抗アルツハイマー用組成物及び飲食品
【課題】安価で安全性が高く、抗アルツハイマー作用において異なった作用機序を併せ持ち、アルツハイマー病の予防、改善乃至治療においてより効果的に作用する抗アルツハイマー用組成物及び飲食品の提供。
【解決手段】大豆を発酵させた大豆発酵物から抽出した大豆発酵抽出物を含有する抗アルツハイマー用組成物である。前記大豆発酵物が、大豆摩砕物の固形画分を発酵させた態様、納豆菌、テンペ菌、乳酸菌及び酵母菌の少なくともいずれかを用いて発酵された態様が好ましい。
【解決手段】大豆を発酵させた大豆発酵物から抽出した大豆発酵抽出物を含有する抗アルツハイマー用組成物である。前記大豆発酵物が、大豆摩砕物の固形画分を発酵させた態様、納豆菌、テンペ菌、乳酸菌及び酵母菌の少なくともいずれかを用いて発酵された態様が好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−アミロイドタンパクによって誘導されるアルツハイマー疾患を効果的、かつ安全に治療、改善、又は予防することが可能な抗アルツハイマー用組成物、及び該抗アルツハイマー用組成物を含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会において老人性痴呆症は大きな問題となっており、その予防及び治療法の開発が待たれている。アルツハイマー型痴呆症(以下では「アルツハイマー」と略して呼ぶこともある)は、前記老人性痴呆症の代表的疾患であり、脳の萎縮、老人斑の沈着及び神経原線維変化を特徴とする変性疾患で、神経細胞の脱落が痴呆症状を引き起こすと考えられている。
【0003】
前記アルツハイマーの発症原因についてはいくつかの定説があるが、それらの中でもアミロイド仮説が現在は有力視されている(非特許文献1参照)。病理組織学的解析から、アルツハイマー患者の脳では老人斑が沈着し、それにより神経細胞が脱落して脳の萎縮が生じると考えられている。
【0004】
前記老人斑の主成分は、凝集した不溶性のβ−アミロイド(以下、「Aβ」と略すこともある)である。モノマーのβ−アミロイドは毒性を示さないが、オリゴマーのβ−アミロイドは細胞毒性作用を有しており、アルツハイマー型痴呆症における神経細胞死を引き起こすと考えられている(非特許文献2参照)。また、前記β−アミロイドは、β−セクレターゼによるアミロイド前駆体タンパク質(APP)のプロセシングにより生成され、アルツハイマー患者ではこのβ−アミロイドの生成が増加している(非特許文献3参照)。
近年、β−アミロイドの生成を抑制することを目的にしたβ−セクレターゼの阻害薬、又はβ−アミロイド凝集抑制剤が開発され、アルツハイマーの治療薬として前臨床試験が行われている(非特許文献4及び5参照)。
【0005】
前記β−アミロイドを誘導する因子としては、酸化ストレスが報告されており(非特許文献6参照)、一方、β−アミロイドにより酸化ストレスが誘導されることが報告されている(非特許文献7参照)。また、抗酸化物質がβ−アミロイドによる細胞障害から神経細胞を保護し、更にβ−アミロイドレベルを減少させることも報告されている(非特許文献8参照)。これらのことから、アルツハイマーの発症には酸化ストレスが関与していると思われる。
【0006】
また、神経細胞障害の誘導機序として小胞体ストレスによる障害が報告されている。細胞内でのタンパク質合成において、タンパク質は翻訳後直ちに小胞体へ取り込まれ、その後ゴルジ装置へ送られる。このとき、何らかの理由で正常な高次構造に折り畳まれなかったタンパク質(変性タンパク質)が小胞体へ蓄積してアポトーシスによる細胞死が誘導される。この状態を“小胞体ストレス”と呼び、小胞体ストレスによって誘導される細胞障害は、パーキンソン病、アルツハイマー病などの神経変性疾患の原因に深く関わっている(非特許文献9参照)。
【0007】
また、アルツハイマー型痴呆症患者では、脳内の神経の伝達物質であるアセチルコリンレベルの低下が認められることから、コリン作動性神経の機能低下が原因の一つであると考えられている(非特許文献10参照)。そのため、アセチルコリンの濃度を高めてコリン作動性神経の機能低下を防ぐ治療方法が考えられる。現在、アルツハイマーに対する治療方法として、アセチルコリンを分解する酵素であるアセチルコリンエステラーゼの活性を阻害してアセチルコリンの分解を抑制し、アセチルコリンの減少を抑える治療が主流となっている。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤としては、例えば、ドネペジル(Aricept(登録商標)、ファイザー社製)、リバスチグミン(Exelon(登録商標)、ノバルティス社製)、ガランタミン(Razadyne Reminyl(登録商標)、ジョンソン・エンド・ジョンソン社製)、及びタクリン(Cognex(登録商標)、ワーナー・ランバート社製)が臨床で使用されており、症状の改善、及び進行を遅らせることが報告されている(非特許文献11参照)。
【0008】
また、アルツハイマー型痴呆症を含む神経性疾患の患者には神経突起の消失が認められ、そのため情報が上手く伝達されないことが指摘されている。即ち、神経突起を伸長させることにより情報伝達能を改善させる治療が有用と考えられている。実際、神経細胞から分泌される神経成長因子(NGF)などの神経栄養因子が神経変性疾患に対して優れた効果を示すことが見出され、NGF様活性を持った物質が注目を集めている(特許文献1及び2参照)。
【0009】
一方、アルツハイマーの危険因子として高血圧が示されており(非特許文献12参照)、高血圧患者に処方される降圧薬であるアンジオテンシンII受容体拮抗薬、又はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を使用することで、アルツハイマー病のリスクが低下する可能性が示されている(非特許文献13参照)。
【0010】
また、高血圧マウスでは、脳内へのβ―アミロイドの沈着が著明に増加することが報告されており(非特許文献14参照)、更に近年、高血圧状態では最終糖化産物(advanced glycation endproducts;以下、「AGE」と称することがある)の受容体であるRAGE(Receptor for AGE)の発現増加が認められ、RAGEを介した刺激によりβ―アミロイドの沈着が誘導されることが示されている(非特許文献15参照)。
【0011】
以上のことから、アルツハイマー型痴呆症発症の予防及び治療においては、(1)β−アミロイド生成酵素であるβ−セクレターゼの活性を阻害し、β−アミロイドの産生を抑制すること、(2)生成されたβ−アミロイドの凝集を抑制して細胞毒性を示すオリゴマー型のβ−アミロイドの形成を抑制すること、(3)神経細胞の保護作用により、凝集したβ−アミロイドによる細胞毒性から神経細胞を防御すること、(4)抗酸化作用により、酸化ストレスによるβ−アミロイドの生成、及びβ−アミロイドによる神経細胞障害を抑制すること、(5)変性タンパク生成時に誘導される小胞体ストレスによる細胞障害を抑制すること、(6)アセチルコリンエステラーゼの活性を阻害して神経伝達物質であるアセチルコリンの分解を抑制すること、(7)神経細胞の突起伸長を誘導し、神経伝達能を改善すること、(8)ACE阻害により高血圧を抑制すること、(9)AGEの生成を抑制してRAGEの刺激を抑制することなどの作用効果を有する組成物が有効であると考えられる。
【0012】
上記のような作用機序を併せ持ち、アルツハイマー病の予防、改善乃至治療において非常に効果的な組成物を得ることが熱望されており、また、そのような組成物には、医薬品において問題となり得るコスト、副作用等の問題がないことが強く求められる。しかしながら、これまでにそのような組成物は得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−230946号公報
【特許文献2】特開2006−042684号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Hardy Jら、Science 297(5590):353−356、2002
【非特許文献2】Yankner Bら、 Science 245(4916):417−429、1989
【非特許文献3】Cole SLら、J.Biol.Chem.283(44):29621−29625、2008
【非特許文献4】Albert JS、 Prog.Med.Chem. 48:133−161、2009
【非特許文献5】Panza Fら、 Aging Clin. Exp. Res. 21(6):386−406、2009
【非特許文献6】Cutler RGら、Pro.Nat.Sci.101(7):2070−2075、2004
【非特許文献7】Tabner BJら、J.Bio.Chem.280(43):35789−35792、2005
【非特許文献8】Cutler RGら、Pro.Nat.Sci.101(7):2070−2075、2004
【非特許文献9】Lindholm Dら、Cell Death Differ 13(3):385−392、2006
【非特許文献10】Weinstock Mら、Neurodegeneration 4(4):349−356、1995
【非特許文献11】Cacabelos R、Expert Optin Pharmacother 6(12):1967−1987、2005
【非特許文献12】認知症疾患治療ガイドライン2010、医学書院:173−174、2010
【非特許文献13】Davies NMら、J.Alzheimers Dis.26(4):699−708、2011
【非特許文献14】Gentile MTら、Neurobiol. Aging 30(2):222−228、2009
【非特許文献15】Carnevale Dら、Hypertension 60(1):188−197、2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような現状に鑑み、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、安価で安全性が高く、抗アルツハイマー作用において異なった作用機序を併せ持ち、アルツハイマー病の予防、改善乃至治療においてより効果的に作用する抗アルツハイマー用組成物及び飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、大豆を発酵させた大豆発酵物から抽出した大豆発酵抽出物が、β−アミロイドの生成及び凝集を抑制し、凝集β−アミロイドによって誘導される神経細胞障害を抑制することを見出した。また、神経伝達物質であるアセチルコリンの分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼの活性を抑制することを見出した。更に、神経突起の伸張を誘導させ神経伝達能を改善することを見出した。また、ACE阻害作用、AGE生成阻害作用を有することを見出した。このように多面的な作用によって前記大豆発酵抽出物が、アルツハイマー型痴呆症を効果的に予防、改善乃至治療できることを見出した。以上より、本発明者らは、本発明の完成に至った。
【0017】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 大豆を発酵させた大豆発酵物から抽出した大豆発酵抽出物を含有することを特徴とする抗アルツハイマー用組成物である。
<2> 大豆発酵物が、大豆摩砕物の固形画分を発酵させた前記<1>に記載の抗アルツハイマー用組成物である。
<3> 大豆発酵物が、納豆菌、テンペ菌、乳酸菌及び酵母菌の少なくともいずれかを用いて発酵された前記<1>から<2>のいずれかに記載の抗アルツハイマー用組成物である。
<4> モロヘイヤ抽出物を更に含有する前記<1>から<3>のいずれかに記載の抗アルツハイマー用組成物である。
<5> 大豆発酵抽出物が、熱水及びエタノール水溶液のいずれかで抽出されてなる前記<1>から<4>のいずれかに記載の抗アルツハイマー用組成物である。
<6> 大豆を発酵させた大豆発酵物から抽出した大豆発酵抽出物を含有し、β−セクレターゼ阻害作用、β−アミロイド凝集抑制作用、神経細胞保護作用、酸化ストレス性細胞障害抑制作用、小胞体ストレス性細胞障害抑制作用、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用、神経突起伸長作用、ACE阻害作用、及びAGE生成阻害作用の少なくともいずれかを有することを特徴とする組成物である。
<7> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の抗アルツハイマー用組成物を含有することを特徴とする飲食品である。
