説明

X線造影ガーゼ

【課題】X線造影糸を構成要素とするガーゼであって、X線造影糸の脱落が顕著に抑制されているX線造影ガーゼを提供する。
【解決手段】X線造影ガーゼは、綿糸からなる緯糸と経糸とを互いに直交または略直交させたガーゼであって、緯糸および/または経糸の少なくとも1本がX線造影糸条に置換されており、X線造影糸条が、複数のX線造影糸と少なくとも1本の綿糸との束を、少なくとも1本の綿糸で巻き付けることにより束ねられたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内での残留の有無をX線検査により確認することができるX線造影ガーゼに関するものである。
【背景技術】
【0002】
外科手術の際には、出血を拭き取るなどの目的のために多数のガーゼが使用されるが、体内においては血液等を吸収したガーゼは肉眼による識別が難しいために、ガーゼの残留事故が起こる場合がある。体内に残留したガーゼは、痛みや違和感或いは微熱等、様々な身体の不調をきたすことから、手術を終了するに当たっては、全てのガーゼを体内から取り除く必要がある。そこで、ガーゼの一部をX線造影糸で構成し、手術部位を閉じる前にX線検査をすることによって、ガーゼの残留の有無を確認することが行なわれている。
【0003】
ところがX線造影糸は、綿糸よりなるガーゼから脱落し易いという問題がある。つまり、X線造影糸は、ポリプロピレン等の有機高分子樹脂に硫酸バリウム等のX線非透過性物質を加えて繊維状にしたものであるが、この有機高分子樹脂は表面が円滑で綿糸との摩擦係数が小さい。それに加えて、X線非透過性物質が多量に添加されていることから、X線造影糸の可撓性は低く、綿糸に比して屈曲し難い。その結果、ガーゼが小さくなればなる程、また、ガーゼを折り曲げるなどした場合において、X線造影糸がガーゼから抜け落ちるおそれがある。そこで、X線造影糸のガーゼからの脱落を抑制するための技術が、これまでにも種々考案されている。
【0004】
例えば特許文献1には、木綿の経糸と緯糸が交互に交差して平織りされたガーゼ本体に、X線造影糸と織り糸とが互いにもじれながら織り込まれているガーゼが開示されている。また、特許文献2の内視鏡用布帛の構成要素であるX線非透過性熱可塑性樹脂性糸条は、X線非透過性物質を含有するポリプロピレン系フィラメントに、ポリエステル系フィラメントが巻き付けられているものであり、ポリプロピレン系フィラメントに割れが生じても、柔軟なポリエステル系フィラメントにより、その脱落が抑制されている。更に、特許文献3には、X線非透過性の熱可塑性樹脂製糸条の少なくとも一部が、ガーゼに熱融着されている内視鏡用ガーゼが開示されている。また、X線造影糸に対して平行に近接する複数本の構成糸を、X線造影糸を含んで互いに接触するように密に織り込むことによりX線造影糸の脱落を抑制することが、従来より行なわれている。
【0005】
しかし、やはりX線造影糸と綿糸とは互いに滑り易いことから、X線造影糸の脱落をより一層効果的に抑制する工夫が求められていた。
【0006】
また、特許文献4には、X線造影糸がガーゼ等の衛生材料にミシン糸としてミシン縫いされているX線造影糸付き衛生材料が記載されている。しかし、当該衛生材料を製造するには、ミシン縫いという全く異質な工程が必要であり、従来のガーゼ等の製造設備を有効利用するという観点からは、産業上不利であるといえる。即ち、既存の製造設備を利用するとすれば、ガーゼを構成する綿糸をX線造影糸に置換した上で、X線造影糸の脱落を抑制する様に工夫する方が好ましい。
【特許文献1】特開2002−143212号公報(特許請求の範囲,図1)
【特許文献2】特開2002−325775号公報(請求項1,段落[0016],図1)
【特許文献3】特開2002−52038号公報(請求項1,図)
