説明

X線透過法を用いた塗工シートの測定装置および測定方法

【課題】X線透過法を用いて走行状態の塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを精度良く簡単に測定する。
【解決手段】X線源11とX線検出器12を用いて塗工シート10の走行状態において塗工シートの塗工膜を測定する際、塗工シートの透過X線量を測定したデータと、未塗工シートの透過X線量を測定したデータとを演算部30で処理して塗工シート10の塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みをほぼ連続的に算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線透過法を用いた塗工シートの測定装置および測定方法に係り、特に塗工シートの塗工膜の単位面積当りの重量および/または厚みを測定する装置および方法に関するもので、例えば高分子膜、金属膜などの基材シート上に単層または多層の塗工膜が形成された塗工シート、2枚のシートがラミネートされたラミネートシートの走行状態においてほぼ連続的に測定する際に使用されるものである。
【背景技術】
【0002】
シート状の金属フォイルや鋼材を製造するラインでは、金属フォイル等の被測定部材に照射したX線等の放射線の透過量によって被測定部材の厚さを測定する放射線厚さ計が広く用いられている(特許文献1参照)。この放射線厚さ計は、所定の方向に定速度で移動する被測定部材を囲むように設けられたC型あるいはO型フレームを有し、被測定部材の移動方向と直角方向に測定装置を走査させ、被測定部材の各位置における放射線の透過量を測定することにより厚さを計るものである。
【0003】
ところで、上記した従来の放射線厚さ計により基材シート上に塗工膜が形成された塗工シートの塗工膜の厚さを製造ライン中で測定する場合には、塗工前の基材シートの厚さおよび塗工後の塗工シートの厚さを2台の厚さ計で別々に測定し、各測定値の差を求めて算出する方法と、1台の厚さ計で測定する場合がある。
【0004】
しかし、前者の2台の厚さ計を必要とするので、コストが高くなる。これに対して、後者の1台の厚さ計で測定する場合は、塗工後の塗工シートの全体の総合した厚さを測定することができたとしても、塗工膜の厚さを精度良く測定することは困難である。また、1台の厚さ計で測定する場合、基材と塗工膜の総合の単位面積当り重量あるいは厚みの吸収係数で測定を行うか、塗工膜の吸収係数で測定を行うとしても、別途手計算等で求めた吸収係数及び補正係数で測定を行っていたので、測定処理が繁雑であった。
【特許文献1】特開平11−142128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記した従来の問題点を解決すべくなされたもので、塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを精度良く簡単に測定し得るX線透過法を用いた塗工シートの測定装置および測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のX線透過法を用いた塗工シートの測定装置は、基材シート上に塗工膜が形成されてなる被測定塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みをX線透過法を用いて測定する塗工シートの測定装置であって、互いに対向し合うように配置されたX線源およびX線検出器と、前記基材シート上に前記塗工膜が形成されていない状態の未塗工シートが前記X線源およびX線検出器の対向間隔部に存在する時に前記X線源から照射したX線ビームが前記未塗工シートを透過した透過X線を前記X線検出器で検出した第1の透過X線量のデータと、前記X線源およびX線検出器の対向間隔部に前記被測定塗工シートが存在する時に前記X線源から照射したX線ビームが前記被測定塗工シートを透過した透過X線を前記X線検出器で検出した第2の透過X線量のデータと、規定値とを用い、所定の計算式に基づいて前記未塗工シートの単位面積当り重量および/または厚みと、前記被測定塗工シートの単位面積当り重量および/または厚みを算出し、前記各算出値を用いて前記被測定塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを算出する演算部とを具備することを特徴とする。
【0007】
ここで、前記X線源およびX線検出器は、被測定塗工シートの走行パスの両側で走行パスを挟んで対向し合うように配置されており、さらに、前記X線源およびX線検出器の相対位置を維持し、前記X線源およびX線検出器を前記走行パスの幅方向に走査させ、かつ、前記走行パスの幅方向に往復走査させる走査手段を具備することにより、前記演算部は、前記被測定塗工シートの走行状態において塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを繰り返し測定することが可能になる。
