説明

X線診断装置

【課題】X線診断装置において、被検体へ注入する造影剤濃度を適切に設定することができるX線診断装置を提供すること。
【解決手段】X線診断装置100は、部位毎の造影剤濃度と血管コントラストとの関係を示す関数を格納する関数データベース11と、制御部10とを有する。制御部10は、被検体に注入する際の造影剤の注入速度を取得する造影剤情報取得部と、被検体のX線撮影を行った際の、第1のX線条件を取得する条件取得部と、画像における所定の血管コントラストを設定する血管コントラスト設定部と、第1のX線条件に基づき、同じ撮影位置でX線撮影を行ったときの第2のX線条件を推定する推定部と、推定した第2のX線条件と、取得した造影剤の注入速度とに基づき、関数データベース11に格納される関数を変換する関数変換部と、変換した関数より、設定した血管コントラストに対応する造影剤濃度を算出する造影剤濃度算出部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、X線診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線診断装置では、被検体の血管の狭窄等の病変部や形状を確認するため、血管内にカテーテルを挿入し造影剤を注入して造影撮影を行う。造影撮影において、被検体毎および被検体の撮影方向(体厚)によって血管コントラストが変化するため、被検体毎や部位毎に造影剤濃度を設定することが望ましい。しかし、実際は被検体や部位によって造影剤濃度を合わせるのが非常に困難であるので、被検体や部位に関係なく同一の造影剤濃度で行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−177252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術によると、同一の造影剤濃度で造影撮影を行う場合、被検体または部位によっては適切な造影剤濃度でないために、表示される画像の血管コントラストに差が生じてしまう。例えば、血管コントラストが高く表示される部分ははっきりとした画像となるが、必要以上に造影剤濃度が高いため、被検体の負担となってしまう。また血管コントラストが低く表示される部分は、必要なコントラストが得られないため見にくい画像となり、再度造影剤濃度を高くして撮影を行わなければならないため、被検体への造影剤量および被曝量が増加してしまう。
【0005】
また、造影剤濃度を容易に変更可能なインジェクタがあるが、得られる血管コントラストが造影撮影前に分からないため、適切な造影剤濃度設定を行うことが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態のX線診断装置は、上述した課題を解決するために、部位毎の造影剤濃度と血管コントラストとの関係を示す関数を格納する関数データベースと、被検体に注入する際の造影剤の注入速度を取得する造影剤情報取得部と、被検体のX線撮影を行った際の、第1のX線条件を取得する条件取得部と、画像における所定の血管コントラストを設定する血管コントラスト設定部と、前記条件取得部で取得した前記第1のX線条件に基づき、同じ撮影位置でX線撮影を行ったときの第2のX線条件を推定する推定部と、前記推定部で推定した前記第2のX線条件、および前記造影剤情報取得部で取得した造影剤の注入速度に基づき、前記関数データベースに格納される前記関数を変換する関数変換部と、前記関数変換部で変換した前記関数より、前記血管コントラスト設定部で設定した血管コントラストに対応する造影剤濃度を算出する造影剤濃度算出部と、を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態に係る、X線診断装置の概略構成を示すブロック図であり、X線診断装置と造影剤注入装置とのネットワークシステムを示す構成図。
【図2】関数データベースに格納される関数の概略図。
【図3】DF装置内の画像処理部の詳細を示すブロック図。
【図4】DF装置内の制御部の詳細を示すブロック図。
【図5】設定した血管コントラストと対応する造影剤濃度を算出する動作を示すフローチャート。
【図6】関数変換による造影剤濃度の算出を説明するための概念図。
【図7】算出した造影剤濃度で被検体を造影撮影する動作を示すフローチャート。
【図8】基準関数を補正して造影剤濃度を算出する動作を示すフローチャート。
【図9】画像処理でカテーテルの先端を検出する一例を示す図。