<8> 前記<6>に記載の組成物を含有することを特徴とする飲食品である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、前記目的を達成することができ、安価で安全性が高く、抗アルツハイマー作用において異なった作用機序を併せ持ち、アルツハイマー病の予防、改善乃至治療においてより効果的に作用する抗アルツハイマー用組成物及び飲食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、実施例1におけるβ−セクレターゼ阻害作用を示した図である。
【図2】図2は、実施例2におけるβ−アミロイド凝集抑制作用を示した図である。
【図3】図3は、実施例3における凝集β−アミロイドによる神経細胞傷害に対する保護作用を示した図である。
【図4】図4は、実施例4における酸化ストレスによる細胞障害をAAPHにより誘導したときの細胞障害抑制作用を示した図である。
【図5】図5は、実施例5における小胞体ストレスによる細胞障害をツニカマイシンにより誘導したときの細胞障害抑制作用を示した図である。
【図6】図6は、実施例6におけるアセチルコリンエステラーゼ阻害作用を示した図である。
【図7】図7は、実施例7における神経突起伸長を認めた細胞の割合を示した図である。
【図8A】図8Aは、実施例7における対照(未処理)の細胞の顕微鏡写真の一例である。
【図8B】図8Bは、実施例7における神経突起伸長を示した細胞の顕微鏡写真の一例である。
【図9】図9は、実施例8におけるACE阻害作用を示した図である。
【図10】図10は、実施例9におけるAGE生成阻害作用を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(抗アルツハイマー用組成物)
本発明の抗アルツハイマー用組成物は、大豆発酵抽出物を含有し、好ましくはモロヘイヤ抽出物を含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
【0021】
<大豆発酵抽出物>
前記大豆発酵抽出物は、大豆を発酵させた大豆発酵物から抽出されてなる。
【0022】
<<大豆>>
前記大豆は、大豆又はその類縁種(以下「大豆等」と称することもある)である限り、その種類、生産条件などに制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、市販品を用いることができる。前記大豆は、発酵を効率よく行わせる観点から、前記大豆を水につけて柔らかくしたもの、大豆を水とともに摩砕した大豆摩砕物、該大豆摩砕物の固形画分が好ましく、これらの中でも、大豆摩砕物の固形画分が特に好ましい。
【0023】
−大豆摩砕物の固形画分−
前記大豆摩砕物の固形画分は、前記大豆等を原料とし、その摩砕物の液相を除去した固形画分である。前記大豆摩砕物の固形画分の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、大豆等を水に浸漬し十分に吸水させた後、豆挽機を用いて水とともに大豆等を摩砕し、得られた摩砕大豆懸濁液から、絞り器によって液相を除去し、固相を回収する方法などが挙げられる。
【0024】
前記豆挽機としては、特に制限はなく、公知のものから適宜選択することができ、例えば、スーパーマスコロイダー(増幸産業株式会社製)などが挙げられる。前記摩砕の条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、セラミック製高速グラインダーにより摩砕する。
また、前記絞り器としては、特に制限はなく、公知のものから適宜選択することができ、例えば、KM−1000(ミナミ産業株式会社製)などが挙げられる。液相を除去する条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、自然落下により除去する。
【0025】
前記固形画分としては、上記製造方法において回収されたままのものでも、それを乾燥したものでもよいが、前記固形画分の含水率としては、20質量%以下が好ましい。
前記大豆摩砕物の固形画分の組成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、乾物における含有量が、粗蛋白質20質量%〜30質量%、粗脂肪10質量%〜15質量%、可溶無窒素物25質量%〜35質量%、粗繊維10質量%〜20質量%であることが好ましい。なお、前記組成の分析は、例えば、近赤外分光法などによって行うことができる。
【0026】
<<大豆発酵物>>
前記大豆発酵物は、前記大豆を発酵させてなる。
前記大豆を発酵させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、飲食品用途、菌自体の有する栄養素、発酵香などの観点から、納豆菌、テンペ菌、乳酸菌、酵母菌が好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、高い機能性を持った生成物が高収量で得られる点で、納豆菌が特に好ましく、テンペ菌、乳酸菌及び酵母菌の少なくともいずれかと納豆菌との組み合わせも好適に用いることができる。
なお、前記菌としては、安全性が保証されている限り、自然的に、又は人為的な変異手段により生成し、菌学的性質が変異した変異株も用いることができる。
【0027】
前記納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)としては、特に制限はなく、市販されている一般的な納豆菌を用いることができ、例えば、株式会社成瀬醗酵化学研究所から入手することができる。
【0028】
前記テンペ菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Rhizopus oligosporus、Rhizopus oryzae、Rhizopus stoloniferなどが挙げられる。これらの中でも、発酵の容易さの観点からRhizopus oligosporusが好ましい。なお、これらのテンペ菌は、インドネシアからの輸入品として、或いは日本の種麹業者から容易に入手することができる。
【0029】
前記乳酸菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラクトバシルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバシルス・ビフィズス(Lactobacillus bifidus)、ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)、ラクトバシルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバシルス・サンフランシスコ(Lactobacillus sanfrancisco)、ラクトバシルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ストレプトマイセス・ラクチス(Streptomyces lactis)などが挙げられる。これらの中でも、乳酸の生成量の点で、ラクトバシルス・アシドフィルスが好ましく、味の点で、ラクトバシルス・ビフィズスが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの乳酸菌の選択によって、最終的な発酵物の味、香り、栄養素等を変化させることができる。なお、これらの乳酸菌は、いずれも公知の菌で、容易に入手することができる。
【0030】
前記酵母菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、サッカロミセス属、シゾサッカロミセス属、カンジダ属、クルイベロミセス属などが挙げられる。これらの中でも、飲食品用途の観点から、サッカロミセス属の酵母が好ましく、清酒酵母、ビール酵母が特に好ましい。これらの酵母菌は、例えば、財団法人日本醸造協会から入手することができる。
【0031】
前記菌の接種量としては、菌が増殖し得る限り特に制限はなく、菌の種類に応じて適宜選択できるが、通常1×103個/g〜1×108個/gである。前記接種量が、1×103個/g未満であると、菌による発酵に時間がかかることがあり、1×108個/gを超えると、菌の増殖が抑制されて発酵が進まないことがある。
【0032】
前記発酵条件、例えば、発酵温度、発酵時間、発酵の形態、pH、通気条件等も適宜決定されうるが、使用する菌の増殖等の特性に適した条件とすることが好ましい。
【0033】
前記発酵温度としては、前記菌による発酵が進む限り特に制限はなく、使用する菌の種類に応じて適宜選択することができるが、通常10℃〜55℃であり、20℃〜50℃が好ましく、25℃〜45℃がより好ましい。
【0034】
前記発酵時間としては、菌が増殖し得る限り特に制限はなく、菌の種類に応じて適宜選択することができるが、通常1時間〜5日間であり、3時間〜3日間が好ましく、6時間〜2日間がより好ましい。
【0035】
前記発酵は、通常、静置で行われるが、適宜攪拌を行ってもよく、適宜通気を行ってもよい。
前記攪拌を行う場合の条件としては、特に制限はなく、十分攪拌されていればよい。
【0036】
前記発酵時のpHとしては、菌が増殖し得る限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常4.5〜8.5であり、5.5〜7.5が好ましい。なお、pHの調整には、pH調整用の塩酸又は水酸化ナトリウムを使用してもよいし、pH調整用バッファーを使用してもよい。
【0037】
<<抽出>>
前記抽出に用いられる溶媒としては、特に制限はなく、公知のものを用いることができ、例えば、水;メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール;アセトン;ヘキサン;これらの混合物(アルコール水溶液等)などが挙げられる。これらの中でも、人体への悪影響がない点で、水、エタノール及びこれらの混合物が好ましく、効率的に活性物質を抽出できる点で、熱水、エタノール水溶液がより好ましく、エタノール水溶液が特に好ましい。
前記熱水とは、温度が70℃以上の水のことを指し、水の温度としては、抽出効率の点で、80℃〜100℃が好ましく、90℃〜100℃がより好ましい。
前記アルコール水溶液のアルコール濃度としては、80体積%〜100体積%が好ましく、90体積%〜100体積%がより好ましい。
【0038】
前記抽出の方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、例えば、前記溶媒を前記大豆発酵物に加え、攪拌して抽出後、遠心分離機により固液分離する方法などが挙げられる。前記遠心分離機としては、例えば、デカンター連続式横型遠心分離機、自動バスケット型遠心分離機などが挙げられ、これらは組み合わせて用いてもよい。
【0039】
前記大豆発酵抽出物は、更に濃縮又は希釈してもよく、凍結乾燥、加熱乾燥等の乾燥処理に付して使用してもよい。その形態は特に限定されず、例えば、溶液、懸濁液、半固体(例えば、ゲル状、ペースト状等)、固体(例えば、粉末、顆粒等)などであってもよい。
【0040】
前記濃縮の方法としては、特に制限はなく、公知の濃縮方法を用いることができる。
濃縮後の前記大豆発酵抽出物のBrix値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、9〜12が好ましい。
【0041】
<モロヘイヤ抽出物>
前記モロヘイヤ抽出物は、前記モロヘイヤを溶媒で抽出した抽出液、或いは、前記抽出液を更に濃縮又は希釈したものである。その形態は特に限定されず、例えば、溶液、懸濁液、半固体(例えば、ゲル状、ペースト状等)、固体(例えば、粉末、顆粒等)などであってもよい。
【0042】
前記モロヘイヤ抽出物の原料であるモロヘイヤとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シナノキ科モロヘイヤの地上部が挙げられる。前記地上部としては、例えば、葉をそのまま用いてもよいし、葉を乾燥させたもの(乾燥モロヘイヤ)を用いてもよいし、乾燥モロヘイヤを粉砕した乾燥モロヘイヤ粉砕物(粉末)を用いてもよい。これらの中でも、モロヘイヤの有する有用成分を抽出しやすい点で、乾燥モロヘイヤ粉砕物が好ましい。
前記乾燥モロヘイヤ粉末としては、ミルなどを使用して適宜調製したものでも、市販品でもよく、該市販品としては、例えば、モロヘイヤ末(福田龍株式会社製)などが挙げられる。
【0043】
