位(HU)の値の差)に基づくものであってもよい。特徴決定の後に、コンプトン散乱及びコヒーレント散乱の両方からの寄与を含めて、識別された物質類型について固有の差分断面によって前述のように当該ボクセルに標識を付ける。
【0028】
初期画像容積122に基づいて、新たな画像容積(すなわち密度積分容積136)が生成される(ブロック132)。密度積分容積136は、一次線方向に沿った密度積分である。密度積分容積136においては、各々のボクセルが、線源12から下降して各々のそれぞれのボクセルに到るまでの密度積分を表わし、後の利用のために一次ビーム減弱マップを生成する。例として図5及び図6を参照すると、図5は初期容積122を示しており、ucalは位置(x,y,z)170におけるスペクトル較正後の見かけの減弱係数であり、d(x,y,z)は位置(x,y,z)170における密度である。実際には、ucal及びdの積は、投影データをスペクトル較正によって補正してHU値を水に正規化した画像再構成工程によって生成される。すなわち、初期容積122を生成するのに用いられる画像再構成工程は典型的には、位置170に関連付けられるボクセル等のような各々のボクセルにおいて、それぞれのボクセル位置における減弱係数ucalと密度dとの積である値を割り当てる。
【0029】
しかしながら、図6に移ると、密度積分容積136のボクセル値は代わって、ボクセル位置170と物質表面入口点172との間の距離のように射線が物質を通過したときの距離に対応する密度積分値に基づくものとなる(例えば図示の例では位置172から位置170までのΣucald(x,y,z))。
【0030】
さらに、位置170から上流への密度積分値に基づいて、位置170でのビーム・エネルギ・スペクトルSA(E)も、入射ビーム・スペクトルS0(E)と、位置170から位置172までの密度積分値とを反映させることにより決定され、このことは
(1)SA(E)=S0(E)exp(−u(E)*d(x,y,z))
と表わされる。式中、u(E)は所与の物質の質量減弱係数である。
【0031】
従来のアプローチ(すなわち散乱事象のトップ・ダウン型追尾)とは反対に、本発明の幾つかの実施形態はボトム・アップ型追尾方式を用いて散乱線についての反転型射線積分追尾(すなわちブロック140)を提供し、これにより散乱プロファイル144を生成する。かかるアプローチの一例を図7に示しており、同図では単一の射線の反転型射線追尾を示している。
【0032】
散乱検出の受光点180から開始して、容積出口点94から第一の相互作用点86までの密度積分(すなわち線分96についての密度積分)を算出すると、第一の相互作用点86での散乱強度V(A)は、
(2)V(A)
=exp(−Σover#CAd(x,y,z)ueff)*density(A)*
K(θ1,S(E))*exp(−Σover#BAd(x,y,z)ueff
=exp{(−Σover#CA#BAd(x,y,z)ueff)}*density(A)*
K(θ1,S(E))
と表わされ得る。式中、第一の容積出口点94を点C、第一の相互作用点86を点A、第一の表面点84を点Bと表わし、density(A)は点A(すなわち第一の相互作用点86)での密度であり、K(θ1,S(E))は、角度θ1及び実効ビーム・エネルギS(E)によって決まる散乱差分断面である。医用X線CTのエネルギ範囲では、コヒーレント散乱のエネルギ依存性が強いため差分断面はS(E)に敏感である。実効減弱係数u(E)は、
(3)ueff=f(S0(E)),Σover#CA#BAd(x,y,z)ucal
によって決まり、式中、関数f()は既知のX線減弱物理特性に基づいて導かれる。
【0033】
第一の相互作用点86による所与の受光点180までの散乱強度を得た後に、追尾を第二の相互作用点100まで続ける。このステップでは、第一の相互作用点86から第二の相互作用点100までの積分のみが必要とされ、この積分は、第一の容積出口点94から第一の相互作用点86までの既存の積分に積算されて、線分104に沿って散乱した信号の減弱を得て、第一の容積出口点94と第一の相互作用点86との間の積分を2回目に計算する冗長性を解消する。かかる工程は、投射された射線が画像容積すなわち密度積分容積136の外部に延びるまで続行される。
【0034】
1本の射線に沿った散乱強度の追尾を完了したら、図8に示すように他の射線についても同じように追尾を行なうことができる。図示の例では、新たな追尾線200は同じ受光点180から発し、密度積分容積136にわたって一様に分散して、所与の受光点180において散乱強度を完成する。様々な受光点についてこの工程を繰り返すことにより、散乱プロファイル144をそれぞれの検出器位置について生成することができる。一具現化形態では、散乱プロファイル144の帯域幅は限定されているため、受光面の様々な位置において離散的な受光点を一様に配列して、後に散乱補正のために検出器ピクセルと整列するように補間することができる。
