説明

pH感受性のブロック共重合体及びこれを用いた高分子ミセル

本発明は、(a)ポリエチレングリコール系の化合物(A)と、(b)ポリ(β−アミノエステル)及びポリ(アミドアミン)よりなる群から選ばれたいずれか1種以上のポリ(アミノ酸)化合物若しくは前記化合物の共重合体(B)とを共重合させることにより得られるpH感受性のブロック共重合体及びこの製造方法を提供する。また、本発明は、pH感受性のブロック共重合体と、前記ブロック共重合体に封入可能な生理活性物質とを含む高分子ミセル型の薬物組成物を提供する。本発明によるブロック共重合体は、pH感受性を有する生分解性ポリ(β−アミノエステル)化合物と親水性のポリエチレングリコール系の化合物とを共重合させることにより得られることから、体内に存在する両親媒性とpHに応じて変化するイオン化特性によりミセル構造を形成することができ、これにより、体内pH変化による標的指向的な薬物担体として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pH感受性の薬物担体用の生分解性ブロック共重合体及びこの製造方法、このブロック共重合体を含む高分子ミセル(micelle)型の薬物組成物に関し、さらに詳しくは、pHに応じて水への溶解特性(電離度)を有するものの、自己集合現象によりミセルが形成できないポリ(β−アミノエステル)化合物と、親水性を示すポリエチレングリコール系の化合物とのブロック共重合体を誘導することにより、自己集合現象によりナノ寸法の高分子ミセル(粒子)が形成可能になることから、薬物担体として応用できるだけでなく、生体内における生分解速度を調節するために、主鎖に、エステル基に代えて、アミド基を有するためにポリ(β−アミノエステル)よりも生分解速度の遅いポリ(アミドアミン)を取り入れることにより、体内のpH変化に応じて標的指向的な薬物送達が行えるだけでなく、生分解速度が調節可能なミセルを形成するpH感受性のブロック共重合体及びこの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミセルとは、通常、両親媒性、例えば、親水性基と疎水性基を併せ持つ低分子量の物質がなす熱力学的に安定で且つ均一な球状の構造を言う。前記ミセル構造を有する化合物に不溶性の薬物を溶かして投入する場合、薬物は、ミセルの内部に存在することになる。この種のミセルは、体内において温度やpH変化に反応して標的指向的な薬物送達が行えるので、薬物担体としての応用可能性が極めて高いものとされている。
【0003】
大韓民国特許出願第10−2001−0035265号では、ポリエチレングリコールと生分解性高分子を用いたミセルの製造について記述されている。これらの物質はいずれも生分解性を有することから、バイオアフィニティを有しているというメリットはあるが、体内の変化、例えば、pHなどの特定の変化に感受性があるものではないため、所望の個所への薬物送達が困難であるという欠点がある。
【0004】
一方、体内のpH環境は、通常、pH7.2〜7.4を示しているが、ガン細胞などの非正常細胞の周辺環境はpH6.0〜7.2と弱酸性を示すことが知られている。近年には、ガン細胞に特定の薬物を送達するために、pH7.2以下において薬物を送達するための研究がなされている。
【特許文献1】大韓民国特許出願第10−2001−0035265号
【特許文献2】米国特許第6103865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
米国特許第6,103,865号では、pH感受性を示す物質であるスルホンアミドを用いた高分子について示しているが、前記スルホンアミドは、pH7.4以下において不溶性となり、pH7.4以上においてはイオン化され、酸性を示す。この場合、ガン細胞に対する標的とは反対の特性を示すので、ガン細胞に対する標的のためには、塩基性を有する化合物が求められると言える。
【0006】
米国特許第2004/0071654A1では、塩基性を示すポリ(β−アミノエステル)の製造について示しているが、前記ポリ(β−アミノエステル)は、ポリ(アミノ酸)の一種として、主鎖にエステル基と3級アミン基を有しており、pHに応じて水への溶解度が変わるイオン化特性を示すというメリットがある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ポリ(アミノ酸)の一種であるポリ(β−アミノエステル)やポリ(アミドアミン)を単体として用いる場合、pH依存性は示すものの、自己集合現象によりミセルを形成できないことに着目し、前記ポリ(β−アミノエステル)若しくはポリ(β−アミノエステル)とポリ(アミドアミン)との混合物に親水性のポリエチレングリコール系の化合物を共重合させてブロック共重合体を形成すると、得られたブロック共重合体が特定のpHにおいて標的送達可能なミセル構造を形成し、結果として、生分解速度の調節された徐放型の薬物送達用の担体として応用可能であるということを見出し、本発明を完成するに至った。また、本発明者らは、ポリ(β−アミノエステル)の高い分解速度により薬物輸送担体としての機能が正常に行えなくなる問題点を解消するために、ポリ(β−アミノ酸)の一種として、主鎖に、エステル基に代えて、アミド基よりなる、分解速度が比較的に遅いポリ(アミドアミン)を共重合させることにより、所望の生分解速度を維持するように調節するのに成功した。
【0008】
そこで、本発明は、ポリ(β−アミノエステル)(PAE)、ポリ(アミドアミン)(PAA)若しくはこれらの共重合体(PAEA)とポリエチレングリコール系の化合物(MPEGA)との重合により得られるブロック共重合体及びこの製造方法、このブロック共重合体を含む高分子ミセル型の薬物組成物を提供することを目的とする。
【0009】
本発明は、(a)ポリエチレングリコール系の化合物(A)と、(b)ポリ(β−アミノエステル)及びポリ(アミドアミン)よりなる群から選ばれたいずれか1種以上のポリ(アミノ酸)化合物若しくは前記化合物の共重合体(B)とを共重合させることにより得られるpH感受性のブロック共重合体及びこれを用いた高分子ミセルの製造方法を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、pH感受性のブロック共重合体と、前記ブロック共重合体に封入可能な生理活性物質とを含む高分子ミセル型の薬物組成物を提供する。
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明は、pH感受性のポリ(アミノ酸)化合物、例えば、ポリ(β−アミノエステル)、ポリ(アミドアミン)若しくはこれらの共重合体と親水性を有するポリエチレングリコール系の化合物とを共重合させることにより、体内pH変化に感受性があるだけでなく、特定のpH領域においてミセル構造が形成可能であり、しかも、形成されたミセルの生体内における生分解速度が調節されたブロック共重合体を提供することを特徴とする。
【0013】
本発明によるpH感受性のミセルは、特定のpH、例えば、体内正常細胞のpH範囲であるpH7.2〜7.4においては安定したミセルを形成し、ガン細胞などの非正常細胞が示すpH7.2以下においては前記ミセル構造が崩壊されることにより、ガン細胞に対して標的指向的な薬物送達用の担体として使用可能である。すなわち、低いpH(pH7.0以下)においては、ポリ(アミノ酸)であるポリ(β−アミノエステル)(PAE)、ポリ(アミドアミン)(PAA)若しくはこれらの共重合体(PAEA)に存在する3級アミンのイオン化度が増加されるので、PAE(若しくはPAA、PAEA)の全体が水溶性に変わってミセルを形成できなくなり、pH7.4においては、PAE(若しくはPAA、PAEA)のイオン化度が低下して疎水性を示すことにより、自己集合によるミセルを形成するのである。
【0014】
また、前記pH感受性のミセルを形成可能なブロック共重合体は、遺伝子送達、薬物送達の分野だけでなく、病気の診断のための物質を非正常細胞に送達することにより、診断イメージングなどの診断用途にも応用可能である。
【0015】
加えて、本発明においては、正常体内の条件と同じpH7.2〜7.4の範囲においてはミセルを形成し、ガン細胞などの非正常条件であるpH7.2以下においてはミセルが崩壊されるようなガン細胞標的指向的なミセルを工夫して適用しているが、前記ブロック共重合体の構成成分、これらのモル比、分子量及び/またはブロック内の官能基を適宜変えることにより、ガン細胞だけでなく、遺伝子変異若しくは他の応用分野に標的指向的なミセルを工夫してこれを有効に応用することができる。
【0016】
さらには、本発明においては、前記pH感受性のブロック共重合体の形成条件、例えば、前述のブロック共重合体の構成成分、これらのモル比、分子量及び/またはブロック内官能基などを種々に調節することにより、pH感受性のブロック共重合体ミセルの生体内の生分解速度を容易に調節することができ、これにより、薬物送達が行われるべき体内の適所に標的指向的に薬物を送達することができる。
【0017】
本発明によりpH感受性のミセルを形成するブロック共重合体の構成成分の一方としては、当業界における周知の親水性を有する生分解性化合物を制限無しに使用することができ、特に、ポリエチレングリコール系の化合物が好適に使用できる。より好ましくは、ポリエチレングリコール系の化合物の末端にアクリレート若しくはメタクリレートなどの単一官能基を有するものであり、この一例としては、分子の末端部がアクリレートで置換された下記一般式1:
【0018】
【化1】

