説明

ZrO2を含有するキャスタブル耐火物

【課題】 少ないZrO2含有量であっても、ZrO2の優れた耐食性を発現することのできる、ZrO2を含有するキャスタブル耐火物を提供する。
【解決手段】 本発明のZrO2を含有するキャスタブル耐火物は、ZrO2粒子を原料粒子として含有するキャスタブル耐火物であって、該キャスタブル耐火物を構成する原料粒子の最大粒径をD(mm)とし、目開き寸法がd(mm)の篩を通過した原料粒子の累積量をP(体積%)とし、且つ、係数qを0.2〜0.3の範囲とする下記の(1)式に基づいて、キャスタブル耐火物を構成する原料粒子の粒度分布が定められたキャスタブル耐火物であることを特徴とする。
P=100×(d/D)q …(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉、シャフト炉などの竪型炉の出銑口付近に好適に用いることのできるZrO2を含有するキャスタブル耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のCO2ガス削減の要請から、鉄鋼業においては溶銑を製造する設備として、鉄鉱石を還元して溶銑を製造する高炉のほかに、鉄スクラップを溶解して溶銑を製造するシャフト炉が注目されている。このシャフト炉は、竪型の溶解炉であり、上部の装入口から原料の鉄スクラップとコークスとを装入し、下部の羽口から空気を送り込んでコークスを燃焼させ、コークスの燃焼熱で鉄スクラップを溶解し、この溶解によって生成した溶融鉄を共存するコークスで加炭して溶銑とし、この溶銑をスラグとともに炉底近くの出銑口から流出させる構造となっている。
【0003】
シャフト炉の操業において、耐火物を原因として操業律速となるのは出銑口である。これは、高温の溶銑及びスラグの出銑により、出銑口の耐火物が損耗して口径が拡大し、空気が出銑口から吹き抜けてしまい、操業ができなくなることによる。
【0004】
そのために、シャフト炉では、出銑口を頻繁に補修せねばならず、通常は一週間毎に補修する間欠操業を行っており、基本的に、一週間以上の連続操業は行われていない。また、出銑口出口付近のサイフォン部でも溶損が激しく、安定操業のためには、毎日のように吹き付け補修を必要としている。
【0005】
このようなことから、特許文献1には、ZrO2を50質量%以上、望ましくは70質量%以上含有する、シャフト炉などの竪型炉の出銑口に好適なキャスタブル耐火物が提案されている。シャフトなどの竪型炉で生成するスラグは、塩基度(スラグ中のCaOとSiO2との質量比(CaO/SiO2))が0.8〜1.1程度であり、このようなスラグ条件ではAl23は溶解してしまうのに対してZrO2は溶解しにくく、これに基づいて提案されたものである。
【0006】
また、ZrO2を主成分とするキャスタブル耐火物として、特許文献2には、溶融ZrO2粒子とSiC粒子とを主体とする耐火性粒子90〜95質量%と、アルミナセメントを含有する結合剤1〜10質量%とを含有する、廃棄物溶融処理炉及び焼却炉に好適なZrO2−SiC質キャスタブル耐火物が提案され、特許文献3には、取鍋やタンディッシュの内張り材、及び、浸漬ノズルやロングノズルなどにも使用することのできるZrO2−SiC−C質キャスタブル耐火物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−100458号公報
【特許文献2】特開2000−239072号公報
【特許文献3】特開平11−157927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜3に提案されるキャスタブル耐火物により、耐火物の溶損が減少し、竪型炉や廃棄物溶融処理炉などにおいてその効果を発現している。しかしながら、特許文献1〜3に提案されるキャスタブル耐火物は、何れも50質量%以上のZrO2を含有しており、ZrO2は耐火物原料の中では高価な原料であることから、耐火物の耐食性を低下させることなく、耐火物中のZrO2の含有量を低減することが望まれている。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、少ないZrO2含有量であっても、ZrO2の優れた耐食性を発現することのできる、ZrO2を含有するキャスタブル耐火物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
