説明

cyclicGMP検出方法

【課題】cGMP検出系において、より応用範囲の広いcGMPの検出方法を提供すること。
【解決手段】ルシフェラーゼのN末端側の部分配列を有するドメインN、cGMP結合ドメイン、ルシフェラーゼのC末端側の部分配列を有するドメインCをこの順に有し、この順に結合し、ドメインNとドメインCが相補することができることを特徴とするポリペプチドをcGMP検出系に導入する工程と、cGMP検出系にルシフェリンを導入する工程と、cGMP検出系からの発光を検出する工程と、を含むことを特徴とする方法を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、cyclicGMP(cGMP)検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真核生物は外部環境に適応するためにセカンドメッセンジャーを介したシグナル伝達を行う。cGMPは代表的なセカンドメッセンジャーのひとつであるが、生体内でその存在量や量的変化を知ることは,高等生物の情報伝達を解析する上で非常に重要である(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
高等動物細胞においては,FRETによる検出原理に基づいたcGMP検出プローブが開発され,cGMPの関わる生理反応のいくつかに関しては細胞レベルでの解析が可能となって来ている(例えば、非特許文献2〜7参照)。しかしながら、FRETプローブによる解析は、外部から生物試料に励起光を照射する必要があり、また、蛍光放射量も小さいため、皮膚組織で覆われた動物個体や葉緑体の発達した緑色組織を持つ植物個体での解析には適用が難しい。このように、動植物個体中の細胞においてcGMPを検出するためには、組織もしくは細胞を破砕する必要があり、動植物個体において生きたままでcGMPを検出するのは困難であった。そのため、これまで生体内での情報伝達系に関する解析、特に動的変化の解析やリアルタイムでの解析は容易ではなかった。
【非特許文献1】Beavo, J.A., and L.L. Brunton. 2002. Cyclic nucleotide research -- still expanding after half a century. Nat Rev Mol Cell Biol. 3:710-8.
【非特許文献2】Cawley, S.M., C.L. Sawyer, K.F. Brunelle, A. van der Vliet, and W.R. Dostmann. 2007. Nitric oxide-evoked transient kinetics of cGMP in vascular smooth muscle cells. Cell Signal. 19:1023-33.
【非特許文献3】Honda, A., S.R. Adams, C.L. Sawyer, V. Lev-Ram, R.Y. Tsien, and W.R. Dostmann. 2001. Spatiotemporal dynamics of guanosine 3',5'-cyclic monophosphate revealed by a genetically encoded, fluorescent indicator. Proc Natl Acad Sci U S A. 98:2437-42.
【非特許文献4】Honda, A., M.A. Moosmeier, and W.R. Dostmann. 2005. Membrane-permeable cygnets: rapid cellular internalization of fluorescent cGMP-indicators. Front Biosci. 10:1290-301.
【非特許文献5】Honda, A., C.L. Sawyer, S.M. Cawley, and W.R. Dostmann. 2005b. Cygnets: in vivo characterization of novel cGMP indicators and in vivo imaging of intracellular cGMP. Methods Mol Biol. 307:27-43.
【非特許文献6】Nikolaev, V.O., S. Gambaryan, and M.J. Lohse. 2006. Fluorescent sensors for rapid monitoring of intracellular cGMP. Nat Methods. 3:23-5.
【非特許文献7】Sato, M., N. Hida, T. Ozawa, and Y. Umezawa. 2000. Fluorescent indicators for cGMP based on cGMP-dependent protein kinase Ialpha and green fluorescent proteins. Anal Chem. 72:5918-24.