[式中、Rは、水素原子若しくは炭素原子数1〜6のアルキル基であり、このとき、xは、1〜10,000の範囲の自然数である]
の化合物がある。
【0019】
前記アルキル基は、線状若しくは分岐状の低級飽和脂肪族炭化水素を意味するものであり、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、s−ブチル、イソブチル、t−ブチル及びn−ペンチル基などがある。
【0020】
前記ポリエチレングリコール系の化合物の分子量(Mn)には特に制限はないが、500〜5000の範囲であることが好ましい。ポリエチレングリコール系の化合物の分子量(Mn)が前記範囲外である場合、例えば、500未満である場合や5,000を超える場合、最終的に得られるブロック共重合体の分子量が調節し難いだけでなく、前記ブロック共重合体を用いてミセルを形成することが決して容易ではない。すなわち、分子量が500未満である場合、特定のpHにおける親水性ブロックが短過ぎて親水性/疎水性による自己集合が起こらず、結果として、ミセルを形成し難いだけでなく、たとえミセルが形成されるとしても、水に溶解されて崩壊され易い。また、分子量が5,000を超える場合、疎水性であるポリ(アミノ酸)の分子量に比べてブロックが長過ぎて親水性/疎水性のバランスが崩れ、特定のpHにおいてミセルが形成できずに沈殿することがある。
【0021】
本発明によりpH感受性のミセルを形成するブロック共重合体の構成成分の他方としては、疎水性とpH感受性を併せ持つポリ(アミノ酸)化合物がある。この非制限的な例としては、ポリ(β−アミノエステル)(PAE)、ポリ(アミドアミン)(PAA)若しくはこれらの混合共重合体(PAEA)などがある。
【0022】
ポリ(アミノ酸)の一種である前記PAE、PAA、及びPAEAは、体内に存在する3級アミン基によりpHに応じて水への溶解度が異なるイオン化特性を有することにより、上述のように、体内pH変化に応じてミセル構造を形成及び/または崩壊することができる。前記化合物は、当業界における周知の方法により製造可能であり、この一実施例を挙げると、ミカエル反応を通じて二重結合のあるビスアクリレート化合物若しくはビスアクリルアミド化合物にアミン系の化合物を重合させて、ポリ(アミノ酸)化合物を得ることができる。
【0023】
このときに用いられるビスアクリレート化合物は、下記式2:
【0024】
【化2】

[式中、Rは、炭素原子数1〜30のアルキル基である]
で表わすことができ、この非制限的な例としては、エチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールエトキシレートジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールプロポキシレートジアクリレート、3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピオネートジアクリレート、1,7−ヘプタンジオールジアクリレート、1,8−オクタンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート若しくはこれらの混合物などがある。
【0025】
ビスアクリルアミド系の化合物は、下記一般式3:
【0026】
【化3】

[式中、Rは、炭素原子数1〜20のアルキル基である]
で表わすことができる。このとき、ジアクリルアミドの非制限的な例としては、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(MDA)、N,N’−エチレンビスアクリルアミド若しくはこれらの混合物などがある。前記ビスアクリルアミド系の化合物と、アミン系の化合物、例えば4−アミノメチルピペリジン(AMPD)、N−メチルエチレンジアミン(MEDA)、または1−(2−アミノエチル)ピペリジン(AEPZ)とを、当業界における通常の方法、例えばミカエル反応により反応させ、ポリ(アミノ酸)を製造することが可能である。
【0027】
また、アミン系の化合物は、アミン基を有するものである限り、制限なしに使用可能であるが、特に、下記一般式4:
【0028】
【化4】