【特許文献4】特開2003−319966号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した様に、X線造影糸を織り込む等によって、体内に残留していないかX線で確認することができるガーゼには、X線造影糸が脱落し易いという欠点があるので、これまでにも斯かる脱落を抑制する工夫がされてきた。しかし、ガーゼ自体や生分解性でない有機高分子が体内に少量でも残留することは好ましくないことから、より効果的な技術が求められている。
【0008】
そこで、本発明が解決すべき課題は、X線造影糸を構成要素とするガーゼであって、X線造影糸の脱落が顕著に抑制されているX線造影ガーゼを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、X線造影糸の織り込み方について種々検討を重ねた。先ず、X線造影糸の束に綿糸を螺旋状に巻き付け束ね、これをガーゼに織り込んだところ、一定の効果を得ることができた。しかし、まだX線造影糸の滑り易さを完全に克服するには至らなかったことから、更に工夫を重ねたところ、X線造影糸と綿糸とを束とし、これに綿糸を巻き付け束ねたところ、X線造影糸の脱落を顕著に抑制できることを見出して、本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明のX線造影ガーゼは、綿糸からなる緯糸と経糸とを互いに直交または略直交させたガーゼであって、当該緯糸および/または経糸の少なくとも1本がX線造影糸条に置換されており、当該X線造影糸条が、複数のX線造影糸と少なくとも1本の綿糸(以下、「綿糸A」という)との束を、少なくとも1本の綿糸(以下、「綿糸B」という)で巻き付けることにより束ねられたものであることを特徴とする。
【0011】
上記X線造影糸としては、X線非透過性物質を含むポリプロピレン樹脂からなるものが好ましく、また、X線非透過性物質が硫酸バリウムであるものが好ましい。更に、上記X線造影糸条は、綿糸のほか、更にポリエステル系フィラメントにより束ねられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のX線造影ガーゼは、ガーゼ本体からX線造影糸が抜け落ちる可能性が顕著に低減されており、外科手術等に使用する場合にも、X線造影糸が体内で脱落して生体に悪影響を与えたり、X線検査でガーゼが発見できず体内に残留するといったおそれがない。従って、本発明のX線造影ガーゼは、実際の外科手術等で利用できるものとして極めて有用なものである。その上、本発明のX線造影ガーゼは、既存のガーゼ製造設備を大幅に変更することなく製造できることから、産業上有利でもある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態とその効果について説明する。
【0014】
本発明のX線造影ガーゼの基本部分は、綿糸からなる緯糸と経糸とを互いに直交または略直交させ平織りした従来のガーゼであるが、緯糸および/または経糸の少なくとも1本が、特定のX線造影糸条に置換されていることに要旨を有する。そして、このX線造影糸条は、複数のX線造影糸と少なくとも1本の綿糸(綿糸A)との束を、少なくとも1本の綿糸(綿糸B)で巻き付けることにより束ねられたものである。
【0015】
X線造影糸条は、ポリプロピレン,シリコン,塩化ビニル等の高分子樹脂に、硫酸バリウム等のX線非透過性物質を加えて均一に混合し、糸状にしたものである。ここで、高分子樹脂とX線非透過性物質は、生体に悪影響を及ぼさないものであれば特にその種類は問わず、また、これらの混合割合は、例えば約30:70〜70:30とし、更に他の添加成分を加えてもよい。いずれにせよ、X線造影糸は、従来のものを適用することができる。
【0016】
本発明のX線造影糸条では、太さ:150〜250デシテックス程度のX線造影糸30〜50本(好ましくは、35〜45本)と、綿糸(綿糸A)とを束にする。この綿糸Aは、X線造影糸と略平行に配置されており、後述する別の綿糸B(これらX線造影糸等を束ねるためのもの)との摩擦力を高め、X線造影糸を抜け落ち難くするという作用を有する。従って、この綿糸Aは、複数のX線造影糸中に埋もれてしまわない様に一番外側に配置する必要があるため、X線造影糸の束に対してゆるい螺旋状に配置してもよい(図1を参照)。この綿糸Aの数は特に制限されないが、例えばX線造影糸の束の全面を覆う様に配置すると、却ってX線造影糸が脱落し易くなってしまうことから、好適には1〜数本とし、より好ましくは1本または2本とし、最適には1本とする。