【図10】ROIの設定と、実血管コントラストを算出する一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本実施形態のX線診断装置について、添付図面を参照して説明する。
【0009】
図1は、本実施形態のX線診断装置の概略構成を示すブロック図である。
【0010】
図1は、本実施形態の一例としての、天井走行式Cアームを備えるX線診断装置100を示す。X線診断装置100は、大きくは、保持装置50およびDF(digital fluorography)装置60から構成される。保持装置50は、検査・治療室に、DF装置60は機械室などに設置される。なお、本発明に係るX線診断装置は、天井走行式Cアームを備えるX線診断装置100に限定されるものではなく、床走行式Cアームを備えるX線診断装置であってもよい。
【0011】
保持装置50は、スライド機構21、鉛直軸回転機構23、懸垂アーム24、Cアーム回転機構25、Cアーム26、X線照射装置27、受像装置28、寝台29、コントローラ30、高電圧供給装置31、駆動制御部32を設ける。
【0012】
スライド機構21は、駆動制御部32を介したコントローラ30による制御によって、鉛直軸回転機構23、懸垂アーム24、Cアーム回転機構25、Cアーム26、X線照射装置27、および受像装置28を一体として水平方向にスライドさせる。
【0013】
鉛直軸回転機構23は、駆動制御部32を介したコントローラ30による制御によって、懸垂アーム24、Cアーム回転機構25、Cアーム26、X線照射装置27、および受像装置28を一体として鉛直軸回転方向に回転させる。
【0014】
懸垂アーム24は、鉛直軸回転機構23によって支持される。
【0015】
Cアーム回転機構25は、駆動制御部32を介したコントローラ30による制御によって、Cアーム26、X線照射装置27、および受像装置28を一体として懸垂アーム24に対する回転方向に回転させる。
【0016】
Cアーム26は、Cアーム回転機構25によって支持され、X線照射装置27と受像装置28とを、被検体Pを中心に対向配置させる。Cアーム26の背面又は側面にはレール(図示しない)が設けられ、Cアーム回転機構25とCアーム26とによって挟み込まれる当該レールを介して、Cアーム26は、駆動制御部32を介したコントローラ30による制御によって、X線照射装置27、および受像装置28を一体としてCアーム26の円弧方向に円弧動させる。
【0017】
X線照射装置27は、Cアーム26の一端に設けられる。X線照射装置27は、駆動制御部32を介したコントローラ30による制御によって、前後動が可能なように設けられる。X線照射装置27は、高電圧供給装置31から高電圧電力の供給を受けて、高電圧電力の条件に応じて被検体Pの所定部位に向かってX線を照射する。X線照射装置27は、X線の出射側に、複数枚の鉛羽で構成されるX線照射野絞りや、シリコンゴム等で形成されハレーションを防止するために所定量の照射X線を減衰させる補償フィルタ等を設ける。
【0018】
受像装置28は、Cアーム26の他端であってX線照射装置27の出射側に設けられる。受像装置28は、駆動制御部32を介したコントローラ30による制御によって、前後動が可能なように設けられる。受像装置28は、FPD(Flat Panel Detector:平面検出器)28aを含む。FPD28aは、平面的に配列された複数の検出素子によりX線を検出して電気信号に変換する。
【0019】
寝台29は、床面に支持され、天板(カテーテルテーブル)29aを支持する。寝台29は、駆動制御部32を介したコントローラ30による制御によって、天板29aを水平(X、Z軸方向)動、上下(Y軸方向)動およびローリングさせる。天板29aは、被検体Pを載置可能である。なお、保持装置50は、X線照射装置27が天板29aの下方に位置するアンダーチューブタイプである場合を説明するが、X線照射装置27が天板29aの上方に位置するオーバーチューブタイプである場合であってもよい。
【0020】
コントローラ30は、図示しないCPU(Central Processing Unit)およびメモリを含んでいる。コントローラ30は、後述する操作部13からの指示に従って、高電圧供給装置31、および駆動制御部32等の動作を制御する。
【0021】
高電圧供給装置31は、コントローラ30の制御に従って、X線照射装置27に高電圧電力を供給する。
【0022】
駆動制御部32は、コントローラ30の制御に従って、スライド機構21、鉛直軸回転機構23、Cアーム回転機構25、Cアーム26、X線照射装置27、受像装置28、および寝台29の天板29aをそれぞれ駆動可能である。