で表わされる1級アミン、下記一般式5:
【0029】
【化5】

[式中、R及びRは、炭素原子数1〜20のアルキル基である]
で表わされる2級アミン含有のジアミン化合物若しくはこれらの混合物などが好適に使用可能である。
【0030】
前記1級アミン化合物の非制限的な例としては、3−メチル−4−(3−メチルフェニル)ピペラジン、4−(エトキシカルボニルメチル)ピペラジン、4−(フェニルメチル)ピペラジン、4−(1−フェニルエチル)ピペラジン、4−(1,1−ジメトキシカルボニル)ピペラジン、4−(2−(ビス−(2−プロペニル)アミノ)エチル)ピペラジン、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、2−ピペリジン−1−エチルアミン、C−アジリジン−1−イル−メチルアミン、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、4−(アミノメチル)ピペラジン、N−メチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、N−ヘキシルエチレンジアミン、ピコラミン(pycoliamine)、アデニンなどがあり、前記2級アミン含有のジアミン化合物の非制限的な例としては、ピペラジン、ピペリジン、ピロリジン、3,3−ジメチルピペリジン、4,4’−トリメチレンジピペリジン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、イミダゾリジン若しくはジアゼピンなどがある。
【0031】
pH感受性を示すポリ(アミノ酸)、例えば、PAE、PAA、及びPAEAの製造に際し、前記ビスアクリレート化合物若しくはビスアクリルアミド化合物とアミン系の化合物との反応モル比は、1:0.5〜2.0の範囲であることが好ましい。前記アミン系の化合物のモル比が0.5未満であるか、あるいは、2.0を超える場合、重合される高分子の分子量が1000以下となるためにミセルを形成し難くなる。
【0032】
前述の如き親水性ポリエチレングリコール系の化合物とポリ(アミノ酸)との共重合により得られる本発明によるpH感受性のブロック共重合体は、下記一般式6、7、若しくは8:
【0033】
【化6】

【化7】

【化8】

[式中、
Rは、水素原子若しくは炭素原子数1〜6のアルキル基であり、このとき、xは、1〜10,000の範囲の自然数であり、
及びRは、炭素原子数1〜20のアルキル基であり、
は、炭素原子数1〜30のアルキル基であり、
は、炭素原子数1〜20のアルキル基であり、
yは、1〜10,000の範囲の自然数である]
で表わすことができる。
【0034】
前記一般式6、7若しくは8で表わされるブロック共重合体は、上述の両親媒性とpH感受性によりpH変化に応じてミセルを形成したり崩壊したりでき、好ましくは、pHが7.0〜7.4の範囲である場合にはミセルを形成し、pHが6.5〜7.0の範囲である場合にはミセルが崩壊されることになる。特に、本発明によるブロック共重合体は、pH±0.2範囲内において優れた感受性を示すというメリットを有するので、体内pH変化による感受性が求められるような用途、例えば、薬物送達用の担体若しくは診断用途などにおいて満足のいく結果を導き出すことができる。
【0035】
本発明によるブロック共重合体は、pH感受性を維持し、且つ、ミセル形成物性を維持する限り、前述の親水性ポリエチレングリコール系の化合物とポリ(アミノ酸)化合物の他に、当業界における通常の単位体をさらに含むことができ、これもまた本発明の範疇に属する。
【0036】
前記ブロック共重合体の分子量範囲には特に制限はないが、1,000〜20,000の範囲であることが好ましい。分子量が1,000未満である場合、特定のpHにおいてブロック共重合体ミセルを形成し難いだけでなく、たとえミセルが形成されるとしても、水に溶解されて崩壊され易しい。また、分子量が20,000を超える場合、親水性/疎水性のバランスが崩れて、特定のpHにおいてミセルが形成できずに沈殿することがある。
【0037】
本発明によるpH感受性のブロック共重合体中のポリエチレングリコール系のブロック(A)の含量には特に制限がないが、5〜95重量部であることが好適であり、好ましくは、10〜40重量部である。ポリエチレングリコール系のブロックの含量が5重量部未満である場合、前記ブロック共重合体がミセルを形成できずに沈殿することがあり、95重量部を超える場合、ミセルの内部をなすブロックが小さ過ぎてミセルを形成できず、溶解されたままで存在してしまう。さらに、前記ブロック共重合体は、ポリエチレングリコール系の化合物とポリ(アミノ酸)、例えば、PAE、PAA、若しくはPAEAとの反応モル比を調節することにより、AB型のジブロック共重合体、ABA若しくはBAB型のトリブロック共重合体、若しくはそれ以上の種々のブロック状を形成することができる。
【0038】
本発明によるpH感受性のブロック共重合体は、当業者における通常の方法に従い製造可能であり、この実施例を挙げると、下記の反応式1,2若しくは3のルートを経て合成可能である。
【0039】
【化9】

【0040】
前記反応式1で示される製造方法の一実施例を挙げると、アクリレート末端基を有するポリエチレングリコール(MPEG−A)、1級アミン及びビスアクリレートを用い、当業者における周知の共重合反応を行う。このとき、1級アミンとビスアクリレートは、ミカエル付加反応によりポリ(β−アミノエステル)を形成し、形成されたポリ(β−アミノエステル)を、末端がアクリレート官能基を有するポリエチレングリコール系の化合物と共重合させて前記一般式6で表わされるブロック共重合体を得ることができる。
【0041】
【化10】

【0042】
前記反応式2で示される製造方法の一実施例を挙げると、アクリレート末端基を有するポリエチレングリコール(MPEG−A)、2級アミン含有のジアミン化合物及びビスアクリレートを用いて前記一般式7で表わされるブロック共重合体を得ることができ、このブロック共重合体の製造に際し、有機溶媒としては、クロロホルム、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、メチレンクロリドなどが使用可能である。
【0043】
【化11】


