説明

壁面固定部材

【課題】建造物又は構造物の壁面の曲率に合わせて現場で曲げて固定可能な窯業系材料の壁面固定部材を提供する。
【解決手段】建造物又は構造物の壁面に取付られる窯業系材料の壁面固定部材11であって、建造物又は構造物の被取付壁面と対向する取付時壁接触側面72に、凹凸部74、75を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物又は構造物の壁面に、表装材等を浮かし張りで設置するための胴縁等として壁面に固定される部材に関し、特に、曲率を有する壁面に好適な前記部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建造物又は構造物は、木造及びパネル工法の場合を除き、一般的にコンクリートであることから、表面がモルタル(コンクリート)となっていることが多い。このような表面には、美観を改善するため、あるいは、表面の防汚性改善、修理/補修等のメンテナンス性改善、修理/補修等のメンテナンス性改善のために、一般的にタイルパネルや化粧板等の表装材が設置される。また表装材は、壁面がトンネル等の内壁である場合には、さらに照明や車両のヘッドライト等による車両の運転者に内壁面位置、路面状況、他の車両位置、障害物等の視認性を向上させるためにも設置される。表装材の設置方法としては、壁面に直接表装材を設置する直張り法と、壁面と表装材との間に胴縁や取付金具等の壁面固定部材を設置する浮かし張り法とがある。壁面がトンネル等の内壁である場合には、壁面からの漏水が表装材同士の接続部等から表装材の表面に流出すると、表装材の表面に汚れを生じて前記諸性能が低下するという問題が顕著なため、浮かし張り法を用いることが多い。
【0003】
浮かし張り法を用いる場合に使用される壁面固定部材には、(1)水分による膨張/収縮が少ない寸法安定性、(2)遮音/吸音性、(3)不燃性/耐火性、(4)温度変化による伸縮及びその繰り返しによる性能劣化や、吸水乾燥の繰り返しによる性能劣化等が発生しない長期耐久性、(5)凍結融解の繰り返しにより性能劣化が発生しない耐凍害性を含む耐候性、(6)設置金具との嵌合形状設計/工事現場での切断加工/ビス留め加工/ビス保持強度等の施工性、(7)耐震性および輸送時/施工時/使用時を通してクラック/割れ/欠けが発生しない高強度等が求められる。また、壁面固定部材は、壁面がトンネル等の内壁である場合には、降雪対策として散布される融雪剤等により錆や腐食等を生じない耐塩害性が求められるとともに、壁面からの漏水が壁面固定部材を介して表装材同士の接続部等から表装材の表面に流出することを防がなければならない。
【0004】
また、表装材を設置する壁面が曲率を有する壁面である場合、すなわちトンネル壁面、アーチカルバート内壁、アーチ橋のアーチ部壁面、円筒形/楕円筒形等のスタジアム内外壁、円筒形の排気口内外壁。略円筒形の煙突内壁、円筒形タンクの内外壁等のように二次元曲面を有する壁面、又は、球形タンク、卵形/繭形ビルのように三次元曲面を有する壁面等の壁面である場合、物件ごとに各々曲率が異なっているため、その曲面に固定される汎用(すなわち供給時には直線状又は平板状)の壁面固定部材には、工事現場で壁面の曲率に追随させて取付ることができる可撓性又は靱性が求められる。
【0005】
可撓性又は靱性が乏しい壁面固定部材を、曲率を有する壁面に取付る場合、例えば、壁面が凹面であれば、壁面固定部材の端部は壁面に接触するか近づくが、壁面固定部材の中央部が浮いてしまう。逆に壁面が凸面であれば、壁面固定部材の中央部は壁面に接触するか近づくが、壁面固定部材の端部が浮いてしまう。壁面の曲率が大きく、壁面固定部材の面積や寸法が小さい場合には、可撓性又は靱性が無い直線状や平板状の壁面固定部材でも問題ないが、壁面の曲率が小さく、壁面固定部材の面積や寸法が大きい場合には、部材に可撓性又は靱性を持たせるか、高コストであっても壁面の曲率に合わせた壁面固定部材を個々に生産することが求められる。
【0006】
このような壁面固定部材を介して浮かし張り法により壁面に設置される表装材としては、例えば押出成形セメント(コンクリート)板(例えば、特許文献1)、繊維強化セメント板やケイ酸カルシウム板等の無機質板、前記無機質板を基板としその表面にタイルを接着してなるタイルパネル(例えば、特許文献2)、前記無機質板の表面に無機質系塗料の塗膜を形成してなる化粧板、ホーロー鋼板、化粧アルミニウム板、化粧ステンレス鋼板(例えば、特許文献3)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−248881号公報
【特許文献2】特許第3509463号号公報
【特許文献3】特開平7−158391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来浮かし張り法用として用いられてきた従来の胴縁や金属製アングル材は、曲率を有する壁面へ施工する場合、施工現場で壁面の曲率に追随させて取付るために必要とされる可撓性又は靱性を欠くという問題がある。また、有機系の材料は可撓性や靱性には優れているが、不燃性や耐火性を欠くので建造物又は構造物の壁面固定部材としては適さない。
【0009】
さらに、壁面固定部材として胴縁を用いる場合、トンネル等の漏水を伴う壁面については、胴縁が漏水の流路を遮ることで、漏水が胴縁の側面に沿って表装材側に流れ、表装材同士の接続部等から表装材の表面に流出するという問題がある。この問題は横胴縁の場合に特に著しいが、縦胴縁であってもこの問題を生ずる。一方、壁面固定部材として特許文献2のような取付金具を用いると、胴縁を用いる場合よりも壁面からの漏水が壁面固定部材を介して表装材同士の接続部等から表装材の表面に流出するという問題は大幅に軽減される。しかし、多数の取付金具を個々に壁面に取付ることになるので、壁面固定部材として胴縁を用いる場合よりも施工効率が悪くなるという問題がある。
【0010】
