説明

[18F]フッ化カリウム及び[18F]フッ化第4アンモニウムの製造方法並びにそれを用いた放射性フッ素標識有機化合物の製造方法

【課題】放射性フッ素標識化合物の製造工程において、基質の分解による不純物の生成を抑える。
【解決手段】 [18F]フッ化物イオンを含有する18O−濃縮水を強酸性陽イオン交換樹脂に接触させて陽イオン不純物を除去する工程、次いで該18O−濃縮水を弱塩基性陰イオン交換樹脂に接触させて[18F]フッ化物イオンを該弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させる工程、該弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着した[18F]フッ化物イオンをカリウム塩(ただし、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムを除く)水溶液又は第4アンモニウム塩(ただし、炭酸水素塩を除く)溶液を用いて溶出する工程、を含むことを特徴とする[18F]フッ化カリウム又は[18F]フッ化第4アンモニウムの製造方法。上記製造方法で得られた[18F]フッ化カリウム又は[18F]フッ化第4アンモニウムを用いて有機化合物を標識する工程を含む放射性フッ素標識有機化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、[18F]フッ化カリウム及び[18F]フッ化第4アンモニウムの製造方法、並びに、これらの放射性フッ素標識有機化合物の製造における使用に関する。更に詳しくは、[18F]−2−フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース(以下、[18F]−FDGと略す)をはじめとする各種放射性フッ素標識有機化合物の製造において、基質の分解に起因する副反応の発生を抑え得る[18F]フッ化カリウム及び[18F]フッ化第4アンモニウムを用いて標識を行うことを特徴とする放射性フッ素標識有機化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性フッ素標識有機化合物は、医療用画像診断技術の一つである陽電子放出型断層撮影(Positron Emission Tomography, PET)において利用されている。
【0003】
放射性フッ素標識有機化合物の製造は、主にその前駆体と[18F]フッ化物イオン(18)との有機化学反応により行われている。[18F]フッ化物イオンは、18O−濃縮水をターゲットとしてプロトン照射することにより生成し、18O−濃縮水に含有された状態で得ることができる。生成した[18F]フッ化物イオンを有機化合物の標識に用いるには、この18O−濃縮水から[18F]フッ化物イオンを取り出すことが必要である。また、18O−濃縮水は非常に高価であるため、[18F]フッ化物イオンを取り出した後に回収して再利用することが望ましい。
【0004】
放射性フッ素標識有機化合物の合成方法は種々提案されており、例えば、反応容器内で標識合成を行う方法と、カラム内で標識合成を行うオンカラム法とが知られている。以下、[18F]−FDGの合成を例にとり、それぞれの方法を説明する。
前者の方法は、[18F]−FDGの合成に一般的に用いられている方法であり、以下の工程により構成されている。まず、[18F]フッ化物イオンを含有する18O−濃縮水(以下、[18F]含有ターゲット水という)を、強塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムに通して[18F]フッ化物イオンを捕集し、18O−濃縮水を回収する。次に、該強塩基性陰イオン交換樹脂に捕集された[18F]フッ化物イオンを、炭酸カリウム水溶液により溶離させ、溶出液を反応容器に回収する。その後、該溶出液に相間移動触媒としてアミノポリエーテルを溶解させたアセトニトリル溶液を加えて蒸発乾固させ、[18F]フッ化物イオンを活性化させる。この残渣に反応基質の1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−O−トリフルオロメタンスルホニル−β−D−マンノピラノース(以下、TATMという)を溶解させたアセトニトリル溶液を加えて求核置換反応を行わせ、最後に、2M塩酸を用いて脱保護を行い、[18F]−FDGを得る(非特許文献1、2参照)。
また、上記以外の方法として、強塩基性陰イオン交換樹脂に捕集された[18F]フッ化物イオンを、テトラブチルアンモニウム炭酸水素塩を溶解させたアセトニトリル水溶液を用いて溶出した後、該溶出液を蒸発乾固することにより[18F]フッ化物イオンを活性化させ、TATMと反応させることにより、[18F]−FDGを得る方法も開示されている(非特許文献3参照)。
【0005】
一方オンカラム法は、[18F]フッ化物イオンを捕集したカラムに、反応基質であるTATMを溶解させたアセトニトリル溶液を直接導入し、フッ素化標識を行う方法である。
例えば、ホスホニウム塩を有する樹脂をカラムに充填し、このカラムに[18F]含有ターゲット水を導入することによって[18F]フッ化物イオンを捕集する。このカラムにアセトニトリルを流して脱水した後、TATMを溶解させたアセトニトリル溶液を加え、[18F]−FDGを得る方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0006】
また、前述した如く、ターゲットに用いる18O−濃縮水は、非常に高価であるため回収して再利用することが望ましい。しかし、上述した方法では、回収した18O−濃縮水にターゲット容器等に由来する陽イオンが存在するため、再利用する際には蒸留等の処理を行って該陽イオンを取り除く必要がある。蒸留等の操作は処理に時間がかかる上、18O−濃縮水の回収量が減少する原因になる。この問題を解決する方法として、まず、[18F]含有ターゲット水を強酸性陽イオン交換樹脂に接触させて陽イオンを取り除き、次いで弱塩基性陰イオン交換樹脂を用いて該ターゲット水から[18F]フッ化物イオンを捕集し、18O−濃縮水を回収するとともに[18F]フッ化物イオンを得る方法が開示されている(特許文献2参照)。この方法により、回収した18O−濃縮水を、蒸留等の処理を行うことなく、再利用することが可能となった。
