説明

ZSM−5型ゼオライト膜の製造方法

【課題】 耐酸性に優れ親水性のZSM−5型ゼオライト膜を製造する。
ZSM−5型ゼオライト膜の製造時に、構造規定剤(テトラプロピルアンモニウムイオン等のテンプレート剤)を使用することは、それ自身が高価であること、焼成処理が必須でありクラックやピンホールが発生することなどの問題がある。
本発明の目的は、構造規定剤を用いることなく、焼成処理を行わずに、耐酸性に優れかつ親水性を有するZSM−5型ゼオライト膜の製造方法を提供するものである。
【解決手段】 アルミナ源、シリカ源、およびフッ素化合物を含み、構造規定剤を含まない水性ゲルであって、仕込み組成が、Si/Alモル比が5以上30以下、F/Siモル比が0.5以上2.0以下である水性ゲルを熟成させた後、種結晶を有する支持体を水性ゲルに挿入し水熱合成するZSM−5型ゼオライト膜の製造方法。
本願発明の製造方法により得られるZSM−5型ゼオライト膜は、親水性(水選択透過性)を有し、かつ耐酸性に優れるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ZSM−5型ゼオライト膜の製造方法に関し、さらに詳しくは、耐酸性に優れ、かつ親水性であり水選択透過性の高いZSM−5型ゼオライト膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜分離法を利用した液体分離手段には、液体混合物を分離膜の片側(供給側)に接触させて、反対側(透過側)を減圧することにより、特定の液体(透過物質)を気化させ分離するパーベーパレーション法(浸透気化法)、気体混合物または液体混合物を蒸気状態で供給し分離膜に接触させて、透過側を減圧して特定の蒸気を分離するベーパーパーミエーション法などがある。このような膜分離方法は、従来、簡単な方法では分離できなかった液体混合物、例えば共沸混合物、沸点が近接して比揮発度が小さい液体混合物、加熱によって重合や変成を起こしやすい物質を含む混合物を分離または濃縮する新しい分離法として注目されている。
【0003】
非多孔質高分子膜によって液体混合物から特定の液体を分離する方法として、例えば、スチレン−アクリル酸共重合体膜によって水とホルムアルデヒドとを分離する手段や、ポリビニルアルコール膜によって共沸混合物状態の水とアルコールとを分離する手段が提案されている。しかし、これらの手段に使用する分離膜には、高分子材料が用いられており、耐熱性、耐薬品性、耐酸性および機械的強度等の理由から、適用可能な液体混合物または気体混合物が限られていた。
【0004】
最近、高分子膜に比べ、耐久性が優れる無機膜が期待され盛んに研究が行なわれている。なかでもゼオライト膜は、0.3〜0.9nmの均一な細孔構造を有しており、しかも(1)分離対象である分子が細孔に入り得るか否かの分別、(2)細孔内拡散係数の相違により分子を識別する分子篩作用、(3)骨格内のアルミニウム含有量の大小によってゼオライト表面の親疎水性の調製、といった特徴があり、多機能型の分離膜素材として注目されている。
【0005】
特に、MFI型構造をもつZSM−5型ゼオライト膜は、合成の容易さから種々研究され、多くの提案がなされている。一般に、ZSM−5型ゼオライト膜は、Si/Al比が高く、耐酸性が高い特徴がある。一方、ZSM−5型ゼオライト膜は、Si/Al比が高いために疎水性が高く、親水性が低い性質をもつため、分離膜として使用するときには、主に疎水性の揮発性有機物を対象とした膜分離に限られていた。
【0006】
しかしながら、セルロースを酸分解し発酵して得られるバイオエタノールからの脱水精製処理において、バイオエタノールを含む供給液は、硫酸等の酸処理工程により強酸性であることから、その脱水分離膜には、耐酸性と水選択透過性が求められている。従来のZSM−5型ゼオライト膜は、耐酸性は高いものの、親水性が低く水選択透過性が乏しいことから、脱水分離膜として利用することはできない。一方、A型(Si/Alモル比が1.0)、X型(Si/Alモル比が1.0〜1.5)等のゼオライト膜は、親水性が高く水選択透過性をもつものの、耐酸性が低いため、バイオエタノールを含む供給液等の強酸性の水溶液に浸漬すると、ゼオライト分離膜の構造が破壊されてしまい、脱水分離膜として使用することができないのが現状である。
【0007】