【非特許文献8】Newton, R.P., and C.J. Smith. 2004. Cyclic nucleotides. Phytochemistry. 65:2423-37.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記課題を鑑み、本発明は、より応用範囲の広いcGMPの検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のポリペプチドは、ルシフェラーゼのN末端側の部分配列を有するドメインN、cGMP結合ドメイン、ルシフェラーゼのC末端側の部分配列を有するドメインCをこの順に有し、cGMP結合ドメインにcGMPが結合していない時、ルシフェラーゼ活性を有さず、cGMP結合ドメインにcGMPが結合した時、ルシフェラーゼ活性を有することを特徴とする。N末端側の部分配列とC末端側の部分配列が、ホタル(Photinus pyralis)由来のルシフェラーゼ、コメツキムシ(Pyrophorus plagiophthalamus)由来の緑色発光ルシフェラーゼ、または赤色発光ルシフェラーゼに由来してもよく、配列番号1と2、3と4、または5と6のいずれかの組み合わせのアミノ酸配列を有していてもよい。また、C末端側の部分配列は、(420, 421, 453)番目のアミノ酸(Phe, Gly, Glu)がそれぞれアミノ酸(Ile, Ala, Ser)に変異した赤色発光コメツキムシルシフェラーゼの変異体に由来し、N末端側の部分配列が、ホタルルシフェラーゼ、緑色発光コメツキムシルシフェラーゼ、または赤色発光コメツキムシルシフェラーゼに由来してもよく、C末端側の部分配列が、配列番号7のアミノ酸配列を有し、N末端側の部分配列が、配列番号1、3、または5のいずれかのアミノ酸配列を有していてもよい。cGMP結合ドメインが、ホスホジエステラーゼ5(PDE5)のcGMP結合ドメインであってもよく、配列番号8のアミノ酸配列を有していてもよい。
【0006】
本発明のDNAは、上記いずれかのポリペプチドをコードすることを特徴とする。そして、本発明の発現ベクターは、このDNAを有し、上記いずれかのポリペプチドを発現する。
【0007】
また、本発明の、検出系においてcGMPを検出する方法は、上記発現ベクターを検出系に導入する工程と、検出系にルシフェリンを導入する工程と、検出系からの発光を検出する工程と、を含むことを特徴とする。この検出系は細胞であってもよい。
【0008】
また、本発明の、cGMPを検出する検出キットは、上記いずれかのポリペプチドまたは上記いずれかの発現ベクターのうち少なく一つを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、より応用範囲の広いcGMPの検出方法を提供することができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いている場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコルを用いる。
【0011】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的に実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0012】
==cGMP検出発光プローブ==
一般に、ルシフェラーゼは、N末端側の部分配列を有するドメインN及びC末端側の部分配列を有するドメインCを有し、これらのドメインが相互作用することにより、発光活性を生じる。ここで、ドメインNは、ホタルルシフェラーゼにおける配列番号1またはその相同配列を有するドメインとして定義され、ドメインCは、ホタルルシフェラーゼにおける配列番号2またはその相同配列を有するドメインとして定義される。
【0013】
