説明

X線管及びX線撮影装置

【課題】X線発生装置のX線管球において管球絶縁部管球内表面が正へ帯電することが原因となり放電が発生する。【解決手段】対向した電流電圧導入電極,電気絶縁性を有する真空気密性を有する容器、前記容器内に前記電流電圧導入電極に接続されたX線を放射するターゲット及び前記ターゲットに電子線を照射する電子銃を備えているX線管であって、前記容器内の表面付近に前記容器の二次電子放出係数未満の二次電子放出係数をもつ物質を配置するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線管球及びX線撮影装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線管は陽極の型により固定陽極X線管と回転陽極X線管に分類される。固定陽極X線管は比較的出力の小さい小型装置(研究用,工業用X線発生装置等)に、回転陽極X線管は出力の大きな装置(X線コンピュータ断層撮影装置(X線CT装置)等)に用いられる。
【0003】
図2は一般的な固定陽極X線管の模式図(放射線応用技術ハンドブック,第一版,株式会社朝倉書店発行pp.349)である。
【0004】
図2を用いてX線管の構造とX線発生過程について簡単に述べる。
【0005】
X線管は高真空のガラスバルブ21と、その内部に設置されたフィラメント25と、対向したターゲット23から構成されている。フィラメント25は陰極として、ターゲット23は陽極として機能する。ガラスバルブ21の材質としては、一般的にホウ珪酸ガラスなどの硬質ガラスが使われる。加熱したフィラメント25より発生した熱電子を高電圧によって加速し、金属製のターゲット23に衝突させてX線を発生させる。
【0006】
図3に回転陽極X線管の模式図(放射線応用技術ハンドブック,第一版,株式会社朝倉書店発行pp.349)を示す。
【0007】
回転陽極31が高速回転(2000rpm〜9000rpm程度)することで電子線照射部位を分散し、ターゲットの局所的な発熱を抑えることができる。なお、X線発生過程は固定陽極X線管と回転陽極X線管ともに同様である。
【0008】
【特許文献1】特開2001−15295号公報
【特許文献2】特開2000−113997号公報
【非特許文献1】放射線応用技術ハンドブック,第一版,株式会社朝倉書店発行pp.349
【非特許文献2】IEEE TRANSACTION ON ELECTRICAL INSULATION,VOL.EI-11,NO.1, pp.32-35
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高出力X線発生装置においては放電抑制性能が求められており、これは特にX線CT装置など医療用機器における装置の大幅な信頼性向上の課題の一つである。
【0010】
X線発生装置において放電が発生すると、放電電荷による電流(Ia )とX線管の管電流(Ib )の和(Ia+Ib)が総管電流として検出される。このとき、放電電荷による電流(Ia )はX線発生には寄与しない。X線管の動作は検出された総管電流をもとに制御されるため、放電電荷による電流が流れると所望のX線出力が得られず一時的に動作不安定となる。このことから、安定したX線出力を得るためにはX線管球内で発生する放電を抑制することが必要となる。
【0011】
真空中の電圧印加電極間における放電は下記のような過程で発生すると考えられている。電子銃などから飛来した電子が絶縁物表面に衝突し、飛来した電子より多数の二次電子が発生した場合に絶縁体表面は正帯電する。入射電子数と放出される二次電子数の比(二次電子数/入射電子数)は二次電子放出係数と呼ばれ、物質固有の値を持つ。X線管球に使用されるガラスも含め、絶縁体の二次電子放出係数は一般的に1より大きいため、正に帯電する。正に帯電した絶縁物表面と陰極間で電界強度が上昇し、陰極から電子が電界放出されるのを発端として放電が発生する。つまり正帯電を抑制することは放電を抑制することになる。
【0012】
一般的に放電の抑制は、絶縁部の距離を長くとり陰極と陽極間の電界を低減することにより図られるが、これはX線管球の大型化を伴う。絶縁部の距離を変えずに若しくは短くして放電抑制するためには絶縁体表面への帯電を抑制する方法が有効であり、いかに帯電を抑制するかが課題となる。
【0013】
帯電抑制構造として、絶縁性基体上に導電性膜を配置し、導電性膜上に導電性膜より二次電子放出係数が小さいカーボン等の物質を粒子状に分散して帯電を抑制している特開
2000−113997号が公知である。上記帯電抑制方法をX線管球に適用すると、導電性膜の存在により陽極,陰極間が導通することからそのままでの適用は困難であり、この点が課題となる。
【0014】
真空中のアルミナに二次電子放出係数が小さいCr23をコーティングし帯電を抑制することで耐電圧特性を向上させた例としてIEEE TRANSACTION ON ELECTRICAL INSULATION,VOL.EI-11,NO.1,pp.32-35 が公知である。しかし、Cr23を塗布によりコーティングをしていることから、膜厚は相当厚く凸凹も大きいと考えられる。X線管のコーティングとしてはX線管球を透過するX線の強度減少を抑えるため、二次電子放出を抑えられる最小の膜厚であることが望ましく、また照射されるX線強度の空間的均一性を良好に保つには凸凹のない平坦な薄膜であることが望ましいことから、これら二点も課題である。
【0015】
また、X線管球の帯電抑制構造と考えられる円筒状の接地電位カバーを管球絶縁部周囲に設置した図が特開2001−15295号公報に記載されている。上記円筒状の接地電位カバーは陽極電位の高電圧金属に近接していることから電界強度が強くなり放電発生し易くなると考えられ、この点が課題となる。
【0016】
本発明の目的は、小型でX線管球内の放電を抑制できるX線管及びX線撮像装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は上記の課題を解決するためのものであり、更に装置の性能向上を図ったものである。その手段を以下に記述する。
【0018】
本発明の第一の手段として、対向した陽極電極及び陰極電極と電気絶縁性及び真空気密性を有する容器と前記容器内に前記陽極電極に接続されたX線を放射するターゲット及び前記ターゲットにX線を照射する電子銃を備えているX線管であって、前記容器の内側の表面に前記容器の二次電子放出係数未満の二次電子放出係数をもつ物質を島状に点在させた配置にする。
【0019】
この手段では前記容器の二次電子放出係数未満の二次電子放出係数をもつ物質を前記容器の内側に島状に点在させることにより、電極間の絶縁性を確保しつつ二次電子放出を抑制し、容器内側が正に帯電することを抑制できる特徴がある。この結果として放電を抑制できる特徴がある。また絶縁体表面の正帯電を抑えることから電子線の拡散抑制となり、ターゲットへの入射電子数が増えることでX線発生効率も向上するという特徴がある。更にX線発生効率が向上することで、同強度のX線を発生させる場合に管電流を低減できる事からX線管の発熱を抑制できる特徴をもつ。
【0020】
本発明の第二の手段として、第一の手段に記載のX線管において前記容器の二次電子放出係数未満の二次電子放出係数をもつ物質の二次電子放出係数を1未満とする。この手段では第一の手段における特徴のほかに、二次電子放出係数が1未満の物質を用いることにより、容器表面からの二次電子放出を更に抑制できる特徴をもつ。
【0021】
本発明の第三の手段として、第一の手段に記載のX線管において、前記容器の二次電子放出係数未満の二次電子放出係数をもつ物質はLi,Be,C,Al,K,Ti,Rb,Cs,Ba,Cr23を少なくとも一種類以上含んだ物質とする。
【0022】
この手段では第一の手段における特徴のほかに、前記容器の二次電子放出係数未満の二次電子放出係数をもつ物質はLi,Be,C,Al,K,Ti,Rb,Cs,Ba,