また、従来のZSM−5型ゼオライト膜の合成方法は、テトラプロピルアンモニウム塩など高価な構造規定剤(テンプレート剤)を使用することから、生産コストが高くなり実用化を妨げる要因となっている。加えて、ZSM−5型ゼオライト膜における微細孔構造を完成させるためには、構造規定剤を酸化分解して除去するための焼成処理が不可欠である。しかし、この焼成処理に伴い合成したゼオライト膜に、クラックやピンホールが発生してしまう問題があり、未だ解決されていない。特許文献1は、焼成処理に伴うクラックやピンポールの発生を抑制するため、金属酸化物等からなる中間層を介在させることを提案するが、ZSM−5型ゼオライト膜の焼成処理に関する根本的な問題解決には至っていない。
【0008】
非特許文献1および2は、テンプレート剤を使用しない純相MFI型ゼオライトとして、Si/Alゲル比が20〜90のZSM−5結晶を報告しているが、親水性を有する高品質のZSM−5型ゼオライト膜は、未だ合成されていない。
【特許文献1】特開平10−244161号公報
【非特許文献1】R. Aiello, A. Nastro, C. Pellegrino: Zeolites 7 (1987) p.549
【非特許文献2】V. P. Shiralkar, A. Clearfield: Zeolites 9 (1989) p.363
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ZSM−5型ゼオライトが有する高い耐酸性を保持しながら、親水性および水選択透過性を有し、高品質なZSM−5型ゼオライト膜を、構造規定剤を使用することなく、焼成処理を行わずに製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明のZSM−5型ゼオライト膜の製造方法は、アルミナ源、シリカ源、およびフッ素化合物を含み、構造規定剤を含まない水性ゲルを熟成させた後、種結晶を有する支持体を水性ゲルに挿入し水熱合成するZSM−5型ゼオライト膜の製造方法であって、水性ゲルの仕込み組成が、Si/Alモル比が5以上30以下、F/Siモル比が0.5以上2.0以下であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法は、優れた耐酸性を保持しながら、親水性があり水選択透過性を有するZSM−5型ゼオライト膜を、構造規定剤を使用することなく、焼成処理を行わずに製造することができる。このため、水熱合成したゼオライト膜にクラックやピンホールが発生することなく、高品質なZSM−5型ゼオライト膜を、効率的に製造することができ、さらに製造コストを削減することができる。
【0012】
本発明の製造方法により得られるZSM−5型ゼオライト膜は、親水性と水選択透過性、および耐酸性を兼ね備え優れた特性を有するものである。このため、耐酸性と水選択透過性が要求される膜分離、特にバイオエタノールからの脱水精製処理等の膜分離方法に有効に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明のZSM−5型ゼオライト膜の製造方法は、アルミナ源、シリカ源およびフッ素化合物を含み、構造規定剤を含まない水性ゲルを熟成させた後、種結晶を有する支持体を水性ゲルに挿入して水熱合成するものである。
【0015】
本発明の製造方法に使用するアルミナ源は、特に限定されるものではないが、好ましくは、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、アルミナホワイト、フッ化アルミニウム等、より好ましくは、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウムが挙げられる。
【0016】
本発明の製造方法に使用するシリカ源は、特に限定されるものではないが、好ましくは、コロイダルシリカ、湿式シリカ、無定形シリカ、ヒュームドシリカ、ケイ酸ナトリウム、シリカゾル、シリカゲル、カオリナイト、珪藻土、ケイ酸アルミニウム、ホワイトカーボン、テトラブトキシシラン、テトラブチルオルソシリケート、テトラエトキシシラン等、より好ましくは、コロイダルシリカ、湿式シリカ、が挙げられる。
【0017】