【0023】
DF装置60は、コンピュータをベースとして構成されており、制御部10、表示部12、操作部13、通信部15、記憶部16、情報記憶媒体17、画像処理部18、画像データベース19、関数データベース11を含み、バスによって相互に通信可能に接続されて構成されている。DF装置60の制御部10は、保持装置50のコントローラ30と接続されて相互の動作を制御する。またDF装置60は、病院基幹のLAN(Local Area Network)等のネットワークNを介して、造影剤注入装置200等の外部装置と相互に通信可能である。なお、DF装置60は、直接造影剤注入装置200と接続して通信を行ってもよい。
【0024】
操作部13はキーボードやマウス等であり、データの入力を行う。また操作部13は、コントローラ30および駆動制御部32を介して、保持装置50の各機構の動作を指示する。表示部12はモニタ等である。通信部15は、病院内LANに接続し、例えば造影剤注入装置200等といった外部の装置との通信を行う。
【0025】
記憶部16は、制御部10や通信部15などのワーク領域となるもので、RAM(Random Access Memory)などにより実現できる。また記憶部16は、透視画像またはDA画像における直前のX線条件を一時的に記憶する。
【0026】
情報記憶媒体17(コンピュータにより読み取り可能な媒体)は、プログラムやデータなどを格納するものであり、ハードディスク、或いはメモリ(Flash Memory、ROM:Read Only Memory)などにより実現できる。情報記憶媒体17には、本実施形態の各部としてコンピュータを機能させるためのプログラム(各部の処理をコンピュータに実行させるためのプログラム)、複数のアプリケーション等が記憶される。
【0027】
制御部10は、全体の制御を司り、様々な演算処理や制御処理などを行う演算装置である。制御部10の機能は各種プロセッサ(CPU、DSP等)、ASIC(ゲートアレイ等)などのハードウェアや、プログラムにより実現できる。制御部10は、情報記憶媒体17に格納されるプログラム(データ)に基づいて本実施形態の種々の処理を行う。
【0028】
画像データベース19は、保持装置50のFPD28aから出力された投影画像データを記憶する。また、画像処理部18内の画像処理回路182(図3に図示)から出力された透視画像および撮影画像(DA画像)をデータとして記憶する。詳細は後述する。
【0029】
関数データベース11は、各部位の平均的な血管径における、造影剤濃度と血管コントラストとの関係を示す関数を格納する。
【0030】
図2は、関数データベース11に格納される関数の概略図を示す。
【0031】
図2に示すように、関数データベース11には、冠状動脈、大動脈等各部位の血管径によって異なる関数が格納されている。関数データベース11は、血管径毎に、例えば基準関数A、X線条件変換関数B、造影剤の注入速度変換関数Cを格納する。
【0032】
基準関数Aは、各血管径における所定基準値のX線条件と所定基準値の造影剤注入速度の場合における、造影剤濃度と血管コントラストとの関係を示す。X線条件には様々な要素があるが、ここでは血管コントラストに特に影響の大きい管電圧をX線条件として用いる。
【0033】
X線条件変換関数Bは、X線条件のうち管電圧をパラメータとした造影剤濃度と血管コントラストとの関係を示す。管電圧が大きいと、X線のエネルギーが上がり、被検体を透過しやすくなる。そのため、被検体の体厚の薄いところと厚いところとの透過率が近い値になり、血管コントラストが低くなる。
【0034】
注入速度変換関数Cは、造影剤注入速度をパラメータとした造影剤濃度と血管コントラストとの関係を示す。
【0035】
画像処理部18は、画像データベース19に格納される画像データの各種処理を行う。
【0036】
図3は、DF装置60内の画像処理部18の詳細を示すブロック図である。
【0037】
図3に示すように、画像処理部18は、画像取得部181、画像処理回路182、カテーテル検出部183、領域設定部184、血管コントラスト算出部185を含む。
【0038】
画像取得部181は、画像データベース19に格納されたX線画像データを取得する。
【0039】
画像処理回路182は、画像取得部181が画像データベース19から取得した透視画像および撮影画像(DA画像)のデータに対して画像処理を行う。画像処理としては、データに対する拡大/階調/空間フィルタ処理や、時系列に蓄積されたデータの最小値/最大値トレース処理、およびノイズを除去するための加算処理等が挙げられる。なお、画像処理回路182による画像処理後のデータは、表示部12に出力されると共に、画像データベース19に記憶される。