Cr23を少なくとも一種類以上含んだ物質とすることにより、容器表面からの二次電子放出を更に抑制できる特徴をもつ。
【0023】
本発明の第四の手段として、第一の手段に記載のX線管において、前記容器の二次電子放出係数未満の二次電子放出係数をもつ物質を島状に点在させた配置をフォトリソグラフィのパターニング技術で形成する。
【0024】
この手段では、第一の手段における特徴の他に、前記容器の二次電子放出係数未満の二次電子放出係数をもつ物質を島状に点在させた配置をフォトリソグラフィによるパターニングで形成することで島の面積と島間の距離を制御できるため、帯電特性を満足しつつ帯電特性できる特徴をもつ。
【0025】
本発明の第五の手段として、第一の手段に記載のX線管において、前記容器の二次電子放出係数未満の二次電子放出係数をもつ物質を島状に点在させた配置は真空成膜初期に形成される島状構造を用いる。
【0026】
この手段では第一の手段における特徴のほかに、成膜のみの一工程で島状構造を形成できるため帯電抑制構造の作製工程が簡単になるという特徴をもつ。
【0027】
本発明の第六の手段として、第一の手段に記載のX線管において、前記容器の二次電子放出係数未満の二次電子放出係数をもつ物質はCr23若しくはLi,Be,C,Al,K,Ti,Rb,Cs,Baを少なくとも一種類以上含んだ絶縁体で二次電子放出係数が1未満の物質であり、管球内表面に薄膜の状態で配置する。
【0028】
この手段では第一の手段における特徴のほかに、二次電子放出係数が1未満で且つ絶縁物である薄膜を管球内表面に配置することにより、電極間の絶縁性を確保しながら管球内全面において帯電を抑制できる特徴をもつ。
【0029】
本発明の第七の手段として、第五の手段に記載のX線管において、前記薄膜は100
nm以下の厚さとする。
【0030】
この手段では第六の手段における特徴のほかに、薄膜を100nm以下に薄く成膜することでX線透過効率が向上するという特徴をもつ。
【0031】
本発明の第八の手段として、対向した陽極電極及び陰極電極,電気絶縁性及び真空気密性を有する容器、前記容器内に前記陽極電極に接続されたX線を放射するターゲット及び前記ターゲットにX線を照射する電子銃を備えるX線管球であって、前記電子銃から放出される電子線の射線軸と平行な中心軸を有し、前記容器の内側に前記容器の二次電子放出係数未満の二次電子放出係数で平円盤の中心を刳り貫いたリング形状の物質を備える。
【0032】
この手段では前記容器の二次電子放出係数未満の二次電子放出係数をもった平円盤の中心を刳り貫いたリング形状の物質を、前記電子銃から放出される電子線の射線軸と平行な中心軸を有するように前記容器の内側に備えることで、容器内側への入射電子数を低減することで放出される二次電子数を抑制し、正に帯電することを抑制できる特徴がある。この結果として帯電部と陰極間の電界集中を抑えられることから放電を抑制できるという特徴がある。またリング状物質の二次電子放出係数が小さいため電子線周囲の正帯電を抑えることから電子線の拡散抑制となり、ターゲットへの入射電子数が増えることでX線発生効率も向上するという特徴がある。更にX線発生効率が向上することで、同強度のX線を発生させる場合に管電流を低減できる事からX線管の発熱を抑制できる特徴をもつ。
【0033】
本発明の第九の手段として、第八の手段に記載のX線管において前記容器の二次電子放出係数未満の二次電子放出係数をもつ物質は二次電子放出係数が1未満とする。
【0034】
この手段では第八の手段における特徴のほかに、二次電子放出係数が1未満の物質を用いることにより、容器表面からの二次電子放出を更に抑制できる特徴をもつ。
【0035】
本発明の第十の手段として、第八の手段に記載のX線管において、前記容器の二次電子放出係数未満の二次電子放出係数をもつ物質はLi,Be,C,Al,K,Ti,Rb,Cs,Ba,Cr23を少なくとも一種類以上含んだ物質であることとする。
【0036】
この手段では第八の手段における特徴のほかに、前記容器の二次電子放出係数未満の二次電子放出係数をもつ物質はLi,Be,C,Al,K,Ti,Rb,Cs,Ba,
Cr23を少なくとも一種類以上含んだ物質であることにより、容器表面からの二次電子放出を更に抑制できる特徴をもつ。
【0037】
本発明の第十一の手段として、第八の手段に記載のX線管において、前記リング形状の物質を前記対向した電極間に複数備える。
【0038】
この手段では、第八の手段における特徴のほかに、リング状物質を対向した電極間に複数備えることにより、容器内側への入射電子数を更に減少させることができるため、更に帯電を抑制できる特徴をもつ。
【0039】
本発明の第十二の手段として、第八の手段に記載のX線管において、前記リング形状の物質の断面はリング中心軸方向より径方向の長さを長くする。
【0040】
この手段では、第八の手段における特徴のほかに、リング中心軸方向より径方向の長さが長いことにより対向電極とリング形状の物質の電界を抑えることができ、より高電圧のX線管に適用できる特徴をもつ。またリングが径方向へ長いことからリングを含む面に対し浅い角度を持った電子でなければ容器表面へ入射できないため、容器表面への入射電子数を減少することができる特徴をもつ。
【0041】
本発明の第十三の手段として、第八の手段に記載のX線管において、前記リング形状の物質の角は曲率をもった角であること。
【0042】
この手段では、第八の手段における特徴のほかに、リング形状の物質の角に曲率をつけることにより、リングと電極、またリングを複数配置した場合にリング間の電界集中を低減させることができることから、より高電圧のX線管に適用できる特徴をもつ。
【0043】
本発明の第十四の手段として、第八の手段に記載のX線管において、前記リング形状の物質は前記リング中心から前記リング最外周まで扇状にその一部が欠けている形状であること。
【0044】
この手段では、第八の手段における特徴のほかに、リング中心からリング最外周まで扇状にその一部が欠けていることにより、回転陽極X線管のように電子銃が容器付近に位置しているX線管においてもリング状物質を配置させることができる特徴をもつ。
【0045】
本発明の第十五の手段として、第八の手段に記載のX線管において、前記容器の二次電子放出係数未満の二次電子放出係数をもつ物質は他物質のリング状基材の表面に蒸着又は塗布により形成する。
【0046】
この手段では、第八の手段における特徴のほかに、前記容器の二次電子放出係数未満の二次電子放出係数をもつ物質を他物質のリング状基材の表面に蒸着または塗布することにより、二次電子放出係数の小さい物質の使用量を少なくできコスト低減できる特徴をもつ。
【0047】
本発明の第十六の手段として、第一の手段から第十五の手段のいずれかに記載されたX線管を搭載したことを特徴とするX線撮影装置であること。
【0048】
この手段では、放電の抑制された信頼性の高いX線撮影装置を実現できるという特徴をもつ。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、小型でX線管球内の放電が抑制できるX線管及びX線撮像装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
【実施例1】
【0051】
本発明による第一の実施の形態を説明する。図4に第一の実施の形態における固定陽極X線管の内部構造の概略を示す。本実施例のX線管の構造は、高真空のガラスバルブ45中に熱電子源として陰極41にフィラメント42,対向して陽極43にターゲット44を配置する。ガラスバルブの材質としては、硬質ガラス(ホウ珪酸ガラス)を用いる。X線管では加熱したフィラメントより発生した熱電子を高電圧によって加速し、ターゲット
44と呼ばれる金属に衝突させてX線を発生させる。