【0044】
前記反応式3で示される製造方法の一実施例を挙げると、アクリレート末端基を有するポリエチレングリコール(MPEG−A)、1級若しくは2級アミン、及びビスアクリルアミドを用いて当業者における周知の共重合反応を行う。このとき、1級若しくは2級アミンとビスアクリレートは、ミカエル付加反応によりポリ(アミドアミン)というポリ(アミノ酸)を形成し、形成されたポリ(アミドアミン)を、末端がアクリレート官能基を有するポリエチレングリコール系の化合物と共重合させて、前記一般式8で表わされるpH感受性のブロック共重合体を得ることができる。
【0045】
一方、本発明においては、このようにして合成されたブロック共重合体の分子量を測定するために、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用し、且つ、pH変化によるミセルの濃度変化及びミセル寸法の変化を測定するために、蛍光分光器(Fluorescence spectrometer)と粒径測定装置(DLS:Dynamic Light Scattering)を使用した。実際に、上述の如き分析により、pH感受性のミセルとしての適用可能性を確かめることができた。
【0046】
また、本発明は、(a)pH変化に応じてミセルを形成する前述のブロック共重合体と、(b)前記ブロック共重合体に封入可能な生理活性物質とを含む高分子ミセル型の薬物組成物を提供する。
【0047】
前記高分子ミセル型の薬物組成物は、体内に取り込まれたときにミセルを形成していて、ガン細胞など局所的に低pHの個所に達すると、ミセルが崩壊されることにより、封入された担持薬物の放出により標的指向的な薬物送達が行われうる。
【0048】
本発明による高分子ミセル型のブロック共重合体に封入可能な生理活性物質には特に制限がなく、この非制限的な例としては、抗ガン剤、抗菌剤、ステロイド類、消炎鎮痛剤、性ホルモン、免疫抑制剤、抗ウィルス剤、麻酔剤、制吐剤、若しくは抗ヒスタミン剤などがある。また、上述の成分のほかに、当業界における通常の添加剤、例えば、賦形剤、安定化剤、pH調整剤、抗酸化剤、保存剤、結合剤、若しくは崩壊剤などを含むこともできる。
【0049】
本発明による高分子ミセルの製造方法は、攪拌、加熱、超音波照射、乳化法を用いた溶媒蒸発法、マトリックス形成若しくは有機溶媒を用いた透析法などの方法を単独で若しくは併用することができる。
【0050】
得られた高分子ミセルの直径には特に制限がないが、10〜1000nmの範囲であることが好ましい。また、前記高分子ミセル薬物組成物は、経口剤若しくは非経口剤として製剤化して使用することができ、静脈、筋肉若しくは皮下注射剤として製造可能である。
【0051】
さらに、本発明は、前記pH感受性のブロック共重合体を薬物輸送用若しくは疾病診断用の担体として使用する方法を提供する。このとき、ブロック共重合体内に含有される物質は、疾病の治療、防止若しくは診断のための物質であれば、特に制限がない。
【0052】
これらに加えて、本発明は、(a)エステル基と3級アミン基を含む化合物、及びアミド基と3級アミン基を含む化合物よりなる群から選ばれたいずれか1種以上の化合物若しくは前記化合物の共重合体と、(b)親水性若しくは両親媒性を有する化合物とを共重合させることにより、ミセルを形成可能なpH感受性のブロック共重合体の製造方法を提供する。
【0053】
[発明を実施するための最良の態様]
以下、本発明を下記の実施例及び実験例を挙げてより詳細に説明する。但し、下記の実施例は単に本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範囲がこれらに限定されるものではない。
【0054】
[実施例1〜20]
pH感受性のブロック共重合体の合成
[実施例1]
(ポリエチレングリコール−ポリ(β−アミノエステル)ブロック共重合体(PAE)の製造)
ポリエチレングリコールメチルエーテル(MPEG2000、Mn=2000)とアクリロイルクロリドを、トリエチルアミン(TEA)入りメチレンクロリドの存在下で反応させた後、希塩酸水溶液により抽出し、n−ヘキサンに沈殿させて親水性成分であるポリエチレングリコールメチルエーテルアクリレート(MPEG2000−A、Mn=2000)を製造した。MPEG2000−A0.1モルと、ジアミン成分としての4,4’−トリメチレンジピペリジン1モル及び1,6−ヘキサンジオールジアクリレート1モルを2口丸フラスコに入れて、減圧後に、窒素を充填した。このとき、反応溶媒としてはクロロホルムを使用し、50℃において48時間反応させて、分子量(Mp)が7700のポリエチレングリコール−ポリ(β−アミノエステル)ブロック共重合体(MPEGA−PAE)を製造した。
【0055】
[実施例2]
ポリエチレングリコールメチルエーテルアクリレート(MPEG2000−A)の使用量を0.1モルから0.2モルに変えたことを除いては、前記実施例1の方法と同様にして、分子量(Mp)が4800のMPEGA−PAEブロック共重合体を製造した。
【0056】
[実施例3]
ポリエチレングリコールメチルエーテルアクリレート(MPEG2000−A)の使用量を0.1モルから0.3モルに変えたことを除いては、前記実施例1の方法と同様にして、分子量(Mp)が4400のMPEGA−PAEブロック共重合体を製造した。
【0057】
[実施例4]
MPEG2000に代えて、MPEG5000を用いて製造されたMPEG5000−A0.1モルを使用したことを除いては、前記実施例1の方法と同様にして、分子量(Mp)が13500のMPEGA−PAEブロック共重合体を製造した。
【0058】
[実施例5]
MPEG2000に代えて、MPEG5000を用いて製造されたMPEG5000−A0.4モルを使用したことを除いては、前記実施例1の方法と同様にして、分子量(Mp)が12500のMPEGA−PAEブロック共重合体を製造した。
【0059】
[実施例6]
MPEG2000に代えて、MPEG5000を用いて製造されたMPEG5000−A0.1モルを使用し、且つ、4,4’−トリメチレンジピペリジン0.8モルを使用したことを除いては、前記実施例1の方法と同様にして、分子量(Mp)が8800のMPEGA−PAEブロック共重合体を製造した。
【0060】
[実施例7]
MPEG2000に代えて、MPEG5000を用いて製造されたMPEG5000−A0.1モルを使用し、且つ、4,4’−トリメチレンジピペリジン1.1モルを使用したことを除いては、前記実施例1の方法と同様にして、分子量(Mp)が20000のMPEGA−PAEブロック共重合体を製造した。
【0061】
[実施例8]
MPEG2000に代えて、MPEG5000を用いて製造されたMPEG5000−A0.1モルを使用し、且つ、4,4’−トリメチレンジピペリジン1.3モルを使用したことを除いては、前記実施例1の方法と同様にして、分子量(Mp)が7900のMPEGA−PAEブロック共重合体を製造した。
【0062】
[実施例9]
MPEG2000に代えて、MPEG5000を用いて製造されたMPEG5000−A0.1モルを使用し、且つ、4,4’−トリメチレンジピペリジン1.5モルを使用したことを除いては、前記実施例1の方法と同様にして、分子量(Mp)が6900のMPEGA−PAEブロック共重合体を製造した。
【0063】
[実施例10]
MPEG2000に代えて、MPEG5000を用いて製造されたMPEG5000−A0.1モルを使用し、且つ、4,4’−トリメチレンジピペリジンに代えて、ピペラジンを使用したことを除いては、前記実施例1の方法と同様にして、分子量(Mp)が6200のMPEGA−PAEブロック共重合体を製造した。
【0064】
[実施例11]
MPEG−PAEブロック共重合体の生分解速度を調節するために、MPEG5000を用いて製造されたMPEG5000−A0.1モルを使用し、且つ、アミン系の化合物としてのピペラジン1モルと、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート0.8モルに、生分解速度調節剤であるジアクリルアミド成分としてのN,N’−メチレンビスアクリルアミドを0.2モルずつ付加し、分子量13,200のMPEGA−PAEAブロック共重合体を製造した。
【0065】
[実施例12]
1,6−ヘキサンジオールジアクリレート0.6モルに、生分解速度調節剤であるジアクリルアミド成分としてのN,N’−メチレンビスアクリルアミドを0.4モル付加したことを除いては、実施例11の方法と同様にして、分子量(Mp)が13,700のMPEGA−PAEAブロック共重合体を製造した。
【0066】
[実施例13]