【0007】
【特許文献1】特開平8−325169号公報
【特許文献2】特開平11−295494号公報
【非特許文献1】K. Hamacher et al., “Computer-aided Synthesis (CAS) of No-carrier-added 2-[18F]Fluoro-2-deoxy-D-glucose: an Efficient Automated System for the Aminopolyether-supported Nucleophilic Fluorination” Applied Radiation and Isotopes, (Great Britain), Pergamon Press, 1990, 41, 1, p.49-55
【非特許文献2】G. Stocklin and V. W. Pike (ed.), “Radiopharmaceuticals for Positron Emission Tomography”, (Netherlands), Kluwer Academic Publishers, 1993, P133
【非特許文献3】P. A. Culbert et al., “Automated Synthesis of [18F]FDG using Tetrabutylammonium Bicarbonate” Applied Radiation and Isotopes, (Great Britain), Pergamon Press, 1995, 46, 9, p.887-891
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の方法では、[18F]フッ化物イオンによる標識工程にて、好ましくない副反応が生じる場合があることが、発明者等の検討の結果明らかとなった。例えば、[18F]−FDGの合成において、副反応により反応基質の分解が生じ、1,2,3,4,6−ペンタ−O−アセチル−2−デオキシ−D−グルコース(以下、PAGという)等の不純物が生成する場合があった。また、[18F]−1−アミノ−3−フルオロシクロブテンカルボン酸(以下、[18F]−FACBCという)の合成においても、基質の開化反応によりジエン体が生成するなどの副反応が生じることが、発明者等の検討により明らかとなった。
このような不純物が生成すると、目的物の収率が低下し、さらにその後の精製工程に長時間を要する場合がある。放射性フッ素は半減期が109.8分と非常に短く、また、その崩壊は精製工程中においても起こるため、精製工程に時間がかかりすぎると、得られる化合物の放射化学的純度が低下し、その収量も少なくなる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、放射性フッ素標識有機化合物の製造において、基質の分解に起因する副反応の発生を抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、後述の試験例に示すように、上記のごとき副反応が、炭酸イオンの存在下において促進されていることを示唆する試験結果を得た。従来法においては、[18F]フッ化物イオンに比べて大過剰の炭酸イオンが反応溶液中に存在しており、この炭酸イオンが副反応の発生に大きく影響することが確認された。
そこで本発明者等はこの知見に基づき鋭意研究を重ねた結果、[18F]フッ化物イオンを含有する18O−濃縮水から強酸性陽イオン交換樹脂を用いて陽イオン不純物を除去し、次いで弱塩基性陰イオン交換樹脂に[18F]フッ化物イオンを吸着させ、該吸着した[18F]フッ化物イオンを炭酸イオンの非存在下にて溶出して製造し、このようにして得られた[18F]フッ化物を用いて有機化合物を標識して放射性フッ素標識有機化合物を製造することにより、上記問題を克服し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち、本発明は、[18F]フッ化物イオンを含有する18O−濃縮水を強酸性陽イオン交換樹脂に接触させて陽イオン不純物を除去する工程、次いで該18O−濃縮水を弱塩基性陰イオン交換樹脂に接触させて[18F]フッ化物イオンを該弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させる工程、該弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着した[18F]フッ化物イオンをカリウム塩(ただし、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムを除く)水溶液を用いて溶出する工程、を含むことを特徴とする[18F]フッ化カリウムの製造方法である。該カリウム塩は中性カリウム塩であることが好ましく、非求核性カリウム塩であることがより望ましい。
また、本発明の他の局面によれば、上記製造方法で得られた[18F]フッ化カリウムを用いて有機化合物を標識する工程を含むことを特徴とする放射性フッ素標識有機化合物の製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明は、[18F]フッ化物イオンを含有する18O−濃縮水を強酸性陽イオン交換樹脂に接触させて陽イオン不純物を除去する工程、次いで該18O−濃縮水を弱塩基性陰イオン交換樹脂に接触させて[18F]フッ化物イオンを該弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させる工程、該弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着した[18F]フッ化物イオンを第4アンモニウム塩(ただし、炭酸水素塩を除く)溶液を用いて溶出する工程、を含むことを特徴とする[18F]フッ化第4アンモニウムの製造方法である。ここで、該第4アンモニウム塩は、下記一般式(1)で示される化合物を用いることが好ましい。
【化4】