また、壁面固定部材として金属系の材料を用いると、融雪剤等の影響により錆や腐食を生じやすいという問題がある。
【0011】
そこで本発明は、上記した(1)〜(7)の各特性を満足する壁面固定部材を、曲面を有する壁面に胴縁、特に縦胴縁として使用する場合に、建造物又は構造物の施工現場で壁面の曲率に追随させて取付ることができ、さらに、壁面固定部材を曲面を有する壁面に胴縁、特に横胴縁として使用する場合に、胴縁の側面の表面を伝わって壁面からの漏水が表装材同士の接続部等から表装材の表面に流出することを防ぐことができ、錆や腐食を生じにくい壁面固定部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明に係る壁面固定部材は、建造物又は構造物の壁面に取付られる窯業系材料の壁面固定部材であって、建造物又は構造物と対向し取付時に壁面と接触する側の面(以下、取付時壁接触側面と記す)に、凹凸部を形成したことを特徴とする。
本発明の壁面固定部材によれば、窯業系材料により形成することで壁面固定部材に求められる上記(1)〜(7)の各特性を満足させると共に、取付時壁接触側面に凹凸部を形成する。この凹凸部は、その面が曲率を有する壁面に縦胴縁として壁面固定部材を取付る際の引張応力面になる場合に変形する。この凹凸部が変形することにより、本発明の壁面固定部材は可撓性又は靱性が向上し、建造物又は構造物の施工現場で壁面の曲率に追随させて取付ることができる。さらに、この凹凸部の凸部は壁面に対して点接触又は線接触になり、凹部は両側壁を繋ぐ空間になって漏水が通過できるので、横胴縁として壁面固定部材を取付る際の壁面固定部材の側面に沿って漏水が表装材側に流れて、表装材同士の接続部等から表装材の表面に流出することを防ぐことができる。
【0013】
好ましくは、本発明の壁面固定部材の凹凸部は、取付時壁接触側面から突出する複数の突出部と、取付時壁接触側面から窪んだ複数の凹穴部、又は、取付時壁接触側面に設けられた複数の波状部のいずれかで構成されるようにしてもよい。さらに、突出部は細長いリブ状、凹穴部は細長い溝状、に形成されるようにしてもよい。
本実施態様では、窯業系材料の壁面固定部材における取付時壁接触側面に、成型後の後加工、又は、成型時、特に押出成形時に金型を利用したプレス加工やエンボス加工により凹凸部を容易に形成することができる。また金型は、平板形状に限らずローラ形状のものも利用できる。
【0014】
好ましくは、本発明の壁面固定部材のリブ状突出部、溝状凹穴部、又は、波状部は、壁面固定部材の長辺に対して直角方向に形成されるようにしてもよい。
本実施態様では、曲率を有する曲面の壁面に対して、縦胴縁としての壁面固定部材の長辺に沿って曲率に追随させて、すなわち曲面に沿わせるように壁面固定部材を変形させながら固定することができる。
【0015】
好ましくは、本発明の壁面固定部材の凹凸部の形状を、多数の円錐、円錐台、角錐又は角錐台に形成するようにしてもよい。
本実施態様でも、縦胴縁として壁面固定部材の長辺を曲面に沿わせるように壁面固定部材を変形させながら固定することができるだけでなく、横胴縁として使用しても、壁面固定部材(胴縁)の側面に沿って漏水が表装材側に流れて、表装材同士の接続部等から表装材の表面に流出するという問題を生ずることはない。さらに本実施態様では、凹凸部の凸部が壁面に対して点接触になり、凹部が両側壁を繋ぐ空間になって漏水が通過できることに加えて、胴縁の表面側の高さ調整部に対して平行になる面の面積を最少にできるので、長辺に沿う方向の可撓性や靱性ばかりでなく、他の全ての方向に対して可撓性や靱性を向上させることができる。
【0016】
好ましくは、本発明の壁面固定部材では、取付時壁接触側面と、その反対側の取付時開放側面との間を貫通する取付用貫通孔を形成しておき、取付時開放側面における、取付用貫通孔を用いて壁面固定部材を被取付壁面に固定する固定金具の周囲に、当該固定金具における取付時開放側面から突出した部分の突出高さと同等以上の高さ寸法を有する取付時開放側面高さ調整部が形成されるか、又は、取付時開放側面における、取付用貫通孔を用いて壁面固定部材を被取付壁面に固定する固定金具の周囲に、当該固定金具における取付用貫通孔の断面寸法からはみ出した固定爪又は固定頭部分を埋設可能な深さ寸法の固定部分埋設部が形成されるようにしてもよい。
本実施態様では、固定金具の固定爪又は固定頭部分を取付時開放側面と面一又は取付時開放側面よりも低い高さにできるので、美観を良好にし、壁面固定部材状にさらに別の部材を重ねる場合の窯業系材料の土台を平坦にすることができる。
【0017】
好ましくは、本発明の壁面固定部材は、繊維状の材料を含ませた水硬性セメント組成物を押出成形することにより得られる窯業系材料から形成されるようにし、繊維状の材料は、繊維長が3mm乃至100mmで、繊維径が5μm乃至200μmで、アスペクト比が100乃至1000であるポリエチレン繊維(PE)、ポリプロピレン繊維(PP)、又は、ポリビニルアルコール繊維(PVA)であり、前記壁面固定部材における体積混入率が1%乃至10%であるようにしてもよい。
本実施態様では、窯業系材料に繊維状の材料を含ませ、繊維状の材料の繊維長及び繊維径及びアスペクト比を制御することで、窯業系材料の可撓性又は靱性及び可撓性を向上させることができる。
【0018】
上記課題を解決するために、本発明に係る壁面固定部材の取付方法は、上記した各壁面固定部材を、建造物又は構造物の曲率を有する壁面に取付る方法であって、壁面固定部材における凹凸部が形成された取付時壁接触側面を、曲率を有する壁面側に向け、曲率に追随させて撓ませた状態で壁面に固定することを特徴とする。
