説明

hERGチャネル発現細胞

本発明の課題は、薬剤研究開発におけるhERGチャネル阻害に基づく副作用を予測するための発現レベルの著しく高いhERGチャネル発現細胞の樹立法を確立し、それにより高感度・高処理能力を有する評価法を確立することにある。 hERG遺伝子をレトロウイルスベクタープラスミドあるいはレンチウイルスベクタープラスミドに挿入し、ウイルスベクターを調製後、必要に応じて超遠心による濃縮を行い、細胞にhERG遺伝子を導入、hERGチャネルを発現させることにより、全自動ハイスループットパッチクランプシステムあるいは色素を用いた測定法においても有効な発現量を確保することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は安全性の面において薬剤研究開発時に大きな問題となっている心電図QT間隔延長による心臓への副作用のリスクを回避するための評価細胞とその細胞樹立法およびそれらによる薬物の評価に関するものである。
【背景技術】
安全性薬理試験は、新規医薬品のヒトに対する安全性を薬理学的観点から検討する非臨床試験である。被験物質のヒトに対する安全性の検討と副作用予測などを目的とした安全性薬理試験ガイドラインが日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)において制定されており、そのガイドラインによれば、安全性薬理試験の一環として、被験物質の催不整脈作用、特に心電図QT間隔延長作用の有無を検討することが求められている。薬物の投与によって引き起こされるQT間隔延長に伴う、心室性頻脈、torsades de pointes、および致死的な不整脈から患者を保護するために、このような重篤な副作用を誘発する可能性を有するQT間隔延長作用を検出することは、医薬品開発において非常に重要である。
これまでに、QT間隔延長作用を有する多くの医薬品は、心筋細胞遅延型整流カリウムチャネルを抑制することが知られており、hERG(human ether−a−go−go related gene)チャネルがそのチャネルの主たる構成タンパクとして機能していると考えられている。従って、ヒト用医薬品による心室再分極遅延(QT間隔延長)の潜在的可能性を評価するためのガイドライン(ICH−S7B)案では、非臨床試験としてhERGチャネルを導入した細胞を用いたイオンチャネルアッセイが推奨されている。
従来、hERGチャネルに対する化合物の作用を適切に評価する方法として、hERGチャネルを発現させた細胞またはhERGチャネルを本来保持している心筋細胞に対して直接ガラス微小電極を用いてチャネル活性を記録するパッチクランプ法が用いられてきた(Neher,E.and Sakmann,B.Nature vol 260,779−802,(1976))。しかし、このパッチクランプ法は、高い精度でhERGチャネルに対する薬物の評価を適切に行えるものであるが、熟練した高度な技術を必要とするものであり、その処理能力は著しく低く(1−5化合物/日/人)、薬剤開発段階での数多くの薬剤候補化合物に対して処理能力が著しく不足しているという問題があった。
一方、hERGチャネルの評価の処理能力を高める方法として、放射性同位元素であるRb3+の放出を検出する方法(Cheng,C.S.et al.Drug Dev. Ind.Pharm.vol.28,177−191,(2002))、放射性同位元素であるトリチウム(H)で標識したdofetilideの結合との競合により評価する方法(Finlayson,K.et al.Eur.J.Pharm.vol.430,147−148(2001))、および膜電位感受性色素を利用した方法(Tang,W.et al.J.Biomol.Screen vol.6,325−331(2001)、Baxter,D.F.et al.ibid.vol.7,79−85(2003))などが報告されている。しかし、これらの方法は、放射性物質を用いる点で操作が煩雑であり、また、間接的な検出方法であるために感度および精度が低くなることから、パッチクランプ法で得られるhERGチャネル阻害活性の測定精度と大きく乖離していた。
近年、上記問題点を解決する手段としてhERGチャネルによる影響を適切に評価しつつ処理能力の高い機器である全自動ハイスループットパッチクランプシステムが開発されており、その中のいくつかの機器(Ion Works HTTM;Molecular Device社、PatchXpressTM 7000A;Axon Instruments社)が発売されている。これらの装置は、hERGチャネルを発現した細胞を浮遊状として、重力による落下および陰圧によって、各ウェルの中央にある小径の穴へ細胞を吸引し、電流記録可能な状態にするものであるため、パッチクランプ法のように熟練した高度な技術を必要としない。また、化合物の処理能力も非常に高く、1日に3000ポイント以上のデータを取得することができる。ただし、この装置を用いて評価するに当たっては、実験に用いるhERGチャネル発現細胞が非常に重要になる。すなわち、古典的なパッチクランプ法による測定では、細胞1つ1つを選択して評価するため、hERGチャネルの発現量の高い細胞を選び出して測定することができるのに対し、全自動ハイスループットパッチクランプシステムによる測定では、存在する細胞をランダムに使用するために発現量の高い細胞を選ぶことができない。従って、全自動ハイスループットパッチクランプシステムにより多検体を正確に評価するためには、一定割合以上の細胞がhERGチャネルを発現していること、かつ、その発現量も十分に多いことが求められる。そこで、この全自動ハイスループットパッチクランプシステムで使用できるhERGチャネル発現細胞を作製するために、種々の試みがなされている。
これまでの報告では、ある細胞にリン酸カルシウム法やリポフェクション法を用いたトランスフェクションによりhERG遺伝子を細胞に導入し、限界希釈によるクローニングおよびhERG遺伝子導入量確認、あるいはhERGチャネルによる電流測定等の著しく労働消費的な手順を経て安定発現細胞を得ていた(Tang,W.et al.J.Biomol.Screen.vol.6 325−331(2001)、Assay and Drug Development Technologies.1(2−3),127−135,2003.)。しかしながら、限界希釈によるクローニングという大変な労力を割いても、これらの手法ではhERG遺伝子導入量が充分でないため、細胞あたりのhERG電流は微弱なものとなる。hERG電流が小さい場合には、十分なS/N比を取ることができず、その分測定感度は低下することになる。また、クローニングによりいかにhERG電流の大きな細胞を取得しても、全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いた場合、そのhERG電流の大きさを高感度に測定することが困難であることが多い。
また、hERGチャネルが分類されるイオンチャンネルの電流の測定では、細胞が内在的にもつイオンチャンネルの影響が細胞種毎に異なるために、細胞種を変えることで測定実用度が大きく影響を受けることが多く、そのために、別種の細胞で測定を行う際にも上記と同様の労働消費的な操作を繰り返す必要があった。
【発明の開示】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、薬剤研究開発におけるhERGチャネル阻害に基づく副作用を予測するための発現レベルの著しく高いhERGチャネル発現細胞の樹立法を確立し、それにより、高感度かつ高処理能力を有する被験物質評価法を確立するものである。
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、hERG遺伝子をレトロウイルスベクタープラスミドまたはレンチウイルスベクタープラスミドに挿入し、ウイルスベクターを調製後、必要に応じて超遠心による濃縮を行い、細胞にhERG遺伝子を導入することにより、hERGチャネルを高発現する細胞を得ることに成功した。また、この細胞は、全自動ハイスループットパッチクランプシステムまたは色素を用いた測定法において有効な発現量を確保し得るものであることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち本発明は、以下に関する。
(1)全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いたパッチクランプ法により測定されるhERG電流が0.6nA以上のチャネルを発現することができる細胞を、hERG遺伝子が導入された細胞全体の40%以上含むhERGチャネル発現細胞集団。
(2)hERG遺伝子の導入がウイルスベクターによるものである(1)記載の細胞集団。
(3)ウイルスベクターがレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターである(2)記載の細胞集団。
(4)hERG電流の細胞全体の平均が0.3nA以上である(1)から(3)のいずれか1項に記載の細胞集団。
(5)全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いたパッチクランプ法により測定されるhERG電流が1.0nA以上のhERGチャネルを発現することができる細胞。
(6)hERG遺伝子の導入がウイルスベクターによるものである(5)記載の細胞。
(7)ウイルスベクターがレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターである(6)記載の細胞。
(8)ウイルスベクターを用いてhERGチャネルを発現させることを特徴とする、(1)から(4)のいずれか1項に記載の細胞集団または(5)から(7)のいずれか1項に記載の細胞を作製する方法。
(9)ウイルスベクターがレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターである(8)記載の方法。
(10)ウイルスベクターがレトロウイルスベクターである(8)記載の方法。
(11)ウイルスベクターを超遠心により濃縮する工程を含むことを特徴とする、(8)から(10)のいずれか1項に記載の方法。
(12)(1)から(4)のいずれか1項に記載の細胞集団または(5)から(7)のいずれか1項に記載の細胞を用いることを特徴とする、hERG電流の阻害活性を測定する方法。
(13)全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いることを特徴とする(12)記載の方法。
(14)(8)から(11)のいずれか1項に記載の方法により作製された細胞団または細胞を用いることを特徴とする、hERG電流の阻害活性を測定する方法。
(15)全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いることを特徴する(14)記載の方法。
(16)(1)から(4)のいずれか1項に記載の細胞集団または(5)から(7)のいずれか1項に記載の細胞を用いることを特徴とする、hERG電流を変化させ、もしくは変化させない化合物またはその塩のスクリーニング方法。
(17)全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いることを特徴とする(16)記載の方法。
(18)(8)から(11)のいずれか1項に記載の方法により作製された細胞集団または細胞を用いることを特徴とする、hERG電流を変化させ、もしくは変化させない化合物またはその塩のスクリーニング方法。
(19)全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いることを特徴とする(18)記載の方法。
本発明により、薬剤研究開発におけるhERGチャネル阻害に基づく副作用を予測するための発現レベルの著しく高い、hERGチャネル発現細胞の樹立法を確立し、それにより高感度で処理能力の高い評価を可能とした。
本発明により、同時に効率よくhERGチャネルの高発現細胞を得られることを利用して、多様な細胞種に対してhERGチャネルを高レベルで発現させることにより、各細胞種間で内在性のイオンチャンネルの影響を比較することで、薬剤研究開発における副作用予測を行う上で最も適切な細胞種を選択することを可能としている。また、本発明のhERGチャネル発現細胞またはhERGチャネル発現細胞集団は、長期間安定的にhERGチャネルを発現することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、レトロウイルスベクタープラスミド(pBabeXIP)の構造を示す。
図2は、レトロウイルスベクタープラスミド(pBabeXIH)の構造を示す。
図3は、レトロウイルスベクタープラスミド(pBabeCLXIP)の構造を示す。
図4は、レトロウイルスベクタープラスミド(pBabeCLXIH)の構造を示す。
図5は、レトロウイルスベクタープラスミド(pBabeCLXI2G)の構造を示す。
図6は、レトロウイルスベクタープラスミド(pBabeCLXaIN)の構造を示す。
図7は、hERG遺伝子を導入したレトロウイルスベクタープラスミド(pBabeCL(hERG)aIN)の構造を示す。
図8は、hERG遺伝子を導入したレトロウイルスベクタープラスミド(pBabeCL(hERG)IH)の構造を示す。
図9は、hERG遺伝子を導入したレトロウイルスベクタープラスミド(pBabeCL(hERG)IP)の構造を示す。
図10は、hERG遺伝子を導入したレトロウイルスベクタープラスミド(pBabeCL(hERG)I2G)の構造を示す。
図11は、hERG遺伝子を導入したレトロウイルスベクタープラスミド(pBabeCL(hERG))の構造を示す。
図12は、レンチウイルスベクタープラスミド(pLenti6/MCS)の構造を示す。
図13は、レンチウイルスベクタープラスミド(pLenti6/cPPT−XI2G)の構造を示す。
図14は、hERG遺伝子を導入したレンチウイルスベクタープラスミド(pLenti6/cPPT−(hERG)I2G)の構造を示す。
図15は、ウェスタンブロット法によるhERGチャネルタンパクの検出結果を示す。(Lane1:normal CHO−K1細胞、Lane2:リポフェクション法によりhERG遺伝子を導入した細胞株、Lane3:レトロウイルスによりhERG遺伝子を導入した細胞株)
図16は、hERG電流の分布を表す。(A:リポフェクション法によりhERG遺伝子を導入した細胞株、B:レトロウイルスによりhERG遺伝子を導入した細胞、C:レトロウイルスによりhERG遺伝子を導入した細胞株)
図17は、カットオフ値を設定して解析したhERG電流の分布を示す。(A:リポフェクション法によりhERG遺伝子を導入した細胞株、B:レトロウイルスによりhERG遺伝子を導入した細胞、C:レトロウイルスによりhERG遺伝子を導入した細胞株、D:レンチウイルスによりhERG遺伝子を導入した細胞群)
図18は、既知化合物のhERG阻害活性を表す。
図19は、KClおよびhERG阻害剤であるE4031およびDofetillideによる膜電位変化を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