本発明のcGMP検出発光プローブは、ドメインN、cGMP結合ドメイン、ドメインCの3つのドメインをこの順に有し、ドメインNとドメインCが相補することができるポリペプチドである。ここで、ルシフェラーゼに由来する二つのドメインが相補するとは、各ドメインは個別には発光活性を持たないが、それらのドメインを結合させたペプチドは発光活性を有するようになることをいう。本明細書では、特に、ドメインN、cGMP結合ドメイン、ドメインCの3つのドメインが、この順に結合したペプチドにおいて、cGMP結合ドメインにcGMPが結合していない時、発光活性を有さず、cGMPがcGMP結合ドメインに結合したとき、このペプチドの構造が変化し、両端にあるルシフェラーゼの部分配列を有するドメインが結合することにより発光活性を生じることを言う。図1に、この原理の模式図を示す。
【0014】
N末端側の部分配列とC末端側の部分配列は、ホタルルシフェラーゼ、緑色発光コメツキムシルシフェラーゼ、または赤色発光コメツキムシルシフェラーゼに由来してもよく、例えば、各部分配列のペアは配列番号1と2、3と4、または5と6の各ペアであってもよいが、ドメインNとドメインCがお互いに相補することができれば、配列番号に示されているタンパク質のアミノ酸配列に限らず、多少の増減、即ち、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、若しくは付加されたアミノ酸配列は許容範囲である。また、異なるルシフェラーゼ由来のドメインがペアになっていてもよく、特に、C末端側の部分配列が、420番目のアミノ酸がPheからIleに、421番目のアミノ酸がGly からAla に、453番目のアミノ酸がGluからSerに変異した赤色発光コメツキムシルシフェラーゼの変異体に由来する場合、そのドメインCは、N末端側の部分配列が由来する種によらずドメインNに相補することができる。この場合、例えば、N末端側の部分配列は、ホタルルシフェラーゼ、緑色発光コメツキムシルシフェラーゼ、赤色発光コメツキムシルシフェラーゼのいずれに由来してもよい。具体的には、C末端側の部分配列として配列番号7のアミノ酸配列、N末端側の部分配列として配列番号1、3、または5のいずれかのアミノ酸配列が挙げられる。
【0015】
cGMP結合ドメインは、特に限定されず、cGMP結合タンパク質の結合ドメインを利用すればよい。例えば、ホスホジエステラーゼ5(PDE5)の154〜308番目のアミノ酸配列(配列番号8)を有するペプチドを用いることができる。
【0016】
なお、これら3つのドメインは、直接結合していても、ペプチドやその他のリンカーを介して結合していても構わない。
【0017】
==cGMP検出方法==
cGMP検出系における検出方法は、cGMP検出発光プローブとなるポリペプチドを検出系に導入する工程と、検出系にルシフェリンを導入する工程と、検出系における発光を検出する工程と、を含む。この検出系はルシフェリン−ルシフェラーゼ反応が起きることができれば特に限定されず、緩衝溶液や細胞抽出物や細胞破砕物などのin vitroの系であっても、細胞というin vivoの系であってもよい。また、細胞である場合、細胞の種類によらず、動物や植物など多細胞生物の生体内の細胞であって、組織や個体を形成していても、微生物や培養細胞などであって、単細胞として存在していてもよい。
【0018】
in vitroの系で検出する場合、cGMP検出発光プローブは化学合成によって作製しても、遺伝子組換え技術を用いて微生物・培養細胞などの細胞やin vitroの転写系や翻訳系で合成させても構わない。特に、検出系として細胞抽出物や細胞破砕物を用いる場合、予め細胞内にcGMP検出発光プローブの発現ベクターを導入し、cGMP検出発光プローブを発現させた後でその細胞を抽出したり破砕したりしてもよく、あるいは、検出系にするための細胞を抽出したり破砕したりした後で、別途合成したcGMP検出発光プローブを添加してもよい。その後、検出系へのルシフェリンの添加及び検出系における発光測定は、常法に従えばよい。
【0019】
検出系として細胞を用いる場合、cGMP検出発光プローブを細胞内に導入するには、HIV-1 TATタンパク質等の膜透過性ペプチドを用いてもよいが、導入しやすさの面から、cGMP検出発光プローブを発現する発現ベクターを導入し、細胞内で発現させることによってcGMP検出発光プローブを細胞内に導入するのが好ましい。この発現ベクターは、cGMP検出発光プローブをコードするDNAが、適切なプロモーターの下に挿入され、cGMP検出発光プローブを発現するに構成されていれば、その種類や構成は特に限定されない。発現ベクターを細胞内に導入する方法も特に限定されず、インジェクション、エレクトロポレーション、リポフェクションなどを用いればよい。また、細胞にルシフェリンを導入するには、培地や組織片に直接添加し,しばらくの間静置すればよい。また、可溶化剤と共に添加することで、細胞を破砕させつつ導入することも可能である。その後、細胞における発光測定は、常法に従えばよい。
