説明

X線高電圧装置およびX線高電圧装置を含むX線診断装置

【課題】撮影条件から照射線量を算出する機能を有するX線高電圧装置において、照射線量が管電流と撮影時間に比例することを前提とした計算式により照射線量の算出を行っていたので、管電流が小さいときほど、また撮影時間が短いときほど実測値とのずれが大きくなっていた。
【解決手段】計算式として従来の管電流と撮影時間に比例する項に波尾X線として照射されるX線による照射線量に対応する項の線量特性定数DT(V)を追加し、管電流と撮影時間に比例する項の線量特性係数Dt(V)とともに、事前にそれぞれDT(V)記憶部14およびDt(V)記憶部15に記憶しておき、撮影条件設定時にX線制御器3から得られる撮影条件および両記憶部の記憶値を用いて演算部16が計算式により照射線量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線透視および撮影に用いられるX線高電圧装置およびX線高電圧装置を含むX線診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
撮影条件から照射線量を算出する機能を有するX線高電圧装置の一例について図4を用いて説明する。X線高電圧装置1はX線管6からX線を照射するために、高電圧ケーブル5を介してX線管6に高電圧を供給するものであり、主として高電圧トランスにより構成される高電圧発生器2と、例えばマイクロコンピュータおよびそのメモリ等により構成され、操作者(図示しない)の操作に従って高電圧発生器2を制御するX線制御器3により構成される。X線撮影においては撮影ごとに被検者(図示しない)の被爆線量を知り、許容値を超えないように管理することが被検者の健康上極めて重要である。そのために図4に破線で示す、例えば電離箱等により構成される線量計8をX線管6に取り付けられたコリメータ7の前面部に取り付け、照射されるX線の線量を測定することがあるが、このような場合でも照射前にX線の線量を予測して許容値を超えないかどうか判断することはできない。そのため例えばマイクロコンピュータおよびメモリ等により構成される線量計算機4を内蔵して、X線制御器3により高電圧発生器2に設定される撮影条件、すなわち管電圧、管電流および撮影時間からX線照射前に照射線量を算出し、X線制御器3のパネル(図示しない)等に表示する機能を有するX線高電圧装置1がある。(例えば特許文献1参照)
【0003】
上述のような線量計算機4によるX線の照射線量の計算は通常(式1)を用いて行われる。
Dose=D(V)×A×B ・・・(式1)
ここでDose:照射線量、A:管電流値、B:撮影時間、D(V):管電圧値Vに依存する線量特性係数である。そして線量特性係数D(V)は事前に以下の方法で取得される。すなわち図4に破線で示すようにコリメータ7の前面部に線量計8を取り付けて、X線制御器3から高電圧発生器2に設定される管電流値Aおよび撮影時間Bをそれぞれ適当な値に固定し、管電圧値Vのみを設定可能なすべての値に変化させて、各管電圧値VごとにX線を照射し、各管電圧値Vにおける照射線量Doseを実測する。演算部12はX線が照射されるごとにX線制御器3から撮影条件を、また線量計8から照射線量Doseを受け取り、(式1)を逆算して各管電圧値Vに対する線量特性係数D(V)を算出し、D(V)記憶部13に記憶させる。
【0004】
その後撮影が行われる前に撮影条件、すなわち管電圧値V、管電流値Aおよび撮影時間Bが設定されると、演算部12はX線制御器3から受け取った撮影条件、およびその中の管電圧値Vに対してD(V)記憶部13から読み出される線量特性係数D(V)から(式1)により照射線量Doseを算出する。この値はX線制御器3のパネル等に表示されるので、操作者(図示しない)はこれから行う撮影により被検者が被爆許容値を超えないかどうかを撮影前に判断することができる。また高電圧発生器2がX線照射時に撮影条件を実測する機能を有する場合、実測された撮影条件を用いて撮影後に(式1)の計算を行い、より実測値に近い照射線量Doseを算出してX線制御器3のパネル等に表示することもできる。
【特許文献1】特開2003−203797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