1,6−ヘキサンジオールジアクリレート0.4モルに、生分解速度調節剤であるジアクリルアミド成分としてのN,N’−メチレンビスアクリルアミドを0.6モル付加したことを除いては、実施例11の方法と同様にして、分子量(Mp)が13,400のMPEGA−PAEAブロック共重合体を製造した。
【0067】
[実施例14]
1,6−ヘキサンジオールジアクリレート0.2モルに、生分解速度調節剤であるジアクリルアミド成分としてのN,N’−メチレンビスアクリルアミドを0.8モル付加したことを除いては、実施例11の方法と同様にして、分子量(Mp)が13,300のMPEGA−PAEAブロック共重合体を製造した。
【0068】
[実施例15]
MPEG5000を用いて製造されたMPEG5000−A0.1モルを使用し、アミン系の化合物としてのピペラジン1モルと、ジアクリルアミド化合物としてのN,N’−メチレンビスアクリルアミドを1モルずつ付加し、分子量13,800のMPEGA−PAAブロック共重合体を製造した。
【0069】
[実施例16]
MPEG5000−A0.1モルに代えて、MPEG2000を用いて製造されたMPEG2000−A0.1モルを使用したことを除いては、前記実施例11の方法と同様にして、分子量が10,200のMPEGA−PAEAブロック共重合体を製造した。
【0070】
[実施例17]
MPEG2000を用いて製造されたMPEG2000−A0.1モルを使用し、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート0.6モルに、生分解速度調節剤であるジアクリルアミド成分としてのN,N’−メチレンビスアクリルアミドを0.4モル付加したことを除いては、実施例11の方法と同様にして、分子量(Mp)が10,400のMPEGA−PAEAブロック共重合体を製造した。
【0071】
[実施例18]
MPEG2000を用いて製造されたMPEG2000−A0.1モルを使用し、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート0.4モルに、生分解速度調節剤であるジアクリルアミド成分としてのN,N’−メチレンビスアクリルアミドを0.6モル付加したことを除いては、実施例11の方法と同様にして、分子量(Mp)が10,700のMPEGA−PAEAブロック共重合体を製造した。
【0072】
[実施例19]
MPEG2000を用いて製造されたMPEG2000−A0.1モルを使用し、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート0.2モルに、生分解速度調節剤であるジアクリルアミド成分としてのN,N’−メチレンビスアクリルアミドを0.8モル使用したことを除いては、実施例16の方法と同様にして、分子量(Mp)が10,300のMPEGA−PAEAブロック共重合体を製造した。
【0073】
[実施例20]
MPEG2000を用いて製造されたMPEG2000−A0.1モルを使用し、アミン系の化合物としてのピペラジン1モルと、ジアクリルアミド化合物としてのN,N’−メチレンビスアクリルアミドを1モルずつ付加し、分子量が10,600のMPEGA−PAAブロック共重合体を製造した。
【0074】
[比較例1〜2]
[比較例1]
MPEG2000に代えて、MPEG400を用いて製造されたMPEG500−A0.1モルを使用したことを除いては、前記実施例1の方法と同様にして、分子量(Mp)が8000のMPEGA−PAEブロック共重合体を製造した。
【0075】
製造されたMPEGA−PAEブロック共重合体を用いてpH変化による挙動を観察したところ、前記ブロック共重合体はミセルを形成できないことが確認された。これは、上述のように、特定のpHにおいて、親水性ブロックが短過ぎて親水性/疎水性による自己集合が起こらず、結果として、ミセルが形成され難いだけでなく、たとえミセルが形成されるとしても、水に溶解されて崩壊され易いことを裏付けるものである。
【0076】
[比較例2]
MPEG2000に代えて、MPEG6000を用いて製造されたMPEG6000−A0.1モルを使用したことを除いては、前記実施例1の方法と同様にして、分子量(Mp)が14500のMPEGA−PAEブロック共重合体を製造した。
【0077】
前記MPEGA−PAEブロック共重合体を用いてpH変化による挙動を観察したところ、比較例2によるブロック共重合体は、前記比較例1と同様に、ミセルを形成できないことが確認された。これは、疎水性であるポリ(アミノ酸)の分子量に比べてブロックが長過ぎて親水性/疎水性のバランスが崩れ、特定のpHにおいてミセルが形成できずに沈殿することを意味するものである。
【0078】
[実験例1.pH感受性のブロック共重合体の分子量の測定]
本発明に従い製造されたpH感受性のブロック共重合体の分子量を測定するために、下記のようにして分析を行った。
【0079】
実施例1〜15に従い製造されたMPEGA−PAE、MPEGA−PAA若しくはMPEGA−PAEAブロック共重合体を使用し、これらの分子量の調節の可能性を調べるために、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC、Waters社製)分析を行った。
【0080】
先ず、実施例1〜5に従い製造されたMPEGA−PAEブロック共重合体の分子量の分析を行ったところ、MPEG2000−Aを用いて最終的な共重合体の分子量を調節することは可能であるが(図1参照)、MPEG5000−Aを用いる場合、最終的な共重合体の分子量調節が容易ではないことが分かった(図2参照)。
【0081】
MPEG5000−Aから得られる最終的な共重合体の分子量の調節の可能性を調べるために、MPEG−Aとビスアクリレートの含量はそのままにしておき、ジアミンの含量のみを変えた実施例4、6〜9のMPEGA−PAEブロック共重合体に対する分子量の分析を行ったところ、たとえMPEG5000−Aを用いるとしても、最終的な共重合体の分子量が調節可能であるだけでなく、ジ(di-)ブロック若しくはトリ(tri-)ブロックの構造を有する最終的な共重合体が調節可能であるということを確認することができた(図3参照)。実際に、ジアミンの添加量が1モルである場合、約13,000の分子量を有する共重合体が合成されたが、これは、分子量5000のMPEGと分子量8000であるPAEが結合されたジブロック共重合体であると推定される。また、ジアミンの添加量が1.1モルに増えると、重合時にはモル比のバラツキにより分子量が低くなるべきであるにも拘らず、却って分子量が約19,000に増えていることが分かる。これより、MPEG−A、PAE、MPEG−Aよりなるトリブロック共重合体が製造されたことが予測できる。しかしながら、ジアミンの添加量が1.3モル、1.5モルに増える場合、却ってブロック共重合体の分子量は低下するという現象を示したが、これは、モル比のバラツキが重合度に大きく影響するためであると認められる。
【0082】
[実験例2.pH変化によるミセルの変化測定]
本発明に従い製造されたpH感受性のブロック共重合体ミセルのpH変化による挙動を観察するために、下記のようにして実験を行った。
【0083】
実施例1〜4及び実施例10に従い製造された種々の分子量のブロック共重合体を使用した。蛍光分析器によっては直接的にミセルの挙動変化を測ることができないため、疎水性の発光物質であるピレンを使用した。
【0084】
10−6Mのピレンを含有するpH6.0のバッファー溶液を作製し、実施例1〜4及び実施例10に従い製造された各共重合体を1mg/mLの濃度に溶かした後、pH8.0へと溶液のpHを高めた。この後、5Mの塩酸水溶液を滴下してpHを5.5〜8.0の範囲に変え、次いで、蛍光分光器により、ミセルの濃度変化による放出エネルギーの変化を測定した。
【0085】
先ず、分子量が2000のポリエチレングリコールを用いて製造された実施例1、実施例2及び実施例3のブロック共重合体に対し、pH変化に応じた挙動変化を測定したところ、ポリ(β−アミノエステル)ブロック共重合体の分子量が増えるに伴い、ミセルが崩壊されるpH範囲がやや異なってくることが分かった(図4参照)。これは、製造されたブロック共重合体内における疎水性のポリ(β−アミノエステル)ブロックと親水性のポリエチレングリコールブロックの分率の変化により、pH変化によるイオン化度がやや異なっていき、結果として、ミセルの挙動範囲が変わることを意味する。
【0086】
また、実施例4及び実施例10に従いそれぞれ別々のジアミン化合物を用いて製造された共重合体ミセルの挙動を測定したところ、実施例4の共重合体の方が、より狭いpH範囲においてミセルの崩壊が起きることが分かった(図5参照)。これは、ピペラジンと4,4’−トリメチレンジピペリジンのイオン化傾向が異なることに起因する現象であると認められる。このため、4,4’−トリメチレンジピペリジンを使用する場合、ミセルの崩壊がより狭い範囲において起き、これにより、よりpH変化に感受性のある物質として使用可能であることを確認することができた。