【0052】
図1に図4の視点47から見た第一の実施の形態におけるガラスバルブ内側表面の概略図を示す。第一の実施の形態ではガラスバルブ表面2に、島状に点在した帯電抑制構造1を配置する。図1では例として円形の薄膜を示しているが、三角形や四角形など異なる形状の薄膜でもよいものとする。帯電抑制構造はガラスバルブの二次電子放出係数(2〜
2.9 )未満の二次電子放出係数を持つ物質で構成されている。この構成物質が導電性を持つ場合であっても、絶縁体であるガラスバルブ上に島状に点在しているため電流経路とはならず、陽極,陰極間の電気絶縁性は保持される。上記のような島状構造を配置することによりガラスバルブ表面2がカバーされ、ガラスバルブへ入射する電子銃からの熱電子数及びターゲットからの反射電子数が減少する。また島状に点在した帯電抑制構造はガラスバルブの二次電子放出係数(2〜2.9 )未満の二次電子放出係数を持つ物質であるので、帯電抑制構造1を持たないX線管球に比べて二次電子放出量が少ないため正の帯電電位を抑制することができる。
【0053】
図5に電位測定位置46にて測定した電位の時間変化を管電流の時間変化とともに示す。帯電抑制構造が無い場合の電位の時間変化51と帯電抑制構造がある場合の電位の時間変化52を比較すると、帯電抑制構造がある場合の電位52の方が電子線照射時における電位が低いことから、正への帯電が抑制されていることが分かる。
【0054】
ガラスバルブ内側表面の正帯電を抑制するということはガラスバルブ表面の電位の低下を意味することから、電子銃及びターゲットから反射電子の管球絶縁物への入射数は更に減少し、入射数減少に伴い正への帯電は抑制され放電も抑制される。更にガラスバルブ表面電位の低下により電子銃から放出される電子線の拡散が抑制されることから、電子銃からターゲットへの入射電子数が増加しX線発生効率が向上する。X線発生効率向上に伴い、同強度のX線を発生させる場合に管電流を低減できる事からX線管の発熱を抑制でき冷却機構の小型化にも寄与する。
【0055】
実施例1はガラスバルブ内側への表面処理であるので固定陽極X線管及び回転陽極X線管どちらにおいても同様の効果が得られる。
【実施例2】
【0056】
本発明による第二の実施の形態を説明する。図4に第二の実施の形態における固定陽極X線管の内部構造の概略を示す。本実施例のX線管の構造は、高真空のガラスバルブ45中に熱電子源として陰極41にフィラメント42,対向して陽極43にターゲット44を配置する。ガラスバルブの材質としては、硬質ガラス(ホウ珪酸ガラス)を用いる。X線管では加熱したフィラメントより発生した熱電子を高電圧によって加速し、ターゲット
44と呼ばれる金属に衝突させてX線を発生させる。
【0057】
図1に図4の視点47から見た第二の実施の形態におけるガラスバルブ内側表面の概略図を示す。第二の実施の形態ではガラスバルブ表面2に、島状に点在した帯電抑制構造1を配置する。図1では例として円形の薄膜を示しているが、三角形や四角形など異なる形状の薄膜でもよいものとする。帯電抑制構造は二次電子放出係数が1未満の物質で構成されている。この構成物質が導電性を持つ場合であっても、絶縁体であるガラスバルブ上に島状に点在しているため電流経路とはならず、陽極,陰極間の電気絶縁性は保持される。上記のような島状構造を配置することによりガラスバルブ表面2がカバーされ、ガラスバルブへ入射する電子銃からの熱電子数及びターゲットからの反射電子数が減少する。また島状に点在した帯電抑制構造は二次電子放出係数が1未満の物質であるので、帯電抑制構造1を持たないX線管球に比べて二次電子放出量が少ないため正の帯電電位を抑制できる。
【0058】
電位測定位置46にて測定した電位の時間変化と管電流の時間変化は実施例1の測定結果である図5とほぼ同様の結果となる。ただし二次電子放出係数が1未満の物質を使っているため、実施例1に比して正の帯電をより抑制できる。帯電抑制構造が無い場合の電位の時間変化51と帯電抑制構造がある場合の電位の時間変化52を比較すると、帯電抑制構造がある場合の電位52の方が電子線照射時における電位が低いことから、正への帯電が抑制されていることが分かる。
【0059】
ガラスバルブ内側表面の正帯電を抑制するということはガラスバルブ表面の電位の低下を意味することから、電子銃及びターゲットから反射電子の管球絶縁物への入射数は更に減少し、入射数減少に伴い正への帯電は抑制され放電も抑制される。更にガラスバルブ表面電位の低下により電子銃から放出される電子線の拡散が抑制されることから、電子銃からターゲットへの入射電子数が増加しX線発生効率が向上する。X線発生効率向上に伴い、同強度のX線を発生させる場合に管電流を低減できる事からX線管の発熱を抑制でき冷却機構の小型化にも寄与する。
【0060】
実施例2はガラスバルブ内側への表面処理であるので固定陽極X線管及び回転陽極X線管どちらにおいても同様の効果が得られる。
【実施例3】
【0061】
本発明による第三の実施の形態を説明する。図4に第三の実施の形態における固定陽極X線管の内部構造の概略を示す。本実施例のX線管の構造は、高真空のガラスバルブ45中に熱電子源として陰極41にフィラメント42,対向して陽極43にターゲット44を配置する。ガラスバルブの材質としては、硬質ガラス(ホウ珪酸ガラス)を用いる。X線管では加熱したフィラメントより発生した熱電子を高電圧によって加速し、ターゲット
44と呼ばれる金属に衝突させてX線を発生させる。
【0062】
図1に図4の視点47から見た第三の実施の形態におけるガラスバルブ内側表面の概略図を示す。第三の実施の形態ではガラスバルブ表面2に、島状に点在した帯電抑制構造1を配置する。図1では例として円形の薄膜を示しているが、三角形や四角形など異なる形状の薄膜でもよいものとする。帯電抑制構造はLi,Be,C,Al,K,Ti,Rb,Cs,Ba,Cr23を少なくとも一種類以上含んだ二次電子放出係数が1未満の物質で構成されている。この構成物質が導電性を持つ場合であっても、絶縁体であるガラスバルブ上に島状に点在しているため電流経路とはならず、陽極,陰極間の電気絶縁性は保持される。上記のような島状構造を配置することによりガラスバルブ表面2がカバーされ、ガラスバルブへ入射する電子銃からの熱電子数及びターゲットからの反射電子数が減少する。また島状に点在した帯電抑制構造はLi,Be,C,Al,K,Ti,Rb,Cs,
Ba,Cr23を少なくとも一種類以上含んだ二次電子放出係数が1未満の物質であるので、帯電抑制構造1を持たないX線管球に比べて二次電子放出量が少ないため正の帯電電位を抑制できる。
【0063】
電位測定位置46にて測定した電位の時間変化と管電流の時間変化は実施例1の測定結果である図5とほぼ同様の結果となる。ただしLi,Be,C,Al,K,Ti,Rb,Cs,Ba,Cr23を少なくとも一種類以上含んだ二次電子放出係数が1未満の物質を使っているため、実施例1に比して正の帯電をより抑制できる。帯電抑制構造が無い場合の電位の時間変化51と帯電抑制構造がある場合の電位の時間変化52を比較すると、帯電抑制構造がある場合の電位52の方が電子線照射時における電位が低いことから、正への帯電が抑制されていることが分かる。
【0064】
ガラスバルブ内側表面の正帯電を抑制するということはガラスバルブ表面の電位の低下を意味することから、電子銃及びターゲットから反射電子の管球絶縁物への入射数は更に減少し、入射数減少に伴い正への帯電は抑制され放電も抑制される。更にガラスバルブ表面電位の低下により電子銃から放出される電子線の拡散が抑制されることから、電子銃からターゲットへの入射電子数が増加しX線発生効率が向上する。X線発生効率向上に伴い、同強度のX線を発生させる場合に管電流を低減できる事からX線管の発熱を抑制でき冷却機構の小型化にも寄与する。
【0065】
実施例3はガラスバルブ内側への表面処理であるので固定陽極X線管及び回転陽極X線管どちらにおいても同様の効果が得られる。