以下に本発明の実施の形態について説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施をすることができる。
本発明において、レトロウイルスベクタープラスミドまたはレンチウイルスベクタープラスミドを利用してhERG遺伝子を含むウイルスベクターを調製し、得られたウイルスベクターによって細胞にhERGチャネルを高発現させることができる。本発明は、全自動ハイスループットパッチクランプシステムまたは色素を用いた測定法において、本発明により得られるhERGチャネル発現細胞または細胞集団を用いることにより、hERG電流を阻害する物質を同定することができる。また、本発明のhERGチャネル発現細胞またはhERGチャネル発現細胞集団は、長期間安定的にhERGチャネルを発現することができる。
本発明において、パッチクランプ法とは、細胞膜上に存在するイオンチャネルを通過するイオンの流れを高感度で検出する手法である(新パッチクランプ実験技術法、岡田泰伸編、吉岡書店)。また、本発明において古典的なパッチクランプ法とは、高度な技術を要する研究員が、顕微鏡観察下で、直径0.5〜3μmのガラス微小電極を細胞に押し当てて、非常に高い抵抗状態を作り上げた後にそのパッチを破壊することで、細胞膜表面上に存在するイオンチャネルを流れる電流を記録するホールセルパッチクランプ法である。
本発明において、全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いたパッチクランプ法とは、細胞をPBS等に浮遊状態で測定装置にセットし、アンフォテリシンB等を用いて細胞膜表面に穿孔を形成させ、細胞表面に存在するイオンチャネルを通って流れるイオンの動きを電流として検出する穿孔ホールセルパッチクランプ法である。
本発明において、全自動ハイスループットパッチクランプシステムとは、浮遊状にした細胞を、重力による落下および陰圧によって、各ウェルの小径の穴へ吸引し、電流記録を可能とする装置をいう。全自動ハイスループットパッチクランプシステムとしては、例えば、Ion Works HTTM(Molecular Device社)、PatchXpressTM 7000A(Axon Instruments社)があげられる。
本発明において、hERGチャネルとは、心筋細胞における遅延整流型カリウムチャネルの構成タンパク質の一つであり、詳細については後述する。
本発明において、hERG電流とは、細胞膜表面に存在するhERGチャネルを流れるカリウムイオンの流れのことである。このチャネルは、心臓において、心筋細胞の電気的な興奮を鎮めるために重要な役割を担っている。また、このhERG電流を抑制する薬剤は、重篤な心室性不整脈を誘発する危険性があるという理由により、市場からの撤退を余儀無くされる。従って、新規薬剤の開発において、このhERGチャネルに対する作用がない、もしくは極力弱い薬剤の開発が必須となっている。
本発明において、全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いたパッチクランプ法によって測定されるhERG電流とは、hERGチャネルを発現した細胞の膜電位を変化させた時に観察されるイオン電流をいう。より具体的には、細胞の膜電位を−80mVから+20mVへ1秒間、引き続き−50mVに1秒間変化させた時に検出されるイオン電流であり、このhERG電流の大きさとしては、−50mVに変化させた時に観察される末尾電流のピーク値をhERG電流の大きさとする。
本発明において、hERGチャネル発現細胞とは、hERGチャネルを発現している細胞をいう。以下にhERGチャネル発現細胞または細胞集団の作製方法を記載する。
<hERGチャネル>
本発明において細胞に発現させるhERGチャネルは、配列番号2(GenBankアクセッション番号U04270)で表されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド(以下、本発明のポリペプチドと称する場合がある)を含むものである。
以下、本発明のポリペプチドについて詳細に説明する。
配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列と約90%以上、好ましくは約95%以上、より好ましくは約98%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、hERG活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列などがあげられる。
特に、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、上記のアミノ酸配列の他、配列番号:2で表わされるアミノ酸配列において1個または複数個(例えば1個または数個)のアミノ酸に欠失、置換または付加等の変異が生じたアミノ酸配列であって、hERG活性を有するポリペプチドのアミノ酸配列である。
配列番号:2で表わされるアミノ酸配列において1個または複数個(例えば1個または数個)のアミノ酸に欠失、置換または付加等の変異が生じたアミノ酸配列としては、例えば、(i)配列番号:2で表されるアミノ酸配列中の1〜5個(好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、より好ましくは1個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列に1〜5個(好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、より好ましくは1個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(iii)配列番号2で表されるアミノ酸配列に1〜5個(好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、より好ましくは1個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(iv)配列番号2で表されるアミノ酸配列中の1〜5個(好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、より好ましくは1個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、(v)上記(i)〜(iv)を組み合わせたアミノ酸配列などがあげられる。
また、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなる変異ポリペプチドであって、元のポリペプチドと同じ生物学的活性が維持されるポリペプチドも、本発明の範囲に含まれる(Mark et al.(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:5662−6;Zoller and Smith(1982)Nucleic Acids Res.10:6487−500;Wang et al.(1984)Science 224:1431−3;Dalbadie−McFarland et al.(1982)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79:6409−13)。
ここで、アミノ酸の置換とは、配列中のアミノ酸残基の一つ以上が、異なる種類のアミノ酸残基に変えられた変異を意味する。このような置換により本発明のhERG遺伝子によりコードされるアミノ酸配列を改変する場合、タンパク質の機能を保持することが必要な場合には、保存的な置換を行うことが好ましい。保存的な置換とは、置換前のアミノ酸と似た性質のアミノ酸をコードするように配列を変化させることである。アミノ酸の性質は、例えば、非極性アミノ酸(Ala,Ile,Leu,Met,Phe,Pro,Trp,Val)、非荷電性アミノ酸(Asn,Cys,Gln,Gly,Ser,Thr,Tyr)、酸性アミノ酸(Asp,Glu)、塩基性アミノ酸(Arg,His,Lys)、中性アミノ酸(Ala,Asn,Cys,Gln,Gly,Ile,Leu,Met,Phe,Pro,Ser,Thr,Trp,Tyr,Val)、脂肪族アミノ酸(Ala,Gly)、分枝アミノ酸(Ile,Leu,Val)、ヒドロキシアミノ酸(Ser,Thr)、アミド型アミノ酸(Gln,Asn)、含硫アミノ酸(Cys,Met)、芳香族アミノ酸(His,Phe,Trp,Tyr)、複素環式アミノ酸(His,Trp)、イミノ酸(Pro,4Hyp)等に分類することができる。
従って、非極性アミノ酸同士、あるいは非荷電性アミノ酸同士で置換させることが好ましい。中でも、Ala、Val、LeuおよびIleの間、SerおよびThrの間、AspおよびGluの間、AsnおよびGlnの間、LysおよびArgの間、PheおよびTyrの間の置換は、タンパク質の性質を保持する置換として好ましい。変異されるアミノ酸の数および部位は特に制限ない。
このような配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドは、「Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.」(Cold Spring Harbor Press(1989))、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley & Sons(1987−1997);特にSection8.1−8.5)、Hashimoto−Goto et al.(1995)Gene 152:271−5、Kunkel(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488−92、Kramer and Fritz(1987)Method.Enzymol.154:350−67、Kunkel(1988)Method.Enzymol.85:2763−6等に記載の部位特異的変異誘発法等の方法に従って調製することができる。
また、ポリヌクレオチドに変異を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTM Site−Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)、GeneTailorTM Site−Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site−Directed Mutagenesis System(Mutan−K、Mutan−Super Express Km等:タカラバイオ社製)等を用いて行うことができる。
本発明のポリペプチドを構成するアミノ酸残基は天然に存在するものでも、また修飾されたものであっても良い。アミノ酸残基の修飾としては、アシル化、アセチル化、アミド化、アルギニル化、GPIアンカー形成、架橋、γ−カルボキシル化、環化、共有架橋の形成、グリコシル化、酸化、脂質または脂肪誘導体の共有結合化、ジスルフィド結合の形成、セレノイル化、脱メチル化、タンパク質の分解処理、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合化、ヒドロキシル化、ピログルタメートの形成、フラビンの共有結合化、プレニル化、ヘム部分の共有結合化、ホスファチジルイノシトールの共有結合化、ホルミル化、ミリストイル化、メチル化、ユビキチン化、ヨウ素化、ラセミ化、ADP−リボシル化、硫酸化、リン酸化等が例示される。
さらに、本発明のポリペプチドには他のペプチド配列により付加された融合タンパク質を含む。本発明のポリペプチドに付加するペプチド配列としては、インフルエンザ凝集素(HA)、グルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)、サブスタンスP、多重ヒスチジンタグ(6×His、10×His等)、プロテインC断片、マルトース結合タンパク質(MBP)、免疫グロブリン定常領域断片、α−チューブリン断片、β−ガラクトシダーゼ、B−タグ、c−myc断片、E−タグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)、FLAG(Hopp et al.(1988)Bio/Tehcnol.6:1204−10)、lckタグ、p18 HIV断片、HSV−タグ(ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質)、SV40T抗原断片、T7−タグ(T7 gene10タンパク質)、VSV−GP断片(Vesicular stomatitisウイルス糖タンパク質)等のタンパク質の識別を容易にする配列、組換え技術によりタンパク質を発現させる際に安定性を付与する配列等を選択することができる。
本発明のポリペプチドとしては、以上のようなポリペプチドがあげられ、例えば、前記の配列番号2で表されるアミノ酸配列、あるいは前記の配列番号2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有し、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチドと実質的に同質のhERG活性を有するポリペプチドなどが好ましい。ここで、「hERG活性」とは、カリウムイオンチャネルとして機能する活性を意味する。実質的に同質の活性とは、その活性が性質的に(例、生理化学的に、または薬理学的に)同質であることを示す。
<hERG遺伝子>
本発明において、hERG遺伝子とは、hERGチャネルをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドをいう。本発明のhERG遺伝子は、配列番号1(GenBankアクセッション番号U04270)で表される塩基配列と同一もしくは実質的に同一の塩基配列を有するポリヌクレオチドを含むものである。配列番号1で表される塩基配列と実質的に同一の塩基配列を有するポリヌクレオチドは、前記本発明のポリペプチドをコードする塩基配列を有するポリヌクレオチドであれば何でもよい。例えば、配列番号2で表わされるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドのほか、配列番号2で表わされるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなる変異ポリペプチドであって、hERG活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも本発明において使用することができる。