本発明の壁面固定部材の取付方法によれば、取付時壁接触側面に形成された凹凸部を、曲率を有する壁面側にして施工することで、壁面固定部材を建造物又は構造物の壁面の曲率に追随させて取付ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の壁面固定部材によれば、壁面固定部材に求められる特性を満足し、曲面を有する壁面に胴縁、特に縦胴縁として使用する場合に、建造物又は構造物の施工現場で壁面の曲率に追随させて取付ることができ、さらに、壁面固定部材を曲面を有する壁面に胴縁、特に横胴縁として使用する場合に、胴縁の側面の表面を伝わって壁面からの漏水が表装材同士の接続部等から表装材の表面に流出することを防ぐことができる壁面固定部材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】曲率を有するトンネルの内壁に、本発明の壁面固定部材の一例として縦胴縁として施工し、さらに表装材を浮かし張り法で施工した場合を示す図であり、(a)が施工途中を示し、(b)が施工後を示す。
【図2】(a)は図1(a)の曲率を有するトンネルの内壁の取付位置に変形前の縦胴縁としての壁面固定部材を位置合わせした状態を示す断面図であり、(b)は図2(a)の縦胴縁にさらに表装材を浮かし張り法で施工した状態を示す断面図である。
【図3】(a)は図1(a)の曲率を有するトンネルの内壁に縦胴縁としての壁面固定部材を施工した状態を拡大して示す拡大図であり、(b)は図3(a)の胴縁にさらに表装材を一枚施工した場合を示す拡大図である。
【図4】図1、2に示した胴縁の第1実施形態(溝)の拡大斜視図である。
【図5】図1、2に示した胴縁の第2実施形態(波形)の拡大斜視図である。
【図6】図1、2に示した胴縁の第3実施形態(ランダム)の拡大斜視図である。
【図7】図1、2に示した胴縁の第4実施形態(突起)の拡大斜視図である。
【図8】図1、2に示した胴縁の第5実施形態(穴)の拡大斜視図である。
【図9】図1、2に示した胴縁の第6実施形態(四角錐)の拡大斜視図である。
【図10】図5の縦胴縁を固定する場合の固定孔およびアンカーボルトを示す斜視図である。
【図11】第1実施形態において、さらに止流溝を設けた場合の拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の壁面固定部材の実施の形態について、以下に図面を用いながら詳細に説明する。
【0022】
<第1実施形態>
第1実施形態では、断面がほぼ円形のトンネル内の内壁面2に、排水性を考慮して胴縁を縦方向に設置した上に、表装材を設置する場合について説明する。
図1(a)、(b)におけるトンネル1は、高速道路の場合、例えば内径R=5、400mm、国道の場合、例えば内径R=4、800mm、一般道の場合、例えば内径R=4,500mm、鉄道の場合、例えば内径R=3,500mm等の曲率で断面が円弧状に湾曲した内壁面2を有している。本実施形態では、一例として内径R=5000mmとする。内壁面2に直接に壁面固定部材である表装材31を施工することも可能であるが、漏水(湧水)が多い場合の排水路を内壁面2上の上から下に確保するために、内壁面2上に内壁面2に施工される壁面固定部材である胴縁11を縦方向(上下方向)に設置してから、その上に表装材31を施工する。
【0023】
胴縁11は、可撓性又は靱性及び可撓性を向上させるために繊維状の材料を含むセメント等の窯業系材料を用いて、図2(a)に示したように、例えば、トータルの厚みL1(図4参照)が30mmで形成される。トータルの厚みL1=30mmというのは、図4に示したように取付時壁接触側面72の6mmの凹凸層78の幅L4、8mmのボルトヘッド収容溝76の深さL7を含むので、ソリッド部分の厚み幅L3は16mmとなる。また、胴縁11の幅寸法L2は、略30mm乃至200mmの範囲であればよく、本実施形態の場合には50mmとした。また、胴縁11の長さ寸法は、略1000mm乃至4000mmの範囲であればよく、本実施形態の場合には1820mmとした。
【0024】
本実施形態のソリッド部分の厚み幅L3は上述したように16mmであるが、6mmの凹凸層78幅L4を合わせて、胴縁11のトータルの厚み寸法は、略20mm以上であることが好ましい。これは、胴縁11の厚み寸法が20mm未満の場合、胴縁11は、凹凸層78を有していなくても、内壁面2に沿うように変形させることができるため、凹凸層が必要ないためである。例えば本発明者による実験によれば、厚み寸法15mmのソリッドな胴縁は、現場作業者が人力によりトンネルの内壁2の曲面に合わせて、且つ、ひび又は割れを発生させないで曲げることができた。しかし、胴縁11の厚み寸法が略20mm以上になり、例えば、厚み寸法が30mm以上のソリッドな胴縁は、現場作業者が人力によりトンネルの内壁2の曲面に合わせて曲げることが不可能であった。
【0025】
胴縁11の凹凸層78の取付時壁接触側面72における複数の細長い溝状の凹穴部75は、胴縁11の幅寸法L2の一端から他端まで貫通させて深さが凹凸層78の幅L4=6mmで連続する溝である。また、凹穴部75は、例えば、開口幅が3mmであり、溝と溝の間の溝間部分74は15mmである。このように曲面固定時の引張応力面である取付時壁接触側面72に溝状の凹穴部75を規則性を有するように設けることで、曲面固定時の引張応力に対する一種のバッファ部が形成されることになり、引張応力よるひびや割れを大幅に緩和することができる。また、細長い溝状の凹穴部75に代えて、取付時壁接触側面72に、胴縁11の幅寸法L2の一端から他端まで続く細長いリブ状の突出部を設けることでも同様の効果を得ることができる。
【0026】
胴縁11の取付時壁接触側面72の反対側、すなわち、取付時開放側面73には、壁面固定部材を被取付壁面に固定する固定金具(例えばアンカーボルト51)の突出したヘッド部分(例えば図10のボルトヘッド52)の突出高さと同等以上の高さ寸法を有する高さ調整部77が形成される。高さ調整部77は、固定金具(アンカーボルト)51の周囲における胴縁11の幅方向の両端を長手方向に沿って土手状に高くして、その間の溝部76に固定金具51を配置することができる。あるいは、胴縁11の溝部76に、取付時壁接触側面72と、その反対側の取付時開放側面73との間を貫通する取付用貫通孔79を形成しておき、取付時開放側面73における、取付用貫通孔79を用いて壁面固定部材を被取付壁面に固定する固定金具(アンカーボルト51)の周囲に、その固定金具51における取付用貫通孔79の断面寸法からはみ出した固定爪又は固定頭部分52を埋設可能な深さ寸法の固定部分埋設部76を形成することができる。