【0008】
本発明のX線透過法を用いた塗工シートの測定方法は、互いに対向し合うように配置されたX線源およびX線検出器と、前記X線検出器で検出したX線量のデータを用い、所定の計算式に基づいて演算を行う演算部とを有する測定装置を用いて、基材シート上に塗工膜が形成されてなる被測定塗工シートの前記塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを測定する際、予め、厚みtおよび/または密度ρが既知の試料として、前記被測定塗工シートの基材シートと同じ材質の基材シートからなる未塗工シート試料と、前記被測定塗工シートと同じ材質、構成からなる塗工シート試料とを用意し、前記各試料に対して別々に前記X線源からX線を照射した場合に当該試料を透過した透過X線を前記X線検出器で検出した透過X線量のデータを用い、所定の計算式に基づいて前記演算部で演算処理して前記未塗工シート試料のX線吸収係数μB および/または質量吸収係数(μ/ρ)B と前記塗工シート試料の全体のX線吸収係数μおよび/または質量吸収係数(μ/ρ)とを算出し、これらの既知の値および算出値を規定値として前記演算部に記憶させる第1のステップと、前記第1のステップで算出された前記未塗工シート試料のX線吸収係数μB および/または質量吸収係数(μ/ρ)B と、前記塗工シート試料の全体のX線吸収係数μおよび/または質量吸収係数(μ/ρ)と、前記塗工シート試料の塗工膜の厚みtC および/または単位面積当り重量WC を用い、所定の計算式に基づいて前記演算部で演算処理して前記塗工シート試料の塗工膜のX線吸収係数μC および前記厚みtC の補正値、および/または、前記塗工シート試料の塗工膜の質量吸収係数(μ/ρ)C および前記単位面積当り重量WC の補正値を算出させ、前記演算部に記憶させる第2のステップと、
前記被測定塗工シートに対して前記X線源からX線が照射された場合に当該被測定塗工シートを透過した透過X線を前記X線検出器で検出した透過X線量のデータおよび前記演算部の記憶データを用い、所定の計算式に基づいて前記演算部で演算処理して前記被測定塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを算出させる第3のステップとを具備することを特徴とする
なお、本発明において、塗工シートの塗工膜は、単層構造に限らず、多層(二層以上)構造でもよく、多層構造の場合には、塗工膜の最上層を単層構造と見做し、それ以外の下層の塗工膜および基材シートを未塗工シートと見做して取り扱うことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のX線透過法を用いた塗工シートの測定装置および測定方法によれば、塗工済みの塗工シートと未塗工シート(基材シート)を所定の手順にしたがって測定することにより、塗工シートの塗工部分(塗工膜)の単位面積当り重量あるいは厚みを精度良く簡単に測定することが可能になった。
【0010】
したがって、高分子膜、金属膜などの基材シート上に塗工膜を有する塗工シートを連続的に製造する設備とか、二枚のシートがラミネートされたラミネートシートを連続的に製造する設備などに適用して、インラインで塗工シートの塗工膜(多層構造の場合には最上層の塗工膜)の厚みを精度良く簡単に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。この説明に際して、全図にわたり共通する部分には共通する参照符号を付す。
【0012】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る塗工シートの測定装置の基本構成を示す側面図である。
【0013】
図1において、X線源11およびX線検出器12は互いに対向し合うように配置されている。なお、X線源は、照射エリアをコリメータ13で制限することが好ましい。X線源・X線検出器の対向間隔部にシートが存在する時には、X線源から照射したX線ビームはシートを透過し(X線の一部はシートで吸収されるが、一部は直進する)、X線検出器12に入射し、透過X線強度が検出される。X線源・X線検出器の対向間隔部にシートが存在しない時には、X線源から照射したX線ビームは直接にX線検出器12に入射し、照射X線強度が検出される。
【0014】
そして、X線検出器12の検出出力を適宜増幅する増幅器(図示せず)と、この増幅器の出力を電流値データに変換するアナログ・デジタル・コンバータ(ADC)23と、このADC23から入力される電流値データをデータ処理し、所定の計算式に基づいて演算する演算部30が設けられている。
【0015】