本発明の製造方法に使用するフッ素化合物は、水可溶性であれば、特に限定されるものではないが、好ましくは、フッ化水素、フッ化ナトリウム、フッ化水素ナトリウム、ケイフッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム、クリオライト、フッ化アルミニウムなど、より好ましくは、フッ化ナトリウム、フッ化アルミニウムのフッ素化合物が挙げられる。水熱合成の際、水性ゲルにフッ素化合物を共存させることにより、その詳細な機構は不明であるが、フッ素化合物が、構造規定剤(テンプレート剤)に代わる役割を果たし、ZSM−5型ゼオライト膜を合成することができる。特に、フッ素化合物として、フッ化ナトリウム、フッ化アルミニウムを使用することにより、ZSM−5型ゼオライト膜のSi/Alモル比を低くすることができ、好ましい。
【0018】
本発明の製造方法は、構造規定剤を使用せずに、フッ素化合物および特定の水性ゲル組成により合成するゼオライト膜の構造がMFI型となるように制御することができる。このため構造規定剤を除去するための焼成処理をする必要がなく、焼成処理に伴うゼオライト膜へのクラックやピンホールの発生を回避し、高品質のZSM−5型ゼオライト膜を製造することができる。
【0019】
本発明の製造方法でいう構造規定剤とは、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、またはテトラブチルアンモニウムイオン等を含有するテトラアルキルアンモニウム塩が、代表的に挙げられる。さらに、構造規定剤は、上記のような4級アンモニウムイオンに限らず、第1〜3級アンモニウムイオン、アミン、無機塩等、水熱合成の後、焼成処理が必要となり、ZSM−5型ゼオライト膜の構造を制御するために添加する化合物を、構造規定剤とする。本発明の製造方法に使用する水性ゲルは、フッ素化合物を含むものであって、上記のような構造規定剤を含有しないものである。
【0020】
本発明の製造方法でいう焼成処理とは、水熱合成により得られたゼオライト膜を、例えば、温度375℃以上で20〜60時間、焼成することにより、上記の構造規定剤や未反応物を酸化分解して除去する処理工程をいう。焼成温度、加熱速度や焼成時間は、構造規定剤や未反応物の種類や含有量により適宜、選択される。焼成処理に際しては、構造規定剤とともに、支持体およびゼオライト膜等の、組成および構造が異なり熱膨張率が相違する物質を、同時に、高温で、長時間、加熱するため、熱歪が生じ、ゼオライト膜にクラックやピンホール等の不具合が発生することが多い。したがって均一な細孔分布が得られなくなってしまい、ゼオライト膜の品質の低下を招くことになる。
【0021】
本発明の製造方法においては、構造規定剤を使用しないため、焼成処理を行う必要がなく、合成したゼオライト膜をクラックやピンホールにより損傷することがなく、均一な細孔分布を有する高品質なZSM−5型ゼオライト膜を得ることができる。
【0022】
本発明の製造方法に使用する水性ゲルは、アルミナ源、シリカ源、およびフッ素化合物の仕込み組成のモル比が、以下の組成比を満たすものである。
【0023】
水性ゲルにおける仕込み組成のSi/Alモル比は、5以上30以下、好ましくは5以上20以下、より好ましくは6以上14以下、さらに好ましくは7以上10以下である。Si/Alモル比が、上記範囲を超えるとアルミニウムの含量が低くなり、親水性を得ることができない。またSi/Alモル比が、上記範囲未満であると、ゼオライト膜の構造がZSM−5型以外のゼオライト構造、或いは混晶となってしまい、耐酸性および耐薬品性を高めることができない。
【0024】
また、水性ゲルにおける仕込み組成のF/Siモル比は、0.5以上2.0以下、好ましくは0.6以上1.5以下、より好ましくは0.75以上1.25以下、さらに好ましくは0.85以上1.15以下である。F/Siモル比が、上記範囲を超えると、ZSM−5型ゼオライト膜を合成することは可能であるが、生産コストが割高となり好ましくない。F/Siモル比が、上記範囲未満であると、ZSM−5型ゼオライト膜におけるアルミニウム含量を多くすることができず、親水性すなわち水選択透過性を発現するZSM−5型ゼオライト膜を得ることができない。
【0025】