【0027】
胴縁11は、図2(a)に示したように内壁面2上の所定位置に配置される。この場合の、胴縁11の中央部とトンネルの内壁2の曲面との距離は、例えば83.51mmであった。つまり、略80mmの隙間があく。
【0028】
この状態から、胴縁11の中央部を内側から壁面2側に押圧することで、胴縁11は、その可撓性又は靱性により、図2(b)及び図3(a)に示したように、胴縁11は内壁面2に沿うように変形する。そして胴縁11は、図2(b)及び図3(b)に示したように変形した状態のまま、アンカーボルト200により、図10に示した貫通孔79を介して内壁面2上に固定される。貫通孔79は、胴縁11の成型時に形成してもよいし、作業現場で形成してもよい。胴縁11は、本実施形態では排水性/通気性を確保するために、長辺が縦方向になるように設置されるが、例えば、排水性を無視できる場合等には、横方向に設置してもよい。また、胴縁11は、ボックスカルバート等の内壁面2に曲率を有していない平坦な面に対して使用してもよい。
【0029】
内壁面2上に固定された胴縁11の上(内面側)に、さらに表装材31が配置され、胴縁11のみの場合と同様に、アンカーボルト200により表装材31が胴縁11と共に内壁面2上に固定される。胴縁11に対するアンカーボルト200及び貫通孔79の位置は、例えば、胴縁11の上下の両端近辺の2箇所及びその中間の1箇所以上であればよい。
【0030】
胴縁11は、通常のセメント系組成物用の型及び成形機により、水硬性セメント組成物から押出成形することができる。これは、後述する繊維補強した水硬性セメント組成物の場合も同様である。押出成形された成形体はそのまま自然硬化させてもよいし、高温水蒸気中で促進硬化させてもよい。また、成形体物性に問題が生じない範囲で高温高圧のオートクレーブ中で促進硬化させてもよい。
【0031】
細長い溝状の凹穴部75は、押出成形された成形体に対して後加工により形成してもよいが、可能であれば、押出成形時(硬化前又は硬化途中段階)に金型を利用してプレス加工やエンボス加工により形成することがコスト的に低減させることができるため好ましい。なお、上記した凹穴部75の開口幅の3mm、又は、溝間部分74の15mm等の寸法については、エンボス加工に対応させるために変更しても、本発明の曲面固定時の引張応力よるひびや割れを大幅に緩和する効果を充分に得ることができる。
【0032】
金型を利用する場合、まず、本実施形態の壁面固定部材の基本形状については、押出成形で、取付時壁接触側面が平面状となるように成形して製造する。次いで平面状の取付時壁接触側面に前記凹凸層78の凹凸形状に対応した所定形状を有する金型を載置して加圧する。これにより、取付時壁接触側面72に凹凸層78が形成される。加圧終了後、金型を取り外し、養生硬化することにより本実施形態の壁面固定部材を製造することができる。なお、金型は平面状のみではなく、ローラー状のものを使用して、連続的に成形することもできる。また、金型を利用することが適切ではない場合、工具を利用した後加工により取付時壁接触側面72に凹凸層78を形成する。
【0033】
また、図11に示すように、胴縁11の側壁80には、胴縁11の長手方向に沿って止流溝81を形成することもできる。止流溝81を形成すれば、表装材の接続部等から漏水が表面側に流出することを防ぐうえで、さらに有効である。
【0034】
水硬性セメント組成物は、例えば、水との化学反応で硬化する水硬性セメントを少なくとも含む材料である。水硬性セメントとしては、水との化学反応で硬化するものであれば特に限定されず、例えば、各種ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、アルミナセメント、シリカセメント、マグネシアセメント、硫酸塩セメント等の全てが使用可能である。
【0035】
表装材31は、内壁面2に固定される壁面固定部材であり、例えば、窯業系サイディング等の窯業系パネル、木質系パネル、軽量気泡コンクリートパネル等である。表装材31は、胴縁11の長手方向に垂直に配置され、内壁2まで届く長尺のアンカーボルト51で胴縁11及び内壁2に固定される。本実施形態の複数の細長い溝状の凹穴部75は、表装材31に設け、直接に表装材31を内壁面2に設置してもよい。つまり、本実施形態の細長い複数の溝状の凹穴部75は、内壁面2に設置可能な表装材31又は、内壁面2に表装材31を固定するために用いられる中間構造体(胴縁11)に用いることができる。
【0036】
発明者の実験によれば、胴縁11の水硬性セメント組成物に繊維状の材料を含ませた場合に、上記したようなアンカーボルトの保持性の向上効果及びセメント成形体の靱性向上効果が得られた。このため、本実施形態のセメント系の材料のマトリクスでは、例えば、水硬性セメントに繊維状の材料を含んでいる。この繊維補強水硬性セメント組成物を成形して胴縁11とする。尚、この組成物には、後述するシリカ質原料、パルプ及び水溶性セルロースを含み、更に、減水剤等の混和剤、鉱物繊維及び軽量骨材等を含んでもよい。
【0037】
上記のような水硬性セメント組成物に配合される繊維としては、好ましくはPE繊維、PP繊維又はPVA繊維であり、特に有効な強度発現の観点からPVA繊維が好ましい。これは、セメント系材料に含まれる繊維材料をPE繊維、PP繊維又はPVA繊維の何れかを含むようにすることで、それらの高い可撓性又は靱性等により、より高いエネルギー吸収能と高い可撓性又は靱性、大きい耐加重を得ることができたためと考えられる。又、水硬性組成物に配合される繊維としては、上記したPE繊維、PP繊維又はPVA繊維の他にも、アラミド繊維、アクリル樹脂、炭素繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル系繊維等が挙げられる。