演算部30は、例えばパーソナルコンピュータが用いられており、その一例は、装置全体を統括するとともに各種演算処理を実行するCPU(中央処理装置)31と、プログラム記憶用のROM32と、データメモリ用のRAM33と、パラメータ記憶部34などを有し、パラメータ設定部35、ディスプレイ等で構成された表示部36などが接続されている。前記パラメータ設定部35は、後述する計算式に関連するパラメータ(規定値)を演算部30に入力する機能を有する。前記パラメータ記憶部34は、パラメータ設定部35から入力されたパラメータ、あるいは、予め本例の測定装置を用いて実測されたパラメータを、例えばデータテーブル形式で記憶している。
【0016】
上記演算部30において、CPU31は、ADC23から入力される電流値データを測定位置データとセットにしてRAM33に格納し、ROM32に格納されているプログラムに基づいてデータ処理を行い、塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを算出し、演算結果をRAM33に格納するとともに表示装置36で表示させる。 さらに、X線源11およびX線検出器12を互いに同期して走行パスの幅方向(塗工シート10の走行方向と直角方向)に定速度で往復駆動させるために、モータ等を含む駆動機構を用いた走査手段24が設けられている。この走査手段24は、X線源11から照射されるX線が走行パスの幅方向外側に少しずれた位置まで突出するように走査領域の一端を設定している。ここで、塗工シートの走行方向と、測定器の走査方向と、測定位置の軌跡の一例との関係を図2に示す。
【0017】
次に、本実施形態の測定装置を用いた測定方法および動作を簡単に説明する。
【0018】
本測定方法では、基材シート上に塗工膜が形成されてなる被測定塗工シートとは別に、この被測定塗工シートの基材シートと同じ材質および厚さを有する基材シートであって塗工膜が形成されていないもの(リファレンス用の未塗工シート)を用意する。そして、それぞれX線透過法を用いて測定し、各測定値を用いることにより、被測定塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを精度良く簡単に測定するものであり、測定原理は後で詳述する。
【0019】
この際、X線検出器12は、X線源・X線検出器の対向間隔部にリファレンス用の未塗工シートが存在する時にX線源から照射したX線ビームがリファレンス用の未塗工シートを透過した第1の透過X線量と、X線源・X線検出器の対向間隔部に被測定塗工シートが存在する時にX線源から照射したX線ビームが被測定塗工シートを透過した第2の透過X線量を検出する。
【0020】
また、演算部30は、前記第1の透過X線量のデータおよび規定値(基材シートの吸収係数など)を用いて所定の計算式に基づいてリファレンス用の未塗工シートの単位面積当り重量および/または厚みを算出し、また、第2の透過X線量のデータおよび規定値を用いて所定の計算式に基づいて被測定塗工シートの単位面積当り重量および/または総厚を算出する。そして、被測定塗工シートの算出値とリファレンス用の未塗工シートの算出値を用いて被測定塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを算出する。
【0021】
前記規定値(基材シートの吸収係数など)は、予め実測により採取し、演算部30のパラメータ記憶部34に記憶させておく。この規定値を採取するために、予め、厚みtおよび/または密度ρが既知の試料として、被測定塗工シートの基材シートと同じ材質の基材シートからなる未塗工シート試料と、被測定塗工シートと同じ材質、構成からなる塗工シート試料とを用意しておく。そして、各試料に対して別々にX線源11からX線を照射した場合に当該試料を透過した透過X線をX線検出器12で検出した透過X線量のデータを用い、所定の計算式に基づいて演算部30で演算処理して未塗工シート試料のX線吸収係数μB および/または質量吸収係数(μ/ρ)B と塗工シート試料の全体のX線吸収係数μおよび/または質量吸収係数(μ/ρ)とを算出する。
【0022】
次に、本例の測定装置および測定方法の測定原理を詳細に説明する。一般に、X線透過法による基本式は以下のように示される。
【0023】
I=Io exp −{(μ/ρ)×ρ×t} …(1)
=Io exp −(μ/ρ)×W …(2)
=Io exp −(μ×t) …(3)
ここで、I:透過X線の強度(透過X線量)
Io :透過前X線の強度(照射X線量)
μ:測定材のX線吸収係数 [1/cm]
ρ:測定材の密度 [g/cm3 ]
(μ/ρ):測定材の質量吸収係数[cm2 /g]
t:測定材の厚み [cm]
W:測定材の単位面積当り重量 [g/cm2 ]
である。前式(2)は測定材の単位面積当り重量Wに着目したもの、前式(3)は測定材の厚みtに着目したものである。X線吸収係数μは、同一物質であっても密度ρが異なると変化する。したがって、前式(1)は、X線吸収係数μを密度ρで割った質量吸収係数(μ/ρ)を用いている。
【0024】