本発明の製造方法においては、鉱化剤を使用してもよい。鉱化剤は、Si、Al等のゼオライト骨格を構成する金属成分を水中に溶解させる役割、および最終的に骨格のもつ負電荷を打ち消す役割を果たすものである。本発明の製造方法に好ましく使用する鉱化剤は、特に限定されるものではないが、好ましくは、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ土類金属のハロゲン化物、およびヘキサフルオロ珪酸塩等が挙げられ、より好ましくはアルカリ金属の酸化物、なかでも酸化ナトリウムを使用することが好ましい。なお、本発明の製造方法において、フッ素化合物は、鉱化剤として使用するものではない。
【0026】
本発明の製造方法に使用する支持体は、その表面にZSM−5型ゼオライトを膜状に結晶化できる安定な多孔質構造であれば、特に限定されるものではないが、好ましくは、シリカ、アルミナ、ムライト、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素などのセラミックス焼結体、鉄、ステンレス等の焼結金属やガラス、カーボン成型体等、より好ましくは、シリカ、アルミナ、ムライト等のセラミックス焼結体が挙げられる。
【0027】
本発明の製造方法に使用する支持体は、その平均気孔径が、好ましくは0.05〜10μm、より好ましくは0.1〜4μmである。平均気孔径が、0.05μm未満であると、透過速度が小さく、10μmを越えると選択性が低下するため好ましくない。また、本発明の製造方法に使用する支持体は、好ましくは気孔率が10〜80%、より好ましくは40〜80%である。気孔率が10%未満では透過速度が小さく、80%を越えると水選択透過性が低下する上に、支持体としての強度が得られないため好ましくない。好ましい多孔質支持体としては、平均気孔径が0.1〜2μm、気孔率が30〜50%の多孔質構造をもつシリカ、アルミナ、ムライト等のセラミックス焼結体である。
【0028】
なお、多孔質支持体の形状には特に制限はなく、平膜状、平板状、円筒状(パイプ)、円柱状等の形状を使用目的に応じて選択することができる。
【0029】
本発明の製造方法に使用する種結晶は、特に限定されるものではないが、ZSM−5型ゼオライトの結晶を使用することが好ましい。ZSM−5型ゼオライトの結晶は、公知の方法を用いて合成してもよいし、市販製品を使用することもできる。さらにそのSi/Al比の値は、特に限定されるものではなく、MFI構造を有するものであればよい。
【0030】
本発明のZSM−5型ゼオライト膜の製造方法の工程を以下に示す。
【0031】
(1)多孔質支持体のゼオライト膜を製膜する部分に、好ましくはその外表面にZSM−5種結晶を塗布した後、乾燥する。乾燥温度は、好ましくは室温〜100℃、より好ましくは50〜80℃であり、乾燥時間は、好ましくは0.5〜48時間、より好ましくは4〜24時間である。乾燥温度が、上記範囲を超えると種晶の支持体への担持力不足となり、上記範囲未満では種晶への吸着物が膜合成に影響を及ぼすので、好ましくない。また乾燥時間が上記範囲を超えると種晶への吸着物が多くなり、かつ種晶の支持体への担持力不足となり、上記範囲未満では種晶への吸着物が膜合成に影響を及ぼすので、好ましくない。
【0032】
(2)アルミナ源、シリカ源、フッ素化合物および水、必要に応じて鉱化剤を含む水性ゲルを、仕込み組成の組成比が、Si/Alモル比が5〜30、好ましくは5〜20、より好ましくは6〜14、さらに好ましくは7〜10であり、F/Alモル比が0.5〜2.0、好ましくは0.6〜1.5、より好ましくは0.75〜1.25、さらに好ましくは0.85〜1.15となるように調製する。
【0033】
水性ゲルにおける水の配合量は、Siの1モルに対して、好ましくは25〜100モル、より好ましくは40〜60モルである。水の配合量が、上記範囲を超えると膜化時間が長くなり非経済的で、上記範囲未満ではシリカ源の溶解が不十分のため分離性能を有する膜とならないことがあり、好ましくない。
【0034】
水性ゲルにおける鉱化剤は、必要に応じて添加すればよく、その場合の鉱化剤の配合量は、Siの1モルに対して、好ましくは0.1〜10モル、より好ましくは0.2〜2モルである。鉱化剤の配合量が、上記範囲を超えるとモルデナイトが生成し始め混晶となり、上記範囲未満では結晶化しなくなり、好ましくない。
【0035】