X線高電圧装置において撮影条件から照射線量を算出する方法は上記のとおりであるが、(式1)は照射線量が管電流値と撮影時間に比例することを前提としている。しかし実際に照射線量を測定すると、管電流値が小さくなるほど、また撮影時間が短くなるほど比例関係からずれてくる。これは高電圧発生器とX線管を結ぶ高電圧ケーブルに電気的な容量が存在し、高電圧発生器による管電圧の印加が終了しても、図3に波尾期間として示す期間X線管には管電圧印加中にケーブル容量に充電された電荷による高電圧が印加され続ける。管電圧は波尾期間中に電荷が管電流として放電することにより、ケーブル容量と管電流値により決まる時定数に従って低下する。そのためX線照射も高電圧発生器による管電圧の印加の終了とともに停止するのではなく、波尾期間中漸減しながら続くことになるが、この波尾期間中の照射線量は(式1)では想定されていない。ここでケーブル容量はケーブルが変わらない限り一定なので、放電の時定数は管電流値のみに依存し、管電流値が小さいほど大きくなる。そのため(式1)による照射線量は管電流値が小さくなるほど比例関係からずれてくる。また撮影時間が短いほど照射線量に占める波尾部分の割合が大きくなるので比例関係からのずれが大きくなる。
【0006】
この問題を改善するために管電圧に依存する線量特性係数の代わりに、管電圧に加えて管電流と撮影時間に依存する線量特性係数を使用する方法も提案されているが、事前に管電圧だけでなく管電流値と撮影時間についても多くの値に対して照射線量を実測して線量特性係数を収集しなければならないので多大な手間と時間を要するものである。本発明は管電圧遮断後に存在する管電圧波形の波尾部分に起因する照射線量の計算値の実測値からのずれをより簡易な方法で低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は上記の目的を達成するために、設定または実測される管電圧、管電流、撮影時間から照射線量を算出する線量計算手段を有するX線高電圧装置において、前記線量計算手段が前記管電流と前記撮影時間および前記管電圧に依存する線量特性係数の積に前記管電圧に依存する線量特性定数を加算する計算式により前記照射線量を算出し表示するために、事前に前記各管電圧ごとに線量計測手段により実測された複数個の照射線量とそれぞれの照射線量に対する前記管電流および前記撮影時間を前記計算式に代入して得られる複数組の式を解いて得られる前記管電圧に依存する線量特性係数を記憶する線量特性係数記憶手段と、前記管電圧に依存する線量特性定数を記憶する線量特性定数記憶手段を有するX線高電圧装置を提供する。
【0008】
請求項2記載の発明は上記の目的を達成するために、X線高電圧装置を含むX線診断装置において、前記X線高電圧装置により設定または実測される管電圧、管電流、撮影時間の情報を受け取り、前記管電流と前記撮影時間および前記管電圧に依存する線量特性係数の積に前記管電圧に依存する線量特性定数を加算する計算式で前記照射線量を算出し表示するために、事前に前記各管電圧ごとに線量計測手段により実測された複数個の照射線量とそれぞれの照射線量に対する前記管電流および前記撮影時間を前記計算式に代入して得られる複数組の式を解いて得られる前記管電圧に依存する線量特性係数を記憶する線量特性係数記憶手段と、前記管電圧に依存する線量特性定数を記憶する線量特性定数記憶手段を有する線量計算手段を設けたX線診断装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により従来用いられてきた照射線量が管電流と撮影時間に比例することを前提とした計算式の代わりに、その式に管電圧波形の波尾部分に対応する項を追加した計算式を用いるという簡易な方法で照射線量の計算値の実測値からのずれを大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施例を図1、図2および図3を用いて説明する。X線高電圧装置21はX線管6からX線を照射するために、高電圧ケーブル5を介してX線管6に高電圧を供給するものであり、主として高電圧トランスにより構成される高電圧発生器2と、例えばマイクロコンピュータおよびそのメモリ等により構成され、操作者(図示しない)の操作に従って高電圧発生器2を制御するX線制御器3、および例えばマイクロコンピュータおよびメモリ等により構成され、X線制御器3により高電圧発生器2に設定される撮影条件、すなわち管電圧、管電流および撮影時間から照射されるX線の線量を算出する線量計算機24により構成される。そして線量計算機24において算出される照射線量はX線制御器3のパネル(図示しない)等に表示されるので、操作者は被検者(図示しない)がこれから行う撮影により被爆許容値を超えないかどうか判断することができる。また高電圧発生器2がX線照射時に撮影条件を実測する機能を有する場合、撮影後に実測された撮影条件を用いて(式1)の計算を行い、より実測値に近い照射線量を算出してX線制御器3のパネル等に表示することもできる。