【実施例4】
【0066】
本発明による第四の実施の形態を説明する。図4に第四の実施の形態における固定陽極X線管の内部構造の概略を示す。本実施例のX線管の構造は、高真空のガラスバルブ45中に熱電子源として陰極41にフィラメント42,対向して陽極43にターゲット44を配置する。ガラスバルブの材質としては、硬質ガラス(ホウ珪酸ガラス)を用いる。X線管では加熱したフィラメントより発生した熱電子を高電圧によって加速し、ターゲット
44と呼ばれる金属に衝突させてX線を発生させる。
【0067】
図1に図4の視点47から見た第四の実施の形態におけるガラスバルブ内側表面の概略図を示す。第四の実施の形態ではフォトリソグラフィによるパターニングでガラスバルブ表面2に島状に点在した帯電抑制構造1を配置する。図1では例として円形の薄膜を示しているが、三角形や四角形など異なる形状の薄膜でもよいものとする。帯電抑制構造はガラスバルブの二次電子放出係数(2〜2.9 )未満の二次電子放出係数を持つ物質で構成されている。この構成物質が導電性を持つ場合であっても、絶縁体であるガラスバルブ上に島状に点在しているため電流経路とはならず、陽極,陰極間の電気絶縁性は保持される。上記のような島状構造を配置することによりガラスバルブ表面2がカバーされ、ガラスバルブへ入射する電子銃からの熱電子数及びターゲットからの反射電子数が減少する。また島状に点在した帯電抑制構造はガラスバルブの二次電子放出係数(2〜2.9 )未満の二次電子放出係数を持つ物質であるので、帯電抑制構造1を持たないX線管球に比べて二次電子放出量が少ないため正の帯電電位を抑制することができる。
【0068】
電位測定位置46にて測定した電位の時間変化と管電流の時間変化は実施例1の測定結果である図5とほぼ同様の結果となる。ただしパターニングにより島の占有面積を増やすことで実施例1に比し帯電は抑制される。帯電抑制構造が無い場合の電位の時間変化51と帯電抑制構造がある場合の電位の時間変化52を比較すると、帯電抑制構造がある場合の電位52の方が電子線照射時における電位が低いことから、正への帯電が抑制されていることが分かる。
【0069】
ガラスバルブ内側表面の正帯電を抑制するということはガラスバルブ表面の電位の低下を意味することから、電子銃及びターゲットから反射電子の管球絶縁物への入射数は更に減少し、入射数減少に伴い正への帯電は抑制され放電も抑制される。更にガラスバルブ表面電位の低下により電子銃から放出される電子線の拡散が抑制されることから、電子銃からターゲットへの入射電子数が増加しX線発生効率が向上する。X線発生効率向上に伴い、同強度のX線を発生させる場合に管電流を低減できる事からX線管の発熱を抑制でき冷却機構の小型化にも寄与する。フォトリソグラフィによるパターニングで島状に点在した帯電抑制構造を形成することにより、帯電抑制効果に影響を与える島の占有面積と、電気絶縁性に影響を与える島間の距離を任意制御できるため絶縁特性を満足しつつ帯電を抑制することができる。
【0070】
実施例4はガラスバルブ内側への表面処理であるので固定陽極X線管及び回転陽極X線管どちらにおいても同様の効果が得られる。
【実施例5】
【0071】
本発明による第五の実施の形態を説明する。図4に第五の実施の形態における固定陽極X線管の内部構造の概略を示す。本実施例のX線管の構造は、高真空のガラスバルブ45中に熱電子源として陰極41にフィラメント42,対向して陽極43にターゲット44を配置する。ガラスバルブの材質としては、硬質ガラス(ホウ珪酸ガラス)を用いる。X線管では加熱したフィラメントより発生した熱電子を高電圧によって加速し、ターゲット
44と呼ばれる金属に衝突させてX線を発生させる。
【0072】
図1に図4の視点47から見た第五の実施の形態におけるガラスバルブ内側表面の概略図を示す。第五の実施の形態では真空成膜初期に形成される島状構造を利用してガラスバルブ表面2に島状に点在した帯電抑制構造1を配置する。図1では例として円形の島状構造を示しているが、上記真空成膜初期に形成される島状構造は自己組織的に凝集してできるため不規則な形状となる。この方法では任意形状の島状構造にすることは難しいが、島状構造作製時のパターニング処理が不要なため製作工程を抑えることができる。帯電抑制構造はガラスバルブの二次電子放出係数(2〜2.9 )未満の二次電子放出係数を持つ物質で構成されている。この構成物質が導電性を持つ場合であっても、絶縁体であるガラスバルブ上に島状に点在しているため電流経路とはならず、陽極,陰極間の電気絶縁性は保持される。上記のような島状構造を配置することによりガラスバルブ表面2がカバーされ、ガラスバルブへ入射する電子銃からの熱電子数及びターゲットからの反射電子数が減少する。また島状に点在した帯電抑制構造はガラスバルブの二次電子放出係数 (2〜2.9)未満の二次電子放出係数を持つ物質であるので、帯電抑制構造1を持たないX線管球に比べて二次電子放出量が少ないため正の帯電電位を抑制することができる。
【0073】
電位測定位置46にて測定した電位の時間変化と管電流の時間変化は実施例1の測定結果である図5とほぼ同様の結果となる。ただし蒸着時間の調整により島の占有面積を増やすことで実施例1に比し帯電を抑制できる。帯電抑制構造が無い場合の電位の時間変化
51と帯電抑制構造がある場合の電位の時間変化52を比較すると、帯電抑制構造がある場合の電位52の方が電子線照射時における電位が低いことから、正への帯電が抑制されていることが分かる。
【0074】
ガラスバルブ内側表面の正帯電を抑制するということはガラスバルブ表面の電位の低下を意味することから、電子銃及びターゲットから反射電子の管球絶縁物への入射数は更に減少し、入射数減少に伴い正への帯電は抑制され放電も抑制される。更にガラスバルブ表面電位の低下により電子銃から放出される電子線の拡散が抑制されることから、電子銃からターゲットへの入射電子数が増加しX線発生効率が向上する。X線発生効率向上に伴い、同強度のX線を発生させる場合に管電流を低減できる事からX線管の発熱を抑制でき冷却機構の小型化にも寄与する。フォトリソグラフィによるパターニングで島状に点在した帯電抑制構造を形成することにより、帯電抑制効果に影響を与える島の占有面積と、電気絶縁性に影響を与える島間の距離を任意制御できることから帯電抑制と絶縁特性の最適バランスをとることができる。
【0075】
実施例5はガラスバルブ内側への表面処理であるので固定陽極X線管及び回転陽極X線管どちらにおいても同様の効果が得られる。
【実施例6】
【0076】
本発明による第六の実施の形態を説明する。図4に第六の実施の形態における固定陽極X線管の内部構造の概略を示す。本実施例のX線管の構造は、高真空のガラスバルブ45中に熱電子源として陰極41にフィラメント42,対向して陽極43にターゲット44を配置する。ガラスバルブの材質としては、硬質ガラス(ホウ珪酸ガラス)を用いる。X線管では加熱したフィラメントより発生した熱電子を高電圧によって加速し、ターゲット
44と呼ばれる金属に衝突させてX線を発生させる。
【0077】
図6に第六の実施の形態におけるガラスバルブ断面の概略図を示す。第六の実施の形態ではガラスバルブ62内側表面にCr23薄膜61を帯電抑制構造として配置する。上記Cr23薄膜を配置する方法として、酸素雰囲気中、オゾン雰囲気中でのCrの反応性蒸着や、酸素をプラズマガスとして適量導入しCr,Cr23をターゲットとした反応性スパッタリングなどが好ましい。Cr23は電気絶縁体であるので管球内側表面全体に蒸着しても電気絶縁性を確保できる。上記のような薄膜を配置することにより、電子銃からの電子線及びターゲットからの反射電子の管球絶縁物への入射が減少する。また、Cr23の二次電子放出係数は1未満でありガラスバルブの二次電子放出係数(2〜2.9 )未満の二次電子放出係数を持つ物質であるので、Cr23薄膜61を持たないX線管球に比べて二次電子放出量が少なく正の帯電電位を抑制することができる。