なお、前記測定材が、基材シート上に塗工膜が塗工された塗工シートであり、各層(基材シートと塗工膜)を区別せずに取り扱う場合には、前式(1)〜(3)中のμは基材シートと塗工膜の総厚のX線吸収係数、(μ/ρ)は基材シートと塗工膜の総厚の質量吸収係数を表わす。
【0025】
また、前記測定材が、基材シート上に塗工膜が塗工された塗工シートであり、単一のX線源とX線検出器を用いて塗工シートを各層(基材シートと塗工膜)に分離して取り扱う場合には、X線透過法による基本式は以下のように示される。なお、表記の都合上、EXP記号に続く指数部を括弧で括ってEXP 記号と同一行に記載する。
【0026】
I=Io EXP [−{(μ/ρ)C ×ρC ×tC +(μ/ρ)B ×ρB ×tB }]
…(4)
=Io EXP [−{(μ/ρ)C ×WC +(μ/ρ)B ×WB }]
=Io EXP [−(μ/ρ)C ×{WC +WB ×(μ/ρ)B /(μ/ρ)C }]
…(5)
=Io EXP [−(μC ×tC +μB ×tB )]
=Io EXP [−μC ×{tC +(tB ×μB /μC )}] …(6)
但し I:透過X線の強度
Io :透過前X線の強度
(μ/ρ)C :塗工材の質量吸収係数
(μ/ρ)B :基材の質量吸収係数
μC :塗工材の吸収係数
μB :基材の吸収係数
ρC :塗工材の密度
ρB :基材の密度
C :塗工材の厚み
B :基材の厚み
C :塗工材の単位面積当り重量
B :基材の単位面積当り重量
である。ここで、前式(5)は測定材の単位面積当り重量に着目したもの、前式(6)は測定材の厚みに着目したものである。
【0027】
前式(1)〜(3)は、塗工膜の吸収係数と基材の吸収係数がほぼ同じか、異なってもわずかな場合は、塗工膜の測定値の誤差は少ないが、吸収係数が互いに大きく異なる場合は、塗工シートの吸収係数を採取した近辺の領域の単位面積当り重量あるいは厚みの測定誤差は少ないが、異なる領域の単位面積当り重量あるいは厚みの測定誤差は大きくなってしまう。即ち、基材の吸収係数より塗工材の吸収係数が大きい場合には、塗工膜の厚みの測定値は実際の厚みの変化より大きく現われる。逆に、基材の吸収係数より塗工材の吸収係数が小さい場合には、塗工膜の厚みの測定値は実際の厚みの変化より小さく現われる。
【0028】
そこで、前式(4)〜(6)に示したように、塗工膜と基材シートをそれぞれ分離して扱うことにより塗工膜の単位面積当り重量あるいは厚みを正確に求めることができる。但し、塗工材を基材シートから剥離して測定することは困難であるので、本実施形態では、被測定塗工シートと未塗工シート(基材シート)とを用いてそれぞれ測定し、各測定値を用いて算出するようにしている。
【0029】
塗工シートを製造する際、その基材シートは一定の素材(単位面積当り重量あるいは厚みの素材)を用いて塗工するのが一般的である。このことから、基材シートを一定と見なして測定の条件を決めることで測定が可能な場合が多い。この場合には、以下に述べるように塗工シートの塗工膜を精度良く簡単に測定することが可能になる。
【0030】
基材シートの条件が一定とすると、前式(5)は次式のようになる。
【0031】
I=Io EXP [−(μ/ρ)C ×(WC +b1)] …(5a)
b1=WB ×(μ/ρ)B /(μ/ρ)C …(5b)
Ln(I/Io )=−(μ/ρ)C ×(WC +b1) …(7)
C ={−Ln(I/Io )/(μ/ρ)C }−b1 …(8)
したがって、前式(8)および補正値b1を示す式(5b)中の(μ/ρ)C 、WB 、(μ/ρ)B が判明していれば、Io 、Iを測定することにより、塗工膜の単位面積当り重量WC を精度良く求めることができる。
【0032】
上記と同様に、基材シートの条件が一定とすると、前式(6)は次式のようになる。
【0033】
I=Io EXP [−μC ×(tC +b2)] …(6a)
b2=tB ×μB /μC …(6b)
Ln(I/Io )=−μC ×(tC +b2) …(9)
C ={−Ln(I/Io )/μC }−b2 …(10)
したがって、前式(10)および補正値b2を示す式(6b)中のμC 、tB 、μB が判明していれば、Io 、Iを測定することにより、塗工膜の厚みtC を精度良く求めることができる。
【0034】
前式(8)、(10)において、Io は、X線源11とX線検出器12との間に塗工シートが走行していない(存在しない)状態、本例では、X線源11から照射されるX線が走行パスの外側にずれた位置に走査されている状態において、X線源11から対向するX線検出器12にX線が直接に照射された照射X線の値を測定し、その結果に基づいて補正された照射X線の値が使用される。これに対して、Iは、X線源11とX線検出器12との間に塗工シートが走行している(存在する)状態の時に測定された透過X線の値である。
【0035】