〔式中、R,R,R及びRは、各々独立に、直鎖若しくは分岐鎖の炭素数1〜22のアルキル鎖、下記式(2):
【化5】

(式(2)において、nは1〜22の整数)
で示される基、
又は下記式(3):
【化6】

(式(3)において、nは1〜5、mは0〜12、pは1又は2の整数)
で示される基;
Zは対イオン(ただし、炭酸水素イオンは除く)を表す〕
【0013】
第4アンモニウム塩溶液は、水溶液の状態で用いることが望ましいが、用いる第4アンモニウム塩の水に対する溶解度が低い場合には、アセトニトリル等の両親媒性の溶媒を適宜混合した水に溶解させて用いることができる。
また、本発明の他の局面によれば、上記方法で得られた[18F]フッ化第4アンモニウムを用いて有機化合物を標識する工程を含むことを特徴とする放射性フッ素標識有機化合物の製造方法が提供される。
【0014】
尚、本発明においてイオン交換樹脂とは、交換能のある基を有する不溶性の合成樹脂をいい、多孔質型、ゲル型、ポリマー型などの樹脂を含むものと定義する。また、中性カリウム塩とは水に約100mmol/Lの濃度で溶解した場合のpHが6〜8となるカリウム塩、非求核性カリウム塩とは陰イオンがフッ化物イオンよりも低い求核性を有するカリウム塩と定義する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、[18F]フッ化物イオンを[18F]フッ化カリウム又は[18F]フッ化第4アンモニウムの形態で溶出することができ、これらのフッ化物を用いて有機化合物を標識した場合、基質たる有機化合物の分解等の副反応を抑えることができる。更に、回収した18O−濃縮水は陽イオンが除去されているので、蒸留等により精製することなく次の製造に再利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る[18F]フッ化カリウム及び[18F]フッ化第4アンモニウムの製造方法、並びに、これらを用いた放射性フッ素標識有機化合物の製造方法について更に詳しく説明する。
本発明において使用される18O−濃縮水は、水分子を構成する酸素原子の90%以上が、酸素の同位体である18Oで構成された水である。[18F]フッ化物イオンを含有する18O−濃縮水([18F]含有ターゲット水)は、常法に従って製造でき、例えば、18O−濃縮水をターゲットとしてプロトン照射することにより得ることができる。
【0017】
本発明に係る製造方法は、炭酸カリウム水溶液を使用して[18F]フッ化物イオンを溶出していた従来法とは異なり、炭酸イオンの非存在下で[18F]フッ化物イオンの捕集及び溶出工程を行う方法である。
18F]フッ化物イオンを陰イオン交換樹脂を用いて吸着捕集するためには、官能基とその対イオンとの親和力が、[18F]フッ化物イオンとの親和力と同等以下である陰イオン交換樹脂を用いるか、又は、官能基が対イオンを有していない陰イオン交換樹脂を用いることが望ましい。そこで本発明では、このような条件を満たす樹脂として、弱塩基性陰イオン交換樹脂を用いる事とした。
本発明に係る製造方法には、大きく分けて二つの実施形態がある。以下、それぞれの実施形態につき、工程ごとに説明する。
【0018】
(第1実施形態)
まず、溶離液としてカリウム塩(ただし、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムを除く)水溶液を用いる製造方法について説明する。
第一の工程では、[18F]含有ターゲット水を強酸性陽イオン交換樹脂に接触させることにより、[18F]含有ターゲット水から重金属陽イオン等の陽イオン不純物を取り除く。18O−濃縮水は、プロトン照射を行う際にステンレスや銀などの金属製のターゲットボックスに納められているため、このターゲットボックスから溶出する陽イオンを不純物として含有する。
これらの陽イオン不純物は[18F]含有ターゲット水中で[18F]フッ化物イオンと強固な塩を形成している場合があり、そのような塩を形成している場合、後述する弱塩基性陰イオン交換樹脂に[18F]フッ化物イオンを吸着させて捕集することは困難である。従って、弱塩基性陰イオン交換樹脂を用いて[18F]フッ化物イオンを捕集するためには、[18F]フッ化物イオンと塩を形成している陽イオンを、[18F]フッ化物イオンから引き剥がす必要がある。そこで、当該第一の工程で[18F]フッ化物イオンから陽イオン不純物を引き剥がすことにより、第二の工程にて[18F]フッ化物イオンを弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させることが容易になる。
また、回収した18O−濃縮水は高価であるので再利用することが望ましいが、陽イオン不純物が存在している場合は、蒸留等の工程を経た後でないと再利用することができない。本工程にて陽イオン不純物を除去することにより、蒸留等の処理を行うことなく、第二の工程後に回収した18O−濃縮水を再利用することが可能となる。
【0019】
第一の工程で用いる強酸性陽イオン交換樹脂は、市販のものを使用できるが、水素型に変換して使用するのが好ましい。本発明で使用する際には、例えば以下の方法により活性化を行う。
まず、強酸性陽イオン交換樹脂約100mLを適当なガラス製のカラム管に充填する。次に、約500mLの1mol/L塩酸水溶液をカラム管に通過させ、樹脂のイオン型を水素型に変換する。その後、溶離液の液性が中性になるまで脱イオン水でカラム中の樹脂を洗浄する。このように活性化された強酸性陽イオン交換樹脂に[18F]含有ターゲット水を接触させると、陽イオン不純物と樹脂の水素イオンが交換されて、[18F]フッ化水素含有18O−濃縮水となる。
【0020】
なお、強酸性陽イオン交換樹脂とは、酸性側からアルカリ性側までの広いpHにて容易に交換基を放出して水溶液中の陽イオンと交換する性質を持つイオン交換樹脂であり、酸性溶液中では交換基と他の陽イオンとの交換能が低下する性質を持つ弱酸性陽イオン交換樹脂と区別される。弱酸性陽イオン交換樹脂が、官能基としてカルボン酸等を含むのに対し、強酸性陽イオン交換樹脂はスルホン酸を官能基として有している。本発明で使用する強酸性陽イオン交換樹脂としては特に限定されないが、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体を固相担体としたものを好ましく用いることができる。
強酸性陽イオン交換樹脂の使用形態は、[18F]含有ターゲット水と十分に接触可能である限り特に限定する必要は無いが、カラム管に充填して用いることが好ましい。強酸性陽イオン交換樹脂の量としては、処理する[18F]含有ターゲット水の量に応じて適宜選択されるが、例えば容量1mLのカラム管を用いて10mLの[18F]含有ターゲット水を処理する場合は、0.5mLの湿潤樹脂を充填すれば十分である。
【0021】
第二の工程では、第一の工程で得られた[18F]フッ化水素含有18O−濃縮水を弱塩基性陰イオン交換樹脂に接触させ、該[18F]フッ化水素含有18O−濃縮水に含まれる[18F]フッ化物イオンを吸着捕集するとともに18O−濃縮水を回収する。この工程により、弱塩基性陰イオン交換樹脂上に[18F]フッ化物イオンを吸着させることができ、18O−濃縮水を該樹脂から分離することにより、[18F]フッ化物イオンを捕集することができる。
【0022】
弱塩基性陰イオン交換樹脂とは、酸性側からアルカリ性側までの広いpHにてイオン交換能を有する強塩基性陰イオン交換樹脂と異なり、アルカリ性側では解離度が低く、主に酸性から中性付近まで(操作pH:0〜9)でのみイオン交換能を有するイオン交換樹脂である。強塩基性陰イオン交換樹脂が、4級アンモニウムを官能基とするのに対し、弱塩基性陰イオン交換樹脂は、1〜3級アミンを官能基として有している。
使用する弱塩基性陰イオン交換樹脂としては特に限定されないが、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、又はアクリル酸及び/又はその誘導体とジビニルベンゼンの共重合体を固相担体とし、1〜3級アミンを官能基とした弱塩基性陰イオン交換樹脂が好ましく用いられる。また、官能基に対イオンを有しないものを用いるのがより好ましい。
弱塩基性陰イオン交換樹脂としては、例えば、下記式(4)で表される樹脂が挙げられる。
【化7】