前記溶媒としては、特に制限はなく、公知のものを用いることができ、例えば、水;メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール;アセトン;ヘキサン;これらの混合物などが挙げられる。これらの中でも、効率的に活性物質を抽出できる点で、水が好ましく、熱水がより好ましい。熱水の定義、温度の好ましい範囲、及びアルコール水溶液の濃度の好ましい範囲は、上述したのと同様である。
【0044】
前記モロヘイヤ抽出物の抽出方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、例えば、溶媒を前記モロヘイヤに加え、攪拌して抽出後、遠心分離機により固液分離する方法などが挙げられる。前記遠心分離機としては、例えば、デカンター連続式横型遠心分離機、自動バスケット型遠心分離機などが挙げられ、これらは組み合わせて用いてもよい。
【0045】
前記大豆発酵抽出物と前記モロヘイヤ抽出物との混合比(大豆発酵抽出物/モロヘイヤ抽出物、体積比)としては、特に制限はなく適宜選択することができるが、1/20〜10/1が好ましく、1/10〜5/1がより好ましい。
【0046】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、茶カテキン、アントシアニン、ルチン、ヘスペリジン、ケルセチン、イソフラボン、タンニン、クロロゲン酸、エラグ酸、クルクミン、リグナン、サポニンなどが挙げられる。
前記茶カテキンの原料である茶の種類、抽出方法などとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、有効成分であるポリフェノールを多く含むことが好ましい。前記茶カテキンにおける総ポリフェノール含量としては、60質量%以上が好ましい。
【0047】
前記大豆発酵抽出物に対する前記その他の成分の質量比(その他の成分/大豆発酵抽出物)としては、特に制限はなく適宜選択することができるが、1/3,000以上が好ましく、1/1,500以上がより好ましい。前記質量比が、1/3,000未満であると、前記その他の成分の機能性が発揮されないことがある。
【0048】
<用途>
本発明の組成物は、後述する実施例で示すように、β−セクレターゼ阻害作用、β−アミロイド凝集抑制作用、神経細胞保護作用、酸化ストレス性細胞障害抑制作用、小胞体ストレス性細胞障害抑制作用、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用、神経突起伸長作用、ACE阻害作用、AGE生成阻害作用など、アルツハイマー型認知症の発症メカニズムに対する多面的な作用を有するため、抗アルツハイマー用途に好適に用いることができる。また、本発明の組成物は、前記各作用を有するため、β−セクレターゼ阻害剤、β−アミロイド凝集抑制剤、神経細胞保護剤、酸化ストレス性細胞障害抑制剤、小胞体ストレス性細胞障害抑制剤、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、神経突起伸長剤、ACE阻害剤、AGE生成阻害剤としても好適に用いることができる。
【0049】
(飲食品)
本発明の飲食品の態様の1つは、本発明の抗アルツハイマー用組成物を含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
本発明の飲食品の他の態様の1つは、本発明の大豆を発酵させた大豆発酵物から抽出した大豆発酵抽出物を含有し、β−セクレターゼ阻害作用、β−アミロイド凝集抑制作用、神経細胞保護作用、酸化ストレス性細胞障害抑制作用、小胞体ストレス性細胞障害抑制作用、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用、神経突起伸長作用、ACE阻害作用、及びAGE生成阻害作用の少なくともいずれかを有する組成物(以下、「各種作用を有する組成物」と称することがある)を含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
本発明の飲食品は、前記抗アルツハイマー用組成物及び前記各種作用を有する組成物の少なくともいずれかをそのままの状態、ペレット、粉末、顆粒などの形態として使用してもよく、食品添加物、調味料、ふりかけとして使用してもよい。また、本発明の前記抗アルツハイマー用組成物及び前記各種作用を有する組成物の少なくともいずれかを食材中に含有せしめて使用してもよい。これにより、機能性食品或いは健康食品を得ることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。実施例の数値は、同条件の試験を2回以上行った平均値である。
【0051】
(製造例1:大豆発酵抽出物の製造)
<大豆発酵物の調製>
大豆を水で洗浄し、水に17時間浸漬し十分に吸水させた。大豆が吸水し十分に柔らかくなったことを確認し、豆挽機(スーパーマスコロイダー、増幸産業株式会社製)を用いて水とともに大豆を摩砕した。前記摩砕には、セラミック製高速グラインダーを用いた。
摩砕された大豆をステンレス製のタンクに移し、均一になるように攪拌した。その後、摩砕大豆懸濁液をよく撹拌しながら100℃で20分間加熱した。加熱後、絞り器(KM−1000、ミナミ産業株式会社製)を用いて摩砕大豆懸濁液から液相を除去し、固相(大豆固形画分)を回収した。このとき、液相の除去は、自然落下によって行った。得られた大豆固形画分100kgを適度に加温し、十分に攪拌した後に、納豆菌(成瀬醗酵化学研究所から入手)0.2L(菌数:1.0×1010個)を均一に添加した。納豆菌接種後の大豆固形画分をステンレス容器又はポリエチレン袋に移し、通気性を確保した状態で、40℃の恒温培養器又は恒温室内で18時間発酵を行った。得られた大豆発酵物は、使用時まで冷凍保管した。
【0052】
<大豆発酵抽出物の調製>
ステンレス製のタンクに95体積%エタノール水溶液3,000Lを入れ、70℃に加温した。次いで、前記大豆発酵物900kgを投入し、18時間静置した。静置後、40℃まで冷却し、2時間撹拌した。攪拌終了後、フィルタープレスを用いて濾過を行い、澄明な濾液を回収した。この濾液を330Lになるまで減圧濃縮し、大豆発酵抽出物を得た。
【0053】
<モロヘイヤ抽出物の調製>
ステンレス製のタンクに水2,050Lを入れ、70℃に加温した。続いて乾燥モロヘイヤ粉砕物(モロヘイヤ末、福田龍株式会社製)63kgを投入し、90℃まで加温後、1時間撹拌した。攪拌終了後、遠心分離機を用いて固液分離を行った。液層のみを回収し、フィルタープレスを用いて濾過を行い、澄明な濾液(モロヘイヤ抽出物)2,500Lを得た。
【0054】
<被験物質の調整>
前記大豆発酵抽出物と前記モロヘイヤ抽出物とをステンレス製のタンク内で混合した。この混合液を750Lになるまで減圧濃縮した。その後、クエン酸ナトリウムを用いてpHを3.7に調整した。pH調整後、90℃で10分間加熱殺菌し、10℃で12時間静置させた。その後、フィルタープレス及び0.5μmラインフィルターを組み合わせて濾過を行い、澄明な溶液を回収した。Brix値は、9.3〜9.7に調整した。Brix値調整後、90℃で10分間加熱殺菌し、0.5μmラインフィルターを用いて精密濾過した。このようにして得られた大豆発酵抽出物を含有する組成物(以下、「大豆発酵組成物」と称することもある)を以下の実施例において使用した。
【0055】
(実施例1:β−セクレターゼ阻害作用)
製造例1で得られた大豆発酵組成物を被験物質として、β−セクレターゼ阻害活性を測定した。測定は、TR−FRET BASE1 Assay Kit(インビトロジェン社製)を用いた蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)測定により行った。即ち、20μLのβ−セクレターゼ(BACE1)(2.1U/mL)、20μLのフルオロセイン標識BASE1基質(600nmol/L)、及び各濃度に希釈した被験物質(希釈倍率は、それぞれ4倍、8倍及び16倍)20μLを混合し、暗所において室温で60分間インキュベーションした。次いで、20μLのテルビウム標識抗ビオチン抗体(20nmol/L)を加え、暗所において室温で60分間インキュベーションした後、プレートリーダー(スペクトラフルオ、テカン社製)を用いて励起波長360nm(Ex)、測定波長535nm(Em1)乃至495nm(Em2)で発光強度を測定した。対照としては、前記被験物質に代えて同量の純水を加えた。なお、β−セクレターゼ活性の阻害率は、以下の式から算出した。結果を図1に示す。
β−セクレターゼ阻害率(%)=[1−{(対照のEm1/対照のEm2)/(被験物質のEm1/被験物質のEm2)}]×100
Em1:測定波長535nmにおける測定値
Em2:測定波長495nmにおける測定値
【0056】
図1から、本発明の組成物は、β−セクレターゼ(BASE1)の活性を抑制することが分かった。これまで、β−セクレターゼ阻害剤については、動物実験において脳内のβ−アミロイドの蓄積を低減できることが示されている(非特許文献4及び5参照)。したがって、本発明の組成物は、β−セクレターゼの活性を阻害することにより、β−アミロイドの生成を抑制でき、アルツハイマー型認知症の予防、改善乃至治療に有効であると考えられる。
【0057】
(実施例2:β−アミロイド凝集抑制作用)
製造例1で得られた大豆発酵組成物を被験物質として、β−アミロイド凝集抑制活性を測定した。アルツハイマー病の原因物質であるβ−アミロイドは、アミノ酸が40残基又は42残基で構成されており、それぞれβ−アミロイド(1−40)及びβ−アミロイド(1−42)と呼ばれている。β−アミロイドを試験管内でインキュベーションすることにより、β−アミロイドの自発的な重合が生じ、βシート構造に富んだ不溶性のアミロイド凝集体が形成される。
本実施例においては、β−アミロイド(1−42)を用い、自然に形成されるアミロイド凝集体を定量するキットを用いて測定した。即ち、リン酸カルシウム緩衝液(50mmol/L)で20μmol/Lに調整したβ−アミロイド(1−42)(株式会社ペプチド研究所製)、及び純水で各濃度に調整した被験物質(希釈倍率は、それぞれ4倍、8倍及び16倍)それぞれ24.5μLずつを96ウェルプレートに添加して混合し、85rpmで攪拌しながら37℃で24時間インキュベートした。インキュベート後、凝集したβ−アミロイドを、凝集タンパク質に特異的なクロスβシート構造と結合することで蛍光を発する試薬を用いた定量キット(ProteoStat Protein Aggregation Assay;コスモバイオ社製)により、キットの説明書に準じて測定した。即ち、Detection reagent loading solutionを2μLずつ前記プレートの各ウェルに添加し、遮光して室温で15分間インキュベーション後、プレートリーダー(スペクトラフルオ、テカン社製)を用いて励起波長485nm、測定波長595nmで発光強度を測定した。被験物質の代わりに純水で処理した対照の値と比較することにより阻害率を算出した。具体的には、下記式からβ−アミロイド凝集阻害率(%)を求めた。結果を図2に示す。
β−アミロイド凝集阻害率(%)={(対照蛍光強度−被験物質蛍光強度)/対照蛍光強度}×100
【0058】
図2から、本発明の組成物は、神経細胞に障害を与えるβ−アミロイド凝集体の生成を抑制できることが分かった。これまでに、β−アミロイド凝集抑制剤は、臨床試験の第2相試験において、特定の遂行機能の改善作用が示されている(非特許文献5参照)。したがって、本発明の組成物は、β−アミロイドの凝集を抑制することにより、アルツハイマー型認知症の予防、改善乃至治療に有効であると考えられる。
【0059】
(実施例3:凝集β−アミロイドによる神経細胞障害に対する保護作用)
製造例1で得られた大豆発酵組成物を被験物質として、凝集β−アミロイドによる神経細胞障害に対する保護作用を試験した。ラット副腎褐色腫細胞(PC−12;ヒューマンサイエンス研究資源バンクから入手可能)を10%馬胎児血清及び5%牛胎児血清を含んだDMEM培地に懸濁して1×104個/mLの濃度に調整し、96ウェルプレートに100μL/ウェルで播種した。神経成長因子(NGF;シグマ社製)を50ng/mLで細胞に添加し、48時間、5%CO2インキュベーターで培養して神経細胞に分化誘導させた。分化誘導した細胞に各濃度に希釈した被験物質(希釈倍率は、それぞれ4倍、8倍及び16倍)を添加し、24時間後にβ−アミロイド(1−42)(株式会社ペプチド研究所製)20μmol/Lを添加し、更に24時間培養した。培養終了後、細胞増殖キット(Cell Proliferation Kit I(MTT);ロシュ社製)を用いたMTT法により細胞生存率を求めた。なお、対照として、前記被験物質に代えて同量の純水を添加した対照(Aβ+)、並びに前記被験物質及びβ−アミロイド(1−42)に代えて同量の純水を添加した対照(Aβ−)も同様に評価した。結果を図3に示す。