【0020】
cGMP検出発光プローブをコードするDNAの塩基配列は、ルシフェラーゼをコードする各生物種固有の塩基配列であってもよいが、cGMP検出発光プローブのアミノ酸配列から、人工的に決定してもよい。例えば、ホタルルシフェラーゼのドメインN(アミノ酸配列は配列番号1)とドメインC(アミノ酸配列は配列番号2)、緑色発光コメツキムシルシフェラーゼのドメインN(アミノ酸配列は配列番号3)とドメインC(アミノ酸配列は配列番号4)、赤色発光コメツキムシルシフェラーゼのドメインN(アミノ酸配列は配列番号5)とドメインC(アミノ酸配列は配列番号6)、上述した赤色発光コメツキムシルシフェラーゼ変異体のドメインC(アミノ酸配列は配列番号7)、ホスホジエステラーゼ5(PDE5)のcGMP結合ドメイン(アミノ酸配列は配列番号8)の固有の塩基配列は、それぞれ配列番号9〜16に示されているが、用いることのできるDNAの塩基配列は、これらに限られず、各アミノ酸配列とコドン表から、人工的に塩基配列を決定しても構わない。
【0021】
==cGMP検出キット==
以上のようなcGMP検出方法を、誰でも容易に実行できるようにするため、検出方法に用いる試薬をキット化してもよい。
このcGMP検出キットには、本発明のcGMP検出発光プローブまたはそれをコードするDNAが含まれていればよいが、DNAが含まれている場合、cGMP検出発光プローブを発現する発現ベクターの形で含まれていることが好ましい。
【実施例】
【0022】
(1)cGMP検出発光プローブの構築
ホタルルシフェラーゼcDNAを鋳型とし、下記プライマーを用いてルシフェラーゼのC末端断片(FC)をPCRによって増幅し、XhoI-ApaIで切断後、プラスミドpcDNA4のXhoI-ApaIサイトに挿入し、pCDNA4-FCを作製した。
FLuc-CXho-F: 5'-GTACTCGAGTGGAGGCGGCGGATGGCTACATTCTGGAGA-3'(配列番号17)
FLuc-CApaI-R: 5'-GTAGGGCCCACGGCGATCTTTCCGCCCTT-3'(配列番号18)
【0023】
コメツキムシルシフェラーゼのcDNAを鋳型とし、下記プライマーを用いてルシフェラーゼのC末端断片(TC)をPCRによって合成し、XhoI-ApaIで切断後、プラスミドpcDNA4のXhoI-ApaIサイトに挿入し、pCDNA4-TCを作製した。
TLuc-CXho-F: 5'-CTCGAGTGGAGGCGGCGGAAGCAAGGGTTATGTCAAT-3'(配列番号19)
TLuc-CApaI-R: 5'-CCGCGGGCCCACACCGCCGGCCTTCACCAA-3'(配列番号20)
【0024】
このpCDNA4-TCに対し、下記プライマーを用いてPCR mutagenesisを行うことで、ルシフェラーゼのC末端断片(TC)の変異体(m26)を有するpCDNA4-m26を作製した。
TLucC-F420I-F: 5’-CATTCTGGTGATATTGGATATTACGACGAAGATGAG-3’(配列番号21)
TLucC-F420I-R: 5’-CTCATGTTCGTCGTAATATCCAATATCACCAGAATG-3’(配列番号22)
TLucC-G421A-F: 5’-CATTCTGGTGATTTGCATATTACGACGAAGATGAG-3’(配列番号23)
TLucC-G421A-R: 5’-CTCATCTTCGTCGTAATATGCAAAATCACCAGAATG-3’(配列番号24)
TLucC-E453S-F: 5’-CCAGCTGAGTTGGAGTCGATTCTGTTGAAAAATCCATGC-3’(配列番号25)
TLucC-E453S-R: 5’-GCATGGATTTTTCAACAGAATCGACTCCAACTCAGCTGG-3’(配列番号26)