【0078】
電位測定位置46にて測定した電位の時間変化と管電流の時間変化は実施例1の測定結果である図5とほぼ同様の結果となる。ただし二次電子放出係数が1未満のCr23薄膜でガラスバルブ内側表面全体を覆うため実施例1に比し帯電を抑制できる。帯電抑制構造が無い場合の電位の時間変化51と帯電抑制構造がある場合の電位の時間変化52を比較すると、帯電抑制構造がある場合の電位52の方が電子線照射時における電位が低いことから、正への帯電が抑制されていることが分かる。
【0079】
ガラスバルブ内側表面の正帯電を抑制するということはガラスバルブ表面の電位の低下を意味することから、電子銃及びターゲットから反射電子の管球絶縁物への入射数は更に減少し、入射数減少に伴い正への帯電は抑制され放電も抑制される。更にガラスバルブ表面電位の低下により電子銃から放出される電子線の拡散が抑制されることから、電子銃からターゲットへの入射電子数が増加しX線発生効率が向上する。X線発生効率向上に伴い、同強度のX線を発生させる場合に管電流を低減できる事からX線管の発熱を抑制でき冷却機構の小型化にも寄与する。
【0080】
実施例6ではCr23薄膜を帯電抑制膜の例としたが、Li,Be,C,Al,K,
Ti,Rb,Cs,Baを少なくとも一種類以上含んだ絶縁体で二次電子放出係数が1未満の物質を材料とした薄膜であっても構わない。
【0081】
また実施例6は管球絶縁部の管球内表面への表面処理であるので固定陽極X線管及び回転陽極X線管どちらにおいても同様の効果が得られる。
【実施例7】
【0082】
本発明による第七の実施の形態を説明する。図4に第七の実施の形態における固定陽極X線管の内部構造の概略を示す。本実施例のX線管の構造は、高真空のガラスバルブ45中に熱電子源として陰極41にフィラメント42,対向して陽極43にターゲット44を配置する。ガラスバルブの材質としては、硬質ガラス(ホウ珪酸ガラス)を用いる。X線管では加熱したフィラメントより発生した熱電子を高電圧によって加速し、ターゲット
44と呼ばれる金属に衝突させてX線を発生させる。
【0083】
図6に第七の実施の形態におけるガラスバルブ断面の概略を示す。第七の実施の形態ではガラスバルブ62内側表面に厚さ100nm以下のCr23薄膜61を帯電抑制構造として配置する。120〜150kVの管電圧で使用するX線CT装置のX線管球や、120kV以下の管電圧で使用するX線発生装置のX線管球で発生する電子線は膜厚100nmのCr23薄膜を透過できない。このため帯電抑制膜は100nmの膜厚で充分であり、管電圧に合わせて100nm以下の膜厚を選択する。
【0084】
上記Cr23薄膜を配置する方法として、酸素雰囲気中、オゾン雰囲気中でのCrの反応性蒸着や、酸素をプラズマガスとして適量導入しCr,Cr23をターゲットとした反応性スパッタリングなどが好ましい。Cr23は電気絶縁体であるので管球内側表面全体に蒸着しても電気絶縁性を確保できる。上記のような薄膜を配置することにより、電子銃からの電子線及びターゲットからの反射電子の管球絶縁物への入射が減少する。また、
Cr23の二次電子放出係数は1未満でありガラスバルブの二次電子放出係数 (2〜
2.9 )未満の二次電子放出係数を持つ物質であるので、Cr23薄膜61を持たないX線管球に比べて二次電子放出量が少なく正の帯電電位を抑制することができる。
【0085】
電位測定位置46にて測定した電位の時間変化と管電流の時間変化は実施例1の測定結果である図5とほぼ同様の結果となる。ただし二次電子放出係数が1未満のCr23薄膜でガラスバルブ内側表面全体を覆うため実施例1に比し帯電を抑制できる。帯電抑制構造が無い場合の電位の時間変化51と帯電抑制構造がある場合の電位の時間変化52を比較すると、帯電抑制構造がある場合の電位52の方が電子線照射時における電位が低いことから、正への帯電が抑制されていることが分かる。
【0086】
ガラスバルブ内側表面の正帯電を抑制するということはガラスバルブ表面の電位の低下を意味することから、電子銃及びターゲットから反射電子の管球絶縁物への入射数は更に減少し、入射数減少に伴い正への帯電は抑制され放電も抑制される。更にガラスバルブ表面電位の低下により電子銃から放出される電子線の拡散が抑制されることから、電子銃からターゲットへの入射電子数が増加しX線発生効率が向上する。X線発生効率向上に伴い、同強度のX線を発生させる場合に管電流を低減できる事からX線管の発熱を抑制でき冷却機構の小型化にも寄与する。
【0087】
実施例7ではCr23薄膜を帯電抑制膜の例としたが、Li,Be,C,Al,K,
Ti,Rb,Cs,Baを少なくとも一種類以上含んだ絶縁体で二次電子放出係数が1未満の物質を材料とした薄膜であっても構わない。
【0088】
実施例7は管球絶縁部の管球内表面への表面処理であるので固定陽極X線管及び回転陽極X線管どちらにおいても同様の効果が得られる。
【実施例8】
【0089】
本発明による第八の実施の形態を説明する。図7に第八の実施の形態における固定陽極X線管の内部構造の概略を示す。本実施例のX線管の構造は、高真空のガラスバルブ76中に熱電子源として陰極72にフィラメント73,対向して陽極74にターゲット75を配置する。ガラスバルブの材質としては、硬質ガラス(ホウ珪酸ガラス)を用いる。X線管では加熱したフィラメントより発生した熱電子を高電圧によって加速し、ターゲット
75と呼ばれる金属に衝突させてX線を発生させる。帯電抑制リング71は電子線の射線軸78と平行な中心軸を有し、平円盤の中心を刳り貫いた形状でガラスバルブ76の内側に設置されている。また、帯電抑制リング71はガラスバルブの二次電子放出係数(2〜2.9 )未満の二次電子放出係数を持つ物質である。帯電抑制リングと電極間の距離は使用するX線発生電圧に対して適当な絶縁距離をとるものとする。また帯電抑制リングは十分な機械的強度を有した絶縁体で支持する。
【0090】
上記のようなリングを配置することにより、電子銃からの放出電子及びターゲットからの反射電子の管球絶縁物への入射が減少する。また、帯電抑制リングはガラスバルブの二次電子放出係数(2〜2.9 )未満の二次電子放出係数を持つ物質であるのでガラスバルブに比し二次電子放出量が少なく正の帯電電位を抑制することができる。
【0091】
電位測定位置77にて測定した電位の時間変化と管電流の時間変化は実施例1の測定結果である図5とほぼ同様の結果となる。ただしリングの存在によりできるフィラメントおよびターゲットの電子線照射部位から発生する電子線の射影部では、実施例1に比し帯電を抑制できる。ただしリング直近のガラスバルブにおいては実施例1に比し帯電を抑制できる。帯電抑制構造が無い場合の電位の時間変化51と帯電抑制構造がある場合の電位の時間変化52を比較すると、帯電抑制構造がある場合の電位52の方が電子線照射時における電位が低いことから、正への帯電が抑制されていることが分かる。
【0092】
ガラスバルブ内側表面の正帯電を抑制するということはガラスバルブ表面の電位の低下を意味することから、電子銃及びターゲットから反射電子の管球絶縁物への入射数は更に減少し、入射数減少に伴い正への帯電は抑制され放電も抑制される。更にガラスバルブ表面電位の低下により電子銃から放出される電子線の拡散が抑制されることから、電子銃からターゲットへの入射電子数が増加しX線発生効率が向上する。X線発生効率向上に伴い、同強度のX線を発生させる場合に管電流を低減できる事からX線管の発熱を抑制でき冷却機構の小型化にも寄与する。
【実施例9】
【0093】
本発明による第九の実施の形態を説明する。図7に第九の実施の形態における固定陽極X線管の内部構造の概略を示す。本実施例のX線管の構造は、高真空のガラスバルブ76中に熱電子源として陰極72にフィラメント73,対向して陽極74にターゲット75を配置する。ガラスバルブの材質としては、硬質ガラス(ホウ珪酸ガラス)を用いる。X線管では加熱したフィラメントより発生した熱電子を高電圧によって加速し、ターゲット
