X線撮像装置
【課題】従来よりも装置の構成が簡単で、回折格子と遮蔽格子の回転操作なしでも交差する2方向の微分位相像を得ることができるX線撮像装置を提供する。
【解決手段】
X線撮像装置は、X線源からのX線を回折することで明部と暗部とが2次元に配列した干渉パターンを形成する回折格子と、X線を遮蔽する遮蔽部とX線を透過する透過部とが2次元に配列しており、干渉パターンの前記明部の一部を遮る遮蔽格子と、干渉パターンと遮蔽格子の相対位置を変化させる移動部と、遮蔽格子を経たX線の強度分布を検出する検出器と、検出器による検出結果に基づいて被検体の微分位相像又は位相像を算出する演算部を備える。演算部は、検出器の複数回の検出結果に基づいて、交差する2方向の各々における微分位相像または位相像を算出する。
【解決手段】
X線撮像装置は、X線源からのX線を回折することで明部と暗部とが2次元に配列した干渉パターンを形成する回折格子と、X線を遮蔽する遮蔽部とX線を透過する透過部とが2次元に配列しており、干渉パターンの前記明部の一部を遮る遮蔽格子と、干渉パターンと遮蔽格子の相対位置を変化させる移動部と、遮蔽格子を経たX線の強度分布を検出する検出器と、検出器による検出結果に基づいて被検体の微分位相像又は位相像を算出する演算部を備える。演算部は、検出器の複数回の検出結果に基づいて、交差する2方向の各々における微分位相像または位相像を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体のX線位相像を計測するX線撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線が被検体を透過すると、被検体の構成元素や密度差により位相の変化が生じる。このX線の位相変化を用いた位相コントラスト法の研究が、1990年代より行なわれている。
位相コントラスト法の一つに、特許文献1に記載されている方法がある。この方法は位相
シフト法と呼ばれる方式の1種である。
位相シフト法の特徴は、被検体の透過率分布や照射されるX線の強度の空間的不均一性に影響されないこと、さらに空間的分解能が高く原理的にX線を撮像する撮像素子と同じ分解能を有していることである。
【0003】
特許文献1では、つぎのようなX線撮像装置が提案されている。
この装置では、被検体を透過したX線を回折格子に照射し、回折格子から特定の距離(タルボ距離)だけ離れた位置に自己像と呼ばれる周期的な干渉パターンを生じさせる。この干渉パターンが生じる位置に干渉パターンの周期と同じ周期を持つ遮蔽格子を設置することによってモアレを発生させ、そのモアレをX線検出器で検出する。
そして、回折格子または遮蔽格子を一定間隔で移動させて検出した3枚以上のモアレの画像に基づいて被検体を透過したX線の位相情報を取得し、被検体の位相像を得るように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許7180979号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、被検体の位相像を復元するには、交差する2方向の微分位相像を得ることが必要となる。
上記特許文献1の方法で交差する2方向の微分位相像を得るためには、上述のようにモアレを撮像した後、回折格子と遮蔽格子を格子面内で回転させ、再度同様にモアレの撮像を実施する必要がある。
しかしながら、このように回折格子と遮蔽格子を回転させると、撮像装置の構成が複雑になる。更に、モアレの撮像に加え、回折格子と遮蔽格子を回転させる操作が必要なため、操作が煩雑になる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、従来よりも装置の構成が簡単で、回折格子と遮蔽格子の回転操作なしでも交差する2方向の微分位相像を得ることができるX線撮像装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
X線源からのX線を回折することで明部と暗部とが2次元に配列した干渉パターンを形成する回折格子と、
前記X線を遮蔽する遮蔽部と前記X線を透過する透過部とが2次元に配列しており、前記干渉パターンの前記明部の一部を遮る遮蔽格子と、
前記干渉パターンと前記遮蔽格子の相対位置を変化させる移動部と、
前記遮蔽格子を経た前記X線の強度分布を検出する検出器と、
前記検出器による検出結果に基づいて被検体の微分位相像又は位相像を算出する演算部を備え、
前記演算部は、前記検出器の複数回の検出結果に基づいて、交差する2方向の各々における微分位相像または位相像を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来よりも装置の構成が簡単で、回折格子と遮蔽格子の回転操作なしでも交差する2方向の微分位相像を得ることができるX線撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態1に係るX線撮像装置の構成例を説明する図である。
【図2】実施例1におけるX線撮像装置の回折格子を説明する図である。
【図3】実施例1における干渉パターンを説明する図である。
【図4】実施例1における遮蔽格子を説明する図である。
【図5】実施例1における干渉パターンと遮蔽格子が重なる様子を説明する図である。
【図6】実施例1における干渉パターンの移動量と遮蔽格子の透過部を透過するX線量の関係を説明する図である。
【図7】実施例1における測定ステップを説明する図である。
【図8】(a)は本発明の実施例2におけるX線撮像装置の回折格子を説明する図である。(b)は実施例2における干渉パターンを説明する図である。(c)は実施例2における遮蔽格子を説明する図である。
【図9】本発明の実施例2における干渉パターンと遮蔽格子の重なり具合を説明する図である。
【図10】実施例2における干渉パターンの移動量と遮蔽格子の透過部を透過するX線量の関係を説明する図である。
【図11】(a)は本発明の実施例3におけるX線撮像装置の回折格子を説明する図である。(b)は実施例3における干渉パターンを説明する図である。(c)は実施例3における遮蔽格子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について図1を用いて説明する。
図1の撮像装置はX線を出射するX線源1と、X線源1からのX線源からのX線を回折することで明部と暗部が2次元に配列した干渉パターンを形成する回折格子4と、回折格子4の位置を格子面内で変化させる回折格子移動部5と、X線を透過する透過部とX線を遮る遮蔽部が2次元に配列している遮蔽格子6と、遮蔽格子6の位置を格子面内で変化させる遮蔽格子移動部7と、遮蔽格子6を経たX線の強度分布を取得するX線検出器8と、X線検出器8で取得したX線の強度分布の検出結果から被検体の微分位相像または位相像を算出する演算部9を備える。