【0060】
図3から、対照においてβ−アミロイドを培養細胞へ添加することにより、培養液中でβ−アミロイド凝集体が形成され細胞生存率の顕著な低下が認められた。一方、本発明の組成物を培養細胞に添加した場合には、β−アミロイドを添加された細胞の生存率の上昇が認められた。このことから、本発明の組成物は、凝集β−アミロイドの神経細胞障害に対し、保護作用を有すると考えられる。
【0061】
(実施例4:酸化ストレスによる細胞障害に対する保護作用)
製造例1で得られた大豆発酵組成物を被験物質として、酸化ストレスによる細胞障害に対する保護作用を試験した。ラット副腎褐色腫細胞(PC−12;ヒューマンサイエンス研究資源バンクから入手可能)を、10%馬胎児血清及び5%牛胎児血清を含んだDMEM培地に懸濁し、96ウェルのマイクロプレートに1ウェル当たり1×105個/80μLで播種し、37℃、5%CO2インキュベーターで24時間培養した。PC−12については神経成長因子(NGF;シグマ社製)を50ng/mLで細胞に添加して培養し、神経細胞に分化させた。培養後、培地を無血清のDMEM培地80μLに置換し、各濃度に希釈した被験物質(希釈倍率は、それぞれ4倍、8倍及び16倍)10μLを添加して1時間培養した。酸化ストレス誘導剤として、20mmol/Lの2,2’−Azobis(2−amidinopropane)Dihydrochloride(AAPH;フナコシ株式会社製)を10μL添加し、更に3時間培養した。培養後、細胞の生存率をCell Proliferation Kit I(MTT)(ロシュ社製)を用いたMTT法により求めた。なお、対照として、前記大豆発酵組成物に代えて同量の純水を添加した対照(AAPH+)、並びに前記大豆発酵組成物及びAAPHに代えて同量の純水を添加した対照(AAPH−)も同様に評価した。結果を図4に示す。
【0062】
図4より、対照においては、AAPHによる酸化ストレス負荷により細胞生存率の低下が認められた。一方、本発明の組成物を細胞に添加しておくことにより、AAPH処理された細胞の生存率の上昇が認められ、活性酸素による細胞障害から細胞を保護することが示された。したがって、本発明の組成物は、酸化ストレスによって誘導される神経細胞障害を抑制できると考えられる。
【0063】
(実施例5:小胞体ストレス誘導細胞障害に対する保護作用)
製造例1で得られた大豆発酵組成物を被験物質として、小胞体ストレス誘導細胞障害に対する保護作用を試験した。小胞体ストレスの誘導には、タンパク質の糖鎖修飾阻害により小胞体ストレスを誘導することが知られているツニカマイシンを用いた。
ラット副腎褐色腫由来PC−12細胞(ヒューマンサイエンス研究資源バンクから入手可能)を10%馬胎児血清及び5%牛胎児血清を含んだDMEM培地に懸濁して1×104個/mLの濃度に調整し96ウェルプレートに100μL/ウェルで播種した。神経成長因子(NGF;シグマ社製)を50ng/mLで細胞に添加し、48時間、5%CO2インキュベーターで培養して神経細胞に分化誘導させた。培養培地を除去し、1%牛胎児血清を含むDMEM培地を80μL添加し、純水で各濃度に調整した被験物質(希釈倍率は、それぞれ4倍、8倍及び16倍)10μLを添加して1時間培養した。培養後、2.0μg/mLのツニカマイシン(和光純薬工業株式会社製)10μLを添加して24時間、5%CO2インキュベーターで培養してタンパク質の糖鎖修飾阻害による小胞体ストレスを誘導した。各ウェルの培地を除去し、1%牛胎児血清を含むDMEM培地を90μL添加し、Cell Counting kit−8(WST−8、株式会社同仁化学研究所製)を用いて細胞生存率を求めた。なお、対照として、前記大豆発酵組成物に代えて同量の純水を添加した対照(ツニカマイシン+)、並びに前記大豆発酵組成物及びAAPHに代えて同量の純水を添加した対照(ツニカマイシン−)も同様に評価した。結果を図5に示す。
【0064】
図5から、対照においては、細胞のツニカマイシン処理により小胞体ストレス誘導による生存率の低下が認められた。一方、本発明の組成物を細胞に添加しておくことにより、ツニカマイシン処理された細胞生存率の上昇が認められた。この結果から、本発明の組成物は、変性タンパク質の小胞体蓄積による細胞障害を抑制できると考えられる。
【0065】
(実施例6:アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害作用)
製造例1で得られた大豆発酵組成物を被験物質としてAChE阻害活性を測定した。AChE阻害試験は、Ferreira Aら(J. Ethnopharmacol. 108(1)、31−37、2006)の方法に従って行った。即ち、0.28U/mLのAChE溶液5μLに各濃度に希釈した被験物質(希釈倍率は、それぞれ4倍、8倍及び16倍)20μLを加え、3分間処理した。処理後、1.5mmol/Lの発色剤(5,5’−ジチオビス−2−ニトロベンゾイックアシッド(DTNB);シグマ社製)と1.5mmol/Lの基質(ヨウ化アセチルチオコリン(AChI);シグマ社製)の混合液140μLを加え、室温で15分間インキュベーションした後、AChEによる前記基質の加水分解反応によって生じる黄色に呈色するアニオン(TNB)の412nmにおける吸光度を測定した。被験物質に代えて同量の純水を用いた値を対照の値とし、その値と比較することにより阻害率の値を算出した。具体的には、下記式からAChE阻害率(%)を求めた。結果を図6に示す。
AChE阻害率(%)={(対照吸光度−被験物吸光度)/対照吸光度}×100
【0066】
図6から、本発明の組成物は、AChEの活性を阻害できることが分かった。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、例えば、ドネペジル(Aricept(登録商標)、ファイザー社製)、リバスチグミン(Exelon(登録商標)、ノバルティス社製)、ガランタミン(Razadyne Reminyl(登録商標)、ジョンソン・エンド・ジョンソン社製)、及びタクリン(Cognex(登録商標)、ワーナー・ランバート社製)が臨床で使用されており、症状の改善、及び進行を遅らせることができる(非特許文献11参照)。したがって、本発明の組成物は、神経伝達物質であるアセチルコリンの分解を抑制し、アセチルコリンの濃度を高めることによってコリン作動性神経の機能低下を防げることができ、アルツハイマー型認知症の予防、改善乃至治療に有効であると考えられる。
【0067】
(実施例7:神経突起伸長作用)
ラット副腎褐色腫由来PC−12細胞(ヒューマンサイエンス研究資源バンクから入手可能)を10%馬胎児血清及び5%牛胎児血清を含んだDMEM培地に懸濁し、コラーゲンコートした24ウェルのマイクロプレート(コラーゲンIコーティングプレート、ヌンク社製)に1×104個の細胞(100μL)を播種して5%CO2インキュベーターで24時間培養した。各ウェルの培地を除去し、10%馬胎児血清及び10%牛胎児血清を含むDMEM培地450μLに置換し、各濃度に希釈した被験物質(希釈倍率は、それぞれ8倍、16倍及び32倍)を50μL添加した。陽性対照としては、前記被験物質に代えて、50ng/mL又は100ng/mLで神経成長因子(NGF;シグマ社製)を添加し、陰性対照としては、前記被験物質に代えて同量の純水を添加した。上記処理を行った細胞を5%CO2インキュベーターで3日間培養した後、顕微鏡にて観察し、神経突起形成を目視で確認後、写真撮影した。また、1視野中の全細胞数及び神経突起を形成している細胞をカウントし、神経突起を形成している細胞の割合を算出した。結果を図7に示す。また、陰性対照(未処理)の細胞の写真を図8Aに、16倍希釈した大豆発酵組成物で処理した細胞の写真を図8Bに示す。
【0068】
図7から、本発明の組成物は、神経突起伸長作用を有することが分かった。この作用は、32倍希釈液においても陽性対照として用いた100ng/mLのNGFと同等の効果であり、濃度を上げると更に強い伸長作用が認められた。この結果から、本発明の組成物は、神経細胞の突起伸長を誘導し、神経伝達能を改善できると考えられる。
【0069】
(実施例8:ACE阻害作用)
製造例1で得られた大豆発酵組成物を被験物質として、ACE阻害活性をACE kit−WST(株式会社同仁化学研究所製)を用い、キットの説明書に準じて測定した。
具体的には、各ウェルに各濃度に希釈した被験物質(希釈倍率は、16倍から2,048倍)、又は純水(blank1、blank2)を20μLずつ入れた。次いで、各ウェルにSubstrate bufferを20μLずつ加えた。blank2のウェルには、純水を20μLずつ加え、サンプル(被験物質)溶液を入れたウェルとblank1のウェルには、Enzyme working solutionを20μLずつ加えた。各ウェルを37℃で60分間インキュベートした後、各ウェルにIndicator working solutionを200μLずつ加えた。更に室温で10分間インキュベートし、プレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。ACE活性阻害率(%)は、下記の計算式により求めた。結果を図9に示す。
ACE活性阻害率(%)={(Ablank1−Asample)/(Ablank1−Ablank2)}×100
Asample:サンプル(被験物質)の450nmの吸光度
Ablank1:blank1の450nmの吸光度
Ablank2:blank2の450nmの吸光度
【0070】
図9から本発明の組成物は、ACEの活性を阻害できることが分かった。この結果から、本発明の組成物は、アンジオテンシンIIの生成を抑制して、アルツハイマー病の危険因子である高血圧症を予防、改善乃至治療できると考えられる。
【0071】
(実施例9:AGE生成阻害作用)
製造例1で得られた大豆発酵組成物を被験物質として、希釈倍率4倍、2倍、又は1倍のAGE生成阻害率を以下の方法により測定した。
10質量%グリシン(和光純薬工業株式会社製)450μL、10質量%グルコース(和光純薬工業株式会社製)450μL、及び被験物質100μLを混合して60℃反応させた。24時間反応させた後、波長450nmで吸光度を測定した。対照には同量の純水を用い、AGE生成阻害率は、次の式により算出した。結果を図10に示す。
AGE生成阻害率(%)={(対照吸光度−被験物質吸光度)/対照吸光度}×100
【0072】
図10から本発明の組成物は、AGEの生成を阻害できることが分かった。この結果から、本発明の組成物は、高血圧状態におけるRAGEを介したβ−アミロイドの蓄積を抑制できると考えられる。
【0073】
実施例1〜9から、本発明の組成物は、アルツハイマー病で観察される症状を抑制する多面的な作用を示すことが分かった。これまで、アルツハイマー病には、多くの発症メカニズムが存在することが示されており、それらの発症メカニズムに対して総合的に作用することで、より有効的な予防、改善乃至治療効果を奏することが期待されてきた。本発明の組成物は、既存のβ−セクレターゼ阻害剤、β−アミロイド凝集抑制剤、又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤のようにアルツハイマー病の個々の発症原因に対して特異的に作用する医薬品とは異なり、多くの発症メカニズムに対する総合的な作用効果を有する。したがって、本発明の組成物は、アルツハイマー型痴呆症の予防、改善乃至治療に効果的に働くことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の組成物は、副作用がなく安価であり、アルツハイマー型痴呆症を効果的かつ安全に予防、改善乃至治療することができるため、抗アルツハイマー用組成物として好適に用いることができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−アミロイドタンパクによって誘導されるアルツハイマー疾患を効果的、かつ安全に治療、改善、又は予防することが可能な抗アルツハイマー用組成物、及び該抗アルツハイマー用組成物を含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会において老人性痴呆症は大きな問題となっており、その予防及び治療法の開発が待たれている。アルツハイマー型痴呆症(以下では「アルツハイマー」と略して呼ぶこともある)は、前記老人性痴呆症の代表的疾患であり、脳の萎縮、老人斑の沈着及び神経原線維変化を特徴とする変性疾患で、神経細胞の脱落が痴呆症状を引き起こすと考えられている。