ここで、「ポリヌクレオチド」とは、複数のデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)等の塩基または塩基対からなる重合体を指し、DNA、cDNA、ゲノムDNA、化学合成DNAおよびRNAを含む。また、天然以外の塩基を必要に応じて含むポリヌクレオチドも包含する。天然以外の塩基としては、例えば、4−アセチルシチジン、5−(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン、2’−O−メチルシチジン、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン、5−カルボキシメチルアミノメチルウリジン、ジヒドロウリジン、2’−O−メチルプソイドウリジン、β−D−ガラクトシルキュェオシン、2’−O−メチルグアノシン、イノシン、N6−イソペンテニルアデノシン、1−メチルアデノシン、1−メチルプソイドウリジン、1−メチルグアノシン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアノシン、2−メチルアデノシン、2−メチルグアノシン、3−メチルシチジン、5−メチルシチジン、N6−メチルアデノシン、7−メチルグアノシン、5−メチルアミノメチルウリジン、5−メトキシアミノメチル−2−チオウリジン、β−D−マンノシルギュェオシン、5−メトキシカルボニルメチル−2−チオウリジン、5−メトキシカルボニルメチルウリジン、5−メトキシウリジン、2−メチルチオ−N6−イソペンテニルアデノシン、N−((9−β−D−リポフラノシル−2−メチルリオプリン−6−イル)カルバモイル)トレオニン、N−((9−β−D−リボフラノシルプリン−6−イル)N−メチルカルバモイル)トレオニン、ウリジン−5−オキシ酢酸−メチルエステル、ウリジン−5オキシ酢酸、ワイブトキソシン、プソイドウリジン、キュェオシン、2−チオシチジン、5−メチル−2−チオウリジン、2−チオウリジン、4−チオウリジン、5−メチルウリジン、N−((9−β−D−リボフラノシルプリン−6−イル)カルバモイル)トレオニン、2’−O−メチル−5−メチルウリジン、2’−O−メチルウリジン、ワイブトシン、3−(3−アミノ−3−カルボキシプロピル)ウリジン等が挙げられる。
本発明のhERG遺伝子は、配列番号1で表される塩基配列の遺伝子多型を含む。遺伝子多型は、データベース、例えば、GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)を利用することにより、容易に知ることができる。遺伝子多型には、一塩基多型(SNP)、および塩基配列の繰り返し数が異なっていることにより生じる多型が含まれる。また、複数の塩基(例えば2個〜数十塩基)の欠失または挿入による多型も遺伝子多型に含まれる。さらに、2〜数十塩基の配列が繰り返されている多型も遺伝子多型に含まれる。このような多型として、VNTR(variable number of tandem repeat)(繰り返しの単位が数塩基から数十塩基のもの)、およびマイクロサテライト多型(2〜4塩基単位程度のもの)がある。
本発明のhERG遺伝子は、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む。このようなアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号1で表される塩基配列に加えて、遺伝子暗号の縮重により配列番号1で表される塩基配列とは異なる塩基配列を含むものである。配列番号1で表される塩基配列のほか、非コード領域を除いた領域のみであってもよい。本発明のポリヌクレオチドを遺伝子工学的な手法によりポリペプチドを発現させるのに用いる場合、使用する細胞のコドン使用頻度を考慮して、発現効率の高いヌクレオチド配列を選択し、設計することができる(Grantham et al.(1981)Nucleic Acids Res.9:43−74)。
さらに、本発明のhERG遺伝子は、配列番号1で表される塩基配列または該塩基配列に相補的な配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであって、hERG活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。このようなポリヌクレオチドとしては、アイソフォーム、アルタナティブアイソフォーム、およびアレリック変異体があげられ、これらは、本発明のhERG遺伝子に含まれる。このようなhERG遺伝子は、配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、またはその断片をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法により、ヒトのcDNAライブラリーおよびゲノムライブラリーから得ることができる。cDNAライブラリーの作製方法については、「Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.」(Cold Spring Harbor Press(1989))を参照することができる。また、市販のcDNAライブラリーおよびゲノムライブラリーを用いてもよい。
より具体的に、cDNAライブラリーの作製においては、まず、本発明のhERG遺伝子を発現する細胞、臓器、組織等からグアニジン超遠心法(Chirwin et al.(1979)Biochemistry 18:5294−9)、AGPC法(Chomczynski and Sacchi(1987)Anal.Biochem.162:156−9)等の公知の手法により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit(Pharmacia)等を用いてmRNAを精製する。Quick Prep mRNA Purification Kit(Pharmacia)等の、細胞、臓器、組織等から直接mRNAを調製するためのキットを利用してもよい。次に得られたmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成する。AMV Reverse Transcriptase First−strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業)のようなcDNA合成のためのキットを使用することもできる。その他の方法として、cDNAはPCRを利用した5’−RACE法(Frohman et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:8998−9002;Belyavsky et al.(1989)Nucleic Acids Res.17:2919−32)により合成、および増幅させてもよい。また、全長率の高いcDNAライブラリーを作製するために、オリゴキャップ法(Maruyama and Sugano(1994)Gene 138:171−4;Suzuki(1997)Gene 200:149−56)等の公知の手法を採用することもできる。上述のようにして得られたcDNAは、適当なベクター中に組み込むことができる。
本発明におけるハイブリダイゼーション条件において、ストリンジェントな条件としては、例えば、「2×SSC、0.1%SDS、50℃」、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件としては、例えば「2×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」、「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」等の条件を挙げることができる。より詳細には、Rapid−hybbuffer(Amersham Life Science)を用いた方法として、68℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを行った後、プローブを添加して1時間以上68℃に保ってハイブリッド形成させ、その後、2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分の洗浄を3回、1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分の洗浄を3回、最後に、1×SSC、0.1%SDS中、50℃で20分の洗浄を2回行うことも考えられる。その他、例えばExpresshyb Hybridization Solution(CLONTECH)中、55℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを行い、標識プローブを添加し、37〜55℃で1時間以上インキュベートし、2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分の洗浄を3回、1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分の洗浄を1回行うこともできる。ここで、例えば、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーションや2度目の洗浄の際の温度を上げることにより、よりストリンジェントな条件とすることができる。例えば、プレハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションの温度を60℃、さらにストリンジェントな条件としては68℃とすることができる。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、その他のプローブ濃度、プローブの長さ、反応時間等の諸条件を加味し、本発明のhERG遺伝子をコードするポリヌクレオチドを得るための条件を設定することができる。
ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、「Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.」(Cold Spring Harbor Press(1989);特にSection9.47−9.58)、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley & Sons(1987−1997);特にSection6.3−6.4)、「DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach 2nd ed.」(Oxford University(1995);条件については特にSection2.10)等を参照することができる。ハイブリダイズするポリヌクレオチドとしては、配列番号1で表される塩基配列に対して少なくとも50%以上、好ましくは70%、さらに好ましくは80%、より一層好ましくは90%(例えば、95%以上、さらには99%)の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。このような同一性は、BLASTアルゴリズム(Altschul(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264−8;Karlin and Altschul(1993)Proc. Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−7)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいたプログラムのうち、配列の同一性を決定するプログラムとして、アミノ酸配列についてはBLASTX、ヌクレオチド配列についてはBLASTN(Altschul et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403−10)等が開発されており、本発明の配列に対して使用することができる。具体的な解析方法については、例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.gov.等を参照することができる。
本発明のhERG遺伝子に含まれるhERGのアイソフォームやアレリック変異体等、hERGと類似した構造および機能を有する遺伝子は、配列番号1で表さる塩基配列を基にプライマーを設計し、ヒトのcDNAライブラリーおよびゲノムライブラリーから遺伝子増幅技術(PCR)(Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1987)Section 6.1−6.4)により得ることができる。
本発明のポリヌクレオチドには、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチド配列に相補的な配列が含まれる。これら本発明のポリヌクレオチドは、「Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.」(Cold Spring Harbor Press(1989))、「Current Protocols in Molecular Biology」(John Wiley & Sons(1987−1997);特にSection8.1−8.5)、Hashimoto−Goto et al.(1995)Gene 152:271−5、Kunkel(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488−92、Kramer and Fritz(1987)Method.Enzymol.154:350−67、Kunkel(1988)Method.Enzymol.85:2763−6等に記載の部位特異的変異誘発法等の方法に従って調製することができる。また、変異の誘発は前記の通り市販のキットを用いることもできる。
本発明のポリヌクレオチドの塩基配列の確認は、慣用の方法により配列決定することにより行うことができる。例えば、ジデオキシヌクレオチドチェーンターミネーション法(Sanger et al.(1977)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 74:5463)等により行うことができる。また、適当なDNAシークエンサーを利用して配列を解析することも可能である。
<ウイルスベクタープラスミド>
本発明により、本発明のhERG遺伝子を含むウイルスベクタープラスミド(以下、本発明のウイルスベクタープラスミドと称する場合がある)が提供される。ここで、ウイルスベクタープラスミドとは、ウイルス由来の塩基配列を利用して、任意の塩基配列を任意の細胞に組み込むことができるようにしたプラスミドをいう。本発明のウイルスベクタープラスミドは、本発明のhERG遺伝子を宿主細胞内に保持したり、該hERG遺伝子にコードされるhERGチャネルを発現させたりするのに有用である。
ウイルスベクタープラスミドを使用する場合に基となるウイルスとしては、モロニーマウス白血病ウイルス(Moloney murine leukemia virus,MoMLV)などのオンコレトロウイルス由来のものや、ヒト後天性免疫不全症候群ウイルス(Human immunodeficiency virus,HIV)などのレンチウイルス由来のものが挙げられる。