(3)上記で得られた水性ゲルを熟成させる。熟成温度は、好ましくは室温〜50℃、より好ましくは15〜40℃であり、熟成時間は、好ましくは0.5〜24時間、より好ましくは1〜2時間である。熟成温度が、上記範囲を超えるとバルク中での結晶化が起こり始め、均一な膜厚とはならず、かつZSM−5以外のゼオライトが形成され、上記範囲未満ではシリカ源の活性不足のため欠陥のない膜が得られないため、好ましくない。また熟成時間が上記範囲外であると、ZSM−5型のゼオライト膜を製膜することができない、さらにバルク中での結晶化が始まり、均一な膜厚とは成らず、かつZSM−5以外のゼオライトが形成される等の不具合があり、好ましくない。
【0036】
(4)熟成した水性ゲルに、(1)で得られた種処理した多孔質支持体を浸漬して、撹拌しながら、ZSM−5型ゼオライト膜を水熱合成する。
【0037】
水熱合成時の温度は、好ましくは80〜250℃、より好ましくは130〜200℃である。温度が、上記範囲を超えると反応温度が速くなり欠陥のある膜となり、上記範囲未満では連続層の膜が生成せず、好ましくない。また水熱合成時における撹拌は、スタラー、回転機等を使用して、撹拌回転数が、好ましくは5〜100rpm、より好ましくは20〜50rpmとなるようにする。撹拌回転数が、上記範囲を超えると粉体結晶が生成され連続層の膜は生成せず、上記範囲未満では膜厚が均一でなく凸凹の表層を有する欠陥膜となり、好ましくない。水熱合成時の時間は、好ましくは20〜100時間、より好ましくは48〜72時間である。合成時間が、上記範囲を超えると膜厚の均一な膜が生成せず、かつ多種のゼオライト結晶が生成され、上記範囲未満ではゼオライト膜の必要な厚みを得ることができず、好ましくない。
【0038】
(5)水熱合成したZSM−5型ゼオライト膜を温度100℃以下で洗浄処理する。洗浄液は、純水、水道水等を使用することができる。
【0039】
洗浄処理の温度は、好ましくは5〜100℃、より好ましくは70〜100℃である。温度が、上記範囲を超えると結晶粒界を固定しているゲルが溶出し、膜欠陥が生成され、上記範囲未満では残存未反応ゲルが膜透過流束の障害となり、好ましくない。洗浄処理の時間は、好ましくは0.5〜24時間、より好ましくは1〜4時間である。洗浄時間が、上記範囲を超えると結晶粒界を固定しているゲルが溶出し、膜欠陥が生成され、上記範囲未満ではフッ素化合物や未反応原料を十分に除去することができず、好ましくない。
【0040】
本発明において、洗浄処理は、膜表面に沸騰水あるいは50℃以上の熱水を流して洗浄するか、沸騰あるいは50℃以上の熱水中に膜を所定時間、浸漬させて洗浄することが好ましい。
【0041】
本発明の製造方法により得られるZSM−5型ゼオライト膜は、耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性、親水性、および水選択透過性に優れており、少ないエネルギー消費量で、効率よく液体を分離することが可能であり、特に優れた耐酸性と水選択透過性を有することから、酸性水溶液における脱水分離膜に有効に使用することができる。
【0042】
本発明の製造方法により得られたZSM−5型ゼオライト膜は、分離膜として使用することができる。本発明の分離膜は、液体混合物または気体混合物に対する膜分離方法として、パーベーパレーション法、ベーパーパーミエイション法、気相分離法のいずれにも使用することができる。本発明のZSM−5型ゼオライト膜は、液体混合物の分離に極めて有効に使用することができ、各種溶剤の精製分離プロセスにおいて省エネルギーでコンパクトな浸透気化膜分離装置に有効に使用することができる。
【0043】
本発明の分離膜の分離対象となる液体混合物は、特に限定されないが、例えば、水と、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類または酢酸、プロピオン酸、酪酸などのカルボン酸類との液体混合物、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、四塩化炭素、トリクロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素、または前記カルボン酸類などの有機溶液と、前記アルコール類との液体混合物、前記アルコール類またはカルボン酸類と、ベンゼン、シクロヘキサンなどの芳香族類との液体混合物などである。