【0040】
カテーテル検出部183は、画像取得部181で取得した画像データ、または画像処理回路182で画像処理を行った画像データよりカテーテルを検出する。
【0041】
領域設定部184は、カテーテル検出部183で検出したカテーテル先端の画像について、複数のROI(Region Of Interest:対象領域)を設定する。
【0042】
血管コントラスト算出部185は、領域設定部184で設定した各ROI内の画素の平均画像レベルから、実血管コントラストを算出する。詳細は後述する。
【0043】
表示部12は、制御部10の制御によって、透視画像および撮影画像(DA画像)のデータに、患者名等の検査情報(パラメータの文字情報および目盛等)を合成し、合成信号をD/A変換後、ビデオ信号として表示する。表示部12は、画像処理回路182から出力される透視画像および撮影画像をライブ表示するライブモニタや、画像処理回路182から出力される撮影画像を静止画像表示、また、動画再生表示する参照モニタや、FOV(field of view)切り替えのためのデータ等、主に保持装置50の制御を行なうためのデータを表示するシステムモニタ等を含む。
【0044】
図4は、DF装置60内の制御部10の詳細を示すブロック図である。
【0045】
図4に示すように、制御部10は、造影剤情報取得部101、X線条件取得部102、推定部103、血管コントラスト設定部104、関数変換部105、濃度−血管コントラスト算出部106、補正演算部107を含む。
【0046】
造影剤情報取得部101は、造影剤の注入速度を造影剤注入装置200から通信部15を介して取得する。
【0047】
X線条件取得部102は、画像取得部181が取得した透視画像またはDA画像それぞれの、直前のX線条件を取得する。
【0048】
推定部103は、X線条件取得部102で取得した透視時のX線条件より、透視時と同じ被検体内の位置でDA撮影を行うときのX線条件を推定する。透視撮影は低線量のX線照射であり、透視によってカテーテルを確認することで、被曝を抑えることができる。一方、DA撮影は線量が高いため血管コントラストがはっきりとした画質となるが、病変位置が確定していない場合、被検体への被曝量が多くなってしまう。また、透視撮影とDA撮影では線量が異なるため、X線条件が異なる。そこで推定部103は、透視時のX線条件より、透視時と同じ被検体内の位置におけるDA撮影時のX線条件を推定する。
【0049】
血管コントラスト設定部104は、ユーザが操作部13で入力した、所望のX線画像の血管コントラストの値を設定する。
【0050】
関数変換部105は、造影剤の注入速度、およびX線条件に基づき、関数データベース11に格納される関数を変換する。また関数変換部105は、後述する補正演算部107で算出した、被検体の所定部位における補正係数に基づき、関数データベース11に格納される関数を補正する。詳細は後述する。
【0051】
濃度−血管コントラスト算出部106は、関数変換部105で変換した関数に基づき、血管コントラスト設定部104で設定した血管コントラストに対応する造影剤濃度、または被検体Pに注入した造影剤濃度に対応する血管コントラストを算出する。
【0052】
補正演算部107は、血管コントラスト設定部104で設定した血管コントラストと、血管コントラスト算出部185(図3に図示)で算出した実血管コントラストとを比較して補正係数を算出する。詳細は後述する。
【0053】
次に、上記構成のX線診断装置の動作について説明する。
【0054】
まず、所定部位で設定した血管コントラストに対応する造影剤濃度を算出する動作について、図5に示すフローチャートを参照して説明する。
【0055】
ユーザは操作部13を介して、所定の部位と、所望のX線画像の血管コントラストの値とを入力し、血管コントラスト設定部104はこの血管コントラストの値を設定する(ステップS101)。次に制御部10は、ステップS101で設定した所定の部位に対応した関数データベース11内の基準関数A、X線条件変換関数B、注入速度変換関数C(図2参照)を選択する(ステップS102)。次に、ユーザは被検体Pの大腿部からカテーテルを挿入し、カテーテルの位置と保持装置50の各動作機構とを位置合わせして、X線透視撮影を行う(ステップS103)。
【0056】
X線透視撮影した透視画像データは、画像処理部18の画像処理回路182で画像処理を行い、表示部12に表示される(ステップS104)。