【0017】
このX線造影糸と綿糸Aとの束は、綿糸Bにより束ねる。この綿糸Bは、X線造影糸等を束ねるだけでなく、ガーゼを構成する他の綿糸(特に、X線造影糸条と直交する方向の綿糸)との摩擦力を増加させ、X線造影糸を抜け難くする作用を有する。綿糸Bは、X線造影糸条の複数箇所を輪状に固定するものであってもよいが、綿糸Bが解けて脱落するおそれもあることから、好ましくはX線造影糸等に螺旋状に巻き付く構成をとる(図1を参照)。
【0018】
綿糸BをX線造影糸に巻き付ける回数は、綿糸の太さ等に応じて適宜調整すればよい。つまり、巻き付け回数が多過ぎるとX線造影糸が肉眼で確認し難くなり、手術部における肉眼でのガーゼ発見が困難になる一方で、少な過ぎるとX線造影糸の脱落防止作用を発揮できなくなるので、実際の製造条件を変えながら調整する。より具体的には、例えば40番手の綿糸を使用した場合には、これに限定されるものではないが、X線造影糸1m当たり300〜600回の範囲で巻き付けることができる。
【0019】
以上で説明した本発明のX線造影糸条の模式図を、図1として示す。
【0020】
本発明のX線造影糸条は、ポリエステル系フィラメントが螺旋状に巻き付けられていてもよい。前述した様に、綿糸Bは、X線造影糸と綿糸Aを束ねると共にX線造影糸条をガーゼから抜け落ち難くする作用を有するが、X線造影糸を束ねる目的のみであれば、ポリエステル系フィラメントの方が使い易い。また、先ずX線造影糸をポリエステル系フィラメントにより束ねた後、これと綿糸Aとを合わせたものに綿糸Bを巻き付ければ、綿糸AがX線造影糸に埋もれてしまうのを防止できる。
【0021】
上記X線造影糸条は、ガーゼの緯糸および/または経糸の少なくとも1本と置換して用いる。X線造影糸条の数は特に問わないが、数が多ければ脱落する可能性も増すので、好適には、使用するガーゼ当たり1〜3本のX線造影糸条を挿入する。好ましくは、2本のX線造影糸条を挿入する。X線検査時における発見し易さと、X線造影糸条の脱落性の両方を考慮したものである。勿論、ガーゼの製造時には、例えば緯糸として多数のX線造影糸条を挿入し、使用時に最低1本のX線造影糸条が含まれる様にガーゼを切断してもよい。
【0022】
本発明のX線造影ガーゼには、X線造影糸の脱落を防止する従来技術を適用してもよい。例えば、ガーゼの縁と直交する綿糸をはみ出させたり(いわゆる、「耳」)、縁と平行な綿糸の密度を縁周辺で高めたり、或いは縁をかがる等することによって、綿糸の脱落を防止してもよい。また、X線造影糸条と平行の綿糸の密度をX線造影糸条近辺で高めることによって、X線造影糸の脱落を抑制してもよい。更に、X線造影糸が熱可塑性樹脂を含む場合には、X線造影糸条の少なくとも一部をガーゼに熱融着させてもよい。
【0023】
以上説明した通り、本発明のX線造影ガーゼは、X線造影糸の脱落が顕著に抑制されている。即ち、X線造影糸条が引っ張られても、X線造影糸条中で螺旋状に巻き付いている綿糸BとX線造影糸条と直交するガーゼ綿糸が逐一接触するために、抜け落ち難くなっている。また、X線造影糸中、X線造影糸と共に略平行に束ねられている綿糸Aの作用によって、綿糸BからもX線造影糸が抜け落ち難くなっている。従って、本発明のX線造影ガーゼは、実際の外科手術等で使用した際にも、X線造影糸やガーゼ自体の残留の可能性が顕著に低減されている。
【0024】
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
製造例1
ガーゼを構成する綿糸としては、40番手のものを使用した。また、X線造影糸の成分組成は、ポリプロピレン樹脂:40%,硫酸バリウム:60%とし、太さは190〜230デシテックスとした。このX線造影糸40本にポリエステル系フィラメント1本を螺旋状に巻き付けて束ね、この束と綿糸1本とに綿糸1本を螺旋状に巻き付け、X線造影糸条を作成した。