75と呼ばれる金属に衝突させてX線を発生させる。帯電抑制リング71は電子線の射線軸78と平行な中心軸を有し、平円盤の中心を刳り貫いた形状でガラスバルブ76の内側に設置されている。また、帯電抑制リング71は二次電子放出係数が1未満の物質である。帯電抑制リングと電極間の距離は使用するX線発生電圧に対して適当な絶縁距離をとるものとする。また帯電抑制リングは十分な機械的強度を有した絶縁体で支持する。
【0094】
上記のようなリングを配置することにより、電子銃からの放出電子及びターゲットからの反射電子の管球絶縁物への入射が減少する。また、帯電抑制リングは二次電子放出係数が1未満の物質であるのでガラスバルブに比し二次電子放出量が少なく正の帯電電位を抑制することができる。
【0095】
電位測定位置77にて測定した電位の時間変化と管電流の時間変化は実施例1の測定結果である図5とほぼ同様の結果となる。ただしリングの存在によりできるフィラメントおよびターゲットの電子線照射部位から発生する電子線の射影部では、実施例1に比し帯電を抑制できる。帯電抑制構造が無い場合の電位の時間変化51と帯電抑制構造がある場合の電位の時間変化52を比較すると、帯電抑制構造がある場合の電位52の方が電子線照射時における電位が低いことから、正への帯電が抑制されていることが分かる。
【0096】
ガラスバルブ内側表面の正帯電を抑制するということはガラスバルブ表面の電位の低下を意味することから、電子銃及びターゲットから反射電子の管球絶縁物への入射数は更に減少し、入射数減少に伴い正への帯電は抑制され放電も抑制される。更にガラスバルブ表面電位の低下により電子銃から放出される電子線の拡散が抑制されることから、電子銃からターゲットへの入射電子数が増加しX線発生効率が向上する。X線発生効率向上に伴い、同強度のX線を発生させる場合に管電流を低減できる事からX線管の発熱を抑制でき冷却機構の小型化にも寄与する。
【実施例10】
【0097】
本発明による第十の実施の形態を説明する。図7に第十の実施の形態における固定陽極X線管の内部構造の概略を示す。本実施例のX線管の構造は、高真空のガラスバルブ76中に熱電子源として陰極72にフィラメント73,対向して陽極74にターゲット75を配置する。ガラスバルブの材質としては、硬質ガラス(ホウ珪酸ガラス)を用いる。X線管では加熱したフィラメントより発生した熱電子を高電圧によって加速し、ターゲット
75と呼ばれる金属に衝突させてX線を発生させる。帯電抑制リング71は電子線の射線軸78と平行な中心軸を有し、平円盤の中心を刳り貫いた形状でガラスバルブ76の内側に設置されている。また、帯電抑制リング71はLi,Be,C,Al,K,Ti,Rb,Cs,Ba,Cr23を少なくとも一種類以上含んだ二次電子放出係数が1未満の物質である。帯電抑制リングと電極間の距離は使用するX線発生電圧に対して適当な絶縁距離をとるものとする。また帯電抑制リングは十分な機械的強度を有した絶縁体で支持する。
【0098】
上記のようなリングを配置することにより、電子銃からの放出電子及びターゲットからの反射電子の管球絶縁物への入射が減少する。また、帯電抑制リングは二次電子放出係数が1未満の物質であるのでガラスバルブに比し二次電子放出量が少なく正の帯電電位を抑制することができる。
【0099】
電位測定位置77にて測定した電位の時間変化と管電流の時間変化は実施例1の測定結果である図5とほぼ同様の結果となる。ただしリングの存在によりできるフィラメントおよびターゲットの電子線照射部位から発生する電子線の射影部では、実施例1に比し帯電を抑制できる。帯電抑制構造が無い場合の電位の時間変化51と帯電抑制構造がある場合の電位の時間変化52を比較すると、帯電抑制構造がある場合の電位52の方が電子線照射時における電位が低いことから、正への帯電が抑制されていることが分かる。
【0100】
ガラスバルブ内側表面の正帯電を抑制するということはガラスバルブ表面の電位の低下を意味することから、電子銃及びターゲットから反射電子の管球絶縁物への入射数は更に減少し、入射数減少に伴い正への帯電は抑制され放電も抑制される。更にガラスバルブ表面電位の低下により電子銃から放出される電子線の拡散が抑制されることから、電子銃からターゲットへの入射電子数が増加しX線発生効率が向上する。X線発生効率向上に伴い、同強度のX線を発生させる場合に管電流を低減できる事からX線管の発熱を抑制でき冷却機構の小型化にも寄与する。
【実施例11】
【0101】
本発明による第十一の実施の形態を説明する。図8に第十一の実施の形態における固定陽極X線管の内部構造の概略を示す。本実施例のX線管の構造は、高真空のガラスバルブ86中に熱電子源として陰極82にフィラメント83、対向して陽極84にターゲット
85を配置する。ガラスバルブの材質としては、硬質ガラス(ホウ珪酸ガラス)を用いる。X線管では加熱したフィラメントより発生した熱電子を高電圧によって加速し、ターゲット85と呼ばれる金属に衝突させてX線を発生させる。帯電抑制リング81は電子線の射線軸88と平行な中心軸を有し、平円盤の中心を刳り貫いた形状でガラスバルブ86の内側に複数設置されている。また、帯電抑制リング81はガラスバルブの二次電子放出係数(2〜2.9 )未満の二次電子放出係数を持つ物質である。帯電抑制リングと電極間の距離は使用するX線発生電圧に対して適当な絶縁距離をとるものとする。また帯電抑制リングは十分な機械的強度を有した絶縁体で支持する。
【0102】
上記のようなリングを配置することにより、電子銃からの放出電子及びターゲットからの反射電子の管球絶縁物への入射が減少する。また、帯電抑制リングはガラスバルブの二次電子放出係数(2〜2.9 )未満の二次電子放出係数を持つ物質であるのでガラスバルブに比し二次電子放出量が少なく正の帯電電位を抑制することができる。
【0103】
電位測定位置87にて測定した電位の時間変化と管電流の時間変化は実施例1の測定結果である図5とほぼ同様の結果となる。ただしリングの存在によりできるフィラメントおよびターゲットの電子線照射部位から発生する電子線の射影部では、実施例1に比し帯電を抑制できる。帯電抑制構造が無い場合の電位の時間変化51と帯電抑制構造がある場合の電位の時間変化52を比較すると、帯電抑制構造がある場合の電位52の方が電子線照射時における電位が低いことから、正への帯電が抑制されていることが分かる。
【0104】
ガラスバルブ内側表面の正帯電を抑制するということはガラスバルブ表面の電位の低下を意味することから、電子銃及びターゲットから反射電子の管球絶縁物への入射数は更に減少し、入射数減少に伴い正への帯電は抑制され放電も抑制される。更にガラスバルブ表面電位の低下により電子銃から放出される電子線の拡散が抑制されることから、電子銃からターゲットへの入射電子数が増加しX線発生効率が向上する。X線発生効率向上に伴い、同強度のX線を発生させる場合に管電流を低減できる事からX線管の発熱を抑制でき冷却機構の小型化にも寄与する。
【実施例12】
【0105】
本発明による第十二の実施の形態を説明する。図8に第十二の実施の形態における固定陽極X線管の内部構造の概略を示す。本実施例のX線管の構造は、高真空のガラスバルブ86中に熱電子源として陰極82にフィラメント83,対向して陽極84にターゲット