補正値b1を示す式(5b)中のWB 、(μ/ρ)B 、(μ/ρ)C 、および、補正値b2を示す式(6b)中のtB 、μB 、μC は、規定値であり、予め、本例の測定装置を用いて実測し、図1中のパラメータ記憶部34に記憶させておき、その後の演算に際してパラメータ記憶部34から供給される。しかし、上記規定値のうちの塗工膜の(μ/ρ)C あるいはμC を求める際、一般的に基材シートから塗工膜を剥離して測定することは困難な場合が多い。
【0036】
そこで、塗工膜の(μ/ρ)C あるいはμC を間接的に求めるために、予め、厚みtおよび/または密度ρが既知の試料として、被測定塗工シートの基材シートと同じ材質の基材シートからなる未塗工シート試料と、被測定塗工シートと同じ材質、構成からなる塗工シート試料とを用意しておく。そして、各試料に対して別々に前記X線源11からX線を照射した場合に当該試料を透過した透過X線をX線検出器12で検出した透過X線量のデータを用い、所定の計算式に基づいて演算部30で演算処理して未塗工シート試料のX線吸収係数μB および/または質量吸収係数(μ/ρ)B と塗工シート試料の全体(総厚)のX線吸収係数μおよび/または質量吸収係数(μ/ρ)とを算出し、これらの既知の値および算出値(実測値)を規定値として演算部30に記憶させる。
【0037】
即ち、総厚の吸収係数μを用いて測定する場合の前式(2)、(3)と、塗工シートを各層に分けてそれぞれの吸収係数μC 、μB を用いて測定する場合の前式(5)、(6)との間には、同一の試料を測定する場合には次の関係が成立する。
【0038】
前式(2)、(5)は等しくなるので、
(μ/ρ)×W=(μ/ρ)C ×WC +(μ/ρ)B ×WB
(μ/ρ)C ={(μ/ρ)×W−(μ/ρ)B ×WB }/WC …(11)
したがって、塗工シート試料の総厚の質量吸収係数(μ/ρ)、単位面積当り重量W、未塗工シート試料の質量吸収係数(μ/ρ)B 、単位面積当り重量WB 、塗工シート試料の塗工膜の単位面積当り重量WC を用いて、自動計算で塗工膜の質量吸収係数(μ/ρ)C を求めることができる。
【0039】
また、前式(3)、(6)は等しくなるので、
μ×t=μC ×tC +μB ×tB
μC =(μ×t−μB ×tB )/tC …(12)
したがって、塗工シート試料の総厚の吸収係数μと厚みt、未塗工シート試料の吸収係数μB と厚みtB 、塗工シート試料の塗工膜の塗工厚みtC を用いて、自動計算により塗工膜の吸収係数μC を求めることができる。
【0040】
即ち、上記した本例の測定方法によれば、未塗工シート試料および塗工シート試料を順次に測定し、それぞれ吸収係数を自動的に求め、塗工膜の吸収係数を自動的に計算で求め、且つ、測定条件を格納することができる。
【0041】
次に、上記したような測定原理を用いる測定方法の第1の実施形態について、図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0042】
第1の実施形態に係る測定方法は、走行状態の連続した塗工シートに対して横方向に測定器(X線源とX線検出器)を走行(走査)させながら塗工シートの幅方向にほぼ連続的に測定するものである。
【0043】
予め、厚みtおよび/または密度ρが既知の試料として、被測定塗工シートの基材シートと同じ材質の基材シートからなる未塗工シート試料と、被測定塗工シートと同じ材質、構成からなる塗工シート試料とを用意しておく。そして、互いに対向し合うように配置されたX線源11およびX線検出器21と、X線源およびX線検出器の相対位置を維持して走行パスの幅方向に往復走査を繰り返す走査手段と、前記X線検出器で検出したX線量をデータ処理し、所定の計算式に基づいて被測定塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを算出する演算部とを有する測定装置を用いるものとする。
【0044】
まず、第1のステップS1では、塗工シート試料を吸収係数採取位置(X線源とX線検出器との対向間隔部)にセットし、X線が照射された場合の塗工シート試料の吸収係数μおよび/または質量吸収係数(μ/ρ)を自動的に採取し、その結果をパラメータ記憶部35に格納する。次に、基材シート(未塗工シート)試料を吸収係数採取位置にセットし、X線が照射された場合の基材シートの吸収係数μB および/または質量吸収係数(μ/ρ)B を自動的に採取し、その結果をパラメータ記憶部35に格納する。なお、吸収係数採取の過程は、塗工シート試料と未塗工シート試料の順番が反対でもよい。
【0045】
第2のステップS2では、前式(11)で示される塗工膜の質量吸収係数(μ/ρ)C および前式(5b)で示される補正値b1、および/または、前式(12)で示される塗工膜の吸収係数μC および前式(6b)で示される補正値b2を計算し、それぞれの結果をパラメータ記憶部35に記憶させる。
【0046】