なお、回折格子移動部5と遮蔽格子移動部7は、干渉パターンと遮蔽格子6の相対位置を移動させるための移動部であり、両方を備える必要はない。また、移動部は回折格子移動部5と遮蔽格子移動部7に限定されるものではない。例えばX線源を移動させることによって干渉パターンと遮蔽格子6の相対位置を移動させるX線源移動部を移動部として備えていても良い。X線源を移動させて縞走査を行う方法は国際特許出願公開WO2006/131235号公報に記載されているので詳細は述べないが、干渉パターンを移動させたい方向の逆方向にX線源を移動させればよい。回折格子上の干渉パターンの移動距離はX線源の移動距離に、回折格子と遮蔽格子の距離をX線源と回折格子の距離で割った値をかけた値になる。
【0011】
以下、上記構成について詳細に説明する。
回折格子4は、位相進行部と位相遅延部が2次元周期的に配列した位相型回折格子や遮蔽部と透過部が2次元周期的に配列した振幅型回折格子を用いることができる。本実施形態の位相型回折格子は、位相進行部を透過したX線と位相遅延部を透過したX線の位相が一定量シフトするようにX線透過部材の厚みが周期的に変化した構造を有する。
X線源1からのX線2が回折格子4に入射すると、次に示す式(1)のZ1で表される所定の距離(タルボ距離)だけ回折格子から離れた位置に、明部と暗部が2次元に配列した干渉パターンが形成される。
【0012】
但し、式(1)においてZ0はX線源1と回折格子4の距離、λはX線2の波長、dは回折格子4の格子周期である。
また、Nは位相のシフト量がπ/2で、位相進行部と位相遅延部が市松格子状に配列した位相型回折格子の場合はn−1/2、位相のシフト量がπで、位相進行部と位相遅延部が市松格子状に配列した位相型回折格子の場合はn/2−1/4、遮蔽部と透過部が市松格子状に配列した振幅型回折格子の場合はnと表される実数である。但し、nは自然数である。
遮蔽格子6はX線を遮る遮蔽部とX線を透過する透過部が2次元に配列している。この遮蔽格子6は干渉パターンが形成される位置に配置され、遮蔽部によって干渉パターンの明部の一部を遮る。本実施形態の遮蔽格子6の周期は被検体3が存在しない状態で干渉パターンの周期に一致し、その周期方向も干渉パターンの周期方向と一致する。
【0013】
回折格子移動部5は駆動部を有し、回折格子4の周期方向に回折格子4を移動させる。回折格子移動部5によって回折格子4を移動させると干渉パターンも移動する。干渉パターンが移動すると干渉パターンと遮蔽格子6の相対位置が変化し、遮蔽格子6の各透過部を透過するX線の量が周期的に変化する。
同様に、遮蔽格子移動部7は駆動部を有し、遮蔽格子6の周期方向に遮蔽格子6を移動させる。遮蔽格子6が移動すると干渉パターンと遮蔽格子6の相対位置が変化し、遮蔽格子6の各透過部を透過するX線の量が周期的に変化する。
検出器8は回折格子移動部5または遮蔽格子移動部7による干渉パターンと遮蔽格子6の相対位置の変化に対応して遮蔽格子を経たX線の強度分布を複数回検出する。
また、演算部9は検出器8による複数回の検出結果に基づいて交差する2方向の各々の微分位相像を算出し、それを積分することにより位相像を算出する。
演算部9による被検体の位相像の算出方法について説明をする。
【0014】
図1では被検体3をX線源1と回折格子4の間に配置したが、回折格子4と遮蔽格子6の間に配置しても良い。
X線源1と回折格子4の間又は回折格子4と遮蔽格子6の間に被検体3が存在すると、被検体の屈折率分布に応じて、干渉パターンの明部と暗部が形成される位置が変化する。この理由について簡単に説明をする。
被検体3を透過したX線の位相が被検体3の屈折率分布に応じて変化すると、X線の位相の空間的変化率である微分位相も変化する。
X線の進行方向は微分位相に比例して変化するので、遮蔽格子6上での干渉パターンの明部と暗部の位置も微分位相の分布に比例して変化する。
被検体3を透過したX線のx方向の微分位相φxとすると、X線の進行方向の変化はλφx/(2π)であるから、干渉パターンのx方向の位置変化をΔxとすれば、Δx=λφxZ1/(2π)である。
したがって、干渉パターンのx方向の位置変化Δxを計測すれば、次に示す式(2)の関係から被検体を透過したX線のx方向の微分位相を求めることができる。φxのことをx方向の被検体の微分位相像と呼ぶ。
【0015】
以下にΔxの求め方を説明する。遮蔽格子6に対する干渉パターンの相対位置が1方向に等間隔で変化するように、回折格子移動部5により回折格子4、あるいは遮蔽格子移動部7により遮蔽格子6、をそれぞれの格子面内で1方向に移動させる。
その際に、遮蔽格子6と干渉パターンの相対位置の変化に対応し、最低3箇所の相対位置で遮蔽格子6を経たX線の強度分布をX線検出器8により検出する。
次に、これら複数回の検出結果に基づいて、演算部9で位相シフト法アルゴリズムによる演算処理をすると、干渉パターンのx方向の位置変化Δxが算出できる。この、干渉パターンと遮蔽格子の相対位置の変化とそれに対応した検出、その検出結果に基づいた演算処理をx方向と交差する方向で行えば、交差する2方向の各々における微分位相像を得ることができる。この交差する2方向は直交していなくても被検体の2次元の微分位相像または位相像を得ることができるが、直交していない2方向で検出を行うと一般的に2次元の微分位相像または位相像を得るための演算処理が複雑になる。本実施形態では、直交する2方向において上記の回折格子4又は遮蔽格子6を移動させて干渉パターンと遮蔽格子6の相対位置を移動させ、この相対位置の移動に対応して検出器8でX線の強度分布を検出し、演算部9によって直交する2方向の微分位相像を夫々算出する。
【0016】
上述のように、遮蔽格子6の周期は被検体3がX線源1と回折格子4の間又は回折格子4と遮蔽格子6の間に存在しない状態での遮蔽格子上での干渉パターンの周期に一致し、またその周期方向は干渉パターンの周期方向と一致する。
したがって、被検体3が存在しなければ、遮蔽格子6の各透過部と干渉パターンの明部の相対位置x0は干渉パターンの全面で等しい。
【0017】
式(2)よりΔxが全面で一定値変化してもX線の微分位相の形状は不変なので、位相像を取得するには被検体3が存在しない状態での計測は必ずしも必要ではない。
但し、回折格子4と遮蔽格子6の形状誤差および配置誤差などの影響を除去するためには、予め被検体3がない状態で計測しておくことは有効である。即ち、被検体3がある状態で計測したX線の微分位相から被検体3がない状態で計測したX線の微分位相を差し引いたものを被検体3によるX線の微分位相変化とすれば、遮蔽格子6と干渉パターンの周期と周期方向は、厳密に一致していなくてもよい。
さらに、回折格子4と遮蔽格子6のパターン形状に誤差があってもその影響を除去することができる。
【0018】
なお、位相シフト法とそのアルゴリズムの詳細説明は干渉計に関する多くの書籍、例えばDaniel Malacara著の¨Optical Shop Testing¨第2版の第14章(501ページ)に記載されているのでここでは省略する。
被検体の位相像を得るためには、被検体の微分位相像を微分方向に積分すればよい。
【0019】
以上述べたとおり、本実施形態によれば、回折格子を交換したり、取り付け方向を変えたりすることなく、位相シフト法を用いて交差する2方向の微分位相像を得ることができる。