【0035】
図4に戻り、図示の例では、散乱拒絶カーネル156を算出する付加的なステップ(ブロック152)が示されている。具体的には、1D方向又は2D方向の何れかに構成された散乱防止格子を有するシステムでは、散乱拒絶カーネル156が、散乱防止格子幾何学的構成148に入射する散乱X線(散乱プロファイル144から決定される)の関数として算出され得る(ブロック152)。この散乱拒絶カーネル156は、散乱プロファイル144の計算に適用されて、検出システムによって受光される散乱プロファイルを更新し又は生成することができ、この散乱プロファイルを測定される投影から減算して散乱補正することができる。
【0036】
本発明の技術的効果としては、初期容積及び該初期容積の物質類型の特徴決定に基づいて密度積分容積が生成されることが含まれる。さらに他の技術的効果としては、検出器の位置からX線源への散乱X線の追跡すなわち反転型追尾によるCTシステムのようなX線システムのための散乱プロファイルが生成されることが含まれる。さらに他の技術的効果としては、散乱プロファイル及び散乱格子幾何学的構成に基づいて散乱拒絶カーネルが生成されることが含まれる。
【0037】
この書面の記載は、最適な態様を含めて発明を開示し、また任意の装置又はシステムを製造して利用すること及び任意の組み込まれた方法を実行することを含めてあらゆる当業者が本発明を実施することを可能にするように実例を用いている。特許付与可能な発明の範囲は特許請求の範囲によって画定されており、当業者に想到される他の実例を含み得る。かかる他の実例は、特許請求の範囲の書字言語に相違しない構造要素を有する場合、又は特許請求の範囲の書字言語と非実質的な相違を有する等価な構造要素を含む場合には、特許請求の範囲内にあるものとする。
【符号の説明】
【0038】
10:計算機式断層写真法(CT)イメージング・システム
12:X線放射線源
14:コリメータ
16:X線
18:患者
20:X線放射線の一部
22:検出器
24:システム制御器
26:X線制御器
28:データ取得システム
30:処理構成要素
32:回転サブシステム
34:線形配置サブシステム
36:モータ制御器
38:メモリ
40:操作者ワークステーション
42:表示器
44:プリンタ
46:PACS
48:遠隔クライアント
80:第一の一次線
82:容積
84:第一の表面点
86:第一の相互作用点
88:線分
90:散乱角
92:散乱線
94:容積出口点
96:線分
100:第二の相互作用点
102:第二の一次線
104:線分
120:反転型射線追尾アルゴリズム
170:位置(x,y,z)
172:物質表面入口点
180:散乱検出の受光点
200:新たな追尾線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
散乱を推定する方法であって、
線源から検出器までのX線透過に基づいて初期容積を生成するステップと、
物質類型に基づいて前記初期容積の内部の複数のボクセルの特徴を決定するステップと、
前記複数のボクセルに基づいて密度積分容積を生成するステップと、
前記検出器の複数の離散的な位置について散乱プロファイルを生成するために、前記検出器で開始して前記線源へ向けて進むように1又は複数の散乱X線を追尾するステップと
を備えた方法。
【請求項2】
前記散乱プロファイル又は該散乱プロファイルに少なくとも部分的に基づくカーネルを用いて1又は複数の再構成画像での散乱を補正すること
を含んでいる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数のボクセルは、軟組織、骨、空気、及び造影剤を含む物質類型に基づいて特徴を決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記複数のボクセルの特徴を決定するステップは、セグメント分割アルゴリズムを適用することを含んでおり、該セグメント分割アルゴリズムの出力は前記異なるそれぞれの物質類型に対応する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記複数のボクセルの特徴を決定するステップは、前記異なるそれぞれの物質類型に対応するそれぞれの閾値に対して観察された強度値又は強度差を比較することを含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記密度積分容積の各々のボクセルが、前記線源から当該それぞれのボクセルまでの密度積分を表わす、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも前記散乱プロファイル及び前記検出器に関連する散乱格子幾何学的構成に基づく散乱拒絶カーネルを生成すること