本発明において、レトロウイルスとは、レトロウイルス科(Retroviridae)、オンコウイルス亜科(Oncovirinae)のオンコウイルス属(Oncovirus)に属するウイルスをいい、レンチウイルスとは、レトロウイルス科(Retroviridae)、レンチウイルス亜科(Lentivirinae)のレンチウイルス属(Lentivirus)に属するウイルスをいう。
これまでにレトロウイルスベクターおよびレンチウイルスベクターにより効率良く細胞の染色体中に安定した遺伝子導入・発現が可能であることが示されている(Kay,M.A.et al.Nature Med.vol.7 33−40(2001))。本発明のウイルスベクタープラスミドには、pZIPneo(Cepko,C.L.et al(1984)Cell.37:1053−1062)、pBabe Puro(Morgenstern,J.P.and Land,H.Nucleic Acids Res.vol.183587−3596)、pCLXSN(IMGENEX社 catalog 10041P)、ViraPort retroviral gene expression system(Stratagene catalog 217563)、pDON−AI(Takara catalog 3650)等のレトロウイルスベクタープラスミド、pLenti6/V5−GW/lacZ(Invitrogen,Carlsbad,CA.catalog K4955−10)等のレンチウイルスベクタープラスミド等様々なウイルスベクタープラスミドを用いることができる。また、レトロウイルスおよびレンチウイルス以外由来のウイルスベクター、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(adeno−associated viral vector)、シンビスウイルス、センダイウイルス、トガウイルス、パラミクソウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス等を元に作製されたベクタープラスミドを利用することもできる。
レトロウイルスベクターの中では、VSV−Gシュードタイプレトロウイルスベクターを使用することが望ましい。シュードタイプとは、一つのウイルスゲノムが別種のウイルスの外皮タンパク質に囲まれて発芽してくる現象である(Zavada,J.J.Gen.Virol.vol.15 183−191(1972))。VSV(水疱性口内炎ウイルス:vesicular stomatitis virus,VSV)は、ラブドウイルス科に属するネガティブ1本鎖RNAゲノムを持つウイルスであり、その外皮タンパク質(Gタンパク質)の細胞側のレセプターはホスファチジルセリンをはじめとする陰イオン脂質であると考えられ(Schlegel,R.et al.Cell vol.32 639−646(1983),Mastromarino,P.et al.J.Gen.Virol.vol.68 2359−2369(1987))、通常用いられる両種指向性(amphotropic)のレトロウイルスベクターに比較してきわめて広い宿主域を有する(Emi,N.et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA vol.65 1202−1207(1991),Arai,T.et al.Virol.vol.260 109−115(1999))と共に超遠心操作により遺伝子導入能力を向上できることが報告されている(Burns,J.C.et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA vol.90 8033−8037(1993))。従って、このVSV−G遺伝子産物を外皮に持つシュードタイプレトロウイルスを作製することにより、本来の外皮タンパク質を持つレトロウイルスに比較して効率よく各種細胞にhERG遺伝子を導入することが可能となる。
これらVSV−Gシュードタイプベクターの性質はレンチウイルスベクターにおいても同様であり、報告されているレンチウイルスベクターの多くがこのシュードタイプベクターである(Kay,M.A.et al.Nature Med.vol.7 33−40(2001))。
ウイルスベクタープラスミドの好ましい態様においては、ウイルスベクタープラスミドを導入した宿主細胞内で本発明のhERG遺伝子が発現されるように制御配列下に結合する。ここで「制御配列」とは、プロモーターおよびターミネーターであり、場合によってトランスアクチベーター、転写因子、転写物を安定化するポリAシグナル、スプライシングおよびポリアデニル化シグナル等が含まれる。このような制御配列は、それに連結されたポリヌクレオチドの発現に必要とされるすべての構成成分を含むものである。
また、本発明のウイルスベクターは、選択可能なマーカーを含んでいてもよい。選択可能なマーカーとしては、例えば、薬剤耐性遺伝子(ネオマイシシ耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子等)や蛍光タンパク質(GFP、EGFP等)などが挙げられる。さらに、細胞内で発現されたポリペプチドを細胞膜上へと移行させるために必要とされるシグナルペプチドをポリペプチドに付加するようにしてウイルスベクタープラスミドへ組み込むこともできる。さらに、必要に応じリンカーの付加、開始コドン(ATG)、終止コドン(TAA、TAGまたはTGA)の挿入を行ってもよい。
哺乳動物およびその他の動物細胞を宿主とする場合には、アデノウイルスlateプロモーター(Kaufman et al.(1989)Mol.Cell.Biol.9:946)、CAGプロモーター(Niwa et al.(1991)Gene 108:193−200)、CMV immediate earlyプロモーター(Seed and Aruffo(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:3365−9)、EF1αプロモーター(Mizushima et al.(1990)Nucleic Acids Res.18:5322;Kim et al.(1990)Gene 91:217−23)、HSV TKプロモーター、SRαプロモーター(Takebe et al.(1988)Mol.Cell.Biol.8:466)、SV40プロモーター(Mulligan et al.(1979)Nature 277:108)、SV40 earlyプロモーター(Genetic Engineering Vol.3,Williamson ed.,Academic Press(1982)pp.83−141)、SV40 lateプロモーター(Gheysen and Fiers(1982)J.Mol.Appl.Genet.1:385−94)、RSV(ラウス肉腫ウイルス)−LTRプロモーター(Cullen(1987)Methods Enzymol.152:684−704)、MMLV−LTRプロモーター、CMVエンハンサー、SV40エンサー、cPPT(central polypurine tract)配列およびグロビンイントロン等を使用することができる。
ウイルスベクタープラスミドへのhERG遺伝子の挿入は、リガーゼ反応により行うことができる。このとき、制限酵素サイトを利用することもできる(Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1987)Section 11.4−11.11;Molecular Cloning,A Laboratory Manual 2nd ed.,Cold Spring Harbor.Press(1989)Section 5.61−5.63)。
<ウイルスベクターの調製>
本発明において、ウイルスベクターとは、ウイルスベクタープラスミドを含有するウイルスをいう。ウイルスベクターを調製するために、ウイルスベクタープラスミドをパッケージング細胞に導入する。パッケージング細胞には、293−EBNA細胞(Invitrogen,catalog R620−07)等用いることができる。ウイルスベクタープラスミドは、アデノウイルス法、エレクトポレーション(電気穿孔)法(Cytotechnology 3:133(1990))、カチオニックリポソーム法(カチオニックリポソームDOTAP(Boehringer Mannheim)等)、正電荷ポリマーによる導入法、静電気型リポソーム(electrostatic type liposome)法、内包型リポソーム(interrial type liposome)法、パーティクルガンを用いる方法、リポソーム法、リポフェクション法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:7413(1987)(例えば、lipofectamine 2000(Invitrogen)、Fugene 6(Roche Diagnostics)など))、リン酸カルシウム法(特開平2−227075)、レセプター介在遺伝子導入法、レトロウイルス法、DEAEデキストラン法、ウイルス−リポソーム法(別冊実験医学「遺伝子治療の基礎技術」羊土社(1997);別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社(1997);J.Clin.Invest.93:1458−64(1994);Am.J.Physiol.271:R1212−20(1996);Molecular Medicine 30:1440−8(1993);実験医学12:1822−6(1994);蛋白質核酸酵素42:1806−13(1997);Circulation 92(Suppl.II):479−82(1995))、naked−DNAの直接導入法等によりパッケージング細胞に導入することができる。
パッケージング細胞を適当な培地にて培養し、上記方法によりウイルスベクタープラスミドをトランスフェクションし、その後、一定時間培養し、培養液を回収することでウイルスベクターを得ることができる。また、トランスフェクション後、必要に応じて2から24時間後、好ましくは6から12時間後に培地を交換することができる。培地を交換した後、さらに12時間から72時間培養し、培養液を回収することでウイルスベクターを得ることができる。回収した培養液は、必要に応じて遠心操作、フィルター(0.45μmのフィルター(Millipore,MILLEX−HV,catalog#SLHV025LS)等)によるろ過を行うことができる。
<ウイルスベクターの濃縮>
本発明のウイルスベクターは、そのままでも用いることができるが、濃縮した方が、より好ましい。前記操作により得られたウイルスベクターを超遠心操作することで、濃縮ウイルスベクターを得ることができる。超遠心は、少なくとも35,000g(gは重力加速度を表す)以上、好ましくは55,000g以上を、少なくとも100分以上、好ましくは120分以上行う。超遠心は、例えば、超遠心装置XL−90(Beckman)および超遠心ローターSW28(Beckman)を用いて、19500rpm,100分行うことによりできる。
<hERG遺伝子の導入>
本発明において、hERG遺伝子の細胞への導入は、本発明のウイルスベクターをそのまま用いることもできるが、濃縮したものを用いた方がより好ましい。
本発明のhERGチャネル癸現細胞またはhERGチャネル発現細胞集団における宿主細胞には、哺乳類由来の真核細胞を用いることができ、好ましくは、CHO(中でもDHFR遺伝子欠損dhfr−CHO(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216−20(1980)およびCHO K−1(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 60:1275(1968))が好適である)、COS、Hela、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowesメラノーマ細胞等である。また、本発明のhERGチャネル発現細胞または細胞集団における宿主細胞には、心臓由来のセルライン、または単離した心筋細胞若しくは洞房結節細胞を用いることもできる。本発明のhERG発現細胞または細胞集団には、一定条件下、例えば、薬剤刺激、電気刺激、熱刺激、光刺激などにより、転写を調節し、発現を調節することができる細胞も含まれる。
宿主細胞を培養し、培養液にウイルスベクターを添加し、さらに培養することで遺伝子導入することができる。ウイルスベクターは、濃縮したものを用いるのが好ましい。添加するウイルスベクターには、必要に応じてpolybrene(Sigma H9268別名hexadimethrine bromide)を加えることができる。ウイルスを加えた後、24時間後に培地を交換することが好ましい。また、培地を交換した後、72時間程度培養することで細胞あたりの発現量を最大とすることができる。
<hERGチャネル発現細胞、hERGチャネル発現細胞集団>
以上の方法により、本発明のhERGチャネル発現細胞およびhERGチャネル発現細胞集団が提供される。培養は、選択した細胞に適した公知の方法により行う。例えば、DMEM、MEM、RPMI1640、IMDM、F12等の培地を用い、必要に応じウシ胎児血清(FCS)等の血清、アミノ酸、グルコース、ペニシリンまたはストレプトマイシンなどを添加することができ、pH約6〜8、30〜40℃において15〜200時間前後の培養を行うことができる。その他、必要に応じ途中で培地の交換を行ったり、通気および攪拌を行ったりすることができる。
本発明の方法により得られたhERG遺伝子導入細胞の細胞集団(以下、「本発明のhERGチャネル発現細胞集団」と称することがある)の中には、チャネル発現細胞(以下、本発現のhERGチャネル発現細胞と称することがある)が多数存在しており、中でも、本発明のhERGチャネル発現細胞集団は、全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いたパッチクランプ法によって測定されるhERG電流が0.6nA以上のhERGチャネル発現細胞を多く含むものである。その含有率は、hERG遺伝子が導入された細胞全体のうち、少なくとも40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上、最も好ましくは80%以上である。hERG遺伝子が導入された細胞は、遺伝子の導入操作内容が同一の操作内容である限り、同一実験系で導入された細胞全体を母数としてもよく、異なる実験系(例えば異なる実験日に行われた場合等)で導入された細胞を全体にまとめて母数としてもよい。hERGチャネル発現細胞集団のhERG電流の平均は0.3nA以上であり、好ましくは0.6nA以上であり、より好ましくは0.8nA以上であり、さらに好ましくは1.0nA以上である。
hERGチャネル発現細胞または細胞集団の全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いたパッチクランプ法によって測定されるhERG電流は、後述のパッチクランプ法により測定することができる。なお、全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いたパッチクランプ法によって測定されるhERG電流が0.6nA以上のhERGチャネル発現細胞の含有率は、無作為に選び出した複数の細胞それぞれについて、hERG電流を測定することにより、hERG電流が0.6nA以上の細胞の割合を算出することができる。