【0025】
ホタルとコメツキムシのルシフェラーゼのcDNAを鋳型とし、下記プライマーを用いて各ルシフェラーゼのN末端断片(FNおよびGNv4)をPCRによって増幅し、HindIII-BamHIで切断後、プラスミドpcDNA4のHindIII-BamHIサイトに挿入し、pCDNA4-FN 、pCDNA4-GNv4を作製した。
FLuc-NHindIII-F: 5'-TTTAAGCTTGCCATGGAAGACGCCAAAAACATAAAGAAAGGC-3'(配列番号27)
FLuc-NBamHI-R:5'-TTTGGATCCTCCGCCTCCTCCATCCTTGTCAATCAAGGCGTTGGT-3’(配列番号28)
GNv4-NHindIII-F: 5'-TTTAAGCTTGCCATGGAGAGAGAGAAGAACGTGGTGTACGGC-3'(配列番号29)
GNv4-NBamHI-R: 5'-TTTGGATCCTCCGCCTCCTCCATAGCCTTTTGT-3'(配列番号30)
【0026】
ホタルとコメツキムシのルシフェラーゼのN末端断片を各々含んだプラスミドpCDNA4-FN 、pCDNA4-GNv4のXhoI-ApaIサイトに,それぞれpCDNA4-FC、pCDNA4-m26から切り出したFC断片、m26断片を挿入し,pCDNA4-FNFC,pCDNA4-GNv4m26を作製した。
【0027】
ヒト・ホスホジエステラーゼ5A(HsPDE5A)cDNAを含んだプラスミドpSVLhPDE5(Yanaka et al. 1998)を鋳型とし、下記プライマーを用いてcGMP結合ドメイン(CGBD)をPCRによって増幅した。
5'-Bgl-PDE5A: 5'-TTTAGATCTGAATTAGTGAAGGATATTTCTAGTCAT-3’ (配列番号31)
3'-Xho-PDE5A: 5'-AAACTCGAGTGCCAAATAAGCAGCAAAGTCCTTTTC-3’ (配列番号32)
【0028】
得られたCGBD断片をBamHI-XhoI で切断後、pCDNA4-FNFCとpCDNA4-GNv4m26のBamHI-XhoIサイトに挿入し、それぞれpCDNA4-FNFC-PDE5とpCDNA4-GNv4m26-PDE5として(図2参照)、本研究で用いた。
【0029】
(2)動物細胞破砕物中でのcGMPの検出
本実施例では、cGMP検出発光プローブを含んだ動物細胞破砕物に、cGMPやcAMPの膜透過性アナログである8-Br-cGMPや8-Br-cAMPを加えて、それに伴うプローブの発光を検出する発光測定実験を行った。
【0030】
まず、2μgの cGMP検出発光プローブ発現ベクターpGNv4m26-PDE5を、lipofectamin 2000(インビトロジェン社)を用いて、培地2mlで密集成長しているHEK293細胞に導入した。36−48時間後、細胞を回収し、0.15mLの可溶化剤入りルシフェリン溶液(プロメガ社Bright-Glo Luciferase Assay System)を加えて細胞をホモジェナイズし、cGMP検出発光プローブが含まれる細胞破砕物を得た。
【0031】
この細胞破砕物150μLに、90秒の時点で15μLの 10mM 8-Br-cGMPを加え、90秒ごとにルミノメーターで発光強度を測定したところ、細胞破砕物の発光強度は時間とともに増大した。3回の独立した実験の結果を平均し、図3に示す。
【0032】
次に、添加するcGMPアナログの濃度を変えて、発光を測定した。cGMP検出発光プローブ発現ベクターpCDNA4-FNFC-PDE5または pCDNA4-GNv4m26-PDE5をHEK293細胞で同様に発現させて細胞破砕物を得、0.1μM〜1mMのあいだの種々の濃度の8-Br-cGMPや8-Br-cAMPを1.5分の時点で加えて10.5分後の発光を測定した。それぞれのベクターに対し、刺激前の強度を1とした時の発光強度変化を、図4(pCDNA4-FNFC-PDE5)及び図5(pCDNA4-GNv4m26-PDE5)に示した。両方のプローブともに、基質であるcGMPに対する高い選択性及び基質の濃度依存性を有しながら発光し、1μMの基質に対する発光も検出することができた。
【0033】
(3)動物細胞内でのcGMPの検出