(式中、Pはスチレン−ジビニルベンゼン共重合体又はアクリル共重合体、nは1〜10までの整数、Yはそれぞれ独立にメチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基を表す)
【0023】
弱塩基性陰イオン交換樹脂の使用形態は、[18F]フッ化水素含有18O−濃縮水と十分に接触可能である限り特に限定する必要は無いが、カラム管に充填して用いることが好ましい。弱塩基性陰イオン交換樹脂の量は、理論的には処理する[18F]フッ化水素含有18O−濃縮水に含まれる[18F]フッ化物イオンの量と、樹脂に含まれる官能基の量が等量であれば良いが、確実に[18F]フッ化物イオンを捕捉するためには、より多くの樹脂を用いることが好ましい。具体的には、例えば185GBq([18F]フッ化物イオンとして約3nmol相当)の[18F]フッ化水素含有18O−濃縮水を処理する場合であって、用いる樹脂が官能基濃度0.8meq/mLの樹脂である場合は、0.2mLの湿潤樹脂を充填すれば十分である。
【0024】
第二の工程にて回収した18O−濃縮水は、第一の工程にて陽イオン不純物が除去されているので、特に蒸留等の処理を施すことなく、[18F]フッ化物イオンの製造に再利用することができる。
【0025】
本発明における第三の工程では、前記第二の工程で捕集された[18F]フッ化物イオンをカリウム塩(ただし、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムを除く)水溶液を溶離液として用い、[18F]フッ化カリウム溶液として[18F]フッ化物イオンを溶出する。該カリウム塩としては炭酸カリウム及び炭酸水素カリウム以外であれば特に限定されないが、弱塩基性陰イオン交換樹脂に対して[18F]フッ化物イオンと同等かより親和性の強い陰イオンを対イオンとする塩の水溶液を用いることが望ましい。
【0026】
前記カリウム塩としては、中性カリウム塩を用いることが望ましく、非求核性カリウム塩を用いることがより好ましい。さらに好ましくは、種々の有機酸塩または無機オキソ酸塩を用いることができる。
有機酸塩としては、例えば、アルキルスルホン酸塩、アレーンスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩を用いることができる。アルキルスルホン酸塩は、種々のものを用いることができるが、特に好ましくは、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、メタンスルホン酸カリウム、エタンスルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、パーフルオロオクタンスルホン酸カリウムを用いることができ、最も好ましくは、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム又はメタンスルホン酸カリウムを用いることができる。アレーンスルホン酸は種々のものを用いることができるが、特に好ましくは、ベンゼンスルホン酸カリウム、3−ニトロベンゼンスルホン酸カリウム、4−ニトロベンゼンスルホン酸カリウム、4−ニトロ−3−ニトロベンゼンスルホン酸カリウム、トルエン−4−スルホン酸カリウム、ベンゼン−1,2−ジスルホン酸ジカリウムを用いることができる。パーフルオロアルキルカルボン酸塩は種々のものを用いることができるが、特に好ましくは、トリフルオロ酢酸カリウムを用いることができる。
無機オキソ酸塩としては、種々のものを用いることができ、特に硫黄、リン又はホウ素を有するオキソ酸カリウムを用いることができる。硫黄を含むオキソ酸カリウムとしては、硫酸カリウム、四チオン酸カリウム、フルオロ硫酸カリウム、チオ硫酸カリウム又はピロ亜硫酸カリウムを好ましく用いることができ、特に好ましくは硫酸カリウムを用いることができる。リンを含むオキソ酸カリウムとしては、リン酸二水素カリウム又はヘキサフルオロリン酸カリウムを好ましく用いることができる。ホウ素を含むオキソ酸カリウムとしては、テトラフルオロホウ酸カリウムを好ましく用いることができる。
なお、本明細書において、中性カリウム塩とは水に約100mmol/Lの濃度で溶解した場合のpHが6〜8となるようなカリウム塩をいい、非求核性カリウム塩とは、陰イオンがフッ化物イオンよりも低い求核性を有するカリウム塩をいう。求核性とは、炭素原子との反応速度の大きさを表す用語であり、求核性が低いとは、相対的に炭素原子との反応速度が小さいことを表す。多くの場合、塩基性が強くなるほど求核性が高くなる傾向がある。
【0027】
用いる溶離液の水溶液量及びカリウム塩濃度は、前記弱塩基性陰イオン交換樹脂に捕集された[18F]フッ化物イオンを十分に溶出し得るように調整される。例えば、0.2mLの弱塩基性陰イオン交換樹脂から[18F]フッ化物イオンを溶出させるためには、水溶液量としては0.1〜2mLであることが好ましく、0.2〜0.3mLであることがより好ましい。用いる水溶液の量が多すぎると、次工程である加熱蒸発乾固処理に時間がかかりすぎるため好ましくない。カリウム塩濃度は、カリウムの総量が、前記弱塩基性陰イオン交換樹脂から[18F]フッ化物イオンを溶出するために十分な量である限り限定する必要はないが、カリウムの総量が、捕集された[18F]フッ化物イオンに対してモル比にして1000倍量以上となるように調整することが好ましい。ここで、カリウム塩の総量が少ないと、[18F]フッ化物イオンの溶出が不十分となるため好ましくない。例えば、0.2mLの弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムに捕捉された200MBq相当の[18F]フッ化物イオンをトリフルオロメタンスルホン酸カリウム水溶液を用いて溶出する場合には、0.3mLの133mmol/Lトリフルオロメタンスルホン酸カリウム水溶液を該樹脂に流せばよい。
【0028】
前記第三の工程により回収された[18F]フッ化カリウム溶液は、反応容器に収められ、相間移動触媒を加えた後に加熱蒸発乾固して[18F]フッ化物イオンを活性化させる。その後、反応基質を加えて求核置換反応を行い、放射性フッ素標識有機化合物を得る。水分子は[18F]フッ化物イオンに水和し[18F]フッ化物イオンの求核性を低下させるので、加熱蒸発乾固することで[18F]フッ化物イオンが活性化し、標識反応が可能となる。
【0029】
前記相間移動触媒としては特に限定されないが、例えば、アミノポリエーテル等が挙げられ、具体的にはクリプトフィックス222(商品名、メルク社製)等を用いることができる。
【0030】
反応基質は合成する放射性フッ素標識有機化合物により適宜選択される。例えば[18F]−FDGを合成する場合はTATMを、[18F]−FACBCを合成する場合は、anti−1−tert−ブトキシカルバメート−3−トリフロメタンスルホニル−シクロブタン−1−メチルエステル(Boc−TfACBC−OMe)を使用することができる。
【0031】
(第2実施形態)
次に溶離液として第4アンモニウム塩(ただし、炭酸水素塩を除く)溶液を用いる場合の製造方法について説明する。
第一及び第二の工程は第1実施形態と同様に行い、弱塩基性陰イオン交換樹脂に[18F]フッ化物イオンを吸着捕集する。
【0032】
第三の工程では、第二の工程で捕集された[18F]フッ化物イオンを溶離液により溶出するが、ここで、溶離液として第4アンモニウム塩溶液を用いる点で、第1実施形態と異なっている。
第4アンモニウム塩としては、下記式(1)で示される化合物を用いることができる。
【化8】