また、1つの検出結果を共有して2方向の微分位相を算出できるので、X線強度分布の検出回数を1回減らすことができる。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
図1−図7を用いて、本発明の実施例1について説明する。
実施例1のX線撮像装置は実施形態と同様に図1に示した構成であり、X線源から放射されたX線は被検体、回折格子、遮蔽格子を通過してX線検出器に達する。
また、干渉パターンと遮蔽格子の相対位置は、回折格子を移動させる回折格子移動部によって変化させ、遮蔽格子は固定した。
【0021】
図2は、本実施例における回折格子4の一部分をX線源側から見た図である。本実施例では回折格子として、位相進行部41と位相遅延部42が市松格子状に配列したシリコン製の位相型回折格子を用いた。位相進行部41と位相遅延部42は、位相進行部41を透過したX線と位相遅延部42を透過したX線の位相差がπ/2になるようにシリコンの厚みに差が付いており、周期dで配列している。
遮蔽格子上に干渉パターンが形成されるように、回折格子と遮蔽格子の間隔Z0が式(1)を満足するように遮蔽格子を配置した。但し、N=1/2である。
図3は本実施例の回折格子を用いた場合に遮蔽格子上に形成される干渉パターンを示しており、その周期d1は、次に示す式(3)で表される。
【0022】
ここで、前述したようにZ1はX線源と回折格子の間隔である。
図4は、本実施例における遮蔽格子の一部分をX線源側から見た図である。遮蔽格子はX線の透過率が小さい金で作製されており、X線を透過する透過部61が干渉パターンと同じ周期d1で井桁格子状に配列している。透過部61は1辺がd1/2の正方形である。
図5(a)、図5(b)は、遮蔽格子と干渉パターンを示しており、干渉パターンの明部51のうち遮蔽格子の透過部61に重なった部分だけが遮蔽格子を経てX線検出器に達する。
X線検出器は受光面にX線蛍光材を有するCCD(Charge Coupled Device)撮像器で構成されている。本実施例ではX線検出器の画素サイズは、遮蔽格子の周期d1に等しくしてあるがd1の整数倍であれば良い。
回折格子を回折格子移動部により面内移動させると干渉パターンの明部51も移動する。図5(b)は、図5(a)の時より回折格子を1/3周期すなわちd1/3だけx方向に移動した時の干渉パターンの明部51と遮蔽格子の透過部61の重なり具合を例示している。
この例では、図5(a)の時と比べると図5(b)の時には干渉パターンの明部51と遮蔽格子の透過部61の重なる面積が少ないので、X線検出器に達するX線量も減少する。
【0023】
図6は、干渉パターンの移動量と遮蔽格子を透過するX線量の関係を示している。
実線は遮蔽格子に照射されるX線量に対する遮蔽格子を透過するX線量の比であり、横軸は干渉パターンの周期を単位とした干渉パターンの移動量である。点線は比較のために表示した振幅、周期、位相を実線と一致させた理想的な正弦波である。
回折格子の移動量に対する透過部61を通過するX線量の変化は、略正弦波と一致していることから、位相シフト法のアルゴリズムにおいて小さなステップ数(検出回数)を採用しても大きな精度劣化にはならない。
本実施例では計測時間および被検体のX線被曝量を考慮してステップ数を最小の3ステップとし、それに対応したアルゴリズム(3ステップアルゴリズム)を採用している。
【0024】
図7は、本実施例における被検体の測定ステップを示している。
ステップ110で、遮蔽格子は回折格子との距離Z1が、式(1)を満足するように配置されるので、遮蔽格子6上には明瞭な干渉パターンの強度分布が生じている。
ステップ120で、検出器により強度分布を取得しこれをI0とする。
ここで説明を容易にするため、回折格子4の位置としてP0からP4を以下のように定義する。
即ち、ステップ120の回折格子の位置をP0、P0からx方向に回折格子の周期の1/3周期だけ移動した位置をP1、P0から−x方向に1/3周期だけ移動した位置をP2、とする。
また、P0からy方向に1/3周期だけ移動した位置をP3、P0から−y方向に1/3周期だけ移動した位置をP4とする。なお、x方向およびy方向とは図2に示されている矢印の方向であり、−x方向及び−y方向とは図2に示されている矢印の逆方向である。
【0025】
ステップ130で、回折格子移動部により回折格子をP1に移動する。ステップ140で、検出器により強度分布を検出しこれをI1とする。
以下、ステップ210まで回折格子4をP2、P3、P4への移動と検出を繰り返し、得られた検出結果を順にI2、I3、I4とする。
ステップ220で、位相シフト法の3ステップアルゴリズムに基づく次に示す式(4)、式(5)よりI0、I1、I2、からx方向の微分位相の位相φxを、同様にI0、I3、I4からy方向の微分位相の位相φyを画素ごとに算出する。
【0026】
式(4)、式(5)で算出したφxおよびφyは2πの範囲に位相が畳み込まれた位相(wrapped位相)になっているので、位相接続(unwrap)して各々の方向の微分位相Wx、Wyを得ている。
さらに必要に応じて、ステップ230で得られた直交する2方向の微分位相を積分して得
られた2つの位相分布を合成することで、被検体を透過したX線の位相分布、即ち被検体の位相像を得ることができる。
【0027】
以上の説明では、回折格子を最初の撮影時の位置を中心にxおよびyの正負の方向に3
分の1周期移動したが、移動量はこれに限らない。但し、正確な被検体の微分位相像又は位相像を取得するためには、各移動量は等しいことが好ましい。式(4)、式(5)に換えて移動量に準拠した計算式を採用することでφx、φyの算出が可能である。
さらに、回折格子の移動の仕方に関しても、格子位置がx、y両方向で直線的に3点以上並べばよいので、例えば最初の位置P0からx方向に2回移動し、その後y方向に2回移動してもよい。
【0028】
[実施例2]
図8−図10を用いて、本発明を実施したX線撮像装置の実施例2について説明する。本実施例は実施例1と回折格子と遮蔽格子が異なり、その他の構成については実施例1と同様である。
図8(a)は、本実施例における回折格子4の一部分をX線源側から見た図である。
本実施例の回折格子は、位相進行部43と位相遅延部44が周期d2で市松格子状に配列したシリコン製の位相変調格子を用いた。位相進行部43を透過したX線と位相遅延部44を透過したX線の位相差はπになるようにシリコンの厚みに差を付けている。
遮蔽格子上に回折格子の干渉パターンが形成されるように、回折格子と遮蔽格子の間隔Z0が式(1)を満足するように遮蔽格子を配置した。但し、N=1/4とした。
図8(b)は本実施例の回折格子を用いた場合に遮蔽格子上に形成される干渉パターンを示しており、その周期d3は、次に示す式(6)で表される。
【0029】
ここで、前述したようにZ0はX線源と回折格子の間隔である。
図8(c)は、本実施例における遮蔽格子の一部分をX線源側から見た図である。遮蔽格子は、実施例1と同様に金で作製されており、透過部62が干渉パターンと同じ周期d3で市松格子状に配列している。透過部62は1辺がd2/√2の正方形である。