本実施例では、cGMP検出発光プローブを一過的に発現させた動物培養細胞を用いた。まず、培地を500μMルシフェリン入りHBSSバッファーで置換し、30〜60分程度培養を続けることにより細胞内にルシフェリンを導入した。その後、その培養液に8-Br-cGMPや8-Br-cAMPを加えて、それに伴ったプローブの発光を検出する発光測定実験を行った。
【0034】
具体的には、(2)と同様にHEK293細胞にpCDNA4-FNFC-PDE5を導入し、FNFC-PDE5プローブを発現させた。35mmディッシュに播種したプローブ導入HEK293細胞を用い、cGMPの合成を促す薬剤であるSNP (Sodium Nitroprusside)を最終濃度5μMで培地に添加し、その後16分40秒間にわたり発光検出装置を用いてタイムラプス観察を行った。図6Aに、その発光の経過((30秒)ごとに撮影、15秒露光)を示したように、細胞塊における発光は時間とともに増強した。さらに、(2)と同様にHEK293細胞にpCDNA4-GNv4m26-PDE5を導入し、GNv4m26-PDE5プローブを発現させた。35mmディッシュに播種したプローブ導入HEK293細胞を用い、cGMPの合成を促す薬剤であるSNP (Sodium Nitroprusside)を最終濃度5μMで培地に添加し、その後16分40秒間にわたり発光検出装置を用いてタイムラプス観察を行った。図6Bに、その発光の経過((30秒)ごとに撮影、15秒露光)を示したように、細胞塊における発光は時間とともに増強した。
【0035】
次に、同様に準備した細胞に対し、複数回SNPで細胞を刺激しながら、ディッシュタイプルミノメーターを用いて経時測定した。すなわち、図7Aに示したように、5μM SNPで3回、50μM SNPで1回、1mM 8-Br-cGMP で1回刺激すると、その度に、刺激依存的な発光上昇と、その後の発光下降からなる可逆的かつ再現可能な生理応答が検出された。なお、図7Bに示したように、ネガティブ・コントロールとして、細胞内でcAMPの合成を促す薬剤であるイソプロテレノール10μMによって刺激しても、顕著な発光応答を示さなかった(図中、10μMIsoで示されている)。
【0036】
また、GNv4m26-PDE5プローブを用いても、図8A、図8Bに示すように、FNFC-PDE5プローブを用いたときと同様な実験結果が得られた。
【0037】
(4)植物細胞破砕物内でのcGMPの検出
本実施例では、シロイヌナズナの培養細胞であるDeep細胞を用い、(2)と同様の方法で実験を行った。ただし、遺伝子導入とそれによるプローブの一過的発現は、細胞壁消化酵素によって細胞をプロトプラスト化した後、polyethyleneglycol法にて行った(Takeuchi, M. et al. 2000. Plant J. 23:517-25.)。
【0038】
まず、プローブ含有Deep細胞破砕物に、1.5分の時点で1mM 8-Br-cGMPを添加し、10.5分後に発光強度を測定したところ、図9に示すように、破砕物における発光強度は、動物細胞破砕物の場合と同様、8-Br-cGMP刺激前の数十倍にレベルに上昇した(図中、−は刺激前、+は刺激後を示す)。
【0039】
また、プローブ含有Deep細胞破砕物に、0.01mM、0.1mM、1mMの8-Br-cGMPまたは8-Br-cAMPを1.5分の時点で加えて10.5分後の発光を測定したところ、図10に示すように、動物細胞破砕物の場合と同様、cGMPに対する高い選択性を持ち、濃度依存的に応答した。また、0.01mMの濃度の8-Br-cGMPを検出可能であった。
【0040】
(5)植物細胞内でのcGMPの検出
本実施例では、Deep細胞を用い、(3)と同様の方法で実験を行った。ただし、pCDNA4-GNv4m26-PDE5の遺伝子導入及びプローブの一過的発現は(4)に従い、cGMP産生の誘導は、塩(NaCl,、KCl)や浸透圧(ソルビトール)刺激によって行った。
【0041】
