説明

ZnO系抗菌剤の製造方法

【課題】暗所においても優れた抗菌性能を有するZnO系抗菌剤の製造方法を提供する。
【解決手段】この発明のZnO系抗菌剤の製造方法は、ZnO及び亜鉛イオンを含有した水溶液をオートクレーブ中で水熱処理する工程を含むことを特徴とする。また、この発明の別のZnO系抗菌剤の製造方法は、ZnO粉末を所定形状に成形して成形体を得る工程と、前記成形体を、亜鉛イオンを含有した水溶液に浸漬した状態でオートクレーブ中において水熱処理する工程と、前記水熱処理を経た成形体を焼結処理することによってZnO系多孔質焼結体を得る工程と、を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、暗所においても優れた抗菌性能を有するZnO系抗菌剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ZnOは、光触媒作用によって抗菌性を示すことが知られており、例えばこのZnOの粉末を含有した分散液を、金属物品、ガラス物品等の物品の表面に塗布して表面コート層を形成することによって、物品に抗菌性能を付与できることが知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−37446号公報(請求項1〜3、段落0046、0047、0048)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術では、抗菌性能を発揮させるためにはZnOに光が照射されていることが必要であり、暗所においては抗菌性能が殆ど得られないか又は全く得られないという問題があった。例えば、水の浄化装置内にこのようなZnOを配置せしめることで微生物の繁殖を抑制又は防止しようとしても、浄化装置内には光が入ってこないためにこのZnOにより抗菌を行うことはできなかった。
【0004】
この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、暗所においても優れた抗菌性能を有するZnO系抗菌剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0006】
[1]ZnO及び亜鉛イオンを含有した水溶液をオートクレーブ中で水熱処理する工程を含むことを特徴とするZnO系抗菌剤の製造方法。
【0007】
[2]ZnO粉末及び亜鉛イオンを含有した水溶液をオートクレーブ中で水熱処理する工程と、
前記水熱処理を経たZnO粉末を所定形状に成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を焼結処理することによってZnO系多孔質焼結体を得る工程と、を含むことを特徴とするZnO系抗菌剤の製造方法。
【0008】
[3]ZnO粉末を所定形状に成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を、亜鉛イオンを含有した水溶液に浸漬した状態でオートクレーブ中において水熱処理する工程と、
前記水熱処理を経た成形体を焼結処理することによってZnO系多孔質焼結体を得る工程と、を含むことを特徴とするZnO系抗菌剤の製造方法。
【0009】
[4]前記焼結処理を400〜600℃で1〜10時間行うことを特徴とする前項2または3に記載のZnO系抗菌剤の製造方法。
【0010】
[5]前記オートクレーブ中での水熱処理を1.2〜10気圧、110〜180℃の処理条件で行う前項1〜4のいずれか1項に記載のZnO系抗菌剤の製造方法。
【0011】
[6]前記亜鉛イオンを含有した水溶液として、硝酸亜鉛を含有した水溶液を用いる前項1〜5のいずれか1項に記載のZnO系抗菌剤の製造方法。
【0012】
[7]前記水溶液中における硝酸亜鉛の濃度が0.5〜5モル/Lである前項6に記載のZnO系抗菌剤の製造方法。
【0013】
[8]前記ZnO粉末として粒径が0.01〜0.30μmであるものを用いる前項1〜7のいずれか1項に記載のZnO系抗菌剤の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