〔式中、R,R,R及びRは、各々独立に、直鎖又は分岐鎖の炭素数1〜22のアルキル鎖、下記式(2):
【化9】

(式(2)において、nは1〜22の整数)
で示される基、
又は下記式(3):
【化10】

(式(3)において、nは1〜5、mは0〜12、pは1又は2の整数)
で示される基;
Zは対イオン(ただし、炭酸水素イオンは除く)を表す〕
ここで、式(1)中、R,R,R又はRがアルキル鎖である場合、炭素数はそれぞれ1〜22のものを用いることができるが、好ましくは1〜8、更には1〜4のものを用いることが好ましい。
【0033】
上記式中、対イオンZは炭酸水素イオン以外の陰イオンであって、第4アンモニウムイオンと共に塩を形成する一価の陰イオンである限り限定されないが、形成された塩が非求核性であるものがより好ましい。非求核性の意味は、非求核性カリウム塩の場合と同様であり、陰イオンがフッ化物イオンよりも低い求核性を有する塩をいう。例えば、過フッ素化アルカンスルホン酸イオン、アルカンスルホン酸イオン、アレーンスルホン酸イオン等が好ましく用いられる。
【0034】
上記式(1)で表される第4アンモニウム塩の具体例としては、例えば、テトラブチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホン酸、テトラメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホン酸、テトラエチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホン酸、テトラプロピルアンモニウムトリフルオロメタンスルホン酸、テトラペンチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホン酸、テトラヘキシルアンモニウムトリフルオロメタンスルホン酸、テトラエチルアンモニウムp−トルエンスルホン酸等が挙げられ、好ましくはテトラブチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホン酸、テトラエチルアンモニウムp−トルエンスルホン酸を使用する。
【0035】
第4アンモニウム塩溶液は、水溶液の状態で用いることが望ましいが、用いる第4アンモニウム塩の水に対する溶解度が低い場合には、アセトニトリル等の両親媒性の溶媒を適宜混合した水に溶解させて用いることができる。
【0036】
用いる溶離液の液量及び第4アンモニウム塩濃度は、前記弱塩基性陰イオン交換樹脂に捕集された[18F]フッ化物イオンを十分に溶出し得るように調整される。例えば、0.2mLの弱塩基性陰イオン交換樹脂から[18F]フッ化物イオンを溶出させるためには、液量としては0.1〜2mLであることが好ましく、0.2〜0.3mLであることがより好ましい。このとき、用いる第4アンモニウム塩溶液の量が多すぎると、次工程である加熱蒸発乾固処理に時間がかかりすぎるため好ましくない。第4アンモニウム塩濃度は、第4アンモニウムの総量が、前記弱塩基性陰イオン交換樹脂から[18F]フッ化物イオンを溶出するために十分な量である限り限定する必要はないが、第4アンモニウムの総量が、捕集された[18F]フッ化物イオンに対してモル比にして1000倍量以上となるように調整することが好ましい。ここで、第4アンモニウム塩の総量が少ないと、[18F]フッ化物イオンの溶出が不十分となるため好ましくない。例えば、0.2mLの弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムに捕捉された200MBq相当の[18F]フッ化物イオンをテトラエチルアンモニウムp−トルエンスルホン酸溶液を用いて溶出する場合には、0.3mLの133mmol/Lテトラエチルアンモニウムトp−トルエンスルホン酸溶液を該樹脂に流せばよい。
【0037】
溶離液として用いる第4アンモニウム塩は、それ自体が相間移動触媒であるため、さらに相間移動触媒を加える必要は無い。従って、前記第三の工程で回収された[18F]フッ化第4アンモニウム溶液をそのまま加熱蒸発乾固して[18F]フッ化物イオンを活性化させた後、反応基質と反応させることによって、放射性フッ素標識有機化合物を標識合成することができる。
【0038】
以下、本発明の試験例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例等になんら制限されるものではない。
(試験例1〜3)炭酸イオンが基質の分解反応発生に与える影響(非放射性フッ素を用いたFDG合成実験による検討)
炭酸イオンの副反応発生に与える影響を調べるために、非放射性フッ素を用いて、下記の実験を行った。
反応容器(3 mL容)にフッ化カリウムおよび炭酸カリウムを表1に示す量秤量した。ついで、TATMおよびクリプトフィックス222(商品名、メルク社製)を表2に示す量秤量し、アセトニトリル2 mLに溶解させて前記反応容器に添加した。これを、還流しながら80℃に加温して反応させた。反応直後、ならびに反応10、30、60および90分後のそれぞれの時間点にて、マイクロシリンジを用いて反応溶液5 μLを直接採取し、以下の条件にてHPLC分析を行い、絶対検量線法にて、本合成反応における目的化合物である1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−フルオロ−2−デオキシグルコース(FDG中間体。以下、TAFDGという)、及び反応基質TATMの分解によって生成する副生成物であるPAGの量を定量した。TAFDGおよびPAGの生成率%をそれぞれ下記計算式(1)又は(2)により求めた。
【数1】