【0038】
PP繊維を胴縁11のセメント系の材料に含まれる高分子樹脂の繊維材料として使用する場合は、繊維長が3〜15mm、好ましくは6〜12mm、繊維径が5〜40μm、好ましくは10〜30μm、アスペクト比が150〜1000、好ましくは200〜700であることが望ましい。尚、繊維の「アスペクト比」とは、繊維長を繊維断面の面積と同面積を有する相当円の直径で除した値である。
【0039】
PE繊維を胴縁11のセメント系の材料に含まれる高分子樹脂の繊維材料として使用する場合も、繊維長が3〜15mm、好ましくは6〜12mm、繊維径が5〜40μm、好ましくは10〜30μm、アスペクト比が150〜1000、好ましくは200〜700であることが望ましい。
【0040】
PVA繊維を胴縁11のセメント系の材料に含まれる高分子樹脂の繊維材料として使用する場合は、繊維長が3〜100mm、好ましくは3〜50mm、より好ましくは3〜15mm、繊維径が5〜200μm、好ましくは10〜100μm、アスペクト比が1100〜1000、好ましくは150〜400であることが望ましい。
【0041】
上記繊維は、硬化後の成形体における体積混入率が1〜10%、好ましくは2〜7%となるように配合される。それにより、本発明の用いるセメント系押出成形体として好ましい多重亀裂性能を呈するからである。なお、多重亀裂性能を発揮することより、曲率を有する壁面に対して、その曲面に沿わせて現場で曲げ加工しながら固定することが容易となる。繊維の体積混入率がより小さいと亀裂が入ったときにそこに集中する応力を支えることができず、多重亀裂性を発揮できない。また体積混入率がより大きいと繊維同士の接触部分が増加してセメントとの一体化を妨害するため充分な補強効果が得られなくなり、やはり多重亀裂性が発揮できない。なお、本発明において、「多重亀裂」とは次のことを意味する。曲げ応力が印加されてセメント硬化体に最初の亀裂が入った段階で、その亀裂部に応力が集中して、通常のセメント硬化体ではそのまま破断に至る。すなわち応力−歪曲線が直線となる弾性変形の段階で破断に至る。そのためエネルギー吸収能が低く、脆性破壊を呈する。これに対して最初の亀裂が入ったのちも、直ちに材料全体の破断に至らず、最初の亀裂に続いて複数の亀裂が発生する現象が存在する。これを多重亀裂という。多重亀裂が発生すると、応力が分散されるため、最初の亀裂発生後も増加する荷重に耐えて大きな歪に至るまで破壊せず、高いエネルギー吸収能と高い靭性を示す。
【0042】
繊維の「体積混入率」とは、以下の方法によって測定された値を用いている。セメント硬化体を成形する際の型からの抜き方向に対して直角方向に裁断し、その裁断面を走査電子顕微鏡を用いて、加速電圧25kVで反射電子像を観察した。セメント硬化体中の繊維混入率Vfは、顕微鏡の視野にある観察面の繊維の断面積の合計を、電子顕微鏡の視野の面積で除した値として求めた。繊維混入率Vfは、試験片の断裁面中の異なる3つの視野について測定した値の平均値を採用した。尚、セメント硬化体を成形する際の型からの抜き方向というのは、後述する押出成形が可能な実施形態では、押出方向となる。
【0043】
繊維長がより短い、繊維径がより大きい、又はアスペクト比がより小さい場合は、曲げ応力が付加された状態において、最初に亀裂が生じたときに、繊維が架橋しても応力を負担することができず、すぐに引き抜けてしまい、多重亀裂を発生する前に破壊してしまう。一方、繊維長がより長い、繊維径がより小さい、又はアスペクト比がより大きい場合は、曲げ応力が付加された状態において、繊維の引き抜けよりも先に、繊維自体が破断してしまうために多重亀裂が発生しない。
【0044】
以上のように発明者の実験によれば、胴縁11のセメント系の材料に含まれる繊維状の材料として、高分子樹脂を繊維状にした材料を用いた場合に、得られたセメント系押出成形体は、上記したような高いアンカーボルトの保持効果を発生させることができた。特に、発明者の実験によれば、胴縁11のセメント系の材料に含まれる繊維状の材料として、ポリエチレン系樹脂(PE)、ポリプロピレン系樹脂(PP)、又は、ポリビニルアルコール系樹脂(PVA)の何れかを含む高分子樹脂材料を用いた場合に、上記したような高いアンカーボルトの保持効果を発生させることができた。
【0045】
又、発明者の実験によれば、胴縁11のセメント系の材料に含まれる高分子樹脂の繊維材料として、繊維長が3mm乃至100mmで、繊維径が5μm乃至200μmで、アスペクト比が100乃至1000であり、硬化後の成形体における体積混入率が1%乃至10%である場合に、上記したような高いアンカーボルトの保持効果や多重亀裂性能を発生させることができた。これは、セメント系材料に含まれる繊維材料を上記範囲にすることで、繊維が応力に耐えきれないで抜けてしまうこと、繊維自体が破断すること、応力を支えることができないこと、セメントとの一体化を妨害して補強効果が得られなくなること等の問題を避けることができ、上記範囲外では、それらの少なくとも何れかの問題が発生したためと考えられる。
【0046】
水硬性セメント組成物には、通常水硬性セメント以外にシリカ質原料、パルプ、水溶性セルロース等が含まれる。シリカ質原料としては、珪石粉、高炉スラグ、珪砂、フライアッシュ、珪藻土、シリカヒューム、非晶質シリカ等を使用することができる。好ましくは、建築用役物の強度向上及び寸法安定性に寄与する点から、珪石粉、系砂である。これらのシリカ質原料として、好ましくは比表面積(JIS R 5201に記載の方法による)が3000〜15000cm/gのものを使用する。シリカ質原料は、水硬性セメント100重量部に対して40〜100重量部、好ましくは50〜80重量部の割合で配合される。