【0003】
前記アルツハイマーの発症原因についてはいくつかの定説があるが、それらの中でもアミロイド仮説が現在は有力視されている(非特許文献1参照)。病理組織学的解析から、アルツハイマー患者の脳では老人斑が沈着し、それにより神経細胞が脱落して脳の萎縮が生じると考えられている。
【0004】
前記老人斑の主成分は、凝集した不溶性のβ−アミロイド(以下、「Aβ」と略すこともある)である。モノマーのβ−アミロイドは毒性を示さないが、オリゴマーのβ−アミロイドは細胞毒性作用を有しており、アルツハイマー型痴呆症における神経細胞死を引き起こすと考えられている(非特許文献2参照)。また、前記β−アミロイドは、β−セクレターゼによるアミロイド前駆体タンパク質(APP)のプロセシングにより生成され、アルツハイマー患者ではこのβ−アミロイドの生成が増加している(非特許文献3参照)。
近年、β−アミロイドの生成を抑制することを目的にしたβ−セクレターゼの阻害薬、又はβ−アミロイド凝集抑制剤が開発され、アルツハイマーの治療薬として前臨床試験が行われている(非特許文献4及び5参照)。
【0005】
前記β−アミロイドを誘導する因子としては、酸化ストレスが報告されており(非特許文献6参照)、一方、β−アミロイドにより酸化ストレスが誘導されることが報告されている(非特許文献7参照)。また、抗酸化物質がβ−アミロイドによる細胞障害から神経細胞を保護し、更にβ−アミロイドレベルを減少させることも報告されている(非特許文献8参照)。これらのことから、アルツハイマーの発症には酸化ストレスが関与していると思われる。
【0006】
また、神経細胞障害の誘導機序として小胞体ストレスによる障害が報告されている。細胞内でのタンパク質合成において、タンパク質は翻訳後直ちに小胞体へ取り込まれ、その後ゴルジ装置へ送られる。このとき、何らかの理由で正常な高次構造に折り畳まれなかったタンパク質(変性タンパク質)が小胞体へ蓄積してアポトーシスによる細胞死が誘導される。この状態を“小胞体ストレス”と呼び、小胞体ストレスによって誘導される細胞障害は、パーキンソン病、アルツハイマー病などの神経変性疾患の原因に深く関わっている(非特許文献9参照)。
【0007】
また、アルツハイマー型痴呆症患者では、脳内の神経の伝達物質であるアセチルコリンレベルの低下が認められることから、コリン作動性神経の機能低下が原因の一つであると考えられている(非特許文献10参照)。そのため、アセチルコリンの濃度を高めてコリン作動性神経の機能低下を防ぐ治療方法が考えられる。現在、アルツハイマーに対する治療方法として、アセチルコリンを分解する酵素であるアセチルコリンエステラーゼの活性を阻害してアセチルコリンの分解を抑制し、アセチルコリンの減少を抑える治療が主流となっている。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤としては、例えば、ドネペジル(Aricept(登録商標)、ファイザー社製)、リバスチグミン(Exelon(登録商標)、ノバルティス社製)、ガランタミン(Razadyne Reminyl(登録商標)、ジョンソン・エンド・ジョンソン社製)、及びタクリン(Cognex(登録商標)、ワーナー・ランバート社製)が臨床で使用されており、症状の改善、及び進行を遅らせることが報告されている(非特許文献11参照)。
【0008】
また、アルツハイマー型痴呆症を含む神経性疾患の患者には神経突起の消失が認められ、そのため情報が上手く伝達されないことが指摘されている。即ち、神経突起を伸長させることにより情報伝達能を改善させる治療が有用と考えられている。実際、神経細胞から分泌される神経成長因子(NGF)などの神経栄養因子が神経変性疾患に対して優れた効果を示すことが見出され、NGF様活性を持った物質が注目を集めている(特許文献1及び2参照)。
【0009】
一方、アルツハイマーの危険因子として高血圧が示されており(非特許文献12参照)、高血圧患者に処方される降圧薬であるアンジオテンシンII受容体拮抗薬、又はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬を使用することで、アルツハイマー病のリスクが低下する可能性が示されている(非特許文献13参照)。
【0010】
また、高血圧マウスでは、脳内へのβ―アミロイドの沈着が著明に増加することが報告されており(非特許文献14参照)、更に近年、高血圧状態では最終糖化産物(advanced glycation endproducts;以下、「AGE」と称することがある)の受容体であるRAGE(Receptor for AGE)の発現増加が認められ、RAGEを介した刺激によりβ―アミロイドの沈着が誘導されることが示されている(非特許文献15参照)。
【0011】
以上のことから、アルツハイマー型痴呆症発症の予防及び治療においては、(1)β−アミロイド生成酵素であるβ−セクレターゼの活性を阻害し、β−アミロイドの産生を抑制すること、(2)生成されたβ−アミロイドの凝集を抑制して細胞毒性を示すオリゴマー型のβ−アミロイドの形成を抑制すること、(3)神経細胞の保護作用により、凝集したβ−アミロイドによる細胞毒性から神経細胞を防御すること、(4)抗酸化作用により、酸化ストレスによるβ−アミロイドの生成、及びβ−アミロイドによる神経細胞障害を抑制すること、(5)変性タンパク生成時に誘導される小胞体ストレスによる細胞障害を抑制すること、(6)アセチルコリンエステラーゼの活性を阻害して神経伝達物質であるアセチルコリンの分解を抑制すること、(7)神経細胞の突起伸長を誘導し、神経伝達能を改善すること、(8)ACE阻害により高血圧を抑制すること、(9)AGEの生成を抑制してRAGEの刺激を抑制することなどの作用効果を有する組成物が有効であると考えられる。
【0012】
上記のような作用機序を併せ持ち、アルツハイマー病の予防、改善乃至治療において非常に効果的な組成物を得ることが熱望されており、また、そのような組成物には、医薬品において問題となり得るコスト、副作用等の問題がないことが強く求められる。しかしながら、これまでにそのような組成物は得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−230946号公報
【特許文献2】特開2006−042684号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Hardy Jら、Science 297(5590):353−356、2002
【非特許文献2】Yankner Bら、 Science 245(4916):417−429、1989
【非特許文献3】Cole SLら、J.Biol.Chem.283(44):29621−29625、2008
【非特許文献4】Albert JS、 Prog.Med.Chem. 48:133−161、2009
【非特許文献5】Panza Fら、 Aging Clin. Exp. Res. 21(6):386−406、2009
【非特許文献6】Cutler RGら、Pro.Nat.Sci.101(7):2070−2075、2004
【非特許文献7】Tabner BJら、J.Bio.Chem.280(43):35789−35792、2005
【非特許文献8】Cutler RGら、Pro.Nat.Sci.101(7):2070−2075、2004
【非特許文献9】Lindholm Dら、Cell Death Differ 13(3):385−392、2006
【非特許文献10】Weinstock Mら、Neurodegeneration 4(4):349−356、1995
【非特許文献11】Cacabelos R、Expert Optin Pharmacother 6(12):1967−1987、2005
【非特許文献12】認知症疾患治療ガイドライン2010、医学書院:173−174、2010
【非特許文献13】Davies NMら、J.Alzheimers Dis.26(4):699−708、2011
【非特許文献14】Gentile MTら、Neurobiol. Aging 30(2):222−228、2009
【非特許文献15】Carnevale Dら、Hypertension 60(1):188−197、2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような現状に鑑み、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、安価で安全性が高く、抗アルツハイマー作用において異なった作用機序を併せ持ち、アルツハイマー病の予防、改善乃至治療においてより効果的に作用する抗アルツハイマー用組成物及び飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、大豆を発酵させた大豆発酵物から抽出した大豆発酵抽出物が、β−アミロイドの生成及び凝集を抑制し、凝集β−アミロイドによって誘導される神経細胞障害を抑制することを見出した。また、神経伝達物質であるアセチルコリンの分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼの活性を抑制することを見出した。更に、神経突起の伸張を誘導させ神経伝達能を改善することを見出した。また、ACE阻害作用、AGE生成阻害作用を有することを見出した。このように多面的な作用によって前記大豆発酵抽出物が、アルツハイマー型痴呆症を効果的に予防、改善乃至治療できることを見出した。以上より、本発明者らは、本発明の完成に至った。
【0017】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 大豆を発酵させた大豆発酵物から抽出した大豆発酵抽出物を含有することを特徴とする抗アルツハイマー用組成物である。
<2> 大豆発酵物が、大豆摩砕物の固形画分を発酵させた前記<1>に記載の抗アルツハイマー用組成物である。
<3> 大豆発酵物が、納豆菌、テンペ菌、乳酸菌及び酵母菌の少なくともいずれかを用いて発酵された前記<1>から<2>のいずれかに記載の抗アルツハイマー用組成物である。
<4> モロヘイヤ抽出物を更に含有する前記<1>から<3>のいずれかに記載の抗アルツハイマー用組成物である。
<5> 大豆発酵抽出物が、熱水及びエタノール水溶液のいずれかで抽出されてなる前記<1>から<4>のいずれかに記載の抗アルツハイマー用組成物である。
<6> 大豆を発酵させた大豆発酵物から抽出した大豆発酵抽出物を含有し、β−セクレターゼ阻害作用、β−アミロイド凝集抑制作用、神経細胞保護作用、酸化ストレス性細胞障害抑制作用、小胞体ストレス性細胞障害抑制作用、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用、神経突起伸長作用、ACE阻害作用、及びAGE生成阻害作用の少なくともいずれかを有することを特徴とする組成物である。
<7> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の抗アルツハイマー用組成物を含有することを特徴とする飲食品である。
<8> 前記<6>に記載の組成物を含有することを特徴とする飲食品である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、前記目的を達成することができ、安価で安全性が高く、抗アルツハイマー作用において異なった作用機序を併せ持ち、アルツハイマー病の予防、改善乃至治療においてより効果的に作用する抗アルツハイマー用組成物及び飲食品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、実施例1におけるβ−セクレターゼ阻害作用を示した図である。
【図2】図2は、実施例2におけるβ−アミロイド凝集抑制作用を示した図である。
【図3】図3は、実施例3における凝集β−アミロイドによる神経細胞傷害に対する保護作用を示した図である。
【図4】図4は、実施例4における酸化ストレスによる細胞障害をAAPHにより誘導したときの細胞障害抑制作用を示した図である。
【図5】図5は、実施例5における小胞体ストレスによる細胞障害をツニカマイシンにより誘導したときの細胞障害抑制作用を示した図である。
【図6】図6は、実施例6におけるアセチルコリンエステラーゼ阻害作用を示した図である。
【図7】図7は、実施例7における神経突起伸長を認めた細胞の割合を示した図である。
【図8A】図8Aは、実施例7における対照(未処理)の細胞の顕微鏡写真の一例である。
【図8B】図8Bは、実施例7における神経突起伸長を示した細胞の顕微鏡写真の一例である。
【図9】図9は、実施例8におけるACE阻害作用を示した図である。