GNv4m26-PDE5プローブを一過的に発現させたDeep細胞において、各種ストック溶液(1.5M食塩水、3Mソルビトール水溶液、1.5M塩化カリウム水溶液)をプロトプラスト液の10分の1量添加し、図11に示す条件(0.15M食塩水(図中、NaClで示されている)、0.30Mソルビトール水溶液(図中、Sorbitolで示されている)、または0.15M塩化カリウム水溶液(図中、KClで示されている))で細胞を刺激し、cGMP産生を誘導したところ、コントロールの水(図中、Waterで示されている)の場合と比べて、有意な発光強度上昇が検出された(p<0.05)。
【0042】
また、(2)と同様に、ストレスを与えた後の、発光強度の時間経過による変化を追ったところ、図12に示すように、いずれのストレスの場合も、時間とともに発光強度が増大した。
【0043】
(6)植物組織内でのcGMPの検出
本実施例では、植物組織としてタマネギ根の組織片を用い、FNFC-PDE5プローブの発光強度に関し、(3)と同様にして、37分間のタイムラプス観察を行った。ただし、カミソリを用いて適当な大きさ(数センチ角程度)に切り取られた組織片への発現ベクターの導入は、パーティクルガン法にて行った(Arimura et al. 2004. Proc Natl Acad Sci U S A. 101:7805-8.)。
【0044】
FNFC-PDE5プローブを一過的に発現させたタマネギ根の組織片に、まず,500μMルシフェリン水溶液を添加し30-60分程度23℃で静置し、細胞内にルシフェリンを導入した。その後,その組織片に10mM 8-Br-cGMPを添加したところ、図13Aに示すように、顕著な発光強度上昇が検出された。
【0045】
また、1.5M NaClを添加し、植物体内でcGMP産生を誘導した場合にも、図13Bに示すように、顕著な発光強度上昇が検出された。
【0046】
これらの結果から、本研究で開発されたプローブは、細胞だけではなく,組織においても細胞内のcGMPの濃度変化を検出できることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明におけるcGMP検出の原理を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施例で用いた発現ベクターpCDNA4-FNFC-PDE5とpCDNA4-GNv4m26-PDE5の構造を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施例において、動物細胞破砕物中で発光検出プローブGNv4m26-PDE5を用い、時間経過を追ってcGMPによる蛍光発光を検出した結果を示す図である。
【図4】本発明の一実施例において、動物細胞破砕物中で発光検出プローブFNFC-PDE5を用い、様々なcGMPアナログの濃度に対してcGMPによる蛍光発光を検出した結果を示す図である。
【図5】本発明の一実施例において、動物細胞破砕物中で発光検出プローブGNv4m26-PDE5を用い、様々なcGMPアナログの濃度に対してcGMPによる蛍光発光を検出した結果を示す図である。
【図6】本発明の一実施例において、動物細胞内で発光検出プローブFNFC-PDE5プローブを用い、cGMP検出に伴う発光検出プローブの発光をタイムラプス観察した結果を示す図である。
【図7】本発明の一実施例において、動物細胞内で発光検出プローブFNFC-PDE5プローブを用い、SNPまたはイソプロテレノールで細胞を刺激しながら、ディッシュタイプルミノメーターを用いて発光を経時測定した結果を示す図である。
【図8】本発明の一実施例において、動物細胞内で発光検出プローブGNv4m26-PDE5プローブを用い、SNPまたはイソプロテレノールで細胞を刺激しながら、ディッシュタイプルミノメーターを用いて発光を経時測定した結果を示す図である。
【図9】本発明の一実施例において、植物細胞破砕物中で発光検出プローブGNv4m26-PDE5を用い、cGMPアナログによる刺激に対してcGMPによる蛍光発光の増強を検出した結果を示す図である。
【図10】本発明の一実施例において、植物細胞破砕物中で発光検出プローブGNv4m26-PDE5を用い、様々なcGMPアナログの濃度に対し、cGMPによる蛍光発光を検出した結果を示す図である。
【図11】本発明の一実施例において、植物細胞破砕物中で発光検出プローブGNv4m26-PDE5を用い、塩や浸透圧刺激によって産生誘導したcGMPに対し、cGMPによる蛍光発光を検出した結果を示す図である。