【数2】

(HPLC分析条件)
カラム:Asahipak(登録商標) ODP-50(商品名、昭和電工株式会社製、4.6 mm×150 mm)
移動相:水/アセトニトリル=80/20
流 速:1.5 mL/min
検 出:紫外可視吸光光度計(検出波長:209 nm)
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
結果を表3及び4に示す。目的物であるTAFDGの生成率は、炭酸カリウムをフッ化カリウムに添加することにより減少する傾向を示し、特に、炭酸カリウムを0.05 mmol(フッ化カリウムに対して0.5当量)添加した結果(試験例3)においては、反応時間90分において、約1.4%まで減少した(表3)。
一方、副生成物であるPAGの生成率は、炭酸カリウムの添加量の増加に伴って増加する傾向を示していた(表4)。
この結果より、炭酸カリウムの存在により、基質の分解を伴う副反応が発生し、副生成物であるPAGが生成することが確認された。さらに、このような副反応は、炭酸カリウム量の増加により促進される傾向があることが確認された。以上の結果は、炭酸イオンの存在により、基質の分解を伴う副反応が促進されることを示唆する結果である。
【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
(試験例4〜7)各種カリウム塩水溶液存在下における基質の分解反応発生比較
各種カリウム塩の副反応発生に与える影響を調べるために、各種カリウム塩水溶液の存在下で、TATMの加熱処理をフッ素化反応時と同様の条件にて行い、TATMの残存率を調べる実験を行った。
強酸性陽イオン交換樹脂AG50W-X8(商品名、バイオ・ラッドラボラトリーズ株式会社製)0.5 mLを充填したカラムに水5 mLを流し、該カラムから溶出した水を、弱塩基性陰イオン交換樹脂AG4-X4(商品名、バイオ・ラッドラボラトリーズ株式会社製)0.2 mLを充填したカラムに流した。次いで、上記弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムに表5記載のカリウム塩水溶液を流し、該水溶液をバイアル(容量3.5 mL)に回収した。このバイアルに、クリプトフィックス222(商品名、メルク社製)53.1 μmolをアセトニトリル1 mLに溶解した液1.5 mLを加え、オイルバス中で110℃に20分加温し、水及びアセトニトリルを蒸散させた。次いで、アセトニトリル1 mLを加えて110℃で10分間加温する操作を2回繰り返し、TATM41.6 μmolをアセトニトリル1 mLに溶解した液を加え、80℃で5分間加熱した。
反応溶液5 μLにつき、下記の条件にてHPLC分析を行い、絶対検量線法にてTATMの定量を行った。求めたTATMの定量値より、下記計算式(3)を用いてTATMの残存率%を求めた。
【数3】

(HPLC分析条件)
カラム:Inertsil(登録商標) ODS-3(商品名、ジーエルサイエンス株式会社製、4.6 mm×250 mm)
移動相:水/アセトニトリル/イソプロパノール=55/30/15
流 速:1 mL/min
検 出:紫外可視吸光光度計(検出波長:209 nm)
【0045】
【表5】

【0046】
結果を表6に示す。炭酸カリウムの存在下で加熱処理を行った実験では、TATMの残存率は3.6%であったのに対し(試験例4)、その他のカリウム塩の存在下で加熱処理を行った実験では、TATMの残存率は90%以上であった(試験例5〜7)。これらの結果より、炭酸カリウムの存在によりTATMの分解が生じることが確認された。また、溶離液に炭酸カリウム以外のカリウム塩水溶液を用いることにより、基質であるTATMの分解が抑えられることが示唆された。
【0047】
【表6】