【0011】
本発明において線量計算機24は(式1)の代わりに(式2)を用いて照射線量の計算を行う。
Doset=Dt(V)×A×B+DT(V)・・・(式2)
ここでDoset:照射線量、A:管電流値、B:撮影時間、Dt(V):管電圧値Vに依存する線量特性係数、DT(V):管電圧値Vに依存する線量特性定数である。
【0012】
背景技術の項で述べた(式1)が高電圧印加停止と同時にX線照射が停止する理想的な状態を前提としているのに対して、(式2)は高電圧印加時に高電圧ケーブル5のケーブル容量に充電された電荷が高電圧印加終了後にケーブル容量と管電流値により決まる時定数に従って放電する間、すなわち図3に波尾期間として示す期間中、いわゆる波尾X線として照射されるX線による照射線量を、管電流値Aおよび撮影時間Bを変数とする(式2)の定数項の線量特性定数DT(V)として組み込んだものである。そして波尾X線による照射線量は主として管電圧値Vに依存するので、線量特性定数DT(V)を管電圧値Vごとに決まる定数としている。
【0013】
そして線量特性係数Dt(V)および線量特性定数DT(V)の値は事前に以下の方法で取得される。すなわち図1に破線で示すようにコリメータ7の前面部に線量計8を取り付けて、X線制御器3から高電圧発生器2に適当な管電流値A1および撮影時間B1を設定し、さらに任意の管電圧値Vを設定した後X線を照射し、線量計8により照射線量値Doset1を実測する。その後管電圧値はVのままで管電流値をA2に、撮影時間をB2に変更した後X線を照射し、照射線量値Doset2を実測する。線量計算機24の演算部16はこれら2回の撮影により得られた照射線量値およびそれぞれの撮影条件を(式2)に代入して以下の(式3)および(式4)を得る。
Doset1=Dt(V)×A1×B1+DT(V)・・・(式3)
Doset2=Dt(V)×A2×B2+DT(V)・・・(式4)
演算部16はこれら2式を線量特性係数Dt(V)および線量特性定数DT(V)を未知数とする連立方程式として解くことにより線量特性係数Dt(V)および線量特性定数DT(V)の値を得る。
【0014】
上述のX線照射、照射線量の測定、および線量特性係数Dt(V)および線量特性定数DT(V)の算出を設定可能なすべての管電圧値Vについて繰り返し行うことにより得られた各管電圧値Vに対する線量特性係数Dt(V)および線量特性定数DT(V)は演算部12により、それぞれDt(V)記憶部15およびDT(V)記憶部14に記憶される。なお上記の作業はX線管6および高電圧ケーブル5のいずれかが交換されるごとに実行されねばならない。
【0015】
その後撮影が行われる前に撮影条件、すなわち管電圧値、管電流値および撮影時間が設定されると、演算部16はX線制御器3から受け取った撮影条件、および設定された管電圧値に対してDt(V)記憶部15、およびDT(V)記憶部14からそれぞれ読み出される線量特性係数Dt(V)、および線量特性定数DT(V)から(式2)により照射線量Dosetを算出する。この値はX線制御器3のパネル等に表示されるので、操作者はこれから行う撮影により被検者が被爆許容値を超えないかどうか等を撮影前に判断することができる。また高電圧発生器2がX線照射時に撮影条件を実測する機能を有する場合、実測された撮影条件を用いて撮影後に(式2)の計算を行い、算出された照射線量DosetをX線制御器3のパネル等に表示することもできる。
【0016】
以下(式1)および(式2)によりそれぞれ算出される照射線量値を実測値と比較して(式2)の精度の高さを確認する。図2(a)は50kVから110kVの7個の管電圧のそれぞれについて、撮影時間を8msecに固定し、管電流を100mA、200mA、500mAの3個の値に切り替えて、いずれの電流値においても150回づつX線照射を繰り返し行ったときの照射線量の積算値を実測して表にしたものである。また図2(b)は図2(a)の管電流100mA、撮影時間8msecのときの照射線量実測値を用い、(式1)を逆算して得られる各管電圧値に対するD(V)を表にしたものであり、図2(c)は図2(a)の管電流100mA、撮影時間8msecのときの照射線量実測値、および管電流200mA、撮影時間8msecのときの照射線量実測値を(式2)に代入して得られる連立方程式を解いて得られる各管電圧値に対する線量特性係数Dt(V)および線量特性定数DT(V)を表にしたものである。
【0017】