また、本発明のhERGチャネル発現細胞または本発明のhERG発現細胞集団は、後述のクローニングにより得られる細胞、細胞株も含まれる。また、本発明のhERGチャネル発現細胞または本発明のhERG発現細胞集団は、クローニングで得られた細胞株に、さらにhERG遺伝子を導入して得られる細胞、細胞集団も含まれる。
<hERGチャネル発現細胞のクローニング>
本発明のhERGチャネル発現細胞または細胞集団は、そのまま用いることも可能であるが、培養中に性質が偏ることを避け、安定した薬物評価を可能とするためにクローニングを行うことができる。細胞クローニングは、定法(例えば、限外希釈法、フローサイトメトリーによるセルソーティング等)により行うことができる。クローニング後の細胞株から、発現量の測定、パッチクランプ法によるhERGチャネルの機能的解析により最適なhERGチャネル発現細胞株を選別することができる。
hERGチャネル発現細胞における発現量は、抗hERGチャネル抗体を用いた免疫組織学的な解析方法により測定できる。抗体は、定法により作製してもよく、市販のもの(例えば、Alomene Labs)を用いてもよい。免疫組織学的な解析方法としては、例えば、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、ELISA法、Western blot法、フローサイトメトリー、免疫組織化学染色等があげられる。
このクローニングにより、全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いたパッチクランプ法により測定されるhERG電流が、少なくとも0.4nA以上、好ましくは0.6nA以上、さらに好ましくは0.8nA以上、より好ましくは1.0nA以上、特に好ましくは1.2nA以上の細胞がより容易に提供される。
<hERG電流の測定方法>
本発明は、本発明のhERGチャネル発現細胞または本発明のhERGチャネル発現細胞集団を用いることを特徴とするhERG電流を測定する方法、具体的には、本発明のhERGチャネル発現細胞または細胞集団を用いて、パッチクランプ法、好ましくは全自動ハイスループットパッチクランプシステムにより、hERG電流を測定する方法を提供する。
hERGチャネル発現細胞または細胞集団は、前述の本発明のhERGチャネル発現細胞を作製する方法などにより得ることができる。本発明のhERG電流の測定方法において使用されるhERGチャネル発現細胞のhERGチャネル発現量は、全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いたパッチクランプ法により測定されるチャネル電流が、少なくとも0.4nA以上、好ましくは0.6nA以上、さらに好ましくは0.8nA以上、より好ましくは1.0nA以上、特に好ましくは1.2nA以上であることが望ましく、当該細胞あるいは当該細胞集団も本発明の範囲に含まれる。なお、発現量が多いほどパッチクランプ法により測定されるチャネル電流が高くなる。
本発明のhERG電流の測定方法を実施するためには、本発明のhERGチャネル発現細胞または細胞集団を、前述の適当な方法で一定期間培養し、測定に適したバッファーに懸濁する。バッファーは、pH6〜8のリン酸バッファー、トリス−塩酸バッファーなどのhERG電流に影響を与えないバッファーであれば何でもよい。好ましくはpH7.4のphosphate buffered salineである。
次に、パッチクランプ法、好ましくは全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いて、hERG電流を記録することができる。hERG電流は、種々の保持電位および脱分極パルスを細胞に与えることにより誘発することができる。これらの条件については、当業者であれば容易に設定することができる(Zhou,Z et al,Biophysical Journal,74,230−241(1998))。例えば、保持電位を、−80mVから+20mVへ1秒間、続いて、脱分極パルスを−50mVへ1秒間与えることにより誘発することができる。hERG電流の大きさには、−50mVへ電位を戻した際に観察される末尾電流のピーク値を用いることができる。
<本発明のhERGチャネル発現細胞を用いたhERG電流の阻害活性の測定方法>
hERG電流の阻害活性を有する化合物は、QT延長作用を伴う催不整脈作用を有することが知られており、心室頻拍や突然死といった重篤な副作用を誘発することがある。そのため、安全性の高い医薬品開発には、その開発の対象となる被検物質がhERG電流に影響を与えないことを確認することが必須である。よって、本発明のhERGチャネル発現細胞を用いたhERG電流の阻害活性の測定方法は、hERG電流に影響を与えない被検化合物を選択することを容易とするものであり、従って、本発明の阻害活性測定方法は、種々の疾病の治療・予防剤などの医薬の開発に有用である。
すなわち、本発明は、
(A)hERGチャネル発現細胞またはhERGチャネル発現細胞集団を用いることを特徴とするhERG電流の阻害活性の測定方法、具体的には、本発明のhERGチャネル発現細胞または細胞集団に、被検化合物を接触させることを特徴とするhERG電流の阻害活性の測定方法を提供する。本発明のhERG電流の阻害活性の測定方法においては、本発明のhERGチャネル発現細胞または細胞集団に、被検化合物を接触させる前と接触させた後における、例えば、当該細胞のhERG電流を測定して比較することができる。たとえば、hERG電流の阻害活性は、被検化合物を接触させる前のhERG電流の大きさに対する当該化合物を接触させた後のhERG電流の大きさの比を指標に用いることができる。
(B)hERGチャネル発現細胞またはhERGチャネル発現細胞集団を用いることを特徴とするhERG電流を変化させもしくは変化させない化合物またはその塩のスクリーニング方法、具体的には、本発明のhERGチャネル発現細胞または細胞集団に、被検化合物を接触させた場合と接触させない場合との比較を行うことを特徴とするhERG電流を変化させもしくは変化させない化合物またはその塩のスクリーニング方法を提供する。本発明のスクリーニング方法においては、本発明のhERGチャネル発現細胞または細胞集団に、被検化合物を接触させた場合と接触させない場合における、例えば、当該細胞のhERG電流を測定して比較することができる。例えば、被検化合物を接触させない場合よりも接触させた場合のhERGチャネル電流が小さいとき、当該被検化合物をhERGチャネル電流を阻害する化合物とすることができる。
hERGチャネル発現細胞または細胞集団は、本発明のhERG発現細胞、本発明のhERG発現細胞集団を用いることができ、あるいは前述の本発明のhERGチャネル発現細胞または細胞集団を作製する方法などにより得ることができる。本発明のhERG電流の阻害活性の測定方法において、本発明のhERGチャネル発現細胞または細胞集団のhERGチャネル発現量は、全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いたパッチクランプ法により測定されるチャネル電流が、少なくとも0.4nA以上、好ましくは0.6nA以上、さらに好ましくは0.8nA以上、より好ましくは1.0nA以上、特に好ましくは1.2nA以上である。なお、発現量が多いほどパッチクランプ法により測定されるチャネル電流が高くなり、高感度な測定系の構築が可能になる。
本発明の(A)または(B)の前記の方法を実施するためには、本発明のhERGチャネル発現細胞または細胞集団を、前述の適当な方法で一定期間培養し、測定に適したバッファーに懸濁する。バッファーには、pH6〜8のリン酸バッファー、トリス−塩酸バッファーなどのhERG電流に影響を与えないバッファーであれば何でもよい。好ましくは、pH7.4 phosphate buffered salineである。
まず、パッチクランプ法、好ましくは全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いて、hERG電流を記録することができる。hERG電流は、種々の保持電位および脱分極パルスを細胞に与えることにより誘発することができる。これらの条件については、当業者であれば容易に設定することができる。例えば、保持電位を、−80mVから+20mVへ1秒間、続いて、脱分極パルスを−50mVへ1秒間与えることにより誘発することができる。hERG電流の大きさには、電位を戻した際に観察される末尾電流のピーク値を用いることができる。
次に、hERGチャネル発現細胞に被検化合物を共存させる。このとき、コントロールとして、被検化合物を含まないものやhERG電流を阻害することが知られている化合物を加えた細胞も用意することができる。hERG電流を阻害する化合物としては、アステミゾール(Talialatel et al.(1998)Mol.Pharmacol 54:113−21)、E−4031(Zhou et al.Biophys J.(1998)74:230−41)、リスペリドン(Kongsamut et al.Eur J Pharmacol.(2002)450:37−41))、ベラパミル(Zhang et al.(1999)Circ.Res.84:989−98)、キニジン(Jiesheng et al.J Pharmacol Exp Ther.(2001)299:290−6.)があげられる。反応は、例えば、15℃から37℃、好ましくは20℃から30℃で、10秒から60分、好ましくは3分から10分行う。
そして、パッチクランプ法、好ましくは全自動ハイスループットパッチクランプシステ厶を用いて、hERG電流を記録することができる。hERG電流は、被検化合物共存前と同条件により誘発することができる。hERG電流の大きさには、電位を戻した際に観察される末尾電流のピーク値を用いることができる。
例えば、被検化合物を接触させる前のhERG電流の大きさを100%、0nAを0%とすることで、被検化合物を接触させた後のhERG電流の大きさから抑制率を算出し、被検化合物のhERG電流に対する阻害活性を測定できる。さらに、被検化合物の用量を変化させることで、被検化合物固有の阻害活性値を算出することも可能である。また、hERG電流を50%阻害する濃度が、少なくとも0.3μM以上、好ましくは1.0μM以上、より好ましくは3.0μM以上、特に好ましくは10μM以上、最も好ましくは30μM以上である場合には、hERG電流に影響を与えない、あるいは阻害活性を有さないと判断することができる。
被検化合物としては、例えばペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。
<本発明のhERGチャネル発現細胞によるFLIPR Membrane Potential Assay Kitを用いた膜電位変化の測定方法>
本発明は、hERGチャネル発現細胞によるFLIPR Membrane Potential Assay Kit(Molecular Devices)を用いた膜電位変化の測定方法を提供する。
具体的には、以下のように操作を行うことで、測定することができる。本発明のhERGチャネル発現細胞を、前述の適当な方法で一定期間培養し、測定に適したバッファーに懸濁する。バッファーには、pH6〜8のリン酸バッファー、トリス−塩酸バッファーなどのhERG電流に影響を与えないバッファーであれば何でもよく、好ましくは、pH7.4 phosphate buffered salineである。細胞懸濁液は、0.2×10cells/mlから1.0×10cells/mlの濃度に調製することが好ましい。次に、懸濁した細胞をプレート(例えば、Biocoat Poly−D−Lysine 384−Well Black/Clear Plate(BECKTON DICKINSON)等を利用する)に蒔き、さらに培養する。細胞は、500cells/wellから25000cells/wellになるように蒔くことができる。また、2日間程度培養することが好ましい。次に、FLIPR Membrane Potential Assay Kit(Molecular Devices)のComponent Aを測定用緩衝液(130mM NaCl、5mM KCl、1mM MgCl、1mM CaCl、24mM Glucose、10mM HEPES、(最終pH約7.25))に溶解し、1ウェル当たり25μl加える。Component Aを添加してから約1時間後、FLIPR(Molecular Devices)またはFDSS6000(浜松ホトニクス社)を用いて膜電位変化の測定を行うことができる。測定プログラムは、当業者にとって適当な条件を設定でき、例えば、被検化合物添加前に10回、添加後に50回、6秒毎とすることができる。測定は室温で行うことができる。hERG阻害活性は、被検化合物添加により変化した蛍光強度から算出することができる。陽性対照として、E4031、Dofetillide等を用いることができる。
本明細書および図面において、塩基やアミノ酸などを略号で表示する場合、IUPAC−IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによる略号あるいは当該分野における慣用略号に基づくものであり、その例を下記する。またアミノ酸に関し光学異性体があり得る場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。
DNA:デオキシリボ核酸
cDNA:相補的デオキシリボ核酸
A:アデニン
T:チミン
G:グアニン
C:シトシン
RNA:リボ核酸
mRNA:メッセンジャーリボ核酸
GlyまたはG:グリシン
AlaまたはA:アラニン
ValまたはV:バリン
LeuまたはL:ロイシン
IleまたはI:イソロイシン
SerまたはS:セリン
ThrまたはT:スレオニン
CysまたはC:システイン
MetまたはM:メチオニン
GluまたはE:グルタミン酸
AspまたはD:アスパラギン酸
LysまたはK:リジン
ArgまたはR:アルギニン
HisまたはH:ヒスチジン
PheまたはF:フェニルアラニン
TyrまたはY:チロシン
TrpまたはW:トリプトファン
ProまたはP:プロリン
AsnまたはN:アスパラギン
GlnまたはQ:グルタミン
本願明細書の配列表の配列番号は、以下の配列を示す。
〔配列番号1〕GenBankアクセッション番号U04270で表される塩基配列を示す。
〔配列番号2〕GenBankアクセッション番号U04270で表されるアミノ酸配列を示す。
〔配列番号3〕hERG遺伝子をクローニングするためのプライマー塩基配列を示す。
〔配列番号4〕hERG遺伝子をクローニングするためのプライマー塩基配列を示す。
〔配列番号5〕hERG遺伝子をクローニングするためのプライマー塩基配列を示す。
〔配列番号6〕hERG遺伝子をクローニングするためのプラィマー塩基配列を示す。