【0087】
[実験例3.ブロック共重合体のpHによるミセル変化の測定]
本発明に従い製造されたpH感受性のブロック共重合体ミセルの、特定のpHにおける変化を観察するために、下記のようにして実験を行った。
【0088】
(3−1.CMCの測定)
実施例4に従い製造された共重合体に対し、pH7.01,pH7.24、pH7.4におけるCMCを測定した。
【0089】
実験の結果、本発明によるブロック共重合体は、pH7.4においては安定したミセルを形成している一方、pH7.0においては、ミセルが全く形成されていないことが確認できた(図6参照)。これは、低いpH(pH7.0以下)において、ポリ(β−アミノエステル)に存在する3級アミンのイオン化度の増加によりPAEの全体が水溶性に変わる結果、前記共重合体がミセルを形成できなくなり、その一方、pH7.4においては、PAEのイオン化度が低下して疎水性を示すことにより、自己集合によるミセルを形成することを意味する。
【0090】
(3−2.ミセル寸法の測定)
実施例4に従い製造された共重合体に対し、DLS(動的光散乱)を用い、pH8.01,pH7.42,pH7.23、pH6.68、pH6.30におけるミセル寸法の変化を測定した。
【0091】
実験の結果、pH7.0以上においては、一定の寸法を有するミセルが存在することが確認できたが(図7、図8及び図9参照)、pH7.0未満においては、ポリ(β−アミノエステル)が完全にイオン化されてミセルが全く形成されていないことが確認できた(図10参照)。
【0092】
これにより、本発明によるpH感受性のブロック共重合体は、共重合体内に存在する両親媒性と、pH変化による可逆的な自己集合現象を通じて、高分子ミセルを形成及び崩壊可能であることが確認できた。
【0093】
[実験例4.ブロック共重合体ミセルのpHによる生分解速度の評価]
本発明に従い製造されたpH感受性のブロック共重合体ミセルの、特定pHでの変化を観察するために、下記のようにして実験を行った。
【0094】
実験には、主鎖にエステル基が存在して比較的に生体内の生分解速度が速いポリ(β−アミノエステル)を用いて製造された実施例4の共重合体と、主鎖にアミド基が存在して生体内の生分解速度が比較的に遅いポリ(アミドアミン)を用いて製造された実施例11の共重合体を使用した。また、前記実施例11の共重合体を構成する成分、例えば、アミン系の化合物、及び生分解速度調節剤であるポリ(アミドアミン)の含量及びこれらの組成比などを調節して得られた実施例11〜実施例20の共重合体を使用した。
【0095】
前記共重合体に対し、それぞれpH7.4における分子量の経時変化を測定した結果、実施例4によるブロック共重合体ミセルは30時間が過ぎないうちに分子量が半分以上に減少され、これより、ミセルの生分解がやや速いのに対し、実施例11によるブロック共重合体ミセルは生分解速度が遅いことが分かった(図11参照)。さらに、実施例11〜実施例20のブロック共重合体ミセルを用いて測定した結果、前記ブロック共重合体ミセルを構成する成分の含量、及びこれらのモル比などを調節することにより、生体内においてミセルが種々の分解速度を示すように調節することが容易であることが確認できた(図12参照)。このため、本発明によるpH感受性のブロック共重合体は、ポリ(β−アミノ酸)の一種として、比較的に生体内の生分解速度が遅いポリ(アミドアミン)との共重合体を通じて、所望の生分解速度を容易に調節可能であるだけでなく、生分解速度を維持し続けるように工夫可能であることを確認することができた。
【0096】
[産業上の利用可能性]
本発明によるブロック共重合体は、pHに応じて水への溶解特性を有するものの、自己集合現象によりミセルを形成できないポリ(アミノ酸)、例えば、ポリ(β−アミノエステル)及びポリ(アミドアミン)化合物に、親水性ポリエチレングリコール系の化合物を重合させてpH感受性のブロック共重合体を得ることにより、pH感受性を保有するだけでなく、自己集合現象により可逆的に高分子ミセルを形成することができ、これにより、体内pH変化に標的指向的な薬物輸送担体及び診断用途として使用することができる。
【0097】
この発明は、最も実用的で好ましい実施例に関して記載するが、開示する実施例及び図面に限定されないことが理解されるべきである。一方、添付の請求項の精神及び範囲内で、種々の変更及び変化を包含することが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】図1は、分子量が2000のポリエチレングリコールメチルエーテルアクリレート(MPEG−A)とポリ(β−アミノエステル)を用いて製造された実施例1〜3のpH感受性のブロック共重合体における、MPEG−A(Mn=2000)のモル比の変化によるブロック共重合体の分子量の調節結果を示すグラフである。
【図2】図2は、分子量が5000のMPEG−Aとポリ(β−アミノエステル)を用いて製造された実施例4及び5のpH感受性のブロック共重合体における、MPEG−A(Mn=5000)のモル比の変化によるブロック共重合体の分子量の調節結果を示すグラフである。
【図3】図3は、実施例4、6〜9に従い製造されたpH感受性のブロック共重合体における、ジアミンのモル比の変化によるブロック共重合体の分子量の調節結果を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例1〜3に従い製造されたブロック共重合体におけるpH変化によるミセルの挙動の変化を示すグラフである。
【図5】図5は、ジアミン化合物としてピペラジン及び4,4’−トリメチレンジピペリジンをそれぞれ用いて製造された実施例4及び実施例10のブロック共重合体におけるpH変化によるミセルの挙動の変化を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例4に従い製造されたブロック共重合体におけるpH変化による臨界ミセル濃度(CMC:critical micelle concentration)の変化を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例4に従い製造されたブロック共重合体におけるpH変化によるミセル寸法の変化を示すグラフであって、pH8.01におけるミセル寸法を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例4に従い製造されたブロック共重合体におけるpH変化によるミセル寸法の変化を示すグラフであって、pH7.42におけるミセル寸法を示すグラフである。
【図9】図9は、実施例4に従い製造されたブロック共重合体におけるpH変化によるミセル寸法の変化を示すグラフであって、pH7.23におけるミセル寸法を示すグラフである。
【図10】図10は、実施例4に従い製造されたブロック共重合体におけるミセル寸法の変化を示すグラフであって、pH6.3〜8.0範囲におけるミセル寸法の変化を示すグラフである。
【図11】図11は、実施例4及び実施例11に従い製造されたブロック共重合体における分子量の経時変化を示すグラフであって、pH7.4における分子量を示すグラフである。
【図12】図12は、実施例11〜実施例15に従いそれぞれ製造されたブロック共重合体における分子量の経時変化を示すグラフであって、pH7.4における分子量を示すグラフである。
【図13】図13は、実施例16〜実施例20に従いそれぞれ製造されたブロック共重合体における分子量の経時変化を示すグラフであって、pH7.4における分子量を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリエチレングリコール系の化合物(A)と、
(b)ポリ(β−アミノエステル)及びポリ(アミドアミン)よりなる群から選ばれたいずれか1種以上のポリ(アミノ酸)化合物若しくは前記化合物の共重合体(B)
を共重合させることにより得られる、pH感受性のブロック共重合体。
【請求項2】
前記ブロック共重合体中の、ポリ(β−アミノエステル)及びポリ(アミドアミン)よりなる群から選ばれたいずれか1種以上のポリ(アミノ酸)化合物若しくは前記化合物の共重合体が、pH7.0以下においてイオン化される3級アミン基を含むものであることを特徴とする、請求項1に記載のpH感受性のブロック共重合体。
【請求項3】
前記ブロック共重合体が、pH7.2〜7.4の範囲においてミセルを形成し、pH6.5〜7.0の範囲においては形成されたミセルが崩壊することを特徴とする、請求項1に記載のpH感受性のブロック共重合体。
【請求項4】
前記ブロック共重合体が、下記一般式(I)、(II)若しくは(III):
【化1】