【0047】
パルプは、綿パルプ又は木材パルプ等の天然パルプが好ましい。天然パルプであれば特に限定されず、バージンパルプのみならず古紙からの再生パルプでも使用可能である。また木材パルプの場合、木材の組織からリグニンを化学的に取り除いた化学パルプ、木材を機械的に処理した機械パルプの何れも使用できる。パルプは繊維長が0.05〜10mmの物が好ましい。パルプは水硬性セメント100重量部に対して1.0〜80重量部、好ましくは2.0〜30重量部の割合で配合される。1.0重量部より少ないと補強効果を発揮できず、また80重量部より多いと分散不良となる。
【0048】
水溶性セルロースとしては、メチルセルロース、エチルセルロース等のアルキルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース、カルボキシルメチルセルロース等を例示することができる。水溶性セルロースは、後述する水硬性組成物の各成分を混合・混練し、成形する際に混練物に粘性を付与し、成形性を向上させるものである。水溶性セルロースは、水硬性セメント100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは2〜7重量部の割合で配合される。0.1重量部より少ないと可塑性がなく成形できない。一方10重量部より多い場合にはこれ以上の硬化の向上は期待できず、コストの上昇を招くだけである。
【0049】
上記成分に加えて、必要に応じて鉱物繊維、軽量骨材等を加えてもよい。鉱物繊維としては、セピオライト、ワラストナイト、タルク、アタパルジャナイト、ロックウール等を例示することができる。鉱物繊維は水硬性セメント100重量部に対して0〜40重量部、好ましくは3〜25重量部の割合で配合される。鉱物繊維が40重量部より多いと強度が低下するので好ましくない。
【0050】
軽量骨材としては、火山れき等の天然軽量骨材、焼成フライアッシュバルーン等の人口軽量骨材、真珠岩パーライト、黒曜石パーライト、バーミキュライト等の超軽量骨材、膨張スラグ等の副産物軽量骨材を使用できる。好ましくは、真珠岩パーライト、黒曜石パーライト、バーミキュライトである。
【0051】
上記以外の添加剤としては、必要に応じて、マイカ、アルミナ、炭酸カルシウム等のシリカ以外の無機質材料、減水剤、界面活性剤、増粘剤、養生促進剤等を配合することもできる。
【0052】
本実施形態の胴縁11の材料は、水硬性セメント組成物を構成する上記成分の混合物に水を加え、硬化することによって得られる。水硬性セメント組成物に加える水の配合量は、一般に水硬性セメント100重量部に対して40〜90重量部が好適である。
【0053】
尚、本実施形態の胴縁11の材料は、その施工においては、胴縁11の材料の重量も作業性に大きく影響する。胴縁11の材料の強度及び作業性を考慮すれば、比重0.9〜2.0程度、好ましくは1.0〜1.5程度のものが好ましく、更に好ましくは、1.1〜1.4のものである。
【0054】
以上の実験結果から、本実施形態の胴縁11は、長さ寸法が1820mm、幅寸法が50mm、厚み寸法が30mmの長尺部材とした。繊維補強した水硬性組成物は、ポルトランドセメント100重量部、珪石粉60重量部、パーライト50重量部、パルプ5重量部、PVA繊維8.0重量部(アスペクト比:150,繊維長6mm)、水溶性セルロース6.0重量部に上記した好適な範囲(水硬性セメント100重量部に対して40〜90重量部)における所望量の水を投入したものである。これら材料を押出成形することにより得られた成形体は、比重1.2程度であり、多重亀裂を生じて破壊する性質を有するものであり、アンカーボルトの保持力の高い押出成形体であった。なお、幅寸法は、通常25〜80mm程度であり、厚み寸法は15〜50mm程度である。
【0055】
また、本実施形態によれば、不燃性であるセメント系の材料で成形することにより不燃性を確保しつつ金属製のような断熱性、加工性及び施工性の低下を抑制でき、その胴縁をアンカーボルトを用いてトンネル内壁に支持しようとする場合に、ひび又は割れが発生しにくいセメント系成形体の胴縁を提供できる。
【0056】
また、本実施形態では、通常のセメント系組成物用の押出成形機により異形状に押出成形することができるので、幅方向の両端間を貫通する複数の溝状の凹穴部75を有する胴縁11を迅速で容易に製造することができる。押出成形機の場合、例えば、1軸又は2軸式のスクリュー式押出成形機から金型を通すことで押出成形することができる。その際に、押出成形体に含まれる気泡を極力少なくするために、真空式の押出成型機を用いることがより好ましい。
【0057】
また、本実施形態では、壁面固定部材である胴縁11を曲面を有する壁面に、例えば横胴縁として使用する場合に、凹凸部の凸部である溝間部分74が壁面に対して面接触するものの、凹部である凹穴部75が胴縁11の両側壁80−80を繋ぐ空間を形成して漏水が通過できるので、胴縁11の側面の表面を伝わって壁面からの漏水が表装材同士の接続部等から表装材の表面に流出することを防ぐことができる。
【0058】
<第2実施形態>
上記した第1実施形態では、胴縁11における凹凸層78の取付時壁接触側面72に、胴縁11の幅寸法L2の一端から他端まで貫通する複数の細長い溝状の凹穴部75を設けた場合について説明したが、第2実施形態では、図5に示したように取付時壁接触側面72に、胴縁11の幅寸法L2の一端から他端まで貫通する複数の被取付壁面(内壁面2)と対向する取付時壁接触側面72に設けられた複数の細長い波状部84、85を設けた場合について説明する。なお、以下の説明において、第1実施形態と同じ構成については図中に同じ符号を付与することで重複する説明を省略する。また、金型の利用、胴縁11の側壁80に形成される止流溝についても第1実施形態と同様であるので重複する説明を省略する。
【0059】