図9(a)、(b)は遮蔽格子上の干渉パターンを示しており、干渉パターンの明部52のうち透過部62に重なった部分だけが遮蔽格子を経てX線検出器に達する。
X線検出器の画素サイズは、実施例1と同様に遮蔽格子の周期d3に等しくしてあるがd3の整数倍ならそれに限らない。
本実施例では回折格子を面内で移動させることにより干渉パターンと遮蔽格子の相対位置を移動させる。図9(b)は、図9(a)の時から干渉パターンと遮蔽格子の相対位置を干渉パターンの1/3周期のx方向に移動させたときの干渉パターン52と遮蔽格子62の重なり具合を例示している。
回折格子の移動に伴って、透過部62と重なっている干渉パターンの明部52の面積が変化する。この例では、図9(a)の時と比べると図9(b)の時には透過部62と重なっている明部52の面積が小さくなるので、X線検出器に達するX線量も減少する。
【0030】
図10は実施例1の図6と同様に、干渉パターンの移動量と透過部62を通過するX線量の関係を示している。
実線は遮蔽格子に照射されるX線量に対するこれを透過するX線量の比であり、横軸は干渉パターン周期を単位とした干渉パターンの移動量である。点線は比較のために表示した振幅、周期、位相を実線と一致させた理想的な正弦波である。本実施例でも実施例1と同様に回折格子の移動量に対する透過部61を通過するX線量の変化が、略正弦波と一致していることから、位相シフト法のアルゴリズムにおいて小さなステップ数を採用しても大きな精度劣化にはならない。本実施例でもステップ数を3にした。
図10と図6を比較して分かるように、本実施例は実施例1に比べて遮蔽格子6を通過するX線量が2倍になっている。そのため、本実施例の方がX線の利用効率が高い。
本実施例における測定ステップは、実施例1で図7を用いて説明したものと同様なので省略する。
【0031】
[実施例3]
図11(a)−図11(c)を用いて、本発明を実施したX線撮像装置の実施例3について説明する。
本実施例は回折格子に振幅型回折格子を用いたX線撮像装置であり、回折格子と遮蔽格子以外の構成は実施例1と同様である。
図11(a)は、本実施例における回折格子の一部分をX線源側から見た図である。
本実施例に用いられる回折格子はX線を透過する透過部45とX線を遮る遮蔽部46が周期d4で市松格子状に配列している構造を有する。
遮蔽格子上に回折格子の干渉パターンが形成されるように、回折格子と遮蔽格子の間隔Z0が式(1)を満足するように遮蔽格子を配置した。但し、N=1とした。
図11(b)は遮蔽格子上に形成された干渉パターンを示しており、その周期d5は、次に示す式(7)で表される。
【0032】
図11(c)は、本実施例における遮蔽格子の一部分をX線源側から見た図である。
遮蔽格子は実施例1同様金で作製されており、X線を透過する透過部63とX線を遮る遮蔽部64が、干渉パターンと同じ周期d5で井桁格子状に配列している。透過部63は1辺がd5/2の正方形である。
【0033】
図3、図4と図11(b)、図11(c)を見れば分かるように本実施例の干渉パターンと遮蔽格子は実施例1と同様なので、それらの重なり方、回折格子の移動と遮蔽格子の透過部63を透過するX線量の関係も実施例1と同様である。また、本実施例における測定ステップも、実施例1で図7を用いて説明したものと同様なので省略する。
また、回折格子と遮蔽格子のパターンを入れ替えることもできる。つまり、回折格子を図11(c)のような井桁格子状にして、遮蔽格子を図11(a)のような市松格子状にしても良い。この場合の干渉パターンは図8(b)のようになる。このような回折格子と遮蔽格子を用いた場合、干渉パターンと遮蔽格子が実施例2と同様になるので、干渉パターンの明部と遮蔽格子の透過部の重なり方、回折格子の移動と遮蔽格子の透過部63を透過するX線量の関係も実施例2と同様である。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、本発明の範囲を公にするために以下の請求項を添付する。
【符号の説明】
【0034】
1:X線源
2:X線
3:被検体
4:回折格子
5:回折格子移動部
6:遮蔽格子
7:遮蔽格子移動部
8:検出器
9:演算部
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体のX線位相像を計測するX線撮像装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線が被検体を透過すると、被検体の構成元素や密度差により位相の変化が生じる。このX線の位相変化を用いた位相コントラスト法の研究が、1990年代より行なわれている。
位相コントラスト法の一つに、特許文献1に記載されている方法がある。この方法は位相
シフト法と呼ばれる方式の1種である。
位相シフト法の特徴は、被検体の透過率分布や照射されるX線の強度の空間的不均一性に影響されないこと、さらに空間的分解能が高く原理的にX線を撮像する撮像素子と同じ分解能を有していることである。
【0003】
特許文献1では、つぎのようなX線撮像装置が提案されている。
この装置では、被検体を透過したX線を回折格子に照射し、回折格子から特定の距離(タルボ距離)だけ離れた位置に自己像と呼ばれる周期的な干渉パターンを生じさせる。この干渉パターンが生じる位置に干渉パターンの周期と同じ周期を持つ遮蔽格子を設置することによってモアレを発生させ、そのモアレをX線検出器で検出する。
そして、回折格子または遮蔽格子を一定間隔で移動させて検出した3枚以上のモアレの画像に基づいて被検体を透過したX線の位相情報を取得し、被検体の位相像を得るように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許7180979号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、被検体の位相像を復元するには、交差する2方向の微分位相像を得ることが必要となる。
上記特許文献1の方法で交差する2方向の微分位相像を得るためには、上述のようにモアレを撮像した後、回折格子と遮蔽格子を格子面内で回転させ、再度同様にモアレの撮像を実施する必要がある。
しかしながら、このように回折格子と遮蔽格子を回転させると、撮像装置の構成が複雑になる。更に、モアレの撮像に加え、回折格子と遮蔽格子を回転させる操作が必要なため、操作が煩雑になる。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、従来よりも装置の構成が簡単で、回折格子と遮蔽格子の回転操作なしでも交差する2方向の微分位相像を得ることができるX線撮像装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
X線源からのX線を回折することで明部と暗部とが2次元に配列した干渉パターンを形成する回折格子と、
前記X線を遮蔽する遮蔽部と前記X線を透過する透過部とが2次元に配列しており、前記干渉パターンの前記明部の一部を遮る遮蔽格子と、