【0057】
次にX線条件取得部102は、ステップS103で行った透視撮影における、直前のX線条件を取得し(ステップS105)、記憶部16に一時的に記憶する。また、造影剤情報取得部101は、造影剤の注入速度等、造影剤の設定情報を造影剤注入装置200から通信部15を介して取得する(ステップS107)。
【0058】
次に推定部103は、ステップS105でX線条件取得部102が取得し記憶部16に一時的に記憶した、直前の透視撮影におけるX線条件に基づき、透視時と同じ被検体内の位置でDA撮影を行ったときのX線条件を推定する(ステップS109)。次に関数変換部105は、ステップS109で推定したX線条件と、ステップS107で取得した造影剤注入速度とに基づいて、基準関数Aを変換する(ステップS111)。
【0059】
次に濃度−血管コントラスト算出部106は、ステップS111で変換した関数に基づき、ステップS101で設定した血管コントラストに対応する造影剤濃度を算出する(ステップS113)。
【0060】
図6は、関数変換による造影剤濃度の算出を説明するための概念図を示す。
【0061】
図6に示すように、関数変換部105は、ステップS109で推定したX線条件(例えば管電圧80kVとする)におけるX線条件変換関数Bと、ステップS107で取得した造影剤注入速度(例えば3ml/sとする)における注入速度変換関数Cとに基づき、基準関数Aを変換して関数Dとする。濃度−血管コントラスト算出部106は、変換した関数Dを用いて、ステップS101で設定された血管コントラストに対応する造影剤濃度を求める。
【0062】
基準X線条件をa、推定X線条件をb、基準造影剤注入速度をi、造影剤注入速度をjとすると、基準関数A、X線条件変換関数B、注入速度変換関数Cは以下の式となる。
基準関数A:y= fa,i(x)
X線条件変換関数B:y= gb,i(x)-ga,i(x)
注入速度変換関数C:y= ha,j(x)-ha,i(x)
よって、関数変換部105で変換された関数Dは以下の式となる。
【数1】

【0063】
次に、ステップS113で算出した造影剤濃度で被検体Pを造影撮影する動作について、図7及び図8に示すフローチャートを参照して説明する。
【0064】
ユーザは被検体Pに、ステップS113で算出した濃度の造影剤を注入する(ステップS201)。次にユーザは、被検体PのX線DA撮影を行う(ステップS203)。
【0065】
X線DA撮影したDA画像データは、画像処理部18の画像処理回路182で画像処理を行い、表示部12に表示され、画像データベース19に格納される(ステップS204)。
【0066】
次にX線条件取得部102は、ステップS203で行ったDA撮影時の実X線条件を取得し(ステップS205)、記憶部16に一時的に記憶する。
【0067】
次にカテーテル検出部183は、画像データベース19に格納したDA画像データより、カテーテルの先端を検出する(ステップS207)。カテーテルの先端を検出する方法は、公知の技術を用いてよい。図9に、画像処理でカテーテルの先端を検出する一例について示す。図9において、造影剤注入前の画像を(a1)、造影剤注入時の画像を(b1)とする。画像(a1)、(b1)について、画像処理を行いそれぞれ画像(a2)、(b2)を得る。具体的な画像処理手法として、Subtract Background(背景部分を滑らかにする処理)、Histogram Stretching(ヒストグラムを広げる処理)、Threshold(閾値処理(2値化))、Erosion(侵食処理)、Dilation(膨張処理)を行う。
【0068】
画像(a2)では、造影剤が注入されていないため、カテーテルの先端が簡単に検出可能であるが、画像(b2)では、造影剤注入中のためカテーテルの先端が容易に検出出来ない。そこで、画像(a2)で検出したカテーテル先端部分の画像をテンプレート(c)として切り出し、画像(b2)でテンプレートマッチングを行って、カテーテルの先端を検出する。
【0069】
図7に戻り、次に領域設定部184は、ステップS207で検出したカテーテルの先端から造影剤注入方向に、複数のROI(Region Of Interest:対象領域)を設定する(ステップS209)。
【0070】
次に血管コントラスト算出部185は、ステップS209で設定した各ROI内の画素の画像レベルに基づき、実血管コントラストを算出する(ステップS211)。
【0071】
図10は、ROIの設定と、実血管コントラストを算出する一例を示す。