【0048】
(試験例8)テトラブチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホン酸塩溶液存在下における基質の分解反応
第4アンモニウム塩の副反応発生に与える影響を調べるために、テトラブチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホン酸塩溶液の存在下においてTATMの加熱処理をフッ素化反応時と同様の条件にて行い、TATMの残存率を調べる実験を行った。
強酸性陽イオン交換樹脂AG50W-X8(商品名、バイオ・ラッドラボラトリーズ株式会社製)0.5 mLを充填したカラムに水5 mLを流し、該カラムより溶出した水を、弱塩基性陰イオン交換樹脂AG4-X4(商品名、バイオ・ラッドラボラトリーズ株式会社製)0.2 mLを充填したカラムに流した。次いで、上記弱塩基性陰イオン交換樹脂を充填したカラムに133 mmol/L テトラブチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホン酸塩溶液(20%アセトニトリル溶液に溶解)0.3 mLを流し、該溶液をバイアル(容量3.5 mL)に回収した。このバイアルに、アセトニトリル 1.5 mLを加え、オイルバス中で110℃に20分加温し、水及びアセトニトリルを蒸散させた。次いで、アセトニトリル1 mLを加えて110℃で10分間加温する操作を2回繰り返し、TATM41.6 μmolをアセトニトリル1 mLに溶解した液を加え、80℃で5分間加熱した。
反応溶液5 μLにつき、試験例4〜7と同様の条件にてHPLC分析を行い、絶対検量線法にてTATMの定量を行った。求めたTATMの定量値より、計算式(3)を用いてTATMの残存率%を求めた。
結果として得られたTATMの残存率は、99.9%以上であり、本条件による基質の分解は認められなかった。
【0049】
(実施例1〜3)各種カリウム塩を用いた[18F]−TAFDGの合成
18O−濃縮水(O−18濃度99.9%以上)にプロトン照射を行うことにより生成した[18F]フッ化物イオン含有18O−濃縮水0.2 mL(全放射能量は、表7を参照)を、強酸性陽イオン交換樹脂AG50W-X8(商品名、バイオ・ラッドラボラトリーズ株式会社製)0.5 mLを充填したカラムに流し、次いで、弱塩基性陰イオン交換樹脂AG4-X4(商品名、バイオ・ラッドラボラトリーズ株式会社製)0.2 mLを充填したカラムに流した。次に、上記弱塩基性陰イオン交換樹脂に表8記載のカリウム塩水溶液0.3 mLを流して該弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着した[18F]フッ化物イオンを溶出させ、溶出液をバイアルに回収した。
その後、該溶出液に、クリプトフィックス222(商品名、メルク社製)35.4 μmolをアセトニトリル1 mLに溶解した液1.5 mLを加え、110℃で10分加温し、水及びアセトニトリルを蒸散させた。次いで、アセトニトリル1 mLを加えて110℃で5分間加温する操作を2回繰り返し、蒸発乾固させた。この残渣に、TATM41.6 μmolをアセトニトリル1 mLに溶解した液を加え、80℃で5分間加熱し[18F]−TAFDGを得た。
この反応溶液につき、下記の条件にてTLC分析を行い、下記計算式(4)を用いて放射化学的純度%を求めた。また、下記計算式(5)より、[18F]フッ化物イオンの溶出率%を求めた。
【数4】

【数5】

(TLC条件)
展開相:クロロホルム/酢酸エチル=4/1
TLCプレート:Silica Gel 60F254(商品名、膜厚:0.25 mm、メルク社製)
展開長:10 cm
【0050】
【表7】

【0051】
【表8】

【0052】
結果を表9に示す。[18F]フッ化物イオンの溶出率は、何れの実施例においても、98%以上の値を示していた。この結果より、本発明に係る方法によっても、炭酸カリウムを用いた従来法による溶出と同様の高い[18F]フッ化物イオンの溶出率が達成し得ることが確認された。また、何れの実施例においても、得られた[18F]−TAFDGは40%以上の放射化学的純度を示しており、本発明に係る方法によって合成目的物である[18F]−TAFDGが合成し得ることが示された。
【0053】
【表9】

【0054】
(実施例4及び比較例1)各種カリウム塩を用いた[18F]−TAFDGの合成によるPAG生成比較
18F]フッ化物イオン含有18O−濃縮水を0.1 mL(全放射能量は、表10を参照)用い、溶離液として表11に示す溶液0.3 mLを用いた以外は、実施例1〜3と同様の操作を行い、[18F]−TAFDGの合成を行った。
得られた反応溶液5 μLにつき、下記の条件にてHPLC分析を行い、PAGの生成率%を下記計算式(6)により求めた。
【数6】

(HPLC分析条件)
カラム:Inertsil(登録商標) ODS-3(商品名、ジーエルサイエンス株式会社製、4.6 mm×250 mm)
移動相:水/アセトニトリル/イソプロパノール=55/30/15
流 速:1 mL/min
検 出:紫外可視吸光光度計(検出波長:209 nm)
【0055】
【表10】

【0056】
【表11】

【0057】
結果を表12に示す。実施例4で生成したPAGの生成率は、比較例1にて生成したPAGの生成率の約10分の1であり、[18F]フッ素の溶出にトリフルオロメタンスルホン酸カリウム水溶液を用いることにより、基質の分解が抑えられることが標識実験においても確認された。
【0058】
【表12】

【0059】
(実施例5及び6)各種第4アンモニウム塩溶液を用いた[18F]−TAFDGの合成
18O−濃縮水(O−18濃度99.9%以上)にプロトン照射を行うことにより生成した[18F]フッ化物イオン含有18O−濃縮水0.2 mL(全放射能量は、表13参照)を、強酸性陽イオン交換樹脂AG50W-X8(商品名、バイオ・ラッドラボラトリーズ株式会社製)0.5 mLを充填したカラムに流し、次いで、弱塩基性陰イオン交換樹脂AG4-X4(商品名、バイオ・ラッドラボラトリーズ株式会社製)0.2 mLを充填したカラムに流した。次に、上記弱塩基性陰イオン交換樹脂に表14記載の第4アンモニウム塩溶液0.3 mLを流して該弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着した[18F]フッ化物イオンを溶出させ、溶出液をバイアルに回収した。
その後、該溶出液を110℃で10分加温し、水及びアセトニトリルを蒸散させた。次いで、アセトニトリル1 mLを加えて110℃で5分間加温する操作を2回繰り返し、蒸発乾固させた。この残渣に、TATM41.6 μmolをアセトニトリル1 mLに溶解した液を加え、80℃で5分間加熱した。
この反応溶液につき、実施例1〜3と同様の条件にてTLC分析を行い、計算式(4)を用いて放射化学的純度%を求めた。また、計算式(5)より、[18F]フッ化物イオンの溶出率%を求めた。
【0060】
【表13】