前記干渉パターンと前記遮蔽格子の相対位置を変化させる移動部と、
前記遮蔽格子を経た前記X線の強度分布を検出する検出器と、
前記検出器による検出結果に基づいて被検体の微分位相像又は位相像を算出する演算部を備え、
前記演算部は、前記検出器の複数回の検出結果に基づいて、交差する2方向の各々における微分位相像または位相像を算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来よりも装置の構成が簡単で、回折格子と遮蔽格子の回転操作なしでも交差する2方向の微分位相像を得ることができるX線撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態1に係るX線撮像装置の構成例を説明する図である。
【図2】実施例1におけるX線撮像装置の回折格子を説明する図である。
【図3】実施例1における干渉パターンを説明する図である。
【図4】実施例1における遮蔽格子を説明する図である。
【図5】実施例1における干渉パターンと遮蔽格子が重なる様子を説明する図である。
【図6】実施例1における干渉パターンの移動量と遮蔽格子の透過部を透過するX線量の関係を説明する図である。
【図7】実施例1における測定ステップを説明する図である。
【図8】(a)は本発明の実施例2におけるX線撮像装置の回折格子を説明する図である。(b)は実施例2における干渉パターンを説明する図である。(c)は実施例2における遮蔽格子を説明する図である。
【図9】本発明の実施例2における干渉パターンと遮蔽格子の重なり具合を説明する図である。
【図10】実施例2における干渉パターンの移動量と遮蔽格子の透過部を透過するX線量の関係を説明する図である。
【図11】(a)は本発明の実施例3におけるX線撮像装置の回折格子を説明する図である。(b)は実施例3における干渉パターンを説明する図である。(c)は実施例3における遮蔽格子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について図1を用いて説明する。
図1の撮像装置はX線を出射するX線源1と、X線源1からのX線源からのX線を回折することで明部と暗部が2次元に配列した干渉パターンを形成する回折格子4と、回折格子4の位置を格子面内で変化させる回折格子移動部5と、X線を透過する透過部とX線を遮る遮蔽部が2次元に配列している遮蔽格子6と、遮蔽格子6の位置を格子面内で変化させる遮蔽格子移動部7と、遮蔽格子6を経たX線の強度分布を取得するX線検出器8と、X線検出器8で取得したX線の強度分布の検出結果から被検体の微分位相像または位相像を算出する演算部9を備える。
なお、回折格子移動部5と遮蔽格子移動部7は、干渉パターンと遮蔽格子6の相対位置を移動させるための移動部であり、両方を備える必要はない。また、移動部は回折格子移動部5と遮蔽格子移動部7に限定されるものではない。例えばX線源を移動させることによって干渉パターンと遮蔽格子6の相対位置を移動させるX線源移動部を移動部として備えていても良い。X線源を移動させて縞走査を行う方法は国際特許出願公開WO2006/131235号公報に記載されているので詳細は述べないが、干渉パターンを移動させたい方向の逆方向にX線源を移動させればよい。回折格子上の干渉パターンの移動距離はX線源の移動距離に、回折格子と遮蔽格子の距離をX線源と回折格子の距離で割った値をかけた値になる。
【0011】
以下、上記構成について詳細に説明する。
回折格子4は、位相進行部と位相遅延部が2次元周期的に配列した位相型回折格子や遮蔽部と透過部が2次元周期的に配列した振幅型回折格子を用いることができる。本実施形態の位相型回折格子は、位相進行部を透過したX線と位相遅延部を透過したX線の位相が一定量シフトするようにX線透過部材の厚みが周期的に変化した構造を有する。
X線源1からのX線2が回折格子4に入射すると、次に示す式(1)のZ1で表される所定の距離(タルボ距離)だけ回折格子から離れた位置に、明部と暗部が2次元に配列した干渉パターンが形成される。
【0012】
但し、式(1)においてZ0はX線源1と回折格子4の距離、λはX線2の波長、dは回折格子4の格子周期である。
また、Nは位相のシフト量がπ/2で、位相進行部と位相遅延部が市松格子状に配列した位相型回折格子の場合はn−1/2、位相のシフト量がπで、位相進行部と位相遅延部が市松格子状に配列した位相型回折格子の場合はn/2−1/4、遮蔽部と透過部が市松格子状に配列した振幅型回折格子の場合はnと表される実数である。但し、nは自然数である。
遮蔽格子6はX線を遮る遮蔽部とX線を透過する透過部が2次元に配列している。この遮蔽格子6は干渉パターンが形成される位置に配置され、遮蔽部によって干渉パターンの明部の一部を遮る。本実施形態の遮蔽格子6の周期は被検体3が存在しない状態で干渉パターンの周期に一致し、その周期方向も干渉パターンの周期方向と一致する。
【0013】
回折格子移動部5は駆動部を有し、回折格子4の周期方向に回折格子4を移動させる。回折格子移動部5によって回折格子4を移動させると干渉パターンも移動する。干渉パターンが移動すると干渉パターンと遮蔽格子6の相対位置が変化し、遮蔽格子6の各透過部を透過するX線の量が周期的に変化する。
同様に、遮蔽格子移動部7は駆動部を有し、遮蔽格子6の周期方向に遮蔽格子6を移動させる。遮蔽格子6が移動すると干渉パターンと遮蔽格子6の相対位置が変化し、遮蔽格子6の各透過部を透過するX線の量が周期的に変化する。
検出器8は回折格子移動部5または遮蔽格子移動部7による干渉パターンと遮蔽格子6の相対位置の変化に対応して遮蔽格子を経たX線の強度分布を複数回検出する。
また、演算部9は検出器8による複数回の検出結果に基づいて交差する2方向の各々の微分位相像を算出し、それを積分することにより位相像を算出する。
演算部9による被検体の位相像の算出方法について説明をする。
【0014】
図1では被検体3をX線源1と回折格子4の間に配置したが、回折格子4と遮蔽格子6の間に配置しても良い。
X線源1と回折格子4の間又は回折格子4と遮蔽格子6の間に被検体3が存在すると、被検体の屈折率分布に応じて、干渉パターンの明部と暗部が形成される位置が変化する。この理由について簡単に説明をする。
被検体3を透過したX線の位相が被検体3の屈折率分布に応じて変化すると、X線の位相の空間的変化率である微分位相も変化する。
X線の進行方向は微分位相に比例して変化するので、遮蔽格子6上での干渉パターンの明部と暗部の位置も微分位相の分布に比例して変化する。
被検体3を透過したX線のx方向の微分位相φxとすると、X線の進行方向の変化はλφx/(2π)であるから、干渉パターンのx方向の位置変化をΔxとすれば、Δx=λφxZ1/(2π)である。
したがって、干渉パターンのx方向の位置変化Δxを計測すれば、次に示す式(2)の関係から被検体を透過したX線のx方向の微分位相を求めることができる。φxのことをx方向の被検体の微分位相像と呼ぶ。
【0015】