85を配置する。ガラスバルブの材質としては、硬質ガラス(ホウ珪酸ガラス)を用いる。X線管では加熱したフィラメントより発生した熱電子を高電圧によって加速し、ターゲット85と呼ばれる金属に衝突させてX線を発生させる。帯電抑制リング81は電子線の射線軸88と平行な中心軸を有し、平円盤の中心を刳り貫いた形状でガラスバルブ86の内側に設置されている。ここで帯電抑制リングは複数配置されていても良いものとする。図9に帯電抑制リングの断面91を示す。帯電抑制リングの断面91はその断面としてリング中心軸方向より径方向の長さを長くとる。また、帯電抑制リング71はガラスバルブの二次電子放出係数(2〜2.9 )未満の二次電子放出係数を持つ物質である。帯電抑制リングと電極間の距離は使用するX線発生電圧に対して適当な絶縁距離をとるものとする。また帯電抑制リングは十分な機械的強度を有した絶縁体で支持する。
【0106】
上記のようなリングを配置することにより、電子銃からの放出電子及びターゲットからの反射電子の管球絶縁物への入射が減少する。また、帯電抑制リングはガラスバルブの二次電子放出係数(2〜2.9 )未満の二次電子放出係数を持つ物質であるのでガラスバルブに比し二次電子放出量が少なく正の帯電電位を抑制することができる。帯電抑制リングの断面91のようにリング中心軸方向より径方向の長さが長い断面を持つと、対向電極とリングとの間の電界集中を抑えることができることから、より高電圧のX線管球に適用できる。またリングが径方向に長いため、リングを含む面に対し浅い角度で入射した電子でなければガラスバルブ表面へ到達できないことから、ガラスバルブ表面への入射電子数を減らすことができる。
【0107】
電位測定位置77にて測定した電位の時間変化と管電流の時間変化は実施例1の測定結果である図5とほぼ同様の結果となる。ただしリングの存在によりできるフィラメントおよびターゲットの電子線照射部位から発生する電子線の射影部では、実施例1に比し帯電を抑制できる。帯電抑制構造が無い場合の電位の時間変化51と帯電抑制構造がある場合の電位の時間変化52を比較すると、帯電抑制構造がある場合の電位52の方が電子線照射時における電位が低いことから、正への帯電が抑制されていることが分かる。
【0108】
ガラスバルブ内側表面の正帯電を抑制するということはガラスバルブ表面の電位の低下を意味することから、電子銃及びターゲットから反射電子の管球絶縁物への入射数は更に減少し、入射数減少に伴い正への帯電は抑制され放電も抑制される。更にガラスバルブ表面電位の低下により電子銃から放出される電子線の拡散が抑制されることから、電子銃からターゲットへの入射電子数が増加しX線発生効率が向上する。X線発生効率向上に伴い、同強度のX線を発生させる場合に管電流を低減できる事からX線管の発熱を抑制でき冷却機構の小型化にも寄与する。
【実施例13】
【0109】
本発明による第十三の実施の形態を説明する。図8に第十三の実施の形態における固定陽極X線管の内部構造の概略を示す。本実施例のX線管の構造は、高真空のガラスバルブ86中に熱電子源として陰極82にフィラメント83,対向して陽極84にターゲット
85を配置する。ガラスバルブの材質としては、硬質ガラス(ホウ珪酸ガラス)を用いる。X線管では加熱したフィラメントより発生した熱電子を高電圧によって加速し、ターゲット85と呼ばれる金属に衝突させてX線を発生させる。帯電抑制リング81は電子線の射線軸88と平行な中心軸を有し、平円盤の中心を刳り貫いた形状でガラスバルブ86の内側に設置されている。ここで帯電抑制リングは複数配置されていても良いものとする。図10に帯電抑制リングの断面形状101を示す。帯電抑制リングの断面は角に曲率をもった断面形状101のようにその角に曲率を持つ。また、帯電抑制リング71はガラスバルブの二次電子放出係数(2〜2.9 )未満の二次電子放出係数を持つ物質である。帯電抑制リングと電極間の距離は使用するX線発生電圧に対して適当な絶縁距離をとるものとする。また帯電抑制リングは十分な機械的強度を有した絶縁体で支持する。
【0110】
上記のようなリングを配置することにより、電子銃からの放出電子及びターゲットからの反射電子の管球絶縁物への入射が減少する。また、帯電抑制リングはガラスバルブの二次電子放出係数(2〜2.9 )未満の二次電子放出係数を持つ物質であるのでガラスバルブに比し二次電子放出量が少なく正の帯電電位を抑制することができる。帯電抑制リングの曲率を持った断面形状101のようにその角に曲率を持つと長方形の断面形状102に比し、対向電極とリングとの間の電界集中、またリングを複数配置するときにはリング間の電界集中を抑えることができるため、より高電圧のX線管球に適用できる。
【0111】
電位測定位置77にて測定した電位の時間変化と管電流の時間変化は実施例1の測定結果である図5とほぼ同様の結果となる。ただしリングの存在によりできるフィラメントおよびターゲットの電子線照射部位から発生する電子線の射影部では、実施例1に比し帯電を抑制できる。帯電抑制構造が無い場合の電位の時間変化51と帯電抑制構造がある場合の電位の時間変化52を比較すると、帯電抑制構造がある場合の電位52の方が電子線照射時における電位が低いことから、正への帯電が抑制されていることが分かる。
【0112】
ガラスバルブ内側表面の正帯電を抑制するということはガラスバルブ表面の電位の低下を意味することから、電子銃及びターゲットから反射電子の管球絶縁物への入射数は更に減少し、入射数減少に伴い正への帯電は抑制され放電も抑制される。更にガラスバルブ表面電位の低下により電子銃から放出される電子線の拡散が抑制されることから、電子銃からターゲットへの入射電子数が増加しX線発生効率が向上する。X線発生効率向上に伴い、同強度のX線を発生させる場合に管電流を低減できる事からX線管の発熱を抑制でき冷却機構の小型化にも寄与する。
【実施例14】
【0113】
本発明による第十四の実施の形態を説明する。図11に第十四の実施の形態における回転陽極X線管の内部構造の概略を示す。本実施例のX線管の構造は、高真空のガラスバルブ121中に熱電子源として陰極115にフィラメント114,対向して回転陽極116にターゲット117を配置する。ガラスバルブの材質としては、硬質ガラス(ホウ珪酸ガラス)を用いる。X線管では加熱したフィラメントより発生した熱電子を高電圧によって加速し、ターゲット117と呼ばれる金属に衝突させてX線を発生させる。帯電抑制リング111は電子線の射線軸113と平行な中心軸を有する。図12に図11の視点112から見た回転陽極X線管球の概略図を示す。ガラスバルブ121の内側に電子銃122と帯電抑制リング123が平円盤の中心を刳り貫いたリングで且つリングの一部が欠けたような形状で設置されている。ここで帯電抑制リング111は複数配置されていても良いものとする。帯電抑制リング111及び123はガラスバルブの二次電子放出係数(2〜
2.9 )未満の二次電子放出係数を持つ物質である。帯電抑制リングと電極間の距離は使用するX線発生電圧に対して適当な絶縁距離をとるものとする。また帯電抑制リングは十分な機械的強度を有した絶縁体で支持する。
【0114】
上記のようなリングを配置することにより、電子銃からの放出電子及びターゲットからの反射電子の管球絶縁物への入射が減少する。また、帯電抑制リングはガラスバルブの二次電子放出係数(2〜2.9 )未満の二次電子放出係数を持つ物質であるのでガラスバルブに比し二次電子放出量が少なく正の帯電電位を抑制することができる。帯電抑制リングをリングの一部が欠けたような形状にすることで、回転陽極X線管球のように電子銃がガラスバルブ付近に位置しているようなX線管球においても帯電抑制リングを設置することができる。
【0115】
電位測定位置118にて測定した電位の時間変化と管電流の時間変化は実施例1の測定結果である図5とほぼ同様の結果となる。ただしリングの存在によりできるフィラメントおよびターゲットの電子線照射部位から発生する電子線の射影部では、実施例1に比し帯電を抑制できる。帯電抑制構造が無い場合の電位の時間変化51と帯電抑制構造がある場合の電位の時間変化52を比較すると、帯電抑制構造がある場合の電位52の方が電子線照射時における電位が低いことから、正への帯電が抑制されていることが分かる。
【0116】