(1) ZrO2粒子を原料粒子として含有するキャスタブル耐火物であって、該キャスタブル耐火物を構成する原料粒子の最大粒径をD(mm)とし、目開き寸法がd(mm)の篩を通過した原料粒子の累積量をP(体積%)とし、且つ、係数qを0.2〜0.3の範囲とする下記の(1)式に基づいて、キャスタブル耐火物を構成する原料粒子の粒度分布が定められたキャスタブル耐火物であることを特徴とする、ZrO2を含有するキャスタブル耐火物。
P=100×(d/D)q …(1)
(2) 前記ZrO2粒子は1.0mmを超える粒径であり、且つ、前記ZrO2粒子の含有量が14〜60質量%であることを特徴とする、上記(1)に記載のZrO2を含有するキャスタブル耐火物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記(1)式(「アンドリアゼンの連続粒度式」という)を用いて、ZrO2を含有するキャスタブル耐火物を構成する原料粒子の粒度分布を定めるにあたり、原料粒子の累積量Pを体積%で表示し、且つ、係数qを0.2〜0.3の範囲とするので、Al23やSiCなどの他の耐火原料に比較して密度の大きいZrO2の配合比率を、質量比率で調整する場合に比較して的確に調整することができ、その結果、少ないZrO2の含有量であっても、耐食性に優れたキャスタブル耐火物を得ることが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】原料粒子の最大粒径Dを8.0mmとし、(1)式の係数qを0.20及び0.30としたときの目開き寸法dと累積量Pとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0014】
本発明に係るZrO2を含有するキャスタブル耐火物は、ZrO2、Al23及びC(炭素)を含有するキャスタブル耐火物であり、これらの原料以外に、酸化防止剤、結合剤、分散剤などが配合されている。これらの原料のうちで、粒子の粒径が1.0mmを超える原料はZrO2及びAl23であり、1.0mm以下の粒径域に、キャスタブル耐火物の流動性を確保するためのAl23、スラグ浸透を防止するためのカーボンブラック及びピッチなどのC源、酸化防止剤、結合剤、分散剤などが配合されている。尚、粒径が1.0mmを超えるAl23の配合は、本発明に係るキャスタブル耐火物において必須ではなく、配合しなくても構わない。
【0015】
酸化防止剤としては、一般的にSiCが使用されるが、金属Siや金属Alを使用することもできる。結合剤としては、アルミナセメントなどのキャスタブル耐火物に通常使用されている材料を使用することができる。
【0016】
これらの原料を配合し、混合してキャスタブル耐火物を製造するにあたり、本発明においては、下記の(1)式を用いて、キャスタブル耐火物の粒度分布を決定する。
P=100×(d/D)q …(1)
この(1)式は、アンドリアゼンの連続粒度式と呼ばれており、(1)式において、Pは、目開き寸法がdの篩を通過した原料粒子の累積量(体積%)、dは、篩の目開き寸法(mm)、Dは、キャスタブル耐火物を構成する原料粒子の最大粒径(mm)、qは係数であり、本発明においては、係数qを0.2〜0.3の範囲内として、原料粒子の粒度分布を設定する。
【0017】
(1)式を用いて、目開き寸法dと累積量Pとの関係から、原料粒子の粒度分布を決定する具体的な方法は、次のようにして行うことができる。キャスタブル耐火物を構成する原料粒子の最大粒径Dを例えば8.0mmとし、係数qを0.20及び0.30として、(1)式を用いて目開き寸法dと累積量Pとの関係を示したものが図1である。図1において、実線は、係数qを0.20としたときの目開き寸法dと累積量Pとの関係、破線は、係数qを0.30としたときの目開き寸法dと累積量Pとの関係である。
【0018】
例えば、係数qを0.20として原料粒子の粒度分布を設定する場合には、図1の実線に基づいて、各粒径範囲の粒子の体積比率を求め、求めた体積比率から各粒子の密度を考慮して質量比率を求め、求めた質量比率にしたがって各原料粒子の配合を決めることで、キャスタブル耐火物を構成する原料粒子の粒度分布を、目標とする粒度分布に設定することができる。係数qを0.30とする場合は、図1の破線に基づいて、粒度分布を設定すればよい。実際に配合計算する場合には、図1に示す目開き寸法dと累積量Pとの関係を図示する必要はなく、単に計算のみで処理することができる。計算にあたって、係数qは0.2〜0.3の範囲の任意の値とすればよい。