以下にΔxの求め方を説明する。遮蔽格子6に対する干渉パターンの相対位置が1方向に等間隔で変化するように、回折格子移動部5により回折格子4、あるいは遮蔽格子移動部7により遮蔽格子6、をそれぞれの格子面内で1方向に移動させる。
その際に、遮蔽格子6と干渉パターンの相対位置の変化に対応し、最低3箇所の相対位置で遮蔽格子6を経たX線の強度分布をX線検出器8により検出する。
次に、これら複数回の検出結果に基づいて、演算部9で位相シフト法アルゴリズムによる演算処理をすると、干渉パターンのx方向の位置変化Δxが算出できる。この、干渉パターンと遮蔽格子の相対位置の変化とそれに対応した検出、その検出結果に基づいた演算処理をx方向と交差する方向で行えば、交差する2方向の各々における微分位相像を得ることができる。この交差する2方向は直交していなくても被検体の2次元の微分位相像または位相像を得ることができるが、直交していない2方向で検出を行うと一般的に2次元の微分位相像または位相像を得るための演算処理が複雑になる。本実施形態では、直交する2方向において上記の回折格子4又は遮蔽格子6を移動させて干渉パターンと遮蔽格子6の相対位置を移動させ、この相対位置の移動に対応して検出器8でX線の強度分布を検出し、演算部9によって直交する2方向の微分位相像を夫々算出する。
【0016】
上述のように、遮蔽格子6の周期は被検体3がX線源1と回折格子4の間又は回折格子4と遮蔽格子6の間に存在しない状態での遮蔽格子上での干渉パターンの周期に一致し、またその周期方向は干渉パターンの周期方向と一致する。
したがって、被検体3が存在しなければ、遮蔽格子6の各透過部と干渉パターンの明部の相対位置x0は干渉パターンの全面で等しい。
【0017】
式(2)よりΔxが全面で一定値変化してもX線の微分位相の形状は不変なので、位相像を取得するには被検体3が存在しない状態での計測は必ずしも必要ではない。
但し、回折格子4と遮蔽格子6の形状誤差および配置誤差などの影響を除去するためには、予め被検体3がない状態で計測しておくことは有効である。即ち、被検体3がある状態で計測したX線の微分位相から被検体3がない状態で計測したX線の微分位相を差し引いたものを被検体3によるX線の微分位相変化とすれば、遮蔽格子6と干渉パターンの周期と周期方向は、厳密に一致していなくてもよい。
さらに、回折格子4と遮蔽格子6のパターン形状に誤差があってもその影響を除去することができる。
【0018】
なお、位相シフト法とそのアルゴリズムの詳細説明は干渉計に関する多くの書籍、例えばDaniel Malacara著の¨Optical Shop Testing¨第2版の第14章(501ページ)に記載されているのでここでは省略する。
被検体の位相像を得るためには、被検体の微分位相像を微分方向に積分すればよい。
【0019】
以上述べたとおり、本実施形態によれば、回折格子を交換したり、取り付け方向を変えたりすることなく、位相シフト法を用いて交差する2方向の微分位相像を得ることができる。
また、1つの検出結果を共有して2方向の微分位相を算出できるので、X線強度分布の検出回数を1回減らすことができる。
【実施例】
【0020】
以下に、本発明の実施例について説明する。
[実施例1]
図1−図7を用いて、本発明の実施例1について説明する。
実施例1のX線撮像装置は実施形態と同様に図1に示した構成であり、X線源から放射されたX線は被検体、回折格子、遮蔽格子を通過してX線検出器に達する。
また、干渉パターンと遮蔽格子の相対位置は、回折格子を移動させる回折格子移動部によって変化させ、遮蔽格子は固定した。
【0021】
図2は、本実施例における回折格子4の一部分をX線源側から見た図である。本実施例では回折格子として、位相進行部41と位相遅延部42が市松格子状に配列したシリコン製の位相型回折格子を用いた。位相進行部41と位相遅延部42は、位相進行部41を透過したX線と位相遅延部42を透過したX線の位相差がπ/2になるようにシリコンの厚みに差が付いており、周期dで配列している。
遮蔽格子上に干渉パターンが形成されるように、回折格子と遮蔽格子の間隔Z0が式(1)を満足するように遮蔽格子を配置した。但し、N=1/2である。
図3は本実施例の回折格子を用いた場合に遮蔽格子上に形成される干渉パターンを示しており、その周期d1は、次に示す式(3)で表される。
【0022】
ここで、前述したようにZ1はX線源と回折格子の間隔である。
図4は、本実施例における遮蔽格子の一部分をX線源側から見た図である。遮蔽格子はX線の透過率が小さい金で作製されており、X線を透過する透過部61が干渉パターンと同じ周期d1で井桁格子状に配列している。透過部61は1辺がd1/2の正方形である。
図5(a)、図5(b)は、遮蔽格子と干渉パターンを示しており、干渉パターンの明部51のうち遮蔽格子の透過部61に重なった部分だけが遮蔽格子を経てX線検出器に達する。
X線検出器は受光面にX線蛍光材を有するCCD(Charge Coupled Device)撮像器で構成されている。本実施例ではX線検出器の画素サイズは、遮蔽格子の周期d1に等しくしてあるがd1の整数倍であれば良い。
回折格子を回折格子移動部により面内移動させると干渉パターンの明部51も移動する。図5(b)は、図5(a)の時より回折格子を1/3周期すなわちd1/3だけx方向に移動した時の干渉パターンの明部51と遮蔽格子の透過部61の重なり具合を例示している。
この例では、図5(a)の時と比べると図5(b)の時には干渉パターンの明部51と遮蔽格子の透過部61の重なる面積が少ないので、X線検出器に達するX線量も減少する。
【0023】
図6は、干渉パターンの移動量と遮蔽格子を透過するX線量の関係を示している。
実線は遮蔽格子に照射されるX線量に対する遮蔽格子を透過するX線量の比であり、横軸は干渉パターンの周期を単位とした干渉パターンの移動量である。点線は比較のために表示した振幅、周期、位相を実線と一致させた理想的な正弦波である。
回折格子の移動量に対する透過部61を通過するX線量の変化は、略正弦波と一致していることから、位相シフト法のアルゴリズムにおいて小さなステップ数(検出回数)を採用しても大きな精度劣化にはならない。
本実施例では計測時間および被検体のX線被曝量を考慮してステップ数を最小の3ステップとし、それに対応したアルゴリズム(3ステップアルゴリズム)を採用している。
【0024】
図7は、本実施例における被検体の測定ステップを示している。
ステップ110で、遮蔽格子は回折格子との距離Z1が、式(1)を満足するように配置されるので、遮蔽格子6上には明瞭な干渉パターンの強度分布が生じている。
ステップ120で、検出器により強度分布を取得しこれをI0とする。
ここで説明を容易にするため、回折格子4の位置としてP0からP4を以下のように定義する。
即ち、ステップ120の回折格子の位置をP0、P0からx方向に回折格子の周期の1/3周期だけ移動した位置をP1、P0から−x方向に1/3周期だけ移動した位置をP2、とする。
また、P0からy方向に1/3周期だけ移動した位置をP3、P0から−y方向に1/3周期だけ移動した位置をP4とする。なお、x方向およびy方向とは図2に示されている矢印の方向であり、−x方向及び−y方向とは図2に示されている矢印の逆方向である。