を含んでいる請求項1に記載の方法。
【請求項8】
改訂した散乱プロファイルを生成するために、前記散乱拒絶カーネルに基づいて前記散乱プロファイルを更新すること
を含んでいる請求項7に記載の方法。
【請求項9】
1又は複数のルーチンを記憶するメモリと、
該メモリに記憶された前記1又は複数のルーチンを実行するように構成されている処理構成要素と
を備えた画像処理システムであって、前記1又は複数のルーチンは、前記処理構成要素により実行されると、
物質類型に基づいて初期再構成容積の内部の複数のボクセルの特徴を決定し、
前記複数のボクセルに基づいて密度積分容積を生成し、
前記検出器の複数の離散的な位置について散乱プロファイルを生成するために、1又は複数の散乱X線をそれぞれの受光点からそれぞれの送光点まで反転追尾して、
前記散乱プロファイル又は該散乱プロファイルに少なくとも部分的に基づくカーネルを用いて1又は複数の散乱補正画像を形成する、画像処理システム。
【請求項10】
前記1又は複数のルーチンは、前記処理構成要素により実行されると、
前記それぞれの送光点を含む線源から前記それぞれの受光点を含む検出器へのX線透過に基づいて前記初期再構成容積を生成する、請求項9に記載の画像処理システム。
【請求項11】
前記複数のボクセルは、医用画像において観察される複数の物質に対応する物質類型に基づいて特徴を決定される、請求項9に記載の画像処理システム。
【請求項12】
前記複数のボクセルの特徴を決定することは、セグメント分割アルゴリズムを適用することを含んでおり、該セグメント分割アルゴリズムの出力は前記異なるそれぞれの物質類型に対応する、請求項9に記載の画像処理システム。
【請求項13】
前記複数のボクセルの特徴を決定することは、前記異なるそれぞれの物質類型に対応するそれぞれの閾値に対して観察された強度値又は強度差を比較することを含んでいる、請求項9に記載の画像処理システム。
【請求項14】
前記密度積分容積の各々のボクセルが、前記それぞれの送光点から前記それぞれのボクセルまでの密度積分を表わす、請求項9に記載の画像処理システム。
【請求項15】
前記1又は複数のルーチンは、前記処理構成要素により実行されると、
少なくとも前記散乱プロファイル及び散乱格子幾何学的構成に基づく散乱拒絶カーネルを生成する、請求項9に記載の画像処理システム。
【請求項16】
1又は複数のルーチンを符号化した1又は複数の非一時的なコンピュータ可読の媒体であって、前記1又は複数のルーチンはプロセッサにより実行されると、
密度積分容積を生成する動作であって、当該密度積分容積の各々のボクセルがX線の線源からそれぞれの当該ボクセルまでの密度積分を表わしているような密度積分容積を生成する動作と、
前記密度積分容積を通して検出器のそれぞれの位置から前記線源まで1又は複数の散乱X線を追尾することにより散乱プロファイルを生成する動作と、
前記散乱プロファイル又は該散乱プロファイルに少なくとも部分的に基づくカーネルを用いて1又は複数の再構成画像の散乱を補正する動作と
を含む動作を当該プロセッサに行なわせる、1又は複数の非一時的なコンピュータ可読の媒体。
【請求項17】
前記密度積分容積は、物質類型に基づいて特徴を決定された初期容積を用いて生成される、請求項16に記載の1又は複数の非一時的なコンピュータ可読の媒体。
【請求項18】
前記初期容積は、セグメント分割工程を用いた物質類型に基づいて又は強度値若しくは強度差に基づく閾値処理に基づいて特徴を決定される、請求項17に記載の1又は複数の非一時的なコンピュータ可読の媒体。
【請求項19】
プロセッサにより実行されると、
少なくとも前記散乱プロファイル及び前記検出器に関連する散乱格子幾何学的構成に基づく散乱拒絶カーネルを生成する動作
を当該プロセッサに行なわせるルーチンをさらに符号化した請求項16に記載の1又は複数の非一時的なコンピュータ可読の媒体。
【請求項20】
プロセッサにより実行されると、
前記線源から前記検出器へのX線透過に基づいて初期容積を生成する動作
を当該プロセッサに行なわせるルーチンをさらに符号化した請求項16に記載の1又は複数の非一時的なコンピュータ可読の媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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