[1]の発明では、ZnO及び亜鉛イオンを含有した水溶液をオートクレーブ中で水熱処理するので、得られたZnO系抗菌剤は、暗所においても優れた抗菌性能を有したものとなる。なお、得られたZnO系抗菌剤では、光が当たる条件下ではさらに優れた抗菌性能が発揮され得る。
【0015】
[2]の発明では、ZnO粉末及び亜鉛イオンを含有した水溶液をオートクレーブ中で水熱処理した後、ZnO粉末を所定形状に成形して得た成形体を焼結処理するので、暗所においても優れた抗菌性能を有したZnO系多孔質焼結体を製造することができる。なお、得られたZnO系多孔質焼結体は、光が当たる条件下ではより優れた抗菌性能を発揮する。
【0016】
[3]の発明では、ZnO成形体を、亜鉛イオンを含有した水溶液に浸漬した状態でオートクレーブ中において水熱処理した後、焼結処理を行うので、暗所においても優れた抗菌性能を有したZnO系多孔質焼結体を製造することができる。本製造方法では、ZnOをオートクレーブ中で水熱処理する際にはZnOは既に所定形状に成形されており、水熱処理時のハンドリング性に優れていると共に、ZnO粉末を所定形状に成形することで水熱処理時のZnOの処理量を増大でき処理効率を向上させることができるから、生産効率を顕著に向上できる利点がある。この点において、この[3]の発明の製造方法は、前記[2]の発明の製造方法よりも好適である。なお、得られたZnO系多孔質焼結体は、光が当たる条件下ではより優れた抗菌性能を発揮する。
【0017】
[4]の発明では、焼結処理を400〜600℃で1〜10時間行うから、より優れた抗菌性能を確保しつつ、多孔質焼結体として十分な強度を確保できる。
【0018】
[5]の発明では、オートクレーブ中での水熱処理を1.2〜10気圧、110〜180℃の処理条件で行うので、変質を生じさせることなく、十分な水熱処理を行うことができる。
【0019】
[6]の発明では、亜鉛イオンを含有した水溶液として、硝酸亜鉛を含有した水溶液を用いるので、暗所における抗菌性能をさらに向上させたものを製造できると共に、水中等で繰り返し使用しても抗菌性能が低下しない耐久性に優れた抗菌剤を製造できる。
【0020】
[7]の発明では、水溶液中における硝酸亜鉛の濃度が0.5〜5モル/Lであるから、より一層暗所での抗菌性能に優れたZnO系抗菌剤を製造できる。
【0021】
[8]の発明では、原料として用いるZnO粉末の粒径が0.01〜0.30μmであるから、暗所における抗菌性能を十分に有したZnO系抗菌剤を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明に係るZnO系抗菌剤の製造方法は、ZnO(粉末、成形体等)及び亜鉛イオンを含有した水溶液をオートクレーブ中で水熱処理する工程を含むことを特徴とする。このように、ZnO(粉末、成形体等)を、亜鉛イオンを含有した水溶液中でオートクレーブにより水熱処理することによって得られたZnO系抗菌剤は、暗所においても優れた抗菌性能を有している。勿論、このZnO系抗菌剤は、光が当たる条件下では、より優れた抗菌性能が発揮されるものとなる。
【0023】
ZnO系抗菌剤として所定形状に成形されたものを製造する場合には、次の第1製造方法または第2製造方法を採用するのが好ましい。
【0024】
[第1製造方法]
ZnO粉末及び亜鉛イオンを含有した水溶液をオートクレーブ中で水熱処理する工程と、前記水熱処理を経たZnO粉末を所定形状に成形して成形体を得る工程と、前記成形体を焼結処理することによってZnO系多孔質焼結体を得る工程と、を含むことを特徴とする。
【0025】
[第2製造方法]
ZnO粉末を所定形状に成形して成形体を得る工程と、前記成形体を、亜鉛イオンを含有した水溶液に浸漬した状態でオートクレーブ中において水熱処理する工程と、前記水熱処理を経た成形体を焼結処理することによってZnO系多孔質焼結体を得る工程と、を含むことを特徴とする。
【0026】
この発明において、前記ZnO粉末の粒径は0.01〜0.30μmであるのが好ましい。0.30μmを超えると、得られるZnO系抗菌剤の抗菌性能が十分に得られ難くなるので、好ましくない。
【0027】