【0044】
なお本発明のZSM−5型ゼオライト膜は、水−メタノール、水−エタノール、水−プロパノールなどの水−アルコール類の分離、水−酢酸、水−プロピオン酸などの水−カルボン酸類の分離、メタノール−エタノール、メタノール−プロパノールなどのアルコール類の分離に有効に適用することができる。特に、水−エタノール、水−プロパノール、水−酢酸などの脱水分離においては、処理能力、すなわち全透過量および分離係数が高く、高い分離性能を得ることができる。但しこれらの混合液の組合せは、例示のために示したものであり、本発明のZSM−5型ゼオライト膜からなる分離膜の対象液体混合物はこれらに限定されるものではない。
【0045】
図1は、本発明のZSM−5型ゼオライト膜による液体分離操作に用いる装置の系統図の一例である。先ず、ZSM−5型ゼオライト膜を分離膜1として、図1に示す装置の膜モジュール2に取付ける。膜モジュール2は、被透過液室3とその両側に配置した透過蒸気室4とからなり、被透過液室3と透過蒸気室4とを分離膜1により隔てた構成となっている。被透過液室3の一方の端部に液体混合液(供給液)の供給液管9を接続し、他方の端部に排出液管10を接続する。供給液は、供給液タンク5から供給ポンプ6により送液され、再生器7で予熱され、オイルヒータ8で所定の温度に加熱され、供給液管9を通じ膜モジュール2に送られ、分離膜1の外側を取り巻く被透過液室3に供給される。
【0046】
分離膜1は、水選択透過性であり、分離膜1の内側および透過蒸気室4を、好ましくは真空度13.3〜2660Pa、より好ましくは真空度133〜798Paに減圧することにより、被透過液室3内の供給液中の、主に親水性成分が、選択的に分離膜1の外側から内側へ蒸気となって透過する。透過蒸気は、分離膜1の内側を流れ、透過蒸気室4から排出され、透過液コンデンサ12により凝縮されて、回収される。
【0047】
被透過液室3において脱水し精製された疎水性成分(アルコール類、カルボン酸類等)は、排出液管10を通じ、製品クーラ11で冷却されて製品タンク12へ送られる。
【0048】
ZSM−5型ゼオライト膜の透過性能は、所定の供給液の温度、供給量、および透過蒸気室4の真空度において、単位面積、単位時間当たりの全透過量(kg/mh)、および分離係数αとにより評価することができる。分離係数αは、液体混合物の分離効率を示すものであり、液体Aおよび液体Bを含む混合液に対し下記式(1)で定義する
α=(P/P)/(F/F) (1)
式中、F、Fは、それぞれ供給液中の液体A,液体Bの平均濃度(wt%)であり、P、Pは、それぞれ透過液中の液体A,液体Bの平均濃度(wt%)である。
【0049】
水−アルコール混合液からの脱水分離の場合、分離係数αは、液体Aが水、液体Bがアルコールとなり下記式(2)にて表される。
α=(P/POH)/(F/FOH) (2)
式中、F、FOHは、それぞれ供給液中の水(W)、アルコール(OH)の平均濃度(wt%)であり、P、POHは、それぞれ透過液中の水(W)、アルコール(OH)の平均濃度(wt%)である。
【0050】
本発明の製造方法により得られるZSM−5型ゼオライト膜は、親水性と水選択透過性、および耐酸性を兼ね備え優れた特性を有するものであり、この特性を活かした分離膜として、膜分離方法において有効に利用することができる。本発明のZSM−5型ゼオライト膜を分離膜に使用する膜分離方法は、例えば、耐酸性と水選択透過性が要求される膜分離方法、特にバイオエタノールからの脱水精製処理、反応系での脱水素等の膜分離方法等が挙げられる。
【0051】
また本発明のZSM−5型ゼオライト膜は、ミクロレベルの酸触媒エステル化反応と選択的水分離を同時に兼ね備える触媒反応器のポテンシャルを有するものである。
【0052】
例えば、酢酸とメタノールを、本発明のZSM−5型ゼオライト膜の片側(供給側)に置いて加熱し、膜の反対側(透過側)を減圧する。このとき、ZSM−5型ゼオライト膜が、触媒となりエステル化反応を進めるとともに、同時に脱水分離膜として機能するものである。この反応式は、下記式(3)のとおりである。
CHCOOH+CHOH → CHCOOCH+HO (3)