第3のステップS3では、被測定塗工シートの走行状態に対してX線源からX線が照射された場合に当該被測定塗工シートを透過した透過X線をX線検出器で検出した透過X線量のデータおよび規定値を用い、所定の計算式に基づいて演算部で演算処理して被測定塗工シートの単位面積当り重量Wおよび/または厚みtを算出させる。この際、まず、ステップS31で、X線源から照射されるX線が走行パスの外側にずれた位置になった状態の時に、X線検出器で検出した出力に基づいてX線源の照射X線強度Io を自動的に測定させる。次に、ステップS32で、走行状態の被測定塗工シートにX線を透過させた時のX線検出器の出力に基づいて透過X線強度Iを自動的に測定させる。次に、ステップS33で、それまでの各ステップで得られた規定値および実測値を用いて前式(8)に基づいて被測定塗工シートの単位面積当り重量WC を演算部で自動的に算出させ、および/または、前式(10)に基づいて厚みtC を演算部で自動的に算出させ、結果の記録、表示を行わせる。
【0047】
そして、測定を継続する期間中は、走行状態の被測定塗工シートに対する透過X線強度Iの測定を繰り返す。なお、第3のステップS3の処理過程において、X線源から照射されるX線が走行パスの外側にずれた位置になった状態の時にX線検出器で検出した出力に基づいてX線源の照射X線強度Io を自動的に測定し、前回測定された照射X線強度Ioと比較して補正されたIo を求め、前記計算式中の経時的に変化した照射X線強度を補正する第4のステップを付加するようにしてもよい。
【0048】
以上述べたような本実施形態の測定装置および測定方法を、基材上に塗工材を塗工する製造ライン中の塗工シートの搬送ラインの一部にインライン方式で適用することにより、塗工膜の厚みを精度良く簡単に測定することができる。
【0049】
図4は、図1の測定装置の一具体例を概略的に示す斜視図である。
【0050】
図4において、例えばO型フレーム中の左右一対のフレーム41、41の間に、上下一対のレール42,43が隙間をあけて水平に取付けられている。上下一対のレール42,43間は、帯状の細長い塗工シート10が図示矢印方向に走行する走行パスの一部となっている。
【0051】
一方のレール(本例では上側のレール42)には、図1中に示したようなX線源11がレール長手方向に摺動可能に取付けられており、X線源11はレール長手方向に往復移動が可能である。ここで、X線源11は、例えばX線管カバーの内部に、X線管のX線照射口を下向きにして内蔵しており、X線管カバーの下部にはX線が通り抜ける通光孔が形成されている。上記X線源11は、X線管の陰極からの電子ビームを陽極ターゲットに照射させてX線を生成する。このX線としては、X線透過法による測定に適したエネルギーのX線を用いており、X線のエネルギー分布は連続X線であっても特定X線であってもよい。 他方のレール(本例では下側のレール43)には、図1中に示したようなX線検出器12がレール長手方向に摺動可能に取付けられており、X線検出器12はレール長手方向に往復移動が可能である。ここで、X線検出器12は、入射したX線を例えばイオンチャンバーで受けて入射したX線信号に比例した電流信号に変換するか、または、シンチレータで受けて光に変換し、例えばフォトマルチプライアやフォトダイオードによって入射したX線信号に比例した電流信号に変換する(シンチレーション検出器)。
【0052】
さらに、図1中に示したようにX線源11およびX線検出器12を互いに同期して(相対位置を維持したまま)走行パスの幅方向(レール長手方向)に定速度で往復駆動させるために、モータ等を含む駆動機構を用いた走査手段(図示せず)が測定装置に内蔵されている。この走査手段は、走査領域の一端が、X線源11から照射されるX線が走行パスの幅方向外側に少しずれた位置になるように走査駆動する。また、例えばフレーム41の前面には、装置の操作部44が設けられている。
【0053】
上記構成により、X線源11およびX線検出器12がレール長手方向のどの位置に移動しても、X線源11から照射されたX線はX線検出器12で検出される。X線検出器12で検出されたX線量は電流値に変換され、図1を参照して前述したようにA/Dコンバータ23により電流値データに変換された後に演算部30に入力される。
【0054】
<第2の実施形態>
第2の実施形態では、前述した第1の実施形態と比べて、停止状態の塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを測定する点が異なり、測定原理は同様である。第2の実施形態に係る測定方法は、前述した第1の実施形態に係る測定方法と比べて、第3のステップS3で停止状態の非測定工シートに対して自動的に測定する点が異なり、その他は同様である。第2の実施形態によれば、走査手段24を省略することができる、あるいは、走査手段24を省略しない場合でもその動作を停止させることができる。
【実施例】
【0055】