前記オートクレーブ中で水熱処理する時の圧力は1.2〜10気圧に設定するのが好ましい。1.2気圧以上に設定することで水熱処理を十分に行うことができると共に、10気圧以下に設定することで変質を防止することができる。
【0028】
また、前記オートクレーブ中で水熱処理する時の温度は110〜180℃に設定するのが好ましい。110℃以上であることで水熱処理を十分に行うことができると共に、180℃以下に設定することで変質を防止することができる。中でも、前記オートクレーブ中で水熱処理する時の温度は115〜125℃に設定するのが特に好ましい。
【0029】
また、前記オートクレーブ中での水熱処理の処理時間は3〜10時間に設定するのが好ましい。3時間以上であることで水熱処理を十分に行うことができると共に、10時間以下であることで暗所における抗菌性能をさらに向上させることができる。中でも、前記オートクレーブ中での水熱処理の処理時間は6〜8時間に設定するのが特に好ましい。
【0030】
前記亜鉛イオンを含有した水溶液としては、特に限定されるものではないが、例えば硝酸亜鉛を含有した水溶液、塩化亜鉛を含有した水溶液、酢酸亜鉛を含有した水溶液等が挙げられる。これらの中でも、硝酸亜鉛を含有した水溶液を用いるのが好ましく、この場合には暗所における抗菌性能がさらに向上したZnO系抗菌剤を製造できる。
【0031】
前記水溶液中における硝酸亜鉛の濃度は0.5〜5モル/Lに設定するのが好ましい。0.5モル/L以上であることで十分に優れた暗所での抗菌性能を付与できると共に、5モル/L以下であることでZnO表面の過度の変質を防止できる。中でも、前記水溶液中における硝酸亜鉛の濃度は2〜4モル/Lに設定するのが特に好ましい。
【0032】
前記焼結処理に供する成形体としては、ハンドリングを行い得る程度の強度を少なくとも備えていれば良い。
【0033】
前記焼結処理の処理温度は400〜600℃に設定するのが好ましい。400℃以上であることで成形体として十分な強度を確保できると共に、600℃以下であることで暗所における抗菌性能をさらに向上させることができる。中でも、前記焼結処理の処理温度は450〜550℃に設定するのが特に好ましい。
【0034】
また、前記焼結処理の処理時間は1〜10時間に設定するのが好ましい。1時間以上であることで成形体として十分な強度を確保できると共に、10時間以下であることで暗所における抗菌性能をさらに向上させることができる。中でも、前記焼結処理の処理時間は3〜7時間に設定するのが特に好ましい。
【0035】
前記焼結処理は、1段階で行っても良いし、或いは2段階以上の複数段階で行っても良い。例えば、450℃×1時間、470℃×1時間、485℃×1時間、500℃×2時間の順で4段階(計5時間)で行っても良い。
【実施例】
【0036】
次に、この発明の具体的実施例について説明するが、本発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0037】
<実施例1>
粒径0.02μmのZnO粉末(堺化学工業株式会社製、「NANOFINE P−2」、純度98.5%、比表面積52.0g/m2)を98MPaで一軸加圧金型成形することによって円盤状の成形体(16mmφ×厚さ10mm)を得た。この成形体を、3モル/Lの硝酸亜鉛水溶液に浸漬し、この浸漬状態でオートクレーブ中において水熱処理した。前記オートクレーブでの水熱処理は、2気圧、120℃の処理条件で7時間行った。次いで、前記水熱処理を経た成形体を空気雰囲気下500℃で5時間焼結処理することによって、ZnO系多孔質焼結体を得た。
【0038】
<実施例2>
水熱処理時間を10時間にした以外は、実施例1と同様にして、ZnO系多孔質焼結体を得た。
【0039】
<実施例3>
硝酸亜鉛水溶液として、濃度が1モル/Lのものを用いた以外は、実施例1と同様にして、ZnO系多孔質焼結体を得た。
【0040】
<実施例4>
3モル/Lの硝酸亜鉛水溶液に代えて1モル/Lの酢酸亜鉛水溶液を用い、水熱処理時間を10時間にした以外は、実施例1と同様にして、ZnO系多孔質焼結体を得た。
【0041】
<実施例5>
粒径0.02μmのZnO粉末に代えて、粒径0.10μmのZnO粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、ZnO系多孔質焼結体を得た。