図5に示した本発明の第2の実施形態の胴縁11では、押出成形時において、曲面固定時の引張応力面である取付時壁接触側面72に、複数の波状部84、85に対応する波状凹凸を有するプレスローラーを用いて、規則性を有するように設けることで、第1実施形態と同様に曲面固定時の引張応力に対する一種のバッファ部が形成されることになり、引張応力よるひびや割れを大幅に緩和することができる。なお、多重亀裂性能を発揮することより、曲率を有する壁面に対して、その曲面に沿わせて現場で曲げ加工しながら固定することが容易となる。
【0060】
また、本実施形態では、壁面固定部材である胴縁11を曲面を有する壁面に、例えば横胴縁として使用する場合に、凹凸部の凸部である波状部84の頂点部分が壁面に対して線接触するものの、凹部である波状部85が胴縁11の両側壁80−80を繋ぐ空間を形成して漏水が通過できるので、胴縁11の側面の表面を伝わって壁面からの漏水が表装材同士の接続部等から表装材の表面に流出することを防ぐことができる。
【0061】
<第3実施形態>
上記した第1実施形態及び第2実施形態では、複数の細長い溝状の凹穴部75又は複数の波状部84、85を取付時壁接触側面72に規則性を有するように形成する場合について説明したが、第3実施形態では、図6に示したように取付時壁接触側面72に、胴縁11の幅寸法L2の一端から他端まで貫通する凹凸部をランダムに形成する場合について説明する。なお、以下の説明において、第1実施形態、第2実施形態と同じ構成については図中に同じ符号を付与することで重複する説明を省略する。また、金型の利用、胴縁11の側壁80に形成される止流溝についても第1実施形態と同様であるので重複する説明を省略する。
【0062】
図6に示した本発明の第3の実施形態の胴縁11では、曲面固定時の引張応力面である取付時壁接触側面72に規則性を有していないようにランダムに複数のランダム波状部94、95を設けることで、第1実施形態、第2実施形態と同様に曲面固定時の引張応力に対する一種のバッファ部が形成されることになり、引張応力よるひびや割れを大幅に緩和することができる。
【0063】
また、本実施形態では、壁面固定部材である胴縁11を曲面を有する壁面に、例えば横胴縁として使用する場合に、凹凸部の凸部であるランダム波状部94の頂点部分が壁面に対して線接触するものの、凹部であるランダム波状部95が胴縁11の両側壁80−80を繋ぐ空間を形成して漏水が通過できるので、胴縁11の側面の表面を伝わって壁面からの漏水が表装材同士の接続部等から表装材の表面に流出することを防ぐことができる。
【0064】
<第4実施形態>
上記した第1〜第3実施形態では、胴縁11の幅寸法L2の一端から他端まで貫通する凹凸部を規則性を有するかランダムに形成する場合について説明したが、第4実施形態では、図7に示したように取付時壁接触側面72に、複数の単発の突起部を整列又はランダムに形成する場合について説明する。なお、以下の説明において、第1実施〜第3実施形態と同じ構成については図中に同じ符号を付与することで重複する説明を省略する。また、金型の利用、胴縁11の側壁80に形成される止流溝についても第1実施形態と同様であるので重複する説明を省略する。
【0065】
図7に示した本発明の第4の実施形態の胴縁11では、曲面固定時の引張応力面である取付時壁接触側面72に規則性を有するかランダムに複数の単発の突出部104を平面105から突出させて設けることで、第1〜第3実施形態と同様に曲面固定時の引張応力に対する一種のバッファ部が形成されることになり、引張応力よるひびや割れを大幅に緩和することができる。
【0066】
また、本実施形態では、壁面固定部材である胴縁11を曲面を有する壁面に、例えば横胴縁として使用する場合に、凹凸部の凸部である突出部104の頂点部分が壁面に対して点接触するものの、凹部である平面105が胴縁11の両側壁80−80を繋ぐ空間を形成して漏水が通過できるので、胴縁11の側面の表面を伝わって壁面からの漏水が表装材同士の接続部等から表装材の表面に流出することを防ぐことができる。
【0067】
<第5実施形態>
上記した第1〜第4実施形態では、胴縁11の取付時壁接触側面72に対して突出する凹凸部を規則性を有するかランダムに形成する場合について説明したが、第5実施形態では、図8に示したように取付時壁接触側面72に対して窪んだ複数の単発の凹穴部を整列又はランダムに形成する場合について説明する。なお、以下の説明において、第1実施〜第4実施形態と同じ構成については図中に同じ符号を付与することで重複する説明を省略する。また、金型の利用、胴縁11の側壁80に形成される止流溝についても第1実施形態と同様であるので重複する説明を省略する。
【0068】
図8に示した本発明の第5の実施形態の胴縁11では、曲面固定時の引張応力面である取付時壁接触側面72に規則性を有するかランダムに複数の単発の凹穴部114を平面115から窪ませて設けることで、第1〜第4実施形態と同様に曲面固定時の引張応力に対する一種のバッファ部が形成されることになり、引張応力よるひびや割れを大幅に緩和することができる。
【0069】
<第6実施形態>
図9に示した本発明の第6実施形態の胴縁11では、取付時壁接触側面に規則性を有する多数の四角錐の凹凸部(凹部125と凸部124)を形成している。言い換えれば、図9は凹凸部の凹部125と凸部124の形状が正四角錐の場合である。本実施形態の凹凸部の形状としては、四角錐以外に、四角錐台、四角錐以外の角錐やその角錐台、あるいは円錐や円錐台であってもよく、これらの2種以上の形状が組み合わされたものでもよいが、好適には四角錐または四角錐台であり、さらに好適には正四角錐または正四角錐台である。
【0070】