ガラスバルブ内側表面の正帯電を抑制するということはガラスバルブ表面の電位の低下を意味することから、電子銃及びターゲットから反射電子の管球絶縁物への入射数は更に減少し、入射数減少に伴い正への帯電は抑制され放電も抑制される。更にガラスバルブ表面電位の低下により電子銃から放出される電子線の拡散が抑制されることから、電子銃からターゲットへの入射電子数が増加しX線発生効率が向上する。X線発生効率向上に伴い、同強度のX線を発生させる場合に管電流を低減できる事からX線管の発熱を抑制でき冷却機構の小型化にも寄与する。
【実施例15】
【0117】
本発明による第十五の実施の形態を説明する。図8に第十五の実施の形態における固定陽極X線管の内部構造の概略を示す。本実施例のX線管の構造は、高真空のガラスバルブ86中に熱電子源として陰極82にフィラメント83,対向して陽極84にターゲット
85を配置する。ガラスバルブの材質としては、硬質ガラス(ホウ珪酸ガラス)を用いる。X線管では加熱したフィラメントより発生した熱電子を高電圧によって加速し、ターゲット85と呼ばれる金属に衝突させてX線を発生させる。帯電抑制リング81は電子線の射線軸88と平行な中心軸を有し、平円盤の中心を刳り貫いた形状でガラスバルブ86の内側に設置されている。ここで帯電抑制リング81は複数配置されていても良いものとする。帯電抑制リング81は任意物質で構成されるリング状基材上にガラスバルブの二次電子放出係数(2〜2.9 )未満の二次電子放出係数を持つ物質を塗布,電着等の方法により形成したものである。帯電抑制リングと電極間の距離は使用するX線発生電圧に対して適当な絶縁距離をとるものとする。また帯電抑制リングは十分な機械的強度を有した絶縁体で支持する。
【0118】
上記のようなリングを配置することにより、電子銃からの放出電子及びターゲットからの反射電子の管球絶縁物への入射が減少する。また、帯電抑制リングはガラスバルブの二次電子放出係数(2〜2.9 )未満の二次電子放出係数を持つ物質であるのでガラスバルブに比し二次電子放出量が少なく正の帯電電位を抑制することができる。塗布,電着による形成方法によりガラスバルブの二次電子放出係数(2〜2.9 )未満の二次電子放出係数を持つ物質の使用量を低減することができることから、材料コストを低減できる。
【0119】
電位測定位置87にて測定した電位の時間変化と管電流の時間変化は実施例1の測定結果である図5とほぼ同様の結果となる。ただしリングの存在によりできるフィラメントおよびターゲットの電子線照射部位から発生する電子線の射影部では、実施例1に比し帯電を抑制できる。帯電抑制構造が無い場合の電位の時間変化51と帯電抑制構造がある場合の電位の時間変化52を比較すると、帯電抑制構造がある場合の電位52の方が電子線照射時における電位が低いことから、正への帯電が抑制されていることが分かる。
【0120】
ガラスバルブ内側表面の正帯電を抑制するということはガラスバルブ表面の電位の低下を意味することから、電子銃及びターゲットから反射電子の管球絶縁物への入射数は更に減少し、入射数減少に伴い正への帯電は抑制され放電も抑制される。更にガラスバルブ表面電位の低下により電子銃から放出される電子線の拡散が抑制されることから、電子銃からターゲットへの入射電子数が増加しX線発生効率が向上する。X線発生効率向上に伴い、同強度のX線を発生させる場合に管電流を低減できる事からX線管の発熱を抑制でき冷却機構の小型化にも寄与する。
【実施例16】
【0121】
本発明による第十六の実施の形態を説明する。図13に第十六の実施の形態におけるX線撮影装置のシステム概念図を示す。X線撮影装置はX線管球131から被験者向けてX線を放出し、透過したX線をディテクターにて検出し映像化するという仕組みである。図13ではイメージングプレートによる撮影を例にしているが、X線撮影装置の一つであるX線CT装置の場合には対向したX線管球とディテクターが被験者の周囲を回転し断層撮影する。
【0122】
このようなX線撮影装置のX線管球131として実施例1〜15に記載したX線管球を搭載することで、放電の抑制された信頼性の高いX線撮影装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】第一,二,三,四,五の実施の形態におけるガラスバルブ内側表面の概略図。
【図2】固定陽極X線管の模式図。
【図3】回転陽極X線管の模式図。
【図4】第一,二,三,四,五,六,七の実施の形態における固定陽極X線管の内部構造の概略図。
【図5】第一〜十五の実施の形態における電位測定結果の一例。
【図6】第六,七の実施の形態におけるガラスバルブ断面の概略図。
【図7】第八,九,十の実施の形態における固定陽極X線管の内部構造の概略図。
【図8】第十一,十二,十三,十五の実施の形態における固定陽極X線管の内部構造の概略図。
【図9】第十二の実施の形態における帯電抑制リングの断面概略図。
【図10】第十三の実施の形態における帯電抑制リングの断面概略図。
【図11】第十四の実施の形態における回転陽極X線管の内部構造の概略図。
【図12】第十四の実施の形態における視点112から見た回転陽極X線管の概略図。
【図13】第十六の実施の形態におけるX線撮影装置のシステム概念図。
【符号の説明】
【0124】
1…帯電抑制構造、2…ガラスバルブ表面、21,45,62,76,86,121…ガラスバルブ、22,43,74,84…陽極、23,44,75,85,117…ターゲット、24,41,72,82,115…陰極、25…電子銃フィラメント、31,
116…回転陽極、42,73,83,114…フィラメント、46,77,87,118…電位測定位置、47,112…視点、51…帯電抑制構造が無い場合の電位の時間変化、52…帯電抑制構造がある場合の電位の時間変化、61…Cr23薄膜、71,81,111,123…帯電抑制リング、78,88,113…電子線射線軸、91…帯電抑制リングの断面、101…断面形状、102…長方形の断面形状、122…電子銃、131…X線管球、132…ディテクター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向した陽極電極及び陰極電極と電気絶縁性及び真空気密性を有する容器と前記容器内に前記陽極電極に接続されたX線を放射するターゲット及び前記ターゲットにX線を照射する電子銃を備えているX線管であって、前記容器の内側の表面に前記容器の二次電子放出係数未満の二次電子放出係数をもつ物質を島状に点在させたことを特徴としたX線管。
【請求項2】
対向した陽極電極及び陰極電極,電気絶縁性及び真空気密性を有する容器、前記容器内に前記陽極電極に接続されたX線を放射するターゲット及び前記ターゲットにX線を照射する電子銃を備えているX線管であって、前記電子銃から放出される電子線の射線軸と平行な中心軸を有し、前記容器の内側に前記容器の二次電子放出係数未満の二次電子放出係数で平円盤の中心を刳り貫いたリング形状の物質が配置されていることを特徴としたX線管。
【請求項3】
請求項2に記載のX線管において、前記リング形状の物質は前記対向した電極間に複数配置されていることを特徴としたX線管。
【請求項4】
請求項2に記載のX線管において、前記リング形状の物質の断面はリング中心軸方向より径方向の長さが長いことを特徴としたX線管。
【請求項5】
請求項2に記載のX線管において、前記リング形状の物質の角は曲率をもった角であることを特徴としたX線管。
【請求項6】
請求項2に記載のX線管において、前記リング形状の物質は前記リング中心から前記リング最外周まで扇状にその一部が欠けている形状であることを特徴としたX線管。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載されたX線管を搭載したことを特徴とするX線撮影装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate