説明

hERGを発現する安定細胞株

【課題】hERGカリウムチャネルを発現し、電気生理学的試験条件下で安定な電流を示す、安定な真核生物細胞株の提供。
【解決手段】hERGを発現し、対照条件下で20%未満の試験電流における変化を示す、安定な真核生物細胞株、試験化合物のhERG阻害能を決定する以下の工程を含む方法:(a)hERGを発現し、対照条件下、パッチクランプ装置で、連続的な電気生理学的測定において20%未満の試験電流における変化を示す、安定な真核生物細胞を提供する工程;(b)細胞を試験化合物と接触させる工程;(c)パッチクランプ装置で試験電流を測定する工程;および(d)試験化合物の存在下、試験電流が低下するかどうかを決定する工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、電位依存性hERGカリウムチャネルを発現する安定細胞株、および化合物のhERG電流阻害能を試験するための該細胞の使用法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンチャネルは比較的数少ない部類の医薬ターゲットであるが、1つにはイオンチャネルのスクリーニングアッセイをハイスループット用に自動化し、フォーマットすることが困難であったことが理由である。しかし、電気生理学における最近の進歩(非特許文献1; 非特許文献2)によって、創薬ターゲットとしてのイオンチャネルの関心が再燃してきた。多くのイオンチャネルが遺伝病と関連付けられ、病気の治療および予防のためのイオンチャネル調節因子の研究につながった(非特許文献3)。
【0003】
調節因子開発のターゲットというよりもむしろ安全性/毒物学の問題からではあるが、HERGは医薬品業界の関心が特に高いイオンチャネルである(非特許文献4; 非特許文献5)。電位依存性hERGカリウムチャネルは、急速に活性化する、心筋活動電位の遅延整流カリウム電流(IKr)の一因となる。hERGカリウムチャネルとの薬物相互作用は、心電図のQT間隔の延長、およびトルサード・ド・ポワントとして知られる心臓の不整脈と関連付けられてきた(「TdP」; 非特許文献6; 非特許文献7参照)。TdPは致命的である可能性があり、TdPを誘発する危険性が医薬品の使用中止および未承認につながった。
【0004】
十分な表面濃度でhERGを発現し、ハイスループットのイオンフロー測定計器の好適な対象となる安定細胞株が利用できないことが主な原因で、hERGに対する効果の可能性を決定するための、薬剤候補のハイスループットスクリーニングが困難であることが分かっている。
【0005】
本発明者らは現在、標準的な自動化したパッチクランプ設備を用いて、大きな電流振幅を有する安定なシールを再現性よく形成する、hERG発現細胞株を発明した。本発明の細胞株は、ハイスループットでない方法を用いた文献で報告されている細胞株の代表であるIC50値を示す。
【0006】
【非特許文献1】P. B. Bennett et al., Trends in Biotech(2003)21(12): 563-69
【非特許文献2】C. Wood et al., Drug Disc Today (2004)9(10): 434-41
【非特許文献3】D. Owen et al., Drug Disc World(2002)48-61
【非特許文献4】ICH S7B Guidance for Industry, Oct. 2005
【非特許文献5】J. I. Vandenberg et al., Trends Pharm Sci(2001) 22(5): 240-46
【非特許文献6】C. E. Chiang and D. M. Roden, J Am Coll Cardiol(2000)36(1): 1-12
【非特許文献7】D. M. Roden, N Eng J Med(2004)350: 1013-22
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、hERGを発現し、電気生理学的試験条件下で安定な電流を示す、安定な真核生物細胞株を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの局面は、hERGを発現し、対照条件下で1時間以上の間、ピーク電流の振幅を約20%未満だけ変化させる試験電流を示すことができる、安定な真核生物細胞株である。
【0009】
本発明の別の局面は、本発明の細胞と試験化合物を接触させ、電気生理学的条件下で試験電流を測定し、試験化合物の存在下で試験電流がより低くなるかどうかを決定することによって、hERGのコンダクタンス活性を阻害する試験化合物の性質を決定する方法である。
【0010】
本開示において引用される全ての刊行物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0011】
本発明(1)は、hERGを発現し、対照条件下で20%未満の試験電流における変化を示す、安定な真核生物細胞株である。
本発明(2)は、本質的にCHO crelox-hERG UG#7、ATCC PTA-6812、またはその子、派生物、もしくは子孫からなる、本発明(1)の細胞株である。
本発明(3)は、本質的にATCC PTA-6812、またはその子、派生物、もしくは子孫からなる、本発明(1)の細胞株である。
本発明(4)は、試験化合物のhERG阻害能を決定する方法であって、以下の工程を含む方法である:
(a)hERGを発現し、対照条件下、パッチクランプ装置で、連続的な電気生理学的測定において20%未満の試験電流における変化を示す、安定な真核生物細胞を提供する工程;
(b)細胞を試験化合物と接触させる工程;
(c)パッチクランプ装置で試験電流を測定する工程;および
(d)試験化合物の存在下、試験電流が低下するかどうかを決定する工程。
本発明(5)は、安定な真核生物細胞がCHO crelox-hERG UG#7(ATCC PTA-6812)を含む、本発明(4)の方法である。
本発明(6)は、細胞における試験電流が、該細胞を試験化合物と接触させる前、および接触させた後で比較される、本発明(4)の方法である。
本発明(7)は、細胞における試験電流が、試験化合物の非存在下で、実質的に同一の細胞における試験電流と比較される、本発明(4)の方法である。
本発明(8)は、細胞における試験電流が、hERG阻害効果がないことが知られている化合物と接触した、実質的に同一の細胞における試験電流と比較される、本発明(4)の方法である。
本発明(9)は、細胞における試験電流が、許容できないレベルのhERG阻害を示すことが知られている化合物と接触した、実質的に同一の細胞における試験電流と比較される、本発明(4)の方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、hERGを発現し、電気生理学的試験条件下で安定な電流を示す、安定な真核生物細胞株が提供された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
定義
特に明記しない限り、明細書および特許請求の範囲を含む本出願において用いられる以下の用語は、下記の定義を有する。明細書および添付の特許請求の範囲において使用する場合、単数形の「ある(a)」、「ある(an)」、および「その(the)」は、文脈によって明らかにそうではないと示される場合を除き、複数形の指示対象を含むということを留意しなければならない。
【0014】
「アゴニスト」は、別の化合物またはレセプター部位の活性を高める化合物を指す。
【0015】
「アンタゴニスト」は、別の化合物またはレセプター部位の作用を低下させる、または抑制する化合物を指す。
【0016】
「薬物候補」という用語は、薬物候補が任意の公知の生物学的活性を有するか否かにかかわらず、動物の病態の治療における、可能性のある効果を試験されるべき化合物または製剤を指す。
【0017】
本明細書において使用する場合、「相同」という用語は、別の対象種において実質的に同じ機能を発揮し、当技術分野において、主として発見される種が異なるために同一のタンパク質の別の種類であると認識される程度まで、実質的な配列の同一性を共有するタンパク質を指す。したがって、例えば、ヒトERG、マウスERG、およびラットERGはすべてお互いに対して相同とみなされる。
【0018】
「調節因子」とはターゲットと相互作用する分子を意味する。相互作用には、本明細書において定義されるアゴニスト、アンタゴニスト、およびそれらと同様のものが含まれるが、それらには限定されない。「病気」および「病態」とは、任意の病気、状態、症状、疾患、または兆候を意味する。
【0019】
「細胞株」という用語は、不死化した哺乳動物細胞のクローンを指す。「安定」細胞株とは、ある期間にわたって(例えば、2倍になるたびに)実質的に一貫した特徴を示す細胞株のことである。本発明の範囲内で、安定細胞株は、約50メガオームよりも大きいシール抵抗、約200pAより大きい電流振幅を提供することができ、対照条件下で1時間にわたって、約20%より大きくは変化しない電流振幅を提供する、十分な割合の細胞を提供する。
【0020】
本明細書において使用する場合、「子」および「子孫」という用語は、本発明の細胞を培養することによって、または別の方法で成育させることによって、得られる細胞を指す。本明細書において使用する場合、「派生物」という用語は、本発明の細胞を修飾、融合、トランスフェクト、トランスフォームすることによって、または別の方法で変化させることによって得られる細胞を指す。例えば、派生物は、本発明の細胞にプラスミドまたはウイルスをトランスフェクトすることによって作製することができるし、本発明の細胞をハイブリドーマ細胞、およびそれと同様の細胞と融合することによって作製することができる。
【0021】
「電気生理学的測定」または「パッチクランプ実験」という用語は、(典型的には単離された細胞における)細胞膜の、一部またはすべての電位差を所定の電圧で維持し、その後、1回または複数回の電圧の変化に供し、その間および/またはその後膜を通過する電流を測定する実験手順を指す。本明細書において使用されるhERG測定実験において、表面にhERGを発現する細胞を最初に-80mVの保持電位で電圧固定し、リークサブトラクション(leak subtraction)を-40mVまでの100ミリ秒パルス、次いで20mVにおける1000ミリ秒パルス(前パルス)、および-40mVにおける500ミリ秒パルス(試験パルス)から算出した。hERG電流は、リーク電流で補正した後、-40mVにおけるピーク(試験パルスの開始)として測定した。本プロトコールの変法を適用することができる。hERGカリウムチャネルとの薬物相互作用によるhERG電流の阻害は試験パルスの間に測定し、「試験電流」として書き留める。本発明の細胞株において、試験電流は対照状況で約20%未満だけ変化し、1時間まで継続する。「パッチクランプ装置」という用語は、例えば、標準的パッチクランプ、IonWorks HT、IonWorks Quattro、PatchXpress 7000A、およびそれらの同等品のような、そうした測定を行なうのに好適な任意の計器または機器を指す。
【0022】
「対象」には哺乳類と鳥類が含まれる。「哺乳類」とは、ヒト;チンパンジーおよびその他の類人猿、ならびにサル種、などのヒト以外の霊長類;ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、およびブタなどの家畜;ウサギ、イヌ、およびネコなどの飼育動物;ラット、マウス、およびモルモットなどの齧歯類を含む実験動物;ならびにそれらと同様の動物を含むが、これらに限定されない、任意の哺乳類綱のメンバーを意味する。「対象」という用語は、特定の年齢または性別を意味しない。
【0023】
病態の「処置」または「治療」には、(i)病態を予防すること、すなわち、病態にさらされる可能性、または病態に罹かりやすい可能性はあるが、まだ病態を経験していない、もしくは病態の症状を示していない対象において、病態の臨床的症状を発生させないこと;(ii)病態を抑制すること、すなわち、病態もしくはその臨床的症状の発生を止めること;または(iii)病態を緩和すること、すなわち、病態またはその臨床的症状を一時的にまたは永続的に退行させること、が含まれる。
【0024】
本明細書において同定される全ての特許および刊行物は、完全な形で参照により本明細書に組み込まれる。
【0025】
一般的方法
本発明は、hERGを発現し、自動化されたハイスループットの電気生理学的アッセイで使用するのに好適である細胞株、および潜在的hERG阻害活性について化合物をスクリーニングするためのそのような細胞の使用法を提供する。
【0026】
本発明の細胞株は、懸濁状態での成育に適合しているという事実により、平面パッチ電気生理学的システムで使用するために設計されている。これらは、IonWorks HT平面パッチシステムおよびPatchXpress 7000Aのようなシステムで使用されてきたが、それ以外の機器またはシステムでも同様に使用されてもよい。
【0027】
細胞株は、Ex-cell 301(JRH、Cat JRH-14331)、10%ウシ胎仔血清(Gibco、Cat 16140-089)、および0.25mg/ml ジェネティシン(Gibco、Cat 10131-035)を用いて、懸濁状態で培養することができる。細胞は、好ましくは、35±2℃で、5% CO2を補給し、1リットルの振盪フラスコに50〜100mlの容量で、90〜100rpm(2インチの振盪器の振幅)で成育させる。最適性能のために、細胞の力価は約105〜約106細胞/mlの間で維持する。
【0028】
hERGの発現は、標準的な方法、例えば、細胞溶解後のウェスタンブロットによって、検証することができる。hERG電流の発現は、細胞培養条件によって変わり得る。
【0029】
細胞株の安定性は、標準的パッチクランプ法を用いて、細胞株から得られる細胞を固定し、それらにパルスを与え、結果として生じる電流を複数の時点で測定することによって、評価することができる。本発明の安定細胞株において、電流は、対照条件下、1時間で20%より大きくは変化しない。
【0030】
付着細胞の場合、剥離には通常、トリプシンまたはVersene(商標)を添加した培養培地などの解離試薬を使用する必要がある。懸濁に適合した細胞の場合、一般に、解離試薬は必要とされない。実験的使用の前に、細胞は電気生理学的記録溶液に再懸濁する。
【0031】
HERG電流の測定は、試験化合物の存在下および非存在下で、本発明の細胞に対して行なわれる。スクリーニング目的のために、試験化合物がhERG電流を約50%だけまたはそれ以上阻害する濃度に留意すれば十分である。
【0032】
本発明の方法の実施においては、本発明の細胞株由来の細胞は、任意で陽性対照化合物および陰性対照化合物を含む試験化合物に接触または曝露され、電気生理学的測定の間に電流に対する効果(もしあれば)を決定することによって、hERG活性が阻害される程度が測定される。したがって、例えば、本発明の細胞をパッチクランプ装置の基板に適用し、個々の細胞を試験化合物と接触させることができる。試験化合物は複数の濃度で用いられてもよいし、またはすべて所定の濃度(例えば、10μM、20μM、50μM、およびそれらと同様の濃度)で用いてもよい。化合物は一般には電気生理学的記録溶液に溶解する。その後、本明細書において記載されている通りに、細胞をパッチクランプし、パルスを与え、試験電流を検出する。試験電流に実質的な減少を生じさせる化合物は、その濃度でhERG活性を阻害するとみなされる。好ましくは、試験電流は1つまたは複数の対照と比較され、その対照は、試験化合物を適用する前の本発明と同一の細胞であってもよいし、または、実質的に同一の細胞(例えば、同じ細胞培養由来の細胞)で、かつ陽性対照化合物および/または陰性対照化合物に供されたものであってもよい。
【0033】
有用性
本発明の細胞株は、安定した収量でhERGの細胞表面発現を提供するのに有用であり、電気生理学的方法を用いたハイスループットのhERG活性スクリーニングの好適な基質として役立つ。したがって、本発明の細胞株を用いることによって、hERGとの起こりうる相互作用について、薬物候補を迅速かつ効率的にスクリーニングすることができる。本発明の方法は、hERGとの相互作用および/またはhERGの調節を決定し、それらの潜在的な心臓毒性の要素を決定するための、薬物候補およびその他の化合物のハイスループットスクリーニングに有用である。
【実施例】
【0034】
実施例
下記の調製および実施例は、当業者が本発明をより明らかに理解し、実行することができるように提供される。これらは本発明の範囲を限定するものと考えられるべきではなく、単にその例証および典型であると考えられるべきである。
【0035】
細胞培養培地成分には、Ex-cell 301(JRH、Cat JRH-14331)、10%ウシ胎仔血清(Gibco、Cat 16140-089)、および0.25mg/ml ジェネティシン(Gibco、Cat 10131-035)が含まれた。細胞は、35±2℃で、5% CO2を補給し、1リットルの振盪フラスコに50〜100mlの容量で、90〜100rpm(2インチの振盪器の振幅)で成育させる。最適性能のために、細胞の力価は105〜106細胞/mlの間で維持する。
【0036】
標準的パッチクランプおよび自動パッチクランプ(PatchXpess 7000A)の両方に用いる電気生理学的記録溶液には、内部緩衝液(特に明記しない限り、Sigmaから入手、単位はmM):140 KCl(Cat P-9541)、6 EGTA(Cat E-3889)、5 Hepes(Cat H-3784)、5 MgCl2(Cat M-1028)、5 ATP-Na2(Cat A-2383)、KOH(J. T. Baker、Cat 3143-01)でpH 7.2に;および外部緩衝液(特に明記しない限り、Sigmaから入手、単位はmM):150 NaCl(Cat S-3014)、10 Hepes(Cat H-3784)、4 KCl(Cat P-9541)、1.2 CaCl2(Cat C-3306)、1 MgCl2(Cat M-1028)、HCl(J. T. Baker、Cat 5619-02)でpH 7.4に、が含まれる。パッチ基板には、Molecular Devices Corpから頒布されているPatchPlate(商標)(Cat 9000-0688)およびSealChips(商標)(1-SealChip16-K)が含まれる。
【0037】
電気生理学:電圧パルスプロトコール:保持電位は-80mVにし、リークサブトラクションを-40mVまでの100ミリ秒パルス、次いで20mVにおける1000ミリ秒パルス(前パルス)、および-40mVにおける500ミリ秒パルス(試験パルス)から算出した。hERG電流は、リーク電流で補正した後、-40mVにおけるピーク(試験パルスの開始)として測定した。
【0038】
IC50曲線作成および統計学:Excel Fit(第3版、ID-BS)で、4パラメーターロジスティックモデルまたはシグモイド用量反応モデルの方程式205を用いて、濃度-反応曲線をフィットさせる。分画阻害率(I化合物/I対照)=1/(1+[化合物]/IC50nH、式中、Iは電流、IC50は電流を50%だけ阻害するために必要な化合物の濃度、nHはヒル係数である。
【0039】
実施例1
hERG発現CHO-K1細胞株
(A)高レベルの機能的hERGチャネルを安定に発現するCHO-K1細胞株は以下のように作製した。まず、野生型CHO-K1細胞を(CMVプロモーター-シアン蛍光タンパク質-IRES-ハイグロマイシン耐性マーカー)カセットをコードするプラスミドでトランスフェクトした。同一でない2つのloxP部位がこのコンストラクト上にあり、1つはCMVプロモーターとシアン蛍光タンパク質ORFとの間に、もう1つはハイグロマイシン耐性マーカーの3’末端にある。ハイグロマイシン中で成育する無作為のCHO細胞トランスフェクタントから、その高レベルのシアン蛍光タンパク質の発現に基づいて、1つの細胞株を選択した。これらのレベルは何世代にもわたって安定に維持された;ゲノムDNAブロッティングによって、染色体への組み込み事象が1回起こっていたことを証明した。その後、(loxP-hERG-IRES-ネオマイシン耐性マーカー-loxP)カセットを、CREリコンビナーゼを介する交換によって、このレシピエント細胞株に組み換えた。選択されたCHO細胞クローンにおける正確な組換え事象は、(i)シアン蛍光の欠如、(ii)ハイグロマイシンに対する感受性、および(iii)CMVプロモーターに位置するフォワードプライマーおよびhERG-ORFに位置するリバースプライマーを用いて成功したゲノムDNA PCRによって、証明した。トランスフェクションおよびその後の500万細胞の選択によって、上記3つの基準を満たす16クローンが得られた。これらのクローンはスケールアップされ、ウェスタンブロットによってhERGタンパク質の発現が解析され、Ionworks測定器を用いてhERGイオンチャネルの活性が解析された。結果としてできた1つの細胞株、「CHO crelox hERG UG#7」をその後、懸濁状態での成育に適合させた。最初の懸濁培養は、Ex-cell 301培地、5% FBS、0.25 mg/ml G418で、細胞を75万細胞/mlに希釈することによって調製した。この培養を24時間成育させ、約106細胞/mlの密度にした。その後、新鮮な培地で20万細胞/mlに希釈し、72時間成育させ、106細胞/mlの密度にした。この希釈-移し替えを4回繰り返し、この時点で細胞を懸濁培養に適合したとみなした。この細胞株(CHO crelox hERG UG#7)はブダペスト条約に従い、アクセッション番号PTA-6812で2005年6月22日にATCCに寄託した。
【0040】
実施例2
hERG発現細胞の評価
IonWorks HT測定器を用いた細胞株の説明が文書化されている:H. Guthrie, et al.(2005)、「A Place for High Throughput Electrophysiology in Cardiac Safety: Generating a Novel hERG Cell Line and Screening Early with IonWorks HT」、J Biomol Screening(2005)10(8): 832-40。
【0041】
PatchXpress 7000A測定器を用いた細胞株の説明が文書化されている:L. Guo and H. Guthrie(2005)、「The Role of Automated Electrophysiology in the Prediction of QT Prolongation」、J Pharmacol Toxicol Methods 52(1): 123-35。
【0042】
実施例3
hERG活性のハイスループットスクリーニング
細胞株CHO crelox hERG UG#7は、800pAの平均電流振幅、>80%のシール率の成功、100〜200メガオームのシール、および全体として80%を上回る記録成功を示し、化合物ライブラリーのスクリーニングで使用するために選択した。30μMの化合物を適用した後で、>50%のhERG電流を阻害する化合物を見つけるために、300の化合物をスクリーニングした。幾つかのプロジェクト由来の化合物がスクリーニングに使用され、ここでの実験は盲検定で行なわれたものの、それらの中には標準的パッチクランプで研究した場合にhERGチャネルを阻害することが既に知られているものもあった。3つの化合物プレートを96-ウェルプレート上に用意し、プレート当たり約90の化合物(各化合物を4回検査した)で、各2回実行した。384-ウェルパッチプレートを利用して、300の化合物の1点スクリーニングが1日8時間で達成された。1つの化合物プレートを使用した1回の実行に約40分かかる。全体では、各化合物を8つのパッチプレートウェルで使用し、通常1つの濃度で3〜8の成功する細胞(データポイント)を割り当てた。
【0043】
スクリーニング中、データポイント当たりの十分な数の細胞を確保するために、各化合物濃度は2回スクリーニングされた。成功率にばらつきがあるので、8ウェルという余分が必要であった。したがって、各化合物について、1〜8のn値の幅があることがあり得る。一つの細胞株の中に細胞ごとのばらつきがあるので、パッチプレートウェルを複製することも重要である。図1は、9実験日(連続ではない)にわたって、CHO crelox hERG UG#7細胞株で観察されたばらつきを示している。この間、最初の細胞株評価の後、この細胞株は650pAの平均電流振幅を発生させ、本研究の細胞株評価の段階で観察された800pAからは低下した。電流の安定性は高く、90%に近づいた。これらの実験で使用した複製によって、本発明者らのスクリーニング時間は増加したかも知れないが、指定されたスクリーニング時間内に十分なデータが得られた。Population Patch Clamp(商標)技術を取り入れた技術(パッチプレートウェルの記録穴の数が増えている)である、新しいIonWorks Quattroを用いて、ここで実施された余分は解消されると考えられる。
【0044】
30μMで、160の化合物がhERG電流を>50%阻害した。そのように同定された160の化合物を、IonWorks HTシステムで、8点の濃度-反応を用いて、再スクリーニングした。陽性対照(ハロペリドール)および陰性対照(0.1% DMSO含有PBS)と共に、1回の実行当たり5つの薬物をスクリーニングした。IonWorks HTで作成された平均的なハロペリドールのIC50は、0.74+0.36μM(31回の実験より)であった。異なる実験条件の下、異なる細胞株を用いて37℃で収集された、ハロペリドールに関する古い標準的パッチクランプのデータは、0.025μMから0.12μMまで様々であった。16のパッチプレートウェルで試験される個別の濃度での、160の化合物のスクリーニングの完遂には、5日を要した。先に議論した通り、化合物試験における余分は、データセットに対する信頼性を築くために数多くのデータポイントが産み出されることを確保するためのものであった。このサブセットにおける全ての化合物は標準的パッチクランプによって試験されていたので、1つのプロジェクト由来の1つのデータセットが更なる評価のために選択された。古いパッチクランプのデータおよびIonWorks HTのデータは正に相関した(スピアマン r=0.53、p<0.004)。IonWorks HTで、>30μMのhERG IC50値をもたらした化合物は、20.2+10.0μM(SD)の平均的な標準的パッチクランプのIC50値を有した。標準的パッチクランプの値は、ホールセル構成(対穿孔パッチ)、電圧パルスプロトコール、記録溶液、細胞株(CHO-hERG)、温度(37℃)、および分析方法を含む、わずかに異なる条件の下で収集された。化合物の中には、IonWorks HTシステムでは効果が弱いように思われたものがあり、少数の化合物はほんのわずかに効果が強いように思われた。しかし、両群の平均IC50値は統計的な差を示さなかった。
【0045】
本発明はその具体的態様に関する参照と共に記載してきたが、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更がなされてもよいし、同等のものが代替されてもよいということが当業者に理解されるべきである。加えて、本発明の客観的精神および範囲に対して、特定の状況、材料、物質の組成、工程、1つまたは複数の工程段階を適合させるために、多くの修正がなされてもよい。そのような修正はすべて、本明細書に添付の特許請求の範囲内であることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】9実験日(連続ではない)にわたって、CHO crelox hERG UG#7細胞株で観察されたばらつきを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
hERGを発現し、対照条件下で20%未満の試験電流における変化を示す、安定な真核生物細胞株。
【請求項2】
本質的にCHO crelox-hERG UG#7、ATCC PTA-6812、またはその子、派生物、もしくは子孫からなる、請求項1記載の細胞株。
【請求項3】
本質的にATCC PTA-6812、またはその子、派生物、もしくは子孫からなる、請求項1記載の細胞株。
【請求項4】
試験化合物のhERG阻害能を決定する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)hERGを発現し、対照条件下、パッチクランプ装置で、連続的な電気生理学的測定において20%未満の試験電流における変化を示す、安定な真核生物細胞を提供する工程;
(b)細胞を試験化合物と接触させる工程;
(c)パッチクランプ装置で試験電流を測定する工程;および
(d)試験化合物の存在下、試験電流が低下するかどうかを決定する工程。
【請求項5】
安定な真核生物細胞がCHO crelox-hERG UG#7(ATCC PTA-6812)を含む、請求項4記載の方法。
【請求項6】
細胞における試験電流が、該細胞を試験化合物と接触させる前、および接触させた後で比較される、請求項4記載の方法。
【請求項7】
細胞における試験電流が、試験化合物の非存在下で、実質的に同一の細胞における試験電流と比較される、請求項4記載の方法。
【請求項8】
細胞における試験電流が、hERG阻害効果がないことが知られている化合物と接触した、実質的に同一の細胞における試験電流と比較される、請求項4記載の方法。
【請求項9】
細胞における試験電流が、許容できないレベルのhERG阻害を示すことが知られている化合物と接触した、実質的に同一の細胞における試験電流と比較される、請求項4記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−167068(P2007−167068A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343699(P2006−343699)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】