すなわち、ZSM−5型ゼオライト膜内の細孔で、酢酸1モルとメタノール1モルが、等モル反応して、酢酸メチルとなる反応と、生成した酢酸メチルが供給側に残り、水のみが透過側に分離される脱水分離を、同時に進行させることが可能なのである。
【0053】
これに対し、従来の反応系では、触媒としてイオン交換樹脂(例えばアンバリスト)等を用い、酢酸1モルに対して、転化率を向上させるためにメタノール3〜5モルの過剰量を添加してエステル化反応を行なっている。そのため、酢酸エチル生成後に、脱水、メタノール回収、酢酸エチル精製という煩雑な分離操作が、必要となってしまう。
【0054】
すなわち、本発明のZSM−5型ゼオライト膜を、酸触媒エステル化反応と選択的水分離を同時に兼ね備える触媒反応器として使用することにより、1)効率的に反応生成物を生産でき、かつ無公害、2)表面積/容積が非常に大きいため、熱および物質移動速度が速い、3)プロセスが、シンプルで最適化が容易、4)反応効率かつ転化率が高い、等の優れた効果が得られるものである。
【実施例】
【0055】
以下、実施例によって本発明をさらに説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例により限定するものではない。
【0056】
実施例において、次の材料を使用した。
ムライト支持体:ニッカトー社製ムライト支持体(外径12mm、内径9mm、長さ800mm、平均孔径1μm、気孔率40%)
シリカ源:日本シリカ社製湿式シリカ(商品名:Nipsil VN3)
フッ素化合物:和光純薬社製フッ化ナトリウム
鉱化剤:和光純薬社製酸化ナトリウム
ZSM−5種結晶:東ソー社製ZSM-5ゼオライト結晶
またアルミナ源として次のアルミニウム化合物を使用した。
(A−1)塩化アルミニウム:和光純薬社製塩化アルミニウム6水和物
(A−2)塩化アルミニウム:和光純薬社製塩化アルミニウム
(A−3)硫酸アルミニウム:和光純薬社製硫酸アルミニウム14−18水
(A−4)硫酸アルミニウム:和光純薬社製硫酸アルミニウム
(A−5)硝酸アルミニウム:和光純薬社製硝酸アルミニウム
【0057】
<実施例1>
ムライト支持体の外表面上にZSM−5種結晶を塗布した後、温度80℃で数時間、乾燥した。アルミナ源として(A−1)を使用して、シリカ源、アルミナ源、フッ素化合物、硬化剤および水を、各成分のモル比が、SiO:Al:NaO:NaF:HO=1:0.67:0.20:1:50となるように、すなわちSi/Alモル比=7.46、F/Siモル比=1となるように、反応ゲルを調製した。この反応ゲルを2時間、熟成した後、種結晶処理した支持体を挿入し、温度180℃、回転数37.5rpmで撹拌しながら、3日間水熱合成を行ない、支持体の外表面上に、ZSM−5型ゼオライト膜を合成し、70℃の熱水を用いて洗浄した。
【0058】
<実施例2〜5>
実施例1のアルミナ源(A−1)の代わりに、実施例2がアルミナ源(A−2)、実施例3がアルミナ源(A−3)、実施例4がアルミナ源(A−4)、および実施例5がアルミナ源(A−5)を使用した以外は、実施例1と同様にして、各支持体の外表面上に、ZSM−5型ゼオライト膜を製膜した。
【0059】
<ZSM−5型ゼオライト膜の構造評価>
実施例1〜5により得られたZSM−5型ゼオライト膜およびムライト支持体の表面部分をX線回析(XRD)により測定した。
【0060】
図2は、実施例1、3で得られたZSM−5型ゼオライト膜およびムライト支持体のXRDパターンを示すものであり、Aがムライト支持体、Bが実施例1、Cが実施例3で得られたZSM−5型ゼオライト膜のXRDパターンである。他の実施例により得られたZSM−5型ゼオライト膜も含めて、本発明の製造方法のより得られたZSM−5型ゼオライト膜は、アルミナ源の相違にかかわらず、全てが典型的なMFI構造に帰するXRDパターンであることが確認された。
【0061】
図3は、実施例1、3で得られたZSM−5型ゼオライト膜の電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)による観察写真である。具体的には、Aがムライト支持体の表面、BおよびCが実施例1で得られたZSM−5型ゼオライト膜の表面および断面、D、Eが実施例3で得られたZSM−5型ゼオライト膜の表面および断面の観察写真である。図3から、約1μm長の微細ロット状の結晶がムライト支持体上に成長しており、ゼオライト膜の膜厚は、10μm以下であることが、断面写真より認められる。