【0026】
上記綿糸を緯糸と経糸とし、緯糸1本の代わりに上記X線造影糸条を挿入し、1cm2当たり緯糸12本,経糸12本となる様に平織りして、縦約30cm,横約5cmの矩形ガーゼを20枚作成した。但し、X線造影糸条に接する部分では、経糸4本を互いに接する様に密に織り込み、また、経糸と平行な両端部では、ほつれを防止するために経糸4本を密に織り込んだ。また、引張試験に供するために、X線造影糸条は、ずらして(その一端がガーゼからはみ出る様に)織り込み、更にX線造影糸条が引抜ける際の強度を正確に測定するために、両端部において密に織り込んだ部分を裁断した。作成したX線造影ガーゼの写真を、図2として示す。
【0027】
比較製造例1
上記製造例1において、X線造影糸40本をポリエステル系フィラメント1本のみで束ねてX線造影糸条とした以外は同様の手法によって、20枚のガーゼを作成した。
【0028】
試験例1 引張試験
上記製造例1と比較製造例1のガーゼについて、X線造影糸を引き抜く際の抵抗力を、引張試験機を用いて測定した。具体的には、引張試験機((株)オリエンテック製,テンシロン万能試験機 RTE-1210)のチャックに、はみ出させたX線造影糸条と他端のガーゼ(X線造影糸条をはさまない様に注意した)とをチャック間距離25cmではさみ、引張速度200mm/分で最大荷重(N)を測定した。また、ガーゼが血液等を吸収した際を想定して、生理食塩水に10分間浸漬することによりガーゼを湿潤させ、同様に引張試験を行なった。それぞれの結果を、10例ずつの平均値として表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
当該結果より、従来のX線造影ガーゼは、X線造影糸条を引っ張ると徐々に抜け出、その際に斯かる荷重も小さいことが分かる。一方、本発明のX線造影ガーゼは、乾燥時と湿潤時のいずれにおいてもX線造影糸条を引っ張る際の荷重が大きく、X線造影糸条が抜け出るよりもX線造影糸が破断する程であった。従って、本発明のX線造影ガーゼはX線造影糸条が抜け落ちるおそれが極めて低く、外科手術等に適用できるものとして有用であることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係るX線造影ガーゼの構成要素であるX線造影糸条の模式図である。
【図2】製造例1で作成した本発明のX線造影ガーゼの写真である。図中、はみ出したX線造影糸条とガーゼの他端とを、引張試験機のチャックに挟んだ。
【符号の説明】
【0032】
1 : X線造影糸の束
2 : 綿糸A
3 : 綿糸B


【特許請求の範囲】
【請求項1】
綿糸からなる緯糸と経糸とを互いに直交または略直交させたガーゼであって、
当該緯糸および/または経糸の少なくとも1本がX線造影糸条に置換されており、
当該X線造影糸条が、複数のX線造影糸と少なくとも1本の綿糸との束を、少なくとも1本の綿糸で巻き付けることにより束ねられたものであることを特徴とするX線造影ガーゼ。
【請求項2】
上記X線造影糸が、X線非透過性物質を含むポリプロピレン樹脂からなるものである請求項1に記載のX線造影ガーゼ。
【請求項3】
上記X線非透過性物質が硫酸バリウムである請求項2に記載のX線造影ガーゼ。
【請求項4】
上記X線造影糸条が、更にポリエステル系フィラメントにより束ねられたものである請求項1〜3のいずれかに記載のX線造影ガーゼ。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−51209(P2006−51209A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235487(P2004−235487)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(593148804)川本産業株式会社 (22)
【Fターム(参考)】