[式中、
Rは、水素原子若しくは炭素原子数1〜6のアルキル基であり、このとき、xは、1〜10,000の範囲の自然数であり、
及びRは、各々が、炭素原子数1〜20のアルキル基であり、
は、炭素原子数1〜30のアルキル基であり、
は、炭素原子数1〜20のアルキル基であり、
yは、1〜10,000の範囲の自然数である]
で表わされる化合物であることを特徴とする、請求項1に記載のpH感受性のブロック共重合体。
【請求項5】
前記ブロック共重合体の分子量が、1000〜20,000の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載のpH感受性のブロック共重合体。
【請求項6】
前記ブロック共重合体中のポリエチレングリコール(A)系のブロック及びpH感受性のブロックの含量比が、5〜95重量%:5〜95重量%であることを特徴とする、請求項1に記載のpH感受性のブロック共重合体。
【請求項7】
前記ポリエチレングリコール系の化合物が、アクリレート及びメタクリレートよりなる群から選ばれた官能基を含むものであることを特徴とする、請求項1に記載のpH感受性のブロック共重合体。
【請求項8】
前記ポリエチレングリコール系の化合物の分子量が、500〜5,000の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載のpH感受性のブロック共重合体。
【請求項9】
前記ポリ(アミノ酸)化合物が、
(a)ビスアクリレート若しくはビスアクリルアミド化合物と、
(b)アミン系の化合物
を重合させることにより得られるものであることを特徴とする、請求項1に記載のpH感受性のブロック共重合体。
【請求項10】
前記ビスアクリレート化合物が、エチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールエトキシレートジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールプロポキシレートジアクリレート、3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピオネートジアクリレート、1,7−ヘプタンジオールジアクリレート、1,8−オクタンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート及び1,10−デカンジオールジアクリレートよりなる群から選ばれたいずれか1種以上であることを特徴とする、請求項9に記載のpH感受性のブロック共重合体。
【請求項11】
ビスアクリルアミド系の化合物が、N,N’−メチレンビスアクリルアミド及びN,N’−エチレンビスアクリルアミドよりなる群から選ばれたいずれか1種以上であることを特徴とする、請求項9に記載のpH感受性のブロック共重合体。
【請求項12】
前記アミン系の化合物が、1級アミン化合物若しくは2級アミン含有のジアミン化合物であることを特徴とする、請求項9に記載のpH感受性のブロック共重合体。
【請求項13】
前記1級アミン化合物が、3−メチル−4−(3−メチルフェニル)ピペラジン、3−メチルピペラジン、4−(ビス)ピペラジン、4−(フェニルメチル)ピペラジン、4−(1−フェニルエチル)ピペラジン、4−(1,1−ジメトキシカルボニル)ピペラジン、4−(2−(ビス−(2−プロペニル)アミノ)エチル)ピペラジン、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、2−ピペリジン−1−エチルアミン、C−アジリジン−1−イル−メチルアミン、1−(2−アミノエチル)ピペラジン、4−(アミノメチル)ピペラジン、N−メチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、N−ヘキシルエチレンジアミン、ピコラミン、及びアデニンよりなる群から選ばれたいずれか1種以上であることを特徴とする、請求項12に記載のpH感受性のブロック共重合体。
【請求項14】
前記2級アミン含有のジアミン化合物が、ピペラジン、ピペリジン、ピロリジン、3,3−ジメチルピペリジン、4,4’−トリメチレンジピペリジン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、イミダゾリジン及びジアゼピンよりなる群から選ばれたいずれか1種以上であることを特徴とする、請求項12に記載のpH感受性のブロック共重合体。
【請求項15】
前記ビスアクリレート若しくはビスアクリルアミド化合物とアミン系の化合物とのモル比が、1:0.5〜2.0の範囲であることを特徴とする、請求項9に記載のpH感受性のブロック共重合体。
【請求項16】
(a)請求項1乃至15のいずれか一項に記載のブロック共重合体と、
(b)前記ブロック共重合体に封入可能な生理活性物質
を含む、高分子ミセル型の薬物組成物。
【請求項17】
前記高分子ミセルの直径が、10〜1000nmの範囲であることを特徴とする、請求項16に記載の高分子ミセル型の薬物組成物。
【請求項18】
薬物輸送用若しくは疾病診断用の担体としての、請求項1乃至15のいずれか一項に記載のブロック共重合体の使用。
【請求項19】
下記の反応式1:
【化2】