【図10】図10は、実施例9におけるAGE生成阻害作用を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(抗アルツハイマー用組成物)
本発明の抗アルツハイマー用組成物は、大豆発酵抽出物を含有し、好ましくはモロヘイヤ抽出物を含有し、更に必要に応じてその他の成分を含有する。
【0021】
<大豆発酵抽出物>
前記大豆発酵抽出物は、大豆を発酵させた大豆発酵物から抽出されてなる。
【0022】
<<大豆>>
前記大豆は、大豆又はその類縁種(以下「大豆等」と称することもある)である限り、その種類、生産条件などに制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、市販品を用いることができる。前記大豆は、発酵を効率よく行わせる観点から、前記大豆を水につけて柔らかくしたもの、大豆を水とともに摩砕した大豆摩砕物、該大豆摩砕物の固形画分が好ましく、これらの中でも、大豆摩砕物の固形画分が特に好ましい。
【0023】
−大豆摩砕物の固形画分−
前記大豆摩砕物の固形画分は、前記大豆等を原料とし、その摩砕物の液相を除去した固形画分である。前記大豆摩砕物の固形画分の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、大豆等を水に浸漬し十分に吸水させた後、豆挽機を用いて水とともに大豆等を摩砕し、得られた摩砕大豆懸濁液から、絞り器によって液相を除去し、固相を回収する方法などが挙げられる。
【0024】
前記豆挽機としては、特に制限はなく、公知のものから適宜選択することができ、例えば、スーパーマスコロイダー(増幸産業株式会社製)などが挙げられる。前記摩砕の条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、セラミック製高速グラインダーにより摩砕する。
また、前記絞り器としては、特に制限はなく、公知のものから適宜選択することができ、例えば、KM−1000(ミナミ産業株式会社製)などが挙げられる。液相を除去する条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、自然落下により除去する。
【0025】
前記固形画分としては、上記製造方法において回収されたままのものでも、それを乾燥したものでもよいが、前記固形画分の含水率としては、20質量%以下が好ましい。
前記大豆摩砕物の固形画分の組成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、乾物における含有量が、粗蛋白質20質量%〜30質量%、粗脂肪10質量%〜15質量%、可溶無窒素物25質量%〜35質量%、粗繊維10質量%〜20質量%であることが好ましい。なお、前記組成の分析は、例えば、近赤外分光法などによって行うことができる。
【0026】
<<大豆発酵物>>
前記大豆発酵物は、前記大豆を発酵させてなる。
前記大豆を発酵させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、飲食品用途、菌自体の有する栄養素、発酵香などの観点から、納豆菌、テンペ菌、乳酸菌、酵母菌が好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、高い機能性を持った生成物が高収量で得られる点で、納豆菌が特に好ましく、テンペ菌、乳酸菌及び酵母菌の少なくともいずれかと納豆菌との組み合わせも好適に用いることができる。
なお、前記菌としては、安全性が保証されている限り、自然的に、又は人為的な変異手段により生成し、菌学的性質が変異した変異株も用いることができる。
【0027】
前記納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)としては、特に制限はなく、市販されている一般的な納豆菌を用いることができ、例えば、株式会社成瀬醗酵化学研究所から入手することができる。
【0028】
前記テンペ菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Rhizopus oligosporus、Rhizopus oryzae、Rhizopus stoloniferなどが挙げられる。これらの中でも、発酵の容易さの観点からRhizopus oligosporusが好ましい。なお、これらのテンペ菌は、インドネシアからの輸入品として、或いは日本の種麹業者から容易に入手することができる。
【0029】
前記乳酸菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ラクトバシルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバシルス・ビフィズス(Lactobacillus bifidus)、ストレプトコッカス・フェカリス(Streptococcus faecalis)、ラクトバシルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバシルス・サンフランシスコ(Lactobacillus sanfrancisco)、ラクトバシルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ストレプトマイセス・ラクチス(Streptomyces lactis)などが挙げられる。これらの中でも、乳酸の生成量の点で、ラクトバシルス・アシドフィルスが好ましく、味の点で、ラクトバシルス・ビフィズスが好ましい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの乳酸菌の選択によって、最終的な発酵物の味、香り、栄養素等を変化させることができる。なお、これらの乳酸菌は、いずれも公知の菌で、容易に入手することができる。
【0030】
前記酵母菌としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、サッカロミセス属、シゾサッカロミセス属、カンジダ属、クルイベロミセス属などが挙げられる。これらの中でも、飲食品用途の観点から、サッカロミセス属の酵母が好ましく、清酒酵母、ビール酵母が特に好ましい。これらの酵母菌は、例えば、財団法人日本醸造協会から入手することができる。
【0031】
前記菌の接種量としては、菌が増殖し得る限り特に制限はなく、菌の種類に応じて適宜選択できるが、通常1×103個/g〜1×108個/gである。前記接種量が、1×103個/g未満であると、菌による発酵に時間がかかることがあり、1×108個/gを超えると、菌の増殖が抑制されて発酵が進まないことがある。
【0032】
前記発酵条件、例えば、発酵温度、発酵時間、発酵の形態、pH、通気条件等も適宜決定されうるが、使用する菌の増殖等の特性に適した条件とすることが好ましい。
【0033】
前記発酵温度としては、前記菌による発酵が進む限り特に制限はなく、使用する菌の種類に応じて適宜選択することができるが、通常10℃〜55℃であり、20℃〜50℃が好ましく、25℃〜45℃がより好ましい。
【0034】
前記発酵時間としては、菌が増殖し得る限り特に制限はなく、菌の種類に応じて適宜選択することができるが、通常1時間〜5日間であり、3時間〜3日間が好ましく、6時間〜2日間がより好ましい。
【0035】
前記発酵は、通常、静置で行われるが、適宜攪拌を行ってもよく、適宜通気を行ってもよい。
前記攪拌を行う場合の条件としては、特に制限はなく、十分攪拌されていればよい。
【0036】
前記発酵時のpHとしては、菌が増殖し得る限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、通常4.5〜8.5であり、5.5〜7.5が好ましい。なお、pHの調整には、pH調整用の塩酸又は水酸化ナトリウムを使用してもよいし、pH調整用バッファーを使用してもよい。
【0037】
<<抽出>>
前記抽出に用いられる溶媒としては、特に制限はなく、公知のものを用いることができ、例えば、水;メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール;アセトン;ヘキサン;これらの混合物(アルコール水溶液等)などが挙げられる。これらの中でも、人体への悪影響がない点で、水、エタノール及びこれらの混合物が好ましく、効率的に活性物質を抽出できる点で、熱水、エタノール水溶液がより好ましく、エタノール水溶液が特に好ましい。
前記熱水とは、温度が70℃以上の水のことを指し、水の温度としては、抽出効率の点で、80℃〜100℃が好ましく、90℃〜100℃がより好ましい。
前記アルコール水溶液のアルコール濃度としては、80体積%〜100体積%が好ましく、90体積%〜100体積%がより好ましい。
【0038】
前記抽出の方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、例えば、前記溶媒を前記大豆発酵物に加え、攪拌して抽出後、遠心分離機により固液分離する方法などが挙げられる。前記遠心分離機としては、例えば、デカンター連続式横型遠心分離機、自動バスケット型遠心分離機などが挙げられ、これらは組み合わせて用いてもよい。
【0039】
前記大豆発酵抽出物は、更に濃縮又は希釈してもよく、凍結乾燥、加熱乾燥等の乾燥処理に付して使用してもよい。その形態は特に限定されず、例えば、溶液、懸濁液、半固体(例えば、ゲル状、ペースト状等)、固体(例えば、粉末、顆粒等)などであってもよい。
【0040】
前記濃縮の方法としては、特に制限はなく、公知の濃縮方法を用いることができる。
濃縮後の前記大豆発酵抽出物のBrix値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、9〜12が好ましい。
【0041】
<モロヘイヤ抽出物>
前記モロヘイヤ抽出物は、前記モロヘイヤを溶媒で抽出した抽出液、或いは、前記抽出液を更に濃縮又は希釈したものである。その形態は特に限定されず、例えば、溶液、懸濁液、半固体(例えば、ゲル状、ペースト状等)、固体(例えば、粉末、顆粒等)などであってもよい。
【0042】
前記モロヘイヤ抽出物の原料であるモロヘイヤとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シナノキ科モロヘイヤの地上部が挙げられる。前記地上部としては、例えば、葉をそのまま用いてもよいし、葉を乾燥させたもの(乾燥モロヘイヤ)を用いてもよいし、乾燥モロヘイヤを粉砕した乾燥モロヘイヤ粉砕物(粉末)を用いてもよい。これらの中でも、モロヘイヤの有する有用成分を抽出しやすい点で、乾燥モロヘイヤ粉砕物が好ましい。
前記乾燥モロヘイヤ粉末としては、ミルなどを使用して適宜調製したものでも、市販品でもよく、該市販品としては、例えば、モロヘイヤ末(福田龍株式会社製)などが挙げられる。
【0043】
前記溶媒としては、特に制限はなく、公知のものを用いることができ、例えば、水;メタノール、エタノール、ブタノール等のアルコール;アセトン;ヘキサン;これらの混合物などが挙げられる。これらの中でも、効率的に活性物質を抽出できる点で、水が好ましく、熱水がより好ましい。熱水の定義、温度の好ましい範囲、及びアルコール水溶液の濃度の好ましい範囲は、上述したのと同様である。
【0044】
前記モロヘイヤ抽出物の抽出方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、例えば、溶媒を前記モロヘイヤに加え、攪拌して抽出後、遠心分離機により固液分離する方法などが挙げられる。前記遠心分離機としては、例えば、デカンター連続式横型遠心分離機、自動バスケット型遠心分離機などが挙げられ、これらは組み合わせて用いてもよい。
【0045】
前記大豆発酵抽出物と前記モロヘイヤ抽出物との混合比(大豆発酵抽出物/モロヘイヤ抽出物、体積比)としては、特に制限はなく適宜選択することができるが、1/20〜10/1が好ましく、1/10〜5/1がより好ましい。
【0046】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、茶カテキン、アントシアニン、ルチン、ヘスペリジン、ケルセチン、イソフラボン、タンニン、クロロゲン酸、エラグ酸、クルクミン、リグナン、サポニンなどが挙げられる。
前記茶カテキンの原料である茶の種類、抽出方法などとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、有効成分であるポリフェノールを多く含むことが好ましい。前記茶カテキンにおける総ポリフェノール含量としては、60質量%以上が好ましい。
【0047】