【0025】
ステップ130で、回折格子移動部により回折格子をP1に移動する。ステップ140で、検出器により強度分布を検出しこれをI1とする。
以下、ステップ210まで回折格子4をP2、P3、P4への移動と検出を繰り返し、得られた検出結果を順にI2、I3、I4とする。
ステップ220で、位相シフト法の3ステップアルゴリズムに基づく次に示す式(4)、式(5)よりI0、I1、I2、からx方向の微分位相の位相φxを、同様にI0、I3、I4からy方向の微分位相の位相φyを画素ごとに算出する。
【0026】
式(4)、式(5)で算出したφxおよびφyは2πの範囲に位相が畳み込まれた位相(wrapped位相)になっているので、位相接続(unwrap)して各々の方向の微分位相Wx、Wyを得ている。
さらに必要に応じて、ステップ230で得られた直交する2方向の微分位相を積分して得
られた2つの位相分布を合成することで、被検体を透過したX線の位相分布、即ち被検体の位相像を得ることができる。
【0027】
以上の説明では、回折格子を最初の撮影時の位置を中心にxおよびyの正負の方向に3
分の1周期移動したが、移動量はこれに限らない。但し、正確な被検体の微分位相像又は位相像を取得するためには、各移動量は等しいことが好ましい。式(4)、式(5)に換えて移動量に準拠した計算式を採用することでφx、φyの算出が可能である。
さらに、回折格子の移動の仕方に関しても、格子位置がx、y両方向で直線的に3点以上並べばよいので、例えば最初の位置P0からx方向に2回移動し、その後y方向に2回移動してもよい。
【0028】
[実施例2]
図8−図10を用いて、本発明を実施したX線撮像装置の実施例2について説明する。本実施例は実施例1と回折格子と遮蔽格子が異なり、その他の構成については実施例1と同様である。
図8(a)は、本実施例における回折格子4の一部分をX線源側から見た図である。
本実施例の回折格子は、位相進行部43と位相遅延部44が周期d2で市松格子状に配列したシリコン製の位相変調格子を用いた。位相進行部43を透過したX線と位相遅延部44を透過したX線の位相差はπになるようにシリコンの厚みに差を付けている。
遮蔽格子上に回折格子の干渉パターンが形成されるように、回折格子と遮蔽格子の間隔Z0が式(1)を満足するように遮蔽格子を配置した。但し、N=1/4とした。
図8(b)は本実施例の回折格子を用いた場合に遮蔽格子上に形成される干渉パターンを示しており、その周期d3は、次に示す式(6)で表される。
【0029】
ここで、前述したようにZ0はX線源と回折格子の間隔である。
図8(c)は、本実施例における遮蔽格子の一部分をX線源側から見た図である。遮蔽格子は、実施例1と同様に金で作製されており、透過部62が干渉パターンと同じ周期d3で市松格子状に配列している。透過部62は1辺がd2/√2の正方形である。
図9(a)、(b)は遮蔽格子上の干渉パターンを示しており、干渉パターンの明部52のうち透過部62に重なった部分だけが遮蔽格子を経てX線検出器に達する。
X線検出器の画素サイズは、実施例1と同様に遮蔽格子の周期d3に等しくしてあるがd3の整数倍ならそれに限らない。
本実施例では回折格子を面内で移動させることにより干渉パターンと遮蔽格子の相対位置を移動させる。図9(b)は、図9(a)の時から干渉パターンと遮蔽格子の相対位置を干渉パターンの1/3周期のx方向に移動させたときの干渉パターン52と遮蔽格子62の重なり具合を例示している。
回折格子の移動に伴って、透過部62と重なっている干渉パターンの明部52の面積が変化する。この例では、図9(a)の時と比べると図9(b)の時には透過部62と重なっている明部52の面積が小さくなるので、X線検出器に達するX線量も減少する。
【0030】
図10は実施例1の図6と同様に、干渉パターンの移動量と透過部62を通過するX線量の関係を示している。
実線は遮蔽格子に照射されるX線量に対するこれを透過するX線量の比であり、横軸は干渉パターン周期を単位とした干渉パターンの移動量である。点線は比較のために表示した振幅、周期、位相を実線と一致させた理想的な正弦波である。本実施例でも実施例1と同様に回折格子の移動量に対する透過部61を通過するX線量の変化が、略正弦波と一致していることから、位相シフト法のアルゴリズムにおいて小さなステップ数を採用しても大きな精度劣化にはならない。本実施例でもステップ数を3にした。
図10と図6を比較して分かるように、本実施例は実施例1に比べて遮蔽格子6を通過するX線量が2倍になっている。そのため、本実施例の方がX線の利用効率が高い。
本実施例における測定ステップは、実施例1で図7を用いて説明したものと同様なので省略する。
【0031】
[実施例3]
図11(a)−図11(c)を用いて、本発明を実施したX線撮像装置の実施例3について説明する。
本実施例は回折格子に振幅型回折格子を用いたX線撮像装置であり、回折格子と遮蔽格子以外の構成は実施例1と同様である。
図11(a)は、本実施例における回折格子の一部分をX線源側から見た図である。
本実施例に用いられる回折格子はX線を透過する透過部45とX線を遮る遮蔽部46が周期d4で市松格子状に配列している構造を有する。
遮蔽格子上に回折格子の干渉パターンが形成されるように、回折格子と遮蔽格子の間隔Z0が式(1)を満足するように遮蔽格子を配置した。但し、N=1とした。
図11(b)は遮蔽格子上に形成された干渉パターンを示しており、その周期d5は、次に示す式(7)で表される。
【0032】
図11(c)は、本実施例における遮蔽格子の一部分をX線源側から見た図である。
遮蔽格子は実施例1同様金で作製されており、X線を透過する透過部63とX線を遮る遮蔽部64が、干渉パターンと同じ周期d5で井桁格子状に配列している。透過部63は1辺がd5/2の正方形である。
【0033】
図3、図4と図11(b)、図11(c)を見れば分かるように本実施例の干渉パターンと遮蔽格子は実施例1と同様なので、それらの重なり方、回折格子の移動と遮蔽格子の透過部63を透過するX線量の関係も実施例1と同様である。また、本実施例における測定ステップも、実施例1で図7を用いて説明したものと同様なので省略する。
また、回折格子と遮蔽格子のパターンを入れ替えることもできる。つまり、回折格子を図11(c)のような井桁格子状にして、遮蔽格子を図11(a)のような市松格子状にしても良い。この場合の干渉パターンは図8(b)のようになる。このような回折格子と遮蔽格子を用いた場合、干渉パターンと遮蔽格子が実施例2と同様になるので、干渉パターンの明部と遮蔽格子の透過部の重なり方、回折格子の移動と遮蔽格子の透過部63を透過するX線量の関係も実施例2と同様である。
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、本発明の範囲を公にするために以下の請求項を添付する。
【符号の説明】
【0034】
1:X線源
2:X線
3:被検体
4:回折格子
5:回折格子移動部