【0042】
<比較例1>
3モル/Lの硝酸亜鉛水溶液に代えて、イオン交換水を用いて水熱処理を行った以外は、実施例1と同様にして、ZnO系多孔質焼結体を得た。
【0043】
上記のようにして得られたZnO系多孔質焼結体について下記評価法に基づいて抗菌性の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
<抗菌性評価法>
Na−Pバッファー液(組成:KH2PO41.36g、1N−NaOH7.9mL、H2O492mL)に、大腸菌が入った水溶液を添加して、菌数をコロニーカウント法により測定した後、ここに滅菌処理が施されたZnO系多孔質焼結体を入れ、暗室において36℃で24時間静置し、この24時間経過後の菌数(個/mL)をコロニーカウント法により測定した。
【0046】
表1から明らかなように、この発明の製造方法で製造された実施例1〜5のZnO系多孔質焼結体(ZnO系抗菌剤)では、暗所において36℃で24時間静置後、菌が確認されず、これら焼結体は、暗所においても抗菌性能に優れていた。
【0047】
これに対し、イオン交換水中で水熱処理した比較例1のZnO系多孔質焼結体では、暗所において36℃で24時間静置後、菌が非常に多く存在しており、暗所における抗菌性能は殆ど認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
この発明の製造方法で得られたZnO系抗菌剤は、例えば水の浄化装置内に配置される抗菌剤や抗菌フィルター等として好適に用いられるが、特にこのような用途に限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnO及び亜鉛イオンを含有した水溶液をオートクレーブ中で水熱処理する工程を含むことを特徴とするZnO系抗菌剤の製造方法。
【請求項2】
ZnO粉末及び亜鉛イオンを含有した水溶液をオートクレーブ中で水熱処理する工程と、
前記水熱処理を経たZnO粉末を所定形状に成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を焼結処理することによってZnO系多孔質焼結体を得る工程と、を含むことを特徴とするZnO系抗菌剤の製造方法。
【請求項3】
ZnO粉末を所定形状に成形して成形体を得る工程と、
前記成形体を、亜鉛イオンを含有した水溶液に浸漬した状態でオートクレーブ中において水熱処理する工程と、
前記水熱処理を経た成形体を焼結処理することによってZnO系多孔質焼結体を得る工程と、を含むことを特徴とするZnO系抗菌剤の製造方法。
【請求項4】
前記焼結処理を400〜600℃で1〜10時間行うことを特徴とする請求項2または3に記載のZnO系抗菌剤の製造方法。
【請求項5】
前記オートクレーブ中での水熱処理を1.2〜10気圧、110〜180℃の処理条件で行う請求項1〜4のいずれか1項に記載のZnO系抗菌剤の製造方法。
【請求項6】
前記亜鉛イオンを含有した水溶液として、硝酸亜鉛を含有した水溶液を用いる請求項1〜5のいずれか1項に記載のZnO系抗菌剤の製造方法。
【請求項7】
前記水溶液中における硝酸亜鉛の濃度が0.5〜5モル/Lである請求項6に記載のZnO系抗菌剤の製造方法。
【請求項8】
前記ZnO粉末として粒径が0.01〜0.30μmであるものを用いる請求項2〜7のいずれか1項に記載のZnO系抗菌剤の製造方法。

【公開番号】特開2008−174498(P2008−174498A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−10176(P2007−10176)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【特許番号】特許第3987878号(P3987878)
【特許公報発行日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(507020716)
【出願人】(000137982)株式会社メイスイ (5)
【Fターム(参考)】