【0072】
図10に示すように、領域設定部184は、カテーテル先端の、造影剤注入方向と垂直に、複数のROIを設定する。各ROI内の画素の平均画像レベルμ(μ1、μ2…)を算出し、最大のμをもつROIを背景μBackground、最小のμをもつROIを血管μVesselとする。造影剤を注入した血管は、FPD28aに到達するX線量が背景と比較して低下することにより、画像レベルが小さくなり、画像が黒っぽくなる。逆に、背景は画像レベルが大きくなり画像が白っぽくなる。図10の例では、μ2を最大、μ6を最小としている。そして、この画像における血管コントラストを次式により算出する。
【0073】
【数2】

【0074】
X線DA撮影は造影剤を注入しながら撮影するので、得られる画像は静止画像のみならず、動画像もある。よって、動画のフレーム毎に血管コントラストを算出し、全フレーム中最大の血管コントラストを実血管コントラストとして採用する。
【0075】
図8において、次に制御部10は、ステップS109で推定部103が推定したX線条件と、ステップS205でX線条件取得部102が取得し記憶部16に一時的に記憶した、直前の実X線条件とが等しいか否か判別する(ステップS213)。推定X線条件と実X線条件とが等しい場合(ステップS213で「Yes」)、補正演算部107は、ステップS211で算出した実血管コントラストを、ステップS101で設定した血管コントラストで除算し、結果を補正係数として算出する(ステップS215)。次に関数変換部105は、ステップS215で算出した補正係数を、関数データベース11内の対象部位における基準関数Aに乗算し補正する(ステップS217)。
【0076】
推定X線条件と実X線条件とが異なる場合(ステップS213で「No」)、ステップS101で設定した血管コントラストに対応する造影剤濃度が正しくないことになる。関数変換部105は、実X線条件に基づいたX線条件変換関数Bと、造影剤注入速度における注入速度変換関数Cに基づき、基準関数Aを変換する(ステップS219)。変換した基準関数をA1とする。次に濃度−血管コントラスト算出部106は、ステップS219で変換した基準関数A1に基づき、ステップS201で被検体Pに注入した造影剤濃度に対応する血管コントラストを算出する(ステップS221)。
【0077】
以降の動作はステップS215、S217と同様である。補正演算部107は、ステップS211で算出した実血管コントラストを、ステップS221で算出した血管コントラストで除算し、結果を補正係数として算出する(ステップS223)。次に関数変換部105は、ステップS223で算出した補正係数を、関数データベース11内の対象部位における基準関数Aに乗算し補正する(ステップS225)。
【0078】
次に関数変換部105は、ステップS217またはステップS225で補正された基準関数(基準関数A’とする)を、実X線条件と造影剤注入速度に基づいて変換する(ステップS227)。次に血管コントラスト設定部104は、ユーザが操作部13で入力するX線画像の血管コントラストを設定し(ステップS229)、濃度−血管コントラスト算出部106は、ステップS227で変換した関数に基づき、ステップS229で設定した血管コントラストに対応する造影剤濃度を算出する(ステップS231)。
【0079】
ステップS227、S231の動作は、それぞれステップS111、S113の動作と同様であるが、基準関数A’が被検体Pに合わせて補正された関数であるため、被検体Pに対し適切な造影剤濃度を設定することが出来る。
【0080】
なお、造影剤情報取得部101と濃度−血管コントラスト算出部106は、必ずしもX線診断装置100内に備わる必要はなく、ワークステーション等といった外部装置に備えていても良い。その際、X線診断装置100からX線画像データや関数のデータをワークステーションで受信して演算を行っても良い。また、造影剤注入装置200とワークステーションは接続されていてもされていなくても良い。造影剤注入装置200とワークステーションが接続されている場合、ワークステーションは造影剤注入速度のデータを造影剤注入装置200から直接受信し、接続されていない場合、ワークステーションはX線診断装置100を介して造影剤注入速度のデータを受信するようにしてもよい。
【0081】