〔配列番号7〕hERG遺伝子をクローニングするためのプライマー塩基配列を示す。
〔配列番号8〕hERG遺伝子をクローニングするためのプライマー塩基配列を示す。
〔配列番号9〕multicloning siteを挿入するための塩基配列を示す。
〔配列番号10〕multicloning siteを挿入するための塩基配列を示す。
〔配列番号11〕central polypurine tractを挿入するための塩基配列を示す。
〔配列番号12〕central polypurine tractを挿入するための塩基配列を示す。
〔配列番号13〕pBabe Puroの塩基配列を示す。
【実施例】
以下に、具体的な例をもって本発明を示すが、本発明はこれに限られるものではない。
[実施例1]hERG遺伝子の調製
hERG遺伝子の単離は、配列番号1で表される塩基配列を基にして、以下のように行った。ここでは4070 bpsが示されており、hERGチャネルをコードする領域(ストップコドンを除く)は、184−3660(3477 bps,1159アミノ酸残基)とされている(GenBankアクセッション番号U04270)。PCR(polymerase chain reaction)により遺伝子を単離するために、配列番号3から8までに示すoligo DNA primerを作製した(日本バイオサービス(埼玉県朝霞市)に依頼)。
ヒト脳polyA+RNA(Clontech,Palo Alto,CA.catalog#6516−1)を鋳型としてSuperscript First−Strand Synthesis System(Invitrogen/Gibco,MD)によりcDNAを作製した。次に、このcDNA鋳型とし、配列番号3および4、配列番号5および6並びに配列番号7および8からなるoligo DNAをプライマーとして、Expand High Fidelity PCR System(Roche Diagnostics,Mannheim,Germany)を用い、(95℃30秒−61℃30秒−68℃1分)を30回繰り返すことによりPCR反応を行った。プライマーの塩基配列は以下の通りである。

その結果、それぞれ約1.2,1.2,1.6kbのDNA断片を得た。
これらのDNA断片は、pT7Blue(Novagen,Darmstadt,Germany,catalog69967−3)に挿入し、ABI prism DNA sequencing kit(Perkin−Elmer Applied Biosystems,Foster City,CA)により配列を確認した。その結果、配列番号3および4からなるプライマーの組み合わせによって得られた1179bpsの配列は、配列番号1における173bpから1351bpと同一であった。一方、配列番号5および6ならなるプライマーの組み合わせによって得られた1168bpsの配列中には2つの変異(A1875G,T2149C)が見られたが、これらの変異は、該当部位の塩基配列から翻訳されるアミノ酸(Leu,Tyr)には影響を与えないことが明らかである。また、配列番号7および8からなるプライマーの組み合わせによって得られた1642bpsの配列中には2つの変異(C2420T,A3367G)が見られたが、今回得られた複数のクローンで同一の変異を有していたことから、今回使用している試料中(ヒト脳polyA+RNA(Clontech,Palo Alto,CA.catalog#6516−1))のhERG遺伝子として正しいと判断した。
pBluescript(Stratagene,La Jolla,CA)を制限酵素KpnIおよびXhoIで切断した。また、配列番号3および4からなるプライマーの組み合わせによって得られたDNA断片を制限酵素KpnIおよびBstEIIで切断し、配列番号5および6からなるプライマーの組み合わせによって得られたDNA断片を制限酵素BstEIIおよびXhoIで切断した。次に、ここで得られたDNA断片を、制限酵素KpnIおよびXhoIで切断されたpBluescript中へ、リガーゼ反応(TaKaRa,Cat.6022)により挿入してpBS−1&14&15&18を作製した。
pBluescriptを制限酵素HindIIIおよびXhoIで切断した。また、配列番号7および8からなるプライマーの組み合わせによって得られたDNA断片を制限酵素HindIIIおよびSacIで切断した。次に、ここで得られたDNA断片を、制限酵素HindIIIおよびXhoIで切断されたpBluescript中へ、リガーゼ反応により挿入してpBS−6&4を作製した。
さらに、pREP7(Invitrogen,Carlsbad,CA.)をKpnIおよびHindIIIで切断した。また、pBS−1&14&15&18をKpnIおよびXhoIで、pBS−6&4をXhoIおよびHindIIIで切断した。次に、ここで得られたDNA断片をKpnIおよびHindIIIで切断されたpREP7中へリガーゼ反応により挿入して、hERG遺伝子を含むpREP7HERGを得た。
[実施例2]レトロウイルスベクタープラスミドの調製
pBabe Puro(Morgenstern,J.P.and Land,H.Nucleic Acids Res.vol.18 3587−3596)(配列番号13)から、制限酵素SalIおよびClaIで切断することによりSV40 promoter−puro(r)を除き、末端をKlenow fragment(Takara,Otsu,Japan)により平滑化した。ここへpIRESpuro(Clontech,Palo Alto,CA.catalog#603l−1)から制限酵素NsiIおよびXbaIで切断することによりIRES−puro(r)を切り出し、T4 polymeraseにより末端を平滑化したものを挿入しpBabeXIPを得た(図1)。
pBabe Puro(Morgenstern,J.P.and Land,H.Nucleic Acids Res.vol.18 3587−3596)(配列番号13)からSalIおよびClaIで切断することによりSV40 promoter−puro(r)を除き、末端をKlenow fragmentにより平滑化した。ここへpIREShyg(Clontech,Palo Alto,CA.catalog#6061−1)からNsiIおよびXbaIで切断することによりIRES−hyg(r)を切り出し、T4 polymeraseにより末端を平滑化したものを挿入しpBabeXIHを得た(図2)。
pBabeXIPから制限酵素SspIおよびBamHIで切断することにより5’−LTR−packaging signalを除いた。ここへpCLXSN(IMGENEX San Diego,CA.catalog#10041P)から制限酵素SspIおよびBamHIで切断することにより切り出した5’LTR−CMV promoter−packaging signalを挿入しpBabeCLXIPを得た(図3)。
pBabeXIHからSspIおよびBamHIで切断することにより5’−LTR−packaging signalを除いた。ここへpCLXSN(IMGENEX San Diego,CA.catalog#10041P)からSspIおよびBamHIで切断することにより切り出した5’LTR−CMV promoter−packaging signalを挿入しpBabeCLXIHを得た(図4)。
pBabeCLXIHから制限酵素BglIIで切断することによりIRES−hyg(r)を除き、末端をKlenow fragmentにより平滑化した。ここへpIRES2−EGFP(Clontech,Palo Alto,CA.catalog #6029−1)から制限酵素HincIIで切断することによりIRES−EGFPを切り出したものを挿入しpBabeCLXI2Gを得た(図5)。
pBabeCLXIHからBglIIで切断することによりIRES−hyg(r)を除き、末端をKlenow fragmentにより平滑化した。ここへpIRES2−neo2(Clontech,Palo Alto,CA.catalog#6938−1)からNsiIおよびXbaIで切断することによりIRES−neo(r)を切り出し、T4 polymeraseにより末端を平滑化したものを挿入しpBabeCLXaINを得た(図6)。
[実施例3]hERG遺伝子導入用レトロウイルスベクタープラスミドの調製
実施例2で得たpBabeCLXaINを制限酵素HpaIで切断した。ここへ実施例1で得たpREP7HERGからKpnIおよびHindIIIで切断することによりhERG遺伝子を切り出し、T4 polymeraseにより末端を平滑化したものを挿入しpBabeCL(hERG)aINを得た(図7)。
実施例2で得たpBabeCLXIHをHpaIで切断した。ここへ実施例1で得たpREP7HERGからKpnIおよびHindIIIで切断することによりhERG遺伝子を切り出し、T4 polymeraseにより末端を平滑化したものを挿入しpBabeCL(hERG)IHを得た(図8)。
実施例2で得たpBabeCLXIPをHpaIで切断した。ここへ実施例1で得たpREP7HERGからKpnIおよびHindIIIで切断することによりhERG遺伝子を切り出し、T4 polymeraseにより末端を平滑化したものを挿入しpBabeCL(hERG)IPを得た(図9)。
実施例2で得たpBabeCLXI2GをHpaIで切断した。ここへ実施例1で得たpREP7HERGからKpnIおよびHindIIIで切断することによりhERG遺伝子を切り出し、T4 polymeraseにより末端を平滑化したものを挿入しpBabeCL(hERG)I2Gを得た(図10)。
実施例2で得たpBabeCLXIHをBglIIで切断し、IRES−hyg(r)を除き、末端をKlenow fragmentで平滑化した。ここへ実施例1で得たpREP7HERGからKpnIおよびHindIIIで切断することによりhERG遺伝子を切り出し、T4polymeraseにより末端を平滑化したものを挿入しpBabeCL(hERG)を得た(図11)。
[実施例4]レンチウイルスベクタープラスミドの調製
マルチクローニング部位(multicloning site)挿入のために配列番号:9および10からなるoligo DNAを作製した(日本バイオサービス(埼玉県朝霞市)に依頼)。oligo DNAの塩基配列を以下に示す。


配列番号9及び10のoligo DNAを、98℃、5分間の熱変性後に緩やかに室温に戻すことでアニーリングさせた。
pLenti6/V5−GW/lacZ(Invitrogen,Carlsbad,CA.catalog K4955−10)からBamHIおよびKpnIで切断することによりlacZ−V5 epitope−SV40 early promoter−EM7 promoter−blasticidin(r)を除き、ここへ上記oligo DNAを挿入しpLenti6/MCSを得た(図12)。
central polypurine tract(cPPT)を導入し遺伝子導入能力を上昇させるために報告されている方法を参考にして、配列番号:11および12に示すoligo DNAプライマーを作製した(Zennou,V.Z.et al.Cell vol.101 173−185(2000))(日本バイオサービス(埼玉県朝霞市)に依頼)。

配列番号:11および12からなるoligo DNAをプライマーとして、pLP1(ViraPower Lentiviral Gateway Expression kit,Invitrogen社、K4960−00)プラスミドを鋳型として、Expand High Fidelity PCR System(Roche Diagnostics,Mannheim,Germany)を用い、(95℃30秒−61℃30秒−68℃1分)を30回繰り返すことによりPCR反応を行った。その結果、約0.2kbのDNA断片を得た。これらのDNA断片は、pT7Blue(Novagen,Darmstadt,Germany,catalog 69967−3)に挿入し、cPPT−pT7Blueを得た。このDNA断片の塩基配列は、ABI prism DNA sequencing kit(Perkin−Elmer Applied Biosystems,Foster City,CA)により配列が報告されているcPPT(Zennou,V.Z.et al.Cell vol.101 173−185(2000))と同一であることを確認した。
pBluescript(Staratagene)を制限酵素ClaIおよびBamHIで切断し、ここへcPPTを含むClaIおよびHindIIIで切断したcPPT−pT7Blue並びにCMV promoterを含むBamHIおよびHindIIIで切断したpLenti6/MCSを挿入しcPPT−CMV−pBSを得た。
pLenti6/MCSをClaIおよびBamHIで切断してCMV promoterを除き、ここへcPPT−CMV promoterを含むClaIおよびBamHIで切断したcPPT−CMV−pBSを挿入しpLenti6/cPPT−MCSを得た。pLenti6/cPPT−MCSをKpnIで切断し、T4 polymeraseにより末端を平滑化した。ここへpIRES2−EGFP(Clontech,catalog 6029−1)からHincIIによりIRES−EGFP断片を切り出したものを挿入しpLenti6/cPPT−XI2Gを得た(図13)。
[実施例5]hERG遺伝子導入用レンチウイルスベクタープラスミドの調製
実施例4で得たpLenti6/cPPT−XI2GをEcoRIおよびSalIで切断した。ここへ実施例3で得たpBabeCL(hERG)I2GからEcoRIおよびSalIによりhERG遺伝子を切り出し、T4 polymeraseにより末端を平滑化したものを挿入しpLenti6/cPPT−(hERG)I2Gを得た(図14)。
[実施例6]ベクタープラスミドの調製
実施例1で得たpREP7HERGからKpnIおよびHindIIIで切断することによりhERG遺伝子を切り出し、KpnIおよびHindIIIで開環したpZeoSV2(Invitrogen社)に挿入しpZeohERGを得た。
pZeohERGをdam−大腸菌株SCS110に導入し、大量培養に続いてプラスミドを調製した後、当該プラスミドから得られたSV40 promoter−hERG遺伝子(ClaI/fill−in−HindIII)を、pcDNA3.1 NeoからCMV promoterを除いたDNA断片(NurI−HindIIIで開環した物)に導入しpSV hERG−Neoを作製した。発現ベクターを導入した大腸菌の大量培養は定法にて行い、ベクターの精製は、EndoFree Plasmid Kit(Qiagen社製)を用いて行った。
[実施例7]hERG遺伝子導入用レトロウイルスベクターの調製