6:遮蔽格子
7:遮蔽格子移動部
8:検出器
9:演算部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源からのX線を回折することで明部と暗部とが2次元に配列した干渉パターンを形成する回折格子と、
前記X線を遮蔽する遮蔽部と前記X線を透過する透過部とが2次元に配列しており、前記干渉パターンの前記明部の一部を遮る遮蔽格子と、
前記干渉パターンと前記遮蔽格子の相対位置を変化させる移動部と、
前記遮蔽格子を経た前記X線の強度分布を検出する検出器と、
前記検出器による検出結果に基づいて被検体の微分位相像又は位相像を算出する演算部を備え、
前記演算部は、前記検出器の複数回の検出結果に基づいて、交差する2方向の各々における微分位相像または位相像を算出することを特徴とするX線撮像装置。
【請求項2】
前記移動部は、前記相対位置を交差する2方向に変化させ、
前記検出器は、前記相対位置の変化に対応して前記X線の強度分布を複数回検出することで、前記複数回の検出結果を取得することを特徴とする請求項1に記載のX線撮像装置。
【請求項3】
前記移動部は、前記X線源と前記回折格子と前記遮蔽格子のうち少なくともいずれか1つを移動させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のX線撮像装置。
【請求項4】
前記移動部は、前記相対位置を直交する2方向で変化させ、
前記演算部は、直交する2方向の各々の、微分位相像または位相像を算出することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のX線撮像装置。
【請求項5】
前記回折格子は位相進行部と位相遅延部とを有し、
前記位相進行部を透過したX線と前記位相遅延部を透過したX線との位相差はπ/2であり、
前記位相進行部と前記位相遅延部とは市松格子状に配列しており、
前記遮蔽格子は前記遮蔽部と前記透過部とが井桁格子状に配列していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のX線撮像装置。
【請求項6】
前記回折格子は位相進行部と位相遅延部とを有し、
前記位相進行部を透過したX線と前記位相遅延部を透過したX線との位相差はπであり、
前記位相進行部と前記位相遅延部とは市松格子状に配列しており、
前記遮蔽格子は前記遮蔽部と前記透過部とが市松格子状に配列していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のX線撮像装置。
【請求項7】
前記回折格子はX線を透過する透過部とX線を遮る遮蔽部とを有し、
前記回折格子の前記透過部と前記遮蔽部とが市松格子状に配列しており、
前記遮蔽格子は前記遮蔽部と前記透過部とが井桁格子状に配列していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のX線撮像装置。
【請求項8】
前記回折格子はX線を透過する透過部とX線を遮る遮蔽部とを有し、
前記回折格子の前記透過部と前記遮蔽部とが井桁格子状に配列しており、
前記遮蔽格子は前記遮蔽部と前記透過部とが市松格子状に配列していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のX線撮像装置。
【請求項1】
X線源からのX線を回折することで明部と暗部とが2次元に配列した干渉パターンを形成する回折格子と、
前記X線を遮蔽する遮蔽部と前記X線を透過する透過部とが2次元に配列しており、前記干渉パターンの前記明部の一部を遮る遮蔽格子と、
前記干渉パターンと前記遮蔽格子の相対位置を変化させる移動部と、
前記遮蔽格子を経た前記X線の強度分布を検出する検出器と、
前記検出器による検出結果に基づいて被検体の微分位相像又は位相像を算出する演算部を備え、
前記演算部は、前記検出器の複数回の検出結果に基づいて、交差する2方向の各々における微分位相像または位相像を算出することを特徴とするX線撮像装置。
【請求項2】
前記移動部は、前記相対位置を交差する2方向に変化させ、
前記検出器は、前記相対位置の変化に対応して前記X線の強度分布を複数回検出することで、前記複数回の検出結果を取得することを特徴とする請求項1に記載のX線撮像装置。
【請求項3】
前記移動部は、前記X線源と前記回折格子と前記遮蔽格子のうち少なくともいずれか1つを移動させることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のX線撮像装置。
【請求項4】
前記移動部は、前記相対位置を直交する2方向で変化させ、
前記演算部は、直交する2方向の各々の、微分位相像または位相像を算出することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のX線撮像装置。
【請求項5】
前記回折格子は位相進行部と位相遅延部とを有し、
前記位相進行部を透過したX線と前記位相遅延部を透過したX線との位相差はπ/2であり、
前記位相進行部と前記位相遅延部とは市松格子状に配列しており、
前記遮蔽格子は前記遮蔽部と前記透過部とが井桁格子状に配列していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のX線撮像装置。
【請求項6】
前記回折格子は位相進行部と位相遅延部とを有し、
前記位相進行部を透過したX線と前記位相遅延部を透過したX線との位相差はπであり、
前記位相進行部と前記位相遅延部とは市松格子状に配列しており、
前記遮蔽格子は前記遮蔽部と前記透過部とが市松格子状に配列していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のX線撮像装置。
【請求項7】
前記回折格子はX線を透過する透過部とX線を遮る遮蔽部とを有し、
前記回折格子の前記透過部と前記遮蔽部とが市松格子状に配列しており、
前記遮蔽格子は前記遮蔽部と前記透過部とが井桁格子状に配列していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のX線撮像装置。
【請求項8】
前記回折格子はX線を透過する透過部とX線を遮る遮蔽部とを有し、
前記回折格子の前記透過部と前記遮蔽部とが井桁格子状に配列しており、
前記遮蔽格子は前記遮蔽部と前記透過部とが市松格子状に配列していることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のX線撮像装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−5820(P2012−5820A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62047(P2011−62047)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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