【0061】
【表14】

【0062】
結果を表15に示す。[18F]フッ化物イオンの溶出率は、何れの実施例においても97%以上の値を示していた。この結果より、溶出液に第4アンモニウム塩溶液を用いる方法によっても、炭酸カリウムを用いた従来法による溶出と同様の高い[18F]フッ素溶出率を達成し得ることが確認された。また、得られた[18F]−TAFDGの放射化学的純度も70%以上の値を示しており、本発明に係る方法によって合成目的物である[18F]−TAFDGが合成し得ることが示された。
【0063】
【表15】

【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、有機化合物を放射性フッ素標識するために有用であり、医療用画像診断における造影剤及びその他の放射性フッ素標識化合物が用いられる分野で利用することができる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
18F]フッ化物イオンを含有する18O−濃縮水を強酸性陽イオン交換樹脂に接触させて陽イオン不純物を除去する工程、
次いで該18O−濃縮水を弱塩基性陰イオン交換樹脂に接触させて[18F]フッ化物イオンを該弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させる工程、
該弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着した[18F]フッ化物イオンをカリウム塩(ただし、炭酸カリウム及び炭酸水素カリウムを除く)水溶液を用いて溶出する工程、
を含むことを特徴とする[18F]フッ化カリウムの製造方法。
【請求項2】
前記カリウム塩が中性カリウム塩であることを特徴とする請求項1に記載の[18F]フッ化カリウムの製造方法。
【請求項3】
前記カリウム塩が非求核性カリウム塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の[18F]フッ化カリウムの製造方法。
【請求項4】
前記カリウム塩が、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、硫酸カリウム及びメタンスルホン酸カリウムからなる群より選択される1種であることを特徴とする請求項3に記載の[18F]フッ化カリウムの製造方法。
【請求項5】
前記弱塩基性陰イオン交換樹脂が、官能基に対イオンを有しないものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の[18F]フッ化カリウムの製造方法。
【請求項6】
前記強酸性陽イオン交換樹脂及び前記弱塩基性陰イオン交換樹脂を、カラム管に充填した状態で使用することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の[18F]フッ化カリウムの製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の方法で得られた[18F]フッ化カリウムを用いて有機化合物を標識する工程を含むことを特徴とする放射性フッ素標識有機化合物の製造方法。
【請求項8】
18F]フッ化物イオンを含有する18O−濃縮水を強酸性陽イオン交換樹脂に接触させて陽イオン不純物を除去する工程、
次いで該18O−濃縮水を弱塩基性陰イオン交換樹脂に接触させて[18F]フッ化物イオンを該弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着させる工程、
該弱塩基性陰イオン交換樹脂に吸着した[18F]フッ化物イオンを第4アンモニウム塩(ただし、炭酸水素塩を除く)溶液を用いて溶出する工程、
を含むことを特徴とする[18F]フッ化第4アンモニウムの製造方法。
【請求項9】
前記第4アンモニウム塩が、下記一般式(1)で示されることを特徴とする請求項8に記載の[18F]フッ化第4アンモニウムの製造方法。
【化1】

〔式中、R,R,R及びRは、各々独立に、直鎖若しくは分岐鎖の炭素数1〜22のアルキル鎖、下記式(2):
【化2】

(式(2)において、nは1〜22の整数)
で示される基、
又は下記式(3):
【化3】

(式(3)において、nは1〜5、mは0〜12、pは1又は2の整数)
で示される基;
Zは対イオン(ただし、炭酸水素イオンは除く)を表す〕
【請求項10】
前記Zが、非求核性陰イオンであることを特徴とする請求項9に記載の[18F]フッ化第4アンモニウムの製造方法。
【請求項11】
前記Zが、過フッ素化アルカンスルホン酸イオン、アルカンスルホン酸イオン及びアレーンスルホン酸イオンからなる群より選択される1種であることを特徴とする請求項10に記載の[18F]フッ化第4アンモニウムの製造方法。
【請求項12】
前記第4アンモニウム塩がテトラブチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホン酸又はテトラエチルアンモニウムp−トルエンスルホン酸であることを特徴とする請求項11に記載の[18F]フッ化第4アンモニウムの製造方法。
【請求項13】
前記弱塩基性陰イオン交換樹脂が、官能基に対イオンを有しないものであることを特徴とする請求項8乃至12のいずれか1項に記載の[18F]フッ化第4アンモニウムの製造方法。
【請求項14】
前記強酸性陽イオン交換樹脂及び前記弱塩基性陰イオン交換樹脂を、カラム管に充填した状態で使用することを特徴とする請求項8乃至13のいずれか1項に記載の[18F]フッ化第4アンモニウムの製造方法。
【請求項15】
請求項8乃至14の何れか1項に記載の方法で得られた[18F]フッ化第4アンモニウムを用いて有機化合物を標識する工程を含むことを特徴とする放射性フッ素標識有機化合物の製造方法。

【公開番号】特開2008−56495(P2008−56495A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−370523(P2004−370523)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000230250)日本メジフィジックス株式会社 (75)
【Fターム(参考)】