2×10の293−EBNA細胞(Invitrogen,catalog R620−07)を10cmコラーゲンコートディッシュ(IWAKI 東京 catalog4020−010)にDMEM(Sigma catalog D5796)−10% fetal bovine serum(FCS)−penicillin/streptomycin(PS)(以下、EBNA培養液とする)10mlを用いて培養した。翌日、pV−gp(pVPack−GP(Stratagene catalog#217566)からNsiIおよびXbaIで切断することによりIRES−hisDを除きT4polymeraseによる平滑化後、自己環化したもの)、pVPack−VSV−G(Stratagene,catalog#217567)、および実施例3で得たpBabeCL(hERG)I2G、それぞれ3.3μgをリポフェクション試薬であるTransIT(Panvera,Madison,WI.catalog MIR2300)を用いてトランスフェクションした。その6−12時間後にEBNA培養液を交換し、37℃で培養を続けた。
トランスフェクション2日後に培養液を回収し、1,200gで10分間遠心した。その上清を0.45μmのフィルター(Millipore,MILLEX−HV,catalog#SLHV025LS)でろ過したものを非濃縮レトロウイルスベクターとして以後の実験に供した。
[実施例8]hERG遺伝子導入用レンチウイルスベクターの調製
4×10の293−EBNA細胞(Invitrogen,catalog R620−07)を10cmコラーゲンコートディッシュ(IWAKI 東京 catalog4020−010)にDMEM(Sigma catalog D5796)−10% fetal bovine serum(FCS)−penicillin/streptomycin(PS)(以下、EBNA培養液とする)10mlを用いて培養した。翌日、pLP1,pLP2,pLP/VSVG(いずれもInvitrogen,catalogK4970−10)、および実施例5で得たヒトhERG遺伝子導入用レンチウイルスベクタープラスミド、それぞれ2.5μgをリポフェクション試薬であるTransIT(Panvera,Madison,WI.catalog MIR2300)を用いてトランスフェクションした。その6−12時間後にEBNA培養液を交換し、37℃で培養を続けた。
トランスフェクション2日後に培養液を回収し、1,200gで10分間遠心した。その上清を0.45μmのフィルター(Millipore,MILLEX−HV,catalog#SLHV025LS)でろ過したものを非濃縮レンチウイルスベクターとして以後の実験に供した。
[実施例9]レトロウイルスベクターの濃縮
実施例7で調製したウイルスベクターの濃縮を以下のように行った。
超遠心用チューブ50Ultra−Clear Tubes(Beckman,Palo Alto,CA.catalog344058)を70%エタノールで消毒後に蒸留水ですすぎ、ここへ非濃縮ウイルスベクター約35mlを入れた。これを超遠心ローターSW28(Beckman)に入れ、超遠心装置XL−90(Beckman)を使って19,500rpm100分間の遠心操作を行った。遠心後、上清を捨てたチューブを氷に入れて放置した。一時間後、チューブ壁面に残った培養液約100μl程度の濃縮ウイルスベクター溶液が得られた。必要に応じて、濃縮ウイルスベクター溶液を集め再度超遠心操作を行って再濃縮ウイルスベクター溶液を調製した。
[実施例10]レンチウイルスベクターの濃縮
実施例8で調製したウイルスベクターの濃縮を以下のように行った。超遠心用チューブ50Ultra−Clear Tubes(Beckman,Palo Alto,CA.catalog344058)を70%エタノールで消毒後に蒸留水ですすぎ、ここへ非濃縮ウイルスベクター約35mlを入れた。これを超遠心ローターSW28(Beckman)に入れ、超遠心装置XL−90(Beckman)を使って19,500rpm 100分間の遠心操作を行った。遠心後、上清を捨てたチューブを氷に入れて放置した。一時間後、チューブ壁面に残った培養液約100μl程度の濃縮ウイルスベクター溶液が得られた。必要に応じて、濃縮ウイルスベクター溶液を集め再度超遠心操作を行って再濃縮ウイルスベクター溶液を調製した。
[実施例11]hERG遺伝子導入用レトロウイルスベクターによるhERG発現細胞の調製
実施例7で調製したウイルスベクターによる細胞へのhERG遺伝子導入を以下のように行った。
3×10のChinese Hamster Ovary(CHO)−K1細胞(理化学研究所ジーンバンク細胞開発銀行)を96well plate(Becton−Dickinson,Franklin Lakes,NJ.catalog35−3075)にDMEM/F12(Invitrogen corp.catalog11320−038)−10% fetal bovine serum(FCS)−penicillin/streptomycin(PS)(以下、CHO培養液とする)100μlを用いて培養した。翌日、実施例7で調製したウイルスベクター100μlを、培養液で調製したpolybrene(最終濃度8μg/ml)(Sigma H9268 別名hexadimethrine bromide)とともにCHO細胞に加えた。その翌日、ウイルスベクターを含む培養液をCHO培養液200μlと交換し、さらに、3日間培養した。ここで得られたhERG遺伝子導入細胞は、細胞集団としておおよその性質を知るために以下の実験に供すると共に、必要に応じて実施例18に示す細胞クローニングを行って以下の実験に供した。
[実施例12]hERG遺伝子導入用レンチウイルスベクターによるhERG発現細胞の調製
実施例8で調製したウイルスベクターによる細胞へのhERG遺伝子導入を以下のように行った。
3×10のChinese Hamster Ovary(CHO)−K1細胞(理化学研究所ジーンバンク細胞開発銀行)を96well plate(Becton−Dickinson,Franklin Lakes,NJ.catalog35−3075)にDMEM/F12(Invitrogen corp.catalog11320−033)−10% fetal bovine serum(FCS)−penicillin/streptomycin(PS)(以下、CHO培養液とする)100μlを用いて培養した。翌日、実施例8で調製したウイルスベクター100μlを、培養液で調製したpolybrene(最終濃度8μg/ml)(Sigma H9268 別名hexadimethrine bromide)とともにCHO細胞に加えた。その翌日、ウイルスベクターを含む培養液をCHO培養液200μlと交換し、さらに、3日間培養した。ここで得られたhERG遺伝子導入細胞は、細胞集団としておおよその性質を知るために以下の実験に供すると共に、必要に応じて実施例17、および実施例18に示す細胞クローニングを行って以下の実験に供した。
[実施例13]hERG遺伝子導入用レトロウイルスベクターによるhERG発現細胞の調製−2
実施例9で遠心濃縮したウイルスベクターによる細胞へのhERG遺伝子導入を以下のように行った。
3×10のChinese Hamster Ovary(CHO)−K1細胞(理化学研究所ジーンバンク細胞開発銀行)を96well plate(Becton−Dickinson,Franklin Lakes,NJ.catalog35−3075)にDMEM/F12(Invitrogen corp.catalog11320−033)−10% fetal bovine serum(FCS)−penicillin/streptomycin(PS)(以下、CHO培養液とする)100μlを用いて培養した。翌日、実施例9で遠心濃縮したウイルスベクター100μlを、培養液で調製したpolybrene(最終濃度8μg/ml)(Sigma H9268 別名hexadimethrine bromide)とともにCHO細胞に加えた。その翌日、ウイルスベクターを含む培養液をCHO培養液200μlと交換し、さらに、3日間培養した。ここで得られたhERG遺伝子導入細胞は、細胞集団としておおよその性質を知るために以下の実験に供すると共に、必要に応じて実施例18に示す細胞クローニングを行って以下の実験に供した。
[実施例14]hERG遺伝子導入用レトロウイルスベクターによるhERG発現細胞の調製−3
実施例18に示す細胞クローニングを行い、適切なhERG電流が記録できた細胞株に対して、実施例9で遠心濃縮したウイルスベクターによる細胞へのhERG遺伝子導入を以下のように行った。
実施例13で得られたhERG発現細胞株(3×10)を96well plate(Becton−Dickinson,Franklin Lakes,NJ.catalog35−3075)にDMEM/F12(Invitrogen corp.catalog11320−033)−10% fetal bovine serum(FCS)−penicillin/streptomycin(PS)(以下、CHO培養液とする)100μlを用いて培養した。翌日、実施例9で遠心濃縮したウイルスベクター100μlを最終濃度8μg/mlとなるように、培養液で調製したpolybrene(最終濃度8μg/ml)(Sigma H9268 別名hexadimethrine bromide)とともにCHO細胞に加えた。その翌日、ウイルスベクターを含む培養液をCHO培養液200μlと交換し、さらに、3日間培養した。ここで得られたhERG遺伝子導入細胞は、細胞集団としておおよその性質を知るために以下の実験に供すると共に、必要に応じて実施例18に示す細胞クローニングを行って以下の実験に供した。
[実施例15]hERG遺伝子導入用レンチウイルスベクターによるhERG発現細胞の調製−2
実施例10で調製したウイルスベクターによる細胞へのhERG遺伝子導入を以下のように行った。
3×10のChinese Hamster Ovary(CHO)−K1細胞(理化学研究所ジーンバンク細胞開発銀行)を96well plate(Becton−Dickinson,Franklin Lakes,NJ.catalog35−3075)にDMEM/F12(Invitrogen corp.catalog11320−033)−10% fetal bovine serum(FCS)−penicillin/streptomycin(PS)(以下、CHO培養液とする)100μlを用いて培養した。翌日、実施例10で遠心濃縮したウイルスベクター100μlを、培養液で調製したpolybrene(最終濃度8μg/ml)(Sigma H9268 別名hexadimethrine bromide)とともにCHO細胞に加えた。その翌日、ウイルスベクターを含む培養液をCHO培養液200μlと交換し、さらに、3日間培養した。ここで得られたhERG遺伝子導入細胞は、細胞集団としておおよその性質を知るために以下の実験に供すると共に、必要に応じて実施例17および実施例18に示す細胞クローニングを行って以下の実験に供した。
[実施例16]リポフェクション法を用いたhERG遺伝子導入用ベクターによるhERG発現細胞の調製
CHO−K1細胞(理研ジーンバンク・細胞開発銀行)へのhERG遺伝子導入用ベクターの導入をEffectene Transfection Reagent Handbookに従って以下のように行った。
直径6cm培養シャーレに2日間培養したCHO−K1細胞に、TE溶液に溶解した約1μgのhERG発現ベクター(SV−hERG−neo)と8μLのEnhancerを最終容量150μLになるように混和し、約1秒間攪拌した後、室温で2−5分間静置した。次に、Effectene Transfection Reagentを25μL加え約10秒間攪拌した後、室温で5−10分間静置し、培地を1mL加えた。この溶液を、細胞をPBS(−)で洗浄し、4mLの培地を加えた培養シャーレに添加し、37℃、5%COインキュベーターで培養した。翌日、トリプシンにて細胞を培養シャーレから剥がし、500μg力価のG418を含む培地に懸濁した。数日間培養した後、実施例18に示す細胞クローニングを行って以下の実験に供した。
[実施例17]GFP発現を指標としたFACSによるhERG高発現細胞の分離濃縮
実施例12または実施例15で調製したhERG導入細胞の中からGFP発現を指標としFACSAria(Becton Dickinson社)を用いて、より高発現の細胞を分離濃縮した。10cm dishに調製した細胞をtrypsinで剥がし、FACSAriaの使用法に従ってGFPが高発現している細胞のみを分離した。分離後の細胞を解析したところGFP高発現の細胞が濃縮されていることが示された。得られた細胞は実施例18に示す細胞クローニングを行って以下の実験に供した。
[実施例18]hERGチャネル発現細胞のクローニング
細胞のクローニングは限外希釈法にて行った。96well培養プレートの1wellあたり0.3個の細胞になるように細胞懸濁液を調整し、各wellに200μLずつ分注した。約2週間後、顕微鏡観察下で、1つのwellに1つの細胞集団(コロニー)が観察されたwellの細胞を24well培養プレートに移し継続して培養した。また、その後F75培養フラスコまで規模を拡張し、ウェスタンブロット法によるタンパク発現の確認と電気生理学的手法によるhERGチャネルの機能的発現によりhERGチャネル発現細胞株を選別した(実施例19および20)。
[実施例19]ウェスタンブロット法によるhERGチャネルの検出
本試験は、CHO−K1細胞、リポフェクション法でhERG遺伝子を導入した細胞株(実施例16)およびレトロウイルスでhERG遺伝子を導入した細胞株(実施例14)を用いて行った。6穴プレートにて培養したそれぞれの細胞を、氷冷PBSにて洗浄し、Protease Inhibitor Cocktail(SIGMA−Aldrich Co.)を添加したLysis Buffer(150mmol/L NaCl、50mmol/L Tris−HCl(pH7.5)、5mmol/L EDTA、0.5% NonidetR P−40、0.5% Deoxycholic Acid Sodium)を加え、セルスクレイパーで剥がした。剥がした細胞をエッペンドルフチューブに回収し、4℃にて10,000rpm(遠心機:MRX−152、ローター:TMA−6、トミー精工)で3分間遠心した後、上清をサンプルとして回収した。サンプルのタンパク質濃度は、BCA Protein Assay Kit(Pierce Biotechnology Inc.、Rockford、IL、USA)を用いて測定した。
タンパク質の電気泳動、転写にはNOVEX(Invitrogen)の装置を使用した。回収したサンプルに、NuPAGE LDS Sample Buffer(Invitrogen)およびNuPAGE Sample Reducing Agent(Invitrogen)を適量加え、95℃にて3分間加熱した。NuPAGE 3−8% Tris−Acetate Gel(Invitrogen)にサンプルをアプライし、NuPAGE Tris−Acetate Running Buffer(Invitrogen)を用いて120Vで約一時間電気泳動を行った。電気泳動を終えたゲルを、Immun−Blot PVDF Membrane(Bio−Rad Laboratories、Inc.)とともにXcell SurelockTM(Invitrogen)にセットし、NuPAGE Transfer Buffer(Invitrogen)を用いて30Vで約一時間、転写を行った。