【0019】
(1)式における係数qを変更することで粒度分布は大幅に変化する。本発明においては、係数qを0.2〜0.3の範囲とすることで、ZrO2を含有するキャスタブル耐火物の耐食性を向上させる。これに対して、係数qが0.2未満では、粒径が1.0mm以下の粒子の配合比率が高くなり、1.0mmを超える粗粒の割合、つまり耐食性を発現させるZrO2の含有量が少なくなって、耐食性が低下する。一方、係数qが0.3を超えると、1.0mmを超える粗粒の割合、つまりZrO2の含有量が多くなるものの、キャスタブル耐火物を施工した際に、細粒分が少ないことから緻密な施工体が得られず、これも耐食性が低下する。即ち、本発明に係るZrO2を含有するキャスタブル耐火物の粒度分布は、(1)式の係数qが0.2〜0.3の狭い範囲で求められることを必須とする。
【0020】
また、本発明においては、前述したように、(1)式における原料粒子の累積量Pを体積%で表示する。この理由は、ZrO2の密度は6g/cm3であるのに対して、Al23の密度は4g/cm3、SiCの密度は3.2g/cm3であり、ZrO2と他の原料との密度差が大きく、累積量Pを質量%で表示すると、空間的な割合を表すための粒度分布の管理方法としては適切でないからである。原料粒子の累積量Pを体積%で表示することにより、的確な粒度分布を定めることができ、少ないZrO2の配合で優れた耐食性を得ることが可能となる。
【0021】
また、本発明に係るZrO2を含有するキャスタブル耐火物においては、ZrO2の含有量は、14〜60質量%とすることが好ましい。ZrO2の含有量が14質量%未満では、ZrO2が不足して十分な耐食性を得られない。一方、ZrO2は粒径が1.0mm超えであり、このZrO2の含有量が60質量%を超えると、1.0mm超えの粒子の配合が増加して(1)式の係数qを0.2〜0.3の範囲内に設定することができなくなる。
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、(1)式を用いて、ZrO2を含有するキャスタブル耐火物を構成する原料粒子の粒度分布を定めるにあたり、原料粒子の累積量Pを体積%で表示し、且つ、係数qを0.2〜0.3の範囲とするので、Al23やSiCなどの他の耐火原料に比較して密度の大きいZrO2の配合比率を、質量比率で調整する場合に比較して的確に調整することができ、その結果、少ないZrO2の含有量であっても、耐食性に優れたキャスタブル耐火物を得ることが実現される。
【実施例】
【0023】
以下、ZrO2−Al23−SiC−C質キャスタブル耐火物に本発明を適用した例(本発明例1〜7)を説明する。本発明例1〜5及び比較例1〜4は原料粒子の最大粒径が8.0mmの場合、本発明例6は原料粒子の最大粒径が5.0mmの場合、本発明例7は原料粒子の最大粒径が10.0mmの場合である。
【0024】
本発明例1は、(1)式における係数qを0.25とし、直径が1.0mmを超える原料粒子はZrO2のみとした例(ZrO2の含有量=51.9質量%)、本発明例2は、(1)式における係数qを0.25とし、直径が1.0mmを超える原料粒子をZrO2及びAl23としZrO2及びAl23の体積%表示の配合比率をZrO2:Al23=1:1とした例(ZrO2の含有量=28.2質量%)、本発明例3は、(1)式における係数qを0.25とし、直径が1.0mmを超える原料粒子をZrO2及びAl23としZrO2及びAl23の体積%表示の配合比率をZrO2:Al23=1:3とした例(ZrO2の含有量=14.9質量%)、本発明例4は、(1)式における係数qを0.30とし、直径が1.0mmを超える原料粒子はZrO2のみとした例(ZrO2の含有量=59.1質量%)、本発明例5は、(1)式における係数qを0.20とし、直径が1.0mmを超える原料粒子はZrO2のみとした例(ZrO2の含有量=45.5質量%)である。
【0025】
本発明例6は、原料粒子の最大粒径が5.0mmで、(1)式における係数qを0.25とし、直径が1.0mmを超える原料粒子はZrO2のみとした例(ZrO2の含有量=44.5質量%)、本発明例7は、原料粒子の最大粒径が10.0mmで、(1)式における係数qを0.25とし、直径が1.0mmを超える原料粒子はZrO2のみとした例(ZrO2の含有量=49.3質量%)である。