【0062】
<適用例1〜20:ZSM−5型ゼオライト膜の気化透過法における分離性能>
実施例1〜5により得られたZSM−5型ゼオライト膜の気化透過法における分離性能(PV性能)を図1の膜分離装置を用いて評価した。各実施例において製造したZSM−5型ゼオライト膜を分離膜として使用して、透過側の真空度を700Pa、供給液の流量を50kg/hとして、供給液の組成および分離温度を、表1および2に示す適用例1〜20のとおり、種々変化させてPV性能を評価した。その結果を表1および2に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
全てのZSM−5型ゼオライト膜モジュールが、優れた水選択透過性を有することが認められた。
【0066】
<適用例21〜26:ZSM−5型ゼオライト膜の耐酸性評価>
実施例1〜3により得られたZSM−5型ゼオライト膜の耐酸性を評価した。各ZSM−5型ゼオライト膜を製膜した支持体を、濃度90重量%の酢酸水溶液に、表3に示す浸漬期間、室温にて、浸漬させた。その後、膜モジュールに取付け、濃度90重量%の酢酸水溶液を供給液として使用して、分離温度75℃、透過側の真空度を700Pa、供給液の流量を50kg/hとして、気化透過法における分離性能(PV性能)を評価した。その結果を表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
この結果より、本発明の製造方法のより得られたZSM−5型ゼオライト膜が、長期間に亘る耐酸性を有し、耐酸性試験後においても分離係数が高く、優れたPV性能を保持することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】ZSM−5型ゼオライト膜による液体分離装置の系統図の一例
【図2】本発明の製造方法で得られたZSM−5型ゼオライト膜のX線回折パターン
【図3】本発明の製造方法で得られたZSM−5型ゼオライト膜のFE−SEM写真
【符号の説明】
【0070】
1 分離膜
2 膜モジュール
3 被透過液室
4 透過蒸気室
5 供給液タンク
6 供給ポンプ
7 再生器
8 オイルヒータ
9 供給液管
10 排出液管
11 製品クーラ
12 製品タンク
13 真空ポンプ
14 透過液コンデンサ
15 透過液トラップ
16 透過液ポンプ
17 透過液タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ源、シリカ源、およびフッ素化合物を含み、構造規定剤を含まない水性ゲルを熟成させた後、種結晶を有する支持体を前記水性ゲルに挿入し水熱合成するZSM−5型ゼオライト膜の製造方法であって、前記水性ゲルの仕込み組成が、Si/Alモル比が5以上30以下であり、F/Siモル比が0.5以上2.0以下であるZSM−5型ゼオライト膜の製造方法。
【請求項2】
水熱合成の後、温度100℃以下で洗浄処理をする請求項1に記載のZSM−5型ゼオライト膜の製造方法。
【請求項3】
製造されたZSM−5型ゼオライト膜が、水選択透過性を有する請求項1または2に記載のZSM−5型ゼオライト膜の製造方法。
【請求項4】
製造されたZSM−5型ゼオライト膜が、耐酸性を有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のZSM−5型ゼオライト膜の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法で得られたZSM−5型ゼオライト膜を、分離膜に使用する膜分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−247599(P2006−247599A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70756(P2005−70756)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年2月22日 化学工学会発行の「第70年会(2005)化学工学会 研究発表講演要旨集」に発表
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】