前記大豆発酵抽出物に対する前記その他の成分の質量比(その他の成分/大豆発酵抽出物)としては、特に制限はなく適宜選択することができるが、1/3,000以上が好ましく、1/1,500以上がより好ましい。前記質量比が、1/3,000未満であると、前記その他の成分の機能性が発揮されないことがある。
【0048】
<用途>
本発明の組成物は、後述する実施例で示すように、β−セクレターゼ阻害作用、β−アミロイド凝集抑制作用、神経細胞保護作用、酸化ストレス性細胞障害抑制作用、小胞体ストレス性細胞障害抑制作用、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用、神経突起伸長作用、ACE阻害作用、AGE生成阻害作用など、アルツハイマー型認知症の発症メカニズムに対する多面的な作用を有するため、抗アルツハイマー用途に好適に用いることができる。また、本発明の組成物は、前記各作用を有するため、β−セクレターゼ阻害剤、β−アミロイド凝集抑制剤、神経細胞保護剤、酸化ストレス性細胞障害抑制剤、小胞体ストレス性細胞障害抑制剤、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、神経突起伸長剤、ACE阻害剤、AGE生成阻害剤としても好適に用いることができる。
【0049】
(飲食品)
本発明の飲食品の態様の1つは、本発明の抗アルツハイマー用組成物を含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
本発明の飲食品の他の態様の1つは、本発明の大豆を発酵させた大豆発酵物から抽出した大豆発酵抽出物を含有し、β−セクレターゼ阻害作用、β−アミロイド凝集抑制作用、神経細胞保護作用、酸化ストレス性細胞障害抑制作用、小胞体ストレス性細胞障害抑制作用、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用、神経突起伸長作用、ACE阻害作用、及びAGE生成阻害作用の少なくともいずれかを有する組成物(以下、「各種作用を有する組成物」と称することがある)を含有してなり、更に必要に応じてその他の成分を含有してなる。
本発明の飲食品は、前記抗アルツハイマー用組成物及び前記各種作用を有する組成物の少なくともいずれかをそのままの状態、ペレット、粉末、顆粒などの形態として使用してもよく、食品添加物、調味料、ふりかけとして使用してもよい。また、本発明の前記抗アルツハイマー用組成物及び前記各種作用を有する組成物の少なくともいずれかを食材中に含有せしめて使用してもよい。これにより、機能性食品或いは健康食品を得ることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。実施例の数値は、同条件の試験を2回以上行った平均値である。
【0051】
(製造例1:大豆発酵抽出物の製造)
<大豆発酵物の調製>
大豆を水で洗浄し、水に17時間浸漬し十分に吸水させた。大豆が吸水し十分に柔らかくなったことを確認し、豆挽機(スーパーマスコロイダー、増幸産業株式会社製)を用いて水とともに大豆を摩砕した。前記摩砕には、セラミック製高速グラインダーを用いた。
摩砕された大豆をステンレス製のタンクに移し、均一になるように攪拌した。その後、摩砕大豆懸濁液をよく撹拌しながら100℃で20分間加熱した。加熱後、絞り器(KM−1000、ミナミ産業株式会社製)を用いて摩砕大豆懸濁液から液相を除去し、固相(大豆固形画分)を回収した。このとき、液相の除去は、自然落下によって行った。得られた大豆固形画分100kgを適度に加温し、十分に攪拌した後に、納豆菌(成瀬醗酵化学研究所から入手)0.2L(菌数:1.0×1010個)を均一に添加した。納豆菌接種後の大豆固形画分をステンレス容器又はポリエチレン袋に移し、通気性を確保した状態で、40℃の恒温培養器又は恒温室内で18時間発酵を行った。得られた大豆発酵物は、使用時まで冷凍保管した。
【0052】
<大豆発酵抽出物の調製>
ステンレス製のタンクに95体積%エタノール水溶液3,000Lを入れ、70℃に加温した。次いで、前記大豆発酵物900kgを投入し、18時間静置した。静置後、40℃まで冷却し、2時間撹拌した。攪拌終了後、フィルタープレスを用いて濾過を行い、澄明な濾液を回収した。この濾液を330Lになるまで減圧濃縮し、大豆発酵抽出物を得た。
【0053】
<モロヘイヤ抽出物の調製>
ステンレス製のタンクに水2,050Lを入れ、70℃に加温した。続いて乾燥モロヘイヤ粉砕物(モロヘイヤ末、福田龍株式会社製)63kgを投入し、90℃まで加温後、1時間撹拌した。攪拌終了後、遠心分離機を用いて固液分離を行った。液層のみを回収し、フィルタープレスを用いて濾過を行い、澄明な濾液(モロヘイヤ抽出物)2,500Lを得た。
【0054】
<被験物質の調整>
前記大豆発酵抽出物と前記モロヘイヤ抽出物とをステンレス製のタンク内で混合した。この混合液を750Lになるまで減圧濃縮した。その後、クエン酸ナトリウムを用いてpHを3.7に調整した。pH調整後、90℃で10分間加熱殺菌し、10℃で12時間静置させた。その後、フィルタープレス及び0.5μmラインフィルターを組み合わせて濾過を行い、澄明な溶液を回収した。Brix値は、9.3〜9.7に調整した。Brix値調整後、90℃で10分間加熱殺菌し、0.5μmラインフィルターを用いて精密濾過した。このようにして得られた大豆発酵抽出物を含有する組成物(以下、「大豆発酵組成物」と称することもある)を以下の実施例において使用した。
【0055】
(実施例1:β−セクレターゼ阻害作用)
製造例1で得られた大豆発酵組成物を被験物質として、β−セクレターゼ阻害活性を測定した。測定は、TR−FRET BASE1 Assay Kit(インビトロジェン社製)を用いた蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)測定により行った。即ち、20μLのβ−セクレターゼ(BACE1)(2.1U/mL)、20μLのフルオロセイン標識BASE1基質(600nmol/L)、及び各濃度に希釈した被験物質(希釈倍率は、それぞれ4倍、8倍及び16倍)20μLを混合し、暗所において室温で60分間インキュベーションした。次いで、20μLのテルビウム標識抗ビオチン抗体(20nmol/L)を加え、暗所において室温で60分間インキュベーションした後、プレートリーダー(スペクトラフルオ、テカン社製)を用いて励起波長360nm(Ex)、測定波長535nm(Em1)乃至495nm(Em2)で発光強度を測定した。対照としては、前記被験物質に代えて同量の純水を加えた。なお、β−セクレターゼ活性の阻害率は、以下の式から算出した。結果を図1に示す。
β−セクレターゼ阻害率(%)=[1−{(対照のEm1/対照のEm2)/(被験物質のEm1/被験物質のEm2)}]×100
Em1:測定波長535nmにおける測定値
Em2:測定波長495nmにおける測定値
【0056】
図1から、本発明の組成物は、β−セクレターゼ(BASE1)の活性を抑制することが分かった。これまで、β−セクレターゼ阻害剤については、動物実験において脳内のβ−アミロイドの蓄積を低減できることが示されている(非特許文献4及び5参照)。したがって、本発明の組成物は、β−セクレターゼの活性を阻害することにより、β−アミロイドの生成を抑制でき、アルツハイマー型認知症の予防、改善乃至治療に有効であると考えられる。
【0057】
(実施例2:β−アミロイド凝集抑制作用)
製造例1で得られた大豆発酵組成物を被験物質として、β−アミロイド凝集抑制活性を測定した。アルツハイマー病の原因物質であるβ−アミロイドは、アミノ酸が40残基又は42残基で構成されており、それぞれβ−アミロイド(1−40)及びβ−アミロイド(1−42)と呼ばれている。β−アミロイドを試験管内でインキュベーションすることにより、β−アミロイドの自発的な重合が生じ、βシート構造に富んだ不溶性のアミロイド凝集体が形成される。
本実施例においては、β−アミロイド(1−42)を用い、自然に形成されるアミロイド凝集体を定量するキットを用いて測定した。即ち、リン酸カルシウム緩衝液(50mmol/L)で20μmol/Lに調整したβ−アミロイド(1−42)(株式会社ペプチド研究所製)、及び純水で各濃度に調整した被験物質(希釈倍率は、それぞれ4倍、8倍及び16倍)それぞれ24.5μLずつを96ウェルプレートに添加して混合し、85rpmで攪拌しながら37℃で24時間インキュベートした。インキュベート後、凝集したβ−アミロイドを、凝集タンパク質に特異的なクロスβシート構造と結合することで蛍光を発する試薬を用いた定量キット(ProteoStat Protein Aggregation Assay;コスモバイオ社製)により、キットの説明書に準じて測定した。即ち、Detection reagent loading solutionを2μLずつ前記プレートの各ウェルに添加し、遮光して室温で15分間インキュベーション後、プレートリーダー(スペクトラフルオ、テカン社製)を用いて励起波長485nm、測定波長595nmで発光強度を測定した。被験物質の代わりに純水で処理した対照の値と比較することにより阻害率を算出した。具体的には、下記式からβ−アミロイド凝集阻害率(%)を求めた。結果を図2に示す。
β−アミロイド凝集阻害率(%)={(対照蛍光強度−被験物質蛍光強度)/対照蛍光強度}×100
【0058】
図2から、本発明の組成物は、神経細胞に障害を与えるβ−アミロイド凝集体の生成を抑制できることが分かった。これまでに、β−アミロイド凝集抑制剤は、臨床試験の第2相試験において、特定の遂行機能の改善作用が示されている(非特許文献5参照)。したがって、本発明の組成物は、β−アミロイドの凝集を抑制することにより、アルツハイマー型認知症の予防、改善乃至治療に有効であると考えられる。
【0059】
(実施例3:凝集β−アミロイドによる神経細胞障害に対する保護作用)
製造例1で得られた大豆発酵組成物を被験物質として、凝集β−アミロイドによる神経細胞障害に対する保護作用を試験した。ラット副腎褐色腫細胞(PC−12;ヒューマンサイエンス研究資源バンクから入手可能)を10%馬胎児血清及び5%牛胎児血清を含んだDMEM培地に懸濁して1×104個/mLの濃度に調整し、96ウェルプレートに100μL/ウェルで播種した。神経成長因子(NGF;シグマ社製)を50ng/mLで細胞に添加し、48時間、5%CO2インキュベーターで培養して神経細胞に分化誘導させた。分化誘導した細胞に各濃度に希釈した被験物質(希釈倍率は、それぞれ4倍、8倍及び16倍)を添加し、24時間後にβ−アミロイド(1−42)(株式会社ペプチド研究所製)20μmol/Lを添加し、更に24時間培養した。培養終了後、細胞増殖キット(Cell Proliferation Kit I(MTT);ロシュ社製)を用いたMTT法により細胞生存率を求めた。なお、対照として、前記被験物質に代えて同量の純水を添加した対照(Aβ+)、並びに前記被験物質及びβ−アミロイド(1−42)に代えて同量の純水を添加した対照(Aβ−)も同様に評価した。結果を図3に示す。
【0060】
図3から、対照においてβ−アミロイドを培養細胞へ添加することにより、培養液中でβ−アミロイド凝集体が形成され細胞生存率の顕著な低下が認められた。一方、本発明の組成物を培養細胞に添加した場合には、β−アミロイドを添加された細胞の生存率の上昇が認められた。このことから、本発明の組成物は、凝集β−アミロイドの神経細胞障害に対し、保護作用を有すると考えられる。
【0061】
(実施例4:酸化ストレスによる細胞障害に対する保護作用)
製造例1で得られた大豆発酵組成物を被験物質として、酸化ストレスによる細胞障害に対する保護作用を試験した。ラット副腎褐色腫細胞(PC−12;ヒューマンサイエンス研究資源バンクから入手可能)を、10%馬胎児血清及び5%牛胎児血清を含んだDMEM培地に懸濁し、96ウェルのマイクロプレートに1ウェル当たり1×105個/80μLで播種し、37℃、5%CO2インキュベーターで24時間培養した。PC−12については神経成長因子(NGF;シグマ社製)を50ng/mLで細胞に添加して培養し、神経細胞に分化させた。培養後、培地を無血清のDMEM培地80μLに置換し、各濃度に希釈した被験物質(希釈倍率は、それぞれ4倍、8倍及び16倍)10μLを添加して1時間培養した。酸化ストレス誘導剤として、20mmol/Lの2,2’−Azobis(2−amidinopropane)Dihydrochloride(AAPH;フナコシ株式会社製)を10μL添加し、更に3時間培養した。培養後、細胞の生存率をCell Proliferation Kit I(MTT)(ロシュ社製)を用いたMTT法により求めた。なお、対照として、前記大豆発酵組成物に代えて同量の純水を添加した対照(AAPH+)、並びに前記大豆発酵組成物及びAAPHに代えて同量の純水を添加した対照(AAPH−)も同様に評価した。結果を図4に示す。