【0026】
これに対して、比較例1は、竪型炉などに一般的に使用されているAl23−SiC−C質キャスタブル耐火物((1)式における係数q=0.36)であり、比較例2〜4は、ZrO2−Al23−SiC−C質キャスタブル耐火物であるが、比較例2は、(1)式における係数qを0.36とし、直径が1.0mmを超える原料粒子はZrO2のみとした例(ZrO2の含有量=67.1質量%)、比較例3は、(1)式における係数qを0.36とし、直径が1.0mmを超える原料粒子をZrO2及びAl23としZrO2及びAl23の体積%表示の配合比率をZrO2:Al23=1:1とした例(ZrO2の含有量=39.4質量%)、比較例4は、(1)式における係数qを0.36とし、直径が1.0mmを超える原料粒子をZrO2及びAl23としZrO2及びAl23の体積%表示の配合比率をZrO2:Al23=1:3とした例(ZrO2の含有量=21.6質量%)である。本発明例1〜7及び比較例1〜4における原料の配合を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
本発明例1〜7及び比較例1〜4のキャスタブル耐火物を混練した後、上面幅43mm、下面幅75mm、厚み35mm、長さ160mmに成形し、この成形体を24時間養生し、110℃で24時間乾燥後、コークスブリーズ中で800℃で3時間の還元焼成を行なった。こうして得られた焼成体を8本組みにして炉容量が50kgの高周波溶解炉に内張りし、この高周波溶解炉で7kgの冷銑を溶解し、そのときの溶損厚みを調査する試験を行った。
【0029】
試験は、冷銑が溶解して1600℃に達したなら、CaO:40.5質量%、SiO2:43.9質量%、Al23:15.5質量%の合成スラグを200g投入して1時間保持し、1時間経過時点でスラグを掻き出し、再びスラグを投入する。これを3回繰り返して実施した。
【0030】
試験において最も侵食された部分の溶損厚みを求め、比較例1における溶損厚みを基準(=100)として指数化して得られた溶損指数で比較した。溶損指数が小さいほど溶損厚みが少なく、耐食性に優れることを示す。表1に、調査した溶損指数を併せて示す。
【0031】
最も耐食性に劣るのは比較例1であった。係数qが同じ値である場合には、本発明例1〜3、本発明例6,7及び比較例1〜4を対比すれば明らかなように、ZrO2の含有量が多いほど耐食性は良好であった。
【0032】
また、本発明例1〜5は、比較例2よりもZrO2の含有量が少ないにも拘わらず、溶損指数が小さく、耐食性が良好であった。また、本発明例2及び本発明例3は、比較例3よりもZrO2の含有量が少ないにも拘わらず、溶損指数が小さく、耐食性が良好であった。また更に、本発明例3は比較例4よりもZrO2の含有量が少ないにも拘わらず、溶損指数が小さく、耐食性が良好であった。これらの結果から、係数qは0.3以下にする必要のあることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZrO2粒子を原料粒子として含有するキャスタブル耐火物であって、該キャスタブル耐火物を構成する原料粒子の最大粒径をD(mm)とし、目開き寸法がd(mm)の篩を通過した原料粒子の累積量をP(体積%)とし、且つ、係数qを0.2〜0.3の範囲とする下記の(1)式に基づいて、キャスタブル耐火物を構成する原料粒子の粒度分布が定められたキャスタブル耐火物であることを特徴とする、ZrO2を含有するキャスタブル耐火物。
P=100×(d/D)q …(1)
【請求項2】
前記ZrO2粒子は1.0mmを超える粒径であり、且つ、前記ZrO2粒子の含有量が14〜60質量%であることを特徴とする、請求項1に記載のZrO2を含有するキャスタブル耐火物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−96967(P2012−96967A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247015(P2010−247015)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】