[式中、
Rは、水素原子若しくは炭素原子数1〜5のアルキル基であり、このとき、xは、1〜10,000の範囲の自然数であり、
は、炭素原子数1〜20のアルキル基であり、
は、炭素原子数1〜30のアルキル基であり、
yは、1〜10,000の範囲の自然数である]
により得ることができることを特徴とする、pH感受性のブロック共重合体の製造方法。
【請求項20】
下記の反応式2:
【化3】

[式中、Rは、水素原子若しくは炭素原子数1〜5のアルキル基であり、このとき、xは、1〜10,000の範囲の自然数であり、
及びRは、炭素原子数1〜20のアルキル基であり、
は、炭素原子数1〜30のアルキル基であり、
yは、1〜10,000の範囲の自然数である]
により得ることができることを特徴とする、pH感受性のブロック共重合体の製造方法。
【請求項21】
下記の反応式3:
【化4】

[式中、Rは、水素原子若しくは炭素原子数1〜5のアルキル基であり、このとき、xは、1〜10,000の範囲の自然数であり、
及びRは、各々が、炭素原子数1〜20のアルキル基であり、
は、炭素原子数1〜20のアルキル基であり、
yは、1〜10,000の範囲の自然数である]
により得ることができることを特徴とする、pH感受性のブロック共重合体の製造方法。
【請求項22】
(a)エステル基と3級アミン基を含む化合物、及びアミド基と3級アミン基を含む化合物よりなる群から選ばれたいずれか1種以上の化合物若しくは前記化合物の共重合体と、
(b)親水性若しくは両親媒性を有する化合物
を共重合させることによりミセルが形成可能なpH感受性のブロック共重合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2008−520798(P2008−520798A)
【公表日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−542928(P2007−542928)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【国際出願番号】PCT/KR2005/004566
【国際公開番号】WO2006/098547
【国際公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(507169303)スンキュンクヮン・ユニバーシティ・ファウンデーション・フォー・コーポレート・コラボレーション (2)
【Fターム(参考)】