一次抗体にはAnti−HERG(Alomone Labs)を、二次抗体にはAnti Rabbit IgG HRP−linked Antibody(Cell Signaling Technology、Inc.)を用いた。一次抗体反応後と二次抗体反応後には、0.1% Tween20/PBSにてPVDF Membraneの洗浄を行った。結合抗体の検出には、ECL detection kit(Amersham Biosciences Corp.)を用いた。
その結果、normal CHO−K1細胞にはhERGタンパクに相当する分子量約150kDのバンドは全く検出されなかった(図15、レーン1)。また、リポフェクション法でhERG遺伝子を導入し樹立した細胞株M3細胞には、わずかにhERGタンパクのバンドが検出された(図15、レーン2)。それに対して、レトロウイルスでhERG遺伝子を導入した細胞株には明らかに多量のhERGタンパクが検出された(図15、レーン3)。
[実施例20]全自動ハイスループットパッチクランプシステムによるhERG電流の測定および電流分布比較
リポフェクション法でhERG遺伝子を導入した細胞株(実施例16)およびレトロウイルスでhERG遺伝子を導入した細胞(実施例13)および細胞株(実施例14)を用いて行った。hERGチャネル発現細胞をF75培養フラスコで培養した。培養した後、EDTAを含むPBS(−)溶液を用いてF75培養フラスコから剥がし、適当な濃度(1.0〜1.5×10cell/ml)になるように細胞をPBS溶液に懸濁した。その細胞懸濁液をIonWorks HTTMシステムの細胞用リザーバーに移した。hERG電流測定の手順としては、測定用プレート(PatchPlateTM、Molecular Devices Corp.)の各ウェルにPBSを分注し、次に細胞浮遊液を分注し、ウェルの中央にある穴に細胞がシールを形成するまで放置した。シール形成後、アンフォテリシンBを含む溶液(KCl 140mM、MgCl 1mM、EGTA 1mM、HEPES 20mM、pH7.25−7.3)を灌流し、穿孔パッチを形成させた。穿孔パッチ形成後、刺激電極を介した膜電位固定法により細胞に電位変化を与え、hERG電流を誘発させ、hERG電流を記録した。
hERG電流は、電位を−80mVから+20mVへ1秒間、続いて−50mVへ1秒間変化させ誘発させた。hERG電流の大きさは、−50mVに電位を戻した際に観察される末尾電流のピーク値を用いた。リポフェクション法でhERG遺伝子を導入した細胞株およびレトロウイルスでhERG遺伝子を導入した細胞株から記録されたhERG電流の分布を図16および表1に示す。
リポフェクション法でhERG遺伝子を導入し樹立した細胞株(実施例16)のhERG電流分布(表1、図16のA)よりも、レトロウイルスを用いてhERG遺伝子を導入し樹立した細胞(実施例13)の電流分布は大きく(表1、図16のB)、また細胞株(実施例14)の電流分布は明らかに大きかった(表1、図16のC)。

表1において、Aは、リポフェクション法によりhERG遺伝子を導入した細胞株、BはレトロウイルスによりhERG遺伝子を導入した細胞、CはレトロウイルスによりhERG遺伝子を導入した細胞株のhERG電流分布を表わす。
さらに、化合物のhERG電流阻害活性を、より安定的に評価するためにカットオフ値を設定し、各hERG発現細胞のhERG電流について解析した。カットオフ値としては、1)+20mVに脱分極したときの電流値に対する末尾電流のピーク値の比が0.8未満、2)シール抵抗が30MΩ末満の2項目を設定し、それらの条件を満たすデータについて解析した。
カットオフ値を設定し、解析した結果を図17および表2に示す。
リポフェクション法でhERG遺伝子を導入し樹立した細胞株(実施例16)のhERG電流分布(表2、図17のA)よりも、レトロウイルスを用いてhERG遺伝子を導入し樹立した細胞(実施例13)の電流分布は大きく(表2、図17のB)、また細胞株(実施例14)の電流分布は明らかに大きかった(表2、図17のC)。さらに、一年間継続培養した細胞の電流は安定していた(表2、図17のD)。また、レンチウイルスを用いてhERG遺伝子を導入し樹立した細胞株(実施例18)の電流分布もレトロウイルスを用いて樹立した細胞株と同様に明らかに大きく、このことは一年間継続培養してもhERGチャネルが安定して発現していることを意味していた(表2、図17のE)。

表2において、Aは、リポフェクション法によりhERG遺伝子を導入した細胞株、BはレトロウイルスによりhERG遺伝子を導入した細胞、CはレトロウイルスによりhERG遺伝子を導入した細胞株、DはレトロウイルスによりhERG遺伝子を導入した細胞株を一年間継続培養した細胞株、EはレンチウイルスによりhERG遺伝子を導入した細胞株のhERG電流分布を表わす。
[実施例21]全自動ハイスループットパッチクランプシステムによる被検化合物のhERGチャネル阻害活性の評価
リポフェクション法でhERG遺伝子を導入した細胞株(実施例16)およびレトロウイルスでhERG遺伝子を導入した細胞株(実施例14)を用いて行った。hERG電流の測定は実施例20と同様に行った。また、被検化合物または既知化合物のhERGチャネルに対する阻害活性は、被検化合物添加前に記録された末尾電流のピーク値を100%としたときの、各濃度の被検物質を添加した後の末尾電流のピーク値の割合から抑制率を算出した。被検化合物のそれぞれの濃度における抑制率よりhERG電流に対する阻害活性値(IC50値)を算出した。
各薬剤の評価濃度は、アステミゾール、E−4031、リスペリドン、ベラパミルが0.016,0.048,0.014,0.041,0.123,0.37,1.11,3.33μM、キニジンは0.048,0.014,0.041,0.123,0.37,1.11,3.33,10μMとした。また、薬剤は約4分間作用させた。
その結果、リポフェクション法でhERG遺伝子を導入した細胞株では、殆どのデータポイントが欠落していたが、レトロウイルスでhERG遺伝子を導入した細胞株では、全てのデータを取得でき、各薬剤のIC50値(0.083、0.044、0.536、0.720、0.385μM)も求めることが出来た(図18)。
[実施例22]FLIPR Membrane Potential Assay Kitを用いた膜電位変化の測定
レトロウイルスでhERG遺伝子を導入した細胞株(実施例14)を用いて行った。また、FLIPR Membrane Potential Assay Kit(Molecular Devices)、FDSS6000(浜松ホトニクス社)を用いた。hERGチャネル発現細胞を、測定二日前にBiocoat Poly−D−Lysine 384−Well Black/Clear Plate(BECKTON DICKINSON)に蒔いた。細胞溶液は1.2×10cells/mlの濃度に調製し、1ウェル当たり25μlとした。FLIPR Membrane Potential Assay KitのComponent Aを測定用緩衝液(130mM NaCl、5mM KCl、1mM MgCl、1mM CaCl、24mM Glucose、10mM HEPES、(最終pH約7.25))に溶解し、1ウェル当たり25μl加えた。ComponentAを添加してから約1時間後、FDSS6000を用いて膜電位変化の測定を行った。測定プログラムは、被検物質添加前に10回、添加後に50回、6秒毎とした。測定は室温で行った。hERG阻害活性は、被検物質添加後5分間で変化した蛍光強度から算出した。陽性対照として、E4031、Dofetillideを用いた。
結果を図19に示す。KCl添加によって、膜電位が脱分極したことを意味する蛍光強度の変化が観察された。また、hERG阻害剤であるE4031およびDofetillideによっても同様の膜電位変化が見られ、その変化は濃度依存的であった。
[実施例23]古典的パッチクランプ法によるhERG電流の記録
古典的パッチクランプ法によるhERG電流の記録は、本発明のhERG発現細胞を用いて行った。また、hERG電流の測定を論文[Zhou,Z et al,Biophysical Journal,74,230−241(1998)]を参考に以下のように行った。
ポリリジンをコーティングしたガラスプレート上に細胞を蒔き、2〜4日間培養した。実験時に細胞を蒔いたガラスプレートを電流測定用バスに移動した。hERG電流は、ホールセルパッチクランプ法の膜電位固定法にて観察した。hERG電流の記録用の溶液としては、細胞外灌流溶液(NaCl 137mM、KCl 4mM、MgCl 1mM、CaCl 1.8mM、glucose 10mM、HEPES 10mM pH7.4)および電極内溶液(KCl 130mM、MgCl 1mM、Mg−ATP 5mM、EGTA 5mM、HEPES 10mM、pH7.2)を用いた。hERG電流の測定には電流増幅装置(Axon Instruments)を用い、電流の記録および解析にはpCLAMPソフトウェア(Axon Instruments)を使用した。hERG電流は、電位を−80mVから+20mVへ5秒間、そして−50mVへ4秒間変化させ、この電位変化を20秒間隔で細胞に与え誘発した。また、hERG電流の大きさには、−50mVに電位を戻した際に観察される末尾電流のピーク値を用いた。
【産業上の利用可能性】
本発明により、薬剤研究開発でのhERGチャネル阻害に基づく副作用を予測するための発現レベルの著しく高いhERGチャネル発現細胞の樹立法を確立し、それにより高感度で処理能力の高い評価を可能とした。
本発明により、同時に効率よくhERGチャネルの高発現細胞を得られることを利用して、多様な細胞種に対してhERG遺伝子を高レベルで発現させることにより、各細胞種間で内在性のイオンチャンネルの影響を比較することで、薬剤研究開発における副作用予測を行う上で最も適切な細胞種を選択することを可能としている。また、本発明のhERGチャネル発現細胞またはhERGチャネル発現細胞集団は、長期間安定的にhERGチャネルを発現することができる。
【配列表フリーテキスト】
配列番号3:プライマー
配列番号4:プライマー
配列番号5:プライマー
配列番号6:プライマー
配列番号7:プライマー
配列番号8:プライマー
配列番号9:oligo DNA
配列番号10:oligo DNA
配列番号11:プライマー
配列番号12:プライマー
本明細書において引用した刊行物は、全体を通して本明細書に組み込むものとする。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いたパッチクランプ法により測定されるhERG電流が0.6nA以上のチャネルを発現することができる細胞を、hERG遺伝子が導入された細胞全体の40%以上含む、hERGチャネル発現細胞集団。
【請求項2】
hERG遺伝子の導入がウイルスベクターによるものである請求項1記載の細胞集団。
【請求項3】
ウイルスベクターがレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターである請求項2記載の細胞集団。
【請求項4】
hERG電流の細胞全体の平均が0.3nA以上である請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞集団。
【請求項5】
全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いたパッチクランプ法により測定されるhERG電流が1.0nA以上のhERGチャネルを発現することができる細胞。
【請求項6】
hERG遺伝子の導入がウイルスベクターによるものである請求項5記載の細胞。
【請求項7】
ウイルスベクターがレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターである請求項6記載の細胞。
【請求項8】
ウイルスベクターを用いてhERGチャネルを発現させることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の細胞集団または請求項5から7のいずれか1項に記載の細胞を作製する方法。
【請求項9】
ウイルスベクターがレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターである請求項8記載の方法。
【請求項10】
ウイルスベクターがレトロウイルスベクターである請求項8記載の方法。
【請求項11】
ウイルスベクターを超遠心により濃縮する工程を含むことを特徴とする、請求項8から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から4のいずれか1項に記載の細胞集団または請求項5から7のいずれか1項に記載の細胞を用いることを特徴とする、hERG電流の阻害活性を測定する方法。
【請求項13】
全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
請求項8から11のいずれか1項に記載の方法により作製された細胞集団または細胞を用いることを特徴とする、hERG電流の阻害活性を測定する方法。
【請求項15】
全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項16】
請求項1から4のいずれか1項に記載の細胞集団または請求項5から7のいずれか1項に記載の細胞を用いることを特徴とする、hERG電流を変化させ、もしくは変化させない化合物またはその塩のスクリーニング方法。
【請求項17】
全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いることを特徴とする請求項16記載の方法。
【請求項18】
請求項8から11のいずれか1項に記載の方法により作製された細胞集団または細胞を用いることを特徴とする、hERG電流を変化させ、もしくは変化させない化合物またはその塩のスクリーニング方法。
【請求項19】
全自動ハイスループットパッチクランプシステムを用いることを特徴とする請求項18記載の方法。

【図17】
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【図18】
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【図19】
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【国際公開番号】WO2005/047500
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【発行日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515507(P2005−515507)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017441
【国際出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(506137147)エーザイ・アール・アンド・ディー・マネジメント株式会社 (215)
【Fターム(参考)】