本実施形態の壁面固定部材は、縦胴縁として使用することができるだけではなく横胴縁として使用することができ、壁面が漏水を伴う場合であっても、壁面固定部材を介して漏水が表装材同士の接続部等から表装材の表面に流出するという問題を生ずることはない。また、壁面が水平方向に曲率を有している場合であっても、施工現場で壁面の曲率に追随させて取付ることができる。なお、第6実施形態では凹凸部が規則性を有する態様であるが、不規則であってもよい。また、他の実施形態と同様に、側壁80に止流溝を形成することもできる。
【0071】
本実施形態の壁面固定部材も、他の実施の形態と同様に押出成形により製造することができる。押出成形においては取付時壁接触側面が平面状となるように成形し、次いで前記凹凸形状に対応した所定の形状を有する金型を平面状の取付時壁接触側面に載置して加圧する。加圧終了後、金型を取り外し、養生硬化することにより本実施形態の壁面固定部材を製造することができる。なお、金型は平面状のみではなく、ローラー状のものを使用して、連続的に成形することもできる。
【0072】
また、本実施形態では、壁面固定部材である胴縁11を曲面を有する壁面に、例えば横胴縁として使用する場合に、凹凸部の凸部である凸部124の頂点部分が壁面に対して点接触するものの、凹部である凹部125が胴縁11の両側壁80−80を繋ぐ空間を形成して漏水が通過できるので、胴縁11の側面の表面を伝わって壁面からの漏水が表装材同士の接続部等から表装材の表面に流出することを防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
上記各実施形態では、トンネルの内壁に壁面固定部材として胴縁をアンカーボルトで固定し、さらにその胴縁の上に壁面固定部材である表装材をアンカーボルトで固定する場合について説明してきたが、本発明の壁面固定部材はこれに限らず、例えば、トンネルの内壁に壁面固定部材である表装材を直接にアンカーボルトで固定する場合、アーチカルバート内壁、アーチ橋のアーチ部壁面、円筒形/楕円筒形等のスタジアム内外壁、円筒形の排気口内外壁、略円筒形の煙突内外壁、円筒形タンクの内外壁等の二次元曲面を有する壁面に表装材を固定する場合にも用いることができる。さらに、球形タンク、卵形/繭形ビル等のように三次元曲面を有する壁面表装材を固定する場合についても本発明を用いることができる。
【符号の説明】
【0074】
1 トンネル、
2 トンネルの内壁面、
11 胴縁(壁面固定部材)、
31 表装材(壁面固定部材)、
51 アンカーボルト、
52 (アンカーボルトの)ボルトヘッド、
72 取付時壁接触側面、
73 取付時開放側面、
74 溝間部分、
75 (溝状の)凹穴部、
76 ボルトヘッド収容溝、
77 高さ調整部、
78 凹凸層、
79 取付用貫通孔、
80 側壁、
81 止流溝、
84、85 (複数の細長い)波状部、
94、95 ランダム波状部、
104 (単発の)突出部、
105、115 平面、
114 (単発の)凹穴部、
124 凸部、
125 凹部、
L1 (胴縁の)厚み寸法、
L2 (胴縁の)幅寸法、
L3 (胴縁のソリッド部の)厚み寸法、
L4 (胴縁の凹凸部の)幅寸法、
L5 (ボルトヘッド収容溝の)幅寸法、
L6 (高さ調整部の)幅寸法、
L7 (高さ調整部の)深さ寸法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物又は構造物の壁面に表装材を浮かし張り法で取付るために、壁面と表装材との間に設置される壁面固定部材であって、
建造物又は構造物の被取付壁面と対向する取付時壁接触面に、凹凸部を形成した
ことを特徴とする壁面固定部材。
【請求項2】
前記凹凸部は、前記取付時壁接触側面から突出する複数の突出部で構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の壁面固定部材。
【請求項3】
前記凹凸部は、前記取付時壁接触側面から窪んだ複数の凹穴部で構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の壁面固定部材。
【請求項4】
前記凹凸部は、前記被取付壁面と対向する面に形成された複数の波状部で構成される
ことを特徴とする請求項1に記載の壁面固定部材。
【請求項5】
前記凹凸部は、角錐、角錐台、円錐または円錐台からなる群から選択された一種または二種以上からなる形状を有し、取付時壁接触面に該形状が多数形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の壁面固定部材。
【請求項6】
前記壁面固定部材は、繊維状の材料を含ませた水硬性セメント組成物を押出成形することにより得られる窯業系材料から形成される
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の壁面固定部材。
【請求項7】
前記繊維状の材料は、繊維長が3mm乃至100mmで、繊維径が5μm乃至200μmで、アスペクト比が100乃至1000であるポリエチレン繊維(PE)、ポリプロピレン繊維(PP)、又は、ポリビニルアルコール繊維(PVA)であり、前記壁面固定部材における体積混入率が1%乃至10%である
ことを特徴とする請求項6項に記載の壁面固定部材。
【請求項8】
請求項1乃至7の壁面固定部材を、建造物又は構造物の曲率を有する壁面に取付ける取付方法であって、
前記壁面固定部材における凹凸部が形成された取付時壁接触側面を、前記曲率を有する壁面側に向け、前記曲率に対応させて撓ませた状態で固定する
ことを特徴とする取付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−72644(P2012−72644A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160709(P2011−160709)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000001096)倉敷紡績株式会社 (296)
【出願人】(000126609)株式会社エーアンドエーマテリアル (99)
【Fターム(参考)】