以上説明したように、実施形態のX線診断装置100によれば、部位に対応した基準関数を、透視時のX線条件から推定したDA撮影を行うためのX線条件と、造影剤注入速度とに基づいて変換し、ユーザが設定する血管コントラストに対応する造影剤濃度を算出する。この造影剤濃度でDA撮影を行って、実血管コントラストを算出し、ユーザが設定した血管コントラストと比較して、基準関数を補正し、被検体に合わせた造影剤濃度を算出する。よって、必要な血管コントラストが得られる造影剤濃度を、被検体毎、かつ部位毎に得る事が出来、造影剤量や被曝量の低減を図ることができる。
【0082】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【符号の説明】
【0083】
100…X線診断装置、200…造影剤注入装置、50…保持装置、60…DF装置、21…スライド機構、23…鉛直軸回転機構、24…懸垂アーム、25…Cアーム回転機構、26…Cアーム、27…X線照射装置、28…受像装置、29…寝台、30…コントローラ、31…高電圧供給装置、32…駆動制御部、10…制御部、12…表示部、13…操作部、15…通信部、16…記憶部、17…情報記憶媒体、18…画像処理部、19…画像データベース、11…関数データベース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部位毎の造影剤濃度と血管コントラストとの関係を示す関数を格納する関数データベースと、
被検体に注入する際の造影剤の注入速度を取得する造影剤情報取得部と、
被検体のX線撮影を行った際の、第1のX線条件を取得する条件取得部と、
画像における所定の血管コントラストを設定する血管コントラスト設定部と、
前記条件取得部で取得した前記第1のX線条件に基づき、同じ撮影位置でX線撮影を行ったときの第2のX線条件を推定する推定部と、
前記推定部で推定した前記第2のX線条件、および前記造影剤情報取得部で取得した造影剤の注入速度に基づき、前記関数データベースに格納される前記関数を変換する関数変換部と、
前記関数変換部で変換した前記関数より、前記血管コントラスト設定部で設定した血管コントラストに対応する造影剤濃度を算出する造影剤濃度算出部と、
を有するX線診断装置。
【請求項2】
前記関数データベースに格納される前記関数は、部位毎に、所定のX線条件と所定の造影剤の注入速度における基準関数と、前記X線条件を変化させた場合のX線条件変換関数と、造影剤の注入速度を変化させた場合の注入速度変換関数とを含むように構成される請求項1に記載のX線診断装置。
【請求項3】
前記X線条件は、少なくともX線の管電圧であり、
前記関数データベースに格納される前記X線条件変換関数は、前記X線の管電圧をパラメータとした関数であるように構成される請求項2に記載のX線診断装置。
【請求項4】
前記造影剤濃度算出部で算出した造影剤濃度に基づいて行うX線撮影より、実血管コントラストを算出する血管コントラスト算出部と、
前記血管コントラスト算出部で算出した実血管コントラストと、前記血管コントラスト設定部で設定した血管コントラストとを比較して補正係数を算出する補正演算部と、
をさらに有し、
前記条件取得部は、前記造影剤濃度算出部で算出した造影剤濃度に基づいて行うX線撮影より、実X線条件を取得し、
前記関数変換部は、前記補正演算部で算出した補正係数に基づき、前記関数データベースに格納される前記基準関数を補正し、前記条件取得部で取得した前記実X線条件、および前記造影剤情報取得部で取得した造影剤の注入速度に基づき、補正した前記基準関数を変換するように構成される請求項1又は2に記載のX線診断装置。
【請求項5】
前記推定部で推定した前記第2のX線条件と、前記条件取得部で取得した実X線条件とが異なる場合、
前記関数変換部は、前記条件取得部で取得した前記実X線条件、および前記造影剤情報取得部で取得した造影剤の注入速度に基づき、前記基準関数を変換し、
前記補正演算部は、前記関数変換部で変換した前記基準関数より求まる血管コントラストと、前記血管コントラスト算出部で算出した実血管コントラストとを比較して補正係数を算出するように構成される請求項4に記載のX線診断装置。
【請求項6】
前記血管コントラスト算出部は、
X線画像より造影剤を注入するカテーテルの先端を検出するカテーテル検出部と、
前記カテーテル検出部で検出した前記カテーテルの先端における画像について、複数の領域を設定する領域設定部と、
前記領域設定部で設定した、全フレームにおける領域の画素から、最大のコントラストを算出する演算部と、を有する請求項4に記載のX線診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図9】
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