本実施形態のX線透過法を用いた測定装置は、ポリエステルフィルム等の合成樹脂フィルム、紙、非鉄金属箔等のベースに、セラミック材、磁気を帯びた磁性体やフィラー、チタン、鉛等の粉体が塗布された帯状の各種の塗工シートを測定することが可能である。具体例として、塗工膜として酸化鉄が用いられている磁気カード用の塗工シートとか、リチュームイオン電池の陽極用の塗工シート(例えばアルミ基板にコバルト酸リチュームが塗工されている)とか、リチュームイオン電池の負極用の塗工シート(例えば銅基板にカーボンが塗工されている)を測定することが可能である。
【0056】
[実施例1] セラミックコンデンサは、PETフィルムを基材として、セラミック材(BaTiO2 等)を必要な厚みに塗工し、焼成を行い、コンデンサ用の誘電体として作成される。このセラミック材を塗工する過程で塗工膜の単位面積当り重量および/または厚さを測定する場合に、本発明の測定装置を用いる。
【0057】
通常、基材(PETフィルム)は、20〜50μm程度の厚さを有し、塗工膜(セラミック材)は2〜50μm程度の厚さを有する。数μmの塗工されたセラミックを基材から剥がして取り扱うことは困難であり、基材に塗工された試料と基材のPETフィルムは容易に準備が可能である。本実測例では、
基材シートは、厚さ38μmのPETフィルム、吸収係数μB =0.002 μm-1
塗工シート(塗工試料)の塗工材(塗工膜)は10μmであり、
塗工シート(塗工試料)の総厚は48μm、総厚の吸収係数μ=0.02 μm-1
とする。
【0058】
これらの値および前式(10)、(6b)に基づき、塗工材の吸収係数μC および補正値b2を求めると、以下のようになる。
【0059】
μC =(0.02*48−0.002 *38)/10=0.0884μm-1
b2=0.002 *38/0.0884=0.86
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る塗工シートの測定装置の基本構成を示す側面図。
【図2】図1の測定装置において塗工シートの走行方向と測定器の走査方向と測定位置の軌跡の一例との関係を示す平面図。
【図3】図1の測定装置を用いた測定方法の一例を示すフローチャート。
【図4】図1の測定装置の一具体例を概略的に示す斜視図。
【符号の説明】
【0061】
10…塗工シート、10a…塗工シートの塗工膜、10b…塗工シートの基材シート、11…X線源、12…X線検出器、13…コリメータ、23…A/Dコンバータ、24…走査手段、30…演算部、31…CPU、32…プログラム記憶部用ROM、33…データメモリ用RAM、34…パラメータ記憶部、35…パラメータ設定部、36…表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シート上に塗工膜が形成されてなる被測定塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みをX線透過法を用いて測定する塗工シートの測定装置であって、
互いに対向し合うように配置されたX線源およびX線検出器と、
前記基材シート上に前記塗工膜が形成されていない状態の未塗工シートが前記X線源およびX線検出器の対向間隔部に存在する時に前記X線源から照射したX線ビームが前記未塗工シートを透過した透過X線を前記X線検出器で検出した第1の透過X線量のデータと、前記X線源およびX線検出器の対向間隔部に前記被測定塗工シートが存在する時に前記X線源から照射したX線ビームが前記被測定塗工シートを透過した透過X線を前記X線検出器で検出した第2の透過X線量のデータと、規定値とを用い、所定の計算式に基づいて前記未塗工シートの単位面積当り重量および/または厚みと、前記被測定塗工シートの単位面積当り重量および/または総厚みを算出し、前記各算出値を用いて前記被測定塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを算出する演算部とを具備することを特徴とするX線透過法を用いた塗工シートの測定装置。
【請求項2】
前記X線源およびX線検出器は、被測定塗工シートの走行パスの両側で走行パスを挟んで対向し合うように配置されており、前記X線源およびX線検出器の相対位置を維持し、前記X線源およびX線検出器を前記走行パスの幅方向に走査させ、かつ、前記走行パスの幅方向に往復走査させる走査手段
をさらに具備し、前記演算部は、前記被測定塗工シートの走行状態において塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを繰り返し測定することを特徴とする請求項1記載のX線透過法を用いた塗工シートの測定装置。
【請求項3】
前記走査手段は、前記X線源およびX線検出器を前記走行パスの外側にずれた位置まで走査させるものであり、