【0062】
図4より、対照においては、AAPHによる酸化ストレス負荷により細胞生存率の低下が認められた。一方、本発明の組成物を細胞に添加しておくことにより、AAPH処理された細胞の生存率の上昇が認められ、活性酸素による細胞障害から細胞を保護することが示された。したがって、本発明の組成物は、酸化ストレスによって誘導される神経細胞障害を抑制できると考えられる。
【0063】
(実施例5:小胞体ストレス誘導細胞障害に対する保護作用)
製造例1で得られた大豆発酵組成物を被験物質として、小胞体ストレス誘導細胞障害に対する保護作用を試験した。小胞体ストレスの誘導には、タンパク質の糖鎖修飾阻害により小胞体ストレスを誘導することが知られているツニカマイシンを用いた。
ラット副腎褐色腫由来PC−12細胞(ヒューマンサイエンス研究資源バンクから入手可能)を10%馬胎児血清及び5%牛胎児血清を含んだDMEM培地に懸濁して1×104個/mLの濃度に調整し96ウェルプレートに100μL/ウェルで播種した。神経成長因子(NGF;シグマ社製)を50ng/mLで細胞に添加し、48時間、5%CO2インキュベーターで培養して神経細胞に分化誘導させた。培養培地を除去し、1%牛胎児血清を含むDMEM培地を80μL添加し、純水で各濃度に調整した被験物質(希釈倍率は、それぞれ4倍、8倍及び16倍)10μLを添加して1時間培養した。培養後、2.0μg/mLのツニカマイシン(和光純薬工業株式会社製)10μLを添加して24時間、5%CO2インキュベーターで培養してタンパク質の糖鎖修飾阻害による小胞体ストレスを誘導した。各ウェルの培地を除去し、1%牛胎児血清を含むDMEM培地を90μL添加し、Cell Counting kit−8(WST−8、株式会社同仁化学研究所製)を用いて細胞生存率を求めた。なお、対照として、前記大豆発酵組成物に代えて同量の純水を添加した対照(ツニカマイシン+)、並びに前記大豆発酵組成物及びAAPHに代えて同量の純水を添加した対照(ツニカマイシン−)も同様に評価した。結果を図5に示す。
【0064】
図5から、対照においては、細胞のツニカマイシン処理により小胞体ストレス誘導による生存率の低下が認められた。一方、本発明の組成物を細胞に添加しておくことにより、ツニカマイシン処理された細胞生存率の上昇が認められた。この結果から、本発明の組成物は、変性タンパク質の小胞体蓄積による細胞障害を抑制できると考えられる。
【0065】
(実施例6:アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害作用)
製造例1で得られた大豆発酵組成物を被験物質としてAChE阻害活性を測定した。AChE阻害試験は、Ferreira Aら(J. Ethnopharmacol. 108(1)、31−37、2006)の方法に従って行った。即ち、0.28U/mLのAChE溶液5μLに各濃度に希釈した被験物質(希釈倍率は、それぞれ4倍、8倍及び16倍)20μLを加え、3分間処理した。処理後、1.5mmol/Lの発色剤(5,5’−ジチオビス−2−ニトロベンゾイックアシッド(DTNB);シグマ社製)と1.5mmol/Lの基質(ヨウ化アセチルチオコリン(AChI);シグマ社製)の混合液140μLを加え、室温で15分間インキュベーションした後、AChEによる前記基質の加水分解反応によって生じる黄色に呈色するアニオン(TNB)の412nmにおける吸光度を測定した。被験物質に代えて同量の純水を用いた値を対照の値とし、その値と比較することにより阻害率の値を算出した。具体的には、下記式からAChE阻害率(%)を求めた。結果を図6に示す。
AChE阻害率(%)={(対照吸光度−被験物吸光度)/対照吸光度}×100
【0066】
図6から、本発明の組成物は、AChEの活性を阻害できることが分かった。アセチルコリンエステラーゼ阻害剤は、例えば、ドネペジル(Aricept(登録商標)、ファイザー社製)、リバスチグミン(Exelon(登録商標)、ノバルティス社製)、ガランタミン(Razadyne Reminyl(登録商標)、ジョンソン・エンド・ジョンソン社製)、及びタクリン(Cognex(登録商標)、ワーナー・ランバート社製)が臨床で使用されており、症状の改善、及び進行を遅らせることができる(非特許文献11参照)。したがって、本発明の組成物は、神経伝達物質であるアセチルコリンの分解を抑制し、アセチルコリンの濃度を高めることによってコリン作動性神経の機能低下を防げることができ、アルツハイマー型認知症の予防、改善乃至治療に有効であると考えられる。
【0067】
(実施例7:神経突起伸長作用)
ラット副腎褐色腫由来PC−12細胞(ヒューマンサイエンス研究資源バンクから入手可能)を10%馬胎児血清及び5%牛胎児血清を含んだDMEM培地に懸濁し、コラーゲンコートした24ウェルのマイクロプレート(コラーゲンIコーティングプレート、ヌンク社製)に1×104個の細胞(100μL)を播種して5%CO2インキュベーターで24時間培養した。各ウェルの培地を除去し、10%馬胎児血清及び10%牛胎児血清を含むDMEM培地450μLに置換し、各濃度に希釈した被験物質(希釈倍率は、それぞれ8倍、16倍及び32倍)を50μL添加した。陽性対照としては、前記被験物質に代えて、50ng/mL又は100ng/mLで神経成長因子(NGF;シグマ社製)を添加し、陰性対照としては、前記被験物質に代えて同量の純水を添加した。上記処理を行った細胞を5%CO2インキュベーターで3日間培養した後、顕微鏡にて観察し、神経突起形成を目視で確認後、写真撮影した。また、1視野中の全細胞数及び神経突起を形成している細胞をカウントし、神経突起を形成している細胞の割合を算出した。結果を図7に示す。また、陰性対照(未処理)の細胞の写真を図8Aに、16倍希釈した大豆発酵組成物で処理した細胞の写真を図8Bに示す。
【0068】
図7から、本発明の組成物は、神経突起伸長作用を有することが分かった。この作用は、32倍希釈液においても陽性対照として用いた100ng/mLのNGFと同等の効果であり、濃度を上げると更に強い伸長作用が認められた。この結果から、本発明の組成物は、神経細胞の突起伸長を誘導し、神経伝達能を改善できると考えられる。
【0069】
(実施例8:ACE阻害作用)
製造例1で得られた大豆発酵組成物を被験物質として、ACE阻害活性をACE kit−WST(株式会社同仁化学研究所製)を用い、キットの説明書に準じて測定した。
具体的には、各ウェルに各濃度に希釈した被験物質(希釈倍率は、16倍から2,048倍)、又は純水(blank1、blank2)を20μLずつ入れた。次いで、各ウェルにSubstrate bufferを20μLずつ加えた。blank2のウェルには、純水を20μLずつ加え、サンプル(被験物質)溶液を入れたウェルとblank1のウェルには、Enzyme working solutionを20μLずつ加えた。各ウェルを37℃で60分間インキュベートした後、各ウェルにIndicator working solutionを200μLずつ加えた。更に室温で10分間インキュベートし、プレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。ACE活性阻害率(%)は、下記の計算式により求めた。結果を図9に示す。
ACE活性阻害率(%)={(Ablank1−Asample)/(Ablank1−Ablank2)}×100
Asample:サンプル(被験物質)の450nmの吸光度
Ablank1:blank1の450nmの吸光度
Ablank2:blank2の450nmの吸光度
【0070】
図9から本発明の組成物は、ACEの活性を阻害できることが分かった。この結果から、本発明の組成物は、アンジオテンシンIIの生成を抑制して、アルツハイマー病の危険因子である高血圧症を予防、改善乃至治療できると考えられる。
【0071】
(実施例9:AGE生成阻害作用)
製造例1で得られた大豆発酵組成物を被験物質として、希釈倍率4倍、2倍、又は1倍のAGE生成阻害率を以下の方法により測定した。
10質量%グリシン(和光純薬工業株式会社製)450μL、10質量%グルコース(和光純薬工業株式会社製)450μL、及び被験物質100μLを混合して60℃反応させた。24時間反応させた後、波長450nmで吸光度を測定した。対照には同量の純水を用い、AGE生成阻害率は、次の式により算出した。結果を図10に示す。
AGE生成阻害率(%)={(対照吸光度−被験物質吸光度)/対照吸光度}×100
【0072】
図10から本発明の組成物は、AGEの生成を阻害できることが分かった。この結果から、本発明の組成物は、高血圧状態におけるRAGEを介したβ−アミロイドの蓄積を抑制できると考えられる。
【0073】
実施例1〜9から、本発明の組成物は、アルツハイマー病で観察される症状を抑制する多面的な作用を示すことが分かった。これまで、アルツハイマー病には、多くの発症メカニズムが存在することが示されており、それらの発症メカニズムに対して総合的に作用することで、より有効的な予防、改善乃至治療効果を奏することが期待されてきた。本発明の組成物は、既存のβ−セクレターゼ阻害剤、β−アミロイド凝集抑制剤、又はアセチルコリンエステラーゼ阻害剤のようにアルツハイマー病の個々の発症原因に対して特異的に作用する医薬品とは異なり、多くの発症メカニズムに対する総合的な作用効果を有する。したがって、本発明の組成物は、アルツハイマー型痴呆症の予防、改善乃至治療に効果的に働くことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の組成物は、副作用がなく安価であり、アルツハイマー型痴呆症を効果的かつ安全に予防、改善乃至治療することができるため、抗アルツハイマー用組成物として好適に用いることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆を発酵させた大豆発酵物から抽出した大豆発酵抽出物を含有することを特徴とする抗アルツハイマー用組成物。
【請求項2】
大豆発酵物が、大豆摩砕物の固形画分を発酵させた請求項1に記載の抗アルツハイマー用組成物。
【請求項3】
大豆発酵物が、納豆菌、テンペ菌、乳酸菌及び酵母菌の少なくともいずれかを用いて発酵された請求項1から2のいずれかに記載の抗アルツハイマー用組成物。
【請求項4】
モロヘイヤ抽出物を更に含有する請求項1から3のいずれかに記載の抗アルツハイマー用組成物。
【請求項5】
大豆発酵抽出物が、熱水及びエタノール水溶液のいずれかで抽出されてなる請求項1から4のいずれかに記載の抗アルツハイマー用組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の抗アルツハイマー用組成物を含有することを特徴とする飲食品。
【請求項1】
大豆を発酵させた大豆発酵物から抽出した大豆発酵抽出物を含有することを特徴とする抗アルツハイマー用組成物。
【請求項2】
大豆発酵物が、大豆摩砕物の固形画分を発酵させた請求項1に記載の抗アルツハイマー用組成物。
【請求項3】
大豆発酵物が、納豆菌、テンペ菌、乳酸菌及び酵母菌の少なくともいずれかを用いて発酵された請求項1から2のいずれかに記載の抗アルツハイマー用組成物。
【請求項4】
モロヘイヤ抽出物を更に含有する請求項1から3のいずれかに記載の抗アルツハイマー用組成物。
【請求項5】
大豆発酵抽出物が、熱水及びエタノール水溶液のいずれかで抽出されてなる請求項1から4のいずれかに記載の抗アルツハイマー用組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の抗アルツハイマー用組成物を含有することを特徴とする飲食品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−107872(P2013−107872A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−219147(P2012−219147)
【出願日】平成24年10月1日(2012.10.1)
【出願人】(502310416)株式会社ラフィーネインターナショナル (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年10月1日(2012.10.1)
【出願人】(502310416)株式会社ラフィーネインターナショナル (8)
【Fターム(参考)】
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