これらの表を用いて例えば80kV、500mA、8msecで150回繰り返しX線照射を行ったときの照射線量の積算値を(式1)および(式2)によりそれぞれ算出すると、(式1)の場合(0.082μGy×500mA×8msec)×150/1000=49.2mGyが得られるのに対して、(式2)の場合{(0.069μGy×500mA×8msec)+10.107μGy}×150/1000=42.9mGyが得られる。これらの結果を図2(a)の表の80kV、500mA、8msecで150回繰り返しX線照射を行ったときの照射線量の実測積算値42.80mGyと比較すると、(式2)により算出する方が(式1)により算出するより相当程度実測値に近いことがわかる。
【0018】
上記の実施例で算出される照射線量Dosetは線量計8の位置での線量に相当するが、線量がX線管6の焦点からの距離の2乗に反比例することから、この値をもとに任意の位置における線量を得ることができる。
【0019】
上記の実施例では事前に線量特性係数Dt(V)および線量特性定数DT(V)の値を取得するとき、線量計8をコリメータ7の前面部に取り付けるようにしたが、線量計8は線量測定可能な任意の位置に取り付けてよい。また線量計8は常時取り付けておいてもよい。
【0020】
上記の実施例では線量計算機24をX線高電圧装置21に内蔵する構成にしたが、線量計算機24をX線制御器3や高電圧発生器2および線量計8と接続可能でX線高電圧装置21から独立した構成にしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明はX線透視および撮影に用いられるX線高電圧装置およびX線高電圧装置を含むX線診断装置に関する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例を説明するための図である。
【図2】撮影条件と実測照射線量の関係、および式1または式2により得られた線量特性係数D(V)、線量特性係数Dt(V)および線量特性定数DT(V)の表の例を示す図である。
【図3】波尾X線について説明するための図である。
【図4】本発明に対する従来例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0023】
1:X線高電圧装置
2:高電圧発生器
3:X線制御器
4:線量計算機
5:高電圧ケーブル
6:X線管
7:コリメータ
8:線量計
12:演算部
13:D(V)記憶部
14:DT(V)記憶部
15:Dt(V)記憶部
16:演算部
21:X線高電圧装置
24:線量計算機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
設定または実測される管電圧、管電流、撮影時間から照射線量を算出する線量計算手段を有するX線高電圧装置において、前記線量計算手段が前記管電流と前記撮影時間および前記管電圧に依存する線量特性係数の積に前記管電圧に依存する線量特性定数を加算する計算式により前記照射線量を算出し表示するために、事前に前記各管電圧ごとに線量計測手段により実測された複数個の照射線量とそれぞれの照射線量に対する前記管電流および前記撮影時間を前記計算式に代入して得られる複数組の式を解いて得られる前記管電圧に依存する線量特性係数を記憶する線量特性係数記憶手段と、前記管電圧に依存する線量特性定数を記憶する線量特性定数記憶手段を有することを特徴とするX線高電圧装置。
【請求項2】
X線高電圧装置を含むX線診断装置において、前記X線高電圧装置により設定または実測される管電圧、管電流、撮影時間の情報を受け取り、前記管電流と前記撮影時間および前記管電圧に依存する線量特性係数の積に前記管電圧に依存する線量特性定数を加算する計算式で前記照射線量を算出し表示するために、事前に前記各管電圧ごとに線量計測手段により実測された複数個の照射線量とそれぞれの照射線量に対する前記管電流および前記撮影時間を前記計算式に代入して得られる複数組の式を解いて得られる前記管電圧に依存する線量特性係数を記憶する線量特性係数記憶手段と、前記管電圧に依存する線量特性定数を記憶する線量特性定数記憶手段を有する線量計算手段を設けたことを特徴とするX線診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−108440(P2008−108440A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−287407(P2006−287407)
【出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】