前記演算部は、前記X線源の照射位置が前記走行パスの外側にずれた位置に走査された状態で前記X線源から照射したX線ビームを直接に前記X線検出器で受けて検出した照射X線量を用いて前記第2の透過X線量の経時変化を補正するようにデータ処理することを特徴とする請求項2記載のX線透過法を用いた塗工シートの測定装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記被測定塗工シートの塗工膜の厚みtC を以下の計算式に基づいて算出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載のX線透過法を用いた塗工シートの測定装置。
C ={−Ln(I/Io )/μC }−b
b=tB ×μB /μC
但し I;透過X線強度
I0 ;照射X線強度
μC ;塗工シートの塗工膜の吸収係数
B ;未塗工シート(基材)の厚み
μB ;未塗工シート(基材)の吸収係数
【請求項5】
前記演算部は、前記被測定塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量WC を以下の計算式に基づいて算出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1つに記載のX線透過法を用いた塗工シートの測定装置。
C ={−Ln(I/Io )/(μ/ρ)C }−b
b=WB ×(μ/ρ)B /(μ/ρ)C
但し I;透過X線強度
I0 ;照射X線強度
(μ/ρ)C ;塗工シートの塗工膜の質量吸収係数
B ;未塗工シート(基材)の単位面積当り重量
(μ/ρ)B ;未塗工シート(基材)の質量吸収係数
【請求項6】
互いに対向し合うように配置されたX線源およびX線検出器と、
前記X線検出器で検出したX線量のデータを用い、所定の計算式に基づいて演算を行う演算部とを有する測定装置を用いて、基材シート上に塗工膜が形成されてなる被測定塗工シートの前記塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを測定する際、
予め、厚みtおよび/または密度ρが既知の試料として、前記被測定塗工シートの基材シートと同じ材質の基材シートからなる未塗工シート試料と、前記被測定塗工シートと同じ材質、構成からなる塗工シート試料とを用意し、前記各試料に対して別々に前記X線源からX線を照射した場合に当該試料を透過した透過X線を前記X線検出器で検出した透過X線量のデータを用い、所定の計算式に基づいて前記演算部で演算処理して前記未塗工シート試料のX線吸収係数μB および/または質量吸収係数(μ/ρ)B と前記塗工シート試料の全体のX線吸収係数μおよび/または質量吸収係数(μ/ρ)とを算出し、これらの既知の値および算出値を規定値として前記演算部に記憶させる第1のステップと、
前記第1のステップで算出された前記未塗工シート試料のX線吸収係数μB および/または質量吸収係数(μ/ρ)B と、前記塗工シート試料の全体のX線吸収係数μおよび/または質量吸収係数(μ/ρ)と、前記塗工シート試料の塗工膜の厚みtC および/または単位面積当り重量WC を用い、所定の計算式に基づいて前記演算部で演算処理して前記塗工シート試料の塗工膜のX線吸収係数μC および前記厚みtC の補正値、および/または、前記塗工シート試料の塗工膜の質量吸収係数(μ/ρ)C および前記単位面積当り重量WC の補正値を算出させ、前記演算部に記憶させる第2のステップと、
前記被測定塗工シートに対して前記X線源からX線が照射された場合に当該被測定塗工シートを透過した透過X線を前記X線検出器で検出した透過X線量のデータおよび前記演算部の記憶データを用い、所定の計算式に基づいて前記演算部で演算処理して前記被測定塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを算出させる第3のステップと、
を具備することを特徴とするX線透過法を用いた塗工シートの測定方法。
【請求項7】
前記測定装置として、前記X線源およびX線検出器の相対位置を維持し、基材シート上に塗工膜が形成されてなる被測定塗工シートの走行パスの幅方向に往復走査させる走査手段をさらに具備し、
前記第3のステップでは、前記被測定塗工シートの走行状態に対して前記X線源からX線を照射し、前記被測定塗工シートの塗工膜の単位面積当り重量および/または厚みを繰り返し測定する
ことを特徴とする請求項6記載のX線透過法を用いた塗工シートの測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−90892(P2006−90892A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277864(P2004−277864)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(591114641)株式会社ヒューテック (19)
【Fターム(参考)】