【図12】本発明の一実施例において、植物細胞破砕物中で発光検出プローブGNv4m26-PDE5を用い、塩や浸透圧刺激によって産生誘導したcGMPに対し、時間経過を追ってcGMPによる蛍光発光を検出した結果を示す図である。
【図13】本発明の一実施例において、組織内でのcGMP検出に伴う発光検出プローブの発光をタイムラプス観察した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルシフェラーゼのN末端側の部分配列を有するドメインN、cGMP結合ドメイン、ルシフェラーゼのC末端側の部分配列を有するドメインCをこの順に有し、
cGMP結合ドメインにcGMPが結合していない時、ルシフェラーゼ活性を有さず、cGMP結合ドメインにcGMPが結合した時、ルシフェラーゼ活性を有することを特徴とするポリペプチド。
【請求項2】
前記N末端側の部分配列及び前記C末端側の部分配列が、ホタルルシフェラーゼ、緑色発光コメツキムシルシフェラーゼ、または赤色発光コメツキムシルシフェラーゼに由来することを特徴とする請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記N末端側の部分配列と前記C末端側の部分配列が、配列番号1と2、3と4、または5と6のいずれかの組み合わせのアミノ酸配列を含むことを特徴とする請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記C末端側の部分配列は、420番目のアミノ酸がPheからIleに、421番目のアミノ酸がGly からAla に、453番目のアミノ酸がGluからSerに変異した赤色発光コメツキムシルシフェラーゼの変異体に由来することを特徴とする請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記C末端側の部分配列が、配列番号7のアミノ酸配列を含み、前記N末端側の部分配列が、配列番号1、3、または5のいずれかのアミノ酸配列を含むることを特徴とする請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項6】
cGMP結合ドメインが、ホスホジエステラーゼ5(PDE5)のcGMP結合ドメインを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項7】
前記ホスホジエステラーゼ5(PDE5)のcGMP結合ドメインが、配列番号8に記載のアミノ酸配列であることを特徴とする請求項6に記載のポリペプチド。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のポリペプチドをコードするDNA。
【請求項9】
請求項8に記載のDNAを有し、請求項1〜7のいずれかに記載のポリペプチドを発現する発現ベクター。
【請求項10】
検出系においてcGMPを検出する方法であって、
請求項9に記載の発現ベクターを前記検出系に導入する工程と、
前記検出系にルシフェリンを導入する工程と、
前記検出系からの発光を検出する工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
前記検出系が細胞であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
cGMPを検出する検出キットであって、
請求項1〜7のいずれかに記載のポリペプチドまたは請求項8に記載の発現ベクターのうち、少なくとも一つを含むことを特徴とする検出キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−4758(P2010−4758A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−164927(P2008−164927)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(508007075)株式会社ProbeX (3)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】